(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20230428BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/01 301
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2019058962
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】下村 健二
(72)【発明者】
【氏名】足立 寛直
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-120657(JP,A)
【文献】特開2014-205261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0111851(US,A1)
【文献】特開2005-186422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される印刷媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドと、
前記各インクジェットヘッドが隙間を介して取り付けられる箱体のヘッドホルダと、
前記ヘッドホルダ内へ空気を吹き付ける吹付部と、
前記ヘッドホルダから空気を吸引する吸引部と、
前記各インクジェットヘッドに対応する前記隙間の一部を開閉することにより、前記各インクジェットヘッドと前記搬送部との間の空間であるヘッド下空間における気流の強さを個別に調整する調整部と、
前記各インクジェットヘッドについて、当該インクジェットヘッドが吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッドの前記ヘッド下空間における気流が強くなるよう前記調整部を制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドからインクを吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドのノズルからインクの液滴を吐出して印刷媒体に着弾させ、画像を形成するインクジェット印刷装置が知られている。
【0003】
インクジェット印刷装置では、インク吐出時に微小液滴であるサテライト(インクミストともいう)が発生する。インクミストは、印刷物の汚れ(ミスト汚れ)を招く。
【0004】
これに対し、特許文献1には、ミスト吸引ファンにより、空中に浮遊したインクミストを吸引して回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにインクミストを回収する機構によりインクミストを回収しても、回収される前のインクミストの一部が印刷物に付着してミスト汚れが生じることがある。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、印刷物のミスト汚れを軽減できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット印刷装置は、印刷媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される印刷媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドと前記搬送部との間の空間であるヘッド下空間における気流の強さを調整する調整部と、前記インクジェットヘッドが吐出するインクの表面張力が小さいほど、前記ヘッド下空間における気流を強くするよう前記調整部を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット印刷装置によれば、印刷物のミスト汚れを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部の平面図である。
【
図3】第1実施形態における印刷部のヘッドモジュール近傍の平面図である。
【
図5】
図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。
【
図6】用紙吸着ファン駆動テーブルを示す図である。
【
図8】インクの表面張力ごとのサテライトの大きさの分布の一例を示す図である。
【
図9】第1実施形態におけるヘッド下空間の気流の説明図である。
【
図10】第1実施形態における印刷物のミスト汚れを示す図である。
【
図11】比較例における印刷物のミスト汚れを示す図である。
【
図12】第2実施形態における印刷部のヘッドモジュール近傍の平面図である。
【
図14】第2実施形態におけるヘッド下空間の気流の説明図である。
【
図15】第3実施形態における印刷部のヘッドモジュール近傍の断面図である。
【
図16】第3実施形態におけるヘッド下空間の気流の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0012】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
図2は、
図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部の平面図である。
図3は、印刷部のヘッドモジュール近傍の平面図である。
図4は、
図3のA-A線に沿った断面図である。
図5は、
図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。以下の説明において、
図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、
図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
図1において、左から右へ向かう方向が、印刷媒体である用紙Pの搬送方向である。以下の説明において、上流、下流は、用紙Pの搬送方向における上流、下流を意味する。
【0014】
図1、
図5に示すように、第1実施形態に係るインクジェット印刷装置1は、搬送部2と、ガイド部3と、印刷部4と、制御部5とを備える。
【0015】
搬送部2は、エア吸引により、給紙部(図示せず)から給紙された用紙Pを搬送する。搬送部2は、搬送ベルト11と、駆動ローラ12と、従動ローラ13~15と、ベルトモータ16と、用紙吸着ファン17とを備える。
【0016】
搬送ベルト11は、用紙Pを吸着保持して搬送する。搬送ベルト11は、駆動ローラ12および従動ローラ13~15に掛け渡された環状のベルトである。搬送ベルト11には、多数のベルト穴11a(
図9参照)が形成されている。搬送ベルト11は、用紙吸着ファン17の駆動によりベルト穴11aに発生する吸着力により、搬送面11b上に用紙Pを吸着保持する。搬送面11bは、駆動ローラ12と従動ローラ13との間の搬送ベルト11の水平部分の上面である。搬送ベルト11は、
図1における時計回り方向に回転することで、吸着保持した用紙Pを右方向に搬送する。
【0017】
駆動ローラ12は、搬送ベルト11を
図1における時計回り方向に回転させる。
【0018】
従動ローラ13~15は、駆動ローラ12とともに搬送ベルト11を支持する。従動ローラ13~15は、搬送ベルト11を介して駆動ローラ12に従動回転する。従動ローラ13は、駆動ローラ12と同じ高さで、駆動ローラ12の左方に配置されている。従動ローラ14,15は、駆動ローラ12および従動ローラ13の下方において、互いに左右方向に離間して、同じ高さに配置されている。
【0019】
ベルトモータ16は、駆動ローラ12を回転駆動させる。
【0020】
用紙吸着ファン17は、下方向への気流を生じさせる。これにより、用紙吸着ファン17は、搬送ベルト11のベルト穴11aを介して空気を吸引してベルト穴11aに負圧を発生させ、用紙Pを搬送ベルト11上に吸着させる。用紙吸着ファン17は、環状の搬送ベルト11に囲まれた領域に配置されている。
【0021】
ガイド部3は、搬送部2の下流側へ搬送される用紙Pをガイドする。ガイド部3は、一対のガイド板21,22と、ミスト吸着部材23とを備える。
【0022】
ガイド板21,22は、搬送部2からその下流側の搬送機構(図示せず)へ搬送される用紙Pをガイドする部材である。
【0023】
ミスト吸着部材23は、後述するインクジェットヘッド36からのインク吐出により発生するインクミスト(サテライト)を吸着して回収する部材である。ミスト吸着部材23は、ガイド板21に設置されている。
【0024】
印刷部4は、搬送部2により搬送される用紙Pに印刷を行う。印刷部4は、搬送部2の上方に配置されている。印刷部4は、ヘッドユニット31と、ヘッド冷却部32とを備える。
【0025】
ヘッドユニット31は、用紙Pにインクを吐出して画像を印刷する。ヘッドユニット31は、複数のインクジェットヘッド36と、ヘッドホルダ37とを備える。本実施形態では、ヘッドユニット31は、4つのインクジェットヘッド36を備える。
【0026】
インクジェットヘッド36は、用紙Pにインクを吐出する。4つのインクジェットヘッド36は、それぞれ異なる色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。4つのインクジェットヘッド36は、用紙Pの搬送方向(左右方向)に沿って並列して配置されている。各インクジェットヘッド36は、それぞれ複数のヘッドモジュール38を有する。本実施形態では、各インクジェットヘッド36は、それぞれ6個のヘッドモジュール38を有する。
【0027】
ヘッドモジュール38は、インクを貯留するインクチャンバ(図示せず)と、インクを吐出する複数のノズル(図示せず)とを有する。インクチャンバ内には、ピエゾ素子(図示せず)が配置されている。ピエゾ素子の駆動により、ノズルからインクが吐出される。ヘッドモジュール38のノズルは、搬送ベルト11の搬送面11bに対向する下面である吐出面38aに開口している。ノズルは、前後方向(主走査方向)に沿って配置されている。
【0028】
インクジェットヘッド36において、ヘッドモジュール38は、前後方向に沿って千鳥状に配置されている。すなわち、各インクジェットヘッド36において、前後方向に沿って配列された6個のヘッドモジュール38が、左右方向における位置を交互にずらして配置されている。
【0029】
ヘッドモジュール38は、インクジェットヘッド36ごとに設けられたインク循環機構(図示せず)により供給されるインクをノズルから吐出する。インク循環機構は、インクを循環しつつ、インクジェットヘッド36の各ヘッドモジュール38にインクを供給する機構である。インク循環機構には、インクカートリッジ(図示せず)からインクが供給される。
【0030】
ヘッドホルダ37は、インクジェットヘッド36を保持する。ヘッドホルダ37は、中空状の箱体により形成されている。ヘッドホルダ37は、搬送部2の上方に配置されている。
図3、
図4に示すように、ヘッドホルダ37の底板37aには、各インクジェットヘッド36のヘッドモジュール38が取り付けられる取付開口部37bが形成されている。ヘッドモジュール38と同数の取付開口部37bがヘッドホルダ37の底板37aに形成されている。ヘッドホルダ37は、取付開口部37bからヘッドモジュール38の下端部を下方に突出させてヘッドモジュール38を保持している。
【0031】
取付開口部37bは、ヘッドモジュール38の水平面に沿った断面積より大きい貫通穴からなる。これにより、ヘッドモジュール38の取り付け位置および角度が調整可能になっている。取付開口部37bがこのような大きさであるため、取付開口部37bには、ヘッドモジュール38が隙間40を介して取り付けられる。
【0032】
ヘッドホルダ37には、目止め部材41が設けられている。目止め部材41は、ヘッドモジュール38と取付開口部37bとの隙間40を塞ぐ部材である。
【0033】
ヘッド冷却部32は、ヘッドホルダ37内に冷却風を発生させ、この冷却風によりインクジェットヘッド36を冷却する。ヘッド冷却部32は、吹付部46と、吸引部47とを備える。
【0034】
吹付部46は、ヘッドホルダ37内へ外部から空気を吹き付ける。吹付部46は、ヘッドホルダ37の前側に配置されている。吹付部46は、吹付チャンバ51と、吹付ファン52とを備える。
【0035】
吹付チャンバ51は、吹付ファン52とヘッドホルダ37との間の空気の流路を形成する。吹付チャンバ51は、左右方向に細長い形状で中空状に形成されている。吹付チャンバ51は、ヘッドホルダ37の前側の側板上に配置されている。
【0036】
吹付チャンバ51のヘッドホルダ37に接する面には、複数の吹付穴(図示せず)が形成されている。吹付チャンバ51の吹付穴は、ヘッドホルダ37内へ空気を吹き付ける際の吹付チャンバ51からの空気の流出口である。吹付チャンバ51の吹付穴は、ヘッドホルダ37の前側の側板に形成された通風穴(図示せず)に対応する位置に配置されている。これにより、吹付部46からヘッドホルダ37内へ空気を吹き付けることができるようになっている。
【0037】
吹付ファン52は、吹付チャンバ51の一端から吹付チャンバ51内へ送風する。これにより、吹付チャンバ51を介してヘッドホルダ37内へ空気が吹き付けられる。
【0038】
吸引部47は、ヘッドホルダ37から空気を吸引する。吸引部47は、ヘッドホルダ37の後側に配置されている。吸引部47は、吸引チャンバ53と、吸引ファン54とを備える。
【0039】
吸引チャンバ53は、ヘッドホルダ37と吸引ファン54との間の空気の流路を形成する。吸引チャンバ53は、左右方向に細長い形状で中空状に形成されている。吸引チャンバ53は、ヘッドホルダ37の後側の側板上に配置されている。
【0040】
吸引チャンバ53のヘッドホルダ37に接する面には、複数の吸引穴(図示せず)が形成されている。吸引チャンバ53の吸引穴は、ヘッドホルダ37から空気を吸引する際の吸引チャンバ53への空気の流入口である。吸引チャンバ53の吸引穴は、ヘッドホルダ37の後側の側板に形成された通風穴(図示せず)に対応する位置に配置されている。これにより、吸引部47がヘッドホルダ37から空気を吸引できるようになっている。
【0041】
吸引ファン54は、吸引チャンバ53の一端から空気を吸引する。これにより、吸引チャンバ53を介してヘッドホルダ37から空気が吸引される。
【0042】
制御部5は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0043】
制御部5は、
図6に示す用紙吸着ファン駆動テーブル56を記憶している。用紙吸着ファン駆動テーブル56は、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力と、用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比(駆動率)とを関連付けたテーブルである。
図6の用紙吸着ファン駆動テーブル56において、デューティ比D1,D2,…は、D1>D2>…となっている。
【0044】
ここで、用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比が大きいほど、用紙吸着ファン17の回転数が大きくなる。また、後述するように、用紙吸着ファン17の回転数が大きいほど、搬送面11bとインクジェットヘッド36との間の空間であるヘッド下空間57における気流が強くなる。第1実施形態において、用紙吸着ファン17は、ヘッド下空間における気流の強さを調整する調整部としての機能を有する。
【0045】
制御部5は、印刷動作を行う際、用紙吸着ファン駆動テーブル56を参照して、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力に基づき、用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比を設定する。すなわち、制御部5は、印刷動作時において、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、ヘッド下空間57における気流が強くなるよう用紙吸着ファン17を制御する。
【0046】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0047】
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、搬送部2の駆動を開始させる。具体的には、制御部5は、ベルトモータ16により駆動ローラ12の駆動を開始させる。これにより、搬送ベルト11の周回駆動が開始される。
【0048】
また、制御部5は、用紙吸着ファン17の駆動を開始させる。ここで、制御部5は、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力に応じたデューティ比で用紙吸着ファン17を駆動させる。
【0049】
具体的には、制御部5は、例えば、インクカートリッジに設けられた記憶タグから、各インクジェットヘッド36のインクの表面張力を取得する。なお、各インクジェットヘッド36に対応するインクの種類等の変更により、各インクジェットヘッド36のインクの表面張力が変わることがある。
【0050】
各インクジェットヘッド36のインクの表面張力を取得すると、制御部5は、すべてのインクジェットヘッド36のインクの表面張力の平均値を算出する。制御部5は、この平均値を、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力として、その表面張力に応じたデューティ比を、吸着ファン駆動テーブル56から取得する。そして、制御部5は、吸着ファン駆動テーブル56から取得したデューティ比で用紙吸着ファン17を駆動させる。これにより、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、用紙吸着ファン17の回転数が大きくなる。
【0051】
用紙吸着ファン17の駆動により、搬送ベルト11のベルト穴11aを介して空気が吸引され、ベルト穴11aに負圧が生じ、吸着力が発生する。
【0052】
また、制御部5は、ヘッド冷却部32の吹付ファン52および吸引ファン54の駆動を開始させる。吹付ファン52の駆動により、吹付チャンバ51を介してヘッドホルダ37内へ空気が吹き付けられる。また、吸引ファン54の駆動により、吸引チャンバ53を介してヘッドホルダ37から空気が吸引される。これにより、ヘッドホルダ37内に前側から後側へ流れる冷却風が生じる。
【0053】
搬送部2およびヘッド冷却部32の駆動が開始されると、印刷ジョブにおける印刷枚数分の用紙Pが搬送部2に順次給紙される。給紙された用紙Pは、搬送部2の搬送ベルト11に吸着保持されつつ搬送される。搬送部2において、各用紙Pは、所定の紙間で搬送される。制御部5は、搬送ベルト11により搬送される用紙Pに対し、インクジェットヘッド36のヘッドモジュール38からインクを吐出させて画像を印刷させる。
【0054】
ヘッドモジュール38のノズルからインクが吐出されると、吐出されたインクは尾を引く形で飛翔し、この飛翔するインクの先頭部分と後尾部分との間に時間差や速度差が生じる。このため、
図7に示すように、先行する主たる液滴である主滴58に付随して、不要な微小液滴であるサテライト59が発生する。サテライト59が用紙Pに付着すると、印刷物の汚れを招く。
【0055】
サテライトの大きさは、インクの表面張力の影響を受ける。インクの表面張力ごとのサテライトの大きさの分布の一例を
図8に示す。
図8は、インク吐出時のサテライトの個数および大きさを画像解析により取得してヒストグラム化したものである。サテライトの大きさは、インクの表面張力の影響を受けない主滴58の大きさを基準としたものである。
図8に示すように、インクの表面張力が小さいほど、サテライトが微細化する傾向がある。
【0056】
サテライトは、小さいほど気流に流されやすい。そこで、インクジェット印刷装置1では、印刷動作時において、インクの表面張力が小さいほど、ヘッド下空間57における気流が強くなるようにして、微細化したサテライトが用紙Pに付着しないように吹き飛ばす。
【0057】
具体的には、前述のように、制御部5は、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど用紙吸着ファン17の回転数が大きくなるよう、用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比を設定している。
【0058】
ここで、印刷動作中は、
図9に示すように、ヘッド下空間57に搬送気流Fhが生じている。搬送気流Fhは、搬送ベルト11および用紙Pの移動により生じる気流である。搬送気流Fhは、用紙Pの搬送方向に沿って流れる。
【0059】
また、搬送される用紙Pと用紙Pとの間の紙間領域では、ベルト穴11a上に用紙Pがなく、ベルト穴11aが露出している。このため、吸引気流Fkが生じている。吸引気流Fkは、用紙吸着ファン17の駆動により、搬送面11bの上側の空間から、ベルト穴11aを通って搬送部2の内部へ流れる気流である。
【0060】
用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比が大きいほど、用紙吸着ファン17の回転数が大きくなり、吸引気流Fkが強くなる。吸引気流Fkが強くなると、搬送気流Fhと吸引気流Fkとが合成された気流が強くなることで、ヘッド下空間57における気流が強くなる。
【0061】
したがって、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、用紙吸着ファン17の回転数を大きくすることで、ヘッド下空間57における気流を強くすることができる。
【0062】
これにより、インクの表面張力が比較的小さい場合に、微細化したサテライトを、用紙Pに付着しないように気流によって吹き飛ばすことで、印刷物のミスト汚れが軽減する。
【0063】
気流により吹き飛ばされたサテライトは、インクミストとして浮遊し、吸引気流Fkにより搬送部2に吸引されるか、ミスト吸着部材23に吸着されることで回収される。
【0064】
ここで、大きいサテライトは気流の影響を受けにくいため、気流を強くしても十分には吹き飛ばされず、中途半端に流されて、用紙P上の主滴の着弾位置からずれた位置に着弾することがある。その結果、サテライトが用紙Pの余白部分(非印字部分)に着弾し、ミスト汚れが生じることがある。サテライトの大きさに対して気流が十分に弱い場合には、サテライトは着弾した主滴によるドット上に着弾し、印刷物のミスト汚れが抑えられる。
【0065】
上述のように用紙吸着ファン17の駆動信号のデューティ比を設定することにより、インクの表面張力が大きいほど、ヘッド下空間57における気流が弱くなるため、比較的大きいサテライトが用紙Pの余白部分に着弾することによるミスト汚れも軽減される。
【0066】
上述のように用紙吸着ファン17の駆動を行った場合における印刷物のミスト汚れの例を
図10に示す。また、比較例として、インクの表面張力に関わらず用紙吸着ファン17を所定のデューティ比で駆動させた場合における印刷物のミスト汚れの例を
図11に示す。本実施形態による
図10の例の方が、
図11の比較例よりもミスト汚れが抑えられている。
【0067】
印刷部4により印刷された用紙Pは、ガイド板21,22によりガイドされつつ、搬送部2の下流側の搬送機構(図示せず)により搬送され、排紙される。最後の用紙Pが排紙されると、制御部5は、駆動ローラ12を停止させるとともに、用紙吸着ファン17を停止させる。また、制御部5は、吹付ファン52および吸引ファン54を停止させる。これにより、一連の動作が終了する。
【0068】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、制御部5は、インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、ヘッド下空間57における気流が強くなるよう用紙吸着ファン17を制御する。これにより、インクの表面張力が比較的大きい場合には、比較的大きいサテライトが用紙Pの余白部分に着弾することを抑えるとともに、インクの表面張力が比較的小さい場合には、微細化したサテライトを、用紙Pに付着しないように気流によって吹き飛ばすことができる。この結果、印刷物のミスト汚れを軽減できる。
【0069】
[第2実施形態]
次に、上述した第1実施形態の一部を変更した第2実施形態について説明する。
【0070】
図12は、第2実施形態における印刷部のヘッドモジュール近傍の平面図である。
図13は、
図12のB-B線に沿った断面図である。
【0071】
第2実施形態では、印刷部4は、
図12、
図13に示すように、第1実施形態の目止め部材41を目止め部材41Aに置き換え、シャッタ61を追加した構成である。
【0072】
シャッタ61は、隙間40の一部を開閉するものである。本実施形態では、シャッタ61は、隙間40のうちヘッドモジュール38の左側の側面に沿った部分を開閉する。シャッタ61が開くと、隙間40を介してヘッドホルダ37内の冷却風が漏れてヘッド下空間57へ流れることで、ヘッド下空間57における気流が強くなる。シャッタ61は、各インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを個別に調整可能な調整部としての機能を有する。
【0073】
目止め部材41Aは、隙間40のうちシャッタ61により開閉される部分以外の部分を塞ぐ部材である。
【0074】
第2実施形態では、制御部5は、印刷動作時において、各インクジェットヘッド36について、当該インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるよう、当該インクジェットヘッド36の各ヘッドモジュール38に対応する各シャッタ61を制御する。
【0075】
ここで、印刷動作時において、シャッタ61が開いている場合、
図14に示すように、冷却漏れ気流Fcがヘッド下空間57へ流れる。冷却漏れ気流Fcは、ヘッドホルダ37内の冷却風が隙間40から漏れたものである。冷却漏れ気流Fcがヘッド下空間57へ流れることで、シャッタ61が閉じている場合に比べて、ヘッド下空間57における気流が強くなる。また、シャッタ61を間欠的に開閉し、その開閉動作の開閉周期および1周期あたりの開放時間を調整することで、ヘッド下空間57における気流の強さを調整することが可能である。
【0076】
そこで、制御部5は、インクジェットヘッド36ごとに、インクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるように、各シャッタ61を開放状態とするか、閉鎖状態とするか、間欠的な開閉動作を行うかを制御する。また、制御部5は、シャッタ61の間欠的な開閉動作を行う場合には、インクの表面張力が小さいほど、ヘッド下空間57における気流が強くなるように、開閉周期および1周期あたりの開放時間を制御する。インクの表面張力に応じたシャッタ61の開閉制御内容は、ヘッド下空間57における気流がインクの表面張力に応じた強さになるように予め設定されている。
【0077】
以上説明したように、第2実施形態では、制御部5は、各インクジェットヘッド36について、当該インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるよう、当該インクジェットヘッド36の各ヘッドモジュール38に対応する各シャッタ61を制御する。これにより、インクジェットヘッド36ごとに、インクの表面張力に応じて当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを調整できるので、印刷物のミスト汚れをより軽減できる。
【0078】
[第3実施形態]
次に、上述した第1実施形態の一部を変更した第3実施形態について説明する。
【0079】
図15は、第3実施形態における印刷部のヘッドモジュール近傍の断面図である。
【0080】
第3実施形態では、印刷部4は、
図15に示すように、第1実施形態の印刷部4に気流調整ファン66を追加した構成である。
【0081】
気流調整ファン66は、各ヘッドモジュール38に1つずつ対応して、ヘッドモジュール38の近傍に設けられている。気流調整ファン66は、下向きの気流を発生させる。気流調整ファン66が発生する気流が強いほど、ヘッド下空間57における気流が強くなる。気流調整ファン66は、各インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを個別に調整可能な調整部としての機能を有する。
【0082】
第3実施形態では、制御部5は、印刷動作時において、各インクジェットヘッド36について、当該インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるよう、当該インクジェットヘッド36の各ヘッドモジュール38に対応する気流調整ファン66を制御する。
【0083】
ここで、印刷動作時において、気流調整ファン66が駆動されている場合、
図16に示すように、気流調整ファン66が発生させる調整気流Fsがヘッド下空間57へ流れる。調整気流Fsがヘッド下空間57へ流れることで、気流調整ファン66が停止している場合に比べて、ヘッド下空間57における気流が強くなる。また、調整気流Fsが強いほど、ヘッド下空間57における気流が強くなる。
【0084】
したがって、インクの表面張力が小さいほど、気流調整ファン66の駆動信号のデューティ比を大きくして調整気流Fsを強くすることで、ヘッド下空間57における気流を強くすることができる。インクの表面張力に応じた気流調整ファン66の駆動信号のデューティ比は、ヘッド下空間57における気流がインクの表面張力に応じた強さになるように予め設定されている。
【0085】
以上説明したように、第3実施形態では、制御部5は、各インクジェットヘッド36について、当該インクジェットヘッド36が吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるよう、当該インクジェットヘッド36の各ヘッドモジュール38に対応する各気流調整ファン66を制御する。これにより、第2実施形態と同様に、インクジェットヘッド36ごとに、インクの表面張力に応じて当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを調整できるので、印刷物のミスト汚れをより軽減できる。
【0086】
[その他の実施形態]
上述のように、本発明は第1~第3実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0087】
上述した第2実施形態では、インクジェットヘッド36ごとに、インクの表面張力が小さいほど当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流が強くなるよう各シャッタ61を制御した。しかし、第1実施形態と同様に、すべてのインクジェットヘッド36のインクの表面張力の平均値に基づき、ヘッド下空間57における気流の強さを調整するよう各シャッタ61を制御するようにしてもよい。また、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、すべてのインクジェットヘッド36のインクの表面張力の平均値に基づき、ヘッド下空間57における気流の強さを調整するよう各気流調整ファン66を制御するようにしてもよい。
【0088】
また、第2実施形態のシャッタ61の制御と第3実施形態の気流調整ファン66の制御とを組み合わせて、ヘッド下空間57における気流の強さを調整するようにしてもよい。また、第1実施形態の用紙吸着ファン17の制御と、第2実施形態のシャッタ61の制御および第3実施形態の気流調整ファン66の制御の少なくともいずれかとを組み合わせて、ヘッド下空間57における気流の強さを調整するようにしてもよい。
【0089】
また、第2実施形態において、ヘッドホルダ37がインクジェットヘッド36ごとに区分けされており、インクジェットヘッド36ごとに冷却風を発生させるヘッド冷却部を有する構成としてもよい。また、この構成において、インクジェットヘッド36ごとに、当該インクジェットヘッド36に対応する冷却風の強さの調整、および各シャッタ61の制御を組み合わせて、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを調整するようにしてもよい。また、この構成に対して、第3実施形態の気流調整ファン66を追加し、インクジェットヘッド36ごとに、当該インクジェットヘッド36に対応する冷却風の強さの調整、各シャッタ61の制御、および各気流調整ファン66の制御を組み合わせて、当該インクジェットヘッド36のヘッド下空間57における気流の強さを調整するようにしてもよい。
【0090】
また、上述した第2実施形態において、シャッタ61を、隙間40の開放面積を調整可能な構成とし、隙間40の開放面積を調整することで、ヘッド下空間57における気流の強さを調整するようにしてもよい。
【0091】
また、上述した第3実施形態では、下向きの気流を発生させる気流調整ファン66によりヘッド下空間57における気流の強さを調整する構成を示したが、上向きの気流を発生させるファンによりヘッド下空間57における気流の強さを調整するものであってもよい。
【0092】
また、上述した第2および第3実施形態では、搬送部2はエア吸引方式のものに限らず、静電吸着方式等の他の方式のものであってもよい。
【0093】
また、上述した第1~第3実施形態では、複数のインクジェットヘッド36を有する構成について説明したが、インクジェットヘッド36が1つのみの構成であってもよい。
【0094】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0095】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0096】
(付記1)
印刷媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される印刷媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドと前記搬送部との間の空間であるヘッド下空間における気流の強さを調整する調整部と、
前記インクジェットヘッドが吐出するインクの表面張力が小さいほど、前記ヘッド下空間における気流を強くするよう前記調整部を制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0097】
(付記2)
前記インクジェットヘッドを複数備え、
前記調整部は、前記各インクジェットヘッドの前記ヘッド下空間における気流の強さを個別に調整可能であり、
前記制御部は、前記各インクジェットヘッドについて、当該インクジェットヘッドが吐出するインクの表面張力が小さいほど、当該インクジェットヘッドの前記ヘッド下空間における気流を強くするよう前記調整部を制御することを特徴とする付記1に記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0098】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 ガイド部
4 印刷部
5 制御部
11 搬送ベルト
11a ベルト穴
11b 搬送面
17 用紙吸着ファン
31 ヘッドユニット
32 ヘッド冷却部
36 インクジェットヘッド
37 ヘッドホルダ
38 ヘッドモジュール
38a 吐出面
41,41A 目止め部材
46 吹付部
47 吸引部
56 用紙吸着ファン駆動テーブル
57 ヘッド下空間
61 シャッタ
66 気流調整ファン
Fh 搬送気流
Fk 吸引気流
Fc 冷却漏れ気流
Fs 調整気流