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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20230428BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
H05B6/12 324
H05B6/12 308
A47J27/00 103A
A47J27/00 103L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019105517
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020195741
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】中山 知哉
(72)【発明者】
【氏名】船越 哲朗
【審査官】高橋 武大
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-85123(JP,A)
【文献】特開平11-253308(JP,A)
【文献】特開2004-242912(JP,A)
【文献】特開2010-146882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の炊飯鍋と、
前記炊飯鍋の軸線を中心として周方向に並べて配置され、前記炊飯鍋を誘導加熱する複数のコイルと、
前記炊飯鍋内の温度を検出する検出部と、
少なくとも、前記複数のコイルのうちの1個以上の第1コイルが通電されて残りが遮断された第1状態と、前記複数のコイルのうちの前記第1コイル以外の1個以上の第2コイルが通電されて残りが遮断された第2状態とを含むように、前記複数のコイルへの通電状態を切り換える切換部と、
前記切換部と前記複数のコイルを制御して、前記検出部による検出温度が定められた予熱温度を維持するように前記炊飯鍋を加熱する予熱工程と、前記検出温度が前記予熱温度よりも高い定められた沸騰温度に昇温するように前記炊飯鍋を加熱する昇温工程と、前記検出温度が前記沸騰温度を維持するように前記炊飯鍋を加熱する沸騰維持工程とを含む炊飯処理を実行する制御部と
を備え、
前記昇温工程は、前記予熱工程に連続する第1段階と、前記沸騰維持工程に連続する第2段階とを有し、
前記切換部によって前記通電状態を切り換える前記第1段階の第1周期は、前記第2段階の第2周期よりも長い、炊飯器。
【請求項2】
前記昇温工程は、前記第1段階及び前記第2段階だけで構成されている、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記制御部には、飯米のアルファ化が始まる温度に相当し、前記予熱温度よりも高く前記沸騰温度よりも低い移行温度が定められており、
前記昇温工程において前記制御部は、前記検出部による検出温度が前記移行温度まで上昇すると、前記第1段階から前記第2段階に移行させる、請求項2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記第1周期の第1通電時間は、5秒以上15秒以下の範囲に設定されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項5】
前記第2周期の第2通電時間は、2.5秒以上7.5秒以下の範囲の前記第1通電時間よりも短い時間に設定されている、請求項4に記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、有底筒状の炊飯鍋の底に周方向へ間隔をあけて3個のコイルを配置した炊飯器が開示されている。この炊飯器では、3個のコイルのうち、1個が通電されて残りが遮断されるように、定められた順番で通電状態を切り換えながら、コイルによって炊飯鍋を誘導加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-61573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、コイルへの通電状態を所定時間毎に切り換えることが記載されている。しかし、特許文献1の炊飯器には、炊き上げた米飯の食味の向上について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現可能な炊飯器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、有底筒状の炊飯鍋と、前記炊飯鍋の軸線を中心として周方向に並べて配置され、前記炊飯鍋を誘導加熱する複数のコイルと、前記炊飯鍋内の温度を検出する検出部と、少なくとも、前記複数のコイルのうちの1個以上の第1コイルが通電されて残りが遮断された第1状態と、前記複数のコイルのうちの前記第1コイル以外の1個以上の第2コイルが通電されて残りが遮断された第2状態とを含むように、前記複数のコイルへの通電状態を切り換える切換部と、前記切換部と前記複数のコイルを制御して、前記検出部による検出温度が定められた予熱温度を維持するように前記炊飯鍋を加熱する予熱工程と、前記検出温度が前記予熱温度よりも高い定められた沸騰温度に昇温するように前記炊飯鍋を加熱する昇温工程と、前記検出温度が前記沸騰温度を維持するように前記炊飯鍋を加熱する沸騰維持工程とを含む炊飯処理を実行する制御部とを備え、前記昇温工程は、前記予熱工程に連続する第1段階と、前記沸騰維持工程に連続する第2段階とを有し、前記切換部によって前記通電状態を切り換える前記第1段階の第1周期は、前記第2段階の第2周期よりも長い、炊飯器を提供する。
【0007】
この炊飯器では、切換部によって複数のコイルのうちの所定のコイルが通電されるように通電状態が切り換えられるため、1個のコイルで炊飯鍋全体を加熱する場合と比較して、単位面積当たりに投入可能な電力(つまり加熱量)を大きくできる。よって、炊飯鍋の局部を大きな熱量で集中して加熱できる。
【0008】
昇温工程では、予熱工程に連続する第1段階と、沸騰維持工程に連続する第2段階とで、コイルの通電状態を切り換える周期が異なっており、第1段階の第1周期は第2段階の第2周期よりも長い。予熱温度に近い第1段階では、通電状態の切り換えに伴う加熱停止時間が第2段階よりも少ないため、炊飯鍋内を第2段階よりも早急に加熱できる。よって、米飯の食味(甘味や艶)に寄与する還元糖を生成する温度に、炊飯鍋内を早急に昇温できる。沸騰温度に近くなった第2段階では、第1段階よりも早く通電状態が切り換えられるため、局部加熱によって発生した気泡による対流を促進できる。よって、飯米を効率的に撹拌できるため、加熱ムラの無い炊飯を実現できる。その結果、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現できる。
【0009】
前記昇温工程は、前記第1段階及び前記第2段階だけで構成されている。この態様によれば、早急な昇温が望ましい昇温工程の初期では多くの熱を確実に投入でき、効率的な撹拌が望ましい昇温工程の後期では対流を促進できる。
【0010】
前記制御部には、飯米のアルファ化が始まる温度に相当し、前記予熱温度よりも高く前記沸騰温度よりも低い移行温度が定められており、前記昇温工程において前記制御部は、前記検出部による検出温度が前記移行温度まで上昇すると、前記第1段階から前記第2段階に移行させる。この態様によれば、還元糖を生成する温度に炊飯鍋内を早急に昇温させ、その後はアルファ化が始まった炊飯鍋内を効率的に撹拌できるため、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現できる。
【0011】
前記第1周期の第1通電時間は、5秒以上15秒以下の範囲に設定されている。この態様によれば、炊飯鍋の一部を確実に加熱できる。
【0012】
前記第2周期の第2通電時間は、2.5秒以上7.5秒以下の範囲の前記第1通電時間よりも短い時間に設定されている。この態様によれば、炊飯鍋の一部を加熱しつつ、偏りなく炊飯鍋内を対流させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炊飯器では、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る炊飯器の概略図。
図2】誘導加熱するコイルの配置と炊飯器の構成を示すブロック図。
図3】炊飯処理の一例を示すタイムチャート。
図4】中ぱっぱ工程における切換周期と温度の関係を示すタイムチャート。
図5】炊飯処理のフローチャート。
図6】中ぱっぱ工程のフローチャート。
図7】中ぱっぱ工程の変形例を示すタイムチャート。
図8】中ぱっぱ工程の他の変形例を示すタイムチャート。
図9】コイルの配置の変形例を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る炊飯器10を示す。この炊飯器10は、炊飯鍋12が配置された炊飯器本体17と、炊飯器本体17に開閉可能に取り付けられた蓋体26とを備え、炊飯器本体17に複数(本実施形態では3個)のコイル21A~21Cを配置したマルチコイル型である。本実施形態では、コイル21A~21Cに対して適切な時期に最適な通電を行うことで、炊飯鍋12内の飯米のアルファ化を促進し、炊き上げた米飯の食味を向上する。
【0017】
(炊飯器の概要)
炊飯鍋12は、磁性材料からなり、プレス加工又は鋳造によって形成した一体構造である。炊飯鍋12は有底筒状であり、円板状の底部13と、軸線Aが底部13の中心を通る円筒状の外周部14と、これらを連続させる湾曲部15とを備える。
【0018】
炊飯器本体17は、炊飯鍋12を着脱可能に収容する収容部18を備える。収容部18は、金属製の内胴19と樹脂(非導電性材料)製の保護枠20とを備える有底筒状で、炊飯器本体17の上面に形成された開口の下部に設けられている。収容部18内に炊飯鍋12を配置することで、保護枠20の軸線と炊飯鍋12の軸線Aとが一致する。保護枠20の外側には、炊飯鍋12の軸線Aを中心として周方向に並べて3個のコイル21A~21Cが配置されている。個々のコイル21A~21Cの外側には、フェライトコア22を保持するホルダ23が配置されており、このホルダ23と保護枠20の間にコイル21A~21Cが保持(固定)されている。
【0019】
コイル21A~21Cは、複数の巻線を楕円環状に巻回した形状であり、高周波電流が通電されることで渦電流を発生させ、炊飯鍋12を誘導加熱する。炊飯鍋12に対するコイル21A~21Cの配置を図2に示す。この図2を参照すると、コイル21A~21Cは、炊飯鍋12の軸線Aを中心として、周方向に間隔をあけて配置されている。図1を参照すると、個々のコイル21A~21Cは、炊飯鍋12の底部13から外周部14にかけて湾曲部15を中心として配置され、保護枠20の外面に固定されている。但し、コイル21A~21Cは、底部13の外側だけに位置するように保護枠20に配置されてもよいし、底部13から湾曲部15にかけて外側に位置するように保護枠20に配置されてもよい。
【0020】
図1に示すように、蓋体26は、図1において右側に位置する炊飯器本体17の背部のヒンジ接続部24に回転可能に取り付けられている。蓋体26は、炊飯鍋12を臨む内面側(図1において下側)に放熱板27を備える。放熱板27の下面には、炊飯鍋12の上端開口を閉塞する内蓋28が設けられている。蓋体26に対して内蓋28は、着脱可能な構成としてもよいし、取り外しが不可能な構成としてもよい。放熱板27の上面には、放熱板27を介して内蓋28を加熱し、内蓋28に付着した露を蒸発させる蓋ヒータ29が配設されている。
【0021】
蓋体26には、炊飯鍋12内の蒸気を外部に排出するための排気通路30が形成されている。排気通路30の入口は、内蓋28に形成された排気口31であり、排気通路30の出口は、蓋体26の背面側に設けられた蒸気口セット32の排気口33である。内蓋28と放熱板27との間には所定間隔の空隙34が設けられ、この空隙34が通気口31と蒸気口セット32を連通させる連通路を構成する。なお、蒸気口セット32を含む排気通路30の構成は、必要に応じて変更が可能である。
【0022】
引き続いて図1を参照すると、炊飯器10には、炊飯鍋12内の温度を検出する検出部として、2個のセンサ36A,36Bが配置されている。第1のセンサ36Aは炊飯器本体17に配置され、第2のセンサ36Bは蓋体26に配置されている。鍋用のセンサ36Aは、収容部18を貫通して炊飯鍋12の外面に接触するように配置され、炊飯鍋12を介して内部の水を含む飯米温度又は米飯温度を検出する。蓋用のセンサ36Bは、放熱板27に接触するように配置され、放熱板27を介して炊飯鍋12内(空隙34内)の温度を検出する。
【0023】
図2を併せて参照すると、炊飯器10は、複数のスイッチ(入力部)39と液晶パネル(表示部)40を有する操作パネル38を備える。操作パネル38は、本実施形態では炊飯器本体17の正面上部に形成されているが、蓋体26の上面に形成してもよく、その配置は必要に応じて変更が可能である。複数のスイッチ39には、炊飯処理を開始させる炊飯スイッチ、保温処理を開始させる保温スイッチ、及び炊飯処理と保温処理を終了させるとりけしスイッチが含まれている。液晶パネル40は、炊飯メニューの選択状態、及び現状の動作状態を表示する。
【0024】
図1に示すように、炊飯器本体17の正面側には、ホルダ42を介して制御基板43が配置されている。制御基板43には、電気部品を制御するための制御部45が設けられている(図2参照)。制御部45は、単一又は複数のマイクロコンピュータ、及びその他の電子デバイスにより構成されている。図2に示すように、制御部45は、炊飯処理と保温処理を実行するためのプログラム、及びプログラムに用いられる設定値(温度や時間)等が記憶された記憶部(メモリ)46を備える。また、制御部45は、時間を計測するための計時部(タイマ)47を備える。
【0025】
引き続いて図2を参照すると、制御部45は、コイル21A~21Cへの通電状態を切り換える切換部48を備える。切換部48には、コイル21A~21Cがそれぞれ個別に接続されるとともに、コイル21A~21Cに電力を投入するインバータ回路(電力供給部)49が接続されている。切換部48は、例えばコイル21A~21C毎に配置されたスイッチ素子によって構成され、制御基板43又は異なる回路基板に形成されている。
【0026】
切換部48は、3個のコイル21A~21Cのうちの1個が通電され、残り2個の通電が遮断されるように、定められた順番で通電状態を切り換える。つまり、切換部48は、コイル(第1コイル)21Aを電気的に接続して他のコイル21B,21Cを遮断した第1通電状態(第1状態)、コイル(第2コイル)21Bを電気的に接続して他のコイル21A,21Cを遮断した第2通電状態(第2状態)、及びコイル(第3コイル)21Cを電気的に接続して他のコイル21A,21Bを遮断した第3通電状態(第3状態)の順で切り換えられ、この切換動作を繰り返す。
【0027】
切換部48による通電状態の切換時、切換前のコイル(例えばコイル21A)への通電と、切換後のコイル(例えばコイル21B)への通電とは、重複しないように設定されている。但し、切換時、切換前のコイルと切換後のコイルへの投入電力の総和が定格電力以下であれば、切換前のコイルへの通電と切換後のコイルへの通電とを重複させてもよい。
【0028】
一般的に、日本の家庭に設けられた配電盤は20アンペアでコンセントが15アンペアのものが多いため、この種の炊飯器10を含む電気機器において、単位時間当たりに投入可能な定格電力は最大で1500Wである。底部13全体を覆う1個のコイルを用いた炊飯器の場合、定格電力に応じた加熱量で炊飯鍋12全体が誘導加熱される。これに対して本実施形態の炊飯器10では、3個のコイル21A~21Cのうちの1個に定格電力が最大で投入されるため、対応する炊飯鍋12の1/3の加熱領域が、定格電力に応じた加熱量が最大で集中して誘導加熱される。よって、1個のコイルを用いた炊飯器と比較して、本実施形態の炊飯器10では炊飯鍋12の単位面積当たりの最大加熱量を大きくできる。よって、本実施形態では、炊飯鍋12の局部を大きな熱量で集中して加熱できる。
【0029】
次に、制御部45による炊飯処理について具体的に説明する。
【0030】
図3は、炊飯処理の一例を示すタイムチャートである。図5を併せて図3を参照すると、炊飯処理は、予熱工程(ステップS1)、中ぱっぱ工程(ステップS2)、沸騰維持工程(ステップS3)、炊き上げ工程(ステップS4)、及びむらし工程(ステップS5)を有し、この順でこれらの工程が実行される。この炊飯処理が完了すると、引き続いて保温処理が実行される。
【0031】
予熱工程では、定められた予熱温度(例えば40℃)を維持するように、炊飯鍋12を加熱(温調)して飯米に水を吸収させる。この予熱工程では、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の66%の出力でデューティ制御されるとともに、センサ36A又は36Bの検出温度TP又はTLに基づいてオンオフ制御される。定められた時間が経過(移行条件が成立)すると、予熱工程は終了する。例えば移行時間は、通常炊飯の場合には20分であり、予約炊飯の場合には10分である。
【0032】
中ぱっぱ工程(昇温工程)では、予熱温度よりも高い沸騰温度になるまで炊飯鍋12を高出力で加熱し、内部の水を短時間で沸騰させる。この中ぱっぱ工程では、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の100%の出力でオン状態を維持するように制御される。また、中ぱっぱ工程では、定められた第1設定温度から第2設定温度まで昇温するのに要した時間(温度上昇勾配)によって、炊飯容量が判別される。炊飯鍋12の検出温度が定められた沸騰温度に達すると、中ぱっぱ工程は終了する。例えば蓋用のセンサ36Bの検出温度TLに基づく沸騰温度は、炊飯容量が大容量(満量)の場合には60~70℃であり、満量でない場合には50~60℃である。鍋用のセンサ36Aの検出温度TPに基づく沸騰温度は90℃である。
【0033】
沸騰維持工程では、沸騰温度(例えば検出温度TPが90℃)を維持するように炊飯鍋12を加熱(温調)し、内部の水を無くす(第1ステップ)。この第1ステップでは、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の85%の出力でデューティ制御されるとともに、鍋用のセンサ36Aの検出温度TPに基づいてオンオフ制御される。鍋用のセンサ36Aの検出温度TPが定められたドライアップ温度(例えば110℃)に達すると、出力を抑えて炊飯鍋12を弱火で加熱する(第2ステップ)。この第2ステップでは、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の40%の出力でデューティ制御されるとともに、蓋用のセンサ36Bの検出温度TLに基づいてオンオフ制御される。第1ステップでドライアップの検出後、第2ステップで定められた時間(例えば5分)が経過すると、沸騰維持工程は終了する。なお、中ぱっぱ工程から沸騰維持工程への移行判断に用いられる沸騰温度と、沸騰維持工程において温調基準に用いられる沸騰温度とは、同一であってもよいし、多少異なっていてもよい。
【0034】
炊き上げ工程では、沸騰維持工程の第2ステップよりも出力を上げて米飯を炊き上げる。この炊き上げ工程では、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の75%の出力でデューティ制御されるとともに、蓋用のセンサ36Bの検出温度TLに基づいてオンオフ制御される。鍋用のセンサ36Aの検出温度TPがドライアップ温度に達すると、炊き上げ工程は終了する。
【0035】
むらし工程では、炊飯鍋12を低出力で温調し、炊き上げた米飯を蒸らす。このむらし工程では、コイル21A~21Cが順番に、定格電力の10%の出力でデューティ制御されるとともに、蓋用のセンサ36Bの検出温度TLに基づいてオンオフ制御される。定められた時間が経過すると、むらし工程は終了する。
【0036】
以上のように、制御部45は、コイル21A~21Cへの通電状態を定められた順番で切り換えながら炊飯処理を実行する。なお、鍋用のセンサ36Aの検出温度TP及び蓋用のセンサ36Bの検出温度TLのうち、いずれを判断に用いるかは、必要に応じて変更が可能である。
【0037】
(コイルの切換周期の概要)
前述した炊飯処理において、炊飯鍋12を温調する工程は、予熱工程、沸騰維持工程、炊き上げ工程、及びむらし工程である。これらの工程では、炊飯鍋12の早急な昇温は必要ないが、炊飯鍋12の一部でも温度が降下することを避けることが好ましい。一方、炊飯鍋12を早急に昇温させる工程は、中ぱっぱ工程である。この中ぱっぱ工程では、炊飯鍋12内に多くの水が残っており、可能な限り多くの熱量かつ高効率で全体を加熱することが好ましい。
【0038】
一方、切換部48による通電状態の切り換えには、制御上の不可避な加熱停止時間(立ち上がり時間を含む。)が伴う。個々のコイル21A~21Cへの通電時間t(つまり切換周期S)を過度に短くすれば、加熱停止時間が多くなるため、定められた時間内での炊飯鍋12の加熱量は少なくなる。たとえ切換前後のコイルへの通電を重複させても、個々のコイルへの投入電力を半減(段階的に電力を投入)する必要があるため、加熱量の低下は否めない。一方、個々のコイル21A~21Cに対する通電時間tを長くすれば、加熱停止時間が少なくなるため、定められた時間内での炊飯鍋12の加熱量は多くなる。但し、3個のコイル21A~21Cのうち、通電が遮断された2個に対応する炊飯鍋12の領域は加熱されないため、1個に対する通電時間tを過度に長くした場合、炊飯鍋12全体の加熱効率が低下することがある。
【0039】
また、炊飯鍋12内では、加熱によって所定温度(例えば70℃)まで上昇すると、通電されている1個に対応する炊飯鍋12の加熱領域(曲部)から気泡が発生し、この気泡によって径方向の対向位置に向けた対流が生じる。この対流は、通電によって個々のコイル21A~21Cが立ち上がった後、通電が遮断されるまで継続する。個々のコイル21A~21Cに対する通電時間tを過度に短くすれば、加熱領域に位置する飯米の対流による移動(撹拌)が不十分になる。一方、個々のコイル21A~21Cへの通電時間tを過度に長くすれば、対流による移動によって加熱領域に位置する飯米が過少になるため、撹拌に貢献しない無駄な時間が発生する。
【0040】
つまり、コイル21A~21Cへの通電時間t(切換周期S)は、長すぎても短すぎても好ましくない。そこで、本発明者らは、マルチコイル型の誘導加熱において、目的に応じた最適な通電時間tを見出した。
【0041】
具体的には、炊飯鍋12全体を均一に加熱(温調)する場合、コイル21A~21Cは、比較的短い通電時間ta毎に通電状態が切り換えられる短周期Saで制御される。通電時間taは0.3秒以上3秒以下の範囲に設定される。通電時間taを0.3秒未満とした場合、立ち上がり時間が大半を占めるため、炊飯鍋12を加熱できない。通電時間taを3秒よりも長くした場合、温調制御(オンオフ制御)におけるオン時間であっても、一巡して再びコイルに通電を開始するときに、炊飯鍋12の対応する加熱領域が降温し始めている。よって、炊飯鍋12を温調する場合、個々のコイル21A~21Cへの通電時間ta(切換周期Sa)は上記範囲に設定することが好ましい。
【0042】
炊飯鍋12を温調する予熱工程、沸騰維持工程、炊き上げ工程、及びむらし工程には、通電時間ta1,ta2,ta3,ta4がそれぞれ設定されている。これらの通電時間ta1~ta4は、上記通電時間taの範囲内の時間にそれぞれ設定されており、本実施形態では全て同じ0.5秒に設定されている。但し、通電時間ta1~ta4は、それぞれ異なっていてもよい。
【0043】
炊飯鍋12を早急に昇温させる場合、コイル21A~21Cは、温調する場合よりも長い通電時間毎に通電状態を切り換える長周期で制御される。図4に示すように、この態様に対応する中ぱっぱ工程は、予熱工程に連続する第1段階と、沸騰維持工程に連続する第2段階を有する。第1段階では、コイル21A~21Cの通電状態が第1周期Sbで切り換えられ、第2段階では、コイル21A~21Cの通電状態が第2周期Scで切り換えられる(二段階)。第1周期Sbと第2周期Scは、対流促進の要否によって設定されている。
【0044】
第1段階は予熱工程に連続しており、対流に繋がる気泡が発生する温度(例えば70℃)よりも炊飯鍋12内の温度が低いため、対流の促進について考慮する必要はない。第2段階は沸騰維持工程に連続しており、気泡が発生する温度よりも炊飯鍋12内の温度が高く、対流が発生するため、対流の促進について考慮することが好ましい。よって、炊飯鍋12内の昇温と撹拌の両立を目的とした第2段階の第2周期Sc(通電時間tc)よりも、加熱効率を重視した第1段階の第1周期Sb(通電時間tb)は長く設定されている。
【0045】
第1周期Sbでは、通電時間taよりも長い通電時間tb毎に、コイル21A~21Cへの通電状態が切り換えられる。通電時間tbは、5秒以上15秒以下の範囲に設定される。5秒未満とした場合、加熱停止時間が多くなるため、単位時間当たりの炊飯鍋12の加熱量が不十分になる。15秒よりも長くした場合、局部加熱が過度になり、他の部分の温度が低下し始める。よって、炊飯鍋12内の加熱を重視する場合、個々のコイル21A~21Cへの通電時間tb(切換周期Sb)は上記範囲に設定することが好ましく、本実施形態では10秒に設定されている。
【0046】
第2周期Scでは、通電時間taよりも長く通電時間tbよりも短い通電時間tc毎に、コイル21A~21Cへの通電状態が切り換えられる。通電時間tcは、2.5秒以上7.5秒以下の範囲において、通電時間tbよりも短い時間に設定される。2.5秒未満とした場合、対流に繋がる気泡の発生が不十分になるため、有効な撹拌作用が得られない。7.5秒よりも長くした場合、撹拌に貢献しない無駄な時間が発生するため、効率的な撹拌作用を得ることができない。よって、炊飯鍋12内の昇温と撹拌を両立する場合、個々のコイル21A~21Cへの通電時間tc(切換周期Sc)は上記範囲に設定することが好ましく、本実施形態では5秒(通電時間tbの半分)に設定されている。
【0047】
引き続いて図4を参照すると、第1段階(第1周期Sb)から第2段階(第2周期Sc)に移行するタイミングは、飯米のアルファ化が始まる温度Taに設定されている。この移行温度Ta(例えば60℃)は、予熱温度Tb(例えば40℃)よりも高く、沸騰温度Tc(例えば90℃)よりも低い。アルファ化とは飯米に含まれるデンプンが糊状になることを意味し、このデンプンは米飯の食味(甘味や艶)に寄与する還元糖を生成する。この還元糖の生成量は適正な温度に達することで増加する。
【0048】
中ぱっぱ工程において、第1段階から第2段階への移行温度Taをアルファ化が始まる温度としているため、食味の向上に最適な制御を実現できる。具体的には、予熱工程の終了後の第1段階では、可能な限り短時間で移行温度Taに炊飯鍋12内を昇温させることで、可能な限り多く還元糖を生成できる。また、移行温度Taに達した後の第2段階では、滞留なく効率的に撹拌(対流)することで、偏りなく米飯の食味を向上できる。
【0049】
次に、中ぱっぱ工程の制御について、図6を参照して説明する。
【0050】
予熱工程から中ぱっぱ工程に移行すると、制御部45は、ステップS2-1で、インバータ回路49の出力を100%に設定する。続いて、ステップS2-2で、鍋用のセンサ36Aの検出温度TPが移行温度Taよりも小さいか否かを判断する。検出温度TPが移行温度Taよりも小さい場合、ステップS2-3で、個々のコイル21A~21Cへの通電時間(タイマのカウント時間)をtb(第1周期Sb)に設定する。また、検出温度TPが移行温度Ta以上の場合、ステップS2-4で、個々のコイル21A~21Cへの通電時間をtc(第1周期Sc)に設定する。
【0051】
次に、ステップS2-5で、通電時間を計測する切換タイマをリセットしてスタートする。続いて、ステップS2-6で、切換タイマがカウントアップするまで待機し、カウントアップすると、ステップS2-7で、コイル21A~21Cへの通電状態を切り換える。その後、ステップS2-8で、鍋用のセンサ36Aの検出温度TPが沸騰温度(沸騰維持工程に移行する温度)Tc以上になったか否かを判断する。そして、検出温度TPが沸騰温度Tc未満の場合、沸騰温度Tc以上になるまでステップS2-2からステップS2-7を繰り返す。検出温度TPが沸騰温度Tc以上になると、中ぱっぱ工程を終了(リターン)して沸騰維持工程に移行する。
【0052】
このように構成された本発明の炊飯器10は、以下の特徴を有する。
【0053】
切換部48によって複数のコイル21A~21Cのうちの1個が通電されるように通電状態が切り換えられるため、1個のコイルで炊飯鍋全体を加熱する場合と比較して、単位面積当たりに投入可能な電力(つまり加熱量)を大きくできる。よって、炊飯鍋12の局部を大きな熱量で集中して加熱できる。
【0054】
昇温工程では、予熱工程に連続した第1段階と、沸騰維持工程に連続した第2段階とで、コイル21A~21Cへの通電状態を切り換える周期が異なっており、第1段階の第1周期Sbは第2段階の第2周期Scよりも長い。予熱温度Tbに近い第1段階では、通電状態の切り換えに伴う加熱停止時間が第2段階よりも少ないため、炊飯鍋12内を第2段階よりも早急に加熱できる。よって、米飯の食味(甘味や艶)に寄与する還元糖を生成する温度に、炊飯鍋12内を早急に昇温できる。沸騰温度Tcに近くなった第2段階では、第1段階よりも早く通電状態が切り換えられるため、局部加熱によって発生した気泡による対流を促進できる。よって、飯米を効率的に撹拌できるため、加熱ムラの無い炊飯を実現できる。その結果、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現できる。
【0055】
昇温工程において通電状態を切り換える周期は、第1周期Sb及び第2周期Scの二段階である。よって、早急な昇温が望ましい昇温工程の初期では多くの熱を確実に投入でき、効率的な撹拌が望ましい昇温工程の後期では対流を促進できる。第1段階から第2段階に移行する温度は、飯米のアルファ化が始まる温度に相当する。よって、還元糖を生成する温度に炊飯鍋12内を早急に昇温させ、その後はアルファ化が始まった炊飯鍋12内を効率的に撹拌できるため、炊き上げた米飯の食味を向上し、理想的な炊飯を実現できる。
【0056】
第1周期Sbの第1通電時間tbは5秒以上15秒以下の範囲に設定され、第2周期Scの第2通電時間tcは2.5秒以上7.5秒以下の範囲に設定されている。よって、加熱重視又は加熱と撹拌の両立等、目的に応じた最適な制御を行うことができる。
【0057】
(実験例)
本願の発明者らは、本発明の構成による効果を確認するために、本実施形態に示す炊飯器10及び従来の炊飯器によって炊飯し、炊き上げた米飯の還元糖の数値と食味を比較した。
【0058】
本発明品については、中ぱっぱ工程において、炊飯鍋12の温度が60℃に達するまでは10秒毎にコイル21A~21Cに対する通電状態を切り換え、炊飯鍋12の温度が60℃に達した後は5秒毎にコイル21A~21Cに対する通電状態を切り換えた。第1比較品には前記実施形態と同様に3個のコイルを用いた炊飯器を用い、中ぱっぱ工程全体において、10秒毎にコイル21A~21Cに対する通電状態を切り換えた。第2比較品には1個のコイルで炊飯鍋を加熱する炊飯器を用い、中ぱっぱ工程では出力100%で炊飯鍋を加熱し続けた。その他の予熱工程、沸騰維持工程、炊き上げ工程、及びむらし工程の制御については、本発明品と第1比較品とは同じである。
【0059】
これらの炊飯器によって炊飯した米飯の還元糖を所定の検査機関で測定した。その結果、本発明品によって炊き上げた米飯の還元糖は、第1比較品によって炊き上げた米飯の還元糖よりも4%高く、第2比較品によって炊き上げた米飯の還元糖よりも10%高かった。つまり、本発明品によれば、中ぱっぱ工程において加熱態様を変更しない第1比較品、及び1つのコイルを用いた第2比較品よりも、食味に寄与する還元糖を増加できるといえる。
【0060】
また、本発明品によって炊き上げた米飯、及び第1比較品によって炊き上げた米飯について、鋭意実験している食味感覚に優れた当業者10人に食味官能評価をさせた。評価項目については、香り、外観、やわらかさ、粘り、及び甘みである。その結果、従来の第1比較品による米飯と比べて本発明品による米飯は、全ての項目において高い評価が得られた。また、総合については、10人中、第1比較品と比べて悪いと評価した者は居らず、同じと評価した者は7人であり、良いと評価した者は3人であった。つまり、本発明品によれば、第1比較品と比べて食味を向上できるといえる。
【0061】
なお、本発明の炊飯器10は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、図7に示すように、中ぱっぱ工程では、コイル21A~21Cへの通電状態を切り換える周期を、移行初期の第1周期Sbと、移行後期の第2周期Scと、これらの間である移行中期の第3周期Sdとを有する三段階としてもよい。なお、これらの通電時間は、第1周期Sbが最も長く、第3周期Sd及び第2周期Scの順で短くなる。また、図8に示すように、中ぱっぱ工程では、コイル21A~21Cへの通電状態を切り換える周期を、第1周期Sbから第2周期Scまで次第に通電時間が短くなるようにした無段階としてもよい。これらのようにしても前記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0063】
中ぱっぱ工程を構成する2以上の段階(周期)を切り換えるタイミングは、飯米のアルファ化が始まる温度に相当する温度に限られず、必要に応じて変更が可能である。しかも、第1周期Sbの通電時間tb及び第2周期Scの通電時間tcも、必要に応じて変更が可能である。
【0064】
コイルの数は、図9に示すように4個(21A~21D)であってもよく、必要に応じて変更が可能である。また、複数のコイルのうち、1個が通電されて残りが遮断される構成に限られず、通電するコイルの態様も必要に応じて変更が可能である。つまり、図9に示す4個のコイル21A~21Dのうち、2個を1組として制御してもよい。例えば、対向するコイル21A,21Cを1組の第1コイルとするとともに、他の対向するコイル21B,21Dを1組の第2コイルとし、第1コイル21A,21Cと第2コイル21B,21Dの通電を順番に切り換えてもよい。また、隣接したコイル21A,21Bを1組の第1コイルとするとともに、他の隣接したコイル21C,21Dを1組の第2コイルとし、第1コイル21A,21Bと第2コイル21C,21Dの通電を順番に切り換えてもよい。勿論、複数のコイルの総数に応じて、1組とするコイルの数を3個以上としてもよいし、2個以上のコイルの組数を3組以上としてもよい。また、対向又は隣接したコイルを1組にする構成に限られず、コイルの総数によっては、1組とするコイルの位置関係も必要に応じて変更が可能である。
【0065】
コイルは、炊飯鍋12の軸線を中心として周方向に2個だけ配置してもよいし、4個以上配置してもよい。炊飯器10は、排気通路30の途中に可動式の弁体を有し、炊飯鍋12内を大気圧よりも高い圧力まで昇圧可能とした圧力炊飯器であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…炊飯器
12…炊飯鍋
13…底部
14…外周部
15…湾曲部
17…炊飯器本体
18…収容部
19…内胴
20…保護枠
21A~21D…コイル
22…フェライトコア
23…ホルダ
24…ヒンジ接続部
26…蓋体
27…放熱板
28…内蓋
29…蓋ヒータ
30…排気通路
31…通気口
32…蒸気口セット
33…排気口
34…空隙
36A,36B…温度センサ(検出部)
38…操作パネル
39…スイッチ
40…液晶パネル
42…ホルダ
43…制御基板
45…制御部
46…記憶部
47…計時部
48…切換部
49…インバータ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9