(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】等速ジョイント用ブーツ
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20230428BHJP
F16D 3/205 20060101ALI20230428BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20230428BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
F16D3/84 R
F16D3/84 J
F16D3/84 F
F16D3/205 M
F16J3/04 B
F16J15/52 C
(21)【出願番号】P 2019166841
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】末岡一彦
(72)【発明者】
【氏名】高田康二
(72)【発明者】
【氏名】信末憲司
(72)【発明者】
【氏名】坂井香樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270825(JP,A)
【文献】特開2009-085228(JP,A)
【文献】特開2007-032761(JP,A)
【文献】独国実用新案第000029900828(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/84
F16D 3/205
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速ジョイントの外筐が挿入される第1の端部と、
前記等速ジョイントに接続された軸部が挿入される第2の端部と、
前記第1の端部と前記第2の端部との間にわたって形成されるベローズ部とで構成され、
前記第1の端部と前記ベローズ部との境界領域には、前記第1の端部の内面よりも径方向外方に向けて窪む環状凹部を有し、
前記第1の端部の外周面には、前記環状凹部の下端部から軸方向に所定距離を有した位置に、径方向外方に延びる立上り部を有し、
前記第1の端部の内面よりも径方向内方に向けて突出するフランジ部を備えた等速ジョイント用ブーツであって、
前記環状凹部は、前記凹部の下端部から前記ベローズ部の下端部にわたり断面視で軸方向に連続する直線部を有し、
前記フランジ部は、前記環状凹部の下端部から径方向内方に向けて前記外筐の上方に位置するように突出すると共に、前記立上がり部と前記環状凹部との間に、少なくとも一部が設けられていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツ。
【請求項2】
前記直線部は、バンド締結部の周面に対し径方向同等又は外方に位置することを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイントブーツ。
【請求項3】
前記フランジ部のべローズ部側対向面は平坦面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項4】
前記等速ジョイントは、外周面に凹設された複数の軸方向溝と、隣り合う軸方向溝間に形成される円筒面とを有する外筐を備えたトリポッドジョイントであって、
前記トリポッドジョイントの外筐の軸方向溝の溝面に適合して、前記第1の端部の内周面に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記円筒面の外面に適合する円弧状の内面を有し、前記厚肉部間に配される薄肉部と、を含み、
前記フランジ部は、前記厚肉部と一体になって突出する第一フランジ部からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項5】
前記フランジ部は、さらに、前記薄肉部と一体になって突出する第二フランジ部を備えることを特徴とする請求項4に記載の等速ジョイント用ブーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイント用ブーツ、例えば自動車のディファレンシャルギア(デフ)から車軸ハブへ動力を伝達するドライブシャフト(動力伝達軸)等に備えられる等速ジョイント(Constant Velocity Universal Joint)を保護するためのブーツに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用のドライブシャフトには、タイヤの上下動や操舵による屈曲を許容するため、その屈曲構造として等速ジョイントが用いられる。通常、タイヤが装着されるハブ側(アウトボード側)とデフ側(インボード側)との2か所、車軸あたり4か所に等速ジョイントが設けられ、これらの等速ジョイントには、等速ジョイントの屈曲部を潤滑するためのグリースを封入するとともに、埃や水等の異物の内部への侵入を防ぐため、等速ジョイントの屈曲部をカバーする可撓性の等速ジョイント用ブーツ(以下、単にブーツともいう。)が等速ジョイントに装着される。
このようなブーツは、等速ジョイントの外筐が挿入される第1の端部(大径側の端部)と、該外筐内部から突き出した軸部が挿入される第2の端部(小径側の端部)と、第1の端部と第2の端部との間に形成され、周方向に連続する環状の凸状部(山部)および環状の凹状部(谷部)が、ブーツの軸方向に繰り返し配列されて構成されているベローズ部とで全体略円すい状に構成されている。
そして、通常、上記等速ジョイント用ブーツは、その第1の端部および第2の端部をそれぞれ等速ジョイントの外筐の外周面と、該外筐内部から突き出た軸部の外周面とにそれぞれバンドによって締結され、液密に固定される。
【0003】
アウトボード側(ハブ側)の等速ジョイントは、 例えば、軸部に放射状に配置された6~8個のボールベアリングが等速ジョイントの外筐内に配置され、外筐に対する軸部の屈曲変位を許容可能に構成され、その外筐の外周面形状は、丸断面形状であることが多い。このような等速ジョイントは、後述する摺動式の等速ジョイント(トリポッドジョイント)と区別するため、軸部が外筐に対して軸方向に摺動変位しないことから、固定式の等速ジョイントとも呼称される。そして、インボード側(デフ側)の等速ジョイントは、例えば、軸部に三叉状に装着された3組のローラ(ベアリング)が等速ジョイントの外筐内に配置され、それぞれ、外筐に対する軸部の屈曲変位を許容するとともに、外筐内で軸方向に滑動(摺動)変位可能に構成され、その外筐の外周面形状は、内方にローラが配置されていない余分な空間を削り取るように外周から見て3つの凹部を有する形状であることが多い。このような等速ジョイントは、トリポッドジョイントと呼称され、また、軸部が外筐に対して軸方向に摺動することから、摺動式の等速ジョイント又は摺動式のトリポッドジョイントとも呼称される。
【0004】
ところで、等速ジョイントの外筐と等速ジョイント用ブーツとを組付ける際には、等速ジョイントの外筐がベローズ部内へ挿入され過ぎないように留意しつつ作業する必要があり、この作業手間が大変面倒であった。そこで、従来、このような課題を解決する手段を講じた等速ジョイント用ブーツが提案されている(特許文献1及び特許文献2。)。
【0005】
特許文献1には、ステアリングギアとシャフトとの間及び/又はシャフトとステアリングホイールとの間に配設した等速ジョイント用ブーツに関する技術が開示され、 第1固定部(第1の端部)のクランプ(バンド)の締め付け部と蛇腹部(ベローズ部)の基部との間で内径方向且つ第1の端部に向けて傾斜状に突出したフランジ(フランジ部)が開示されており、このフランジ部に外筐が当接することにより組付け時の位置決めがなされている。
また、特許文献2には、前輪駆動車のドライブシャフト用ジョイント等に不可欠な等速ジョイントを被覆する等速ジョイント用ブーツに関する技術が開示され、蛇腹部(ベローズ部)における軸方向で最も大径筒部(第1の端部)寄りに存した第1山部(山部)と大径筒部(第1の端部)との間には、外方から見て凹部(谷部)を存している。すなわち、第1の端部とベローズ部とは凹部(谷部)によって接続されている。そして、この凹部に対応して第1の端部のべローズ部側には、内径方向に突出したフランジ部が開示されており、このフランジ部に外筐が当接することにより組付け時の位置決めがなされている。なお、このフランジ部は、上述の最も第1の端部寄りに存した山部から内径方向且つ第1の端部に向けて傾斜状のテーパー面をもって連続して突出している。
【0006】
自動車のドライブシャフトの等速ジョイントにおいて、サスペンションによる上下動に加え、操舵等によりジョイントが大きく屈曲されるアウトボード側の等速ジョイントは、外筐に取り付けられる第1の端部とベローズ部との境界部分の柔軟性が低い場合、例えば、ジョイントが大きく屈曲した際に、ベローズ部の第1の端部に最も近接する山部が十分に変形できず、軸部と外筐端部にベローズ部の一部が挟み込まれるおそれがある。
【0007】
また、サスペンションによる上下動に加え、軸部の軸方向変位を吸収する摺動式のトリポッドジョイントは、外筐に取り付けられる第1の端部とベローズ部との境界部分の柔軟性が低い場合、例えば、メンテナンスや半組み立て状態での搬送時に、軸部の変位と同時にジョイントが大きく屈曲した際に、ベローズ部の第1の端部に最も近接する山部が十分に変形できず、軸部と外筐端部にベローズ部の一部が挟み込まれるおそれがある。
いずれの等速ジョイント用ブーツにおいても、内径方向に突出するフランジ部を第1の端部とベローズ部との境界部分、すなわち、境界領域に設ける場合、フランジ部の存在が、ベローズ部の第1の端部近接部位に剛性を付与し変形しづらくなるので、挟み込みを防止するためにベローズ部の変形の起点をフランジ部からなるべく離す必要があり、そのため、等速ジョイント用ブーツのコンパクト化が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-57685号公報
【文献】特開2010-127407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的とするところは、等速ジョイントの外筺の位置決めを図るとともに、変形時における軸と外筐との間でのベローズ部の噛み込みを防止することが可能な等速ジョイント用ブーツを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、第1の本発明は、等速ジョイントの外筐が挿入される第1の端部と、
前記等速ジョイントに接続された軸部が挿入される第2の端部と、
前記第1の端部と前記第2の端部との間にわたって形成されるベローズ部とで構成され、
前記第1の端部と前記ベローズ部との境界領域には、前記第1の端部の内面よりも径方向外方に向けて窪む環状凹部を有し、
前記第1の端部の外周面には、前記環状凹部の下端部から軸方向に所定距離を有した位置に、径方向外方に延びる立上り部を有し、
前記第1の端部の内面よりも径方向内方に向けて突出するフランジ部を備えた等速ジョイント用ブーツであって、
前記環状凹部は、前記凹部の下端部から前記ベローズ部の下端部にわたり断面視で軸方向に連続する直線部を有し、
前記フランジ部は、前記環状凹部の下端部から径方向内方に向けて前記外筐の上方に位置するように突出すると共に、前記立上がり部と前記環状凹部との間に、少なくとも一部が設けられていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0011】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記直線部は、バンド締結部の周面に対し径方向同等又は外方に位置することを特徴とする等速ジョイントブーツとしたことである。
【0012】
第3の本発明は、第1の本発明又は第2の本発明において、前記フランジ部のべローズ部側対向面は平坦面であることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0013】
第4の本発明は、第1の本発明乃至第3の本発明のいずれかにおいて、前記等速ジョイントは、外周面に凹設された複数の軸方向溝と、隣り合う軸方向溝間に形成される円筒面とを有する外筐を備えたトリポッドジョイントであって、
前記トリポッドジョイントの外筐の軸方向溝の溝面に適合して、前記第1の端部の内周面に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記円筒面の外面に適合する円弧状の内面を有し、前記厚肉部間に配される薄肉部と、を含み、
前記フランジ部は、前記厚肉部と一体になって突出する第一フランジ部からなることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0014】
第5の本発明は、第4の本発明において、前記フランジ部は、さらに、前記薄肉部と一体になって突出する第二フランジ部を備えることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、等速ジョイントの外筺の位置決めを図るとともに、シール性が低下することなく、屈曲時における軸と外筐との間でのベローズ部の噛み込みを防止する等速ジョイント用ブーツを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の等速ジョイント用ブーツの一実施形態を示す概略全体縦断面図である。
【
図2】第1の端部の底面側から見た概略底面図である。
【
図3】第1の端部を拡大して示す概略部分拡大斜視図である。
【
図4】第1の端部における薄肉部の概略部分拡大断面図である。
【
図5】第1の端部における厚肉部の概略部分拡大断面図である。
【
図6】第1の端部における厚肉部領域で断面して示す概略部分拡大斜視図である。
【
図7】第1の端部における薄肉部領域で断面して示す概略部分拡大斜視図である。
【
図8】等速ジョイントに本実施形態の等速ジョイント用ブーツを装着した状態の概略縦断面図である。
【
図9】
図8のX-X線部分で断面し、等速ジョイントの外筐が、各フランジ部に突き当たって位置決めしている状態を示す概略断面図である。
【
図10】
図8に示す形態における第二フランジ部に、他の形態を採用した概略断面図である。
【
図11】本実施形態の等速ジョイント用ブーツが大きく変形してもベローズ部の凹状部が下方に落ち込んでいない状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、フリー状態の等速ジョイント用ブーツの中心軸に沿う第1の端部方向を下方又は下とし、上記中心軸に沿う第2の端部方向を上方又は上とし、軸方向とは、上記中心軸に沿う方向として説明する。また、本実施形態は本発明の一例にすぎずなんらこれに限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0019】
本実施形態では、本発明の等速ジョイント用ブーツ(以下、単にブーツともいう。)が装着される等速ジョイントの一例として、
図8乃至
図10に示す軸方向にローラ及びローラが装着された軸部が摺動可能な摺動式のトリポッドジョイント1を想定する。また、本発明のブーツが装着対象とする等速ジョイントは、図に示す形態に限定されるものではなく本発明の範囲内で他の等速ジョイント、例えば、外筐の外周形状が断面円形の等速ジョイントが採択可能である。
【0020】
トリポッドジョイント1の外筐2は、全体を筒状(カップ状)に形成し、本実施形態のブーツ6は、外筐2の開口端部に装着される。
外筐2の外周面3は、
図9に示すように、外筐2の軸心と同心の円筒面状に形成されている3箇所の円筒面4と、夫々の円筒面4の両側から断面視円弧状に窪まされて形成された3箇所の軸方向溝5が形成されている。
すなわち、外筐2の外周面3は、120°ずつ周方向にずれて3面が形成された円筒面4と、これら各円筒面4間に夫々設けられた3つの軸方向溝5の面とからなる。そして、軸方向溝5を有する各領域の外筐内周面は内径方向に突出する3箇所の突条部60を備えるとともに、隣り合う突条部60間の外筐内周面は、ドライブシャフトの軸部30に三叉状に装着された3組のローラ(ベアリング)40,40,40が、それぞれ外筐2内にて軸方向(
図8にて矢印100で示す方向)に滑動可能に配されるローラ溝50,50,50を備えて構成されている(
図8乃至
図10参照。)。
なお、図に示す等速ジョイント1を構成する外筐2、軸部30、ローラ40等の大きさ・厚みなどの寸法・比率等は概略であって正確ではない。
【0021】
図1は、本実施形態のブーツ6の全体を示す縦断面図である。
図1に示すように、ブーツ6は全体を筒状に形成され、トリポッドジョイント1の外筐2側に固定される第1の端部(大径側の端部)10と、その第1の端部10よりも小径に形成され、
図8に示す外筐2内部から突き出した軸部30側に固定される第2の端部(小径側の端部)7とを有する。
そして、第1の端部10と第2の端部7との間には、可撓性を有し屈曲可能に構成された蛇腹状のベローズ部9が形成されている。
なお、本実施形態の場合、ブーツ6は、例えば熱可塑性のポリエステル系エラストマ等の弾性を有する樹脂から形成されているものを想定している。
【0022】
第2の端部7の外周面には、
図1に示すように、軸方向にわたって略一定の外径に形成された小径側バンド締結部8が周方向に連続して設けられている。
この小径側バンド締結部8には、ブーツ6を
図8に示す外筐2内部から突き出した軸部30側に締結するためのバンド(図示省略)が装着される。
第2の端部7の内周面は、ドライブシャフトの軸部30側の外周面に適合して嵌合可能な内径を有している。本実施形態では、軸部30の外周に凹設されている環状溝部に嵌合可能な環状のずれ防止突部7aが形成されている。
また、図示はしないが、その内周面には、軸心方向に向けて突出する周方向に連続した突条(シールリップ)が形成されている。なお、この突条は、小径側バンド締結部8の緊迫力が付与される位置であれば、第2の端部7の内周面に設けることとしてもよい。この突条の形状及び配設本数などは特に限定されず本発明の範囲内で設計変更可能である。なお、突条を有しない形態であっても本発明の範囲内である。
【0023】
ベローズ部9は、
図1に示すように、周方向に連続する環状の凸状部(山部)9aおよび環状の凹状部(谷部)9bが、ブーツ6の軸方向100に繰り返し配列されて構成されている。すなわち、凸状部9aにおいては、ベローズ部9の断面は外周側に凸となり、凹状部9bにおいては、ベローズ部9の断面は内周側に凸となる(
図1参照。)。
本実施形態の場合には、例えば7つの凸状部9aと6つの凹状部9bとが繰り返し配列され、各凸状部9aおよび凹状部9bは、夫々第2の端部7側から第1の端部10側に向かうにつれて径が大きく設定され、その結果、ベローズ部9は、全体として略円すい状に形成されている。
ベローズ部9の最も第1の端部10寄りの凸状部に関しては、説明上、以後突条部16と呼称する。(
図1、
図3及び
図4参照。)。
【0024】
第1の端部10の外周面には、
図1及び
図3に示すように、軸方向にわたって略一定の外径に形成された大径側バンド締結部11が周方向に連続して設けられている。
この大径側バンド締結部11には、ブーツ6を、
図8乃至
図10に示すトリポッドジョイント1の外筐2の軸方向溝5の溝面を含む外周面3に締結するためのバンド(図示省略)が装着される。
【0025】
第1の端部10の内周面には、
図1乃至
図3及び
図8乃至
図10に示すように、外筐2の外周面3に形成された軸方向溝5の溝面に適合して、円弧状に張り出して形成された3箇所の厚肉部13が夫々周方向に等間隔をあけて形成されているとともに、隣り合う厚肉部13と厚肉部13の間には、外筐2に形成された円筒面4の外面に適合する円弧状の内面を有する3箇所の薄肉部12が形成されている。
【0026】
第1の端部10とベローズ部9との境界領域には、第1の端部10の内面よりも径方向で外方に向けて窪む環状凹部(環状谷部)14が備えられている(
図1、
図3乃至
図9、及び
図11参照。)。すなわち、環状凹部14は、境界領域に含まれ、この環状凹部14の内径は、第1の端部10の内面の内径よりも大径に形成されている。環状凹部14を内周面に有する突条部16も境界領域に含まれ、この突条部16の外周面は、断面視で軸方向に連続する直線部15を有している。
【0027】
この環状凹部14の領域を外方(
図1にて矢印200で示す方向)から見ると、第1の端部10の立上り部10aから径方向で外方に向けて突出する環状の凸部(環状の山部)であり、すなわち突条部16である。この突条部16にあっても、上述のとおり、環状凹部14と同じく軸方向に連続する直線部15を有している。つまり、この突条部16と環状凹部14は、内外周とも直線で構成されている。そして、突条部16の外径は、第1の端部10の外面の外径よりも大径に形成され、すなわち、外方に突出し、上記立上り部10aの一部を構成する。この立上り部10aは、図示せぬ締結バンドの軸方向の位置決めとして利用される。突状部16の厚み、すなわち突条部16の外径と環状凹部14の内径との差は、ベローズ9の最大厚み以下であることが好ましい。さらに、凸状部9aの最大厚み以下であることがより好ましい。これにより、強い変形力が印加された場合には、環状凹部14の下端部14aを起点として変形することで等速ジョイントのより大きな屈曲を許容できるからである。つまり、外筐2に対して軸部30が大きく屈曲した場合でも、べローズ9が外筐2の上端と軸部30の外周面との間に噛み込まれることを防止することができる。
【0028】
さらに、第1の端部10とベローズ部9との境界領域において、第1の端部10の立上り部10aと環状凹部14の下端部14aとの間に、第1の端部10の内面よりも径方向で内方に向けて突出するフランジ部17の少なくとも一部が備えられている(
図1乃至
図11参照。)。すなわち、フランジ部17の少なくとも一部が境界領域に含まれ、このフランジ部17は、例えば、環状凹部14の径方向内方に下端部14aから突出し、平坦な上面を有している。
【0029】
本実施形態のフランジ部17は、環状凹部14の下端部14aから、各厚肉部13と一体に配された3箇所の第一フランジ部18,18,18と、環状凹部14の下端部14aから、各薄肉部12と一体に配された3箇所の第二フランジ部19,19,19と、で構成されている(
図1乃至
図11参照。)。
それぞれの第一フランジ部18と第二フランジ部19とは、環状に連続して備えられているものではなく、周方向で断続的に備えられている(
図2、
図3、
図7参照。)。
【0030】
第一フランジ部18は、
図5に示すように、それぞれの厚肉部13の上面領域と一体で、かつ厚肉部13の湾曲状の内面よりも内径方向に向けて平面視で略矩形状に突出して形成されている(
図2及び
図3参照。)。厚肉部13の最大径部位13aよりも僅かに突出するように設計されている。そして、第一フランジ部18は、外筐2の軸方向溝5が設けられている領域の端面2aと当接する(
図9参照。)。
すなわち、第一フランジ部18は、
図8及び
図9に示すように、外筐2の開口側の端面2aが当接して挿入時の位置決めが可能な程度に突出していれば良い。また、矩形状ではなく軸方向溝5から突出した円弧状の相似形状でもよい。つまり、外筐2の開口側の端面2aが当接してブーツ挿入時の位置決めが可能、且つ、外筐2に内蔵されるジョイントが有する機能の妨げにならない形状であればよい。なお、本実施例においては、
図2に示すように、薄肉部12方向に向かうに従ってその突出量は多くなり、外筐2の開口側の端面2aとの接触領域は広くなっている。この形状は、トリポッドジョイントにおいて、ローラの移動を規制しない好適な形状である。(
図2、
図3及び
図10参照。)
【0031】
第二フランジ部19は、それぞれの薄肉部12に設けられ、本実施形態では、
図3、
図4及び
図9に示すように、薄肉部12の上面領域と一体で、薄肉部12の内面よりも内径方向に向けて平面視で略矩形状に突出して形成されるセンター部20と、センター部20と間隔をあけてセンター部20の両脇に位置するように、薄肉部12の内面よりも内径方向に向けて平面視で略三角形状に突出して形成されるサイド部21,21と、で構成されている。そして、第二フランジ部19は、外筐2の円筒面4領域の端面2bと当接する。
この第二フランジ部19の内径方向に向けた突出程度は、第一フランジ部18よりも少なく構成されている。すなわち、第二フランジ部19は、外筐2の円筒面4の端面2bを当接させて位置決めをするものであるが、それ以上内径方向に突出させると、外筐2内に備えられているローラ溝50内に突出することとなり、ローラ40の軸方向の滑動(摺動)を妨げてしまう虞があるためである。
【0032】
なお、本実施形態では、この第二フランジ部19を3つに分割してなる構成を採用しているが、分割することなく一つのフランジ部をもって構成するものであってもよく本発明の範囲内で設計変更可能である。
また、本実施形態においてセンター部20とサイド部21,21のそれぞれの下面(外筐2の開口側の端面2a,2bと対向する面)には湾曲状に形成された面取り20a,21aが施されている(
図3、
図4、
図6及び
図7参照。)。
本実施形態では、センター部20の形状を平面視で略矩形状とし、サイド部21,21の形状を平面視で略三角形状としているが、特にその形状に限定解釈されるものではなく適宜設計変更可能である。
【0033】
第一フランジ部18と第二フランジ部19のそれぞれの上面18a,19a、すなわち環状凹部14に位置する面部は、平坦面(フラット面)に形成されている(
図1乃至
図11参照。)。
本実施形態においては、上面18aと上面19aが、軸30に対して直交する方向に平坦(フラット)に形成される。これにより、第一フランジ部18又は第二フランジ部19の存在が、これに外周面で接続される突条部16の変形を阻害しない。
本実施形態においては、第一フランジ部と第二フランジ部の両方が設けられた等速ジョイント用ブーツを用いて説明したが、第一フランジ部のみを設けることとしても良い。またトリポッドジョイントでない等速ジョイント用のブーツにおいては、上述の第二フランジ部19が本発明のフランジ部として機能を有する。
【0034】
図10は、第二フランジ部19の他の実施形態を示しており、このように構成することも本発明の範囲内である。
【0035】
等速ジョイントは、上述したとおり、ドライブシャフトの軸部に三叉状に装着された3組のローラ(ベアリング)がそれぞれ軸方向に滑動可能に外筐内に配されているものがある。この場合、自動車への組付け作業中や分解メンテナンス中、組付け前の半組立状態での搬送等では、実使用時以上の変位が加わることがあり、ローラ(ベアリング)がベローズ装着(部内)方向に過度に飛び出してしまう、といった不具合を招く虞がある。
そこで、従来では、このようなローラの外筐からの(ベローズ部内への)飛び出し現象を防止するため、様々な抜け止め機構が採用されている。
例えば、抜け止め機構の一つとしては、外筐の開口部寄りの内周面に環状凹溝を設け、その環状凹溝に止め輪(サークリップともいう)を嵌着した構造が知られている。このような構造とすることにより、(例えば、軸の軸方向変位時等において、)ローラが止め輪と干渉することでローラの飛び出し現象を防止する(軸方向変位量を規制する)ようにしている。
しかし、使用上必要な摺動量を確保しつつ止め輪を組み付けるスペースを用意し、外筐の開口部寄りの内周面に環状凹溝を旋削加工する手間が必要となり、かつ別部品である止め輪も必要となることから、外筐の大型化、旋削加工手間の追加および部品点数の増加等により製品のコストアップを招く虞があった。
図10に示す本発明の別の実施形態によれば、これら不具合を十分に解消し得るものである。
【0036】
図10において、第二フランジ部19を構成するセンター部20は、上述した実施形態と同じく外筐2の円筒面4の端面2aに当接して外筐2の位置決めを図る構成としているが、サイド部21,21は、外筐2の円筒面4の端面2bに当接して外筐2の位置決めを図るとともに、必要以上のローラ40の飛び出しを抑制するローラ押え部(ベアリング押え部)として機能すべく、外筐2のローラ溝50内に突出するように内径方向への突出量を多くしている。
【0037】
サイド部21,21のローラ溝50内への突出位置・突出程度は本発明の範囲内で設計変更可能であるが、ローラ40が外筐2の開口側から落下しないように設計されていれば良く、例えば、左右のサイド部21,21間の距離L1が、ローラ40の最大径R1よりも僅かに小さくなるように設計する。ローラ40は、円形態であるからサイド部21,21のローラ溝50内への突出位置・突出程度を調整することで、ローラ40の摺動量、すなわち軸部30の許容変位量を調整することができる。このように構成することによって、本発明の等速ジョイント用ブーツの第二フランジ部19は、外筐2の位置決め部として機能するとともに、ローラ押え部として機能し、ローラ40の外筐からの(ベローズ部9内への)飛び出し抑制機能を発揮することが可能である。
また、それぞれのサイド部21,21の突出量の他、サイド部21のローラ40との接触面領域を、ローラ40の外周に合わせた曲面状に構成、あるいはテーパー面状に構成することも可能で、このように構成することにより、ローラ40との接触時の応力又は衝撃力を小さくする(和らげる)ことが可能となりローラ40の外周面の傷つき防止を図ることが出来る。
【0038】
図10に示す実施形態では、サイド部21,21の形状を平面視略三角形状としているが、特にその形状に限定解釈されるものではなく適宜設計変更可能である。
また、必要に応じて、サイド部21,21を、センター部20に対して、軸方向に変位させて配するように設計変更することも可能である。例えば、ローラ40のベローズ方向への軸方向移動をさらに許容したい場合、サイド部21,21のみを第二の端部の開口寄りに配するものとすることもできる。
図示例では、センター部20と両サイド部21,21とを分割構成した一例をもって説明するが、本形態を採用する場合にあっても、センター部20と両サイド部21,21とを一体に成形することももちろん可能である。
【0039】
本実施形態の等速ジョイント用ブーツによれば、次のような特有の作用効果を発揮し得る。
【0040】
第1の端部10とベローズ部9との境界領域には、第1の端部10の内面よりも径方向で外方に向けて窪む環状凹部14が備えられている構成を採用している、すなわち第1の端部10と凸状部( 突条部16)が連続して形成されているため、等速ジョイント1の外筐2との間に所要の許容空間(空隙22)を設けることができる。これにより、外部から衝撃や接触力を受けた場合においても、容易に外筐2との挟み込みが生じ難く、衝撃性や接触性に対し有利となる(衝撃性や接触性対策となる。)。また、等速ジョイントの屈曲により強い変形力が印加された場合、環状凹部14の下端部14aを起点とした変形となるため、より、容易に外筐2との挟み込みが生じ難いことに加え、ブーツの全長を抑えることができる。
【0041】
第1の端部10の立上り部10aと環状凹部14の下端部との間に位置する境界領域に、第1の端部10の内面よりも径方向で内方に向けて突出するフランジ部17(第一フランジ部18,第二フランジ部19)を備えたため、等速ジョイント1の組み込み時において、外筐2がフランジ部17(第一フランジ部18,第二フランジ部19)に当接して位置決めをすることが可能となり、作業手間を大きく改善することができる(ベローズ部9内への誤挿入防止、挿入不足の防止となる。)。
従って、フランジ部は、第1の端部10の立上り部10aと環状凹部14の下端部14aとの境界領域に備えられ、このフランジ部の上方には、環状凹部14が設けられているため、この外周面となる突条部16の変形(柔軟性)に影響を及ぼすことがない。よって、ベローズ部に大きな変形が生じた場合であっても突条部16が自由に変形可能であるので、バンド締結部11への影響もなく、第1の端部10の内周面に設けられたシール部にも影響することが無い。
【0042】
また、環状凹部14の下端部14aからベローズ部9にわたり、断面視で軸方向に連続する直線部15を有しているため、確実に、突条部16の下端(環状凹部14の下端部14a)が変形時の起点となる。このように直線部15を備えることにより内方の空間(環状凹部14の許容空間22)を多く確保でき、ベローズ部9の大きな変形時の突条部16の変形を阻害しない。
このような構成及び作用効果を発揮することにより、軸部(シャフト)30と外筐2との間で生じ得る噛み込み(挟み込み)を防止することが可能となる(
図11参照。)。すなわち、等速ジョイントの大きな屈曲動作によるベローズ部9の大きな変形にも十分に対応可能であるから、コンパクト設計が可能となる。
【0043】
上述した本実施形態の場合、それぞれの厚肉部13及び薄肉部12と一体に、第一フランジ部18と第二フランジ部19とが形成された最適な実施の一形態をもって説明したが、少なくとも、厚肉部13と薄肉部12のいずれか一つにフランジ部17(第一フランジ部18又は第二フランジ部19)が配されていれば本発明の範囲内である。なお、均等に外筐2の開口側の端面と当接して位置決めし得るには、3箇所の厚肉部13の全てにフランジ部(第一フランジ部18)を配するか、あるいは3箇所の薄肉部12の全てにフランジ部(第二フランジ部19)を配するか、のいずれかを採択するのが好ましい。また、対角に位置する厚肉部13に第一フランジ部18を配するとともに薄肉部12に第二フランジ部19を配する構成を採用することも好ましい。
【0044】
なお、第一フランジ部18と第二フランジ部19とが、周方向に一体に構成されて環状に形成されてなる形態であっても本発明の範囲内とすることができる。この場合、ローラ(ベアリング)40の軸方向移動を許容しつつ外筐の位置決めが図り得る構成として、例えば、薄肉部12領域に位置するフランジ部17(第二フランジ部19)を、厚肉部13領域に位置するフランジ部17(第一フランジ部18)よりも径方向で外方寄りにセットバックさせて位置する構成を採用するのが好ましい。すなわち、周方向に一体に構成されたフランジ部17のうち、第二フランジ部19のサイド部21に相当する部位を残し、ローラ40の軸方向移動を阻害しない位置まで第二フランジ部19のセンター部20に相当する部位を径方向外方に一体で移動させることでローラ(ベアリング)40の過剰な軸方向移動を規制しつつ外筐の位置決めが図り得る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、本実施形態のトリポットジョイント以外の等速ジョイント、例えば 固定式の等速ジョイントにも利用可能である。すなわち、等速ジョイントの外筐の外周面に形成される軸方向溝は3つに限定されず、またその形状も限定されないことはもちろんである。さらに、本発明は、自動車のドライブシャフトの等速ジョイントに限定されず、例えば、ステアリング・ロッドの等速ジョイントなどにも摘要可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 等速ジョイント
2 外筐
30 軸部
40 ローラ(ベアリング)
7 第2の端部
9 ベローズ部
10 第1の端部
10a 立上り部
14 環状凹部
14a 下端部
16 突条部
17 フランジ部
18 第一フランジ部
19 第二フランジ部