(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】高組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する形質転換微生物およびそれによるPHAの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230428BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20230428BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/62
C12N15/52 Z
(21)【出願番号】P 2019566494
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001181
(87)【国際公開番号】W WO2019142845
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018005998
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115619(WO,A1)
【文献】特開2008-029218(JP,A)
【文献】国際公開第2009/145164(WO,A1)
【文献】特開2008-086238(JP,A)
【文献】LINDENKAMP, N., et al.,"Impact of Multiple β-Ketothiolase Deletion Mutations in Ralstonia eutropha H16 on the Composition of 3-Mercaptopropionic Acid-Containing Copolymers.",APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2010年,Vol. 76, No. 16,p. 5373-5382,TABLE 3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプリアビダス属に属する細菌に由来する形質転換微生物であって、
3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)モノマー単位を含む共重合ポリヒドロキシアルカノエート(共重合PHA)を合成可能であるPHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含
み、
炭素数6のβ-ケトアシル-CoAであるβ-ケトヘキサノイル-CoAに対するチオリシス活性を有する少なくとも1種のβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子を発現抑制し、該酵素活性を消失または低下させたこと
、およびphaA遺伝子が破壊されていないことを特徴と
し、
前記β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子が、
カプリアビダス・ネカトールH16株由来のbktB遺伝子、または
配列番号7に示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、カプリアビダス属細菌由来のそのbktB遺伝子オーソログ
を含む、前記形質転換微生物。
【請求項2】
前記カプリアビダス・ネカトールH16株由来のbktB遺伝子が、配列番号7に示される塩基配列を含む、請求項1に記載の形質転換微生物。
【請求項3】
前記β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子が、
カプリアビダス・ネカトールH16株由来のA1528遺伝子、または
配列番号8に示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、カプリアビダス属細菌由来のそのA1528遺伝子オーソログ
をさらに含む、請求項1
または2に記載の形質転換微生物。
【請求項4】
前記カプリアビダス・ネカトールH16株由来のA1528遺伝子が、配列番号8に示される塩基配列を含む、請求項3に記載の形質転換微生物。
【請求項5】
さらに、R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の発現が強化されている、請求項1
~4のいずれか1項に記載の形質転換微生物。
【請求項6】
さらに、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子の発現が強化されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の形質転換微生物。
【請求項7】
前記カプリアビダス属に属する細菌が、カプリアビダス・ネカトールである、請求項
1~6
のいずれか1項に記載の形質転換微生物。
【請求項8】
前記カプリアビダス・ネカトールが、カプリアビダス・ネカトールH16株である、請求項7に記載の形質転換微生物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の形質転換微生物を、油脂または脂肪酸を含有する炭素源を用いて培養する工程および3HHモノマー単位を含む共重合PHAを回収する工程を含むことを特徴とする、3HHモノマー単位を含む共重合PHAの製造方法。
【請求項10】
前記共重合PHAが、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシヘキサン酸)(すなわち、P(3HB-co-3HH))である、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂または脂肪酸を原料として高組成比率の3-ヒドロキシヘキサン酸(以下、「3HH」と記すこともある。)モノマー単位を含む共重合ポリヒドロキシアルカノエート(以下、「共重合PHA」もしくは単に「PHA」と記すこともある。)を生産する形質転換微生物、および、当該形質転換微生物による共重合PHAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、広範な微生物によって生成されるポリエステル型有機ポリマーである。PHAは生分解性を有する熱可塑性高分子であり、再生可能資源を原料として産生することができる。これらのことから、PHAを環境調和型素材または生体適合型素材として工業的に生産し、多様な産業へ利用する試みが行われている。
【0003】
現在までに、数多くの微生物がエネルギー貯蔵物質としてPHAを菌体内に蓄積することが知られている。PHAの代表例としては、3-ヒドロキシ酪酸(以下、「3HB」と記すこともある。)のホモポリマーであるポリ-3-ヒドロキシ酪酸(以下、「P(3HB)」と記すこともある。)が挙げられる。P(3HB)は熱可塑性高分子であり、自然環境中で生物的に分解されることから、環境に優しいプラスチックとして注目されている。しかし、P(3HB)は結晶性が高いために硬くて脆い性質を持っており、実用的には応用範囲が限られている。応用範囲を広げるためには、P(3HB)に柔軟性を付与することが必要であった。
【0004】
そこで、3HBと3-ヒドロキシ吉草酸(以下、「3HV」と記す。)とからなる共重合PHA(以下、「P(3HB-co-3HV)」と記す。)とその製造方法が開発された(例えば、特許文献1および特許文献2)。P(3HB-co-3HV)は、P(3HB)に比べると柔軟性に富むため、幅広い用途に応用できると考えられた。しかしながら、実際にはP(3HB-co-3HV)中の3HVモル分率を増加させてもそれに伴う物性の変化が乏しく、特にフィルムやシート、軟質系包装容器等へ加工するために要求される程には柔軟性が向上しないため、シャンプーボトルや使い捨て剃刀の取手等、硬質成型体の限られた分野にしか利用されていない。
【0005】
さらにPHAの柔軟性を高めるために、3HBと3HHからなる共重合PHA(以下、「P(3HB-co-3HH)」と記すこともある。)およびその製造方法について研究が行われている(特許文献3および特許文献4)。これらの報告においてP(3HB-co-3HH)は、土壌より単離されたアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)の野生株を用い、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸を炭素源として発酵生産されている。
【0006】
P(3HB-co-3HH)の物性に関する研究も行われている(非特許文献1)。この報告では、炭素数が12個以上の脂肪酸を唯一の炭素源としてA.caviaeを培養して、様々な3HH組成比を有するP(3HB-co-3HH)を発酵生産している。P(3HB-co-3HH)は3HH組成比の増加にしたがって、P(3HB)の様な硬くて脆い性質から次第に柔軟な性質を示すようになり、3HH組成比がより高くなるとP(3HB-co-3HV)を上回る柔軟性を示すことが明らかにされた。すなわち、P(3HB-co-3HH)は3HH組成比を変えることで、硬質ポリマーから軟質ポリマーまで応用可能な幅広い物性を持たせることができるため、幅広い分野への応用が期待できる。
【0007】
また、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)を宿主とし、プラスミドpJRD215(ATCC37533)にポリエステル合成酵素遺伝子やR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子等を導入したpJRDEE32やpJRDEE32d13等のPHA合成酵素発現プラスミドによって形質転換された微生物のPHA生産性が調べられている(特許文献5および非特許文献2)。当該菌株の培養後の菌体量はもともと4g/Lと低かったが、植物油脂を炭素源とした同菌株の培養条件の改善により菌体量は45g/L、ポリマー含量は62.5%までポリマー生産性が向上し、また、3HH組成比は8.1mol%まで向上することが分かった。このように、培養条件によってP(3HB-co-3HH)の3HH組成比やポリマー生産性を改善する試みがなされている(特許文献6)。
【0008】
R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を強化することで、3HH組成比を向上させた報告もなされている(特許文献7、特許文献8および非特許文献3)。これらの報告では、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素を有するカプリアビダス・ネカトールに対して、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を導入することにより、または、宿主染色体上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現量を増加させることにより、植物油脂を原料として生産されるP(3HB-co-3HH)の3HH組成比率を最大14mol%程度にまで向上させている。
【0009】
さらに、β-ケトチオラーゼをコードするbktB遺伝子の発現を強化したC.necator菌株によって、炭素源として植物油と酪酸を用いて、3HH組成比率が13mol%にまで向上したP(3HB-co-3HH)を生産した例も報告されている(非特許文献4を参照)。bktB遺伝子によってコードされるβ-ケトチオラーゼは、炭素数4であるブチリルCoAと炭素数2であるアセチルCoAを縮合して、3HHモノマーの前駆体である炭素数6のβ-ケトヘキサノイルCoAを生成する活性を持つことが知られており、この縮合活性に着目して、β-ケトチオラーゼ遺伝子の強化によってP(3HB-co-3HH)の3HH組成比率を向上させる試みは、他にも報告されている(非特許文献5および非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭57-150393号公報
【文献】特開昭59-220192号公報
【文献】特開平5-93049号公報
【文献】特開平7-265065号公報
【文献】特開平10-108682号公報
【文献】特開2001-340078号公報
【文献】PCT国際公開第2011/105379号
【文献】PCT国際公開第2015/115619号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Y.Doi,S.Kitamura,H.Abe,Macromolecules,28,pp.4822-4823(1995)
【文献】T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol,179,15,pp.4821-4830(1997)
【文献】H.Arikawa,K.Matsumoto,Microb.Cell.Fact.,15,pp.184 (2016)
【文献】S.Sato et al.,J. Biosci. Bioeng.,120,pp.246-251(2015)
【文献】T.Fukui,H.Abe,Y.Doi,Biomacromolecules,3,pp.618-624(2002)
【文献】Q.Wang et al.,Appl. Microbiol. Biotechnol.,99,pp.2593-2602(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、3HHモノマー単位をより高い組成比率で含む共重合PHAを生産する形質転換微生物、および、油脂または脂肪酸(好ましくは、植物由来の油脂または脂肪酸)を原料とする当該形質転換微生物を用いた共重合PHAの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、炭素数6のβ-ケトアシルCoA(すなわち、β-ケトヘキサノイルCoA)に対するチオリシス活性を有する少なくとも1種、または少なくとも2種、のβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子を発現抑制し、当該酵素活性を消失または低下させることによって、3HHモノマー単位をより高い組成比率で含む共重合PHAの発酵生産が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含む形質転換微生物であって、炭素数6のβ-ケトアシル-CoAであるβ-ケトヘキサノイル-CoAに対するチオリシス活性を有する少なくとも1種、または少なくとも2種、のβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子を発現抑制し、該酵素活性を消失または低下させたことを特徴とする、形質転換微生物に関する。
【0015】
本発明の実施形態により、本発明の形質転換微生物ではさらに、R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の発現が強化されている。
【0016】
本発明の実施形態により、本発明の形質転換微生物ではさらに、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子の発現が強化されている。
【0017】
本明細書における遺伝子の「発現抑制」とは、上記β-ケトチオラーゼ酵素の活性を消失または低下させることを意味し、発現抑制には当該酵素をコードする遺伝子の機能を除去することを含む。発現抑制のための方法は特に限定されないが、例えば、上記β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子の全体的若しくは部分的な破壊(例えば、ゲノム編集技術(例えば、CRISPR/Cas(例えば、Cas9)システム、TALEN、等)を利用した遺伝子のノックアウト、相同組換え技術を利用した遺伝子破壊、トランスポゾンを利用した遺伝子破壊、等)、当該遺伝子の転写や翻訳の効率の低下、当該遺伝子の転写に関わるプロモーター領域の改変や翻訳に関わるリボソーム結合配列の改変、mRNAを不安定化させるような転写領域の塩基配列の改変、RNA干渉によるmRNAの分解もしくは切断、当該酵素の基質特異性の変化、などの方法が挙げられる。また、当該酵素の活性を阻害する薬剤やタンパク質などを用いることもできる。
【0018】
本明細書における遺伝子の「破壊」とは、特に断らない限り、β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子の塩基配列の除去(もしくは欠損)や切断、当該塩基配列の欠失、置換、付加、挿入などの変異により、当該遺伝子によってコードされる酵素タンパク質自体が破壊された状態を指す。
【0019】
本明細書における上記酵素タンパク質の活性の「低下」とは、共重合PHAの3HHモノマー単位の組成比率が、酵素活性が低下されていない対照と比べてより高くなるような活性低下をいう。あるいは、上記酵素タンパク質の活性は消失することが好ましいが、無傷のタンパク質の活性(100%)に対する相対活性として非限定的に例えば20%以下、10%以下、5%以下、2%以下または1%以下の弱い活性が残存してもよい。
【0020】
本明細書における遺伝子発現の「強化」または「増強」とは、当該遺伝子の発現量が増加する、もしくは高まることをいう。
【0021】
本発明の実施形態により、上記微生物は、細菌(バクテリアともいう。)であることが好ましく、カプリアビダス属に属する細菌であることがより好ましく、カプリアビダス・ネカトール(例えば、カプリアビダス・ネカトールH16株)であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の実施形態により、上記β-ケトチオラーゼをコードする遺伝子が、カプリアビダス・ネカトールH16株由来のbktB遺伝子またはそのホモログ、およびカプリアビダス・ネカトールH16株由来のA1528遺伝子(遺伝子番号「H16_A1528」)またはそのホモログからなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である。
【0023】
本明細書で使用される「ホモログ」は、オーソログおよびパラログのいずれも包含する意味であるが、同種のもしくは異種の微生物がもつβ-ケトチオラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子群である。オーソログおよびパラログは、学術的に一般的に使用される意味を有し、オーソログは、種分化の際に分岐したホモログ(相同体)であり、異なる微生物に存在する相同な機能を持った遺伝子群を指す。一方、パラログは、遺伝子重複によって生じたホモログである。
【0024】
本発明の実施形態により、上記β-ケトチオラーゼをコードする遺伝子が、カプリアビダス・ネカトールH16株由来のbktB遺伝子もしくはカプリアビダス属細菌(例えばカプリアビダス・ネカトール)由来のそのbktB遺伝子ホモログ、カプリアビダス・ネカトールH16株由来のA1528遺伝子もしくはカプリアビダス属細菌(例えばカプリアビダス・ネカトール)由来のそのA1528遺伝子ホモログ、またはその両方である。
【0025】
本発明の実施形態により、上記bktB遺伝子が配列番号7に示される塩基配列もしくは該塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、ならびに、上記A1528遺伝子が配列番号8に示される塩基配列もしくは該塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。
【0026】
本発明はさらに、上記形質転換微生物を、油脂または脂肪酸(好ましくは、植物由来の油脂または脂肪酸)を含有する炭素源を用いて培養する工程および3HHモノマー単位を含む共重合PHAを回収する工程を含む、3HHモノマー単位を含む共重合PHAの製造方法に関する。当該共重合PHAは、P(3HB-co-3HH)(別称、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシヘキサン酸))であることが好ましい。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-005998号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、より高い組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する形質転換微生物を提供することができる。また、当該形質転換微生物を培養することによって、より高い組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを発酵生産することが可能となる。そのような共重合PHAは、向上した柔軟性を有するという利点をもつ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
1.3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する形質転換微生物
本発明の一態様によれば、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含む形質転換微生物であって、炭素数6のβ-ケトアシル-CoA(すなわち、β-ケトヘキサノイル-CoA)に対するチオリシス活性を有する少なくとも1種、または少なくとも2種、のβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子を発現抑制し、当該酵素活性を消失または低下させることを特徴とする形質転換微生物を提供する。当該形質転換微生物は、上記酵素活性が消失または低下されていない対照微生物と比べて高い組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産することができる。
【0029】
本明細書において、3HHモノマー単位に関して「高(い)組成比率」とは、β-ケトヘキサノイル-CoAに対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼ酵素が無傷(すなわち、ネイティブもしくは天然の状態)である対照微生物、あるいは、当該β一ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子が発現抑制されていない対照微生物と比べて、生産される共重合PHAの3HHモノマー単位の組成比率が高いことを意味する。
【0030】
本明細書において「β-ケトチオラーゼ酵素」とは、脂肪酸のβ酸化において、β-ケトアシル-CoAが補酵素Aの存在下でチオリシス(チオール開裂)を起こして2炭素分短くなった脂肪酸アシル-CoAとアセチル-CoAを生成する反応を触媒する酵素である。本発明では、β-ケトチオラーゼ酵素の活性を消失または低下させることによって、β-ケトヘキサノイル-CoAの分解を抑制し、生産される共重合PHAの3HHモノマー単位の組成比率を高めることを可能にする。
【0031】
本明細書において「PHA合成酵素」とは、ポリヒドロキシアルカン酸を生合成する酵素であり、(R)-3-ヒドロキシヘキサノイル-CoAを含む2種類以上の(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAを重合することによって3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生成することができる。
【0032】
本明細書において「R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質」とは、脂肪酸β酸化系の中間体であるエノイル-CoAからPHAモノマーの供給源である(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAに変換する酵素活性を有するタンパク質である。
【0033】
本発明の形質転換微生物の特徴は、次のとおりである。
(1)形質転換微生物が、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含む。
(2)好ましくは、R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の発現が強化されている。そのような強化によって3HHモノマー単位を含む共重合PHAの3HHモノマー単位の組成比率が、発現強化されていない場合と比べて高くなるが、本発明では、このような性質に下記(4)の性質を追加するとき、意外にも当該組成比率をさらに高くすることができるという特徴が付与される。
(3)好ましくは、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子の発現が強化されている。
(4)炭素数6のβ-ケトアシル-CoA(すなわち、β-ケトヘキサノイル-CoA)に対するチオリシス活性を有する少なくとも1種、または少なくとも2種、のβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子を発現抑制して当該酵素活性を消失または低下させることを特徴とする、高組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する能力を有する。ここで上記酵素活性の「低下」とは、上記のとおり、共重合PHAの3HHモノマー単位の組成比率が、酵素活性が低下されていない対照と比べてより高くなるような活性低下をいう。
(5)上記(1)~(4)の性質を含むことによって、本発明の形質転換微生物は、高組成比率の3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する能力をもつことができる。
【0034】
上記遺伝子の発現抑制を行う元株(「親株」ともいう。)となる微生物は、上記のとおり、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含む微生物である限り特に限定されない。このような微生物としては、上記PHA合成酵素遺伝子およびR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子を本来的に有する野生株だけではなく、そのような野生株を人工的に突然変異処理して得られる変異株や、遺伝子工学的手法により外来のPHA合成酵素遺伝子および/または外来のR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子が導入された組み換え微生物株であってもよい。
【0035】
本発明で使用可能である微生物として、具体的には、カビ、酵母、細菌、放線菌、藍藻、古細菌などが例示され、好ましくは、細菌(バクテリア)である。当該細菌としては、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、アエロモナス(Aeromonas)属、エシェリキア(Escherichia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等に属する細菌が好ましい例として挙げられる。安全性および生産性の観点から、より好ましくはラルストニア属、カプリアビダス属、アエロモナス属、ワウテルシア属に属する細菌であり、さらに好ましくはカプリアビダス属またはアエロモナス属に属する細菌であり、さらにより好ましくはカプリアビダス属に属する細菌であり、特に好ましくはカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である。
【0036】
本発明の形質転換微生物では、上記例示の微生物に対し、あるいは上記例示の微生物間で、上記(1)~(5)の性質をもつように上記標的遺伝子群(すなわち、PHA合成酵素遺伝子、R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子、およびβ-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子)を改変することができる。当該改変については、以下においてさらに説明する。
【0037】
本明細書において、PHA合成酵素遺伝子を有する微生物が3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるとは、あらゆる培養条件で3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であることを意味するものではなく、特定の培養条件で3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成できるものであれば足りる。例えば、後述する比較例1に記載の菌株(KNK005dZ)は、フルクトースを単一炭素源とする培養条件では、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成しないが、炭素源として油脂もしくは脂肪酸を含む培養条件では、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成できるので、本発明では、上記微生物は「3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子を有する微生物」に該当する。
【0038】
3HHモノマー単位を含む共重合PHAを合成可能であるPHA合成酵素遺伝子を有する微生物が、遺伝子工学的手法により外来のPHA合成酵素遺伝子が導入された組み換え微生物株である場合、上記外来のPHA合成酵素遺伝子としては、3HHを取り込んで、3HHモノマー単位を含む共重合PHAを生産する機能を有する遺伝子である限り特に限定されない。そのようなPHA合成酵素遺伝子としては、例えば、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有する酵素をコードする、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のPHA合成酵素遺伝子、または、該アミノ酸配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、3HHモノマー単位含有共重合PHA合成活性を有するポリペプチドをコードするPHA合成酵素遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、3HHモノマー単位を含む共重合PHAとしてP(3HB-co-3HH)を合成可能であるPHA合成酵素遺伝子が好ましく、なかでも、例えば配列番号2に記載するアミノ酸配列を含むPHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子がより好ましい。
【0039】
また、上記微生物が、遺伝子工学的手法により外来のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子が導入された組み換え微生物株である場合、上記外来のR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子として、例えば、配列番号3に記載するアミノ酸配列を有する酵素をコードするアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子、配列番号4および配列番号5に記載するアミノ酸配列を有する酵素をコードするカプリアビダス・ネカトール由来のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子、配列番号6に記載するアミノ酸配列を有する酵素をコードするヤロウィア・リポリティカ由来のMultifunctional enzyme type 2(MFE2)遺伝子、または、配列番号3~6に記載する各アミノ酸配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
R体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の発現を強化するために、例えばPCT国際公開第2015/115619号に記載されるように、当該遺伝子の発現を増強するための発現調節配列(プロモーター配列および/またはSD配列)の改変を行うことができる。
【0041】
本発明において、元株となる微生物としては、カプリアビダス・ネカトールにアエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素遺伝子が導入されてなる組み換え原核微生物株が最も好適である。
【0042】
次に、上記微生物に対し、炭素数6のβ-ケトアシル-CoA(すなわち、β-ケトヘキサノイル-CoA)に対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼをコードする遺伝子の発現抑制について説明する。
【0043】
上記発現抑制される対象遺伝子は、炭素数6のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼをコードする遺伝子であれば良く、当該β-ケトチオラーゼは、炭素数6でないβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性を同時に有していても良い。例えば、炭素数4~6のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性、または、炭素数4~18のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性、あるいは、炭素数6~20のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性を有していても良く、また、これらに限定されない。
【0044】
当該遺伝子の発現抑制を、上記PHA合成酵素遺伝子とR体特異的エノイル-CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子とを含む微生物に対して行うことにより得られる形質転換微生物は、3HHモノマー単位をより高い組成比率で含む共重合PHAを生産できるようになる。
【0045】
通常、油脂もしくは脂肪酸(好ましくは、植物由来の油脂もしくは脂肪酸)は微生物内でβ酸化によって代謝され、炭素数2のアシル-CoA(すなわち、アセチル-CoA)にまで分解される。R体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子を有する微生物においては、この間に、β酸化の中間代謝物である炭素数6の2-エノイル-CoAの一部が、3HHモノマー単位の前駆体である炭素数6の(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAに変換される。本発明により上記遺伝子の発現抑制を行うことで、油脂もしくは脂肪酸を炭素源とする場合において、β酸化における炭素数6の中間代謝物の分解が抑制され、その結果、炭素数6の(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAへの変換量が増大し、最終合成物の共重合PHAにおける3HHモノマー単位の組成比率が高まるものと推測される。
【0046】
一方で、3HHモノマー単位の組成比率の向上に対して、共重合PHAの生産量が大幅に低下するようなβ-ケトアシル-CoA遺伝子の破壊は産業上好ましくない。よって、β-ケトアシル-CoA遺伝子の破壊によるPHA生産量低下率と3HH組成比率上昇率を考えたとき、これらの積は大きい方が好ましい。例えば、PHA生産量が1/2倍に低下し、3HH組成比率が1.4倍に上昇した場合、積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は0.7となる。本発明において、実施例に示した培養条件におけるPHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率の値は、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.85以上、さらにより好ましくは0.95以上、最も好ましくは1以上であるがこれに限定されない。なお、上記PHA生産量低下率とは、β-ケトヘキサノイル-CoAに対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼ酵素が無傷である形質転換微生物、あるいは、当該β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子が発現抑制されていない形質転換微生物と比較した共重合PHA生産量の割合である。
【0047】
また、上記3HH組成比率上昇率とは、β-ケトヘキサノイル-CoAに対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼ酵素が無傷である形質転換微生物、あるいは、当該β-ケトチオラーゼ酵素をコードする遺伝子が発現抑制されていない形質転換微生物と比較した共重合PHAにおける3HH組成比率の割合であり、1を超える値である。1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、さらにより好ましくは1.8以上であるが、1を超える値であればこれに限定されない。
【0048】
β-ケトチオラーゼ活性を特異的に消失または低下させるには、例えば、当該酵素遺伝子を完全に欠失させるか、あるいは、当該酵素遺伝子の配列内部に薬剤耐性遺伝子などの全く別の遺伝子を挿入するか、あるいは、当該酵素遺伝子の配列の一部(好ましくは、酵素活性に関わる領域)を欠失するかまたは、全く異なるDNA配列により置換、付加もしくは挿入することができるが、当該活性を消失または低下させることができる限り、可能なあらゆる発現抑制が可能である。発現抑制のうち、例えば遺伝子破壊操作は、例えば、破壊用遺伝子もしくは破壊用DNAを含むベクターを用いる相同組換え技術、トランスポゾンを利用する技術などを含む(下記参照)。あるいは、別の破壊方法として、標的遺伝子を破壊するためのCRISPR/Cas(例えば、Cas9)システムやTALENによるゲノム編集技術(Y. Wang et al., ACS Synth Biol. 2016, 5(7):721-732;Bogdanove and Voytas,Science,333:1843-1846,2011;Jinek,et al.,Science,337:816-821,2012;Shalem,et al.,Science,343:84-87,2014;Wang,et al.,Science,343:80-84,2014)などの公知の技術によって行うことができる。例えばCRISPR/Cas9システムでは、ガイドRNA(gRNA)は破壊すべきβ-ケトチオラーゼ遺伝子の塩基配列の一部に結合しうる配列を有しており、Cas9を標的に運ぶ役割をもつ。また、該当遺伝子周辺の塩基配列の欠失、置換、付加、挿入などの変異により、遺伝子の転写・翻訳効率、mRNAの安定性を低下させるなどして、当該酵素活性を消失または低下させることもできる。
【0049】
上記発現抑制される遺伝子としては、炭素数6のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性を有するβ-ケトチオラーゼをコードする遺伝子である限り特に限定されないが、例えば、カプリアビダス・ネカトールH16株由来の配列番号7に示される塩基配列を含むbktB遺伝子、あるいは当該塩基配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有するbktB遺伝子ホモログ、が挙げられる。また、その他の例として、カプリアビダス・ネカトールH16株由来の配列番号8に示される塩基配列を有する遺伝子座H16_A1528の遺伝子(以下、「A1528遺伝子」と記載することもある)、あるいは当該塩基配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有するA1528遺伝子ホモログ、が挙げられる。一方、後述の比較例で発現抑制(例えば、破壊)される遺伝子は、炭素数6のβ-ケトアシル-CoAに対するチオリシス活性を持たないβ-ケトチオラーゼをコードする遺伝子である配列番号9に記載の塩基配列を有するphaA遺伝子、もしくは当該塩基配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有するphaA遺伝子ホモログ、またその他のβ-ケトチオラーゼ遺伝子である配列番号10に記載の塩基配列を有する遺伝子座H16_A0462の遺伝子(以下、「A0462遺伝子」と記載することもある)、もしくは当該塩基配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有するA0462遺伝子ホモログである(表1参照)。
【0050】
さらにまた、上記非特許文献3において、3HHモノマーを取り込み可能なPHA合成酵素遺伝子を導入したカプリアビダス・ネカトール株に対し、R体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子を導入する、あるいは該菌株が元来保持するR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現を強化することによって、油脂又は脂肪酸(好ましくは、植物由来の油脂又は脂肪酸)を炭素源として、より高い3HH組成比のP(3HB-co-3HH)を生産できることが報告されている。上記のとおり、本発明の形質転換微生物においても、上記遺伝子の発現抑制に加えて、R体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の追加導入、あるいは既存の該遺伝子の発現強化が行われていても良い。R体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の追加導入および/または既存の該遺伝子の発現強化により、上述した炭素数6の(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAの合成経路が強化または効率化され、生産される共重合PHAにおける3HHモノマー単位の組成比率がより向上することになる。
【0051】
さらにまた、上記遺伝子の発現抑制に加えて、3HHモノマーを取り込み可能なPHA合成酵素遺伝子の追加導入、あるいは既存の該遺伝子の発現強化が行われていても良い。3HHモノマーを取り込み可能なPHA合成酵素遺伝子の追加導入および/または既存の該遺伝子の発現強化により、変換量の増大した(R)-3-ヒドロキシアシル-CoAのP(3HB-co-3HH)への取り込みが強化または効率化され、生産される共重合PHAにおける3HHモノマー単位の組成比率がより高くなる。
【0052】
本発明の形質転換微生物において、外来の遺伝子が導入される場合、導入遺伝子は、宿主となる微生物が保有する染色体上、あるいはプラスミド、メガプラスミドなどのDNA上に存在しても良く、導入遺伝子の保持という観点から、微生物が保有する染色体あるいはメガプラスミド上に存在するのが好ましく、微生物が保有する染色体上に存在するのがより好ましい。また、宿主となる微生物が元来保持している遺伝子の発現量を増加させる場合には、該遺伝子の上流の塩基配列を置換、欠失または付加すること等により、遺伝子の発現量を増加してもよい。
【0053】
微生物が保有するDNA上に任意のDNAを部位特異的に置換または挿入する方法、あるいは微生物が保有するDNAの任意の部位を欠失させる方法は当業者に周知であり、本発明の形質転換微生物を製造する際に使用できる。特に限定されないが、代表的な方法としては、トランスポゾンと相同組換えの機構を利用した方法(Ohman等,J.Bacteriol.,vol.162:p.1068(1985))、相同組換えの機構によって起こる部位特異的な組み込みと第二段階の相同組換えによる脱落を原理とした方法(Noti等,Methods Enzymol.,vol.154,p.197(1987))、Bacillus subtilis由来のsacB遺伝子を共存させて、第二段階の相同組換えによって遺伝子が脱落した微生物株をシュークロース添加培地耐性株として容易に単離する方法(Schweizer,Mol.Microbiol.,vol.6,p.1195(1992);Lenz等,J.Bacteriol.,vol.176,p.4385(1994))等が挙げられる。また、細胞へのベクターの導入方法としても特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
【0054】
なお、遺伝子クローニングや遺伝子組み換え技術については、Sambrook,J. et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989または2001)などに記載される技術を利用することができる。
【0055】
上記の各種遺伝子を発現させるためのプロモーターは特に限定されない。カプリアビダス・ネカトールのphaC1遺伝子のプロモーター、phaP1遺伝子のプロモーター、大腸菌に由来するlacプロモーター、lacUV5プロモーター、trcプロモーター、ticプロモーター、tacプロモーター、あるいは人工的に作製された配列番号11で示される大腸菌由来の改変塩基配列を有するlacN17プロモーター等が使用可能である。
【0056】
2.共重合PHAの製造方法
本発明の形質転換微生物を培養することで、共重合PHAを生産させ、得られた共重合PHAを回収することを含む方法によって共重合PHAを製造することができる。
【0057】
本発明による共重合PHAの生産においては、炭素源、炭素源以外の栄養源である窒素源、無機塩類、そのほかの有機栄養源を含む培地において、上記形質転換微生物を培養することが好ましい。
【0058】
炭素源としては、本発明の形質転換微生物が資化可能な、植物油脂あるいは脂肪酸を含む炭素源であればどんな炭素源でも使用可能であるが、好ましくは、パーム油、パーム核油、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類;ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体等が挙げられる。
【0059】
窒素源としては、例えば、アンモニア;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。そのほかの有機栄養源としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸;ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0060】
本発明の形質転換微生物を培養する際の、培養温度、培養時間、培養時pH、培地等の条件は、宿主の微生物、例えばラルストニア属、カプリアビダス属、ワウテルシア属、アエロモナス属、エシェリキア属、アルカリゲネス属、シュードモナス属等の培養で通常使用されるような条件でよい。
【0061】
本発明において生産される共重合PHAの種類としては、3HHモノマー単位を含む共重合PHAであれば特に限定されないが、炭素数4~16の2-ヒドロキシアルカン酸、3-ヒドロキシアルカン酸(3HHを除く)および4-ヒドロキシアルカン酸から選択される1種以上のモノマーと3HHとを重合して得られる共重合PHAが好ましく、より好ましくは、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との共重合体であるP(3HB-co-3HH)である。なお、生産される共重合PHAの種類は、目的に応じて、使用する微生物の保有するあるいは別途導入されたPHA合成酵素遺伝子の種類や、その合成に関与する代謝系の遺伝子の種類、培養条件などによって適宜選択しうる。
【0062】
本発明において、形質転換微生物を培養した後、菌体からの共重合PHAの回収は、特に限定されないが、例えば次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水およびメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いて共重合PHAを抽出する。この共重合PHAを含んだ有機溶剤溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えて共重合PHAを沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させて共重合PHAを回収する。
【0063】
得られた共重合PHAの3HH等のモノマー組成(mol%)の分析は、例えば、(キャピラリー)ガスクロマトグラフィー法や核磁気共鳴法等により行うことができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989または2001))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0065】
以下の製造例、実施例、および比較例で使用されるKNK005ΔphaZ1,2,6株(以下、「KNK005dZ株」と記載することもある。)は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上にアエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素遺伝子(配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子)が導入され、染色体上のPHA分解酵素遺伝子であるphaZ1,2,6遺伝子が欠失した形質転換微生物である。この形質転換微生物は、PCT国際公開第2014/065253号に記載の方法に準じて作製することができる。また、KNK005 trc-phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株(以下、「KNK005dZ/trc-J4b株」と記載することもある。)は、KNK005ΔphaZ1,2,6株において、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化された形質転換微生物である。この形質転換微生物は、PCT国際公開第2015/115619号に記載の方法に準じて作製することができる。具体的には、当該遺伝子の調節配列であるプロモーター配列もしくはシャイン・ダルガルノ(SD)配列の一部を改変(欠失、置換、付加もしくは送入)するか、または、それらの配列を別の細菌由来のプロモーター配列もしくはSD配列と置換することによって、上記遺伝子の発現を強化することができる。遺伝子発現の強化方法はこれに限定されず、同様の遺伝子あるいは同様の活性を持つ酵素をコードする遺伝子をさらに導入することなどによっても可能である。
【0066】
(製造例1)KNK005dZ/dphaA株の作製
まず、遺伝子破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
合成オリゴDNAを用いたPCRにより、phaA構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号12)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaA構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+phaAUDを作製した。
【0067】
次に、遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+phaAUDを用いて、以下のようにして遺伝子破壊株KNK005dZ/dphaA株の作製を行った。
【0068】
遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+phaAUDで大腸菌S17-1株(ATCC47055)を形質転換し、それによって得た形質転換微生物を、KNK005dZ株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。
【0069】
得られた培養液を、250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、りん酸二水素アンモニウム1g/L、りん酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005dZ株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRおよびDNAシーケンサーによる解析により染色体上のphaA構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。この遺伝子破壊株をKNK005dZ/dphaA株と命名した。得られたKNK005dZ/dphaA株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、さらにphaA構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0070】
(製造例2)KNK005dZ/dbktB株の作製
まず、遺伝子破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
合成オリゴDNAを用いたPCRにより、bktB構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号13)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、bktB構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+bktBUDを作製した。
【0071】
次に、遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+bktBUDを用いて、KNK005dZ株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/dbktB株の作製を行った。
【0072】
得られたKNK005dZ/dbktB株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、さらにbktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0073】
(製造例3)KNK005dZ/dA1528株の作製
まず、遺伝子破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A1528構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号14)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A1528構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを作製した。
【0074】
次に、遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、KNK005dZ株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/dA1528株の作製を行った。
【0075】
得られたKNK005dZ/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0076】
(製造例4)KNK005dZ/dbktB/dA1528株の作製
製造例3で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、製造例2で作製したKNK005dZ/dbktB株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/dbktB/dA1528株の作製を行った。
【0077】
得られたKNK005dZ/dbktB/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、bktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0078】
(製造例5)KNK005dZ/trc-J4b/dphaA株の作製
製造例1で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+phaAUDを用いて、KNK005dZ/trc-J4b株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/dphaA株の作製を行った。
【0079】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/dphaA株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにphaA構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0080】
(製造例6)KNK005dZ/trc-J4b/dbktB株の作製
製造例2で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+bktBUDを用いて、KNK005dZ/trc-J4b株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/dbktB株の作製を行った。
【0081】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/dbktB株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにbktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0082】
(製造例7)KNK005dZ/trc-J4b/dA1528株の作製
製造例3で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、KNK005dZ/trc-J4b株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/dA1528株の作製を行った。
【0083】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0084】
(製造例8)KNK005dZ/trc-J4b/dbktB/dA1528株の作製
製造例3で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、製造例6で作製したKNK005dZ/trc-J4b/dbktB株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/dbktB/dA1528株の作製を行った。
【0085】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/dbktB/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、bktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0086】
(製造例9)KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株の作製
まず、遺伝子挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
合成オリゴDNAを用いたPCRにより、phaZ6構造遺伝子より上流および下流の塩基配列、配列番号11に記載の塩基配列を有するlacN17プロモーター、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号15)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、遺伝子挿入用プラスミドベクターpNS2X-sacB+lacN17‐NSDGを作製した。
【0087】
次に、遺伝子挿入用プラスミドベクターpNS2X-sacB+lacN17‐NSDGを用いて、KNK005dZ/trc-J4b株を親株として、上記の遺伝子破壊同様の方法で染色体DNAの改変を行い、遺伝子挿入株KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株の作製を行った。
【0088】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が2コピー導入され、さらに染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化された株である。
【0089】
(製造例10)KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA0462株の作製
まず、遺伝子破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A0462構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号16)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A0462構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0462UDを作製した。
【0090】
次に、遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0462UDを用いて、製造例9で作製したKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA0462株の作製を行った。
【0091】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA0462株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が2コピー導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにA0462構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0092】
(製造例11)KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株の作製
製造例2で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+bktBUDを用いて、製造例9で作製したKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株を親株として、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株の作製を行った。
【0093】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が2コピー導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにbktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0094】
(製造例12)KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA1528株の作製
製造例3で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、製造例9で作製したKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA1528株の作製を行った。
【0095】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が2コピー導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0096】
(製造例13)KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB/dA1528株の作製
製造例3で作製した遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1528UDを用いて、製造例11で作製したKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株を親株として、上記と同様の方法で、遺伝子破壊株KNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB/dA1528株の作製を行った。
【0097】
得られたKNK005dZ/trc-J4b/lacN17‐NSDG/dbktB/dA1528株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が2コピー導入され、染色体上のR体特異的エノイル‐CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が強化され、bktB構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにA1528構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した株である。
【0098】
(比較例1)KNK005dZ株によるPHA生産
種母培地の組成は1w/v% Meat-extract、1w/v% Bacto-Trypton、0.2w/v% Yeast-extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とした。
【0099】
PHA生産に使用した生産培地の組成は1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、0.13w/v% (NH4)2SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.1v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v%CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)とした。炭素源は、パーム核油を1.5w/v%となるように培地に添加した。
【0100】
KNK005dZ株のグリセロールストック(50μL)を種母培地(5mL)に接種して培養温度30℃で24時間振とう培養し、得られた培養液を種母とした。
【0101】
PHA生産培養は、50mLの生産培地を入れた坂口フラスコに前記種母を1.0v/v%接種し、培養温度30℃で振とう培養を行った。72時間培養後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0102】
PHA生産量および共重合組成比率は以下のように算出した。得られた乾燥菌体約20mgに1mlの硫酸-メタノール混液(15:85)と1mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでPHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに0.5mlの脱イオン水を加えてよく混合した後、水層と有機層が分離するまで放置した。その後、分取した有機層中のPHA分解物のモノマー単位組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC-17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND-1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度50~200℃まで8℃/分の速度で昇温し、さらに200~290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、得られたPHAの生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0103】
【0104】
本比較例で生産されたPHAは、3HHモノマー単位を3.0mol%含むP(3HB-co-3HH)であった。
【0105】
(比較例2)KNK005dZ/dphaA株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0106】
製造例1で作製したKNK005dZ/dphaA株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0107】
本比較例で生産されたPHAは、3HH組成比率が2.9mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、phaA遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比は向上せず、3HH組成比率上昇率は1以下であった。
【0108】
(実施例1)KNK005dZ/dbktB株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0109】
製造例2で作製したKNK005dZ/dbktB株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0110】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が6.5mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、1.97であった。
【0111】
(実施例2)KNK005dZ/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0112】
製造例3で作製したKNK005dZ/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0113】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が3.3mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、A1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、1.02であった。
【0114】
(実施例3)KNK005dZ/dbktB/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0115】
製造例4で作製したKNK005dZ/dbktB/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0116】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が14.3mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子およびA1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が大幅に向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、4.13であった。
【0117】
(比較例3)KNK005dZ/trc‐J4b株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0118】
KNK005dZ/trc‐J4b株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0119】
本比較例で生産されたPHAは、3HH組成比率が10.1mol%のP(3HB-co-3HH)であった。
【0120】
(比較例4)KNK005dZ/trc‐J4b/dphaA株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0121】
製造例5で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/dphaA株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0122】
本比較例で生産されたPHAは、3HH組成比率が10.1mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、phaA遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比は向上せず、3HH組成比率上昇率は1以下であった。
【0123】
(実施例4)KNK005dZ/trc‐J4b/dbktB株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0124】
製造例6で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/dbktB株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0125】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が14.3mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、1.43であった。
【0126】
(実施例5)KNK005dZ/trc‐J4b/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0127】
製造例7で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0128】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が10.8mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、A1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、1.01であった。
【0129】
(実施例6)KNK005dZ/trc‐J4b/dbktB/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0130】
製造例8で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/dbktB/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0131】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が23.0mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子およびA1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が大幅に向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、2.01であった。
【0132】
(比較例5)KNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0133】
製造例9で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0134】
本比較例で生産されたPHAは、3HH組成比率が12.9mol%のP(3HB-co-3HH)であった。
【0135】
(比較例6)KNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dA0462株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0136】
製造例10で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dA0462株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0137】
本比較例で生産されたPHAは、3HH組成比率が12.4mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、A0462遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比は向上せず、3HH組成比率上昇率は1以下であった。
【0138】
(実施例7)KNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0139】
製造例11で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dbktB株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0140】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が17.1mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、1.28であった。
【0141】
(実施例8)KNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0142】
製造例12で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0143】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が13.6mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、A1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、0.96であった。
【0144】
(実施例9)KNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dbktB/dA1528株によるPHA生産
種母培地およびPHA生産培地の組成、炭素源は比較例1に記載のものと同様とした。
【0145】
製造例13で作製したKNK005dZ/trc‐J4b/lacN17‐NSDG/dbktB/dA1528株を比較例1と同様の方法で培養し、PHA生産量および3HH組成比率を比較例1と同様の方法で算出した。得られたPHA生産量および3HH組成比率を表1に示した。
【0146】
本実施例で生産されたPHAは、3HH組成比率が29.5mol%のP(3HB-co-3HH)であった。すなわち、bktB遺伝子およびA1528遺伝子の破壊によって、生産された共重合PHAの3HH組成比が大幅に向上した。上述の積(PHA生産量低下率×3HH組成比率上昇率)は、0.95であった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明により、PHA生産量を大幅に低下させることなく、例えば14mol%以上または20mol%以上の高組成比率の3HHを含む共重合PHAを合成することが可能であり、このようなPHAは柔軟性の高いポリマーを必要とする用途に使用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0148】
配列番号11: 大腸菌由来の人工的に改変されたプロモーター
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】