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特許7270689CNF成形体の製造方法、CNF成形体及び象牙代替材料としてのCNF成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】CNF成形体の製造方法、CNF成形体及び象牙代替材料としてのCNF成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/02 20060101AFI20230428BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20230428BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20230428BHJP
   D21J 3/00 20060101ALI20230428BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C08J5/02 CEP
D04H1/425
D21H11/18
D21J3/00
C08J3/05
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021133306
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2023027933
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(72)【発明者】
【氏名】橋場 洋美
(72)【発明者】
【氏名】稲用 亨
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207945(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159417(WO,A1)
【文献】特開2014-156677(JP,A)
【文献】特開2019-035026(JP,A)
【文献】特開2016-094683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/02
D04H 1/425
D21H 11/18
D21J 3/00
C08J 3/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー(以下、CNFと記す)含有スラリーをCNF成形装置に入れ、
気体透過手段を用いてCNF含有スラリーに圧力を加えるとともに、
前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一の成形体を得る成形工程を含むCNF成形体の製造方法
【請求項2】
CNF含有スラリーをCNF成形装置に入れ、
気体透過手段を用いてCNF含有スラリーに圧力を加えるとともに、
前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一の成形体を得る成形工程と、
前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を加えるとともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一のCNF成形体を脱溶媒する脱溶媒工程を含むCNF成形体の製造方法
【請求項3】
請求項1に記載のCNF成形体の製造方法であって、
前記成形工程及び前記脱溶媒工程において、
さらに、前記CNF成形装置内の気体を吸引する吸引工程を一回以上行うことを含むCNF成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のCNF成形体の製造方法であって、
前記CNF含有スラリーを2回以上分割してCNF成形装置に入れる、CNF成形体の製造方法
【請求項5】
請求項1に記載のCNF成形体の製造方法であって、
得られたCNF成形体の密度は、1.41~1.61g/cmであるCNF成形体の製造方法
【請求項6】
請求項2に記載のCNF成形体の製造方法であって、
得られたCNF成形体の密度は、1.38~1.45g/cmであるCNF成形体の製造方法
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一に記載のCNF成形体の製造方法であって、
得られたCNF成形体は、切削、研磨、穿孔の加工のいずれか一以上の加工を行うことができるCNF成形体の製造方法
【請求項8】
請求項1~のいずれか一に記載のCNF成形体の製造方法によって得られるCNF成形体
【請求項9】
請求項8に記載のCNF成形体であって、
CNF成形体の厚みが3mm以上、30mm以下であり、CNF成形体の密度が1.38g/cm以上、1.61g/cm以下であるCNF成形体
【請求項10】
請求項8に記載のCNF成形体であって、
CNF成形体の厚みが3mm以上、30mm以下であり、CNF成形体の密度が1.38g/cm以上、1.61g/cm以下であって、切削、研磨、穿孔の加工のいずれか一以上の加工を行うことができるCNF成形体
【請求項11】
象牙、骨、銘木、建築用部材、機械部材、家具部材、茶道道具のいずれか一つ以上の代替材料として用いるための、請求項から請求項10のいずれか一に記載のCNF成形体
【請求項12】
音響用材料として用いるための、請求項から請求項10のいずれか一に記載のCNF成形体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCNF成形体及びCNF成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、天然で繊維形態として、植物、例えば、広葉樹や針葉樹などの木本植物、及び竹や葦などの草本植物、ホヤに代表される一部の動物、および酢酸菌に代表される一部の菌類等によって産生されることが知られている。このセルロース分子が繊維状に集合した構造を有するものをセルロースファイバーと呼ぶ。特に繊維幅が100nm以下でアスペクト比が100以上のセルロースファイバーは一般的にセルロースナノファイバー(以下、CNFということもある。)と呼ばれ、軽量、高強度、低熱膨張率等の優れた性質を有する。
【0003】
近年、このように優れた性質を有するCNFを材料としてCNF成形体を作成し、サステイナブル原料由来の高強度材料として、各種用途への活用を図ろうとする動きが活発となっている。
【0004】
象牙材は、材質が美しく加工も容易という特性があることから、印材や琴爪、駒、ピアノ鍵盤等の楽器部材に使用されていた。しかしながら、現在、動物保護の観点から象牙を取引することは、厳しく制限されている。そこで、象牙の代替材料の開発が行われている。
【0005】
特許文献1には、針状ヒドロキシアパタイトを含む複合材料成形体の製造方法が開示されている。また、特許文献2に、多目的等方性ヒドロキシアパタイト/ゼラチン複合材料の製造方法が開示されている。
【0006】
一方、CNFは、通常、水に分散しており、また、分散液中のCNF含量は、0.1~10%程度のものである。切削加工が可能となるようなCNF成形体を得るには、CNF分散液の量が必然的に多くなり、CNF水分散液から溶媒を除去するための時間が長くなる。
【0007】
そこで、本発明者等は、上記課題を解決する手段を特許第6864816号において提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】再表2018-159417
【文献】特表2020-528469
【文献】特許第6864816号
【非特許文献】
【0009】
【文献】“人の歯のエナメル質面およびその切削面ならびに象牙質切削面と歯科用合金の圧延板および精密鋳造板面との対面摩擦係数に関する実験的研究”、[online]、[令和3年8月6日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjps1957/8/1/8_1_44/_pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載の複合材料成形体及び複合材料は、これらを象牙の代替材料として用いるという観点からは、有益な材料である。
特許文献3に記載のCNF成形体は、切削加工が施された実施例が記載されており、切削加工が可能であるCNF成形体を開示した。
しかしながら、用途毎に適切な象牙の代替材料に対する需要は、依然として存在する。
【0011】
そこで、本発明は、切削、穿孔、研磨等のより多くの種類の加工が可能な体積を有し、且つ均質で割れが生じない高強度軽量CNF成形体、そのCNF成形体の製造方法及び象牙等の代替材料となりうるCNF成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、CNF含有スラリーをCNF成形装置に入れ、気体透過手段を用いてCNF含有スラリーに圧力を加えるとともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一の成形体を得る成形工程と、前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を加えるとともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、第一のCNF成形体を脱溶媒する脱溶媒工程を含むCNF成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のCNFの製造方法によれば、切削、穿孔、研磨等のより多くの種類の加工が可能な体積を有し、且つ均質で割れが生じない高強度軽量CNF成形体、そのCNF成形体の製造方法及び象牙等の代替材料となりうるCNF成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の一実施の形態のCNF成形装置の概念図の断面図である。
図2】実施例5におけるCNF成形体の断面図の写真である。
図3】実施例8におけるCNF成形体の断面図の写真である。
図4】実施例9におけるCNF成形体の断面図の写真である。
図5】実施例5で得られたCNF成形体を用いて作成した三味線の駒の写真である。
図6】実施例5で得られたCNF成形体を用いて作成した二胡駒の写真である。
図7】実施例13における琴の評価結果をレーザーチャートに示した図である。
図8】実施例13における二胡の評価結果をレーザーチャートに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、以下の実施形態は、発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0016】
(用語の定義)
本明細書における「CNF」との用語は、平均太さ3~200nmであり、平均長さ0.1μm以上のセルロース繊維のことをいい、平均幅3~4nmのいわゆるシングルセルロースナノファイバー、およびシングルセルロースナノファイバーが、いくつか集合し複数層となっている平均幅10~200nmのシングルセルロースナノファイバー集合体を包含する。また、セルロース繊維の長さ方向に枝分かれのないものだけではなく、枝分かれしているものも存在する。
本発明書における「気体透過手段」との用語は、溶媒が揮発して気体となったものを透過させるための手段だけではなく、この気体を吸収・吸着させる手段及び/又は溶媒が透過、通過若しくは溶媒を吸収・吸着させるための手段も広義に含むものとする。
本発明書における「第一の成形体」との用語は、本願発明における成形工程によって得られた成形体であって、該成形体中のCNF濃度が10~25%程度の成形体のことをいうものとする。
【0017】
本願発明に係るCNF成形体の製造方法は、(1)成形工程、及び、(2)脱溶媒工程と、を含むCNF成形体の製造方法である。
さらに、(3)前記CNF成形装置内の気体を吸引する吸引工程を含むことが好ましい。なお、本願発明に係る製造方法は、これらの工程以外の他の工程をさらに有していてもよい。以下、本願発明に係る製造方法について詳細に説明する。
【0018】
(CNF含有スラリー)
本願発明に用いるCNF含有スラリーとしては、CNF分散液であって、溶媒が水であるCNF水分散液、或いは、CNF分散液に金属塩、広葉樹、針葉樹又は竹を原料としたパルプ、又は、架橋剤を添加したものも、CNF含有スラリーとして用いることができる。さらに、水溶媒を有機溶媒に置換したものもCNF含有スラリーとして使用することもできる。さらに、熱硬化樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン系、メラミン・ホルマリン系、尿素・ホルマリン・ヒドロキシル基と脱水縮合するカルボン酸系等の公知の材料、湿潤紙力剤、乾燥紙力剤、耐水化剤やサイズ剤等を添加することができる。なお、CNF分散液については後述する。
【0019】
CNF含有スラリー中のCNF濃度は0.1%~18%範囲にするとよい。0.1%未満の場合は、緻密な均質な構造となるが製造時間の長時間化によりコスト増となる。15%~18%では製造時間は短くなるが、多少凹付きが生じやすい。さらに18%以上のCNF含量の場合は、部分的な水素結合が進むため、系内で均質な成形体を得ることができず、多数の層に別れてしまう。
【0020】
(CNF分散液)
本願発明に用いることのできるCNF分散液としては、特許第6867613号公報に記載の微細状繊維の製造方法や特許第6704551号公報に記載の天然高分子としてセルロースを用いたセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタル水溶液の調製方法や両公報に記載の他の原料等を由来成分とする微細状繊維の製造方法を参照することができる。
【0021】
これらCNF分散液の原料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また原料の多糖としてはα-セルロース含有率60%~99質量%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60質量%以上の純度であれば繊維径及び繊維長さが調整しやすく、α-セルロース含有率60質量%未満のものを用いた場合に比べ、熱安定性が高く、着色抑制効果が良好である。一方、99質量%以上のものを用いた場合、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0022】
CNFの結晶化度は結晶化度50以上が好ましい。結晶化度については、X線回折法等によって測定することができ、結晶化度50未満の場合は、セルロースの天然結晶が有する特性を十分に引き出せなくなるほか、腐敗等による保管時の経時劣化を引き起こす虞がある。
【0023】
特許第6704551号の0018段落に記載のACC法(水中対向衝突法)により、平均太さ3~200nmであり、平均長さ0.1μm以上であるCNFが得られる。平均太さと平均繊維長さの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を適宜選択し、CNFを観察・測定し、得られた写真から20本以上を選択し、これをそれぞれ平均化することにより求める。なお、蛍光増幅を利用する蛍光顕微鏡観察する方法を採用してもよい。
【0024】
(CNF成形装置)
図1は、本願発明の一実施の形態のCNF成形装置の概念図の断面図である。以下、CNF成形装置1について図1を用いて説明する。
CNF成形装置1は、上部に複数孔2を有する第一の円筒部3と、第一の円筒部3の直径よりも一回り大きい第二の円筒部4と、これらの上部に接続された蓋部5とを備える本体部6と、本体部6を嵌入可能とし、支持軸部7を備える台座8と、を有する。
第一の円筒部3の内側には、一対の気体透過手段の上板9と底板10とを上下方向に嵌入することによって、成形キャビティ11が形成される。
上板9は、軸部12を介し、蓋部5を貫通して、その軸部12に各種プレス機(図示せず)が装着される。
蓋部5は、本体部6に気体・蒸気を供給する気体供給口13を備える。
下板10は、支持軸部7に固定される。
台座8は、気体供給口14と気体吸引口15と、を備える。
上板9、底板10、及び台座8と本体部6との接触部分には、シール部16を備える。
なお、本明細書においては、本体部6を円筒型のものとして説明したが、これ以外の形状とすることも可能である。
【0025】
気体供給口13と14にはそれぞれ、送気配管17と送気配管18とが接続される。送気配管16と送気配管17の近傍には加熱装置が配置される。係る配置によって、本体部6へ加熱気体を供給することが可能となる。
また、気体吸引口15に真空ポンプ等の各種気体吸入装置19を設置することによって、本体部6内を減圧若しくは真空状態とすることが可能となる。
さらに、CNFスラリー投入配管20を通じて、成形キャビティ11内へのCNF含有スラリー投入することができる。投入手段として、第一の円筒部3に投入ノズルを設置してもよいし、蓋部5に投入ノズルを設置してもよい。このノズルがない場合は、得られるCNF成形体の大きさは、成形キャビティ11の大きさに比べて極端に小さい体積のものとなってしまうが、前記投入ノズルからCNF含有スラリーを追加することによって、得られるCNF成形体の体積を任意のものとすることができる。バルブ弁24を閉止しておくことで供給時以外の逆流を防止することができる。
CNFスラリーから除去された水分は、ドレン貯め22へ集められて溜まり、溶媒排出配管23を通り系外に排出することができる。ドレン貯め22が存在することで、気体吸引口15から液体が真空ポンプへ排出されることを防ぐため故障せず安定して製造を継続することができる。
【0026】
以上の本実施の形態のCNF成形装置1によれば、各種プレス機を用いて圧力をかけると、上板9によって、CNF含有スラリーを底板10方向に加圧することができる。
また、加圧状態を維持したまま、本体部6内部に対して、加熱気体を供給すること、及び/又は減圧若しくは真空状態とすることが可能となる。
さらに、上板9と底板10との断面積及びこれらの距離等から、成形キャビティ11の実体積を算出し、係る実体積と前記距離等から、後述する第一成形体の体積とこれに対応する水分や距離等からこれらの関係式を導き出し、距離測定装置25を用いて測定した台座8上部までの距離値から体積や濃度を換算することが可能となる。
【0027】
(気体透過手段)
前記気体透過手段として、蒸気を透過させる物体を使用して濃縮する手段を用いることができる。蒸気を透過させる物体としては、織物やフェルト、メンブレンフィルターや焼結フィルター等の各種フィルター、ろ紙、穴などの透過機構を設けた物質、板及び棒を重ねた状態、多孔質、微粒な物質の集合体(砂やシリカ等微粒な物質で疑似的に多孔質のような構造を形成)を用いることができる。また、親水性の基材を用いると容易に水を脱溶媒することができる。さらに、前記気体透過機構の孔径が1μm以下であればCNFが流出を防止することができる。また、繊維状のCNFマットができれば孔径が200μm以上でもCNFの流出が防止できる。
さらに、これらの単独使用、または併用が考えられる。また、CNFスラリーに付与する荷重及び蒸気を透過させる方向については制限されない。また、真空条件下や減圧条件下において蒸気を透過させることが可能であり、その手段は特には制限されない。
【0028】
前記気体透過手段の他の手段として、多孔質素材を用いてなる多孔質体を用いることもできる。多孔質素材としては有機、無機、金属、またはそれらの複合物、具体的にはステンレス製、SiC製、セラミック製、樹脂製、ゴム製、ガラス製、紙製など多様なものを用いることができる。またこれらを必要に応じて組み合わせて用いても良い。また、用いる多孔質体の平均気孔径、気孔率若しくは目開きについては、平均気孔径5~800μm、気孔率30~85%のもの若しくは目開き20~1000μmのものを使用することができ、好ましくは、平均気孔径5~600μm、気孔率40~70%若しくは目開き200~800μmのものを使用するとよい。
なお、気孔率には (1)外部に連絡する気孔の容積と,内部に封入された気孔の容積の和を,全容積 (見かけの容積) で割ったもの、 (2) 外部に通じている気孔の容積を,全容積で割ったもの、の2種類があるが、本発明においては、いずれの計算方法を利用したものを利用することができるが、外部に通じる気孔は必ず必要である。
【0029】
(成形工程)
(1)成形工程は、気体透過手段を用いて、
(1-1)CNF含有スラリーに圧力を加えるとともに、
(1-2)前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、
第一の成形体を得る工程である。
成形工程は、CNF含有スラリーを、脱溶媒して、第一の成形体中のCNF濃度が10~25%程度となったときに気体透過手段を用いた加圧を停止して、本工程を終了する。本工程において、第一の成形体中のCNF濃度を40%程度としてしまうと、過度な時間を要することになるからである。
【0030】
また、前記成形工程においては、(1-1)に代えて、
(1-3)CNF含有スラリーに圧力を加えた後に、圧力を減少させるステップを複数回行う工程とともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程、すなわち、加圧と減圧を複数回行うステップを含む工程を行うとともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程、或いは、CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を、前記CNF含有スラリーに加えた圧力を減少させるステップと共に停止し、前記CNF含有スラリーに圧力を加える工程とともに、再開する工程を行ってもよい。
【0031】
また、前記成形工程においては、さらに、成型キャビティ11内にCNF含有スラリーを添加する工程を行うことができる。
この時、既に加えたCNF含有スラリーの表面付近のCNF濃度と、添加するCNF含有スラリー中のCNF濃度とを18%未満にするとよい。何れかのスラリーが18%以上の濃度となったときに、CNF含有スラリーを添加してしまうと、それぞれのCNF含有スラリー中のCNF同士が、部分的に水素結合が進んでしまい、既に加えたCNF含有スラリーと後に加えたCNF含有スラリーとの相互間で水素結合が進まず別々の層になり、一つの均質な素材にならないことになる。そのため、CNF成形体内部に、多数の層が形成されてしまい、均質なCNF成形体を得ることができない。
【0032】
(脱溶媒工程)
(2)脱溶媒工程は、
(2-1)前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を加えるとともに、
(2-2)前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行い、前記第一のCNF成形体を脱溶媒する脱溶媒工程である。
脱溶媒工程は、第一の成形体を乾燥、脱溶媒して、CNF濃度が80~100%となったときに、気体透過手段を用いた加圧を停止して、本工程を終了する。
【0033】
また、前記脱溶媒工程においては、(2-1)に代えて、
(2-3)前記第一の成形体に気体透過手段に圧力を段階的に加えるとともに、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程を行ってもよい。
【0034】
(吸引工程)
(3)吸引工程は、前記気体吸入口14に真空ポンプ等の各種気体吸入装置を設置し、これを用いて、CNF成形装置、すなわち、本体部6内を減圧若しくは真空状態とする工程である。なお、吸引工程は、前記成形工程と前記脱溶媒工程に加えた工程として行う。
また、(1-3)における、加圧と減圧を複数回行うステップを含む工程を行うとともに、前記CNF含有スラリーに加えた圧力を減少させるステップと共にCNF成形装置内の気体を吸引する工程を停止し、再度、前記CNF含有スラリーに圧力を加える工程とともに、CNF成形装置内の気体を吸引する工程を再開する工程としてもよい。
【0035】
(4)距離測定装置を用いて、前記成形工程及び/又は前記脱溶媒工程を制御する、すなわち、加圧及び/又は減圧を行うステップを制御してもよい。
【0036】
以下、前記各工程における工程を以下に詳細に説明する。
(1-1)における、CNF含有スラリーに圧力を加えるとは、図1に示すように、成形キャビティ11中のCNF含有スラリーを厚さ方向に加圧するステップを経ることにより脱溶媒する工程である。この加圧により、CNF含有スラリー中の水分が、気体透過手段に移行し、成形キャビティ系外へと排出される。
本過程における加圧方法は、公知の方法により行うことができるが、空圧式プレス機により行うことが好ましい。空圧式プレス機は、圧力の微調整を行うことが容易だからである。
油圧プレスやサーボプレスなどを使うことも出来る。油圧プレスの場合は、より高い圧力を付与しやすい。サーボプレスの場合は、細かな制御を行うことができる。サーボの場合は、距離(位置)を変更しない時には力を必要とせず省エネを図ることができる。これらを組み合わせたサーボ油圧プレスも利用できる。
【0037】
(1-1)においては、CNF含有スラリーの上面と上板9とを接触させた状態を維持しながら、後述する(3)CNF成形装置内の気体を吸引する工程を行った後に、徐々に圧力を加えること若しくは一定圧力を掛けることが好ましい。
CNF含有スラリーに圧力を加える過程を行う前に、あらかじめ吸引工程を行うことで、CNF含有スラリー中に、そもそもとして、存在する気泡、及び/又は、CNF成形装置にCNF含有スラリーを投入した際に発生してしまう気泡を除去することができ、最終的に得られるCNF成形体内部のCNFの結合状態を均一なものとすることが可能となる。
【0038】
(1-2)における、CNF成形装置内に加熱気体を供給する工程とは、CNF成形装置内部に、加熱気体を供給して、循環する空気の流れを作る工程である。係る工程とすることで、前記上板9上部の気体エリア、および、前記底板10下部の気体エリアに循環する空気の流れを作ることができる。
本工程における加熱気体は、30~95℃、好ましくは、35~93℃、より好ましくは、40~90℃の加熱気体を用いるとよい。係る範囲の加熱気体を用いることで、CNF含有スラリーの温度を上昇させ、CNFを膨潤・膨張させて、脱水速度を加速させることができるし、前述の循環する空気の流れにより、CNF含有スラリー中の溶媒の除去速度を上げることができる。ただし、30℃以下の加熱気体を用いると、CNF含有スラリーの温度を低下させてしまい、水分の除去速度を上げることはできず、脱溶媒に時間を要することになる。また、95℃以上の加熱気体を用いると、CNF含有スラリー中の水分を沸騰させてしまい、CNF含有スラリーに気泡を大量に発生させてしまうおそれがある。
【0039】
加熱気体の供給量は、成形キャビティ中のCNF含有スラリーの内部と表面の水分含量値の差を生じさせないようにするために、加熱気体の供給量は真空ポンプの排気量以下とし、概ね1分間当たり、成形キャビティ11の容積の0.001倍~10倍とすることが好ましい 。好ましくは0.002倍~5倍である。供給量が少ないと気体エリアの循環が不十分となり、逆に多いと排気系統からの熱エネルギーのロスが大きくなる。
【0040】
(1-3)における、CNF含有スラリーに圧力を加えた後に、圧力を減少させるステップを一回以上行う工程とは、前記(1-1)において、加えた圧力を減圧する工程である。係る工程を行うと、CNF含有スラリーは厚み方向に膨張して、CNF含有スラリー内部の溶媒は、CNF含有スラリー内部を移動する。次いで、再び加圧することで、CNF含有スラリー中の水分をより速く脱溶媒させることができる。さらに、表面側の溶媒が内部に比べて著しく低下してしまうと、表面部分のCNFの水素結合が進み、溶媒の通過速度を著しく低下させることを防止することができる。なお、本過程においては、前記(1)の過程で加えた圧力をその圧力よりも減少させれば、それでよい。
【0041】
(3)CNF成形装置内の気体を吸引する工程は、CNF成形装置内部の気体を吸引することによって、CNF成形装置内の圧力を減圧若しくはCNF成形装置内を真空状態とする工程である。係る工程を行うことによって、前述したようにCNF含有スラリー中の気泡を除去することができる。なお、本工程における吸引方法は、真空ポンプ等を用いた公知の方法により行うことができる。
【0042】
(2-1)における、前記第一の成形体に気体透過手段を用いて圧力を加えるとは、(1-1)における、CNF含有スラリーに圧力を加えることと、同意義の工程であり、(1-1)と、同様の加圧方法を用いることができる。油圧式プレス機、またはサーボ式プレス機により行うことが好ましい。油圧式プレス機は、より大きな圧力を掛けることができ、第一のCNF成形体を短時間で脱溶媒させることが可能だからである。サーボ式の場合は細かな制御ができ、省エネも図ることができる。
本工程における圧力を加える方法としては、初めに、小さい圧力を加えて(初期圧力)、そこから、この圧力を徐々に上げていき、最終的に一定の圧力(最終圧力)を加える方法が好ましい。
具体的な圧力の値としては、初期圧力として、8kg/cmが好ましく、7kg/cmがより好ましく、5kg/cmがさらに好ましい。また、最終圧力として、500kg/cmが好ましく、700kg/cmがより好ましく、900kg/cmがさらに好ましい。
【0043】
以上のことから、前記CNF成形装置1は、前記成形工程と前記脱溶媒工程とで、異なるプレス機を両工程間で交換することを前提として、同一のCNF成形装置を用いてもよいし、異なるプレス機を設置した2種以上のCNF成形装置を用いて、前記成形工程及び前記脱溶媒工程を行うようにしてもよい。
【0044】
(2-2)における、前記CNF成形装置に加熱気体を供給する工程とは、(1-2)における、CNF成形装置内に加熱気体を供給することと、同意義の工程である。
【0045】
(2-3)における、前記第一の成形体に気体透過手段に圧力を段階的に加えるとは、(2-1)における加圧を徐々に段階的に加える工程である。第一の成形体を急激に加圧すると、第一の成形体が横方向に割れてしまうため、初期の段階では小さい圧力を掛けて、徐々に圧力を掛けることが好ましいからである。
【0046】
(4)における、距離測定装置を用いて、前記成形工程及び/又は前記脱溶媒工程を制御するとは、(1-1)、(1-3)及び(2-1)における加圧及び/又は減圧するステップを、距離測定装置を用いて測定した距離値によって、制御する工程である。
前述したように、CNF成形装置1は、距離測定装置を用いて測定した距離値から体積や濃度値を換算することが可能であるから、このような工程とすることができる。このような工程とすることによって、例えば、シーケンス制御等をすることが可能となる。
【0047】
(CNF成形体)
以上のようにして得られたCNF成形体は、密度が、1.30~1.61g/cmである。CNF成形体の密度が1.3g/cm3を下回ると、水素結合点の減少を原因として強度が不十分であり、または内部に巣・空隙が存在することになり、このようなCNF成形体に対して、切削加工、穿孔、研磨等の各種加工を行うと、CNF成形体が剥離・破壊・破損してしまい、各種加工を行うことができないからである。なお、成形体の密度は、JIS-P-8118:2014に準拠して測定した値である。
【0048】
CNF成形体の厚さの下限は、3mm以上である。CNF成形体の厚さが3mmを下回ると、研磨加工や切削加工を行うことが困難となる。
一方、CNF成形体の厚さ方向の上限は、0031段落において述べたように、CNF含有スラリー中のCNF濃度を18%以下とすることに留意すれば、特に制限されることがない。第一の円筒部3を高さ方向に延伸することで、得られるCNF成形体の高さを調節することができる。
【0049】
以上、CNF成形体の製造方法及びCNF成形体の実施の形態について詳細に説明したが、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0050】
本願発明の製造方法で製造されたCNF成形体は、現在、入手困難となっている象牙・紫檀、黒檀、鉄刃木等の銘木の代替材料として用いることができる。
また、上記CNF成形体は、サステイナブル原料由来の高強度材料として、具体的な用途に応じて、切削、穿孔、研磨等の各種加工を施し、所望の形状に加工することができる。
さらに、上記CNF成形体は、音響用材料としても使用することができる。
このほか、軽量で高強度な部材として、柱、台座、連結用の巻斗、挙鼻、桁、軒支輪、通肘木、秤肘木、枠肘木、方斗、大斗、梁、ボルト、床材、タイルなどの建設用部材、歯車、摺動部品、ネジ、ビス、ボルトなどの機械部材、椅子、机、テーブル、タンスなどの家具部材、茶合、茶托、盆、薄茶器などの茶道道具、釣り竿、碁筍、碁盤、将棋駒、将棋台、箸、万年筆などの日用品、木刀、ナイフの柄、銃床、盾などの高強度部材として利用できる。
【実施例
【0051】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1~4)
(比較例1)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、特許第6704551号の0018段落に記載のACC法により得たCNF7.7%水分散液2,038g(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)をCNF含有スラリーとした。
次いで、本体部を円筒型としたCNF成形装置に投入し、以下の表1に記載の条件下において、成形工程及び脱溶媒工程を行い、厚さ10mmのCNF成形体を作成した。また、第一の成形体中のCNF濃度を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から、加熱気体温度を35℃以上とすれば、成形工程における脱溶媒に要する時間を大幅に短縮することができることが明らかとなった。
【0055】
(実施例5~8)
(比較例2)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、ACC法により得たCNF水分散液(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)を以下の表2に記載のCNF原料濃度として、それぞれをCNF含有スラリーとした。
次いで、本体部を円筒型としたCNF成形装置に投入し、表2に記載の条件下において、それぞれのCNF含有スラリーについて成形工程及び脱溶媒工程を行い、CNF成形体を作成した。
次いで、得られたCNF成形体の密度、厚さを測定した。なお、密度は、JIS-P-8118:2014に準拠して測定した。
また、外観評価として、得られたCNF成形体の断面図を観察して、以下の評価基準を用いて評価した。結果を表2に示す。
〇:CNF成形体内部に層が形成されていない
×:CNF成形体内部に層が形成されている
なお、CNF成形体内部に層が形成されている場合には、切削、研磨、穿孔等の加工を行った際に、CNF成形体がこの層を境に分離してしまう可能性がある。これから、外観評価が〇である場合には、このような可能性がないため、加工性に優れたCNF成形体といえる。
【0056】
【表2】
【0057】
表2の結果から、脱溶媒工程において、最終圧力を354kg/cmとすれば、CNF成形体内部に層が形成されていないCNF成形体を作成することができることが明らかとなった。
また、図2及び図3に実施例5及び実施例8におけるCNF成形体の断面図を示す。
【0058】
(実施例9~11)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、ACC法により得たCNF水分散液(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)を以下の表3に記載のCNF原料濃度として、それぞれをCNF含有スラリーとした。
次いで、本体部を円筒型としたCNF成形装置に各実施例における原料投入回数に分割して投入し、表3に記載の条件下において、それぞれのCNF含有スラリーについて成形工程及び脱溶媒工程を行い、CNF成形体を作成した。
次いで、得られたCNF成形体の密度、厚さを測定した。なお、密度は、JIS-P-8118:2014に準拠して測定し、接触面CNF濃度は、成形装置内のCNFペーストの上澄み液をすくって、乾燥重量法により測定した。
また、外観評価として、実施例5~8及び比較例2と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
(比較例3)
セルロース由来成分として竹パルプを原料とし、ACC法により得たCNF水分散液(平均繊維幅20nm~200nm、平均長さ3μm~30μm)を以下の表3に記載のCNF原料濃度として、CNF含有スラリーとした。
次いで、本体部を円筒型としたCNF成形装置に投入し、表3に記載の条件下において、CNF含有スラリーについて成形工程を行い、第一のCNF成形体を作成した。また、得られたCNF成形体の接触面CNF濃度は、18%であった。同様の操作を3回行い、第一の成形体を3個作成した。
次いで、得られた第一の成形体を3つ重ねて、脱溶媒工程を行ってCNF成形体を得た。
また、外観評価として、実施例5~8及び比較例2と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3の結果から、脱溶媒工程において、接触面CNF濃度を18%未満とすれば、CNF原料投入回数を2回以上とした場合であっても、外観評価の評価基準を満たすCNF成形体を得られることが明らかとなった。係る結果により、CNF成形体の高さを高さ方向に長いものを得るためには、接触面CNF濃度に留意すれば、作成できることが明らかとなった。
また、図4に実施例9におけるCNF成形体の断面図を示す。
【0062】
(実施例12)
実施例5で得られたCNF成形体を、ラウンドバー及びカーバイドバーを用いて研磨した後、触針式粗さ測定機(東京精密株式会社、型式:Surfcom480A)を用いて、CNF成形体の研磨前(i)と研磨後(ii)の表面粗さを測定した。測定結果を表5に示す。
また、参考例として金属材料チタン(Ti)の表面粗さ(iii)及び非特許文献1に示されるエナメル質の値(iv)を記載した。
さらに、実施例5で得られたCNF成形体を、#80、#120、#240、#400、#1000、#2500の順番でサンドペーパーを用いて研磨したのち、表面粗さを測定した(v)。測定結果を表5に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
表5より、本願発明に係るCNF成形体は、研磨加工を行うことができることが明らかとなった。また、参考例として示したTiの値、及び非特許文献1に示されるエナメル質の値とを比較しても遜色ないことが明らかとなった。さらに、金属材料チタン(Ti)よりも表面粗さの値が低い成形品を得ることができることも明らかになった。
以上より、象牙と類似するヒトの歯のエナメル質同等以上のレベルで内部も均質な成形体であることが明らかとなった。
【0065】
(実施例13)
実施例5で得られたCNF成形体を用いて、琴爪、二胡駒及び三味線の駒の作成を行った。図5に作成した三味線の駒を示す。また、図6に作成した二胡駒を示す。これらのうち、琴と二胡を専門演奏家へ提供し、現行品(琴については、象牙製とプラスチック製、二胡については、高級木材と汎用木材)との比較を行った。琴の評価結果を表6及び図7に二胡の評価結果を表7及び図8に記載した。
なお、評価は5点満点とし、点数多いほど良い評価として、それぞれ5人の専門家より評価を受けて集計した。評価項目はノイズ、音質、音量、加工性、嗜好性および二胡においては、これに取扱性を加えて評価した。ノイズはノイズの有無を、音質は質感を、音量は琴・二胡の響きによる音量を評価した。各人の使用段階における調整加工処理の施しやすさを加工性として評価した。嗜好性は演奏に加えて入手容易性、コスト、環境影響などを加味した専門家の好みを得点化した。また二胡で評価に加えた取扱性は、装着のしやすさを得点化した。
【0066】
ここで、琴の専門奏者の意見を紹介する。CNF成形体に関しては象牙とは別の新素材で象牙に匹敵するものとして考える方が妥当な評価のように思う。1~2カ月経過すると、どの素材の爪も劣化が激しいため、強度の改善が必要だが、サステナビリティを考慮する上では、CNF成形体が一番好みである。糸の負担を考えると象牙が一番自然と面が取れて弾きやすいが、将来の琴界を考えると不可欠になりつつある素材である。また、プラスチックは優しくない音、CNF成形体は滑らかな感じの音色である。
【0067】
評価結果よりCNF成形体は琴の爪や二胡の駒として従来の材質と同等の適正を有していることが判る。また琴の爪では入手困難な高級材料である象牙に匹敵し、嗜好性においては全ての演奏家が優れた素材であると評価し、不可欠な素材として認識されている。
二胡駒についても紫檀、黒檀などの希少木材に近い評価を受けており、取扱性は全く同等の評価となった。
なお、提供したCNF成形体は各種添加剤などを付加していないものであり、専門演奏家のフィードバックを受けた上で、各種添加剤の添加により耐水性、耐久性、滑り性、加工性などの各種品質を改良することが可能である。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8