(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】電解質水溶液と、蓄電装置、並びに蓄電装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/62 20130101AFI20230428BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20230428BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20230428BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20230428BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20230428BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230428BHJP
【FI】
H01G11/62
H01G11/60
H01G11/78
H01M10/36 A
H01M50/119
H01M50/121
(21)【出願番号】P 2021190445
(22)【出願日】2021-11-24
【審査請求日】2021-11-24
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】516205029
【氏名又は名称】位速科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】何文賢
(72)【発明者】
【氏名】偕少▲うぇい▼
(72)【発明者】
【氏名】陳信義
(72)【発明者】
【氏名】廖婉伶
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-293649(JP,A)
【文献】特開2011-119639(JP,A)
【文献】特開2015-90942(JP,A)
【文献】特開平5-258994(JP,A)
【文献】特開平5-258995(JP,A)
【文献】特開2020-87554(JP,A)
【文献】特開2014-72464(JP,A)
【文献】特開昭52-53233(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/62
H01G 11/60
H01G 11/78 -11/82
H01M 10/36
H01M 10/0563
H01M 50/119
H01M 50/121
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤及び少なくとも2種類のカチオンを少なくとも含み、前記溶剤は水であり、前記少なくとも2種類のカチオンはそれぞれアルカリ金属カチオンであ
り、
前記少なくとも2種類のアルカリ金属カチオンは少なくともそれぞれカリウムイオン及びリチウムイオンであり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg未満ではなく、且つ前記リチウムイオンの重量モル濃度は10.1mol/kg未満ではないことを特徴とする電解質水溶液。
【請求項2】
前記電解質水溶液はカリウムイオンを少なくとも含み、前記カリウムイオンの重量モル濃度は他の個別の前記アルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の電解質水溶液。
【請求項3】
前記少なくとも2種類のアルカリ金属カチオンのイオン源はそれぞれ同じアニオンを有しているアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の電解質水溶液。
【請求項4】
溶剤及び少なくとも3種類のカチオンを少なくとも含む電解質水溶液であって、前記溶剤は水であり、前記少なくとも3種類のカチオンはそれぞれアルカリ金属カチオンであ
り、
前記少なくとも3種類のアルカリ金属カチオンは少なくともそれぞれリチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンであり、前記リチウムイオンの重量モル濃度は5.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は10.2mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、前記セシウムイオンの重量モル濃度は0.05mol/kg乃至15.6mol/kgの間の範囲であることを特徴とする電解質水溶液。
【請求項5】
前記リチウムイオンの重量モル濃度は12.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は35.7mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、前記セシウムイオンの重量モル濃度は5.2mol/kg乃至10.4mol/kgの間の範囲であることを特徴とする請求項
4に記載の電解質水溶液。
【請求項6】
ケース(10)と、第一電極(13)と、第二電極(14)と、電解質層(15)と、を少なくとも備える蓄電装置であって、前記ケース(10)の内部には収容空間(S)が形成され、前記電解質層(15)は前記第一電極(13)と前記第二電極(14)との間に配置され、前記第一電極(13)、前記第二電極(14)、及び前記電解質層(15)は前記収容空間(S)に密封されるように設置され、前記電解質層(15)は電解質水溶液が充填されることにより形成され、前記ケース(10)の材質は液晶ポリマー樹脂であ
り、
前記電解質水溶液は請求項1乃至5の何れか1項に記載の電解質水溶液であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項7】
蓄電装置(1)の内部に充填するのに適用しており、溶剤及び少なくとも1種類のカチオンを少なくとも含み、前記溶剤は水であり、且つ前記カチオンはアルカリ金属カチオンであ
り、
前記アルカリ金属カチオンはカリウムイオンであり、且つ前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg未満ではないことを特徴とする電解質水溶液。
【請求項8】
蓄電装置(1)のパッケージングに適用し、前記蓄電装置(1)はケース(10)と、第一電極(13)と、第二電極(14)と、電解質層(15)と、を少なくとも備え、前記ケース(10)の内部には収容空間(S)が形成され、前記電解質層(15)は前記第一電極(13)と前記第二電極(14)との間に配置され、前記第一電極(13)、前記第二電極(14)、及び前記電解質層(15)は前記収容空間(S)にパッケージングされるように設置され、
前記第一電極(13)、前記第二電極(14)及び前記電解質層(15)が前記収容空間(S)にパッケージングされる
前、かつ、前記第一電極(13)、前記第二電極(14)、及び前記電解質層(15)が前記収容空間(S)に設置された後に、前記収容空間(S)に負圧が形成され
、
前記電解質層(15)は電解質水溶液が充填されることにより形成され、
前記電解質水溶液は請求項1乃至5の何れか1項に記載の電解質水溶液であることを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【請求項9】
前記ケース(10)の材質はアルミニウムプラスチックフィルムまたは液晶ポリマー樹脂であることを特徴とする請求項
8に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項10】
前述の負圧は気圧が760torr未満であることを指すことを特徴とする請求項
8に記載の蓄電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質水溶液と蓄電装置、並びに蓄電装置の製造方法に関し、特に蓄電装置内部に充填する電解質水溶液に関する。本発明はさらに特にキャパシタ、スーパーキャパシタ(SUPERCAPACITOR)、或いは電池内部に充填する電解質水溶液、及びキャパシタ、スーパーキャパシタ、或いは電池、及びキャパシタ、スーパーキャパシタ、または電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子の集積回路の小型化の需要の高まりに連れ、電子素子のうちのキャパシタのサイズが小型化しているほか、キャパシタは表面実装技術(Surface-mount technology、SMT)を利用して回路基板に溶接し、電子素子全体の小型化の要求に応えている。通常、電子素子の応用の必要に応じて、前述の表面実装技術を利用したキャパシタを固体電解キャパシタまたは液体電解キャパシタとする。また、コスト競争を考慮すると、液体電解キャパシタは固体電解キャパシタよりも低コストであるという利点を有している。
【0003】
液体電解キャパシタの電解液は非水系電解質溶液(NON-AQUEOUS ELECTROLYTE SOLUTION)及び電解質水溶液にさらに区分され、非水系電解質溶液に採用される溶剤は有機溶剤である。内部に有機溶剤を含んでいるため、非水系電解質溶液の製造に採用される電解キャパシタは通常内部の等価直列抵抗(ESR、Equivalent Series Resistance)値が高いため、容量密度(capacity density、或いは比容量)が低くなった。また、溶剤には引火点(flash point)があるため製造過程で不注意で引火することもあるため、製造過程では特殊な環境で非水系電解質溶液中の水蒸気の含有量を20ppm未満にしなければならず、製造コストが上昇した。相対的に、電解質水溶液で製造した電解キャパシタは、溶剤が水であり、水はその導電性が有機溶剤よりも高いため、内部の等価直列抵抗(ESR)値が低く、容量密度較が高くなった。また、製造過程でも引火する心配がないため、水蒸気の含有量を考慮する必要がなかった。よって、コスト、等価直列抵抗、容量密度、及び製造過程の安全性を総合的に評価すると、電解質水溶液で製造した電解キャパシタの方が利点が多かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面実装技術を利用する従来の電解質水溶液で製造した電解キャパシタは、250℃でリフロー(reflow)方式により回路基板に溶接する際に、従来の電解質水溶液が溶液の沸点より高い熱を受けると、例えば、熱重量分析装置(Thermogravimetric analysis、TGA)により測定した比熱容量(Specific heat Capacity、Cp)の最高ピーク値が対応する温度105℃を溶液の模擬沸点とする場合、実際の結果は250℃のリフロー過程で電解キャパシタが溶液の気化膨張により破裂してひび割れが生じ、或いはリフロー後の外観にひび割れがなくとも、電解キャパシタの内部構造が実際には破壊されてしまい、充電できなくなったり、充電の基準に達しなかったりした。
【0005】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、沸点の高い電解質水溶液、及び前述の電解質水溶液が充填された蓄電装置及びその製造方法を提供し、前述の蓄電装置をリフロー方式により回路基板に溶接した後にも、外観にひび割れが生じず、所定の充電基準に達するようにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の電解質水溶液は、溶剤及び少なくとも2種類のカチオンを少なくとも含み、前記溶剤は水であり、前記少なくとも2種類のカチオンはそれぞれアルカリ金属カチオンである。
【0008】
本発明の別の実施形態において、前記電解質水溶液はカリウムイオンを少なくとも含み、前記カリウムイオンの重量モル濃度は他の個別の前記アルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高い。
【0009】
本発明の別の実施形態において、前記少なくとも2種類のアルカリ金属カチオンは少なくともそれぞれカリウムイオン及びリチウムイオンであり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg未満ではなく、且つ前記リチウムイオンの重量モル濃度は10.1mol/kg未満ではない。
【0010】
本発明の別の実施形態において、前記少なくとも2種類のアルカリ金属カチオンのイオン源はそれぞれ同じアニオンを有しているアルカリ金属塩である。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明の別の態様の電解質水溶液は溶剤及び少なくとも3種類のカチオンを少なくとも含み、前記溶剤は水であり、前記少なくとも3種類のカチオンはそれぞれアルカリ金属カチオンである。
【0012】
本発明の別の実施形態において、前記電解質水溶液はカリウムイオンを少なくとも含み、前記カリウムイオンの重量モル濃度は他の個別の前記アルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高い。
【0013】
本発明の別の実施形態において、前記少なくとも3種類のアルカリ金属カチオンは少なくともそれぞれリチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンであり、前記リチウムイオンの重量モル濃度は15.1mol/kg超ではなく、前記カリウムイオンの重量モル濃度は40.8mol/kg超ではなく、前記セシウムイオンの重量モル濃度は15.6mol/kg超ではない。
【0014】
本発明の別の実施形態において、前記少なくとも3種類のアルカリ金属カチオンは少なくともそれぞれリチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンであり、前記リチウムイオンの重量モル濃度は5.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は10.2mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、前記セシウムイオンの重量モル濃度は0.05mol/kg乃至15.6mol/kgの間の範囲である。
【0015】
本発明の別の実施形態において、前記リチウムイオンの重量モル濃度は12.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は35.7mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、前記セシウムイオンの重量モル濃度は5.2mol/kg乃至10.4mol/kgの間の範囲である。
【0016】
また、本発明のさらに別の態様の電解質水溶液は蓄電装置の内部に充填するのに適用しており、前記電解質水溶液は溶剤及び少なくとも1種類のカチオンを少なくとも含み、前記溶剤は水であり、前記カチオンはアルカリ金属カチオンである。
【0017】
本発明の別の実施形態において、前記アルカリ金属カチオンはカリウムイオンであり、且つ前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg以下ではない。
【0018】
さらに、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のさらに別の態様の蓄電装置は、ケースと、第一電極と、第二電極と、電解質層と、を少なくとも備えている。前記ケースの内部には収容空間が形成され、前記電解質層は前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている。前記第一電極、前記第二電極、及び前記電解質層は前記収容空間に密封されるように設置され、前記電解質層は電解質水溶液が充填されることにより形成されている。前記ケースの材質は液晶ポリマー樹脂である。前記電解質水溶液は前述の前記電解質水溶液である。
【0019】
本発明のさらなる態様の蓄電装置の製造方法は、蓄電装置のパッケージングに適用しており、前記蓄電装置はケースと、第一電極と、第二電極と、電解質層と、を少なくとも備えている。前記ケースの内部には収容空間が形成され、前記電解質層は前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている。前記第一電極、前記第二電極、及び前記電解質層は前記収容空間にパッケージングされるように設置されている。前記第一電極、前記第二電極、及び前記電解質層が前記収容空間にパッケージングされるように設置される前に、先に前記第一電極、前記第二電極、及び前記電解質層が設置されている前記収容空間に負圧が形成されている。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記電解質層は電解質水溶液が充填されることにより形成されている。前記電解質水溶液は前述の前記電解質水溶液である。
【0021】
本発明の別の実施形態において、前記ケースの材質はアルミニウムプラスチックフィルムまたは液晶ポリマー樹脂である。
【0022】
本発明の別の実施形態において、前述の負圧は気圧が760torr未満であることを指す。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明によれば、次のような効果がある。
本発明の電解質水溶液は、熱重量分析装置により測定された模擬沸点が全て105℃超であり、従来の電解質水溶液よりも優れている。本発明の電解質水溶液が充填されている蓄電装置は、250℃のリフロー炉を経た後にもひび割れが生じず、電気的特性の要求も満たし、従来の電解質水溶液が充填されている蓄電装置が破裂するという問題を克服している。蓄電装置のケースには液晶ポリマーを採用し、及び/または蓄電装置のパッケージング前に真空化した後にパッケージングを行い、電気的特性測定のクーロン効率を高めている。
【0024】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る蓄電装置の構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0027】
本発明は主に、沸点が高い電解質水溶液を提供する。前記電解質水溶液は蓄電装置の内部に充填するのに適用しており、前記蓄電装置は電池、キャパシタ、或いはスーパーキャパシタでもよい。前記電解質水溶液は溶剤及び少なくとも1種類のカチオンを少なくとも含む。前記溶剤は水であり、前記電解質水溶液はいかなる有機溶剤も含まない。前記カチオンはアルカリ金属カチオンであり、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンからなるグループから選択している。一例を挙げると、前記リチウムイオンの重量モル濃度は15.1mol/kg超ではなく、前記カリウムイオンの重量モル濃度は40.8mol/kg超ではなく、前記セシウムイオンの重量モル濃度は15.6mol/kg超ではない。好ましくは、前記電解質水溶液中のリチウムイオンの重量モル濃度は5.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、カリウムイオンの重量モル濃度は10.2mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、セシウムイオンの重量モル濃度は5.2mol/kg乃至15.6mol/kgの間の範囲である。ちなみに、本発明及び特許請求の範囲に記載の数値範囲の限定は全てエンド値を含む。本発明及び特許請求の範囲に記載の濃度は重量モル濃度であり、単位はmol/kgとする。
【0028】
前記カチオンのイオン源はアルカリ金属塩であり、例えば、前記カチオン中のリチウムイオンのイオン源はリチウム塩であり、前記リチウム塩はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ヨウ化リチウム、酢酸リチウム、過塩素酸リチウム、硫酸リチウム、或いはモリブデン酸リチウムでもよい。前記カチオン中のナトリウムイオンのイオン源はナトリウム塩であり、前記ナトリウム塩は過塩素酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、またはヨウ化ナトリウムでもよい。前記カチオン中のカリウムイオンのイオン源はカリウム塩であり、前記カリウム塩はヨウ化カリウムまたは酢酸カリウムでもよい。前記カチオン中のセシウムイオンのイオン源はセシウム塩であり、前記セシウム塩はヨウ化セシウムまたは酢酸セシウムでもよい。
【0029】
好ましくは、前記電解質水溶液は前記溶剤と、少なくとも2種類の前記カチオンと、少なくとも1種類のアニオンと、を少なくとも含み、前記アニオンはモリブデン酸基イオン、硫酸基イオン、過塩素酸基イオン、酢酸基イオン、ヨウ化物イオン、またはイミドイオンでもよい。2種類の前記カチオンのイオン源は2種類の前記アルカリ金属塩であり、2種類の前記アルカリ金属塩は同じ前記アニオンである。例えば、2種類の前記アルカリ金属塩は酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、及び酢酸セシウムからなるグループのうちの2つを選択している。少なくとも2種類の前記カチオン及び1種類の前記アニオンの設計方式を採用する理由は主に、異なる前記カチオンのドーピングにより前記電解質水溶液の結晶の析出を抑制し、前記電解質水溶液が過飽和条件でも安定を保持させるためである。更に好ましくは、異なるアニオン及びカチオンの間が異なる溶解度で交互に干渉するのを排除するため、前記電解質水溶液は1種類の前記アニオンのみを含み、例えば、酢酸基イオンのみを含む。
【0030】
前記電解質水溶液は以下の2点を考慮する必要がある。(1)溶液の蒸気圧が低下することにより溶液の沸点が上昇し、イオン半径が小さいカチオンほどその水和エネルギーが大きくなり、換言すれば、溶液中の水を捉えると共に散逸或いは反応を防止する能力が大きくなる程、溶液の蒸気圧が低下して沸点が上昇する。(2)また、イオン半径が小さいアルカリ金属塩は溶解度が低く、イオン半径が大きいアルカリ金属塩の溶解度が高いことも考慮しなければならない。上述の2点を総合し、アルカリ金属塩を選択する場合、好ましくは前記カチオンの半径がカリウムイオンの半径超ではない(即ち、それ以下である)リチウム塩、ナトリウム塩、或いはカリウム塩を選択し、且つ前述の少なくとも2種類の前記カチオンのうちの1種類の前記カチオンはカリウムイオンとし、前記カリウムイオンの重量モル濃度は他のアルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高くする。好ましくは、前記電解質水溶液は前記溶剤と、2種類の前記カチオンと、1種類の前記アニオンと、を少なくとも含み、前記溶剤は水であり、2種類の前記カチオンはそれぞれカリウムイオン及びリチウムイオンであり、且つ前記電解質水溶液は1種類の前記アニオンのみを含み、前記アニオンは酢酸基イオンである。
【0031】
前記電解質水溶液の調製:
前記電解質水溶液は下記ステップを含む方法で製造している。(1)後述の表1が対応するアルカリ金属塩の種類及び水に基づいて、対応する重量をそれぞれ準備する。(2)すでに準備を整えたアルカリ金属塩及び水を容器に入れ、完全に溶解するまで加熱した後に静置して室温になるまで冷却し、前記電解質水溶液を形成する。
【表1】
【0032】
なお、比較例1の調製方式は実施例を模倣しているため、再述は省く。
【0033】
<前記電解質水溶液中のカチオンの重量モル濃度換算>
表1中のアルカリ金属塩の重量を分子量で除算した後、水(溶剤)の重量で除算し、電解質水溶液中のアルカリ金属塩の重量モル濃度を算出し、他はアルカリ金属カチオンの重量モル濃度となる。計算結果は後述の表3に示す。ちなみに、表1中のアルカリ金属塩の重量換算が表3中のアルカリ金属カチオンの重量モル濃度である場合、酢酸セシウムの分子量を191.95g/molとし、酢酸カリウムの分子量を98.14g/molとし、酢酸リチウムの分子量を65.99mol/gとして計算する。比較例1の酢酸マグネシウムの分子量は142.39g/molであり、重量モル濃度は0.07mol/kgである。
【0034】
<前記電解質水溶液の模擬沸点測定>
前記電解質水溶液の模擬沸点は熱重量分析装置(TGA)により測定した比熱容量の最高ピーク値が対応する温度を溶液の模擬沸点とし、後述の表3に記録する。模擬沸点が110℃超ではない場合は悪いと判定すると共に「X」と標示し、模擬沸点が110℃乃至135℃の間の範囲である場合は可と判定すると共に「△」と標示し、模擬沸点135℃超である場合は良好と判定すると共に「○」と標示し、模擬沸点が155℃未満ではない場合は非常に良好と判定すると共に「○○」と標示する。熱重量分析装置の型番号はTGA Q50(TA Instruments)であり、操作方法は、(1)8~12mgの電解質水溶液を準備し、(2)重量及び温度の記録を開始し、(3)毎分30℃の昇温速度で温度を200℃まで上昇させ、昇温期間中に重量及び温度を持続的に記録する。
【0035】
<前記電解質水溶液のサイクリックボルタンメトリ(cyclic voltammetry、CV)による測定>
前記電解質水溶液をサイクリックボルタンメトリにより測定し、且つ還元ピーク電流のアンペア数を後述の表3に記録する。還元ピーク電流のアンペア数が4mA未満且つ2.1mA未満ではない場合は可と判定すると共に「△」と標示し、還元ピーク電流のアンペア数が2.1mA未満の場合は良好と判定すると共に「○」と標示し、還元ピーク電流のアンペア数が1.5mA未満の場合は非常に良好と判定すると共に「○○」と標示する。還元ピーク電流のアンペア数値が低くなるほど、電解質水溶液の極化現象が小さくなり、溶液中の水を捉えると共にその散逸や反応を防止する能力が高くなり、前述のように、溶液の蒸気圧が低下して沸点が上昇する。サイクリックボルタンメトリの測定条件は、(1)電極の面積を10mm x10mmとし、(2)CVパラメーターの設定を、1.電位スキャン速度dE/dt = 10mV/s、2.電位スキャン制限E1= 2V vs ref、3.逆方向電位スキャン制限E2 = 0V vs ref、とする
【0036】
<本発明の前記電解質水溶液の運用>
本発明の前記電解質水溶液の運用は(
図1参照)、前記蓄電装置1がケース10と、第一電極13と、第二電極14と、セパレーター16と、電解質層15と、を備えている。前記ケース10の内部には収容空間Sが形成され、前記電解質層15は前記第一電極13と前記第二電極14との間に配置され、前記セパレーター16は前記電解質層15に内設されていると共にイオン伝導機能を備え、前記第一電極13、前記第二電極14、前記セパレーター16、及び前記電解質層15は前記収容空間Sに密封されるように設置され、前記第一電極13及び前記第二電極14は前記ケース10の外部の両側及び/または底部の両端にそれぞれ引き出されて導電ピンをそれぞれ形成している。前記ケース10は下部ケース11及び上部ケース12が結合されることにより形成され、前記収容空間Sは前記下部ケース11と前記上部ケース12との間に形成され、前記第一電極13は前記下部ケース11に設置され、前記第二電極14は前記上部ケース12に設置され、前記第一電極13及び前記第二電極14は前記下部ケース11の外部及び前記上部ケース12の外部にそれぞれ引き出されている。前記蓄電装置1はスーパーキャパシタであり、前記電解質層15は本発明の前記電解質水溶液が充填されることにより形成され、前記ケース10は電気的に絶縁されていると共に長方形体であり、前記下部ケース11及び前記上部ケース12は超音波溶接方式により結合され、前記第一電極13、前記第二電極14、前記セパレーター16、及び前記電解質層15を前記収容空間Sにパッケージングしている。
【0037】
前述の前記第一電極13及び前記第二電極14はそれぞれ電子伝導機能を備えている導電材料で構成されている導電体であり、各自独立している金属箔、金属板、金属ネット、活性炭塗工層の金属ネット、活性炭塗工層の金属板、活性炭塗工層の金属箔、活性炭生地、活性炭繊維、金属複合ネット、金属複合板、遷移金属酸化物で製造した遷移金属酸化物層または板、或いは導電高分子で製造した導電高分子層である。好ましくは、前述の第一電極13及び前記第二電極14はニッケル金属箔でもよい。より好ましくは、前述の第一電極13及び前記第二電極14は表面に活性炭塗工層を有しているニッケル金属箔でもよい。
【0038】
前述の前記下部ケース11、前記上部ケース12、及び前記ケース10はそれぞれ絶縁材料で構成されている絶縁層であり、好ましくは、耐酸耐アルカリ性、高い防水性、及び気密性を有している絶縁材料であり、例えば、アルミニウムプラスチックフィルム、接着フィルム(glue)、熱硬化性を有しているエポキシ樹脂(epoxy molding compound、EMC)、或いはアルミニウムプラスチックフィルムを被覆しているエポキシ樹脂でもよい。
【0039】
前述の前記電解質層15にはイオン伝導機能を備えている前記セパレーター16が内設され、前述の前記セパレーター16はセルロースフィルム、単層または多層のポリプロピレン(Polypropylene;PP)フィルム、ポリエチレン(Polyethylene;PE)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethene;PTFE)フィルム、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene Fluoride;PVDF)フィルム、或いは上述の任意の組み合わせの複合フィルムでもよい。
【0040】
前記蓄電装置1の構造は台湾登録実用新案第598511号公報と台湾特許出願第528612号明細書に記載の内容を参照する。
【0041】
<前記蓄電装置1(スーパーキャパシタ)の製造>
前記電解質層15には実施例1~8及び比較例1の電解質水溶液がそれぞれ充填され、且つ応用実施例1~8及び応用比較例1のようにパッケージングされ、下記表2に示す。前記第一電極13及び前記第二電極14はそれぞれ表面に活性炭塗工層を有しているニッケル金属箔であり、前記下部ケース11、前記上部ケース12、及び前記ケース10はそれぞれエポキシ樹脂である。スーパーキャパシタの長さ、幅、高さはそれぞれ10x10x4 mmである。
【表2】
【0042】
<表面実装技術の測定>
応用実施例1~8及び応用比較例1の蓄電装置(スーパーキャパシタ)を日本パナソニックのBM221/BM231リフロー炉により、温度250℃の炉内に240秒間入れた後に取り出し、スーパーキャパシタを冷却した後に以下の事項を観察及び測定した。
(1)外観検査:顕微鏡により補助して拡大し、スーパーキャパシタの外観を観察し、ひび割れを発見した場合は失敗と判定すると共に「X」と標示し、ひび割れがなかった場合は良好と判定すると共に「○」と標示する。
(2)電気的特性の測定:Bio-logic BCS-815によりスーパーキャパシタの充放電の測定を行い、25℃の温度で定電流-定電圧(CCCV)の充電モード及び定電流(CC)の放電モードで、電流20Cで1.25Vまで充電した後、電流20Cで0Vまで放電する条件で充放電の循環測定を行い、クーロン効率により判断し、50%未満である場合は悪いと判定すると共に「X」と標示し、50%乃至80%の間の範囲である場合は可と判定すると共に「△」と標示し、80%超である場合は良好と判定すると共に「○」と標示する。外観の検査結果及び電気的特性の測定結果は、後述の表3に記録する。
【0043】
【0044】
同一の応用実施例、実施例、応用比較例、及び比較例に対する前述の模擬沸点の測定、外観の検査及び電気的特性の測定等の3つの測定は、測定の結果で何れか1つが「X」であった場合、表3中の「全体評価結果」欄に「X」と標示し、本発明の要求を満たしていないことを示す。測定結果で何れか1つが「△」であった場合、表3中の「全体評価結果」欄に「△」と標示し、本発明の要求を満たしていることを示す。3つの測定結果が全て「○」であった場合、表3中の「全体評価結果」欄に「○」と標示し、この実施例が本発明の要求を満たしているのみならず、良好な実施例であることを示す。外観の検査及び電気的特性の測定結果が全て「○」であり、且つ模擬沸点の測定が「○○」であった場合、表3中の「全体評価結果」欄に「○○」と標示し、この実施例は本発明の要求を満たしているのみならず、最良の実施例であることを示す。
【0045】
表3から分かるように、応用実施例1~8は本発明の要求を満たし、応用比較例1は本発明の要求を満たしていない。
【0046】
また、表3に示す応用実施例5及び応用実施例6の「全体評価結果」欄には「○○」と標示しているため、応用実施例5及び応用実施例6は最良の実施例である。応用実施例5が対応する実施例5のセシウムイオンの重量モル濃度は5.2mol/kgであり、カリウムイオンの重量モル濃度は40.8mol/kgであり、リチウムイオンの重量モル濃度は12.1mol/kgである。応用実施例6が対応する実施例6のセシウムイオンの重量モル濃度は10.4mol/kgであり、カリウムイオンの重量モル濃度は35.7mol/kgであり、リチウムイオンの重量モル濃度は15.1mol/kgである。よって、最も好ましくは、リチウムイオンの重量モル濃度が12.1mol/kg乃至15.1mol/kgの間の範囲であり、カリウムイオンの重量モル濃度が35.7mol/kg乃至40.8mol/kgの間の範囲であり、セシウムイオンの重量モル濃度が5.2mol/kg乃至10.4mol/kgの間の範囲である。
【0047】
前述のように、本発明は全創作構想過程において、前記電解質水溶液は下記2点を考慮する必要がある。(1)アルカリ金属カチオンの添加及び組み合わせにより溶液の模擬沸点を高め、溶液の蒸気圧を低下させるには、イオン半径が小さいカチオンほど水和エネルギーが大きくなることを考慮する必要がある。換言すれば、溶液中の水を捉えると共にその散逸や反応を防止する能力が大きくなる。(2)また、イオン半径が小さいアルカリ金属塩ほどその溶解度が低く、イオン半径が大きいアルカリ金属塩はその溶解度が高いことを考慮する必要がある。このため、アルカリ金属カチオンの種類及び組み合わせの選択を深く考慮しなければならないほか、前記電解質水溶液の充填が完了した蓄電装置(スーパーキャパシタ)が外観の検査及び電気的特性測定をクリアすることも考慮しなければならない。よって、以下、表3中の応用実施例、実施例、応用比較例、及び比較例について説明する。
【0048】
<前記電解質水溶液が少なくとも1種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンがアルカリ金属カチオンである>
応用実施例1は重量モル濃度が30.6mol/kgであるカリウムイオンを選択し、カリウムイオンの水和エネルギーが大きく、電解質水溶液の模擬沸点が115℃に達し、110℃乃至135℃の間の範囲となり、可と判定すると共に「△」と標示し、サイクリックボルタンメトリにより測定した還元ピーク電流のアンペア数が2.5mAであり、これは4mA未満且つ2.1mA未満ではなく、可と判定すると共に「△」と標示し、応用実施例1が外観検査及び電気的特性の測定をクリアし、且つ「全体評価結果」欄には「△」と標示し、本発明の要求を満たしていることを示す。相対的に、応用比較例1はアルカリ金属カチオンを使用せず、マグネシウムイオンを使用しているが、濃度が低いため模擬沸点が105℃しかなく、且つ250℃のリフロー過程で溶液が気化膨張して破裂してひび割れが生じてしまい、ゆえに失敗と判定すると共に「X」と標示し、電気的特性測定結果もクーロン効率が50%未満であるため悪いと判定すると共に「X」と標示する。
【0049】
よって、前記電解質水溶液は少なくとも1種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンはアルカリ金属カチオンであり、好ましくは、前記アルカリ金属カチオンはカリウムイオンであり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg未満ではない(即ち、それ以上である)。
【0050】
<前記電解質水溶液が少なくとも2種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンがアルカリ金属カチオンである>
応用実施例2は応用実施例1よりも10.1mol/kg多くリチウムイオンを添加しており、これには2つの効果がある。(1)リチウムイオンのイオン半径がカリウムイオンのイオン半径未満であるため、リチウムイオンの水和エネルギーがカリウムイオンの水和エネルギーよりも大きくなり、リチウムイオンはカリウムイオンによりも溶液中の水を捉えてその散逸を防止する能力が高い。(2)アルカリ金属カチオンの総重量モル濃度も高くなる。よって、この2つの効果により応用実施例2の還元ピーク電流のアンペア数1.55mAが実施例1の還元ピーク電流のアンペア数2.5mA未満となり、且つ応用実施例2の模擬沸点が152℃に達して応用実施例1の115℃よりも37℃高くなり、模擬沸点が高まることにより、リフロー時の溶液が気化膨張により外観にひび割れが生じることがなくなり、外観測定をクリアする。また、蓄電装置の内部構造が破壊されず、よって電気的特性測定もさらにクリアする。
【0051】
このように、前記電解質水溶液は少なくとも2種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンはアルカリ金属カチオンであり、好ましくは、2種類の前記アルカリ金属カチオンはカリウムイオン及びリチウムイオンであり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は30.6mol/kg未満ではなく、前記リチウムイオンの重量モル濃度は10.1mol/kg未満ではない。ちなみに、少なくとも2種類の前記カチオンの設計方式を採用することで、異なる前記カチオンのドーピングを利用して前記電解質水溶液の結晶が析出するのを抑制し、前記電解質水溶液が過飽和条件でも安定を保持させる。
【0052】
応用実施例1-1は応用実施例1よりも0.15mol/kg多くリチウムイオンを添加しており、多く添加されたリチウムイオンの濃度が高くないため、模擬沸点及び還元ピーク電流のアンペア数が応用実施例1と同じになる。
【0053】
<前記電解質水溶液が少なくとも3種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンがアルカリ金属カチオンである>
応用実施例2-1~8は応用実施例2よりも0.05mol/kg~15.6mol/kg多くセシウムイオンを添加しており、これにより前記電解質水溶液中に3種類のアルカリ金属カチオンを含み(リチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオン)、多種類の異なる前記カチオンのドーピングにより前記電解質水溶液の結晶の析出が抑制され、前記電解質水溶液が過飽和条件でも安定を保持するほか、セシウムイオンのイオン半径がリチウムイオン及びカリウムイオンのイオン半径よりも大きいため、アルカリ金属塩全体の溶解度が高まり、前記電解質水溶液中にさらに多くのリチウムイオン及びカリウムイオンを含有することができる。例えば、応用実施例5は応用実施例2よりも5.2mol/kg多くセシウムイオンを添加しており、これにより応用実施例5のカリウムイオン濃度が40.8mol/kgまで高まり(応用実施例2は30.6mol/kg)、リチウムイオン濃度が12.1mol/kgまで高まる(応用実施例2は10.1mol/kg)。よって、応用実施例5のアルカリ金属カチオンの総重量モル濃度(リチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンの濃度の和)が58.1mol/kgに達し、これは応用実施例2のアルカリ金属カチオンの総重量モル濃度40.7mol/kgよりも17.4mol/kg高い。類似する現象が応用実施例6及び応用実施例2の比較関係により発生するため、再述はしない。前記電解質水溶液中に多く含まれるアルカリ金属カチオンの総重量モル濃度が模擬沸点を上昇させ、リフロー炉の温度変化に対応する。例えば、リフロー過程で不明な原因により温度が250℃から280℃に変化し、応用実施例5及び応用実施例6の模擬沸点が155℃に達し、応用実施例2の152℃よりも3℃高くなる等の変化に対応する。当然ながら、多く含まれるアルカリ金属カチオンの総重量モル濃度により充放電の測定結果が高いクーロン効率を有し、応用実施例6、7、8のアルカリ金属カチオンの総重量モル濃度がそれぞれ61.2mol/kg、35.7mol/kg、30.7mol/kgとなり、電気的特性測定のクーロン効率がそれぞれ80%超(「○」)、50%乃至80%の間の範囲(「△」)、50%未満(「X」)となる。セシウムイオンを添加し、イオンドーピング効果により他のカチオンの全体飽和濃度の上限を高め、これにより水和エネルギーもさらに高め、還元ピーク電流のアンペア数が1.05mA乃至2.4mAの間の範囲となる。還元ピーク電流のアンペア数により評価すると、応用実施例5の還元ピーク電流のアンペア数1.05mAは応用実施例6の還元ピーク電流のアンペア数1.27mA未満であり、よって応用実施例5は応用実施例6よりも優れている。
【0054】
このように、前記電解質水溶液は少なくとも3種類のカチオンを少なくとも含み、前記カチオンはアルカリ金属カチオンであり、好ましくは、3種類の前記アルカリ金属カチオンはリチウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンであり、前記リチウムイオンの重量モル濃度は5.1mol/kg(応用実施例7)乃至15.1mol/kg(応用実施例6)の間の範囲であり、前記カリウムイオンの重量モル濃度は10.2mol/kg(応用実施例8)乃至40.8mol/kg(応用実施例5)の間の範囲であり、前記セシウムイオンの重量モル濃度は5.2mol/kg(応用実施例3、5、7)乃至15.6mol/kg(応用実施例4)の間の範囲である。アルカリ金属カチオンの総重量モル濃度は30.7mol/kg(応用実施例8)乃至61.2mol/kg(応用実施例6)の間の範囲である。
【0055】
応用実施例2-1は応用実施例2よりも0.05mol/kg多くセシウムイオンを添加しており、多く添加されたセシウムイオンの濃度が高くないため、模擬沸点及び還元ピーク電流のアンペア数が応用実施例2と同じとなる。
【0056】
ちなみに、還元ピーク電流のアンペア数により評価すると、優先順位は、(優)応用実施例5(1.05mA)、応用実施例6(1.27mA)、応用実施例3(1.5mA)、応用実施例2(1.55mA)、応用実施例7(2.05mA)、応用実施例4(2.1mA)、応用実施例8(2.4mA)、応用実施例1(2.5mA)となる。
【0057】
<前記カリウムイオンの重量モル濃度は他の個別のアルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高い>
応用実施例8及び応用実施例3~7に存在する差異の1つは、応用実施例8のセシウムイオン濃度10.4mol/kgがカリウムイオン濃度10.2mol/kgよりも高く、セシウムイオンの水和エネルギーがカリウムイオン未満であり、これにより蒸気圧を効果的に下げられなくなり、模擬沸点の上昇が不明瞭になり、応用実施例8の模擬沸点が120℃上昇するのみとなり、応用実施例5及び6の模擬沸点155℃よりもはるかに低くなる点である。
【0058】
よって、前記電解質水溶液中の前記カリウムイオンの重量モル濃度を他の個別のアルカリ金属カチオンの重量モル濃度よりも高くするのが好ましい。
【0059】
<蓄電装置(スーパーキャパシタ)のケース材料>
また、前記ケース10の材質を変更することで電気的特性測定のクーロン効率を向上することが可能であり、下記表4の応用実施例4及び応用実施例4’を参照する。応用実施例4の蓄電装置のケースの材料はエポキシ樹脂を使用し、応用実施例4’の蓄電装置のケースの材料は液晶ポリマー樹脂を使用している。
【表4】
【0060】
液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer、LCP)樹脂は高いガラス転移温度及び融点を有し、300°C以下の温度で持続的に使用してもその機械的特性が損なわれず、よって、応用実施例4’を250℃でリフローを行った場合、前記蓄電装置の内部構造が安定を維持し、電気的特性測定のクーロン効率が応用実施例4の50%乃至80%の間の範囲(「△」)から応用実施例4’の80%超(「○」)まで向上する。液晶ポリマーは台湾特許出願第I708814号明細書に記載の内容を参照し、前記液晶ポリマーはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ヒドロキノン、4,4'-ジフェノール、アセトアミノフェン、或いはそれらの組み合わせから派生した反復成分を含む。
【0061】
<蓄電装置(スーパーキャパシタ)の製造方法>
また、前記蓄電装置1の製造過程では、パッケージング前に前記第一電極(13)、前記第二電極(14)、及び前記電解質層(15)が設置されている前記収容空間Sに負圧を形成し、例えば、先に前記収容空間Sに対し真空化(例えば、気圧760torr未満、好ましくは400torr以下、更に好ましくは1torr未満)を行った後に前記下部ケース11及び前記上部ケース12の超音波溶接によるパッケージングを行うと、電気的特性測定の結果が向上し、下記表5を参照する。
【表5】
【0062】
応用実施例1’はパッケージング前に前記収容空間S及び前記収容空間S内の前記第一電極13、前記第二電極14、前記セパレーター16、及び前記電解質層15に負圧を形成しており、例えば、パッケージング前に前記収容空間S及び前記収容空間S内の前記第一電極13、前記第二電極14、前記セパレーター16、及び前記電解質層15に対し真空化を行っており、応用実施例1では真空化を行っていない。真空化した後にパッケージングすることで、応用実施例1’の前記収容空間Sの断熱程度が高まっており、換言すれば、250℃でリフローを行う際に、熱が前記収容空間S内の前記第一電極13、前記第二電極14、前記セパレーター16、及び前記電解質層15に伝導しにくくなり、よって、前記蓄電装置の内部構造が更に安定を維持し、電気的特性測定のクーロン効率が応用実施例1の50%乃至80%の間の範囲(「△」)から応用実施例1’の80%超(「○」)まで向上する。応用実施例1’の前記収容空間Sの断熱程度を向上する方式の利点は、例えば、リフロー過程で原因不明で温度が250℃280℃に変化する等のリフロー炉の温度の変化に対応できる点である。
【0063】
本発明に係る電解質水溶液は、熱重量分析装置により測定した模擬沸点が全て105℃超となっており、従来の電解質水溶液よりも優れている。本発明に係る電解質水溶液の還元ピーク電流のアンペア数は従来の電解質水溶液の還元ピーク電流のアンペア数未満であり、本発明のカチオン全体が優位な水和エネルギーを有していることを示している。また、本発明に係る電解質水溶液が充填された蓄電装置は、250℃のリフロー炉を経た後にもひび割れが生じず、電気的特性の要求も満たし、従来の電解質水溶液を充填した蓄電装置が破裂するという問題を克服している。本発明の蓄電装置のケースの材質は液晶ポリマーを採用し、これにより電気的特性測定のクーロン効率が向上している。本発明の蓄電装置はパッケージング前に真空化を行った後にパッケージングを行うことで、電気的特性測定のクーロン効率が向上している。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本発明の何れか1つの実施例または特許請求の範囲は必ずしも本発明に記載の全ての目的、利点、または特徴を達成する必要はない。なお、要約及び標題は特許文献の検索を利便にするためにすぎず、本発明の権利範囲を制限するものではない。このほか、本明細書または特許請求の範囲に記述する「第一」、「第二」等の用語は部材(element)の名称を命名する、または異なる実施例や範囲と区別するために使用しているにすぎず、部材の数量の上限や下限を制限するものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 蓄電装置
10 ケース
11 下部ケース
12 上部ケース
13 第一電極
14 第二電極
15 電解質層
16 セパレーター
S 収容空間