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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂および光学部材
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/04 20060101AFI20230428BHJP
   C08G 63/19 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C08G64/04
C08G63/19
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021502333
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007828
(87)【国際公開番号】W WO2020175572
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019034941
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】松井 学
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044875(WO,A1)
【文献】特開平07-198901(JP,A)
【文献】特開2001-072872(JP,A)
【文献】国際公開第2007/142149(WO,A1)
【文献】特開2009-001769(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073496(WO,A1)
【文献】特開2018-059107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/059108(WO,A1)
【文献】特開平10-007782(JP,A)
【文献】特開平11-269259(JP,A)
【文献】特開2014-185325(JP,A)
【文献】特開2014-221865(JP,A)
【文献】特開2015-086265(JP,A)
【文献】特開2017-179323(JP,A)
【文献】特開2018-035228(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043060(WO,A1)
【文献】特表2020-534350(JP,A)
【文献】国際公開第2009/058396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は下記式(9)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂であって、
【化1】
(式中、環Zは(同一又は異なって)芳香族炭化水素環を示し、RおよびRはそれぞれ独立に、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を含んでいてもよい芳香族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkは0であり、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【化4】
(式中、Ar およびAr はフェニル基を示し、およびL、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
式(1)で表される繰り返し単位は、全単位中で10mol%以上60mol%以下であり、
式(9)で表される繰り返し単位は、全単位中で10mol%以上20mol%以下であり、
0.1質量%ジクロロメタン溶液において波長355nmの光透過率が20%未満であり、かつ波長500nmの光透過率が90%以上である、
熱可塑性樹脂。
【請求項2】
前記式(1)が下記式(1b)又は(1c)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂:
【化5】
【化6】
(式中、ArおよびAr、LおよびL、RおよびR、jおよびk、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
【請求項3】
前記式(1)中、Zはベンゼンまたはナフタレンを示す、前記請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記式(9)が下記式(9-1)で表される単位からなる群より選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂:
【化7】
(式中、Ar およびAr 、はフェニル基を示し、およびL、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
【請求項5】
屈折率nDが、1.640以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項6】
比粘度が、0.12~0.40である請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
ガラス転移温度が、130~170℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
ポリエステル、ポリエステルカーボネート、又はポリカーボネートである、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を含む、光学部材。
【請求項10】
光学レンズである、請求項9に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂及びそれを含む光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となる。そこで、光学レンズの屈折率を高く、かつアッベ数を小さくして高分散にした光学レンズ材料と、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ用材料を組み合わせることで、色収差の補正を行うことができることが知られている。
【0003】
光学系の材料として従来用いられていたガラスは要求される様々な光学特性を実現することが可能であると共に、環境耐性に優れているが、加工性が悪いという問題があった。これに対し、ガラス材料に比べて安価であると共に加工性に優れる樹脂が光学部品に用いられてきている。特に、フルオレン骨格やビナフタレン骨格を有する樹脂が、高屈折率である等の理由から使用されている。例えば、特許文献1や2には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを用いた屈折率1.64の高屈折率樹脂が記載されている。しかしながら、屈折率が不十分であり、更なる高屈折率化が求められている。また、特許文献3には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンを有する熱可塑性樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/142149号公報
【文献】特開平7-198901号公報
【文献】特開2015-86265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の撮像モジュールでは、樹脂に紫外線吸収剤を含有させたり、紫外線カットフィルターを用いたり、紫外線吸収コーティング等を用いたりすることによって、撮像モジュール内に入る紫外線を遮断していた。また、多くの光学部材において、このような手段により紫外線をカットすることが行われている。
【0006】
本発明は、それらの手段を用いなくても紫外線をカットできる光学部材及びそのための熱可塑性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
立体構造系成分単位を含む熱可塑性樹脂であって、
前記立体構造系成分単位は、単環式芳香族基及び縮合多環式芳香族基からなる群より選択される芳香族基を4つ以上含み、
前記立体構造系成分単位は、3つ以上の単環式芳香族基が共役構造となっているか、1つ以上の単環式芳香族基と1つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっているか、又は2つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっており、
0.1質量%ジクロロメタン溶液において波長355nmの光透過率が20%未満であり、かつ波長500nmの光透過率が90%以上である、
熱可塑性樹脂。
《態様2》
前記立体構造系成分単位を、全単位中で10mol%以上含む、態様1に記載の熱可塑性樹脂。
《態様3》
前記立体構造系成分単位が、芳香族の置換基を側鎖に含むフルオレン系成分単位若しくはアントロン系成分単位及び/又は芳香族の置換基を含むビナフタレン系成分単位を有する、態様1又は2に記載の熱可塑性樹脂。
《態様4》
下記式(1)で表される繰り返し単位を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂:
【化1】
(式中、環Zは(同一又は異なって)芳香族炭化水素環を示し、RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を含んでいてもよい芳香族基を示し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)。
《態様5》
前記式(1)が下記式(1b)又は(1c)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つである、態様4に記載の熱可塑性樹脂:
【化4】
【化5】
(式中、ArおよびAr、LおよびL、RおよびR、jおよびk、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
《態様6》
前記式(1)中、Zはベンゼンまたはナフタレンを示す、前記態様4又は5に記載の熱可塑性樹脂。
《態様7》
下記式(9)で表される繰り返し単位を含む、態様1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂:
【化6】
(式中、ArおよびAr、LおよびL、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
《態様8》
前記式(9)が下記式(9-1)で表される単位からなる群より選ばれる、態様7に記載の熱可塑性樹脂:
【化7】
(式中、ArおよびAr、LおよびL、mおよびn、Wは前記式(1)と同じである。)
《態様9》
屈折率nDが、1.640以上である、態様1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
《態様10》
比粘度が、0.12~0.40である態様1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
《態様11》
ガラス転移温度が、130~170℃である、態様1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
《態様12》
ポリエステル、ポリエステルカーボネート、又はポリカーボネートである、態様1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
《態様13》
態様1~12のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を含む、光学部材。
《態様14》
光学レンズである、態様13に記載の光学部材。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1~3及び比較例1~3の熱可塑性樹脂の0.1質量%ジクロロメタン溶液透過スペクトルである。
図2】BPDP2(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン)のH NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《熱可塑性樹脂》
本発明の熱可塑性樹脂は、立体構造系成分単位を含み、
前記立体構造系成分単位は、単環式芳香族基及び縮合多環式芳香族基からなる群より選択される芳香族基を4つ以上含み、
前記立体構造系成分単位は、3つ以上の単環式芳香族基が共役構造となっているか、1つ以上の単環式芳香族基と1つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっているか、又は2つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっており、
0.1質量%ジクロロメタン溶液において波長355nmの光透過率が20%未満であり、かつ波長500nmの光透過率が90%以上である。
【0010】
本発明者らは、単環式芳香族基及び/又は縮合多環式芳香族基を含む非常に嵩高い立体構造系成分単位を含み、かつ上記のようにその少なくとも一部が共役構造を形成している場合に、その樹脂が、非常に高い紫外線吸収性と可視光透過性とを有することができることを見出した。このような樹脂を用いて形成した光学レンズを用いた場合には、それ自体が紫外線をカットする性質を有するため、樹脂に紫外線吸収剤を含有させたり、紫外線カットフィルターを用いたり、紫外線吸収コーティングを用いたりする等の必要がなく、撮像モジュールへの紫外線の入射を防止することができるため有用である。
【0011】
〈熱可塑性樹脂の物性〉
本発明の熱可塑性樹脂は、0.1質量%ジクロロメタン溶液において波長355nmの光透過率が20%未満であり、好ましくは15%以下、10%以下、又は5%以下である。上記の立体構造系成分単位を含む熱可塑性樹脂は、固体状態では吸収波長が溶液よりも長波長シフトする。すなわち、溶液において355nmの光透過率が20%未満であれば、光学レンズなどの固体状態において近紫外線領域である200~380nmの波長を有効に遮断することができる。本発明の熱可塑性樹脂は、光学レンズの分野で周知の紫外線吸収剤を実質的に含有していなくても、このような低い紫外線透過率を有しており、非常に有利である。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂は、0.1質量%ジクロロメタン溶液において波長500nmの光透過率が90%以上であり、好ましくは92%以上、94%以上、96%以上、又は98%以上である。本発明の熱可塑性樹脂は、上述のような低い紫外線透過率を有していながら、非常に高い可視光透過性を有しているため、非常に有利である。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂が有する、25℃で測定した波長589nmの屈折率(nD)は、例えば、1.630以上である。屈折率(nD)は、1.640以上、1.650以上、1.660以上、1.670以上、1.680以上、1.690以上、1.700以上、又は1.710以上であってもよく、1.770以下、1.750以下、1.730以下、1.710以下、1.700以下、1.695以下、又は1.690以下であってもよい。例えば、屈折率(nD)は、1.640以上1.770以下、1.670以上1.750以下、又は1.680以上1.730以下であってもよい。
【0014】
本明細書において、「アッベ数(ν)」は、25℃で測定した波長486nm、589nm、656nmの屈折率から下記式を用いて算出され、これらは実施例に記載した方法によって測定される:
ν=(nD-1)/(nF-nC)
(ここで、nD:波長589nmでの屈折率、nC:波長656nmでの屈折率、nF:波長486nmでの屈折率を表す)。
【0015】
その熱可塑性樹脂が有するアッベ数(ν)は、例えば、25.0以下である。アッベ数(ν)は、24.0以下、22.0以下、20.0以下18.0以下、17.0以下、16.0以下、又は15.0以下であってもよく、10.0以上、11.0以上、12.0以上、13.0以上、14.0以上、15.0以上、又は16.0以上であってもよい。例えば、アッベ数(ν)は、10.0以上25.0以下、11.0以上22.0以下、又は14.0以上18.0以下であってもよい。
【0016】
その熱可塑性樹脂は、着色の度合いが小さく、特に黄色味が薄い。具体的にはCIE1976(L)表色系のb値が、10.0以下であり、8.0以下、6.0以下、5.0以下、又は3.0以下が好ましく、0.01以上、0.1以上、1.0以上、又は3.0以上であってもよい。例えば、このb値は、0.01以上10.0以下、又は0.1以上5.0以下であってもよい。このb値は、ジクロロメタン5mlに1.0gを溶解した溶液(ジクロロメタン中に13質量%で溶解した溶液)について分光光度計で測定したCIE1976(L)表色系の値である。
【0017】
光学レンズ用の熱可塑性樹脂の原料を合成際には、パラジウム触媒が用いられることがあるが、本発明者らは、原料中のパラジウム触媒の残存量が、熱可塑性樹脂の着色に関係していることを見出した。そして、本発明者らは、パラジウム触媒の残存量を調整させた上記のような熱可塑性樹脂を用いることによって、有用な光学レンズが与えられることを見出した。
【0018】
その熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、(株)島津製作所製DSC-60Aにより、昇温速度20℃/minで測定した場合に、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、又は160℃以上であってもよく、190℃以下、180℃以下、170℃以下、又は160℃以下であってもよい。例えば、そのガラス転移温度は、120℃以上190℃以下、又は130℃以上170℃以下である。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0019】
その熱可塑性樹脂の比粘度は、0.10以上、0.12以上、0.15以上、0.18以上、0.20以上、又は0.25以上であってもよく、0.5以下、0.45以下、0.4以下、0.35以下、又は0.3以下であってもよい。例えば、その比粘度は、0.12以上0.40以下、0.15以上0.35以下、又は0.18以上0.30以下であってもよい。比粘度がこのような範囲である場合、成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。なお、比粘度は、重合終了後に得られた樹脂0.7gをジクロロメタン100mlに溶解した溶液(ジクロロメタン中に0.5質量%で溶解した溶液)を用いて、20℃で測定する。
【0020】
〈熱可塑性樹脂の構造〉
本発明の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、及びポリカーボネートを挙げることができる。
【0021】
このような屈折率と紫外線吸収とを有する熱可塑性樹脂は、立体構造系成分単位を含むことが好ましく、ここで、立体構造系成分単位は、単環式芳香族基及び縮合多環式芳香族基からなる群より選択される芳香族基を4つ以上含むことが好ましく、特に、立体構造系成分単位は、芳香族の置換基を側鎖に含むフルオレン系成分単位若しくはアントロン系成分単位及び/又は芳香族の置換基を含むビナフタレン系成分単位を有することが好ましい。これらのフルオレン系成分単位若しくはアントロン系成分単位、及びビナフタレン系成分単位は、フルオレン系若しくはアントロン系又はビナフタレン系のハロゲン化物(例えば、臭素化物 )に、遷移金属触媒(例えば、白金族元素系触媒、特にパラジウム系触媒)を用いて、有機金属化合物 (例えば、ボロン酸芳香族化合物)を反応させることによって得ることができる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂の立体構造系成分単位は、3つ以上の単環式芳香族基及が共役構造となっているか、1つ以上の単環式芳香族基と1つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっているか、又は2つ以上の縮合多環式芳香族基が共役構造となっている。この場合、これらの単環式芳香族基及び縮合多環式芳香族基は、一つの単結合でつながった状態で共役結合を形成していることが好ましい。このように適度に共役構造が広がっている場合に、紫外線を吸収することができ、かつ可視光の透過性も高くなる傾向にある。
【0023】
本明細書において、共役構造になっているかどうかについては、芳香族基や多重結合のπ電子が非局在化している場合を共役構造であると定義する。
【0024】
また、本明細書において、「芳香族基」とは、特記しない限り、炭素原子と水素原子のみから形成される芳香族基に限定されず、ヘテロ原子を含む複素芳香族基も包含する。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子を挙げることができる。また、「芳香族基」とは、特記しない限り、単環式芳香族基及び縮合多環式芳香族基を含む。
【0025】
たとえば、本発明の熱可塑性樹脂は、上記のような立体構造系成分単位を、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、又は70mol%以上含んでいてもよく、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、又は40mol%以下で含んでいてもよい。例えば、その熱可塑性樹脂は、上記のような立体構造系成分単位を10mol%以上100mol%以下、又は20mol%以上80mol%以下で含んでいてもよい。
【0026】
芳香族の置換基を側鎖に含むフルオレン系成分単位又はアントロン系成分単位としては、例えば、下記式(1)で表される繰り返し単位を挙げることができる。
【0027】
(式(1)の繰り返し単位)
【化8】
(式中、環Zは同一又は異なって芳香族炭化水素環を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基を示し、Ar及びArは、置換基を含んでいてもよい芳香族基を示し、L及びLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、j及びkはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m及びnはそれぞれ独立に0又は1を示し、Wは下記式(2)又は(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【化9】
【化10】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【0028】
式(1)で表される繰り返し単位は、特に下記式(1b)又は(1c)で表される単位であることが好ましい:
【化11】
【0029】
【化12】
【0030】
なお、フルオレン又はアントロンに含まれる2つの単環式芳香族基であるベンゼン環と、主鎖に位置する環Zとの間では、共役構造を形成しない。式(1)の繰り返し単位においては、少なくとも、フルオレン又はアントロンの単環式芳香族基と、Ar及び/又はArとが共役構造を形成する。
【0031】
上記式(1)において環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環の他、少なくともベンゼン環骨格を有する縮合多環式芳香族炭化水素環が挙げられ、例えば、縮合二環式炭化水素環、縮合三環式炭化水素環等の縮合二乃至四環式炭化水素環などが好ましい。
【0032】
縮合二環式炭化水素環としては、インデン環、ナフタレン環等のC8-20が好ましく、C10-16縮合二環式炭化水素環がより好ましい。また、縮合三環式炭化水素環としては、アントラセン環、フェナントレン環等が好ましい。
環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。
【0033】
上記式(1)において環Zで表される芳香族炭化水素環の具体例としては、1,4-フェニレン基、1,4-ナフタレンジイル基又は2,6-ナフタレンジイル基が好ましく、1,4-フェニレン基又は2,6-ナフタレンジイル基がより好ましい。
【0034】
上記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、水素原子、メチル基、又はフェニル基が好ましい。
【0035】
上記式(1)において、R及びRで表される炭化水素基としては、アルキル基
シクロアルキル基、アリール基、ナフチル基、アラルキル基などが例示できる。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基などが好ましく、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基がより好ましく、C1-3アルキル基がさらに好ましく、その中でメチル基又はエチル基がよりさらに好ましい。
【0036】
また、シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基、C5-6シクロアルキル基などが好ましく、C5-6シクロアルキル基がより好ましい。
【0037】
また、アリール基の具体例としては、フェニル基、アルキルフェニル基(モノ又はジメチルフェニル基(トリル基、2-メチルフェニル基、キシリル基など)などが好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0038】
また、ナフチル基の具体例としては、1-ナフチル基又は2-ナフチル基などが好ましい。
【0039】
また、アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが好ましく例示できる。
【0040】
又はハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが好ましい。
【0041】
上記式(1)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を含有してもよい炭素原子数1~10の単環式芳香族基若しくは縮合多環式芳香族基又は置換基を含有してもよい5員若しくは6員の複素芳香族基若しくはそれを含む縮合複素芳香族基を示してもよく、その炭素原子数1~10の芳香族基としては、置換基を含有してもよいフェニル基又はナフチル基が好ましい。また、ナフチル基の場合は、1-ナフチル基又は2-ナフチル基が好ましく、2-ナフチル基がより好ましい。Ar及びArのそれぞれの結合位置はフルオレン骨格又はアントロン骨格の2位と7位、又は3位と6位であると好ましく、2位と7位であるとさらに好ましい。複素芳香族基としては、5員若しくは6員の複素芳香族基又はそれを含む縮合複素芳香族基であることが好ましく、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子を挙げることができ、特に硫黄原子を挙げることができる。
【0042】
特許文献3には、以下の式を有する9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン(以下、「BOPPEF」ともいう)を用いて得られた熱可塑性樹脂が記載されている。
【化13】
【0043】
この特許文献3に記載のポリマーは、フルオレン骨格のポリマーの主鎖に芳香族基が導入されているが、本発明者らは、フルオレン骨格のポリマーの側鎖に芳香族基を導入したポリマーの吸収波長が、特許文献3に記載のポリマーの吸収波長と比較して、大幅に長波長化することを見出した。芳香族基を主鎖部分に含むか、側鎖部分に含むかの差によって、吸収波長が約40nmの差が出たことは非常に驚くべき結果であった。(図1
【0044】
その理由として以下のことが考えられる。
【0045】
ポリマーの側鎖部分、すなわちフルオレンに芳香族基を導入した場合、前述のようにフルオレンの単環式芳香族基と、導入した芳香族基とが共役構造を形成し、側鎖全体でπ電子の非局在化が起こる。これによって大幅な電子遷移エネルギーの低下が起こり、吸収波長は長波長化する。一方で、ポリマーの主鎖に芳香族基を導入した場合、共役構造の形成は主鎖の一部分にとどまるため、電子遷移エネルギーの低下はほとんど起こらず、芳香族基を導入したことによる吸収波長の低下がほとんど起こらない。これは、フルオレン骨格のポリマーだけではなく、アントロン骨格のポリマーについても同様に考えることができる。
【0046】
さらに、本発明者らは、Ar及びArの芳香族基の中でも、ナフチル基が、フェニル基と比較して、さらに吸収波長の長波長化を与えることを見出した。そして、吸収波長の長波長化の効果は、ナフチル基の種類(1-ナフチル基、2-ナフチル基)によって顕著に異なることも見出した。これらの理由は、ナフチル基の結合位置の違いにより立体障害が生じるため、フルオレン部又はアントロン部を含む側鎖全体の共役状態が異なっているものと考えられる。つまり、2-ナフチル基とフルオレン部との共役状態は、1-ナフチル基とフルオレン部との共役状態よりもπ電子が非局在化しているために吸収波長の約15nm程度の長波長化がみられたものと考えられる。また、これらの共役状態の違いは、屈折率や複屈折にも大きな違いをもたらす。これについても、フルオレン骨格のポリマーだけではなく、アントロン骨格のポリマーについても同様に考えることができる。
【0047】
また、芳香族基が導入されたフルオレン骨格又はアントロン骨格を有しているため耐熱性を高くすることができ、複屈折・成形性をバランスさせることも可能である。
【0048】
前記式(1)において、L、Lはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、エチレン基であるとより好ましい。L、Lの連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度を調整することができる。
【0049】
前記式(1)において、Wは前記式(2)又は(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。Wが前記式(2)である場合、前記式(1)はカーボネート単位となり、Wが前記式(3)である場合、前記式(1)はエステル単位となる。
【0050】
前記式(1)で表される繰り返し単位は、全繰り返し単位を基準として下限は、5mol%、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、又は70mol%以上含有することができる。前記式(1)で表される繰り返し単位が、前記範囲であると高屈折率であり好ましい。また、上限は、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、又は40mol%以下で含有することができる。前記式(1)で表される繰り返し単位が前記範囲であると、紫外線吸収性と可視光透過性とを有し、高い屈折率を有し、また複屈折を低くでき、かつ耐熱性と成形性とをバランスさせることができる樹脂が得られやすい。
【0051】
前記式(3)において、Xは2価の連結基を示し、炭素原子数1~30の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基であることが好ましく、フェニレン基、ナフタレンジイル基、下記式(4)又は式(5)で表される基であることがより好ましい。
【0052】
【化14】
(式中、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~12の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【化15】
【0053】
(式(6)~(8)の繰り返し単位)
本発明の光学レンズで用いられる熱可塑性樹脂は、下記式(6)~(8)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0054】
【化16】
(式中、R13およびR14はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~12の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0055】
【化17】
(式中、R15およびR16はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0056】
【化18】
(式中、R17およびR18はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Yは単結合または2価の連結基である。)
【0057】
その熱可塑性樹脂において、前記式(6)~(8)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを繰り返し単位として含む場合、前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(6)~(8)で表される単位からなる群との繰り返し単位のmol比が95:5~5:95であることが好ましく、90:10~10:90、80:20~20:80、又は70:30~30:70であるとさらに好ましい。前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(6)~(8)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの繰り返し単位とのmol比が、前記範囲であると、高い屈折率を有し、また複屈折を低くでき、かつ耐熱性と成形性とをバランスさせることができる樹脂が得られやすい。
【0058】
式(6)~(8)中のR13~R18は、それぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~12の炭化水素基又はハロゲン原子であり、特に水素原子又はフェニル基であってもよい。Yは単結合又は2価の連結基であり、例えば炭素原子数1~12の2価の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子等であってよい。
【0059】
芳香族の置換基を含むビナフタレン系成分単位としては、例えば、下記式(9)で表される繰り返し単位を挙げることができる。
【0060】
(式(9)の繰り返し単位)
【化19】
【0061】
ここで、L、L、W、m、n、Ar及びArは、式(1)のものと同一である。なお、ビナフタレン構造の2つのナフチル基はおおよそ直交しているためπ電子がナフチル基同士で非局在化しておらず共役構造を形成しないため、ナフチル基とAr又はArとが共役構造を形成する。
【0062】
式(9)の繰り返し単位の中でも特に、Ar及びArが以下の位置に存在している式(9-1)の繰り返し単位は、ナフチル基とAr及びArとの間で共役構造を形成しやすいために好ましい。
【化20】
【0063】
前記式(9)で表される繰り返し単位は、全繰り返し単位を基準として下限は、5mol%、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、又は70mol%以上含有することができる。前記式(9)で表される繰り返し単位が、前記範囲であると高屈折率であり好ましい。また、上限は、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、又は40mol%以下で含有することができる。前記式(9)で表される繰り返し単位が前記範囲であると、紫外線吸収性と可視光透過性とを有し、高い屈折率を有し、また複屈折を低くでき、かつ耐熱性と成形性とをバランスさせることができる樹脂が得られやすい。
【0064】
(その他の繰り返し単位)
その熱可塑性樹脂は、本発明の特性を損なわない程度に他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位は、全繰り返し単位中30mol%未満、20mol%以下、10mol%以下、又は5mol%以下が好ましい。
【0065】
〈熱可塑性樹脂の原料〉
(式(1)のジオール成分)
式(1)の原料となるジオール成分は、主として式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
【化21】
【0067】
前記式(a)において、環Z、R、R、Ar、Ar、L、L、j、k、m及びnは、前記式(1)における各式と同じである。これらは、フルオレン骨格又はアントロン骨格の2つの単環式芳香族基が共役構造となっており、またその共役構造は、それらの2つの単環式芳香族基と単結合で結合しているAr及びArと共にさらに共役が広がる構造を形成するため好ましい。
【0068】
以下、前記式(a)で表されるジオール成分の代表的具体例を示すが、前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0069】
Ar及びArがフェニル基の場合においては、下記式(a1)~(a4)に示す、下記式(a1):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン(以下、「BPDP2」ともいう)、下記式(a2):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-3,6-ジフェニルフルオレン(以下、「BPDP3」ともいう)、下記式(a3):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン、下記式(a4):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,6-ジフェニルフルオレン、及びこれらのそれぞれ対応するアントロン化合物がより好ましく、特に、下記式(a1):BPDP2、下記式(a3):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン、及びこれらのそれぞれ対応するアントロン化合物が好ましい。
【0070】
これらは単独で使用してもよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、Ar及びArのフェニル基に置換基が存在していてもよい。
【0071】
【化22】
【0072】
【化23】
【0073】
【化24】
【0074】
【化25】
【0075】
Ar及びArがナフチル基の場合においては、下記式(a5):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、下記式(a6):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-3,6-ジ(1-ナフチル)フルオレン、下記式(a7):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、下記式(a8):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,6-ジ(1-ナフチル)フルオレン、下記式(a9):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、下記式(a10):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン、下記式(a11):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、下記式(a12):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン及びこれらのそれぞれ対応するアントロン化合物がより好ましい。
【0076】
特に、下記式(a5):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン(以下、「BPDN1」ともいう)、下記式(a7):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、下記式(a9):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(以下、「BPDN2」ともいう)、下記式(a11):9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン及びこれらのそれぞれ対応するアントロン化合物が好ましい。
【0077】
これらは単独で使用してもよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、Ar及びArのナフチル基に置換基が存在していてもよい。
【0078】
【化26】
【0079】
【化27】
【0080】
【化28】
【0081】
【化29】
【0082】
【化30】
【0083】
【化31】
【0084】
【化32】
【0085】
【化33】
【0086】
Ar及びArが複素芳香族基の場合においては、式(a)のジオール成分として、例えば、以下の式(a13)の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-チエニル)フルオレン(以下、「BPDT2」ともいう)を挙げることができる:
【化34】
【0087】
このジオールは、フルオレン骨格の2つの単環式芳香族基と、それらに一つの単結合で結合している複素芳香族基とが全体で共役が広がる構造を形成するため好ましい。
【0088】
環Zが、ナフタレン環である場合、例えば、以下の式(a14)の9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン)(以下、「BNDP2」ともいう)及び式(a15)の9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(以下、「BNDN2」ともいう)及びその対応するアントロン化合物を挙げることができる:
【0089】
【化35】
【0090】
【化36】
【0091】
これらは、フルオレン骨格又はアントロン骨格の2つの単環式芳香族基と、それらに一つの単結合で結合している単環式芳香族基又は縮合多環式芳香族基とが全体で共役構造を形成するため好ましい。
【0092】
(式(6)~(8)のジオール成分)
熱可塑性樹脂は、さらに前記式(6)~(8)で表される繰り返し単位を有していてもよく、前記式(6)~(8)の原料となるジオール成分を下記に示す。これらは単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0093】
前記式(6)の原料となるジオール成分は、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジメチル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジメチル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンが挙げられる。
【0094】
前記式(7)の原料となるジオール成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、及びその対応するアントロン化合物等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、及びその対応するアントロン化合物が特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0095】
前記式(8)の原料となるジオール成分は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、10,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アントロン等が例示され、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0096】
(式(9)のジオール成分)
式(9)の原料となるジオール成分は、主として式(b)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0097】
【化37】
【0098】
ここで、L、L、m、n、Ar及びArは、式(1)のものと同一である。
【0099】
Ar及びArがフェニル基の場合、式(b)のジオール成分として、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-5,5’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-8,8’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン等を挙げることができる。
【0100】
例えば、下記式(b1)の2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン(以下、「BHEB6」ともいう)は、ビナフタレン骨格の1つの縮合多環式芳香族基(ナフチル基)と、それに一つの単結合で結合している結合している1つの単環式芳香族基(フェニル基)とが共役構造となっている。
【0101】
【化38】
【0102】
Ar及びArがナフチル基の場合、式(b)のジオール成分として、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジ(1―ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ジ(1-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-5,5’-ジ(1-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジ(1-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジ(1-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-8,8’-ジ(1-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-5,5’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-8,8’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレン等を挙げることができる。
【0103】
例えば、下記式(b2)の2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジ(2-ナフチル)-1,1’-ビナフタレンは、ビナフタレン骨格の1つの縮合多環式芳香族基(ナフチル基)と、それに一つの単結合で結合している1つの縮合多環式芳香族基(ナフチル基)とが共役構造となっている。
【0104】
【化39】
【0105】
(その他の共重合成分)
熱可塑性樹脂は、本発明の特性を損なわない程度に他のジオール成分を共重合してもよい。他のジオール成分は、全繰り返し単位中30mol%未満、20mol%以下、10mol%以下、又は5mol%以下が好ましい。
【0106】
その熱可塑性樹脂に使用するその他のジオール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカンジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、デカリン-2,6-ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン-1,3-ジメタノール、スピログリコール、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン、1,1’-ビ-2-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ナフタレン等が例示され、これらは単独又は二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0107】
(式(1)又は式(9)のジカルボン酸成分)
その熱可塑性樹脂の前記式(1)又は式(9)で表される単位に使用するジカルボン酸成分は主として、HOOC-X-COOHで表されるジカルボン酸、又はそのエステル形成性誘導体が好ましく用いられる。ここで、Xは、式(1)又は式(9)で表される単位を与えるための2価の連結基を示す。
【0108】
式HOOC-X-COOHで表されるジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体の代表的具体例は、本発明の前記式(a)及び(b)のジオールがジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体となっているものを挙げることができる。
【0109】
その熱可塑性樹脂に使用するジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフタレン、9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン等の多環式芳香族ジカルボン酸成分、2,2’-ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸成分が挙げられ、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフタレンが好ましい。これらは単独又は二種類以上組み合わせて用いても良い。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよい。
【0110】
その熱可塑性樹脂は、例えばジオール成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法やジオール成分にジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を反応させる方法等により製造される。以下にその具体例を示す。
【0111】
〈熱可塑性樹脂の製造方法〉
本発明のポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂は、通常の樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えばポリカーボネートであればジヒドロキシ化合物に炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。この製造方法については、上記式(a)や(b)などの態様1を満たす繰返し単位をもたらすためのモノマーを使用すること以外は、特許文献3を参照することができる。
【0112】
(ポリカーボネートの製造方法)
その熱可塑性樹脂がポリカーボネートである場合は、ジオール成分とカーボネート前駆体を界面重合法又は溶融重合法によって反応させる、従来から周知の方法によって得られる。ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0113】
(ポリエステルの製造方法)
その熱可塑性樹脂がポリエステルである場合は、ジオール成分とジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、得られた反応生成物を重縮合反応させ、所望の分子量の高分子量体とすればよい。この製造方法も周知の方法を使用することができる。
【0114】
(ポリエステルカーボネートの製造方法)
その熱可塑性樹脂がポリエステルカーボネートである場合は、ジオール成分及びジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。重合方法は前記ポリカーボネート又はポリエステルと同様の周知の方法を用いることができる。
【0115】
〈熱可塑性樹脂-不純物〉
(残存フェノール)
熱可塑性樹脂の残存フェノール含有量は、好ましくは1~500ppm、より好ましくは1~400ppm、さらに好ましくは1~300ppmである。フェノールの含有量は、圧力1.3kPa以下での反応時間により調整することが好ましい。1.3kPa以下の真空度での反応を行わない場合は、フェノールの含有量が多くなる。又、反応時間が長すぎると、樹脂中より留去しすぎてしまう。
【0116】
その熱可塑性樹脂を得た後にフェノール含有量を調整して良い。例えば、熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解させ、有機溶媒層を水で洗う方法や、一般に使用されている一軸又は二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用い、133~13.3Paの圧力、200~320℃の温度で脱揮除去する方法を用いても良い。残存フェノールの含有量が適切である場合、耐熱性を損なうことなく、成形流動性を向上させる事ができる。また、樹脂を加熱溶融した際の熱安定性も良好になり、樹脂射出成形時の金型汚染も防止することができる。さらに、フェノールは、酸化されると着色する性質があるが、このような範囲であれば、熱可塑性樹脂の色相が悪化しにくく、成形流動性も良好となる。
【0117】
(残存フルオレノン)
熱可塑性樹脂の残存フルオレノン含有量は、好ましくは1~500ppm、より好ましくは1~300ppm、さらに好ましくは1~100ppm、特に好ましくは1~50ppmである。熱可塑性樹脂における残存フルオレノンの含有量が適切であると、樹脂の着色を防止できる。
【0118】
フルオレノンは、フルオレン系成分単位のモノマーを製造する際の原料として用いられ、製造過程ですべてを取り除くことができなかった場合残存する。本発明者らは、フルオレノンの残存量が、熱可塑性樹脂の着色に関係していることを見出した。
【0119】
(残存パラジウム(Pd)触媒量)
熱可塑性樹脂には、パラジウム触媒が含まれていないことが好ましい。熱可塑性樹脂中の残存パラジウム触媒量は、10ppm以下であることが好ましく、5.0ppm以下、3.0ppm以下、1.0ppm以下、又は0.5ppmであることがさらに好ましく、0.0ppm以上、0.1ppm以上、0.2ppm以上、又は0.5ppm以上であってもよい。熱可塑性樹脂中の残存パラジウム触媒量が適切であると、樹脂の着色を防止することができる。
【0120】
パラジウム触媒は、フルオレン系成分単位若しくはアントロン系成分単位又はビナフタレン系成分単位に、芳香族の置換基を結合させる際の触媒として用いられ、芳香族の置換基を側鎖に含むフルオレン系成分単位若しくはアントロン系成分単位及び/又は芳香族の置換基を含むビナフタレン系成分単位を含む熱可塑性樹脂においては、通常、残存する。本発明者らは、パラジウム触媒の残存量が、熱可塑性樹脂の着色に関係していることを見出した。樹脂中の残存パラジウム量を低下させるために、そのパラジウム触媒残渣を含むモノマー及び/又はその樹脂に、脱パラジウム処理を行うことができる。
【0121】
〈添加剤〉
本発明の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、離型剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、充填剤などの添加剤を適宜添加して用いることができる。
具体的な離型剤、熱安定剤としては、国際公開2011/010741号パンフレットに記載されたものが好ましく挙げられる。
【0122】
特に好ましい離型剤としては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドとステアリルステアレートの混合物が好ましく用いられる。また、離型剤中の前記エステルの量は、離型剤を100質量%とした時、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物に配合させる離型剤としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005~2.0質量部の範囲が好ましく、0.01~0.6質量部の範囲がより好ましく、0.02~0.5質量部の範囲がさらに好ましい。
【0123】
熱安定剤としては、リン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤及びヒンダードフェノール系熱安定剤が挙げられる。
【0124】
また、特に好ましいリン系の熱安定剤としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイトが使用される。また、熱可塑性樹脂のリン系熱安定剤の含有量としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001~0.2質量部が好ましい。
【0125】
また、特に好ましい硫黄系熱安定剤としては、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)である。また、熱可塑性樹脂の硫黄系熱安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001~0.2質量部が好ましい。
【0126】
また、好ましいヒンダードフェノール系熱安定剤としては、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。
【0127】
熱可塑性樹脂中のヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001~0.3質量部が好ましい。
【0128】
リン系熱安定剤とヒンダードフェノール系熱安定剤は、併用することもできる。
【0129】
その熱可塑性樹脂組成物に紫外線吸収剤は含有させる必要はないが、含有される場合に、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤及びシアノアクリレート系からなる群より選ばれた少なくとも1種の紫外線吸収剤が好ましい。
【0130】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤において、より好ましくは、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]である。
【0131】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0132】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ビス(2.4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(オクチル)オキシ]-フェノール等が挙げられる。
【0133】
環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、特に2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)が好適である。
【0134】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、1,3-ビス-[(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、及び1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼン等が挙げられる。
【0135】
紫外線吸収剤は実質的に含有されていなくてもよく、例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して、紫外線吸収剤は、3.0質量部以下、2.0質量部以下、1.0質量部以下、0.5質量部以下、0.3質量部以下、0.1質量部以下、又は0.01質量部以下である。
【0136】
ブルーイング剤としては、バイエル社のマクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR並びにクラリアント社のポリシンスレンブル-RLS等が挙げられる。ブルーイング剤は、熱可塑性樹脂の黄色味を消すために有効である。特に耐候性を付与した熱可塑性樹脂組成物の場合は、一定量の紫外線吸収剤が配合されているため「紫外線吸収剤の作用や色」によって樹脂組成物が黄色味を帯びやすい現実があり、レンズに自然な透明感を付与するためにはブルーイング剤の配合は非常に有効である。
【0137】
ブルーイング剤の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して好ましくは0.05~1.5ppmであり、より好ましくは0.1~1.2ppmである。
【0138】
〈光学部材〉
本発明の熱可塑性樹脂は、光学部材、特に光学レンズに好適である。光学部材としては、レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特に光学レンズに極めて有用である。
【0139】
〈光学レンズ〉
本発明の光学レンズを射出成型で製造する場合、シリンダー温度230~350℃、金型温度70~180℃の条件にて成形することが好ましい。さらに好ましくは、シリンダー温度250~300℃、金型温度80~170℃の条件にて成形することが好ましい。シリンダー温度が350℃より高い場合では、熱可塑性樹脂が分解着色し、230℃より低い場合では、溶融粘度が高く成形が困難になりやすい。また金型温度が180℃より高い場合では、熱可塑性樹脂から成る成形片が金型から取り出すことが困難になりやすい。他方、金型温度が、70℃未満では、成型時の金型内で樹脂が早く固まり過ぎて成形片の形状が制御しにくくなり、金型に付された賦型を十分に転写することが困難になりやすい。
【0140】
本発明の光学レンズは、必要に応じて非球面レンズの形を用いることが好適に実施される。非球面レンズは、1枚のレンズで球面収差を実質的にゼロとすることが可能であるため、複数の球面レンズの組み合わせで球面収差を取り除く必要が無く、軽量化及び成形コストの低減化が可能になる。したがって、非球面レンズは、光学レンズの中でも特にカメラレンズとして有用である。
【0141】
具体的なレンズサイズとして、中心部の厚みが0.05~3.0mm、より好ましくは0.05~2.0mm、さらに好ましくは0.1~2.0mmである。また、直径が1.0mm~20.0mm、より好ましくは1.0~10.0mm、さらに好ましくは、3.0~10.0mmである。また、その形状として片面が凸、片面が凹であるメニスカスレンズであることが好ましい。
【0142】
本発明の光学レンズは、金型成形、切削、研磨、レーザー加工、放電加工、エッチングなど任意の方法により成形される。この中でも、製造コストの面から金型成形がより好ましい。
【実施例
【0143】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0144】
《評価方法》
〈屈折率〉
得られた樹脂3gをジクロロメタン50mlに溶解させ、ガラスシャーレ上にキャストする。室温にて十分に乾燥させた後、120℃以下の温度にて8時間乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを作製した。そのフィルムをATAGO製DR-M2アッベ屈折計を用いて、25℃における屈折率nD(波長:589nm)を測定した。
【0145】
〈光透過率〉
得られた樹脂6.7mgをジクロロメタン(比重:1.33g/mL)5mLに溶解させ0.1質量%溶液を作製する。その溶液の250nmから780nmの透過率を、日立製U-3310形分光光度計を用いて測定した。
【0146】
《製造例》
(1) BPDP2(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン)の合成
【0147】
(1-1)BPDB2(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ブロモフルオレン)の合成
撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けた500mLのフラスコに溶媒としてのトルエン150g、12タングスト(VI)リン酸n水和物H[PW1240]・nHO2.19gを仕込み、トルエン還流下共沸脱水した。内容物を冷却したのち2,7-ジブロモフルオレノン(以下、DBFNと略記することがある)33.8g(0.10mоl)、2-フェノキシエタノールを55.3g(0.40mоl)加え、トルエン還流下、反応により生成する水を系外へ排出しながら撹拌した。反応の進行具合は適宜HPLCにて確認し、DBFNの残存量が0.1質量%以下であることを確認し反応を終了させた。得られた中間目的物であるBPDB2は単離・精製せずそのまま次の工程1-2の反応へ移行した。
【0148】
(1-2)BPDP2の合成
工程1-1で得られた反応液を室温に冷やしたのち、2M炭酸カリウム水溶液85mLおよびフェニルボロン酸25.6g(0.21mоl)、さらにはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを1.12g(0.97mmоl)となるように添加し80℃で2時間撹拌することにより反応をおこなった。反応の進行具合はHPLCにて確認し、中間目的物の残存量が0.1質量%以下であることを確認し反応を終了させた。得られた反応液を室温まで冷却し、エタノールを加えて晶析させたのち固体をろ別回収した。回収した固体はクロロホルムへ溶解させ温水で3回洗浄したのち、クロロホルム層を活性炭で脱色処理および脱パラジウム処理したあと濃縮し粗精製物を得た。得られた粗精製物の固体はトルエンで再結晶し、最終目的物の白色固体41.3gを得た(収率70%)。また、得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した(図2)。溶媒はCDClを用いた。
【0149】
(2) BNDP2(9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン)の合成
【0150】
工程1-1の2-フェノキシエタノールを2-ナフトキシエタノールに変更した以外は上記のBPDP2と同様にして、BNDP2の白色固体を51.1g得た(収率74%)。得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はCDClを用いた。
【0151】
(3) BPDN1(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン)の合成
【0152】
工程1-2のフェニルボロン酸を1-ナフタレンボロン酸に変更した以外は上記のBPDP2の合成と同様にして、BPDN1の白色固体55.3gを得た(収率40%)。得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はCDClを用いた。
【0153】
(4) BPDN2(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン)の合成
【0154】
工程1-2のフェニルボロン酸を2-ナフタレンボロン酸に変更した以外は上記のBPDP2の合成と同様にして、BPDN2の白色固体39.4gを得た(収率57%)。 得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はCDClを用いた。
【0155】
(5) BPDT2(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-チエニル)フルオレン )の合成
【0156】
工程1-2のフェニルボロン酸を2-チオフェンボロン酸に変更した以外は上記のBPDP2の合成と同様にして、BPDT2の薄黄色固体40.4gを得た(収率67%) 。 得られた薄黄色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はDMSO―dを用いた。
【0157】
(6) BNDN2(9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)―2―ナフチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン )の合成
【0158】
工程1-1の2-フェノキシエタノールを2-ナフトキシエタノールに、工程1-2のフェニルボロン酸を2-ナフタレンボロン酸に変更した以外は上記のBPDP2の合成と同様にして、BNDN2の白色固体26.9gを得た(収率34%)。得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はCDClを用いた。
【0159】
(7) BHEB6(2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン)の合成
【0160】
(7-1)2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジブロモ-1,1’-ビナフタレンの合成
【0161】
撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けたフラスコに6,6’-ジブロモ-1,1’-ビ-2-ナフトール(以下、BN-6Brと略記することがある)5.0g(11.3mmоl)、エチレンカーボネート2.3g(25.9mmоl)、炭酸カリウム0.16g(1.9mmоl)、トルエン15gを仕込み、110℃で5時間反応した。反応の進行具合は適宜HPLCにて確認し、BN-6Brの残存量が0.1質量%以下であることを確認し反応を終了させた。得られた反応混合物にトルエン65gを加え希釈した後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液8gを加え85℃で1時間撹拌後、水層を分液除去した。有機層を濃縮したのち、酢酸エチルに溶解させ水洗後に水層を分液除去した。さらにヘキサンを加えてそのまま再結晶した結果、目的の2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジブロモ-1,1’-ビナフタレン(以下、BN2EO-6Brと略記することがある)の白色固体を3.7g得た(収率61%)。得られたサンプルはそのまま工程7-2の反応に使用した。
【0162】
(7-2)BHEB6の合成
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けたフラスコに工程7-1で得られたBN2EO-6Br3.5g(6.6mmоl)、フェニルボロン酸2.1g(16.5mmоl)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.112g(0.1mmоl)、2M炭酸カリウム水溶液9mL、トルエン33mL、エタノール12mLを仕込み、80℃で2時間反応した。反応の進行具合は適宜HPLCにて確認し、BN2EO-6Brの残存が0.1質量%以下であることを確認し反応を終了させた。得られた反応混合物を濃縮後、1M水酸化ナトリウム水溶液を加えクロロホルムで抽出した。得られた有機層に活性炭を加え1時間撹拌したのち、活性炭を濾別後に有機層を濃縮した。濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、目的のBHEB6の白色結晶を2.6g得た(収率75%)。得られた白色固体をH NMRにより分析し、目的物であることを確認した。溶媒はCDClを用いた。
【0163】
[実施例1]
合成したBPDP2を8.85質量部、BPEF26.31質量部、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)16.23質量部、及び炭酸水素ナトリウム3.00×10-5質量部を攪拌機及び留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを180℃に加熱し、原料を溶融させた。完全溶解後、5分かけて20kPaまで減圧すると同時に、60℃/hrの速度でジャケットを260℃まで昇温し、エステル交換反応を行った。その後、ジャケットを260℃に保持したまま、50分かけて0.13kPaまで減圧し、260℃、0.13kPa以下の条件下で所定のトルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性を表1に示す。
【0164】
[実施例2~7及び比較例1~6]
実施例1から表1に記載のように組成を変更して、実施例2~7及び比較例1~6のポリカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0165】
《結果》
ポリカーボネート樹脂に関する例の評価の結果を表1に示す。また、実施例1~3と比較例1~3の透過スペクトルを図1に示す。
【表1】
【0166】
BPDP2:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジフェニルフルオレン
BNDP2:9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)―2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン
BPDN1:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン
BPDN2:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン
BPDT2:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジ(2-チエニル)フルオレン
BNDN2:9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)―2-ナフチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン
BHEB6:2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン
BPEF:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン
BPA:ビスフェノールA
BOPPEF:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン
BNEF:9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン
BPEB:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-ベンゾ[b]フルオレン
BHEB:2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン
【0167】
実施例1~7の熱可塑性樹脂は、非常に高い屈折率を有し、また低い紫外線透過率を有していながら、非常に高い可視光透過性を有していた。
図1
図2