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特許7270729熱アシスト磁気記録媒体用オーバーコートとしての2次元アモルファス炭素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】熱アシスト磁気記録媒体用オーバーコートとしての2次元アモルファス炭素
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20230428BHJP
   G11B 5/72 20060101ALI20230428BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20230428BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20230428BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C01B32/00
G11B5/72
G11B5/73
G11B5/02 S
G11B5/84 B
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021519669
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 SG2019050374
(87)【国際公開番号】W WO2020096522
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】16/181,656
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509034605
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】オズィルマズ,バルバロス
(72)【発明者】
【氏名】トー,チー-タット
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ホンジー
(72)【発明者】
【氏名】マヨロフ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】フェリー,ダリム バドゥール
(72)【発明者】
【氏名】アンダーセン,ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】セチン,キャグダス
(72)【発明者】
【氏名】アビディ,イルファン ハイダー
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-099235(JP,A)
【文献】特開2017-027642(JP,A)
【文献】特表2009-541939(JP,A)
【文献】特開2018-131343(JP,A)
【文献】特開2018-160540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
G11B 5/72
G11B 5/73
G11B 5/02
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のオーバーコート層を含む記録デバイスであって、
前記オーバーコート層は、結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素層を含み、
前記結晶化度(C)は、六角形の数と非六角形の数との和に対する六角形の数の比であり、
前記六角形及び非六角形は、それぞれ前記アモルファス炭素層の格子構造における六角形及び非六角形の環である、
デバイス。
【請求項2】
前記オーバーコート層は、2次元(2D)アモルファス炭素薄膜を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の抵抗率は、0.01~1000Ω-cm(境界値を含む)である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の結晶化度(C)は0.8以下であり、sp3/sp2結合比は0.2以下である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の550nm以上の波長における透過率は、98%以上である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記オーバーコート層の水接触角は60°である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記2Dアモルファス炭素薄膜は、Sp3炭素結合及びSp2炭素結合の合計に対して、Sp2炭素結合を99%超で含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項8】
前記2Dアモルファス炭素薄膜は、700℃まで実質的に結合が変化しない、請求項2に記載のデバイス。
【請求項9】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の摩擦係数の範囲は、約0.2~0.4である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項10】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の紫外(UV)域における反射は、5%未満である、請求項2に記載のデバイス。
【請求項11】
前記記録デバイスは、磁気記録媒体を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記記録デバイスは、熱アシスト磁気記録媒体である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスは、前記オーバーコート層の下側にある磁気記録層を含み、
前記オーバーコート層は、前記下側にある磁気記録層を保護する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
追加の層を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記追加の層は:
基板層;
接着層;
ヒートシンク層;
軟磁性裏打ち層;
他の下地層;
記録層;
キャップ層;
潤滑層;及び
これらの組合せ
からなる群から選択される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記基板層は、金属製基板、ガラス、及び酸化物からなる群から選択される、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記オーバーコート層が、炭化水素を前駆体として使用するレーザー成長プロセスにより形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
基板層;
接着層;
ヒートシンク層;
軟磁性裏打ち層;
他の下地層;
記録層;
キャップ層;
オーバーコート層;及び
潤滑層
を含む磁気記録媒体デバイスであって、
前記オーバーコート層は、結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素オーバーコート層を含み、
前記結晶化度(C)は、六角形の数と非六角形の数との和に対する六角形の数の比であり、
前記六角形及び非六角形は、それぞれ前記アモルファス炭素オーバーコート層の格子構造における六角形及び非六角形の環である、
デバイス。
【請求項19】
前記オーバーコート層は、2次元(2D)アモルファス炭素薄膜を含む、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記2Dアモルファス炭素薄膜は、Sp3炭素結合及びSp2炭素結合の合計に対して、Sp2炭素結合を99%超で含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記2Dアモルファス炭素薄膜は、700℃まで実質的に結合が変化しない、請求項19に記載のデバイス。
【請求項22】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の摩擦係数の範囲は、約0.2~0.4である、請求項19に記載のデバイス。
【請求項23】
前記2Dアモルファス炭素薄膜の紫外(UV)域における反射は、5%未満である、請求項19に記載のデバイス。
【請求項24】
前記オーバーコート層が、炭化水素を前駆体として使用するレーザー成長プロセスにより形成される、請求項18に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は、全体として、2次元アモルファス炭素(2DAC)被覆技術に関する。より詳細には、本開示は、良好な耐食性及び高い熱安定性を付与する磁気記録媒体用オーバーコートに関する。開示する実施形態は、熱アシスト磁気記録媒体(HAMR)の性能を向上させることにより記憶媒体の面密度を増大させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
[0002] 先行技術には、改良された磁気記録媒体を開発し、その性能を向上させるという要求が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
[概要]
[0003] 第1の広範な態様によれば、本開示は、オーバーコート層を備える記録デバイスであって、このオーバーコート層は結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素オーバーコート層を含む、記録デバイスを提供する。
【0004】
[0004] 第2の広範な態様によれば、本開示は、基板層;接着層;ヒートシンク層;軟磁性裏打ち層(soft under layer);他の下地層;記録層;キャップ層;オーバーコート層;及び潤滑層を備え、オーバーコート層は、結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素オーバーコート層を含む、磁気記録媒体デバイスを提供する。
【0005】
[0005] 第3の広範な態様によれば、本開示は、記録デバイスの製造方法であって、オーバーコート層を基板に被覆することを含み、オーバーコート層は、結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素オーバーコート層を含む、方法を提供する。
【0006】
[0006] 第4の広範な態様によれば、本開示は、基板層;接着層;ヒートシンク層;軟磁性裏打ち層;他の下地層;記録層;キャップ層;オーバーコート層;及び潤滑層を備える磁気記録媒体デバイスの製造方法であって、オーバーコート層を基板に被覆し、オーバーコート層は、結晶化度(C)が0.8以下であるアモルファス炭素オーバーコート層を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
[0007] 添付の図面は本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成するが、これは本発明の例示的な実施形態を説明するものであり、以上に記載した一般的な説明及び以下に記載する詳細な説明と一緒に、本発明の特徴を説明する役割を果たすものである。
【0008】
図1】[0008]図1は、本開示の一実施形態による、本開示の原子薄膜の複合材料を示す概略図であり、連続性及び秩序性のあるランダムな六員環(グラフェンではない)を示すものである。
図2】[0009]図2は、本開示の一実施形態による、アモルファス薄膜(film)のTEM像を示すものであり、六角形及び非六角形が見られる。
図3】[0010]図3は、本開示の一実施形態による、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した窒化ホウ素上の本開示の炭素薄膜の厚みを示すものである。
図4】[0011]図4は、本開示の一実施形態による、SiO2上のアモルファス薄膜及びナノ結晶グラフェンのラマンスペクトルを示すものである。
図5】[0012]図5は、本開示の一実施形態による、アモルファス炭素(左)及びグラフェン(右)の原子薄膜のTEM回折像を示すものである。
図6】[0013]図6は、本開示の一実施形態による、本開示の炭素薄膜の透過率を示すものである。
図7】[0014]図7は、本開示の一実施形態による、2Dアモルファス薄膜の機械的性質及び自立した(suspended)炭素薄膜の実例(demonstration)を示すものである。
図8】[0015]図8は、本開示の一実施形態による、2DACの電気的性質を示すものである。
図9】[0016]図9は、本開示の一実施形態による、異なる基板上に成長させた複合材料を示すものである。
図10】[0017]図10は、本開示の一実施形態による、Cu上の2DACのX線光電子分光(XPS)を示すものである。
図11】[0018]図11は、本開示の一実施形態による、HAMR技術に使用される磁気ディスクの例示的な断面図を示すものである。
図12】[0019]図12は、本開示の一実施形態による、本開示のオーバーコート層の例示的な水接触角を示すものである。
図13】[0020]図13は、本開示の一実施形態による、商業化されているカーボンオーバーコートの熱安定性を本開示のオーバーコートと比較したグラフによる説明図である。
図14】[0021]図14は、本開示の一実施形態による、HAMR媒体に使用される磁気ヘッドの設計を図示した概略図である。
図15】[0022]図15は、本開示の一実施形態による、商業化されているカーボンオーバーコートの反射率を本開示のオーバーコートと比較したグラフによる説明図である。
図16a】[0023]図16aは、本開示の一実施形態による、SiO2/Siウェハ上に転写したアモルファス炭素(MAC)の単層を示すものである。
図16b】[0024]図16bは、本開示の一実施形態による、TEMグリッド上に保持したMACのSEM像を示すものである。
図16c】[0025]図16cは、本開示の一実施形態による、異なる基板上に成長させた本開示のアモルファス炭素のラマンスペクトルのグラフを示すものである。
図16d】[0026]図16dは、本開示の一実施形態による、Cu上に成長させた場合のラマンスペクトルのグラフを示すものである。
図16e】[0027]図16eは、本開示の一実施形態による、異なる基板上で直接測定したC1s XPSスペクトルのグラフを示すものである。
図16f】[0028]図16fは、本開示の一実施形態による、Cu上の高分解能C1s XPSスペクトルのグラフを示すものである。
図17a】[0029]図17aは、本開示の一実施形態による、本開示のアモルファス炭素単層の、単色化HRTEM像を示すものである。
図17b】[0030]図17bは、本開示の一実施形態による、図17aの選択された領域を拡大した原子マッピングを示すものである。
図17c】[0031]図17cは、本開示の一実施形態による、図17bの赤色の正方形で囲んだ領域に注目した拡大図である。
図17d】[0032]図17dは、本開示の一実施形態による、各炭素原子のマッピング座標から算出した対相関関数を示すものである。
図17e】[0033]図17eは、本開示の一実施形態による、グラフェン及び本開示のアモルファス炭素の単層の第1近接原子間の結合長の分布を比較した図である。
図17f】[0034]図17fは、本開示の一実施形態による、MAC及びグラフェンの結合角の分布の度数分布を示したものである。
図18a】[0035]図18aは、本開示の一実施形態による、荷重対撓み曲線を示すものである。
図18b】[0036]図18bは、本開示の一実施形態による、例示的な膜の2次元弾性スティフネスの度数分布を示すものである。
図18c】[0037]図18cは、本開示の一実施形態による、2次元弾性率対予張力(pre-tension)を、フィッティングした直線(赤色の線)及び理論上の範囲と共にグラフに示すものである。
図18d】[0038]図18dは、本開示の一実施形態による、SiO2/Si上のMAC層の理論シミュレーション及びAFM像を示すものである。
図18e】[0039]図18eは、本開示の一実施形態による、シミュレーションに用いた理論モデルを示すものである。
図18f】[0040]図18fは、本開示の一実施形態による、状態密度(DOS)シミュレーションを例示するものである。
図19a】[0041]図19aは、本開示の一実施形態による、2端子素子のSEM像を例示するものである。
図19b】[0042]図19bは、本開示の一実施形態による、2Dアモルファス炭素の光透過率を示すものである。
図19c】[0043]図19cは、本開示の一実施形態による、5種の異なる温度で測定した非線形I-V曲線を示すものである。
図19d】[0044]図19dは、本開示の一実施形態による、異なる温度で測定したゲート電圧の関数としての抵抗率を示すものである。
図19e】[0045]図19eは、本開示の一実施形態による、温度の関数としての異なる層数の試料の抵抗率を示すものである。
図19f】[0046]図19fは、本開示の一実施形態による、オフセットの抵抗率対電力の直線フィッティングを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[定義]
[0047] 用語の定義がその用語の一般に使用されている意味から外れている場合、本出願人は、特に断りのない限り、下に示す定義を用いることを意図している。
【0010】
[0048] 上述の一般的な説明及び以下に示す詳細な説明は、例示及び説明のみを目的としており、特許請求される主題を限定しないことを理解すべきである。本出願において、特に断りのない限り、単数形の使用は複数形も包含する。本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用する単数形(「a」、「an」、及び「the」)は、そうでないことが文脈上明らかに指示されていない限り、複数の指示対象も包含することに留意しなければならない。本出願において、「又は(若しくは)(or)」の使用は、特に断りのない限り、「及び/又は」を意味する。更に、「含む(including)」に加えて、他の形態、例えば、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含まれる(included)」という語の使用は、非限定的(not limiting)である。
【0011】
[0049] 本開示の目的のための「備える(含む)(comprising)」という語、「有する(having)」という語、「含む(including)」という語、及びこれらの単語の変化形は、オープンエンドを意図しており、列挙された構成要素以外に追加の構成要素が存在し得ることを意味している。
【0012】
[0050] 本開示の目的のための、方向指示語、例えば、「頂部(top)」、「底部(bottom)」、「より上(upper)」、「より下(lower)」、「上部に(above)」、「下部に(below)」、「左方に(left)」、「右方に(right)」、「水平な(horizontal)」、「垂直な(vertical)」、「上方へ(up)」、「下方へ(down)」等は、本開示の様々な実施形態を説明する際に、単に便宜上使用されるものである。本開示の実施形態は様々な方向に向けることができる。例えば、図面に示す線図、装置等は、裏返す、任意の方向に90°回転させる、反転させる等が可能である。
【0013】
[0051] 本開示の目的において、ある値又はある特性が、特定の値、特性、条件の充足、又は他の因子に「基づく(based)」とは、その値が、その特定の値、特性、又は他の因子を用いる数学的な計算又は論理的な判断により導出された値であるということである。
【0014】
[0052] 本開示の目的のための、説明をより簡潔に行うことを目的として本明細書において与える定量的表現の一部には、「約」という語を付記しないことに留意すべきである。「約」という語を明記しているか否かに関わらず、本明細書において与える量は全て、実際の所与の量を指すことを意味することに加えて、当業者がその値に基づきそのような所与の値を合理的に推定するであろう近似値(そのような所与の値を求めるための実験及び/又は測定条件に起因する近似値を含む)を指すことも意味することが理解される。
【0015】
[0053] 本開示の目的のための「接着強度」という語は、本開示の2DAC薄膜の、その成長基板に対する結合の強さを指す。これは、これらの2種の材料間の接着エネルギーに直接依存し、J/m2単位で測定することができる。
【0016】
[0054] 本開示の目的のための「アモルファス炭素」という語は、長距離結晶構造を有しない炭素を指す。
【0017】
[0055] 本開示の目的のための「アモルファス」という語は、明確な形態(definite form)がない、又は特定の形状を有しない、又は無定形であることを指す。非晶性固体としてのアモルファスは、結晶の特徴である長距離秩序を持たない固体を指す。
【0018】
[0056] 本開示の目的のための「原子薄膜状(atomically thin)アモルファス炭素」という語は、約1~5の平面状の炭素原子の層から構成されるアモルファス炭素を指し、ここで、炭素原子間は主としてsp2結合することにより層を形成している。層は積み重ねることができ、この層の積み重ねは、本発明の範囲内と見なされることを理解すべきである。
【0019】
[0057] 本発明の目的のための「炭素コート(carbon coating)」という語は、基板上に堆積した炭素の層を指す。
【0020】
[0058] 本開示の目的のための「炭素環のサイズ」という語は、炭素原子の環のサイズを指す。本開示の幾つかの実施形態において、1個の炭素環内の炭素原子数は、原子4~9個の間で変化させることができる。
【0021】
[0059] 本発明の目的のための「接触角測定」という語は、表面の疎水性を測定する技術を指す。代表的に開示する水滴の実施形態において、この角度は、表面から水-空気界面まで測定することができる。角度が小さいことは、その表面が水を引き寄せ易いことを意味し、角度が大きいことは、その表面が水を弾くことを示唆している。
【0022】
[0060] 本開示の目的のための「コンピュータハードウェア」という語及び「ハードウェア」という語は、コンピュータシステムのデジタル回路及び物理的な装置を指し、ハードディスク等のハードウェア装置に格納されるコンピュータソフトウェアの対語である。大部分のコンピュータハードウェアは、日常使用される多種多様なシステム、例えば、数ある中でも特に、自動車、電子レンジ、心電計、コンパクトディスクプレイヤー、及びテレビゲームの内部に埋め込まれているため、通常の使用者は目にすることがない。典型的なパーソナルコンピュータは、タワー型のケース又はシャーシ(デスクトップ)及び次に示す部品から構成される:マザーボード、CPU、RAM、ファームウェア、内部バス(PIC、PCI-E、USB、HyperTransport、CSI、AGP、VLB)、外部バスコントローラ(パラレルポート、シリアルポート、USB、Firewire、SCSI.PS/2、ISA、EISA、MCA)、電源、冷却ファンを有するケースコントロール(case control)、ストレージコントローラ(CD-ROM、DVD、DVD-ROM、DVDライター、DVDRAMドライブ、ブルーレイ、BD-ROM、BDライター、フロッピーディスク、USBフラッシュ、テープドライブ、SATA、SAS)、ビデオコントローラ、サウンドカード、ネットワークコントローラ(モデム、NIC)、及びマウス、キーボード、ポインティングデバイス、ゲーミングデバイス、スキャナ、ウェブカム、オーディオデバイス、プリンタ、モニタ等を含む周辺機器。
【0023】
[0061] 本開示の目的のための「コンピュータネットワーク」という語は、相互接続されたコンピュータのグループを指す。ネットワークはその幅広い特徴に応じて分類することができる。最も一般的なタイプのコンピュータネットワークとしては、規模の順に:パーソナルエリアネットワーク(PAN)、ローカルエリアネットワーク(LAN)、キャンパスエリアネットワーク(CAN)、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、グローバルエリアネットワーク(GAN)、インターネットワーク(イントラネット、エクストラネット、インターネット)、及び様々なタイプのワイヤレスネットワークが挙げられる。全てのネットワークは、ネットワークインターフェースカード(NIC)、ブリッジ、ハブ、スイッチ、及びルータ等の、ネットワークノードを相互接続する基本的なハードウェアビルディングブロックから構成される。更に、一部の方法は、これらのビルディングブロックを、通常は電気ケーブル(galvanic cable)(最も一般的にはカテゴリー5のケーブル)の形態で接続することが必要である。より一般的でないものとしては、マイクロ波回線(microwave link)(IEEE 802.11に規定されているもの)又は光ケーブル(「光ファイバ」)がある。
【0024】
[0062] 本開示の目的のための「コンピュータソフトウェア」という語及び「ソフトウェア」という語は、コンピュータシステム上で何らかのタスクを実行する1又は複数のコンピュータプログラム、手順、及び文書を指す。この語は、ユーザーにとって生産的なタスクを実行するワードプロセッサ等のアプリケーションソフトウェア、ハードウェアと接続させてアプリケーションソフトウェアに必要な機能を提供するオペレーティングシステム等のシステムソフトウェア、並びに分散システムを制御及び連係させるミドルウェアを包含する。ソフトウェアは、C、C++、Java等のプログラミング言語でコードされるウェブサイト、プログラム、テレビゲーム等を含むことができる。通常、ハードウェア以外のものがコンピュータソフトウェアと見なされ、「ハード」は、有形の(手に持つことができる)部分を意味し、一方、「ソフト」部分はコンピュータ内部の無体物である。つまり、コンピュータソフトウェアは、ソフトウェアを格納して実行(又は動作)させるために必要な物理的な相互接続及び装置を包含するコンピュータハードウェアと区別するための名称である。ソフトウェアは、最低でも、個々の処理装置に固有の機械語から構成される。機械語は、コンピュータの状態をその前の状態から変化させる処理装置の命令を表現する2進値の組から構成されている。
【0025】
[0063] 本開示の目的のための「コンピュータシステム」という語は、パーソナルコンピュータ、メインフレームコンピュータ、ミニコンピュータ等の個別のコンピュータを含む、ソフトウェアを実行する任意の種類のコンピュータシステムを指す。更にコンピュータシステムは、ビジネスに用いられるコンピュータのネットワーク、インターネット、パーソナルデータアシスタント(PDA)、携帯電話等の機器、テレビ、ゲーム機、圧縮オーディオ又はビデオプレイヤー(MP3プレイヤー、DVDプレイヤー等)、電子レンジ等の任意の種類のコンピュータのネットワークを指す。パーソナルコンピュータはコンピュータシステムの1種類であり、典型的には、次に示すコンポーネントを含む:タワー型のケース又はシャーシ(デスクトップ)及び次に示す部品:マザーボード、CPU、RAM、ファームウェア、内部バス(PIC、PCI-E、USB、HyperTransport、CSI、AGP、VLB)、外部バスコントローラ(パラレルポート、シリアルポート、USB、Firewire、SCSI.PS/2、ISA、EISA、MCA)、電源、冷却ファンを有するケースコントロール(case control)、ストレージコントローラ(CD-ROM、DVD、DVD-ROM、DVDライター、DVD RAMドライブ、ブルーレイ、BD-ROM、BDライター、フロッピーディスク、USBフラッシュ、テープドライブ、SATA、SAS)、ビデオコントローラ、サウンドカード、ネットワークコントローラ(モデム、NIC)、及びマウス、キーボード、ポインティングデバイス、ゲーミングデバイス、スキャナ、ウェブカム、オーディオデバイス、プリンタ、モニタ等を含む周辺機器。
【0026】
[0064] 本開示の目的のための「コンピュータ」という語は、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレット型コンピュータ、メインフレーム、ミニコンピュータ等の個別のコンピュータを含む、ソフトウェアを実行する任意の種類のコンピュータ又は他の機器を指す。コンピュータはまた、学術用電子機器(electronic scientific instrument)(分光計等)、スマートフォン、電子ブックビューア、携帯電話、テレビ、携帯型電子ゲーム機、ビデオゲーム機、圧縮オーディオ又はビデオプレイヤー(MP3プレイヤー、ブルーレイプレイヤー、DVDプレイヤー等)等の電子機器も指す。更に「コンピュータ」という語は、商用のコンピュータのネットワーク、コンピュータバンク(computer bank)、クラウド、インターネット等の任意の種類のコンピュータのネットワークも指す。本開示の様々な処理をコンピュータを用いて実施することができる。本開示の様々な機能を1又は複数のコンピュータで実施することができる。
【0027】
[0065] 本開示の目的のための「D/G比」という語は、ラマンスペクトルのDピーク及びGピークの強度比を指す。
【0028】
[0066] 本開示の目的のための「データ記憶媒体」又は「データ記憶装置」という語は、コンピュータシステムにより使用するためのデータを格納することができる任意の1又は複数の媒体を指す。データ記憶媒体の例としては、フロッピーディスク、Zip(商標)ディスク、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD、DVD-R、メモリスティック、フラッシュメモリ、ハードディスク、ソリッドステートディスク、光ディスク等が挙げられる。単一のデータ記憶媒体と同様に機能する2以上のデータ記憶媒体は、本開示の目的のための「データ記憶媒体」と称することができる。「データ記憶媒体」は、コンピュータの一部とすることができる。
【0029】
[0067] 本開示の目的のための「データ」という語は、情報の表現であって、伝達、解釈、又は処理に適した形に形式化された、再度情報として解釈可能な表現を意味する。コンピュータファイルは一般的なデータの1つの種類であるが、データは、ストリーミングデータ、ウェブサービス等であってもよい。「データ」という語は、データの1又は複数の断片を指す場合に用いられる。
【0030】
[0068] 本開示の目的のための「データベース」又は「データ記録」という語は、コンピュータシステムに格納された記録又はデータの構造化された集まりを指す。この構造は、データをデータベースモデルに従い組織化することにより達成される。現時点において最も一般的に使用されているモデルはリレーショナルモデルである。階層型モデル及びネットワークモデル等の他のモデルは、関係がより明確化された表現を用いる(様々なデータベースモデルの説明に関しては以下を参照されたい)。コンピュータデータベースは、格納されたデータを組織化するためのソフトウェアを利用している。このソフトウェアは、データベース管理システム(DBMS)として知られる。データベース管理システムは、それらが支援するデータベースモデルに応じて分類される。データベースにアクセスするために利用できるクエリ言語はモデルによって決まる傾向にある。しかしながら、DBMSの大量の内部技術はデータモデルに依存せず、パフォーマンス、コンカレンシー、インテグリティ、及びハードウェア障害からのリカバリー等の管理要因が関係している。これらの領域は製品間で大きく異なる。
【0031】
[0069] 本開示の目的のための「ダイヤモンドライクカーボン」という語は、炭素原子間が主としてsp3結合から構成されるアモルファス炭素を指す。
【0032】
[0070] 本開示の目的のための「幹細胞の分化」は、未分化の幹細胞が機能形質を有する特定の種類の細胞に向かう過程を指す。本開示の実施形態において、分化は、化学物質及び基質誘導因子(chemical and substrate induced factor)の組合せに起因して起こる。
【0033】
[0071] 本開示の目的のための「電気化学セル(EC)」という語は、化学反応により電気エネルギーを生成するか又はそれ以外の形でそれを促進することができる装置を指す。電流を発生する電気化学セルはボルタ電池又はガルバニ電池と呼ばれ、他は電解槽と呼ばれ、これは電気分解等の化学反応を誘導するために使用される。ガルバニ電池の一般的な例は、民生用として製造されている標準的な1.5ボルト電池である。電池(battery)は、並列又は直列様式のいずれかで接続された1又は複数のセル(cell)から構成することができる。
【0034】
[0072] 本開示の目的のための「燃料電池」という語は、水素燃料と酸素又は他の酸化剤との電気化学的反応を介して、燃料に由来する化学エネルギーを電気に変換する電気化学セルを指す。燃料電池は、化学反応を持続させるための燃料及び酸素の連続供給源(普通は空気から)を必要とするという点で電池とは異なり得て、電池においては、化学エネルギーは電池内に既に存在する化学物質から生じる。燃料電池は、燃料及び酸素が供給される限り連続的に電気を生成することができる。
【0035】
[0073] 本開示の目的のための「グラフェン」という語は、六角形の格子に配置された炭素原子の単層から構成される炭素の同素体(形態)を指す。これは、グラファイト、チャコール、カーボンナノチューブ、及びフラーレン等の他の多くの炭素同素体の基本的構造要素である。これは無限に続く芳香族分子と見なすことができ、平面性多環芳香族炭化水素系列の究極の形である。グラフェンは、強力な材料特性、熱及び電気を効率よく伝導する能力に加えて、ほぼ透明であることを含む、多くの特異な性質を有する。
【0036】
[0074] 本開示の目的のための「ハードウェア及び/又はソフトウェア」という語は、デジタルソフトウェア、デジタルハードウェア、又はデジタルハードウェア及びデジタルソフトウェアの両方の組合せにより実行することができる機能を指す。本開示の様々な特徴をハードウェア及び/又はソフトウェアにより実施することができる。
【0037】
[0075] 本開示の目的のための「疎水性の」という語は、水を弾く又は水とうまく混合しない傾向にあることを指す。
【0038】
[0076] 本開示の目的のための「疎水性」という語は、水を吸収し又は水中に溶解するよりも寧ろ水を弾く性質を指す。
【0039】
[0077] 本開示の目的のための「個体」という語は、哺乳動物、例えば、ヒトの個体を指す。
【0040】
[0078] 本開示の目的のための「インターネット」という語は、標準化されたインターネットプロトコルスイート(TCP/IP)を用いてパケット交換によりデータを交換する、相互接続されたコンピュータネットワークのグローバルシステムである。これは、銅線、光ファイバーケーブル、ワイヤレス接続、及び他の技術によって接続された、地域的範囲から世界的範囲に及ぶ何百万もの私用及び公共の学術研究、商用、及び政府関連ネットワークから構成される「ネットワークのネットワーク(network of networks)」である。インターネットは、種々の情報リソース及びサービス、例えば、電子メール、オンラインチャット、ファイル転送及びファイル共有、オンラインゲーム、並びにワールドワイドウェブ(WWW)で相互に結び付けられたハイパーテキスト文書及び他のリソースを通信する。
【0041】
[0079] 本開示の目的のための「イントラネット」という語は、単一の管理主体によって管理されている、インターネットプロトコル、及び、ウェブブラウザやファイル転送アプリケーション等のIPベースのツールを用いる複数のネットワークの組を指す。イントラネットは、その管理主体により権限を与えられた特定のユーザー以外に対し閉じられている。最も一般的には、イントラネットは、組織の内部ネットワークである。大きなイントラネットは、典型的には、組織内の情報をユーザーに提供するための少なくとも1つのウェブサーバを有するであろう。イントラネットは、インターネットに接続する場合も接続していない場合もある。インターネットに接続する場合、イントラネットは、通常、適正な権限なしにインターネットからアクセスされないように保護されている。インターネットはイントラネットの一部とは見なされない。
【0042】
[0080] 本開示の目的のための「レーザー支援化学気相成長法(CVD)」という語は、レーザーで加熱された基板を1種又は複数種の揮発性前駆体に曝露し、その表面上で反応又は分解させて堆積物を生成させる合成法を指す。
【0043】
[0081] 本開示の目的のための「ローカルエリアネットワーク(LAN)」という語は、家庭、職場、又は建物内等の地理的に狭い範囲を対象とするネットワークを指す。現行のLANはイーサネット技術に基づくものが最も用いられやすい。サーバに接続するケーブルは、通常、1Gbit/sでIEEE 802.3規格をサポートするカテゴリー5の拡張ケーブルである。無線LANは、異なるIEEEプロトコルである802.11b、802.11g、又は可能性として802.11nを用いて利用することができる。WAN(広域ネットワーク)と対比した場合のLANの決定的な特徴としては、データ転送速度が速いこと、地理的範囲が狭いこと、及び通信回線を借りる必要がないことが挙げられる。現行のイーサネット又は他のIEEE 802.3LAN技術は10Gbit/sまでの速度で動作する。
【0044】
[0082] 本開示の目的のための「機械可読媒体」という語は、機械に実行させるための命令を格納、コード化、若しくは保持することができ、且つ機械に本開示の任意の1若しくは複数の方法論を実施させるか、又はそのような命令に利用される若しくは付随するデータ構造を格納、コード化、若しくは保持することができる、任意の有形又は非一時的な媒体を指す。「機械可読媒体」という語は、これらに限定されるものではないが、固体記憶装置、並びに光学及び磁気媒体を包含する。機械可読媒体の具体例としては、不揮発性メモリが挙げられ、その例として、半導体記憶装置、例えば、EPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリ素子;磁気ディスク、例えば、内部ハードディスク及びリムーバブルディスク;光磁気ディスク;並びにCD-ROM及びDVD-ROMディスクが挙げられる。「機械可読媒体」という語は、1又は複数の命令又はデータ構造を格納する単一又は複数の媒体(例えば、集中若しくは分散データベース及び/又は付随するキャッシュ及びサーバ)を包含することができる。
【0045】
[0083] 本開示の目的のための「膜」という語は、一部の元素を通過させることができるが、それ以外の分子、イオン、又は他の小さな粒子等の通過を阻む選択的障壁として作用する層を指す。
【0046】
[0084] 本開示の目的のための「非一時的記憶媒体」という語は、非一時的であり、有形の、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体を指す。非一時的記憶媒体は、一般に、該媒体と動作可能に接続されたデータ処理回路によって、データを格納し、後に取り出すことができる、当該技術分野において知られている任意の耐久性ある媒体を指すことができる。非一時的記憶媒体の非限定的且つ非排他的な例の一覧としては、磁気データ記憶媒体(例えば、ハードディスク、データテープ等)、半導体固体データ記憶媒体(solid state semiconductor data storage media)(例えば、SDRAM、フラッシュメモリ、ROM等)、及び光学データ記憶媒体(例えば、コンパクト光ディスク、DVD等)を挙げることができる。
【0047】
[0085] 本開示の目的のための「処理装置」という語は、コンピュータの基本動作を実施する装置を指す。マイクロプロセッサは処理装置の一例である。
【0048】
[0086] 本開示の目的のための「ラマン分光法」という語は、系内の振動、回転、及び他の低周波数モードを観測するために使用される分光技術を指す。ラマン分光法は、それにより分子を同定することができる構造上の特徴を得るために、化学分野において一般に使用されている。これは、通常は、可視、近赤外、又は近紫外域のレーザーからの単色光の非弾性散乱又はラマン散乱を利用している。レーザー光は、系内の分子振動、フォノン、又は他の励起と相互作用し、その結果として、レーザー光子のエネルギーを上方又は下方にシフトさせる。このエネルギーシフトが系内の振動モードに関する情報を与える。
【0049】
[0087] 本開示の目的のための「ラマンスペクトル」という語は、分子の回転振動状態に依存する周波数シフトの関数としての散乱強度の減少を指す。分子がラマン効果を示す場合は、回転振動状態に対応する振動座標に対する電気双極子-電気双極子の分極率が変化しているはずである。ラマン散乱の強度はこの分極率の変化に比例する。
【0050】
[0088] 本開示の目的のための「ランダムアクセスメモリ(RAM)」という語は、コンピュータのデータ記憶機構の一種を指す。現在、これは、格納されたデータに任意の順序で、即ちランダムにアクセスできる集積回路の形態をとる。つまり、ランダムという言葉は、その物理的位置に関わらず、またその前のデータの断片との関係に関わらず、一定の時間で任意のデータの断片を返送できることを指す。これは、記録媒体又は読み取りヘッドの物理的移動に依存する、テープ、磁気ディスク、及び光ディスク等の記憶機構とは対照的である。これらの装置では、この移動はデータの転送よりも時間を要し、読み出し時間は次の項目の物理的位置に応じて異なる。RAMという単語は、大抵の場合、揮発性タイプのメモリに関連し(DRAMメモリモジュール等)、この場合、電源を切ると情報は消える。しかし、ほとんどの種類のROM及びNOR-Flashと呼ばれるフラッシュメモリの一種等、他の多くの種類のメモリも同様にRAMである。
【0051】
[0089] 本開示の目的のための「sp3/sp2比」という語は、2DACで観測される炭素結合の種類を指す。sp2結合は、高成長因子結合(higher growth factor bonding)が可能である。
【0052】
[0090] 本開示の目的のための「読み出し専用メモリ(ROM)」という語は、コンピュータ及び他の電子機器に使用される記憶媒体の分類を指す。ROMに格納されたデータは改変することができず(少なくともそれほど高速又は容易ではない)、主としてファームウェア(特定のハードウェアと非常に密接に関係しており、頻繁なアップデートが必要になることが少ないソフトウェア)の配布に使用される。その厳密な意味においては、ROMは、マスクROM(最も古いタイプのソリッドステートROM)のみを指し、これは、その中に永久的に格納される所望のデータと同時に製造され、したがって、改変することは一切できない。しかし、EPROMやフラッシュEEPROM等のより最近のタイプは、消去及び書き換えを複数回行うことが可能であり;これらは、一般に書き換え処理の頻度が低く、速度が比較的遅く、多くの場合、それぞれのメモリ位置へのランダムアクセスライトが許可されていないため、今も「読み出し専用メモリ」と表現される。
【0053】
[0091] 本開示の目的のための「サーバ」という語は、コンピュータネットワーク内の要求に応答して、ネットワークサービスを提供するか、又は提供を支援するシステム(ソフトウェア及び適切なコンピュータハードウェア)を指す。サーバは専用のコンピュータ(これも多くの場合「サーバ」と呼ばれる)で稼働させることができるが、多くのネットワーク化されたコンピュータでサーバをホスティングすることができる。多くの場合、1台のコンピュータが複数のサービスを提供することができ、幾つかのサーバを稼働させることができる。サーバは、クライアント/サーバアーキテクチャ内で動作させることができ、他のプログラム(クライアント)のリクエストを送るために実行されるコンピュータプログラムを含み得る。したがって、サーバはクライアントの代わりに一部のタスクを実行することができる。クライアントは、通常、ネットワークを介してサーバに接続するが、同じコンピュータ上で稼働させることもできる。インターネットプロトコル(IP)ネットワーキングにおいては、サーバは、ソケットリスナーとして動作するプログラムである。サーバは、多くの場合、ネットワーク全体に必要なサービスを、大組織内の個人ユーザーに、又はインターネットを介してパブリックユーザーに提供する。典型的なコンピュータ処理サーバとしては、データベースサーバ、ファイルサーバ、メールサーバ、プリントサーバ、ウェブサーバ、ゲームサーバ、アプリケーションサーバ、又は他の幾つかの種類のサーバがある。多くのシステムがこのクライアント/サーバネットワーキングモデルを使用しており、このモデルには、ウェブサイト及び電子メールサービスが含まれる。他のモデルであるピアツーピアネットワーキングは、全てのコンピュータを必要に応じてサーバ又はクライアントのいずれかとして機能させることができるものもある。
【0054】
[0092] 本開示の目的のための「ソリッドステートエレクトロニクス」という語は、その中に電子又は他の電荷担体を閉じ込めた、完全に固体材料から構成された回路又は装置を指す。この語は、初期の真空管及びガス放電管装置の技術と対比するために使用されることが多く、通常、電気機械式デバイス(リレー、スイッチ、ハードドライブ、及び可動部を有する他のデバイス)はソリッドステートという語から除外される。ソリッドステートは、結晶性、多結晶性、及びアモルファス固体を含むことができ、導電体、絶縁体、及び半導体を指すこともできるが、その構成材料は、ほとんどの場合、結晶性半導体である。一般的なソリッドステートデバイスとしては、トランジスタ、マイクロプロセッサチップ、及びRAMが挙げられる。フラッシュRAMと呼ばれる特殊なタイプのRAMが、フラッシュドライブに、及びより最近では、機械的に回転する磁気ディスクのハードドライブに代わるソリッドステートドライブに使用されている。より最近では、ソリッドステートデバイスの更なる例として、集積回路(IC)、発光ダイオード(LED)、及び液晶ディスプレイ(LCD)が発展した。固体素子においては、電流を切り替え及び増幅するために特別に設計された固体元素及び化合物に電流が閉じ込められる。
【0055】
[0093] 本開示の目的のための「記憶媒体」という語は、情報の断片(bit)を格納するために使用することができる任意の格納形態を指す。記憶媒体の例としては、揮発性及び不揮発性メモリの両方、例えば、MRRAM、MRRAM、ERAM、フラッシュメモリ、RFIDタグ、フロッピーディスク、Zip(商標)ディスク、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD、DVD-R、フラッシュメモリ、ハードディスク、光ディスク等が挙げられる。単一のデータ記憶媒体と同様に機能する2以上の記憶媒体も本開示の目的のために「記憶媒体」と称することができる。記憶媒体はコンピュータの一部とすることもできる。
【0056】
[0094] 本開示の目的のための「基板」という語は、本開示の2次元(2D)アモルファス炭素薄膜の構造的支持体を指す。選択的な用途においては、本開示の実施形態は、例えば、2DAC薄膜を機械的に支持する基板を提供し、基板がなければ、2DAC薄膜は、損傷を受けることなくその機能を果たすには薄過ぎる可能性がある。基板は本開示の2DAC又は2DAC薄膜を基板表面上で成長させるために使用される材料と見なすことができる。
【0057】
[0095] 本開示の目的のための「2次元(2D)アモルファス炭素薄膜」という語は、例えば基板上に直接成長させることができる可能な限り薄いアモルファス炭素(例えば、原子1個分の厚み)までの原子薄膜状アモルファス炭素を指し、この基板は、融点が低く、触媒作用を有しないものを含み、これらの基板は、金属、ガラス、又は酸化物表面も含む。本開示の2DAC薄膜は低温で成長するため、他の基板で成長させることも可能である。2DAC薄膜の本開示の実施形態は、自立する薄膜として、又は本明細書に開示する基板の被覆として提供することができる。本開示の2DAC薄膜はアモルファスであるが、平面内の隣接する複数の炭素原子への結合は強力な網目を形成し、その成長基板から剥がしてさえも安定である(自立する)。この炭素材料は、金属表面に良好に接着する性質も有するため、確実に基板全体を被覆する。本開示の2DAC薄膜は本来薄肉且つ高強度であるため、金属基板を曲げても破損することなく耐えることもできる。
【0058】
[0096] 本開示の目的のための「2次元(2D)アモルファス炭素コート」という語は、基板上に直接成長及び/又は堆積させた2DAC薄膜を指す。本開示の実施形態は、2DAC被覆を基板上に転写する場合又は基板から転写する場合も含むことができる。
【0059】
[0097] 本開示の目的のための「水接触角」という語は、指す。
【0060】
[0098] 本開示の目的のための「広域ネットワーク(WAN)」という語は、比較的広い地理的範囲(即ち、1つの都市から他の都市及び1つの国から他の国)を対象とし、多くの場合、電話会社等の電気通信事業者から提供される伝送設備を使用するデータ通信ネットワークを指す。WAN技術は一般に、OSI参照モデルの下位3層:物理層、データリンク層、及びネットワーク層にて機能する。
【0061】
[0099] 本開示の目的のための「ワールドワイドウェブコンソーシアム(W3C)」という語は、ワールドワイドウェブ(WWW又はW3と略記)の主要な国際標準化機構を指す。これは、ワールドワイドウェブに関する規格の策定において共同で作業するための常勤職員を維持する会員組織である共同体として設置されている。W3Cは教育及び支援活動に従事し、ソフトウェアを開発し、Webに関する議論を行うためのオープンフォーラムの役割も果たす。W3C規格としては、次に示すものが挙げられる:CSS、CGI、DOM、GRDDL、HTML、OWL、RDF、SVG、SISR、SOAP、SMIL、SRGS、SSML、VoiceXML、XHTML+Voice、WSDL、XACML、XHTML、XML、XML Events、Xforms、XML Information、Set、XMLSchema、Xpath、Xquery、及びXSLT。
【0062】
[説明]
[0100] 本発明は様々な変形形態及び代替的形態をとることができるが、その特定の実施形態を一例として図面に示すと共に、以下に詳細に説明する。但し、本発明をここに開示する特定の形態に限定することを意図しておらず、それどころか、本発明は、本発明の主旨及び範囲に包含されるあらゆる変形形態、均等物、及び代替物を網羅することを理解すべきである。
【0063】
[0101] 磁気媒体は、例えば、データ格納技術において幅広く使用されている。データ格納技術は、例えば、パーソナルコンピュータ、クラウド運用システム、インターネットの導入等を含む多種多様な用途に利用することができる。面密度はハードディスク容量を決める重要な因子であり、記憶媒体に格納することができる単位面積当たりのデータ量を指す。一部の用途においては、データは、記憶媒体の磁化ビットの方向を切り替えることにより記憶媒体に格納することができる。面密度を増大させるためには、個々の磁化ビットのサイズを小さくすることができるが、そのマイナスの影響として、発生する磁気信号がより微弱になり、S/N比がより小さくなる。こうした信号に関する難題を克服するために、S/N比が向上するように、読み出しヘッドを磁化表面により近づけることが必要となる。ヘッドから表面までの距離はカーボンオーバーコートの厚みに大きく依存する。現行技術において使用されるオーバーコートの厚みは約2.7nmである。1 次世代ハードディスク用に1Tb/インチ2よりも高い記録密度に到達させるためには、カーボンオーバーコートの厚みを1nm未満とすることが望ましい。加えて、ハードディスクを保護しながら耐食性を保持することも望ましい。
【0064】
[0102] 記憶媒体の磁化ビットが小さくなるに従い、磁化ビットはより大きい磁化を有することが必要である。加えて、磁性材料は安定な記憶容量を維持するために高い抗磁力を維持すべきである。採用されている材料の一例としては、結晶磁気異方性(Ku)の高いL10型規則構造を有するFePt媒体が挙げられる。2 上述の材料は高い抗磁力を有するため、非常に小さい磁化ビットを使用して安定に記録することが可能になる。しかしながら、それによって書き込みヘッドによりビットの磁化方向を反転させることがより難しくなるため、記憶媒体の動作が影響を受ける。改良された熱アシスト磁気記録デバイスを発展させ、提供することにより、この種の磁性材料を使用して、記録媒体の面積当たりの記録密度を向上させるという難題に対処及び克服することが可能になる。従来のHAMR技術は、一般に、磁化ビットを容易に反転させることができるキュリー温度まで磁化ビットを加熱するのを助けるための集積型レーザーを、読み出し/書き込みヘッド内に含む。こうすることによりデータの書き込みが容易になる。しかしながら、高温の作業環境では、磁気デバイスが、良好な耐食保護性を付与するための熱的に安定な層を有することが課題である。つまり、現在の先行技術の範囲内のカーボンオーバーコートは、従来のHAMR技術及びプロセスの加熱条件下で構造変化が起こり、損傷する可能性があるという難点がある。本開示の実施形態は、先行技術の欠点に対処するオーバーコートの新規な層を提供する。
【0065】
[0103] したがって、本明細書に記載するように、下側にある熱アシスト磁気記録媒体(HAMR)用磁気記録層を保護することができる、アモルファス炭素オーバーコート層が、本開示の実施形態により提供される。本開示のアモルファス炭素オーバーコート層は、媒体層の腐食を防止することができ、且つ媒体及び書き込みヘッド間の摩擦を低減することができる。本開示のアモルファス炭素オーバーコートが高温水準の環境に曝され得るHAMR媒体において、本開示のアモルファス炭素オーバーコートは、そのような熱的条件下でも安定であり、且つHAMR媒体の全体の性能を向上させることができる。
【0066】
[0104] 本開示の実施形態は、基板(金属、ガラス、酸化物)の最上部の原子薄膜状(単層)アモルファス炭素を含む新規な複合材料に関する。このアモルファス炭素は、自身が成長する基板に対して非常に良好に接着する。したがって、このアモルファス炭素材料は、独自の特徴を提供する。例えば、本開示のアモルファス炭素材料は、特定の目的に用いるための被覆を必要とする基板を利用する用途に適している。例示的な用途としては、これらに限定されるものではないが、生物医学用途を挙げることができる。
【0067】
[0105] 本開示は、2次元(2D)アモルファス炭素(2DAC)と称される炭素の新規な形態を提供する。本開示の実施形態は、例えば、金属基板(融点が低く、触媒作用を有しないもの、並びにガラス及び酸化物表面も含むものを含む)の上に直接成長させることができる可能な限り薄いアモルファス炭素(例えば、原子約1個分の厚み)を2DACで提供する。選択された一実施形態においては、原子1個分の厚みを有する材料が好ましく、2DACの厚みの下限値を定めることができる。本開示の実施形態は、原子数個分までの範囲とすることができる(例えば、原子10個分の厚み又は約3+nm)厚みを含むことができる。本開示の2DACは、2次元(2D)アモルファス炭素薄膜として提供することができる。但し、本明細書に開示するように、本開示の2DACの厚みが増大しても、他の任意の存在し得るアモルファス炭素材料の厚みとは、依然として構造的に異なる(例えば、sp3対sp2比)ことに留意することの重要性は変わらない。
【0068】
[0106] 本開示の2DAC薄膜は低温で成長するため、他の基板上で成長させることも可能である。本開示の2DAC薄膜はアモルファスであるが、炭素原子は面内の複数の隣接する炭素原子に結合して強力な網目を形成し、これは、たとえその成長基板から剥がしたとき(自立している)でさえも非常に安定である。つまり、各炭素原子は、結合(連結)が高密度になるように、複数の炭素原子に結合している。本開示の2DACは、金属表面に良好に接着する性質も有しているため、表面が確実に完全に覆われる。材料の性質(例えば、以下に開示するもの)、例えば、本開示の2DAC薄膜の固有の薄さ及び高強度によって、金属基板を曲げても破損することなく耐えることもできる。
【0069】
[0107] 本開示の実施形態によれば、アモルファス炭素は、構造上の長距離秩序を持たない炭素の形態と定義することができる。これは幾つかの形態で存在し、その形態に応じて、ダイヤモンドライクカーボン、ガラス状炭素、すす等の異なる名称で呼ばれることが多い。アモルファス炭素は、例えば、数ある中でも特に、化学気相成長、スパッタ蒸着、及び陰極アーク堆積等の幾つかの技術により製造することができる。従来の用途においては、アモルファス炭素は常に3次元形態で(又はバルクで)存在していた。炭素の2次元に相当する形態はグラフェンであるが、グラフェンは結晶性材料として(単結晶又は多結晶のいずれかで)しか存在しない。グラフェンを合成する場合は高温が必要となり、ほとんどの場合、銅の上で成長させる。本開示に関しては、本開示の実施形態は、それよりもはるかに低い温度で任意の基板上に成長するアモルファス炭素の連続2次元形態を生成することができた。本開示の2DAC薄膜及び基板の複合材料は、バルクのアモルファス炭素とも、単層グラフェンとさえも極端に異なる特徴を有する。
【0070】
[0108] 本開示の2DACの実施形態は、薄膜、例えば、基板上の被覆、多孔質構造の内部表面の薄膜被覆、自由薄膜(suspended film)、巻回された薄膜、チューブ、繊維、又は中空ボールとして存在することができる。本開示の2DACの機械的性質、電気的性質、光学的性質、熱的性質、及び他の性質は、例えば、2DACの形状に応じて変化することが予想される。例えば、本開示の2DACを含むチューブは軸方向の機械強度が高くなり、半径方向の応答がより柔軟になるであろう。本開示の2DACを別々の用途に用いるために異なる性質を利用して様々な形態に作製することができる。
【0071】
[0109] 図1は、本開示の複合材料の概略図100を、基板最上面の上の炭素材料のTEM像と共に示すものである。開示した物体の構成は、基板104(例えば、金属又はガラス、酸化物)の上に原子薄膜状アモルファス炭素102を有する新規な複合材料である。
【0072】
[0110] 本開示の複合材料は、任意の基板の上の原子薄膜状2Dアモルファス炭素(2DAC)を指す場合もある。本開示の実施形態によれば、本開示の基板上の本開示の2DAC薄膜は、その原子構造及びその性質という観点で定義することができる。
【0073】
[0111] 原子構造に関するより厳密な調査及び定義を次に示すことができる:図2は、本開示の一実施形態によるアモルファス薄膜のTEM像を示すものであり、六角形及び非六角形が見られる。図2の上段左側の画像は、開示した2DAC薄膜の六角形及び非六角形を含む高分解能TEM像を示している。上段左側のTEM像を見やすくするために下段左側に模式図を示す。六角形を緑色に着色し、非六角形は赤又は青色に着色している。上段右側の画像はFFTの結果を示すものであり、明確な回折パターンが認められない環構造が見られる。
【0074】
[0112] 図2のTEM像を参照すると、2DAC薄膜は、その構造内に六角形及び非六角形の環が混在する原子1個分の厚みの炭素薄膜である。この環は互いに完全に連結して、大面積薄膜内に多角形の網目を形成しており、その規模は少なくともミクロン単位である。六角形対非六角形の比は、結晶化度(又はアモルファス化度)、即ちCの指標である。非六角形は、4、5、7、8、9員環を形成する。最小で約8.0nmの撮像範囲上で算出した2Dアモルファス薄膜のCは≦0.8である。3 図2のC値は約0.65である。本開示の実施形態は、0.5~0.8(境界値を含む)の範囲にあるC値を支持し得る。これは、C=1である純粋な六角形の網目を持つグラフェンとは異なる。非六角形は、六角形のマトリックス内にランダムに分布している場合もあるし、六角形の領域の境界に沿って形成されている場合もある。この領域は5nmを超えてはならない。像の高速フーリエ変換(FFT)による回折斑点が現れてはならない(図2、上段右)。2DACは、基板から剥がして自立させることができ、又は他の基板へ転写することができる。したがって、幾つかの実施形態において、自立型2DAC薄膜を得るために、開示した2DACを基板の表面から分離することができる。
【0075】
[0113] 図3は、単離された本開示の2DAC薄膜を窒化ホウ素(BN)上でAFMにて測定した厚み(即ち、高さ)を示すものである。開示した発明に基づけば、次に示す性質が当てはまる:図3は、窒化ホウ素(BN)に転写された本開示の2DAC薄膜のAFMを示すものである。本開示の2DACの厚みは約6Åであり、これは原子1個分の厚みしかないグラフェンに匹敵する(BN上で測定した場合の厚みが3.3Å~10Å(境界値を含む)の範囲にある)。この厚みは図1のTEM像によっても裏付けられる。更に、この薄膜は均質であることが分かる。
【0076】
[0114] 図4は、SiO2上のアモルファス薄膜及び非晶性グラフェンのラマンスペクトル400を示すものである。単離した薄膜のラマン分光では、2Dピーク(約2700cm-1)が見られず、その替わり、ブロードなG(約1600cm-1)及びDピーク(約1350cm-1)が見られた。D及びGピークの広幅化は、通常、既に報告されているように、ナノ結晶グラフェンがアモルファス薄膜へ転移したことを示唆している。4 D及びGピークの強度比から、ドメインサイズは1~5nm程度と推測される。4 ラマン分光は図2のTEM像を広範囲で表す特性評価ツールの役割を果たす。
【0077】
[0115] 図5は、本開示の一実施形態による原子薄膜状アモルファス炭素(左)及びグラフェン(右)のTEM回折図の比較500である。このTEM回折では、本開示の単離された薄膜に明確な回折斑点が検出されないことから、アモルファスの性質を有することが更に裏付けられ、それとは対照的に、グラフェンには明確な回折斑点が認められ、結晶性を有することが示される。図7(上部)の回折環は、ドメインサイズが<5nmであることを示している。アモルファス薄膜の回折データは図2のFFT像と一致する。この場合、2DAC薄膜は自立させている。
【0078】
[0116] 図6に戻ると、グラフ600は、本開示の一実施形態による本開示のカーボンフィルムの透過率を示している。光透過率は波長550nmの光に対し約98%であり、波長が長くなるに従い透過率が上昇する。したがって、選択された実施形態は、550nm以上の波長で98%以上の光透過率を与える。グラフェン単層の透過率は、可視波長(400nm~700nm、境界値を含む)全体で最大で97.7%であり、層数が増加するに従い低下するので、ここでもやはり、本開示の炭素薄膜はグラフェンとは異なっている。注目すべきは、2DAC薄膜の透過率は、グラフェンで見られるような、短波長(<400nm)における急速な低下が起こらないことである。
【0079】
[0117] 自立した(suspended)薄膜の弾性率Eは200GPaを超え、バルクのガラス状炭素(E=60GPa)よりも高い。5 機械的破損前の終局歪は10%であり、報告されている他のアモルファス炭素よりもはるかに高い。図7は、自立した炭素薄膜上の非インデンテーション(non-indentation)、及び原子間力顕微鏡(AFM)(例えば、ブルカー(Bruker)モデルno:MPP-11120)チップで極限応力を与えた後の自立した炭素薄膜を示すものである。本開示の2DAC薄膜のアモルファスの性質は、図7(下段)に示すように、自立した薄膜の崩壊を防ぐ。薄膜は崩壊せずに、極限応力程度の力に対し延性を示す。
【0080】
[0118] 開示した本発明の2DAC薄膜は抵抗率が高く、電気抵抗率はCの値に応じて0.01~1000Ω-cmの範囲にあり、これは成長条件により所望に応じて調整される。図8は、2Dアモルファス炭素の電気的性質の概要を示す図800であり、2Dアモルファス薄膜のI-V曲線802及び特定のC値で測定された抵抗率値の度数分布804を示している。測定技術/方法は、抵抗率値の生成に用いられる。ヒストグラム804の各抵抗率のデータ点を得るために、I-V曲線802のデータからの算出において所定の比を用いる。これに従い、図8の左図の2Dアモルファス炭素の長さ:幅比は1:100とする。比較すると、グラフェンの抵抗率値は約10-6Ω-cmであり、一方、バルクのガラス状炭素(同じく100%C-C sp2)の値は0.01~0.001Ω-cmの範囲にある。
【0081】
[0119] 6より大きいn員環を含む単層薄膜は、本来的に、気体、イオン、液体、又は7、8、9員環を通過するのに十分に小さいサイズの他の化学種を選択的に通過させる膜である。特に、本開示の2DAC薄膜は、プロトンを室温で結晶性単層窒化ホウ素の10倍の効率で通過させることができる。6 本開示の2DAC薄膜の場合、膜を通過するプロトンの流れに対する抵抗率は室温で1~10Ω-cm2である。
【0082】
[0120] 図9は、本開示の一実施形態による異なる基板上で成長させた複合材料を示すものである。原子薄膜状アモルファス炭素で被覆したチタン、ガラス、及び銅の写真を左に示す。上段右に、被覆した範囲のラマンスペクトルを示すが、基板に関わらず類似の応答が見られる。最後に、下段右に示す、チタン上の2DAC薄膜のG/Dピーク比に関するラマンマップから、完全に被覆されていることが分かる。本開示の複合材料(即ち、本開示の2DAC及び基板)は、任意の金属(触媒作用を有する又は有しない)又はガラス若しくは酸化物から作製することができる。したがって、本開示の実施形態は、開示した任意の所望の基板材料上に2DACを直接成長させることを可能にする。これは、触媒作用を有する基板、例えば、銅の上でしか成長させることができず、他の全ての基板に対しては転写することが必要となるグラフェンと異なる。したがって、1nm未満の厚みであると連続しているとは見なされないアモルファス又はダイヤモンドライクカーボンの堆積方法と比較すると、本開示の複合材料は、母体となる基板に強力に結合している2次元アモルファス炭素の原子薄膜(<1nm)状の連続層を含む。
【0083】
[0121] 一般に、基板上の薄膜が接着性に劣ると、薄膜が基板から分離する領域が生じる可能性があり、したがって、基板の保護性に欠けるか又は殆ど保護しないであろう。したがって、本開示の実施形態は、被覆された基板の表面全体に均一且つ強力に接着する改良された薄膜を提供する。したがって、本開示の2DAC薄膜は、連続薄膜として、好ましくは、実質的に基板表面全体に、又は少なくとも被覆された表面に形成される。本開示の、例えばCu上に配置された原子薄膜状2DAC薄膜は、従来の設計、例えば、容易に分離することができる(例えば、接着力10~100J/m2)Cu上のグラフェンとは異なり、基板に>200J/m2の接着エネルギーで非常に良好に接着する。7 この例は、本開示の2DAC薄膜をグラフェンと差別化する更なる根拠となる(Cu基板の例示的な実施形態を記載しているが、本開示の2DACを任意の基板に被覆する実施形態を本発明の本開示の実施形態に従い適用することができる)。更に、本開示の2DAC薄膜がその上で成長するあらゆる基板材料、例えば、ステンレス鋼、チタン、ガラス、ニッケル、及びアルミニウム基板等における接着エネルギーは明らかである。上に示した基板は例示的なものであり、本開示の教示は任意の所望の基板に被覆することができることを理解すべきである。
【0084】
[0122] 一般に、任意の2D材料を従来の方法及びプロセスによって何らかの材料に転写する過去の試みにおいては、例えば、転写された材料に欠陥及び亀裂が生じ、基板の被覆率も低下していた。その理由の少なくとも一部は、転写プロセスが一般に多くの機械的工程を用いていることや、従来の薄膜用途においては亀裂及び欠陥を誘発する化学物質を使用する可能性があることにある。一方、本開示の2DAC薄膜は、例えば、成長基板から対象基板に転写することを必要としない。本開示の2DAC薄膜の接着性が向上していることに加えて、本開示の2DAC薄膜の特性が向上していることにより、基板全体を確実に均一且つ完全に直接被覆することができる。したがって、均一且つ完全な被覆が達成され、その理由は、少なくとも、本開示の2DAC薄膜を転写することが不要なことにあり、それは、その母体となる基板に直接、ばらつきなく及びうまく成長させることが十分に可能なためである。
【0085】
[0123] 本開示の2DAC薄膜は、このように高い信頼性で被覆を行うと共に、基板(炭素等)に接着する非常に優れた機械的性質を提供するように設計されているので、本開示の2DAC薄膜は、2DAC薄膜及び複合体に更なる物理的性質/要件が要求される用途に非常に好適であり、信頼性も高い。そのような物理的性質としては、本開示の2DAC薄膜及び/又は複合体を屈曲及び/又は伸長することができる能力を挙げることができる。本開示の2DACが基板に接着する特性及び能力も、このことを確実にしている。転写した薄膜のように基板への接着が不均一な場合、接着が弱い領域の薄膜に亀裂が生じることとなり、不良が発生しやすくなる。
【0086】
[0124] したがって、開示した本発明の実施形態は、それを成長させる基板104の上全体を覆う最上部のアモルファス炭素薄膜102を提供し(図9のラマンマップ)、それにより、例えば炭素コートを必要とする用途に非常に有用となる。最上部のアモルファス炭素薄膜102は、欠陥のない拡散障壁の役割も果たし、それにより、その下側にある基板の酸化及び腐食を防ぐ。本開示のアモルファス炭素薄膜102は、電気絶縁性を有しているため、基板104の電解腐食を防ぐ。本開示の2DACの導電性が低いことは、最近の報告に見られるように、細胞の接着及び増殖に有利である。8 導電性基板上の細胞は、焦点接着を形成することなく、静電相互作用を介して表面に接着する。焦点接着は細胞の増殖及び成長に不可欠であり、焦点接着の発達及び細胞増殖には導電性が低いことが好ましい。導電性の低さは、ラマン分光によるD/Gピーク強度及びsp3/sp2比から認められるように、本開示の2DACがアモルファス性を有することの結果である。
【0087】
[0125] それとは対照的に、グラフェンは長期腐食を悪化させることが知られている。9 グラフェンの転写において、表面に沿って亀裂及び欠陥を生じさせることなく平坦な連続薄膜を生成させることはほぼ不可能である。本開示のアモルファス炭素薄膜102材料は、基板104を含む複合体であり、それにより、転写の必要性がないことに加えて、薄膜102内に亀裂を生じさせる危険性が排除される。
【0088】
[0126] 本開示の2DAC薄膜は、ガラス状炭素に類似したsp2結合している炭素から構成されるが、層の厚みは僅か原子約1個分(6Å)であり、従来報告されているアモルファス炭素構造よりも薄い。図10は、Cu上の2Dアモルファス炭素のX線光電子分光(XPS)測定を示すものであり、ピーク位置は、sp2又はsp3結合の種類を示し、ピーク強度は各種類の結合の割合を示している。C-C sp3含有量の最大値は20%に定められるが、厚みを犠牲にすることなくC-C sp2及びsp3結合を混合することも可能である。本開示の2DACの薄肉構造及び強力な接着性は、明らかに薄片が剥がれる可能性があるより厚肉の薄膜とは異なり、本質的にその下側にある基板を常に保護する。10
【0089】
[0127] 本開示の実施形態によれば、炭化水素(CH4、C22等)を前駆体として使用し、レーザーを利用する成長プロセスを用いることにより、本開示の複合体薄膜が生成する。水素ガス(H2)及びアルゴンガス(Ar)を前駆体と混合することもできる。このプロセスにおいて、レーザーは2つの役割を果たす:(1)前駆体ガスを光分解と呼ばれる過程で分解するためのエネルギー供給源;及び(2)局所的な熱源。上に述べた役割の一方又は両方により本開示の2DAC薄膜が生成されると仮定すると:第1の場合においては、基板104は成長全体を通して室温下にあると考えられ;第2の場合においては、レーザーは基板104を500℃まで加熱することができる。通常、使用した基板に応じて、異なる成長時間で、パルスエキシマUVレーザー(例えば、193、248、又は308nm)を、光量を約50~1000mJ/cm2とし、基板上に向けて、又は基板と平行に照射することができる。本開示の複合体を製造するための他の可能性のある組合せは、レーザー、プラズマ、及び/又は基板加熱ヒーターの任意の組合せを利用することを含み得る。ヒーターは、基板104を500℃まで加熱するために利用することができる。1~100Wの範囲(境界値を含む)にあるパワーのプラズマを使用することができる。炭化水素を前駆体として使用する典型的な組合せは、次に示すものになるであろう:(i)レーザーのみ;(ii)レーザー+低出力プラズマ(5W);(iii)レーザー+低出力プラズマ(5W)+ヒーター(300℃~500℃);(iv)低出力プラズマ(5W)+500℃のヒーター;(v)高出力プラズマ(100W)のみ。
【0090】
[0128] 本開示の実施形態によれば、本開示の2DAC及び2DAC複合体の成長/堆積は全てチャンバ内で実施することができる。制御された成長環境を達成するために、加熱用モジュール、プラズマ、気流、及び圧力の制御は全て、チャンバ内で設定及び確立することができる。一実施形態によれば、チャンバにおいて10~1E-4mbarの範囲(境界値を含む)の処理圧力とすることができる。
【0091】
[0129] 本開示の2DACの処理パラメータとしては、次に示すものを挙げることができる:(i)処理ガス:CH4(ii)チャンバ圧力:2.0E-2mbar;(iii)レーザー光量:70mJ/cm2;(iv)成長時間:1分間;(v)プラズマ出力:5W;(vi)基板:Cu箔。
【0092】
[0130] 本開示の2DAC薄膜を製造するためのプロセスは、成長プロセス用成長チャンバ内でメタン(CH4)を使用することができる。成長時のチャンバ内のガス圧は、全体を通して2E-2mbarに制御することができる。このガスは、5Wの電力で運転されるプラズマ発生装置の存在下に用いられる。この成長は、銅箔基板の表面を、光量70mJ/cm2、パルス周波数50Hzの248nmのエキシマレーザーに露光することによって開始する。レーザー露光時間(即ち、成長時間)を1分間に設定することにより、基板上に連続2DAC被覆が得られる。この成長にステージヒーターは使用しない。本明細書に開示する本開示の2DACの特性は、これらに限定されるものではないが、前駆体としての炭化水素、前駆体混合物、光分解プロセス及び設備の調整、温度制御、基板温度調整、C値の変更、原子層数の変更、sp2対sp3比の変更、及び基板に対する接着力の変更を含む複数のパラメータを制御及び/又は変更することにより調整することができる。
【0093】
[0131] 本開示の炭素薄膜は、本開示の基板の金属表面を、適用された用法の使用期間内に亘り安定的に且つ完全に覆うことを確実にする最小限の厚みで構築することができる。例示的な一実施形態において、本開示の2DACは、原子約1個分の厚みの層を有するように設計することができる。本開示の炭素薄膜102は、幾つかの種類の基板104、例えば、ステンレス鋼及びチタン材料の上に直接成長させることができる。この成長は、例えば、グラフェン合成よりもはるかに低い温度で行うことができるので、本開示の2DACは、高温に耐えられないガラス及びハードディスク等の他の基板104上に直接成長させることができる。11 本開示の2DAC薄膜102は非常に高強度であり、基板104に強力に結合するので、屈曲や伸長等の変形が必要となり得る用途に適している。本開示の2DAC薄膜は結晶粒界を有しないため、機械的性質が高い。本開示の炭素薄膜102は、絶縁性を有するため、グラフェンとは異なり、基板104の腐食を進行させる電解腐食を防止する。TEM像に認められるように炭素薄膜が7、8、及び9員環を有することは、気体又はプロトン輸送に有効な膜として有用である。6
【0094】
[0132] 開示した本発明の選択された実施形態によれば、本開示の2DACは、例えば、その上で成長させるのに適していない基板の場合、つまり、本開示の2DACを転写することが必要な場合に、自立した状態で作製することができる。本開示の2DAC 1202を転写するのに適した方法及び技術は、特許出願:国際公開第2016126208A1号Defect-free direct dry delamination of cvd graphene using a polarized ferroelectric polymerに記載されている乾式転写等を用いることができる。他の転写方法としては、これらに限定されるものではないが、熱剥離テープ、感圧接着剤、スピンコーティング、スプレーコーティング、及びラングミュア・ブロジェット法を挙げることができる。
【0095】
[0133] しかしながら、本開示の追加の利点により、幾つかの実施形態において、本開示の2DACは、基板上に直接成長させることができる。本開示の2DAC薄膜の転写プロセスに関するそのような利点は、例えば、グラフェンと比較して、本開示の2DAC薄膜は転写用の犠牲支持層を必要としないことにある(グラフェンとは異なる)。グラフェンの場合、転写の際に亀裂及び欠陥を防ぐためのフィルム層が必要であり、フィルム層はその後に除去することが必要である。除去した後でさえ、完全に除去することができない犠牲層由来の残留物が残存する。本開示の2DACを用いることにより、犠牲層を使用することなく、欠陥を誘発することなく、且つ残留物を処理したり構造に妥協したりすることなく、転写を実施することができる。
【0096】
[0134] 本開示の2DAC層の実施形態の利点は、これらに限定されるものではないが、例えば、HAMR媒体技術に採用されている、下側にある磁気記録層の保護材としてのアモルファス炭素オーバーコート層等の幅広い用途で得ることができる。この種の用途は、本開示の2DAC層、例えば、C値が0.8以下である非晶性構造を有する例示的な炭素原子の単層等の利点を利用している。再び図2に示す2DAC薄膜等の本開示の2DAC層のアモルファスの性質を参照すると、連続薄膜の炭素はランダムなパターンで配列しており、プロトンの透過コンダクタンスが約0.1~10S/cm2と極めて高くなる。
【0097】
[0135] 開示した本発明の実施形態は、HAMR媒体において、自身の下側にある磁気記録層を保護するオーバーコート層を提供する。オーバーコート層には、上に述べた本開示の2DAC層を用いることができる。図11は、本開示の一実施形態によるHAMR記録デバイス1100の例示的な垂直横断面図を示すものである。本開示の層を図示する例示的なHAMRデバイス1100の厚みは必ずしも実際のデバイスの比率通りではないことは容易に理解される。例示的な実施形態において、HAMRデバイス1100の全体の構造は、基板層1102、接着層1104、ヒートシンク層1106、軟磁性裏打ち層1108、他の下地層1110、記録層1112、キャップ層1114、オーバーコート層1116、及び潤滑層1118を含むことができる。
【0098】
[0136] 基板層1102は、ガラス、金属基板(アルミニウム等)、又は他の基本材料(何らかの材料の酸化物等)を含むことができる。接着層1104は、例えば、最上層の剥離を低減すると共に、平坦性を向上するために利用することができる。1、15 ヒートシンク層1106は、接着層1104の上に設けることができ、熱、例えば、HAMR作業に使用したレーザーによる熱等を放散するために設けられる。運転時の磁束の帰還経路を提供するために、軟磁性層等の軟磁性裏打ち層1108を、例えば、シートシンク層(seat sink layer)1106の上に設けることができる。開示した幾つかの実施形態において、他の下地層1110を、例えば、軟磁性裏打ち層1108の上に配置して利用することができる。下地層1110は、バリア層及びシード層を含むことができ、異なる技術分野においては、規則化温度低減層を含むことができる。記録層1112は下地層1110の上に設けることができる。キャップ層1114を用いることができ、記録層1112の上に設けることができる。キャップ層1114には、記録層の保護を行う磁性材料が利用される。上に述べた本開示の2DAC層等のオーバーコート層1116は、キャップ層1114の上に設けることができる。したがって、オーバーコート層1116は、耐食保護性及び耐摩耗保護性を提供する本開示の2DACオーバーコートと見なすことができる。潤滑層1118は、ヘッド及び媒体表面間の摩擦を低減するためにオーバーコート層1116上に用いることができ、それによりオーバーコート層1116の摩耗を低減する。
【0099】
摩擦学的説明
[0137] 磁気記録媒体の記録面密度を増加させるために、より小さい磁化ビットが要求される。磁化ビットのサイズを低減すると、磁気信号も低下することになり、s/n比を劣化させる原因となる。s/n比を向上させるためには、開示した実施形態では、読み出しヘッドを磁気記録媒体に近づけることが必要である。開示した本発明のオーバーコート層1116は、原子約1個分の厚みから原子数個分の厚みを含み得る。したがって、上に述べた厚みの範囲は、約0.2nm~約2nmの厚みを含むことができる。本開示のオーバーコート層1116の厚みの範囲により、磁化ビットサイズの下限を大幅に低下させることができる。したがって、本開示のオーバーコート層1116は、一実施形態においては、炭素原子1個分の層から構成することができ、他の実施形態においては、炭素数個分の層から構成することができる。本開示の2DAC層等の本開示のオーバーコート層1116は、キャップ層1114の上に設けることができる。オーバーコート層1116は、被覆された表面に対し向上した接着性を示しながら、低い表面粗さを維持するように設計されている。幾つかの実施形態において、記録表面上のオーバーコート層1116の堆積物の粗さは1Å未満である。
【0100】
耐食性
[0138] 本開示の実施形態において、ハードディスクは、次に示す層の全部又は一部を含むことができる:キャップ層1114、炭素オーバーコート層1116、及び潤滑層1118。上に述べた層の主要な機能の1つは、ハードディスクを周囲環境による腐食から保護することである。これは特に、磁気ハードディスクが、例えば、HAMR技術に付される場合に当てはまり、HAMR技術では、磁気ハードディスクが高温の温度環境に曝露される。腐食が発生する主要な理由の1つは、周囲環境中に存在する水分子に起因する。そのような水分子は電解腐食を促進する。更に、一般的な炭素オーバーコートは導電性を有するため、磁化ビットの酸化により生成する電子の帰還経路を提供することとなり、腐食速度を速める。表面構造が粗いと、湿度の高い環境中の水が毛管現象により保持されるため、腐食が悪化するであろう。開示した技術によれば、本開示の2DACのオーバーコート層1116は絶縁性を有する。本開示の幾つかの実施形態においては、オーバーコート層1116、例えば、約102~105Ω-cmの間の抵抗率を有する本開示の2DAC層が提供されるため、電解腐食作用の低減が促される。例えば、図12に示すように、オーバーコート層1116の水接触角は約60であり、良好な疎水表面であることを示唆している(例えば図12参照)。本開示のオーバーコート層1116の表面が疎水性を有することにより、水のメニスカスの形成の低減が促進され、したがって、周囲から水を引き寄せにくくなる。本開示の炭素オーバーコート層1116は粗さが低いため、腐食が更に低減され、データが安定して保存される。
【0101】
薬品及び熱安定性
[0139] 本開示の2DAC等の炭素オーバーコート層1116は、C-C Sp2結合によって結合している炭素99%以上から構成される。炭素表面に結合しているO及びHは1%未満である。
【0102】
[0140] HAMR媒体の媒体表面は、作業中に急速な局所加熱及び冷却を受ける可能性がある。幾つかの例示的な実施形態においては、30ナノメートル未満のサイズのスポットを5ns~200ns以内に400℃まで加熱し12、次いで室温まで冷却する場合がある。このようなプロセスの場合、昇温速度は1011K/sに達し得る。13、14 先行技術の設計では、従来の炭素オーバーコートは、Sp3結合及びSp2結合の両方共含み、急速な昇温に起因して、炭素原子間のSp3結合はその際に黒鉛に転移し、Sp3結合はSp2結合に移行することになり、したがって、クラスターが形成され、不連続な表面が生じる場合がある。これに替えて、本開示の2DAC等のオーバーコート層1116は、Sp2炭素結合を99%を超えて含む。本開示の2DACは700℃まで及び2時間を超える焼鈍に対し安定である。高い昇温速度下でさえも結合は変化しない。したがって、本開示の2DACを含む本開示のオーバーコート層1116の実施形態は、HAMR媒体により用いられる高い作業温度に曝露してもよく、被覆された表面に熱安定性を付与すると同時に、その耐食性を向上する。
【0103】
[0141] 図13は、市販の炭素オーバーコート(CoC)1302の熱安定性を本開示のオーバーコート層1116と比較した図1300を示すものである。この図面は、ハードディスクのオーバーコートにレーザー照射した際の両オーバーコートのラマンマッピングから得られたID/IG比の変化をプロットしたものである。図に示したように、指定されたレーザーのパワーを増大すると、市販の炭素オーバーコート1302はID/IG比が急激に変化し、黒鉛化したことを示唆している。他方、オーバーコート層1116は概ね同じ比を維持しており、優れた熱安定性を示している。
【0104】
摩擦
[0142] オーバーコート層はハードディスクに緩衝器(bumper)様表面を配置するために利用することもできる。ハードディスクの動作中、スライダが移動を開始した後、コンタクトスタートストップ動作を行う場合がある。一般に、起動及び停止期間中は、読み出し/書き込みヘッドはハードディスク表面と接触することになる。したがって、界面の過度な摩耗から保護するために、摩擦が十分に低い材料を用いることが好ましい。開示したオーバーコート層1116は摩擦的要件を満たし、摩擦がより小さく、抗弱(anti-weak)である表面を付与するように設計されている。一実施形態において、オーバーコート層1116は、約0.2~0.4の摩擦範囲を含み、これは、現行の市販されている炭素オーバーコートの代替品として利用するのに適している。
【0105】
透過率
[0143] 図14は、一般的なHAMR装置の設計の例示的な垂直断面図1400を示すものである。磁気記録ビット1402は、書き込み作業中はレーザー1404で加熱される。レーザー1404はインターフェース1406に指向させることができ、光を約30ナノメートル未満のスポットサイズに集光することを促す近接場変換素子1408を通過してもよい。レーザー1404はヘッドに組み込まれており、好ましくは、エネルギーを節減すること及びより容易に作製することの両方の目的で、可能な限り低いレーザーパワーを達成するように設定されている。レーザー1404は、UV、可視、又は赤外光のいずれかとすることができる。従来の構成において、レーザー1404は、一般に、磁化ビットに到達する前に、潤滑層1118及びオーバーコート層1116を通過することになる。一般に、層の反射によりエネルギー損失が起こる。従来の市販の炭素オーバーコート層の場合、2000cm-1付近の波数の光に対する光の反射率は約65%である(米国特許第8760980B2号)。16 本開示は、例えば、図15のグラフ1500に示すように、紫外(UV)域の反射率が5%未満であり、他の領域の反射率が一層低い、炭素オーバーコート層1116を提供する。したがって、本開示の実施形態により、HAMR用途に必要とされるレーザーのパワーを低減することができる。
【0106】
[0144] 本開示の2DAC等のオーバーコート層1116は、面外方向の熱伝導性が高く、その一方で、横方向の熱伝導性はより低い。本開示の2DACの垂直方向の熱伝導性はオーバーコート層1116及び磁性層間の熱的結合を上昇させ、加熱効率も高くなる。本開示の2DACの横方向の熱伝導性が低いことにより、熱が局所的に閉じ込められ、オーバーコート層1116の小さい熱スポット内の温度勾配がより高くなる。
【0107】
[0145] したがって、本実施形態により開示したアモルファス材料は、実使用上非常に重要であると見なすことができる基本的な特性を含む。しかしながら、従来の対話及び理解には、理論的観点から見てさえも、依然として理解の基本的枠組みが欠けている。一方、開示した本発明は、自立する、連続した、空気中で安定なアモルファス炭素の単層(MAC)を、レーザー支援化学気相成長法により合成できることが検討だけでなく実証されている。17 原子スケールでのTEM撮像から、結合長及び結合角の両方が幅広く分布しており、長周期性を全く有しない完全なsp2構造を有することが明らかになった。結晶性を有しないことにより、トンネル抵抗値及びシート抵抗値の両方がh-BNに類似しているアンダーソン絶縁体相になる。更に、グラフェンとは異なり、本開示の炭素薄膜は、破壊強度を損なうことなく、可撓性が大幅に上昇されている。本開示の実施形態は、自立型MACの合成を初めて実証したものであり、その構成、原子構造、及び物理的性質に関する重大な洞察を与える。これにより、2D結晶性材料でも3Dアモルファス材料でも実現することができない、原子薄膜状アモルファス薄膜の幅広い応用が実現される可能性が開かれる。その例の範囲は、熱アシスト磁気記録(HAMR)からプロトンバリア材料、及び幹細胞研究にさえも及ぶ。
【0108】
[0146] 2D分野が急速に発展し、2D結晶性薄膜の幅広いライブラリーが知られていてさえも、安定な自立型2DMACはこれまで報告されていない。それらの結晶性同等物(counterpart)とは異なり、ランダムに結合した構造を有すると、通常、構造的に弱く反応性が高い不安定な薄膜となる。例えば、超薄膜シリカガラスが合成されたが、これは四面体の二重層から構成されていた。より重要なことは、中間層が(金属製)成長基板とファンデルワールス結合することがその安定性に必須であることが示されたことである。18 このことが、探求すべき基本的物理学的性質を定めることも、応用の潜在性を広げることも難しくしている。
【0109】
[0148] 本開示の実施形態により、レーザー支援化学気相成長(CVD)プロセスをMAC用に発展させた。このプロセスは、任意の基板上で機能する。その結果として、200℃以下の低い基板温度(at substrate temperatures as low as 200℃)で30秒以内に完全な薄膜被覆が得られる。レーザーは唯一の熱源なので、例えば、更なる改良を行うために、プロセスの所要時間及び温度を必要に応じて調整することができる。このような開示した薄膜は、安定性を犠牲にすることなく、その成長基板から容易に転写することもできる。本開示の実施形態では、簡素化のため、特に断りのない限り、主として銅箔上で成長させたMAC薄膜上の代表的なデータについて検討する。グラフェン(PG)又はh-Bn(PG)等の多結晶2D結晶とは異なり、MACはポリマー支持体を必要とすることなく、液面上でさえも自立する。ポリマー支持体を有しないと、PGは湿式転写の際にその粒界が弱くなり、水の表面張力で崩壊する。機械的支持体のないMACを剥離する場合は、転写に関連する欠陥が低減され、転写による残留物が生じない。図16a及びbは、それぞれ、SiO2/Siウェハ上及びTEMグリッド上に、いずれも均質且つ連続的になるように転写した試料を示すものである。具体的には、図16aは、SiO2/Siウェハ上に転写したアモルファス炭素(MAC)の単層を示すものである。図16bは、直径2.5μmのホールを有するTEMグリッド上に保持したMACのSEM像を示すものである。転写された2D層に通常観察される多層領域及びシワが存在する形跡は見られない。SEM下でのコントラストが均一であることは、導電性が均一であることも示唆している。図16cは、異なる基板上で成長させたアモルファス炭素のラマンスペクトルを示すものであり、Cu及びAuに関しては、薄膜をSiO2に転写してから測定を行い、一方、Ru上の薄膜は直接測定を行った。図16dは、Cuで成長させた場合のラマンスペクトルを、D及びGバンドにフィッティングした曲線と共に示すものであり、I(D)/I(G)比は0.82である。図16eは、異なる基板上で直接測定したC1s XPSスペクトルのグラフである。図16fは、Cu上の高分解能C1s XPSスペクトルを、フィッティングした曲線と共に示すグラフであり、284.0eVにCのsp2ピークのみが見られる。異なる金属基板上で成長したMAC試料を、まずラマン分光及びX線光電子分光(XPS)測定により特性評価した。全ての試料はほぼ同一のラマン及びXPSスペクトルを示し、MACの構造は全く基板に依存しないことが示された(図16c、16e)。更に、結晶性炭素の約2680cm-1の判別しやすいラマン2Dバンドは非常に小さく、長距離秩序を持たないことを強く示唆している20図16d)(SI)。同じく判明したのが、図16fの1sX線光電子分光(XPS)スペクトルにおいて、MACの結合がC sp2のみであることが示されたことである。
【0110】
[0149] 炭素原子の正確な配置を直接決定するために、開示した実施形態において、収差補正高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)を利用する。図17は、本開示の単層アモルファス炭素の形態に関するものである。図17aは、本開示のアモルファス炭素単層の単色化HRTEM像である。炭素が再び堆積しないように、試料の撮像を700℃で行う。色収差が低減されることにより、画像内の各炭素原子をはっきりと確認することができる。図17bは、図17aの選択された範囲を拡大した原子マッピング(atom-by-atom mapping)を示すものである。五角形、八角形、及び引張られた(strained)六角形が偏在している。視認性を高めるために画像のコントラストを反転させ、擬似カラー表示した。図17cは、図17bの赤い正方形で囲んで強調した領域を拡大したものである。五角形、八角形、及び引張られた六角形をそれぞれ赤色、青色、及び緑色に着色した。各五角形の結合長及び結合角を厳密に測定したところ、結合長及び結合角はどちらも幅広く分布しており、単層内に秩序がないという特徴を示している。図17dは、各炭素原子のマッピング座標により算出した対相関関数を示すものである。参照用として、同様の条件下及び同一のマッピングアルゴリズムで画像化したグラフェンを示す。図17eは、第1隣接原子との結合長の分布をグラフェン及び本開示のアモルファス炭素単層で比較した図である。グラフェンのピークは画像の収差及びアルゴリズムのエラーによりシャープなデルタ関数ではないが、依然として1.4Aを中心とし、偏差は小さい。それとは対照的に、本開示のアモルファス炭素層は0.9~1.8Aからの偏差が非常に広い。図17fは、MAC及びグラフェンの結合角の分布の統計的ヒストグラムを示すものである。
【0111】
[0150] 本開示のHRTEM像から、連結している六角形並びに5、7、及び8員環の形態にある非六角形構造の存在が明らかとなった(図17a~c)。重大なことは、格子の乱れがランダムに分布していることが観測され、欠陥のあるグラフェン中の欠陥や、結晶界面の粒界を示すものとは明らかな差異が存在することである。21 安定な結晶の格子構造はTEMで容易に決定することができるが、2Dアモルファスは最近まで存在しなかったので、アモルファス構造を直接画像化することは不可能であった。アモルファスの網目の構成に関する知見は少なく、アモルファス性の定量的な尺度を標準的な基準として採り入れるべきである。Lichtensteinらは、最近になって、試料の結晶化度(又は「アモルファス化度」)を、多角形の総数に対する六角形の総数N6の比として定義した22
【数1】
完全な結晶の場合、Cは1である。他方、Jain及びBarkemaによる偏りのない等方性3配位結合ランダムネットワークのシミュレーションでは、アモルファスの理論上のCの限界値は約0.60であると提案されている。23 本開示のMACはそのような網目に非常に類似しており、C値が0.60~0.65の範囲にあり、平均面積8nm2における平均値がC=0.64±0.03である(図17a~cの色分けした環のサイズ分析及び環のサイズ分布参照)。つまり、本開示の実施形態は、明らかに理論上の限界に近付いている。本開示の実施形態は、隣接炭素原子の対相関関数も評価したが、第2隣接原子対を超えると急速に消失することが観測された(図17d~f)。これは、長距離秩序を持たないことの直接的な裏付けである。更に、MAC内のsp2炭素結合は極度に歪んでいるため、結合長は0.9~1.8Åの間で幅広く変化し、面内及び面外の両方の結合角が非常にばらついている。グラフェン結晶は、歪みが僅か1.6Å及び135°未満であっても、理論上の破断歪みが25~30%となり24、これらが得られた値よりもはるかに低いことは驚くべきことである。更に、自立したMACを700℃で焼鈍し、60keV電子線を照射しても、特に、本開示の実施形態は、TEMにより誘発されるStone-Wales欠陥又は空孔が観察されず、損傷は視認されない。
【0112】
[0151] 本開示の実施形態では、この種の自立したMAC膜の機械的性質を、ダイヤモンドチップを有する原子間力顕微鏡(AFM)を用いて押し込み実験を行うことによってより詳細に調査した。MACは押し込み力約200nNで破壊し、これはPGに類似しており、単層結晶性グラフェン(SG)又はh-bNの破壊荷重よりも約1桁小さい。25
【0113】
[0152] 図18aは、E2D及び予張力(pre-tension)値を求めるための荷重対撓み曲線及び式(2)に対するカーブフィッティングを示すものである。左の挿入図は、直径2.5μmのウェル上に保持したMACのAFMスキャンである。シアン色の線は、ウェル壁への接着深さが10.0nmの場合の中心を通る高さプロファイルである。スケールバーは1μmである。右側の挿入図はMAC中央の押し込み破壊を示すものである。シアン色の線は中心を通る高さプロファイルである。画像の幅は500nmである。押し込み破壊は制限されており、伝播していないことがすぐに分かる(図18a)。これは、PGやh-BN等の、常に粒界で亀裂が伝播することにより崩壊する、他の任意の結晶性2D材料とは明確に異なる(SIも参照されたい)。これは、PGが、脆く、その本来の高い強度に近づいてさえいなくても、破壊が起こると不良品になる一方、本開示のMACは、破壊してさえもその強度を保持していることを意味している。これは、本開示のMACの破壊靭性が、大部分の2D結晶(PGを含めてさえも)よりも著しく高いことを示唆している。26
【0114】
[0153] 図18bは、調査を行った例示的な39枚の膜の2D弾性スティフネスの度数分布を示すものである。予張力及び2次元弾性スティフネス(E2D)の間には相関関係があり、E2D=63~161Nm-1と広範囲に亘る。図18cは、2D弾性率対予張力を、直線フィッティング(赤色の線)及び理論上の範囲(青色の帯)と共に示したものである。結果として得られた、非線形的であるが完全な可逆性を示すE2Dのスティフネスは、予張力の増加に伴い増大する(図18c)。これは、連続シートというよりも寧ろ高分子網目に典型的である。本開示のMACは、伸長により軟質材料から硬質材料に変化し、未伸長のMACはグラフェンよりもはるかに可撓性が高いことを示している。
【0115】
[0154] 次に、本開示の実施形態によりAFMを用いてMACの厚みを特定する。ここでは、複数回湿式転写を行うことによりMACの層をSiO2/Si上に重ね、基板との相互作用によるアーチファクトを除外した。図18dに戻ると、上段の図は、面外方向の構造緩和によって、面内膜厚3.4Åから単層の厚みが増加する理論的シミュレーションを示すものである。図18dの下段は、SiO2/Si上の1~3層のMACのAFM像を示している。シアン色の破線は、重なった部分の高さプロファイルに関するライン走査を行った位置を示している。挿入図:画像幅3μm。これらの測定から、段差が0.6nmであることが測定された(図18d)。MAC単層の段差を原子オーダーで平坦な六角形窒化ホウ素(h-BN)表面で測定したところ、段差は0.58nmであった。本開示の実施形態によれば、他の表面上で成長させたMACの段差も同程度である。例えば、金の上で成長させたMACの厚みは約0.6nmである(SIに詳述)。
【0116】
[0155] これらの予期しなかった、向上した全ての特性の起源をより十分に理解するために、本開示の実施形態について、DFTを用いる理論モデリングを考える。以下に重要な結果をまとめる。モデリングの詳細はSIを参照されたい。まず、アモルファス構造に由来する距離の短いしわ(wrinkle)に起因して、MAC層間で0.65nmと大きな原子間距離が観測され、これはAFMにより測定された段差とよく一致している。これはグラフェンの高さのほぼ2倍であり、(周期的な)隆起した層構造によって薄膜の厚みが0.6nmであるフォスフォレン(bP)と類似している。
【0117】
[0156] TEM像をより入念に解析したところ、面外歪み(しわ)が大きいことに起因してTEMの平面投影において極端な結合パラメータが実際に得られたことが示された。これは、本開示の実施形態による高度に引張られた結合が予期せぬ安定性を示すことの説明となる。実際、このような六角形のsp2炭素内の一軸方向の大きい引張りは、局所的にバンドギャップを形成させると予想される。27 開示した実施形態の理論モデルから幅広いE2D=135~153Nm-1が得られ、これは本開示の実験結果とよく一致していた。更に、本開示のMACの可撓性は、構造内の炭素の8員環の割合が増加することにより著しく向上する。
【0118】
[0157] 図18eは、本開示の実施形態に従うシミュレーションに使用される理論モデルを示すものである。TEMで観察された安定なアモルファス構造に関し、本開示の信頼性の高いモデルを与え、電子的性質を予想するために状態密度(DOS)のシミュレーションを実施する。ここから、電荷は非常に狭い領域(半径r=0.4±0.2nm)に局在しており、これらは充分に分離している(Δr=1±0.5nm)ことが分かる(図18e)。それ以外の位置では、DOSはギャップを有する材料と同様に消失している。これにより、ホッピング伝導が極端に抑制されるはずである。この局在する部位を有する系(l=0.75)をグラフェン量子ドットアレイ28に類似していると見なせば、光学的には、本開示の系は、2eVの光学ギャップを有するように振舞うはずである。輸送ギャップという観点では、MACは、高温下においては従来の絶縁体のように振舞うはずである。しかしながら、抵抗率の温度依存性は、やはりギャップを有する結晶性材料の伝導機構とは基本的に異なるはずである。局在する部位間の分離は非常に大きいので、本開示の実施形態は、低温下において様々な範囲のホッピングが観測されると予想される。
【0119】
[0158] より充分に理解するために、開示した実施形態の材料の電荷移動を測定する。図19aは、2端子素子のSEM像を示すものであり、電極の長さは50μmであり、その間のチャンネル幅は200nm~1μmである。挿入図は、1μmのチャンネルのMAC/SiO2端部の拡大図である。絶縁体基板上への転写の容易性及び絶縁体基板上での安定性により、本開示の実施形態の光学特性及び輸送特性を入念に研究することが可能になる(図19a)。本開示の実施形態に従いまず光学測定を行う。
【0120】
[0159] 図19bは、石英基板上に薄膜を転写して測定した2Dアモルファス炭素の光透過率を示すものである。破線は無欠陥(pristine)のグラフェンの吸光度である2.3%を示している。挿入図は、アモルファス材料の光学バンドギャップを決定するためのTaucプロットであり、線形領域(赤色の線)を外挿することにより、光学バンドギャップが2.1eVであると推定される。TRTにおいてMACの光透過率を測定したところ、波長550nmで98.1%であり、グラフェン固有の透過率である97.7%よりも高かった(図19b)。更に重要なことは、Taucプロットにより光学バンドギャップが2.1eVであると求められ、この値は予想範囲内に充分に収まっていることである。このプロットは低エネルギー側に長いテールを示すが、これは、局在状態のエネルギー分布が幅広いことを裏付けている。開示した実施形態では、MACからフォトルミネッセンス(PL)シグナルも観測され、2.04eVに顕著なPLピークが見られた。どちらも局在化効果と一致している。
【0121】
[0160] 開示した実施形態に従い輸送測定を検討した。デバイスの作製及びデータ解析の詳細はSIで議論している。これに従い主要な結果をまとめた。温度に対するソースドレインバイアス依存性の測定を1、2、及び3層デバイスで、幅対長さ比を高くして(50μm:0.2μm<w:l<50μm:1μm)実施した。このデバイスは室温で既に絶縁挙動を示し、シート抵抗値は100GΩ程度である。これらの値は2Dに関し測定された中で最も高い抵抗であり、トラップサイトが約1010cm-2であるh-BNに関し既に報告されているものよりも(測定されたトンネル抵抗値が同程度に高くてさえも)2桁高く、1層(2層)MACは2層(4層)h-BNと類似の挙動を示した。これに加えて、I-V特性においては、空間電荷制限電流I=V^α(ここでα=2)の電圧依存性を有する30図19c)。このことから、この系が、トラップ密度が低くエネルギー分布がランダムな単純な絶縁体(h-BNのような)であることが裏付けられ、開示した本発明とよく一致している。
【0122】
[0161] トラップサイト間のホッピングに要するエネルギーは、それ自体が輸送の活性化エネルギーを表している。図19eにおいて、温度の関数として、層数の異なる試料の抵抗率を測定した。赤色の線は最良フィットした直線であり、オフセット及び傾きはそれぞれ26.9±0.05及び-6.5±0.05である。挿入図はアレニウスプロットとして再度プロットしたものであり、活性化エネルギーは470meVとなる。本開示の実施形態によれば、アレニウスプロット(図19e)から235meVという高い活性化エネルギーが求められ、これは、h-BNのN2空孔トラップの活性化エネルギーである193meV 31よりも高い。低温側においてのみ、この種類の輸送は従来のホッピング輸送とは異なるという示唆が見られる。このモデルは、モット則(Mott law):
【数2】
(式中、ρ=1/3)の指数関数的依存性に従う、局在する部位間の様々な範囲のホッピングが予想されるが、本開示の実施形態によれば、べき乗の依存性(図19e)が認められる。そのような輸送機構は、絶縁性の1次元鎖において、直線状の経路に沿って同程度の距離で局在した部位間のトンネルホッピングにより起こる。32 このようなレアチェーンホッピング(rare-chain hopping)(RCH)は:ρ=10βTNにより与えられ、式中、Nは、鎖内の局在した部位の数である。図19fは、式:ρ=10βTNで表されるオフセットの抵抗率α対パワーγの直線フィッティングを示すものである。β及びNは試料間で異なるが、本開示の実施形態は、図19fに示すように線形的な相関が認められ、N=2.2(±0.6)-0.33(±0.02)βである(図19f)。これは、局在した部位間にトンネル効果が追加される度に抵抗率が3桁上昇することを意味しており、本発明者らの材料が非常に高い絶縁挙動を示すことを説明している。
【0123】
[0162] 本開示の発明により、sp2アモルファス炭素薄膜の自立型単層の大面積成長方法が示される。これは2Dに制限してアモルファス材料を成長させる初めての例である。これは、多種多様な表面上に低温で直接成長させることができ、結晶性2D材料よりも多くのデバイス用途に魅力的である。その例は、熱アシスト磁気記録用の磁気ハードディスク上の抗酸化被膜から、電池の集電電極の被覆の範囲に亘り得る。他方、例えば、ガラスウェルプレート上に直接成長させることにより、生物医学研究、例えば、幹細胞研究に非常に実用的であろう。また、絶縁挙動は、FET用2D誘電体、磁気トンネル接合におけるスピン依存性トンネル障壁、及び電子シナプスにおける使用にさえも魅力的である。引張り下での高い機械的安定性を示すことから、ナノ細孔系の用途にも有望である。最後に大事なことであるが、絶縁挙動と高い大きな炭素環とを兼ね備えるにより、プロトン膜用途に用いる2D材料として、グラフェン自体よりも一層有望となる。一般的に言えば、2D材料の多くの用途に要求されるのは、特定の対象基板上又はデバイス上に直接成長させること、より高い機械的可撓性、及び絶縁挙動である。本開示のMACは、これらの用途の魅力ある代替品を提供する。
【0124】
[0163] 本技術又はその任意の構成要素に関し説明したこの系は、例えば、コンピュータシステム用のデータ記憶媒体の形態で具体化することができる。コンピュータシステムの典型例としては、汎用コンピュータ、プログラムされたマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、周辺集積回路素子、及び本技術の方法を構成する工程を実施することができる他のデバイス又はデバイスの配置が挙げられる。
【0125】
[0164] このコンピュータシステムは、コンピュータ、入力デバイス、ディスプレイユニット、及び/又はインターネットを含む。更にコンピュータは、マイクロプロセッサを含む。マイクロプロセッサは、通信バスに接続される。コンピュータは、メモリも含む。このメモリは、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び読み出し専用メモリ(ROM)を含み得る。コンピュータシステムは、記憶デバイスを更に含む。この記憶デバイスは、ハードディスクドライブ、又はフロッピーディスクドライブ、光ディスクドライブ等の取り外し可能な格納ドライブとすることができる。この記憶デバイスはまた、コンピュータシステム内にコンピュータプログラム又は他の命令を読み込むための他の類似の手段とすることもできる。コンピュータシステムは、通信ユニットも含む。この通信ユニットにより、コンピュータは、入出力インターフェースを通じて他のデータベース及びインターネットに接続することが可能になる。この通信ユニットにより、他のデータベースへのデータの転送及び他のデータベースからのデータの受信が可能になる。通信ユニットは、データベース、並びにLAN、MAN、WAN、及びインターネット等のネットワークに、コンピュータシステムが接続することを可能にする、モデム、イーサネットカード、又は任意の類似のデバイスを含み得る。コンピュータシステムは、入出力インターフェースを通じてシステムにアクセス可能な入力デバイスを通じて、ユーザーからの入力を容易にする。
【0126】
[0165] コンピュータシステムは、入力データを処理するために、1以上の格納要素に格納された命令のセットを実行する。この格納要素はまた、必要に応じて、データ又は他の情報も保持することができる。格納要素は、処理装置内に存在する情報源又は物理的記憶要素の形態にすることができる。
【0127】
[0166] 命令のセットは、処理装置に、本技術の方法を構成する工程等の特定のタスクを実行するように命令する様々なコマンドを含むことができる。命令のセットはソフトウェアプログラムの形態とすることができる。更に、ソフトウェアは、本技術のように、別々のプログラムのコレクション、より大きなプログラムを有するプログラムモジュール、又はプログラムモジュールの一部の形態とすることができる。ソフトウェアはまた、オブジェクト指向プログラミング形態のモジュラープログラミングも含むことができる。処理装置による入力データの処理は、ユーザーコマンド、先行する処理の結果、又は別の処理装置によって作成される要求に応答することができる。
【0128】
[0167] 本開示の多くの実施形態について詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲に定義した本発明の範囲から逸脱しない修正及び変形が可能であることは明らかであろう。更に、本発明の多くの実施形態を例示してきたが、本開示の全ての実施例は、非限定的な例として示しており、したがって、こうして例示した様々な態様を限定するものと解釈すべきではないことを理解すべきである。
【0129】
[参考文献]
[0168] 以下に示す参考文献を上で参照し、これらを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
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21. Nano Lett. 10, 4, 1144.
22. Lichtenstein, PRL 109.
23. Phys. Chem. Chem. Phys., 2018, 20, 16966.
24. Scientific Reports volume 7, 41398 (2017).
25. Nano Lett. 11, 6, 2259.
26. Nature Comm 5, 3782 (2014).
27. Phys. Rev. B 78, 075435.
28. Nat. Mat. 8, p. 235 (2009).
29. Nano Lett., 2015, 15 (4) pp 2263.
30. PhysRev.97.1538.
31. ACS Appl. Mater. Interfaces, 2018, 10 (20), pp 17287.
32. PhysRevB.84.125447.
【0130】
[0169] 本出願に引用した全ての文書、特許、雑誌記事、及び他の資料を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0131】
[0170] 先行公開文献(又はそこから導かれる情報)又は任意の公知の事項の本明細書における参照は、その先行公開文献(又はそこから導かれる情報)又は公知の事項が、本明細書が関連する努力傾注分野における共通の一般的知識の一部を構成することを肯定又は自認するものでもなければ、それを示唆する形態でもなく、また、そのように解釈すべきでもない。
【0132】
[0171] 本開示を特定の実施形態を参照しながら開示したが、添付の特許請求の範囲に定義した本開示の分野及び範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に多くの修正、代替、及び変更を施すことが可能である。したがって、本開示を、ここに記載した実施形態に限定することを意図しておらず、本開示は、以下に記載する特許請求の範囲の文言及びその均等物により定義される全範囲を有することが意図されている。
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