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▶ ネステ オイル オサケ ユキチュア ユルキネンの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】浸透油およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 111/02 20060101AFI20230428BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20230428BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20230428BHJP
   C10M 101/04 20060101ALN20230428BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20230428BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20230428BHJP
   C10M 125/26 20060101ALN20230428BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 40/36 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230428BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
C10M111/02
C10M169/04
C10M105/04
C10M101/04
C10M125/02
C10M125/22
C10M125/26
C10M147/02
C10N40:00 Z
C10N40:00 G
C10N40:36
C10N70:00
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N10:12
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021573541
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 FI2019050823
(87)【国際公開番号】W WO2020249846
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】20195523
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルティカイネン、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】カルッツネン、ヨウニ
(72)【発明者】
【氏名】レメ、ビルピ
(72)【発明者】
【氏名】ビルタネン、ヨルマ
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】豪国特許出願公開第2017279689(AU,A1)
【文献】特開平02-127497(JP,A)
【文献】特開2009-215483(JP,A)
【文献】特表2008-539316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透油の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒であって、前記イソアルカン溶媒が、前記イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%のイソアルカンを含み、前記イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%の前記イソアルカンが、C14~C20の炭素数の範囲であるイソアルカン溶媒;および
浸透油の総計の体積の2~30vol-%の生物源由来のオイル
を含む浸透油。
【請求項2】
前記浸透油の総計の体積の0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含み、前記潤滑性向上剤は、前記潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む請求項1記載の浸透油。
【請求項3】
前記浸透油の総計の体積の2~20vol-%、好ましくは5~10vol-%の前記生物源由来のオイルを含む請求項1または2記載の浸透油。
【請求項4】
前記生物源由来のオイルが、生物源由来のエステル油、好ましくはトリグリセリドオイルである請求項1~3のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項5】
前記浸透油の総計の体積の70~95vol-%、好ましくは80~94vol-%、より好ましくは85~92vol-%の前記イソアルカン溶媒を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項6】
前記イソアルカン溶媒が、前記イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも90wt-%、より好ましくは少なくとも93wt-%のイソアルカンを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項7】
前記イソアルカン溶媒が、前記イソアルカン溶媒の総計の重量の多くて98wt-%のイソアルカンを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項8】
前記イソアルカン溶媒中の少なくとも90wt-%の前記イソアルカンが、C14~C20の炭素数の範囲であり、および/または、少なくとも70wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%の前記イソアルカンが、C14~C18の炭素数の範囲、より好ましくはC16~C18の炭素数の範囲である請求項1~7のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項9】
前記イソアルカン溶媒中の多くて95wt-%の前記イソアルカンが、C14~C20、またはC14~C18、またはC16~C18の炭素数の範囲内にある請求項1~8のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項10】
前記イソアルカン溶媒が、ASTM D 93-2010a(2011)に従って測定されて、60℃より高い、好ましくは65℃より高い、より好ましくは70℃より高い引火点を有する請求項1~9のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項11】
前記イソアルカン溶媒が、ASTM D 5950-2014に従って測定されて、-30℃より低い、好ましくは-40℃より低い、より好ましくは-50℃より低い、さらにより好ましくは-60℃より低い流動点を有する請求項1~10のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項12】
前記イソアルカン溶媒が、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で12mm2/s未満、好ましくは10mm2/s未満、より好ましくは8.0mm2/s未満の動粘度を有する請求項1~11のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項13】
前記イソアルカン溶媒が、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で少なくとも1.0mm2/s、好ましくは少なくとも2.0mm2/s、より好ましくは少なくとも3.0mm2/sの動粘度を有する請求項1~12のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項14】
前記生物源由来のオイルが、前記イソアルカン溶媒よりも高い動粘度を有し、前記生物源由来のオイルの動粘度は、好ましくは、ENISO3104/1996に従って測定されて、8mm2/sより大きい、より好ましくは10mm2/sより大きい、さらにより好ましくは12mm2/sより大きい請求項1~13のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項15】
前記浸透油の総計の体積の0.5~2vol-%、好ましくは0.9~2vol-%の前記潤滑性向上剤を含む請求項2~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記潤滑性向上剤が、前記潤滑性向上剤の総計の重量の10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイル、好ましくは、10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイル、より好ましくは、20~30wt-%の固体粒子および70~0wt-%のキャリアオイルを含む請求項2~15のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項17】
前記潤滑性添加剤の前記固体粒子が、50μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm、およびさらにより好ましくは1μm未満の粒子サイズを有する請求項2~16のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項18】
前記潤滑性向上剤の前記固体粒子が、10nmより大きい、好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい、さらにより好ましくは70nmより大きい粒子サイズを有する請求項2~17のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項19】
前記潤滑性向上剤の前記固体粒子が、窒化ホウ素粒子、グラファイト粒子、硫化モリブデン粒子、もしくはポリテトラフルオロエチレン粒子、または任意にはそれらの組み合わせから選択される請求項2~18のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項20】
前記浸透油の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤を含む請求項1~19のいずれか1項に記載の浸透油。
【請求項21】
前記噴射剤が、プロパン、ブタン、CO2、N2もしくは空気、または任意にはそれらの組み合わせから、好ましくは空気、CO2もしくはN2または任意にはそれらの組み合わせから選択される請求項20記載の浸透油。
【請求項22】
前記浸透油の総計の体積の2~7vol-%のCO2を前記噴射剤として含む請求項20または21記載の浸透油。
【請求項23】
浸透油の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒であって、前記イソアルカン溶媒が、前記イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%のイソアルカンを含み、前記イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%の前記イソアルカンが、C14~C20の炭素数の範囲であるイソアルカン溶媒を生物源由来のオイルと混合する工程
を含む浸透油を製造するための方法。
【請求項24】
潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を形成するために、前記固体粒子を前記キャリアオイルと混合する工程;ならびに
前記浸透油の総計の体積の55~97.9vol-%の前記イソアルカン溶媒、0.1~5vol-%の前記潤滑性向上剤、および2~30vol-%の前記生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、前記潤滑性向上剤を前記イソアルカン溶媒および前記生物源由来のオイルと混合する工程
を含む請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記固体粒子の前記キャリアオイルとの混合が、1000~10000rpmでの高速ミキシングによって行われる請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記高速ミキシングの継続時間が、0.5~4時間であり、および、前記高速ミキシングが、15~35℃の範囲から選択される温度で行われる請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記浸透油の総計の体積の55~97vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、1~10vol-%の噴射剤、および任意には0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含む前記浸透油を形成するために、前記イソアルカン溶媒、前記生物源由来のオイル、および任意には前記潤滑性向上剤を前記噴射剤と混合する工程
を含む請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
55~98vol-%のイソアルカン溶媒であって、前記イソアルカン溶媒が、前記イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%のイソアルカンを含み、前記イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%の前記イソアルカンが、C14~C20の炭素数の範囲であるイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む組成物の、浸透油、離型油および/またはさび除去剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に透過油および離型油に関する。本発明は、特には、これらに限定されるわけではないが、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルを含む組成物、および該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本項は、本明細書に記載の任意の技術が技術水準を示しているものであると認めることなしに、有用な背景情報を説明している。
【0003】
透過油および離型油は、一般的に、化石起源のオイルに基づいている。透過油および離型油は、互いに密接している表面、例えばねじ式金属部材、ヒンジ、ロック、またはパイプフィッティングなどのあいだに入り込むことができ、および、例えばさびなどによりくっついた表面を緩ませることができる。従来の浸透油および離型油は、しばしば揮発性であり、これは例えば健康上の懸念を引き起こし得、および、浸透油および離型油の潤滑特性を損なわせ得る。浸透油および離型油は、一般的に密接している表面上、または、くっついている表面上に直接適用されるため、適用されたオイルの少なくとも一部が、典型的には蒸発および/または滴り落ちることによって、環境中に放出される可能性が高い。従来の浸透油および離型油は、一般的に生分解性ではなく、そしてそれゆえ、それらの使用は通常、環境上の懸念を提起する。
【0004】
したがって、より安全かつより環境に優しい浸透油および離型油を提供する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様において、浸透油の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒;および浸透油の総計の体積の2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油が提供される。驚くべきことに、第1の態様の透過油は、非常に良好な浸透性能、離型およびさび除去特性、ならびに十分な潤滑特性を有する。
【0006】
ある実施形態において、透過油は、浸透油の総計の体積の0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含み、潤滑性向上剤は、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む。潤滑性向上剤はさらに、離型特性、分離特性(互いに密接している表面の分離)、および、特には高圧条件における(高い負荷が浸透油にかけられる場合)、浸透油の潤滑特性を向上させる。
【0007】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の2~20vol-%、好ましくは5~10vol-%の生物源由来のオイルを含む。浸透油の安定性および保管特性(製品寿命の長さ)は、浸透油中の生物源由来のオイルのvol-%量が減少するにつれて、向上する。浸透油中の生物源由来のオイルの特定量が、浸透油の所望の粘性プロファイルならびに良好な潤滑性および離型特性を得るために好ましい。ある実施形態において、生物源由来のオイルは、エステル油、好ましくはトリグリセリドオイルである。ある実施形態において、生物源由来のオイルは、植物油または任意にはその誘導体、好ましくは菜種油または任意にはその誘導体である。
【0008】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の70~95vol-%、好ましくは80~94vol-%、より好ましくは85~92vol-%のイソアルカン溶媒を含む。浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%量を増加させることは、浸透油の浸透性能、離型特性、およびさび除去特性を向上させる。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%、好ましくは少なくとも90wt-%、より好ましくは少なくとも93wt-%のイソアルカンを含む。驚くべきことに、イソアルカン溶媒中のイソアルカンの高いwt-%は、特に低温の周囲温度において(例えば-10℃以下の温度など)浸透油の性能(浸透性能、離型特性、さび除去特性)を向上させる。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の多くて98wt-%のイソアルカンを含む。
【0009】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒中の少なくとも70wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%のイソアルカンは、C14~C20の炭素数の範囲、好ましくはC14~C18の炭素数の範囲、より好ましくはC16~C18の炭素数の範囲である。C14~C20の炭素数の範囲のイソアルカンの高いwt-%量は、より長期の離型および潤滑効果を有する浸透油を提供する。C14~C20の炭素数の範囲のイソアルカンの高いwt-%量はまた、有益な動粘度を有する浸透油を提供する。さらに、C14~C20の炭素数の範囲のイソアルカンの高いwt-%量は、有益な蒸発プロファイルを有する浸透油(すなわちそのようなゆっくりと蒸発する)を提供する。これらの効果は、さらに、イソアルカン溶媒が、C14~C18、特にはC16~C18の炭素数の範囲にある高いwt-%量のイソアルカンを含んでいる場合に明白である。ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の重量の5wt-%未満の揮発性有機化合物(VOCs)しか含まない。浸透油中のVOCsの低いwt-%量は、ユーザのための安全性を向上させる。ある実施形態において、イソアルカン溶媒中の多くて95wt-%のイソアルカンは、C14~C20の炭素数の範囲内にある。
【0010】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で12mm2/s未満、好ましくは10mm2/s未満、より好ましくは8.0mm2/s未満の動粘度を有する。低い動粘度を有するイソアルカン溶媒は、良好な浸透性能を有する浸透油を提供する。イソアルカン溶媒の銅粘度が低下するにつれて、浸透油の浸透性能は向上する。浸透油の良好な浸透性能と良好な離型特性とのバランスをとるために、イソアルカン溶媒が、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で少なくとも1.0mm2/s、好ましくは少なくとも2.0mm2/s、より好ましくは少なくとも3.0mm2/sの動粘度を有する。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、ENISO3104/1996に従って測定されて、40℃で8.0mm2/s未満、好ましくは7.0mm2/s未満、より好ましくは6.0mm2/s未満の動粘度を有し、かつ、ENISO3104/1996に従って測定されて、40℃で少なくとも1.0mm2/s、好ましくは少なくとも1.5mm2/s、より好ましくは少なくとも2.0mm2/sの動粘度を有する。
【0011】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、ASTM D 5950-2014に従って測定されて、-30℃より低い、好ましくは-40℃より低い、より好ましくは-50℃より低い、さらにより好ましくは-60℃より低い流動点を有する。イソアルカン溶媒の低い流動点は、低い周囲温度、例えば-10℃およびそれより低い温度など、例えば-20℃およびそれより低い温度など、または、-30℃およびそれより低い温度などで浸透油として使用されることを可能とする良好な低温特性を有する浸透油を提供する。イソアルカン溶媒の低い流動点は、浸透油の有益な粘度プロファイル、すなわち、周囲温度が低下するにつれて動粘度におけるあまり顕著ではない増加、に寄与する。
【0012】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、ASTM D 93-2010a(2011)に従って測定されて、60℃より高い、好ましくは65℃より高い、より好ましくは70℃より高い、引火点を有する。高い引火点を有するイソアルカン溶媒は、浸透油の使用中および保管中の両方において、浸透油の安全性を向上させる。イソアルカン溶媒の引火点は、80℃以上の高さ、またはさらに100℃以上の高さであってもよく、これはある種の適用において好ましいかもしれない。
【0013】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の0.5~2vol-%、好ましくは0.9~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。比較的少ない潤滑性向上剤のvol-%量であってもすでに、向上された離型、分離、および潤滑性特性を有する浸透油を提供することが発見された。
【0014】
ある実施形態において、浸透油は、潤滑性向上剤の総計の重量を基準として、5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイル、好ましくは、10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイル、さらに好ましくは、10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイル、さらにより好ましくは、20~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を含む。潤滑性向上剤中の固体粒子およびキャリアガスのこのようなwt-%量が、特に良好な離型、分離、および潤滑性特性を有する浸透油を提供することが発見された。
【0015】
ある実施形態において、潤滑性添加剤の固体粒子は、50μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm、およびさらにより好ましくは1μm未満の粒子サイズを有する。該値よりも小さい粒子サイズを有する固体粒子が、互いに密接している表面のあいだに特に良好に浸透することが発見された。ある実施形態において、潤滑性向上剤の固体粒子は、10nmより大きい、好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい、さらにより好ましくは70nmより大きい粒子サイズを有する。該値より大きい粒子サイズを有する固体粒子は、浸透油に高い負荷がかかる場合に特に、良好な潤滑特性および特に良好な分離特性を提供することが発見された。
【0016】
ある実施形態において、潤滑性向上剤の固体粒子は、窒化ホウ素粒子、グラファイト粒子、硫化モリブデン粒子、もしくはポリテトラフルオロエチレン粒子、または任意にはそれらの組み合わせから選択される。該粒子材料は、特に良好な潤滑特性および分離特性を有する浸透油を提供する。
【0017】
浸透油は、浸透油の使用(適用)を促進するためにエアロゾルとして提供されてもよい。ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤を含む。
【0018】
ある実施形態において、噴射剤は、プロパン、ブタン、CO2、N2もしくは空気、または任意にはそれらの組み合わせから、好ましくは空気、CO2もしくはN2または任意にはそれらの組み合わせから、選択される。浸透油は、様々な噴射剤とともに良好に処方され得る。空気、CO2もしくはN2またはそれらの組み合わせは、このような噴射剤が不燃性、不活性であり、および、環境への懸念を生じないことから好ましい。ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の2~7vol-%のCO2を噴射剤として含む。噴射剤としての2~7vol-%のCO2が、浸透油の他の成分と共に、浸透油としての使用のために良好に適した特に有益な液滴サイズを有するエアロゾルを形成することが発見された。
【0019】
本発明の第2の態様において、浸透油の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒を生物源由来のオイルと混合する工程、を含む浸透油を製造するための方法が提供される。
【0020】
ある実施形態において、方法は、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を形成するために、固体粒子をキャリアオイルと混合する工程、ならびに、浸透油の総計の体積の55~97.9vol-%のイソアルカン溶媒、0.1~5vol-%の潤滑性向上剤、および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために潤滑性向上剤をイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルと混合する工程を含む。
【0021】
ある実施形態において、固体粒子をキャリアオイルと混合する工程は、1000~10000rpmでの高速ミキシングによって行われる。1000~10000rpmでの高速ミキシングは、固体粒子のキャリアオイル中での分散を促進し、および、潤滑性向上剤の安定性を向上させる(固体粒子が潤滑性向上剤中で堆積し始めるより前の時間を延ばす)ことが発見された。ある実施形態において、高速ミキシングの継続時間は、0.5~4時間であり、高速ミキシングは、15~35℃の範囲から選択される温度で行われる。このような高速ミキシングは、固体粒子のキャリアオイル中での分散を特に促進し、および、さらに、潤滑性向上剤の安定性を向上させる。
【0022】
ある実施形態において、方法は、浸透油の総計の体積の55~97vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、1~10vol-%の噴射剤、および任意には0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および任意には潤滑性向上剤を噴射剤と混合する工程を含む。
【0023】
本発明の第3の態様において、55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む組成物の、浸透油、離型油および/またはさび除去剤としての使用が提供される。
【0024】
本発明の第4の態様において、55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む組成物を浸透油、離型油および/またはさび除去剤として使用するための方法が提供される。
【0025】
ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含み、潤滑性向上剤は、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む。
【0026】
ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の2~20vol-%、好ましくは5~10vol-%の生物源由来のオイルを含む。ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の70~95vol-%、好ましくは80~94vol-%、より好ましくは85~92vol-%のイソアルカン溶媒を含む。ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の0.5~2vol-%、好ましくは0.9~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。
【0027】
ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤を含む。ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積の2~7vol-%のCO2を噴射剤として含む。
【0028】
本発明の非限定的な種々の態様および実施形が上記に示された。上述の実施形態は、本発明の実施において利用され得る選択された態様または工程を単に説明するためだけに用いられる。いくつかの実施形態は、本発明の特定の態様に関連してのみ示され得る。対応する実施形態は他の態様にも同様に適用され得るということが理解されるべきである。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態は、添付の図面を参照して説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】摩擦によるさび除去処理の後の金属器具の写真を示す図である。
図2A】イソアルカン溶媒RR1(左側)および鉱物油および石油留分ベースの市販の多目的オイルRR2(右側)中にさび除去のさめに浸漬された金属体の写真を示す図である。
図2B】浸漬によるさび除去後の図2Aの金属体の写真を示す図である。左側の金属体は、イソアルカン溶媒RR1中に浸漬され、および、右側の金属体は、市販の多目的オイルRR2中に浸漬された。
図3A】処理前のそれぞれのナット付きのさびた寸切ボルトの写真を示す図である。
図3B】イソアルカン溶媒RR1(左側)および市販の多目的オイルRR2(右側)、それぞれの中での浸漬、それに続く寸切ボルトからのナットの取り外しの試みの後の図3Aの寸切ボルトおよびナットの写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中に使用されるように、浸透油および離型油は、実質的に類義語として使用される。
【0032】
一般的に、イソアルカンおよびイソパレフィンは類義語であり、交換可能に用いられ得ることが知られている。
【0033】
本明細書中に使用されるように、生物源は、植物および動物ならびにそれらを起源とし得る材料および生成物、例えば真菌および海藻ならびにそれらを起源とし得る材料および生成物を意味する。生物源はまた、再生可能な供給源をも意味する。
【0034】
本明細書中において、化石源または鉱物源は、天然の再生可能でない供給源、例えば、粗油、石油系オイル/ガス、シェール油/ガス、天然ガス、または石炭鉱床など、およびそれらの組み合わせ、例えば、地表源/地下源から利用され得る炭化水素に富んだ任意の堆積物などを意味する。用語化石または鉱物はまた、再生可能ではない供給源由来でリサイクルされる材料をも意味する。
【0035】
再生可能なまたは生物起源の炭素原子は、化石起源の炭素原子と比較してより多くの14C同位体を含む。したがって、再生可能なまたは生物学的供給源または原料由来の炭素化合物と化石源または原料由来の炭素化合物とを、12Cおよび14C同位体の比を分析することによって区別することが可能である。したがって、該同位体の具体的な比は、再生可能な炭素化合物を同定するための「タグ」として、および、それを再生可能ではない炭素化合物から区別するために、使用され得る。同位体比は、化学反応の過程で変化しない。生物学的または再生可能な供給源からの炭素含有量を分析するための適切な方法は、DIN 51637(2014)である。
【0036】
本発明は、浸透油の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒、および浸透油の総計の体積の2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を提供する。驚くべきことに、高いvol-%量のイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルを含む浸透油は、非常に良好な浸透性能、離型特性、およびさび除去特性を有することが発見された。さらに、このような浸透油組成物は、十分な潤滑特性およびウォーターバリアとしてそれらが機能することを可能にする比較的低い水取り込みを有している。
【0037】
驚くべきことに、浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%量を増加させることは、浸透油の浸透性能およびさび除去特性をさらに向上させる。さらに、浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%量を増加させることは、特に、顕著な量の、例えば30vol-%より多い、または40vol-%より多いトリグリセリドオイルおよび/または例えば脂肪酸メチルエステルなどの脂肪酸アルキルエステルを含む浸透油と比較して、浸透油の安定性および低温特性を向上させる。向上されたまたは良好な低温特性は、本明細書中では、低い周囲温度、例えば-10℃またはそれより低い、例えば-20℃またはそれより低い、または、-30℃またはそれより低い温度での、十分な浸透性能、離型特性、および潤滑特性を意味している。ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基本として、70~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは、80~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~20vol-%の生物源由来のオイルを含む。
【0038】
イソアルカン溶媒と生物源由来のオイルとの体積比は、処理されるそれぞれの材料のための最適な溶解力および表面張力特性を浸透油に提供するように、容易に調整され得る。溶解力および表面張力は、イソアルカン溶媒の非極性特性および生物源由来のオイルの極性特性によって与えられる。
【0039】
ある実施形態において、浸透油中のイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルの総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも95wt-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0040】
イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルの両方は生分解性であり、これは、浸透油を、生分解性でない成分を主に含む従来の浸透油と比較して、より環境に害を及ぼさないものとしている。イソアルカン溶媒は、任意には再生可能なまたは生物学的供給源由来であってもよく、これは、浸透油中の再生可能な成分の量を増加させる。したがって、ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、再生可能なイソアルカン溶媒(再生可能なまたは生物学的供給源由来のイソアルカン溶媒)である。このような実施形態において、浸透油は、任意には、再生可能なかつ生分解性の成分から実質的になる。
【0041】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、55~97.9vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含む。固形粒子を含む潤滑性向上剤は、浸透油の分離および離型特性ならびに潤滑特性を向上させる。さらに、潤滑性向上剤は、高圧条件下での(高い負荷における)浸透油の性能(離型特性、分離特性、潤滑特性)を向上させる。
【0042】
ある実施形態において、本発明の浸透油は、潤滑性向上剤の総計の重量を基準にして、10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイル、好ましくは10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイル、さらに好ましくは20~30wt-%の固体粒子および70~80wt-%のキャリアオイルを含む。好ましくは、潤滑性向上剤中の固体粒子およびキャリアオイルの総計の量は、潤滑性向上剤の総計の重量の少なくとも98wt-%、より好ましくは少なくとも99wt-%である。潤滑性向上剤中の固体粒子およびキャリアオイルのこのようなwt-%量が、特に良好な離型、分離、および潤滑特性をもつ浸透油を提供することが発見された。
【0043】
驚くべきことに、離型油の分離、離型、および潤滑特性は、浸透油中の潤滑性向上剤のvol-%量の増加に比例して向上されるわけではないことが発見された。むしろ、浸透油中の潤滑性向上剤の比較的低いvol-%量がすでに非常に良好な分離、離型および潤滑特性を提供すること、その後の潤滑性向上剤のvol-%量の増加は、当該特性をもはや向上させないことが発見された。ある好ましい実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、70~97.5vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイルを含む0.5~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。ある特に好ましい実施態様において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、80~94.1vol-%、好ましくは85~92vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む0.9~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも95vol-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%であり得る。
【0044】
本発明の浸透油は、イソアルカン溶媒の高いvol-%量に起因して、非常に安定であり、かつ、長い製品寿命をもつ。したがって、浸透油は、抗酸化剤なしに処方され得る。したがって、ある実施態様において、浸透油は、抗酸化剤を含まない浸透油である。
【0045】
ある実施態様において、浸透油は、浸透油の高い安定性に寄与する脂肪酸メチルエステルおよび/または脂肪酸エチルエステルを含まない浸透油である。
【0046】
本発明の浸透油は、低い周囲温度、例えば-10℃またはそれより低い、例えば-20℃またはそれより低い、または、-30℃またはそれより低い温度での浸透油および離型油としての使用に適切である。低い周囲温度での浸透油の浸透性能および離型性能は、浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%が増加するにつれてさらに向上される。ある実施態様において、浸透油は、例えば流動点降下剤、低温流動性向上剤、またはその両方などの低温特性向上剤を含まない浸透油である。
【0047】
特には消費者による適用における浸透油の使用(適用)を容易にするために、浸透油は、エアロゾルとして提供されてもよい。浸透油は、様々な噴射剤と共に、具体的にはプロパン、ブタン、CO2、N2もしくは空気、または任意にはそれらの組み合わせと共に処方され得ることが発見された。好ましい噴射剤は、不活性、安全であり、そして、環境における懸念を引き起こさない。浸透油がエアロゾルとして提供される実施態様において、浸透油は、浸透油の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤を含む。したがって、ある実施態様において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、55~97vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。
【0048】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2、ならびに、70~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~29vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは、80~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~19vol-%の生物源由来のオイルを含む。浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%であり得る。
【0049】
ある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、55~96.9vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む0.1~5vol-%の潤滑性向上剤、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。より好ましくは、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、70~96.5vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイルを含む0.5~2vol-%の潤滑性向上剤、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。さらにより好ましくは、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、80~93.1vol-%、好ましくは85~92.1vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む0.9~2vol-%の潤滑性向上剤、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、潤滑性向上剤、および噴射剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0050】
浸透油が噴射剤として好ましい2~7vol-%のCO2を含む実施形態において、イソアルカン溶媒のvol-%量の範囲の上限は、イソアルカン溶媒、CO2、生物源由来のオイル、および任意の潤滑性向上剤の合計が100vol-%を超えないように適宜調整される。当該調整を示す例として、55~97vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、および、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む実施形態における浸透油において、イソアルカン溶媒のvol-%量の範囲は、浸透油が1~10vol-%の噴射剤の代わりに2~7vol-%のCO2を含む場合、55~97vol-%から55~96vol-%に調整され、一方、生物源由来のオイルのvol-%量の範囲は2~30vol-%で一定に維持される。これは、本明細書中に開示されている他の実施形態に準用される。
【0051】
好ましくは、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%、好ましくは少なくとも90wt-%、より好ましくは少なくとも93wt-%のイソアルカンを含む。イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも85wt-%、好ましくは少なくとも90wt-%、より好ましくは少なくとも93wt-%のイソアルカンを含むイソアルカン溶媒はまた、脂肪族高純度パラフィン溶媒とも称される。イソアルカン溶媒中のイソアルカンの高いwt-%量は、浸透油のさび除去特性性能、離型特性、および浸透性能をさらに向上させる。また、浸透油の低温特性、および安定性は、イソアルカン溶媒中のイソアルカンのwt-%量が増加するとさらに向上される。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の多くて98wt-%のイソアルカンを含む。
【0052】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒中のイソアルカンの少なくとも70wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%が、C14~C20の炭素数範囲内である。イソアルカンの高いwt-%量がC14~C20の炭素数範囲内にあることの優位性は、浸透油がその適用後からより長い間にわたり効果的であること、すなわち、その浸透性能、離型特性、および潤滑性特性を、より揮発性の溶媒と共に処方されている浸透油と比較して、より長く保持していることである。C14~C20の炭素数範囲内のイソアルカンは、有益な蒸発プロファイルを有する浸透油(すなわちそのようなゆっくりと蒸発する)有益な蒸発プロファイルを有しており、すなわち、それらは、浸透油に従来含まれている溶媒(より軽質な溶媒)よりもゆっくりと蒸発する。驚くべきことに、C14~C20の炭素数範囲内のイソアルカンの高いwt-%量は、浸透油の浸透特性に悪影響を及ぼさなかった。ある実施形態において、イソアルカン溶媒の多くて95wt-%のイソアルカンが、C14~C20の炭素数範囲内である。
【0053】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒中の少なくとも70wt-%、好ましくは、少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%がC14~C20、好ましくはC16~C18の炭素数範囲内にある。C14~C20、特にはC16~C18の炭素数の範囲にあるイソアルカンの高いwt-%量は、より揮発性の高い溶媒と共に処方されている浸透油と比較してより長期の浸透性能、離型特性および潤滑特性を、浸透油の浸透性能を犠牲にすることなく、一方で、浸透油の有益な動粘度に寄与しながら、浸透油に与える。イソアルカン溶媒中の多くて95wt-%のイソアルカンは、C14~C18またはC16~C18の炭素数の範囲内であり得る。
【0054】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒(脂肪族高純度パラフィン溶媒)は、イソアルカンの総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも70wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内である。ある特に好ましい実施形態において、イソアルカン溶媒(脂肪族高純度パラフィン溶媒)は、イソアルカンの総計の重量の少なくとも93wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも70wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも85wt-%、さらにより好ましくは少なくとも90wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内である。
【0055】
ある特に好ましい実施形態において、イソアルカン溶媒は、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で10mm2/s未満の動粘度を有し、そして、イソアルカン溶媒は、イソアルカンの総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%のイソアルカンが、C14~C18の炭素数範囲内である。さらに特に好ましい実施形態において、イソアルカン溶媒は、ENISO3104/1996に従って測定されて、20℃で8.0mm2/s未満の動粘度を有し、そして、イソアルカン溶媒は、イソアルカンの総計の重量の少なくとも93wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも90wt-%のイソアルカンが、C14~C18の炭素数範囲内である。このようなイソアルカン溶媒は、それらが特に良好な浸透性能、離型特性、蒸発プロファイル、低温特性、および有益な動粘性プロファイルを浸透油に与えるため特に好ましい。換言すると、特に好ましい実施形態によるイソアルカン溶媒は、浸透油における特に有益な成分であることが見出された。
【0056】
イソアルカン溶媒中の炭素数分布およびイソアルカンのwt-%量の両方が、イソアルカン溶媒の動粘度に影響を及ぼし得る。一般的に、動粘度は、イソアルカンの炭素鎖の長さが減少すると低下する。イソアルカン溶媒中のイソアルカンのwt-%の増加は、典型的には、特には低い温度、例えば-10℃またはそれより低い、例えば-20℃またはそれより低い、または、-30℃またはそれより低い温度でイソアルカン溶媒の動粘度を低下させ、有益な粘度プロファイルを浸透油に与える。また、イソアルカン溶媒の流動点および引火点は、イソアルカン溶媒中のイソアルカンの炭素数分布およびwt-%量によって影響されることが見出された。
【0057】
イソアルカン溶媒中のイソアルカンのwt-%量の増加は、一般的には流動点を低下させる。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内であり、ASTM D 5950-2014に従って測定されるイソアルカン溶媒の流動点は-40℃より低い。さらに、ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内であり、ASTM D 5950-2014に従って測定されるイソアルカン溶媒の流動点は-40℃より低い。イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも93wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも90wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内であり、ASTM D 5950-2014に従って測定されるイソアルカン溶媒の流動点は-50℃より低い。イソアルカン溶媒の低い流動点は、浸透油に良好な低温特性を与え、低い周囲温度、例えば-10℃またはそれより低い温度、例えば-20℃またはそれより低い温度、または、-30℃またはそれより低い温度での浸透油としての使用を可能にする。
【0058】
ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカンを含み、および、イソアルカン溶媒中の少なくとも85wt-%のイソアルカンは、C14~C18の炭素数範囲内であり、ASTM D 93-2010a(2011)に従って測定されるイソアルカン溶媒の引火点は少なくとも70℃である。高い引火点を有するイソアルカン溶媒は、浸透油の使用中および保管中の両方において、浸透油の安全性を向上させる。高い引火点を有するイソアルカン溶媒は、浸透油の使用中および保管中の両方において、浸透油の安全性を向上させる。
【0059】
イソアルカン溶媒は、多量の非環状のアルカン、特にはイソアルカンを含む。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の、最大で15wt-%、好ましくは最大で10wt-%、さらに好ましくは最大で8wt-%、さらにより好ましくは最大で7wt-%のノルマルアルカンを含む。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも2wt-%、例えば少なくとも4wt-%のノルマルアルカンを含む。イソアルカン溶媒は、好ましくは、少ない量の環状アルカンおよび少ない量のアルケンを含む。ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の、最大で5.0wt-%、好ましくは最大で2.0wt-%の環状アルカン、および、イソアルカン溶媒の総計の重量の2.0wt-%未満、好ましくは最大で1.0wt-%、より好ましくは最大で0.5wt-%のアルケンを含む。
【0060】
好ましくは、イソアルカン溶媒は、芳香族化合物(芳香族)および/または揮発性有機化合物(VOCs)を少量しか含まないか、全く含まない。したがって、ある実施形態において、イソアルカン溶媒は、イソアルカン溶媒の総計の重量の、最大で1.0wt-%、好ましくは最大で0.5wt-%、さらに好ましくは最大で0.2wt-%の芳香族化合物、および/または、イソアルカン溶媒の総計の重量の5wt-%未満のVOCsを含む。芳香族化合物および/またはVOCsの低いwt-%量は、特に保護的な器具または服の使用がしばしば見落とされがちであり得る消費者による適用において、ユーザおよび環境に対する安全性を向上させる。
【0061】
再生可能なイソアルカン溶媒は、再生可能な供給源、再生可能ではない供給源、またはその両方由来のイソアルカン溶媒であり得る。しかしながら、イソアルカン溶媒は、好ましくは、浸透油の環境的な持続可能性を向上させるために、再生可能な供給源由来のイソアルカン溶媒である。好ましくは、再生可能なイソアルカン溶媒が由来する再生可能な供給源は、再生可能なオイル、再生可能な脂肪、またはそれらの組み合わせである。再生可能なイソアルカン溶媒は、例えば、脂肪酸、脂肪酸誘導体、モノ-、ジ-もしくはトリグリセリド、またはそれらの組み合わせを含む再生可能なフィードストックの水素化処理、続いての異性化処理を経て得られ得る。再生可能なフィードストックは、植物油、木材油、他の植物ベースのオイル、動物油、動物性脂肪、魚類の脂肪、魚油、海藻オイル、微生物オイル。またはそれらの組み合わせを含む、またはそれら由来であり得る。任意には、再生可能なフィードストックは、リサイクル可能な廃棄物および/またはリサイクル可能な残渣、例えば使用済み料理油、遊離脂肪酸、パーム油副生成物またはプロセス副流、スラッジ、植物油処理からの副流、またはそれらの組み合わせなどを含み得る。
【0062】
水素化処理は、水素化脱酸素(HDO)、好ましくは接触水素化脱酸素(接触HDO)であってもよい。水素化処理は、好ましくは、2~15MPa、好ましくは3~10MPaの範囲から選択される圧力で、および、250~500℃、好ましくは280~400℃の範囲から選択される温度で行われる。水素化処理は、周期表の第VIII族および/または第VIB属元素からの金属を含む既知の水素化処理触媒の存在下で行われ得る。好ましくは、水素化処理触媒は、担持されたPd、Pt、Ni、NiW、NiMoまたはCoMo触媒であり、担体は、アルミナおよび/またはシリカである。典型的には、NiMo/Al23および/またはCoMo/Al23触媒が使用される。水素化処理に続く異性化処理は、特に限定されない。しかし接触異性化処理が好ましい。異性化処理は、好ましくは、250~500℃、好ましくは280~400℃の範囲から選択される温度で、および、2~15MPa、好ましくは3~10MPaの範囲から選択される圧力で行われる。異性化処理は、既知の異性化処理触媒の存在下で、例えばモレキュラーシーブおよび/または周期表の第VIII族から選択される金属と担体とを含む触媒の存在下で行われ得る。好ましくは、異性化処理触媒は、SAPO-11またはSAPO-14またはZSM-22またはZSM-23またはフェリライトとPt、PdまたはNiとAl23またはSiO2とを含む触媒である。典型的な異性化触媒は、例えば、Pt/SAPO-11/Al23、Pt/ZSM-22/Al23、Pt/ASM-23/Al23、および/または、Pt/SAPO-11/SiO2である。触媒不活性化は、異性化処理における分子水素の存在によって低減され得る。
【0063】
生物学的供給源由来のオイルは、植物油(plant oil)またはそれらの誘導体、好ましくは、植物油(vegetable oil)またはそれらの誘導体であり得る。ある好ましい実施形態において、生物学的供給源由来のオイルは、生物源由来のエステルオイル、好ましくはトリグリセリドオイルである。好ましくは、エステルオイルは、エステルオイルの総計の重量の少なくとも95wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%のエステルを含む。同様に、トリグリセリドオイルは、トリグリセリドオイルの総計の重量の少なくとも95wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%のトリグリセリドを含む。驚くべきことに、イソアルカン溶媒と生物源由来のオイル、特にはエステルオイルまたはトリグリセリドオイルとを含む浸透油が、従来のパラフィン系鉱物油を用いて処方された浸透油と比較して、より低い表面張力、および、特に低い周囲温度、例えば-10℃またはそれより低い温度におけるより低い粘性(動粘度)を有することが発見された。換言すると、イソアルカン溶媒と生物源由来のオイル、特にはエステルオイルまたはトリグリセリドオイルとを含む浸透油は、従来のパラフィン系鉱物油を用いて処方された浸透油よりも、より良好な浸透性能を有することが見出された。さらに、生物源由来のエステルオイル、特にはトリグリセリドオイルは、安全で、生分解性、かつ再生可能であり、浸透油の安全性および環境的な持続可能性に寄与する。
【0064】
生物源由来のオイルは、遺伝子的にまたは化学的に改変され得る。ある実施形態において、生物源由来のオイル生物源由来のオイルは、例えば冷凍剤としてなど添加剤を含む。ある実施形態において、生物源由来のオイルは、冷凍剤が添加されたエステルオイルである。ある実施形態において、生物源由来のオイルは、化学的に改変されたトリグリセリドオイルであるか、またはそれを含む。特には、トリグリセリドオイルは、ジ-および/または多価の不飽和脂肪酸鎖の量を減少させるために水素化処理に付されていてもよい。
【0065】
ある実施形態において、生物源由来のオイルは、菜種油または任意にはその誘導体である。菜種油またはその誘導体は、驚くべきことに、浸透油に、特に良好な浸透性能ならびに離型および潤滑特性を与えることが発見された。さらに、菜種油およびその誘導体は、安全で、生分解性、かつ再生可能であり、浸透油の安全性および環境的な持続可能性に寄与する。
【0066】
ある実施形態において、生物源由来のオイルは、イソアルカン溶媒よりも高い動粘度を有する。生物源由来のオイルの動粘度は、ENISO3104/1996に従って20℃で測定されて、8mm2/sより大きい、好ましくは10mm2/sより大きい、より好ましくは12mm2/sより大きくてもよい。ある実施形態において、生物源由来のオイルの動粘度は、ENISO3104/1996に従って40℃で測定されて、6mm2/sより大きい、好ましくは7mm2/sより大きい、より好ましくは8mm2/sより大きくてもよい。浸透油の望ましい粘度プロファイルならびに良好な潤滑および離型特性は、浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%および生物源由来のオイルのvol-%を調整することによって得られ得る。いかなる理論にも縛られることを望まずに、浸透油の向上された浸透性能は、より高い粘度成分のためのキャリアとして作用する、生物源由来のオイルよりも低い動粘度を有するイソアルカン溶媒に少なくとも部分的に起因する。
【0067】
潤滑性向上剤は、固体粒子およびキャリアオイルを含む。潤滑性向上剤のキャリアオイルは、化石オイルまたは鉱物油(化石源に由来するオイル)であってもよく、または、生物源由来のオイルであってもよい。ある実施形態において、キャリアオイルは、いわゆるホワイトオイル、すなわち化石または鉱物のパラフィンオイル(CAS 8042-47-5)である。該ホワイトオイルは20℃で(およびおおよそ1atm(101325kPa)の圧力で)液体である。
【0068】
好ましくは、キャリアオイルは、ENISO3104/1996に従って20℃で測定されて、10mm2/s~18.5mm2/sの範囲内の粘度(動粘度)を有する。この粘度範囲は、それが潤滑性向上剤の安定性を浸透油の浸透特性および離型特性と干渉することなく促進するため好ましい。
【0069】
好ましくは、潤滑性向上剤の固体粒子は、50μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm、さらにより好ましくは1μm未満の粒子サイズを有する。該値よりも小さい粒子サイズを有する固体粒子が、互いに密接している表面のあいだに特に良好に浸透することが発見された。ある実施形態において、潤滑性向上剤の固体粒子は、10nmより大きい、好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい、さらにより好ましくは70nmより大きい粒子サイズを有する。該値より大きい粒子サイズを有する固体粒子は、特に高い負荷および圧力のもとで、良好な潤滑特性および特に良好な分離特性を浸透油に提供することが発見された。
【0070】
好ましくは、潤滑性向上剤の固体粒子は、乾燥潤滑剤である。潤滑性向上剤の固体粒子は、例えば、窒化ホウ素粒子、グラファイト粒子、硫化モリブデン粒子、またはポリテトラフルオロエチレン粒子、または任意にはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0071】
グラファイト粒子の有利な点は、それらが生分解性であるということである。任意には、完全に生分解性である浸透油組成物が、潤滑性向上剤の固体粒子がグラファイト粒子であり、および、キャリアオイルが、生分解性のキャリアオイル、例えば生物源由来のオイルなどである実施形態によって提供され得る。
【0072】
好ましくは、潤滑性向上剤の固体粒子は、窒化ホウ素粒子であり、より好ましくは六方晶の窒化ホウ素の粒子である。窒化ホウ素粒子は、浸透油に良好な分離および潤滑特性を与えることが見出された。ある好ましい実施形態において、固体粒子は、10μm未満、好ましくは1μm未満、および好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい粒子サイズを有する、窒化ホウ素粒子であり、好ましくは六方晶の窒化ホウ素の粒子である。
【0073】
ある好ましい実施形態において、潤滑性向上剤は、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の窒化ホウ素粒子、好ましくは六方晶の窒化ホウ素の粒子であって、好ましくは10μm未満、より好ましくは1μm未満、および好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい粒子サイズを有する粒子と、キャリアオイルとしての70~90wt-%の鉱物系パラフィンオイルとを含む。該実施形態による潤滑性向上剤は、特に安定(固体粒子とキャリアオイルとの混合物から固体粒子が沈殿してくるまでの時間が延長される)であり、そして、浸透油に特に有用な潤滑性、離型、および分離特性を与えることが発見された。
【0074】
特に好ましいある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、イソアルカン溶媒の総計の重量の少なくとも90wt-%のイソアルカン溶媒を含む85~92.1vol-%のイソアルカン溶媒であって、イソアルカン溶媒中の少なくとも90wt-%のイソアルカンがC14~C18の炭素数範囲内であるイソアルカン溶媒と、5~10vol-%のトリグリセリドオイル、好ましくは菜種油または任意にはその誘導体と、0.9~2vol-%の潤滑性向上剤と、10μm未満、より好ましくは1μm未満、および10nmより大きい、好ましくは50nmより大きい粒子サイズを有する、10~30wt-%の六方晶の窒化ホウ素の粒子と、潤滑性向上剤の総計の重量の70~90wt-%の、キャリアオイルとしての鉱物系パラフィンオイルと、噴射剤としての2~7vol-%のCO2とを含む。これらの特に好ましい実施形態による浸透油は、傑出した浸透性能、離型特性、潤滑特性、安定性および低温特性を有していることが発見された。このような浸透油は、ENISO3104/1996に従って40℃で測定されて3~5mm2/sである、および、ENISO3104/1996に従って20℃で測定されて、20~25mm2/sである粘度(動粘度)を有していることが発見され、これゆえ該浸透油は、低い周囲温度を含む幅広い温度範囲にわたっての浸透油としての使用に特に適切である。
【0075】
本発明はまた、55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒を生物源由来のオイルと混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む、浸透油を製造するための方法を提供する。
【0076】
ある実施形態において、方法は、浸透油の総計の体積の70~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは80~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~20vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒を生物源由来のオイルと混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む。ある実施形態において、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルの総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも95wt-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0077】
ある実施形態において、方法は、浸透油成分の混合工程の前に、ENISO3104/1996に従って20℃で測定されて、12mm2/s未満、好ましくは10mm2/s未満、より好ましくは8.0mm2/s未満であり、および/または、少なくとも1.0mm2/s、好ましくは少なくとも2.0mm2/s、より好ましくは少なくとも3.0mm2/sである動粘度を有するイソアルカン溶媒を選択する工程、ならびに、任意には、浸透油成分の混合工程の前に、ENISO3104/1996に従って測定されて20℃で、選択されたイソアルカン溶媒よりも高い動粘度を有する生物源由来のオイルを選択する工程を含む。浸透油の目標とする動粘度がイソアルカン溶媒の動粘度よりも高い場合、該目標に到達するために、浸透油の目標とする動粘度よりも高い動粘度を有する生物源由来のオイルを選択することが典型的には必要である。
【0078】
ある実施形態において、方法は、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイル、好ましくは10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイル、より好ましくは10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイル、さらにより好ましくは20~30wt-%の固体粒子および70~8wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を形成するために、固体粒子をキャリアオイルと混合する工程を含む。好ましくは、形成された潤滑性向上剤中の固体粒子およびキャリアオイルの総計の量は、潤滑性向上剤の総計の重量の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0079】
ある実施形態において、固体粒子のキャリアオイルとの混合工程は、1000~10000rpmでの高速ミキシングによって行われる。1000~10000rpmでの高速ミキシングは、固体粒子のキャリアオイル中での分散を促進し、および、キャリアオイル中の分散された粒子の安定性を向上させる(粒子が潤滑性向上剤中で堆積し始めるより前の時間を延ばす)ことが発見された。好ましくは、高速ミキシングの継続時間は、0.5~4時間であり、高速ミキシングは、好ましくは15~35℃の範囲内の温度で行われる。このような高速ミキシングは、キャリアオイル中での固体粒子の分散をさらに促進し、および、キャリアオイル中の分散された粒子の安定性を向上させる。しかしながら、キャリアオイル中に固体粒子を分散させるための任意の適切な方法が適用され得る。
【0080】
ある実施形態において、方法は、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイル、好ましくは10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイル、より好ましくは10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイル、さらにより好ましくは20~30wt-%の固体粒子および70~8wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を形成するために、固体粒子をキャリアオイル中に分散させる工程を含む。好ましくは、固体粒子をキャリアオイル中に分散させる工程は、1000~10000rpmでの高速ミキシングによって、0.5~4時間の継続時間、15~35℃の範囲から選択される温度で行われる。このような高速ミキシングは、キャリアオイル中での固体粒子の分散を促進し、および、形成される潤滑性向上剤の安定性を向上させる。
【0081】
ある特に好ましい実施形態において、方法は、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の窒化ホウ素粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む潤滑性向上剤を形成するために、0.5~4時間の継続時間、15~35℃の範囲から選択される温度で1000~10000rpmでの高速ミキシングによって、鉱物系パラフィンオイルと、窒化ホウ素粒子、好ましくは六方晶の窒化ホウ素の粒子であって好ましくは10μm未満、より好ましくは1μm未満、および好ましくは30nmより大きい、より好ましくは50nmより大きい粒子サイズを有する粒子を混合する工程を含む。
【0082】
固体粒子をキャリアオイル中に混合するまたは分散させる工程の後、潤滑性向上剤は、浸透油の総計の体積の55~97.9vol-%のイソアルカン溶媒、0.1~5vol-%の潤滑性向上剤、および2~30vol-%の生物源由来のオイルを含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルと混合され得る(浸透油成分の混合工程)。好ましくは、潤滑性向上剤は、浸透油の総計の体積の70~97.5vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、および0.5~2vol-%の潤滑性向上剤を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルと混合される(浸透油成分の混合工程)。さらに好ましくは、潤滑性向上剤は、浸透油の総計の体積の80~94.1vol-%、好ましくは85~92vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、および0.9~2vol-%の潤滑性向上剤を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルと混合される(浸透油成分の混合工程)。好ましくは、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも95wt-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0083】
ある実施形態において、方法は、浸透油の総計の体積の55~97vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、1~10vol-%の噴射剤、および任意には0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および任意には潤滑性向上剤を混合する工程を含む。好ましくは、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、噴射剤、および任意には潤滑性向上剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0084】
ある実施形態において、方法は、浸透油の総計の体積の55~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは70~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~29vol-%の生物源由来のオイル、より好ましくは80~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~19vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルを噴射剤と混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む。
【0085】
ある実施形態において、浸透油の総計の体積の55~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは70~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~29vol-%の生物源由来のオイル、より好ましくは80~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~19vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒および生物源由来のオイルを噴射剤と共に溶解させる工程を含む。ある実施形態において、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および噴射剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0086】
ある実施形態において、方法は、浸透油の総計の体積の55~96.9vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、0.1~5vol-%の潤滑性向上剤、および1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤を噴射剤と混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む。好ましくは、方法は、浸透油の総計の体積の70~96.5vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、0.5~2vol-%の潤滑性向上剤、および1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤を噴射剤と混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む。より好ましくは、方法は、浸透油の総計の体積の80~93.1vol-%、好ましくは85~92.1vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む0.9~2vol-%の潤滑性向上剤、ならびに1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む浸透油を形成するために、イソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤を噴射剤と混合する工程(浸透油成分の混合工程)を含む。
【0087】
形成された浸透油が噴射剤として好ましい2~7vol-%のCO2を含む実施形態において、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒のvol-%の範囲の上限は、上記でより詳細に記載されたように、形成された浸透油中のイソアルカン溶媒、CO2、生物源由来のオイル、および任意の潤滑性向上剤のvol-%の合計が100vol-%を超えないように適宜調整される。
【0088】
本発明は、浸透油、離型油、および/またはさび除去剤としての第1の態様の浸透油の使用をさらに提供する。換言すると、本発明は、浸透油、離型油、および/またはさび除去剤としての組成物の総計の体積の55~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは70~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、より好ましくは80~98vol-%のイソアルカン溶媒および2~20vol-%の生物源由来のオイルを含む組成物の使用をさらに提供する。驚くべきことに、高いvol-%量のイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルを含む組成物は、非常に良好な浸透性能、離型特性、およびさび除去特性を有することが発見された。換言すると、このような組成物は、浸透油、離型油、および/またはさび除去剤として使用される場合に非常に良好に機能する。浸透性能およびさび除去特性は、組成物中のイソアルカン溶媒のvol-%量が増加するにつれてさらに向上される。ある実施形態において、組成物中のイソアルカン溶媒および生物源由来のオイルの総計の量は、組成物の総計の体積の少なくとも95vol-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0089】
ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、55~97.9vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む0.1~5vol-%の潤滑性向上剤を含む。固体粒子を含む潤滑性向上剤が、組成物の分離および離型特性ならびに潤滑特性を向上させることが発見された。さらに、潤滑性向上剤は、組成物が浸透油および/または離型油として使用される場合に、高圧条件で(高負荷下)組成物の性能(離型特性、分離特性、潤滑特性)を向上させる。ある好ましい実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、70~97.5vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイルを含む0.5~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。特に好ましいある実施形態において、浸透油は、浸透油の総計の体積を基準にして、80~94.1vol-%、好ましくは85~92vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む0.9~2vol-%の潤滑性向上剤を含む。浸透油中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および潤滑性向上剤の総計の量は、浸透油の総計の体積の少なくとも95vol-%、好ましくは少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0090】
浸透油、離型油、および/またはさび除去剤としての、特には消費者による適用における組成物の使用を容易にするために、浸透油は、エアロゾルとして提供されてもよい。ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、55~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~30vol-%の生物源由来のオイル、好ましくは70~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~29vol-%の生物源由来のオイル、より好ましくは80~97vol-%のイソアルカン溶媒および2~19vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、組成物の総計の体積の1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。ある実施形態において、組成物中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、および噴射剤の総計の量は、組成物の総計の体積の少なくとも98vol-%、さらに好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0091】
ある実施形態において、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、55~96.9vol-%のイソアルカン溶媒、2~30vol-%の生物源由来のオイル、潤滑性向上剤の総計の重量の5~50wt-%の固体粒子および50~95wt-%のキャリアオイルを含む0.1~5vol-%の潤滑性向上剤、ならびに1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。好ましくは、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、70~96.59vol-%のイソアルカン溶媒、2~20vol-%の生物源由来のオイル、潤滑性向上剤の総計の重量の10~40wt-%の固体粒子および60~90wt-%のキャリアオイルを含む0.5~2vol-%の潤滑性向上剤、ならびに1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。より好ましくは、組成物は、組成物の総計の体積を基準にして、80~93.1vol-%、好ましくは85~92.1vol-%のイソアルカン溶媒、5~10vol-%の生物源由来のオイル、ならびに、潤滑性向上剤の総計の重量の10~30wt-%の固体粒子および70~90wt-%のキャリアオイルを含む0.9~2vol-%の潤滑性向上剤、ならびに1~10vol-%の噴射剤、好ましくは2~7vol-%のCO2を含む。好ましくは、組成物中のイソアルカン溶媒、生物源由来のオイル、潤滑性向上剤、および噴射剤の総計の量は、組成物の総計の体積の少なくとも98vol-%、好ましくは少なくとも99vol-%である。
【0092】
組成物が噴射剤として好ましい2~7vol-%のCO2を含む実施形態において、組成物中のイソアルカン溶媒のvol-%量の範囲の上限は、上記でより詳細に記載されたように、組成物中のイソアルカン溶媒、CO2、生物源由来のオイル、および任意の潤滑性向上剤のvol-%の合計が100vol-%を超えないように適宜調整される。
【実施例
【0093】
実施例1-イソアルカン溶媒のさび除去および離型特性
イソアルカン溶媒のさび除去および離型特性を調べるために3つの試験が行われた。第1の試験(実施例1.1)において、イソアルカン溶媒のさび除去特性が、市販の石油ナフサベースのさび除去剤と比較された。第2の試験(実施例1.2)において、イソアルカン溶媒のさび除去特性が、鉱物油および石油留分ベースの市販の多目的オイルのさび除去剤と比較された。第3の試験(実施例1.3)において、イソアルカン溶媒の離型特性が、鉱物油および石油留分ベースの市販の多目的オイルの離型特性と比較された。
【0094】
全ての実施例1.1、1.2、および1.3において用いられたイソアルカン溶媒は、約94wt-%のイソアルカン溶媒および6wt-%のノルマルアルカンを含んでいた。イソアルカン溶媒の組成物が、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析され、そして、ノルマルアルカンおよびイソアルカンが、質量分析法および適切な参照化合物を用いて同定された。ASTMD7689-17に従って測定されたイソアルカン溶媒の曇り点は、-34℃であった。イソアルカン溶媒中のイソアルカンおよびノルマルアルカンの炭素数分布は、表1に示されている。実施例1.1、1.2、および1.3で使用されたイソアルカン溶媒は、DIN 51637(2014)にしたがって測定されて、イソアルカン溶媒中の炭素の総計の重量の100wt-%のバイオベースの炭素(再生可能な供給源由来の炭素、再生可能な炭素)を含む再生可能なイソアルカン溶媒であった。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1.1 さび除去、摩擦
さびた金属器具が、スチールウールと摩擦補助として上述のイソアルカン溶媒または市販の石油ナフサベースのさび除去剤のどちらかとを用いて約5分間摩擦された。本試験において使用された市販のさび除去剤は、主に水素化処理された重質石油ナフサと噴射剤としてのプロパンおよびブタンとを含むエアロゾルであった。
【0097】
図1は、摩擦によるさび除去処置の後の金属器具を示している。器具の左端(「1」と記載されている)は、スチールウールおよび市販のさび除去剤を用いて処置され、一方、器具の右端(「300」と記載されている)は、スチールウールおよびイソアルカン溶媒を用いて処置された。どちらの処置もさびを除去することが見出された。しかしながら、スチールウールおよびイソアルカン溶媒を用いた処置は、驚くべきことに、市販のさび除去剤を用いた対応する処置よりもより多くのさびを除去した。したがって、イソアルカン溶媒は、非常に良好なさび除去特性を示した。
【0098】
実施例1.2-さび除去、浸漬
図2Aに示されているように、いくつかの突出部を有するさびた円柱状の金属体が、上記された400mLのイソアルカン溶媒中(RR1)および鉱物油および石油留分ベースの市販の多目的オイル中(RR2)に25℃で24時間浸漬された。本試験において使用された該市販の多目的オイルは、50~75wt-%の水素化処理された軽質石油留分、例えばケロシン、10~25wt-%の鉱物油、および1~5wt-%のスルホン酸、石油および/またはナトリウム塩を含んでいた。該多目的オイルは、例えば、腐食した領域のためのクリーナとして、潤滑剤として、および汚れによって結合した要素をはずすため、およびさびたまたは動かなくなった部品を緩めるための離型油としての使用が推奨されている。図2Aにおいて、左側のビーカーは、イソアルカン溶媒(RR1)中に浸漬された金属体の一つを含んでおり、および右側のビーカーは、市販の多目的オイル(RR2)に浸漬された金属体の一つを含んでいる。液体間における色の相違は、固有のものであり、すなわち液体の化学組成における違いに起因するものである。
【0099】
図2Bは、浸漬によるさび除去処置の後の金属体を示している、図2Bにおいて、イソアルカン溶媒(RR1)中に浸漬された金属体が左側に示されており、そして、市販の多目的オイル(RR2)に浸漬された金属体が右側に示されている。両方の処置ともに金属体からさびを除去したことが見出された。驚くべきことに、イソアルカン溶媒中の浸漬は、市販の多目的オイル中の対応する浸漬よりも、より多くのさびを除去した。換言すると、イソアルカン溶媒は、非常に良好なさび除去特性を示した。
【0100】
実施例1.3-離型特性
2つの類似のさびた金属体、すなわち、それぞれのナットが締められていた2つの寸切ボルトが、それぞれ、上述のようにイソアルカン溶媒(RR1)の400mL中、および、鉱物油および石油留分に基づく上述された市販の多目的オイル(RR2)中に、25℃で24時間浸漬された。浸漬後、寸切ボルトからのナットの取り外しがスクリューベンチを用いて行われた。浸漬および取り外し工程の両方の後の寸切ボルトおよびナットが図3Bに示されている。イソアルカン溶媒に浸漬されていた寸切ボルトおよびナットは図3Bの左側に示されており、そして、市販の多目的オイルに浸漬されていた寸切ボルトおよびナットは図3Bの右側に示されている。驚くべきことに、ナットは、イソアルカン溶媒(RR1)中の浸漬の後、寸切ボルトから比較的容易に取り外され得たが、一方、市販の多目的オイル(RR2)中の浸漬の後の寸切ボルトからナットは取り外せなかった。本試験において使用されたさびた金属体間の違いを正確に測定することはできないが、イソアルカン溶媒は、離型油として使用することが提案されている市販の多目的オイルの離型特性を超える特に良好な離型特性を有していると結論づけられ得る。
【0101】
全体として、実施例1.1~1.3に基づき、イソアルカン溶媒は、市販の製品のさび除去および離型特性を超えた、非常に良好なさび除去特性および離型特性を有しているこことが発見された。
【0102】
実施例2-離型油処方の浸透特性
離型油処方の浸透特性を調べるために2つの試験が行われた。最初の試験(実施例2.1)において、2つの異なる離型油処方の浸透特性が、粘度(動粘度)および表面張力の測定に基づいて評価された。次の試験(実施例2.2)において、4つの異なる組成物の浸透特性がねじ山のクリープ試験によって調べられた。さらに、実施例2.2で調べられた4つの組成物の水分取り込みが分析された(実施例2.3)。
【0103】
3つの異なる離型油組成物F1、F2、およびエアロゾルとしてのF2が表2に示されるように調製された。
【0104】
【表2】
【0105】
F1およびF2の両方は、それぞれの処方の総計の体積を基準にして、約94wt-%のイソアルカンを含む、91wt-%の再生可能なイソアルカン溶媒を含んでいた。該イソアルカン溶媒は、DIN 51637(2014)にしたがって測定されて、イソアルカン溶媒中の炭素の総計の重量の100wt-%の再生可能な炭素、再生可能な炭素を含んでいた。さらに、F1およびF2の両方は、それぞれの処方の総計の体積を基準にして、30wt-%の六方晶の窒化ホウ素の粒子および70wt-%のキャリアオイルを含む、1wt-%の潤滑性向上剤を含んでいた。潤滑性向上剤のキャリアオイルは、鉱物系パラフィンオイル(ホワイトオイル)であった。
【0106】
F1はまた、F1の総計の体積を基準にして、8vol-%の高度に精製された石油鉱物オイル(パラフィンオイルまたはホワイトオイル、CAS 8042-47-5)を含んでいた。
【0107】
鉱物油の代わりに、F2は、F2の総計の体積を基準にして、8vol-%の再生可能なオイル(生物源由来のオイル)、すなわちISO3104に従って40℃で測定されて、8.5mm2/sの粘度(動粘度)を有するトリグリセリドオイルを含んでいた。
【0108】
エアロゾルとしてのF2は、F2をCO2噴射剤と混合することによって調製された。エアロゾルとしてのF2の総計の体積を基準にした最終的な体積割合が、上記の表2に示されている。
【0109】
実施例2.1-粘度および表面張力
密度、粘度(動粘度)、界面張力、および表面張力が、以下の表3に示されるように、F1およびF2に関して測定された。分析結果もまた表3に示されている。
【0110】
【表3】
【0111】
一般的に、イソアルカン溶媒は、鉱物油および再生可能なオイルの両方と処方され得ることが結論づけられた。しかしながら、再生可能なオイルを含むF2は、F1と比較して向上された粘度プロファイル(温度が低下した際のより明らかでない粘度の上昇)を有していた。表3からわかるように、F2は、粘度が測定された全ての温度においてF1と比較してより低い粘度を有していた。F1およびF2のあいだの粘度における違いは、より低い温度、すなわち-10℃および-20℃でより顕著であった。F2のより低い粘度は、F1に対する向上された浸透性能を示している。さらに、表3からわかるように、F2はまた、F1と比較してより低い界面張力および特に低い表面張力を有しており、これはまた、F1と比較したF2の向上された浸透性能を示している。したがって、上記の結果に基づき、生物源由来のオイルを含むF2は、鉱物油を含むF1よりもより良好な浸透特性を有していたこと、そして、したがってF2は離型油および/または浸透油としてF1よりも好ましいことが結論づけられた。
【0112】
実施例2.2-ねじ山のクリープ試験
4つの異なる組成物が、ねじ山のクリープ試験において互いに比較された;約94wt-%のイソアルカンを含むニートなイソアルカン溶媒、上述されたエアロゾルとしてのF2、実施例1.2(RR2)と関連して記載された鉱物油および石油留分ベースの市販の多目的オイル、および噴射剤としてCO2を用い、かつ、MoS2粒子と混合されたエアロゾルとしての該市販の多目的オイル(エアロゾルとしてRR3)。ニートのイソアルカン溶媒は、DIN 51637(2014)に従って決定されたイソアルカン溶媒中の炭素の総計の重量の100wt-%の再生可能な炭素を含んでいた。
【0113】
ねじ山のクリープ試験は、寸切ボルト(長さ10cm、直径6mm)をそれぞれ3mLの組成物中に配置することによって行われた。寸切ボルトに沿った垂直方向の変形量が時間の関数としてmmで測定された。RED MCNY 25着色剤が変形の測定を容易にするために、調べられた組成物のそれぞれに添加された。クリープ試験の結果は表4に示されている。
【0114】
【表4】
【0115】
表4からわかるように、調べられた組成物の全てが良好な浸透速成を有していた。全ての測定時間ポイント、すなわち、10分、30分、および60分を考慮に入れて、イソアルカン溶媒が最も高い盛り上がりを有しており、続いてエアロゾルとしてのF2であった。60分で、イソアルカン溶媒およびエアロゾルとしてのF2の両方が84mm上がり、これはRR2またはエアロゾルとしてのR33のどちらかよりも高かった。エアロゾルとしてのRR3およびRR2は、イソアルカン溶媒およびエアロゾルとしてのF2よりも少し劣っていた(低い垂直伸び)。表4に基づき、イソアルカン溶媒およびエアロゾルとしてのF2の両方が、RR2およびエアロゾルとしてのRR3よりも少し良好な浸透性能を示していたと結論付けられうる。
【0116】
実施例2.3-水分取り込み
実施例2.2において調べられた組成物の水分取り込みが分析された。それぞれの組成物15mLおよび15mLの水が試験管内でそれぞれ合わせられた。試験管はその後、試験管シェーカー内で1時間振盪された。サンプルが油相(調べられる組成物を有する相)から分析のために取り出された。分析結果は、以下の表5に示されている。
【0117】
【表5】
【0118】
表5からわかるように、エアロゾルとしてのRR2およびRR3は、顕著な量の水を吸収し、一方、イソアルカン溶媒およびエアロゾルとしてのF2は痕跡量の水しか吸収しなかった。イソアルカン溶媒およびエアロゾルとしてのF2は、したがって、水または水分のバリアとしてより良好に機能し、例えば金属部材および金属体などのためのより良好な保護を提供する。
【0119】
様々な実施形態が示されてきた。本明細書において、用語「含む」(comprise)、「含む」(include)、および「含む」(contain)は限定の意図なしにオープンエンドな表現としてそれぞれ使用されていることが理解されるべきである。
【0120】
上記の記載は、発明の特定の実施および実施形態、発明を実施するための発明者らによって現在理解されているベストモードの完全かつ有益な記載の非限定的な例として提供されている。しかしながら、当該技術分野における当業者にとっては、本発明は上述の実施形態の詳細に限定される訳ではなく、発明の特徴から逸脱することなく等価な手段を用いる他の実施形態でまたは実施形態の種々の組み合わせで実施され得ることが明らかである。
【0121】
さらに、本発明の上述の実施形態のいくつかの特徴は、他の特徴の対応する使用なしで有利に使用され得る。したがって、上述の記載は、本発明の原則の単なる例示として考慮されるべきであり、その限定として考慮されるべきではない。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B