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特許7270811堤体材料の製造方法及び土質材料の改良方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】堤体材料の製造方法及び土質材料の改良方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20230428BHJP
   E02D 3/00 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
E02D1/02
E02D3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022082399
(22)【出願日】2022-05-19
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】500074707
【氏名又は名称】森 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】森 雅人
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-197902(JP,A)
【文献】特開平11-188392(JP,A)
【文献】特開2006-348590(JP,A)
【文献】特開2003-321830(JP,A)
【文献】特開2002-125459(JP,A)
【文献】特開2017-106177(JP,A)
【文献】特開2000-153298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/02-1/06
E02D 3/00
C02F 11/12
C09K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改修または新設しようとするフィルダムの遮水部を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記フィルダムの近傍において土質材料を取得し、
前記フィルダムの近傍において、繊維質物質とセメント系固化材を前記土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記フィルダムの近傍または上流側に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認する堤体材料の製造方法。
【請求項2】
改修しようとするため池の堤体を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記ため池の近傍において、前記ため池の底泥土と前記堤体の掘削土を混合して混合土を製造し、
前記ため池の近傍において、繊維質物質とセメント系固化材を前記混合土に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記ため池の近傍または上流側に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比を、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認する堤体材料の製造方法。
【請求項3】
新設しようとするアースダム又はロックフィルダムのコア部分を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場において土質材料を取得し、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場において、繊維質物質とセメント系固化材を前記土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場の近傍に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比を、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認する堤体材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は3に記載された前記土質材料若しくは請求項2に記載された前記混合土の含水比を45%以上とし、
前記繊維質物質の添加量を25kg/m3 以上とし、
前記セメント系固化材の添加量を56kg/m3 以上とすることにより、
前記蒸発速度の最大値を4.38kg/h・m2 以上としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載された堤体材料の製造方法。
【請求項5】
繊維質物質とセメント系固化材を高含水比の土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
屋外に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比が、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認する土質材料の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改修または新設しようとするフィルダム(ため池、アースダム、ロックフィルダム等を含む)の遮水部(コア部)を構成する堤体材料の製造方法に係り、特にフィルダムやその近傍で取得した高含水比の土質材料を用い、フィルダム近傍の狭小な現場で短時間のうちに水分を蒸発させて必要な強度を有する堤体材料を製造する方法と、高含水比の土質材料の改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルダムとは、堤体材料としての土を盛り、これを締固めて築造するダムの総称であり、内部に粘土などから構成される遮水部(心壁またはコア部と称する)が設けられたアースダムやロックフィルダム等が含まれる。フィルダムの堤体材料は、特殊なものを除いて、ほぼその全量を、フィルダムの近傍で採取した土質材料または工事に伴って発生する土質材料で賄うことが、環境保護及び工事費用低減の観点から好ましいとされている。堤体材料の締固め基準については、土地改良事業計画設計基準「フィルダム編」2003に示されており、堤高15m未満のため池改修の場合も同様の基準となっている。すなわち、ため池もフィルダムの一種として扱うことができることは一般的に認められており、アースダムやロックフィルダムの新設時において適用される技術的基準は、既設のため池の改修にも同様に適用される。以上の事情から、本願におけるフィルダムの用語には、アースダムやロックフィルダム等だけでなく、ため池も含まれることを念の為確認しておく。
【0003】
上述したフィルダムの遮水部を構成する堤体材料の締固めは、土粒子、空気、水の混合体に外力を加え、土粒子を強制的に密に詰める行為であるが、この際、土の締固まり具合や締固められた土の工学特性は水により大きく影響を受ける。すなわち、同じ土を同じ方法で締固めても、その土の含水比により締固め土の密度や強度、遮水性などが異なる。したがって堤体材料の締固め土の設計密度ρdsは、原則として現場含水比で締固め可能な密度をとるものとされている。設計密度ρdsは土質、気象、施工条件等により変わるが、粘性土ではJISA1210:2009に規定されている通り、当該土質材料の最大乾燥密度ρdmaxから、最大乾燥密度ρdmaxの95%(D値95%と称する。)程度までの範囲の値が多く採用されている。
【0004】
図22は、土質材料ごとに定められる含水比wn (横軸、%)と乾燥密度ρd (縦軸、g/cm3 )の関係を示すグラフ(締め固め曲線、一般に「プロクターのライン」と呼ばれる。)である。堤体材料の製造において土質材料の締固めを行う際には、品質のバラツキを考慮して、当該土質材料の図22に示すような締め固め曲線において、上述した通り設計密度ρdsが最大乾燥密度ρdmaxの95%以上かつ最大乾燥密度ρdmax以下であって、乾燥密度ρd が最大乾燥密度ρdmaxとなる最適含水比wopt と、乾燥密度ρd が最大乾燥密度ρdmaxの95%となる湿潤側の限界含水比wwet の間の範囲(図1中にグレーで着色した領域)を、当該土質材料の締め固めに最適な範囲としている事例が多い。
【0005】
我が国は多雨多湿の気候であるため、土質材料の自然含水比は、ほとんどの場合、最適含水比wopt よりも湿潤側にあり、フィルダム工事(新設、改修)における施工可能日数は、気温、降雨、積雪、降霜および日照などの諸条件によって左右される。特に、フィルダムの遮水部を盛立てる施工では、日平均気温3℃以下または日雨量1mm以上の場合、施工が規制されている(土地改良事業計画設計基準「フィルダム編」、2003)。
【0006】
フィルダムは、透水係数の小さな粘性土からなる堤体材料を盛立てて締固めた遮水部(コア)と、土や岩石を遮水部の両側にゆるい勾配で盛立てて水圧やダムの重さを分散して支える部分から構成されている。フィルダムの築造にあたっては、遮水部を構成する遮水性の堤体材料と、その両側の土や岩石を同一レベルで盛立てていくため、遮水部の盛立て状況が全体工程の進捗状況を左右することになる。そして、前述した通り、遮水部を構成する堤体材料には、フィルダムの近傍で採取される土質材料を用いることが一般的であるが、この土質材料の含水比が高いと、盛立て中に土質材料が泥状化して施工ができなくなることが多々ある。そこで、土質材料を高い密度に締固めて遮水性を確保し、かつ良好な施工性を得るために、異種の土質材料を混合する調整(粒度、分布、含水比の調整)が行われるようになった。
【0007】
図23は、異種の土質材料を混合して行う調整作業を説明する図である。図23(a)に示すように、粗粒材と細粒材の粒度および含水比を把握し、これら両材が所定の混合比になるように所定の厚さで交互に層状に盛立ててストックパイルを形成し、これを一定期間放置した後、図23(b)に示すように、ブルドーザでストックパイルを切り崩して(「スライスカット」と称する。)所定の品質を有する堤体材料(図中、「コア材」と表記)を製造する。このような堤体材料の製造方法をストックパイル方式と称する。
【0008】
ストックパイル方式は、以下の長所を有している。
(1)圧密により細粒材の含水比が低下する。
(2)貯蔵中にオーバーサイズの礫が除去できる。
(3)採取場の機械稼働に無駄がなくなる。
(4)コア材料をストックしておくことにより、遮水部(コア部)の施工に逐次対応できる。
【0009】
一方で、ストックパイル方式は、以下の短所を有している。
(1)広い面積の造成ヤードを必要とし、造成ヤードの周辺において確実な排水機能が必要である。
(2)材料のコストアップにつながる場合がある。
(3)細粒材が高含水比の場合に、含水比低下は鈍い。
【0010】
このような従来の技術において、堤体材料となる高含水比の土質材料の含水比を低下させることは重要な課題となっており、種々の提案が示されているが、2つの代表例を以下に示す。
(1)全天候通風型システム
このシステムは、外気の通風を利用して高含水比の土質材料を効率良く所定の含水比まで乾燥させるシステムである。屋根と壁が透明樹脂板張で、壁の一部(壁の下半分と屋根直下の50cm程度)が開放されている仮設小屋に含水比の高い土質材料を仮置し、送風機や扇風機による外気の送風と、バックホウによる天地換えを行うことで、土質材料を乾燥させて含水比を調整する。4日間で含水比を5~6%下げることができた実例がある。
【0011】
(2)真空蒸発乾燥システム
このシステムは、減圧下における水の沸点降下を利用して高含水比の土質材料を所定の含水比に調整するシステムである。すなわち、含水比の高い土質材料を気密シート等で密封し、真空ポンプで内部の空気を抜き減圧させ、水の沸点を下げることにより、間隙水の気化を促進させて土質材料の含水比を低下させるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上説明したフィルダム工事、特にため池堤体の改修工事では、ため池の下流側は民有地である場合が多く、改修工事の施工ヤードとしては、ため池の上流側の土地を利用せざるを得ない。このため、既設底樋を開放してため池内の水を放水し、ため池の上流側に仮設道路を設置し、ため池の上流側にある限られた面積の土地を利用して改修工事を実施することが一般的である。したがって、利用可能な土地の面積から見て、先に説明したような「ストックパイル方式」は採用しにくく、また乾燥設備として「全天候通風型システム」や「真空蒸発乾燥システム」を設置できる建屋に覆われた広い乾燥ヤードを確保することも困難な場合が多い。
【0013】
一方、老朽化したため池の内部には、底泥土が厚く堆積している。底泥土は粘土・シルト分を多く含み、含水比が極端に高い超軟弱な状態にあり、捨土するにしても、そのままの状態では運搬することさえ容易ではない。また、最近では、底泥土の捨て場所を確保することが、経済性だけでなく環境面からも難しくなってきている。
【0014】
従って、ため池を含むフィルダムの上流側に改修または新設工事用のヤードを確保し、ため池の改修の場合は、改修工事で発生する堤体の掘削土及び高含水比の底泥土を利用し、またアースダム又はロックフィルダムの新設工事の場合は、新設現場において取得された土質材料を利用し、これらを、遮水部を構成する堤体材料として積極的に再資源化する技術が望まれている。
【0015】
本発明は、以上説明した従来の技術及びその課題に鑑みてなされたものであって、改修または新設しようとするフィルダム(ため池、アースダム、ロックフィルダム等を含む)の遮水部を構成する堤体材料の製造方法において、フィルダムやその近傍で取得した高含水比の土質材料を用い、フィルダム近傍の狭小な現場で短時間のうちに水分を蒸発させて必要な強度を有する堤体材料を製造する方法と、高含水比の土質材料の改良方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載された堤体材料の製造方法は、
改修または新設しようとするフィルダムの遮水部を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記フィルダムの近傍において土質材料を取得し、
前記フィルダムの近傍において、繊維質物質とセメント系固化材を前記土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記フィルダムの近傍または上流側に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認することを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載された堤体材料の製造方法は、
改修しようとするため池の堤体を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記ため池の近傍において、前記ため池の底泥土と前記堤体の掘削土を混合して混合土を製造し、
前記ため池の近傍において、繊維質物質とセメント系固化材を前記混合土に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記ため池の近傍または上流側に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比を、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認することを特徴としている。
【0018】
請求項3に記載された堤体材料の製造方法は、
新設しようとするアースダム又はロックフィルダムのコア部分を構成する堤体材料の製造方法であって、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場において土質材料を取得し、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場において、繊維質物質とセメント系固化材を前記土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
前記アースダム又はロックフィルダムの新設現場の近傍に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比を、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認することを特徴としている。
【0019】
請求項4に記載された堤体材料の製造方法は、請求項1乃至3の何れか一つに記載された堤体材料の製造方法において、
請求項1又は3に記載された前記土質材料若しくは請求項2に記載された前記混合土の含水比を45%以上とし、
前記繊維質物質の添加量を25kg/m3 以上とし、
前記セメント系固化材の添加量を56kg/m3 以上とすることにより、
前記蒸発速度の最大値を4.38kg/h・m2 以上としたことを特徴としている。
請求項5に記載された高含水比の土質材料の改良方法は、
繊維質物質とセメント系固化材を前記土質材料に添加して混練することにより-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有する繊維質固化処理土を製造し、
屋外に設定した作業場所において、前記繊維質固化処理土を露天状態で高さ3.86m程度までの山状に積載し、
乾燥設備を用いることなく、前記繊維質物質の毛細管現象により達成される水分の蒸発速度で、山状に積載した前記繊維質固化処理土の水分を蒸発させるとともに、含水比をモニタリングすることにより、乾燥密度が最大乾燥密度となる最適含水比と、乾燥密度が最大乾燥密度の95%となる湿潤側の限界含水比の間の範囲から外れた前記繊維質固化処理土の含水比が、最短で一日以内に前記範囲内の値まで低下したことを確認することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載された堤体材料の製造方法によれば、改修または新設しようとするフィルダム(ため池、アースダム、ロックフィルダム等を含む)やその近傍で取得した高含水比の土質材料に繊維質物質とセメント系固化材を添加して混練し、フィルダムの上流側または近傍にある狭小な現場に露天状態で積載し、繊維質物質の毛細管現象によって水分を吸い上げ、環境条件に応じて最短で一日以内に必要量の水分を蒸発させることにより、フィルダムの堤体に要求される必要な強度を備えた堤体材料を、低コストかつ短時間で、しかも廃棄物を再資源化するという環境に負荷を与えない手法で製造することができる。
【0021】
請求項2に記載された堤体材料の製造方法によれば、改修しようとするため池の底泥土と堤体の掘削土を混合した混合土に、繊維質物質とセメント系固化材を添加して混練し、ため池の上流側の近傍にある狭小な現場に露天状態で積載し、繊維質物質の毛細管現象によって水分を吸い上げ、環境条件に応じて最短で一日以内に必要量の水分を蒸発させることにより、ため池の堤体に要求される必要な強度を備えた堤体材料を、低コストかつ短時間で、しかも廃棄物を再資源化するという環境に負荷を与えない手法で製造することができる。
【0022】
請求項3に記載された堤体材料の製造方法によれば、新設しようとするアースダム又はロックフィルダムやその近傍で取得した高含水比の土質材料に繊維質物質とセメント系固化材を添加して混練し、アースダム又はロックフィルダムの近傍にある狭小な現場に露天状態で積載し、繊維質物質の毛細管現象によって水分を吸い上げ、環境条件に応じて最短で一日以内に必要量の水分を蒸発させることにより、アースダム又はロックフィルダムの堤体に要求される必要な強度を備えた堤体材料を、低コストかつ短時間で、しかも廃棄物を再資源化するという環境に負荷を与えない手法で製造することができる。
【0023】
請求項4に記載された堤体材料の製造方法によれば、請求項1乃至3の何れか一つに記載された堤体材料の製造方法において、土質材料の含水比と、繊維質物質の添加量と、セメント系固化材の添加量を、実験により定めた所定の値または当該値以上の値とすることにより、繊維質固化処理土から水分が蒸発する蒸発速度の最大値を、土質材料の水分を自然蒸発させた場合の蒸発速度よりも大きい4.38kg/h・m2 以上とし、環境条件に応じて一日以内の短時間で、フィルダムの堤体に要求される必要な強度を備えた堤体材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る堤体材料の製造方法において、2つの現場(Yため池とKため池)で採取された土質材料を用いて製造される各堤体材料について改良が要求される4つの改良項目と、改良項目及びため池ごとに設定された改良目標設定値を示す表図である。
図2】実施形態に係る堤体材料の製造方法において、泥土に対する繊維質物質の最適添加量を決定するために、含水比が異なる複数種類の泥土に対する繊維質物質の最適添加量を示す表図である。
図3】Yため池に係る実施形態に係る堤体材料の製造方法において、繊維質固化処理土の配合を決定するために、図2に基づいて決定された繊維質物質の最適添加量(25kg/m3 )に対し、種類が異なる固化材と、各固化材の異なる添加量の組合せを示した表図である。
図4】Kため池に係る実施形態に係る堤体材料の製造方法において、繊維質固化処理土の配合を決定するために、図2に基づいて決定された繊維質物質の最適添加量(25kg/m3 )に対し、種類が異なる固化材と、各固化材の異なる添加量の組合せを示した表図である。
図5】Yため池とKため池の実施形態に係る堤体材料の製造方法において、図1に示す4つの改良目標設定値を同時に満足するとともに、経済性の観点も加味して決定した繊維質固化処理土の配合、すなわち調整後の含水比と、図2に基づいて決定された繊維質物質の最適添加量(25kg/m3 )と、固化材の種類と添加量を示す表図である。
図6】Yため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の諸量を示す表図である。
図7】Yため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の成分(空気、水、土粒子)の構成(体積及び質量)を示す模式図である。
図8】Yため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の各養生日における含水比を示す屋外試験結果を示す表図である。
図9】Yため池に係る実施形態において、上部の図は、繊維質固化処理土の養生日と含水比の関係を示すグラフであり、下部の図は、各養生日における気象条件を示す表図である。
図10】Kため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の諸量を示す表図である。
図11】Kため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の成分(空気、水、土粒子)の構成(体積及び質量)を示す模式図である。
図12】Kため池に係る実施形態において、繊維質固化処理土の各養生日における含水比を示す屋外試験結果を示す表図である。
図13】Kため池に係る実施形態において、上部の図は、繊維質固化処理土の養生日と含水比の関係を示すグラフであり、下部の図は、各養生日における気象条件を示す表図である。
図14】2つの実施形態に係る堤体材料の製造方法において実現された蒸発速度及び実験の諸条件と、従来の堤体材料の製造方法における蒸発速度及び実験の諸条件を比較して示す表図である。
図15】細い管内に生じる毛管水を示す図である。
図16】繊維質物質の自由表面から水が蒸発する状況を示すイメージ図である。
図17】繊維質物質の自由表面から水が蒸発する現象により繊維質固化処理土が団粒化する過程を模式的に示すイメージ図である。
図18】実施形態の繊維質固化処理土で製造した供試体と、比較対象である固化処理土で製造した供試体に対する乾湿繰返し試験の方法を示す表図である。
図19】実施形態の繊維質固化処理土で製造した供試体と、比較対象である固化処理土で製造した供試体に対する乾湿繰返し試験の評価方法を示す表図である。
図20】実施形態の繊維質固化処理土で製造した供試体と、比較対象である固化処理土で製造した供試体に対する乾湿繰返し試験の結果を示すグラフである。
図21】実施形態の繊維質固化処理土で製造した供試体と、比較対象である固化処理土で製造した供試体に対する乾湿繰返し試験において、サイクル数に対する一軸圧縮強さの変化を、室内目標強度との関係で示すグラフである。
図22】含水比wn (横軸、%)と乾燥密度ρd (縦軸、g/cm3 )の関係を示す土質材料の締め固め曲線を示すとともに、含水比wn と乾燥密度ρd の組合せが当該土質材料の締め固めに適している含水比の領域wf ' をグレーで示した図である。
図23】堤体材料の製造方法であるストックパイル方式を説明するための図であって、分図(a)は、粗粒材と細粒材を交互に層状に盛立ててなるストックパイルを示す図であり、分図(b)は、ブルドーザによるストックパイルのスライスカットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態である堤体材料の製造方法について、図1図21を参照して説明する。
この実施形態は、フィルダムの一例であるため池の堤体を改修する工事(以下、改修工事と称する。)を実施するために、改修工事に供される堤体材料を製造する方法に関するものである。具体的には、改修工事が予定されている2カ所のため池、すなわち実在するYため池とKため池ごとに、それぞれ採取した底泥土と、それぞれの堤体の掘削土を用いて2種類の堤体材料を製造し、これらに対して性能を確認するための試験等を行なった。
【0026】
まず、実施形態に係る堤体材料の製造方法の特徴及び概要を説明する。
従来の改修工事における堤体材料の製造方法と異なる本実施形態の第1の特徴は、従来のようにため池の近傍又は他の場所で新たな土質材料を採取し、これを現場に持ち込んで堤体材料として利用するのではなく、従来は含水比が高いために使用できず処分の対象であったため池の底泥土と、改良しようとする堤体の掘削土を混合して混合土を製造し、これを改修のための堤体材料として用いる点であり、また、この混合土の製造及びこれ以降の製造工程を、ため池の近傍、かつ私有地の少ない上流側の狭小地に設定した作業場所において、特別な仮設小屋等を設けることなく行なうことである。第2に、前記作業場所において、繊維質物質とセメント系固化材を、泥土の含水比等に応じた所定の配合で混合土に添加して混練することにより繊維質固化処理土を製造し、これを堤体材料として用いる点である。第3に、前記作業場所において、各材料を所定の配合で製造して得た繊維質固化処理土を露天状態で積載し、繊維質物質の毛管現象により得られる水分の高い蒸発速度により、最短で一日以内という従来では考えられない短時間で、繊維質固化処理土の含水比を減少させ、要求される基準を満たした堤体材料を製造する点である。製造した堤体材料は、隣地にあるため池に移動して即座に堤体の改修に使用することができる。
【0027】
<堤体材料を製造する際の原料の配合について>
次に、本実施形態において堤体材料を製造する際の原料の配合を決定する手順について、図1図5を参照して説明する。ここで、堤体材料の原料とは、主としてため池で採取された泥土及び掘削土からなる混合土と、繊維質物質と、セメント系固化材である。
【0028】
図1は、2つの現場(Yため池とKため池)の改修工事で使用される各堤体材料に対して改良が要求される4つの改良項目と、4つの改良項目及び2つのため池の組合せごとに設定された8個の改良目標設定値を示す表図である。4つの改良項目は、1)円形すべり面スライス法による目標強度である一軸圧縮強さqu、2)建設機械の走行に必要なコーン指数qc、3)遮水性ゾーンに用いられる透水係数k、4)六価クロムの溶出量(土壌環境基準値)である。図1の表図に示す数値は、土地改良事業設計指針「ため池整備」(2015)の規定を根拠とし、Yため池とKため池の実際の形状・構造等を前提とした堤体安定計算や、ため池に要求される品質等に基づいて、各ため池ごとに定めたものである。実施形態では、各ため池ごとに示す4つの改良目標設定値を満足するとともに、後に説明するように経済性の観点も加味して、各ため池に使用する堤体材料の原料の配合を決定している。
【0029】
図2は、実施形態に係る堤体材料の製造方法において、泥土に対する繊維質物質の最適添加量を決定するために行なった実験の結果に基づくデータであって、泥土の含水比(又は泥土の含水率)に対する繊維質物質の最適添加量を示している。繊維質物質としては、14mm×14mm程度に裁断した新聞等の古紙(株式会社ジャパンクリエイティブル製、ボンファイバー(登録商標))を用いた。泥土は、Yため池又はKため池で実際に採取された泥土又は混合土ではないが、ため池の泥土に相当する性質を備えるように、粘度、シルト、水を混合し、種々の含水比(含水率)となるように製造したものである。最適添加量は、最も団粒化が進んだ泥土に添加した繊維質物質の量とした。例えば、含水比w=50%の泥土の場合、繊維質物質添加量(最適添加量)は25kg/m3 となっている。これは、含水比w=50%である複数の泥土の試験体を用意し、例えば5、10、15、20、25…、30kg/m3 等々という複数の添加量の繊維質物質を、複数の泥土の試験体にそれぞれ添加し、各試験体における団粒化の進み具合を見て、最も団粒化が進んだ泥土に添加した繊維質物質の添加量を最適な繊維質物質の添加量としたものである。すなわち、含水比w=50%の泥土の場合、繊維質物質添加量(最適添加量)が25kg/m3 である場合に、泥土が最も良好に団粒化したことを意味する。
【0030】
繊維質物質とセメント系固化材を泥土に添加・撹拌した場合、色むらがなくなるまで均一に混合することが必要である。そこで、仮に25kg/m3 の繊維質物質と、50kg/m3 のセメント系固化材を、適宜加水調整した各ため池の混合土に添加して状況を観察したところ、Yため池の混合土の場合には、採取した含水比w=30.1%の混合土に加水調整して含水比がw=45%となった混合土が、最も均一に混合できた。また、Kため池の混合土の場合には、採取した含水比w=42.0%の混合土に加水調整して含水比がw=55%となった混合土が、最も均一に混合できた。従って、Yため池およびKため池で採取された混合土の含水比を、それぞれw=45%、w=55%とし、その平均値であるw=50%の値から、図2に従って本実施形態における最適な繊維質物質添加量(最適添加量)を25kg/m3 と決定した。
【0031】
なお、実施形態では、上述したように、Yため池又はKため池で得られた泥土の含水比が概ね50%程度であったため、繊維質物質の最適な添加量を図2に従って25kg/m3 としたが、対象とする泥土の含水比が50%よりも大きい場合には、その値に応じて図2の表図を参照することにより、繊維質物質の最適な添加量を定めることができる。
【0032】
次に、堤体材料の原料におけるセメント系固化材の添加量について検討する。
図3は、Yため池の改修工事に使用するに堤体材料の配合を決定するために、図2に基づいて決定された繊維質物質の最適添加量(25kg/m3 )に対し、種類が異なるセメント系固化材と、各固化材の異なる添加量の組合せ(各固化材ごとに3種類)を示した表図である。また、図4は、Kため池の改修工事に使用するに堤体材料の配合を決定するために、図2に基づいて決定された繊維質物質の最適添加量(25kg/m3 )に対し、種類が異なるセメント系固化材と、各固化材の異なる添加量の組合せ(各固化材ごとに3種類)を示した表図である。
【0033】
前述した2つのため池の混合土の含水比w=45%及びw=55%、図3及び図4に示した繊維質物質及びセメント系固化材の配合に沿って、図1に示した4つの改良項目の試験対象となる供試体の原料を、次の工程1~5に従って作成した。
1.混合土を9 .5 mmのふるいにより分級する。
2.上述のように混合土に加水調整し、Yため池の混合土は含水比w=45%、Kため池の混合土は含水比w=55%に調整する。
3.含水比を調整した混合土に繊維質物質25kg/m3 を添加して、ソイルミキサーによる撹拌を行う。
4.セメント系固化材を加え混合する。セメント系固化材の種類および添加量は、図3及び図4に示す配合とする。
5.以上のように処理した混合土を容器に入れて密封し、20±3℃で7日間養生する。
以上の工程により、各試験に供される供試体の原料が得られた。
【0034】
図1の改良項目1)である一軸圧縮強さの試験に供する供試体を、上記原料を用い、JCAS L-01:2003(セメント協会標準試験方法)の「セメント系固化材による安定処理土の試験方法」に従って作成した。なお、供試体の作成には直径5cm、高さ10cmの標準モールド(供試体作成容器)を使用した。一軸圧縮試験方法はJISA1216に準拠して実施した。
【0035】
図1の改良項目2)であるコーン指数の試験に供する供試体を、上記原料を用い、JGS0811-2009(地盤工学会基準)「安定処理土の突き固めによる供試体作成方法」に従って作成した。なお、供試体の作成には直径10cm、高さ12.7cmの標準モールド(供試体作成容器)を使用した。コーン指数の試験方法はJIS1228に準拠して実施した。
【0036】
図1の改良項目3)である透水係数の試験に供する供試体を、上記原料を用い、JGS0811-2009(地盤工学会基準)「安定処理土の突き固めによる供試体作成方法」に従って作成した。なお、供試体の作成には直径10cm、高さ12.7cmの標準モールド(供試体作成容器)を使用した。透水係数の試験方法はJISA1218に準拠して実施した。
【0037】
図1の改良項目4)である六価クロムの溶出量については、図3ではセメント系固化材最大添加量100kg/m3 供試体の原料3検体、図4では生石灰を除く、セメント系固化材最大添加量150kg/m3 供試体の原料2検体を計量証明事業者に送付し、材齢7日の時点において1検体ずつ環境庁告示46号溶出試験を実施し、合否を判定した。
【0038】
図1に示した4つの改良目標値を同時にクリアするとともに、経済的に最も妥当である堤体材料の原料の配合を図5に示す。
Yため池の混合土の場合、妥当とされたセメント系固化材の種類は、図3に示した3種類のセメント系固化材のうち、高有機質土用セメント系固化材であり、その添加量は、図3に示した3種類の値(50、75、100kg/m3 )の何れかではなく、56kg/m3 となった。
【0039】
実施形態のYため池の場合において、繊維質固化処理土を製造するセメント系固化材として高有機質土用セメント系固化材が選択され、その添加量が56kg/m3 となった理由を説明する。
図1の改良項目1)及び2)の試験の結果は、得られた一軸圧縮強さqu及びコーン指数qcの値が、試験ごとに定められた基準値以上である場合に合格とされる。例えば一軸圧縮強さの試験は、図3に示した3種類のセメント系固化材について、それぞれ3つの添加量、すなわち50、75、100kg/m3 について実施される。従って、セメント系固化材ごとに添加量に比例して増大する3つの値が得られ、横軸を固化材添加量、縦軸を一軸圧縮強さとする座標上で結んでグラフとすれば、セメント系固化材ごとに右肩上がりの曲線が得られる。曲線が、基準値を示す水平な線と交わる1点の値よりも上の範囲の固化材添加量であれば、当該固化材については、一軸圧縮強さの基準値が満足されることになる。従って、前記曲線が基準値を示す水平線と交わる点が、当該固化材について必要最小限の添加量ということになり、この値以上であれば一軸圧縮強さの基準値は満足される。もっとも実験における添加量の上限値は100kg/m3 である。コーン指数qcの試験結果についても同様の考え方が成り立つ。
【0040】
また、改良項目3)の試験の結果は、得られた透水係数kの値が、基準値以下である場合に合格とされる。この場合には、セメント系固化材ごとに、添加量に応じて変化する3つの値が得られ、横軸を固化材添加量、縦軸を透水係数とする座標上で結んでグラフとすれば、セメント系固化材ごとに概ね右肩上がりの曲線が得られる。曲線が、基準値を示す水平な線と交わる1点の値よりも下の範囲の固化材添加量であれば、当該固化材については、透水係数の基準値が満足されることになる。従って、前記曲線が基準値を示す水平線と交わる点が、当該固化材について最大限の添加量ということになり、この値以下であれば透水係数の基準値は満足される。もっとも実験における添加量の下限値は50kg/m3 である。
【0041】
また、改良項目4)の試験の結果は、得られた六価クロムの溶出量の値が基準値以下である場合に合格とされる。
【0042】
実施形態で行なった実験では、図3に示した3種類のセメント系固化材のうち、高炉セメントB種は、六価クロムの溶出量の値が基準値を超えて不合格であった。そこで、残りの2種類のセメント系固化材について、それぞれ、図1の改良項目1)~3)の試験の結果が同時に各基準値を満足する添加量の範囲を決定した。前述した座標上のグラフと基準線の関係から判断すると、特殊土用セメント系固化剤の場合、改良項目1)~3)の試験の結果が同時に各基準値を満足する添加量の範囲の最小値は61kg/m3 であった。高有機質土用セメント系固化剤の場合、改良項目1)~3)の試験の結果が同時に各基準値を満足する添加量の範囲の最小値は56kg/m3 であった。
【0043】
特殊土用セメント系固化剤と高有機質土用セメント系固化剤は価格が異なる。61kgの特殊土用セメント系固化剤の価格は、56kgの高有機質土用セメント系固化剤の価格よりも高い。そこで、経済性を加味して、この実施形態では、高有機質土用セメント系固 化材を選択し、その添加量を56kg/m3 と決定した。
【0044】
図1に示した4つの改良目標値を同時にクリアするとともに、経済的に最も妥当である繊維質固化処理土の原料の配合を示した図5において、Kため池の混合土の場合、妥当とされたセメント系固化材の種類は、図4に示した生石灰および2種類のセメント系固化材のうち、高有機質土用セメント系固化材であり、その添加量は、図3に示した3種類の値(50、75、100kg/m3 )の何れかではなく、75kg/m3 となった。高有機質土用セメント系固化材が選択され、その添加量が75kg/m3 となった理由は、先に説明したYため池の場合と同様である。
【0045】
<実施形態の繊維質固化処理土を用いた屋外試験について>
図5に示した配合により作製した繊維質固化処理土を乾燥させた場合の含水比低下と養生日数の関係を調べる屋外試験を実施した。その結果について、図6図13を参照して以下に説明する。
【0046】
図5に基づき、Yため池及びKため池の混合土を加水調整し、繊維質物質とセメント系固化材を添加して、ソイルミキサーで混練りし、繊維質固化処理土を製造した。
【0047】
46×32×8〔cm〕のアルミ製容器に繊維質固化処理土を敷き詰め、屋外に放置して一日毎の含水比試験を実施した。試験は、電子レンジを用いた土の含水比試験方法JGS0122-2009に準拠し、3検体/日の平均含水比を求めた。含水比の他、1日あたりの日照時間〔h〕、合計降水量〔mm〕、平均風速〔m/s〕、平均気温〔℃〕、平均湿度〔%〕を測定した。
【0048】
図6は、Yため池の実施形態における繊維質固化処理土の諸量を示す表図であり、図7は、Yため池の実施形態における繊維質固化処理土の成分(空気、水、土粒子)の構成(体積及び質量)を示す模式図である。
【0049】
図8は、Yため池の実施形態において、繊維質固化処理土の各養生日における含水比を示す屋外試験の結果を示す表図である。図9の上図は、横軸を養生日数(日)とし、縦軸を繊維質固化処理土の含水比w(%)とし、図8に示したデータをプロットして含水比の変化を折れ線グラフで示したものである。折れ線グラフの各点の側には、後の説明の便宜のために英字と含水量の値が付してある。図9の下図は、上図に対応する養生日の気象条件を示している。
【0050】
図9の上図には、Yため池の実施形態で製造した繊維質固化処理土の乾燥密度ρd が最大乾燥密度ρdmaxとなる最適含水比wopt (=32.1%)と、乾燥密度ρd が最大乾燥密度ρdmaxの95%となる湿潤側の限界含水比wwet (=37.2%)を、横軸に平行な2本の基準線で示している。これら2本の基準線で囲まれる領域wf ’は、先に参照した図22において、土質材料の締め固めに最適なグレーで着色した含水比の範囲に相当する。従って、繊維質固化処理土の含水比wは、乾燥を開始してからなるべく早期に、2本の基準線の間の範囲に入ることが好ましく、同範囲に入った時点で養生を終了すれば直ちに堤体の築造工事に使用することができる。しかしながら、この実験では、繊維質固化処理土の乾燥する速さや、逆に湿気を含む速さを見るため、10日間にわたって繊維質固化処理土を屋外に露天状態で放置した。このため、日照時間や降水量等の環境条件により、繊維質固化処理土の含水比wは、以下に説明するように大きく上下動している。
【0051】
Yため池の繊維質固化処理土の養生日数と、含水比および含水量の関係について、以下の事実が確認された。
1)日照時間〔h〕と合計降水量〔mm〕は日ごとの繊維質固化処理土の含水比の変化に大きく影響を与えていることが確かめられた。
2)繊維質固化処理土の養生1日目の含水比wc は30.5%となり、最適含水比wopt =32.1%を下回った。
3)含水比wは、改良直後の含水比wB =38.2%から養生1日目の含水比wC =30.5%となり、7.7%低下し、含水量mw は97〔kg/m3 〕減少した。この間の蒸発速度Eは4.04〔kg/h・m2 〕と確認された。
4)降雨の影響を大きく受けた養生日数6〔日〕から8〔日〕までの含水比wは、含水比wH =21.5%からwJ =34.9%となり、13.4%上昇した。
5)降雨後、日照の影響を受けた養生日数8〔日〕から9〔日〕までの含水比wは、含水比wJ =34.9%からwK =23.2%となり、降雨前の含水比wH =21.5%に1日でほぼ回復し、この間で含水比wは11.7%低下した。含水量mW は149〔kg/m3 〕減少し、この間の蒸発速度Eは6.21〔kg/h・m2 〕と確認された。
【0052】
図10図13は、Kため池に関する図であって、Yため池に関する図6図9に相当しており、図についての説明はYため池に関する図6図9の説明を援用する。
【0053】
Kため池の繊維質固化処理土の養生日数と、含水比および含水量の関係については、以下の事実が確認された。
1)日照時間〔h〕と合計降水量〔mm〕は日ごとの繊維質固化処理土の含水比の変化に大きく影響を与えていることが、Yため池の場合と同様に確かめられた。
2)繊維質固化処理土の養生1日目の含水比wc =38.6%となり、最適含水比wopt =38.0%をほぼ満足する含水比に達した。
3)改良直後の含水比wB =46.1%から養生1日目の含水比wC =38.6%となり、含水比wは7.5%低下し、含水量mW は85〔kg/m3 〕減少した。この間の蒸発速度Eは3.54〔kg/h・m2 〕と確認された。
4)降雨の影響を大きく受けた養生日数4〔日〕から 5〔日〕までの含水比wは、含水比wF =42.0%からwG =54.2%となり,12.2%上昇した。
5)降雨後、日照の影響を受けた養生日数8〔日〕から10〔日〕までの含水比wは、含水比wJ =43.2%からwL =24.6%となり、この間で含水比wは18.6%低下した。含水量mW は、210〔kg/m3 〕減少し、蒸発速度Eは4.38〔kg/h・m2 〕と確認された。
【0054】
<実施形態において実現された繊維質固化処理土の蒸発速度Eについて>
次に、実施形態において達成された蒸発速度Eと、従来から知られている室内での土質材料の乾燥試験による蒸発速度Eと、先に説明した全天候通風型システムや真空蒸発乾燥システムにおける土質材料の乾燥試験による蒸発速度Eを、試験時の諸条件等とともに比較した一覧表を図14に示す。
【0055】
図14によれば、実施形態による堤体材料の製造方法には、次のような特徴がある。
1)繊維質固化処理土の蒸発速度Eは4.38~6.21〔kg/h・m2 〕であるが、比較対象である従来の室内試験や全天候通風型システムによる現地施工での蒸発速度Eは0.013~0.644〔kg/h・m2 〕と報告されている。従って、実施形態による繊維質固化処理土の蒸発速度Eは、同一技術分野における従来の技術に較べて極めて高いことが確認された。従って、フィルダムの遮水部の盛り立て作業が速やかに行われることになり、アースダム又はロックフィルダムの新設工事およびため池の改修工事の品質の確保と大幅な工期短縮が達成される。
【0056】
2)特に、ため池の改修工事においては、先に説明したように、含水比が養生1日以内でほぼ最適含水比まで低下することを確認した。従って、繊維質固化処理土を露天状態で積載して乾燥しながら含水比をモニタリングすれば、天候にもよるが、乾燥を開始してから一日以内のごく速いタイミングで含水比が最適含水比まで下がり、直ちに堤体材料として改修工事に投入することができる。仮に、乾燥中に降雨があったとしても、青天になった際の乾燥が速いため、濡れを避けるための大がかりな手段を講ずる必要がなく、そのまま雨が止むのを待ち、青天となって乾燥するのを待てばよいので施工管理も楽である。また、広い乾燥ヤードの確保や屋根付曝気設備の建設が不要なので、民有地の少ないため池の上流側の近傍地に狭小な改良土ヤードを設置して、改良、仮置き、盛り立て作業をスムーズに行なうことができる。
【0057】
<実施形態の繊維質固化処理土における水分蒸発のメカニズムについて>
本願発明者は、実施形態の繊維質固化処理土が有している従来の6倍以上もの蒸発速度E(4.38÷0.644≒6.8)は、添加された繊維質物質(新聞等の古紙)の毛管現象による効果であると考えている。このような蒸発速度Eが毛管現象によって得られた理由ついて図15及び16参照して考察する。
【0058】
紙の構造を簡単にモデル化し、毛管が紙の平面に垂直に貫通しているものと考える。図15に示すように、毛細管現象による液体の上昇高さは、次式(1)であらわされる。
h=2T/(r・ρw ・g) …式(1)
Young-Laplace (ヤング-ラプラス)の式
T:水の表面張力〔N・m-1〕、h:水の毛管上昇高〔cm〕
r:毛管半径〔cm〕、ρw :水の密度〔kg・m-3
g:重力加速度〔m・s-2
【0059】
そこで、水の密度ρw =1.000〔kg・m-3〕、重力加速度g=9.8〔m・s-2〕、水の表面張力=0.0727〔N・m-1〕の各数値を採用し、毛管半径rの単位を〔cm〕とし、最後に各数値の単位を揃えて式(1)に代入すれば、次式(2)が得られる。
h=0.15/r〔cm〕 …式(2)
【0060】
単位質量の水を自由水面から高さhまで動かすのに必要な仕事を毛管ポテンシャルψm と呼べば、大気圧P0 を基準とするとこれは負の値となり、次式(3)で表される。
ψm =ρw ・g・h〔N・m・m-3〕 …式(3)
【0061】
(2)式によれば、古紙破砕物の毛管半径rが確認されれば毛細管ポテンシャルは明らかとなる。そこで、先人の研究成果から毛管半径r=3.8〔μm〕を採用し、古紙破砕物の毛管ポテンシャルψm を少なめに見積ると次の以下のようになる。
【0062】
式(2)より、
h=0.15/3.8×10-4〔cm〕=394.7〔cm〕
式(3)より、
ψm =-1000〔kg・m-3〕×9.8〔m・s-2〕×3.94〔m〕
=-38612〔N・m・m-3〕〔N・m-2
=-38.6〔kpa〕
【0063】
これは、図16に示すように、飽和状態にある底泥土に古紙破砕物のような繊維質物質を添加・混合すると、ψm =-38.6〔kpa〕程度の吸引圧で底泥土中の水分が吸水されることを意味する。毛細管高さh=394.7〔cm〕として、この対数をPFとする。
PF=log(ψm /γw )=log10h …(4)
γw :水の重量〔N・m-3
【0064】
式(4)にh=394.7を代入するとPF≒2.6となる。重力水よりも大きいが、膨潤水よりは小さい毛管水のPFは,一般に1.5~4.2の範囲にあることが知られているが、古紙破砕物の毛管ポテンシャルによる吸水エネルギーは、土粒子に吸着する毛管水の吸水エネルギーに匹敵する。このことは、自由水(重力水)と土が、水を保持しようと抵抗する毛管水まで引き剥がして古紙破砕物が水を吸水することを意味する。
【0065】
しかしながら、図16に示すように、古紙破砕物が吸引圧により吸水した水分が気中に蒸発しない限り、底泥土の含水比は低下しない。一方、毛細管現象による蒸発効果は、図16に示すように繊維質物質の自由表面に働くので、その下は必ずしも一定断面の直立管でなくとも、静水圧(繊維質固化処理土の水分供給能力)とつながり、繊維質物質の導管を考えれば、総計で大量の水が蒸発してその分を埋めるように流動する吸水ポンプ作用が働いているものと考えられる。
【0066】
図17は、以上説明した繊維質物質の自由表面から水が蒸発する現象により、土粒子が団粒化する状況を示すイメージ図である。繊維質固化処理土の団粒化は、以下に示す理由により進行するものと考えられる。
【0067】
1)図17(a)に示すように、水中に土粒子が分離して分散している飽和泥土中に、図17(b)に示すように繊維質物質を添加すると、飽和泥土中の水分は、毛管ポテンシャルψm =-38.6〔kpa〕程度のエネルギーにより、自由水(重力水)と土が水を保持しようと抵抗する毛管水まで引き剥がして繊維質物質に吸水する。しかし、この時点では繊維質固化処理土の含水比は変化していない。
【0068】
2)図17(c)に示すように、繊維質物質に吸水された水分が蒸発容易な状況下では、気温、湿度、風速などの気象条件により水分の蒸発が始まり、繊維質固化処理土の含水比は蒸発速度に応じて低下していく。その後、繊維質固化処理土が不飽和に変移し、同時に繊維質固化処理土中にサクションが発生し、土粒子間結合力により繊維質固化処理土の団粒化が始まる。
【0069】
3)図17(d)に示すように、水の蒸発に有利な気温、湿度、風速などの気象条件が継続することにより、繊維質固化処理土の団粒化と含水比低下がさらに促進される。
【0070】
以上説明したように、実施形態の繊維質固化処理土をため池の側の作業場所に露天状態で山状に積み上げておけば、繊維質物質の毛管現象によって内部から山の表面に水が吸い上げられて大気中に蒸発し、乾燥及び団粒化が急速に進む。前述したように、実施形態の繊維質固化処理土はψm =-38.6〔kpa〕程度の吸引圧を有しているため、作業場所に積み上げた繊維質固化処理土の山の高さを3.86m程度までとしておけば、乾燥を促進するその他の手段を一切講ずることなく、繊維質物質の毛管現象によって乾燥及び団粒化を十分に達成することができる。一般的に土質材料を乾燥するには、なるべく大きな面積に広げた方がよいが、実施形態の繊維質固化処理土によれば、山状に積み上げても乾燥が進むので、広い作業面積がとれないため池の上流側の作業場所で十分である。
【0071】
<実施形態の繊維質固化処理土の耐久性試験について>
先に説明したように、実施形態において製造した繊維質固化処理土乃至これにより製造した堤体材料は、ため池整備に必要な図1に示した目標強度等の基準値を満足しているが、さらに、ため池の改修工事に用いても長期にわたって堤体の安全性を確保できる十分な品質特性を有していることを、乾湿繰り返し試験を行なって確認した。図18図21を参照して試験の内容及び結果について以下に説明する。
【0072】
図18は、独立行政法人土木研究所が規定する乾湿繰返し試験方法を示しており、図19は、乾湿繰返しサイクル毎の供試体の状況を評価する供試体健全度ランクを示している。そこで、先に説明した実施形態の繊維質固化処理土と、比較例として、実施形態で用いたため池の混合土に実施形態で用いたセメント系固化材を加えた固化処理土を試験対象とし、図18に示した乾湿繰返し試験方法を行い、試験後の供試体を図19の供試体健全度ランクに従って評価した。
【0073】
試験の結果、固化処理土の供試体は、1サイクルの水浸において残存供試体の全量である9本が崩壊し、その後の一軸圧縮試験は実施不可能であった。一方、実施形態の繊維質固化処理土の供試体は、10サイクル目まで、すべてが残存し、極めて高い耐久性を有することが確認された。
【0074】
図20に健全度ランクを示す。また、図21に示したサイクルごとの一軸圧縮強さから分かるように、繊維質固化処理土は10サイクルのすべてにおいて室内目標強度を満足している。
【0075】
上述の室内試験に加えて、ため池堤体からの漏水の原因となるクラック発生の可能性を事前に検証するため、実施形態の繊維質固化処理土と、比較例の固化処理土について、乾湿繰返しおよび凍結融解試験を屋外で実施した。その結果、固化処理土は乾湿繰返しと凍結融解による多数のクラックが確認された。一方、実施形態の繊維質固化処理土は乾湿繰返しおよび凍結融解を受けてもクラックの発生は無く、漏水防止と堤体補強に極めて高い効果を示すことが明らかとなった。
【0076】
以上、フィルダムの一例であるため池の堤体の改修工事に供される堤体材料を製造する方法の実施形態を説明したが、本発明及び実施形態は、ため池のみならず、アースダム又はロックフィルダムのコア部分(遮水部)を構成する堤体材料の製造にも転用することができ、実施形態で説明したのと同様の技術的及び経済的な効果を得ることができる。
【要約】
【課題】ため池の近傍で取得した泥土等を用い、近傍の狭小な現場において短時間で水分を蒸発させて必要な強度を有する堤体材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】ため池の底泥土と堤体の掘削土を混合した混合土に、繊維質物質とセメント系固化材を添加・混練して繊維質固化処理土を製造し、これを露天状態で積載する。繊維質物質の毛細管現象により水分が吸い上げられて蒸発し、繊維質固化処理土の高い含水比を最短一日以内に最適な値とすることができる。
【選択図】図9
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