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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】衝突警報装置及び衝突警報方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20230428BHJP
   G01C 21/26 20060101ALI20230428BHJP
   B63B 79/40 20200101ALN20230428BHJP
【FI】
G08G3/02 A
G01C21/26 C
B63B79/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022083842
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2020527301の分割
【原出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2022103443
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018122534
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 和也
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-054215(JP,A)
【文献】特開2017-182729(JP,A)
【文献】特開平11-272999(JP,A)
【文献】特開平9-22500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 3/02
G01C 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上を航行する複数の船舶の針路、位置、及び速度に関する情報をそれぞれ取得する情報取得部と、
前記複数の船舶のうちの一の船舶が他の船舶との衝突を回避するために行う衝突回避行動を予測する衝突回避行動予測部と、
前記情報取得部が取得した船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に他の船舶に衝突する危険性を示す、現在の他船針路上の自移動体衝突危険度を計算するとともに、前記衝突回避行動により変針される前記一の船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に前記一の船舶に衝突する危険性を示す、他船変針後の自移動体衝突危険度を計算する自移動体衝突危険度計算部と、
前記現在の他船針路上の自移動体衝突危険度に基づいて、現在の他船針路上の衝突危険ゾーンを表示する表示データを生成するとともに、前記他船変針後の自移動体衝突危険度に基づいて、他船変針後の衝突危険ゾーンを前記現在の他船針路上の衝突危険ゾーンと表示態様を変えて表示する表示データを生成する表示データ生成部と、
を備えることを特徴とする衝突警報装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝突警報装置であって、
前記複数の船舶の前記情報に基づいて、前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶に将来的に衝突する危険性を示す他移動体衝突危険度を計算する他移動体衝突危険度計算部と、
前記他移動体衝突危険度に基づいて、前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶との衝突を回避するために変針する可能性が所定の程度以上あるか否かを判定する変針可能性判定部とをさらに備え、
前記一の船舶は、変針する可能性が所定の程度以上あると判定された船舶である、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項3】
請求項2に記載の衝突警報装置であって、
前記表示データ生成部は、変針する可能性が所定の程度未満であると判定された船舶に対してのみ、前記現在の他船針路上の衝突危険ゾーンを表示する表示データを生成する、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項4】
請求項2に記載の衝突警報装置であって、
前記他移動体衝突危険度計算部は、前記自船舶から所定の距離内に存在する前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶に将来的に衝突する危険性を示す他移動体衝突危険度を計算する、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項5】
請求項2に記載の衝突警報装置であって、
前記他移動体衝突危険度計算部は、OZTに関する前記他移動体衝突危険度を計算する、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項6】
請求項2に記載の衝突警報装置であって、
前記他移動体衝突危険度計算部は、CPAに関する前記他移動体衝突危険度を計算する、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の衝突警報装置であって、
前記衝突回避行動予測部は、前記衝突回避行動の予測を海上交通ルールに基づいて行う、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の衝突警報装置であって、
前記表示データ生成部は、前記一の船舶の現在の他船針路と、前記衝突回避行動予測部により予測された当該船舶の他船変針後の針路と、を表示する表示データをさらに生成する、
ことを特徴とする衝突警報装置。
【請求項9】
海上を航行する複数の船舶の針路、位置、及び速度に関する情報をそれぞれ取得し、
前記複数の船舶のうちの一の船舶が他の船舶との衝突を回避するために行う衝突回避行動を予測し、
取得した船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に他の船舶に衝突する危険性を示す、現在の他船針路上の自移動体衝突危険度を計算するとともに、前記衝突回避行動により変針された前記一の船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に前記一の船舶に衝突する危険性を示す他船変針後の自移動体衝突危険度を計算し
前記現在の針路上の自移動体衝突危険度に基づいて、現在の他船針路上の衝突危険ゾーンを表示する表示データを生成するとともに、前記他船変針後の自移動体衝突危険度に基づいて、他船変針後の衝突危険ゾーンを前記現在の他船針路上の衝突危険ゾーンと表示態様を変えて表示する表示データを生成する、
ことを特徴とする衝突警報方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体同士の衝突について注意を喚起する衝突警報装置及び衝突警報方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶の航行情報を利用して、船舶同士の将来的な衝突に関する情報を提示することができる衝突警報装置が知られている。特許文献1は、この種の衝突警報装置を開示する。
【0003】
特許文献1の船舶衝突予防援助装置は、法定の航路帯が屈折している場合に、航路帯の屈折に沿って他船が変針することを予測して、衝突危険度を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3970415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1には、法定の航路帯以外での他船の変針を予測することについて、具体的に記載されていない。従って、特許文献1の構成は、船舶同士の将来的な衝突の発生に関して、特に変針を行う可能性のある船舶に対して的確な警報を行う観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、船舶同士の衝突の危険性を、船舶の変針を考慮して計算できる衝突警報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の衝突警報装置が提供される。即ち、この衝突警報装置は、情報取得部と、自移動体衝突危険度計算部と、を備える。情報取得部は、海上を航行する複数の船舶の針路、位置、及び速度に関する情報をそれぞれ取得する。自移動体衝突危険度計算部は、前記複数の船舶のうちの一の船舶が他の船舶との衝突を回避するために行う衝突回避行動を予測する。自移動体衝突危険度計算部は、前記衝突回避行動により変針される前記一の船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に前記一の船舶に衝突する危険性を示す自移動体衝突危険度を計算する。
【0009】
これにより、自船舶と他船舶との衝突に関して、予測した他船舶の変針に基づく潜在的な衝突の危険を計算することができる。
【0010】
さらに、衝突警報装置は、他移動体衝突危険度計算部と、変針可能性判定部と、を備えることができる。他移動体衝突危険度計算部は、前記複数の船舶の前記情報に基づいて、前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶に将来的に衝突する危険性を示す他移動体衝突危険度を計算する。変針可能性判定部は、前記他移動体衝突危険度に基づいて、前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶との衝突を回避するために変針する可能性が所定の程度以上あるか否かを判定する。そして、前記一の船舶は、変針する可能性が所定の程度以上あると判定された船舶であることが好ましい。
【0011】
これにより、衝突の危険度の変動可能性が高い船舶を特定することができる。
【0012】
さらに、前記他移動体衝突危険度計算部は、前記自船舶から所定の距離内に存在する前記複数の船舶のそれぞれが他の船舶に将来的に衝突する危険性を示す他移動体衝突危険度を計算することができる。
【0013】
これにより、海上を航行する船舶の数が多い場合でも、自船舶との衝突の危険性の観点から重要な他の船舶に絞り込んで他移動体衝突危険度を計算することで、処理の負荷を抑制することができる。
【0014】
さらに、前記他移動体衝突危険度計算部は、OZTに関する前記他移動体衝突危険度を計算することができる。
【0015】
これにより、多数の移動体が輻輳した状況においても、他移動体衝突危険度を適切に取得することができる。
【0016】
さらに、前記他移動体衝突危険度計算部は、CPAに関する前記他移動体衝突危険度を計算することができる。
【0017】
これにより、比較的に簡単な計算処理で他移動体衝突危険度を計算することができるので、処理負担の軽減を図ることができる。
【0018】
さらに、前記衝突回避行動予測部は、前記他移動体が行う前記衝突回避行動の予測を、少なくとも交通ルールに基づいて行うことが好ましい。
【0019】
これにより、他移動体の衝突回避行動を精度良く予測することができる。
【0020】
さらに、衝突警報装置は、表示データ生成部を備えることができる。表示データ生成部は、前記自移動体衝突危険度に基づいて、前記自船舶が前記複数の船舶のいずれかに衝突する危険に関する情報を表示する表示データを生成する。
【0021】
これにより、衝突の危険をより的確にユーザに知らせることができる。
【0022】
さらに、表示データ生成部は、前記一の船舶の現在の針路と、前記衝突回避行動予測部により予測された当該船舶の変針後の針路と、を表示する表示データを生成することができる。
【0023】
これにより、他移動体の衝突回避行動を予測することにより得られた針路を、ユーザが容易に理解することができる。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、以下の衝突警報方法が提供される。即ち、海上を航行する複数の船舶の針路、位置、及び速度に関する情報をそれぞれ取得する。前記複数の船舶のうちの一の船舶が他の船舶との衝突を回避するために行う衝突回避行動を予測する。前記衝突回避行動により変針された前記一の船舶の針路に基づいて、自船舶が将来的に前記一の船舶に衝突する危険性を示す自移動体衝突危険度を計算する。
【0025】
これにより、自船舶と他船舶との衝突に関して、予測した他船舶の変針に基づく潜在的な衝突の危険を計算することができる。これを利用し、ユーザは、変針後の他船舶との衝突の危険性を変針前から予め警戒しながら自船舶を操船することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る操船支援装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】自船を基準とするリスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す参考図。
図3】他船のうち1つが第1船舶として選択された場合における、リスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す図。
図4】他船の衝突回避行動として針路の変更が予測される様子を説明する概念図。
図5】他船の針路が予測どおり変更されると仮定して計算された、自船を基準とするリスク評価値及び衝突リスク値の例を示す図。
図6】本実施形態における表示装置の表示例を示す図。
図7】従来の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る操船支援装置1の電気的構成を示すブロック図である。図2は、自船5を基準とするリスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す参考図である。図3は、他船6が第1船舶として選択された場合における、リスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す図である。
【0028】
図1に示す本実施形態の操船支援装置(衝突警報装置)1は、水上を移動する移動体である船舶に設けられ、他船の動向等の情報を表示する。
【0029】
操船支援装置1には、表示装置3が接続される。表示装置3は、例えば液晶ディスプレイとして構成され、操船を支援する情報を表示する。操船支援装置1は、適宜の情報を表示装置3に表示するための表示データを生成し、当該表示装置3に出力する。操船支援装置1が生成する表示データには、自船(自移動体)の位置及び速度の情報、他船(他移動体)の位置及び速度の情報が含まれる。
【0030】
操船支援装置1が生成する表示データには、自船と他船との衝突が将来的に発生する可能性が高いゾーンであるOZTを表示するためのデータが含まれる。OZTは、自船の変針に対して、他船に妨害される領域を当該他船の予定針路上に示したものである。ただし、本実施形態において表示装置3に表示されるOZTは、従来のOZTと異なり、他船の予定針路が将来変化し得ることを前提としている。OZTは、自船が他船に衝突する危険に関する情報の一種であるということができる。
【0031】
この操船支援装置1は、船舶データ取得部(情報取得部)11と、他船リスク評価部(他移動体衝突危険度計算部)21と、他船変針可能性判定部(変針可能性判定部)31と、他船衝突回避行動予測部(衝突回避行動予測部)41と、自船リスク評価部(自移動体衝突危険度計算部)51と、表示データ生成部61と、を備える。
【0032】
具体的に説明すると、操船支援装置1は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。ROMには、上記のOZTの表示データを生成するためのプログラムが記憶される。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、操船支援装置1を、船舶データ取得部11、他船リスク評価部21、他船変針可能性判定部31、他船衝突回避行動予測部41、自船リスク評価部51、及び表示データ生成部61等として動作させることができる。
【0033】
船舶データ取得部11は、自船、及び、自船の周りに存在する他船に関し、必要なデータを取得する。
【0034】
具体的には、操船支援装置1には、図略のGNSS測位装置が接続されている。船舶データ取得部11は、GNSS測位装置から入力される測位結果に基づいて、自船の位置を取得することができる。また、船舶データ取得部11は、GNSS測位装置から得られる位置の変化を計算することにより、自船の船速を取得することができる。
【0035】
また、操船支援装置1には、自船の周囲を探知してレーダ映像を生成する図略のレーダ装置が接続されている。このレーダ装置は、探知した物標(他船)の動きを検出して追尾する技術であるTT(ターゲットトラッキング)機能を有している。TT機能は公知であるため簡単に説明すると、TT機能は、過去のレーダ映像の推移に基づいて、自船の周囲に存在する物標(他船)の位置及び速度ベクトルを計算により取得するものである。
【0036】
レーダ装置は自船を基準とした相対的な他船の位置及び速度を取得するものであるが、船舶データ取得部11に入力される他船の位置及び速度ベクトルは、適宜の手段(例えば、上記のGNSS測位装置及び図略の方位センサ)により得られた自船の位置及び船首方位に基づいて、対地基準となるように予め変換されている。
【0037】
図2には、船舶データ取得部11に入力される、自船5と、3つの他船6,7,8と、の位置の例が示されている。図2において、自船5及び他船6,7,8の位置には、それぞれの速度ベクトルが矢印で示されている。
【0038】
OZTは、1つの第1船舶と、残りの第2船舶と、の間の衝突危険を評価するという考え方が基本になっている。詳細は後述するが、基準となる第1船舶は変針の可能性が考慮されるが、第2船舶は変針しないと仮定される。
【0039】
従来の考え方では、OZTは、図2に示すように、自船5を第1船舶として衝突危険の評価を行う。本実施形態の操船支援装置1も最終的には自船5を第1船舶として衝突危険の評価を行うが、その前に他船リスク評価部21が、他船6,7,8の衝突回避行動を予測する目的で、当該他船6,7,8のそれぞれを第1船舶として衝突危険を評価する。図3には、他船6を第1船舶とする例が示されている。なお、衝突危険の評価の詳細は後述する。
【0040】
図1の船舶データ取得部11は、得られた自船5及び他船6,7,8の位置及び速度の情報を、他船リスク評価部21、他船変針可能性判定部31、他船衝突回避行動予測部41、自船リスク評価部51、及び表示データ生成部61に出力する。
【0041】
他船リスク評価部21は、リスク評価位置計算部22と、衝突リスク計算部23と、を備える。
【0042】
リスク評価位置計算部22は、第1船舶と第2船舶との間で、第1船舶の行動を制約する第2船舶の将来位置を予測することにより、リスク評価位置を計算する。リスク評価位置は、将来の時刻における第2船舶の位置と一致するように定められ、第1船舶と第2船舶との衝突のリスクを評価する位置的基準となる。
【0043】
リスク評価位置計算部22は、第2船舶の将来位置を予測するにあたって、第2船舶が、現在の位置から、針路及び船速を一定に保ったまま移動すると仮定する。従って、第2船舶の将来の予測位置は、第2船舶の予定針路に沿って並ぶように位置する。
【0044】
リスク評価位置計算部22は、第2船舶について針路が維持されると仮定した場合の予定針路に沿って適当な間隔で並ぶようにリスク評価位置を複数定め、それぞれのリスク評価位置を特定する情報を、衝突リスク計算部23に出力する。また、リスク評価位置計算部22は、当該リスク評価位置に第2船舶が到達する予定時刻を併せて求め、この予定時刻を衝突リスク計算部23に出力する。図3には、他船6を第1船舶とした場合において、それぞれの第2船舶(自船5及び他船7,8)に関してリスク評価位置計算部22が定めたリスク評価位置の例が、小さい丸印で示されている。
【0045】
図1の衝突リスク計算部23は、リスク評価位置計算部22から入力されるリスク評価位置のそれぞれについて、当該リスク評価位置で第1船舶と第2船舶との衝突リスクを予測した衝突リスク値を計算する。
【0046】
以下、具体的に説明する。まず、衝突リスク計算部23は、リスク評価位置計算部22の計算により得られたリスク評価位置に第1船舶が到達する予定時刻を求める。このとき、リスク評価位置計算部22は、第1船舶が、現在時刻の時点でリスク評価位置に向けて変針し、変針前と同じ船速を保ったまま移動すると仮定する。また、衝突リスク計算部23には、リスク評価位置に第2船舶が到達する予定時刻が、リスク評価位置計算部22から入力される。
【0047】
本実施形態では、リスク評価位置に第1船舶が到達するのと同時に、第2船舶が到達したとき、衝突が起こると考える。ただし、操船支援装置1に入力される第1船舶及び第2船舶の船速の誤差を考慮すれば、リスク評価位置に第1船舶が到達する時刻の確率密度分布、及び、第2船舶が到達する時刻の確率密度分布は、それぞれの到達予定時刻を中心とする正規分布に従う。そこで、第1船舶及び第2船舶が同時にリスク評価位置に到達する確率は、上記の2つの確率密度分布の積を時間積分することにより求めることができる。
【0048】
他船リスク評価部21は、衝突リスク計算部23が上記の積分により取得した値を、衝突リスク値として他船変針可能性判定部31に出力する。図3のリスク評価位置の近傍に付された数値は、そのリスク評価位置に関して衝突リスク計算部23が計算した衝突リスク値の例を示す。この衝突リスク値は、他移動体衝突危険度に相当する。衝突リスク値が所定値より大きい場合、所定以上の危険性があることを示す。
【0049】
上述したように、他船リスク評価部21は、第1船舶を他船6とする場合に限らず、第1船舶を他船7、又は他船8とする場合についても、衝突危険を評価する。従って、他船リスク評価部21は、他船6,7,8のそれぞれからみた衝突危険を取得することができる。
【0050】
図3には、第1船舶を他船6とした場合の衝突リスク値の分布の例が示されている。なお、他船リスク評価部21は自船5を基準としたリスク評価を行わないが、参考のため、第1船舶を自船5とした場合の衝突リスク値の分布の例を図2に示す。このように、どの船舶を第1船舶とするかに応じて、衝突リスク値は様々な値を示す。他船リスク評価部21は、他船6,7,8のそれぞれを基準として得られた衝突リスク値及びその位置(リスク評価位置)を、他船変針可能性判定部31及び表示データ生成部61に出力する。
【0051】
他船変針可能性判定部31は、他船リスク評価部21が衝突危険を計算したそれぞれの他船6,7,8について、変針の可能性が所定程度以上あるか否かを判定する。
【0052】
他船6を基準とした衝突リスク値の分布を示す図3の例を参照して説明すると、図3の状況で他船6が針路を保って航行すると仮定した場合、当該他船6の針路の近傍のリスク評価位置において、例えば0.85というような大きな衝突リスク値が得られている。この場合、他船6は、衝突を避けるために、少なくとも何れかのタイミングで変針する可能性が高い。
【0053】
他船変針可能性判定部31は、他船6について将来変針する可能性が所定以上あるか否かを、当該他船6の直進針路から所定距離以下のリスク評価位置で所定値以上の衝突リスク値が計算されているか否かで判定する。なお、リスク評価位置が他船6の直進針路から所定距離以下でなければならない理由は、衝突リスク値が大きくても、そのリスク評価位置が他船6の直進針路から十分に離れていれば、当該他船6が変針する必要がないからである。この判定は、船舶データ取得部11から他船変針可能性判定部31に入力される自船5及び他船6,7,8の位置及び速度ベクトルと、他船リスク評価部21から他船変針可能性判定部31に入力される衝突リスク値の分布と、を用いて計算を行うことにより実現することができる。
【0054】
他船変針可能性判定部31は、他船6だけでなく、残りの他船7,8についても同様の判定処理を行う。他船変針可能性判定部31は、それぞれの他船6,7,8について将来変針する可能性が高いか否かを、他船衝突回避行動予測部41に出力する。以下の説明では、3つの他船6,7,8のうち2つの他船6,7について、変針の可能性が高いと判定されたものとする。
【0055】
他船衝突回避行動予測部41は、他船変針可能性判定部31において変針する可能性が高いと判定された他船6,7について、当該他船6,7が行いそうな衝突回避行動を予測する。
【0056】
他船6,7の衝突回避行動の予測は、例えば、予め収集したデータを統計処理することにより得た仮説に基づいて行うことができる。仮説は、法規又は規範等の海上交通ルールに基づくように定められても良い。例えば、日本の海上衝突予防法には、2隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときは、各動力船は、互いに他の動力船の左舷側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならないことが規定されている。当該ルールに基づく衝突回避行動をとることを仮説とすることにより、高精度の予測が可能になる。
【0057】
また、公知の機械学習を用いて衝突回避行動を予測することもできる。具体的には、船舶の速度と、周囲の船舶の位置関係及び速度と、そのときに操船者が行った衝突回避行動と、を含む学習データセットを予め収集しておき、このデータセットを機械学習させることにより、学習済みモデルを作成する。このモデルは、例えばニューラルネットワークにより構築することができる。モデルに学習させるデータセットに、上述の衝突リスク値の分布が含まれても良い。学習済みモデルは、周囲の状況に応じて、操船者が行いそうな衝突回避行動を出力することができる。
【0058】
図4には、他船衝突回避行動予測部41が、他船6,7の衝突回避行動として、直ちにそれぞれ針路を適宜の角度だけ右側に転じることを予測する場合が示されている。他船衝突回避行動予測部41は、予測した他船6,7の衝突回避行動を自船リスク評価部51に出力する。
【0059】
自船リスク評価部51は、他船衝突回避行動予測部41が出力する他船の衝突回避行動の予測に基づいて、自船5と他船6,7,8との間の衝突危険を評価する。
【0060】
他船リスク評価部21とは異なり、自船リスク評価部51が衝突危険を評価して衝突リスク値を計算するときの第1船舶は自船5だけである。また、自船リスク評価部51は、他船6,7,8のうち、他船変針可能性判定部31で変針の可能性が高いと判定された2つの他船6,7については、他船衝突回避行動予測部41の予測どおり針路を変更し、残りの他船8については針路を変更しないと仮定して、衝突危険を評価する。
【0061】
自船リスク評価部51は、他船リスク評価部21と同様に、リスク評価位置計算部52と、衝突リスク計算部53と、を備える。リスク評価位置計算部52はリスク評価位置計算部22と実質的に同様であり、衝突リスク計算部53は衝突リスク計算部23と実質的に同様であるので、説明を省略する。
【0062】
リスク評価位置計算部52は、他船6,7が他船衝突回避行動予測部41の出力どおり変針することを仮定して、リスク評価位置を定める。従って、他船6,7に関するリスク評価位置は、図5に示すように、他船6,7の変針予測針路上に所定間隔をあけて並ぶことになる。一方、他船8については、針路の変更の可能性が低いと他船変針可能性判定部31によって判定されているので、現在の針路上にリスク評価位置が並んで位置する。それぞれのリスク評価位置において衝突リスク計算部53が計算した衝突リスク値は、自移動体衝突危険度に相当する。
【0063】
自船リスク評価部51は、得られた衝突リスク値の分布を、表示データ生成部61に出力する。
【0064】
表示データ生成部61は、船舶データ取得部11から得られたデータに基づき、自船5の位置及び速度、他船6,7,8の位置及び速度を表示装置3に表示するための表示データを生成する。表示データ生成部61は、生成した表示データを、適宜のインタフェースを介して表示装置3に出力する。
【0065】
表示データ生成部61が生成する表示データにおいては、他船6,7,8のうち、他船リスク評価部21において所定値以上の衝突リスク値が得られた他船を、そうでない他船と区別できるような表示を実現している。
【0066】
以下の説明では、他船6については、図3に示すように、当該他船6を第1船舶として計算したときに衝突リスク値が所定の値以上(例えば、0.5以上)となっている1又は複数のリスク評価位置が存在するものとする。なお、他船7についても同様である。従って、図6のように、表示装置3の表示画面には、3つの他船6,7,8のうち2つの他船6,7について、他船を表すシンボル図形の近くに「!」マークの小さなアイコンが表示されている。これにより、他船6,7は他船8と比較して、衝突リスクに対応するために何らかの行動が行われる可能性が高いことを、ユーザに分かり易く示すことができる。従って、ユーザは、そのような他船6,7を予め警戒しながら自船5を操作することができる。
【0067】
衝突リスクに対応するために何らかの行動をしそうな他船6,7と、そうでない他船8と、を視覚的に区別できるように表示する方法は、「!」マークの有無に限らず、例えば他船6,7,8のシンボルの色を互いに異ならせて表示する等、様々に考えられる。
【0068】
表示データ生成部61は、自船リスク評価部51から得られた衝突リスク値のうち、所定値以上であるものについてだけ、当該衝突リスク値に対応するリスク評価位置を中心として所定の半径の円を描画するための表示データを生成する。この円は、OZTにおいて危険判定円と呼ばれている。
【0069】
図6には、表示装置3における表示例が示されている。なお、比較例として、従来のOZTによる表示例が図7に示されている。図6において、OZTを表す図形101は、他船6の現在の針路ではなく、他船6が衝突回避行動をとることにより予測された針路上に表示される。このように、本実施形態の操船支援装置1は、他船の衝突回避行動を予測した衝突危険ゾーンを表示するので、従来よりも的確な危険予測による警報表示をユーザに提供することができる。
【0070】
図6の例では、OZTの図形101は、他船6の衝突回避行動により予測された針路に表示されている。ただし、他船6が衝突回避行動をとると仮定した場合のOZTの図形101と、他船6が現在の針路を保持すると仮定した場合のOZTの図形(図7の図形102)と、の両方を同時に描画しても良い。この場合、衝突回避行動の予測に基づくOZTの図形101と、そうでないOZTの図形102と、を区別できるように表示することが好ましい。
【0071】
また、図6の例において破線で示すように、他船6,7において衝突回避行動が予測された結果として得られる針路(衝突回避予測針路)のデータが、表示データに含まれても良い。これにより、ユーザは、衝突回避行動を考慮した予測針路を容易に理解することができる。
【0072】
交通量が多い輻輳海域においては、他船が多数に上ることがある。この場合、他船リスク評価部21で衝突リスク値を計算する対象を、自船5から所定距離以内にある他船だけに限定することができる。この場合、処理負荷を抑制し、リアルタイムでの警報表示を容易に実現することができる。
【0073】
OZTの考え方による衝突リスク値に代えて、CPA(Closest Point of Approach)までの距離又は到達時間を衝突危険度として求め、これに基づいて衝突危険を評価しても良い。CPAは良く知られているので詳細は省略するが、航行する2つの船舶に着目したときに、第1船舶及び第2船舶が将来最も接近する点を意味する。CPAは、2つの船舶の速度ベクトルが将来にわたって一定であると仮定して計算される。CPAは、2つの船舶の相対位置及び相対速度ベクトルを求めることで、公知の計算式を用いて得ることができる。
【0074】
例えば、他船リスク評価部21は、例えば他船6を第1船舶として、他の船舶(自船5及び他船7,8)を第2船舶とした場合のCPAの位置及びCPAまでの距離(Distance of CPA;DCPA)を計算により取得する。
【0075】
このDCPAは、衝突危険度に相当する。DCPAが所定値以下である場合、所定以上の危険性があることを示す。表示装置3において、DCPAが所定値以下である他船6,7については、上述と同様に、「!」マークのアイコンを伴う形で表示される。
【0076】
他船変針可能性判定部31は、CPAの位置、及びDCPAの大きさ等に基づいて、当該他船6が変針する可能性が高いか低いかを判定する。他船変針可能性判定部31による判定は、CPAの位置をOZTにおけるリスク評価位置の代わりに用いて、上述と同様に行うことができる。他船6の変針可能性が高いと判定された場合、他船衝突回避行動予測部41は、他船6の衝突回避行動を予測する。これらの一連の処理は、他船6だけでなく、残りの他船7,8のそれぞれについても行われる。
【0077】
自船リスク評価部51は、変針可能性が高いと判定された他船6,7について、他船衝突回避行動予測部41によって予測された針路を当該他船6,7がとることを仮定して、自船5を基準として、他船6,7との関係におけるCPA及びDCPAを計算する。表示データ生成部61は、得られたCPA及びDCPAを表示装置3に表示するための表示データを生成する。表示の態様は任意であるが、例えば他船6,7の位置にDCPAの数値を表示することが考えられる。
【0078】
DCPAの代わりに、第2船舶がCPAに到達するまでの時間(Time to CPA;TCPA)を用いても良い。
【0079】
このように、CPAを用いる場合でも、他船の衝突回避行動を適切に考慮して衝突危険を評価することができる。また、CPAを用いる場合は、OZTと比較して簡単な処理で、ユーザに衝突の危険を知らせることができる。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態の操船支援装置1は、船舶データ取得部11と、他船リスク評価部21と、表示データ生成部61と、を備える。船舶データ取得部11は、他船6,7,8の位置及び速度に関する情報を取得する。他船リスク評価部21は、船舶データ取得部11により得られた情報を利用して、他船6,7,8が別の船舶に将来的に衝突する危険性を示す衝突リスク値を計算する。表示データ生成部61は、所定以上の危険性を示す衝突リスク値が計算された他船6,7と、そうでない他船8と、を区別して表示する表示データを生成する。
【0081】
これにより、周囲の他船との衝突回避のために何らかの行動を将来とる可能性が高い他船6,7を、そうでない他船8と区別して表示することができる。従って、表示を見たユーザは、例えば変針等を行う可能性が高い他船6,7を予め警戒しながら自船5を操船することができる。
【0082】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0083】
他船リスク評価部21及び自船リスク評価部51は、例えば、PAD(Predicted area оf danger)に関する衝突危険度を計算しても良い。
【0084】
他船変針可能性判定部31は、所定値以上のリスク評価位置が得られたリスク評価位置が、他船の直進針路から所定距離以下であるだけでなく、当該他船からの距離が所定距離以下であるときに、変針の可能性が所定以上あると判定しても良い。
【0085】
他船リスク評価部21が計算する他移動体衝突危険度と、自船リスク評価部51が計算する自移動体衝突危険度とが、別の種類であっても良い。例えば、他船リスク評価部21がOZTの衝突リスク値を求め、自船リスク評価部51がDCPAを求めるように構成することができる。
【0086】
他船6,7,8の位置及び船速は、レーダ装置のTT機能に代えて、AIS装置により取得することもできる。
【0087】
操船支援装置1が、表示装置3を一体的に備えていても良い。
【0088】
操船支援装置1は、船舶以外の移動体に搭載して使用することもできる。例えば、操船支援装置1を航空機に搭載して、航空機同士の衝突の危険性をユーザに提示しても良い。
【符号の説明】
【0089】
1 操船支援装置(衝突警報装置)
5 自船(自移動体、移動体)
6,7,8 他船(他移動体、移動体)
11 船舶データ取得部(情報取得部)
21 他船リスク評価部(他移動体衝突危険度計算部)
31 他船変針可能性判定部(変針可能性判定部)
41 他船衝突回避行動予測部(衝突回避行動予測部)
51 自船リスク評価部(自移動体衝突危険度計算部)
61 表示データ生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7