(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使う成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08H 1/06 20060101AFI20230501BHJP
C08L 89/04 20060101ALI20230501BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C08H1/06 ZBP
C08L89/04
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2021132470
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】592005788
【氏名又は名称】山内 清
(72)【発明者】
【氏名】山内 清
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-285375(JP,A)
【文献】特表2005-504754(JP,A)
【文献】特開2009-001015(JP,A)
【文献】Int. J. Biol. Macromol.,1986年,Vol.8,pp.258-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 1/00- 1/09
C08L 89/00-89/06
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチンタンパク質を含有する
ケラチン含有物質をスルファイト イオン(SO
3
2-)を発生する化合物と反応させて
調製した、ケラチンタンパク質中のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計数の10%以上80%未満が-[C(=O)CH(CH
2-S-SO
3
- M
+)NH]-(化学式1)で示すS-スルホシステイン残基として存在し、かつ、水に不溶性であることを特徴とするS-スルホン化ケラチンタンパク質
を成形加工する成形品の製造法。
(前記において、M
+は陽イオンである。―S-SO
3
-基はブンテ塩基もしくはS-スルホネート基と呼ばれる。)
【請求項2】
請求項1に記載のS-スルホン化ケラチンタンパク質を
成形加工する成形品の製造法であって、
前記S-スルホン化ケラチンタンパク質が結着剤との混合物であり、結着剤
が卵白、 大豆蛋白、小麦強力粉、 成分無調整豆乳、 成分無調整牛乳、大豆おから、 ゼラチン、 カゼイン、 小麦タンパク、グルテン、 小麦や燕麦のふすま、 米ぬか、既知の水溶性であるS-スルホン化ケラチンタンパク質、及び
、ポリ乳酸
から選択される1種又は2種以上である、成形品の製造法。
【請求項3】
請求項1に記載のS-スルホン化ケラチンタンパク質を
成形加工する成形品の製造法であって、
前記S-スルホン化ケラチンタンパク質が可塑剤との混合物であり、可塑剤
がサクロース、 ソルビトール、 マンニトール、 ジグリセロール、 グリセロール、 エチレン グリコール、プロピレン グリコール、マルチトール、 グリコール モノステアレート、 エチレン グリコール モノステアレート、大豆レシチン、
又は、卵黄レシチ
ンである、
成形品の製造法。
【請求項4】
請求項1に記載のS-スルホン化ケラチンタンパク質を
成形加工する成形品の製造法であって、
前記S-スルホン化ケラチンタンパク質が結着剤と可塑剤との混合物であり、結着剤が卵白、 大豆蛋白、小麦強力粉、 成分無調整豆乳、 成分無調整牛乳、大豆おから、 ゼラチン、 カゼイン、 小麦タンパク、グルテン、 小麦や燕麦のふすま、 米ぬか、既知の水溶性であるS-スルホン化ケラチンタンパク質、又は、ポリ乳酸の1種又は2種以上であり、可塑剤がサクロース、 ソルビトール、 マンニトール、 ジグリセロール、 グリセロール、 エチレン グリコール、プロピレン グリコール、マルチトール、 グリコール モノステアレート、 エチレン グリコール モノステアレート、大豆レシチン、又は、卵黄レシチンである、成形品の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛、獣毛、蹄、角などを主原料として使い、機械的強度と耐水性に優れ、かつ生分解性を有するところの成形物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛、羊毛などの獣毛、牛や馬などの哺乳動物の爪、角、蹄の主要成分はケラチンと呼ばれる構造性のタンパク質である。システイン残基とハーフシスチン残基が全アミノ酸残基量の5-20%も占めて、ジスルフィド結合(S-S結合)で3次元的に架橋しているため、ケラチンタンパク質は水に不溶であり、また、他の蛋白質やセルロースなどに比べると、土中でも生分解されにくいのが特徴である(非特許文献1)。
【0003】
長年、これらケラチンタンパク質を含有する物質を利用する学術報告や特許が知られている。たとえば、羊毛などを機械的に微粉化してポリマーの物性の改質剤や消火剤として(例: 特許文献1、特許文献2)、あるいは、ウール繊維や羽毛の油吸収性に着目した油吸収性のマットとしての利用などである(例: 特許文献3)。ケラチンタンパク質を水溶性誘導体に変換してから利用する報告や特許も多い。たとえば、SH基を有する酸化重合性の水溶性ケラチンとして抽出し、フィルム、マイクロカプセルなどを製造するものがある(例: 非特許文献1)。システイン残基の酸化的亜硫酸分解から誘導された水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(ブンテ塩化ケラチンとも称される)に関する報告も多い。たとえば、生分解性物質としての応用(例: 特許文献4、非特許文献2)、化粧品材料として利用(例: 特許文献5、特許文献6,特許文献7、特許文献8)、フィルム、繊維、発泡体、接着剤などとしての利用(例: 特許文献9、特許文献10、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)などが報告されている。
【0004】
一方、産業界で利用されているケラチンタンパク質を含有する物質は、新しいものあるいは古くなった製品を含めても、世界で産されている膨大な量に比べるとごく少量である。すなわち、食用肉を採取した残りの鳥類の羽毛は米国だけで毎年140万トン、世界全体ではその約5倍の770万トンと推定されている(非特許文献7、非特許文献8)。羽毛の一部は羽根枕、羽根布団などの芯材などとして利用されているが、多くは動物の餌や農地の肥料などに使われているか廃棄されるか焼却されている。また、羽根布団や羽根枕などは、古くなれば、多くが素材ゴミとして廃棄されるか焼却されている。一方、獣毛の代表としての羊毛(洗い上がり)は服、絨毯などの生活資材として世界で毎年110万トンほどが生産されているが(非特許文献8)、破れたり古くなったりして使用後にリサイクルされる量はわずかであり、ほとんどが廃棄、焼却されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-090077号公報
【文献】特開2016-104828号公報
【文献】特開2002-105938号公報
【文献】国際公開第2003/011894号
【文献】特開2006-342063号公報
【文献】特開2006-282637公報
【文献】特表2020-515568号公報
【文献】米国特許第3567363号明細書
【文献】特開2009-001015号公報
【文献】特開2009-001015公報
【文献】米国特許第5705030号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】A.Yamauchi,K.Yamauchi,”Protein-based films and coatings”,Ed.A.Gennadios,(米),CRC Press,Raton,2002,p.253-273
【文献】D.J.Denning,et al.,Textile Res.J.,(米),1994,Vol.64,p.413-422
【文献】K.Katoh,M.Shibayama,T.Tanabe,K.Yamauchi,Biomaterials,(米),2004,Vol.25,p.2265-2272
【文献】A.Alugi、et al,Keratins extracted from merino wool and brown alpaca fibres as potential fillers for PLLA-based biocomposites,J.Mater.Sci.,[online],12 June 2014,[令和3年6月15日検索],インターネット<URL:https://www.semanticscholar.org/paper/Keratins-extracted-from-Merino-wool-and-Brown-as-Aluigi-Tonetti/ea908ce7d941464aee9ba38f1443dd421a341594>
【文献】ウールケラチン研究レポート,愛知県産業技術センター,尾張繊維技術センター,平成21年6月, p.1-95
【文献】A.Vasconcelos,et al.,Macromolecules,(米),2008,Vol.9,1299-1305
【文献】Statistics,Food and Agricultural Organization of USA,2015
【文献】IWTO market information,2021年
【文献】H.Distler,Angew.Chem.Internat.ed.,(独),1967,Vol.6,p.544-553
【文献】J.M.Anderson,“Mechanisms of reactions of bunte salts and related compounds”,Ph.D.thesis,(米),1967,Oregon State University
【文献】J.L.Bailey,R.D.Cole,J.Biol.Chem.,(米),1959,Vol.234,p.1733-1739
【文献】A.Yamauchi,K.Yamauchi,J.Cosmet.Sci.,(米),2018,Vol.69,p.9-33
【文献】J.L.Kice,J.M.Anderson,N.E.Pawlowski,J.Amer.Chem.Soc.,(米),1966,Vol.88,p.5245-5250
【文献】A.Vasconcelos,et al.,Biomacromolecules,(米),2008,Vol.9,p.1299-1305
【文献】A.Ansari,G.C.East,D.J.Johnson,J.Text.Inst.(英),2003,Vol.94,p.16-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
S-スルホン化ケラチンタンパク質に関する従来の特許文献や非特許文献では、水溶性物質として調製され利用されているものであり、問題がないわけではない。一つには調製の工程が多段階で複雑あること、また水溶性なために利用用途が制限されることである。
【0008】
本発明では、羽毛、羊毛などの獣毛、あるいは哺乳動物の蹄角などのケラチンを含有する物質(以下、本明細書ではケラチン含有物質と称する)に原料に使って、水に不溶であることを特徴とするS-スルホン化ケラチンタンパク質を短い工程で、しかも高い収量で調製し、この水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使用してフィルム(厚さ,0.25mm未満)、シート(厚さ、25mm以上)、容器などの成形品を提供することにある。さらに、これら成形品は、石油系プラスチック製品とは異なり、土中、水中で生分解されることに着目して、地球環境を汚さない高分子物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、採取された獣毛や蹄角ばかりでなく、廃棄、焼却あるは土中に埋められるほかないところの獣毛、羽毛、蹄角などのケラチン含有物質を原料に使って,これらを二亜硫酸ナトリウムなどのS-スルホン化剤と反応せしめることとした。しかし、従来の水溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質の調製法とは異なり、本発明では、S-スルホン化剤の添加量を少なくし、かつ反応時間を短くすることによって、S-スルホシステイン残基(式1)への転換が原料のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計数の10%以上80%未満の範囲に収まるように反応を制限した。この結果、望まない水溶性のS-スルホン化ケラチンタン[A1]パク質の生成は抑えられて、目的とする水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質を80-95%の高収率で得ることができた。ついで、この不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を単独で使い,あるいは卵白、大豆蛋白、ゼラチン、既知の生分解性ポリマーなどを結着剤として混練し、必要ならポリオールなどの可塑剤を混練して、これを成形加工をすることによって、耐水性、機械的強度を有するフィルム、シート、カップなどの成形物を製造することができることを見いだし、さらにこれら成形物は土中や水中で分解されることを見いだし、本発明を完成するにいたった。
【発明の効果】
【0010】
複雑な製造工程を経て作られる水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を利用する従来技術に比して、本発明では、廃棄あるいは焼却されるかほかない羽毛や羊毛や哺乳動物の蹄角などのゲラチン含有物質を原料として、あるいは新しくとも市場に出ない製品から回収されたゲラチン含有物質を原料として、短工程にて水不溶性であることを特徴とするS-スルホン化ケラチンタンパク質に誘導し、これを用いることによって、
図1と
図2で例示するようなフィルム、シート、容器などが製造できる。さらに、本発明によって製造される成形品は生分解性を有するため、非生分解性のプラスチック製品とは異なって、すみやかに土中、水中で生分解されるので、地球環境に半永久的に残らない物質としても役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例7,実施例10,実施例13,実施例22と実施例23の成形品を示す図である:(A)羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質とマンニトールを使った薄黄土色のフィルム; 実施例7。(B)羊毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質と大豆タンパクと豆乳の混合物を使う薄茶色のシート; 実施例10。(C)羽根枕(芯材:白、黒、茶色の水鳥羽毛の混合物)のS-スルホン化ケラチンタンパク質と豆乳を使う白黒の混じったべっ甲模様のシート; 実施例13。(D)羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と豆乳の混合物を使った薄茶色の葉形物; 実施例22。(E)羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白と豆乳の混合物を使った茶褐色の葉形物; 実施例23。
【
図2】(F)羽根(芯材:白、黒、茶色の羽毛の混合物)の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白パウダーの混合物(重量比2.5:1)を使って製造された茶褐色水盤カップ(実施例21)。
図2は沸騰水に30分浸漬した後の写真であり、浸漬前と同様な形状であった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の製造にあたって原料として使用するケラチン含有物質は、ケラチンタンパク質を含む物質であればよく、人髪、羊、ヤク、牛,馬などの獣毛、刈り取った羊毛から選別されて廃棄されるなどの屑扱いの羊毛、羊毛の糸や布などとして販売品質に適さない製品、古くなった羊毛製品(布、着物、カーテン、絨毯など)、あるいは鶏、ガチョウ(グース)、アヒル(ダック)などから採取される羽毛(ダウンを含む)、あるいは使用されて汚れたりしたもの、あるいは古羽毛枕、古羽毛クッション、古羽毛布団などから回収される羽毛である。もちろん、獣毛、羊毛、羽毛などは新しく採集されたものや、新品でも売れ残ったセーターや枕などの商品でも使うことができる。また、牛、馬、イノシシ、豚、羊などのほ乳動物の蹄角も原料として使うことができる。これらは必要ならば洗浄して油や埃などのよごれを除いて使う。羽毛については、羽軸(quill,rachis,shaft)と羽弁(balb,vane)を含む羽毛全体をそのまま使うか、Gassnerらの方法によって(特許文献11)、羽軸と羽弁におおよそ分別してそれぞれを使う。これらのケラチンを含む物質はS-スルホン化反応工程の前に3mm―50mmの長さにすることが好ましいが、このサイズの範囲外でも生成物の分離に使う遠心器の細孔や濾過器を通過しない大きさであれば適宜使うことが可能である。
【0013】
本発明において、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の製造にあたって使用するS-スルホン化剤としては、反応に関する既知の文献で述べられているように(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)、スルファイト イオン (SO3
2-)を発生する化合物であればよく、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)、二亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)、およびそれらのナトリウムイオンをカリウムイオンやリチウムイオンやアンモニウム イオンで置き換えた化合物で代表される。また、これらのS-スルホン化剤とテトラチオン酸カリウム(Na2S4O6)、過酸化水素などの酸化剤との混合物も使うことができる。
【0014】
本発明において使用する界面活性剤としては羊毛などの原料の汚れを、必要ならば超音波槽を用いて、洗浄除去する目的で使う。特に軽い獣毛や羽毛を用いる場合は、洗剤で洗うことによって親水性となるので水性媒体になじみ易くなり、S-スルホン化の反応工程の作業がしやすくなる。界面活性剤としては特に種類は限定されないが、例をあげれば次のような物質である。アルキル硫酸塩(例えばドデシル硫酸ナトリウム)、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸アルコールリン酸エステル塩、スルホコハク酸エステル塩などに代表されるアニオン界面活性剤;次式のアミン塩:N(R1)(R2)(R3)(R4)/X(式中、R1,R2,R3、およびR4の1~2個は直鎖もしくは分岐鎖を有する炭素数8~20のアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、残余はHか炭素数11~3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基またはベンジル基を示し、N原子は正荷電を帯びている、Xはハロゲンなどの負荷電イオンや炭素数1~2個のアルキル硫酸イオン)等で代表されるカチオン界面活性剤;脂妨酸アミンのN-カルボキシメチル体、N-スルホアルキル化体などのベタイン系の両性界面活性剤(疎水基は主として炭素数12~14のアルキル基もしくはアシル基、対イオンはアルカリ金属など);ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、脂肪酸エステル型、ポリエチレンイミン型、ポリグリセリンアルキルエーテル型、ポリグリセリンアシルエステル型などの非イオン性界面活性剤(疎水基は主として炭素数12~14のアルキル基もしくはアシル基)。
【0015】
本発明において使用する溶媒は工業用水、家庭用水、井戸水(井水)、蒸留水、限外濾過水である。また、水と有機溶媒との混合物であってよい。このような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールなどの低級脂肪酸アルコールやアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2-ブタノンなどの低級ケトンであり、有機溶媒の水に対する割合は70重量%以下、好ましくは5重量%-20重量%である。
【0016】
本発明において成形物の製造にあたって使用する結着剤とは成形物の透明度や機械的強度を上げる機能を果たすものである。結着剤としては卵白、大豆蛋白、大豆蛋白の7Sと11Sグロブリン、小麦強力粉、小麦中力粉、小麦薄力粉、小麦全粒粉、成分無調整豆乳、成分調整豆乳、成分無調整牛乳、成分調整牛乳、大豆おから、魚粉、ゼラチン、カゼイン、小麦タンパク、グルテン、小麦や燕麦のふすま、米ぬか、クラフトリグニン、リグノスルフォネート、オルガノソルブ リグニンなどであるが、いわしなどの魚のすり身、大豆粕、菜種粕、菜種、綿実、大豆、米ぬかなどに由来する油粕、動物用のタンパク質を含む配合飼料も使うことが出来る。 さらには、既知の水溶性であるS-スルホン化ケラチンタンパク質も、分子量の大小にかかわらず、結着剤として使うことができる。また、セルロース,デンプン,エステル化デンプン,キトサン,ポリ乳酸,ポリビニルアルコール,ポリグリコール酸(PGA)などの生分解性プラスチックも結着剤として使用できる。これら結着剤は1種類のみを本発明で調製した水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質に混練して使ってもよいが、2種以上の結着剤を使うことが可能である。例えば、卵白と燕麦ふすまの混合物、大豆蛋白と豆乳とおからの混合物である。これら結着剤の添加量は成形物の性質に応じて調節されるが、好ましくは、全体重量の15%から50%の範囲内である。しかし、生分解性プラスチックを用いる場合は水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質に対して0.1重量倍から2倍重量倍である。
【0017】
本発明は水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を主成分に使って成形することが特長であるが、成形物に柔軟性を与える必要がある場合は次に挙げる可塑剤を添加する;砂糖、ショ糖、サクロース、ソルビトール、マンニトール、ジグリセロール、エリスリトール、グリセロール、エチレン グリコール、プロピレン グリコール、マルチトール、ラクチトール、トレハロース、キシリトールなどのポリオール化合物、グリコール モノステアレート、エチレン グリコール モノステアレートを代表とする脂肪酸エステルや酒石酸ジエチル、乳酸や2-ヒドロキシプロピオン酸などのヒドロキシカルボン酸、さらに大豆レシチン、卵黄レシチンなどの脂質である。これら可塑剤の添加量は成形物の性質に応じて調節されるが、好ましくは、全体重量の5%から40%の範囲内である。
【0018】
本発明では成形での主原料としての水不溶性であるS-スルホン化ケラチンタンパク質は特段の前処理をしないでそのまま用いる。しかし、太い獣毛繊維を使って調製した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使うと成形物が一様な構造にならないことがある。このような場合は、蛋白分解酵素を使って原料の獣毛繊維の表面のクチクルを削ってから(非特許文献12)、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を調製して使うと均一性に優れるフィルムやシートが得られることがある。 好適な酵素はパパイン、ペプシン、トリプシンであるが,タシナーゼ、セリンプロテアーゼ、アルカリプロテアーゼであるビオプラーゼコンク(長瀬生化学工業製)、エンチロンSAL(洛東化成製)なども用いることができる。
【0019】
本発明での成形物の製造のための水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質は次のように製造される。上記で述べた羊毛、羽毛などのケラチンタンパク質を含む原料を、その重量の約5-15倍重量の水に浸し、原料100gに対して、0.05モルから1.5モル,好ましくは0.1モルから1.0モルに相当する量の亜硫酸ナトリウムや二亜硫酸ナトリウムなどのS-スルホン化剤を加える。常圧下にて、50℃から沸騰温度の間で加熱しながら容器中の内容物をゆるくかき混ぜる。この間、反応を促進するために、空気を反応容器にたえず吹き込み続けるか、テトラチオン酸カリウムなどの酸化剤をケラチン含有物質100g当たり0.05モル量から1モル量の間で添加してもよい。反応中、反応液に苛性ソーダ水溶液などのアルカリを添加してはpH6.5-pH8.5に調節する。10分以上30分未満のスルフォン化の短時間の反応で羊毛、羽毛などのケラチンタンパク質を含む原料は弾力を失いクタクタの状態になるのが目安である。S-スルホン化反応を長時間続けると水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質の収量が低下するので、20分間から50分間の短時間内に反応を終わらせるのが好ましい。蹄角粉などの粉末を使った場合は水に入れて加温しながら超音波を照射してから上記のS-スルホン化反応を行うことが好ましい。このようにして得た反応物を遠心分離してあるいは濾過して溶液部と不溶部に分離する。分離された不溶部は水で洗浄し、ついでpH6.5-pH8.5の希薄緩衝液(例:0.06MのpH7/リン酸緩衝液)などで洗うか水酸化アンモニウムや苛性ソーダなどのアルカリ水溶液を加えてpH6.5-8.5に調整し、遠心分離して水分を減らした後、低温,好ましくは室温から75℃、にて乾燥することによって水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質が80-95%の収率で得られる。上に記した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の製造方法は回分式(バッチ式)であるが、一連の反応、分離、洗浄、乾燥工程を連続式で行うこともできる。
S-スルホン化反応は、下記の簡略した化学式2で示すように、ケラチンタンパク質のシスチン残基のジスルフィド結合(S-S結合)およびシステイン残基のメルカプト基(SH基)が酸化されて生成するところのジスルフィド結合がS-スルホン化剤と反応することによって、S-スルホネート基(-S-SO
3
-基)に変換されるものとして化学式2のように簡略的に説明される(非特許文献9,非特許文献10,非特許文献11)。
[化学式2]
【化2】
(前記の化学式2において、酸化剤は酸素で代表している。―S-SO
3
- 基の対イオンはNa
+,K
+,Li
+,NH
4
+である。)
【0020】
フィルム、シート、カップ等の成形法: 本発明で製造される成形物は、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質のみを使って、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と可塑剤の混合物を使って、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と結着剤の混合物を使って、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と結着剤と可塑剤の混合物を使って、製造することが可能である。なお、結着剤を使うなら、特に2種以上の結着剤を使う場合は、その水溶液あるいは分散液がpH5-pH10にて凝固しないことを確かめておくことが好ましい。また、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と結着剤がpH5-pH10にて分離したり凝固しないことを確かめておくことが好ましい。文献(非特許文献13)に述べられているように、S-スルホネート基はこのpH域では室温にて安定である。成形は加熱、加圧と冷却の工程を基本とし、圧縮成形法、射出成形法、押し出し成形の最も適した成形法が選ばれるが、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質や水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質に上記の結着剤や可塑剤を加えた混合物に適当量(10重量%以上30重量%未満)の水を含浸させたペレットを用いると、成形での流動性が上がり展性もあがって形状良好な成形物を得ることができる。成形での加熱温度は90℃以上220℃未満であり、圧力は成形物1cm2当たり100N以上2500N未満、すなわち、1.0MPaから25MPaの間である。成形物に気泡を生じさせないために、加圧中に圧を一時的に開放して脱泡を行う操作をするか、あるいは金型を水の沸点以下に冷却してから加圧を開放して成形物を取り出してもよい。なお、形状などが歪んだ成形品やその端くずは粉末にして上記の混合物に加えて再混練すれば使うことができる。 また、特に圧縮成形法では、最初に厚いシートを製造し、これを適当な形状に切り整えて別の金型に仕込むことでフィルムや皿などの形状に成形することもできる。成形品の色は上記の混練物に水性色素や油性色素や顔料などの色素を添加することで変えることができるが、原料の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質自体の色は成形物の色に大きく影響する。例えば白、茶、黒の混じった水鳥の羽毛の不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使うと成形物は黒茶色になり、白い羊毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質を使うと成形品は無色あるいは薄黄色となる。可塑剤に砂糖などを使うとメーラード色(キャラメル色)が加わる。
【0021】
実施例
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4で、それぞれ、ケラチン含有物質として、古着のウールセーターから回収した羊毛繊維、羊毛生地、羊毛トップ、古くなって廃棄された羽根枕から回収した羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製について説明する。実施例5以下にはフィルムやシートや容器形状物の製造法とそれら成形物の機械的物性、耐水性、土壌中での生分解挙動について説明する。なお、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と結着剤と可塑剤の組み合わせとこれらの組成比(重量比)については一つの実施形態として例示しているのであって、実施例で示す組み合わせと組成比にのみに限定されるものではない。実施例での成形は圧縮成形法の場合にて例示しているが、どの成形法でも(成形物の厚さを決める)いわゆる雌金型と雄金型の対面する間隔長は0.01mmから10mmの範囲に制御される。最高加熱温度と加圧値は上記のした範囲である。実施例で示す加熱温度や加圧値は一つの実施形態である。なお、加圧値(MPa)はロードセルで補正した加重値を雌金型の片面の面積で割った値である。成形物の機械的物性(最大破断強度、最大破断伸度、ヤング率)は、サン科学(株)のCR-300レオメーターを使って、試験片(厚さ0.15mm-1.0mm)を長方形(幅10mm、長さ70mm)に切り取って、10mm/分の引張速度で、RH70-80%、温度23-25℃で求めた。引っ張り初期は応力とひずみはほぼ直線関係にあった。最大破断伸度(%)、初期弾性域におけるヤング率、膨潤度(%)と溶出度(%)はそれぞれ次の数式(数1,数2、数3、数4)で求めた。なお、膨潤度は溶出度で補正していない。文中のmLはミリリットルの意味である。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
実施例1
羊毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。 黄色いウールセーター古着(100g)をおおよそ10mmx10mmの大きさに細断して洗浄し、水を加えて、全量を約1L(リットル)とした。加熱して85-97℃に達してから、二亜硫酸ナトリウム(30g)を入れ、同温度で30分間、時々攪拌しながら、エヤーポンプで空気を吹き込みながら、加熱した。セーターは当初のボリューム感を失いクタクタの状態になった。室温まで冷却後、不溶物をステンレス製ふるいでわけ取り、水で洗浄し、再び水を加え,3M苛性ソーダ水溶液を加えることでpHが6.5-8.5になるように調節した。遠心して固形物を風乾して水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を得た;収量、約87g。これをミルで粉砕して薄黄色パウダーとした。当該S-スルホン化ケラチンタンパク質のアミノ酸分析によるとシステイン、シスチン残基以外のアミノ酸残基は洗浄した原料羊毛の値に準じていた。一方、S-スルホネート基(―S―SO3
-)の含量はFTIRスペクトルでのS-O伸縮振動吸収バンド(1201cm-1と1023cm-1)の面積増減をS-エチルチオスルホ酸ナトリウム(C2H5S-SO3
- Na+)を標準試料に使って比較することで概算したところ、原料の羊毛繊維のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の10.5%)の55±15%がS-スルホシステイン残基(化学式1)となっていることが示唆された(非特許文献4,非特許文献14)。
【0027】
実施例2
羊毛生地からの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。生地(11cmx42cm、12g)をステンレス製金網からなる直径5cmのシリンダーにゆるく巻いて水(0.8L)に浸漬し60rpmで回転しながら二亜硫酸ナトリウム(10g)を加えて87-97℃で加熱した。約30分後、シリンダーを取り出し水で洗浄し、再び水に浸けて3M苛性ソーダ水溶液でpH7-8に調整後、軽く遠心して風乾し、羊毛生地のS-スルホン化ケラチンタンパク質(10.5g)を得た。実施例1の方法でS-スルホネート基の含量を調べたところ原料生地のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の5-7%)の50±20%がS-スルホシステイン残基となっていることが示唆された。
【0028】
実施例3
羊毛トップからの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。 羊毛トップ(メリノ、12g)をステンレス製金網からなる直径5cmのシリンダーにゆるく巻いて水(0.8L)に浸漬し60rpmで回転しながら二亜硫酸ナトリウム(10g)を加えて87-97℃で加熱した。約30分後、シリンダーを取り出し水で洗浄し、再び水に浸けて3M苛性ソーダ水溶液でpH7-8に調整後、軽く遠心して風乾し、羊毛トップのS-スルホン化ケラチンタンパク質(10.3g)を得た。 実施例1の方法でS-スルホネート基の含量を調べたところ原料生地のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の5%)の53±18%がS-スルホシステイン残基となっていることが示唆された。
【0029】
実施例4
羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。 使用した羽毛枕の羽毛は白、茶、黒色の羽毛の混じったものであった。この羽毛(300g)を家庭用の洗濯用洗剤を使って洗浄した後、遠心脱水した。半湿り状態の羽毛を5Lのステンレス釜に入れ脱塩素処理した水道水を加えて全体を約3Lにした。これを攪拌機でゆるく攪拌しながら水温が87-98℃に達した後、二亜硫酸ナトリウム粉末(150g)を投入し、同温度で20分間、空気を吹き込みながら、攪拌した。反応物は、実施例1と同じような方法で不溶物を濾過分別し、水に分散して、pHを7.0-pH8.5に調整してから遠心脱水を経て風乾し、ミルで粉砕した; 収量、270g。実施例1で記述した方法でS-スルホネート基の含量を調べたところ原料羽毛のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の5%)の60±15%がS-スルホシステイン残基となっていることが示唆された。
【0030】
実施例5
羊毛生地の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使ったフィルムの調製。古ウール生地(Herdwick種、30cm x 30cm)を、実施例2の方法に準じて、水不溶性S-スルホン化した(元の生地のおおきさをほぼ保っていた)。この一部(8cm x 8cm)を95℃に加熱しておいたシート成形用の金型(プレス板間隔は0.21mm)に挟んで3.5MPaで170℃まで昇温(40℃/分)しながら加熱加圧し、その後、圧力を保ったまま95℃以下に冷却した。面積は元の面積に近く、半透明で屈曲性がある薄茶色のフィルムが得られた(厚さ、0.23-0.24mm)。最大破断強度,5.4MPa;最大破断伸度、5.7%;ヤング率、310MPa。膨潤度、28%;溶出度、5%。
【0031】
実施例6
羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使うシートの製造。 実施例1で得た水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(pH7/0.067Mリン酸緩衝液処理済み)をミルで粉砕し、その6.0gに水(14mL)を加えてよく練り、長方形(10cmx10cm)に広げて7.0gになるまで風乾した。風乾物(3.5g)をシート成形用の金型(プレス板間隔は0.35mmに設定)に仕込み、実施例5と同じように加熱加圧、冷却して、薄黄色のしなやかな透明シートを得た(厚さ、約0.33mm)。最大破断強度、8.3MPa;最大破断伸度、3.5%;ヤング率、280MPa。膨潤度、11%;溶出度、10%-12%。
【0032】
実施例7
羊毛トップの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質とマンニトールを使ったフィルムの調製。 羊毛トップ(メリノ;2-3cmに切断)を使って調製した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(2.1g)を長方形(7cm x 10cm)に広げてマンニトール(7.5mL;固形分、約0.9g)を注ぎ、全体に馴染ませ,水分が10-15%までに風乾した。これを95℃に加熱しておいたシート成形用の金型(プレス板間隔は0.15mm)に仕込み、実施例5と同じように成形して、薄黄色の透明でしなやかなフィルムを得た;厚さ、約0.16mm。最大破断強度、12.5MPa;最大破断伸度、6.7%;ヤング率、950MPa。膨潤度、27%;溶出度28%。
【0033】
実施例8
羊毛(メリノ)の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白の混合物を使うシートの製造。 水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(14.0g)に卵白パウダー(6.8g)を加え、電動ミルで攪拌粉砕した。これに水(30mL)を加えてよく混練し、多孔スリットから押し出してから水分15重量%を含むまで乾燥してペレット(直径、約2-3mm;長さ、2-6mm)を得た。ペレット(8g)をあらかじめ95℃に保った丸形シート成形用の金型(直径、8cm;最小間隔、0.3mmに調整)に仕込み、3.3MPaで圧しながら165℃に昇温(40℃/分)した。この後、90-95℃に急速冷却することで薄褐色半透明均一な堅いシート(厚さ0.32mm)を得た。最大破断強度、31MPa;最大破断伸度,8%;ヤング率、450MPa;膨潤度、37%;溶出度5%。
【0034】
実施例9
羊毛(Herdwick種)の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白とマルチトール(重量比、65:20:15)の混合物を使うフィルムの製造;酵素の利用。 卵白パウダー(2.4g)とマルチトール(1.7g)をリン酸緩衝液(pH 7、0.67M、9 mL)に溶かし、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(pH7/0.067Mリン酸緩衝液処理済み;8.2g)に加え混練した。別途、ラウリル硫酸ナトリウム(35mg)と2-メルカプトエタノール(0.2mL)を溶かした0.067M/リン酸緩衝液(pH7、10mL)に精製パパイン酵素(20mg;自然化粧品研究所製、型番WCi341)を溶かした。この酵素溶液を先に調製しておいた混練物に添加し、よく混ぜてから30℃で6時間熟成した後、ペレット(約10-15重量%の水を含む)に加工した。ペレット(約5g)を、上記実施例8に準じて成形し薄褐色の透明なフィルム(厚さ0.21mm)を得た。最大破断強度、9.0MPa;最大破断伸度、5%;ヤング率、210MPa;膨潤度、5%未満;溶出度、25%。
【0035】
実施例10
羊毛(メリノ)のS-スルホン化ケラチンタンパク質と大豆タンパクと豆乳の混合物を使うシートの製造。大豆タンパク質(SPI、2.7g)と成分無調整豆乳(30mL;固形物、約3.3g)をよく混ぜてからS-スルホン化ケラチンタンパク質の粉末(5.5g)を加え混練しペレット状にした。ペレット(含水量、15重量%;3.5g)をシート成形用の金型(最小間隔、0.30mm)に仕込み、実施例8の方法に準じて成形して薄褐色の半透明なシート(厚さ0.35mm)を得た。最大破断強度、9.3MPa;最大破断伸度,5%;ヤング率、250MPa;膨潤度、41%;溶出度、13%。
【0036】
実施例11
水鳥の羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使うシートの製造。
実施例4で調製した羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(7.5g)に水(18mL)を加えよく攪拌混合し、1M苛性ソーダを使ってpH7.0-pH8.5に微調整してから水分が全体の10-15重量%を含む灰色ペレット(直径2-5mm、長さ3-6mm)とした。ペレット(4.0g)をあらかじめ95℃に熱したシート成形用の金型(プレス板間隔は0.33mmに設定)に仕込み、実施例5と同じように成形して、表面が艶をおびた黒褐色の堅いシート(厚さ、約0.35mm)を得た。 最大破断強度、7.0-7.3MPa;最大破断伸度、35-50%;ヤング率、62-110MPa;膨潤度、31%;溶出度3%未満。
【0037】
実施例12
白レグホンの羽根の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使うシートの製造。レグホンの白羽を使って調製した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使って実施例11と同じ方法で成形して、表面が艶をおびた薄褐色の堅い半透明シート(厚さ、約0.35mm)を得た。最大破断強度、10MPa;最大破断伸度、3%;ヤング率、420MPa;膨潤度、40%;溶出度、1%未満。約3%延伸したシートでは最大破断強度、18MPa;ヤング率、420MPa。
【0038】
実施例13
羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と豆乳を使うシートの製造。 実施例4で調製したS-スルホン化ケラチンタンパク質(10.0g)をミルで粉砕し、成分無調整豆乳(固形物含量11.5%、10.0mL)と6M苛性カリ水溶液(0.3mL)を加え混練した。混合物はpH7-pH8であり、これをペレット状にした後、温風で水分が全体の10-15重量%になるまで乾燥した。ペレット(直径約3mm、約3.5g)を実施例5と同じようにして成形して透明部と黒茶色の半透明部が混在しているべっ甲模様の艶のある堅いシートを得た(厚、約0.23mm)を得た。最大破断強度、16MPa;最大破断伸度、3%;ヤング率.610MPa;膨潤度、38%;溶出度、1%未満。約3%延伸したシートでは最大破断強度、27MPa;ヤング率、610MPa。
【0039】
実施例14
羽毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白と小麦ふすまを使うシートの製造。実施例4と同じ方法で調製したS-スルホン化ケラチンタンパク質(10.0g)に卵白パウダー(0.4g)を加えミルで粉砕混合した。一方、小麦ふすま(1.0g)に水(30mL)と6M苛性ソーダ水溶液(7滴)を加えて室温で約5分間攪拌した。この小麦ふすま分散物(pH8-9)をブンテ塩と卵との粉砕混合物に加え、よく混練し、ペレット状にして水分が全体の10-15重量%を含むまで温風乾燥を得た。ペレット(直径、約3mm;4.0g)をシート成形用の金型(プレス板間隔は2.0mmに設定)に仕込み、95℃から昇温(40℃/分)しながら5MPaまで加圧した。165℃に達した時点で加圧を保ちながら95℃以下に急速に冷却することで表面が艶をおびた黒褐色の堅いシート(約2mm)を得た。最大破断強度、8.5MPa;最大破断伸度、2%;ヤング率.490MPa;膨潤度、30%;溶出度、5%未満。
【0040】
実施例15
羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質とグルテンを使うシートの製造。水(40mL)にグルテン粉末(2.4g)を加え室温で攪拌しながら6M苛性ソーダ水溶液を12滴を添加して白濁液とした。一方、実施例4と同じ方法で調製した羽毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質物(10.0g)と羊毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質物(4.5g)の混合物をミルで粉末とした。この粉末にグルテンの白濁液を加え練ってから灰色ペレットとし水分が全体重量の10-15重量%になるまで風乾した。ついで、ペレット(約3.0g)をシート成形用の金型(プレス板間隔は0.33mmに設定)を使い、実施例5に準じて成形して表面が艶をおびた黒茶色シート(厚、約0.36mm)を得た。最大破断強度、8.5MPa;最大破断伸度、2-3%;ヤング率、280MPa;膨潤度、36%;溶出度、3%未満。
【0041】
実施例16
羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵とゼラチンの混合物を使うシートの製造。 実施例4と同じ方法で調製した羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(10g)と卵白パウダー(1.4g)を混ぜてミルで粉砕し、ゼラチン水溶液(12重量%、16g)を加えよく練ってから灰色ペレットとし水分が全体重量の10-15重量%になるまで風乾した。ペレット(約7.5g)を実施例15と同じように加熱加圧、冷却して、表面が艶をおびた黒茶色シート(厚、約0.35mm)を得た。最大破断強度、11MPa;最大破断伸度、2%;ヤング率、560MPa;膨潤度、33%;溶出度,16%。
【0042】
実施例17
羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白とおからパウダーを使うシートの製造。 羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(実施例1; 3.0g)と羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(実施例4; 6.4g)に卵白パウダー(0.6g)を加えミルで粉砕混合した。一方、おからパウダー(1.0g)と水(30mL)と6M苛性ソーダ水溶液(8滴)の混合物を室温で約5分間攪拌した。このおからの水分散物を先に調製しておいた羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質S-スルフォネート化物と羽毛S-スルフォネート化物と卵白の粉砕混合物に加え、よく混練してからペレット状(pH7-8)とし、これを乾燥して水分が全体の10-15重量%を含む灰色ペレット(直径2-3mm、長さ3-5mm)を得た。ペレット(6.0g)をシート成形用の金型(プレス板間隔は0.33mmに設定)に仕込み、実施例15と同じように加熱加圧、冷却して、表面が艶をおびた黒褐色の堅いシート(約0.35mm)を得た。最大破断強度、20MPa;最大破断伸度、3%;ヤング率、800MPa;膨潤度、30%;溶出度、6%。
【0043】
実施例18
羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と米ぬか使うシートの製造。 水(40mL)に米ぬか(3.0g)を加え室温で攪拌しながら6M苛性ソーダ水溶液を12滴を添加して懸濁液(pH7―pH8)とした。 一方、羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(実施例4参照;10g)と羊毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質(実施例1参照;4.5g)の混合物をミルで混合粉末とした。この粉末に米ぬかの懸濁液を加え練って灰色ペレットとし水分が全体重量の10-15重量%になるまで風乾した。ペレット(3.5g)を95℃に予備加熱したシート成形用の金型(プレス板間隔は0.40mmに設定)に仕込み、昇温(40℃/分)しながら6MPaに加圧した。加圧を保ちながら165℃に達した時点で90℃以下に急速に冷却することによって、表面が艶をおびた褐色シート(厚、約0.45mm)を得た。最大破断強度、7MPa;最大破断伸度、2-4%;ヤング率、460MPa;膨潤度、35%;溶出度、30%。2%延伸したシート:最大破断強度、12-16MPa;ヤング率、460MPa。
【0044】
実施例19
羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白と大豆蛋白を使うシートの製造。 実施例4に準じて調製した羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(10g)に卵白パウダー(1.5g)を加えミルで粉砕混合した。一方、酸性沈殿大豆蛋白(SPI)(2.2g、水分率10重量%)と水(30mL)と6M苛性ソーダ水溶液(10-12滴)の混合物を室温で10分間攪拌することで高粘度の大豆蛋白溶液とした。この大豆蛋白液を先に調製しておいた羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白パウダーの混合物に加えて混練しペレット状に押し出し、温風乾燥して水分が全体の10-15重量%を含む灰色ペレット(直径2-4mm、長さ3-6mm)とした。ついで、ペレット(3.6g)を実施例18に準じて成形して表面が艶をおびた黒褐色の堅いシート(約0.43mm)を得た。最大破断強度、19MPa;最大破断伸度、4%;ヤング率、580MPa;膨潤度、30%;溶出度、3%。
【0045】
実施例20
水牛の蹄角粉を使う水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の製造とシートの製造。 超音波槽に蹄角粉(30g)をドデシル硫酸ナトリウム水溶液(3重量%;300mL)に入れ、60℃で加温しながら、100Wで5分間、超音波処理した。不溶物を濾過、水洗し、水(300mL)に浸し、攪拌しながら87-97℃に加熱した後、二亜硫酸ナトリウム(15g)加え、30分加熱した。反応後は実施例1で示す方法で濾過、分別、洗浄を経て乾燥して蹄角の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を得た(23g)。この蹄角の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(5.0g)に卵白パウダー(0.5g)を混ぜミルで混合粉砕してから豆乳(20mL)を加え混練し、約5mmの厚さに平たくして、水分15重量%まで乾燥した。乾燥物(5g)をシート成形用の金型(プレス板間隔は0.33mmに設定)に仕込み、7MPaで加圧しながら昇温した。180℃に達した後、95℃未満に急冷して成形物を得た。最大破断強度、53MPa;最大破断伸度、4%;ヤング率、210MPa;膨潤度、27%;溶出度、17%。
【0046】
実施例21
カップ製造用金型を使って羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白の混合物からカップの製造。 実施例4に準じて調製した羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(15.0g)に卵白パウダー(6.0g)を加えてミルで混合した粉末に水(23mL)を加えてよく練ってペレット状(直径、約3mm;長さ、約5mm)とし、水分が10-15重量%になるまで風乾した。このペレット(12.0g)を95℃に予備加温した円錐台形のカップ製造用の金型(口直径6cm、底面直径5cm、深さ3cm、壁間隙1.0mm)に入れ約10kNで加重しながら約125℃まで昇温(約40℃/分)した後、20kNに増圧して165℃まで昇温し、すぐに90℃以下に冷却して黒茶色のカップ成形物を取り出した。カップを沸騰水に30分、浸漬してもカップ形状を保持した(
図2)。熱水処理前のカップの壁を2cmx4cm;厚さ、1.1-1.2mmに切断した断片は熱可塑性をほとんど示さないが、熱水で膨潤した断片(重量膨潤度、約30%)は加熱加圧すると展性を示して約2倍の面積のシート(厚さ、0.5mm)に広がった。
【0047】
実施例22
羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と豆乳の混合物からの葉模様物の製造。 羊毛トップのS-スルホン化ケラチンタンパク質(10.0 g)に豆乳(54mL)を加え、その混練物のペレット(水分が15重量%; 1.8g)を造花用金型にいれ、4MPaに加圧して170℃まで昇温(30℃/分)し、その後は95℃以下まで冷やした。薄褐色半透明の葉形状の成形品を取り出した。
【0048】
実施例23
造花用金型を使って羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白と豆乳の混合物からの葉形物の製造。 実施例4に準じて調製した羽毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(10.0g)と卵白パウダー(1.4g)と成分無調整豆乳(固形分11、5%;10mL)をよく混練してから実施例8の方法でペレットにして水分が15重量%まで乾燥した。このペレット(1.8g)を金型にいれ、4MPaに加圧して170℃まで昇温(30℃/分)し、その後は95℃以下まで冷やして艶のある茶褐色葉形状の成形品を得た。
【0049】
実施例24
実施例21に準じ、シート用金型を使い、羽毛のS-スルホン化ケラチンタンパク質と卵白のペレットからシート(厚さ、2.2mm)を作った。このシートを水で湿らせ、皿成形用の金型(雌金型: 上直径、6cm;下直径、5cm;深さ、1cm; 雌金型と雄金型の間隔、1.0mm)に仕込み、170℃、3MPaで加熱成形した。得られた黒艶のある皿形状物は沸騰水に30分浸漬しても形状を保った。
【0050】
実施例25
生分解性の試験。 文献の方法に準じて(非特許文献15)、実施例6と実施例13に準じて製造した羊毛と羽毛からのシート(厚さ、それぞれ、0.33mm、0.25mm)をそれぞれ2.5cm四方の8片に切り出し、各1片をポリエチレンネットに入れてシールし、園芸ポット中の田んぼの土の深さ約8cmのところに埋めた。ときおり乾燥を防ぐために雨水をふりかけ、また土中温度は22-25℃に制御して4ヶ月間、2週間の間隔でネットを取り出し、ゆるやかに水洗し、ネットのまま乾燥して重量を元の重量と比較した。また、残渣物を目視あるいは顕微鏡で観察した。試験片の内、羊毛S-スルホネート化物から製造したシートは8-12週間で、一方、羽毛S-スルホネート化物から製造したシートは4-10週間でほぼ崩壊するか消失した。
【0050】
【産業上の利用可能性】
古くなって、あるいは過剰に生産されて市場にでない羊毛、羽毛、蹄角などのケラチンを含有する物質はS-スルホン化剤と反応させることによって水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質へ高収率で変換できる。これを使って製造されるフィルム、シートやカップなどの成形品は機械的強度と耐水性に優れるばかりでなく生分解性も有する。以上のように、本発明は、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の安価の製造法を明らかにし、かつ、優れた機械的物性と生分解性を有する成形物を製造する方法を提供している。よって,産業上の利用可能性を有する。