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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】地盤改良体造成装置、地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021153687
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045341
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2022-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516181653
【氏名又は名称】東洋産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000128027
【氏名又は名称】株式会社エヌ、アイ、テイ
(73)【特許権者】
【識別番号】391019740
【氏名又は名称】三信建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】深田 晋一
(72)【発明者】
【氏名】小牧 貴大
(72)【発明者】
【氏名】中西 康晴
(72)【発明者】
【氏名】島野 嵐
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090816(JP,A)
【文献】特開2019-073914(JP,A)
【文献】特開平03-197714(JP,A)
【文献】特開2019-039140(JP,A)
【文献】実開平06-027929(JP,U)
【文献】特許第3941045(JP,B2)
【文献】登録実用新案第3220925(JP,U)
【文献】特開昭53-85911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤改良体を円筒状改良体として造成する装置であって、
円筒状改良体の改良外径から改良内径を差し引いたリング厚が改良外径の大きさのほぼ4~8分の1に設定された円筒状改良体を造成する装置において、
造成する改良内径より小さい翼径を有し、改良内径の内側に収まるように設けられた複数枚の上段攪拌翼と、
注入材料の流路と噴射ノズルを備えた、造成する改良外径より小さい翼径となる複数枚の下段攪拌翼と、を有しており、
前記下段攪拌翼は、
下向きに注入材料を噴射可能な下向き噴射ノズルと、
外方向に向かって且つ斜め下向きに注入材料を噴射可能な斜め下向き噴射ノズルと、
を有するとともに
前記下段攪拌翼は、前記斜め下向き噴射ノズルを2箇所に、前記下向き噴射ノズルを少なくとも1箇所に、それぞれ有しており、
造成するリング厚部分のほぼ3分の2の面積に相当する外側領域部分を、前記斜め下向き噴射ノズル2箇所から噴射する注入材料で造成し、
造成するリング厚部分の残りのほぼ3分の1の面積に相当する内側領域部分を、前記下向き噴射ノズルから噴射する注入材料で造成する、
ことを特徴とする地盤改良体造成装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置であって、
攪拌翼の段数を複数備えたことを特徴とする地盤改良体造成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の装置であって、
改良体内側領域に送液するための噴射ノズルを有することを特徴とする地盤改良体造成装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の装置を用いて円筒状改良体を造成する地盤改良工法であって、
前記噴射ノズルから注入材料を噴射する際に、注入量または噴射圧力を変化させる、ことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の装置であって、
前記下段攪拌翼は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための注入材料流入防止板を備えており、
前記流入防止板は、地中に貫入する時の攪拌翼回転方向に対して斜角となる方向で設置されている、ことを特徴とする地盤改良体造成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状(断面略リング状)の地盤改良体を造成するのに用いる地盤改良体造成装置と、この装置を用いた地盤改良工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤上の盛土や構造物の支持、安定および変形抑制対策として、セメントスラリー式の深層混合処理工法が用いられている。深層混合処理工法は、セメント系の固化材と水からなるスラリー注入材を、地中に貫入したボーリングロッド先端の攪拌翼から吐出しながら、軟弱地盤を直接攪拌混合して円柱状の地盤改良体を造成する工法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
軟弱地盤上に盛土を築造する場合、軟弱地盤の沈下やすべり破壊により、盛土法尻付近で側方に変形することが懸念される。その場合、周辺家屋や構造物への変形抑制を目的として、盛土法尻付近の軟弱地盤中に円柱状改良体を複数列造成することで、盛土下の軟弱地盤から側方に作用する土圧に抵抗する構造となっている。また、盛土や構造物の支持力確保や安定対策として、全面的に円柱状改良体を造成することも一般的となっている。
【0004】
しかしながら、円柱状改良体を複数列造成する場合や、全面的に円柱状改良体を造成する場合には、造成する改良体の本数に応じて工期が長くなり、施工コストが高くなるなどの問題があった。そのため、改良体の機能を犠牲にすることなく、施工本数の低減、工期短縮が可能な解決策が望まれていた。
【0005】
上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、改良体の機能を維持したまま、造成範囲を円柱状ではなく、円筒状に低減することで、施工本数の低減、工期短縮が可能な地盤改良体の造成技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
地盤改良工法で造成する改良体の形状を平面リングで中空部には固化材を注入しない円筒状の改良体(図1の右側参照)の中でも、水平力に対する曲げ剛性を確保できる形状で、改良体断面積を最大限低減できるリング厚となる改良外径のほぼ4~8分の1を改良内径とする円筒状改良体を効率的に造成する。円筒状改良体を造成する方法としては、確実な改良体を造成するために、機械攪拌と噴射併用方式とする。
【0007】
そして、前述した目的は、
改良対象地盤に注入材料を注入して地盤改良体を円筒状改良体として造成する装置であって、円筒状改良体の改良外径から改良内径を差し引いたリング厚が改良外径の大きさのほぼ4~8分の1に設定された円筒状改良体を造成する装置において、
造成する改良体の改良内径より小さい翼径となる複数枚の上段攪拌翼と、
注入材料の流路と噴射ノズルを備えた、造成する改良体の改良外径より小さい翼径となる複数枚の下段攪拌翼と、を有する地盤改良体造成装置によって達成される。
この地盤改良体造成装置では、下段攪拌翼は、
下向きに注入材料を噴射可能な下向き噴射ノズルと、
外方向に向かって且つ斜め下向きに注入材料を噴射可能な斜め下向き噴射ノズルと、
の何れか一方または両方を有している。
【0008】
上記地盤改良体造成装置は、攪拌翼の段数を複数備えてもよい。
【0009】
また、上記地盤改良体造成装置では、下段攪拌翼は、例えば、前記斜め下向き噴射ノズルを2箇所に、前記下向き噴射ノズルを少なくとも1箇所に、それぞれ有している。
この場合、造成するリング厚部分のほぼ3分の2の面積に相当する外側領域部分を、前記斜め下向き噴射ノズル2箇所から噴射する注入材料で造成するとともに、造成するリング厚部分の残りのほぼ3分の1の面積に相当する内側領域部分を、リング厚中央部に備えた前記下向き噴射ノズルから噴射する注入材料で造成する。
【0010】
また、上記地盤改良体造成装置は、改良体内側領域に送液するための噴射ノズルを更に有してもよい。
【0011】
また、前述した目的は、上記地盤改良体造成装置を用いて円筒状改良体を造成する地盤改良工法であって、
攪拌翼を正回転させながら地盤改良体造成装置を地中に貫入する貫入工程と、
攪拌翼を逆回転させながら地盤改良体造成装置を地中から引上げる引上工程と、
を含む地盤改良工法によって達成される。
この地盤改良工法では、貫入工程において、貫入の過程で噴射ノズルを介して注入材料を地中に注入し、その際、円筒状改良体の造成に必要な予め定めた所定の注入量のほぼ4分の3を注入する。また、引上工程において、引上げの過程で噴射ノズルを介して注入材料を地中に注入し、その際、前記所定の注入量の残りほぼ4分の1を注入するとともに、貫入時のほぼ2倍~4倍の上昇速度で地盤改良体造成装置を地中から引上げる。
【0012】
また、前述した目的は、上記地盤改良体造成装置を用いて円筒状改良体を造成する地盤改良工法であって、前記噴射ノズルから注入材料を噴射する際に、その噴射過程で注入量または噴射圧力を変化させる地盤改良工法によって達成される。
【0013】
上記地盤改良工法で用いる地盤改良体造成装置において、
下段攪拌翼は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための注入材料流入防止板を備えてもよい。
この場合、前記流入防止板は、地中に貫入する時の攪拌翼回転方向に対して斜角となる方向で設置される。
【0014】
また、上記地盤改良工法で用いる地盤改良体造成装置において、
前記上段攪拌翼と前記下段攪拌翼の中間部に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための流入防止翼を備えてもよい。
この場合、前記流入防止翼は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に流入防止板を備え、攪拌翼と共回りしないようにロッドに対して回転自在に取り付けられる。
【0015】
また、上記地盤改良工法で用いる地盤改良体造成装置において、
前記上段攪拌翼と前記下段攪拌翼の中間部に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための流入防止リング翼を備えてもよい。
この場合、前記流入防止リング翼は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に円筒形状の流入防止リングを備え、攪拌翼と共回りしないようにロッドに対して回転自在に取り付けられる。
【発明の効果】
【0016】
地盤中に造成された改良体の鉛直方向の外力に起因する変形に対しては、改良体の断面積(Ap)と弾性係数(Ep)の積(Ep×Ap)がその変形量に影響する。一方、水平方向の外力に起因する改良体の変形に対しては、改良体の断面二次モーメント(Ip)と弾性係数(Ep)の積である曲げ剛性(Ep×Ip)がその変形量に影響する。
円柱状改良体の断面積は改良外径をDpとすると、Ap=π/4×Dp2、断面二次モーメントは、Ip=π/64×Dp4の数式に代入することで算出される。一方、円筒状改良体の断面積は改良外径をDp、改良内径をDsとすると、Ap=π/4×(Dp2-Ds2)、断面二次モーメントは、Ip=π/64×(Dp4-Ds4)の数式に代入することで算出される。図2に改良外径φ1800mmにおいて、改良内径を変化させたときのリング面積と断面二次モーメントの算出結果を円柱比率で示す。さらに、断面性能比率とリング面積比率の差を剛性断面低減効率として定義し、この数値が大きいほど断面性能の低下に比べて断面積の低減効率が高いことを示している。
円筒状改良体の最適形状は、例えば、改良外径φ1800mmの場合、改良内径は1200mmであり、リング厚の外径に対する比率は、4~8分の1が最適となる。この比率を用いると、円筒状改良体は、円柱状改良体に比べて、改良体断面積は5割程度に低減するが、断面二次モーメントは8割程度を確保できる。
【0017】
円筒状改良体の断面剛性を効率的に適用した盛土安定変形対策工への適用事例を図.3に示す。この事例は、軟弱地盤上に盛土を築造するもので、周辺に近接構造物があることから、盛土による変形抑制対策として、セメント系固化材による円柱状改良体を断面方向に複数列造成する設計である。本適用事例では、円柱状改良体で改良体1本当りの改良強度を同程度に設定した、円筒状改良体の改良範囲と比較する。円筒状改良体は、断面積が円柱の5割程度のため、改良強度を2倍に設定することで、改良体1本当りの強度設定は同等であり、同等の固化材使用量により改良体1本の造成が可能である。しかし、曲げ剛性は8割程度を確保できることから円柱状改良体では4列必要なところ、円筒状改良体では3列の造成により、目標とする効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来技術により造成する地盤改良体(円柱状改良体)と、本発明により造成する地盤改良体(円筒状改良体)を示す斜視図(透視図)である。
図2】円筒状改良体の断面性能を示すグラフである。
図3】円筒状改良体の盛土安定変形対策工への適用事例を示す図である。
図4】円筒状改良体の施工概要(地盤改良工法で使う施工設備)を示す図である。
図5A】地盤改良体造成装置が具備する攪拌翼を示す上面図である。
図5B】地盤改良体造成装置が具備する攪拌翼を示す断面図である。
図6】地盤改良体造成装置の一例を示す斜視図である。
図7】地盤改良体造成装置の別の例を示す斜視図である。
図8】地盤改良体造成装置の別の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(用語説明)
はじめに、この出願で用いる主な用語について説明する。
【0020】
「円筒状改良体」とは、円筒状の地盤改良体を意味する。ここでいう「円筒状」には、円筒の様な外観のもの(ほぼ円筒状のもの)も含まれる。
【0021】
「注入材料」とは、円筒状改良体の造成に用いる地盤改良材である。円筒状改良体は、改良対象地盤に注入した注入材料(地盤改良材)と地盤を撹拌して化学的に固化したもので形成される。注入材料の具体例としては、セメント系の固化材と水からなるスラリー注入材が挙げられる。
【0022】
「噴射ノズル」は、改良対象地盤の地中に対し主に注入材料を噴射する役割を担うものである。噴射する注入材料は、ロッドと攪拌翼が有する流路を通じて圧送され、噴射ノズルから噴射される。
【0023】
「改良外径」とは、造成する円筒状改良体の外径(外周面の径)を意味する。図5参照。
【0024】
「改良内径」とは、造成する円筒状改良体の内径(内周面の径)を意味する。図5参照。
【0025】
「改良体内側領域」とは、造成する円筒状改良体の内径(内周面)より内側の領域を意味する。
【0026】
「リング厚」とは、円筒状改良体の外周面と内周面の間の厚みを意味している。円筒状改良体の外周面と内周面の間の厚みは、平面視で(あるいは断面視で)リング状に見えることから、この出願ではこの厚み(円筒状改良体を平面または横断面で見た場合の厚み)をリング厚と称している。リング厚は、円筒状改良体の改良外径から改良内径を差し引いた値で表すことができる。
【0027】
「リング厚外側領域」または「外側領域」とは、リング厚の外側寄りの部分を示している。図5A図5Bにおいて、リング厚外側領域をクロスハッチング付きで示している。なお、後述する実施形態では、造成するリング厚部分のほぼ3分の2の面積(リング厚部分の外側寄りのほぼ3分の2)に相当する外側領域の部分を「リング厚外側領域」と称している。
【0028】
「リング厚内側領域」または「内側領域」とは、リング厚の内側寄りの部分を示している。図5A図5Bにおいて、リング厚内側領域をハッチング付きで示している。なお、後述する実施形態では、造成するリング厚部分のほぼ3分の1の面積(リング厚部分の内側寄りのほぼ3分の1)に相当する内側領域の部分を「リング厚内側領域」と称している。
【0029】
「リング厚中央部」とは、リング厚外側領域とリング厚内側領域の間に位置する部分を意味している。図5A図5Bにおいて、リング厚中央部は、ハッチング付きで示す部分と、クロスハッチング付きで示す部分の間に位置する。
【0030】
(地盤改良工法の施工に必要な設備)
円筒状改良体の施工概要は、図4に示すように、セメントサイロ、ミキシングプラント、グラウトポンプ、深層混合処理機を用いる。深層混合処理機に備えた地盤改良体造成装置はボーリングロッドを有している。このボーリングロッド(以下単に「ロッド」という。)の先端には、特殊攪拌翼を装着している。なお、この出願では、特殊攪拌翼を必要に応じて単に「攪拌翼」という。
【0031】
(地盤改良体造成装置の具体的構成)
本実施形態の地盤改良体造成装置は、ロッドと、ロッド先端に設けられた特殊攪拌翼を有している。ロッドと特殊攪拌翼には、注入材料を圧送するための流路が設けられており、また、特殊攪拌翼には、流路を介して圧送された注入材料を噴射するための噴射ノズルが設けられている。
【0032】
以下、図5A図5Bに基づいて、地盤改良体造成装置が備える特殊攪拌翼の構成について具体的に説明する。
【0033】
本実施形態で採用している特殊攪拌翼は、3枚翼の上下2段構成となっている。
【0034】
ロッドには、3枚の上段攪拌翼21,22,23が等角度間隔で設けられている。上段攪拌翼21,22,23は、造成する改良内径より小さい翼径(攪拌翼先端の回転軌跡の径)である。すなわち、3枚の上段攪拌翼21,22,23は、造成する円筒状改良体の改良内径の内側(改良体内側領域)に収まる寸法に設定されている。このように改良内径より小さい翼径の上段攪拌翼21,22,23を設けることで、上段攪拌翼回転により、上部の土塊を掻き分けることができ、地盤改良体造成装置の引上げ能力を高めることができる。また、上段攪拌翼21,22,23の翼径を改良内径より小さく設定することで、地盤改良体をより確実に円筒状に造形することが可能になる。
【0035】
また、ロッドには、上段攪拌翼の下方に、3枚の下段攪拌翼41,42,43が等角度間隔で設けられている。下段攪拌翼41,42,43は、造成する改良外径より小さい翼径(攪拌翼先端の回転軌跡の径)である。すなわち、3枚の下段攪拌翼41,42,43は、造成する円筒状改良体の改良外径の内側に収まる寸法であって、かつ、改良内径の外側に突き出る寸法に設定されている。3枚の下段攪拌翼41,42,43は、それぞれ流路と噴射ノズルA,B,Cを備えている。噴射ノズルA,Bと噴射ノズルCは役割が異なる。以下詳述する。
【0036】
3枚の下段攪拌翼のうち、下段攪拌翼41,42は、注入材料を斜め下向きに且つ外方向(外側方向)に向かって噴射するための斜め下向き噴射ノズルA,Bを備えている。斜め下向き噴射ノズルA,Bの噴射方向は、下段攪拌翼41,42の先端寄りに設けられている。斜め下向き噴射ノズルA,Bの噴射方向は、図5Bに示すように、鉛直方向(ロッド中心軸に平行な線)に対して10°~30°外周方向に傾斜している。下段攪拌翼41,42が具備する斜め下向き噴射ノズルA,Bは、造成するリング厚部分のほぼ3分の2の面積に相当する外側領域部分(図5A図5Bにおいてクロスハッチングで示す部分)を造成するための注入材料を噴射する役割を担っている。
【0037】
3枚の下段攪拌翼のうち、下段攪拌翼43は、注入材料を下向きに噴射するための下向き噴射ノズルCを備えている。この下向き噴射ノズルCは、造成するリング厚中央部近傍に相当する位置に設けられている。下段攪拌翼43が具備する斜め下向き噴射ノズルCは、造成するリング厚部分の残りのほぼ3分の1の面積に相当する内側領域部分(図5A図5Bにおいてハッチングで示す部分)を造成するための注入材料を噴射する役割を担っている。
【0038】
斜め下向き噴射ノズルA,Bは、攪拌翼径より大きい拡径の改良外径を造成することを可能とするため、深層混合処理機の施工能力より大きい改良径を造成できることとなる。
また、斜め下向き噴射ノズルA,Bを介して注入材料を外側に噴射することで、改良外径の外側にある原地盤が改良外径の内側に入り込むことを防止できる。
また、造成するリング厚部分の外側領域と内側領域を、異なる噴射ノズルからの注入材料で造成することで、リング厚部分の外側と内側とで偏りのない円筒状改良体を造成することができる。
【0039】
また、下段攪拌翼41,42,43には、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための流入防止板45が設けられている。この流入防止板45は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に設けられている。また図5Aに示すように、流入防止板45は、地中に貫入する時の攪拌翼回転方向に対してほぼ10°~30°の斜角となる方向で設置されている。
【0040】
なお、本実施形態では図示を省略しているが、地盤改良体造成装置の下段攪拌翼翼41,42,43のいずれか1または2以上には、前述した噴射ノズルA,B,Cとは別に、改良体内側領域に送液するための別の噴射ノズルを増設してもよい。改良体内側領域に送液する液体は、例えば貫入抵抗を軽減するための水でもよく、あるいは、注入材料の硬化を阻害するための液体などでもよい。このような噴射ノズルを介して、例えば、地盤改良体造成装置の貫入時に送水することで、その噴射効果により貫入抵抗を軽減できる。また、注入材料の硬化を阻害する液体を送液することで、より確実に円筒状改良体を造成することができる。なお、この噴射ノズルからの液体噴射は、後述する貫入工程・引上工程のいずれか一方の工程または両方の工程で行うことができる。
【0041】
また、本実施形態では攪拌翼を上下2段で構成しているが、攪拌翼の段数はこれに限定されるものではなく、3段以上設けてもよい。また、噴射ノズルを設ける攪拌翼は、1段(最下段の攪拌翼)に限定されず、2段以上の攪拌翼に噴射ノズルを設けてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、下段攪拌翼に斜め下向き噴射ノズルと下向き噴射ノズルの2種を設けているが、これらの噴射ノズルのうち何れか1種だけを下段攪拌翼に設けてもよい。また、本実施形態では、一つの下段攪拌翼に一つの噴射ノズルを設けているが、一つの下段攪拌翼に斜め下向き噴射ノズルと下向き噴射ノズルの両方を設けてもよく、また、一つの下段攪拌翼に何れか一方の噴射ノズルを複数設けてもよい。
【0043】
(地盤改良工法)
次に、上記構成の地盤改良体造成装置を用いて円筒状改良体を造成する地盤改良工法について説明する。
【0044】
地盤改良工法の施工方法は、主として、
・攪拌翼を正回転させながら地盤改良体造成装置を地中に貫入する貫入工程と、
・攪拌翼を逆回転(貫入時の回転方向とは逆方向で回転)させながら地盤改良体造成装置を地中から引上げる引上工程と、
の2工程を含んで構成される。
【0045】
貫入工程では、噴射ノズルA,B,Cを介して注入材料を地中に注入し、その際、所定の注入量(1体の円筒状改良体を造成するのに必要とされる予め定めた注入量)のほぼ4分の3を注入する。すなわち、貫入工程では、引上工程よりも、多めに注入材料を地中に注入する。
【0046】
引上工程では、噴射ノズルA,B,Cを介して注入材料を地中に注入し、その際、前記所定の注入量の残りほぼ4分の1を注入する。すなわち、引上工程では、貫入工程よりも、少なめに注入材料を地中に注入する。引上工程では、貫入時のおよそ2倍~4倍の速度で引上げながら逆回転攪拌により円筒状改良体を造成する。
【0047】
これにより、主に貫入時の正回転攪拌で円筒状改良体を造成することになり、回転方向に斜角となるよう設置した流入防止板45により、攪拌による注入材料のロッド周辺への移動を抑制することが可能となり、均質な円筒状改良体を造成できる。
【0048】
注入材料は、下段攪拌翼41,42,43から下向きあるいは斜め下向きにおよそ5MPa~20MPaの高圧で噴射されるため、攪拌翼の地中貫入能力を補助し、あらゆる地盤への適応性を高められる。
さらに、噴射による施工能力への効果が期待できない引上げ工程では、造成する改良内径より小さい翼径の上段攪拌翼21,22,23の回転により、上部の土塊を掻き分けることで、引上げ能力を高められる構造となっている。
また、上段攪拌翼21,22,23ではリング厚部分の攪拌を行わずに下段攪拌翼41,42,43のみで攪拌することで、リング厚部分に重点的に材料を注入撹拌し、均質な円筒状改良体を造成できる。
【0049】
なお、貫入工程と引上工程のいずれか一方または両方では、噴射ノズルA,B,Cから注入材料を噴射する際に、その噴射過程で注入量(L/min)または噴射圧力(MPa)を変化させてもよい。すなわち、注入量または噴射圧力を変化させながら、噴射ノズルA,B,Cから注入材料を噴射してもよい。これにより、例えば任意に改良外径を設定することができ、また、例えば円筒状改良体の改良内径中心から改良外径に向かって低強度から高強度に徐々に変化するように任意に改良強度を設定することができる。また、造成する円筒状改良体の深度方向で改良体の強度や外径を変化させることもできる。
【0050】
また、本実施形態では、貫入工程と引上工程で同じ噴射ノズルから注入材料を地中に注入することを想定しているが、貫入工程と引上工程とで異なる噴射ノズルから注入材料を地中に注入してもよい。
例えば、攪拌翼を正回転させながら地盤改良体造成装置を地中に貫入する際には、噴射ノズルAに通ずる攪拌翼内の流路をバルブで閉鎖し、他方の噴射ノズルBから注入材料を地中に注入するようにし、また、攪拌翼を逆回転させながら地盤改良体造成装置を地中から引上げる際には、噴射ノズルBに通ずる攪拌翼内の流路をバルブで閉鎖し、他方の噴射ノズルAから注入材料を地中に注入するようにしてもよい。
また、例えば、攪拌翼の回転方向を正回転から逆回転に変えるときに、回転方向の逆転に連動して、流路を開閉するバルブを作動させてもよい。
【0051】
(改良体内側領域への注入材料の流入防止構造)
特殊攪拌翼の全体図を図6に示す。
下段攪拌翼の改良内径部に設置した流入防止板45は、攪拌翼の水平回転により、円筒状改良体と内部土の縁切りに対しても有効であり、確実な円筒形状の造成に寄与する。
【0052】
この流入防止板45と同様な効果が得られる図7および図8に示す構造も適用可能である。
【0053】
図7に示す地盤改良体造成装置は、上段攪拌翼と下段攪拌翼の中間部に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための流入防止翼51を備えている。
流入防止翼51は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に流入防止板55を備えている。
また、流入防止翼51は、上下の攪拌翼と共回りしないようにロッドに対して回転自在に取り付けられている。
このように、流入防止翼51を攪拌翼の回転動作と同一とならないようにロッドに対して回転フリーで取り付けることにより、地中での回転抵抗とならず、改良内径部との縁切り効果が期待できる。
【0054】
図8は、流入防止板の代わりに改良内径と一致する流入防止リング翼61を備えている。
【0055】
すなわち、図8に示す地盤改良体造成装置は、上段攪拌翼と下段攪拌翼の中間部に、改良体内側領域への注入材料の流入を防止するための流入防止リング翼61を備えている。
流入防止リング翼61は、造成する円筒状改良体の内径とほぼ一致する位置に円筒形状の流入防止リング65を備えている。
また、流入防止リング翼61は、上下の攪拌翼と共回りしないようにロッドに対して回転自在に取り付けられている。
このように、流入防止リング翼61を攪拌翼の回転動作と同一とならないようにロッドに対して回転フリーで取り付けることにより、地中での回転抵抗とならず、改良内径部との縁切り効果が期待できる。
【符号の説明】
【0056】
21,22,23 上段攪拌翼
41,42,43 下段攪拌翼
45 流入防止板
51 流入防止翼
55 流入防止板
61 流入防止リング翼
65 流入防止リング
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8