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特許7270912アドレノメデュリン濃度変動による予後予測の情報提供方法及びその試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】アドレノメデュリン濃度変動による予後予測の情報提供方法及びその試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230501BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230501BHJP
   C07K 16/26 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K16/26 ZNA
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019519602
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2018019009
(87)【国際公開番号】W WO2018216580
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2017100593
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 和雄
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 勇男
(72)【発明者】
【氏名】丸田 豊明
(72)【発明者】
【氏名】與那覇 哲
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩二
(72)【発明者】
【氏名】島本 怜史
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232563(JP,A)
【文献】特表2016-525874(JP,A)
【文献】特表2015-526725(JP,A)
【文献】特表2014-533827(JP,A)
【文献】特開2018-151295(JP,A)
【文献】HELMY TA,Prognostic role of adrenomedullin in sepsis,Int J Adv Res Biol Sci,2016年,Vol.3 No.5,Page.136-141,ABSTRACT
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/53
C07K 16/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症又は敗血症が疑われる患者の予後を予測するための情報を提供する方法であって、下記のステップを含み、下記検体が血液成分である方法:
(a)前記患者に由来する治療介入前の検体中のアドレノメデュリン類量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)と同じ患者に由来する治療介入後の検体であって、ステップ(a)の検体を採取後12時間以降かつ治療介入後24時間以内に採取された検体中のアドレノメデュリン類量を測定するステップ、
(c)前記(a)の測定値と前記(b)の測定値との差分を求めるステップ、及び
(d-1)前記(c)の差分において、(b)の測定値から(a)の測定値を差引いた値が正の場合、もしくは(a)の測定値から(b)の測定値を差引いた値が負の場合は、前記患者の予後が不良であると予測するための情報を関連づけるステップ、及び/又は
(d-2)前記(c)の差分において、(b)の測定値から(a)の測定値を差引いた値が負の場合、もしくは(a)の測定値から(b)の測定値を差引いた値が正の場合は、前記患者の予後が良好であると予測するための情報を関連づけるステップ。
【請求項2】
治療介入が手術である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)の検体が、治療介入後12時間以内に採取されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
治療介入してから4週間以内の予後を予測するための情報を提供する、請求項1~いずれかに記載の方法。
【請求項5】
アドレノメデュリン類が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~いずれかに記載の方法。
【請求項6】
アドレノメデュリン類が、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、中間体アドレノメデュリン、成熟型アドレノメデュリン、及びアドレノメデュリン部分ペプチドからなる群から選択される一種又は二種以上である、請求項1~いずれかに記載の方法。
【請求項7】
アドレノメデュリン類が、アドレノメデュリン部分ペプチドである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
アドレノメデュリン類が、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、中間体アドレノメデュリン、成熟型アドレノメデュリン、及びアドレノメデュリン部分ペプチドである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
アドレノメデュリン類が、成熟型アドレノメデュリンおよびその部分ペプチドである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
アドレノメデュリン類を認識する抗体を用いて免疫化学的方法により測定する、請求項1~いずれかに記載の方法。
【請求項11】
アドレノメデュリン類を認識する抗体を含有することを特徴とする、請求項1~10いずれかに記載の方法に使用するための測定試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト検体中のアドレノメデュリン量を測定し、その濃度変動を指標に急性機能不全患者に対し予後を予測する方法および検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
急性機能不全患者に対し治療介入する上で、治療介入方法や治療管理の方法を決定し患者の予後を判定することは極めて重要である。患者の予後を予測する指標としてはAPACHE IIスコア(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II Score)ならびにSOFAスコア(Sequential Organ Failure Assesment Score)が代表である。SOFAスコアやAPACHE IIスコアは複数のパラメーターから算出されるスコアリング方法である。SOFAスコアは、呼吸器を酸素比(PaO/FiO)で、凝固系を血小板数で、肝機能をビリルビン値で、心血管系を血圧やエピネフリン投与量で、中枢神経をGlasgow Coma Scaleで、腎機能をクレアチニンもしくは尿量で、それぞれ5段階に分類しスコアリングする。さらに、Glasgow Coma Scaleは、開眼機能、言語機能、及び運動機能からなる3機能のスコアリングの合計値をもってスコアリングがなされる。APACHE IIスコアは、さらに複数のパラメーターからスコアリングがなされる。
【0003】
集中治療室(ICU)においてこれらスコアの取得は可能であるが、パラメーターが多く煩雑であること、医師の主観に左右されるパラメーターも存在するため医師間差が危惧されること、治療介入により大きく変動するパラメーターが存在すること、等の問題点がある。また、ICU以外ではこれらスコアを取得することは容易ではなく、SOFAスコアやAPACHE IIスコアに置き換わる簡便な診断マーカーが切望されている。
【0004】
急性機能不全患者を敗血症に限れば予後予測が可能なマーカーとしてプロカルシトニン(以下、PCTと記載する場合もある)、アドレノメデュリン(非特許文献1、2)が報告されている。これら報告は単点測定値をある閾値をもって弁別した際の予後予測結果であり、実際の臨床現場では採血が行われた時点での患者の状態は軽度から重度まで非常に幅広く、採血時点での各マーカーの濃度幅は非常に大きいため単点測定値では予後予測精度が十分でないことが予想される。さらに、透析、血液浄化、侵襲性の高い手術などの治療介入が行われるとこれらマーカーを含めSOFAスコアなども大きく変動するため、単点測定での診断精度が確保できないことが予想される。
【0005】
アドレノメデュリンは北村らによりヒト褐色細胞腫組織から発見された血管拡張性ペプチドであり、52個のアミノ酸からなり、最終的にC末端がアミド化され生理活性を有した成熟型アドレノメデュリンとなる(非特許文献3、特許文献1)。ヒトアドレノメデュリン前駆体は185個のアミノ酸からなり、N末端側より21アミノ酸からなるシグナルペプチド、20個のアミノ酸からなるプロアドレノメデュリン(PAMP)、54アミノ酸からなる中間領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、52アミノ酸からなるアドレノメデュリン(以下、AMと記載する場合もある。配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るもの。)、及び38アミノ酸からなるC末端アドレノメデュリンで構成される。AMは前駆体であるpreproAMからプロセッシングを受け切断された後、C末端にグリシンが付加した状態の中間体アドレノメデュリン(以下、iAMと記載する場合もある。配列番号1に記載のアミノ酸配列のC末端にグリシン(Gly)が付加したもの。)を経て、アミド化酵素によりC末端がアミド(-CONH)の成熟型アドレノメデュリン(以下、mAMと記載する場合もある。配列番号1に記載のアミノ酸配列のC末端がアミド化(-CONH)したもの。)となる。
PAMPならびにmAMはそのレセプターを介した生理活性を有することから血清中での消失が通常の代謝に加えレセプターによる取込みにより極めて短い特徴を有している。AMの生理活性は血行動態改善、臓器保護作用、抗炎症作用、組織再生等の報告があるが未だ不明な点も多い。またアドレノメデュリンは血中半減期が極めて短いことから血清マーカーとしての利用が困難(非特許文献4、5)とされていた。血清中のAM濃度が変動する疾患としては、敗血症、心疾患、炎症性腸疾患等の報告があり、また単点測定で敗血症の予後予測が可能であることを示す報告もある。
【0006】
本発明者らは、敗血症、あるいは敗血症が疑われる患者等の急性機能不全患者に対して各種パラメーター値と患者予後の関係を検討したところ、単点測定ではSOFAスコアが最も予後予測能が高いこと、ならびにアドレノメデュリンは単点測定では論文報告にあるような予後予測が困難であるという結論を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-196693号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Int.J.Adv.Res.Biol.Sci.2016;3:136-141
【文献】J.Crit.Care 2017;38:68-72
【文献】Biochem.Biophys.Res.Commun.1993;192:553-560
【文献】J.Endocrinol.Metab.1997;82:95-100
【文献】Clin.Chem.1998;44:571-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで急性機能不全患者に対し、APACHE IIスコアやSOFAスコアの代用となる簡便な予後予測マーカーが切望されていた。本発明の目的は、患者予後を簡便に予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、敗血症が疑われるような急性機能不全患者に対し経時的に各種パラメーターを解析した結果、アドレノメデュリンの濃度変動が最も良好な予後予測因子であることを見いだし、本発明に到達した。即ち本発明は下記の発明を包含する。
【0011】
(1)急性機能不全患者の予後を予測するための情報を提供する方法であって、下記のステップを含む方法:
(a)前記患者に由来する検体中のアドレノメデュリン類量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)と同じ患者に由来する検体であって、ステップ(a)の検体を採取後に採取された検体中のアドレノメデュリン類量を測定するステップ、
(c)前記(a)の測定値と前記(b)の測定値との差分を求めるステップ、及び
(d-1)前記(c)の差分において、(b)の測定値から(a)の測定値を差引いた値が正の場合、もしくは(a)の測定値から(b)の測定値を差引いた値が負の場合は、前記患者の予後が不良であると予測することを関連づけるステップ、及び/又は
(d-2)前記(c)の差分において、(b)の測定値から(a)の測定値を差引いた値が負の場合、もしくは(a)の測定値から(b)の測定値を差引いた値が正の場合は、前記患者の予後が良好であると予測することを関連づけるステップ。
【0012】
(2)前記(a)の検体が治療介入前の検体であり、前記(b)の検体が治療介入後の検体である、(1)に記載の方法。
(3)治療介入が手術である、(2)に記載の方法。
(4)患者が敗血症あるいは敗血症が疑われる患者である、(1)~(3)いずれかに記載の方法。
(5)ステップ(b)の検体が、治療介入後7日以内に採取されたものである、(2)~(4)いずれかに記載の方法。
(6)ステップ(b)の検体が、治療介入後48時間以内に採取されたものである、(2)~(5)いずれかに記載の方法。
(7)ステップ(b)の検体が、治療介入後24時間以内に採取されたものである、(2)~(6)いずれかに記載の方法。
(8)ステップ(b)の検体が、治療介入後12時間以内に採取されたものである、(2)~(7)いずれかに記載の方法。
(9)治療介入してから4週間以内の予後を予測する、(1)~(8)いずれかに記載の方法。
(10)アドレノメデュリン類が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、(1)~(9)いずれかに記載の方法。
(11)アドレノメデュリン類が、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、中間体アドレノメデュリン、成熟型アドレノメデュリン、及びアドレノメデュリン部分ペプチドからなる群から選択される一種又は二種以上である、(1)~(9)いずれかに記載の方法。
(12)アドレノメデュリン類が、アドレノメデュリン部分ペプチドである、(11)に記載の方法。
(13)アドレノメデュリン類が、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、中間体アドレノメデュリン、成熟型アドレノメデュリン、及びアドレノメデュリン部分ペプチドである、(11)に記載の方法。
(14)アドレノメデュリン類が、成熟型アドレノメデュリンおよびその部分ペプチドである、(11)に記載の方法。
(15)アドレノメデュリン類を認識する抗体を用いて免疫化学的方法により測定する、(1)~(14)いずれかに記載の方法。
(16)アドレノメデュリン類を認識する抗体を含有することを特徴とする、(1)~(15)いずれかに記載の方法に使用するための測定試薬。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明において、急性機能不全患者とは特に限定されるものではないが、例えば敗血症あるいは敗血症が疑われる患者等を上げることができる。
【0014】
本発明において用いられる検体は特に限定はなく、血液成分等をあげることができ、その中でも全血、血球、血漿などが好ましく、血清、血漿が更に好ましい。また、検体採取後のアドレノメデュリン(AM)類の分解を抑える目的で消化酵素阻害剤を添加する、あるいは添加された採血管の使用、あるいは採血後冷蔵保存することが好ましい。
本発明において、通常は、ステップ(a)より先に、前記患者に由来する検体を用意するステップ(a’)が行われる。また、通常は、ステップ(b)より先にかつステップ(a’)より後に、同患者に由来する検体を用意するステップ(b’)が行われる。通常は、ステップ(a’)で用意された検体はステップ(a)の測定に供され、ステップ(b’)で用意された検体はステップ(b)の測定に供される。なお、「用意する」とは、検体を患者から採取すること、必要に応じて測定前処理を施すこと、及び測定に供する状態に整えることを含む。通常は、ステップ(a’)とステップ(b’)とでは同じ前処理等が施される。
【0015】
また本発明において、ステップ(b)で測定される検体は、ステップ(a)と同じ患者に由来するものであって、但し、ステップ(a)で測定される検体が採取された後に、採取されたものである。即ち、ステップ(b)で測定される検体は、ステップ(a)で測定される検体が採取された後、ある時間が経過してから同じ患者から採取されたものである。そのため、ステップ(a)及び(b)により、同一患者に由来する検体中のAM類の濃度変動を知ることができる。
なお、本明細書において患者に「由来する」ものとは、患者から採取したもの、または該採取したものに処理を施したものを意味する。前記処理としては、例えば消化酵素阻害剤等の添加や、遠心分離、冷蔵保存等が挙げられる。
【0016】
本発明において、患者の予後を予測するとは、生存/死亡の二者を識別し予測するだけでなく、生存~死亡間の程度や割合を予測することも含まれるものである。
【0017】
本発明の方法により、急性機能不全患者の予後を予測するための情報が提供される。そして医師等は、提供された情報等を参照して、予後を予測する。即ち本発明の方法自体は、急性機能不全患者の予後予測に関する最終的な判断行為は含まず、医師等に判断材料を提供する段階までを含むものである。
【0018】
本発明においては、前記ステップ(a)の検体が治療介入前に採取された検体であり、前記ステップ(b)の検体が治療介入後に採取された検体であることが好ましい。また本発明の方法は、治療介入が手術であることが好ましく、特に集中治療室での処置を必要とする患者予後を予測するための情報を提供するのに好ましいものである。また患者として、敗血症あるいは敗血症疑いの患者の予後を予測することが好ましいものである。またステップ(b)の検体が、治療介入後7日以内に採取されたものであることが好ましく、またより好ましくは治療介入後48時間以内、さらに好ましくは24時間以内、とりわけ好ましくは12時間以内に採取されたものである。さらに予測の際には、治療介入してから4週間以内の予後を予測するものであることが好ましく、特に4週間後の予後を予測するものであることが好ましい。またステップ(a)の検体を採取する好ましい時期は、治療介入前であれば特に限定されないが、通常は急性機能不全(例えば敗血症)の確定診断または急性機能不全(例えば敗血症)疑いの診断がついた後であり、治療介入前の好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内、さらに好ましくは0.5時間以内である。
【0019】
本発明において、測定されるアドレノメデュリン類には特に限定はないが、配列番号1記載のアミノ酸配列を含むものが好ましい。また配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、iAM、又はmAMの量を測定することも好ましく、特にmAM量を測定することが更に好ましい。一方、アドレノメデュリン類として、アドレノメデュリン部分ペプチド量を測定してもよい。このアドレノメデュリン部分ペプチドとは、AM、iAM、mAMなどのアドレノメデュリン類がペプチダーゼなどにより分解を受けた部分ペプチドのことを意味する。
【0020】
また、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、iAM、mAM、及びアドレノメデュリン部分ペプチドから選択される二種以上のアドレノメデュリン類量を測定することも好ましい。さらにアドレノメデュリン類として、配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るアドレノメデュリン、iAM、mAM、及びアドレノメデュリン部分ペプチドの量を測定する、即ちこれらすべてを測定対象とすることも好ましく、本発明ではこれらの合計量をtAM(total AMを意味する)量と記載する場合もある。アドレノメデュリン類として、mAMおよびその部分ペプチドを測定対象とすることも好ましいものである。
【0021】
以上のように測定対象のアドレノメデュリン類には種々のものがあるが、なかでもmAM又はtAMの量を測定することが、本発明の方法においては好ましく、特にmAM量を測定することが好ましいものである。
【0022】
本発明において上述のようなAM類量を測定する方法には特に限定はないが、例えばこれらを認識する抗体を用いた免疫化学的方法があげられる。より具体的には、測定対象のAM類を認識する抗体を含有する試薬を用いて行うことができる。このとき、例えば測定対象のAM類を認識する固相化抗体と、それとは異なる部位で測定対象のAM類を認識する標識化抗体とを含む試薬を用いて、サンドイッチ法により行うことができる。このときの標識としては、酵素等があげられる。なお、tAM量の測定方法及びmAM量の測定方法は、Crit.Care Med.1997;25:953-957、およびClin.Chem.1999;45:244-251に記載の抗体を用いて作製された、Endo.Connect.2015;4:43-49に記載の測定法により、測定可能である。
なお、本明細書においてAM類の量は、通常は検体中の濃度で表される。
【0023】
本発明者らは、集中治療室入室患者において各種パラメーターを測定し、予後予測が可能な診断パラメーターを検証した。その結果、アドレノメデュリン類量の変動による予測が極めて優れていること、特にmAM量の変動による予測が優れていることを見いだした。
【0024】
その機序はプロカルシトニン(血中半減期24時間)等に比較しアドレノメデュリンの代謝速度(血中半減期20分)が極めて速いため、採血時の全身状態をリアルタイムに反映する。そのため、治療介入時のAM濃度への影響が極めて少なく、治療前から治療介入により全身状態が改善すれば濃度が低減すること、また治療介入によっても全身状態が改善されなければ濃度が上昇していることに基づくものと考察している。アドレノメデュリン類量の経時的変動と予後予測の関係については、アドレノメデュリン類量が低下する症例においては予後が良好であり、アドレノメデュリン類量が上昇する症例では予後不良であり、その予後予測能は極めて優れたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、検体中のアドレノメデュリン類の濃度変動により、急性機能不全患者の予後を予測するための情報を提供することが可能である。本発明の測定試薬を用い測定を実施すれば、短時間でアドレノメデュリン類を定量可能であり、SOFAスコアやAPATCHスコアのような煩雑な算出値を出さなくとも予後の予測が可能である。したがって、予後不良と予測された患者への手厚い管理の指標となること、また集中治療室入室前や退出後の患者に対しても煩雑なSOFAスコアやAPATCHスコアの代用として重症度の層別化により適切な予後管理を可能とする簡便、低コストな検査試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際の各パラメーターの1日目データの分布図である。横棒は中央値を示す。
図2】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際の各パラメーターの1日目データの分布図である。横棒は中央値を示す。
図3】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際のSOFAスコア、tAM濃度、mAM濃度、及びPCT濃度の1日目データの分布図である。横棒は中央値を示す。
図4】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際の各パラメーターの3日目データから1日目データを減じた値の分布図である。横棒は中央値、横点線は差分ゼロを示す。
図5】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際の各パラメーターの3日目データから1日目データを減じた値の分布図である。横棒は中央値、横点線は差分ゼロを示す。
図6】SOFAスコア、tAM濃度、及びmAM濃度の3日目データから1日目データをそれぞれ減じた値による、非敗血症、敗血症によらず生存、又は死亡の弁別能のROC曲線である。
図7】非敗血症、敗血症、生存、又は死亡で分類した際のSOFAスコア、tAM濃度、mAM濃度、及びPCT濃度の3日目データから1日目データをそれぞれ減じた値の分布図である。横棒は中央値、横点線は差分ゼロを示す。
図8】PCT濃度、tAM濃度、及びmAM濃度の3日目データから1日目データをそれぞれ減じた値による非敗血症、敗血症によらず生存、又は死亡の弁別能のROC曲線である。
図9】1日目単点測定値、又は3日目測定値から1日目測定値を減じた数値、5日目測定値から1日目測定値を減じた数値、若しくは7日目測定値から1日目測定値を減じた数値を用いた際の、各パラメーターのAUC値を棒グラフで示した図である。
図10】生存、又は死亡で分類した際のmAM濃度の6、12、及び24時間後の測定値から0時間時点の測定値をそれぞれ減じた値の分布図である。横点線は差分ゼロを示す。
【実施例
【0027】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。以下の実験を行うに当たっては、各施設の研究倫理委員会での承認のもと実施した。tAM量測定ならびにmAM量測定は、前述のCrit.Care Med.1997;25:953-957、およびClin.Chem.1999;45:244-251に記載の抗体を用いて作製された、Endo.Connect.2015;4:43-49に記載の測定法により、自動免疫測定装置AIAシリーズ(東ソー社製)を用い実施した。
【0028】
参考例1:患者背景と検体数
集中治療室(ICU)入室患者を対象とし、日本版敗血症診療ガイドライン2016に従い敗血症又は非敗血症の弁別を行った。また、対象患者の4週間後の生存、死亡を予後指標とした。以上分類における患者数ならびに対象検体数を表1に示す。対象患者に対しては集中治療室入室後1日目手術前のデータを1日目データとし、取得パラメーターとして、SOFAスコア(SOFA)、tAM濃度、mAM濃度、CRP(C反応性ペプチド)濃度、血小板数(PLT)、SIRSスコア(SIRS)、白血球数(WBC)、乳酸値(LAC)、ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)濃度、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)濃度、クレアチニン(Cre)濃度を取得した。また、PCT(プロカルシトニン)濃度に関しては欠損値があるため、PCT値までを含めた全データが揃っている例数をカッコ内に記載した。手術は集中治療室入室後1日目に行った。なお、非敗血症予後不良例(死亡)2例はいずれも間質性肺炎増悪によるものである。
【0029】
【表1】
【0030】
比較例1:ICU入室1日目の単点測定での弁別能解析
参考例1記載の26例の対象患者(PCT値欠損患者を含む)において、PCT濃度を除く1日目の各パラメーターによる敗血症又は非敗血症の弁別、敗血症患者の予後の弁別、及び敗血症に関わらない予後の弁別を行った。ROC(Reciver Operating Characteristics)解析による曲線下面積(AUC:Area Under Curve)で比較した結果を表2に示す。また、2群の有意差検定(Mann-Whitney U-test)の結果を表3に示す。また、各分類による各パラメーターの分布図を図1及び2に示す。その結果、いずれの弁別においても単点測定の場合、SOFAスコアが最も優れた弁別能を示した。その際のSOFAスコアによる予後予測に関する弁別能の正確性、感度、特異度、陽性的中率、及び陰性的中率を表4に示す。なお、ROC解析から求めた値である、敗血症弁別では8以上、予後予測では9以上を、閾値として用い算出した。一方、tAM濃度、mAM濃度は既報とは異なり単点測定での弁別能は優れたものではなかった。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
比較例2:ICU入室1日目の単点測定でのPCTによる弁別能解析
参考例1記載のPCT濃度測定が実施された21例の対象患者において、1日目のPCT濃度、SOFAスコア、tAM濃度、及びmAM濃度による、敗血症又は非敗血症の弁別、敗血症患者の予後の弁別、及び敗血症に関わらない予後の弁別を行った。比較例1と同様にROC解析によるAUC比較の結果を表5に、2群の有意差検定の結果を表6に、各分類による各パラメーターの分布図を図3に、それぞれ示す。その結果、いずれの弁別においても単点測定の場合SOFAスコアが最も優れた弁別能を示しPCT濃度の弁別能は優れたものではなかった。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
実施例1:ICU入室3日目のデータから1日目のデータを減じた値での弁別能解析
参考例1記載の対象患者において、1日目ならびに3日目のパラメーターが取得されている患者23例の内訳を表7に示す。なおカッコ内はPCT濃度測定値が欠損していない(PCT値までを含めた全データが揃っている)例数を示している。3日目の各パラメーター値から1日目の各パラメーター値を減じた差を求め、各パラメーターの変動を指標とした弁別能を比較例1同様に解析した。なお、プロカルシトニンに欠損値がある症例は本解析から除外した。ROC解析によるAUC比較を表8に、2群の有意差検定結果を表9に、それぞれ示す。また、各分類による各パラメーターの分布図を図4及び5に示す。
【0038】
その結果、非敗血症又は敗血症の弁別はいずれのパラメーター変動をもっても弁別能が低いことが確認された。一方、敗血症又は非敗血症に関わらず生存又は死亡の予後弁別においてアドレノメデュリン類濃度が優れた弁別能を示し、特にmAM濃度においてはAUCが0.9以上となり、比較例1で得られたSOFAスコア単点測定のAUC以上の弁別能を示すものであった。
本試験でのSOFAスコア、tAM濃度、mAM濃度のROC曲線を図6に示す。その際のmAM濃度、tAM濃度による予後予測に関する弁別能の正確性、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を表10に示す。
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
【表10】
【0043】
実施例2:ICU入室3日目のデータから1日目のデータを減じた値でのPCTによる弁別能解析
実施例1記載のPCT濃度測定が実施された13例の対象患者において、3日目の各パラメーター値から1日目の各パラメーター値を減じた差を求め、各パラメーター(PCT濃度、SOFAスコア、tAM濃度、mAM濃度)の変動を指標とした、敗血症患者の予後の弁別、及び敗血症に関わらない予後の弁別を行った。比較例1と同様ROC解析によりAUC比較を表11に、2群の有意差検定の結果を表12に、各分類による各パラメーターの分布図を図7に、それぞれ示す。敗血症又は非敗血症の弁別は症例数が少なく解析できなかった。
【0044】
その結果、敗血症又は非敗血症に関わらず生存又は死亡の予後弁別においてmAM濃度においてはAUCが0.9以上と優れた弁別能を示した。一方、PCT濃度の弁別能もSOFAスコアの変動での弁別に対しては優れているもののmAM濃度の弁別能に対しては大きく劣るものであった。本試験でのSOFAスコア、tAM濃度、mAM濃度のROC曲線を図8に示す。mAM濃度ならびにPCT濃度による予後予測に関する弁別能の正確性、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を表13に示すが、PCT濃度に対してmAM濃度が優れた正確性(診断精度)を示すものであった。
【0045】
【表11】
【0046】
【表12】
【0047】
【表13】
【0048】
実施例3:ICU入室3日目、5日目、又は7日目のデータから1日目のデータを減じた値での弁別能解析
参考例1記載の対象患者において、1日目および3日目、5日目、7日目のパラメーターを用い、敗血症又は非敗血症に関わらない予後予測能をデータ取得ごとに比較検証した。
対象患者、検体数、及び検体内訳を表14に示す。1日目の各パラメーターによる単点測定でのROC解析によるAUC値(比較例1の結果より)、3日目データから1日目データを減じた数値を用いてのAUC値(実施例1の結果より)、5日目データから1日目データを減じた数値を用いてのAUC値、及び7日目データから1日目データを減じた数値を用いてのAUC値、の4カ所の評価時期における比較解析結果を表15ならびに図9に示す。
【0049】
1日目単点測定での予後弁別能はSOFAスコアのAUC値0.817が最も優れている。3日目以降においてはmAMのAUC値は3、5、7日目それぞれ0.907、0.848、0.875といずれも1日目のSOFAスコアのAUC値を上回る結果を示した。また、tAMにおいても5、7日目においてそれぞれAUC値0.848、0.833と優れた弁別能を示した。SOFAスコア、tAM、mAM以外のパラメーターはAUC値0.750を超えるもの存在しなかった。
【0050】
【表14】
【0051】
【表15】
【0052】
実施例4:ICU入室後6時間、12時間、および24時間のデータからICU入室時(0時間)のデータを減じた濃度での予後予測
ICU入室後、24時間以内のmAM濃度の測定が実施できた15例の患者(敗血症2例、非敗血症13例)において、6時間後から0時間の測定値を減じた濃度差、同様に12時間、24時間後から0時間の測定値を減じた濃度差を算出し、予後良好(生存)群及び予後不良(死亡)群ごとに解析を行なった。なお、予後の指標は4週間後の生存又は死亡とした。
その結果、予後不良群におけるmAMの濃度変動は6時間後の濃度上昇をもって弁別することはできなかったが、12時間後ならびに24時間後においては濃度上昇が認められた(図10)。本結果は、実施例2に示す3日目の結果と一致するもので、12時間以降でmAMの濃度上昇を認めた場合、予後不良群として弁別できることを示す結果である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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