(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の電気防食構造及び電気防食工法
(51)【国際特許分類】
C23F 13/20 20060101AFI20230501BHJP
C04B 28/00 20060101ALI20230501BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20230501BHJP
E04B 1/66 20060101ALI20230501BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230501BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20230501BHJP
E02D 27/52 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C23F13/20 Z
C04B28/00
C23F13/02 B
C23F13/02 L
E04B1/66 Z
E04G23/02 D
E02D27/32 A
E02D27/52
(21)【出願番号】P 2018058064
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-03-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500403309
【氏名又は名称】株式会社ケミカル工事
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國川 正勝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉修
(72)【発明者】
【氏名】若杉 三紀夫
(72)【発明者】
【氏名】小椋 明仁
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-281037(JP,A)
【文献】特開2014-015652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0251793(US,A1)
【文献】特開平05-070977(JP,A)
【文献】特開2006-206953(JP,A)
【文献】特開昭60-149791(JP,A)
【文献】特開2015-004113(JP,A)
【文献】特開2015-200003(JP,A)
【文献】特開2007-284726(JP,A)
【文献】特開2012-067360(JP,A)
【文献】特開2006-248792(JP,A)
【文献】特開平05-097499(JP,A)
【文献】特開平07-206502(JP,A)
【文献】特開平06-122568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00-13/22
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
E04B 1/62-1/99
E04G 23/00-23/08
E02D 27/00-27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を内蔵するコンクリート層を含むコンクリート構造物の電気防食構造であって、
前記コンクリート層の一部を覆うように配置される一次陽極と、
前記一次陽極と前記コンクリート層との間に介在して両者を絶縁する絶縁層と、
前記一次陽極と共に前記コンクリート層を被覆するように配置される半導電性層と、
前記一次陽極を陽極として当該一次陽極と前記鉄筋との間に電圧を印加する直流電源と、を備え、
前記半導電性層が均一な電気抵抗率を有し、
前記一次陽極は、テープ層と、当該テープ層の表面に形成されたメッシュ層とを備える細長いリボン状の電極であり、
前記メッシュ層は、前記テープ層と同じ形状に成形されて当該テープ層の表面を覆う導電性の層であり、
前記絶縁層は、前記一次陽極と同じ形状に成形されており、
前記一次陽極は、前記テープ層の面で前記絶縁層と接すると共に前記メッシュ層の面で前記半導電性層と接しており、
前記半導電性層の電気抵抗率は、前記コンクリート層の電気抵抗率に比して小さいことを特徴とするコンクリート構造物の電気防食構造。
【請求項2】
前記半導電性層が、0.005Ωm以上1.0Ωm未満の範囲に属する均一な電気抵抗率を有することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の電気防食構造。
【請求項3】
前記半導電性層は、
セメント、高炉スラグ微粉末、及びポゾラン物質の少なくとも一つを含む無機系結合材と、
水性ポリマーディスパージョン、及び再乳化形粉末樹脂の少なくとも一つを含むポリマー成分と、
カーボン系、金属系、金属酸化物系、及び金属被覆系の少なくとも一つの導電物質からなる無機系導電性フィラーと、
起泡性の界面活性剤を含む補助成分と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の電気防食構造。
【請求項4】
鉄筋を内蔵するコンクリート層を含むコンクリート構造物の電気防食工法であって、
前記コンクリート層の一部を覆うように、絶縁層を介して一次陽極を配置する工程と、
前記一次陽極の配置後に、当該一次陽極と共に前記コンクリート層を被覆するように半導電性層を形成する工程と、
前記一次陽極が陽極となるように当該一次陽極と前記鉄筋とに直流電源を接続する工程と、を含み、
前記半導電性層が均一な電気抵抗率を有し、
前記一次陽極は、テープ層と、当該テープ層の表面に形成されたメッシュ層とを備える細長いリボン状の電極であり、
前記メッシュ層は、前記テープ層と同じ形状に成形されて当該テープ層の表面を覆う導電性の層であり、
前記絶縁層は、前記一次陽極と同じ形状に成形されており、
前記一次陽極は、前記テープ層の面で前記絶縁層と接すると共に前記メッシュ層の面で前記半導電性層と接しており、
前記半導電性層の電気抵抗率は、前記コンクリート層の電気抵抗率に比して小さいことを特徴とするコンクリート構造物の電気防食工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物の電気防食構造及び電気防食工法に係り、特に、コンクリート層内部の鉄筋の腐食防止に有効なコンクリート構造物の電気防食構造及び電気防食工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-67360号公報には、電気防食電極を用いたコンクリート構造物の電気防食構造が開示されている。この構造において、コンクリート構造物は、内部に鉄筋が設置されたコンクリート層を備えている。電気防食電極は長尺状に成形された導電性物質であり、その一面がコンクリート層の表面に接触するように設置される。
【0003】
コンクリート層の表面には、更に、シート体が配置される。シート体は、電気防食電極を含めて、コンクリート層の表面を被覆するように配置される。シート体は、コンクリート構造物の外面を形成する部材であり、防水性を有している。
【0004】
上記の構造において、電気防食電極と鉄筋との間には、電気防食電極が陽極となるように直流電圧が印加される。鉄筋の腐食には電子の移動が伴う。上記の電圧印加によれば、その電子の移動を阻止して鉄筋の腐食進行を阻止することができる。このため、上記従来の構造によれば、コンクリート内の鉄筋の腐食を長期安定的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の構造において、コンクリート層の表面には、概ね一定の間隔で複数の電気防食電極が配置される。このように配置された電気防食電極に電圧が印加されれば、それらの近傍に高い電位が集中し易く、コンクリート層の表面に電位のむらが生ずる。表面電位にむらが生じれば、コンクリート層の内部を流れる防食電流にもむらが生ずる。防食電流にむらが生じれば、鉄筋の防食効果にもむらが生ずる。このため、上記従来の構造は、コンクリート構造物の全体をむらなく防食するうえで更なる改良の余地を残すものであった。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、コンクリート構造物の全体をむらなく防食するのに適した電気防食構造を提供することを第1の目的とする。
また、この発明は、コンクリート構造物の全体をむらなく防食するのに適した電気防食工法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記第1の目的を達成するため、鉄筋を内蔵するコンクリート層を含むコンクリート構造物の電気防食構造であって、前記コンクリート層の一部を覆うように配置される一次陽極と、前記一次陽極と前記コンクリート層との間に介在して両者を絶縁する絶縁層と、前記一次陽極と共に前記コンクリート層を被覆するように配置される半導電性層と、前記一次陽極を陽極として当該一次陽極と前記鉄筋との間に電圧を印加する直流電源と、を備え、前記半導電性層が均一な電気抵抗率を有することを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、上記第2の目的を達成するため、鉄筋を内蔵するコンクリート層を含むコンクリート構造物の電気防食工法であって、前記コンクリート層の一部を覆うように、絶縁層を介して一次陽極を配置する工程と、前記一次陽極の配置後に、当該一次陽極と共に前記コンクリート層を被覆するように半導電性層を形成する工程と、前記一次陽極が陽極となるように当該一次陽極と前記鉄筋とに直流電源を接続する工程と、を含み、前記半導電性層が均一な電気抵抗率を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1又は第2の発明によれば、一次陽極は絶縁層を介してコンクリート層の表面に配置される。このため、本発明では、一次陽極からコンクリート層へ、防食電流が直接流れ込むことはない。本発明における一次陽極は、半導電性層と直接接している。また、半導電性層は、一次陽極に覆われていない部分においてコンクリート層と直接接している。このため、半導電性層は二次電極として機能し、一次陽極から流出する防食電流は半導電性層を介してコンクリート層の表面に達する。半導電性層は均一な電気抵抗率を有しているため、防食電流は半導電性層において広範囲に広がり、コンクリート構造物の全体において均一な電界分布を作り出すことができる。このため、本発明によれば、防食電流が一次陽極の近傍に集中して流れることがなく、その結果、コンクリート構造物の全体を適切に防食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1で用いられる電気防食構造の概要を説明するための図である。
【
図2】
図1に示すコンクリート構造物の断面を拡大して表した図である。
【
図3】本発明の実施の形態1で用い得るセメント混和用のポリマー成分を例示した図である。
【
図4】本発明の実施の形態1で用い得る無機系導電性フィラーを例示した図である。
【
図5】本発明の実施の形態1で用い得る界面活性剤を例示した図である。
【
図6】鉄筋の不動態皮膜が塩素により破壊される様子を示した図である。
【
図7】鉄筋の腐食に伴って腐食電流が発生する様子を示した図である。
【
図8】鉄筋の腐食と電位との関係を説明するための図である。
【
図9】防食電流が腐食電流を消失させる原理を説明するための図である。
【
図10】本発明の実施の形態1で用いられる電気防食工法のフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態1における防食電流と比較例における防食電流とを対比して表した図である。
【
図12】漏水時に生ずる現象を、本発明の実施の形態1における構造と比較例における構造とで対比して表した図である。
【
図13】乾燥時に生ずる現象を、本発明の実施の形態1における構造と比較例における構造とで対比して表した図である。
【
図14】実施の形態1の電気防食構造に用い得る一次陽極の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
[実施の形態1の電気防食構造]
図1は、本発明の実施の形態1で用いられる電気防食構造の概要を説明するための図である。
図1に示す構造はコンクリート層10を備えている。コンクリート層10には複数の鉄筋12が内蔵されている。本実施形態における鉄筋12は、コンクリート層10の内部に格子状に配置されている。
【0013】
コンクリート層10の表面には、複数の一次陽極14が配置されている。一次陽極14は、細長いリボン状の導電性物質であり、コンクリート層10の全面に一定の間隔で平行に配置されている。本実施形態では、具体的には、片面においてのみ電流を授受する機能を有するMMOチタンテープが一次陽極14として用いられる。一次陽極14は、電流を授受しない面がコンクリート層10と対向するように配置される。一次陽極14の間隔は、10~50cmの範囲で適宜設定することができ、本実施形態では50cmとしている。
【0014】
コンクリート層10及び一次陽極14は、半導電性層16により被覆されている。その結果、一次陽極14は、電流を授受する面において半導電性層16と接する。半導電性層16は、一次陽極14が存在しない領域では、コンクリート層10の表面と直接接している。半導電性層16は、二次陽極として機能する層であり、0.005Ωm以上1.0Ωm未満の範囲に属する均一な電気抵抗率を有することが望ましい。更に、半導電性層16は、3~10mm程度の均一な厚さを有することが望ましい。本実施形態では、半導電性層16の電気抵抗率は全域で0.5Ωmに調整されている。また、半導電性層16の厚さは全域で5mmに調整されている。
【0015】
図1に示す構造は、更に、直流電源18を備えている。直流電源18の陰極20は鉄筋12に結線される。また、直流電源18の陽極22は一次陽極14に結線される。このため、鉄筋12は陰極20と等電位となり、他方、一次陽極14は陽極22と等電位となる。その結果、鉄筋12と一次陽極14との間には、一次陽極14の側が高電位となるように、直流電源18が発する電圧が印加される。
【0016】
図2は、
図1に示すコンクリート構造物の断面を、
図1に示すII矢視で示した拡大図である。
図2に示すように、一次陽極14は、絶縁層24を介してコンクリート層10の表面に設置されている。絶縁層24は、絶縁性を有する有機系の接着剤又は両面テープにより構成することができる。この絶縁層24は、水の透過を防ぐ機能を有していることが望ましい。
【0017】
半導電性層16の材料となる半導電性ポリマーセメント組成物は、(1)無機系結合材と、(2)ポリマー成分と、(3)無機系導電性フィラーとを主成分としており、(4)起泡性の界面活性剤を含む補助成分を更に含んでいる。
【0018】
(1)無機系結合材は、セメント、高炉スラグ微粉末、ポゾラン物質の少なくとも一つを含んでいる。セメントとしては、ポルトランドセメント、混合セメント、白色セメント、超微粒子セメント、高ビーライトセメント、超速硬セメント、及びアルミナセメントの何れかを単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0019】
(2)ポリマー成分としては、液状ポリマーを除く全てのセメント混和用ポリマーを用いることができる。具体的には、本実施形態で用いるポリマー成分は、水性ポリマーディスパージョン、及び再乳化形粉末樹脂の少なくとも一つを含む。水性ポリマーディスパージョンは液中に35~45%程度の固形分を含む液状物質であり、一方、再乳化形粉末樹脂はほぼ100%が固形分である物質である。
図3に、本実施形態で用い得るポリマー成分を例示する。但し、
図3において、「液状ポリマー」にハッチングが付されているのは、「液状ポリマー」が本実施形態では用い得ないことを表している。ポリマー成分は、無機系結合材に対して固形分換算で重量比15~45wt%の範囲内に調製されることが望ましい。この調整によれば、半導電性層16の付着強度は、材齢28日で1.5N/mm
2以上を確保することができる。
【0020】
(3)無機系導電性フィラーは、カーボン系、金属系、金属酸化物系、及び金属被覆系の少なくとも一つの導電物質から構成される。
図4は、本実施形態で用い得る無機系導電性フィラーを、夫々の形状と共に例示している。尚、金属被覆系とは、マイカ等のベースフィラーをニッケル等の被覆材で覆った構造体である。本実施形態では、カーボン系の導電性フィラーを半導電性層16に混入させている。半導電性層16の電気抵抗率は、この導電性フィラーの混入率により調整されている。無機系導電性フィラーは、無機系結合材に対して重量比40~250wt%の範囲内で混入させることが望ましい。この重量比によれば、隣接する無機系導電性フィラーの粒子が互いに接触し合うようなフィラー分布が実現され、半導電性層16の全域に均一な電界分布を形成することが可能となる。この際、半導電性層16の電気抵抗率は0.005~1.0Ωmに収まる値となる。
【0021】
(4)補助成分としては、界面活性剤の他に、膨張材、繊維材料、及び珪砂を含めることができる。膨張材は、乾燥時の半導電性層16の収縮を抑制するために添加される。繊維材料は、半導電性層16の表面のひび割れ防止を目的として添加される。また、珪砂は、一度の作業で塗布できる層の厚さを増やす目的で添加される。
【0022】
界面活性剤は、半導電性ポリマーセメント組成物を吹き付けて半導電性層16を成形する場合の圧送性向上、吹き付け性向上、及び作業性の向上を第1の目的として添加される。本実施形態では、界面活性剤として起泡性の活性剤が用いられる。
図5は、本実施形態で用い得る界面活性剤を例示している。起泡性の界面活性剤を混入させて半導電性ポリマーセメント組成物に泡を巻き込むと、当該組成物を軽量化することができる。そして、軽量化によって、当該組成物の圧送性やコテおさえの作業性が向上する。更に、半導電性ポリマーセメント組成物に界面活性剤に起因する泡が巻き込まれると、界面活性剤が無添加である場合に比して半導電性層16の電気抵抗率が低下する。このため、本実施形態では、少量の導電性フィラーで所望の電気的効率が得られており、低コストで半導電性層16を成形することが可能となっている。
【0023】
無機系結合材に対する起泡性の界面活性剤の重量比は0.3~3.0wt%の範囲内で均一であることが望ましい。この重量比によれば、混練時における半導電性ポリマーセメント組成物の比重を1.5以下に抑えることができ、当該組成物の作業性を更に高めることができる。
【0024】
[電気防食の原理]
次に、
図6乃至
図9を参照して電気防食の原理について説明する。
図6は、鉄筋12の不動態皮膜26が塩素により破壊される様子を示している。コンクリート中のアルカリ環境下では、鉄筋12の表面に不動態皮膜26が形成される。不動態皮膜26は極めて密であり鉄筋12の表面を腐食から保護する。しかし、コンクリートの中性化や塩化物イオンの混入が生ずると、
図6に示すように、不動態皮膜26に破壊が生ずる。不動態皮膜26が破壊された箇所では鉄筋12が活性態となり腐食し易い状態となる。
【0025】
図7は、活性態となった鉄筋12の腐食に伴って腐食電流が発生する様子を示している。不動態皮膜26が破壊された箇所では鉄筋12に腐食が生じ得る。そして、鉄筋12の腐食が進行する際には、その表面で、鉄がイオン化するアノード反応と、酸素が還元するカソード反応とが、それぞれ次式(1)及び(2)のように進行する。その結果、鉄筋12及びコンクリート層10の内部には、
図7に示すような腐食電流28,30が流れる。
Fe→Fe
2++2e
- ・・・(1)
2e
-+H
2O+(1/2)O
2→2OH
- ・・・(2)
【0026】
図8は、鉄筋12に腐食電池が形成されている状態を示す。
図8に示すように、鉄筋12に腐食が生ずる際には、腐食部の電位がその周囲の健全部の電位に比して低くなる。この電位差により鉄筋12の内部には腐食電池が形成され、腐食部から健全部へ向かう電子の流れが生ずる。
【0027】
図9は、腐食電池を打ち消す電圧が鉄筋12に印加されている状態を示す。上述した通り、本実施形態では、直流電源18の陰極20及び陽極22が、夫々鉄筋12及び一次陽極14に結線されている。そして、一次陽極14は、二次陽極として機能する半導電性層16と電気的に接触している。このような構成によれば、陽極(一次陽極14及び半導電性層16)と鉄筋12との間に電界が発生し、その結果、コンクリート層10を通って一次陽極14から鉄筋12に向かう防食電流32が生ずる。これにより、鉄筋12の全域に電子が均等に分布し、鉄筋12の電位が全域で等しくなる。その結果、腐食部から健全部への電子の移動が阻止され、鉄筋12の腐食進行が抑えられる。本実施形態によれば、このような原理で、鉄筋12の腐食進行を防ぐことができる。
【0028】
[実施の形態1の電気防食工法]
図10は、本実施形態において用いられる電気防食工法のフローチャートである。尚、このフローチャートは、コンクリート層10の形成後に実行される工程を説明するためのものである。
【0029】
図10に示す工法では、先ず準備工が行われる(S100)。具体的には、照合電極、排流端子等の設置工が行われる。次いで、下地処理工、更にはマーキング工が行われる。
【0030】
次に、陽極設置工が行われる(S102)。ここでは先ず、コンクリート表面水洗工が行われる(S102-2)。これにより、コンクリート層10の表面が清浄化される。次に、一次陽極設置工が行われる(S102-4)。具体的には、絶縁性のある有機系接着剤又は両面テープにより、一次陽極14となるMMOチタンテープがコンクリート層10に接着される。この際、MMOチタンテープは、電流を授受しない面でコンクリート層10に接着される。
【0031】
次いで、半導電性層被覆工が行われる(S102-6)。本実施形態では、本工程に先立って、上述した(1)無機系結合材、(2)ポリマー成分、(3)無機系導電性フィラー、及び(4)補助成分を含むポリマーセメント組成物が準備される。このポリマーセメント組成物は、乾燥して半導電性層16となった際に0.5Ωmの電気抵抗率を示すように調整されている。本工程では、そのポリマーセメント組成物が、吹き付け又はコテ塗りにより、5mmの半導電性層16が形成されるように、コンクリート層10に塗り付けられる。この工程が終わると、次に、表面保護工が行われる(S102-8)。
【0032】
上記の工程が終了したら、配線配管工が行われる(S104)。ここでは、鉄筋12及び一次陽極14に直流電源18を接続するために必要な配線及び配管に関する工事が行われる。
【0033】
次いで、直流電源設置工が行われる(S106)。これにより、直流電源18の陰極20及び陽極22が、夫々鉄筋12及び一次陽極14に結線される。以上の工事が行われることにより
図1に示す電気防食構造が実現される。
【0034】
[実施の形態1の効果]
(むらの無い防食電流)
図11(A)は、本実施形態によって実現される電気防食構造の内部に生ずる防食電流の流れを示す。また、
図11(B)は、一般的なチタンリボンメッシュ工法により実現される防食構造の内部に生ずる防食電流の流れを示す。
【0035】
チタンリボンメッシュ工法では、以下のような手順により電気防食構造が形成される。
(1)コンクリート層10の表面付近を切削して、陽極を埋め込むためのスペース34を形成する。
(2)上記のスペース34に、陽極としてチタンリボンメッシュ36を配置する。チタンリボンメッシュ36は、少なくとも鉄筋12側の面で電流を授受することができる。
(3)チタンリボンメッシュ36を配置した後、モルタル38でスペース34を埋め戻す。
【0036】
コンクリート層10を形成するコンクリート、並びにスペースの埋め戻しに用いられるモルタルは、概ね10
2~10
4Ωm程度の電気抵抗率を有している。上述した通り、本実施形態が半導電性層16に許容する最大の電気抵抗率は10Ωmである。従って、
図11(B)に示すチタンリボンメッシュ36は、本実施形態における半導電性層16の10倍以上の電気抵抗率を有する部材によって囲まれることになる。
【0037】
図11(B)に示すように、チタンリボンメッシュ36(陽極)が一律に高い電気抵抗率を示すコンクリートによって囲まれている場合、防食電流32は、チタンリボンメッシュ36が存在する領域に偏在して流通し易い。加えて、
図11(B)に示す構成では、チタンリボンメッシュ36が、鉄筋12と対向する側の面で電流を授受できる。このため、このような構成によれば、防食電流は、チタンリボンメッシュ36の近傍に局所的に集中し易い。
【0038】
図11(A)に示すように、本実施形態の電気防食構造では、コンクリート層10の表面が半導電性層16によって覆われている。そして、半導電性層16は、コンクリートに比して十分に小さな電気抵抗率を示す。更に、本実施形態の構造では、一次陽極14が、鉄筋12と対向しない面のみで電流を授受する。このため、防食電流32は、電気抵抗率の低い半導電性層16を通って十分に離間した領域にまで流通することができる。その結果、この構造によれば、
図11(A)に示すように、一次陽極14の近傍のみならず、一次陽極14から離れた領域においても防食電流を流通させることができる。
【0039】
特に、本実施形態の電気防食構造では、半導電性層16に、0.5Ωmという低い電気抵抗率を与えている。0.005Ωm以上1.0Ωm未満の電気抵抗率を有する半導電性層16は、防食電流のような微小電流が流れる条件下では、実質的に導体と同じ程度に均一な電位分布を実現することができる。
【0040】
鉄筋12の腐食を抑制するうえでは、鉄筋12の電位が広範囲で均一化されていることが望ましい。そして、鉄筋12の電位を広範囲で均一化するためには、コンクリート層10の内部を、広範囲に渡って防食電流が流通することが望ましい。上記の通り、本実施形態の構造によれば、コンクリート層10の広い範囲に均一に防食電流を分散して流通させることができる。このため、本実施形態の構造によれば、コンクリート層10内部の広範な領域において優れた防食効果を得ることができる。
【0041】
(耐漏水性)
図12(A)は、本実施形態の電気防食構造においてコンクリート層10に漏水40が生じた際の現象を説明するための図である。また、
図12(B)は、チタンリボンメッシュ工法により実現される防食構造においてコンクリート層10に漏水42が生じた際の現象を説明するための図である。
【0042】
本実施形態が想定するコンクリート構造体は、送電線やガス管を収容する洞道の壁面等に用いることができる。洞道のような使用環境下では、コンクリート層10に漏水が生ずることがある。
【0043】
図12(B)に示すように、一般的なチタンリボンメッシュ工法による電気防食構造では、モルタル38とコンクリート層10との間に境界が存在する。コンクリート層10のひび割れに沿って生じた漏水42は、この種の境界に浸入しやすい。そして、
図12(B)に示す構成では、上記の境界から浸入した漏水42は、モルタル38を通過してチタンリボンメッシュ36に到達することができる。漏水42の電気抵抗率は、コンクリートに比して遥かに小さい。このため、漏水42がチタンリボンメッシュ36に到達すれば、そのチタンリボンメッシュ36からは、漏水42を伝って過剰電流44が流れ出る。このような過剰電流44が生ずると、コンクリートの内部で酸が発生し、コンクリートの劣化が促進される。更に、一部のチタンリボンメッシュ36が過剰電流44を生じさせれば、他のチタンリボンメッシュ36から流出する防食電流46が不十分なものとなる。このように、
図12(B)に示す電気防食構造は、漏水42に対して高い耐性を有するものではない。
【0044】
図12(A)に示す本実施形態の電気防食構造では、一次陽極14が、絶縁層24を介してコンクリート層10の表面に貼り付けられている。このような構成によれば、仮に漏水40が、コンクリート層10と半導電性層16との間に侵入しても、水が一次陽極14にまで達することはない。このため、本実施形態の電気防食構造では、コンクリート層10に漏水40が生じても、一次陽極14から過剰電流は発生し難い。過剰電流が発生しなければ、コンクリートの劣化が促進されることも、一部の一次陽極14からの防食電流が不十分なものとなることもない。このように、本実施形態の電気防食構造は、コンクリート構造体に高い耐漏水性を付与することができる。
【0045】
(耐乾燥性)
図13(A)は、本実施形態の電気防食構造が乾燥環境下に置かれた場合に生ずる現象を説明するための図である。また、
図13(B)は、チタンリボンメッシュ工法により実現される防食構造が乾燥環境下に置かれた場合に生ずる現象を説明するための図である。
【0046】
図13(B)に示す電気防食構造では、コンクリート層10の表面が直接大気に解放されている。このため、この構造が乾燥環境下に置かれれば、時間の経過と共にコンクリート層10の乾燥が進行する。コンクリート層10の内部では、水分が電気を流通させる媒体としても機能する。このため、コンクリート層10が乾燥するほど、コンクリート層10を流れる防食電流46は少量となる。その結果、
図13(B)に示す構造では、乾燥環境下では、十分な防食効果が得られない事態が生じ得る。
【0047】
図13(A)に示す本実施形態の電気防食構造では、コンクリート層10の表面が半導電性層16により覆われている。半導電性層16は、主として導電性フィラーを媒体として電気を流通させるため、乾燥の程度に影響されることなく安定した電気抵抗率を示す。また、本実施形態におけるコンクリート層10は、半導電性層16が乾燥防止膜として機能するため、乾燥環境下に置かれても過剰な乾燥状態にはならない。このため、本実施形態の電気防食構造によれば、乾燥環境下でも、防食電流を安定的に流通させ続けることができる。防食電流が安定的に流通すれば、鉄筋12の防食効果を安定的に得ることができる。このように、本実施形態の電気防食構造は、コンクリート構造体に高い耐乾燥性を付与することができる。
【0048】
(優れた作業性)
上述したチタンリボンメッシュ工法では、コンクリート層10の表面に、チタンリボンメッシュ36を埋め込むスペース34を設けるためのはつり作業や、そのスペース34の埋め戻し作業が必要となる。洞道のような狭小なスペース内では、これらの作業を行うことが必ずしも容易ではない。本実施形態の電気防食工法では、そのようなはつり作業や埋め戻し作業を行う必要がない。この点、本実施形態の工法は、洞道のような狭小なスペースで作業を進めるうえでも、チタンリボンメッシュ工法に比して優れた特性を有している。
【0049】
[実施の形態1の変形例]
図14は、実施の形態1の電気防食構造に用い得る一次陽極の変形例の構成を示す。より具体的には、
図14(A)は変形例の一次陽極50を平面視で表した図である。また、
図14(B)は、一次陽極50を
図14(A)に示すB-B矢視で示した断面図である。
【0050】
図14に示す一次陽極50は、MMOチタンテープで構成されたテープ層52を備えている。テープ層52の表面には、メッシュ層54が形成されている。メッシュ層54は、MMOチタンテープと同様にチタン製であり、メッシュ構造を有している。一次陽極50は、例えば20mm程度の幅を有している。一方、メッシュ層54が備える菱形状の個々の開口は、長手方向の対角長が3mm程度、短手方向の対角長が1.5mm程度の大きさとされている。
【0051】
テープ層52の裏面には、絶縁層56を構成する両面テープが貼付されている。テープ層52及びメッシュ層54の厚さは、夫々0.07mm程度及び0.3mm程度である。一方、絶縁層56の厚さは0.4mm程度である。尚、これらの寸法はあくまで例示であり、一次陽極50の構造がこれらに限定されるものではない。
【0052】
図14に示す一次陽極50は、絶縁層56がコンクリート層10(
図2参照)に接し、かつ、メッシュ層54が半導電性層16(
図2参照)に接するように用いられる。このような構造によれば、半導電性層16がメッシュ層54の個々の開口に入り込むことにより、両者の接触面積が確保され、その結果、両者の接触強度が確保できる。このため、一次陽極50を用いると、電気防食構造の安定性及び耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 コンクリート層
12 鉄筋
14、50 一次陽極
16 半導電性層
18 直流電源
20 陰極
22 陽極
24、56 絶縁層
32、46 防食電流
54 メッシュ層