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特許7270923過負荷保護装置、ギヤードモータ、及び、モータのトルク換算値を出力する方法
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  • 特許-過負荷保護装置、ギヤードモータ、及び、モータのトルク換算値を出力する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】過負荷保護装置、ギヤードモータ、及び、モータのトルク換算値を出力する方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20230501BHJP
【FI】
H02P29/024
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019069723
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020171070
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000237835
【氏名又は名称】富士変速機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508207790
【氏名又は名称】有限会社 和晃
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 悦宏
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】水科 晃
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-228822(JP,A)
【文献】特開2017-046368(JP,A)
【文献】特開2001-245490(JP,A)
【文献】特開2015-073352(JP,A)
【文献】特開2015-023635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02P 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動装置を駆動するモータに電気的に接続され、前記モータの過負荷を検知したときに前記モータを保護するように動作する過負荷保護装置であって、
前記モータに流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する電流計測手段と、
前記モータの電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する電圧計測手段と、
電源から前記モータへの電力の供給を遮断又は低減する電源遮断手段と、
事前に収集された、前記モータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群からなるモータ特性のルックアップテーブルを記憶する記憶部と、
前記電流計測手段、前記電圧計測手段及び前記電源遮断手段の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部から前記ルックアップテーブルを参照し、前記電流計測値及び前記電圧計測値の経時データに基づいて前記モータのトルク変換値を経時的に出力し、
前記制御部は、前記トルク変換値が、予め設定された所定の遮断閾値を超過したこと、又は、前記所定の遮断閾値に到達したことを検知したときに、前記電源遮断手段で前記電源を遮断又は低減することを特徴とする過負荷保護装置。
【請求項2】
前記ルックアップテーブルの電流値及びトルク値は、一定電圧で複数回測定された電流値及びトルク値の測定プロットの近似曲線から得られ、前記ルックアップテーブルは、複数の電圧値ごとに前記近似曲線をそれぞれ有することを特徴とする請求項1に記載の過負荷保護装置。
【請求項3】
第1の一定電圧値で測定された電流値及びトルク値の第1近似曲線、及び、第2の一定電圧値で測定された電流値及びトルク値の第2近似曲線に基づいて、前記第1の一定電圧値と前記第2の一定電圧値との間の電圧計測値におけるトルク変換値が補完されることを特徴とする請求項2に記載の過負荷保護装置。
【請求項4】
データを送受信するための通信手段をさらに備え、前記記憶部は、前記通信手段を介して通信可能な外部サーバーに設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の過負荷保護装置。
【請求項5】
モータ、前記モータの出力軸に連結され、被駆動装置に動力を出力する減速機、及び、請求項1から4のいずれか一項に記載の過負荷保護装置を備えることを特徴とするギヤードモータ。
【請求項6】
モータのトルク換算値を出力する方法であって、
前記モータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群を収集し、モータ特性のルックアップテーブルを生成する工程と、
電流計測手段で前記モータに流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する工程と、
電圧計測手段で前記モータの電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する工程と、
前記ルックアップテーブルを参照し、前記電流計測値及び前記電圧計測値の経時データに基づいて前記モータのトルク変換値を経時的に出力する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動装置を駆動するギヤードモータの負荷状態を監視し、過大な負荷を検出したときにギヤードモータへの電力の供給を遮断又は制限することにより、被駆動装置及び/又はギヤードモータの損傷を防止する過負荷保護装置、及び、該過負荷保護装置を備えたギヤードモータに関する。さらに、本発明は、モータの電流計測値及び電圧計測値からモータの出力軸におけるトルク換算値を出力する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンベヤ装置等の被駆動装置をギヤードモータで駆動する際、異物の噛み込み等によって負荷が急激に上昇し、この過負荷状態でギヤードモータの駆動が続いた場合、ギヤードモータ及び被駆動装置の一方又は両方が物理的に損傷することがあった。これに対し、ギヤードモータの過負荷を検出し、ギヤードモータへの電力の供給を遮断又は制限することにより、ギヤードモータ及び被駆動装置の損傷を防止する過負荷保護装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ギヤードモータによる産業機械が破壊を防止する過負荷保護装置を備えるギヤードモータを開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。過負遮断装置(4)は、モータ(2)の定格電流値未満の所定の電流値を電流の指定値(6)に選定し、且つ、電流の指定値(6)を超える過負荷電流値(5)で電流が流れる所定の時間を過負荷電流時間の指定値(7)に選定する指定値設定手段(14)と、指定値設定手段(14)に選定された電流の指定値(6)を超過した過負荷電流値(5)と過負荷電流時間を検知する過電流検知手段(15)と、過負荷電流時間が過負荷電流時間の指定値を超えたことが過電流検知手段(15)によって検知された場合、モータ(2)に供給する電源を遮断する電源遮断手段(19)と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6216110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の過負荷保護装置は、モータを流れる電流の値の上昇を読み取って、計測した電流値が電流の指定値を超えると、過負荷を検出してモータを電源から遮断する。しかしながら、電流及び電圧の測定値は、実際のモータのトルク値を正確に反映するものではないことから、モータを所望のトルク値で確実に停止させることができなかった。例えば、電流の指定値のトルク値が想定したトルク値よりも大きいと、所望のトルク値を超えてもモータが動作して被駆動装置やギヤードモータを損傷する虞があった。これに対して、トルク値のずれを見越してマージンを設けて電流の指定値を下げると、モータの停止が頻発するという不具合が生じることが考えられる。すなわち、従来の過負荷保護装置では、モータの過負荷を正確なトルク値で制御することができないことが課題であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より正確なトルク値でモータの過負荷を制御可能とする過負荷保護装置及びギヤードモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に記載の過負荷保護装置は、被駆動装置を駆動するモータに電気的に接続され、前記モータの過負荷を検知したときに前記モータを保護するように動作する過負荷保護装置であって、
前記モータに流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する電流計測手段と、
前記モータの電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する電圧計測手段と、
電源から前記モータへの電力の供給を遮断又は低減する電源遮断手段と、
事前に収集された、前記モータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群からなるモータ特性のルックアップテーブルを記憶する記憶部と、
前記電流計測手段、前記電圧計測手段及び前記電源遮断手段の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部から前記ルックアップテーブルを参照し、前記電流計測値及び前記電圧計測値の経時データに基づいて前記モータのトルク変換値を経時的に出力し、
前記制御部は、前記トルク変換値が、予め設定された所定の遮断閾値を超過したこと、又は、前記所定の遮断閾値に到達したことを検知したときに、前記電源遮断手段で前記電源を遮断又は低減することを特徴とする。
【0008】
本発明の過負荷保護装置は、モータの電流-電圧-トルク特性を示すルックアップテーブルを参照して、経時的に取得された電流計測値及び電圧計測値からトルク変換値を経時的に取得し、トルク変換値の経時データを利用して過負荷を防止することを特徴とする。このトルク変換値は、モータの特性に応じたトルク曲線を用いたものであることから、従来の電流値による監視と比べて、モータの実際のトルク変動をより正確に反映するものである。したがって、本発明の過負荷保護装置は、より正確なトルク値でモータの過負荷を制御可能とする。
【0009】
本発明のさらなる形態の過負荷保護装置は、前記ルックアップテーブルの電流値及びトルク値は、一定電圧で複数回測定された電流値及びトルク値の測定プロットの近似曲線から得られ、前記ルックアップテーブルは、複数の電圧値ごとに前記近似曲線をそれぞれ有することを特徴とする。すなわち、測定プロット間のデータを近似曲線で補完することによって、電流値の細かな変動に対応した、より高精度のトルク換算値を出力することができる。
【0010】
本発明のさらなる形態の過負荷保護装置は、第1の一定電圧値で測定された電流値及びトルク値の第1近似曲線、及び、第2の一定電圧値で測定された電流値及びトルク値の第2近似曲線に基づいて、前記第1の一定電圧値と前記第2の一定電圧値との間の電圧計測値におけるトルク変換値が補完されることを特徴とする。すなわち、実際の測定プロットが得られていない電圧計測値においても、トルク値の推定値でルックアップテーブルのデータ間が補完されることにより、ルックアップテーブルを参照してトルク換算値を出力することが可能である。
【0011】
本発明のさらなる形態の過負荷保護装置は、データを送受信するための通信手段をさらに備え、前記記憶部は、前記通信手段を介して通信可能な外部サーバーに設けられていることを特徴とする。すなわち、記憶部を外部サーバーに設けることにより、ハードウェア的な制限なしに大量のデータを取り扱うことが可能であり、尚且つ、データの追加、削除、更新等の作業も容易となる。
【0012】
本発明の一実施形態のギヤードモータは、モータ、前記モータの出力軸に連結され、被駆動装置に動力を出力する減速機、及び、過負荷保護装置を備えることを特徴とする。すなわち、本発明のギヤードモータは、上記過負荷保護装置の効果をギヤードモータとして発揮することが可能である。
【0013】
本発明の一実施形態の方法は、モータのトルク換算値を出力する方法であって、
前記モータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群を収集し、モータ特性のルックアップテーブルを生成する工程と、
電流計測手段で前記モータに流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する工程と、
電圧計測手段で前記モータの電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する工程と、
前記ルックアップテーブルを参照し、前記電流計測値及び前記電圧計測値の経時データに基づいて前記モータのトルク変換値を経時的に出力する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のモータのトルク換算値を出力する方法は、モータの電流-電圧-トルク特性を示すルックアップテーブルを生成し、当該ルックアップテーブルを参照して、経時的に取得された電流計測値及び電圧計測値からトルク変換値を経時的に取得し、トルク変換値の経時データを出力することを特徴とする。このトルク変換値は、モータの特性に応じたトルク曲線を用いたものであることから、従来の電流値による監視と比べて、モータの実際のトルク変動をより正確に反映するものである。したがって、本発明の方法は、実際のトルク値を測定することなく、より正確なトルク換算値を出力し、モータの正確な制御を可能とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一形態の過負荷保護装置は、より正確なトルク値でモータの過負荷を制御可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態のギヤードモータの概略側面図。
図2図1のギヤードモータの端子箱の内部を示す概略図。
図3】本発明の一実施形態の過負荷保護装置のブロック図。
図4】本発明の一実施形態の過負荷保護装置のモータ特性のルックアップテーブルを示すグラフ。
図5】本発明の一実施形態の過負荷保護装置において、モータの各定電圧ごとの電流値及びトルク値の測定プロットを示すグラフ。
図6】本発明の一実施形態の過負荷保護装置において、定電圧180Vのときの電流値及びトルクの近似曲線を例示的に示すグラフ。
図7】本発明の一実施形態の過負荷保護装置において、定電圧200Vのときの電流値及びトルクの近似曲線を例示的に示すグラフ。
図8】本発明の一実施形態の過負荷保護装置において、モータの電流計測値、電圧計測値及びトルク変換値の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態のギヤードモータを例示的に示す概略図である。本実施形態のギヤードモータ10は、モータ11、減速機12及び端子箱13を備える。モータ11の出力軸が減速機12に接続されることにより、減速機12の出力軸で低回転数且つ高トルクの出力を得て、被駆動装置を駆動することができる。被駆動装置は、例えば、チップコンベヤ装置(図示せず)であり、ギヤードモータの出力軸がチップコンベヤ装置のスプロケットに接続される。
【0019】
また、図2に示すように、端子箱13は、3相電源14に接続される電源端子(U,V,W)13aと、モータ11に電気的に接続されたモータ端子13bと、外部機器に接続するための外部端子13cとを備える。電源端子13aは基板を介してモータ端子13bに電気的に接続されている。この端子箱13は、制御部(MCU)、電流計測回路、電圧計測回路、通信回路、リレー回路が組み込まれた基板を備え、当該基板により過負荷保護装置(又は過負荷保護システム)100を構成する。
【0020】
図3は、本実施形態の過負荷保護装置100のブロック図である。過負荷保護装置100は、モータ11の動作を監視し、且つ、制御するための制御部(MCU)101を備える。制御部101には、3相電源14から電源端子13aを介して電力が供給される。モータ11のU,V,W相に3相電源14が接続され、モータ11に3相電源14から駆動電力が供給される。
【0021】
過負荷保護装置100には、モータ11に流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する電流計測回路(電流計測手段)102と、モータ11の電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する電圧計測回路(電圧計測手段)103とが設けられている。電流計測回路102及び電圧計測回路103は、制御部101に接続され、モータ11の電流計測値及び電圧計測値を制御部101に経時的に制御部101に出力するように構成されている。ここでは、電流計測値をモータ11の入力電流の値とし、且つ、電圧計測値をモータ11への印加電圧の値とした。なお、本発明の電流計測手段及び電圧回路手段はオシロスコープなどの外部機器であってもよい。
【0022】
過負荷保護装置100には、電源遮断手段としてのリレー104が設けられている。リレー104は、制御部101及び3相電源14に直接的又は間接的に接続されている。リレー104は、制御部101からの指示を受け取って3相電源14を制御し、3相電源14からモータ11への電力の供給を遮断又は低減するように構成されている。本実施形態の過負荷保護装置100では、制御部101は、トルク変換値を経時的に監視し、トルク変換値が所定の遮断閾値を超過又は遮断閾値に到達した時点でリレー104を制御して電源を遮断又は低減する。あるいは、制御部101は、遮断閾値を下回ることなく所定の設定時間が経過した後に電源を遮断又は低減するように設定されてもよい。
【0023】
また、過負荷保護装置100は、ユーザーが設定を入力するための設定入力部105を備える。設定には、モータ機種、モータの回転方向、遮断閾値、監視時間などが含まれる。さらに、過負荷保護装置100は、外部との通信手段として通信回路106を含んでいる。通信回路106は、制御部101と外部サーバー107とを接続し、相互間でデータの送受信を可能とする。本実施形態では、外部サーバー107には、過負荷保護装置100の記憶部として設定されている。本実施形態の過負荷保護装置100は、外部サーバー107に記憶部を設けたことにより、モータ特性のルックアップテーブルに関する多くのデータを保有可能であり、尚且つ、データの更新修正が容易となる。また、外部サーバー107は、ギヤードモータ10駆動の際、制御部101によって通信回路106を介して出力された各種データのログを記憶してもよい。ただし、本発明は上記形態に限定されず、記憶部は端子箱13内部の基板にメモリやハードディスク等の記録媒体として組み込まれてもよい。
【0024】
また、通信回路106は、任意に制御部101とユーザー端末108とを接続してもよい。ユーザー端末108は、制御盤、スマートホン、パーソナルコンピュータなど、ユーザーが操作可能な端末である。このユーザー端末108を用いることで、ギヤードモータ10の動作(例えば、電流計測値、電圧計測値、トルク変換値)をモニタに表示させて監視したり、制御部101に装置設定を遠隔入力したりすることができる。
【0025】
通信回路106と上記外部機器との接続は、有線及び無線のいずれであってもよい。無線接続手段として、例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)などが挙げられる。
【0026】
過負荷保護装置100の記憶部は、事前に収集された、モータ11の電流値、電圧値及びトルク値のデータ群からなるモータ特性のルックアップテーブルを記憶するように構成されている。ルックアップテーブルは、電流値、電圧値及びトルク値からなる数値の配列である。本実施形態の過負荷保護装置100では、制御部101は、記憶部にアクセスしてモータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群からなるルックアップテーブルを参照し、電流計測回路102及び電圧計測回路103によって経時的に計測された電流計測値及び電圧計測値をルックアップテーブルの電流値及び電圧値に当て嵌めて、ルックアップテーブルのトルク値をトルク変換値として出力する。トルク変換値の出力は、電流及び電圧の計測とともに経時的に実行される。換言すると、制御部101が電圧計測値及び電流計測値を連続的にルックアップテーブルに入力し、ルックアップテーブルからトルク変換値を連続的に出力する。
【0027】
図4は、本発明で用いられるルックアップテーブルの一例をグラフ化したものである。このようなルックアップテーブルは、少なくとも、モータ機種、回転方向、電源周波数などの条件に応じて準備される。これら条件毎に、モータ特性が異なるからである。ユーザーが上記条件を設定入力部105を介して入力し、ルックアップテーブルを条件に応じて切り替えることが好ましい。なお、図4のルックアップテーブルは、右回転、電源周波数60Hzの条件によるモータ固有のトルク特性を示すものである。各種条件に合った複数のルックアップテーブルが作成されることが好ましい。
【0028】
図4の各モータ特性(電流・トルク)曲線は、各一定電圧(180V、190V、200V、210V、220V、230V、240V)における電流値及びトルク値のデータ群(配列)の集合体である。本実施形態では、各モータ特性曲線は、当該モータ11について事前に収集された電流・電圧プロットの近似曲線であり、後述するように所定の多項式曲線(本実施形態では5次多項式)で表されている。電流計測値及び電圧計測値に基づいて当該ルックアップテーブルからトルク換算値が導き出される。より具体的には、モータ11の電圧計測値からモータ特性曲線が選択され、選択されたモータ特性曲線の電流計測値からトルク変換値が読み取られる。トルク変換値は、選択されたモータ特性曲線を近似的に示す多項式に電流計測値を入力して演算することによって得られる。例えば、モータ11の電圧計測値が200Vであり、電流計測値が0.5Aである場合、200Vのモータ特性曲線が選択され、当該モータ特性曲線からトルク換算値が142N・mとして出力される。このトルク換算値は、モータ固有の電流-電圧-トルク特性に従った値であり、実際のモータ11の出力軸でのトルク値をほぼ忠実に再現する。
【0029】
本実施形態では、電圧計測値が、事前に収集されたモータ特性曲線のいずれの電圧にも該当せず、モータ特性曲線の一定電圧値からずれている場合であっても、電圧計測値を挟み込む2つのモータ特性曲線によってルックアップテーブルのトルク換算値が補完され得る。すなわち、電圧計測値Vmよりも低く、且つ、電圧計測値Vmに最も近い第1の一定電圧値V1で測定された第1近似曲線、及び、電圧計測値Vmよりも高く、且つ、電圧計測値Vmに最も近い第2の一定電圧値V2で測定された第2近似曲線に基づいて、第1の一定電圧値V1と第2の一定電圧値V2との間の電圧計測値Vmにおけるトルク変換値が補完される。本実施形態では、第1及び第2の一定電圧値V1,V2の近似曲線の多項式に電流計測値を入力してトルク変換値T1,T2を算出し、以下の式を用いて、トルク変換値Tを算出する。
T=T1+(T2-T1)×(Vm-V1)/(V2-V1)
【0030】
すなわち、モータ11のトルク換算値を出力する方法は、モータ11の電流値、電圧値及びトルク値のデータ群を事前に収集し、モータ特性のルックアップテーブルを生成する工程と、電流計測回路102でモータ11に流れる電流を経時的に計測し、電流計測値を取得する工程と、電圧計測回路103でモータ11の電圧を経時的に計測し、電圧計測値を取得する工程と、ルックアップテーブルを参照し、電流計測値及び電圧計測値の経時データに基づいてモータ11のトルク変換値を経時的に出力する工程と、を含む。モータ特性のルックアップテーブルを生成する作業やルックアップテーブルを更新又は拡張する作業は、主として製造元やユーザーによって実施される。また、当該方法のルックアップテーブルを生成する工程は、ルックアップテーブルの電流値及びトルク値の複数のプロットをモータ特性曲線として表すように、一定電圧で複数回測定された電流値及びトルク値の測定プロットの近似曲線を作成する工程を含む。そして、ルックアップテーブルは、複数の電圧値ごとに近似曲線をそれぞれ有する。さらに、当該方法は、制御部101により、第1の一定電圧値V1で測定された電流値I1及びトルク値T1の第1近似曲線、及び、第2の一定電圧値V2で測定された電流値I2及びトルク値T2の第2近似曲線に基づいて、第1の一定電圧値V1と第2の一定電圧値V2との間の電圧計測値Vmにおけるトルク変換値を補完して出力する工程を含む。
【0031】
次に、図4のモータ特性のルックアップテーブルを作成する方法について説明する。図5は、モータ11の各定電圧ごとの電流値及びトルク値の測定プロットを示すグラフである。各測定プロットは、モータ特性を求めるべく、モータ11に対して事前に測定されて収集された電流値、電圧値及びトルク値のデータ群である。ギヤードモータ10に組み込まれるモータ11について、複数の定電圧条件の下で、モータ11への入力電流を上昇させてトルク値を計測した。入力電流の電流値及び電圧値は、オシロスコープなどの一般的な計測器によって記録された。トルク値は、モータ11の出力軸にトルク計を取り付け、該トルク計の値が記録された。本実施形態では、例示的に10Vおき7つの定電圧条件でデータを収集した。しかしながら、より精密なデータが必要である場合には、より細かい条件でより多くのデータが収集されてもよい。このようにして、図5に示す測定プロットのデータ群を取得した。
【0032】
図5によれば、各電圧においてモータの電流-トルク特性が異なり、且つ、電流及びトルクが正比例の関係にない。よって、従来のように、電流値の変動のみをトルク値の変動の指標とすると、実際のトルク値からの誤差が大きくなり、過負荷保護装置による正確なモータの制御ができないことが分かる。
【0033】
なお、図5の測定プロットのデータ群であっても、十分にルックアップテーブルの機能を発揮することができるが、本実施形態の過負荷保護装置100では、緻密なトルク変換値の出力を可能とするように測定プロット間のデータを補完すべく、各プロットの近似曲線を作成した。
【0034】
図6及び図7は、定電圧180V、200Vの電流値-トルク値のプロットから求めた近似曲線を例示する。本実施形態では、各プロットが、5次多項式の近似曲線によって近似されるように演算された。近似曲線は、最小二乗法による回帰分析などの公知の統計学的手法によって導出される。なお、本実施形態では、5次多項式が最適に選択されたが、多項式の次数は任意に選択され得る。そして、定電圧180Vのモータ特性曲線は、x(電流値)とy(トルク値)の5次多項式(図6参照)によって表された。同様に、定電圧200Vのモータ特性曲線は、x(電流値)とy(トルク値)の5次多項式(図7参照)によって表された。制御部101により、5次多項式のxに電流計測値が入力されることによって、トルク変換値がyで出力される。事前に収集した全ての定電圧の電流値-トルク値のプロットについて、近似曲線を作成することによって、モータ特性のルックアップテーブルを作成した。
【0035】
図8は、ギヤードモータ10の過負荷保護装置100において、被駆動装置からの負荷が上昇し、電源を遮断するまでのモータ11の電流計測値、電圧計測値及びトルク変換値の時間変化を示すグラフである。モータ11は、200Vの一定電圧で駆動され、電圧計測値Vmも約200Vとして経時的に計測された。電流計測値Imは、時間t=0~約8秒の一定の負荷の下で約0.38Aとして経時的に計測された。そして、トルク変換値Tは、図4のモータ特性のルックアップテーブルを参照して、電圧計測値Vm~200V及び電流計測値Im~0.38Aから、約42N・mとして経時的に算出された。そして、時間tが約8秒の時点から被駆動装置からの負荷が上昇し、Vmがほぼ一定のまま、負荷の上昇に従って電流計測値Imが上昇する。負荷上昇時のトルク変換値Tもモータ特性のルックアップテーブルを参照して出力された。本実施形態では、遮断閾値Ttが140N・mとして予め設定されている。時間tが51秒の時点でトルク変換値Tが遮断閾値Ttに到達し、それを超過した。制御部101は、トルク変換値Tが遮断閾値Ttを超過したことを検出して、リレー104を駆動して電源を即時遮断し、モータ11の動作が停止した。
【0036】
すなわち、本実施形態の過負荷保護装置100は、トルク変換値がモータ11の出力軸でのトルク値を再現するものであることから、モータ11の出力が所望のトルク値を超えないようにギヤードモータ10を制御することができる。これにより、ユーザーは、被駆動装置の仕様(入力トルク値の制限)や、ギヤードモータ10の規格に合わせて遮断閾値Ttを定め、負荷の増大による被駆動装置やギヤードモータ10の損傷をより確実に防止することが可能となる。
【0037】
[別実施形態・変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態及び変形例を取り得る。以下、本発明の別実施形態及び変形例を説明する。
【0038】
(1)上記実施形態では、過負荷保護装置は、端子箱に内蔵された制御基板に集約されたが、各部材を制御可能である限り、ギヤードモータ又はモータの離隔して設けられてもよい。
【0039】
(2)本実施形態では、過負荷保護装置は、ギヤードモータに組み込まれて使用されたが、減速機を省略した形態で用いられてもよい。
【0040】
(3)本発明の過負荷保護装置のルックアップテーブルは、少なくとも、モータの電流値、電圧値及びトルク値のデータ群からなるものであればよく、近似曲線や電圧値の補完の機能は省略されてもよい。
【0041】
(4)本発明の過負荷保護装置では、電源遮断手段としてのリレーが電源に電源遮断の信号を送るように構成されているが、電源遮断手段はモータ及び電源の間に配置され、スイッチの開閉によって電源が遮断されてもよい。すなわち、上記実施形態の構成は一例にすぎず、当業者であれば、本発明の技術的思想の下、種々の改変を行うことが可能である。
【0042】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0043】
10 ギヤードモータ
11 モータ
12 減速機
13 端子箱
14 3相電源
100 過負荷保護装置
101 制御部(MCU)
102 電流計測回路(電流計測手段)
103 電圧計測回路(電圧計測手段)
104 リレー(電源遮断手段)
105 設定入力部
106 通信回路(通信手段)
107 外部サーバー
108 ユーザー端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8