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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】型枠、建築物及び建築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/16 20060101AFI20230501BHJP
   E04B 2/86 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
E04B1/16 C
E04B2/86 601A
E04B2/86 601E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019164792
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021042568
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518421119
【氏名又は名称】VUILD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 浩気
(72)【発明者】
【氏名】高野 和哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-049982(JP,A)
【文献】特開平07-113262(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102438(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/161478(WO,A1)
【文献】特開平05-263491(JP,A)
【文献】特開2001-081794(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159381(WO,A1)
【文献】特開昭61-229045(JP,A)
【文献】特開平04-106258(JP,A)
【文献】特開2019-138053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/16
E04B 2/86
E04B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に建築物のスラブ層を形成するコンクリートを打設可能な打設面が形成されており、
前記打設面には、コンクリートが打設されると前記スラブ層の下側で前記スラブ層と一体となる梁を形成可能な複数の溝部と前記溝部により囲まれた複数の島部が形成されており、
コンクリートの打設後に前記建築物の一部を形成することができ
前記打設面の一部又は全部が曲面で形成されており、
それぞれの前記溝部は、複数の溝部材を連結して構成されており、
それぞれの前記島部は、複数の島部材を連結して構成されており、
それぞれの前記溝部材及び前記島部材は、材木から切削加工された、切削加工可能なサイズで且つ切削加工可能な形状の木片で構成されている
ことを特徴とする型枠。
【請求項2】
前記材木はCLTであることを特徴とする請求項1に記載の型枠。
【請求項3】
前記溝部には鉄筋を配置することが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の型枠。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の型枠を用いて一部又は全部のスラブ層及び梁が形成されていることを特徴とする建築物。
【請求項5】
建築物の建築方法において、請求項1~3のいずれかに記載の型枠を用いて一部又は全部のスラブ層及び梁を構成する工程を含むことを特徴とする建築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠、建築物及び建築方法に関し、例えば、屋根部分が曲面となっている建築物の建築に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
従来、RC(Reinforced Concrete)造構造の建築物を建築する際には、建築設計に従って、床、柱、屋根等の型枠(コンクリートを打設するための型枠)を建て込み、建て込んだ型枠内に配筋してコンクリートを打設し、打設したコンクリートが型枠内で硬化した後に型枠を解体するという工程が存在する。
【0003】
従来、RC造の型枠の素材としては種々の木材が使用されるが、特許文献1では、CLT(Cross Laminated Timber;直交集成板)をRC造の型枠に用いることについて記載されている。CLTとは、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料である。そして、CLTは構造躯体として建物を支えると共に、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果があるため、コンクリートを打設する際の型枠としても十分な特性を備える。
【0004】
そして、特許文献1では、CLTの材木を工場等でプレカットして型枠部品を製造し、プレカットした型枠部品を現場で組み立たてることで、工期を短縮することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-100057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の記載技術は、概ね水平面と垂直面(鉛直面)のみで構成された建築物の型枠製造には適しているが、曲面を含む屋根や床面等、複雑な形状のスラブを含む建築物については、現場での型枠の加工(設計通りの曲面形状に合うように型枠の一部を曲げる加工等)が必要となる場合があった。
【0007】
以上のような問題に鑑みて、建築物の構造部分(例えば、屋根を構成するスラブ等)をコンクリートで形成するための型枠としてプレカットされたものを容易に適用可能とすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明の型枠は、(1)上面に建築物のスラブ層を形成するコンクリートを打設可能な打設面が形成されており、(2)前記打設面には、コンクリートが打設されると前記スラブ層の下側で前記スラブ層と一体となる梁を形成可能な複数の溝部と前記溝部により囲まれた複数の島部が形成されており、(3)コンクリートの打設後に前記建築物の一部を形成することができ、(4)前記打設面の一部又は全部が曲面で形成されており、(5)それぞれの前記溝部は、複数の溝部材を連結して構成されており、(6)それぞれの前記島部は、複数の島部材を連結して構成されており、(7)それぞれの前記溝部材及び前記島部材は、材木から切削加工された、切削加工可能なサイズで且つ切削加工可能な形状の木片で構成されていることを特徴とする。
【0009】
第2の本発明の建築物は、第1の本発明の型枠を用いて一部又は全部のスラブ層及び梁が形成されていることを特徴とする。
【0010】
第3の本発明は、建築物の建築方法において、第1の本発明の型枠を用いて一部又は全部のスラブ層及び梁を構成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、建築物の構造部分をコンクリートで形成するための型枠としてプレカットされたものを容易に適用可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る建築物のイメージ図(斜視図)である。
図2】実施形態に係る型枠の一部を切り出した状態で示す斜視図である。
図3】実施形態に係る型枠の一部を切り出した状態で示す平面図である。
図4】実施形態に係る型枠を構成する部品について示した説明図である。
図5】実施形態に係る型枠を構成する部品を分解して示す斜視図(その1)である。
図6】実施形態に係る型枠を構成する部品を分解して示す斜視図(その2)である。
図7】実施形態に係る型枠の一部を切断した際の断面図(図4のA-A’線矢視断面図)である。
図8】実施形態に係る型枠を構成する部品の形状(寸法)に関する制限について示した説明図である。
図9】実施形態に係る屋根の一部を切断した際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(A)主たる実施形態
以下、本発明による型枠及び建築方法の一実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0014】
(A-1)実施形態の構成及び動作
図1は、この実施形態の建築物1の全体構成のイメージ図(斜め上側から見た場合のイメージ図;斜視図)である。
【0015】
建築物1には、箱型の建築物本体3の上に屋根2が配置された構造になっている。
【0016】
この実施形態では、屋根2は、RC造構造を含む構造となっているものとする。また、屋根2は、建て込まれる際には型枠10を用いて、コンクリートが硬化するまで、コンクリート及び鉄筋が保持される工法が採用されているものとする。さらに、通常RC造構造の建築物では、配筋されたコンクリートが硬化するまでの間配置された型枠は、コンクリートの硬化後に解体・撤去されるが、この実施形態の建築物1を構成する屋根2は、コンクリートの硬化後も型枠10が撤去されずに残置される。言い換えると、この実施形態の屋根2の型枠10は、単なる建築途中に用いられる一時的な道具ではなく、屋根2の一部(建築物1の天井)を構成する部材であるものとする。
【0017】
型枠10の材料については限定されないものであるが、この実施形態では木材(木材を含む材料により構成されたものを含む)により構成されているものとする。さらに具体的には、この実施形態において、型枠10はCLTを用いるものとして説明する。なお、型枠10を構成する材料は木材に限定されず、種々の樹脂等他の材料を適用するようにしてもよい。
【0018】
次に、型枠10の具体的な構造について説明する。
【0019】
図2は、図1において屋根2の一部の領域Z(図1で点線で示される矩形の領域)の型枠10のみを切り出した状態で示す斜視図である。
【0020】
図3は、型枠10の領域Zの部分の平面図(上側から見た図)である。
【0021】
図3に示すように、領域Zは上側から見ると略長方形の形状であり、長手方向の寸法を11Lとし、短手方向の寸法を12Lとする。寸法11L、12Lの具体的な寸法については限定されないものであるが、この実施形態の例では、長手方向の寸法L11が6500mm程度、短手方向の寸法L12を2000mm程度であるものとして説明する。
【0022】
型枠10は概ね一様に図2に示すような形状(パターン)が連続して配置された構造となっているものとする。型枠10には、図2に示すように上面に鉄筋を配置(配筋)するとともにコンクリートを打設(載置、収容)可能な打設面20が形成された形状となっている。言い換えると、打設面20は、コンクリート(屋根のスラブを含むコンクリートの層)を打設するための曲面により形成されている。
【0023】
打設面20には、配筋するための溝部40が形成されている。図3に示すように、打設面20において、溝部40は、多角形の島部30が多数形成されるように曲面が形成されているものとする。言い換えると、打設面20は、溝部40により輪郭が形成された多角形の島部30が複数配置された形状(曲面)となっている。
【0024】
図3図4に示すように、領域Zには、4つの島部30-1~30-4が形成されている。
【0025】
この実施形態では、各島部30は略矩形(略四角形)であるものとするが、島部30の輪郭の形状は限定されないものである。例えば、各島部30の輪郭は円形や一部に曲線を含むようにしてもよい。また、この実施形態では、各島部30は全て略矩形であるものとするが、島部30ごとに異なる形状(例えば、異なる角数の多角形)とするようにしてもよい。
【0026】
この実施形態では、型枠10は、主として島部30を構成する部材(以下、「島部材」と呼ぶ)と、主として溝部40を形成する部材(以下、「溝部材」と呼ぶ)に分類される。また、型枠10において、島部材の周囲に溝部材が配置される構成となるものとする。言い換えると島部材の輪郭に沿って溝部材が配置される構成となっているものとする。
【0027】
図4は、型枠10を構成する島部材301の周囲の構成の例について示した図である。
【0028】
ここで、例として、型枠10の領域Zを構成する島部30-1の周辺の部材の構成について説明する。図4に示すように、島部30-1は島部材301を中心とし周囲に複数の溝部材が配置(連結)された構成となっている。例えば、図4に示すように、島部材301の輪郭を構成する2辺(図4の方から見て上側の辺と右側の辺)の端部に形成される溝部40は、7つの溝部材401~407により構成される。
【0029】
図5は、上述の島部材301及び溝部材401~407を分解した状態の斜視図となっている。図5では、島部材301及び溝部材401~407を分解した状態で、図2と同じ方向(斜め上方)から見た状態について示している。
【0030】
図6は、上述の島部材301及び溝部材401~407を分解した状態で、図5と反対方向(斜め下方)から見た図(斜視図)となっている。
【0031】
図7は、図4のA-A’線矢視断面図である。
【0032】
図7では、島部30-1を構成する島部材301と、島部30-1(島部材301)に対向する位置にある島部30-2を構成する島部材302との間にある溝部40を含む断面となっている。すなわち、A-A’線は溝部40が形成される方向(島部材301、302の辺に対して平行する方向)と直交する方向を切断する線となる。
【0033】
図7に示すように、溝部40の断面は略U字の形状となっている。図7に示す溝部40は、断面が概ねZ字(逆S字)の形状の溝部材401と、断面が概ね逆Z字(S字)の形状の溝部材401を接合することでU字形状の断面が形成されている。
【0034】
また、図7に示すように、断面がZ字(逆S字)の溝部材401の一方の端面(上側の端面)は、島部材301の端面と接合しており、他方の端面(下側の端面)は溝部材402と接合してU字の下部分を形成している。同様に、断面が逆Z字(S字)の溝部材401の一方の端面(上側の端面)は、島部材302の端面に接合しており、他方の端面(下側の端面)は溝部材401の端面と接合している。
【0035】
また、U字の下側部分で接合する溝部材401、402の端部(上側の端部)は、それぞれ島部材301、302の辺の端部を形成することになる。さらに、図4に示すように、溝部40を挟んで対向する島部30-1、30-2(島部材301、302)の辺と、その間の溝部材401、402の接合面(接合部分の面)は平行となっている。
【0036】
さらに、島部材301、302の上面は、屋根2の設計に基づく曲面が形成されている。そして、溝部材401、402の上面も、それぞれ島部材301、302と接合したときに、島部材301、302の上面と一体の滑らかな曲面(1つの島部30-1、30-2の上面)を形成するような形状となっているものとする。
【0037】
また、図7に示すように、溝部40の断面は開口部(上側)から底部(下側)に向かって徐々に幅が狭くなるテーパ形状となっている。
【0038】
溝部40は、型枠10の全体にわたって分布しており、その形状(寸法;サイズ)は概ね一様であることが望ましい。また、型枠10では、各島部30及び溝部にわたって、板厚L31が概ね一様であることが望ましい。
【0039】
図7では、溝部40の断面の各寸法及び板厚についても図示している。また、図7では、溝部40の断面の深さL41(溝部40の断面で最も上側の位置から最も下側の位置までの寸法)、底部の幅L42(下側の幅;最も狭い幅)、開口部の幅L43(上側の幅;最も広い幅)、及び板厚L31を図示している。
【0040】
次に各寸法(L31、L41~L43)の例について説明する。
【0041】
この実施形態において、型枠10を構成する各寸法L31、L41~L43の具体的なス峰については限定されないものである。この実施形態の例では、溝部40において、深さL41は290mm~690mm、底部の幅L42は180mm~220mm、開口部の幅L43は320mm~350mmの範囲にそれぞれ調整されているものとする。また、この実施形態の例では、型枠10を構成する各部材(各島部材及び溝部材)の板厚L31は120mm~150mmに調整されているものとする。
【0042】
以上のように、型枠10の打設面20(上面)の形状は形成されているものとする。
【0043】
次に、型枠10を構成する各部品を接合する構成の例について説明する。
【0044】
この実施形態では、図3図4に示すように、島部材と溝部材との接合部はボルト50を用いて接合されているものとする。またこの実施形態では、図3図4に示すように、島部材と溝部材との接合部には、ボルト50を貫通させると共に、ボルト50を固定するためのナット51を収容するボルト収容穴52が形成されているものとする。さらに、この実施形態では、図3図4に示すように溝部材同士の接合部はビス止めされたプレート60や図示しないダボを用いて接合されるものとして説明する。なお、型枠10を構成する各部品を接合する手段は上記の例に限定されないものであり、種々の方式を適用することができる。
【0045】
次に、型枠10を構成する各部品の製造方法の例について説明する。
【0046】
上述の通り、この実施形態の型枠10を構成する各部品(島部材及び溝部材)の材料(材木)としてはCLTが用いられるものとしている。CLTの材木(所定のサイズの板)から、型枠10を構成する各部品に加工する具体的な方式は限定されないものであるが、例えば、CNC(Computer Numerical Control)ルータを適用することができる。言い換えると、型枠10を構成する各部品を、CNCルータを用いて製作するには、各部品のサイズが、当該CNCルータで加工可能なサイズであり、かつ、調達可能な材木から切削可能なサイズである必要がある。言い換えると、型枠10を構成する各部品をCNCルータを用いて加工する場合には、型枠10を構成する各部品のサイズが所定以下のサイズである必要がある。例えば、この実施形態では、溝部40を構成する溝部材について断面がU字の部品を適用せずにU字の断面を半分に割った形状を適用することで、より板厚の薄い材木から溝部材を切削可能な構造としている。
【0047】
次に、型枠10を構成する部品に関する設計方法の例について図8を用いて説明する。
【0048】
図8では、上述の図7と同様の断面図(図4のA-A’線矢視断面図)を用いて、溝部40を構成する溝部材401、402の設計方法の例について説明する。
【0049】
ここでは、型枠10の加工に用いることができる材木の厚さの上限がL44であるものとする。すなわち、L44は、調達可能な材木の厚さの上限又は加工に用いる装置(以下、「加工装置」と呼ぶ)で加工可能な材木の厚さの上限のいずれか薄い方となる。したがって、この場合、設計段階において、型枠10を構成する各部品(島部材及び溝部材)は、全て厚さ上限L44以下の材木から切削可能な形状である必要がある。この実施形態では、上述の通り、溝部材については、溝部40のU字の断面を2つに分割した断面としているので、より薄い板厚の材木から切削可能となっている。図8では、上述の材木の厚さ上限L44を溝部40を構成する溝部材401、402の断面に当てはめた例について示している。図8では、溝部材401、402の姿勢を調整することで、溝部材401、402の断面が材木の厚さ上限L44の範囲内に収まる形状であることがわかる。すなわち、この実施形態では、溝部40を構成する各溝部材は、U字の断面を2つに分割した形状とすることで、断面が材木の厚さ上限L44に収まるような設計となっている。仮に、溝部40の部材を溝部材401、402のように分割せずにU字の断面のまま加工しようとすると、当該部材(断面がU字の部材)をどのような姿勢としても、当該部材は材木の厚さ上限L44に収まらない形状であるため加工が不能な設計となってしまう。
【0050】
すなわち、型枠10を構成する各部品の形状を設計する際には、上述のように加工に用いることができる材木のサイズ上限(厚さ、長さ、幅)に収まるように設計(設定)する必要がある。図8では、溝部材401、402が材木の厚さ上限L44の範囲に収めるために、溝部40のU字の断面を2つに分割することについて記載しているが、溝部材401、402の形状を設計する際には材木の長さ、幅についても上限以下となるようにする必要がある。加工装置で材木を加工する際には、長さ及び幅については寸法が1000mm単位の材木の加工及び調達が容易であるためあまり設計上問題とならないが、加工及び調達可能な材木の厚さの上限は100mm~250mm程度の範囲内となるため、設計上のボトルネックとなりやすい。
【0051】
この実施形態では、図8に示すように溝部40のU字型の断面を2つに分割した溝部材を設計することで、材木の厚さ上限L44という制限をクリアしているが、材木の厚さ上限がさらに薄い場合には、溝部40の断面を3つ以上に分割する設計とする必要がある。
【0052】
また、このような制限は島部材についても同様であり、島部材の形状によっては、材木のサイズ上限(厚さ、長さ、幅のいずれか)に収まらない場合がありえる。その場合は、島部材についても、材木のサイズ上限の範囲内の形状となるように設計する必要がある。
【0053】
以上のように、型枠10を構成する各部品(溝部材及び島部材を含む部品)は、適用可能な材木のサイズ上限の範囲内の形状となるまで分割した設計とする必要がある。なお、型枠10の分割の仕方は上記の例に限定されず、種々の分割の仕方を適用することができる。例えば、溝部40のU字型の断面を図8のように縦方向に切断した分割方法ではなく、横法に切断した分割方法とするようにしてもよい。
【0054】
以上のように、この実施形態では、型枠10を構成する各部品は、加工に用いる加工装置で加工可能なサイズとなるまで細分化された形状になっているものとする。
【0055】
次に、型枠10に配筋及びコンクリート打設し完成させる際の方法(工法)の例について図9を用いて説明する。
【0056】
図9は、型枠10に、配筋及びコンクリート打設が行われることにより完成した屋根2の一部の断面について示した図である。図9は、図7と同様に、屋根2を図4のA-A’線の位置で切断した場合の断面図となっている。
【0057】
まず、実際に型枠10を用いて屋根2を形成する際には、建築物本体3の構造物(梁や柱等)の上で型枠10を組み立てて設置されたものとする。その際、型枠10を安定的に支持するために、建築物本体3以外の補助部材(一時的に設置する柱等)を配置するようにしてもよい。ただし、型枠10の素材として全てCLT等の高剛性の素材をボルトやプレート等で一体化させた構造である場合は、コンクリート打設の際に補助部材を設置しなくてもある程度自立(形状を保持)することができる。言い換えると、この実施形態の型枠10では、素材としてCLT等の高剛性の素材を用いることで、補助部材を用いずに建築することができるため、工期の短縮等に寄与することができる。
【0058】
次に、型枠10の溝部40全体にわたって鉄筋91が配置(配筋)されたものとする。図9の例では、溝部40の内部で8本の鉄筋91が結束ワイヤー92により結束された状態について図示している。溝部40に配筋する際の鉄筋91の仕様(太さや材質)や鉄筋91の本数については、建築物1(屋根2)の設計に基づいた内容とする必要がある。
【0059】
次に、型枠10の全ての各島部30の上面に断熱材70の層が載置されたものとする。断熱材70の仕様(素材や厚さ)については限定されないものであり、建築物1(屋根2)の設計に基づいた内容とする必要がある。なお、建築物1の設計・用途によっては、断熱材70の層は除外するようにしてもよい。
【0060】
次に、型枠10の打設面20全面にわたって、コンクリート80が打設されたものとする。上述の通り図9は、型枠10の打設面20にコンクリート80が打設された後の状態について図示している。このとき、打設されたコンクリート80の上面部分の形状は、下側の型枠10(島部30)の形状と並行となる滑らかな曲線となるように仕上げ(例えば、コテ等を用いた左官工事による仕上げ)が行われていることが望ましい。コンクリート80の上面の仕上げについては、種々の手法を適用することができるため、詳しい説明を省略する。
【0061】
その後、打設したコンクリート80が硬化することで屋根2は構造的には完成することになる。このとき、型枠10については撤去されず屋根2の下面部分を形成することになる。
【0062】
以上の工程による結果、図9に示すように、コンクリート80の層の上面部分には、屋根の上面を形成するスラブ層2Aが形成され、溝部40には鉄筋コンクリートの梁2B(スラブ層2Aと一体となった梁2B)が形成されることになる。
【0063】
すなわち、溝部40に形成される梁2Bの梁幅は溝部40の底部の幅L42と開口部の幅L43の範囲により表されることになり、溝部40に形成される梁2Bの梁せいは溝部40の深さL41で表されることになる。すなわち、この屋根2の設計上の強度は、スラブ層2Aの厚さと梁2Bの仕様(梁幅、梁せい、鉄筋91の仕様や本数等)や梁2Bの分布(溝部40の分布)に応じた値となる。
【0064】
言い換えると、型枠10を設計する際に溝部40の仕様(断面の各寸法L41~L43)を調整することで、屋根の梁2Bの仕様を調整することができる。
【0065】
(A-2)実施形態の効果
この実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0066】
この実施形態では、型枠10の打設面20(上面)に溝部40を形成することにより、コンクリートのスラブ層2Aの下側に、スラブ層2Aと一体となった梁2Bを形成することができる。また、この実施形態では、コンクリートの硬化後でも型枠10を撤去しない工法が採用されているので、工期を短縮しつつ、建築物1の内部からは、天井に木材を用いた意匠とすることで、内装に木材を用いることの種々のメリットを発生させることができる。
【0067】
型枠10は、島部材と溝部材を接合することで構成することができると共に、島部材及び溝部材のサイズはCNCルータでプレカット可能なサイズとなっていることから、容易にプレカットした部品を現場で組み立てて構成することができる。
【0068】
(B)他の実施形態
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0069】
(B-1)上記の実施形態では、本発明の型枠を屋根のスラブ(スラブ層)及びそのスラブを支持する梁を形成する例について説明したが、建築物1におけるその他のスラブ(スラブ層)及びそのスラブを支持する梁(例えば、床のスラブ及びそのスラブを支持する梁)の形成に用いるようにしてもよい。
【0070】
(B-2)上記の実施形態では、屋根2はRC造構造であるものとして説明したが、コンクリートを打設することで構成されれば、具体的な構造は限定されないものである。例えば、屋根2に必要な強度(例えば、屋根2のサイズや建築物1の用途に応じて必要な強度)によっては、溝部40に配筋せずにコンクリートを打設(梁2Bに鉄筋91を設けない)構造としてもよい。また、屋根2の梁2Bにおいて、鉄筋91ではなく、他の種類の部材を配置(例えば、グラスファイバやカーボンファイバ等の部材)を配置する構造としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…建築物、2…屋根、3…建築物本体、10…型枠、20…打設面、30、30-1~30-4…島部、301~304…島部材、40…溝部、401~407…溝部材、50…ボルト、60…プレート、70…断熱材、80…コンクリート、91…鉄筋、92…結束ワイヤー。
図1
図2
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図5
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図7
図8
図9