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特許7270944抗CADM1抗体またはその抗原結合断片
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】抗CADM1抗体またはその抗原結合断片
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230501BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230501BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230501BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230501BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230501BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 T
A61K39/395 E
G01N33/574 A
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022145684
(22)【出願日】2022-09-13
【審査請求日】2022-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】522061545
【氏名又は名称】医療法人社団礒崎医院
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰彦
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519492(JP,A)
【文献】特開2019-156809(JP,A)
【文献】特開2019-184570(JP,A)
【文献】Frontiers in Cell and Developmental Biology, 12 July 2022, Vol.10, Article 945007, pp.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CADM1抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体は、下記(Ca)である、抗体またはその抗原結合断片:
(Ca)それぞれ、配列番号1、2および3に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、それぞれ、配列番号4、5および6に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3とのアミノ酸配列を含む抗体。
【請求項2】
前記抗体は、下記(Va)、(Vb)、および(Vc)からなる群から選択される、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
(Va)配列番号7から14のいずれかに示される重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示される軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む抗体;
(Vb)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1~12個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1~10個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体;
(Vc)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体。
【請求項3】
前記(Vb)の変異体は、前記抗体のフレームワーク領域に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
内在化活性を有する、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、単鎖抗体、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディー、sc(Fv)、およびscFv-Fcから選択される抗体である、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片と、薬物とを含む、抗体薬物複合体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、がんの処置に用いるための医薬組成物。
【請求項8】
前記がんは、中皮腫、消化管間質腫瘍、肺腺がん、および/または、内膜腺がんである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の抗体薬物複合体を含む、がんの処置に用いるための医薬組成物。
【請求項10】
前記がんは、中皮腫、消化管間質腫瘍、肺腺がん、および/または、内膜腺がんである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、CADM1の検出試薬。
【請求項12】
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、がんの罹患の可能性の試験に用いるための試薬。
【請求項13】
サンプルと、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片を接触させる接触工程と、
前記サンプル中のCADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との複合体を検出する検出工程とを含む、CADM1の検出方法。
【請求項14】
前記サンプルは、生体試料である、請求項13に記載の検出方法。
【請求項15】
対象者の生体試料と、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片を接触させる接触工程と、
前記生体試料におけるCADM1の発現量を測定する測定工程とを含む、がんの罹患の可能性の試験方法。
【請求項16】
前記生体試料におけるCADM1の発現量を、基準値と比較する比較工程を含む、請求項15に記載の試験方法。
【請求項17】
前記基準値は、健常者の生体試料またはがん患者の生体試料におけるCADM1の発現量である、請求項16に記載の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗CADM1抗体またはその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
感染予防鼻スプレーとしてXLEAR社のキシリトール・グレープフルーツ種子エキスが市販されている。このエキスについては、ウイルスの死滅と細胞内侵入阻害に効果があるとされるが、点鼻後直ちに拡散するので、有効期間は短いと考えられる(長くて1時間程度)。類似する技術として、抗重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質抗体の点鼻があり、自由診療等にて用いられている。また、SARS-CoV-2スパイクタンパク質への高い親和性を有するACE2組換えタンパク質も開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Yusuke Higuchi et al., “Engineered ACE2 receptor therapy overcomes mutational escape of SARS-CoV-2”, Nature Communications, volume 12, Article number: 3802 (2021), Published: 21 June 2021, Springer Nature
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体は、ダチョウの精製抗体であり、異物反応など免疫学的に大きな問題点を抱えている。また、ACE2は、血圧調整などの重要な生理的機能を有しているため、その機能に及ぼす抗ACE2抗体の影響についても懸念が残る。
【0005】
そこで、本開示は、SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある、新たな抗体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本開示の抗体またはその抗原結合断片は、抗CADM1抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体は、下記(Ca)および(Cb)からなる群から選択される:
(Ca)それぞれ、配列番号1、2および3に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、それぞれ、配列番号4、5および6に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体;
(Cb)前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および/または前記軽鎖CDR3に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む(Ca)抗体の変異体。
【0007】
本開示の抗体薬物複合体は、本開示の抗体またはその抗原結合断片と、薬物とを含む。
【0008】
本開示の医薬組成物は、本開示の抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある、新たな抗体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、チキン抗CADM1抗体の重鎖のアミノ酸配列およびCDR1~3の位置を示す図である。
図2図2は、チキン抗CADM1抗体の軽鎖のアミノ酸配列およびCDR1~3の位置を示す図である。
図3図3は、ヒト化抗体の各クローンの重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列情報およびCDR1~3の位置を示す図である。
図4図4は、実施例1における抗CADM1抗体の特異性を示すグラフであり、(A)は、CADM1に対する結合性を示すグラフであり、(B)は、ウシ血清アルブミン(BSA)に対する結合性を示すグラフである。
図5図5は、実施例1におけるウエスタンブロットの結果を示す図である。
図6図6は、実施例1におけるCADM1発現細胞およびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1の検出結果を示す蛍光像である。
図7図7は、実施例1におけるCADM1発現細胞およびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1の検出結果を示す蛍光像である。
図8図8は、実施例1における抗CADM1抗体の鼻腔内分布を示す組織染色像である。
図9図9は、実施例1における抗CADM1抗体の鼻腔内分布およびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1の検出結果を示す組織染色像である。
図10図10は、実施例1におけるウエスタンブロットの結果を示す図である。
図11図11は、実施例1におけるウエスタンブロットの結果を示す図である。
図12図12は、実施例1における抗CADM1抗体の内在化を示す蛍光像である。
図13図13は、実施例1における薬物を搭載した抗CADM1抗体の模式図である。
図14図14は、実施例1における抗CADM1抗体を基盤とする抗体薬物複合体の薬効を示すグラフおよび写真である。
図15図15は、実施例1における抗体を搭載した抗CADM1抗体の模式図およびウエスタンブロットの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<定義>
本明細書において、「CADM1」(Cell adhesion molecule 1)は、免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子群(IgCAM)に属する細胞間接着分子であり、細胞内領域に結合する諸分子を介して細胞内にシグナルを伝えることが知られている。前記CADM1は、他の名称として、IgSF4A、RA175、sgIGSF、SynCAM、またはNecl2といわれることもある。ヒトCADM1は、例えば、UniProtにアクセッション番号:Q9BY67として登録されている(参照:https://www.uniprot.org/uniprotkb/Q9BY67/)。また、ヒトCADM1は、例えば、mRNAとして、Genbankにアクセッション番号:XM_005271494.4、XM_047426695.1、XM_017017457.3、XM_047426691.1、XM_047426690.1、XM_047426693.1、XM_047426692.1、XM_047426694.1等として登録されている。また、ヒトCADM1は、例えば、タンパク質またはその前駆タンパク質として、XP_005271551.1、XP_047282651.1、XP_016872946.1、XP_047282647.1、XP_047282646.1、XP_047282649.1、XP_047282650.1として登録されている。マウスCADM1は、例えば、UniProtにアクセッション番号:Q8R5M8として登録されている(参照:https://www.uniprot.org/uniprotkb/Q9BY67/)。マウスCADM1は、例えば、mRNAとして、Genbankにアクセッション番号:NM_001025600.1、NM_001310841.1、NM_018770.3、NM_207675.2、NM_207676.2等として登録されている。また、マウスCADM1は、例えば、タンパク質またはその前駆タンパク質として、NP_001020771.1、NP_001297770.1、NP_061240.3、NP_997558.2、NP_997559.1として登録されている。前記CADM1は、例えば、配列番号またはアクセッション番号で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質またはそれをコードする核酸でもよいし、これらの機能的に活性な変異体、またはこれらの断片等でもよい。
【0012】
本明細書において、「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、または「ペプチド」は、同じ意味で用いられ、未修飾アミノ酸(天然のアミノ酸)、修飾アミノ酸、および/または人工アミノ酸から構成されるポリマーを意味する。前記タンパク質の長さは、任意の長さである。
【0013】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、または「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、リボヌクレオチド(RNA)、および/または改変ヌクレオチドのポリマーを意味する。前記ポリヌクレオチドは、一本鎖核酸分子でもよいし、二本鎖核酸分子でもよい。前記ポリヌクレオチドは、天然のヌクレオチドから構成されてもよいし、修飾または人工のヌクレオチドから構成されてもよいし、両者から構成されてもよい。
【0014】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0015】
本明細書において、「対応する」アミノ酸または核酸は、あるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおいて、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドを意味する。
【0016】
本明細書において、「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的または部分的にコードされる、1または複数のポリペプチドを含むタンパク質を意味し、抗原上の特定のエピトープに結合可能な分子または複数の分子を含む。前記免疫グロブリン遺伝子は、例えば、κ、λ、α(α1、α2を含む)、γ(γ1、γ2、γ3、γ4を含む)、δ、εおよびμ等の定常領域をコードする遺伝子と、V領域、D領域、J領域等の無数の免疫グロブリン可変領域をコードしうる遺伝子とを含む。前記抗体は、例えば、重鎖および軽鎖を含む。前記軽鎖は、κおよびλを含み、それぞれ、κ鎖およびλ鎖を構成する。前記重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεを含み、それぞれ、免疫グロブリンのクラスであるIgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)、IgM、IgA、IgDおよびIgEを構成する。前記抗体は、四量体から構成される典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位であってもよい。この場合、前記抗体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対から構成され、各対は、1つの軽鎖(約25kDa)と1つの重鎖(約50~70kDa)とから構成される。また、各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100~110個またはそれ以上のアミノ酸から構成される可変領域を規定する。
【0017】
本明細書において、「相補性決定領域」(CDR)は、免疫グロブリン(抗体)の可変領域において、抗原結合部位を形成する領域を意味する。前記CDRは、例えば、超可変領域ということもできる。前記CDRは、一般的に、抗体の可変領域でも、特に一次構造の変異性が高い領域であり、一次構造上において、通常、3箇所に分離している。前記抗体では、重鎖可変領域および軽鎖可変領域に、それぞれ3つのCDR(N末端側から、重鎖CDR1、重鎖CDR2、および重鎖CDR3、N末端側から、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3)を含む。これらの部位は、立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。本明細書において、抗体のCDRは、Kabatの番号付けシステム(Kabat et.al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, 1987, US Department of Health and Human Services, NIH, USA)にしたがって決定してもよい。また、本明細書において、抗体のCDRは、Chothiaによる定義(Chothia et al., “Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins”, J. Mol.Biol.,1987;196:901-917)を採用して、決定してもよい。
【0018】
本明細書において、「抗原結合断片」は、例えば、抗体の一部を含むポリペプチドであり、より具体的には、前記可変領域を含むポリペプチドである。前記抗原結合断片は、例えば、前記全長の免疫グロブリンに対して、様々なペプチダーゼによる消化によって産生することができる。
【0019】
本明細書において、前記「抗体」の形態は、全長の免疫グロブリン(Fc領域およびFab領域を有する抗体、全長抗体)でもよいし、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv抗体(variable fragment of antibody)、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、一本鎖抗体(scFv)、およびこれらの重合体(例えば、ダイアボディー)等があげられる。前記抗体は、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。前記抗体は、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト化抗体でもよい。前記抗体は、例えば、二重特異性またはオリゴ特異性(oligo specific)抗体であってもよい。
【0020】
本明細書において、「F(ab’)抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。前記F(ab’)は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本開示のCADM1抗体を、タンパク質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。
【0021】
本明細書において、「Fab’抗体」は、例えば、F(ab’)抗体のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。前記Fab’抗体は、例えば、F(ab’)抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0022】
本明細書において、「Fab抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、重鎖のN末端側約半分と軽鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。前記Fab抗体は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本開示のCADM1抗体を、タンパク質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0023】
本明細書において、「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0024】
本明細書において、「ジスルフィド結合Fv」(dsFv)は、VHおよびVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、前記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。前記システイン残基に導入する位置は、例えば、Reiterらにより示された方法(Reiter et al., “Engineering interchain disulfide bonds into conserved framework regions of Fv fragments: improved biochemical characteristics of recombinant immunotoxins containing disulfide-stabilized Fv”, Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704を参照し、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0025】
本明細書において、「scFv抗体」は、VHおよびVLがペプチドリンカーを介して連結した抗体を意味する。前記scFv抗体は、例えば、本開示のCADM1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0026】
本明細書において、「ダイアボディー」(diabody)は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。前記二価の抗原結合活性は、同一の抗原活性としてもよいし、一方を異なる抗原結合活性としてもよい。前記ダイアボディーは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0027】
本明細書において、「モノクローナル抗体」は、例えば、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体または実質的に同一である抗体である。前記モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法またはこれと同様の方法により調製してもよいし、ファージ抗体ライブラリを用いたファージディスプレイにより調製してもよい。
【0028】
本明細書において、「キメラ抗体」は、重鎖および軽鎖の少なくとも一方が、非ヒト動物免疫グロブリン由来の可変領域とヒト免疫グロブリン由来の定常領域から構成される抗体、またはヒト免疫グロブリン由来の可変領域と非ヒト動物免疫グロブリン由来の定常領域から構成される抗体を意味する。前記キメラ抗体は、例えば、遺伝子組換え技術によって調製できる。具体例として、ニワトリ-ヒトキメラ抗体を調製する場合、前記キメラ抗体の調製方法は、例えば、ニワトリリーダー配列および可変領域配列を、ヒト抗体定常領域をコードする配列と連結させることにより調製できる(例えば、Nahoko Nishibori et al., “Expression vectors for chicken-human chimeric antibodies”, Biologicals . 2004 Dec;32(4): p. 213-8)。具体的には、前記調製方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するニワトリリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結してもよい。また、前記調製方法は、クローン化されたcDNAに存在するニワトリリーダー配列および可変領域配列を、ヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。前記ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体の重鎖定常領域およびヒト抗体の軽鎖定常領域のものとすることができる。具体例として、前記ヒト抗体定常領域の断片は、例えば、ヒト重鎖として、Cγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4があげられる。また、前記ヒト抗体定常領域の断片は、例えば、ヒト軽鎖として、CλまたはCκがあげられる。
【0029】
本明細書において、「ヒト化抗体」は、非ヒト動物由来の抗体のCDRおよびヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)から構成される可変領域と、ヒト抗体由来の定常領域とから構成される抗体を意味する。前記ヒト化抗体は、例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al., “Humanized Anti-HM1.24 Antibody Mediates Myeloma Cell Cytotoxicity That Is Enhanced by Cytokine Stimulation of Effector Cells”, Blood, 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)、リサーフェシング(Re-surfacing)(Roguska et al., “Humanization of murine monoclonal antibodies through variable domain resurfacing”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1994 Feb 1;91(3):969-973)、またはFRシャッフル(Damschroder et al., “Framework shuffling of antibodies to reduce immunogenicity and manipulate functional and biophysical properties”, Mol Immunol., 2007 Apr;44(11):3049-3060, Epub 2007 Jan 22)等により調製できる。ニワトリ由来CDRを用いる場合、前記ヒト化抗体は、例えば、特開2006-241026号公報に記載の方法を参照して、調製できる。前記ヒト化抗体の調製においては、抗原への結合性を改変または改善するために、ヒトFRのアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。ヒトFRのアミノ酸残基の置換は、例えば、当該技術分野で周知の方法によって実施可能できる(例えば、Riechmann et al., “Reshaping human antibodies for therapy”, Nature, 1988 Mar 24; 332 (6162) :323-327参照)。
【0030】
本明細書において、「ヒト抗体」は、重鎖および軽鎖がヒト免疫グロブリン由来の抗体またはヒト免疫グロブリン遺伝子をコードする遺伝子に由来する抗体を意味する。前記ヒト抗体は、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するヒト抗体作製用トランスジェニックマウスを用いて調製してもよいし、ファージ抗体ライブラリを用いたファージディスプレイにより調製してもよい。
【0031】
本明細書において、「CADM1抗体」は、CADM1に結合する抗体を意味する。前記CADM1抗体による結合は、特異的な結合であることが好ましい。前記CADM1抗体の形態は、前述の抗体の形態の説明を援用できる。
【0032】
本明細書において、「内在化」または「細胞内移行」(インターナライズ/インターナライゼーション)は、細胞が細胞表面上の抗原をエンドサイトーシスまたは食作用によって細胞内に取り込むことにより、抗原に結合した物質を取り込むことを意味する。本開示のCADM1抗体は、例えば、内在化活性を有することで、CADM1を細胞表面に発現する細胞に対して目的の有効成分を細胞内移行させ、目的の有効成分による所望の効果をCADM1発現細胞において生じさせることができる。
【0033】
本明細書において、「抗体薬物複合体」(Antibody Drug Conjugate:ADC)は、1つまたは複数の目的の有効成分と化学的に連結された抗体またはこれらの抗原結合断片を指す。前記ADCにおいて、前記目的の有効成分は、例えば、リンカーを介して抗体またはその抗原結合断片と作動可能に連結されている。本明細書において「作動可能に連結されている」とは、連結される物質が予測された様式で作動することが可能な関係にあることを指す。前記リンカーは、例えば、開裂型または非開裂型のリンカーがあげられる。前記開裂型のリンカーは、例えば、タンパク質分解酵素により切断される配列を有するリンカー、pH依存的に開裂するリンカー、ジスルフィドリンカー等があげられる。前記非開裂型のリンカーとしては、マレイミドメチルシクロヘキサンカルボキシラート(MCC)リンカー等があげられる。
【0034】
本明細書において、「標識」は、目的の分子または物質を、他の分子または物質から識別するためのものを意味する。前記標識は、例えば、蛍光色素または蛍光物質等の蛍光標識;化学発光標識;放射性同位元素(RI);等があげられる。
【0035】
本明細書において、「処置」は、治療的処置および/または予防的処置を意味する。本明細書において、「治療」は、疾患、病態、もしくは障害の治療、治癒、防止、抑止、寛解、改善、または、疾患、病態、もしくは障害の進行の停止、抑止、低減、もしくは遅延を意味する。本明細書において、「予防」は、疾患もしくは病態の発症の可能性の低下、または疾患もしくは病態の発症の遅延を意味する。前記「治療」は、例えば、対象疾患を発病する患者に対する治療でもよいし、対象疾患のモデル動物の治療でもよい。
【0036】
以下、本開示について、例をあげて具体的に説明する。以下、特に言及しない限り、各開示は、他の開示の説明を援用できる。
【0037】
<CADM1抗体>
ある態様において、本開示は、CADM1抗体に結合する抗体またはその抗原結合断片を開示する。本開示のCADM1抗体は、抗CADM1抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体は、下記(Ca)および(Cb)からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0038】
(Ca)それぞれ、配列番号1、2および3に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、それぞれ、配列番号4、5および6に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3とのアミノ酸配列を含む抗体((Ca)抗体)
(Cb)前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および/または前記軽鎖CDR3に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む(Ca)抗体の変異体((Cb)抗体)
【0039】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症では、初期症状として嗅覚異常が知られる。本発明者は、IgCAM型の接着分子CADM1(細胞膜を貫通する膜分子)は、鼻腔内の嗅上皮に高発現しており、ウイルス粒子接着の足場となって嗅覚異常に関与している可能性があるのではないかとの着想を得た。そして、本発明者は、マウス新生仔の前頭部においてCADM1の発現が確認され、さらに、SARS-CoV-2が、ACE2と同程度で、CADM1に結合すること、SARS-CoV-2とCADM1との結合を、本開示のCADM1抗体により阻害できることを見いだし、本開示を確立するに至った。このため、本開示の抗体またはその抗原結合断片によれば、SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある、新たな抗体を提供できる。また、本発明者は、本開示のCADM1抗体によれば、CADM1発現細胞に対して、CADM1およびCADM1抗体の内在化、すなわち、CADM1-CADM1の細胞内への取り込みを誘導できることを見出した。このため、本開示の抗体またはその抗原結合断片によれば、例えば、目的の有効成分を細胞内に送達できる。
【0040】
前記(Ca)抗体において、重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列は、以下の通りである。
・重鎖CDR1(配列番号1):SNAMG
・重鎖CDR2(配列番号2):GIGNTGRYTGYGPAVKG
・重鎖CDR3(配列番号3):SASGSGYGCAGWIDA
・軽鎖CDR1(配列番号4):SGGSYIYG
・軽鎖CDR2(配列番号5):SNDKRPS
・軽鎖CDR3(配列番号6):GNEDNSIDSAI
【0041】
前記(Cb)抗体の各CDRにおいて、「1もしくは数個」は、例えば、前記(Ca)抗体の変異体が、CADM1に対して結合する範囲であればよい。前記「1もしくは数個」は、例えば、1~10個、1~8個、1~6個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個であり、好ましくは、1~2個または1個である。本開示において、アミノ酸数、塩基数等の個数の数値範囲は、例えば、その範囲に属する正の整数を全て開示するものである。つまり、例えば、「1~5個」との記載は、「1、2、3、4、5個」の全ての開示を意味する(以下、同様)。
【0042】
前記(Cb)抗体において、「1もしくは数個」は、各CDR、すなわち、前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および前記軽鎖CDR3のそれぞれにおける置換、挿入、付加または欠失(以下、併せて「変異」ともいう)の個数でもよいし、全CDR、すなわち、前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および前記軽鎖CDR3の全変異の個数でもよく、好ましくは、全CDRの全変異の個数である。
【0043】
前記(Cb)抗体は、好ましくは、前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および前記軽鎖CDR3の全体で、1~10個、1~8個、1~6個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む。
【0044】
前記(Cb)抗体において、「置換、挿入、付加もしくは欠失」は、好ましくは、置換、挿入もしくは欠失、またはCDRのN末端およびC末端の少なくとも一方の付加である。前記置換は、保存的置換であることが好ましい(以下、同様)。前記「保存的置換」は、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1個または数個のアミノ酸を、他のアミノ酸および/またはアミノ酸誘導体に置換することを意味する。「置換するアミノ酸」と「置換されるアミノ酸」とは、例えば、性質および/または機能が類似していることが好ましい。具体的には、例えば、疎水性および親水性の指標(ハイドロパシー)、極性、電荷等の化学的性質、または、二次構造等の物理的性質等が類似していることが好ましい。前記性質および/または機能が類似するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、当該技術分野において公知である。具体例として、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)は、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等があげられ、極性アミノ酸(中性アミノ酸)は、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等があげられ、陽電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸)は、アルギニン、ヒスチジン、リジン等があげられ、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸)は、アスパラギン酸、グルタミン酸等があげられる。
【0045】
本開示の抗体またはその抗原結合断片において、前記抗体は、下記(Va)、(Vb)、および(Vc)からなる群から選択される抗体またはその抗原結合断片であってもよい。
【0046】
(Va)配列番号7から14のいずれかに示される重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示される軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む抗体((Va)抗体)
(Vb)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体((Vb)抗体)
(Vc)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有する重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有する軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体((Vc)抗体)
【0047】
前記(Va)抗体において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、以下の通りである。下記(Va)抗体の重鎖可変領域において、括弧で囲って下線で示したアミノ酸配列が、N末端から、それぞれ、重鎖CDR1、重鎖CDR2、および重鎖CDR3に対応する。下記(Va)抗体の軽鎖可変領域において、括弧で囲って下線で示したアミノ酸配列が、N末端から、それぞれ、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3に対応する。
・WT重鎖可変領域(配列番号7):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVS[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#1重鎖可変領域(配列番号8):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVA[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#2重鎖可変領域(配列番号9):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEFVA[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#3重鎖可変領域(配列番号10):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVA[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#4重鎖可変領域(配列番号11):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVA[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#5重鎖可変領域(配列番号12):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVS[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#6重鎖可変領域(配列番号13):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVS[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・#7重鎖可変領域(配列番号14):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS[SNAMG]WVRQAPGKGLEWVS[GIGNTGRYTGYGPAVKG]RFTISRDNSKNTVYLQLNSLRAEDTAVYYCAK[SASGSGYGCAGWIDA]WGQGTLVTVSS
・WT軽鎖可変領域(配列番号15):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSNSGSTTTLTISGVQAEDEADYYC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#1軽鎖可変領域(配列番号16):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSTSGSTGTLTISGVQAEDEADYYC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#2軽鎖可変領域(配列番号17):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSTSGSTTTLTISGVQAEDEADYYC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#3軽鎖可変領域(配列番号18):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSNSGSTGTLTISGVQAEDEADYFC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#4軽鎖可変領域(配列番号19):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSTSGSTTTLTISGVQAEDEADYFC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#5軽鎖可変領域(配列番号20):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSNSGSTTTLTISGVQAEDEADYFC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#6軽鎖可変領域(配列番号21):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSTSGSTTTLTISGVQAEDEADYYC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
・#7軽鎖可変領域(配列番号22):
SYELTQPPSVSVSPGQTARITC[SGGSYIYG]WYQQKPGQAPVTVIY[SNDKRPS]GIPERFSGSNSGSTTTLTISGVQAEDEADYYC[GNEDNSIDSAI]FGGGTKLTVL
【0048】
前記(Va)抗体において、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組合せは、任意の組合せである。前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域の組合せは、好ましくは、下記(1)~(8)の組合せである。特に、下記(2)~(4)の組合せは、例えば、CADM1に対する高い親和性と、内在化活性を示した。
(1)WT重鎖可変領域およびWT軽鎖可変領域
(2)#1重鎖可変領域および#1軽鎖可変領域
(3)#2重鎖可変領域および#2軽鎖可変領域
(4)#3重鎖可変領域および#3軽鎖可変領域
(5)#4重鎖可変領域および#4軽鎖可変領域
(6)#5重鎖可変領域および#5軽鎖可変領域
(7)#6重鎖可変領域および#6軽鎖可変領域
(8)#7重鎖可変領域および#7軽鎖可変領域
【0049】
前記(Vb)抗体において、「1もしくは数個」は、例えば、CADM1に対して結合する範囲であればよい。前記(Vb)抗体の重鎖可変領域において、「1もしくは数個」は、例えば、1~24個、1~18個、1~12個、1~10個、1~6個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個であり、好ましくは、1~2個または1個である。また、前記(Vb)抗体の軽鎖可変領域において、「1もしくは数個」は、例えば、1~21個、1~15個、1~10個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個であり、好ましくは、1~2個または1個である。
【0050】
前記(Vb)抗体において、前記変異の位置は、例えば、CDRでもよいし、FRでもよいが、好ましくは、FRである。前記(Vb)抗体において、前記変異の位置がFRである場合、前記(Vb)抗体は、前記抗体のフレームワーク領域に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む。
【0051】
前記(Vb)抗体において、「置換、挿入、付加もしくは欠失」は、好ましくは、置換、挿入もしくは欠失、またはCDRのN末端およびC末端の少なくとも一方の付加である。前記置換は、保存的置換であることが好ましい。
【0052】
前記(Vb)抗体において、前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、保存されていることが好ましい。この場合、前記(Vb)の抗体は、前記(Ca)で示す各CDRのアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列が保存されている。
【0053】
前記(Vb)抗体において、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列において、括弧で囲まず、下線で示すアミノ酸、すなわち、47、49、79、および/または、83番目のアミノ酸と対応するアミノ酸が保存されていることが好ましい。前記47番目のアミノ酸は、例えば、WまたはFである。前記49番目のアミノ酸は、例えば、SまたはAである。前記79番目のアミノ酸は、LまたはVである。前記83番目のアミノ酸は、例えば、LまたはMである。
【0054】
前記(Vb)抗体において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列において、括弧で囲まず、下線で示すアミノ酸、すなわち、62、67、および/または、83番目のアミノ酸と対応するアミノ酸が保存されていることが好ましい。前記62、67、および/または、83番目のアミノ酸において、保存されているアミノ酸の数は、1つでもよいし、複数でもよいし、全部でもよい。前記62番目のアミノ酸は、例えば、NまたはTである。前記67番目のアミノ酸は、例えば、TまたはGである。前記83番目のアミノ酸は、例えば、YまたはFである。
【0055】
前記(Vc)抗体において、「同一性」は、例えば、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一性の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。前記同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、デフォルトのパラメータにより算出できる(以下、同様)。
【0056】
前記(Vc)抗体において、前記「同一性」は、CADM1に対して結合する範囲であればよい。前記(Vc)抗体の重鎖可変領域において、前記「同一性」は、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。前記(Vc)抗体の軽鎖可変領域において、前記「同一性」は、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。
【0057】
前記(Vc)抗体において、前記(Va)抗体と異なるアミノ酸は、CDRに存在してもよいし、FRに存在してもよいが、好ましくは、FRに存在する。
【0058】
前記(Vc)抗体において、前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、保存されていることが好ましい。この場合、前記(Vc)の抗体は、前記(Ca)で示す各CDRのアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列が保存されている。
【0059】
前記(Vc)抗体において、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列において、括弧で囲まず、下線で示すアミノ酸、すなわち、47、49、79、および/または、83番目のアミノ酸と対応するアミノ酸が保存されていることが好ましい。前記47、49、79、および/または、83番目のアミノ酸において、保存されているアミノ酸の数は、1つでもよいし、複数でもよいし、全部でもよい。前記47番目のアミノ酸は、例えば、WまたはFである。前記49番目のアミノ酸は、例えば、SまたはAである。前記79番目のアミノ酸は、LまたはVである。前記83番目のアミノ酸は、例えば、LまたはMである。
【0060】
前記(Vc)抗体において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列において、括弧で囲まず、下線で示すアミノ酸、すなわち、62、67、および/または、83番目のアミノ酸と対応するアミノ酸が保存されていることが好ましい。前記62、67、および/または、83番目のアミノ酸において、保存されているアミノ酸の数は、1つでもよいし、複数でもよいし、全部でもよい。前記62番目のアミノ酸は、例えば、NまたはTである。前記67番目のアミノ酸は、例えば、TまたはGである。前記83番目のアミノ酸は、例えば、YまたはFである。
【0061】
本開示の抗体またはその抗原結合断片は、例えば、内在化活性を有する。前記内在化活性は、例えば、後述の実施例1(9)に準じて、ヒト白血病細胞株MT-2株を用いた内在化試験により評価できる。本明細書では、細胞表面の残存CADM1の割合を100%から引いた値をインターナライズ%とする。本開示の抗体またはその抗原結合断片は、例えば、前記内在化試験において、前記CADM1抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始24時間後にCADM1陽性細胞(例えば、MT-2株)に対して、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上の内在化活性を有する。
【0062】
本開示の抗体またはその抗原結合断片の投与対象は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、サル等)である。本開示の抗体またはその抗原結合断片の投与量は、例えば、治療有効量である。本開示の抗体またはその抗原結合断片の投与経路は、例えば、経口投与または非経口投与である。前記非経口投与は、例えば、静脈内投与、経鼻投与等があげられる。
【0063】
<核酸>
別の態様において、本開示は、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を開示する。本開示の核酸は、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片をコードする。本開示の核酸によれば、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片を遺伝子工学的手法により製造できる。
【0064】
本開示の核酸は、例えば、以下の方法により取得できる。まず、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片を産生するハイブリドーマからRNAを抽出後、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。得られたcDNAについて、重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子の可変領域において保存されている配列に対するプライマーを用いてcDNAを増幅し、得られた増幅断片から、DNAの塩基配列情報を決定できる。また、得られた塩基配列情報から、可変領域またはその一部の配列を化学合成して、定常領域を含む配列に結合することにより、抗CADM1抗体をコードするDNAを取得できる。
【0065】
本開示の核酸は、例えば、プラスミドベクター等のベクターに機能的に連結されてもよい。
【0066】
<形質転換体>
別の態様において、本開示は、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を含む形質転換体(宿主細胞)を開示する。本開示の形質転換体は、本開示の核酸を含む。本開示の形質転換体によれば、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片を生産できる。
【0067】
前記形質転換体は、例えば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞;真核細胞等があげられ、好ましくは、真核細胞であり、より好ましくは、哺乳動物由来の細胞である。前記哺乳動物由来の細胞は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、COS、ミエローマ、BHK、HeLa、Vero、293、NS0、Namalwa、YB2/0等があげられる。
【0068】
前記核酸は、前記核酸を含むベクターであってもよい。前記ベクターは、例えば、形質転換体の種類に応じて、適宜選択できる。前記哺乳動物由来の細胞で発現可能なベクターは、例えば、pcDNA3.1(Invitrogen社製)、pConPlus、pcDM8、pcDNA I/Amp、pcDNA3.1、pREP4等のプラスミドベクター;pDON-AI DNA(タカラバイオ社製)等のウイルスベクター;等があげられる。
【0069】
本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片は、例えば、前記形質転換体の培養液から回収および精製(単離)できる。前記精製は、抗体等の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。前記精製は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択し、単独または組み合わせることで、抗体を分離および精製できる。
【0070】
<抗体薬物複合体>
別の態様において、本開示は、CADM1発現細胞に目的の有効成分を送達可能な抗体薬物複合体を開示する。本開示の抗体薬物複合体は、前記本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片と、目的の有効成分とを含む。本開示の抗体薬物複合体によれば、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片により、CADM1発現細胞に対して、前記複合体中の目的の有効成分を送達できる。また、本開示のCADM1抗体は、前述のように、CADM1の内在化を誘導できる。このため、本開示の抗体薬物複合体によれば、例えば、目的の有効成分をCADM1発現細胞の細胞内に送達できる。
【0071】
前記目的の有効成分は、任意の成分とできる。前記目的の有効成分は、例えば、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、抗体等のタンパク質、成長因子、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム等があげられる。前記細胞傷害活性を有する薬剤は、例えば、アルキル化剤、腫瘍壊死因子阻害剤、インターカレーター、微小管阻害剤、キナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤等があげられる。具体例として、前記細胞傷害活性を有する薬剤は、例えば、アウリスタチン(例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)またはモノメチルアウリスタチンF(MMAF)等)、メイタンシノイド(例えば、DM1またはDM4)、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)等があげられる。
【0072】
本開示の抗体薬物複合体において、前記抗体またはその抗原結合断片と、目的の有効成分とは、直接的に結合(連結)してもよいし、リンカーにより間接的に結合(連結)してもよい。後者の場合、前記リンカーは、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)またはペプチダーゼ等の酵素、pH等により開裂する開裂型のリンカーでもよいし、非開裂型のリンカーでもよい。前記開裂型のリンカーは、例えば、血中に存在する酵素により切断されず、細胞内にのみ存在する酵素によって切断される切断サイトを有するように設計される。具体例として、前記開裂型のリンカーは、例えば、バリン-シトルリン(Val-Cit)、バリン-アラニン(Val-Ala)、アラニン-アラニン-アスパラギン(Ala-Ala-Asn)等があげられる。
【0073】
本開示の抗体薬物複合体において、前記リンカーおよび目的の成分(薬物)は、例えば、下記式(1)で表される。
【化1】
【0074】
<医薬組成物>
別の態様において、本開示は、CADM1と関連する疾患に対して使用しうる医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体を含む。本開示の医薬組成物によれば、後述のように、SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある。また、本開示の医薬組成物によれば、例えば、目的の有効成分を細胞内に送達することにより、がんの処置等に好適に使用できると期待される。
【0075】
本開示の医薬組成物は、例えば、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1のCADM1への結合を抑制できることから、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置、および/または、SARS-CoV-2による感染症の処置に好適に使用できると期待される。このため、本開示の医薬組成物は、例えば、投与対象として、SARS-CoV-2への感染者(患者)、または感染の疑いがある対象者に好適に使用できると期待される。
【0076】
また、本開示の医薬組成物は、例えば、CADM1発現細胞に対して内在化を誘導得きることから、がん、特に、CADM1を発現するがんの処置に好適に使用できると期待される。このため、本開示の医薬組成物は、例えば、投与対象として、がんの患者またはがんの疑いがある対象者に好適に使用できると期待される。
【0077】
<処置方法>
別の態様において、本開示は、CADM1と関連する疾患、例えば、SARS-CoV-2による感染症またはがんに対して実施しうる処置方法を提供する。本開示の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置方法またはSARS-CoV-2による感染症の処置方法は、対象に、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体を投与する投与工程を含む。また、本開示のがんの処置方法は、対象に、本開示のCADM1抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体を投与する投与工程を含む。本開示の処置方法によれば、SARS-CoV-2による感染症またはがんに対する処置が好適に実施できると期待される。
【0078】
<検出試薬>
別の態様において、本開示は、CADM1の検出に使用可能な検出試薬を開示する。本開示のCADM1の検出試薬は、本開示の抗体またはその抗原結合断片を含む。本開示の試験試薬によれば、CADM1を検出できる。本開示の検出試薬によれば、CADM1を発現する細胞、例えば、中皮腫、消化管間質腫瘍、肺腺がん、内膜腺がん等のがん細胞を検出できる。
【0079】
本開示の検出試薬において、前記抗体またはその抗原結合断片は、標識されてもよい。
【0080】
本開示の検出試薬は、例えば、CADM1の存在の有無、または、CADM1の発現量の検出、すなわち、定性的分析または定量的分析に用いることもできる。このため、本開示の検出試薬は、例えば、分析試薬ということもできる。
【0081】
<試験試薬>
別の態様において、本開示は、がんの罹患の可能性の試験に使用可能な試薬を開示する。本開示のがんの罹患の可能性の試験に用いるための試薬は、本開示の抗体またはその抗原結合断片を含む。本開示の試験試薬によれば、がん、特に、CADM1を発現するがんを検出できる。本開示の試験試薬は、例えば、がんの診断試薬、またはがんの処置に用いる医薬組成物のコンパニオン診断薬としても使用できる。このため、本開示の試験試薬は、例えば、がんの診断試薬またはがんのコンパニオン診断薬ということもできる。
【0082】
前記がんは、例えば、中皮腫、消化管間質腫瘍、肺腺がん、内膜腺がん等があげられる。前記がんは、CADM1陽性がんであってもよい。
【0083】
本開示の検出試薬または試験試薬は、キットを構成してもよい。この場合、本開示の検出キットまたは試験キットは、本開示の抗体またはその抗原結合断片と、他の構成とを含む。前記他の構成は、例えば、緩衝液等の他の試薬、取扱説明書等があげられる。
【0084】
<検出方法>
別の態様において、本開示は、CADM1を検出可能な検出方法を開示する。本開示のCADM1の検出方法は、サンプルと、本開示の抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示のCADM1の検出試薬を接触させる接触工程と、前記サンプル中のCADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との複合体を検出する検出工程とを含む。本開示の検出方法によれば、サンプル中のCADM1の存在の有無、および/または、サンプル中のCADM1の存在量を検出できる。
【0085】
前記サンプルは、例えば、生体試料があげられる。前記生体は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、サル等)の生体である。前記生体試料は、例えば、体液、細胞、組織、臓器等があげられる。前記サンプルは、例えば、液体でもよいし、固体でもよい。前記サンプルが固体の場合、本開示の検出方法は、前記検出工程に先立ち、前記固体サンプルを液体と混合し、液体サンプルを調製することが好ましい。
【0086】
前記接触工程は、本開示の抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示のCADM1の検出試薬を接触させる工程である。前記接触工程において、前記サンプルと前記抗体またはその抗原結合断片との接触方法は、特に制限されず、例えば、液体中で行なわれることが好ましい。前記接触は、例えば、前記サンプルと、前記抗体またはその抗原結合断片とを混合することにより実施されてもよい。前記液体は、例えば、水、生理的食塩水、緩衝液等があげられる。前記接触工程における接触時の条件は、例えば、抗体と抗原との結合が生じる一般的な条件として設定できる。
【0087】
前記検出工程は、前記サンプル中のCADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との複合体を検出する工程である。前記両者の結合の有無を検出することによって、例えば、前記サンプル中のCADM1の有無を分析(定性)でき、また、前記両者の結合の程度(結合量)を検出することによって、例えば、前記サンプル中のCADM1の量を分析(定量)できる。
【0088】
そして、前記検出工程では、前記CADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との結合が検出できなかった場合は、前記サンプル中にCADM1は存在しないと判断でき、前記結合が検出された場合は、前記サンプル中にCADM1が存在すると判断できる。また、前記検出工程では、予め、CADM1の存在量と、結合量との相関関係を求めておき、前記相関関係に基づいて、前記結合量から、前記サンプル中にCADM1の発現量を分析することもできる。このため、本開示の検出方法は、例えば、分析方法ということもできる。
【0089】
前記CADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との結合の検出方法は、特に制限されない。前記方法は、例えば、物質間の結合を検出する従来公知の方法が採用できる。
【0090】
<試験方法>
別の態様において、本開示のがんの罹患の可能性の試験方法は、対象者の生体試料と、本開示の抗体またはその抗原結合断片、および/または、本開示のがんの罹患の可能性の試験に用いるための試薬を接触させる接触工程と、前記生体試料におけるCADM1の発現量を測定する測定工程とを含む。本開示の試験方法によれば、がんの罹患の可能性を試験できる。本開示の試験方法は、例えば、がんの診断方法、またはがんの処置に用いる医薬組成物のコンパニオン診断方法としても使用できる。このため、本開示の試験方法は、例えば、がんの診断方法またはがんのコンパニオン診断方法ということもできる。
【0091】
本開示の試験方法において、前記接触工程および前記測定工程は、前記本開示の検出方法における接触工程および検出工程と同様にして実施できる。
【0092】
本開示の試験方法は、さらに、前記生体試料におけるCADM1の発現量を、基準値と比較する比較工程を含んでもよい。前記基準値は、例えば、健常者の生体試料、がん患者の生体試料におけるCADM1の発現量等があげられる。
【0093】
前記比較工程における評価方法は、例えば、前記基準値に応じて適宜設定できる。具体例として、前記比較工程では、前記対象者の生体試料におけるCADM1の発現量が、前記健常者の生体試料におけるCADM1の発現量よりも有意に高い場合、前記がん患者の生体試料におけるCADM1の発現量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記がん患者の生体試料におけるCADM1の発現量よりも有意に高い場合、前記対象者は、がんに罹患する危険性があるまたは危険性が高いと評価できる。また、前記比較工程では、前記対象者の生体試料におけるCADM1の発現量が、前記健常者の生体試料におけるCADM1の発現量と同じ場合(有意差が無い場合)、前記健常者の生体試料におけるCADM1の発現量よりも有意に低い場合、および/または、前記がん患者の生体試料におけるCADM1の発現量よりも有意に低い場合、前記対象者は、がんに罹患する危険性が無いまたは危険性が低いと評価できる。また、前記比較工程において、前記対象者の生体試料におけるCADM1の発現量を、前記進行ステージごとのがん患者の生体試料におけるCADM1の発現量と比較することで、がんの進行度を評価できる。具体的には、前記対象者の生体試料が、例えば、いずれかの進行ステージの前記生体試料と同程度の発現量の場合(有意差がない場合)、前記対象者は、前記進行ステージの可能性があると評価できる。
【0094】
<使用>
本開示は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置方法またはSARS-CoV-2による感染症の処置方法に用いるための、本開示のCADM1抗体その抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体である。また、本開示は、S重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置方法またはARS-CoV-2による感染症の処置方法に用いるための医薬組成物の製造における、本開示のCADM1抗体その抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体の使用である。本開示は、がんの処置方法に用いるための、本開示のCADM1抗体その抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体である。また、本開示は、がんの処置方法に用いるための医薬組成物の製造における、本開示のCADM1抗体その抗原結合断片、および/または、本開示の抗体薬物複合体の使用である。
【実施例
【0095】
以下、実施例を用いて本開示を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「mol/l」を「M」と表記することがある。また、特に言及しない限り、市販の試薬およびキットは、添付のプロトコルに従って使用した。
【0096】
[実施例1]
新規なCADM1抗体を調製した。
【0097】
(1)チキン抗CADM1抗体の作製
チキン抗CADM1抗体は以下のように作製した。
【0098】
免疫動物には、ニワトリを用いた。抗原には、マウスCADM1の細胞外領域全長の組換えタンパク質(Furuno T. 他, Journal of Immunology, 2005)を用いた。前記ニワトリを、前記抗原にて免疫した後、脾臓より抗体産生細胞を採取し、ニワトリB細胞株MuH1と細胞融合させた。CADM1抗体を産生するハイブリドーマのクローンは、マウスCADM1の細胞外領域のC末端側にマウスIgGのFc領域を付加したCADM1-Fc(Koma Y. 他, Oncogene, 2004)に対する反応性をELISA法により評価して選別した。
【0099】
得られたチキン抗CADM1抗体を産生するハイブリドーマについて、抗体をコードしている核酸配列を解読し、前記核酸配列からアミノ酸配列を同定した。その結果、前記チキン抗CADM1抗体は、配列番号23に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号24に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号25に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号26に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含む抗体であった。チキン抗CADM1抗体における、重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3は、Kabatの番号付けの法則により特定した。図1および図2に、チキン抗CADM1抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列をCDR1~3の位置と併せて示す。
【0100】
(2)ヒト化抗CADM1抗体の設計
チキン抗CADM1抗体のヒト化は、主に、CDRグラフティンにより実施した。具体的には、下記1)~4)工程で実施した。
1)抗CADM1チキン抗体の塩基配列から、CDR配列をピックアップし、ヒトのフレームワーク配列にそれらCDRを移植する。
2)チキン抗CADM1抗体の配列とヒトフレームワーク配列とを比較し、Vernier Zoneにおけるアミノ酸配列の異なる箇所をピックアップする。
3)異なる配列箇所は、ヒト由来アミノ酸またはニワトリ由来アミノ酸のどちらにも翻訳できるように、混合塩基を使用したコドンを設計する(場合によっては両者と異なるアミノ酸が出現する場合がある)。
4)scFv(single chain Fv:一本鎖抗体)のコンストラクトとなるように、設計したVHとVLの塩基配列を組み合わせる。
【0101】
(3)ヒト化抗scFvライブラリの作製
設計した配列を合成し、PCRにて増幅後、pPDS(hCκ)ファージミドベクター(Yamanaka IH. 他, Journal of Biochemistry, 1995)に挿入した。次いで、XL1-Blue大腸菌(Stratagene、200228)に遺伝子導入した。菌の培養液にヘルパーファージを加えた後、IPTG(100μg/ml)を添加して、ファージscFv抗体の発現を行った。翌日、PEG沈後、PBS(phosphate- buffered saline)にて沈殿を溶解し、プライマリーscFv抗体ライブラリを得た。
【0102】
(4)プライマリーscFv抗体ライブラリのパニング
抗原に対する特異結合、洗浄操作(非特異抗体の除去)、および特異抗体の回収はそれぞれ以下のように実施した。まず、イムノプレート(マキシソープ、Nunc)に1μg/mlのCADM1-Fc融合タンパク質を固相化した後、scFv抗体ライブラリを添加し、抗原への特異結合反応を行わせた。ウェル(well)をPBS-Tで洗浄し、非特異抗体を除去した後、XL1-Blueを加え、ファージの感染を行った(特異抗体の回収、および大腸菌への再感染)。IPTGを添加して、ファージscFv抗体の発現を誘導し、翌日、PEG沈後、PBSにて沈殿を溶解させた(パニングscFv抗体ライブラリ)。以上のパニング操作を、3~5回繰り返した。
【0103】
(5)ファージscFv抗体の発現とスクリーニング(ELISA)
前記パニングscFvライブラリとXL1-Blueとを混合させた後、2×YTプレートに播種することでコロニー化させ分離した。コロニー化されたクローンを2×YT培地で培養し、ヘルパーファージ添加後、IPTGを添加して、scFv抗体の発現を行った。前記発現後、培養上清を回収し、ELISAによるスクリーニングに供した。前記ELISAは、CADM1-FcまたはBSAを固相したイムノプレート(マキシソープ、Nunc)、および二次抗体(HRP-anti-human-kappa、Thermo)を用いた。そして、前記CADM1-Fcへの高い反応性が確認され、且つBSAへの非特異反応性が見られないクローンを選出した。
【0104】
(6)二価抗体の作製
選出したクローン、および全てのフレームワークをヒト型のアミノ酸に置換したクローン(Wt)について、ヒトIgG4/κまたはIgG1/κへの組換えを以下のように行った。まず、Wtについては全合成DNAを、テンプレートとして、H鎖可変領域およびL鎖可変領域をPCRで増幅した。また、選出したクローンについては、scFv発現プラスミドをテンプレートとして、H鎖可変領域およびL鎖可変領域をPCRで増幅した。次いで、得られたPCR産物を、ヒトIgG4またはIgG1(H鎖)と、ヒトκ鎖(L鎖)の定常領域の組み込み構築済みの発現ベクター(pcDNA3.4, Thermo)にSeamless Cloning and Assembly Enzyme Mix(Thermo, A14606)を用いて相同組換えにより挿入したベクターを調製した。
【0105】
得られたベクターを用いて、大腸菌を形質転換して形質転換体を得た後、形質転換体を大量培養し、さらに、各クローンのH鎖およびL鎖のプラスミドを精製した。得られたプラスミドとExpi293 Expression System(Thermo, A14635)とを用いて、抗体を一過性で発現させた。そして、各培養上清から、MabSelect SuRe(Cytiva, 17543802)を用いて抗体を精製した。なお、ヒトIgG4のH鎖の定常領域においては、安定化を目的としてコアヒンジ配列はSerからProに置換した(Angal S. 他, Molecular Immunology, 1993)。ヒトL鎖の定常領域は、κ鎖の一般的な配列である。
【0106】
(7)抗CADM1抗体の配列情報
以上の作製方法により、(1)それぞれ、配列番号1、2および3に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、(2)それぞれ、配列番号4、5および6に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3とのアミノ酸配列を含む抗CADM1抗体が得られた。具体的には、FRのアミノ酸配列が異なる8種類の抗CADM1抗体が得られた。

クローンWT:配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(完全ヒト型)
クローン#1:配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#2:配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#3:配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#4:配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#5:配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#6:配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
クローン#7:配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体
【0107】
図3に、各クローンの重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列情報をCDR1~3の位置と併せて示す。また、図3では、各クローンについて、クローンWTを基準として、変異があるアミノ酸残基に下線を付している。図3に示すように、抗CADM1抗体の上記各クローンでは、完全ヒト型(WT:フレームワークがヒト抗体型)との比較において、残る7クローン(#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7)は、フレームワークの特定の6アミノ酸残基に最大4つのアミノ酸置換を有するが、重鎖および軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3は全クローン同一であった。
【0108】
(8)抗CADM1抗体のCADM1特異性の評価
精製した抗CADM1抗体(WT、#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7の8クローン)を用いて、CADM1(細胞外領域の組換えタンパク質(https://doi.org/10.1038/sj.onc.1207761 参照))、および牛血清アルブミン(BSA)に対する反応性を以下のようにELISA法により確認した。まず、抗原(CADM1およびBSA)は、4℃で一晩イムノプレート(マキシソープ、Nunc)に固相し、翌日、固相液を捨て、ブロッキング溶液(株式会社ケー・エー・シー、UKB80)を用いてブロッキングを37℃で1時間行った。PBS-T(0.1(w/v)%Tween20含有PBS)で洗浄後、各濃度に希釈した精製抗体(WT、#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7の8クローン)を37℃で1時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、1000倍希釈した二次抗体(HRP-anti-human kappa、Thermo)を37℃で1時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、TMB(KPL,52-00-02)で10分間発色を行い、TMB stop solution(KPL,50-85-05)で反応を停止させ、プレートリーダー(Cytation、BioTek)にて吸光度450/650を測定した。この結果を図4に示す。図4に示すように、各クローンについて、CADM1特異性が確認された。残る4クローン(#4,5,6,7)の反応性は、WTと同程度であった。
【0109】
なお、以下に説明する実施例では、特に断らない限り、抗CADM1抗体としてはクローン#1(ヒトIgG1)を用いた。また、マウスへの投与実験(薬効評価実験)では、抗CADM1抗体についてはFc領域(定常領域)をマウスIgG1型に組み換えて使用した。
【0110】
(9)抗CADM1抗体の内在化促進作用の評価
本発明者は、CADM1発現細胞の標準的な培養系において抗CADM1抗体を培養液に添加すると、CADM1発現細胞を溶解した際に、CADM1が易可溶化画分から消失し難可溶タンパク質画分へと移行することを見出した。これは、CADM1の一部が細胞膜上から消失し細胞内に移行(内在化)したことを示すと考えられる。さらに、本発明者は、CADM1組換えタンパク質(抗原)に対してELISAで高親和性を示す抗CADM1抗体の各クローン自身の内在化効率を調べるため、CADM1陽性であることを確認したヒト白血球系細胞株MT-4、中皮腫細胞株H2052および子宮内膜がん細胞株HEC-50B(HEC50B)を通常培養し、当該培養液に、抗CADM1抗体の各クローン(クローン#1:各2μg/ml)または対照抗体(ヒトIgG1:2μg/ml)を添加し、翌日、易可溶化画分および難可溶タンパク質画分をタンパク質抽出し、ウエスタンブロットに供した。その結果を図5に示す。
【0111】
図5において、ヒトIgG(重鎖)のブロットが各クローン(ヒトIgG)の内在化の程度を示す。また、GAPDHは易可溶化画分のマーカーである。図5に示すように、抗CADM1抗体は内在化活性を有していた。また、データは示していないが、ELISAでの親和性(図4(A)参照)に対応して、クローン#1、#2は、クローン#3と比較して、内在化活性がさらに高かった。
【0112】
(10)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症に対する抗CADM1抗体の効果
図6は、NIH3T3線維芽細胞によるACE2またはCADM1安定発現亜株の樹立と、各細胞に結合するSARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1の検出を示す。図6(a)および(d)は、元のNIH3T3を、図6(b)および(e)は、ACE2発現亜株を、図6(c)および(f)は、CADM1発現亜株を示す。
【0113】
まず、NIH3T3線維芽細胞を用いて遺伝子導入を行い、ACE2またはCADM1が細胞膜上に安定的に高発現する亜株を得た。抗ACE2抗体またはCADM1のC末認識抗体を用いた免疫染色にて、ACE2およびCADM1ともに細胞表面に局在することが確認された(図6(a)~(c))。なお、図中の円形物は、DAPIにより染色された核である。
【0114】
ACE2またはCADM1を安定的に発現するNIH3T3線維芽細胞亜株培養系において培養液中に、fluoresceinにて蛍光標識したS1組換えタンパク質を添加し、翌日免疫染色にてS1を検出した。この結果、元のNIH3T3細胞ではS1は検出されなかった(図6(d))。他方、ACE2発現細胞およびCADM1発現細胞の両者にてS1は細胞表面や細胞膜上に検出された(図6(e)および(f))。
【0115】
図7は、MDCK腎上皮細胞によるACE2またはCADM1安定発現亜株の樹立と、各細胞に結合するSARS-CoV-2のスパイクタンパク質S1の検出を示す。図7(a)および(d)は、元のMDCKを、図7(b)、(e)および(g)は、ACE2発現亜株を、図7(c)、(f)、および(h)は、CADM1発現亜株を示す。また、図7(d)~(f)は、細胞培養系にS1と同時に対照抗体(CADM1と関連性の無いヒトIgG1)を添加したものであり、図7(g)および(h)は、細胞培養系にS1と同時に抗CADM1抗体を添加したものである。抗CADM1抗体としては、#1抗体を添加し、対照抗体としては、#1抗体の対照抗体としてヒトIgG1を添加した。
【0116】
まず、MDCK腎上皮細胞を用いて遺伝子導入を行い、ACE2またはCADM1が細胞膜上に安定的に高発現する亜株を得た。抗ACE2抗体またはCADM1のC末認識抗体を用いた免疫染色にて、ACE2およびCADM1ともに細胞表面に局在することが確認された(図7(a)~(c))。なお、図中の円形物は。DAPIにより染色された核である。
【0117】
ACE2またはCADM1を安定的に発現するMDCK線維芽細胞亜株培養系において培養液中に、fluoresceinにて蛍光標識したS1組換えタンパク質を抗CADM1抗体(ヒト化抗体)またはその対照抗体と共に添加し、翌日生細胞観察にてS1(蛍光)を検出した。この結果、元のMDCK細胞では、S1は検出されなかった(図7(d))。他方、ACE2発現細胞では、対照抗体および抗CADM1抗体のいずれの添加群においても、S1が同程度に検出された(図7(e)および(g))。一方、CADM1発現細胞においては、対照抗体添加群では、S1は検出されたが(図7(f))、抗CADM1抗体添加群では、S1は検出されなかった(図7(h))。すなわち、CADM1発現細胞培養系において抗CADM1抗体をS1と同時に添加したところ、細胞表面で検出されるS1の蛍光は著しく強度が減弱した。
【0118】
以上の実験を独立して3回行い、各回の平均値から蛍光強度の平均±標準偏差を計算した結果を下記の表1に示す。また、下記表1では、対照抗体添加群を添加したACE2発現細胞およびCADM1発現細胞との比較におけるP値(Student t-検定)を合わせて示す。
【0119】
【表1】
【0120】
図8は、抗CADM1抗体の鼻腔内分布を示す。なお、図8の(a)および(c)は、比較例として、対照抗体(マウスIgG1:20μg)をマウス鼻腔内に点鼻した直後、および30分後のそれぞれの鼻腔内分布を示し、図8の(b)、(d)、および(e)は、抗CADM1抗体(10μg)をマウス鼻腔内に点鼻した直後、30分後、および3時間後のそれぞれの鼻腔内分布を示す。図8において、「*」を付した箇所は、「気道上皮が被覆する鼻腔」であり、「☆」を付した箇所は、「嗅上皮が被覆する鼻腔」であり、「#」を付した箇所は、「頭蓋内」である。
【0121】
抗CADM1抗体またはその対照抗体をマウス鼻腔内に点鼻し、直後、30分後、または3時間後にそれぞれ前頭部凍結切片を作製し、点鼻抗体を免疫染色にて検出した。図8において、DAPIにより染色された核の周縁領域を中心として残存する抗体が白っぽく分布している。図8に示すように、対照抗体が30分程度で拡散・消失した一方、抗CADM1抗体は、嗅上皮に集積して3時間後も高濃度に滞留し続けた。
【0122】
図9は、抗CADM1抗体によるS1タンパク質の鼻腔内粘膜への結合阻害を示す写真である。まず、マウス(C57BL/6)に、抗CADM1抗体(図9(A))または対照抗体(図9(B))(各10μg)を点鼻した。前記点鼻1時間後に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質S1(10μg)を点鼻した。前記点鼻3時間後に、マウス前頭部を採取し、組織切片を調製した。前記組織切片において、抗CADMA抗体およびS1を染色すると共に、DAPIを用いて核を染色した。図9(A)において、矢印Xで示す囲った領域が、S1が検出された領域であり、矢印Yで囲った領域が、抗CADM1抗体が検出された領域である。また、図9(B)において、三角(△)で示す箇所が、S1の嗅粘膜表面への接着が検出された箇所である。図9(B)に示すように、対照抗体の投与群では、鼻腔内の嗅粘膜表面にS1が付着(接着)しているのが観察された。他方、図9(A)に示すように、抗CADM1抗体の投与群では、鼻腔内にS1が浮遊しており、嗅粘膜表面への接着は観察されなかった。
【0123】
以上の結果から、SARS-CoV-2感染による嗅覚異常の機序として、CADM1経路が認識されると共に、嗅上皮感染予防法として、抗CADM1抗体が有用であることが判明した。
【0124】
(11)抗CADM1抗体を用いた抗体薬物複合体
前述の通り、本発明者は、CADM1発現細胞の標準的な培養系において抗CADM1抗体を培養液に添加すると、CADM1が易可溶化画分から消失し難可溶タンパク質画分へと移行することを見出した(図5参照)。これは、CADM1が細胞膜上から消失し細胞内に移行(内在化)したことを示すと考えられる。
【0125】
図10は、抗CADM1抗体によるCADM1の消失を示す。具体的には、各種細胞(中皮腫(3種類)、肺腺がん、または内膜腺がん)を通常培養し、培養液に抗CADM1抗体(2μg/ml)または対照抗体(2μg/ml)を添加し、翌日、易可溶化画分をタンパク質(細胞膜タンパク質・細胞質可溶タンパク質主体)抽出し、ウエスタンブロットに供した結果を図10に示す。なお、易可溶化画分は、50mM Tris-HCl(pH8.0),150mM NaCl,1% Triton X-100にて細胞を溶解後、遠心分離し、上清を回収して得た。図10に示すように、いずれの細胞についても、抗CADM1抗体を添加することにより、CADM1は、易可溶化画分での検出量が減少した。なお、図10において、β-actinは、各レーンに泳動されたタンパク質量を示すものであり、各ブロット(泳動メンブレン)においてレーン間で泳動タンパク質量に差が無いことを確認した。
【0126】
図11抗CADM1抗体によるCADM1の内在化を示す。具体的には、図11に示すような実験で易可溶化画分を採取する際に生じた細胞タンパク質ペレットを界面活性剤含有バッファー(RIPAバッファー(0.1w/v% sodium dodecyl sulfate含有))にて溶解し、難可溶タンパク質画分(核タンパク質を含む)を得た。この難可溶タンパク質画分を易可溶化画分とともにウエスタンブロットに供した結果を図11に示す。図11に示すように、いずれの細胞についても、抗CADM1抗体を添加することにより、CADM1は易可溶化画分から難可溶タンパク質画分へと移動(つまり内在化)した。なお、図11において、抗体(重鎖)のブロットが内在化の程度を示す。また、GAPDHは易可溶化画分のマーカーであり、HDACは難可溶タンパク質画分(核タンパク質を含む)のマーカーである。
【0127】
また、CADM1の内在化に際して、抗CADM1抗体も内在化することを見出した。図12は、抗CADM1抗体の内在化を示す。具体的には、抗CADM1抗体をFluoresceinにて標識し、標準的な中皮腫細胞(EHMES10)培養系においてFluorescein標識・抗CADM1抗体を1μg/ml培養液に添加し、添加後10および30時間の時点でFluoresceinの蛍光を生細胞観察にて検出した結果を図12に示す。図12に示すように、抗CADM1抗体は細胞膜上から細胞内へと移動(つまり内在化)した。
【0128】
以上に説明したことから、本願発明者は、抗CADM1抗体に薬物を搭載することによって、当該薬物を効率的にCADM1発現細胞内へ送達することができることを見出した。
【0129】
図13は、抗CADM1抗体を基盤とする抗体薬物複合体を示す。詳しくは、図13は、微小管重合阻害薬(MMAE)結合抗CD30モノクローナル抗体Adcetris(Brentuximab vedotin;悪性リンパ腫治療薬)の抗体部分を抗CADM1抗体に置換した抗体薬物複合体を示す。図13に示す抗CADM1抗体-MMAE複合体では、カテプシン(cathepsin)切断リンカーを介して抗CADM1抗体とMMAEとが結合されている。
【0130】
図14は、抗CADM1抗体を基盤とする抗体薬物複合体の薬効を示す。具体的には、微小管重合阻害薬(MMAE)結合抗CD30モノクローナル抗体Adcetris(Brentuximab vedotin;悪性リンパ腫治療薬)の抗体部分を抗CADM1抗体または対照抗体(マウスIgG1)に置換した抗体薬物複合体を調製した。そして、これらの複合体をCADM1発現細胞培養系(CADM1を高発現している成人型T細胞白血病細胞株MT-2の培養系)に各1μg/ml添加し、細胞数の変化を経時的に観察した。この結果を図14に示す。図14に示すように、対照抗体を用いた複合体(対照抗体-MMAE)の添加群では細胞数が経日的に増加したが、抗CADM1抗体を用いた複合体(抗CADM1抗体-MMAE)の添加群では細胞数は3日目以降も増加せず7日目には減少に転じた。すなわち、抗CADM1抗体を用いた抗体薬物複合体では、MMAEが細胞内で作用したものとみなされる。この結果は、抗CADM1抗体が薬物送達ベクターとして有望であることを示唆すものと考えられる。図14に示すように、スチューデントのt検定の「P値」は、0.01よりも小さく、2群間の有意差が確認された。
【0131】
本発明者は、悪性中皮腫細胞株(Meso1-CADM1(Meso1にCADM1を強制発現したもの)、およびH2052)の培養系に、「対照抗体(抗CADM1抗体に対応するヒトIgG1)-MMAE複合体と、「抗CADM1抗体-MMAE複合体単独」を添加し、4日後にWST-8アッセイにて細胞生存率を測定した。なお、複合体(添加抗体が有る場合は、複合体および添加抗体の両方)の添加濃度は0.1、1、2、10μg/mlとした。この結果、いずれの細胞種においても、「抗CADM1抗体-MMAE複合体単独」投与でも十分な薬剤活性が検出された。これは、抗CADM1抗体の内在化が十分量生じていることを意味すると考えられる。
【0132】
本発明者は、消化管間質腫瘍(GIST)におけるCADM1の発現が症例により高レベルから低レベルまで様々であるが、小腸に発生するGISTでは全例でCADM1を高レベルに発現していること(https://doi.org/10.3389/pore.2021.602008)に着目し、「抗CADM1抗体-MMAE複合体」のGIST、特に小腸GISTに対する治療薬としての可能性を検討した。ヒトGIST細胞株GIST-T1(https://doi.org/10.1038/labinvest.3780461)は、CADM1低発現であるが、遺伝子導入によりその高発現亜株を得たところ、その高発現亜株について、本発明者は、「抗CADM1抗体-MMAE複合体」によって有意に細胞増殖が抑制されることを確認した。
【0133】
具体的には、ヒトGIST細胞株GIST-T1、およびGIST-T1にCADM1を強制発現した亜株(GIST-T1-CADM1)を96-wellプレートの各wellに2,500個播種し(各実験群につきn=4)、「抗CADM1抗体-MMAE複合体」、または「抗CADM1抗体の対照抗体(マウスIgG1)-MMAE複合体」を添加し(各複合体の添加濃度は0.25μg/ml)、5日後にWST-8アッセイにて生細胞数を450nm吸光度として測定した。その結果を下記表2に示す。下記表2に示すように、GIST-T1-CADM1について、「抗CADM1抗体-MMAE複合体」によって有意に細胞増殖が抑制されることが確認できた。なお、下記表2に示す結果において、他のいずれの実験群との比較についてもスチューデントのt検定の「P値」は0.0001よりも小さく、有意差が確認された。
【0134】
【表2】
【0135】
(12)抗体医薬品の細胞内送達ベクターとしての抗CADM1抗体の可能性
図13には、抗CADM1抗体を基盤とする抗体薬物複合体として、MMAE搭載の実施例を示した。本発明者は、所望の成分を抗体医薬品とすることが可能かを検討するために、アミン反応性架橋剤を用いたクロスリンク(架橋)反応(Click-&-Go Lys-to-Lys Protein-Protein Conjugation Kit(Click Chemistry Tools社)等を使用)により、図15(A)に示す抗CADM1抗体-マウスIgG1複合体を作製し、細胞培養系に添加したところ、本複合体は、抗CADM1抗体単独の場合と同程度の効率で細胞内移行(内在化)した。
【0136】
具体的には、抗CADM1抗体とマウスIgG1(mIgG1)とをクロスリンクした後、中皮腫細胞(EHMES10)の培養液に抗体1μg相当で添加し、翌日、タンパク質を抽出(易可溶化・難可溶タンパク質分画)し、ウエスタンブロットに供して、マウスIgGを検出した。その結果を図15(B)に示す。図15(B)には、比較のため、抗CADM1抗体とマウスIgG1とをクロスリンクさせずに添加した場合の結果を示している。
【0137】
図15(B)に示すように、抗CADM1抗体-マウスIgG1複合体は、抗CADM1抗体単体と同等に、CADM1の内在化を促進すると共に、複合体自体も難可溶タンパク質分画に検出された。図15(B)おいて、「複合体から遊離した重鎖」は、抗CADM1抗体と結合させたマウスIgG1に由来する重鎖を意味する。
【0138】
以上の結果から、本開示のCADM1抗体が細胞内送達ベクターとして使用できることが分かった。また、近年、抗腫瘍抗体医薬として注目されている腫瘍細胞内抗原(KRAS・BRAF・EGFR kinase domain等)についても、抗CADM1抗体は、それらの細胞内抗原標的抗体の細胞内送達を達成するベクターとして期待しうる。
【0139】
以上、実施形態および実施例を参照して本開示を説明したが、本開示は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0140】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
<抗CADM1抗体>
(付記1)
抗CADM1抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体は、下記(Ca)および(Cb)からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合フラグメント:
(Ca)それぞれ、配列番号1、2および3に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、それぞれ、配列番号4、5および6に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3とのアミノ酸配列を含む抗体;
(Cb)前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および前記軽鎖CDR3の全体に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む(Ca)抗体の変異体。
(付記2)
前記(Cb)の変異体は、前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および前記軽鎖CDR3の全体で、1または2アミノ酸の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む、付記1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(付記3)
前記抗体は、下記(Va)、(Vb)、および(Vc)からなる群から選択される、付記1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片:
(Va)配列番号7から14のいずれかに示される重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示される軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む抗体;
(Vb)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む重鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体;
(Vc)配列番号7から14のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する重鎖可変領域と、配列番号15から22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する軽鎖可変領域とのアミノ酸配列を含む(Va)抗体の変異体。
(付記4)
前記(Vb)の変異体は、前記抗体のフレームワーク領域に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む、付記3に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(付記5)
内在化活性を有する、付記1から4のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
(付記6)
前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligo specific)抗体、単鎖抗体、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディー、sc(Fv)、およびscFv-Fcから選択される抗体である、付記1から5のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片。
<抗体薬物複合体>
(付記7)
付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片と、薬物とを含む、抗体薬物複合体。
<医薬組成物>
(付記8)
付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、および/または、付記7に記載の抗体薬物複合体を含む、医薬組成物。
(付記9)
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置、および/または、SARS-CoV-2による感染症の処置に用いるための、付記8に記載の医薬組成物。
(付記10)
経鼻投与に用いるための、付記9に記載の医薬組成物。
(付記11)
がんの処置に用いるための、付記8に記載の医薬組成物。
(付記12)
前記がんは、中皮腫、消化管間質腫瘍、肺腺がん、および/または、内膜腺がんである、付記11に記載の医薬組成物。
<処置方法>
(付記13)
対象に、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、付記7に記載の抗体薬物複合体、および/または、付記8から10のいずれかに記載の医薬組成物を投与する投与工程を含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置方法またはSARS-CoV-2による感染症の処置方法。
(付記14)
対象に、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、付記17に記載の抗体薬物複合体、および/または、付記8、11および12のいずれかに記載の医薬組成物を投与する投与工程を含む、がんの処置方法。
<使用>
(付記15)
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染の予防的処置方法またはSARS-CoV-2による感染症の処置方法に用いるための、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、付記7に記載の抗体薬物複合体、および/または、付記8から10のいずれかに記載の医薬組成物。
(付記16)
がんの処置方法に用いるための、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、付記7に記載の抗体薬物複合体、および/または、付記8、11および12のいずれかに記載の医薬組成物。
<検出試薬>
(付記17)
付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、CADM1の検出試薬。
<試験試薬>
(付記18)
付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、がんの罹患の可能性の試験に用いるための試薬。
<検出方法>
(付記19)
サンプルと、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、および/または、付記17に記載のCADM1の検出試薬を接触させる接触工程と、
前記サンプル中のCADM1と前記抗体またはその抗原結合断片との複合体を検出する検出工程とを含む、CADM1の検出方法。
(付記20)
前記サンプルは、生体試料である、付記19に記載の検出方法。
<試験方法>
(付記21)
対象者の生体試料と、付記1から6のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、および/または、付記18に記載のがんの罹患の可能性の試験に用いるための試薬を接触させる接触工程と、
前記生体試料におけるCADM1の発現量を測定する測定工程とを含む、がんの罹患の可能性の試験方法。
(付記22)
前記生体試料におけるCADM1の発現量を、基準値と比較する比較工程を含む、付記21に記載の試験方法。
(付記23)
前記基準値は、健常者の生体試料またはがん患者の生体試料におけるCADM1の発現量である、付記22に記載の試験方法。
<核酸>
(付記24)
付記1から6のいずれかに記載の抗CADM1抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
(付記25)
付記24に記載の核酸を含む、ベクター。
<形質転換体>
(付記26)
付記24の核酸または付記25に記載のベクターを含む、形質転換体。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上のように、本開示によれば、SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある、新たなCADM1抗体を提供できる。このため、本開示は、例えば、医薬分野等において極めて有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2の処置に使用できる可能性がある、新たな抗体を提供する。
【解決手段】本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗CADM1抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体は、下記(Ca)および(Cb)からなる群から選択される。
(Ca)それぞれ、特定の配列からなる重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3と、それぞれ、特定の配列からなる軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体;
(Cb)前記重鎖CDR1、前記重鎖CDR2、前記重鎖CDR3、前記軽鎖CDR1、前記軽鎖CDR2、および/または前記軽鎖CDR3に、1もしくは数個の置換、挿入、付加もしくは欠失を含む(Ca)抗体の変異体。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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