(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】鉗子
(51)【国際特許分類】
A61B 17/28 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
A61B17/28
(21)【出願番号】P 2019065153
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174643
【氏名又は名称】豊永 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】永安 武
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】溝口 聡
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-209009(JP,A)
【文献】特開2008-264106(JP,A)
【文献】特開2001-046383(JP,A)
【文献】特開2017-035478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04,17/062,17/11-17/12,17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点部と、
前記支点部を支点に開閉可能に前記支点部から掌部まで延びる一対の腕と、
それぞれの前記掌部から前記腕が延びる方向を横切る方向に離間して前記
腕とは反対側に突出した一対の指と、
前記一対の指の前記掌部とは反対側の端部を連結する橋と、
前記橋から前記掌部に向かって突出する舌と、
を有することを特徴とする鉗子。
【請求項2】
前記舌と前記
指との間に形成された凹み部を囲む部分の少なくとも一部には前記凹み部に近づくにつれて板厚が小さくなる斜面部が形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の鉗子。
【請求項3】
掌部が互いに向かい合う方向において向かい合う2つの前記一対の指の互いに向かい合う面には凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の組織を縫合する際に用いる鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
開腹手術および開胸手術に代わり、腹部および胸部に小さな孔を開け、この孔から腹腔および胸腔内に処置具を挿入して処置を行う手術が行われるようになってきた。
【0003】
たとえば、血管の一部に亀裂状の損傷が発生した場合に、それを縫合手術する場合には、以下のように行われる。血管の一部に亀裂状の損傷が発生した場合に、止血のために鉗子で損傷部を覆うように押え、出血(内容物の流出)を防ぐ。鉗子で血管を押えた状態で、鉗子の最先端より外側に糸および針を血管の背面から前面に向けて通す。もう一箇所、同様に、糸および針を血管の背面から前面に向けて通す。これらの糸は、血管の背面で連結している。
【0004】
鉗子で血管を押えた状態で、結節点を中心として、これらの糸を交差させる。血管の鉗子で押えられた部位は、血管の内壁面同士がくっつき、内壁面の内皮の粘性により密着した状態となっている。鉗子による血管の押えを緩和した後、これらの糸を結節点に向かって絞りあげ、結節する。
【0005】
血管の鉗子で押えられていた部位は、鉗子の押えを緩和した後でも内壁面の内皮の粘性により密着を保った状態で、絞りあげ動作によって絞られて、皺状になる。それによって損傷部が閉口した状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉗子で血管を押さえた状態で損傷が形成された血管を縫合する場合、鉗子の先端部よりも外側を縫合するため、血管などの臓器の有効開口が小さくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、生物の組織の損傷部を縫合する外科手術の際に損傷部のより近くを縫合できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、鉗子において、支点部と、前記支点部を支点に開閉可能に前記支点部から掌部まで延びる一対の腕と、それぞれの前記掌部から前記腕が延びる方向を横切る方向に離間して前記腕とは反対側に突出した一対の指と、前記一対の指の前記掌部とは反対側の端部を連結する橋と、前記橋から前記掌部に向かって突出する舌と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生物の組織の損傷部を縫合する外科手術の際に損傷部のより近くを縫合できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る鉗子の一実施の形態の把持部の上面図である。
【
図2】本発明に係る鉗子の一実施の形態の把持部の開いた状態を示す側面図である。
【
図3】本発明に係る鉗子の一実施の形態の側面図である。
【
図4】本発明に係る鉗子の一実施の形態を用いた血管の縫合の手順を模式的に示す図である。
【
図5】本発明に係る鉗子の一実施の形態の変形例における先端部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る鉗子の一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明に係る鉗子の一実施の形態の把持部の上面図である。
図2は、本実施の形態における鉗子の把持部の開いた状態を示す側面図である。
図3は、本実施の形態における鉗子の側面図である。
【0014】
内側刺通縫合内視鏡
本実施の形態の鉗子10は、腕12と指20とを有している。腕12は、支持棒18に取り付けられている。この鉗子10は、たとえばヒトの血管や腸管、肺などの実質臓器など、生物の組織の筒状の部分や膜状部分などの縫合を行う内視鏡手術などに用いる。
【0015】
腕12は、支点部14から掌部16まで直線的に延びている。支点部14から掌部16に近づくにつれて幅が細くなっていてもよい。腕12は、2つで対をなしている。一対の腕12は、支点部14を支点に開閉可能に設けられている。つまり、一対の腕12は、支点部14を支点として、その間の角度が0度からたとえば90度程度まで変化する。掌部16は、たとえば略三角形の平板である。
【0016】
支持棒18は、たとえば中空の筒であって、その内部に、腕12を開閉するためのワイヤーが挿入されている。支持棒18は、可撓性を有していてもよい。
【0017】
指20は、一つの掌部16につき2本が対をなして設けられている。一対の指20は、掌部16から腕12とは反対側に突出して延びている。対をなす指20は、腕12が延びる方向を横切る方向、たとえば、腕12に垂直な方向に離間している。一対の指20の間には空隙40が形成されている。一対の指20は、その間の2か所に針で糸を通すことができる程度に離間している。
【0018】
指20の掌部16に対して反対側の端部には、橋30が架け渡されている。つまり、橋30は、対をなす2つの指20の掌部16とは反対側の端部を連結している。
【0019】
橋30には、掌部16に向かって突出する舌32が形成されている。舌32は、橋30のほぼ中央に設けられている。舌32と指20との間には、へこみ部41が形成されている。へこみ部41は、一対の指20の間の空隙40の一部である。
【0020】
掌部16と指20と橋30と舌32は、たとえば同じ厚さである。指20と舌32のへこみ部41を囲む部分は、へこみ部41に近づくにつれて板厚が小さくなる斜面部42となっていてもよい。
【0021】
対をなす腕12のそれぞれに設けられた掌部16と指20と橋30と舌32には、他方の腕12の掌部16と指20と橋30と舌32と向かい合う面、すなわち把持面には、溝50が形成されている。溝50は、腕12が延びる方向を横切る方向、たとえば、腕12に垂直な方向に延びている。溝50の代わりに、複数のディンプルが形成されていてもよい。溝50の代わりに、複数の凹みが形成されていてもよい。
【0022】
鉗子10は、ハンドル60を有している。ハンドル60は、人間の手で掴みやすい形状に形成されている。ハンドル60には、レバー62が設けられている。支持棒18は、ハンドルに固定されている。ハンドル60によって支持棒18を回動させることにより、鉗子10の把持部11も回動する。支持棒18の付け根に、支持棒18のみを回動させる機構を設けてもよい。レバー62の回動動作は、支持棒18の内部を通過しているワイヤーの押し引きに変換され、鉗子10の把持部11の腕12が開閉されるように構成されている。
【0023】
指20の間隔は、たとえば約7mmである。指20の太さは約1mmである。指20の長さは約10mmである。一対の指20の外側の幅は約9mmである。したがって、鉗子10の把持部11の最大幅は10mm以下であり、一般的に用いられる10mmの鉗子孔よりも小さく、挿入可能である。舌32の突出長さは、たとえば約2.5mmである。
【0024】
腕12、掌部16、指20、橋30、舌32は、たとえばステンレス鋼製である。これらは、樹脂製であってもよい。これらは、複数の種類の材料を組み合わせて形成されていてもよい。
【0025】
図4は、本実施の形態の鉗子を用いた血管の縫合の手順を模式的に示す図である。
【0026】
図4(a)に示す損傷92が生じたヒトの血管90を縫合する場合について説明する。ここで損傷92とは、血管90に生じた部分的な裂け目のことである。
【0027】
まず、この鉗子10の腕12を開いた状態で一対の腕12のそれぞれの先端部分を指20が血管90を挟む位置まで移動させる。その後、腕12を閉じる。その結果、一対の腕12のそれぞれの先端部分を指20が血管90を挟み込むことになる。この際、損傷92が一対の指20の間に位置するようにしておく。また、橋30および舌32は、損傷92よりも先に位置するようにしておく。つまり、橋30および舌32と掌部16との間に損傷92が位置するようにしておく。
【0028】
このように鉗子10で把持対象の血管90の損傷92の近傍を把持することにより、損傷92を囲む部分の血管90の内壁を互いに密着させることができる。その結果、血管90の内容物の流出、すなわち、出血を防ぐことができる。なお、橋30がない場合であっても、指20の間隔が小さければ、血管90の壁は損傷92の周囲で密着し、出血を抑えることができる。
【0029】
次に、
図4(b)に示すように、鉗子10の把持部11で血管90を把持した状態で、空隙40の損傷92よりも橋30に近い側で背面から前面に向かって針94を刺して糸96を血管90に貫通させる。また、同様に、その糸96の他方にかけられた他の針94も空隙40の損傷92よりも橋30に近い側で背面から前面に向かって針94を刺して糸96を血管90に貫通させる。この際、舌32の両側に形成されたへこみ部41に針94を刺すと、斜面部42がガイドとなって針94を所望の位置に通しやすい。
【0030】
さらに、
図4(c)に示すように、鉗子10の把持部11で血管90を把持した状態で、二つの針94にかけられた糸96を交差させる。交差させた位置が結節点98となる。結節点98は、舌32の概ね中心となる。血管90の鉗子10の把持部11で把持された部分は、内壁面同士が接触しており、内壁面の内皮の粘性により密着した状態となっている。
【0031】
その後、
図4(d)に示すように、鉗子10の把持部11による把持を緩和し、すなわち、腕12を少し開いた状態で、糸94を縛りあげる。これにより、糸94は結節点98で縛られていく。この際、一旦、結節点98は舌32の上に形成されるが、縛りあげの動作によって舌32から斜面部42に沿って滑っていき、血管90の表面で糸96は結節されることになる。また、同様に、血管90の背面側でも、糸96は、舌32から斜面部42に沿って滑っていき、血管90の表面に密着する。鉗子10の把持部11で把持されていた血管90の部位は、把持部11の把持を緩和した後でも、内壁面の内皮の粘性により密着した状態で絞りあげ動作によって絞られ、皺状になる。これにより損傷92が閉口した状態となる。
【0032】
結節した後は、糸96の不要部分を切断する。また、鉗子10の把持部11を手術部位から退避させる。術後の血管90の有効開口の幅は、結節点98から損傷92の反対側の内壁までとなる。
【0033】
空隙40が形成されていない鉗子を用いて損傷した血管を把持した場合には、結節点が鉗子の先端よりも損傷部分から遠い位置となる。一方、本実施の形態では、鉗子10の先端、すなわち、橋30の外縁よりも血管90の損傷92に近い位置を結節点98とすることができる。その結果、術後の血管90の有効開口の幅を大きくすることができる。このように、本実施の形態によれば、生物の組織の損傷部を縫合する外科手術の際に損傷部のより近くを縫合できる。つまり、縫合による組織への影響範囲を小さくすることができる。
【0034】
また、本実施の形態の鉗子10にはへこみ部41およびその周囲の斜面部42が形成されているため、縫合用の針94が所定の位置に誘導されるため、縫合が容易になる。
【0035】
把持面には、溝50が形成されているため、対象の血管90を掴んだ時に血管90が滑りにくいため、手術が容易になる。把持面にディンプルあるいはへこみなどの凹凸を形成した場合も同様である。特に、溝50を血管90にほぼ平行になるように形成しておくことにより、血管が鉗子10から逃げる方向への滑りが抑制されるため好ましい。
【0036】
橋30を設けておくことにより、一対の指20を設けておく場合に比べて強度が向上する。また、橋30を設けておくことにより、指20の先端が血管その他の組織に突き刺さり損傷させることを抑制することができる。
【0037】
また、縫合手術において、一つ目の針を貫通させた後に二つ目の針を刺し易いように、糸を所定の方向に引っ張る牽引動作を行うことがある。肺気腫の肺(気腫肺)のように胸膜などの組織がもろい場合には、この牽引動作によって組織が損傷することがあるが、本実施の形態の鉗子では、一つ目の針の貫通点を鉗子で押さえているために、貫通点部分が糸で牽引されることがなく、牽引動作による損傷を防止することができる。
【0038】
図5は、本実施の形態の変形例における鉗子の先端部分の平面図である。
【0039】
図5(a)~(d)に示すように、舌32を複数設けて、空隙40のへこみ部41を3以上形成してもよい。へこみ部41を多く形成すると、損傷に対する手術器具の相対位置の選択の自由度が向上するため、手術が容易になる。たとえば鉗子10を血管90の垂直方向から近づけるだけではなく、斜め方向から接近させて掴むこともできる。また、指20は直線ではなく、曲がっていてもよい。さらに指20と橋30が一体となっていてもよい。指20と橋30とを一体として楕円形にしておくことにより、多くのへこみ部41を形成することができる。
【符号の説明】
【0040】
10…鉗子、11…把持部、12…腕、14…支点部、16…掌部、18…支持棒、20…指、30…橋、32…舌、40…空隙、41…へこみ部、42…斜面部、50…溝、60…ハンドル、62…レバー、90…血管、92…損傷、94…針、96…糸、98…結節点