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特許7270968めっき積層体の製造方法及びめっき積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】めっき積層体の製造方法及びめっき積層体
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/14 20060101AFI20230501BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20230501BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20230501BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C25D5/14
C25D5/12
C25D5/50
H01R13/03 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019095035
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020190007
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】598098434
【氏名又は名称】オリエンタル鍍金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏▲禎▼
(72)【発明者】
【氏名】岸本 泰典
(72)【発明者】
【氏名】中川 育美
(72)【発明者】
【氏名】鳥龍 明子
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-158337(JP,A)
【文献】特開2012-237033(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111625(WO,A1)
【文献】特開2014-040649(JP,A)
【文献】特開2007-262458(JP,A)
【文献】特開2010-215979(JP,A)
【文献】国際公開第2007/004581(WO,A1)
【文献】特開2012-201942(JP,A)
【文献】特表2010-532824(JP,A)
【文献】特開2013-129902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
B32B 1/00-43/00
H01R 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面の少なくとも一部に下地ニッケルめっきを施し、下地ニッケルめっき層を形成するニッケルめっき工程と、
前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部にニッケル錫合金めっき層を形成する合金層形成工程と、
前記ニッケル錫合金めっき層の表面の少なくとも一部に錫めっきを施し、錫めっき層を形成する錫めっき工程と、
を含み、
前記合金めっき層形成工程が、前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部に錫めっきを施して、拡散用錫めっき層を形成し、80~500℃の加熱温度及び5秒間~3600秒間の加熱処理を行って、前記下地ニッケルめっき層と前記拡散用錫めっき層とを互いに拡散させることにより、ニッケル錫合金層を形成する工程であること、
を特徴とするめっき積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケル錫合金層の最大粗さ高さRzが0.601μm以下であること、
を特徴とする請求項1に記載のめっき積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル錫合金めっき層の厚さが0.1~5μmであること、
を特徴とする請求項1又は2記載のめっき積層体の製造方法。
【請求項4】
前記錫めっき工程の後に、変色防止処理を施す変色防止工程を含むこと、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のめっき積層体の製造方法。
【請求項5】
金属基材と、
前記金属記載の表面の少なくとも一部に設けられた下地ニッケルめっき層と、
前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部に設けられたニッケル錫合金層と、
前記ニッケル錫合金めっき層の表面の少なくとも一部に設けられた錫めっき層と、
を含み、
前記ニッケル錫合金層の最大粗さ高さRzが0.601μm以下であり、
前記ニッケル錫合金めっき層の厚さが0.1~5μmであること、
を特徴とするめっき積層体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき積層体の製造方法及びめっき積層体に関し、より具体的には、耐酸化性、導電性に優れためっき積層体の製造方法及びめっき積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル下地めっきの施された錫めっき材は、安価で製造できるメリットから汎用製品用接続端子向け材料として広く利用されている。多くの場合、導電回路の短絡要因となるウィスカ発生を防止するなどの目的で、錫めっきを施した後、リフロー処理等の加熱処理を行い、錫めっきの下に合金層を形成させることで素材や下地めっきの金属拡散による経時の合金化を抑制している。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014-40649号公報)においては、基材の表面にニッケルめっき層、錫めっき層の順に積層されためっき積層体にリフロー処理を施すことによって錫-ニッケル合金層を形成させる構造が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のめっき積層体によれば、下地のニッケルめっき層と錫めっき層との間に、錫-ニッケルめっき合金層を介在させることで、錫-ニッケル合金化が経時的に錫めっき側に向かって成長することを抑制できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-40649号公報
【文献】特開2016-169439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のめっき積層体では、合金層形成のためのリフロー処理で行われる加熱処理において、下地めっきと錫の間、及び基材表面に形成する合金層の形成を制御できず、下地めっき金属と錫とで形成された合金層が最表層まで達してしまう。最表層まで達した合金層は、空気中の酸素と反応して酸化が進行しやすいため、導電性の低下が問題となる。
【0007】
即ち、従来においては、下地めっき金属と錫との合金層の形成を制御して、めっき積層体の導電性を維持する技術が求められていた。
【0008】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明は、耐腐食性、耐酸化性、導電性に優れためっき積層体の製造方法及びめっき積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく、金属基材に下地めっき及び錫めっきを施す方法について鋭意研究を重ねた結果、合金層を形成させる独立した工程を含むことが、極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
金属基材に積層的にめっきを施しためっき積層体の製造方法であって、
金属基材の表面の少なくとも一部に下地ニッケルめっきを施し、下地ニッケルめっき層を形成するニッケルめっき工程と、
前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部にニッケル錫合金めっき層を形成する合金めっき層形成工程と、
前記ニッケル錫合金めっき層の表面の少なくとも一部に錫めっきを施し、錫めっき層を形成する錫めっき工程と、
を含むことを特徴とするめっき積層体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明のめっき積層体の製造方法においては、下地ニッケルめっきと錫との合金層を形成させる工程を含むことで、合金層の厚さを自在に調整でき、合金層が最表層にまで達することを防ぐことができる。
【0012】
本発明のめっき積層体の製造方法においては、合金形成処理として、下地ニッケルめっきの表面に錫めっきを形成させてこれを加熱する方法によってもよく、また、ニッケル錫合金めっき処理を施す方法によってもよい。
【0013】
本発明のめっき積層体の製造方法においては、前記錫めっき工程の後に、変色防止処理を施してもよい。変色防止処理を施すことで、美観性を有し、商品力を有するめっき積層体を形成することができる。
【0014】
また、本発明のめっき積層体の製造方法においては、前記ニッケル錫合金めっき層の厚さを0.1~5μmとすること、が好ましい。
【0015】
ニッケル錫合金めっき層の厚さを0.1μm以上とすることで、その表面に施す錫めっき処理の際にニッケルとの合金形成を抑止するに十分な効果を得ることができる。また、ニッケル錫合金めっき層の厚さを5μm以下とすることで、その表面に施す錫めっき層について十分な厚みを形成させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のめっき積層体の製造方法によれば、下地ニッケルめっきと錫との合金層を形成させる工程を含むことで、合金層の厚さを自在に調整でき、合金層が最表層にまで達することを防ぐことができる。その結果、導電性に優れためっき積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のめっき積層体の製造方法の一実施形態の工程図である。
図2】本発明のめっき積層体の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施例及び比較例で得ためっき積層体の構造を示す概念図である。
図4】実施例1及び2並びに比較例1で得ためっき材におけるニッケル錫合金層の表面SEM画像である。
図5】実施例1及び2並びに比較例1で得ためっき材におけるニッケル錫合金層の表面粗さの断面プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明のめっき積層体及びその製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0019】
≪めっき積層体の製造方法≫
図1は、本発明のめっき積層体の製造方法の一実施形態の工程図である。本実施形態のめっき積層体の製造方法は、金属基材に積層的にめっきを施しためっき積層体の製造方法であって、主として下記の工程を含む。以下においては、これらの主となる工程を含む本実施形態の各工程(図1を参照)について詳細に説明する。
【0020】
・金属基材の表面の少なくとも一部に下地ニッケルめっきを施し、下地ニッケルめっき層を形成するニッケルめっき工程(S02)
・前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部にニッケル錫合金層を形成する合金めっき層形成工程(S03)
・前記ニッケル錫合金めっき層の表面の少なくとも一部に錫めっきを施し、錫めっき層を形成する錫めっき工程(S04)
【0021】
(1)洗浄処理(S01)
全工程に先立って、予備処理として金属基材の洗浄を施すことが好ましい。金属基材の洗浄方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の洗浄方法を用いることができる。洗浄処理液としては、例えば、一般的な非鉄金属用の浸漬脱脂液または電解脱脂液を使用することができる。
【0022】
金属基材に用いる金属としては、電導性を有している限り特に限定されず、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、鉄及び鉄合金(例えば、鉄-ニッケル合金)、チタン及びチタン合金、ステンレス、銅及び銅合金等を挙げることができるが、なかでも、電導性・熱伝導性・展延性に優れているという理由から、銅、銅合金を用いることが好ましい。
【0023】
(2)下地ニッケルめっき処理(S02)
ニッケルめっき浴としては、ニッケル塩、電導塩、pH緩衝剤を含むものを用いることができる。また、キレート剤、界面活性剤、光沢剤が添加されていてもよい。
【0024】
ニッケル塩には、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル等を用いることができる。電導塩には、例えば、硫酸、塩化ニッケル、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、クエン酸、ホウ酸等を用いることができる。キレート剤には、例えば、ピロリン酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等を用いることができる。界面活性剤には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を用いることができる。光沢剤には、例えば、サッカリン、ナフタレン、スルホン酸ナトリウム、スルホンアミド、ブチンジオール、クマリン等を用いることができる。
【0025】
ニッケルめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、ニッケル可溶性陽極等を用いることができる。また、好適な条件としては、浴温:20~50℃、電流密度1~30A/d 、pH:2.0~5.0を提示することができる。
【0026】
(3)合金めっき層形成処理(S03)
上記したように、本発明において、合金形成処理として、(a)下地ニッケルめっきの表面に錫めっきを形成させてこれを加熱する方法によってもよく、また、(b)ニッケル錫合金めっき処理を施す方法によってもよい。
【0027】
(a)下地ニッケルめっきの表面に錫めっきを形成させてこれを加熱する方法は、拡散用錫めっき処理及び加熱処理を含む。
【0028】
(a-1)拡散用錫めっき処理
拡散用錫めっき処理は、加熱処理と併せて行う合金めっき層形成処理の工程の一部であり、ニッケル錫合金めっき処理と選択的に行う工程である。
【0029】
拡散用錫めっき浴としては、錫塩、電導塩を含むものを用いることができる。また、キレート剤、添加剤が添加されていてもよい。錫塩には、例えば、塩化錫、硫酸錫、酸化錫、錫酸カリウム、錫酸ナトリウム等を用いることができる。電導塩には、例えば、硫酸、塩酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。キレート剤には、例えば、ピロリン酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等を用いることができる。添加剤には、例えば、石原ケミカル(株)製のUTB-530M、ST-10等を用いることができる。
【0030】
錫めっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、錫可溶性陽極等を用いることができる。また、好適な条件としては、浴温:10~60℃、電流密度0.1~10A/dmを提示することができる。
【0031】
拡散用錫めっき処理によって形成される錫めっき層の厚さは、0.1~5μmとすることが好ましい。錫めっき層の厚さを0.1μm以上とすることで、その表面に施す錫めっき処理の際にニッケルとの合金形成を抑止するに十分な効果を得ることができる。また、錫めっき層の厚さを5μm以下とすることで、その合金形成後に、さらに表面に施す錫めっき層について十分な厚みを形成させることができる。
【0032】
(a-2)加熱処理
下地ニッケルめっきと錫めっきとの間に金属拡散が進行する温度域で、合金層が最表層にまで成長するまで、加熱を行う。加熱方法としては、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加熱方法を用いることができる。具体的には、熱風加熱、熱板加熱、加熱炉による大気雰囲気下での加熱、加熱炉による還元雰囲気下での加熱でもよい。加熱条件としては、加熱温度:80~500℃、加熱時間:5秒~3600秒とするのが好ましい。
【0033】
(b)ニッケル錫合金めっき処理を施す方法では、ニッケル錫合金めっき処理を行う。このニッケル錫合金めっき処理は、上記の拡散用錫めっき処理及び加熱処理を経る工程(a)と、選択的に行う合金めっき層形成工程である。
【0034】
ニッケル錫合金めっき浴としては、錫塩、ニッケル塩、電導塩、pH緩衝剤を含むものを用いることができる。また、キレート剤、界面活性剤、光沢剤が添加されていてもよい。
【0035】
ニッケル塩には、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル等を用いることができる。錫塩には、例えば、塩化錫、硫酸錫、酸化錫、錫酸カリウム、錫酸ナトリウム等を用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、クエン酸、ホウ酸等を用いることができる。キレート剤には、例えば、ピロリン酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等を用いることができる。界面活性剤には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を用いることができる。光沢剤には、例えば、サッカリン、ナフタレン、スルホン酸ナトリウム、スルホンアミド、ブチンジオール、クマリン等を用いることができる。
【0036】
ニッケル錫合金めっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、ニッケル/錫可溶性陽極等を用いることができる。また、好適な条件としては、浴温:20~50℃、電流密度1~30A/d 、pH:2.0~5.0を提示することができる。
【0037】
(6)錫めっき処理(S04)
錫めっき浴としては、錫塩、電導塩を含むものを用いることができる。また、キレート剤、添加剤が添加されていてもよい。
【0038】
錫塩には、例えば、塩化錫、硫酸錫、酸化錫、錫酸カリウム、錫酸ナトリウム等を用いることができる。電導塩には、例えば、硫酸、塩酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。キレート剤には、例えば、ピロリン酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等を用いることができる。添加剤には、例えば、石原ケミカル株式会社製のUTB-530M、ST-10等を用いることができる。
【0039】
錫めっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、錫可溶性陽極等を用いることができる。また、好適な条件としては、浴温:10~60℃、電流密度0.1~10A/d を提示することができる。
【0040】
錫めっき処理によって形成される錫めっき層の厚さは、0.1~5μmとすることが好ましい。錫めっき層の厚さを0.1μm以上とすることで、錫由来の導電性を担保できる。また、錫めっき層の厚さを5μm以下とすることで、錫の使用量を抑止することができる。
【0041】
≪めっき積層体≫
上記のような本発明のめっき積層体の製造方法により得られるめっき積層体は、金属基材と、前記金属記載の表面の少なくとも一部に設けられた下地ニッケルめっき層と、前記下地ニッケルめっき層の表面の少なくとも一部に設けられたニッケル錫合金層と、前記ニッケル錫合金めっき層の表面の少なくとも一部に設けられた錫めっき層と、を含むことを特徴とする。
【0042】
このめっき積層体においては、ニッケル錫合金層がより均一な厚さに制御されており、その成長によって最表層まで達することがないため、耐酸化性を有し、導電性も維持される。また、本発明におけるニッケル錫合金層は、NiSnの合金組成をとることにより、成膜後のさらなる金属拡散を抑制する、という特性を有し、一般的なリフロー処理と比較して、表面粗さが平滑であり、当該ニッケル錫合金層を形成した後に錫めっきを成膜することで、当該ニッケル錫合金層から最表の錫めっき層までの距離(純錫層の膜厚)を均一に保持する事が可能である。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0044】
≪実施例1≫
第五工程(変色防止処理)を除いて図1に示す工程にしたがってめっき積層体を作製した。
まず、銅基材をアルカリ脱脂液を用いて洗浄し(S01)、500g/Lのスルファミン酸ニッケル、10g/Lの塩化ニッケル、40g/Lのホウ酸を含むニッケル浴を用い、0.5μmのニッケルめっき層を形成させる下地めっき処理を施した(S02)。
その後、100g/Lの錫酸ナトリウム、15g/Lの水酸化ナトリウムを含む錫めっき浴を用いて錫めっきを実施した後、300℃、30秒間の条件で加熱して、厚さ0.2μmのニッケル錫合金めっき層を形成させた(S03)。
更に、ニッケル錫合金めっき層の表面に、70g/Lの硫酸第一錫、80g/Lの硫酸、15mLの添加剤を含む錫めっき浴を用い、厚さ1.0μmの錫めっき層を形成し(S04)、めっき積層体(めっき材)を得た。
【0045】
≪実施例2≫
厚さ0.2μmのニッケル錫合金めっき層を形成させ、その表面に厚さ0.7μmの錫めっき層を形成させた以外は、実施例1と同様にしてめっき積層体を作製した。
【0046】
≪実施例3≫
ニッケル錫合金形成のための加熱処理について、加熱温度:500℃、加熱時間:5秒の条件とした以外は、実施例1と同様にしてめっき材を作製した。
【0047】
≪実施例4≫
ニッケル錫合金形成のための加熱処理について、加熱温度:80℃、加熱時間:3600秒の条件とした以外は、実施例1と同様にしてめっき材を作製した。
【0048】
≪比較例1≫
銅基材を洗浄し、下地ニッケルめっき処理を施した。その後、錫めっき処理を施して、厚さ1.2μmの錫めっきを形成させた。さらに、熱板にて、加熱温度:300℃、加熱時間:30秒の条件で加熱して(リフロー処理)めっき材を作製した。
【0049】
≪比較例2≫
錫めっき処理の後にリフロー処理を行わない以外は、比較例1と同様にしてめっき材を作製した。
【0050】
≪比較例3≫
下地ニッケルめっき処理を施さない以外は、比較例1と同様にしてめっき材を作製した。
【0051】
[評価試験]
(1)合金層形成量評価
上記のように作製した各めっき材について、合金層形成量の評価を行った。水酸化ナトリウムとp-ニトロフェノールからなる溶液にめっき材を浸漬し、純錫層のみを溶解させて、測定用の試料を作製した。その後、この試料において、蛍光X線膜厚計を用いて、剥離後の錫の存在量を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1では、合金層に含まれる錫の存在量をp-ニトロフェノールと水酸化ナトリウムからなる剥離液を用いて、純錫層のみを剥離した後、蛍光X線膜厚計にて錫めっきの膜厚を測定する手法で膜厚に換算した値を示している。
【0052】
(2)合金層表面状態評価
試料の表面について、レーザー顕微鏡にて最大高さ粗さRzを測定した。その結果を表1に示す。
(3)ウィスカ発生評価
試料について、温度:85℃、湿度:85%の条件下に66時間加熱した後、表面観察を行い、ウィスカの発生の有無を確認した。ウィスカが発生していない場合は「〇」、発生している場合は「×」として、表1に結果を示す。
(4)電気接触抵抗測定
試料について、温度:140℃、時間:7日間の条件下で加熱して得られた試料2について、使用プローブ:SK材及びニッケル下地金めっき、測定開始荷重:0.5N、測定終了荷重:40N、測定回数:10回という条件で電気接触抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から、本発明の実施例では、いずれも電気接触抵抗が5Ω以下となっており、ニッケル錫合金めっき層を形成させる工程を含まない比較例と比べて良好な結果が得られている。また、本発明の実施例では、最大高さ粗さの値が0.601μm以下となっており、ニッケル錫合金めっき層を形成させる工程を含まない場合の0.955μm以上の値と比べ、平滑な状態であることが確認できる。即ち、図3の概念図に示すように、実施例のめっき材では比較例のめっき材に比べて、ニッケル錫合金層が平滑である(なお、図3では金属基材を「銅または銅合金」と記載)。
【0055】
なお、参考のため、図4に、実施例1及び2並びに比較例1におけるめっき材において、上記評価試験の(1)の後、ニッケル錫合金層の表面SEM画像を撮影し、また、ニッケル錫合金層の表面粗さの断面プロファイルを作成した。結果を図4及び5に示した。これらからも、実施例のめっき材では比較例のめっき材に比べて、ニッケル錫合金層が平滑であることがわかる。
【0056】
また、比較例2においては、ニッケル錫合金めっき層を形成させる工程を含んでいないが、合金層がわずかながら形成されており、室温での経時変化により、ニッケル錫間の金属拡散による合金層の形成が進行していることが示唆される。また、実施例ではウィスカの発生は確認されておらず、本発明の製造方法によるときは、優れた製品安定性を保持できると考えられる。
【符号の説明】
【0057】
1・・・めっき積層体
2・・・金属基材(銅又は銅合金基材)
4・・・下地ニッケルめっき層
6・・・ニッケル錫合金めっき層
8・・・錫めっき層

図1
図2
図3
図4
図5