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特許7270974樹脂表面親水化方法、プラズマ処理装置、および積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】樹脂表面親水化方法、プラズマ処理装置、および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
C08J7/00 306
C08J7/00 CEW
C08J7/00 CFD
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019148241
(22)【出願日】2019-08-10
(65)【公開番号】P2021028964
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508022207
【氏名又は名称】コミヤマエレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】橋口 春雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 博義
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201571(JP,A)
【文献】特開2003-008179(JP,A)
【文献】特開2008-308616(JP,A)
【文献】特開2000-080184(JP,A)
【文献】特開2008-084820(JP,A)
【文献】特開2015-124343(JP,A)
【文献】特表2001-513832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00-7/02;7/12-7/18
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の疎水表面に0.1Pa以上0.3Pa以下の第一圧力でプラズマを照射して、前記表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程と、
前記脱離工程を経た前記樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、前記樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程と、
を有する樹脂表面親水化方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記樹脂がフッ素と炭素を含んでおり、前記原子がフッ素と炭素である樹脂表面親水化方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記樹脂が全芳香族ポリエステルを含んでおり、前記原子が酸素である樹脂表面親水化方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記プラズマを発生させるためのガスが、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含み、
前記脱離工程および前記導入工程が減圧状態で行われ、前記脱離工程の後、減圧状態が維持されたまま前記導入工程が行われる樹脂表面親水化方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、
前記導入工程が、前記第一圧力の30%以上50%以下の第二圧力で行われる樹脂表面親水化方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかにおいて、
前記導入工程が、前記樹脂の温度を150℃以上300℃以下にして行われる樹脂表面親水化方法。
【請求項7】
樹脂の疎水表面にプラズマを照射して、前記表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程と、
前記脱離工程を経た前記樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、前記樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程と、
前記導入工程を経た前記樹脂の表面に金属膜を蒸着する蒸着工程と、
を有する積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記金属膜の表面に、前記金属膜を構成する金属と同じ金属から構成される金属層を被覆する被覆工程をさらに有する積層体の製造方法。
【請求項9】
第一チャンバと、該第一チャンバの内部を減圧して0.1Pa以上0.3Pa以下の第一圧力を形成する第一減圧手段と、樹脂を保持する第一保持部と、プラズマ化すると前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる第一ガスを前記第一チャンバ内に導入する第一ガス導入部と、前記第一ガスを前記第一圧力においてプラズマ化する第一プラズマ発生部とを備える第一処理装置と、
接地されている第二チャンバと、該第二チャンバの内部を減圧して前記第一圧力の30%以上50%以下の第二圧力を形成する第二減圧手段と、前記第一チャンバで処理された前記樹脂を保持するとともに、第一DC電圧が印加される第二保持部と、プラズマ化してヒドロキシルラジカルを生成する第二ガスを前記第二チャンバ内に導入する第二ガス導入部と、前記第二ガスを前記第二圧力においてプラズマ化するとともに、前記第一DC電圧より高い第二DC電圧が印加される第二プラズマ発生部とを備える第二処理装置と、
を有するプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記第二保持部が加熱部を備えるプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項9または10において、
第三チャンバと、前記第二チャンバで処理された前記樹脂を保持する第三保持部と、前記第三保持部に保持された前記樹脂に金属を蒸着する金属蒸着部とを備える第三処理装置をさらに有するプラズマ処理装置。
【請求項12】
請求項11において、
プラズマと接触する前記第二チャンバの内壁、前記プラズマ発生部、および前記第二チャンバの内部に設置された部品の少なくとも一部が、前記金属と同じ金属から構成されるプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ミリ波またはマイクロ波に対応でき、伝送損失が小さい回路基板の製造に適用できる樹脂表面親水化方法、プラズマ処理装置、積層体、および積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板の基材として、従来のポリイミドに代わって、低誘電の液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)などのフッ素樹脂が使われ始めている。LCPまたはPTFEは、配線材として使われる銅との密着性が悪いという問題がある。このため、回路基板の基材の表面を化学的に荒らしたり、基材に密着させる銅箔の表面に凹凸を形成したりして、基材と銅の物理的な密着度を向上させている。
【0003】
基材の表面を化学的に荒らして基材の表面に銅を形成した場合、基材の表面の粗さが原因で、回路基板の伝送損失が大きくなってしまう。接着剤を用いて基材の表面に銅を貼り付けた場合、接着層自体が回路基板の伝送損失の原因となってしまう。メッキによって基材表面に銅を形成した場合、基材と銅の密着度が十分に得られない。また、PTFE基材に大気プラズマを照射して表面を活性化させ、PTFE基材中のフッ素を、空気中の水分に由来するヒドロキシル基に置換し、PTFE基材の表面に銅を密着させて、PTFE基材と銅の積層体を得る方法がある。
【0004】
しかしながら、PTFE基材に大気プラズマを照射しても、PTFE基材の水との接触角は50°程度である。そして、PTFE基材の表面に銅を密着させたとき、PTFE基材と銅の密着度は0.4N/mm程度である。このため、PTFE基材上に銅の回路パターンを作製する過程で、銅がPTFE基材から剥離するおそれがある。また、回路パターン作製過程でPTFE基材に熱が加わると、PTFE基材と銅の密着度がさらに下がってしまう。さらに、PTFE基材の表面が改質されている時間は24時間程度であるため、PTFE基材の表面に銅を早く密着させる必要があり、回路基板の製造の制約となっていた。
【0005】
特許文献1では、真空中で基材の表面を高エネルギービームで洗浄し、その後、イオン化した水蒸気を基材の表面に照射して、基材の表面に水酸基を吸着させている。しかしながら、イオン化された水蒸気のエネルギーが強いため、いったん吸着した水酸基は、他の水蒸気のイオンが基材の表面に照射されると、基材の表面から再び脱離してしまう。このため、基材の表面の水との接触角は40°程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-3220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂の疎水表面に高い親水性を長期間付与する樹脂表面親水化方法と、この樹脂表面親水化方法が行えるプラズマ処理装置と、この樹脂表面親水化方法を用いる積層体の製造方法と、例えばこの積層体の製造方法で得られる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の樹脂表面親水化方法は、樹脂の疎水表面に0.1Pa以上0.3Pa以下の第一圧力でプラズマを照射して、前記表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程と、前記脱離工程を経た前記樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、前記樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程と、を有する。
【0009】
本願の積層体の製造方法は、樹脂の疎水表面にプラズマを照射して、表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程と、脱離工程を経た樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程と、導入工程を経た樹脂の表面に金属膜を蒸着する蒸着工程を有する。
【0010】
本願のプラズマ処理装置は、第一チャンバと、該第一チャンバの内部を減圧して0.1Pa以上0.3Pa以下の第一圧力を形成する第一減圧手段と、樹脂を保持する第一保持部と、プラズマ化すると前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる第一ガスを前記第一チャンバ内に導入する第一ガス導入部と、前記第一ガスを前記第一圧力においてプラズマ化する第一プラズマ発生部とを備える第一処理装置と、接地されている第二チャンバと、該第二チャンバの内部を減圧して前記第一圧力の30%以上50%以下の第二圧力を形成する第二減圧手段と、前記第一チャンバで処理された前記樹脂を保持するとともに、第一DC電圧が印加される第二保持部と、プラズマ化してヒドロキシルラジカルを生成する第二ガスを前記第二チャンバ内に導入する第二ガス導入部と、前記第二ガスを前記第二圧力においてプラズマ化するとともに、前記第一DC電圧より高い第二DC電圧が印加される第二プラズマ発生部とを備える第二処理装置と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本願の樹脂表面親水化方法によれば、樹脂の疎水表面に高い親水性を長期間付与できる。このため、樹脂の表面に金属膜が形成しやすくなる。本願の積層体の製造方法によれば、樹脂基材と金属蒸着膜が強く密着した積層体が得られる。本願のプラズマ処理装置によれば、本願の樹脂表面親水化方法が容易に実施できる。本願の積層体では、樹脂基材と金属蒸着膜が強く密着している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】積層体の製造方法のフロー。
図2】処理装置の基本構成を示す断面模式図。
図3】第一実施形態のプラズマ処理装置の断面模式図。
図4】第二実施形態のプラズマ処理装置の断面模式図。
図5】第三実施形態のプラズマ処理装置の断面模式図。
図6】第四実施形態のプラズマ処理装置の鉛直断面模式図。
図7】第四実施形態のプラズマ処理装置の水平断面模式図。
図8】実施例の処理前後の基板の表面に水を滴下しときの画像と、基板の表面のSEM画像。
図9】実施例の処理後の基板の表面の水との接触角の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
樹脂を電子基板などに適用するためには、樹脂の疎水表面を親水化する必要がある。図1は、本願の積層体の製造方法の各工程をフローで示している。積層体の製造方法のうち、前半の二工程は樹脂表面親水化方法である。すなわち、本願の実施形態の樹脂表面親水化方法は、脱離工程S10と導入工程S20を備えている。脱離工程S10では、樹脂の疎水表面にプラズマを照射して、樹脂の表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる。すなわち、脱離工程S10では、樹脂の疎水表面をプラズマで、特にプラズマ中のイオンで洗浄し、樹脂の表面を活性化している。
【0015】
樹脂としては、疎水表面を有するものであれば特に制限がないが、PTFEなどのフッ素樹脂、ポリイミド、またはLCPが挙げられる。樹脂がフッ素と炭素を含んでおり、樹脂の疎水表面から脱離する原子がフッ素と炭素であることが好ましい。樹脂の疎水表面が大きく親水化されるからである。また、フッ素を含む樹脂は、絶縁性が高く、電気基板として優れているからである。樹脂が全芳香族ポリエステルを含んでおり、樹脂の疎水表面から脱離する原子が酸素であってもよい。プラズマは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。窒素またはアルゴンのイオンによって、樹脂の表面から樹脂を構成する原子が脱離しやすいからである。
【0016】
導入工程S20では、脱離工程S10を経た樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、樹脂の表面にヒドロキシル基(-OH)を導入する。ヒドロキシル基が導入された樹脂の表面は親水性が高い。例えば、水蒸気をプラズマ化して、このプラズマ中のヒドロキシルラジカルを、脱離工程S10を経た樹脂の表面に照射する。脱離工程S10および導入工程S20が減圧状態で行われ、脱離工程S10の後、減圧状態が維持されたまま導入工程S20が行われることが好ましい。脱離工程S10で樹脂の表面が活性化された状態を維持したまま、樹脂の表面にヒドロキシル基が導入できるからである。なお、導入工程S20を経た樹脂の表面は、親水性が長期間、例えば1か月以上にわたって維持される。このため、導入工程S20の後に樹脂を大気開放しても問題ない。
【0017】
脱離工程S10が0.1Pa以上0.4Pa以下の第一圧力で行われ、導入工程が、第一圧力の30%以上50%以下の第二圧力で行われることが好ましい。脱離工程S10で、プラズマ中のイオンおよびラジカルの進行方法が制御しやすいからであり、導入工程S20で、樹脂の表面にイオンがほとんど照射されなくなり、ヒドロキシルラジカルが樹脂の表面に照射されやすくなるからである。導入工程は、樹脂の温度150℃以上300℃以下にして行われることが好ましい。ヒドロキシル基と樹脂の表面の化学反応が促進され、ヒドロキシル基が樹脂の表面に強固に導入されるからである。
【0018】
ここまでの樹脂表面親水化方法で得られた樹脂を電子基板に用いる場合、樹脂の表面に金属を、例えば銅を付着させたい。そこで、金属ターゲットにプラズマ、イオン、またはラジカルを照射し、金属ターゲットから放出された金属を樹脂の表面に薄く蒸着させる。すなわち、本願の積層体の製造方法は、脱離工程S10と、導入工程S20と、蒸着工程S30を備えている。つまり、本願の積層体の製造方法は、本願の樹脂表面親水化方法の後に、蒸着工程S30を備えている。脱離工程S10と導入工程S20は、本願の樹脂表面親水化方法での各工程と同じなので、脱離工程S10と導入工程S20の説明を省略する。
【0019】
蒸着工程S30では、導入工程S20を経た樹脂の表面に金属膜を蒸着する。金属膜の蒸着は、例えば、CVD法またはPVD法(スパッタリング)によって行う。金属膜としては、銅膜、銀膜、または金膜などが挙げられる。蒸着工程では、導入工程S20の後に大気開放された樹脂を用いてもよい。しかし、生産性を向上させるため、および各種汚染物が樹脂に付着するのを抑えるため、減圧状態が維持されたまま導入工程S20と蒸着工程S30を行うことが好ましい。
【0020】
蒸着された金属膜の表面には、同じ金属のメッキ加工または熱圧着加工が行いやすい。すなわち、本願の積層体の製造方法は、蒸着工程S30の後に、被覆工程S40をさらに備えていてもよい。被覆工程S40は、蒸着された金属膜の表面に、この金属膜を構成する金属と同じ金属から構成される金属層をさらに被覆する。金属膜の表面に金属層を被覆する方法としては、蒸着工程S30の後の積層体の金属膜と金属層を合わせて熱圧着する方法、または蒸着工程S30の後の積層体の金属膜に金属層をメッキで形成する方法などが挙げられる。
【0021】
本願の実施形態の積層体は、樹脂の疎水表面に存在する原子の一部がヒドロキシル基に置換された樹脂基材と、樹脂基材の表面に形成された金属蒸着膜を備えている。そして、樹脂基材の表面の水との接触角が10°以下である。このため、樹脂基材の表面と金属蒸着膜が強固に密着する。樹脂基材の表面の水との接触角は、5°以下であることがより好ましい。本願の積層体は、金属蒸着膜の表面に、金属蒸着膜を構成する金属と同じ金属から構成される金属層をさらに備えていてもよい。樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、ヒドロキシル基に置換される原子がフッ素であってもよい。また、樹脂が全芳香族ポリエステルを含む液晶ポリマーであってもよい。
【0022】
図2は、本願の樹脂表面親水化方法に使用できる処理装置80の基本構成を示している。処理装置80は、真空チャンバ2と、ファインプラズマガン(FPG)3と、保持台4と、カバー5と、第一DC電源9と、第二DC電源8を備えている。真空チャンバ2は、アルミニウム合金またはステンレスなどの金属から構成され、グランド10に接続されている。FPG3は、真空チャンバ2内の上部に配置されている。FPG3は、ガス導入部(不図示)から真空チャンバ2内に導入された処理ガスをプラズマ化する。
【0023】
FPG3は、例えば国際公開第2014/175702号に記載されているものが採用できる。保持台4は、FPG3と対向するように、FPG3の下方に設置されている。保持台4は、金属製または電極であり、被処理部材1を保持する。カバー5は、保持台4の上面を覆っている。FPG3から被処理部材1にプラズマが均一に照射されるように、カバー5は、被処理部材1と同じ材料から構成されている。第一DC電源9は、保持台4に接続されている。第二DC電源8は、FPG3に接続されている。
【0024】
真空チャンバ2内を排気ポンプ(不図示)で減圧しながら、ガス導入部から真空チャンバ2内に窒素、アルゴン、酸素、または水蒸気などの処理ガスを導入し、真空チャンバ2内を所定の圧力、例えば0.1Pa以上0.4Pa以下の0.3Paに調整する。この状態で第二DC電源8からFPG3に第二DC電圧を印加すると、FPG3で処理ガスのプラズマが生成する。
【0025】
このとき、真空チャンバ2内の圧力が高過ぎると、例えば0.4Paを超えると、処理ガスがグロー放電状態になり、プラズマ中のイオン7およびラジカル6の進行方向が制御できない。これに対して、真空チャンバ2内の圧力が適切な範囲であれば、処理ガスの暗放電状態を維持し、イオン7およびラジカル6の進行方向が制御できる。そこで、真空チャンバ2内の圧力を、例えば0.1Pa以上0.4Pa以下に調整する。
【0026】
処理装置80を用いて脱離工程S10を行う場合、以下の手順で行う。まず、樹脂である被処理部材1を保持台4で保持し、ガス導入部から真空チャンバ2内に処理ガスである窒素および/またはアルゴンを入れ、排気ポンプで真空チャンバ2内の圧力を0.1Pa以上0.4Pa以下の0.3Paに調整する。つぎに、第一DC電源9をOFFのままで、すなわち保持台4を接地した状態で、第二DC電源8をONにする。
【0027】
FPG3で処理ガスのプラズマが生成され、方向性があるイオンおよびラジカルが被処理部材1に照射される。そして、主にイオンの衝撃によって、被処理部材1の表面から原子が脱離する。イオンおよびラジカルの方向性があるので、被処理部材1の表面から効率よく原子を脱離させられる。なお、脱離した原子のほとんどは、排気ポンプによって、真空チャンバ2外に排出される。脱離した原子の一部は、真空チャンバ2内で浮遊しているか、浮遊後に真空チャンバ2の内壁または真空チャンバ2内の部品に付着する。しかし、本実施形態では、一般的なグロー放電の条件より真空チャンバ2内の圧力が低いので、チャンバ2内に浮遊している不純物がほとんどない。このため、被処理部材1の汚染が抑えられる。
【0028】
処理装置80を用いて導入工程S20を行う場合、以下の手順で行う。なお、脱離工程S10と導入工程S20は、別々の処理装置80で行うことが好ましい。脱離工程S10を行った処理装置80と同じ処理装置80で導入工程S20を行うと、すなわち、同じ処理装置80で、脱離工程S10の後に導入工程S20を行うと、脱離工程S10で被処理部材1の表面から脱離した成分が真空チャンバ2内に付着し、その後の導入工程S20で、この付着物が浮遊して、被処理部材1の表面に付着するおそれがあるからである。脱離工程S10に由来する浮遊物の影響がなければ、脱離工程S10と導入工程S20を同じ処理装置80で行ってもよい。
【0029】
まず、脱離工程S10を経た被処理部材1を保持台4で保持する。2つの処理装置80の間に真空予備室を設けるなどして、脱離工程S10を行った処理装置80から大気開放せずに、導入工程S20を行う処理装置80に被処理部材1を移動させることが好ましい。つぎに、ガス導入部から真空チャンバ2内に、水および/または水蒸気を含む処理ガスを導入する。処理ガスは水蒸気であることが好ましい。ヒドロキシルラジカル6が生成されやすいからである。
【0030】
そして、真空チャンバ2内の圧力が脱離工程S10での圧力の30%以上50%以下となるように、排気ポンプで真空チャンバ2内の圧力を調整する。導入工程S20での圧力が脱離工程S10での圧力の30%以上50%以下であるため、処理ガスのプラズマ中でヒドロキシルラジカル6が多く生成する。つぎに、第一DC電源9と第二DC電源8をONにする。FPG3と接地された真空チャンバ2の電位差によって、処理ガスのプラズマが生成する。
【0031】
このとき、第一DC電源9からの電圧は、第二DC電源8からの電圧より小さいことが好ましく、第二DC電源8からの電圧の40%以上で、第二DC電源8からの電圧より小さいことがさらに好ましい。FPG3と保持台4の電位差を小さくすることによって、処理ガスのプラズマ中からヒドロキシルラジカル6を多く抽出して、被処理部材1に照射できるからである。すなわち、真空チャンバ2が接地されているため、FPG3と真空チャンバ2との電位差は、FPG3と保持台4の電位差より大きい。このため、処理ガスのプラズマ中のほとんどのイオン7は、FPG3から保持台4の方向ではなく、FPG3から真空チャンバ2の方向に移動する。残ったプラズマ中の極性がないヒドロキシルラジカル6は、被処理部材1に照射される。
【0032】
ヒドロキシルラジカル6を被処理部材1に照射することによって、被処理部材1の表面にヒドロキシル基が導入される。しかも、被処理部材1にイオン7がほとんど照射されないので、イオンの衝撃によって被処理部材1の表面に導入されたヒドロキシル基が再び脱離するのを抑えられる。このように、被処理部材1の表面には安定した親水性が付与される。ヒドロキシル基の導入によって、ヒドロキシル基が被処理部材1の表面と化学結合している。
【0033】
図3は、本願の第一実施形態のプラズマ処理装置90を模式的に示している。第一実施形態では、被処理部材がシート状の樹脂である。プラズマ処理装置90は、第一処理装置91と第二処理装置92を備えている。脱離工程S10を行う第一処理装置91は、第一チャンバ25と、供給ロール11と、第一保持部14,15と、第一ガス導入部17と、第一プラズマ発生部であるFPG12,13を備えている。
【0034】
供給ロール11は、表面が疎水性であるシート状の樹脂が巻き付けられており、回転しながら第一保持部14,15に樹脂を供給する。供給ロール11から供給された樹脂は、円柱状の第一保持部14,15の一部分に巻かれながら保持されている。FPG12は、第一保持部14に対向するように設けられている。FPG13は、第一保持部15に対向するように設けられている。このような第一保持部14,15とFPG12,13の配置により、第一処理装置91で樹脂の両面に脱離工程S10が行える。また、一つの第一保持部に対して、二つのFPGが設けられているため、脱離工程S10が効率よく行える。
【0035】
第一ガス導入部17は、プラズマ化すると樹脂の表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる第一ガスを第一チャンバ内に導入する。すなわち、第一ガスがプラズマ化されると、プラズマ中の方向性があるイオンとラジカルが樹脂の表面に作用して、樹脂の表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部が脱離する。第一実施形態では、第一ガスが窒素および/またはアルゴンである。
【0036】
FPG12,13は、電源(不図示)から電圧が印可されて、第一ガスをプラズマ化する。第一保持部14,15には電圧が印可されない。すなわち、第一保持部14,15は接地されている。なお、第一プラズマ発生部でのプラズマ発生手段は特に制限がない。第一プラズマ発生部は、交流電圧が印可されてプラズマを生成してもよい。第一チャンバ25内の圧力は、暗放電が維持できる0.3Pa程度である。
【0037】
第一保持部14を通過した樹脂16aは片面が処理されている。その後、樹脂16aが第一保持部15を通過すると、両面が処理された樹脂16bが得られる。被処理部材16bはガイドローラ19の一部分に巻かれる。樹脂がPTFEなどのフッ素樹脂の場合、樹脂16bの両面は、フッ素および/または炭素が脱離されて活性化している。樹脂が全芳香族ポリエステルの場合、樹脂16bの両面は、酸素が脱離されて活性化している。樹脂16bは、両面が活性化した状態で、ガイドローラ19を経由して、導入工程S20を行う第二処理装置92の第二チャンバ27内に供給される。
【0038】
第一チャンバ25と第二チャンバ27の間には、差動排気を備える接続部26が設けられている。この差動排気によって、第一チャンバ25と第二チャンバ27が分離され、第一チャンバ25内の圧力と第二チャンバ27内の圧力を異なるようにできる。このように、別々の第一処理装置91と第二処理装置92を用いて、脱離工程S10と導入工程S20を連続して行うので、高い生産性が確保できる。
【0039】
導入工程S20を行う第二処理装置92は、第二チャンバ27と、第二保持部22,23と、第二ガス導入部18と、第二プラズマ発生部であるFPG20,21を備えている。第二チャンバ27は接地されている。第二保持部22,23は、第一チャンバ25で処理された樹脂16bを保持するとともに、電源(不図示)から第一DC電圧が印加される。第二保持部22,23は、加熱部であるヒーター28を備えている。第二保持部22,23の温度は、ヒーター28によって150℃以上300℃以下に維持することが好ましい。樹脂16bの表面にヒドロキシル基を効率よく導入できるからである。
【0040】
第二ガス導入部18は、プラズマ化してヒドロキシルラジカルを生成する第二ガスを第二チャンバ27内に導入する。第一実施形態では、第二ガスが水蒸気である。FPG20,21は、第二ガスをプラズマ化するとともに、第一DC電圧より高い第二DC電圧が電源(不図示)から印加される。例えば、第一DC電圧は、第二DC電圧の40%以上99%以下である。第一チャンバ25から供給された樹脂16bは、円柱状の第二保持部22,23の一部分に巻かれながら保持されている。
【0041】
FPG20は、第二保持部22に対向するように設けられている。FPG21は、第二保持部23に対向するように設けられている。このような第二保持部22,23とFPG20,21の配置により、第二処理装置92で樹脂の両面に導入工程S20が行える。また、一つの第二保持部に対して、二つのFPGが設けられているため、導入工程S20が効率よく行える。導入工程S20で、樹脂16bの表面にヒドロキシル基を導入しやすくするために、第二チャンバ27内の圧力は第一チャンバ25内の圧力の30%以上50%以下にすることが好ましい。
【0042】
FPG20,21と第二チャンバ27の電位差で、第二ガスのプラズマが生成し、水素イオンなどのイオンとヒドロキシルラジカルが発生する。第二保持部22を通過した樹脂16cは、片面だけが親水化されている。第二保持部23を通過した樹脂16dは、両面が親水化されている。樹脂16dは巻取ローラ24に巻き取られる。すべての樹脂の表面が親水化された後、第二チャンバ27は大気開放され、樹脂16dは取り出される。
【0043】
図4は、本願の第二実施形態のプラズマ処理装置95を模式的に示している。プラズマ処理装置95は、第一処理装置(不図示)と、第二処理装置93と、蒸着工程S30を行う第三処理装置96を備えている。第二処理装置93は、第二処理装置92とほぼ同じである。第三処理装置96は、第三チャンバ65と、第三保持部68,71と、金属蒸着部97,98を備えている。第三保持部68,71は、第二チャンバ27で処理された樹脂16dを保持する。
【0044】
金属蒸着部97,98は、第三保持部68,71に保持された樹脂16dの片方の表面に、それぞれ金属を蒸着する。金属蒸着部97は、FPG67と、金属ターゲットである銅ターゲット66を備えている。すなわち、FPG67から放出されたイオンビームが銅ターゲット66に衝突し、銅ターゲット66から飛び出した銅が、樹脂16dの片方の表面に析出して銅蒸着膜となる。銅蒸着膜の厚さは10nm以上400nm以下である。また、金属蒸着部98は、FPG79と、銅ターゲット69を備えている。
【0045】
第二チャンバ27で導入工程S20が行われた樹脂16dは、ガイドローラ63を経由して、第三チャンバ65内に供給される。第二チャンバ27と第三チャンバ65の間には、差動排気を備える接続部64が設けられている。第三チャンバ65内に供給された樹脂16dは、円柱状の第三保持部68,71の一部分に巻かれながら保持されている。樹脂16dが第三保持部68を通過すると、樹脂16dの片面に銅蒸着膜が形成された積層体62bが得られる。
【0046】
その後、積層体62bが第三保持部71を通過すると、樹脂16dの両面に銅蒸着膜が形成された積層体62cが得られる。積層体62cは、巻取ローラ24に巻き取られる。すべての樹脂16dの両面に銅蒸着膜が形成された後、第三チャンバ65は大気開放され、積層体62cは取り出される。脱離工程S10から蒸着工程S30までは、減圧下で連続処理することが好ましい。
【0047】
第一実施形態の第二チャンバ27の内壁とその付近には、第二ガスのプラズマ中のイオンが衝突するので、第二チャンバ27の内壁および第二チャンバ27の内部に設置された部品から、これらの内壁および部品に含まれる金属が浮遊する。この浮遊した金属の一部は、樹脂16b,16c,16dに付着するおそれがある。そこで、プラズマと接触する第二チャンバ27の内壁、プラズマ発生部であるFPG20,21、および第二チャンバ27の内部に設置された部品の少なくとも一部が、第三処理装置で蒸着する金属、例えば銅、金、または銀と同じ金属から構成されることが好ましい。第三処理装置で蒸着する金属と、第二チャンバ27の内壁、FPG20,21、および第二チャンバ27の内部に設置された部品の少なくとも一部が同じなので、第二チャンバ27の内壁、FPG20,21、および第二チャンバ27の内部に設置された部品から浮遊した金属が樹脂16b,16c,16dに付着しても欠陥品にならないからである。
【0048】
また、図5に示す第三実施形態のプラズマ処理装置100のように、第三処理装置で蒸着する金属と同じ金属から構成され、第二処理装置101の第二チャンバ27の内壁および第二チャンバ27の内部に設置された部品、例えばFPG20,21の少なくとも一部を覆う遮蔽部であるシート50,51を備えていてもよい。第三処理装置で蒸着する金属と、シート50,51を構成する金属が同じなので、シート50,51から浮遊した金属が樹脂16b,16c,16dに付着しても欠陥品にならない。
【0049】
図6および図7は、本願の第四実施形態のプラズマ処理装置110を模式的に示している。第四実施形態では、被処理部材がシート片状の樹脂30aである。処理装置110は、真空予備室38,41と、脱離工程S10を行う第一処理室111と、導入工程S20を行う第二処理室112と、ゲート弁33,34,35,36,37を備えている。第一処理室111は第一チャンバ39を備えている。第二処理室112は第二チャンバ40a,40bを備えている。
【0050】
図7に示すように、真空予備室38内には、樹脂30aを端部で保持する可動部31と、可動部31を装着して搬送する軌道部32aが設けられている。同様に、第一チャンバ39内には、樹脂30bを保持する可動部31を搬送する軌道部32bが設けられている。また、第二チャンバ40a内には、樹脂30cを保持する可動部31を搬送する軌道部32cが設けられている。また、第二チャンバ40b内には、樹脂30dを保持する可動部31を搬送する軌道部32dが設けられている。また、真空予備室41内には、樹脂30eを保持する可動部31を搬送する軌道部32eが設けられている。樹脂30a,30b,30c,30d,30eの搬送方式は、リニアガイドまたはラック・アンド・ピニオンなどが採用できる。
【0051】
プラズマ処理装置110は以下のように動作させる。ゲート弁33を開き、真空予備室38内の軌道部32aに、樹脂30aの端部を保持した可動部31を装着する。ゲート弁33を閉じ、真空予備室38内を減圧する。真空予備室38内の圧力が10Pa以下になったらゲート弁34を開く。可動部31を第一チャンバ39内に移動させて、ゲート弁34を閉じる。FPG42,43を用いて、第一チャンバ39内で樹脂30bに脱離工程S10を行い、両面が活性化された樹脂30cを得る。このとき、二対のFPG42,43を用いて、効率よく均質に樹脂30bが処理できる。
【0052】
脱離工程S10が終わると、樹脂30c、すなわち可動部31はゲート弁35の手前まで移動する。ゲート弁35を開き、可動部31を第二チャンバ40a内に移動させ、ゲート弁35を閉じる。第二チャンバ40a内で、樹脂30cの上面に導入工程S20を行い、樹脂30dを得る。樹脂30d、すなわち可動部31は第二チャンバ40bの手前まで移動する。第二チャンバ40b内で、樹脂30dの下面に導入工程S20を行い、樹脂30eを得る。このとき、電極板45aに印可されている電圧は、接地されている第二チャンバ40aの電圧より大きく、FPG44aに印可されている電圧より小さい。また、電極板45bに印可されている電圧は、接地されている第二チャンバ40bの電圧より大きく、FPG44bに印可されている電圧より小さい。
【0053】
このため、処理ガスのプラズマ中のほとんどのイオンが、FPG44a,44bから電極板45a,45bの方向ではなく、FPG44a,44bからから第二チャンバ40a,40bの方向に移動する。残ったプラズマ中のヒドロキシルラジカルは、樹脂30c,30dに照射される。樹脂30e、すなわち可動部31はゲート弁36の手前まで移動する。ゲート弁36を開き、可動部31を真空予備室41内に移動させ、ゲート弁36を閉じる。真空予備室41内を大気圧にしてから、ゲート弁37を開けて、樹脂30eを取り出す。
【実施例
【0054】
(脱離工程)
接地されたステンレス製のチャンバ内で、ファインプラズマガン(FPG)(Finesolution Co., Ltd.製、Linear type ion beam source FPG-L040S)(以下同様)を用いて、チャンバ内圧力0.3Pa、FPGに供給する電力300W、処理ガスが窒素またはアルゴンの条件で、市販されているA4判のフッ素樹脂基板に脱離工程を行った。
【0055】
(導入工程)
接地されたステンレス製のチャンバ内で、ファインプラズマガン(FPG)を用いて、チャンバ内圧力0.15Pa、FPGに供給する電力300W、処理ガスが水蒸気の条件で、基板を保持する保持台に印可する電圧をFPGに印可する電圧より低くして、脱離工程を経た基板に導入工程を行った。
【0056】
脱離工程と導入工程を行っていない、すなわち処理前の基板の表面の水との接触角を測定したときの画像を図8(a)に示す。図8(a)に示すように、処理前の基板の表面に滴下した水は丸まった。つまり、処理前の基板の表面は高い撥水性を示した。処理前の基板の表面の水との接触角は90°より大きかった。また、脱離工程と導入工程を行った、すなわち処理後の基板の表面の水との接触角を測定したときの画像を図8(b)に示す。図8(b)に示すように、処理後の基板の表面に滴下した水は広がった。つまり、処理後の基板の表面は高い親水性を示した。
【0057】
処理前の基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像を図8(c)に示す。フッ素樹脂ブロックをシート状にはがしたときに生じた傷および穴が観察された。処理後の基板の表面のSEM画像を図8(d)に示す。処理前の基板の表面に観察された傷および穴が消えて、細長い凹凸が観察された。この凹凸は、脱離工程で基板にイオンが照射されたことによって生じたと考えられる。このように、処理前後で基板の表面の形態は大きく変化したが、基板の表面粗さは、処理前後でほとんど変化しなかった。
【0058】
処理後のフッ素樹脂シートの表面の水との接触角の測定結果を図9に示す。フッ素樹脂シートの短辺をX軸、長辺をY軸とし、フッ素樹脂シートの中心を座標(0,0)とした。水との接触角は、短辺方向に5点、長辺方向に3点の計15点測定した。1点について2回測定し、平均値をプロットした。Y軸方向のバラツキは、どのX軸地点においても、0.3~1.9°であった。また、X軸方向のバラツキは1.6~1.9°であった。すべての測定点で接触角が5°以下になった。なお、処理後の基板の表面に銅を直接メッキしたところ、基板と銅の密着度は0.8N/mm程度であり、基板と銅が強く密着していた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本願の樹脂表面親水化方法、プラズマ処理装置、積層体、および積層体の製造方法は、高速大容量の情報を通信する携帯電話に用いる回路基板に利用される。フッ素樹脂の比誘電率は空気の次に低いので、フッ素樹脂基板は、高周波基板の素材に特に適している。フッ素樹脂を用いた回路基板は、他の一般的な素材を用いた回路基板と比べて、高周波電流を流しても比誘電率および誘電正接が低く、誘電損失が小さい。
【0060】
本願の樹脂表面親水化方法をフッ素樹脂基板に適用した場合、基板の親水性が向上し、銅配線との密着性が向上でき、高周波数帯での使用に耐えうる回路基板が提供できる。この高周波数帯での使用に適用できる技術は、携帯電話本体にとどまらず、携帯電話の基地局に使われる基板、家庭内、工場内、もしくは地域専用の通信用の基板、または自動車もしくはドローンなどの自動運転に用いられるミリ波レーダー用の基板にも適用でき、応用範囲は広い。
【符号の説明】
【0061】
S10:脱離工程、 S20:導入工程、 S30:蒸着工程、 S40:被覆工程、 1:被処理部材、 2:真空チャンバ、 3,12,13,20,21,42,43,44a,44b,67,70:ファインプラズマガン(FPG)、 4:保持台、 5:カバー、 6:ラジカル(ヒドロキシルラジカル)、 7:イオン、 8:第二DC電源、 9:第一DC電源、 10:グランド、 11:供給ロール、 14,15:第一保持部、 16a,16b,16c,16d,30a,30b,30c,30d,30e:樹脂、 17:第一ガス導入部、 18:第二ガス導入部、 19:ガイドローラ、 22,23:第二保持部、 24:巻取ローラ、 25,39:第一チャンバ、 26,64:接続部、 27,40a,40b:第二チャンバ、 28:ヒーター、 31:可動部、 32a,32b,32c,32d,32e:軌道部、 33,34,35,36,37:ゲート弁、 38,41:真空予備室、 45a,45b:電極板、 62b,62c:積層体、 65:第三チャンバ、 68,71:第三保持部、 66,69:銅ターゲット、 80:処理装置、 90,95,100,110:プラズマ処理装置、 91,111:第一処理装置、 92,93,101,112:第二処理装置、 96:第三処理装置、 97,98:金属蒸着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9