(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】診断支援システム、診断支援方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2019163082
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄治
【審査官】最首 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522283(JP,A)
【文献】特表2014-515296(JP,A)
【文献】特表2004-508856(JP,A)
【文献】特開2017-012480(JP,A)
【文献】国際公開第2019/028551(WO,A1)
【文献】JOAO Ricardo Sato, et al.,Complex Network Measures in Autism Spectrum Disorders,IEEE/ACM Transactions on Computational Biology and Bioinformatics,米国,IEEE,2015年09月03日,Volume 15, Issue 2,p581-587,https://ieeexplore.ieee.org/document/7239574
【文献】DAMIANI Stefano, et al.,Increased scale-free dynamics in salience network in adult high-functioning autism,NeuroImage: Clinical,Volume 21, Issue 101634,米国,ELSEVIER,2018年12月10日,p1-10,https://sciencedirect.com/science/article/pii/S2213158218303826
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20
IEEE Xplore
医中誌WEB
arXiv
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療診断を支援する情報を提示する診断支援システムであって、
被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI(Magnetic Resonance Imaging)信号時系列データに基づいて、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部によって算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出部と
、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示部と
を備え、
前記医療診断を支援する情報は、前記パラメータ分布算出部によって算出されたパラメータの分布に基づく情報である、
診断支援システム。
【請求項2】
前記パラメータ算出部は、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データの離散スペクトルを算出
し、算出
した
前記離散スペクトルからパワースペクトル密度を算出
し、算出
した
前記パワースペクトル
密度の規格化を行
い、規格化
した
前記パワースペクトル密度から、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出する、
請求項
1に記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記
パラメータ分布算出部によって算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布と照合する照合部を更に備える、
請求項
1または請求項
2に記載の診断支援システム。
【請求項4】
前記診断支援情報提示部は、前記照合部による、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布と、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布との照合の結果に基づいて、
前記被験者の医療診断を支援する情報を提示す
る、
請求項
3に記載の診断支援システム。
【請求項5】
前記診断支援情報提示部は、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードが、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードよりも大きい場合に、
前記被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示する、
請求項
4に記載の診断支援システム。
【請求項6】
定型発達であるか否かが既知のスペクトルエントロピーの分布と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知のスペクトルエントロピーの分布とを教師データとして用いることによって、前記診断支援情報提示部の機械学習を行う機械学習部を更に備える、
請求項
5に記載の診断支援システム。
【請求項7】
前記パラメータ算出部は、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データと、
前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データとに基づいて、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離を算出
し、
前記パラメータ分布算出部は、前記
パラメータ算出部によって算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布を算出
し、
前記平均スペクトル相関距離は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の灰白質ボクセルと前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルとの間の物理的距離とに基づいて算出される、
請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項8】
前記パラメータ算出部は、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データの離散スペクトルを算出
し、算出
した
前記離散スペクトルの絶対値を算出
し、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、
前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルと
前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルとの間の物理的距離とに基づいて、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離を算出する、
請求項
7に記載の診断支援システム。
【請求項9】
前記
パラメータ算出部によって算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布を、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布と照合する照合部を更に備える、
請求項
7または請求項
8に記載の診断支援システム。
【請求項10】
前記診断支援情報提示部は、前記照合部による、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布と、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布との照合の結果に基づいて、
前記被験者の医療診断を支援する情報を提示す
る、
請求項
9に記載の診断支援システム。
【請求項11】
前記診断支援情報提示部は、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値が、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値よりも小さい場合に、
前記被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示する、
請求項
10に記載の診断支援システム。
【請求項12】
定型発達であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離の分布と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離の分布とを教師データとして用いることによって、前記診断支援情報提示部の機械学習を行う機械学習部を更に備える、
請求項
11に記載の診断支援システム。
【請求項13】
前記被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データを取得する安静時機能的MRIデータ取得部と、
前記被験者の脳の解剖学的MRI画像を取得する解剖学的MRI画像取得部と、
前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された
前記被験者の脳の安静時機能的MRIデータと前記解剖学的MRI画像取得部によって取得された
前記被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせを行う位置合わせ部と、
前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの前処理を行う前処理部と、
前記解剖学的MRI画像取得部によって取得された
前記被験者の脳の解剖学的MRI画像に基づいて、
前記被験者の脳の灰白質マップを作成する灰白質マップ作成部と
を更に備え、
前記パラメータ算出部は、前記位置合わせ部による、
前記被験者の脳の安静時機能的MRIデータと
前記被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせの結果と、前記灰白質マップ作成部によって作成された
前記被験者の脳の灰白質マップとに基づいて、前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された
前記被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出す、
請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項14】
医療診断を支援する情報を提示する診断支援方法であって、
被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出ステップと、
前記パラメータ算出ステップにおいて算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出ステップと
、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示ステップと
を備え、
前記医療診断を支援する情報は、前記パラメータ分布算出ステップにおいて算出されたパラメータの分布に基づく情報である、
診断支援方法。
【請求項15】
コンピュータに、
被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出ステップと、
前記パラメータ算出ステップにおいて算出された
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出ステップと、
前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示ステップと
を実行させるためのプログラムであって、
前記パラメータ分布算出ステップにおいて算出されたパラメータの分布に基づく情報が、医療診断を支援する情報として提示される、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援システム、診断支援方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、課題や刺激を用いない機能的MRI(磁気共鳴画像法)である安静時機能的MRI(rs-fMRI)が、脳研究で広く用いられている。この手法では、安静状態で被験者の脳全体のMRI画像が10分程度高速連続撮像され、信号の時間変化パターンの相関(類似度)に基づいて脳領域間の機能連結が推定される。非特許文献1には、手の動きに関係する感覚運動皮質の領域において、rs-fMRIの低周波信号成分が高い相関を持つことが記載されている。
また従来から、信号(データ)のランダムネス(複雑さの度合い)を評価する手法のひとつとして、エントロピー解析が知られている。非特許文献2には、生体信号の複雑さを近似エントロピー(ApEn)およびサンプルエントロピー(SampEn)を用いて評価する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Bharat Biswal他、「Functional Connectivity in the Motor Cortex of Resting Human Brain Using Echo-Planar MRI」Magn Reson Med 34:537-541(1995)
【文献】Joshua Richman他、「Physiological Time-Series Analysis Using Approximate Entropy and Sample Entropy」Am J Physiol Heart Circ Physiol 278: H2039-H2049(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
rs-fMRIのデータ解析として、様々な方法が提案されているが、いずれも脳領域間のマクロ(大域的)な機能連結を評価するという点で共通しており、発達障害や精神・神経系疾患の客観的な指標としての有効性は確立していない。例えば、rs-fMRIを用いたデフォルトモードネットワーク(DMN)解析によって自閉スペクトラム症(ASD)では同じ年齢の健常者と比べて内側前頭前野と後部帯状回の機能連結が弱いことが明らかになったものの、症状との関連性は不明である。このような手法の限界は、発達障害や精神疾患が本質的に脳内のミクロ(局所的)な機能連結の異常であることに起因する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意研究において、本発明者等は、神経回路網動態の数理モデルと機能的MRIの原理に基づく考察から、rs-fMRIデータにはミクロな機能連結の状態を反映する情報が含まれており、信号時系列のエントロピー解析によってその情報を拾い出せることを見い出したのである。更に、本発明者等は、解析を試行したところ、大脳皮質(灰白質)を含む画素(ボクセル)の信号時系列のエントロピー分布がASDと定型発達とでは明らかに異なることを見い出した。また、得られた結果は脳の微細構造学的知見(ASDにおける皮質カラム構造の狭小化)とも整合することから、診断支援の手法として一定の信頼性を有することを確認した。
更に、本発明者等は、鋭意研究において、被験者の脳の灰白質ボクセルのrs-fMRI信号時系列データと、被験者の脳の他の灰白質ボクセルのrs-fMRI信号時系列データとから得られる被験者の脳の灰白質ボクセルのrs-fMRI信号の平均スペクトル相関距離(「平均スペクトル相関距離」の定義などについては後で詳細に説明する。)を解析することによっても、ミクロな機能連結の状態を反映する情報を拾い出せることを見い出した。本発明者等は、この解析において、灰白質ボクセルのrs-fMRI信号の平均スペクトル相関距離の分布がASDと定型発達とでは明らかに異なることを見い出した。この解析において得られた結果も脳の微細構造学的知見(ASDにおける皮質カラム構造の狭小化)とも整合することから、診断支援の手法として一定の信頼性を有することを確認した。
【0006】
つまり、本発明は、脳内のミクロ(局所的)な機能連結の状態を反映する情報を拾い出すことができる診断支援システム、診断支援方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一態様は、医療診断を支援する情報を提示する診断支援システムであって、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出部と、前記パラメータ算出部によって算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出部と、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示部とを備え、前記医療診断を支援する情報は、前記パラメータ分布算出部によって算出されたパラメータの分布に基づく情報である、診断支援システムである。
【0009】
本発明の一態様の診断支援システムでは、前記パラメータ算出部は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データの離散スペクトルを算出し、算出した前記離散スペクトルからパワースペクトル密度を算出し、算出した前記パワースペクトル密度の規格化を行い、規格化した前記パワースペクトル密度から、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出してもよい。
【0010】
本発明の一態様の診断支援システムは、前記パラメータ分布算出部によって算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布と照合する照合部を更に備えてもよい。
【0011】
本発明の一態様の診断支援システムは、前記診断支援情報提示部は、前記照合部による、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布と、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布との照合の結果に基づいて、前記被験者の医療診断を支援する情報を提示してもよい。
【0012】
本発明の一態様の診断支援システムでは、前記診断支援情報提示部は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値(分布のモード)が、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値(分布のモード)よりも大きい場合に、前記被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示してもよい。
【0013】
本発明の一態様の診断支援システムは、定型発達であるか否かが既知のスペクトルエントロピーの分布と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知のスペクトルエントロピーの分布とを教師データとして用いることによって、前記診断支援情報提示部の機械学習を行う機械学習部を更に備えてもよい。
【0014】
本発明の一態様の診断支援システムでは、前記パラメータ算出部は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データと、前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データとに基づいて、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離を算出し、前記パラメータ分布算出部は、前記パラメータ算出部によって算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布を算出し、前記平均スペクトル相関距離は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の灰白質ボクセルと前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルとの間の物理的距離とに基づいて算出されてもよい。
【0015】
本発明の一態様の診断支援システムでは、前記パラメータ算出部は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データの離散スペクトルを算出し、算出した前記離散スペクトルの絶対値を算出し、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値と、前記被験者の脳の灰白質ボクセルと被験者の脳の他の灰白質ボクセルとの間の物理的距離とに基づいて、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離を算出してもよい。
【0016】
本発明の一態様の診断支援システムは、前記パラメータ算出部によって算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布を、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布と照合する照合部を更に備えてもよい。
【0017】
本発明の一態様の診断支援システムは、前記診断支援情報提示部は、前記照合部による、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布と、定型発達または自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布との照合の結果に基づいて、前記被験者の医療診断を支援する情報を提示してもよい。
【0018】
本発明の一態様の診断支援システムでは、前記診断支援情報提示部は、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値が、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値よりも小さい場合に、前記被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示してもよい。
【0019】
本発明の一態様の診断支援システムは、定型発達であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離の分布と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離の分布とを教師データとして用いることによって、前記診断支援情報提示部の機械学習を行う機械学習部を更に備えてもよい。
【0020】
本発明の一態様の診断支援システムは、前記被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データを取得する安静時機能的MRIデータ取得部と、前記被験者の脳の解剖学的MRI画像を取得する解剖学的MRI画像取得部と、前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された前記被験者の脳の安静時機能的MRIデータと前記解剖学的MRI画像取得部によって取得された前記被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせを行う位置合わせ部と、前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された前記被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの前処理を行う前処理部と、前記解剖学的MRI画像取得部によって取得された前記被験者の脳の解剖学的MRI画像に基づいて、前記被験者の脳の灰白質マップを作成する灰白質マップ作成部とを更に備え、前記パラメータ算出部は、前記位置合わせ部による、前記被験者の脳の安静時機能的MRIデータと前記被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせの結果と、前記灰白質マップ作成部によって作成された前記被験者の脳の灰白質マップとに基づいて、前記安静時機能的MRIデータ取得部によって取得された前記被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出してもよい。
【0021】
本発明の一態様は、医療診断を支援する情報を提示する診断支援方法であって、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出ステップと、前記パラメータ算出ステップにおいて算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出ステップと、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示ステップとを備え、前記医療診断を支援する情報は、前記パラメータ分布算出ステップにおいて算出されたパラメータの分布に基づく情報である、診断支援方法である。
【0022】
本発明の一態様は、コンピュータに、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出するパラメータ算出ステップと、前記パラメータ算出ステップにおいて算出された前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布を算出するパラメータ分布算出ステップと、前記被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値である分布のモードと、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードとに基づいて、被験者が自閉スペクトラム症の可能性があるか否かを判定する診断支援情報提示ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記パラメータ分布算出ステップにおいて算出されたパラメータの分布あるいは当該分布に基づく情報が、医療診断を支援する情報として提示される、プログラムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、脳内のミクロ(局所的)な機能連結の状態を反映する情報を拾い出すことができる診断支援システム、診断支援方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態の診断支援システムの一例などを示す図である。
【
図2】安静時機能的MRIデータ取得部によって取得される被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの一例などを示す図である。
【
図3】離散スペクトル算出部によって算出される離散スペクトルの一例を示す図である。
【
図4】エントロピー分布算出部によって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態の診断支援システムにおいて実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】第2実施形態の診断支援システムの一例などを示す図である。
【
図7】平均スペクトル相関距離分布算出部によって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布の一例を示す図である。
【
図8】第2実施形態の診断支援システムにおいて実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の診断支援システム、診断支援方法およびプログラムの実施形態について説明する。
【0026】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の診断支援システム1の一例などを示す図である。詳細には、
図1(A)は第1実施形態の診断支援システム1の一例を示しており、
図1(B)は
図1(A)に示す診断支援システム1の各構成要素間のデータなどの流れを示している。
図1に示す例では、診断支援システム1が、医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。診断支援システム1は、安静時機能的MRIデータ取得部11と、解剖学的MRI画像取得部12と、位置合わせ部13と、前処理部14と、灰白質マップ作成部15と、パラメータ算出部16と、パラメータ分布算出部17と、照合部18と、診断支援情報提示部19と、機械学習部1Aとを備えている。
安静時機能的MRIデータ取得部11は、被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データを取得する。安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される安静時機能的MRI信号時系列データは、例えば被験者の脳全体を128×128×15ボクセル程度の3次元T2*強調画像として1秒あたり1ボリュームの時間分解能で5分以上の時間にわたって採取されたものである。例えば安静時機能的MRI信号時系列データが330秒(5分30秒)の時間にわたって採取された場合、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される安静時機能的MRI信号時系列データの数は、ボクセル数(128×128×15ボクセル)×時間サンプル数(330個)になる。本明細書において、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される安静時機能的MRI信号時系列データのi番目(iは1~128×128×15の値)のボクセルの信号時系列を「S
i(t
n)」で表す(tは時間を示しており、nは1~330の値である)。
図1に示す例では、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される安静時機能的MRI信号時系列データの時間サンプル数が、330秒に相当する330個に設定されているが、他の例では、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される安静時機能的MRI信号時系列データの時間サンプル数が、330より大きい数に設定されていてもよい。
【0027】
図1に示す例では、解剖学的MRI画像取得部12が、被験者の脳の解剖学的MRI画像を取得する。解剖学的MRI画像取得部12によって取得される被験者の脳の解剖学的MRI画像は、上述した安静時機能的MRI信号時系列データが採取される領域と同じ領域の256×256×60ボクセル程度のT1強調画像を標準データとする。
【0028】
図2は安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの一例などを示す図である。詳細には、
図2(A)は解剖学的MRI画像取得部12によって取得される被験者の脳の解剖学的MRI画像の一例を示している。
図2(B)は安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの一例を示している。
図2(A)の上側は被験者の脳の前側に対応しており、
図2(A)の右側は被験者の脳の右側に対応している。
図2(B)は、
図2(A)に示す被験者の脳の解剖学的MRI画像に含まれる灰白質ボクセル(
図2(A)参照)において採取された安静時機能的MRI信号時系列データを示している。
図2(B)の縦軸は信号強度(安静時機能的MRI信号の強度)を示しており、
図2(B)の横軸は時間tを示している。
図2(B)に示す例では、安静時機能的MRI信号が、330秒(5分30秒)の時間にわたって、1秒ごとに1セット(1ボリューム)採取されている。
【0029】
図1に示す例では、位置合わせ部13が、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRIデータ(
図2(B)参照)と、解剖学的MRI画像取得部12によって取得された被験者の脳の解剖学的MRI画像(
図2(A)参照)との位置合わせを行う。
詳細には、
図1に示す例では、診断支援システム1が提示する医療診断支援情報を得るために、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが用いられる。つまり、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データ(灰白質ボクセル以外のボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データも含む)から、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出す必要がある。
そこで、
図1に示す例では、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出すことを容易にするために、位置合わせ部13が、被験者の脳の安静時機能的MRIデータ(
図2(B)参照)と被験者の脳の解剖学的MRI画像(
図2(A)参照)との位置合わせを行う(すなわち、被験者の脳の解剖学的MRI画像が用いられる)。
被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが予め抜き出されている他の例(つまり、予め抜き出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが診断支援システム1に入力される例)では、診断支援システム1が、解剖学的MRI画像取得部12、位置合わせ部13および後述する灰白質マップ作成部15を備えていなくてもよい。
【0030】
図1に示す例では、前処理部14が、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの前処理を行う。前処理部14は、例えば安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、心拍や呼吸に由来する信号変動やMRI装置に起因するドリフト成分を除去する。また、前処理部14は、安静時機能的MRIデータの撮像パラメータの違いや撮像装置の差異(磁場強度の違いなど)を吸収する画像処理(例えば解像度や不均一補正など)を行う。
前処理部14による処理と同等の処理が予め行われた被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データが安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される他の例(つまり、前処理部14による処理と同等の処理が予め行われた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが診断支援システム1に入力される例)では、診断支援システム1が、前処理部14を備えていなくてもよい。
【0031】
図1に示す例では、灰白質マップ作成部15が、解剖学的MRI画像取得部12によって取得された被験者の脳の解剖学的MRI画像に基づいて、被験者の脳の灰白質マップを作成する。灰白質マップ作成部15は、例えばT1強調画像に基づく組織分離(セグメンテーション)の標準的手法を利用することによって、被験者の脳の灰白質マップを作成する。灰白質マップ作成部15は、被験者の脳の灰白質マップとして、例えば特表平11-507565号公報の
図5aに記載されているような灰白質マップを作成する。
パラメータ算出部16は、位置合わせ部13による、被験者の脳の安静時機能的MRIデータと被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせの結果と、灰白質マップ作成部15によって作成された被験者の脳の灰白質マップとに基づいて、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出す。
詳細には、上述した
図2(B)は、パラメータ算出部16によって抜き出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを示している。
予め抜き出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得される他の例(つまり、予め抜き出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データが診断支援システム1に入力される例)では、パラメータ算出部16が、上述した被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データの抜き出しを行わなくてもよい。
【0032】
図1に示す例では、パラメータ算出部16が、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、所定のパラメータを算出する。パラメータ算出部16はエントロピー算出部16Aを備えている。エントロピー算出部16Aは、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーを算出する。
また、パラメータ算出部16は、離散スペクトル算出部161と、パワースペクトル算出部162と、規格化部163とを備えている。
離散スペクトル算出部161は、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データS
i(
図2(B)参照)の離散スペクトルX
i(ω
k)(
図3参照)を算出する。詳細には、離散スペクトル算出部161は、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データS
i(
図2(B)参照)の(離散)フーリエ変換を行うことによって離散スペクトルX
i(ω
k)を算出する(Xは一般に複素数)。
【0033】
図3は離散スペクトル算出部161によって算出される離散スペクトルの一例を示す図である。詳細には、
図3は
図2(B)に示す被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データS
iの(離散)フーリエ変換を行うことによって得られた離散スペクトルX
i(ω
k)の振幅(絶対値)を表している。
図3の縦軸は被験者の脳の特定の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号を構成する周波数成分の大きさを示しており、
図3の横軸は周波数ωを示している。
【0034】
図1に示す例では、パワースペクトル算出部162が、離散スペクトル算出部161によって算出された離散スペクトルX
i(ω
k)からパワースペクトル密度(power spectral density;PSD)P
i(ω
k)を算出する。詳細には、パワースペクトル算出部162は、離散スペクトル算出部161によって算出された離散スペクトルX
i(ω
k)と、下記の式とに基づいて、パワースペクトル密度P
i(ω
k)を算出する。つまり、パワースペクトル算出部162は、離散スペクトル算出部161によって算出された離散スペクトルX
i(ω
k)を2乗する。
【0035】
【0036】
図1に示す例では、規格化部163が、パワースペクトル算出部162によって算出されたパワースペクトル密度P
i(ω
k)の規格化を行う。詳細には、規格化部163は、パワースペクトル算出部162によって算出されたパワースペクトル密度P
i(ω
k)と、下記の式とに基づいて、規格化を行う。つまり、規格化部163は、パワースペクトル算出部162によって算出されたパワースペクトル密度P
i(ω
k)を全成分の和で割る演算を行う。p
kの和は1になるため、周波数成分の確率密度分布とみなすことができる。
【0037】
【0038】
図1に示す例では、エントロピー算出部16Aは、規格化部163によって規格化されたものp
i,k(数2参照)から、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピー(power spectral density-based entropy)PSE
iを算出する。詳細には、エントロピー算出部16Aは、規格化部163によって規格化されたものp
i,kと、下記の式とに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のパワースペクトル密度のエントロピーPSE
iを算出する。これがボクセル単位で最終的に計算される値になる。下記の式の右辺の「Ln」は自然対数を表す。下記の式で得られるスペクトルエントロピーPSE
iの単位はnat(ナット)になる。
【0039】
【0040】
図1に示す例では、パラメータ分布算出部17が、パラメータ算出部16によって算出されたパラメータの分布を算出する。パラメータ分布算出部17はエントロピー分布算出部17Aを備えている。エントロピー分布算出部17Aは、エントロピー算出部16Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
i(数3参照)の分布を算出する。
すなわち、エントロピー算出部16Aによって安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iが算出される灰白質ボクセルは、被験者の脳に複数存在する。そこで、エントロピー算出部16Aは、被験者の脳に存在する全ての灰白質ボクセルについて、安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iを算出する。更に、エントロピー分布算出部17Aは、エントロピー算出部16Aによって算出された安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの値(つまり、被験者の脳に存在する全ての灰白質ボクセルに対応する複数の値)の分布(ヒストグラム)を作成する。
【0041】
図4はエントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(エントロピー分布算出部17Aによって作成された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iのヒストグラム)の一例を示す図である。詳細には、
図4(A)は被験者が定型発達(TD)である場合における被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を示しており、
図4(B)は被験者が自閉スペクトラム症(ASD)である場合における被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を示している。
図4(A)および
図4(B)の横軸はスペクトルエントロピーPSE
iの値(単位はnat)を示しており、
図4(A)および
図4(B)の縦軸はその値を示す灰白質ボクセルの数(エントロピー算出部16Aによって安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iが算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの数)を示している。
図4(A)および
図4(B)に示す例では、縦軸がその値を示す灰白質ボクセルの数を示しているが、他の例では、縦軸がその値を示す灰白質ボクセルの割合、相対頻度、確率などであってもよい。
【0042】
図4(A)および
図4(B)に示すように、本発明者等は、鋭意研究において、自閉スペクトラム症(ASD)の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値(分布のモード)EB(
図4(B)参照)が、定型発達(TD)の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のモードEA(
図4(A)参照)より大きくなることを見い出した。
【0043】
そこで、
図1に示す例では、照合部18が、エントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を、照合用エントロピー分布と照合する。照合用エントロピー分布は、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2から照合部18に提供される。
図1に示す例では、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2が診断支援システム1の外部に設けられているが、他の例では、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2が診断支援システム1の内部に設けられていてもよい。
【0044】
定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)が、照合用エントロピー分布として、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2から照合部18に提供される例では、照合部18が、エントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を、そのスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)(照合用エントロピー分布)と照合する。
例えばエントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布が、そのスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)(照合用エントロピー分布)と一致する場合には、被験者が定型発達であると判別することができる。つまり、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が定型発達であるか否かを判別することができる。
【0045】
自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(B)参照)が、照合用エントロピー分布として、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2から照合部18に提供される例では、照合部18が、エントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を、そのスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(B)参照)(照合用エントロピー分布)と照合する。
例えばエントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布が、そのスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(B)参照)(照合用エントロピー分布)と一致する場合には、被験者が自閉スペクトラム症であると判別することができる。つまり、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が自閉スペクトラム症であるか否かを判別することができる。
【0046】
他の例では、自閉スペクトラム症以外にも、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を含む発達障害全般、統合失調症やうつ病に代表される精神疾患、更にはアルツハイマー病などに起因する認知障害を呈する脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSEiの分布(図示せず)を照合用エントロピー分布として用い、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が、これらの発達障害あるいは精神・神経系疾患のそれぞれに該当するか否かを判別することができる。
【0047】
図1に示す例では、照合部18による照合の結果の精度を確保できるように(つまり、被験者が自閉スペクトラム症であるか否かなどの判別の精度を確保できるように)、前処理部14による処理の最適化が行われる。
また、本発明者等は、鋭意研究において、被験者の年齢が高くなるに従って、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値(分布のモード)EA、EB(
図4参照)が
図4の左側にシフトすることを見い出した。
そこで、他の例では、エントロピー分布形状と年齢などの情報をセットとして疾患との関係をデータベース化したものを、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2に格納し、照合部18が、そのデータベース化したものを、データ解析によって得られた分布(つまり、エントロピー分布算出部17Aによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布)と照合してもよい。そのようにすることにより、発達障害の有無や程度に関する客観的指標を得ることができる。
【0048】
また、
図1に示す例では、診断支援情報提示部19が、照合部18による、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布と、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2から照合部18に提供される照合用エントロピー分布(例えば定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)、自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(B)参照)など)との照合の結果に基づいて、被験者の医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。
つまり、診断支援情報提示部19は、パラメータ分布算出部17によって算出されたパラメータの分布に基づく情報を、医療診断支援情報として提示する。
例えば被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布のピークにおけるスペクトルエントロピーの値(
図4(A)および
図4(B)の横軸の値)が、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)のピークにおけるスペクトルエントロピーの値EA(
図4(A)参照)よりも大きい場合に、診断支援情報提示部19は、被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示してもよい。
【0049】
図1に示す例では、機械学習部1Aが、診断支援情報提示部19の機械学習を行う。
機械学習部1Aは、例えば定型発達であるか否かが既知のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)参照)と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(B)参照)とを教師データとして用いることによって、診断支援情報提示部19の機械学習を行ってもよい。
図1に示す例では、診断支援システム1が機械学習部1Aを備えているが、他の例(例えば診断支援システム1に備えられる診断支援情報提示部19が、機械学習部1Aによる機械学習の実行後の診断支援情報提示部19と同等の能力を予め有している例)では、診断支援システム1が機械学習部1Aを備えていなくてもよい。
【0050】
図5は第1実施形態の診断支援システム1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図5に示す例では、ステップS11において、安静時機能的MRIデータ取得部11が、被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データ(
図2(B)参照)を取得する。また、解剖学的MRI画像取得部12が、被験者の脳の解剖学的MRI画像(
図2(A)参照)を取得する。
次いで、ステップS12では、位置合わせ部13が、ステップS11において取得された被験者の脳の安静時機能的MRIデータと被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせを行う。
【0051】
次いで、ステップS13では、前処理部14が、ステップS11において取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの前処理を行う。
また、ステップS14では、灰白質マップ作成部15が、ステップS11において取得された被験者の脳の解剖学的MRI画像に基づいて、被験者の脳の灰白質マップを作成する。
【0052】
次いで、ステップS15では、パラメータ算出部16が、ステップS13において前処理が行われた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、パラメータを算出する。詳細には、エントロピー算出部16Aが、ステップS13において前処理が行われた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iを算出する。
次いで、ステップS16では、パラメータ分布算出部17が、ステップS15において算出されたパラメータ(スペクトルエントロピーPSE
i)の分布を算出する。詳細には、エントロピー分布算出部17Aが、ステップS15において算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布(
図4(A)および
図4(B)参照)を算出する。
次いで、ステップS17では、照合部18が、ステップS16において算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布を、照合用エントロピー分布と照合する。
次いで、ステップS18では、診断支援情報提示部19が、ステップS17における照合の結果に基づいて、被験者の医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。つまり、ステップS16において算出されたパラメータ(スペクトルエントロピーPSE
i)の分布に基づく情報が、医療診断を支援する情報として提示される。
【0053】
第1実施形態の診断支援システム1の一適用例では、診断支援システム1の外部において被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データと解剖学的MRI画像とが採取され、それらが、データ解析の入力として、診断支援システム1に入力される。次いで、被験者の脳の安静時機能的MRIデータと被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせが行われる。次いで、被験者の脳の灰白質ボクセルのエントロピー(安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
i)の計算が行われる。
この例では、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布として、テント上(被験者の脳の小脳より上部の領域)の全体又は特定部位での分布が求められる。
上述したように、エントロピーPSE
iの分布は年齢にも依存することから、この例では、定型発達および代表的な発達障害および精神疾患における分布形状が、年齢と紐付けられて予めデータベース化(またはモデル化)され、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2(
図1(B)参照)に予め格納されている。
この例では、求められた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号のスペクトルエントロピーPSE
iの分布が、照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル2に格納されている照合用エントロピー分布と照合され、診断の参考となる情報が、診断支援システム1から提示される。照合の精度を確保するために機械学習を応用する(つまり、診断支援情報提示部19の機械学習が予め行われる)。
【0054】
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)に代表される発達障害および統合失調症やうつ病などの精神疾患は神経基盤の詳細が未解明であり、通常のMRI検査では診断に役立つ情報は得られない。
本発明者等は脳の動的モデルに基づく考察から安静時の機能的MRIにエントロピー解析を適用する着想に至り、試行の結果、第1実施形態の診断支援システム1を用いることによって、ASDと定型発達(健常者)の間に明確な差を見出すことができた。第1実施形態の診断支援システム1と類似の手法は存在しない上、原理的に広範な発達障害および精神疾患に第1実施形態の診断支援システム1を応用できると考えられる。
つまり、第1実施形態の診断支援システム1によれば、原理的にASDのみならず広範な発達障害および精神・神経系疾患の診断支援システムを実現することができる。また、それによって治療効果の客観的な評価が可能になる。第1実施形態の診断支援システム1は、安静時機能的MRIの標準的な解析法として利用可能である。
【0055】
<第2実施形態>
以下、本発明の診断支援システム、診断支援方法およびプログラムの第2実施形態について説明する。
第2実施形態の診断支援システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の診断支援システム1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の診断支援システム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の診断支援システム1と同様の効果を奏することができる。
【0056】
図6は第2実施形態の診断支援システム1の一例などを示す図である。詳細には、
図6(A)は第2実施形態の診断支援システム1の一例を示しており、
図6(B)は
図6(A)に示す診断支援システム1の各構成要素間のデータなどの流れを示している。
図6に示す例では、
図1に示す例と同様に、診断支援システム1が、医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。
図6に示す例では、診断支援システム1が、安静時機能的MRIデータ取得部11と、解剖学的MRI画像取得部12と、位置合わせ部13と、前処理部14と、灰白質マップ作成部15と、パラメータ算出部16と、パラメータ分布算出部17と、照合部18と、診断支援情報提示部19と、機械学習部1Bとを備えている。
【0057】
図6に示す例では、
図1に示す例と同様に、パラメータ算出部16が、位置合わせ部13による、被験者の脳の安静時機能的MRIデータと被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせの結果と、灰白質マップ作成部15によって作成された被験者の脳の灰白質マップとに基づいて、安静時機能的MRIデータ取得部11によって取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データから、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データを抜き出す。
【0058】
図6に示す例では、
図1に示す例と同様に、パラメータ算出部16が、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、所定のパラメータを算出する。
図1に示す例では、パラメータ算出部16がエントロピー算出部16Aを備えているが、
図6に示す例では、パラメータ算出部16が平均スペクトル相関距離(Mean Spectral Correlation Distance;MSCD)算出部16Bを備えている。平均スペクトル相関距離算出部16Bは、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データと、被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データとに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離を算出する。
また、
図6に示す例では、パラメータ算出部16が、離散スペクトル算出部164と、絶対値算出部165とを備えている。
離散スペクトル算出部164は、
図1に示す離散スペクトル算出部161と同様に、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データS
i(
図2(B)参照)の離散スペクトルX
i(ω
k)(
図3参照)を算出する。詳細には、離散スペクトル算出部164は、離散スペクトル算出部161と同様に、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データS
i(
図2(B)参照)の(離散)フーリエ変換を行うことによって離散スペクトルX
i(ω
k)を算出する。
【0059】
図6に示す例では、絶対値算出部165が、離散スペクトル算出部164によって算出された離散スペクトルX
i(ω
k)の絶対値F
i(ω
k)を算出する。詳細には、絶対値算出部165は、離散スペクトル算出部164によって算出された離散スペクトルX
i(ω
k)と、下記の式とに基づいて、離散スペクトルX
i(ω
k)の振幅(絶対値)F
i(ω
k)を算出する。
【0060】
【0061】
図6に示す例では、平均スペクトル相関距離算出部16Bが、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値F
i(ω
k)と、被験者の脳の他の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データから算出される離散スペクトルの絶対値F
j(ω
k)と、被験者の脳の灰白質ボクセル(i番目の灰白質ボクセル)と被験者の脳の他の灰白質ボクセル(j番目の灰白質ボクセル)との間の物理的距離(ユークリッド距離)d
i,jとに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iを算出する。
詳細には、平均スペクトル相関距離算出部16Bは、絶対値算出部165によって算出された被験者の脳の灰白質ボクセル(i番目の灰白質ボクセル)に関する離散スペクトルの絶対値F
i(ω
k)と、被験者の脳の灰白質ボクセル(j番目の灰白質ボクセル)に関する離散スペクトルの絶対値F
j(ω
k)と、物理的距離d
i,jと、下記の式とに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iを算出する。下記の式において、Mは灰白質ボクセルの数を示している。平均スペクトル相関距離MSCD
iの単位は、物理的距離d
i,jの単位と同様である。つまり、物理的距離d
i,jが[mm]の単位で表される場合、平均スペクトル相関距離MSCD
iも[mm]の単位で表される。
【0062】
【0063】
図6に示す例では、パラメータ分布算出部17が、パラメータ算出部16によって算出されたパラメータの分布を算出する。パラメータ分布算出部17は平均スペクトル相関距離分布算出部17Bを備えている。平均スペクトル相関距離分布算出部17Bは、平均スペクトル相関距離算出部16Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
i(数5参照)の分布を算出する。
すなわち、平均スペクトル相関距離算出部16Bによって安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iが算出される灰白質ボクセルは、被験者の脳に複数存在する。そこで、平均スペクトル相関距離算出部16Bは、被験者の脳に存在する全ての灰白質ボクセルについて、安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iを算出する。更に、平均スペクトル相関距離分布算出部17Bは、平均スペクトル相関距離算出部16Bによって算出された安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの値(つまり、被験者の脳に存在する全ての灰白質ボクセルに対応する複数の値)の分布(ヒストグラム)を作成する。
【0064】
図7は平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって作成された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iのヒストグラム)の一例を示す図である。詳細には、
図7(A)は被験者が定型発達(TD)である場合における被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を示しており、
図7(B)は被験者が自閉スペクトラム症(ASD)である場合における被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を示している。
図7(A)および
図7(B)の横軸は平均スペクトル相関距離MSCD
iの値(単位はmm)を示しており、
図7(A)および
図7(B)の縦軸はその値を示す灰白質ボクセルの数(平均スペクトル相関距離算出部16Bによって安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iが算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの数)を示している。
図7(A)および
図7(B)に示す例では、縦軸がその値を示す灰白質ボクセルの数を示しているが、他の例では、縦軸がその値を示す灰白質ボクセルの割合、相対頻度、確率などであってもよい。
【0065】
図7(A)および
図7(B)に示すように、本発明者等は、鋭意研究において、自閉スペクトラム症(ASD)の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値MB(
図7(B)参照)が、定型発達(TD)の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離の分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値MA(
図7(A)参照)より小さくなることを見い出した。
【0066】
そこで、
図6に示す例では、照合部18が、平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を、照合用平均スペクトル相関距離分布と照合する。照合用平均スペクトル相関距離分布は、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3から照合部18に提供される。
図6に示す例では、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3が診断支援システム1の外部に設けられているが、他の例では、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3が診断支援システム1の内部に設けられていてもよい。
【0067】
定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)が、照合用平均スペクトル相関距離分布として、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3から照合部18に提供される例では、照合部18が、平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を、その平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)(照合用平均スペクトル相関距離分布)と照合する。
例えば平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布が、その平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)(照合用平均スペクトル相関距離分布)と一致する場合には、被験者が定型発達であると判別することができる。つまり、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が定型発達であるか否かを判別することができる。
【0068】
自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(B)参照)が、照合用平均スペクトル相関距離分布として、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3から照合部18に提供される例では、照合部18が、平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を、その平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(B)参照)(照合用平均スペクトル相関距離分布)と照合する。
例えば平均スペクトル相関距離分布算出部17Bによって算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布が、その平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(B)参照)(照合用平均スペクトル相関距離分布)と一致する場合には、被験者が自閉スペクトラム症であると判別することができる。つまり、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が自閉スペクトラム症であるか否かを判別することができる。
【0069】
他の例では、自閉スペクトラム症以外にも、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を含む発達障害全般、統合失調症やうつ病に代表される精神疾患、更にはアルツハイマー病などに起因する認知障害を呈する脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCDiの分布(図示せず)を照合用平均スペクトル相関距離分布として用い、照合部18による照合の結果を用いることによって、被験者が、これらの発達障害あるいは精神・神経系疾患のそれぞれに該当するか否かを判別することができる。
【0070】
図6に示す例では、照合部18による照合の結果の精度を確保できるように(つまり、被験者が自閉スペクトラム症であるか否かなどの判別の精度を確保できるように)、前処理部14による処理の最適化が行われる。
【0071】
また、
図6に示す例では、診断支援情報提示部19が、照合部18による、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布と、照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル3から照合部18に提供される照合用平均スペクトル相関距離分布(例えば定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)、自閉スペクトラム症の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(B)参照)など)との照合の結果に基づいて、被験者の医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。
つまり、診断支援情報提示部19は、パラメータ分布算出部17によって算出されたパラメータの分布に基づく情報を、医療診断支援情報として提示する。
例えば被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布のピークにおける平均スペクトル相関距離の値(
図7(A)および
図7(B)の横軸の値)が、定型発達の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)のピークにおける平均スペクトル相関距離の値MA(
図7(A)参照)よりも小さい場合に、診断支援情報提示部19は、被験者が自閉スペクトラム症の可能性がある旨の情報を提示してもよい。
【0072】
図6に示す例では、機械学習部1Bが、診断支援情報提示部19の機械学習を行う。
機械学習部1Bは、例えば定型発達であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)参照)と、自閉スペクトラム症であるか否かが既知の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(B)参照)とを教師データとして用いることによって、診断支援情報提示部19の機械学習を行ってもよい。
図6に示す例では、診断支援システム1が機械学習部1Bを備えているが、他の例(例えば診断支援システム1に備えられる診断支援情報提示部19が、機械学習部1Bによる機械学習の実行後の診断支援情報提示部19と同等の能力を予め有している例)では、診断支援システム1が機械学習部1Bを備えていなくてもよい。
【0073】
図8は第2実施形態の診断支援システム1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図8に示す例では、ステップS21において、
図5のステップS11と同様に、安静時機能的MRIデータ取得部11が、被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データ(
図2(B)参照)を取得する。また、解剖学的MRI画像取得部12が、被験者の脳の解剖学的MRI画像(
図2(A)参照)を取得する。
次いで、ステップS22では、位置合わせ部13が、ステップS21において取得された被験者の脳の安静時機能的MRIデータと被験者の脳の解剖学的MRI画像との位置合わせを行う。
【0074】
次いで、ステップS23では、前処理部14が、ステップS21において取得された被験者の脳の安静時機能的MRI信号時系列データの前処理を行う。
また、ステップS24では、灰白質マップ作成部15が、ステップS21において取得された被験者の脳の解剖学的MRI画像に基づいて、被験者の脳の灰白質マップを作成する。
【0075】
次いで、ステップS25では、パラメータ算出部16が、ステップS23において前処理が行われた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、パラメータを算出する。詳細には、平均スペクトル相関距離算出部16Bが、ステップS23において前処理が行われた被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号時系列データに基づいて、被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iを算出する。
次いで、ステップS26では、パラメータ分布算出部17が、ステップS25において算出されたパラメータ(平均スペクトル相関距離MSCD
i)の分布を算出する。詳細には、平均スペクトル相関距離分布算出部17Bが、ステップS25において算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布(
図7(A)および
図7(B)参照)を算出する。
次いで、ステップS27では、照合部18が、ステップS26において算出された被験者の脳の灰白質ボクセルの安静時機能的MRI信号の平均スペクトル相関距離MSCD
iの分布を、照合用平均スペクトル相関距離分布と照合する。
次いで、ステップS28では、診断支援情報提示部19が、ステップS27における照合の結果に基づいて、被験者の医療診断を支援する情報(医療診断支援情報)を提示する。つまり、ステップS26において算出されたパラメータ(平均スペクトル相関距離MSCD
i)の分布に基づく情報が、医療診断を支援する情報として提示される。
【0076】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0077】
なお、上述した実施形態における診断支援システム1が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0078】
1…診断支援システム、11…安静時機能的MRIデータ取得部、12…解剖学的MRI画像取得部、13…位置合わせ部、14…前処理部、15…灰白質マップ作成部、16…パラメータ算出部、16A…エントロピー算出部、161…離散スペクトル算出部、162…パワースペクトル算出部、163…規格化部、16B…平均スペクトル相関距離算出部、164…離散スペクトル算出部、165…絶対値算出部、17…パラメータ分布算出部、17A…エントロピー分布算出部、17B…平均スペクトル相関距離分布算出部、18…照合部、19…診断支援情報提示部、1A、1B…機械学習部、2…照合用エントロピー分布のデータベースまたはモデル、3…照合用平均スペクトル相関距離分布のデータベースまたはモデル