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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】植物養生システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230501BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20230501BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20230501BHJP
   A01H 4/00 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/12
A01G31/00 601A
A01H4/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020024129
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021126092
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520055892
【氏名又は名称】ヤマト電機資産管理株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】星 良和
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-172956(JP,A)
【文献】特表2012-517829(JP,A)
【文献】特開2006-246879(JP,A)
【文献】特開2019-180365(JP,A)
【文献】特開平02-156826(JP,A)
【文献】特開2019-154343(JP,A)
【文献】特開平03-043071(JP,A)
【文献】特開平02-124038(JP,A)
【文献】米国特許第06432698(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0008752(US,A1)
【文献】国際公開第2019/077623(WO,A1)
【文献】特開2020-010659(JP,A)
【文献】特開2017-118847(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104877906(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に植物体が収容されて養生される植物体養生部と、
前記植物体養生部の内部と連通するとともに、無菌状態の培養液を流通させる培養液供給流路と、
前記培養液供給流路を減圧させる減圧部と、を備え、
前記培養液供給流路の内部を前記減圧部によって減圧することにより無菌状態の培養液を前記培養液供給流路を介して前記植物体養生部内に流通させ、
前記培養液供給流路は、前記植物体養生部と連通する第一の開口と前記減圧部と連通する第二の開口との間の前記第一の開口に隣接する位置に配置され、前記第一の開口上に突出する凸部を有する、植物養生システム。
【請求項2】
前記凸部は、前記培養液供給流路から連通する前記植物体養生部へと無菌状態の培養液を流入させるガイド部材として作用する請求項1に記載の植物養生システム。
【請求項3】
培養液に対してろ過処理を行うことにより無菌状態の培養液を生成するろ過処理部をさらに備える請求項1または2に記載の植物養生システム。
【請求項4】
前記植物体養生部の内部への空気の流通を許容する空気供給部をさらに備える請求項1からのいずれか一つに記載の植物養生システム。
【請求項5】
前記植物体養生部が袋体である、請求項1からのいずれか一つに記載の植物養生システム。
【請求項6】
植物体が収容されて養生される植物体養生部に培養液を供給する培養液供給装置であって、
培養液を貯留し、前記植物体養生部と連通する培養液供給流路に培養液を供給する培養液供給部と、
前記培養液供給流路を減圧する減圧部と、を備え、
前記減圧部が前記培養液供給流路を減圧することにより前記培養液供給部から前記培養液供給流路に流入した培養液が前記植物体養生部に流通し、
培養液は、前記培養液供給部と前記培養液供給流路との間に配置され、培養液を無菌化する無菌化処理部材を介して前記培養液供給部から前記培養液供給流路に流入し、
前記培養液供給流路は、前記植物体養生部と連通する第一の開口と、前記減圧部と連通する第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口との間の前記第一の開口に隣接する位置に配置され、前記第一の開口上に突出する凸部を有する、培養液供給装置。
【請求項7】
無菌化処理部材が、ろ過処理により微生物を培養液から除去するフィルタである、請求項記載の培養液供給装置。
【請求項8】
前記培養液供給路が前記植物体養生部内に配置されている、請求項またはに記載の培養液供給装置。
【請求項9】
前記凸部は、前記培養液供給流路から連通する前記植物体養生部へと無菌状態の培養液を流入させるガイド部材として作用する請求項6から8のいずれか一つに記載の培養液供給装置
【請求項10】
その内部に植物体が収容されて養生される植物体養生部に前記植物体養生部と連通する培養液供給流路を介して無菌状態の培養液を供給する培養液供給方法であって、
前記培養液供給流路の内部を減圧することにより前記培養液供給流路に前記培養液を流入させ、該流入した前記培養液を前記植物体養生部に流通させ、
前記培養液供給流路は、前記植物体養生部と連通する第一の開口と、前記培養液供給流路を減圧する減圧部と連通する第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口との間の前記第一の開口に隣接する位置に配置されて前記第一の開口上に突出する凸部を有する、培養液供給方法。
【請求項11】
植物養生方法であって、
その内部に植物体が収容されている植物体養生部に前記植物体養生部と連通する培養液供給流路を介して無菌状態の培養液を供給し、
前記培養液が供給された植物体養生部内において植物を養生することを含み、
前記培養液は、前記培養液供給流路の内部を減圧することにより前記培養液供給流路に流入され、該流入した前記培養液は前記植物体養生部に流通され、
前記培養液供給流路は、前記植物体養生部と連通する第一の開口と、前記培養液を前記植物体養生部に流通させるときに前記培養液供給流路を減圧する減圧部と連通する第二の開口と、前記第一の開口と前記第二の開口との間の前記第一の開口に隣接する位置に配置されて前記第一の開口上に突出する凸部を有する、植物養生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無菌状態での植物養生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の大量生産を可能とする方法の一つとして、ガラス容器内で植物を無菌培養して生産する方法が知られている。このような方法として例えば、コチョウランなどに応用されているメリクロン培養が挙げられる。
【0003】
また、特許文献1~3においては、植物体を培地が入れられている袋体内に収容し、該袋体内にガスを供給して無菌培養する培養方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-118847号公報
【文献】特開平7-135869号公報
【文献】特開平11-75593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、より容易に無菌養生を行うことができる新規な植物養生システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述のとおり植物体の無菌培養が提案されており、この無菌培養において取扱いなどを容易としてスケールアップをしやすくする手法としては、例えば特許文献1~3に記載の袋体を用いての無菌培養が考えられる。しかしながら、特許文献1~3に記載の方法において予め設けられた配管を介して容器内に新たに供給されるのはガスのみであり、培養液については減少するたびに袋体を開封して再度供給しなければならない。そのため、特許文献1~3に記載の方法による場合にも手間がかかる。
【0007】
本発明は鋭意研究の結果、ガラス容器や袋体などの植物体養生部内に繋がる培養液供給流路内を減圧し、それにより該流路内に無菌状態の培養液を流通させて植物体養生部内に培養液を供給するように構成することで、より手間を省略できる植物養生システムを構築できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1] その内部に植物体が収容されて養生される植物体養生部と、
前記植物体養生部の内部と連通するとともに、無菌状態の培養液を流通させる培養液供給流路と、
前記培養液供給流路を減圧させる減圧部と、を備え、
前記培養液供給流路の内部を前記減圧部によって減圧することにより無菌状態の培養液を前記培養液供給流路を介して前記植物体養生部内に流通させる、植物養生システム。
[2] 前記培養液供給流路は、前記植物体養生部と連通する第一の開口と前記減圧部と連通する第2の開口との間から前記第一の開口上に突出する凸部を有する、[1]に記載の植物養生システム。
[3] 前記培養液供給流路において前記凸部が前記第一の開口に隣接する位置に配置されている、[2]に記載の植物養生システム。
[4] 前記培養液供給流路は、連通する前記植物体養生部へと無菌状態の培養液を流入させるガイド部材を有する[3]に記載の植物養生システム。
[5] 培養液に対してろ過処理を行うことにより無菌状態の培養液を生成するろ過処理部をさらに備える[1]から[4]のいずれか一つに記載の植物養生システム。
[6] 前記植物体養生部の内部への空気の流通を許容する空気供給部をさらに備える請求項1から5のいずれか一つに記載の植物養生システム。
[7] 前記植物体養生部が袋体である、[1]から[6]のいずれか一つに記載の植物養生システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より容易に無菌養生を行うことができる新規な植物養生システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の植物養生システムの概要を示す図である。
図2図1中の破線部200を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の植物養生システムは、その内部に植物体が収容されて養生される植物体養生部と、植物体養生部の内部と連通するとともに、無菌状態の培養液を流通させる培養液供給流路と、培養液供給流路を減圧させる減圧部と、を備える。培養液供給流路の内部を減圧部によって減圧することにより無菌状態の培養液を培養液供給流路から植物体養生部内に流通させる。
【0012】
本明細書において、植物体とは、植物の一部または全部をいう。植物体として、例えば、植物体の幼苗を含む、個体としての器官またはその前駆体を備えた実生や幼苗などの完全ないしおおよそ完全な植物体や、植物細胞、カルス、芽、多芽体、苗条原基、種子、胞子、原糸体、幼苗、花蕾、葉、茎、枝、根、茎頂、側芽、花芽、花粉、花糸、葯、子房、胚乳、胚乳及び胚などの個体の一部を挙げることができる。
【0013】
本明細書において、養生とは、植物体を人工的な環境下で生育または増殖させることを意味し、具体的には人工的な環境下で細胞の増殖、茎葉の増殖または伸長、芽の誘導または伸長などが確認できることを挙げることができる。養生を行うにあたり植物体の炭素源は後述の培養液由来のショ糖、または植物体培養部内の空気由来の二酸化炭素などとすることができ、特に限定されない。また、無菌養生とは、上記養生を菌類あるいは細菌類といった微生物等が実質的に存在しない環境下において行うことをいい、例えば、滅菌処理された容器または構造物内において無菌状態の培養液などを用いて植物体を養生することを挙げることができる。また、無菌状態の培養液とは、フィルタ処理、ガンマ線照射やUV処理、薬品による殺菌消毒などの処理が例えば行われた結果、上記微生物等を実質的に含まない状態にある培養液をいう(以下、単に無菌培養液ともいう)。
【0014】
以下、本実施形態の植物養生システムの構成について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本実施形態の植物養生システム100の概要を示す図である。また、図2図1中の破線部200を拡大した図である。
本実施形態の植物養生システム100は、植物体養生部101と、培養液供給部103と、無菌ろ過処理部105と、培養液供給流路107と、減圧部109と、空気供給部121とを備える。図1、2において、破線の矢印は、培養液の流れを示している。
【0015】
植物体養生部101は、その内部に植物体が収容されて養生される。植物体養生部101は、その内部に植物体を収容できるとともに無菌養生が可能である限り、特に限定されない。例えば植物体養生部101は、密閉された容器や、無菌状態にある構造物によって構成することができる。
このような容器や構造物としては、例えばガラス容器や、オートクレーブ処理などの滅菌処理を行うことが可能な素材で形成されている袋体などを挙げることができる。
また、本実施形態に係る植物体養生部101は、植物の種類などにもよるが、例えば植物体の培養に必要な光の波長域に対して透過性を有するものとすることが好ましい。
【0016】
培養液供給部103は、植物体の養分を含む液体である培養液を貯留し、連通する無菌化ろ過処理部105に、植物体の養分を含む液体である培養液を供給する。
本実施形態に係る培養液は、特に限定されないが、例えば、炭素源を含む培養液とすることができる。炭素源とは、植物が培養液から吸収し資化できる炭素源(二酸化炭素を除く)を意味する。炭素源として、具体的には、スクロース、グルコース、フルクトースなどの糖や低分子化したでんぷんやセルロースおよび核酸物質、脂質、蛋白質等の炭水化物を挙げることができる。
【0017】
また、本実施形態においては炭素源を含まない培養液を用いることもできる。炭素源を含まない培養液としては、上記炭素源を実質的に含まない一方で窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの多量元素や、鉄、ホウ素、亜鉛、マンガン、ヨウ素、モリブデン、銅、コバルトなどの微量元素等の無機成分を含む培養液を用いることができる。さらに、当該培養液は、グリシン、ニコチン酸、ピリドキシン塩酸、チアミン塩酸、イノシトールなどのビタミン類やアミノ酸等の有機成分や、植物成長調節物質を含んでいてもよい。
【0018】
具体的な培養液の例としては、例えば、MS培地(Murashige and Skoog、1962、Physiol.Plant, 15 : 473-487)、LS培地(Linsmaier and Skoog、1965)、B5培地(Gamborg et al.、1968)、R2培地(Ohira et al.、1973)、N6培地(Chu et al.、1975)、Woody Plant培地(Lloyd and McCown、1981)、Vacin & Went培地(Vacin and Went、1949)などを基に構成された培養液を挙げることができ、これらを基に炭素源を含まないように構成された培養液が好ましい。
培養液における各成分の濃度などは培養される植物の種類などに応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
【0019】
無菌ろ過処理部105は、培養液供給部103から供給される培養液に対してろ過処理を行うことにより微生物等を培養液から除去して無菌培養液を生成する。
無菌ろ過処理部105は、特に限定されないが、例えば、微生物等を除去可能なメンブレンフィルターなどの除菌用フィルタを用いて構成することができる。当該除菌用フィルタとして、具体的にはミリポア(登録商標)フィルターやマイレクス(登録商標)フィルターなど市販の除菌用フィルタを挙げることができ、特に限定されない。
得られた無菌培養液は、連通する培養液供給流路107に供給される。
【0020】
培養液供給流路107は、一方の端部において無菌ろ過処理部105と連通しており、無菌ろ過処理部105から供給された無菌培養液をその内部で流通させる。また、培養液供給流路107は、開口111を備えており、該開口111を介して植物体養生部101と連通している。培養液供給流路107内を流通する無菌培養液は、該開口111から植物体養生部101内に流入する。
また、培養液供給流路107の他方の端部においては、開口115を介して減圧部109と繋がっている。
さらに、培養液供給流路107は、開口111と開口115の間の開口111と隣接する位置から開口111上に突出する凸部113を有する。
培養液供給流路107は、例えば、オートクレーブ処理などの滅菌処理への適用性、耐液体性、耐圧性などを考慮して流路を形成可能な素材を用いて構成することができ、特に限定されない。具体的には、プラスチック、鉄、アルミ、合金、セラミック、ガラス、石、難溶解性のパルプ、またはゴムなどで形成されているチューブを用いて培養液供給流路107を構成することができる。また、培養液供給流路107の大きさや開口111の大きさなども植物体養生部101の大きさなどに応じて適宜設定でき、特に限定されない。
例えば、培養液供給流路107の内径:0.1mm~10cm(好ましくは1~30mm)、開口111の大きさ:0.01~500m2(好ましくは1~100 m2)とすることができる。
凸部113も、後述のとおり開口111を介して無菌培養液を植物体養生部111内に流入させることができる限りその大きさや形状は特に限定されない。例えば、開口111と重なる面が半円形や四角形である半円柱状や四角柱状とすることができる。また、大きさについても、凸部113が有する開口111と重なる面について、大きさを0.01~500m2(好ましくは1~100 m2)とすることを例示できる。
さらに、開口111の数も特に限定されず、本実施形態では一つ設けているが、複数(例えば2~10個)設けられていてもよく、1~5個が好ましい。
【0021】
減圧部109は、例えば真空ポンプで構成することができ、培養液供給流路107の内部を減圧させる。減圧部109が作動するとき、減圧部109は培養液供給流路107内の空気を吸引し、これにより培養液が培養液供給流路107内に流入してその内部を移動する。
開口111に到達した際、開口111から培養液が植物体養生部101内に流入する。また、凸部113の作用によって無菌培養液の通路移動が物理的に抑制されるので、より効率的に無菌培養液が植物体養生部101内に供給される。なお、減圧部109を作動させたときの減圧の程度については特に限定されず、例えば培養液供給流路107や植物体養生部101を構成する素材などに応じて適宜設定すればよい。例えば、絶対圧で100,000~0.1Pa(好ましくは10~10000pa)とすることを例示できる。
なお、本実施形態においては、液滴などからの減圧部109(真空ポンプ)保護の観点から、フィルタ131とトラップ133を培養液供給流路107と植物体養生部101との間に配置している。一方で、これらフィルタ131やトラップ133を設けなくともよく、特に限定されない。
【0022】
また、本実施形態の植物養生システム100においては、特に限定されないが、植物体養生部101に、空気供給部121を有するようにすることができる。当該空気供給部121から必要に応じて植物体養生部101内に除菌処理されるなどして無菌状態の空気を導入することで、植物体養生部101を例えば袋体で構成したときなどに形状維持などをより容易とすることができる。なお、特に限定されないが、空気供給部121は、例えば、無菌ろ過処理部105と同様の除菌用フィルタと植物体養生部101に設けた開口とにより構成することができる。
【0023】
続いて、本実施形態の植物養生システム100における、植物体養生部101内に無菌培養液を供給するときのフローの一例を説明する。
【0024】
まず、減圧部109を作動させ、培養液供給流路107内を減圧させる。
【0025】
次に、培養液供給流路107が減圧されたことにより、培養液供給部103から培養液供給流路107に供給される。このとき、培養液は無菌ろ過処理部105を通過するため、微生物等が除去され、培養液供給流路107には無菌培養液が供給される。
培養液供給流路107に供給された無菌培養液は、開口111から植物体養生部101内に流入する。このとき上述の凸部113の作用により、無菌培養液はより効率的に植物体養生部101内に流入する。よって、凸部113は、連通する植物体養生部101へと無菌状態の培養液を導入させるガイド部材、ということもできる。
【0026】
培養液供給流路107に培養液を供給してから所定時間経過後、例えば培養される植物体に適した量の培養液が植物体養生部101に流入した時点で、減圧部109の作動を終了させ、培養液の植物体養生部101への流入を停止させる。
なお、減圧部109の作動中または作動終了後に必要に応じ、空気供給部121から植物体養生部101内に無菌状態にある空気を導入してもよい。
【0027】
培養液の量などは、培養される植物体の種類や生育段階などに応じて適宜変更でき、特に限定されない。
また、培養液を導入するにあたっては、減圧部109により植物体養生部101を減圧するとともに無菌ろ過処理部105に供される培養液に対して加圧するようにしてもよい。培養液を加圧するときの圧力は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0028】
なお、本実施形態の植物養生システム100において光条件や植物体養生部101内における二酸化炭素濃度などの条件も特に限定されず、当業者が植物体の種類や生育段階などに応じて適宜設定できる。
【0029】
以上、本実施形態によれば、植物体養生部101の開封などを行うことなく植物の養生を継続した状態で無菌培養液を植物体養生部101内に供給することができる。そのため、より容易に無菌養生を行うことができる。
【0030】
なお、本発明の実施形態の一つについて説明したが、本発明は他の実施形態とすることもできる。
例えば、本実施形態では培養液を無菌ろ過処理部105に供しフィルタによる無菌処理を行って培養液供給流路107に供給しているが、他の態様とすることもできる。例えば、ガンマ線照射やUV処理、薬品による殺菌消毒などで無菌処理するようにしてもよく、2つ以上の無菌処理が行われるようにしてもよい。また、無菌ろ過処理部105を設けない態様としてもよい。すなわち、予め無菌処理された培養液を培養液供給流路107に供給する態様とすることもできる。
【0031】
また、本実施形態では、減圧部109と連通する開口115を植物体養生部101と連通する開口111とは別に培養液供給流路107に設ける態様としているが他の態様とすることもできる。例えば減圧部109と植物体養生部101とを繋げる開口を植物体養生部101に設け、植物体養生部101を介して培養液供給流路107内を減圧するようにしてもよい。一方で植物培養部101を袋体などとした場合に減圧部109を作動させたときに植物培養部101の形状の維持がより容易であるため、減圧部109は本実施形態のように、植物培養部101を介することなく培養液供給流路107と繋がっていることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態において凸部113は開口111と開口115の間の開口111と隣接する位置に設けられているが、これに限定されるものでなく、開口111と離れた位置に設けてられていてもよい。
【0033】
また、一の植物体養生部101に対し、培養液供給流路107が複数設けられ、それぞれから無菌培養液が一の植物体養生部101内に供給されるようにしてもよい。
また、一の植物体養生部101に対し、空気供給部121も2以上(例えば1~1000個、好ましくは1~20個)設けられていてもよい。一方、空気供給部121は設けられなくともよい。
【実施例
【0034】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
厚さ1mm、内径4mmのプラスチック製チューブ(培養液供給流路)、0.22μmの除菌用フィルタ(無菌ろ過処理部)、袋体(植物体養生部)を用いて図1と同等の装置を試作した。袋体内部には植物(オオミズゴケの新芽(枝部および葉部を含む植物体全体))を収容した。高温高圧滅菌をしていないショ糖3%を含むムラシゲスクーグ液体培地を除菌用フィルタに繋げた2000mlの耐圧プラスチック容器に入れ、上部から加圧した。加圧と同時に減圧を行い、除菌用フィルタを通じてプラスチック製チューブ内に無菌培養液を導入した。
【0035】
プラスチック製チューブの袋内内部に収容されている部分には袋体内部と連通する長さ3mm、幅1.5mmの開口を設けた。また、開口と隣接する位置には、開口に重なる面が長さ3mm、幅1.5mmの四角形であり、厚さ1mmである直方体状の凸部を設けた。
【0036】
導入した無菌培養液は全て袋体内部に移動した。袋体に入った培養液は、温度25℃、光50ppfdの条件で、3カ月以上たっても菌あるいは細菌の増殖は認められなかった。その一方で袋体内部の植物は成長・増殖を続けた。
【符号の説明】
【0037】
100:植物養生システム、101:植物体養生部、105:無菌ろ過処理部、107:培養液供給流路、109:減圧部、111:植物体養生部と連通する開口、113:凸部、115:減圧部と連通する開口、121:空気供給部
図1
図2