(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】流量制御装置および流量制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2020501733
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005638
(87)【国際公開番号】W WO2019163676
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018032604
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】安本 直史
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】小川 慎也
(72)【発明者】
【氏名】井手口 圭佑
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-310773(JP,A)
【文献】特許第4197648(JP,B2)
【文献】特開2017-215726(JP,A)
【文献】特開2009-265988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられたコントロール弁と、前記コントロール弁によって制御された流体の流量を測定する流量測定部と、制御器とを備え、
前記制御器は、前記流量測定部から出力された信号に基づく測定積分流量と目標積分流量とが一致するように、前記コントロール弁の開閉動作を制御
するように構成されており、
前記測定積分流量は、前記流量測定部から出力された信号から求められる演算積分流量と、前記コントロール弁を閉止した後の流量立ち下げ期間における既知積分流量とを含む、流量制御装置。
【請求項2】
前記流量測定部は、所定期間ごとに流量値を出力するように構成されており、
前記制御器は、
前記流量測定部から出力された流量値に基づいて、前記所定期間の積分流量の総和に対応する演算積分流量を算出する算出部と、
前記目標積分流量から
前記既知積分流量を減算した値と、前記算出部で算出された前記演算積分流量との差を求める比較部と、
前記比較部で求められた前記差が所定範囲内になった時に前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部と
を含む、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記流量測定部は、所定期間ごとに流量値を出力するように構成されており、
前記制御器は、
前記流量測定部から出力された流量値に基づいて、前記所定期間の積分流量の総和に対応する演算積分流量を算出し、前記演算積分流量と前記既知積分流量とを加算して前記測定積分流量を算出する算出部と、
前記目標積分流量と前記測定積分流量との差を求める比較部と、
前記比較部で求められた前記差が所定範囲内になった時に前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部と
を含む、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、
入力された設定流量信号と前記流量測定部から出力された信号との差の総和である積分流量差を算出する差分算出部と、
前記差分算出部の出力が所定値または所定範囲内に収束したか否かを判定する判定部と、
前記差分算出部の出力が収束したと前記判定部が判定したときに前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部と
を含む、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記目標積分流量から前記既知積分流量を減じた値に前記演算積分流量が達したタイミングで、前記コントロール弁の閉止を開始するように構成されている、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記流量測定部は、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する圧力センサとを備え、前記圧力センサの出力に基づいて前記絞り部の下流側の流量を測定する、
請求項1から5のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記コントロール弁の閉止は、一次遅れ制御によって行われる、
請求項1から6のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記コントロール弁は、ノーマルクローズ型の圧電素子駆動式バルブである、
請求項1から7のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記制御器には、設定流量信号として矩形波の連続パルス信号が入力される、
請求項1から8のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項10】
前記制御器は、流量立ち上げ期間において、設定流量信号に基づく内部指令信号としてのランプ制御信号と前記流量測定部から出力された信号との差の総和である積分流量差を算出する差分算出部を有し、前記差分算出部の出力に基づき、前記ランプ制御信号における傾きを途中で変化させる、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項11】
前記ランプ制御信号の傾きを、500msecで100%流量に達するときの傾きである第1の傾きから、300msecで100%流量に達するときの傾きである第2の傾きに変化させる、
請求項10に記載の流量制御装置。
【請求項12】
流路に設けられたコントロール弁と、前記コントロール弁によって制御された流体の流量を測定する流量測定部と、制御器とを備え、
前記制御器は、前記流量測定部から出力された信号に基づく測定積分流量と目標積分流量とが一致するように、前記コントロール弁の開閉動作を制御するように構成されており、
前記流量測定部は、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する圧力センサとを備え、前記圧力センサの出力に基づいて前記絞り部の下流側の流量を測定する、流量制御装置。
【請求項13】
流路に設けられたコントロール弁と、前記コントロール弁によって制御された流体の流量を測定する流量測定部とを備えた流量制御装置の流量制御方法であって、
前記流量測定部は、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する圧力センサとを備え、前記圧力センサの出力に基づいて前記絞り部の下流側の流量を測定するように構成されており、
目標積分流量から前記コントロール弁を閉止した後の流量立ち下げ期間における既知積分流量を減じた値に前記流量測定部から出力された信号から求められる演算積分流量が達したタイミングで、前記コントロール弁の閉止を開始する工程を含む、流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置および流量制御方法に関し、特に、半導体製造装置や化学プラント等において利用される流量制御装置および流量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、原料ガスやエッチングガス等の流体の流れを制御するために、種々のタイプの流量制御装置が利用されている。このような流量制御装置では、各種流体の流量を高精度に制御するために、流量測定部によって測定された流量と設定流量との偏差を解消するようにコントロール弁が制御される。圧力式流量制御装置は、例えば、流量測定部としての絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)と圧力センサとを組み合せた機構を有しており、各種流体の流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。圧力式流量制御装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
圧力式流量制御装置のコントロール弁としては、ダイヤフラム弁体をピエゾアクチュエータによって開閉させる圧電素子駆動式バルブが用いられている。圧電素子駆動式バルブは、例えば、特許文献2に開示されている。
【0004】
近年、圧力式流量制御装置は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)プロセスなどへの適用が求められており、このような用途では、高速な(周期が非常に短い)パルス状の設定流量信号にしたがってコントロール弁を開閉させて、流量の制御を行うことが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-138425号公報
【文献】特開2007-192269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルス的な流量制御を行う用途では、従来よりも高速な弁の開閉動作が求められる。しかしながら、本願発明者は、従来の流量制御装置では、弁開閉の応答速度を高めることにも限界があり、パルス的な流量制御を好適に行えない場合があることを見出した。
【0007】
特に、コントロール弁として圧電素子駆動式バルブを用いる場合、弁の開閉は、圧電素子への印加電圧の制御によって行われるが、立上り、立下り期間に設定流量と実際の流量に差が生じるため、パルス状の設定流量信号に従って圧電素子への印加電圧を制御しただけでは、所望のガス供給を行えない場合があった。また、コントロール弁の応答性は装置ごとにばらつきがあり、従来の方式では、装置によっては、安定したパルス流量制御が行えないおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、パルス流量制御を行う場合などにも、好適に流量制御を行うことが可能な流量制御装置および流量制御方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による流量制御装置は、流路に設けられたコントロール弁と、前記コントロール弁によって制御された流体の流量を測定する流量測定部と、制御器とを備え、前記制御器は、前記流量測定部から出力された信号に基づく測定積分流量と目標積分流量とが一致するように前記コントロール弁の開閉動作を制御するように構成されている。目標積分流量は、例えば、入力された設定流量信号に基づいて決定される。
【0010】
ある実施形態において、前記制御器は、前記流量測定部から出力された信号に基づいて前記測定積分流量を算出する算出部と、前記算出部で算出した前記測定積分流量と前記目標積分流量との差を求める比較部と、前記比較部で求められた前記差が所定範囲内になった時に前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部とを含む。
【0011】
ある実施形態において、前記算出部は、経過時間ごとに前記流量測定部から出力される信号に基づく流量から算出される積分流量を合計して前記測定積分流量を算出する。
【0012】
ある実施形態において、前記流量測定部は、所定期間ごとに流量値を出力するように構成されており、前記制御器は、前記流量測定部から出力された流量値に基づいて、前記所定期間の積分流量の総和に対応する演算積分流量を算出する算出部と、前記目標積分流量から既知積分流量を減算した値と、前記算出部で算出された前記演算積分流量との差を求める比較部と、前記比較部で求められた前記差が所定範囲内になった時に前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部とを含む。
【0013】
ある実施形態において、前記制御器は、入力された設定流量信号と前記流量測定部から出力された信号との差の総和である積分流量差を算出する差分算出部と、前記差分算出部の出力が所定値または所定範囲内に収束したか否かを判定する判定部と、前記差分算出部の出力が収束したと前記判定部が判定したときに前記コントロール弁の閉動作を開始する弁動作制御部とを含む。
【0014】
ある実施形態において、前記測定積分流量は、前記流量測定部から出力された信号から求められる演算積分流量と、前記コントロール弁を閉止した後の流量立ち下げ期間における既知積分流量とを含み、前記制御器は、前記目標積分流量から前記既知積分流量を減じた値に前記演算積分流量が達したタイミングで、前記コントロール弁の閉止を開始するように構成されている。
【0015】
ある実施形態において、前記流量測定部は、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する圧力センサとを備え、前記圧力センサの出力に基づいて前記絞り部の下流側の流量を測定するように構成されている。
【0016】
ある実施形態において、前記コントロール弁の閉止の動作は、一次遅れ制御によって行われる。
【0017】
ある実施形態において、前記コントロール弁は、ノーマルクローズ型の圧電素子駆動式バルブである。
【0018】
ある実施形態において、前記制御器には、設定流量信号として矩形波の連続パルス信号が入力される。
【0019】
ある実施形態において、前記制御器は、流量立ち上げ期間において、設定流量信号に基づく内部指令信号としてのランプ制御信号と前記流量測定部から出力された信号との差の総和である積分流量差を算出する差分算出部を有し、前記差分算出部の出力に基づき、前記ランプ制御信号における傾きを途中で変化させる
。
【0020】
ある実施形態において、前記ランプ制御信号の傾きを、500msecで100%流量に達するときの傾きである第1の傾きから、300msecで100%流量に達するときの傾きである第2の傾きに変化させる。
【0021】
本発明の実施形態による流量制御方法は、流路に設けられたコントロール弁と、前記コントロール弁によって制御された流体の流量を測定する流量測定部とを備えた流量制御装置を用いて行われ、目標積分流量から前記コントロール弁を閉止した後の流量立ち下げ期間における既知積分流量を減じた値に前記流量測定部から出力された信号から求められる演算積分流量が達したタイミングで、前記コントロール弁の閉止を開始する工程を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明の実施形態によれば、パルス的な流量制御を行うときにも、適切にガス供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態による圧力式流量制御装置の構成を示す模式図である。
【
図2】設定流量信号と制御流量信号とを示す図である。
【
図3】(a)は設定流量信号と、制御流量信号とのずれを説明するための図であり、(b)は、圧電素子駆動式バルブの駆動電圧と、ピエゾアクチュエータの変位(ストローク)との関係を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態におけるパルス流量制御の動作を説明するための図である。
【
図5】
図4に示した信号を説明するための図であり、(a)は設定流量信号に基づく目標積分流量を示し、(b)は演算積分流量および既知積分流量を示す。
【
図6】本発明の実施形態におけるパルス流量制御の動作を行う制御器の例示的な構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態におけるパルス流量制御の動作を行う例示的な制御フロー示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態におけるパルス流量制御の動作を行う制御器の例示的な構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の別の実施形態におけるパルス流量制御の動作を説明するための図である。
【
図10】流量立下げ時の一次遅れ制御を説明するための図である。
【
図11】本発明の実施形態におけるパルス流量制御の動作を行う制御器の例示的な構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の別の実施形態における流量立ち上げ期間における流量制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態による流量制御装置100の構成を示す図である。流量制御装置100は、圧力式流量制御装置であり、ガス供給装置から供給されたガスGの流路1に設けられた絞り部2と、絞り部2の上流側に設けられた上流圧力センサ3および温度センサ5と、絞り部2の下流側に設けられた下流圧力センサ4と、上流圧力センサ3の上流側に設けられたコントロール弁6とを備えている。
【0026】
上流圧力センサ3は、コントロール弁6と絞り部2との間の流体圧力である上流圧力P1を測定することができ、下流圧力センサ4は、絞り部2と下流弁9との間の流体圧力である下流圧力P2を測定することができる。
【0027】
流量制御装置100はまた、上流圧力センサ3および下流圧力センサ4の出力などに基づいてコントロール弁6の開閉動作を制御する制御器7を備えている。制御器7は、外部制御装置12から受け取った設定流量と、上流圧力センサ3および下流圧力センサ4の出力から演算により求めた演算流量とを比較し、演算流量が設定流量に近づくようにコントロール弁6を制御するように構成されている。
【0028】
流量制御装置100は、図示する態様とは異なり、下流圧力センサ4を備えていなくてもよい。この場合、制御器7は、上流圧力センサ3の出力に基づいて流量を演算するように構成される。また、制御器7は、ある態様において、温度センサ5が検出した流体温度に基づいて、演算流量を補正するように構成されている。
【0029】
流量制御装置100は、コントロール弁6の上流側に、ガス供給圧を測定するための流入圧力センサ(図示せず)を備えていてもよい。流入圧力センサは、接続されたガス供給装置(例えば原料気化器やガス供給源等)から供給されるガスの圧力を測定することができ、ガス供給量またはガス供給圧を制御するために用いることができる。なお、ガス供給装置から供給されるガスは、材料ガス、エッチングガスまたはキャリアガスなどの種々のガスであって良い。
【0030】
絞り部2としては、例えばオリフィスプレートを用いることができる。なお、「絞り部」とは、流路の断面積を、前後の流路断面積より小さく形成した部分であり、例えば、オリフィスプレートや臨界ノズル、音速ノズルなどを用いて構成されるが、他のものを用いてもよい。オリフィスまたはノズルの口径は、例えば10μm~500μmに設定される。
【0031】
下流弁9としては、例えば、電磁弁によって圧縮空気の供給が制御される公知の空気駆動弁(Air Operated Valve)等を用いることができる。また、オリフィス部材の近傍に開閉弁を配置したオリフィス内蔵弁が従来より知られており、オリフィス内蔵弁を、絞り部2および下流弁9を一体化したものとして流量制御装置100に組み込むこともできる。
【0032】
流量制御装置100を含む流体供給系において、絞り部2の下流側は、下流弁9を介して半導体製造装置のプロセスチャンバ10に接続されている。プロセスチャンバ10には真空ポンプ11が接続されており、典型的には、ガス供給時にプロセスチャンバ10の内部が真空ポンプ11によって真空引きされる。
【0033】
以上に説明した流量制御装置100は、臨界膨張条件P1/P2≧約2(アルゴンガスの場合)を満たすとき、流量は上流圧力P1によって決まるという原理を利用して流量制御を行うことができる。臨界膨張条件を満たすとき、絞り部2の下流側の流量Qは、Q=K1・P1(ここでK1は流体の種類と流体温度に依存する定数)によって与えられ、流量Qは上流圧力P1に比例する。また、下流圧力センサ4を備える場合、上流圧力P1と下流圧力P2との差が小さく、上記の臨界膨張条件を満足しない場合であっても流量を算出することができ、上流圧力センサ3および下流圧力センサ4によって測定された上流圧力P1および下流圧力P2に基づいて、Q=K2・P2
m(P1-P2)n(ここでK2は流体の種類と流体温度に依存する定数、m、nは実際の流量を元に導出される指数)から流量Qを求めることができる。
【0034】
流量制御を行うために、外部制御装置12から制御器7に設定流量信号が送られる。制御器7は、上流圧力センサ3の出力などに基づいて、臨界膨張条件または非臨界膨張条件における流量計算式を用いて流量を上記のQ=K1・P1またはQ=K2・P2
m(P1-P2)nから演算し、絞り部2を通過する流体の流量が設定流量に近づくように(すなわち、演算流量と設定流量との差が0に近づくように)、コントロール弁6をフィードバック制御する。演算流量は、外部制御装置12に出力され流量出力値として表示される。
【0035】
制御器7は、典型的には流量制御装置100に内蔵されたものであるが、流量制御装置100の外部に設けられたものであってもよい。制御器7は、典型的には、CPU、ROMやRAMなどのメモリ(記憶装置)M、A/Dコンバータ等によって構成されており、後述する流量制御動作を実行するためのコンピュータプログラムを含んでいてよい。制御器7は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現される。制御器7は、コンピュータ等の外部装置と情報を交換するためのインターフェイスを備えており、外部装置からROMへのプログラム及びデータの書込みなどを行うことができる。制御器7の構成要素のうちのCPUなどの一部の構成要素は装置外に配置されていてもよく、装置内と装置外とは有線または無線で相互接続され得る。
【0036】
以下、流量制御装置100において行うパルス流量制御の態様を説明する。
【0037】
図2は、パルス流量制御を行うときの、設定流量信号Ssと、測定流量を示す制御流量信号Srとを示すグラフである。設定流量信号Ssは、外部から流量制御装置100に入力される制御信号であり、制御流量信号Srは、上流圧力P
1に基づいてコントロール弁6をフィードバック制御する従来の動作を設定流量信号Ssに従って行ったときの制御された流量を示す信号である。制御流量信号Srは、流量測定部として設けられた上流圧力センサ3によって測定された上流圧力P
1から演算により求められる演算流量の推移に対応し、例えば、流量出力信号として流量制御装置100の制御器7から出力されるものである。
【0038】
図2からわかるように、設定流量信号Ssとして矩形波の連続パルス信号(例えば、パルス幅0.1秒~60秒)が入力されるのに対し、制御流量信号Srの立上がりは、ある程度の時間をかけて上昇している。これは、フィードバック制御が行われるため、設定流量に対応する開度までコントロール弁6を瞬時に開放することは困難だからである。また、応答性をより高めようとすると、オーバーシュートが発生してしまうという問題がある。このため、実際には
図2に示すような曲線的な立上がり動作となる。
【0039】
また、流量立下り時においても、瞬時に流量が0に低下するわけではなく、ある程度の時間をかけて低下する。これは、圧力式流量制御装置では、コントロール弁6の下流側の絞り部2を介してガスが流れるので、コントロール弁6を閉じた後にも、コントロール弁6と絞り部2との間の残留ガスが流れ出るからである。
【0040】
このため、圧力式流量制御装置では、設定流量信号Ssが入力されたとしても、実際には制御流量信号Srが示すように流量制御が行われる。また、同じ設定流量信号Ssが入力されたとしても、流量制御装置の個体差(具体的には、圧電素子の駆動状態やバルブの応答特性の違いなど)によって、制御流量信号Srは異なるものになることが分かっている。
【0041】
さらに、特にコントロール弁6としてノーマルクローズ型の圧電素子駆動式バルブを用いる場合には、流量0%からの立ち上がり時において、開弁動作にディレイが生じるという問題がある。
【0042】
図3(a)は、設定流量信号Ssと、制御流量信号Srとのずれを示し、
図3(b)は、ピエゾアクチュエータの駆動電圧と、ピエゾアクチュエータの変位(またはストロークと呼ぶことがある)との関係を示す。ピエゾアクチュエータの変位は、バルブの開閉度に対応している。
【0043】
図3(a)からわかるように、圧電素子駆動式バルブにおいては、設定流量信号Ssの立上がり時刻t
0の後の時刻t
0’においてバルブが開き、遅延時間Δtが発生する。このような遅延時間Δtが発生する原因は、ノーマルクローズ型のバルブにおいては閉状態の電圧無印加時に弁体が弁座に押し付けられているために、電圧を印加してから即座には弁体が移動せず、ある程度の大きさの電圧が印加されてから移動するからである。特に小さい電圧を印加したときには、圧電素子を伸縮させる方向に働く力の方が大きいために、圧電素子がほとんど伸長しないこともある。さらに、ピエゾアクチュエータと弁体とは、種々の機械的機構を介して接続されているため、機械的機構の遊びによって応答性が低下する場合もある。
【0044】
また、
図3(b)に示すように、ノーマルクローズ型の圧電素子駆動式バルブにおいて、印加電圧を増加させるときの昇圧時と、印加電圧を減少させるときの降圧時とでは、駆動電圧とピエゾアクチュエータの変位との関係が異なる。そして、電圧無印加時から比較的小さい電圧を印加するまでの間は、ピエゾアクチュエータの変位が小さく、所望の開度にまで即座に弁を開く制御が容易ではないことがわかる。
【0045】
以上の説明からわかるように、設定流量信号Ssと完全に一致するように、バルブの開閉動作を制御することは非常に困難である。そして、パルス流量制御を行う場合には、流量立上げ期間および流量立下げ期間における設定流量信号Ssと制御流量信号Srとのずれが頻繁に生じるので、所望のガス量、すなわち、所望の積分流量を供給することが困難になる。また、ALDなどのパルスガス供給が求められる用途では、流量の大きさの制御だけでなく、1パルスあたりの積分流量の制御を行うことも重要である。なお、ここで述べている積分流量とは、特定の流量で特定の時間だけガスを供給した時に供給される全流量(体積)値の事である。
【0046】
そこで、本実施形態の流量制御装置100では、流量測定部から出力された信号(ここでは上流圧力センサ3から出力された圧力に基づいて算出される流量の信号)に基づいて、測定積分流量(すなわち、実際に供給されるガスの体積)を求めるようにしている。そして、測定積分流量が、入力された設定流量信号Ssに基づく目標積分流量と一致するように、コントロール弁6の開閉動作を制御するようにしている。これによって、供給されるガス量(体積)を、設定流量信号Ssに従うガス量(体積)と同等のものとし、適切にガス供給を行うことを可能にしている。
【0047】
すなわち、本願発明の実施形態では、パルス状の設定流量信号Ssによって決められた立上がり時刻t0および立下り時刻t1と実際に供給する際の立上がり時刻t0’および立下り時刻t1’とはずれているが、設定時刻通りにバルブを開閉することよりも、パルス供給(パルス波形)によって供給される予定のガス体積(積分流量)を重要視して、所望の積分流量を供給できるようにバルブの開閉制御を行うようにしている。
【0048】
以下、本実施形態における具体的なパルス流量制御動作を説明する。
【0049】
図4および
図5は、入力された設定流量信号Ssと、本実施形態における制御流量信号Srとを示す図である。
図4からわかるように、本実施形態では、設定流量信号Ssが入力されてから遅延時間Δtだけ遅れて流量立上げが開始されたときにも、閉弁開始のタイミングを設定流量信号Ssの立下げ時刻t
1から遅れさせることによって、測定積算流量が設定流量信号Ssに従うものとなるように制御している。
【0050】
このような動作を行うために、まず、設定流量信号Ssに基づいて目標積分流量Vsが求められる。
図5(a)に示すように、目標積分流量Vsは、Vs=Q
0×(t
1-t
0)により求めることができる。ここで、Q
0は設定流量であり、t
0は設定流量信号Ssにおけるバルブ開放開始時刻であり、t
1は設定流量信号Ssにおけるバルブ閉止開始時刻である。ただし、目標積分流量Vsは、予め与えられたものであってもよい。
【0051】
他方で、流量測定部が出力する信号に基づいて、実際に供給されるガス体積に対応する測定積分流量を求めるが、本実施形態では、バルブ閉鎖開始後に流れるガスの積分流量が、既知積分流量Vdとして予めわかっている場合について説明する。
【0052】
なお、本明細書において、「測定積分流量」は、流量測定部から出力された信号から求められる積分流量(例えば後述する演算積分流量)に基づくものであればよく、他の積分流量(例えば流量測定を行うことなく得られる上記の既知積分流量Vd)を含むものであってもよい。「測定積分流量」は、実際に供給されるガスの体積(実際積分流量)に対応するものである限り、任意の態様で求められるものであり得る。
【0053】
ここで、既知積分流量Vdについて説明する。バルブ閉鎖開始後に流れるガスの積分流量は、バルブ閉鎖時のバルブ制御を適切に行うことによって略一定に制御することができる。バルブ閉鎖時には、主として、コントロール弁6と絞り部2との間の残留ガスが流れ出すことになるが、
図4に示す態様では、コントロール弁6をランプ制御することにより、装置によらず一定の流量立ち下げ特性が得られるようにしている。このようにすれば、流量立ち下げ期間(すなわち、バルブ閉鎖動作の開始から、バルブが完全に閉鎖されるまでの期間)の積分流量を一定化することができるので、既知積分流量Vdとして予めメモリに格納しておくことができる。
【0054】
既知積分流量Vdの大きさは設定流量Q0によって異なるので、設定流量Q0ごとにメモリに格納されていてもよいし、設定流量Q0の関数として定義されていてもよい。いずれの場合にも、典型的には設定流量Q0に対応する適切な既知積分流量Vdが用いられる。なお、本明細書において、既知積分流量Vdとは、上記の測定積分流量を得るときに、流量測定部による流量測定結果を用いずに知ることができる積分流量を意味し、典型的には流量測定の前に予め判っているものである。ただし、既知積分流量Vdは、流量測定中に演算や記憶装置からの入力によって得られるものであってもよい。また、既知積分流量Vdは、上記の測定積分流量を得る前に、本実施形態の流量制御装置が備える流量測定部を用いて予め測定されて記憶装置に格納されたものであってもよい。
【0055】
以上のように既知積分流量Vdが与えられている場合、測定積分流量は、
図5(b)に示すように、既知積分流量Vdと、バルブ閉鎖開始までの演算積分流量Vnとの合計によって規定することができる。
【0056】
演算積分流量Vnは、Vn=ΣQt×tx=(Qt0+Qt0+tx+Qt0+2tx+・・・+Qt0+ntx)×txとして求めることができる。ここで、Qtは時刻tにおける流量であり、txは流量演算周期であり、nは自然数である。流量演算周期txは、例えば0.5ミリ秒~5ミリ秒に設定され、流量演算周期txごとに流量演算が行われる。また、時刻tにおける流量Qtは、例えば、時刻tにおける上流圧力センサ3の出力(上流圧力P1)から上記のQ=K1・P1に従って演算により求めることができる。
【0057】
このように、演算積分流量Vnは、流量測定部が所定時間(流量演算周期)ごとに流量値を出力するときに、出力された流量値から求めた所定時間内の積分流量の加算を繰り返して積分流量の総和を求めることによって得られるものであり、時刻t0からバルブが実際に開くまでの期間は実質0の値を示し、その後、時間の経過と共に増加する。
【0058】
そして、演算積分流量Vnと流量立ち下げ期間の既知積分流量Vdとの合計が、目標積分流量Vsに達したとき、すなわち、演算積分流量Vnが、目標積分流量Vsから既知積分流量Vdを減算した値(Vs-Vd)に達したときの時刻をt1’とし、時刻t1’になった時点で、コントロール弁6の閉止を開始する。この時刻t1’は、典型的には、設定流量信号Ssのバルブ閉止開始時刻(立下げ時刻)t1よりも後の時刻であるが、既知積分流量Vdの大きさによってはバルブ閉止開始時刻t1よりも前の時刻であり得る。
【0059】
以上のようにして、コントロール弁6の閉止開始のタイミングを決定すれば、測定積分流量(Vn+Vd)と目標積分流量Vsとを一致させることができるので、パルス流量制御を行う場合であっても、所望のガス量の供給を行うことが可能になる。また、流量立ち上げ特性が流量制御装置によって異なっている場合にも、流量測定部(ここでは上流圧力センサ)の出力から演算により求められる測定積分流量に基づいてコントロール弁の閉止タイミングを決定するので、装置によらず適切なパルス流量制御を行うことが可能になる。また、本実施形態は、流量測定部の出力に基づいてリアルタイムに流量制御を行うことができるので、オーバーシュートなどの過度供給や予期しない突発的な流量変化等が生じたときにも、測定積分流量を目標積分流量に一致させるようにして好適に流量制御を行うことが可能である。
【0060】
以下、
図6および
図7を参照して、本実施形態の流量制御動作を行う制御器70の構成および制御フローの具体例を説明する。なお、
図6に示す制御器70は、
図1に示した流量制御装置100に設けられた制御器7(上流圧力センサ3の入力などに基づいてコントロール弁6をフィードバック制御して流量制御を行うように構成された制御器)の内部に含まれていてももよいし、
図1に示した制御器7とは別個に設けられたものであってもよい。もちろん、制御器70の構成要素の全てまたは一部が、制御器7または流量制御装置100の外部に設けられていてもよい。
【0061】
図6は、制御器70の構成例を示すブロック図である。
図6に示すように、制御器70は、流量測定部から出力された流量値に基づいて積分流量の総和に対応する演算積分流量Vnを算出する算出部72と、目標積分流量Vsから既知積分流量Vdを減算した値と、算出部72で算出された演算積分流量Vnとの差を求める比較部74と、比較部74で求められた差((Vs-Vd)-Vn)が所定範囲内になった時にコントロール弁6の閉動作を開始する閉命令Ccをコントロール弁6に出力する弁動作制御部76とを備えている。
【0062】
より具体的な制御フローを説明すると、制御器70において、
図7のステップS1に示すように、目標積分流量Vsが、制御器70の比較部74に入力される。また、既知積分流量Vdも比較部74に入力される。
【0063】
次に、ステップS2に示すように、比較部74において、目標積分流量Vsから既知積分流量Vdを差し引いた減算後目標積分流量Vs’(=Vs-Vd)が求められる。なお、目標積分流量Vsおよび既知積分流量Vdが予め判っている場合、減算後目標積分流量Vs’が最初から比較部74に入力されてもよい。また、入力された設定流量信号Ssから目標積分流量Vsを求めるときには、設定流量信号Ssの1パルスの立下りを待って目標積分流量Vsが算出されてもよく、ステップS1およびステップS2は、以下に説明する算出部72において演算積分流量Vnを求めるステップと並行して行われ得る。
【0064】
一方、入力された設定流量信号Ssに従ってコントロール弁6に開命令が出された後、制御器70の算出部72において、ステップS3に示すように、流量測定部の信号(制御流量信号Sr)に基づき、所定微小期間(ここでは流量演算周期tx)の積分流量Qt・txが算出される。
【0065】
次に、ステップS4に示すように、ステップS3で求められた積分流量を過去の積分流量の合計値に加算して、総和の演算積分流量Vnを算出する。算出された演算積分流量Vnは、制御器70の算出部72から比較部74に送られる。
【0066】
次に、ステップS5に示すように、比較部74において、減算後目標積分流量Vs’と演算積分流量Vnとの差Vs’-Vnが算出され、ステップS6に示すように、算出された差Vs’-Vnが設定範囲内であるか否かが判定される。ここで、設定範囲は、減算後目標積分流量Vs’と演算積分流量Vnとが実質的に同じであるかどうかを判定できる範囲に設定され、典型的には0を中心として流量測定器の出力誤差範囲と同程度の範囲に設定される。
【0067】
ステップS6において、差Vs’-Vnが設定範囲内でない(No)と判断されたときには、演算積分流量Vnが到達すべき積分流量に達していないと判断され、コントロール弁6の閉動作を開始することなくステップS3に戻る。そして、ステップS3において制御流量信号Srから求めた積分流量を、ステップS4において前回までの総和積分流量に加算して、更新された演算積分流量Vnを算出する。また、ステップS5では、減算後目標積分流量Vs’と、更新された演算積分流量Vnとの差が算出される。この一連の動作は、ステップS6で差Vs’-Vnが設定範囲内である(Yes)と判断されるまで繰り返され、この間、コントロール弁6を介してガスは流れ続けることになる。
【0068】
そして、ステップS6において、減算後目標積分流量Vs’と演算積分流量Vnとの差Vs’-Vnが設定範囲内であると判定されたときには、演算積分流量Vnが減算後目標積分流量Vs’と実質的に同じになったものと判断し、比較部74は、弁動作制御部76に、コントロール弁6に閉命令Ccを出力するように命令する。弁動作制御部76は、命令を受け取り、ステップS7に示すように、閉命令Ccをコントロール弁6に出力して、コントロール弁6の閉動作を開始する。
【0069】
その後、コントロール弁6は、流量立下り期間において既知積分流量Vdに対応する量のガスを流出しながら完全に閉弁するが、測定積分流量Vn+Vdと目標積分流量Vsが一致しているので所望のガス量を供給することができる。
【0070】
以上、ある一態様の制御器70を説明したが、
図8に示すように、別の態様の制御器80は、流量測定部から出力された流量値に基づいて積分流量の総和に対応する演算積分流量Vnと入力された既知積分流量Vdとを加算して測定積分流量Vn+Vdを算出する算出部82と、目標積分流量Vsと算出部82で算出された測定積分流量Vn+Vdとの差を求める比較部84と、比較部84で求められた差(Vs-(Vn+Vd))が所定範囲内になった時にコントロール弁6の閉動作を開始する閉命令Ccを出力する弁動作制御部86とを備える。制御器80を用いても、制御器70と同様に、測定積分流量Vn+Vdを目標積分流量Vsに一致させるように、コントロール弁6の閉動作開始のタイミングを制御することができる。
【0071】
上述した制御器70、80は、積算した積分流量や、外部から得た目標積分流量を格納しておくための記憶部を備えていてもよいことは言うまでもない。また、記憶部は、制御器70、80や流量制御装置100の外部に設けられていてもよい。また、目標積分流量や既知積分流量は、予めデータとして記憶部に格納されていてもよいし、バルブ閉鎖命令を出力する前の任意のタイミングで記憶部に入力されてもよい。
【0072】
図9は、別の実施形態におけるパルス流量制御の動作を説明するための図である。
図9に示す態様では、コントロール弁6を閉じるとき、一次遅れ制御により閉弁動作を行っている。
【0073】
コントロール弁6の一次遅れ制御は、所定の指数関数に従って流量目標値を低下させることによって行うことができる。また、流量目標値に用いる所定の指数関数としては、予め測定によって得られた上流圧力P1の圧力降下特性データY(t)と比較して、これよりも緩やかな(すなわち、傾きが小さい)指数関数が用いられている。
【0074】
より具体的に説明すると、圧力降下特性データY(t)が、初期圧力をP0としてY(t)=P0・exp(-t/τ)で表される時定数τの指数関数によって与えられているとき、本実施形態では、例えばP(t)=(P0-Px)・exp(-t/τ’)+Px(ここで、Pxは、流量目標収束値に対応する圧力)に従う目標上流圧力P(t)に適合するようにコントロール弁6をフィードバック制御し、このときのP(t)における時定数τ’が、Y(t)における時定数τよりも大きくなるように、すなわち、τ<τ’に設定している。これにより、圧力降下特性データY(t)よりも緩やかな指数関数であるP(t)に従って流量目標値を低下させることができる。なお、本実施形態のようにコントロール弁6を完全に閉じて流量を0にする場合、上記のPxは典型的には0となる。また、本明細書において、緩やかな関数とは、P(t1)=Y(t2)を満たすt1,t2に対し、|dP(t1)/dt|<|dY(t2)/dt|を満たすことを意味する。
【0075】
上記の圧力降下特性データY(t)は、例えば、ガスが流れている状態からコントロール弁6を急速に閉じたときに生じる上流圧力P1の降下特性を示すデータである。圧力降下特性データY(t)は、コントロール弁6を閉じた後の流量が低下する過程で、時間の関数として上流圧力P1をプロットすることによって得ることができる。圧力降下特性データY(t)を得るときの初期制御圧力は100%に限られず、任意の圧力であってよい。
【0076】
圧力降下特性データY(t)は、厳密には機器ごとに異なるデータである。ただし、同じ設計(同じコントロール弁-絞り部間容積、同じオリフィス径)で作製された圧力式流量制御装置では、ほとんど同じ特性データとなることが分かっている。したがって、同設計の圧力式流量制御装置については、共通の圧力降下特性データY(t)を用いることも可能である。
【0077】
一方で、機器ごとの特性差を吸収できるマージンを確保するように圧力降下特性データY(t)に対して十分に緩やかな指数関数を目標値として用いることによって、複数の同設計機器に対して同じ指数関数制御を適用することも可能である。
【0078】
複数の圧力式流量制御装置に対して同じ共通の指数関数制御を用いる場合、各圧力式流量制御装置において圧力降下特性データY(t)を予めそれぞれ取得しておき、得られた圧力降下特性データY(t)のうちの最も緩やかな圧力降下特性データY(t)を基準として、共通の目標値P(t)を設定するようにしてもよい。共通の目標値P(t)は、上記の最も緩やかな圧力降下特性データY(t)よりも緩やかな指数関数に設定され、複数の圧力式流量制御装置の全体において圧力降下特性データY(t)よりも緩やかに設定される。したがって、複数の圧力式流量制御装置の全てにおいて、共通の目標値P(t)が支配的になり、装置間の応答性の差をなくすことができ、複数の圧力式流量制御装置において同等の流量制御を行うことが可能になる。
【0079】
図10は、複数の圧力降下特性データY1(t)、Y2(t)に対して共通に設定された目標値P(t)を示す。
図10からわかるように、最も緩やかな圧力降下特性データY2(t)よりも緩やかな目標値P(t)に設定することによって、複数の圧力式流量制御装置において、同等の流量制御を行うことが可能になる。
【0080】
以上のような一次遅れ制御を行うことによって、流量立ち下げ期間の流量降下特性を一定にすることができ、機器による差(例えば、オリフィスの異変が発生したことによる流量降下特性の変動など)に依存することなく、流量立ち下げ動作を行うことができる。これにより、上述したバルブ閉鎖開始後の積分流量(既知積分流量Vd)の変動を抑制し、また、機器ごとの差をなくすことができるので、安定したパルス流量制御を行うことができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態を説明したが、種々の改変が可能である。例えば、
図4および
図5に示した態様では、目標積分流量Vsを算出するとともに、測定積分流量(Vn+Vd)が目標積分流量Vsと一致するようにバルブ開閉動作を行ったが、これに限られない。本発明の他の実施形態では、設定流量信号Ssと制御流量信号Srとの差の総和(すなわち積分流量差)を演算により求め、積分流量差が0に収束するようにコントロール弁6の閉弁動作を制御するようにしてもよい。
【0082】
より具体的に説明すると、流量立ち上がり期間には、設定流量信号Ssが制御流量信号Srよりも大きいため、
図9に示す面積A1に対応する正の差が生じる。一方、立下り時には、設定流量信号Ssが先に0に低下するので、
図9に示す面積A2に対応する負の差が生じる。また、既知積分流量Vdも負の差となる。そこで、正の面積A1と、負の面積-A2および既知積分流量-Vdとを足した値が0に収束したタイミングでコントロール弁6の閉鎖を開始すれば、積分流量差を0とすることができる。
【0083】
上記の動作は、例えば
図11に示す制御器90を用いて実行することができる。制御器90は、入力された設定流量信号Ssと流量測定部から出力された制御流量信号Srとの差分の総和である積分流量差を算出する差分算出部92と、差分算出部92の出力が所定範囲内に収束したか否かを判定する判定部94と、積分流量差が所定範囲内に収束したと判定されたときにコントロール弁6の閉動作を開始する弁動作制御部96とを備えており、積分流量差が実質0となるようにコントロール弁6の閉動作を開始することによって、測定積分流量と目標積分流量とを一致させることができる。
【0084】
また、上記には立下り期間の積分流量が既知である態様を説明したが、本発明の実施形態はこれに限られない。バルブ閉鎖開始後の制御流量を測定しながら、バルブ閉鎖開始後の積分流量を含む全体の演算積分流量(すなわち、流量立ち下げ期間にまで拡大された演算積分流量)を、上記の既知積分流量Vdを含まない測定積分流量として用いて、この測定積分流量を目標積分流量に一致させるようにコントロール弁6の動作を制御するようにしてもよい。
【0085】
このためには、例えば、目標積分流量と演算積分流量との差が所定の閾値に達した時点でコントロール弁の閉止動作を開始するとともに、その後の積分流量が閾値分と適合するように、コントロール弁の閉止動作を制御すればよい。一次遅れ制御を行う場合には、流量立ち下げ期間の閉弁動作の時定数を適宜設定することによって、目標積分流量に測定積分流量を適合させ得る。一次遅れ制御の時定数は、流量立ち下げ期間の途中で変更されてもよい。
【0086】
また、上記には、コントロール弁6の閉鎖開始のタイミングを遅らせて測定積分流量を目標積分流量に一致させる例を説明したが、これに限られない。コントロール弁6の閉鎖開始のタイミングは設定流量信号と同じにしながら、コントロール弁6の閉鎖動作の制御を目標積分流量に対応するように行ってもよい。例えば、流量立ち上げ時の積分流量差に基づいて、流量立ち下げ期間のランプ関数の係数や、一次遅れ制御の時定数を適切に設定することによって、測定積分流量を目標積分流量に一致させ得る。
【0087】
また、上記には、流量測定部として、圧力式流量制御装置の上流圧力センサを用いる例を説明したが、これに限られない。例えば、熱式流量計などの他の態様の流量測定部が設けられているときであっても、流量測定部の出力に基づいて測定積分流量を求めるとともに、これが目標積分流量に一致するようにコントロール弁の閉弁動作を制御することによって、所望の積分流量を供給することができる好適なパルス流量制御を行い得る。
【0088】
さらに、上記には、測定積分流量を目標積分流量に合致させるために、流量立ち下げ期間におけるコントロール弁6の閉止動作のタイミング等を制御する態様を説明した。ただし、本発明の流量制御装置はこれに限られず、流量立ち上げ期間、すなわち、流量が0から設定流量Q0に達するまでの期間において、目標積分流量に対応する積分流量でガスを流すことができるように構成されていてもよい。以下、流量立ち上げ期間において積分流量を補償する例示的な態様について説明する。
【0089】
図12は、流量立ち上げ期間における設定流量信号(流量入力信号)Ssと、本実施形態において実現される制御流量信号Sr(流量出力信号)とを示す図である。前述したように、本実施形態においても、設定流量信号Ssは、時刻t
0において流量0から設定流量Q
0に増加させる矩形波の信号として流量制御装置100に与えられる。
【0090】
ただし、本実施形態では、流量立ち上げ期間において、ランプ制御が行われている。より具体的には、流量制御装置100は、上記の設定流量信号Ssを受け取ると、時刻t0から500msecの時間をかけて設定流量Q0(ここでは、100%流量)まで直線的に流量を増加させる内部指令信号(破線L1)を生成し、この内部指令信号に従ってコントロール弁16を徐々に開ける動作を行う。これは、本実施形態では、目標積分流量に適合する面積制御(供給されるガスの体積の制御)を行っているので、立ち上げ時にランプ制御を行ったとしても、積分流量を所望の積分流量に適合させる制御が可能であり、好適なガス供給を実施できるからである。
【0091】
このようなランプ制御を行うことによって、立ち上げ期間における急激なガス供給の増加が防止されるので、オーバーシュートの発生を抑制することが可能である。ただし、傾きが急なランプ制御では、やはりオーバーシュートが生じ得るので、予め設定された上限の傾き以下でランプ制御を行うことが好ましい。本実施形態では、300msecで100%流量まで立ち上げるときの傾き(破線L2の傾き)が、上限の傾きに設定されている。ただし、オーバーシュートが生じる傾きは、目標値である設定流量や機器の特性によって種々のものであるので、300msecの傾きに限られず、任意のものであって良いことは言うまでもない。また、ランプ制御の傾きも、上記のように500msecで100%流量まで立ち上げるときの傾きに限られず、任意の傾きや設定流量であってよいことは言うまでもない。
【0092】
また、ランプ制御を行った場合、
図12に示すように、理想的には、破線L1で示すように時刻t
0から流量の立ち上げが行われる。この場合、矩形波の設定流量信号Ssが要求する積分流量よりも、三角形面積分(Q
0×500msec/2)の積分流量(ガス体積)の不足が生じる。ただし、この不足分は、予め求められる量であるので、上述したような流量立ち下げ時刻を遅らせるなどの方法により、容易に補償することができる。
【0093】
ただし、ランプ制御を行うときにも、
図12の制御流量信号Sr(流量出力信号)が示すように、実際には、コントロール弁6の開放の遅れが生じて、時刻t
0からある程度の遅延時間Δtが経過してから流量が立ち上がる。図示する例では、約150msecの遅れが生じている。このため、実際には、ランプ制御で供給されるべき所望の積分流量よりも少ない量での供給となる。不足分の積分流量は、
図12に示す三角形の面積Aに相当する。
【0094】
そこで、本実施形態では、流量立ち上げ期間において、ランプ制御に対応する内部制御信号(破線L1で示される信号)と、制御流量信号Srとの差である、面積A(積分流量差)を流量測定部による測定によって得るとともに、この不足分の面積Aの分を補償するようにしている。より具体的には、流量立ち上げの途中から、ランプ制御の係数(傾き)を、破線L1の傾き(第1の傾き)から破線L2の傾き(第2の傾き)へと変化させて、
図12に示す面積Bの分だけガス供給量を増加させる。また、変化後のランプ制御の傾きとしては、オーバーシュートが生じない上限の傾きである300msecの傾きを採用している。なお、面積Aは、具体的には、
図11に示した差分算出部92において、設定流量信号Ssの代わりに内部制御信号(ランプ制御信号)を入力し、差の総和である積分流量差を算出することによって求めることができる。
【0095】
上記の動作を行う場合、面積Aと面積Bとが同じであれば、ランプ制御に従ってコントロール弁6の開弁の遅延なしに目標流量に到達するまでに供給されたときと同じだけの量のガスが供給される。ここで、面積Aは、流量測定部を用いて測定した実際の流量の出力信号と、内部指令信号との差の積算値(積分流量差)によって求めることができる。また、この不足分の量を補うためには、面積Bが面積Aと一致するようにランプ制御の傾きを変更すればよいが、変更前の傾きと変更後の傾きが予め決まっている場合には、傾きを変更する時刻tcを、例えば、以下のようにして決定することができる。
【0096】
図12に示すように500msecで到達するときの傾きをθ1、300msecで到達するときの傾きをθ2とすると、
図12に示す期間xと期間yとは、y=x(tanθ1/tanθ2)の関係を満たす。そして、面積Bは、B=(1/2)×(x-y)×x・tanθ1と表すことができる。
【0097】
ここで、B=Aを満足する場合、y=x(tanθ1/tanθ2)を用いて、2B=2A=x2×(1-tanθ1/tanθ2)×tanθ1が導出される。これを変形すると、x=√(2A/(1-tanθ1/tanθ2)tanθ1)となる。そして、A以外は定数であるので、定数C=√2/((1-tanθ1/tanθ2)×tanθ1)とおくと、x=C×√Aと表すことができる。したがって、A=Bを満たす切り替え時刻tcは、時刻t0を0としたときに、tc=500-C×√Aによって与えられ、すなわち、Aの測定結果に基づいてtcを決定することができる。
【0098】
このようにして決定された時刻tcに、ランプ制御の傾きを500msecの傾きθ1から300msecの傾きθ2に変化させることによって、所望の積分流量でガスを供給することが可能である。
【0099】
ただし、他の態様において、不足分の面積Aを補うために、変化後のランプ制御の傾きを、測定した面積Aに基づいて決定するようにしてもよい。この場合、傾きを変化させる時刻tcは固定するとともに、面積Aに応じた傾きを適宜選択することによって、面積Aと面積Bとを同じにすることができる。ただし、オーバーシュートの発生を防止するために、変化後の傾きは、上限の傾き(ここでは300msecの傾き)以下に設定されることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の実施形態による流量制御装置および流量制御方法は、例えば半導体製造装置や化学プラント等において利用され、特に、パルス流量制御が求められる用途においても好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0101】
1 流路
2 絞り部
3 上流圧力センサ
4 下流圧力センサ
5 温度センサ
6 コントロール弁
7 制御器
9 下流弁
10 プロセスチャンバ
11 真空ポンプ
12 外部制御装置
70 制御器
72 算出部
74 比較部
76 弁動作制御部
100 流量制御装置
Cc 閉命令
Sr 制御流量信号
Ss 設定流量信号
Vd 既知積分流量
Vn 演算積分流量
Vs 目標積分流量