(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】浄水フィルター体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20230501BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230501BHJP
【FI】
B01J20/20 E
B01J20/20 D
C02F1/28 D
(21)【出願番号】P 2017212195
(22)【出願日】2017-11-01
【審査請求日】2020-10-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/016548(WO,A1)
【文献】特開平7-155588(JP,A)
【文献】特開平10-005580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材活性炭と、粉末状吸着材と、フィブリル化繊維バインダとを含むフィルター体であって、
前記基材活性炭の平均粒子径は25~160μmであり、
前記粉末状吸着材は、平均粒子径が3~
8μmのゼオライト
またはチタン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記フィルター体に占める重量割合が、0.5~30重量部であり、
カチオン系湿潤紙力増強剤を含む紙力増強剤が前記粉末状吸着材100重量部に対して1~20重量部添加されてな
り、
微粉低減率が85.1%以上である
ことを特徴とする浄水フィルター体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材活性炭と粉末状吸着材とフィブリル化繊維バインダとを含む浄水フィルター体に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水器等に装着されるフィルター体では、主な材料として、多孔質構造により吸着性能を備えた活性炭が使用される。この種のフィルター体では、例えば、繊維状活性炭と粉末状活性炭とからなる基材活性炭がフィブリル化繊維バインダによって一体化された浄水フィルター体が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記浄水フィルター体は、フィブリル化繊維バインダが繊維状活性炭と粉末状活性炭とを絡めて一体化するため、耐久性や保形性に優れる。この種のフィルター体において、基材活性炭では、繊維状活性炭や粉末状活性炭の他に、粒状活性炭も使用することができる。
【0003】
近年、浄水器の高性能化が要求され、水道水等の飲料用水に含まれる残留成分や微細な不溶物等の異物等をより確実に除去するために、様々な手法により浄水フィルター体の改良が検討されている。例えば、粉末状活性炭または粒状活性炭の他に、さらに粒子が細かい粉末状吸着材を混合してフィルター体を形成することにより、簡便に吸着性能を向上させることができる。
【0004】
しかしながら、上記浄水フィルター体では、粉末状吸着材が極端に微細な粒子であるため、通水初期時に吸着材由来の微粉が流出しやすくなる。そこで、吸着性能向上のための微細な吸着材を使用した場合に、通水時の微粉の流出を低減させることができる浄水フィルター体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、粉末状吸着材が含まれたフィルター体の通水時に粉末状吸着材由来の微粉の流出を低減させることができる浄水フィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、基材活性炭と、粉末状吸着材と、フィブリル化繊維バインダとを含むフィルター体であって、前記基材活性炭の平均粒子径は25~160μmであり、前記粉末状吸着材は、平均粒子径が3~8μmのゼオライトまたはチタン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記フィルター体に占める重量割合が、0.5~30重量部であり、カチオン系湿潤紙力増強剤を含む紙力増強剤が前記粉末状吸着材100重量部に対して1~20重量部添加されてなり、微粉低減率が85.1%以上であることを特徴とする浄水フィルター体に係る。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明に係る浄水フィルター体によると、基材活性炭と、粉末状吸着材と、フィブリル化繊維バインダとを含むフィルター体であって、前記基材活性炭の平均粒子径は25~160μmであり、前記粉末状吸着材は、平均粒子径が3~8μmのゼオライトまたはチタン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記フィルター体に占める重量割合が、0.5~30重量部であり、カチオン系湿潤紙力増強剤を含む紙力増強剤が前記粉末状吸着材100重量部に対して1~20重量部添加されてなり、微粉低減率が85.1%以上であるため、紙力増強剤が粉末状吸着材と結合しやすく通水時に粉末状吸着材由来の微粉の流出を大幅に低減させることができるとともに、成形性を確保することができ、優れた吸着性能が得られて液中の金属イオンを適切に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る浄水フィルター体の斜視図である。
【
図2】浄水フィルター体の製造工程を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の浄水フィルター体は、水道水等の液体を浄化するためのフィルターであって、基材活性炭と、粉末状吸着材と、フィブリル化繊維バインダとを含み、紙力増強剤が添加されてなる。
【0011】
基材活性炭は、石油ピッチ、樹脂粒、樹木、椰子殻、古タイヤ等を原料とし、800~1000℃で加熱焼成し適宜賦活して細孔を発達させ、粉砕して得た活性炭である。基材活性炭は、浄水のために必要となる一般的な活性炭の吸着性能を備える。具体的には、JIS K 1474(2014)に準拠する測定において、ヨウ素吸着性能1000ないし2000mg/gを満たす。
【0012】
基材活性炭は、フィルター体を構成する主原料であり、粉末状活性炭または粒状活性炭が用いられる。基材活性炭を粉末状活性炭または粒状活性炭とすることにより、単位重量当たりの表面積を多くして濾集能力を高めることができる。粉末状活性炭または粒状活性炭である基材活性炭は、吸着性能や成形性等の観点から、分級や篩別により平均粒子径が25~160μmとされる。基材活性炭の平均粒子径が25μm未満の場合、フィルター体の成形が困難となるとともに、通水時の動水圧が上昇し目詰まりしやすくなる等の問題も生じる。また、基材活性炭の平均粒子径が160μmより大きい場合、粒子径が大きくなることに伴って微粒子捕集率が低下するとともに、活性炭の表面積が減少して吸着性能が低下する。なお、平均粒子径の計測は、レーザー回折粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製 SALD-3000S)を用いるレーザー回折・散乱法によって求められた粒度分布における積算値50%での粒子径を採用した。
【0013】
粉末状吸着材は、吸着性能を有する粉末状の材料であり、基材活性炭より微細な粒子で構成することにより、フィルター体の吸着性能を向上させる。粉末状吸着材の平均粒子径は3~20μmである。粉末状吸着材の平均粒子径が3μm未満の場合、粒子径が細かくなりすぎて浄水フィルター体から流出しやすくなる。また、粉末状吸着材の平均粒子径が20μmより大きい場合、基材活性炭より微細な粒子の利点がなくなって吸着性能を十分に向上させることが困難となる。
【0014】
粉末状吸着材で使用される材料は、活性炭、ゼオライト、ケイ酸チタニウムまたはチタン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である。活性炭は物理的な吸着性能に優れているため、フィルター体の主原料である基材活性炭より微細な粒子径に形成して添加することにより、簡易に微粒子等の吸着性能を向上させることができる。また、ゼオライト、ケイ酸チタニウム、チタン酸ナトリウムは、化学的な吸着性能にも優れているため、液中の金属イオンの吸着を可能とする。そのため、溶解性鉛等の金属イオンを適切に除去することが可能である。
【0015】
粉末状吸着材は、吸着性能や成形性等の観点から、フィルター体に占める重量割合が0.5~30重量部とされる。粉末状吸着材の重量割合が0.5重量部未満である場合、粉末状吸着材による十分な吸着性能を発揮することが困難となる。粉末状吸着材の重量割合が30重量部より多い場合、成形性が悪くなる。
【0016】
フィブリル化繊維バインダは、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等の合成樹脂繊維を毛羽立ち形成(フィブリル化)した材料である。フィブリル化繊維バインダでは、繊維のフィブリル化により基材活性炭や粉末状吸着材を絡めて一体化する。バインダの樹脂は耐久性、耐薬品性に優れているため、フィルター体の耐用期間をより長くすることができる。
【0017】
紙力増強剤は、粉末状吸着材を保持するための薬品である。紙力増強剤は、粉末状吸着材と水素結合して保持するものと考えられる。紙力増強剤では、耐水性を有するポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等の湿潤紙力増強剤が好ましく用いられる。特に、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のカチオン系湿潤紙力増強剤を含むことがより好ましい。カチオン系湿潤紙力増強剤は、正極に帯電していることにより粉末状吸着材とより結合しやすくなる。
【0018】
紙力増強剤は、成形性や微粉の発生しにくさ等の観点から、粉末状吸着材100重量部に対して1~20重量部添加される。紙力増強剤の添加量が粉末状吸着材100重量部に対して1重量部未満である場合、粉末状吸着材を十分に保持することが困難となる。紙力増強剤の添加量が粉末状吸着材100重量部に対して20重量部より多い場合、フィルター体の保形性が低下して成形しにくくなる。
【0019】
このフィルター体の形状は特に限定されず、適宜である。例えば、
図1(a)に示す浄水フィルター体10のように、中空筒部材11の側面部に凝集された筒状構造の濾材12として形成される。中空筒部材11は、適宜の透過孔を有した芯材であり、用途等により残存させても取り外してもよい。フィルター体10の保形性の観点から、中空筒部材11はフィルター体10内に残存されることが好ましい。
【0020】
この筒状構造は、通水時に表面積が最も有利に利用でき、かつ均等に液体を通過させることができる形態である。浄水フィルター体10は、販売や使用に際して、
図1(b)に示すように、表面が不織布等の透過性の高い布状物13により被覆、保護される。
図1(b)において、符号14はフィルター体10の上下を保護するキャップである。
【0021】
この浄水フィルター体は、例えば、浄水器の濾材等に好適に使用される。浄水器に濾材として装填される浄水フィルター体は、簡易に交換可能とするために、カートリッジ式とすることが好ましい。カートリッジ式の浄水フィルター体は、家庭用浄水器の他、据え置き型や濾過能力を高めて大型化した装置への適用も可能である。
【0022】
次に、
図2を用いて浄水フィルター体の製造過程を説明する。この図において、符号20はフィルター体の製造装置、21は水Wが充填される水槽、22は多数の細孔が形成されたステンレス製の金型棒状部材、25は乾燥機である。
【0023】
はじめに、粉末状活性炭または粒状活性炭である基材活性炭31と、粉末状吸着材32と、フィブリル化繊維バインダ33と、紙力増強剤34とが用意される。これらは水槽21に充填された水Wに投入され、十分に混合されて混合スラリー状物30が調製される。
【0024】
次に、中空筒部材11の内部に金型棒状部材22が挿入され、中空筒部材11と金型棒状部材22の一体化物23が、混合スラリー状物30で満たされた水槽21内に投入される。そして、水槽21内にて金型棒状部材22を介して減圧吸引することにより、混合スラリー状物30が中空筒部材11の側面に引き寄せられる。なお、必要により、中空筒部材11の周囲に不織布等が巻き付けられる。
【0025】
ここで、中空筒部材11の周囲に巻き付けた不織布等の透過孔は基材活性炭や粉末状吸着材等よりも小さいため、混合スラリー状物30の水分のみが中空筒部材11を通過して金型棒状部材22から吸い出され、基材活性炭や粉末状吸着材等が通過できずに中空筒部材11の表面に濾材12の成分36が残留される。こうして所定の厚さまで濾材12の成分36が中空筒部材11表面にスラリー被着部37として蓄積され、混合スラリー状物30の吸引は終了される。
【0026】
所定量のスラリー被着部37が形成された後、中空筒部材11は水槽21内から引き上げられ、金型棒状部材22が取り外される。こうして中空筒部材11の表面にスラリー被着部37を備えた吸着被着物35が得られる。その後、吸着被着物35は乾燥機25内で加熱乾燥され、浄水フィルター体が完成される。
【実施例】
【0027】
次に、複数種類の基材活性炭及び粉末状吸着材を用い、紙力増強剤の配合割合等を変化させ、フィブリル化繊維バインダを混合して試作例1~19及び比較例1~12の浄水フィルター体を作製した。
【0028】
[使用材料]
〈基材活性炭〉
基材活性炭は、平均粒子径20μmの活性炭1(フタムラ化学株式会社製「CN20MS」)、平均粒子径29μmの活性炭2(フタムラ化学株式会社製「CN30MS」)、平均粒子径98μmの活性炭3(フタムラ化学株式会社製「CN100MS」)、平均粒子径158μmの活性炭4(フタムラ化学株式会社製「CN8200S」)、平均粒子径220μmの活性炭5(フタムラ化学株式会社製「CN480S」)のいずれかを使用した。各基材活性炭の平均粒子径は、篩にかけて調製した。
【0029】
〈粉末状吸着材〉
粉末状吸着材は、平均粒子径20μmの活性炭(フタムラ化学株式会社製「CB」)、平均粒子径3μmの三チタン酸ナトリウム(フタムラ化学株式会社製「三チタン酸ナトリウム」)、平均粒子径8μmのゼオライト(東ソー株式会社製「ゼオラム(登録商標) F-9 粉末100」)、平均粒子径12μmのケイ酸チタニウム(BASFジャパン株式会社製「ATS」)のいずれかを使用した。各粉末状吸着材の平均粒子径は、篩にかけて調製した。
【0030】
〈フィブリル化繊維バインダ、紙力増強剤〉
フィブリル化繊維バインダは、アクリル繊維(東洋紡株式会社製「ビィパル(登録商標)」)を使用した。紙力増強剤は、カチオン系湿潤紙力増強剤であるポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤(荒川化学工業株式会社製「アラフィックス255LOX」)、アニオン系乾燥紙力増強剤(荒川化学工業株式会社製「ポリストロン145」)を使用した。
【0031】
[浄水フィルター体の作製]
基材活性炭、粉末状吸着材、フィブリル化繊維バインダ、紙力増強剤を後述の配合(単位:重量部)に従って水に分散し、均質になるまで水中で十分に混合して試作例1~19及び比較例1~12に対応した混合スラリー状物を調製した。混合スラリー状物における水は、添加した固形分の50倍重量とした。そして、内直径20mm、外直径24mm、全長50mmであり直径2mmの細孔を有するポリプロピレン製の中空筒部材を用意した。また、中空筒部材の外表面に不織布を巻き付けた。同中空筒部材内に、多孔形状のステンレス製の金型棒状部材を挿入して固定するとともに混合スラリー状物内に投入し、減圧吸引(吸引圧力は約-0.08MPa)により混合スラリー状物内から固形分を引き寄せて中空筒部材の表面に濾材部成分を約10.5mm被着させた(スラリー被着部)。中空筒部材から金型棒状部材を取り外し、スラリー被着部と中空筒部材の一体化物となる吸着被着物を得た。そして、乾燥機を用いて100℃、12時間かけて吸着被着物の加熱、乾燥を行い、試作例の浄化用フィルター体を作製した。各フィルター体の寸法は、中空筒部材を含む直径45mm、全長50mmの円筒体である。また、フィルター体の表面をポリエチレンとポリプロピレンの混抄繊維からなる不織布で覆うとともにフィルター体の上下にポリプロピレン製キャップを取り付けた。
【0032】
[評価項目]
試作例1~19の浄水フィルター体について、次のとおり紙力増強剤含有量の比較と、紙力増強剤の種類の比較と、基材活性炭の粒子径の比較と、粉末状吸着材の種類の比較と、粉末状吸着材の含有量の比較とに関してそれぞれ微粉低減性能試験、遊離残留塩除去性能試験、溶解性鉛除去性能試験に従い評価を行い、良否を調べた。
【0033】
〈微粉低減性能試験〉
微粉低減性能を評価するために、紙力増強剤未添加のフィルター体(比較例1~12)を基準とし、試験を行った。本試験においては、通水流量を2.0L/minに設定し、通水初期200mLを採水し、測定を行った。測定は光電分光光度計を使用し、測定波長660nm、100mmセルで行った。各試作例1~19の微粉低減率は、紙力増強剤未添加のフィルター体(比較例1~12)の吸光値を基に算出した(微粉低減率(%)=(1-試作例の吸光値/比較例の吸光値)×100)。微粉低減率の算出において、試作例1~8は比較例1に基づき、以下試作例9は比較例2、試作例10は比較例3、試作例11は比較例4、試作例12は比較例5、試作例13は比較例6、試作例14は比較例7、試作例15は比較例8、試作例16は比較例9、試作例17は比較例10、試作例18は比較例11、試作例19は比較例12にそれぞれ基づいて求めた。微粉低減性能の評価に際しては、微粉低減率が40%未満を不良品である「×」とした。また、40%以上を及第点、さらに50%以上をより好ましい状態とした。そこで、吸光度が40%以上50%未満を「△」、50%以上を良品である「○」と評価した。
【0034】
〈遊離残留塩素除去性能試験〉
遊離残留塩素の除去性能を評価するために、JIS S 3201(2010)の家庭用浄水器試験方法に準拠し、試験を行った。本試験においては、遊離残留塩素の濃度を2mg/L、通水流量を2.0L/minに設定し、10分間連続通水後の遊離残留塩素の除去率を測定した。評価に際しては、除去率が95%未満を不良品である「×」、95%以上を良品である「○」とした。
【0035】
〈溶解性鉛除去性能試験〉
金属イオンの除去性能を評価するために、JIS S 3201(2010)の家庭用浄水器試験方法に準拠し、試験を行った。本試験においては、溶解性鉛の濃度を50μg/L、通水流量を2.0L/minに設定し、10分間連続通水後の溶解性鉛の除去率を測定した。評価に際しては、除去率が95%未満を不良品である「×」、95%以上を良品である「○」とした。
【0036】
〔紙力増強剤含有量の比較〕
基材活性炭として前述の活性炭3を90重量部、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを10重量部、フィブリル化繊維バインダを6重量部の配合からなるフィルター体(紙力増強剤は添加せず)を比較例1とした。そして、比較例1の配合に、それぞれ異なる添加量で紙力増強剤(ポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤、以下同じ)を添加して試作例1~6とした。
【0037】
なお、下記の表1,2では、紙力増強剤の添加量を粉末状吸着材100重量部に対する重量割合で表記した。すなわち、試作例1の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して0.5重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.05重量部)、試作例2の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)、試作例3の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して2.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.2重量部)、試作例4の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して10重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては1重量部)、試作例5の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して20重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては2重量部)、試作例5の紙力増強剤の添加量は粉末状吸着材100重量部に対して30重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては3重量部)である。
【0038】
【0039】
【0040】
〔紙力増強剤含有量の比較の結果と考察〕
表1,2に示すように、試作例6では、フィルター体の作製に際して、形状を適切に保持できず、成形することができなかった。他の試作例1~5では、フィルター体の成形は良好であった。試作例6は他の試作例1~5と比較して紙力増強剤が過剰(30重量部)に添加されていたことから、フィルター体の十分な成形性を得る条件として、紙力増強剤は20重量部以下が好ましいと考えられる。なお、試作例6については、フィルター体の成形ができなかったため、微粉低減性能試験、遊離残留塩素除去性能試験、溶解性鉛除去性能試験に関する測定は実施しなかった。
【0041】
試作例1~5について、遊離残留塩素除去性能試験及び溶解性鉛除去性能試験は、いずれも良好な結果が得られた。また、微粉低減性能試験について、試作例1では微粉低減率(吸光度)が44.4%であり、試作例2~5では微粉低減率がいずれも70%以上の高い数値が得られた。微粉低減率50%以上が良品であることから、試作例2~5のとおり、良好な微粉低減性能を得る条件として、紙力増強剤は1.0重量部以上が好ましいと考えられる。従って、フィルター体の成形性の条件と微粉低減性能の条件とから、紙力増強剤の適正な含有量は1~20重量部であることがわかった。
【0042】
〔紙力増強剤の種類の比較〕
比較例1の配合に、アニオン系乾燥紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例7、カチオン系湿潤紙力増強剤(ポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤)を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)とアニオン系乾燥紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して0.5重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.05重量部)とを混合して添加したフィルター体を試作例8とした。なお、下記表3では、紙力増強剤が添加されない比較例1、カチオン系湿潤紙力増強剤であるポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加した試作例2もそれぞれ列記した。
【0043】
【0044】
〔紙力増強剤の種類の比較の結果と考察〕
表3に示すように、紙力増強剤としてアニオン系乾燥紙力増強剤を単独で用いた試作例7では、微粉低減率が不十分であった。これに対し、紙力増強剤としてカチオン系湿潤紙力増強剤を単独で用いた試作例2、またはカチオン系湿潤紙力増強剤とアニオン系乾燥紙力増強剤とを混合して用いた試作例8では、微粉低減率が良好であった。このことから、紙力増強剤にカチオン系湿潤紙力増強剤を主体として使用することにより、良好な微粉低減性能が得られることがわかった。
【0045】
〔基材活性炭の粒子径の比較〕
基材活性炭として平均粒子径20μmの活性炭1を90重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例2とし、比較例2の配合に紙力増強剤(ポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤、以下同じ)を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例9とした。基材活性炭として平均粒子径29μmの活性炭2を90重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例3とし、比較例3の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例10とした。基材活性炭として平均粒子径158μmの活性炭4を90重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例4とし、比較例4の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例11とした。基材活性炭として平均粒子径220μmの活性炭5を90重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例5とし、比較例5の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例12とした。なお、下記表4では、基材活性炭として平均粒子径98μmの活性炭3を用いた比較例1及び試作例2もそれぞれ列記した。
【0046】
【0047】
【0048】
〔基材活性炭の粒子径の比較の結果と考察〕
表4,5に示すように、比較例2及び試作例9では、フィルター体の作製に際して、形状を適切に保持できず、成形することができなかった。他の比較例1,3~5及び試作例2,10~12では、フィルター体の成形は良好であった。比較例2及び試作例9は他の比較例1,3~5及び試作例2,9~12と比較して基材活性炭の平均粒子径が微細(20μm)であることから、フィルター体の十分な成形性を得る条件として、基材活性炭の平均粒子径は25μm以上が好ましいと考えられる。なお、試作例9については、フィルター体の成形ができなかったため、微粉低減性能試験、遊離残留塩素除去性能試験、溶解性鉛除去性能試験に関する測定は実施しなかった。
【0049】
試作例10~12について、遊離残留塩素除去性能試験及び溶解性鉛除去性能試験は、いずれも良好な結果が得られた。また、微粉低減性能試験について、試作例12では微粉低減率が43.2%であり、試作例10,11では微粉低減率がいずれも60%以上の高い数値が得られた。微粉低減率50%以上が良品であることから、試作例2,10,11のとおり、良好な微粉低減性能を得る条件として、基材活性炭の平均粒子径は160μm以下が好ましいと考えられる。従って、フィルター体の成形性の条件と微粉低減性能の条件とから、基材活性炭の適正な平均粒子径は25~160μmであることがわかった。
【0050】
〔粉末状吸着材の種類の比較〕
粉末状吸着材として平均粒子径20μmの活性炭を10重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例6とし、比較例6の配合に紙力増強剤(ポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤、以下同じ)を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例13とした。粉末状吸着材として平均粒子径3μmの三チタン酸ナトリウムを10重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例7とし、比較例7の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例14とした。粉末状吸着材として平均粒子径8μmのゼオライトを10重量部、それ以外は比較例1と同様の配合からなるフィルター体を比較例8とし、比較例8の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材10重量部に対しては0.1重量部)添加したフィルター体を試作例15とした。なお、下記表7では、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを用いた比較例1及び試作例2もそれぞれ列記した。
【0051】
【0052】
【0053】
〔粉末状吸着材の種類の比較の結果と考察〕
表6,7に示すように、試作例13では溶解性鉛除去性能試験を行わず、微粉低減性能試験及び遊離残留塩素除去性能試験でいずれも良好な結果が得られた。試作例13は、微粉の発生が低減されて吸着性能も優れていることから、浄水フィルター体として適切に使用することが可能である。また、試作例2,14,15では、溶解性鉛除去性能試験、微粉低減性能試験、遊離残留塩素除去性能試験のいずれでも良好な結果が得られた。従って、粉末状吸着材は、活性炭、三チタン酸ナトリウム、ゼオライト、ケイ酸チタニウムのいずれも好適に使用できることがわかった。
【0054】
〔粉末状吸着材の含有量の比較〕
基材活性炭として前述の活性炭3を99.9重量部、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを0.1重量部、フィブリル化繊維バインダを6重量部の配合からなるフィルター体(紙力増強剤は添加せず)を比較例9とした。比較例9の配合に紙力増強剤(ポリアミドポリアミン系湿潤紙力増強剤、以下同じ)を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材0.1重量部に対しては0.001重量部)添加したフィルター体を試作例16とした。
【0055】
基材活性炭として前述の活性炭3を99.5重量部、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを0.5重量部、フィブリル化繊維バインダを6重量部の配合からなるフィルター体(紙力増強剤は添加せず)を比較例10とした。比較例10の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材0.5重量部に対しては0.005重量部)添加したフィルター体を試作例17とした。
【0056】
基材活性炭として前述の活性炭3を70重量部、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを30重量部、フィブリル化繊維バインダを6重量部の配合からなるフィルター体(紙力増強剤は添加せず)を比較例11とした。比較例11の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材30重量部に対しては0.3重量部)添加したフィルター体を試作例18とした。
【0057】
基材活性炭として前述の活性炭3を60重量部、粉末状吸着材として平均粒子径12μmのケイ酸チタニウムを40重量部、フィブリル化繊維バインダを6重量部の配合からなるフィルター体(紙力増強剤は添加せず)を比較例12とした。比較例12の配合に紙力増強剤を粉末状吸着材100重量部に対して1.0重量部(表に示す粉末状吸着材40重量部に対しては0.4重量部)添加したフィルター体を試作例19とした。なお、下記表8では、基材活性炭を90重量部かつ粉末状吸着材を10重量部とした比較例1及び試作例2もそれぞれ列記した。
【0058】
【0059】
【0060】
〔粉末状吸着材の含有量の比較の結果と考察〕
表8,9に示すように、比較例12及び試作例19では、フィルター体の作製に際して、形状を適切に保持できず、成形することができなかった。他の比較例1,9~11及び試作例2,16~18では、フィルター体の成形は良好であった。比較例12及び試作例19は、他の比較例1,9~11及び試作例2,16~18と比較して粉末状吸着材の含有量が過剰(40重量部)であることから、フィルター体の十分な成形性を得る条件として、粉末状吸着材の含有量は30重量部以下が好ましいと考えられる。なお、試作例19については、フィルター体の成形ができなかったため、微粉低減性能試験、遊離残留塩素除去性能試験、溶解性鉛除去性能試験に関する測定は実施しなかった。
【0061】
試作例2,16~18について、微粉低減性能試験及び遊離残留塩素除去性能試験は、いずれも良好な結果が得られた。また、溶解性鉛除去性能試験について、試作例16では溶解性鉛除去率が92.8%であったが、所望する性能には達しなかった。試作例2,17,18では、いずれも良好な結果が得られた。試作例16は、他の試作例2,17,18と比較して粉末状吸着材が微量(0.1重量部)であることから、良好な溶解性鉛除去性能を得る条件として、粉末状吸着材の含有量は0.5重量部以上が好ましいと考えられる。従って、フィルター体の成形性の条件と溶解性鉛除去性能の条件とから、粉末状吸着材の適正な含有量は0.5~30重量部であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の浄水フィルター体は、粉末状吸着材が含まれて吸着性能が向上されるとともに、紙力増強剤により末状吸着材由来の微粉の流出が低減されるため、高性能で通水時の不具合の発生が低減される。従って、従来の浄水フィルター体の代替として有望である。
【符号の説明】
【0063】
10 浄水フィルター体
11 中空筒部材
12 濾材
13 布状物
14 キャップ
20 フィルター体の製造装置
21 水槽
22 金型棒状部材
23 中空筒部材と金型棒状部材の一体化物
25 乾燥機
30 混合スラリー状物
31 基材活性炭
32 粉末状吸着材
33 フィブリル化繊維バインダ
34 紙力増強剤
35 吸着被着物
36 濾材部の成分
37 スラリー被着部
W 水