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  • 特許-ショットピーニング条件の設定方法 図1
  • 特許-ショットピーニング条件の設定方法 図2
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  • 特許-ショットピーニング条件の設定方法 図4
  • 特許-ショットピーニング条件の設定方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ショットピーニング条件の設定方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/10 20060101AFI20230501BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20230501BHJP
   B24C 7/00 20060101ALI20230501BHJP
   B23F 19/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B24C1/10 D
B24C1/10 G
B24C3/32 Z
B24C7/00 E
B24C7/00 Z
B23F19/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019046107
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020146797
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 幹夫
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-201569(JP,A)
【文献】特開2013-220509(JP,A)
【文献】特開2000-280120(JP,A)
【文献】特開2003-159651(JP,A)
【文献】米国特許第04614100(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/10
B24C 3/32
B24C 7/00
B23F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車やスプラインの歯の歯形状の形態を有する処理製品をショットピーニング処理するショットピーニング装置のショットピーニング条件の設定方法であって、
前記歯車やスプラインの歯の歯たけとモジュールで決まる異なる歯形状の数種の被処理製品および粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎に、複数の投射圧力、投射時間における圧縮残留応力および投射材流量に対してピークを持つ非線形特性である圧縮残留応力を計測する工程と、
前記数種の被処理製品および前記粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎に、前記複数の投射圧力、投射時間および投射材流量に対する前記圧縮残留応力の特性を取得する工程と、
前記数種の被処理製品および前記粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎の前記圧縮残留応力の特性より、目標圧縮残留応力を達成する投射圧力および投射時間を決定し、前記決定した投射圧力および投射時間に対応する前記投射材流量の圧縮残留応力の特性の前記ピークとなる領域の投射材流量最適な値として決定する工程と、を有する、
ことを特徴とするショットピーニング条件の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットピーニング条件の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークに最適な圧縮残留応力を付与するためにワークおよび投射材毎に、投射圧力、投射材流量、管理値を計測し、投射圧力を最低にする投射材流量を決定するショットピーニング条件の設定方法の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-159651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、歯車やスプラインの歯をショットピーニングにて目標圧縮残留応力を付与する場合に、ノズルから投射された投射材と歯底付近で反射した投射材が衝突することで目標圧縮残留応力を付与できないことがある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、製品仕様の異なるものであっても、処理製品に目標圧縮残留応力を安定的に付与することができるショットピーニング条件の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のショットピーニング条件の設定方法では、歯車やスプラインの歯の歯たけとモジュールで決まる異なる歯形状の数種の被処理製品および粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎に、複数の投射圧力、投射時間における圧縮残留応力および投射材流量に対してピークを持つ非線形特性である圧縮残留応力を計測する工程と、数種の被処理製品および粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎に、複数の投射圧力、投射時間および投射材流量に対する圧縮残留応力の特性を取得する工程と、数種の被処理製品および粒径、硬度別に数種の投射材のそれぞれの組合わせ毎の圧縮残留応力の特性より、目標圧縮残留応力を達成する投射圧力および投射時間を決定し、決定した投射圧力および投射時間に対応する投射材流量の圧縮残留応力の特性のピークとなる領域の投射材流量最適な値として決定する工程を有するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明のショットピーニング条件の設定方法では、最適な投射材流量を決定することができるので、省エネを図ることができるとともに、安定的に目標圧縮残留応力を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1のショットピーニングマシンの構成を示す図である。
図2】実施形態1の計測する工程を示すフローチャートである。
図3】実施形態1の特性を取得する工程を示すフローチャートである。
図4】実施形態1の投射流量の最適値を算出する工程を示すフローチャートである。
図5】(a)は、実施形態1の投射圧力Pと圧縮残留応力σとの特性を示し、(b)は、投射時間tと圧縮残留応力σとの特性を示し、(c)は、投射材流量Vと圧縮残留応力σとの特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態1]
図1は、実施形態1のショットピーニングマシンの構成を示す図であり、本発明のショットピーニング条件の設定方法を実施する装置である。
【0010】
[構成]
ショットピーニングマシン(ショットピーニング装置)1は、投射材αを回収して貯蔵する投射材貯蔵器2と、投射材貯蔵器2からの投射材αがショットゲート3を経由して供給される加圧タンク4と、目標とする投射材流量Vに調整する投射材流量調整器5と、投射室12内にて投射材αを目標投射圧力に調整されたエアa2とともに、歯形状の形態を有する歯車やスプライン等のワーク(処理製品)Wに目標とする投射時間tの間、投射材αを投射するノズル13と、投射材αを回収し投射材貯蔵器2へ戻す投射材回収室14とを備えている。
投射材貯蔵器2は、投射材αが所定の粒径より小さくなると、すなわち、摩耗した投射材αを集塵機15へ送り、廃棄する。
なお、加圧タンク4には、電動ポンプ6が供給する圧縮されたエアaを流量計7および所定圧力に調整する流量調整弁8を経由して、所定圧力のエアa1が供給されており、エアa1により加圧タンク4から投射材流量調整器5へ投射材αを送り込んでいる。
また、投射材流量調整器5から供給された投射材αは、投射圧力Pを調整する差圧弁10から供給される目標とする投射圧力Pのエアa2と合流してノズル13へ供給される。
圧力計9、11は、所定圧に調整されているか否かの確認のために、取付けられている。
【0011】
図2は、実施形態1の計測する工程を示すフローチャートである。
【0012】
ステップS1では、数種のワークWと、投射材αの粒径、硬度別に数種の投射材αを選択する。
なお、選択する数種のワークWは、歯車やスプラインの歯の歯たけ(歯底と歯先の距離)とモジュールで決まる異なる歯形状の数種のワークWを選択する。
この歯形状とは、大別すると伝達軸に形成したスプラインと遊星歯車のサンギヤやピニオンなどの外歯ギヤを表し、ともに動力伝達部位である。
スプラインは、軸周りにキー状の山と谷を等間隔に数条削り、または転造などで伝達軸に形成したものである。ボスには、これとはまり合うスプライン穴が切られ、動力を伝達する。なお、数条の歯で分担するため大きなトルクを伝達できる。
遊星歯車の外歯であるサンギヤ、ピニオンは、ギヤ諸元であるモジュール、歯たけなど歯のサイズ、歯間ピッチなどが異なる。ショットの投射の動作は、歯筋方向に移動しながら軸を回転させてショットピーニング加工を行う。
なお、投射範囲、投射距離が異なるため、あらかじめ実験、シュミレーションで投射材流量Vを計測し管理する。
ステップS2では、適用するショットピーニングマシン1の能力から、数種の投射圧力P、投射時間t、投射材流量Vを選択する。
ステップS3では、選択した数種のワークWと投射材α、投射圧力P、投射時間t、投射材流量Vのそれぞれの組み合わせにて、ワークWに対し投射を行い、ワークWの圧縮残留応力σを計測する。
【0013】
図3は、実施形態1の特性を取得する工程を示すフローチャートである。
【0014】
ステップS11では、選択した数種のワークWと投射材α、投射圧力P、投射時間t、投射材流量Vのそれぞれの組み合わせにて計測した圧縮残留応力σの特性を取得する。
【0015】
図4は、実施形態1の投射流量の最適値を算出する工程を示すフローチャートである。
【0016】
ステップS21では、選択したワークWと投射材αの中で、使用するワークWと投射材αの投射圧力Pの特性、および投射時間tの特性から、目標残留応力σaを達成する投射圧力P、投射時間tを決定し、この決定した投射圧力P、投射時間tに対応した投射流量Vの特性から、目標残留応力σaを達成する投射流量Vの最適値を算出する。
【0017】
図5(a)は、実施形態1の投射圧力Pと圧縮残留応力σとの特性を示し、(b)は、投射時間tと圧縮残留応力σとの特性を示し、(c)は、投射材流量Vと圧縮残留応力σとの特性を示した図である。
すなわち、使用するワークWと投射材αでの特性を示している。
投射圧力Pおよび投射時間tは、いずれも投射圧力Pおよび投射時間tが大きくなるに従い、圧縮残留応力σは比例して上昇する線形性を有している。
別のワークWと投射材αでも、同様の特性を有している。
そこで、それぞれ目標圧縮残留応力σaを達成するために、投射圧力Pは1MPa、投射時間tは15secに決定する。
図5(c)に示すように、この決定した投射圧力P、投射時間tに対応した投射流量Vの特性は、線形性を有しておらず、目標圧縮残留応力σaを越える圧縮残留応力σtを付与する投射流量Vが1.5kg/minでピークを持つ特性である。
別の投射圧力P、投射時間tでも、同様の特性を有している。
このため、投射流量Vの最適値として、1.5kg/minを決定する。
【0018】
次に、作用効果を説明する。
実施形態1のショットピーニング条件の設定方法にあっては、以下に列挙する作用効果を奏する。
【0019】
(1)ワークWおよび投射材α毎に、投射圧力P、投射時間tおよび投射材流量Vを計測する工程と、ワークWおよび投射材α毎に、投射圧力P、投射時間tおよび投射材流量Vの特性を取得する工程と、目標圧縮残留応力σaを達成するために、使用するワークおよび投射材の前記特性より、決定した投射圧力Pおよび投射時間tから非線形特性を有する投射材流量Vの最適な値を算出する工程を有するようにした。
よって、最適な投射材流量Vを算出することができるので、省エネを図ることができるとともに、安定的に目標圧縮残留応力σaを得ることができる。
【0020】
[他の実施形態]
以上、本発明を実施するための形態を実施形態に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施形態に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0021】
1 ショットピーニングマシン(ショットピーニング装置)
α 投射材
P 投射圧力
t 投射時間
V 投射材流量
σ 圧縮残留応力
σa 目標圧縮残留応力
W ワーク(処理製品)
図1
図2
図3
図4
図5