(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20230501BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230501BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230501BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20230501BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
H02P21/22
B62D6/00
B62D5/04
H02P25/22
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018085451
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】新井 武
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169405(JP,A)
【文献】特開2007-274849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
B62D 6/00
B62D 5/04
H02P 25/22
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2組の巻線組を有するモータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記モータを駆動するための電流指令値を演算する演算部と、
前記演算部により演算された前記電流指令値に基づいて前記巻線の一方に第1の電流を流して前記モータを駆動する第1のモータ駆動部と、
前記演算部により演算された前記電流指令値に基づいて前記巻線の他方に第2の電流を流して前記モータを駆動する第2のモータ駆動部と、
前記第1のモータ駆動部から前記モータに流れる前記第1の電流を検出する第1の電流検出部と、
前記第2のモータ駆動部から前記モータに流れる前記第2の電流を検出する第2の電流検出部と、を備え、
前記演算部は、前記第1の電流検出部及び前記第2の電流検出部の少なくとも一方の異常を判定する場合に、前記第1のモータ駆動部に第1のd軸電流指令値及び第1のq軸電流指令値
により定まる大きさの第1の強制電流を供給すると共に、前記第2のモータ駆動部に第2のd軸電流指令値及び第2のq軸電流指令値
により定まる大きさの第2の強制電流を供給し、
前記第2のq軸電流指令値を前記第1のq軸電流指令値に対して逆位相にして、前記第1の強制電流がd軸となす角度をα、前記第2の強制電流がd軸となす角度を-αとし、0<α≦10度と
し、
前記モータ制御装置は、
前記第1の電流検出部により検出された前記モータの各相における前記第1の強制電流と前記第2の電流検出部により検出された前記モータの各相における前記第2の強制電流とに基づいて、前記第1の電流検出部及び第2の電流検出部の少なくとも一方の異常を判定する異常判定部を更に備える、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記演算部は、さらに、前記第1のモータ駆動部に前記第1の強制電流のq軸電流指令値とは逆位相のq軸電流指令値
により定まる大きさの第3の強制電流を供給すると共に、前記第2のモータ駆動部に前記第3の強制電流のq軸電流指令値に対して逆位相のq軸電流指令値
により定まる大きさの第4の強制電流を供給する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記第1の電流検出部で検出された前記モータの各相に流れる前記第1の強制電流の
値の和及び前記第2の電流検出部で検出された前記モータの各相に流れる前記第2の強制電流の
値の和の少なくとも一方に基づいて前記第1の電流検出部及び前記第2の電流検出部の少なくとも一方の異常の有無を判定する、
請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
運転者のハンドル操作を補助する電動パワーステアリング装置であって、
ハンドル操作によるトルクを検出するトルクセンサと、
前記請求項1から
3の何れか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により駆動される前記モータと、
を備える、電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の電動パワーステアリング装置は、ハンドルの操作によりステリングシャフトに発生する操舵トルク及び車速を検出し、その検出信号に基づいてモータを駆動することでハンドルの操舵力を補助する。電動パワーステアリング装置の制御は、CPU(Central Processing Unit)を含む制御装置により実行される。
【0003】
制御装置は、トルクセンサで検出された操舵トルクと車速センサで検出された車速とに基づいて、モータに供給する電流の大きさを演算し、その演算結果に基づいてモータに供給する電流の制御を行っている。また、制御装置は、電流検出部により検出されたモータに流れる実際の電流を取得し、取得した電流が操舵トルク等に基づいて演算された目標値に一致するようにフィードバック制御を行っている。
【0004】
ところで、上述した制御装置の電流検出部に故障が発生した場合には、モータに流れる電流を正確に検出することができない。その結果、電流検出部が故障したままモータの制御を続けることで、モータに過大なモータ駆動力が供給されてしまう場合がある。一方で、モータに必要な電流が流れないことで、モータに十分なモータ駆動力を供給できない場合もある。これらの場合、ハンドルを最適な操舵力で補助することができないという問題がある。そのため、制御装置の起動時に初期診断を行い、電流検出部の異常の有無を判定し、電流検出部の正常な場合にモータ駆動制御を開始する。
【0005】
例えば、特許文献1には、電流検出器の異常診断を行うモードを備えた電動式パワーステアリング装置が開示されている。電動式パワーステアリング装置では、トルク成分であるq軸電流成分を零(ゼロ)と共に磁界成分であるd軸電流成分を定数値とし、モータを回転させることなく、検出結果に基づいてモータ電流検出値から電流検出器の異常を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示される電動式パワーステアリング装置では、以下のような問題がある。すなわち、トルク成分であるq軸電流成分を零とし、磁界成分であるd軸電流成分を定数値とした場合、モータトルクの発生を回避することはできるが、モータに流れる各相の角度によっては電流に振幅が現れない場合がある。この場合には、電流検出器が正常に機能しているか否かの診断を実施することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、初期診断時において、モータを回転させることなく、電流検出部の異常の有無を診断することが可能なモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的なモータ制御装置は、2組の巻線組を有するモータの駆動を制御するモータ制御装置であって、前記モータを駆動するための電流指令値を演算する演算部と、前記演算部により演算された前記電流指令値に基づいて前記巻線の一方に第1の電流を流して前記モータを駆動する第1のモータ駆動部と、前記演算部により演算された前記電流指令値に基づいて前記巻線の他方に第2の電流を流して前記モータを駆動する第2のモータ駆動部と、前記第1のモータ駆動部から前記モータに流れる前記第1の電流を検出する第1の電流検出部と、前記第2のモータ駆動部から前記モータに流れる前記第2の電流を検出する第2の電流検出部と、を備える。前記演算部は、前記第1の電流検出部及び前記第2の電流検出部の少なくとも一方の異常を判定する場合に、前記第1のモータ駆動部に第1のd軸電流指令値及び第1のq軸電流指令値により定まる大きさの第1の強制電流を供給すると共に、前記第2のモータ駆動部に第2のd軸電流指令値及び第2のq軸電流指令値により定まる大きさの第2の強制電流を供給し、前記第2のq軸電流指令値を前記第1のq軸電流指令値に対して逆位相にして、前記第1の強制電流がd軸となす角度をα、前記第2の強制電流がd軸となす角度を-αとし、0<α≦10度とし、前記第1の電流検出部により検出された前記モータの各相における前記第1の強制電流と前記第2の電流検出部により検出された前記モータの各相における前記第2の強制電流とに基づいて、前記第1の電流検出部及び第2の電流検出部の少なくとも一方の異常を判定する異常判定部を備える。
【0010】
また、本発明の例示的なモータ制御装置は、運転者のハンドル操作を補助する電動パワーステアリング装置であって、ハンドル操作によるトルクを検出するトルクセンサと、上記モータ制御装置と、前記モータ制御装置により駆動される前記モータと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の電流検出部及び第2の電流検出部に異常が発生したか否かを診断する場合に、2組の巻線組を有するモータのそれぞれに互いに逆位相となる電流を供給するので、モータトルクの発生を相殺することができる。これにより、モータの回転を防止しつつ、モータに流れる電流の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、電動パワーステアリング装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、電流検出部の診断を行う際に用いる診断用の電流指令値を説明するための図である。
【
図4】
図4は、電流検出部の診断時における電動パワーステアリング装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5A】
図5Aは、第1診断時に用いる電流指令値を説明するための図である。
【
図5B】
図5Bは、第2診断時に用いる電流指令値を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上拡張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0014】
<電動パワーステアリングシステム10の構成例>
図1は、電動パワーステアリングシステム10の概略構成の一例を示す図である。電動パワーステアリングシステム10は、自動車等の輸送機器において、運転者のハンドル操作を補助する装置である。電動パワーステアリングシステム10は、
図1に示すように、ステアリングホイール(以下「ハンドル」ともいう)12と、電動パワーステアリング装置20と、電源供給源80と、車輪82とを備える。
【0015】
電動パワーステアリング装置20は、トルクセンサ22と、モータ制御装置30と、モータ70とを有する。トルクセンサ22は、ステアリングシャフト14に取り付けられている。トルクセンサ22は、運転者によるステアリングホイール12の操作によりステアリングシャフト14が回転すると、ステアリングシャフト14にかかるトルクを検出する。トルクセンサ22の検出信号であるトルク信号は、トルクセンサ22により検出されたモータ制御装置30へ出力される。
【0016】
モータ制御装置30は、電源供給源80から得られる電力を利用し、トルクセンサ22から入力されるトルク信号に基づいてモータ70に駆動電流を供給することでモータ70を駆動する。なお、モータ制御装置30は、トルク信号だけではなく、例えば車速等の他の情報等を用いてモータ70を駆動させることができる。
【0017】
モータ70から生じる駆動力は、ギアボックス84を介して車輪82に伝達される。これにより、車輪82の舵角が変化する。このように、電動パワーステアリング装置20は、ステアリングシャフト14のトルクを、モータ70により増幅させて、車輪82の舵角を変化させる。したがって、運転者は、軽い力でステアリングホイール12を操作することができる。
【0018】
<電動パワーステアリング装置20の構成例>
図2は、電動パワーステアリング装置20の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、電動パワーステアリング装置20は、モータ制御装置30と、モータ70と、回転角センサ76とを備える。
【0019】
モータ制御装置30は、マイコン及び駆動回路等を含み、二重巻線のモータ70を駆動制御するために2系統で構成される。冗長設計によって2系統の構成を採用することで、一方の系統が故障した場合でも、他方の系統によってモータ70の駆動を継続することができるため、信頼性の向上を図ることができる。モータ制御装置30は、第1系統側の第1系統制御部100、第1系統インバータ160及び電流検出部180と、第2系統側の第2系統制御部200、第2系統インバータ260及び電流検出部280と、診断用指令値演算部300と、異常判定部310とを備える。
【0020】
第1系統制御部100は、電流指令値演算部110と、電流制限値設定部120と、加算器130,132と、制御器140と、2相/3相変換部150と、3相/2相変換部170とを有する。
【0021】
電流指令値演算部110は、トルクセンサ22(
図1参照)から供給される操舵トルク信号Tqに基づいて、磁界成分であるd軸電流指令値Id1及びトルク成分であるq軸電流指令値Iq1を演算する。演算により得られたd軸電流指令値Id1及びq軸電流指令値Iq1は、電流制限値設定部120に出力される。
【0022】
電流制限値設定部120は、d軸電流指令値Id1及びq軸電流指令値Iq1に基づいて、d軸電流指令値Id1の上限となるd軸電流指令値Id1*を設定すると共に、q軸電流指令値Iq1の上限となるq軸電流指令値Iq1*を設定する。d軸電流指令値Id1*は加算器130に出力され、q軸電流指令値Iq1*は加算器132に出力される。
【0023】
3相/2相変換部170は、回転角センサ76からフィードバックされた角度信号θに基づいて、電流検出部180で検出された3相の電流Iu1,Iv1,Iw1をdq変換し、d軸電流値Id1**及びq軸電流値Iq1**を取得する。変換により得られたd軸電流値Id1**は加算器130に出力され、q軸電流値Iq1**は加算器132に出力される。
【0024】
加算器130は、電流制限値設定部120からのd軸電流指令値Id1*と3相/2相変換部170からのd軸電流値Id1**との差分Ddを算出する。算出された差分Ddは、制御器140に出力される。同様に、加算器132は、電流制限値設定部120からのq軸電流指令値Iq1*と3相/2相変換部170からのq軸電流値Iq1**との差分Dqを算出する。算出された差分Dqは、制御器140に出力される。
【0025】
制御器140は、加算器130からの差分Dd、及び加算器132からの差分Dqをゼロに収束させるように、例えばPI(比例積分)制御演算等に基づいて電圧指令値Vd1,Vq1を演算する。演算により得られた電圧指令値Vd1,Vq1は、2相/3相変換部150に出力される。
【0026】
2相/3相変換部150は、回転角センサ76からフィードバックされた角度信号θに基づいて、2相の電圧指令値Vd1,Vq1をu相、v相、w相の3相電圧指令値Vu1,Vv1、Vw1に逆dq変換する。逆dq変換された3相電圧指令値Vu1,Vv1、Vw1は、第1系統インバータ160に出力される。
【0027】
第1系統インバータ160は、ブリッジ接続された6個のスイッチング素子を有する。スイッチング素子としては、例えばMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。第1系統インバータ160は、図示しないPWM生成部から供給されるPWM信号に基づいてスイッチング素子を駆動することで、2相/3相変換部150からの3相電圧指令値Vu1,Vv1、Vw1をモータ70に印加する。なお、上述した3相インバータ回路等の構成は公知技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0028】
電流検出部180は、第1系統インバータ160からモータ70の各相に流れる3相の電流Iu1,Iv1,Iw1を検出する。検出された3相の電流Iu1,Iv1,Iw1は、3相/2相変換部170及び異常判定部310のそれぞれに出力される。
【0029】
第2系統側の第2系統制御部200は、電流指令値演算部210と、電流制限値設定部220と、加算器230,232と、制御器240と、2相/3相変換部250と、3相/2相変換部270とを有する。なお、これら第2系統側の第2系統制御部200、第2系統インバータ260及び電流検出部280の構成及び機能は、上述した第1系統側と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
診断用指令値演算部300は、例えばイグニッションキーのオンによりモータ制御装置30が起動されると初期診断において、電流検出部180,280が正常であるかを判定する診断モードを実行する。診断用指令値演算部300は、診断モードにおいて、第1系統側の電流検出部180の診断を行う際に用いる、d軸電流指令値Id1´及びq軸電流指令値Iq1´を第1系統制御部100の制御器140に供給する。同様に、診断用指令値演算部300は、第2系統側の電流検出部280の診断を行う際に用いる、d軸電流指令値Id2´及びq軸電流指令値Iq2´を第2系統制御部200の制御器240に供給する。これらの診断用のd軸電流指令値Id1´等は、例えば図示しないメモリに予め記憶される。なお、診断用の電流指令値については後述する。
【0031】
異常判定部310は、電流検出部180,280により検出された3相の電流Iu1,Iv1,Iw1と、Iu2,Iv2,Iw2とに基づいて、電流検出部180,280が正常であるか、又は異常であるかを判定する。本実施の形態では、第1回目の第1診断に加えて、第2回目の第2診断の合計2回の診断を実施する。
【0032】
モータ70は、例えば、3相ブラシレスモータにより構成される。モータ70は、2組の巻線72,74を有し、第1系統インバータ160及び第2系統インバータ260の少なくとも一方の駆動によって回転駆動する。
【0033】
回転角センサ76は、モータ70の回転軸に対向するように取り付けられている。回転角センサ76は、モータ70の回転軸の角度変化に応じて角度信号θを検出する。検出された角度信号θは、2相/3相変換部150、3相/2相変換部170、2相/3相変換部250及び3相/2相変換部270に出力される。なお、回転角センサ76としては、例えば、レゾルバ又はMRセンサ等の公知の角度検出器を用いることができる。
【0034】
図3は、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の診断時に用いる電流指令値を説明するための図である。なお、
図3において、縦軸はd軸電流指令値であり、横軸はq軸電流指令値である。
【0035】
図3に示すように、第1系統制御部100には、「d軸方向+α」におけるd軸電流指令値Id1´及びq軸電流指令値Iq1´を含む強制電流I1が供給される。第2系統制御部200には、「d軸方向-α」におけるd軸電流指令値Id2´及びq軸電流指令値Iq2´を含む強制電流I2が供給される。
【0036】
第1系統用のd軸電流指令値Id1´と第2系統用のd軸電流指令値Id2´とは、同一の定数値であり、例えば+Y[A]に設定される。また、第2系統用のq軸電流指令値Iq2´は、第1系統用のq軸電流指令値Iq1´に対して逆位相に設定される。具体的には、第1系統用のq軸電流指令値Iq1´はx[A]に設定され、第2系統用のq軸電流指令値Iq2´は-x[A]に設定される。
【0037】
このように、本実施の形態では、q軸電流指令値Iq2´をq軸電流指令値Iq1´に対して逆位相(マイナス)としてq軸成分を相殺させるので、q軸電流指令値をゼロとすることができる。これにより、電流検出部180等の診断時において、モータ70を回転させずに、d軸近傍の異なる2点に診断用の強制電流I1,I2を流し、各検出結果に基づいて電流検出部180等の異常を判定することができる。
【0038】
なお、強制電流I1,I2の角度αは、例えば0度超~10度以下に設定することが好ましい。これは、本実施の形態では、第1系統用のq軸電流指令値Iq1´と第2系統用のq軸電流指令値Iq2´とを互いに相殺するように設定するが、モータ70の起電圧定数、抵抗、インダクタンスのばらつきによって、モータ70に微小なトルク差分が発生する可能性も想定されるからである。そのため、角度αを小さく設定することで、q軸成分のモータトルクが生じた場合でも、そのモータトルクを最小に抑えることができる。なお、トルク差分を補正するための情報を不揮発性メモリ等に予め記憶すると共に、この補正情報を読み出して用いることによりトルク差分を抑制するようにしても良い。
【0039】
<電動パワーステアリング装置20の診断時の動作例>
図4は、第1系統側の電流検出部180及び第2系統側の電流検出部280の異常の有無を診断する診断モードの実行時におけるモータ制御装置30の動作の一例を示すフローチャートである。なお、診断モードでは、第1診断を実施した後、第2診断を実施する例について説明する。
図5Aは第1診断時に用いる電流指令値を説明するための図であり、
図5Bは第2診断時に用いる電流指令値を説明するための図である。
【0040】
図4に示すように、ステップS10において、診断用指令値演算部300は、イグニッションキーがオンされた直後のタイミングで、診断モードの実施条件が成立したか否かを判定する。診断モードの実施条件としては、例えば、電源リレーのオン、モータリレーのオン、及びモータの回転数が所定回転数以下となったか等が挙げられる。続けて、ステップS20に進む。
【0041】
ステップS20において、診断用指令値演算部300は、第1診断で使用する診断用電流指令値に切り換える。
図5Aに示すように、診断用指令値演算部300は、第1系統用の「d軸方向+α」における強制電流I1_P1に切り換えると共に、第2系統用の「d軸方向-α」における強制電流I2_P1に切り換える。強制電流I1_P1にはd軸電流指令値Id1´_P1及びq軸電流指令値Iq1´_P1が含まれ、強制電流I2_P1にはd軸電流指令値Id2´_P1及びq軸電流指令値Iq2´_P1が含まれる。
【0042】
なお、
図3で説明したように、第1系統用のq軸電流指令値Iq1´_P1と第2系統用のq軸電流指令値Iq2´_P1とは逆位相に設定される。また、診断用の強制電流I1_P1及び強制電流I2_P1(以下、強制電流I1_P1等という場合がある)は例えば40Aに設定され、診断開始時から徐々に目標の40Aに近づくように制御される。これは、ノイズに対して許容を持たせた大きさに強制電流I1_P1等を設定しないと、ノイズの影響による検出電流のバラつきによって強制電流I1_P1等を誤検出してしまったり、不検出となる場合があるからである。なお、診断用の強制電流I1_P1等の値は、誤検出を回避できる値であれば40Aに限定されることはない。続けて、ステップS30に進む。
【0043】
ステップS30において、診断用指令値演算部300は、第1診断を実施する。診断用指令値演算部300は、d軸電流指令値Id1´_P1及びq軸電流指令値Iq1´_P1を第1系統制御部100の制御器140に出力すると同時に、d軸電流指令値Id2´_P1及びq軸電流指令値Iq2´_P1を第2系統制御部200の制御器240に出力する。続けて、ステップS40に進む。
【0044】
ステップS40において、異常判定部310は、第1診断の実施により電流検出部180で検出された電流Iu1_P1,Iv1_P1,Iw1_P1を取得し、第1系統側の電流検出部180の異常の有無を以下の条件(1),(2)に基づいて判定する。
【0045】
|電流Iu1_P1|+|電流Iv1_P1|+|電流Iw1_P1|≧20A・・・(1)
電流Iu1_P1+電流Iv1_P1+電流Iw1_P1≦10A・・・(2)
【0046】
異常判定部310は、電流検出部180で検出されたモータ70の各相に流れる「d軸方向+α」における電流Iu1_P1,Iv1_P1,Iw1_P1の絶対値の和演算を行い、その演算結果が閾値としての20A以上になる場合に第1系統側の電流検出部180が正常であると判定する。なお、閾値は、20Aに限定されることはない。また、その他の条件(2)及び後述する条件(3)~(6),(10),(11)等についても条件(7)と同様に判定を行うことができるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
また、異常判定部310は、第1診断において、第1診断の実施により電流検出部280で検出された電流Iu2_P1,Iv2_P1,Iw2_P1を取得し、第2系統側の電流検出部280の異常の有無を以下の条件(3),(4)に基づいて判定する。
【0048】
|電流Iu2_P1|+|電流Iv2_P1|+|電流Iw2_P1|≧20A・・・(3)
電流Iu2_P1+電流Iv2_P1+電流Iw2_P1≦10A・・・(4)
【0049】
異常判定部310は、条件(1)~(4)の何れかの条件を満たさない場合、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の少なくとも一方が異常であると判定する。例えば、異常判定部310は、診断開始から数百msec経過しても条件(1),(2)を満たさない場合に電流検出部180が異常であると判定し、診断開始から数百msec経過しても条件(3),(4)を満たさない場合に電流検出部280が異常であると判定する。電流検出部180,280が異常であると判定した場合には、ステップS90に進む。
【0050】
ステップS90において、異常判定部310は、第1系統の電流検出部180が異常であると判定した場合、第1系統インバータ160の使用を禁止する警告を実施する。同様に、第2系統の電流検出部280が異常であると判定した場合、第2系統インバータ260の使用を禁止する警告を行う。警告は、例えば、LED等を点灯したり、表示部に警告内容を表示することにより行う。また、異常判定部310は、診断用の強制電流I1_P1等の出力を停止するよう、診断用指令値演算部300に指示する。
【0051】
一方、ステップS40において、異常判定部310は、第1診断の全ての条件(1)~(4)を満たすと判定した場合、第1診断に続けて第2診断を実施するためにステップS50に進む。
【0052】
ステップS50において、診断用指令値演算部300は、第2診断で使用する判定用電流指令値に切り換える。
図5Bに示すように、診断用指令値演算部300は、第1系統用の「d軸方向-α」における強制電流I1_P2に切り換えると共に、第2系統用の「d軸方向+α」における強制電流I2_P2に切り換える。強制電流I1_P2にはd軸電流指令値Id1´_P2及びq軸電流指令値Iq1´_P2が含まれ、強制電流I2_P2にはd軸電流指令値Id2´_P2及びq軸電流指令値Iq2´_P2が含まれる。続けて、ステップS60に進む。
【0053】
ステップS60において、診断用指令値演算部300は、第2診断を実施する。診断用指令値演算部300は、d軸電流指令値Id1´_P2及びq軸電流指令値Iq1´_P2を第1系統制御部100の制御器140に出力すると同時に、d軸電流指令値Id2´_P2及びq軸電流指令値Iq2´_P2を第2系統制御部200の制御器240に出力する。続けて、ステップS70に進む。
【0054】
ステップS70において、異常判定部310は、第2診断の実施により電流検出部180で検出された電流Iu1_P2,Iv1_P2,Iw1_P2を取得し、電流検出部180の異常の有無を以下の条件(5)~(9)に基づいて判定する。
【0055】
|電流Iu1_P2|+|電流Iv1_P2|+|電流Iw1_P2|≧20A・・・(5)
電流Iu1_P2+電流Iv1_P2+電流Iw1_P2≦10A・・・(6)
|電流Iu1_P1|+|電流Iu1_P2|≧5A・・・(7)
|電流Iv1_P1|+|電流Iv1_P2|≧5A・・・(8)
|電流Iw1_P1|+|電流Iw1_P2|≧5A・・・(9)
【0056】
例えば、条件(7)~(9)においては、「d軸方向±α(α=10度)」とした場合における第1診断及び第2診断時の2回の電流振幅の合計値を満足できる値であり、誤検出しないような値が閾値として設定される。
【0057】
そこで、異常判定部310は、第1診断時のu相の「d軸方向+α」における電流Iu1_P1の振幅の絶対値と第2診断時のu相の「d軸方向-α」における電流Iu1_P2の振幅の絶対値との加法演算を行い、その加算値が閾値としての5A以上か否かを判定する。本実施の形態では、許容を持たせるために、閾値を5A以上に設定するが、この値に限定されることはない。これにより、第1診断及び第2診断時の異なる(逆位相の)2点の電流振幅を用いることで、電流振幅のゼロクロスでの検出を確実に回避できる。なお、その他の条件(8),(9)及び後述する条件(12)~(14)等についても条件(7)と同様に判定を行うことができるため、詳細な説明は省略する。
【0058】
また、異常判定部310は、第2診断において、第2診断の実施により電流検出部280で検出された電流Iu2_P2,Iv2_P2,Iw2_P2を取得し、その結果に基づいて電流検出部280の異常の有無を以下の条件(10)~(14)に基づいて判定する。
【0059】
|電流Iu2_P2|+|電流Iv2_P2|+|電流Iw2_P2|≧20A・・・(10)
電流Iu2_P2+電流Iv2_P2+電流Iw2_P2≦10A・・・(11)
|電流Iu2_P1|+|電流Iu2_P2|≧5A・・・(12)
|電流Iv2_P1|+|電流Iv2_P2|≧5A・・・(13)
|電流Iw2_P1|+|電流Iw2_P2|≧5A・・・(14)
【0060】
ステップS70において、異常判定部310は、条件(5)~(14)の何れかの条件を満たさない場合、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の少なくとも一方が異常であると判定する。例えば、異常判定部310は、診断開始から数百msec経過しても条件(5)~(9)を満たさない場合に電流検出部180が異常であると判定し、診断開始から数百msec経過しても条件(10)~(14)を満たさない場合に電流検出部280が異常であると判定する。電流検出部180,280が異常であると判定した場合には、ステップS90に進む。
【0061】
ステップS90において、異常判定部310は、電流検出部180,280の異常を判定した場合、上述したように第1系統インバータ160及び第2系統インバータ260の少なくとも一方の使用を禁止する警告を実施する。
【0062】
一方、ステップS70において、異常判定部310は、第2診断の条件(5)~(14)の全ての条件を満す場合、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の両方が正常であると判定し、ステップS80に進む。
【0063】
ステップS80において、異常判定部310は、診断用の強制電流I1_P2等の出力を停止するよう診断用指令値演算部300に指示し、通常の運転制御モードに移行させる。診断用指令値演算部300は、電流制限値設定部120,220からのd軸及びq軸電流指令値に切り換えて通常の運転制御モードを実行する。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280に異常が発生したか否かを診断する場合に、2組の巻線72,74を有するモータ70のそれぞれに互いにq軸成分が逆位相であってd軸近傍の異なる2点に診断用の強制電流I1,I2を供給する。これにより、モータトルクの発生を相殺することができるので、モータ70の回転を防止しつつ、モータ70に流れる各相の電流Iu1,Iv1,Iw1と、Iu2,Iv2,Iw2との検出を行うことができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、第1診断に加えて第2診断を実施する。第2診断では、第1診断及び第2診断のそれぞれで検出したモータ70の各相における電流の振幅の合計値と設計値とを比較して診断を行うので、特定相の電流振幅が0A(ゼロクロス)になる角度であっても、電流検出値が0Aに固着していないことを確実に検出することができる。これにより、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の異常の判定の際における診断精度の向上を図ることができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、第1系統の電流検出部180及び第2系統の電流検出部280の故障を異常判定部310により判定できるので、故障したまま制御を続けて過大なモータ駆動力をモータ70に供給するという問題を防止できる。さらに、故障した例えば電流検出部180側のモータ70の駆動を停止して、故障していない例えば電流検出部280側のモータ70を駆動させてモータ駆動力を補填できるので、十分なモータ駆動力を維持することができる。これにより、モータ制御装置30の信頼性の向上を図ることができる。
【0067】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。上述した実施の形態では、系統毎に電流指令値演算部110,210を設けた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、電流指令値演算部110,210を一つの電流指令値演算部により構成し、各系統の電流制限値設定部120,220のそれぞれに電流指令値を出力するようにしても良い。
【0068】
また、本実施の形態では、電流検出部180,280の診断時に用いる電流指令値を出力するための診断用指令値演算部300を別途設けた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、診断用指令値演算部300を設けずに、各系統の電流指令値演算部110,210に診断用の電流指令値を出力させる機能を持たせても良い。さらに、電流指令値演算部110,210を単一の電流指令値演算部で構成し、この電流指令値演算部に診断用の電流指令値を出力させる機能を持たせても良い。
【符号の説明】
【0069】
20 電動パワーステアリング装置
22 トルクセンサ
30 モータ制御装置
70 モータ
72,74 巻線
110,210 電流指令値演算部
160 第1系統インバータ(第1のモータ駆動部)
180 電流検出部(第1の電流検出部)
260 第2系統インバータ(第2のモータ駆動部)
280 電流検出部(第2の電流検出部)
300 診断用指令値演算部
310 異常判定部
I1,I1_P1 強制電流(第1の強制電流)
I2,I2_P1 強制電流(第2の強制電流)
I1_P2 強制電流(第3の強制電流)
I2_P2 強制電流(第4の強制電流)
Id1´ d軸電流指令値(第1のd軸電流指令値)
Iq1´ q軸電流指令値(第1のq軸電流指令値)
Id2´ d軸電流指令値(第2のd軸電流指令値)
Iq2´ q軸電流指令値(第2のq軸電流指令値)