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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20230501BHJP
   B23H 1/02 20060101ALI20230501BHJP
   B23H 7/20 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B23H7/02 S
B23H1/02 D
B23H7/20
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018154673
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2019048374
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】17187254.2
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518298337
【氏名又は名称】アジ シャルミール エス・ア
【氏名又は名称原語表記】Agie Charmilles SA
【住所又は居所原語表記】Via dei Pioppi 2, 6616 Losone, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リーノ ダマーリオ
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-033825(JP,A)
【文献】特開昭61-095825(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032114(WO,A1)
【文献】特開2010-240761(JP,A)
【文献】特開2017-042882(JP,A)
【文献】特開平01-316130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02、7/04、7/20
B23H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法であって、前記方法は、
・ワークピースの高さHWPを、前記ワークピースの鉛直区間Sの数Nに分割するステップと、
・所定の観察期間T、NDTMを設定するステップと、
を含んでおり、
・各放電Diで、
○ワイヤ電極と前記ワークピースとの係合線に沿った各放電Diの放電位置ZDiを決定し、各放電の決定された前記放電位置ZDiに基づいて、各放電Diを前記ワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当て、
○前記観察期間T、NDTM内で各鉛直区間Sにおいて発生する放電の数NDjを計数し、
○前記観察期間T、NDTM内の複数の鉛直区間の中での放電の最大数NDhighを決定し、
○前記放電の最大数NDhighと鉛直区間毎の放電の数に対する所定の制限を規定する1つまたは複数の保護レベルとを比較し、
○前記放電の最大数NDhighが保護レベルを上回っている、または下回っていることが決定されると、少なくとも1つのプロセスパラメータを調整する、
ことを特徴とする、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項2】
所定の観察期間は、
・所定の時間期間T、または、
・放電パルスの所定の数NDTMである、
請求項1記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項3】
鉛直区間Sの数は、
・所定の数である、または、
・実際の機器の高さに基づいて計算される、
請求項1または2記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項4】
前記方法はさらに、
・観察期間の放電数を、鉛直区間Sの数で除算することによって、各鉛直区間において発生する放電の平均数を決定するステップと、
・前記放電の平均数を所定の保護係数kplで乗算することによって、1つまたは複数の保護レベルを設定するステップと、
を含んでいる、
請求項1から3までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項5】
前記方法はさらに、
・少なくとも1つの観察期間T、NDTMの間に、ワイヤ電極と前記ワークピースとの係合線に沿って発生する放電の分布の最上の放電と最下の放電を決定するステップと、
・前記最上の放電を前記ワークピースの上方の縁の位置に関連付けするステップと、および/または、前記最下の放電の位置を前記ワークピースの下方の縁に関連付けるステップと、
・関連付けされた位置と合うように放電位置スケールを修正するステップと、
を含んでいる、
請求項1から4までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項6】
前記方法はさらに、
・上方のフラッシングノズル23の圧力pおよび/または下方のフラッシングノズル33の圧力pを決定するステップと、
・前記圧力pおよび/またはpに基づいて、前記上方のフラッシングノズルおよび/または前記下方のフラッシングノズルが前記ワークピースの前記上方の側および/または前記下方の縁に隣接しているか否かを決定するステップと、
を含んでおり、また、
○前記圧力pに基づいて、上方のフラッシングノズルが前記ワークピースの上方の側に隣接していることが決定されると、前記ワークピースの上方の縁の位置に合うように、放電位置スケールが修正され、
○前記圧力pに基づいて、前記下方のフラッシングノズルが前記ワークピースの下方の側に隣接していることが決定されると、前記ワークピースの下方の縁に合うように、前記放電位置スケールが修正される、
請求項4記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項7】
前記保護レベルは、機械学習を用いて決定される、
請求項1記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項8】
強化タイプの学習アルゴリズムが、前記プロセスパラメータを適合させるために使用される、
請求項7記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項9】
ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法であって、前記方法は、
・ワークピースの高さHWPを、前記ワークピースの鉛直区間Sの数に分割するステップと、
・所定の観察期間T、NDTMを設定するステップと、
を含んでおり、
・各放電Diで、
○ワイヤ電極と前記ワークピースとの係合線に沿った各放電Diの放電位置ZDiを決定し、各放電の決定された前記放電位置ZDiに基づいて、各放電Diを前記ワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当て、
○前記観察期間T、NDTM内で各鉛直区間Sにおいて発生する放電の数NDjを計数し、
○1つまたは複数の最上鉛直区間において計数された放電の平均数および、1つまたは複数の最下鉛直区間において計数された放電の平均数として、外側の放電の平均数を決定し、
○前記ワークピースの半分の高さでの1つまたは複数の鉛直区間において計数された放電の平均数として、内側の放電の平均数を決定し、
○前記外側の放電の平均数と前記内側の放電の平均数との間の差を決定し、
○決定された前記差に基づいて、少なくとも1つのプロセスパラメータを調整する、
ことを特徴とする、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項10】
ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法であって、前記方法は、
・ワークピースの高さHWPを、前記ワークピースの鉛直区間Sの数Nに分割するステップと、
・所定の観察期間T、NDTMを設定するステップと、
を含み、
・各放電Diで、
○ワイヤ電極と前記ワークピースとの係合線に沿った各放電Diの放電位置ZDiを決定し、各放電の決定された前記放電位置ZDiに基づいて、各放電Diを前記ワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当て、
○前記観察期間T、NDTM内で各鉛直区間Sにおいて発生する放電の数NDjを計数し、
○前記観察期間T、NDTM内の複数の鉛直区間の中での放電の最大数NDhighを決定し、
○前記観察期間T、NDTM内で発生する放電の総数をアクティブな鉛直区間の数Nで除算することによって、アクティブな鉛直区間Sにおいて発生する放電の平均数を決定し、また前記アクティブな鉛直区間Sは、鉛直区間毎の放電の数NDjが0より大きい全ての鉛直区間Sであり、
○前記放電の最大数NDhighを、前記アクティブな鉛直区間Sにおいて発生する放電の平均数で除算することによって、放電の平均数に対する最大の比Rhighを決定し、
○前記放電の平均数に対する最大の比Rhighが、放電の平均数に対する最大の許容される最大比Rhigh,maxを上回っている、または下回っていることが決定されると、少なくとも1つのプロセスパラメータを調整する、
ことを特徴とする、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項11】
少なくとも1つの後続の放電パルスまたは後続の放電パルス部分が抑圧される、
請求項1から10までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項12】
・パルス休止
・パルス周波数
・パルスエネルギーまたは電流
・フラッシングフローおよび/またはフラッシング圧力
・ワイヤ速度
・ワイヤテンション
・前記ワークピースに関するワイヤ電極の相対的な位置
のうちの1つまたは複数のプロセスパラメータが調整される、
請求項1から11までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項13】
前記放電は、通常の放電パルスと短い放電パルスとに分類され、放電パルス電流は、
・通常の放電パルスとして分類された放電が完全な電流振幅を有し、
・短い放電パルスとして分類された放電が低減された電流振幅を有している、
ように適合され、
完全な電流振幅を有する放電が第1の係数によって重み付けされ、低減された電流振幅を有する放電が第2の係数によって重み付けされ、各鉛直区間Sにおいて発生する放電の計数された数NDjおよび/または各鉛直区間Sにおいて発生する連続放電の数NDCが、第1の重み付け係数および第2の重み付け係数によって修正される、
請求項1から12までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項14】
上方供給経路25および下方供給経路35を通って流れる部分放電電流I20、I30が測定され、各放電の放電位置が、部分放電電流の差(I20-I30)に基づいて決定される、
請求項1から13までのいずれか1項記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項15】
前記方法はさらに、
前記部分放電電流の差の値の範囲を、少なくとも2つの異なるワークピース高さに対して決定するステップと、
あらゆる他のワークピース高さに対して、前記部分放電電流の差の値の範囲を補間または外挿するステップと、
を含んでいる、
請求項14記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項16】
前記所定の数は、8~16000である、
請求項3記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【請求項17】
前記保護レベルは、分類技術またはロジスティック回帰技術を用いて決定される、
請求項7記載の、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールするための方法に関し、特に、ワイヤ放電加工プロセスを、発生している放電の空間および時間の情報に基づいてコントロールする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工プロセス(WEDMと称される)は用途が広く、かつ極めて正確である。所望されている輪郭が、ワイヤ電極(ワイヤ)によって、ワークピース内に切断加工される。ワイヤとワークピースは、相互に相対的に、加工プログラムの命令にしたがって動かされる。このプロセスは、ワークピースとワイヤとの間のギャップに電圧を印加することによって実行される。ワークピース材料は、電気的な放電パルス(放電、スパーク、パルスと称される)の作用によって除去される。
【0003】
このプロセスは通常、幾何学的形状が作成される一次切断を最初に実行し、次に、所望の最終的な表面の質を得るために、1回または複数回のトリミング切断を実行することによって実行される。一次切断では、5~50μmのオーダーにある、ワークピースとワイヤとの間の適切な距離(ギャップ幅)が保たれるように、切断速度が経路に沿ってサーボ制御される。ワイヤとワークピースの相対的な位置は機械軸線によって調整され、距離はプロセス信号に基づいてコントロールされる。このプロセス信号は、イグニッション遅延時間、平均パルス電圧または導出された値のうちの少なくとも1つを含んでいる。トリミング切断において、切断速度は、同様にサーボ制御される、または固定速度である。
【0004】
プロセス信号は、電圧、電流および時間の基本的な測定によって決定される。たとえば、イグニッション遅延時間は実質的に、電圧信号の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジの閾値レベルの設定によって、および遅延の決定によって決定される。イグニッション遅延時間および他のプロセス信号、たとえばエロージョン電圧のレベル、電流振幅、電圧勾配等は、監視目的で、かつプロセスの最適化のために、パルスを分類するために使用される。プロセス信号はリアルタイムで測定、処理および評価可能であり、これによって加工プロセスの状態に関する情報が得られ、かつリアルタイムまたはほぼリアルタイムで応答が行われ得る。
【0005】
放電は、ワイヤとワークピースとの係合線に沿って、ギャップ内の加工状態にしたがって分布する。放電のこの分布は、最適な結果を得るためには実質的に均一であるべきである。しかし、別の理由、たとえばデブリ分布、ワイヤ振動、除去されるべき材料の量の分布等のため、これが常に当てはまるわけではない。
【0006】
実際にワイヤとワークピースとの係合線に沿って発生する放電の位置が、上方の電流経路および下方の電流経路を通って供給される部分的な電流に基づいて計算可能であることが知られている。たとえばスイス国特許発明第653585号明細書(CH653585A5)[1983-09-07]は、電極ワイヤとワークピースとの間の加工領域にあるワイヤ電極の部分に沿って、放電の距離Zを計算する方法を開示している。上記の距離は、電流供給コンタクト間の中央位置から示され、この方法は、各放電の途中で、上方の線および下方の線のそれぞれにおいて流れる電流の強度を減算および加算することを含んでいる。スイス国特許発明第653585号明細書(CH653585A5)[1983-09-07]はさらに、加算による減算の商に比例する値を得るための回路を開示している。放電位置の測定は、ワイヤの熱負荷を監視するため、および放電の集中によるワイヤ破線を阻止するために使用される。この文献はさらに、発電機内の電流を測定することを提案する。
【0007】
スイス国特許発明第662075号明細書(CH662075A5)[1984-10-17]は、放電が検出された位置に関連して、WEDM機器の上方電流供給分岐または下方電流供給分岐または両方の電流供給分岐を通じて、ワイヤへの加工電流を選択的に供給する方法を開示している。上記の検出は、上で挙げられたスイス国特許発明第653585号明細書(CH653585A5)において説明されたように行われる。第1の電流電力供給によって提供される低電力放電のブレークダウンの位置が検出され、第2の電流電力供給によって提供される高電力放電がその後、所望の電流分岐を通じて選択的に供給される。さらにこの方法は、ワイヤに沿ったあらゆる所定の位置で、不良な放電の集中を検出することによって、およびそれにしたがって選択的な給電をコントロールすることによって、ワイヤの局部的な加熱を阻止するための、大まかな手段を提供する。
【0008】
特開昭64-016316号公報(JPS6416316A)[1987-03-13]も、2つの電源を含んでおり、2つの供給分岐からのギャップへの給電をコントロールしている。したがって、実質的にスイス国特許発明第662075号明細書(CH662075A)と同じ課題および解決方法を有している。
【0009】
特開昭62-054626号公報(JPS6254626A)[1985-09-02]は、ワイヤに沿った後続の放電の位置が既知の方法で測定され、上記の位置が、ワイヤの移動速度と相互に関連付けされ、これによって、移動しているワイヤの特定の位置での集中した放電の状態を識別する方法を開始している。集中した状態が検出され、設定された持続時間を超えていると、パルス電力等の処理状態が自動的に変更され、ワイヤ切断が阻止される。
【0010】
特開昭63-288627号公報(JPS63288627A)[1987-05-19]は、WEDMによる加工真直度を改善する方法を開示している。放電位置は、対の電流供給部のそれぞれにおいて流れている電流に基づいて、既知の方法で決定される;放電が所定の位置で発生していることが決定されると、たとえば、1msのパルス休止を導入することによって、パルス電力の供給が特定の期間の間、停止される。
【0011】
欧州特許出願公開第2581162号明細書(EP2581162A1)[2011-10-13]は、パルスの種類が既知の方法で識別され、各放電の位置が既知の方法で決定される方法を開示しており、ここでは、加工放電パルスに寄与しない、効果のない放電パルスの数が計数される。特定の位置で発生する、効果のない放電パルスの数が検出されると、効果のない放電の位置に近い方の、上方のフラッシングノズルまたは下方のフラッシングノズルを通じて行われるギャップのフラッシングが修正され、不均一な放電状態が取り除かれる。
【0012】
従来技術を参照して、上で示されたように、この情報は処理され、幾つかの用途のために使用される。加工プロセスの問題は個々に対応されるが、加工の全体的な進捗状況を考慮し、同時に、ギャップ内の局部的な状態を監視し、ワイヤの状態も監視する、ワイヤ放電加工プロセスの全体的なコントロールを得ることが望ましいだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の課題は、WEDM加工の全体的な進捗状況をコントロールすることによって、かつワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った最高放電密度へ加工パラメータを適合させることによって、均一な加工表面を得ることである。この第1の課題は、ワークピースの高さHWPを鉛直区間Sの数に分割すること、その後、所定の観察期間T、NDTMを設定すること、さらに各放電パルスDiで、すなわちリアルタイムで:ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った各放電Diの放電位置ZDiを決定すること、および各放電の決定された位置ZDiに基づいて、各放電Diをワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当てること;観察期間T、NDTM内で各鉛直区間Sにおいて発生する放電の数NDjを計数すること;観察期間T、NDTM内の鉛直区間毎の放電の最大数NDhighを決定すること;鉛直区間毎の上記の放電の最大数と鉛直区間毎の放電の数に対する所定の制限を規定する1つまたは複数の保護レベルとを比較すること;最後に、1つまたは複数の鉛直区間Sにおいて発生する放電の最大数NDhighが保護レベルを上回っている、または下回っていることが決定されると、少なくとも1つの加工パラメータを調整することによって、解決される。
【0014】
本発明の第2の課題は、ワークピースの特定の位置での連続放電の発生に基づいて、WEDMプロセスをコントロールすることによって、集中した放電による表面の損傷を回避することである。この第2の課題は、ワークピースの高さHWPを鉛直区間Sの数に分割すること;その後、各放電パルスで:ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿って、各放電Diの放電位置ZDiを決定すること、および各放電の決定された位置ZDiに基づいて、各放電Diをワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当てること;各鉛直区間Sにおいて発生する、連続放電の数NDCを計数すること;および鉛直区間Sにおける連続放電の数NDCが、連続放電の所定の最大数NDCmaxを上回ることが決定されると、少なくとも1つの加工パラメータを調整することによって、解決される。
【0015】
本発明の第3の課題は、ワイヤの特定の位置での連続放電の発生に基づいて、WEDMプロセスをコントロールすることによって、集中的な放電によって生じる過度な熱負荷によるワイヤ破線を阻止することである。第2の課題および第3の課題は、実質的に、同じ方法によって解決される。
【0016】
本発明の第4の課題は、移動しているワイヤの各位置で発生する、放電の累計数に基づいて、WEDMプロセスをコントロールすることによって、ワイヤ上のエロージョンクレーターひいてはワイヤ断面の弱化によるワイヤ破線を阻止することである。ここでは、移動しているワイヤの各位置での放電の累計数による、移動しているワイヤの劣化が監視される。この第4の課題は、ワークピースの高さHWPを鉛直区間Sの数に分割すること、および各放電パルスで:各鉛直区間Sにおいて発生する放電Nの数を計数すること;ワイヤが鉛直区間を通って移動すると、ワイヤ移動方向において鉛直区間から隣接する鉛直区間へ放電の計数された数をシフトさせること;および鉛直区間における放電の数NDCが、累計された放電の所定の最大許容数NDWmaxを上回ることが決定されると、少なくとも加工パラメータを調整することによって、解決される。
【0017】
要約すると、本発明の範囲は、ワークピースへの損傷を阻止するために、およびワイヤ破線を回避するために、ワイヤ放電加工プロセスを、調整された加工パラメータによってコントロールすることである。加工パラメータの調整は、ワークピースの鉛直区間における、観察期間において発生する放電の最大数を考慮して、ワークピースの鉛直区間における放電の連続数を考慮して、かつワイヤの視点からの、各鉛直区間において発生する累計された放電数を考慮して行われる。これらの課題は、少なくとも部分的に、時間および空間における放電の取得およびマッピングのための共通のアプローチを用いて融合される。
【0018】
他の態様、有利な特徴および実施形態を以降の明細書において説明する。
【0019】
本発明および本発明の特定の実施形態をここで、例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ワイヤ放電機器の動作領域の簡易化された図
図2】本発明に即した放電分布の決定のための記録スキーム
図3】保護レベルの設定を示すグラフ
図4】鉛直区間における放電の第1の例示的な分布を示すグラフ
図5】鉛直区間における放電の第2の例示的な分布を示すグラフ
図6】鉛直区間における放電の第3の例示的な分布を示すグラフ
図7】例示的なパルス抑圧規則を示す2つの表
図8】種々のワークピース断面を示す図
図9】鉛直区間における放電の第3の例示的な分布を示すグラフ
図10】電流の異なる値の範囲の決定を示すグラフ
図11】鉛直区間における放電の第3の例示的な分布を示すグラフ
図12】ワイヤ切断プロセスにおける、均一な材料除去および不均一な材料除去を示す図
図13】連続放電カウンタの機構を示す表
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、本発明に相応するワイヤ放電機器の関連部分を、初めに説明する。しかし図1は、縮尺通りではない。
【0022】
ワイヤ放電機器は、テーブル12を含んでおり、このテーブル12上にワークピース2が、加工を考慮して取り付けられている。ワイヤ電極1は、上方のワイヤガイド22および下方のワイヤガイド32によってガイドされており、これらは各々、上方のヘッド20および下方のヘッド30に組み込まれている。上方のヘッド20および下方のヘッド30はそれぞれさらに、フラッシングノズル23、33を含んでおり、これによって、加工液がワークピースの方へ、切断切り口内へ、上方および下方から向けられる。上方のヘッド20および下方のヘッド30は、上方電流供給部21または下方電流供給部31を含んでおり、これによって放電電流が、スライディングコンタクトによって、移動しているワイヤ電極に供給される。放電パルスは、発電機5からワイヤ1に、ケーブル配線によって供給される。上方ケーブル25および下方ケーブル35が提供され、別個に、発電機を上方電流供給部21および下方電流供給部31に接続する。放電は、極間距離またはギャップ3において発生する。発電機は有利には、欧州特許第2842678号明細書(EP 2 842 678 B)に開示されているように、加工槽13と完全に一体化されるように設計されている。上方ケーブル25および上方電流供給部21を含んでいる区間は、上方供給経路と称され、これに対して、下方ケーブル35および下方電流供給部31を含んでいる区間は、下方供給経路と称される。上方供給経路および下方供給経路はそれぞれ、典型的に、複数のケーブルまたは複数のチャネルを含んでいてよく、これによって、作業領域内に供給される高いパルス電流と対称的な電流が得られる。
【0023】
上方供給経路および下方供給経路を通ってワイヤへと流れる部分放電電流I20およびI30は、たとえばトロイダル電流変換器29、39を用いて別個に測定される。ここでは、上方電流搬送ケーブル25がトロイド29を通り、下方電流搬送ケーブル35がトロイド39を通る。トロイダル電流変換器は、電流の無接触センシングを可能にする。電流搬送ケーブル25、35は、一次導体を表す。トロイダル電流変換器上の二次巻線は、巻線比に反比例する係数で電流を縮小させるのに実用的である。上方供給部および下方供給部を通って流れる電流信号I20、I30は、差動電流増幅器によって比較される。電流差信号は、放電位置に対応付けされる。便宜上、部分電流は一般的に、1つの発電機チャネルの上方供給経路および下方供給経路においてのみ測定される。
【0024】
本発明は、ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿ったワークピース上の放電位置の決定に基づいて、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法を開示する。この方法は、
・ワークピース放電分布監視およびコントロールループ(第1のコントロールループと称される)を含んでおり、これは、加工パラメータをリアルタイムで、観察期間の間に発生した最大放電数を備える鉛直区間を考慮して適合させ、さらに
・ワークピース放電集中監視およびコントロールループ(第2のコントロールループと称される)を含んでおり、これは、加工パラメータをリアルタイムで、鉛直区間において発生する連続放電の数を考慮して適合させる。
【0025】
本発明はさらに、移動しているワイヤ上の放電位置の決定に基づいて、ワイヤ放電加工プロセスをコントロールする方法を開示する。この方法は、
・ワイヤ放電集中監視およびコントロールループ(第3のコントロールループと称される)を含んでおり、これは、加工パラメータをリアルタイムで、鉛直区間において発生する連続放電の数を考慮して適合させ、さらに
・ワイヤ劣化監視およびコントロールループ(第4のコントロールループと称される)を含んでおり、これは、加工パラメータを、放電クレーターの蓄積による、ワイヤの蓄積された局部的な弱化を考慮して適合させる。
【0026】
次にこれらの監視およびコントロールループをより詳細に説明する。
【0027】
第1のコントロールループは、ワイヤとワークピースとの係合線全体に沿った放電の分布を監視する。このワイヤ放電加工コントロール方法は、ワークピースの高さHWPをワークピースの、数Nの鉛直区間Sに分割するステップと、所定の観察期間T、NDTMを設定するステップと、観察期間内の各放電Diの放電位置ZDiを決定するステップと、決定された位置に基づいて、各放電を鉛直区間に割り当てるステップと、放電がその鉛直区間に割り当てられた場合に区間固有のカウンタを増分させて、各鉛直区間において発生する放電の数NDjの数を計数するステップと、を含んでいる。観察期間において鉛直区間内で発生した放電の最大数は、加工プロセスの調整を決定する。観察期間において発生した放電の、上記の最大数、すなわち放電のピーク数は、少なくとも1つの所定の保護レベルと比較され、保護レベルを上回っているまたは下回っている場合に、加工パラメータ調整を決定する。
【0028】
鉛直区間毎の放電数の記帳は、効率的な監視手段およびプロセスのコントロールのための手段を提供する。ここでは、加工パラメータが、放電の実際の分布に適合される。
【0029】
鉛直区間:次に本発明のこの態様を、より詳細に説明する。ワークピースの高さHWPは、ワークピース全体の高さである;上方のヘッドの位置は一般的に、上記のワークピースの高さに合うように設定されている。したがってZ軸位置設定は一般的に、ワークピース全体の高さHWPに等しい。ワークピースの高さHWPは、数Nの離散した鉛直区間Sに分割される。これらの鉛直区間Sは、ワークピースの部分的な高さに相当する。これらの鉛直区間は有利には、同じまたは類似の高さを有している。鉛直区間の数は、機器の高さとは無関係な所定の数であってよく、有利には8~16000であり、より有利には16~256である。択一的に、各鉛直区間の大きさがたとえば1mmであるように、鉛直区間の数が、実際の機器の高さに基づいて決定されてよく、このような大きさは、部分電流方法によって放電位置を決定することができる精度に適合する。
【0030】
図2は、ワークピースの低い方の縁(Z=0)から始まる、鉛直区間へのワークピースの高さのこのような分割および各鉛直区間への放電の割り当ての提供を示している。
【0031】
放電カウンタ:放電カウンタが、各鉛直区間に割り当てられている。各放電の後に、電流センサ情報が、部分電流方法を用いて分析される。上方供給経路25および下方供給経路35を通って流れる部分電流I20およびI30の値が測定され、各放電Diの放電位置ZDiが、部分放電電流の差(I20-I30)に基づいて決定される。したがって、放電位置は、部分放電電流の差に比例している。より明確には、部分放電電流の総計I20+I30によって除算され、電流供給部の間の半分の距離(ZFU+HWP+ZFL)/2によって乗算された、部分放電電流信号の電流差の値(I20-I30)は、ワイヤとワークピースとの係合線に沿って発生する各放電Diの放電位置ZDi、すなわち電流供給部間の中間点からの実際の放電の距離を決定する。放電位置ZDiは、電流放電Diと電流供給部間の中間点との間の距離であり、これは、対称的な構築(ZFU=ZFL)では、ワークピース2の中央位置(高さの半分)に相当する。この距離は、正の符号または負の符号を有している。ワークピースの底面Z=0からの電流放電Diの距離ZLiは、ワークピースの高さの半分HWP/2を加えることによって計算される。放電は、各決定された鉛直区間Sに割り当てられ、各鉛直区間Sの放電カウンタは、1つ増分される。
【0032】
観察期間:放電の分布が計算され、必要であれば、所定の観察期間の間、表示される。これは、放電パルスの所定の数NDTMとして、または所定の時間Tとして表される。観察期間は、回転するサンプリングウィンドウとして見なされ得る。観察期間は、適切に選択されるべきであり、たとえばあらゆるワークピースの高さに対して、段の有る部品のケースにおいても、鉛直区間毎の放電の有意の数を含んでいるように選択されるべきである。適切な観察期間は、時間および空間における放電の分布の画像を提供し、これによって、放電のあらゆる不均一な分布が識別される。
【0033】
有利には、観察期間は、最新の放電情報によって継続的に更新される。したがって、放電分布は、実際の状況をリアルタイムで反映する。有利には、最も古い放電が、加えられた、各最新の放電によって削除される。
【0034】
さらなる分析のために有意の数の放電を含むように持続時間Tまたは放電の数NDTMを適合し、時間および空間における放電の分布の画像を提供するために観察期間が自動的に決定されてよい。たとえば、ワークピースの高さを考慮して、鉛直区間の典型的な数および鉛直区間毎の放電の典型的な平均数を考慮して、観察期間が選択されてよい。
【0035】
信号分析のための手段:信号の分析は、適切なプログラマブル回路によって行われる。これは、上方電流供給経路および下方電流供給経路の部分電流の値を受信し、既知の方法で、各放電の位置を決定し、その後、放電を決定された鉛直区間に割り当て、上記の鉛直区間のカウンタを1つ増分させる。典型的に、上記のプログラマブル回路は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)である。
【0036】
カウンタアレイは、サーキュラーバッファとして管理されてよく、したがって、放電分布の画像は滞りなく更新される。たとえば、メモリ内の最も古い放電は、各新たな放電によって削除される。しかしこの方法は形式上のものであり、精度をより低くすることによって簡易化し、より実際的な方法にすることができる。
【0037】
保護レベル:プロセスの監視およびコントロールに鑑みて、鉛直区間毎の放電の数に対する決定された制限に存する1つまたは複数の保護レベルが設定される。加工プロセスは
最初は、いかなる特定の制限も設けずに、加工技術によって提案された加工パラメータによって実行される。鉛直区間における放電の実際の数が各々、このような保護レベルを下回ると、その保護レベルに特有の行動がとられる。特に、保護レベルを上回る、または下回る場合に、全ての鉛直区間を考慮した、鉛直区間において実際に発生する放電の最大数は、調和した加工パラメータ調整を決定する。このようにして、加工プロセスがリアルタイムで、放電の最大数を考慮してコントロールされ、これによって、安全な、スムーズな、かつ効率のよい、加工プロセスのコントロールが実現される。
【0038】
有利には、全体的なワークピース放電分布監視ループ(第1のコントロールループ)は、恒久的にアクティブであり、リアルタイムに作動する。その一次的な機能は、加工パラメータを、鉛直区間毎の放電の実際の最大数に、またはギャップにおけるピーク放電密度に適合させることである。有利には、鉛直区間毎の放電のピーク数が設定された保護レベルを上回ると、パラメータが、迅速に、リアルタイムに適合される。これは典型的に次のことを意味する。すなわち、加工パラメータ調整が、保護レベルの超過を生じさせた放電に続く放電によって行われることを意味する。このようにして、プロセスは安全に、しかし効率よく実行される。したがって保護レベルを上回った場合に、加工パラメータを適合させるために観察期間を完了させる必要はない。
【0039】
他方で、鉛直区間毎の放電の最大数を下回る場合、すなわち、所定の保護レベルを下回る場合には、加工パラメータ調整が迅速に行われても、遅延して行われてもよい。典型的に、所定の保護レベルを下回る鉛直区間毎の放電の最大数による加工パラメータ調整が、1つまたは複数の観察期間の終了時に行われても、または設定されたパラメータ調整遅延の後に行われてもよい。有利には、保護レベルを繰り返し上回り、かつ下回ることが決定されると、上記のパラメータ調整遅延が漸進的に増大される。このようにして、頻繁な加工パラメータ調整が回避される。
【0040】
観察期間の放電の総数は、設定された、鉛直区間毎の放電の平均数DSAvgと、鉛直区間の設定された数Nと、の積として計算され得る。たとえば、設定された、鉛直区間毎の放電の平均数DSAvgは32であり、鉛直区間の設定された数Nは32である。したがって、この場合には、観察期間の放電の数は32×32=1024である。これとは逆に、各鉛直区間において観察期間において発生した放電の平均数は、観察期間の放電の設定された総数を、設定された、鉛直区間の数Nによって除算することによって計算され得る。有利な実施形態では、放電の平均数は、保護レベルの自動設定に対する基準として使用される。本発明に相応して、これは以下のように行われる:各鉛直区間において発生する放電の平均数を決定し、また上記の放電の平均数は、観察期間の放電数を、鉛直区間Sの数で除算することによって計算され、その後、放電の平均数を所定の保護係数(kpl、kpl1、kpl2、...)で乗算することによって、1つまたは複数の保護レベルを設定する。たとえば、第1の保護レベルは、放電の平均数の2倍に設定可能であり、すなわち、第1の保護レベルの設定に対して、平均値に関連する所定の係数2が考慮される。上述した例では、鉛直区間毎の放電は、32×2=64であり、保護レベルは、自動的に、鉛直区間の設定された数および設定された観察期間に適合される。セクターにおける放電の数が所定量分、平均値を上回るか、または下回るかに基づいて判断も行われ得る。
【0041】
典型的に、複数の保護レベルが、鉛直区間毎の種々の所定の制限された放電数に対して予め定められる。同じまたは異なる保護レベルが、2つのケースに対して設定される。すなわち、1つまたは複数の鉛直区間における実際の放電数が決定された制限を上回るケースまたは全ての鉛直区間における実際の放電数が決定された制限を下回るケースである。たとえば、鉛直区間における放電数が第1の保護レベルを上回ると、パルス休止が延長され、また、全ての鉛直区間における放電数が第2の保護レベルを下回ると、パルス休止が短くされる。保護レベルは、容易に実現されてよく、たとえば図3に示されているように、鉛直区間毎の放電数に対する特定の所定の制限を適切に設定することによって実現されてよい。
【0042】
択一的に、保護レベルがアルゴリズムとして実現されてよく、このアルゴリズムは、鉛直区間毎の放電の決定された制限された数を、あらゆる鉛直区間において上回っている場合に、採用されるべき調整を決定するために使用され、かつこのアルゴリズムは、ワイヤとワークピースとの全体的な係合線に沿った、鉛直区間毎の実際の最大放電数に基づいて、1つまたは複数の加工パラメータを漸進的に調整する。たとえば、面平行ワークピースの加工のケースでは、鉛直区間毎の特定の放電数を上回ると、加工パラメータが線形に低減されてよい。そこから低減が適用されるこの放電数はたとえば、観察期間の間に発生する、鉛直区間毎の平均放電数である。鉛直区間が32であり、鉛直区間毎の平均放電が32である先述したケースの場合、鉛直区間毎の放電数の最大数NDhighに関連して適用されるべきパルスのパーセンテージは、たとえば、以下のように決定されてよい。-0.0022×NDmax+1.0681。
【0043】
加工パラメータを、鉛直区間毎の放電数の最大数NDhighに漸進的に適合させるために公式を使用することによって、このプロセスはよりスムーズに進むことができる。
【0044】
有利な実施形態では、保護レベルは、加工目標、すなわち速度、精度に関連して設定される。加工目標が高い精度である場合には、保護レベルは比較的低い値に設定されてよい。換言すれば、加工パラメータは、放電分布における比較的小さい不均一性で調整される。ここで鉛直区間毎の最大放電最大数が、たとえば30%、平均放電数を上回ると、第1の加工パラメータ調整が発生するように、第1の保護レベルまたは第1の保護係数kplが設定されている。このようにして、不均一な材料除去が迅速に検出され、いかなる鉛直区間においてプロセスの悪化がない場合にも、できる限り直線加工(加工表面の鉛直真直度)を得るためにパラメータが適合される。
【0045】
鉛直区間毎の放電数を計数することによって、ワイヤとワークピースとの係合線に沿った放電の分布が継続的に決定される。保護レベルを設定することによって、1つまたは複数の鉛直区間における高い放電数が容易に検出され、放電分布を反映するように、特に加工パラメータを、放電の最大数を有する鉛直区間に適合させるように、加工パラメータが調整可能である。このようにして、加工プロセスが監視され、加工プロセスの全体的な安定性が改善される。
【0046】
鉛直区間毎の放電数を計数することによって、この方法はさらに迅速に、切断経路に沿った段または穴による、効率のよい切断高さの変化を識別する。これらの高さ変化が、鉛直区間における放電数の顕著な局部的な上昇または複数の鉛直区間にわたった放電の数の総体的な上昇を引き起こす場合、これは、保護レベルの超過を引き起こすことがあり、これは、加工パラメータの適合をトリガし、たとえばパルスエネルギーの調整または特定の保護レベルの設定に即した特定の放電パルスの抑圧を引き起こす。
【0047】
加工パラメータ調整が、超過している鉛直区間カウンタの特定の位置に関連して導出されてもよい。たとえば加工パラメータの調整が特に、最上鉛直区間および/または最下鉛直区間で特定の保護レベルを上回るケース、または半分のワークピースの高さまたは半分のワークピースの高さの近傍にある鉛直区間で特定の保護レベルを上回るケースに向けられてよい。加工パラメータはさらに、放電の実際の数に対するカウンタが、特定の保護レベルまたは鉛直区間毎の放電の平均数を上回るまたは下回る鉛直区間Sの数に関連して調整されてよい。
【0048】
有利な実施形態では、外側の鉛直区間カウンタ、すなわちワークピース表面に隣接する鉛直区間と内側の鉛直区間カウンタ、すなわちワークピースの中心での鉛直区間との差を決定することによって、真直度エラーが評価される。特に、ワークピースの頂上部および/または底部での複数の鉛直区間において計数された放電の総数が、半分のワークピース高さでの複数の鉛直区間カウンタにおいて計数された放電の総数と比較されてよい。たとえば、5個の最上鉛直区間および5個の最下鉛直区間における、観察期間において発生する放電の総数が、ワークピースの中心での10個の鉛直区間の総数から減算され、計算された差が、加工の真直度を決定するための尺度として使用される。当然、総数の代わりに、各平均放電数を計算に使用することができる。同様に、外側の鉛直区間カウンタの放電数と、内側の鉛直区間カウンタの放電数の比を、真直度の尺度として使用することもできる。真直度エラーを評価するための他のバリエーションが可能である。
【0049】
これらの値の差またはこれらの値の比は、ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った不均一な材料除去を評価するために使用される。特に、真直度エラー、たとえば図12に示されているように、切断面の凹状または凸状の形状が認識され、定量化される。真直度エラーの種類および量は、図11に示されているように、決定された放電密度に基づいて、加工の途中で評価されてよい。
【0050】
有利な実施形態では、放電の不均一な分布によって生じる真直度エラーは以下のように評価される。
・ワークピースの高さHWPを、ワークピースの鉛直区間Sの数に分割すること
・所定の観察期間T、NDTMを設定すること
・各放電Diで、
○ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った各放電Diの放電位置ZDiを決定し、各放電の決定された位置ZDiに基づいて、各放電Diをワークピースの適合している鉛直区間Sに割り当てること
○観察期間T、NDTM内で各鉛直区間Sにおいて発生する放電の数NDjを計数すること
○1つまたは複数の最上鉛直区間において計数された放電の平均数および、1つまたは複数の最下鉛直区間において計数された放電の平均数として、外側の放電の平均数を決定すること
○ワークピースの半分の高さでの1つまたは複数の鉛直区間において計数された放電の平均数として、内側の放電の平均数を決定すること
○上記の外側の放電の平均数と上記の内側の放電の平均数との間の差を決定すること
○上記の決定された差に基づいて、少なくとも1つのプロセスパラメータを調整すること
【0051】
エラーの種類は、この差の符号によって示され、量は振幅によって示される。評価された真直度エラーの修正は、適切な加工パラメータ調整によって行われる。
【0052】
不均一な材料除去は、加工パラメータのリアルタイム調整によって埋め合わせされてよい。ワイヤの機械的なテンションおよびフラッシング力を除いて、ワイヤに作用する主要な力は、電圧によって決定される、ワイヤとワークピースとの間の引力と、パルス電流によって決定される斥力である。したがって、ワークピースの頂上部および/または底部での1つまたは複数の鉛直区間における放電密度と、ワークピースの半分の高さでの1つまたは複数の鉛直区間における放電密度を識別することによって、放電密度の差から真直度偏差を導出することによって、上記の真直度エラーを所定の真直度トレランスと比較することによって、および以下のように加工パラメータを適合させることによって、真直度エラーをリアルタイムに修正することができる:
・部品が凹状になっていること、すなわちワークピースの中心で放電密度がより高いことが決定された場合に、ギャップ電圧を低減させる、および/またはパルス周波数を増大させる、および/またはパルス振幅を増大させる;さらに
・部品が凸状になっていること、すなわちワークピースの中心で放電密度がより低いことが決定された場合に、ギャップ電圧を増大させる、および/またはパルス周波数を低減させる、および/またはパルス振幅を低減させる。
【0053】
アルゴリズムを精製するために、モデルが使用されてもよい(たとえばk1×U=k2×I、ここでUはギャップ電圧、Iはパルスピーク電流、k1およびk2は係数)。
【0054】
ここで上述されたリアルタイム真直度修正に対して択一的に、特定の加工ストラテジーを適用することによって修正が行われてよい。これはたとえばワイヤとワークピースの相対的な変位の重畳であり、たとえば特開昭62-114828号公報(JPS62114828A)または特開2009-233842号公報(JP2009233842A)に記載されている。これは、加工経路に対する交互の横方向移動を実行する。ここで、横方向移動の振幅は、不均一な材料除去に基づいて設定されてよい。これは、上述されたように、すなわち外側の放電の平均数と内側の放電の平均数との間の差を決定することによって決定される。
【0055】
択一的に、真直度偏差は、鉛直区間における放電密度の差を決定すること、および後続する通過、すなわち1つまたは複数のトリミング切断において形状エラーを修正することによって、従来通りにリアルタイムで決定されてよい。
【0056】
有利な実施形態では、不均一な分布が生じているか否かが決定される。これは図6に示されているように、ワイヤとワークピースまたはそれ以下の係合線の中心付近で発生する鉛直区間毎の放電のピーク数を伴う。このような状態は、時に、不良なフラッシング状態によるものであり、たとえば段の有る部品によって発生し得る。不均一な分布を、鉛直区間毎の放電の最大数と、観察期間の間に発生する、鉛直区間毎の放電の平均数との間の比を計算することによって決定することができる。
【0057】
択一的に、放電集中への傾向を、鉛直区間毎の放電の平均数に対して採用されるべき保護レベルを決定することによって、および放電のピーク数に対して採用されるべき保護レベルを決定することによって、および2つの保護レベルの比を監視することによって検出することができる。この比が、たとえば2である場合、ワイヤとワイヤピースの係合線において放電の不均一な分布が生じていることが導出され得る。このようなケースでは、加工パラメータはさらに、たとえばパルス休止を延長することによって適合される。
【0058】
フラッシング:公知のように、フラッシング状態は、あらゆる放電加工プロセスにとって極めて重要である。WEDMにおいて、ギャップフラッシング効率は、切断経路に沿った高さ変化によって影響される。切り口へノズル23、33を通じて提供されるフラッシング液の圧力は、ノズル開口部がワークピース全体を覆わなくなるとすぐに低下する。図8a~図8dは、図8aに示されている理想的なフラッシング状態から、図8cおよび8dに示されている極めて困難なフラッシング状態まで、切断経路に沿った種々のワークピース区間を示している。図8aに示されている状態は共通のケースである。これは平行な頂上部ワークピース表面と底部ワークピース表面とを有しており、ここではフラッシングは、いかなる段によってもまたは開口部によっても影響されていない。ここでは、ノズルは通常、表面に対して閉じられており、できるだけ最良のフラッシングを切り口に提供する。図8bは、上方および下方に段の有るワークピース表面のケースを示している。図8cおよび図8dは、困難なフラッシング状態を示しており、ここでは、フラッシングの圧力は、中間開口によって低下する。段の有る部品のケースでは、またはワークピース縁部近傍の加工のケースでは、液圧が著しく低下することがあり、それと同時に放電が全体的なワークピース高さに沿って依然として発生してよい。したがってこれは、加工経路に沿った実際のフラッシング状態を監視することによって、プロセスの悪化の発生を予期するのに有用である。これは、たとえば、各供給回路と一体化されている圧力センサによって、上方ノズル23および下方ノズル33におけるフラッシング圧力を監視することによって容易に行われてよい。このようにして、この部品が上方の縁において段を有しているか否か、下方の縁において段を有しているか否か、または上方の縁および下方の縁において段を有しているか否かを導出することができ、これを考慮してプロセスをコントロールすることができる。
【0059】
先に述べたように、鉛直区間毎の放電の最大数と上記の保護レベルとの比較は、保護レベルを上回ったまたは下回ったことが決定された場合に、所定の行動へと導く。一般的に、この所定の行動は、ワイヤ電極とワークピースの実際の係合状態を考慮した最適な加工パフォーマンス(切断速度を含む)を得るための加工パラメータの適合およびギャップの過度の汚れによるプロセスの悪化の予期である。この行動は実質的に、持続可能にプロセスを実行するために使用される平均エネルギーの適合またはフラッシングの適合である。特に、有利な対策は、以下のパラメータのうちの1つまたは複数のパラメータの調整である:
・パルス休止
・パルス周波数
・パルスエネルギーまたは電流
・フラッシング圧力および/またはフラッシングフロー
・ワイヤ速度
・ワイヤテンション
・ワークピースに関するワイヤの相対的な位置
【0060】
有利には、加工パラメータは、表面の質に過度に影響を与えないように調整される。したがって主にパルス休止またはパルス周波数が調整される。
【0061】
パルス抑圧:同様の効果を有する有利な対策は、目下決定されている保護レベルに関連した特定のパルスの抑圧である。このパルス抑圧を、多くの方法で系統立てることができる。次にパルス抑圧スキームを図7a、図7bを参照して説明する。これらはそれぞれ、通常の放電に対する所定の抑圧スキーム(図7a)と、いわゆる「短い」放電に対する所定の抑圧スキーム(図7b)の例を表している。抑圧スキームは、鉛直区間毎の放電の適切な最大量を適用することによって、目下の加工状態を反映させるために、抑圧されるべき放電の量を決定する。特に、抑圧されるべき放電部分は、ワークピースの上方の縁および下方の縁でのフラッシング状態に関連して、かつ目下の観察期間内の鉛直区間における放電の最大数および種類に関連して決定される。たとえばワークピースが上方および下方の縁で段を有しておらず、区間毎の最大放電数を有する区間が67個の通常の放電を目下の観察期間内に有している場合には、放電の数は、通常の値に関して、1/12低減される。これは、それぞれ11個のパルスの後に放電パルスを中止することによって、またはパルス周波数をこれにしたがって低減することによって行われる。この方法は、目下選択されているあらゆる一次切断加工技術によって採用される。
【0062】
図7bにおいて見て取れるように、抑圧されるべき放電の決定のための同じアプローチが、短い放電パルスに対して採用されている。しかしここでは、抑圧されるべき放電パルス部分は総体的に、通常のパルスと比べて多い。
【0063】
疑念を回避するために、上述した放電パルス抑圧が加工パラメータ調整の効果を有しており、したがってそのようなものとして考えられている、ということを述べておく。ここでは、使用されている加工技術によって特定された放電パルス部分が常に、決定されたフラッシング状態、鉛直区間毎の放電の最大数および種類にしたがって抑圧される。したがって、少なくとも加工パラメータを調整することは、少なくとも1つの後続の放電を抑圧することまたは通常、所定の加工状態の場合に使用される放電パルス部分を抑圧することを含んでいる。
【0064】
したがって、有利な実施形態では、少なくとも1つの後続の放電パルスまたは後続の放電パルス部分が抑圧される。
【0065】
有利な実施形態では、放電は、通常の放電パルスと短い放電パルスとに分類され、放電パルス電流は次のように適合される。すなわち、通常の放電パルスとして分類された放電が完全な電流振幅を有し、短い放電パルスとして分類された放電が低減された電流振幅を有しているように適合され、完全な電流振幅を有する放電が第1の係数によって重み付けされ、低減された電流振幅を有する放電が第2の係数によって重み付けされ、各鉛直区間Sにおいて発生する放電の計数された数NDjおよび/または各鉛直区間Sにおいて発生する連続放電の数NDCが、第1の重み付け係数および第2の重み付け係数によって修正される。
【0066】
換言すれば、放電パルスは公知の方法で分類され、相応に重み付けさ、その特性、たとえばワイヤおよび/または表面に対する損傷を反映する。たとえば、通常の放電は、係数1で重み付けされ、また短いパルスは係数1.3で重み付けされる。2つより多くのクラスおよび各クラスに対する適切な重み付けを用いることによって、および全体的な重み付けを決定することによって、放電パルス分類スキームをより精巧にすることができる。このようにして、パルスの分類にしたがって放電を容易に記述することができ、抑圧されるべきパルスの適切な数を決定するためのアルゴリズムに供給することができる。
【0067】
例:以下の例は、図2を参照して、実際のケースを表している。50mmの高さHWPを有するワークピースが24個の鉛直区間に分割され、したがって各区間は約2.1mmの高さを有する。ここで第1の区間Sは、Z=0から始まり、Z=2.1mmまで続き、第2の区間Sは、Z>2.1mmから始まり、Z=4.2mmまで続き、以降同様に続く。これは、Z>47.9から始まり、Z=50mmまで続く最後の区間S24まで続く。1024個の放電の観察期間NDTMが設定される。これは、200msの同等の観察期間Tに相当してよい。このケースでは、鉛直区間毎の放電平均数は、42.7である。
【0068】
各放電パルスの後、放電位置が、部分電流I20、I30から導出される。FPGA内で情報が分析され、適合している鉛直区間のデジタル放電カウンタが増分される。この例では、星によって表される最後の放電は、位置ZDi=-10mmで、すなわちワークピースの底部から、ZLi=ZDi+HWP/2=15mmで識別された。したがって、最後の放電は、Z>14.6からZ=16.7mmまでの範囲の鉛直区間Sにおいて発生した。鉛直区間Sのデジタル放電カウンタは1だけ増分される。
【0069】
図4は、放電パルスの分布を示している。ここではワークピースの高さHWPは、54.86mmである。このワークピースの高さは同様に、24個の鉛直区間に分割され、したがって各区間は、約2.3mmの高さを有している。放電の分布は、ワイヤとワークピースの全体的な係合線にわたって比較的均一である。観察期間において検出された最大放電数を有する区間は、記録された53個の放電パルスを有する。第1の保護レベルは、鉛直区間毎の64個の放電で設定される。この例示的なケースでは、保護レベルは介在しない。なぜなら観察期間において検出された最大放電数は、第1の保護レベルより格段に下にあり、両方のノズル、すなわち上方のノズルと下方のノズルとが各終端の近傍にあり、フラッシングが有利だからである。換言すれば、所定のワークピースおよび所望の加工目標に対して設定された加工パラメータは、影響を受けないままである。
【0070】
図5は、加工経路の別の位置での同じワークピースに対する放電パルスの分布を示している。ここでこの放電は、低い部分で発生する幾つかの放電を伴い、主に、ワイヤとワークピースとの係合線の中央位置で発生する。ワークピースが上方の縁で段を有しており、下方の領域において開口部を有していることが導出され得る。上方および下方のフラッシングノズルの供給回路における圧力センサは、ワークピースが上方の縁で段を有していることによる圧力低下を検出する。フラッシング状態を識別するために、圧力センサによって供給された信号が、1つまたは複数の閾値レベルと比較される。鉛直区間毎の放電数が、多くの区間において、所定の第4の保護レベルを上回っている。図7aに示された表にしたがうと、1つの縁で段を有するワークピースによる第4の保護レベルの超過は、パルスの3分の1の放電パルス抑圧をトリガする。したがってここでワイヤ放電加工プロセスは、保護レベルの超過にしたがって、かつパルス抑圧、すなわち通常は所定の設定に対して意図されている放電パルス部分の中止によるフラッシング状態にしたがってコントロールされる。
【0071】
範囲適合化および較正:先述したように、放電の位置は、典型的に、上方電流供給経路を流れる測定された部分電流と下方電流供給経路を流れる測定された部分電流の差I20-I30から導出される。理論的には、同じ部分電流信号I20およびI30を有する、完全に対称的なケースでは、放電は、2つの電流供給部の間の中間点で発生する。部分放電電流信号の電流の差の値I20-I30は、部分電流の総計I20+I30によって除算され、電流供給部の間の半分の距離によって乗算され、電流供給部の間の中間点からの実際の放電の距離を決定する。加工領域におけるインダクタンスの不均一性、電流供給経路の非対称性、電流供給部のすり減りまたは不均一な状態、異なるワークピース高さ、ワイヤ電極直径および制限されたシステム分解能等によって、放電が検出される絶対位置が若干、不正確になることがある、または可変量によってシフトされることがある。
【0072】
有利な実施形態では、放電電流の差の値(I20-I30)の範囲は、少なくとも2つの異なるワークピース高さに対して決定され、あらゆる他のワークピース高さに対して、放電電流の差の値の範囲が、予め決定されている放電電流の差の値に基づいて、補間または外挿される。
【0073】
有利な実施形態では、部分電流信号I20およびI30の放電電流の差I20-I30の値の範囲は、少なくとも1度、少なくとも2つの異なるワークピース高さに対して、かつ1つまたは複数のワイヤ電極直径または種類に対して識別される。なぜなら、これらの要因は、放電電流の差の上述した範囲に影響を与えるからである。換言すれば、放電電流の差の範囲は、所定のテスト条件で決定された分布放電電流差の最高値と最低値を表す。したがって別のワークピース高さに対する範囲を、たとえば、図10に示されているように、所定のワイヤ電極に対する線形補間によって決定することができる。
【0074】
有利な実施形態では、放電位置検出の精度は、自動範囲適合化サイクルで改良される。ここでは、最上の放電の位置が、ワークピースの上方の縁の位置と関連付けされる、かつ/または最下の放電の位置が、ワークピースの下方の縁と関連付けされる。より正確には、範囲適合化は次のことによって実現される:少なくとも1つの観察期間T、NDTMの間に、ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿って発生する放電の分布の最上の放電と最下の放電を決定すること;最上の放電をワークピースの上方の縁の位置に関連付けする、かつ/または最下の放電の位置をワークピースの下方の縁に関連付けること;および関連付けされた位置と合うように放電位置スケールを修正すること。より一般的には、放電分布範囲の端部で発生する放電が識別され、ワークピースの既知の位置または高さに、一般的には頂上部および底部に関連付けされる。このようにして、この放電位置が、上述した既知の位置に合うように修正される。この自動範囲適合化プロシージャは、たとえば、以下の方法の1つまたは複数によって実行されてよい:
・ワイヤとワークピースの全体的な係合長にわたって放電を生起させることによって、および放電分布の端部で発生する放電を決定することによって。識別された最上および最下の放電は、ワークピース高さ等の幾何学形状的な情報またはワークピースの上方の縁および下方の縁に関連付けされる;
・意図的に、ワークピースの既知の位置、すなわちワークピースの下方の縁で放電を生起させるために、またはギャップの最上の位置、すなわちワークピースの上方の縁で放電を生起させるために、ワイヤを切断方向に僅かに傾斜させることによって。同様に、識別された最上の放電および最下の放電が、ワークピースの各縁に割り当てられる。初めに下方の縁で放電を生じさせることによって、放電位置スケールを迅速に修正することができる;
・ワークピースの最上の表面および/または下方の表面がノズルと接触しているか否かを導出するために、上方のフラッシングノズル23および/または下方のフラッシングノズル33のフラッシング圧力p、pを測定することによって。このようにして、段を有するワークピースを識別することができる。
【0075】
放電位置スケールに対するこの最後の自動範囲適合化プロシージャは以下のステップを含んでいる:上方のフラッシングノズル23の圧力pおよび/または下方のフラッシングノズル33の圧力pを決定するステップ;上記の圧力pおよび/またはpに基づいて、上方のフラッシングノズルおよび/または下方のフラッシングノズルがワークピースの上方の側および/または下方の縁に隣接しているか否かを決定するステップを含んでいる。また
・上記の圧力pに基づいて、上方のフラッシングノズルがワークピースの上方の側に隣接していることが決定されると、ワークピースの上方の縁の位置に合うように、放電位置スケールが修正され、
・上記の圧力pに基づいて、下方のフラッシングノズルがワークピースの下方の側に隣接していることが決定されると、ワークピースの下方の縁に合うように、放電位置スケールが修正される。
【0076】
ワークピースの高さはたとえば、ユーザー指定であってよい、または部品プログラムまたはCAMから導出されてよい、または機器上で測定されてよい。このようにして、放電の位置が修正される。較正プロシージャが、有利には、加工の冒頭で、短い試験期間において実行されてよい。
【0077】
放電電流の差の範囲の決定は有利には、機器製造業者によって行われ、また自動範囲適合化サイクルは、自動的に、特定の加工の開始時に発生するようにされ得る。
【0078】
第2のコントロールループはワークピース放電集中監視ループであり、これによって、ワークピースのあらゆる特定の位置で発生する連続放電のシーケンスが識別され、加工プロセスを制御し、たとえば局部的な放電の発生またはクリチカルな放電の集中を妨害する。この第2のループはリアルタイムで作動する。ワークピースの特定の位置での放電集中の検出は、連続放電、すなわち同じ鉛直区間で発生する集中した放電を計数することによって行われる。
【0079】
既知であるように、WEDMプロセスは確率論的なプロセスである;放電は、電界が最も強い、放電状態が最も有利な場所で発生する。同じ位置で発生する、連続放電のシーケンスは、プロセスの悪化、ワークピース表面への損傷のリスクおよびワイヤ破線のリスクも生じさせる、過度な局部的な汚れのサインである。
【0080】
ワークピースの高さHWPを、数Nの離散した鉛直区間Sに分割する、(第1のコントロールループで使用された)同じアプローチが、第2のコントロールループでも使用される。鉛直区間の大きさは、同じであってよい。
【0081】
連続放電カウンタ:本発明では、各鉛直区間は連続放電カウンタを含んでおり、これによって、各鉛直区間Sにおいて発生する連続放電の数NDCが計数される。
【0082】
本発明の有利な実施形態では、あらゆる特定の位置で発生する連続放電のクリチカルな数の発生が、このようにして、以下のステップによって回避される:ワークピースの高さHWPをワークピースの鉛直区間Sの数に分割するステップ;各鉛直区間Sにおいて発生する連続放電の数NDCを計数するステップ;鉛直区間における連続放電の数NDCが、連続放電の所定の最大数NDCmaxを上回っていることが決定された場合に、少なくともプロセスパラメータを調整するステップ。
【0083】
修正行動:鉛直区間Sにおける連続放電の数NDCが、連続放電の所定の最大数NDCmaxを上回っていることが決定されると、少なくとも1つの後続のパルスが中止される、または少なくとも1つの加工パラメータが調整される。有利には、少なくとも1つの、調整された加工パラメータは、電気的な加工パラメータである。なぜなら、これらのパラメータは、プロセス状態に対する迅速な作用を有しているからである。また、まとめて機械的な加工パラメータと称されるフラッシング、ワイヤ速度およびワイヤ移動等の他の調整も可能であるが、作用は遅い。したがって、連続放電の数が多い場合の修正行動は、1つまたは複数の電気的な加工パラメータおよび1つまたは複数の機械的な加工パラメータの調整であってよい。
【0084】
鉛直区間において、特定の周期の間に放電が発生しない場合には、鉛直区間の連続放電カウンタがリセットされる。たとえば、10個の後続の放電が、考察されている鉛直区間以外で発生すると、カウンタはリセットされる。
【0085】
択一的な実施形態では、連続放電カウンタは、サーキュラーバッファとして構成され、サーキュラーバッファは、少数の最後の放電の最後の放電位置シーケンスを格納する。またはより良好には、バッファは、各最後の放電の位置に関連付けされている鉛直区間Sを格納する。
【0086】
たとえば図13に示されているように、連続放電カウンタは、最後の10個の放電パルスの鉛直区間Sを含むような大きさに設計されているサーキュラーバッファである。これは一般的に、放電の局部化を決定するのに充分である。連続放電の所定の最大数NDCmaxの超過の決定は、サーキュラーバッファにおける、連続した同じ鉛直区間の発生を監視することによって行われる。これは放電位置シーケンスを含んでいる。例示的なケースでは、ワークピースの高さHWPは、32個の鉛直区間Sに分割され、連続放電の所定の最大数NDCmaxは5に設定される。ここでは、連続放電の数NDC=5が、鉛直区間S=9において発生したので、パルス休止の延長、パルス抑圧または1つまたは複数の他の措置がここでリアルタイムに実行される。択一的な実施形態では、連続放電カウンタは、連続放電の警告数NDCwarnと比較される。この数は、連続放電の所定の最大数NDCmaxの下方にあり、あらゆる迅速なパルス抑圧も、パラメータ調整も生起させない。しかし、上記の連続放電の警告数NDCwarnが、幾つかの時点で続けて超過されると、連続放電の所定の最大数NDCmaxが超過された場合と同じまたは同様の措置がとられる、ということが規定されていてよい。
【0087】
有利には、連続放電の特定の数NDCwarnの発生が、さらなる監視、追跡およびコントロールの目的で記録される。たとえば、連続放電の警告数NDCwarnの各超過が、連続放電が発生した鉛直区間とともに記録され、連続放電の警告数NDCwarnが繰り返し超過されていることが決定されると、1つまたは複数の加工パラメータが調整される。有利には、超過は、経路に沿った位置に関しても記録される。鉛直区間および加工経路に沿った位置を記録することによって、警告イベントの正確な2次元マップが提供される。たとえば、本願で上述したように決定される連続した局部的な放電の発生は、機械学習システムに対する入力値として使用可能であり、これによって、適切な加工パラメータが決定され、プロセスが改良される。
【0088】
本発明の有利な実施形態では、鉛直区間Sにおいて発生する連続放電NDCは、隣接する鉛直区間Sj+1において発生する連続放電を含めて計数される。
【0089】
より一般的には、放電は、以下のケースにおいて、同じ位置で連続的に発生すると考えられてよい:
・連続放電が、2つの隣接する鉛直区間で発生する場合。たとえば、鉛直区間が3個の連続放電を捉え、隣接する鉛直区間が4個の連続放電を計数する場合、連続放電の総数は7である;7個の連続放電によって、たとえば6個連続放電の所定の最大数NDCmaxが超過される。このようにして、2つの隣接する鉛直区間の境界において発生する連続放電もまとめられる。これによって、なんらかの形で放電位置検出システムの不正確さが回避され得る。
・観察されている鉛直区間と1つまたは複数の別の鉛直区間において交互に発生する場合。用語「交互に」は、たとえば、少なくとも、放電シーケンスのそれぞれ2番目または3番目の放電が、観察されている鉛直区間において発生することを意味している。このようにしても、局部化が生じていることが推理される。
【0090】
本発明のさらなる実施形態では、放電シーケンスの各放電は、放電シーケンスの時間シーケンスを反映するように重み付けされる。たとえば、放電は、各放電後に、忘却因子λ<1(たとえばλ=0.9)によって乗算され、これによって、新たな放電に関連して、古い放電が正しく考慮される。さらに上述した忘却因子(すなわち、時間におけるシーケンスにしたがった放電の重み付け)を、パルスの分類にしたがった放電の、先述した重み付けと組み合わせることができる。
【0091】
鉛直区間の詳述は、放電局部化を解消するための、放電集中の識別および迅速なパラメータ調整の点から見た、鉛直区間毎に発生する連続放電の記帳のために、この第2のコントロールループにおいて極めて有用である。
【0092】
有利には、あらゆるイベント、すなわち保護レベルのあらゆる上回りまたは下回り(第1のコントロールループ)または連続放電の所定の最大数NDCmaxのあらゆる上回り(第2のコントロールループ)が、このイベントが記録された、加工経路に沿った関連付けられた位置(またはワークピース座標)およびとられた対策とともに記録され、有利にはこれは全ての加工ステップに対して行われる。このようにして、プロセスを、後続の部品検査の点から見て追跡することができ、これによってあらゆる故障がパラメータ設定またはあらゆるパラメータ調整と関連付けられる。有利には、加工ステップ(たとえば一次切断)の間にイベントが発生した位置が特に、後続の加工ステップ(たとえば第1のトリミング切断)の間、観察し、これによって、先行する切断の間にイベントが記録された、加工経路に沿った同じ位置でイベントが依然として発生しているか否かが検証される。有利には、一次切断の途中で、ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った放電の分布が格納される。これは有利には、加工経路に沿って、アクティブな鉛直区間を決定することによって行われる。この情報は、トリミング切断において使用され、あらゆるクリチカルな状態を予期して、加工パラメータ、たとえばフラッシングが調整される。このようにして、加工の質が改良される。
【0093】
イベントを追跡し続けるこれらの対策と、加工経路に沿った位置との相関関係は、第1のコントロールループおよび第2のコントロールループの両方に適用可能である。
【0094】
第3のコントロールループは、ワイヤ放電集中監視ループであり、これによって、移動しているワイヤのあらゆる特定の位置で発生する連続放電のシーケンスが識別され、加工プロセスがコントロールされ、たとえば局部的な放電の発生が中断される。
【0095】
この第3のコントロールループは、複数の放電が、移動しているワイヤの同じ位置に、短い時間において衝撃を与える場合に発生し得るワイヤ破線を阻止する。特に、同じ位置で発生する複数の連続放電、パルス、主に、移動しているワイヤの恒久的な機械的なテンション、放電圧力および電気力学的な力によって生じる過度の熱による弱化の組み合わせが、ワイヤ破線を生起させ得る。ここで、連続した局部的な放電は、ワイヤ材料の加熱、したがって軟化を生じさせるので、ワイヤ材料は、上述した混合負荷にもはや耐えることができない。
【0096】
本発明に相応して、移動しているワイヤのあらゆる特定の位置での放電集中の検出は、同様に、各鉛直区間において発生する連続放電を計数することによって行われる。したがって第1のコントロールループおよび第2のコントロールループによって使用されたのと同じアプローチ、すなわち:ワークピースの高さHWPをワークピースの、数Nの離散した鉛直区間Sに分割すること;各鉛直区間Sにおいて発生する連続放電の数NDCを計数すること;鉛直区間Sにおける連続放電の数NDCが、連続放電の所定の最大数NDCmaxを上回っていることが決定されると、少なくともプロセスパラメータを調整すること;が第3のコントロールループによっても使用される。鉛直区間の大きさは同じであってよい。原則的に、このワイヤ放電集中監視ループ(第3のコントロールループ)を上述したワークピース放電集中監視ループ(第2のコントロールループ)と同じように実行することが可能である。ワイヤが移動しているという事実は、鉛直区間の数がそれほど多くなく、したがって、鉛直区間の幅が比較的広い場合には、無視することができる。これは、一般的に、放電周波数が高く、移動しているワイヤの特定の位置で放電が集中する場合に、これらの連続放電が依然として、同じ鉛直区間において、または最悪でも、隣接する鉛直区間において発生している、ということによる。しかし、鉛直区間の数が多く、各鉛直区間を通るワイヤの移動時間がパルス放電周波数の範囲にある場合には、ワイヤ移動速度を無視することはできない。
【0097】
これをここで、例を用いて説明する。WEDMの移動しているワイヤの速度は、100~400mm/sの範囲にあり、パルス周波数は一次切断の場合には5kHz~100kHzであり、トリミング切断の場合には2Mhzまでである。ワークピースの高さHWPが50mmであり、N=50の鉛直区間に、このワークピースの高さを分割することを仮定すると、各鉛直区間Sは1mmの高さを有する。5kHzの放電パルス周波数f(T=200μs)および400mm/sのワイヤの最高移動速度(Tvs=25ms)を仮定すると、連続放電がワイヤの固定された位置で発生する場合に同じ鉛直区間または後続する鉛直区間において発生し得る12.5個の放電パルスが依然として存在する。
【0098】
WEDMプロセスは確率論的であるので、後続の放電は通常、ランダムな位置で発生する。連続放電が同じ場所で発生する場合、本発明では、これは、鉛直区間Sにおいてまたは後続の鉛直区間Sj+1において発生する連続放電の数NDCを計数することによって決定されるだろう。ここで同様に、鉛直区間Sにおける連続放電の数NDCが、設定されたワイヤ電極に対して認められた連続放電の所定の最大数NDCmaxを上回っていることが決定されると、少なくとも1つのプロセスパラメータが調整され、たとえば1つまたは複数の後続の放電パルスが中止される。ワイヤ放電集中監視ループによって許された連続放電の最大数NDCmaxは、ワークピース放電集中監視ループと同じでも、または異なっていてもよい。
【0099】
「フォールスポジティブイベント」が生じるリスクを、妥当性検査によって低減させることができる。妥当性検査はさらに、1つまたは複数のプロセス信号、たとえばエロージョン電圧、遅延時間、短い放電パルスの数等を監視することを含んでいる。
【0100】
上述したように、各鉛直区間において発生する連続放電の数NDCは、連続放電の所定の最大数NDCmaxと比較される。連続放電の最大数NDCmaxは通常、複数の加工パラメータまたはプロセス状態に対する実験によって決定される。
【0101】
有利な実施形態では、連続放電の所定の最大数NDCmaxは、機械学習を用いて、有利には、分類技術またはロジスティック回帰技術を用いて決定される。特に、分類またはロジスティック回帰タイプアルゴリズムが、他の加工状態に対する、連続放電の許される最大数NDCmaxを決定するために使用され、上述したようにこれは、少なくとも2つの異なる状態、すなわち「安全状態」と「ワイヤ破線」状態へと導く。さらに、付加的な分類状態を加えることができ、これはたとえば、クリチカルなワイヤ破線状態への接近である。状態の択一的な表現はたとえば0~5であってよく、ここで0は安全であり、5はワイヤ破線である。連続放電の所定の最大数NDCmaxは、とりわりワイヤの種類、材料、幾何学的形状を含む異なる加工パラメータに対して決定される。ここでは、印加されている電流、電圧、ワイヤ速度、ワイヤテンション、上方のフラッシングノズルおよび下方のフラッシングノズルにおける圧力等の加工パラメータとは別に、水温、ワイヤ状態等の第2の加工状態がワイヤ破線安全状態を予測するために含まれていてもよい。したがって、上述した分類アルゴリズムの訓練が、種々の加工パラメータおよび発生する連続放電の数NDCを用いて実行される。ここではたとえば少なくとも「安全」および「ワイヤ破線」として、ワイヤ状態が記録される。このような訓練に基づいて、ワイヤ破線状態に導くNDCmaxの値またはワイヤ破線状態に近いNDCmaxの値が、所定の加工パラメータとともに決定される。機器製造業者によってこのようなワイヤ破線予測状態がたとえば一度訓練され、アルゴリズムのパラメータが一度決定される。しかし、設定された訓練およびアルゴリズムのパラメータの識別を種々のアプリケーションに対して、機器のライフサイクルの間、常に更新することが可能である。ここでは、アプリケーション固有の詳細が、設定された訓練に加えられ、NDCmaxの値および/またはNDCwarnの値が常に更新される。これは、特定の加工状態または類似の加工状態を決定可能にするためのものである。ここではワイヤ破線またはワークピース損傷に関係して、加工は「安全」状態にあるまたは「クリチカル」状態に近い。
【0102】
付加的に、安全状態またはクリチカル状態および決定された連続放電の最大数NDCmaxに基づいて、コントロールループによって修正行動がとられ、加工の生産性を最大化するために、特に放電周波数および放電電流等の加工パラメータが変更される。有利な実施形態では、このようなNDCmaxが、一度実行された訓練から、または訓練のための常に更新される情報から既知であると、強化タイプのアルゴリズムが、加工パラメータを適合させるために使用され、これによって安全とクリチカルとの間の加工状態が常に制限される。強化学習タイプアルゴリズムの使用は、プロセスを「安全」状態に導く、加工パラメータにおける変更に報酬を与え、プロセスを「クリチカル」状態に導く、パラメータの変更の行動に報酬を与えない。このアルゴリズムは、より高い累積報酬を得ようと試みるので、プロセスコントロールは、ワイヤ破線または表面損傷を生じさせ得るクリチカル状態とは対照的に、加工を、安全状態の近くに保持しようと試みる。したがって、既知の分類またはロジスティック回帰と強化タイプの機械学習アルゴリズムとの組み合わせによって、継続的に、加工パラメータコントロールは、プロセスを「安全」状態に保持し、プロセスの生産性をほぼ最適に保持しながら、ワイヤ破線を回避する。
【0103】
有利な実施形態では、第1のコントロールループによって使用される保護レベルの決定は、同様に、機械学習を用いて、有利には分類またはロジスティック回帰技術を用いて行われる。同様に、分類またはロジスティック回帰タイプアルゴリズムは、他の加工状態に対して必要な保護レベルを決定するために使用され、これは、少なくとも2つの異なる状態、たとえば「安全プロセス」および「プロセス悪化」状態へ導く。
【0104】
第4のコントロールループは、ワイヤすり減り監視およびコントロールループである。この第4のコントロールループは、ワークピースとの自身の係合線に沿って移動している間に移動しているワイヤ電極によって被る、蓄積した局部的なすり減りを決定する。
【0105】
各放電は、ワークピースおよびワイヤの両方に、クレーターを生じさせる。ワイヤは、ワークピースを通って移動することによって継続的に回復される。しかし、各クレーターは、ワイヤ内の傷を表す。当然ながらこれは、主に、数百Aの極めて高いピーク電流が使用される一次切断によって発生する問題である。幾つかの放電が、ワークピースを通過する間に、移動しているワイヤの同じ場所で発生すると、ワイヤ断面が過度に低減されることがあり、したがってワイヤは、移動しているワイヤの機械的なテンションと、既に弱くなっている位置で発生する放電によって生起された他の力との結合された負荷のもとで、破線することがある。さらに、特定のワイヤは、亜鉛コーティングされている;亜鉛は、自身の材料特性によって切断能力を高める。これはたとえば、蒸発による放熱への寄与である。しかし、亜鉛フェーズが局部的に消費されると、ワイヤはもはや保護されない。したがって、この第4のコントロールループの範囲は、ワークピースの前の通過の間に被った、蓄積された局部的なすり減りを決定すること、およびワイヤの特定の領域が、クリチカルな数の放電を受けたことが決定された場合に、適切な行動をとることである。
【0106】
本発明のこの態様では、移動しているワイヤのあらゆる特定の位置での蓄積された局部的なすり減りが、同様に、ワークピースの各鉛直区間において発生する放電を計数することによって決定される。したがってワークピースの高さHWPを、数Nの離散した鉛直区間Sに分割する、および各鉛直区間において発生する放電を計数する、(第1のコントロールループおよび第2のコントロールループおよび第3のコントロールループによって使用された)同じアプローチは依然として、第4のコントロールループでも有効である。しかしここでは、各カウンタシフト間隔で、各鉛直区間の放電の数のカウンタ値が、隣接する鉛直区間へ、ワイヤ移動方向においてシフトされる。多くのWEDMでは、ワイヤ移動方向は垂直であり、ワイヤは下方に移動するので、最上鉛直区間Sのカウンタによって計数された放電の数が、ワイヤ移動方向における、隣接する下方の鉛直区間Sz-1のカウンタにシフトされ、この第2の鉛直区間において発生する新たな放電が累計され、連続している各鉛直区間で同様のことが、ワイヤが最下の鉛直区間Sに達するまで行われる。新たな各放電は、各鉛直区間に対して先に計数された放電に加えられる。このようにして、リアルタイムのワイヤすり減りモデルを得るために、ワイヤの移動を考慮して、各鉛直区間に対する、放電の実際の累計された数が決定される。
【0107】
全ての鉛直区間にわたって発生した放電の最大累計数NDWhighは、継続的に識別され、かつ所定のワイヤ電極が破線することなく安全に耐える、同じ鉛直区間において発生する、累計された放電の最大許容数NDWmaxと比較される。
【0108】
鉛直区間毎の累計された放電の最大許容数NDWmaxは、実験によって識別される、または目下の加工パラメータ、状態および設定に基づいて見積もられる、または既知の加工パラメータ、状態および設定に基づいて外挿される。上述した、累計された放電の最大許容数NDWmaxに相応するまたはこれを上回る、累計された局部的な放電数NDWhighによってワイヤ破線のリスクがあることが決定されると、ワイヤ破線のリスクを低減させるための対抗措置が開始される。この対抗措置は、たとえば、以下のうちの1つまたは複数であってよい:ワイヤ速度の上昇、ワイヤテンション力の低減、フラッシングの調整、パルス休止の延長等。
【0109】
他方で、目下の加工パラメータおよび状態で、上述した、累計された放電の最大数に、決して達しないことが決定される場合に、ワイヤ速度が低減されてよい。たとえば、鉛直区間毎の累計された放電の最大数が10であるが、有意な時間にわたって決定された、全ての鉛直区間にわたって発生した、放電の最大累計数NDWhigh,highが7である場合、ワイヤ速度が低減されてよい。このようにして、ワイヤ速度が自動的に、ワイヤの実際のすり減りに適合され、低いワイヤ破線リスクで、ワイヤ電極がより効率よく使用される。
【0110】
各放電を充分な精度で空間的に配列するために、および断面の低減によるワイヤの弱化を決定するために、鉛直区間の高さは、比較的小さくなければならない。すなわち、移動しているワイヤの同じ位置で発生する2つの連続放電は、おそらく、同じ鉛直区間において発生しないはずである。カウンタシフト間隔は、ワイヤが鉛直区間全体を移動するのに必要な時間によって決定され、したがって、ワイヤの移動速度によって、ワークピースの高さHWPによって、ワークピースの高さの鉛直区間の数によって、およびパルス周波数によって決定される。
【0111】
たとえば、5kHzのパルス周波数の場合、パルス周期は0.2msである。ワイヤ移動速度が200mm/sであり、ワークピースの高さHWPが50mmであり、ワークピースの高さがN=2000の鉛直区間に分割されると仮定すると、各鉛直区間Sは25μmである。したがって通走時間は0.125msである。例では、ワイヤの同じ位置での連続放電は、同じ鉛直区間には生じず、したがって、これらの放電は安全に配列され得る。通走時間に相当するカウンタシフト間隔は、0.125msである。
【0112】
本発明の方法によって、ユーザーは、部品が面平行であるか、段を有しているか、変化する切断区間を有しているか、またはこれが開口部を有しているか否かに関して特別に注意することなく、最高切断速度パラメータで、あらゆるワイヤ放電加工を実行することができる。必要な加工パラメータ調整は自動的に、あらゆる状況において、ワイヤ破線を伴わずに、設定された保護に基づいて適用されるだろう。
【0113】
放電の位置が既知であるときは、現在の加工の切断プロファイルを表示することが所望されてよい。これは、実際の幾何学形状的な切断状態を反映する、現在の切断プロファイルの正確であり得る表示を伴う。
【0114】
自身の位置にしたがった放電の監視は、強力な手段であり、このうちの幾つかを以降で詳細に説明する。たとえば、ここで説明された特定の対策が使用され得る(決定的ではない):
・上方電流経路および/または下方電流経路の悪化、特に電流供給部の状態を検出する
・たとえば、高い電気的な抵抗または酸化層を形成する傾向を有するワークピース材料で、加工状態の悪化を決定する
・加工状態の悪化がより頻繁に検出される、ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った位置(鉛直区間)を決定し、適切なフラッシング状態、種類および強度または他のパラメータ設定を導出する
・ワイヤ電極とワークピースとの係合線に沿った放電の鉛直分布を決定する加工された輪郭をスキャンし、真直度エラーまたは先細りエラー等の形状エラーを導出する。たとえば、一次切断において切断された輪郭が、エロージョンデブリによる誘電体の不均一な汚れによって、またはワイヤ振動等によって、特定の鉛直区間において過度に加工されていることがある。有利には、輪郭スキャンは、トリミング切断において行われる。ここでは形状エラーが決定されてよく、このエラーが所定の制限を超えていることが決定されると、これが修正されてよい。上述した輪郭スキャンは、観察期間の間に各鉛直区間において発生する平均イグニッション遅延時間または平均パルス電圧等のプロセス信号の決定および分析を含んでいてよい。
・加工の冒頭でワイヤをワークピースとアライメント調整する。このアライメント調整は同様に、ワイヤ電極の係合線に沿った放電の鉛直分布を決定することによって行われる。さらに、ワイヤ切断方向におけるワイヤ傾斜角度を修正して、ワークピースの高さ全体にわたった放電分布を実現する。たとえば、ワイヤ傾斜角度の調整は、第1の観察期間の後に行われ、全体的なワークピースの高さにわたって放電が発生するまで、後続の観察期間の間、繰り返される。
・既存の輪郭の測定および/または再加工を、特開昭55-011761号公報(JPS55011761A)またはEP578018に開示されているようにスキャン方法によって上記の輪郭をスキャンすることによって実行する。しかしここでは、本発明によって説明された放電位置検出方法が使用される。ここでは、輪郭は、有利には固定速度で、および所定のスキャン方向(たとえばCW、CCW)でスキャンされ、上方および下方のワイヤガイドの位置がコントロールされて、たとえばワイヤとワークピースとの係合線に沿った、分布した放電が得られる。ギャップの幅は、目下のスキャン方向に対して垂直の方向にワイヤを動かすことによってコントロールされる。上述した輪郭スキャンの経路が格納され、処理され、新たな部品プログラムが作成される。このプログラムを、その後、目下の部品を再加工するため、または同様の部品を切断するために使用することができる。
・このような放電が、発生が予期されている位置で望まれていないことが決定されると、放電パルスを選択的に抑圧する。選択的な抑圧は、ローパワーパイロットパルスの位置を決定すること、およびハイパワー放電パルスを能動的に抑圧することによって行われる。トリミング切断において、選択的な抑圧は、放電パルスの位置を決定することによって、かつ同じ場所でのこれらの連続放電の発生が予期される場合に迅速に後続のものを抑圧することによって行われる。選択的な抑圧を、円筒状切断における形状エラーを修正するために使用することができる。選択的な抑圧を、たとえば、先細り切断において、特定の位置に対する放電の所望の数を上回る全ての放電を抑圧することによって、選択的なオフセット修正を実現するために使用することもできる。
【0115】
本発明はワイヤ放電加工プロセスのためのものである。しかし、本願に記載された特定の対策は相応に、放電位置/領域が識別および分類可能であるという条件で、型彫り盤またはあらゆる他の放電機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0116】
1 ワイヤ電極
2 ワークピース
3 ギャップ、極間距離
4 切断切り口
5 WEDM 発電機
10 ワイヤ放電機器(WEDM)
12 テーブル
13 加工槽
20、30 上方のヘッドおよび下方のヘッド
21、31 上方電流供給部および下方電流供給部
22、32 上方のワイヤガイドおよび下方のワイヤガイド
23、33 上方のフラッシングノズルおよび下方のフラッシングノズル
25、35 上方電流ケーブルおよび下方電流ケーブル
29、39 上方のトロイダル電流変換器および下方のトロイダル電流変換器
I20、I30 部分放電電流
WP ワークピースの高さ
S 鉛直区間
アクティブな鉛直区間
鉛直区間(位置)
、NDTM 観察期間
所定の時間期間
鉛直区間の数(数量)
アクティブな鉛直区間の数(数量)
SAvg 鉛直区間毎の放電パルスの所定の平均数
DTM 放電パルスの所定の数
Di 放電パルス
Di、Li ワークピースの中心またはワークピースの底部からの放電位置
FL、FU 下方電流供給部から下方のワークピース表面または上方のワークピース表面までの距離
Dj 鉛直区間毎の放電数
Dhigh 放電の最大数
pl 保護係数
DC 連続放電の数
DCmax 連続放電の最大数
DCwarn 連続放電の警告数
DWhigh 放電の最大累計数
DWhigh,high 最大の、放電の最大累計数
DWmax 累計された放電の最大許容数
l、 下方または上方のフラッシングノズルでの圧力
high 放電の平均数に対する最大の比
high,max 放電の平均数に対する最大の許容される最大比
図1
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