(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋
(51)【国際特許分類】
B65D 17/32 20060101AFI20230501BHJP
B65D 25/38 20060101ALI20230501BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20230501BHJP
B65D 8/04 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B65D17/32
B65D25/38
B65D25/14 A
B65D8/04 L
(21)【出願番号】P 2018246827
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】岩丸 忠義
(72)【発明者】
【氏名】山本 明
(72)【発明者】
【氏名】大越 俊行
(72)【発明者】
【氏名】田中 康明
(72)【発明者】
【氏名】原 基貴
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-001871(JP,A)
【文献】実開昭62-182221(JP,U)
【文献】特開2007-001081(JP,A)
【文献】特開2004-123208(JP,A)
【文献】特開2004-182284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 17/32
B65D 25/38
B65D 25/14
B65D 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形のパネル部の外周全体に巻き締めのためのフランジ部が形成されるとともに、前記パネル部と前記フランジ部との間に前記パネル部の内面側に窪んだ環状溝が形成され、指掛け部と押し下げ部との間に支点となる固定部が設けられているタブが、前記パネル部の外面の中央部に設けられたリベット部に前記固定部を固着することにより前記パネル部に取り付けられ、前記パネル部のうち前記押し下げ部の下側に対応する部分に、易破断線であるスコア線によって画定された開口片が形成され、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ線で表される流出方向において前記開口片と前記環状溝とが離隔していて前記パネル部の一部が存在している発泡性に優れたステイオンタブ式缶
蓋であって、
前記スコア線は、少なくとも、前記リベット部から最も遠い箇所を中心とした両側の予め定めた所定範囲の部分
が前記環状溝側に凸となっている互いに一定間隔の9~17個の突起状屈曲部を有する波歯形状に形成され、
前記開口片と前記環状溝との間に存在している前記パネル部の一部に、前記流出方向に沿いかつ前記流出方向に長い互いに平行な複数の凸条部または凹条部からなる線条ガイド部が形成され、
前記パネル部の内面のうち前記開口片の周囲に
、三角形断面もしくは円形断面で互いに一定間隔の多数
の微細凹部からなる粗面部が形成されている
ことを特徴とする発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡性に優れたステイオンタブ式缶
蓋であって、
前記凸条部は、前記パネル部の一部が所定の幅でかつ前記パネル部の内面側に凸となっている部分であり、
前記凸条部同士の間の部分が前記凹条部となっていて前記凹条部の幅が、前記凸条部の幅より広い
ことを特徴とする発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋。
【請求項3】
請求
項1または2に記載の発泡性に優れたステイオンタブ式缶
蓋であって、
前記微細凹部は、1平方インチあたり、1200個ないし1500個、形成されていることを特徴とする発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋。
【請求項4】
請求項1ない
し3のいずれか一項に記載の発泡性に優れたステイオンタブ式缶
蓋であって、
前記開口片は、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ前記線の上での長さに対して、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ前記線に対して直交する方向で測った最大幅が小さい形状であることを特徴とする発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タブによって開口できるように構成された缶蓋に関し、特にビールなどの発泡性のある飲料をグラスなどに注出する際にきめ細かいクリーミーな泡を生じさせることのできるステイオンタブ式の缶蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、この種の缶蓋を特許文献1によって既に提案している。特許文献1に記載されている缶蓋は、缶胴の端部に巻き締めるためのフランジ部と開口予定部が形成されているパネル部との間に環状溝が形成された缶蓋であって、その環状溝における缶胴の内部を向く面に粗面部が形成され、その粗面部の表面粗さが算術平均で16nmないし53nmに設定されている缶蓋である。
【0003】
発泡のための加工を缶蓋の内面に施した他の例が特許文献2ないし4に記載されている。特許文献2に記載された缶蓋は、缶蓋の内面に積層された有機樹脂被膜の内面に凹部を形成した缶蓋である。また、特許文献3に記載された缶蓋は、内面に塗布した発泡性塗料による発泡促進粗面部を形成し、その発泡促進粗面部の算術平均粗さを1.0ないし15μmとし、1インチあたりのピークカウントを50ないし250とした缶蓋である。さらに、特許文献4に記載された缶蓋は、開口部の周辺の内側面に多数の突起または凹部からなる粗面部を形成した缶蓋である。特にその特許文献4に記載された缶蓋では、凹部は、凸条もしくは凹条であってよい、とされており、開口部の輪郭に沿った円弧状の凸条もしくは凹条が特許文献4に図示されている。
【0004】
また一方、開口部から注ぎ出る内容物に乱れを生じさせることにより発泡を促進するように構成した缶蓋が特許文献5に記載されている。特許文献5に記載された缶蓋は、開口部を横切って開口部を上下の二つに区画する飲用制御部を設け、その飲用制御部のうち下部口に臨むエッジに鋸状凹凸を形成し、その鋸状凹凸によって内容物の流れに乱れを生じさせるように構成された缶蓋である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-223937号公報
【文献】特開2004-123208号公報
【文献】特開2004-182284号公報
【文献】特開2004-1871号公報
【文献】特開2003-12049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発泡性飲料を缶蓋の開口部から注ぎ出す際に発泡する要因や泡の大きさ(直径)に影響する要因は必ずしも明確にはなっていないが、上述した特許文献1,2,4,5では、乱流が要因となって発泡するように記載されている。また、生じた泡の評価は、泡の直径や持続性の官能評価によって行っている。したがって、上述した各特許文献に記載された発明では、各々の発明で設定した評価基準を満たすことにより、それぞれの発明で設定した課題を解決し、所定の作用・効果を得られる、としている。しかしながら、従来の技術では市場のニーズあるいは市場での高評価を得ることができない場合が多いのが実情である。例えば、発泡性飲料としてのビールについては、泡の直径は400μm程度を限度としてそれ以下が好ましいとされているのに対して、上述した各特許文献1~5に記載された構成では、市場の要求に応える泡を安定して発生されることが困難である。
【0007】
本発明は上述した技術的背景の下になされたものであって、従来以上に微細な泡を安定して発生させることのできるステイオンタブ式缶蓋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、円形のパネル部の外周全体に巻き締めのためのフランジ部が形成されるとともに、前記パネル部と前記フランジ部との間に前記パネル部の内面側に窪んだ環状溝が形成され、指掛け部と押し下げ部との間に支点となる固定部が設けられているタブが、前記パネル部の外面の中央部に設けられたリベット部に前記固定部を固着することにより前記パネル部に取り付けられ、前記パネル部のうち前記押し下げ部の下側に対応する部分に、易破断線であるスコア線によって画定された開口片が形成され、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ線で表される流出方向において前記開口片と前記環状溝とが離隔していて前記パネル部の一部が存在している発泡性に優れたステイオンタブ式缶蓋において、前記スコア線は、少なくとも、前記リベット部から最も遠い箇所を中心とした両側の予め定めた所定範囲の部分が波歯形状に形成され、前記開口片と前記環状溝との間に存在している前記パネル部の一部に、前記流出方向に沿いかつ前記流出方向に長い互いに平行な複数の凸条部または凹条部からなる線条ガイド部が形成され、前記パネル部の内面のうち前記開口片の周囲に、多数の凹凸部からなる粗面部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、前記スコア線の前記波歯形状は、滑らかな曲線中に一定間隔で前記環状溝側に向けて凸となる9~17個の突起状屈曲部が形成されている。
【0010】
本発明では、前記凸条部は、前記パネル部の一部が所定の幅でかつ前記パネル部の内面側に凸となっている部分であり、前記凸条部同士の間の部分が前記凹条部となっていて前記凹条部の幅が、前記凸条部の幅より広くてよい。
【0011】
本発明では、前記粗面部には、三角形断面もしくは円形断面の多数の微細凹部が一定間隔で形成されている。
【0012】
本発明では、前記微細凹部は、1平方インチあたり、1200個ないし1500個、形成されていてよい。
【0013】
そして、本発明では、前記開口片は、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ前記線の上での長さに対して、前記開口片のうち前記リベット部から最も離れた箇所と前記リベット部とを結んだ前記線に対して直交する方向で測った最大幅が小さい形状であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発泡性飲料を内容物とし、その内容物を注ぎ出させる際に接触するパネル部の内面のうち開口片の周囲が粗面部とされており、それだけでなく、スコア線が波歯形状に形成されていることにより、開口部の内縁部、特に注ぎ出る内容物が通過する内縁部が波歯状になっており、さらにその波歯状の部分に続くパネル部の一部に、内容物の流出方向を向いた複数の凸条部および凹条部からなる線条ガイド部が形成されているので、注ぎ出された内容物の内部に、微細で、また感触としてはクリーミーな泡を安定して発生させることができる。そのような発泡が生じる原理は、必ずしも明確ではないが、泡が発生する際の核となる箇所が粗面部によって拡大されていること、粗面部によって微細な泡が発生した内容物が開口部から注ぎ出ることを線条ガイド部によって促進し、内容物が開口部の近傍に滞留したり、そのために泡同士が合体して大きい泡になることが抑制されること、外部に向けて拡散して流れる内容物に波歯状の部分で乱流を生じさせて微細な泡の発生および分散を促進することなどが要因となって、従来になく微細でクリーミーな泡を生じさせることができるものと考えられる。
【0015】
また、本発明によれば、微細な泡を生じさせる要因の一つである上記の波歯状の部分を、スコア線の形状を従来にない形状とすることにより形成できるので、部品点数や加工工数を増大させることなく、発泡性に優れた缶蓋を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係る缶蓋の具体例を示す正面図である。
【
図2】その缶蓋をその中心を通る直線に沿って切断した断面図である。
【
図4】粗面部が形成されている領域を示す図であって、缶蓋を内面から見た図である。
【
図5】微細凹部の形状を示す部分拡大断面図である。
【
図6】開口部から内容物が流出する状況を示す図であって、(a)および(b)はこの発明の例を示し、(c)は線条ガイド部を設けていない比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、この発明に係る缶蓋を具体例に基づいて説明する。この発明で対象とする缶容器(図示せず)は、一般に用いられているアルミニウムやスチール等の金属板、あるいは、アルミ合金等の金属板から成形されたものである。缶容器は、特にビールや発泡酒等の発泡性飲料の容器として好適であり、例えば、残置型開封片を設けたSOT(Stay on Tab)型の2ピース缶や3ピース缶である。この缶体は、発泡性飲料が充填された後に、その開口部に缶蓋1が被せられて密封される。
【0018】
缶蓋1には、
図1および
図2に示すように、円板状であるパネル部2の外周縁に連続する環状溝3が形成されている。この環状溝3は、缶蓋1が缶胴の開口部に配置された際に、缶胴の内部に向かって突出するように形成されている。また、缶蓋1の外周全体には、缶蓋1を缶胴に巻き締めるためのフランジ部5が、環状溝3に連続した状態に形成されている。パネル部2の中心から外れた箇所に、易破断線であるスコア線4で画定された開口片7が形成され、その開口片7をテコ作用で押し開くタブ8が、パネル部2の中心部に取り付けられている。
【0019】
タブ8は従来知られている比較的細長い形状であって、一方の端部が指掛け部9とされ、他方の端部が押し下げ部10とされている。指掛け部9は環状に形成されている。また、押し下げ部10は凸円弧状の部分であり、その内周側から前記指掛け部9側に向けて延びる取付片11が形成されている。取付片11は、タブ8を構成している金属板からなる舌片状(タング)の部分であり、缶蓋1におけるパネル部2の上面に接触している部分である。取付片11には貫通孔が形成され、これに対してパネル部2の中央部には、パネル部2の外面側に突出したリベット部12が形成されている。このリベット部12を取付片11における貫通孔に挿入し、そのリベット部12の上部をカシメルことにより、タブ8がパネル部2に取り付けられている。したがって、取付片11がこの発明における固定部に相当している。
【0020】
ここでスコア線4の形状および開口片7の形状について説明すると、スコア線4は、所定の残厚が生じるようにパネル部2に形成したV字状断面の切り込み線(もしくは窪み線)であって、互いに接近した二本の線(二重線)として形成されている。このスコア線4は開口片7がパネル部2に繋がったまま残るようにするために、端部同士が互いに離隔した形状になっている。その形状の一例を
図3に示してあり、リベット部12の外周に沿って湾曲した部分から
図3の横方向(パネル部2の半径方向)に延び、その後、
図2の下方向にU字形状に延びている。このU字形状の部分が、開口片7の輪郭(したがって開口部の開口形状)を規定している。このU字形状の部分は、タブ8における指掛け部9の幅方向での中心部とリベット部12の中心とを結んだ線Lに沿って、リベット部12側から環状溝3側に延びている。
図3に示す例は、並口と称される開口形状の例であり、前記線Lに沿った方向での最も長い部分の長さL7に対して、これとは直交する方向の幅W7が短い形状になっている。したがって、開口片7が押し開かれることにより生じる開口部の形状もこれと同様の形状になる。
【0021】
スコア線4は、破断がスムースに進行するように滑らかな曲線を主体としている。そのスコア線4の一部は、波歯形状をなしている。より具体的には、二重線のうち外側の線であって破断が生じる線は、前述した線Lと交差する箇所の左右両側の所定範囲で波歯形状をなしている。その波歯形状は、一定間隔で外側に凸となる突起状屈曲部13を形成した形状である。なお、この突起状屈曲部13を形成する範囲は、開口片7がスコア線4で破断して生じた開口部のうち、内容物が流出する際に内容物が接触する範囲であってよい。その突起状屈曲部13の具体例を挙げると、基線である滑らかな曲線からの突出寸法が0.3mm程度、突出端の曲率半径が0.5mm程度、間隔が3.77mm程度である。また、突起状屈曲部13の数は、発泡の効果を実験で確認しつつ決めることができ、一例として9個ないし17個である。
【0022】
図1に示すように、スコア線4と前述した線Lとが交差する部分すなわち開口片7のうちの最も環状溝3に接近した箇所と環状溝3とは離隔していて両者の間にパネル部2の一部が存在している。この開口片7に環状溝3が最も接近している箇所を含む開口片7と環状溝3との間のパネル部2に、複数の凸条部および凹条部からなる線条ガイド部14が形成されている。凸条部は、パネル部2を内面側に凸となるように線状に変形させた部分であり、したがってそれらの凸条部の間の部分が凹条部となっている。すなわち、これら凸条部と凹条部とは相対的な関係になっている部分であり、パネル部2の外面側から見て外面側に線状に凸となっていることにより内面側には凹となっている凹条部を形成し、凹条部の間の部分を凸条部としてもよい。これら線条ガイド部14を構成している凸条部および凹条部は、前述した線Lに沿う方向の線状の部分である。そして、凸条部および凹条部は一定の間隔をあけて平行になっている。したがって、前述した線Lに近い箇所の凸条部もしくは凹条部が最も短く、線Lから離れるほど長くなっている。言い換えれば、スコア線4や開口片7などを形成するべく窪ませてある箇所と環状溝3との間を埋めるように線条ガイド部14が形成されている。したがって、線条ガイド部14は、当該窪ませてある箇所の幅(前記線Lに直交する方向に測った幅)とほぼ等しい幅の範囲内に形成されている。
【0023】
この線条ガイド部14(特にパネル部2の内面側に凸となっている凸条部)は、缶容器を傾けて内容物を開口部から注ぎ出す際に、内容物の流れを整流するとともに内容物が缶容器の内部で開口部の近辺に滞留することを抑制することを主目的として設けられている。したがってそのパネル部2の内面での幅は、一例として1mm程度であり、パネル部2の外面側への突出高さは一例として0.2mm~0.5mm程度である。また、凸条部同士の間隔は2.5mm程度である。言い換えれば、パネル部2の内面側においては、凸条部の幅に対して、凸条部同士の間隔である凹条部の幅が大きくなっている。
【0024】
さらに、パネル部2の内面のうち前記開口片7の周囲の部分に粗面部15が形成されている。粗面部15は、缶容器を傾けて内容物を注ぎ出す際に、一時的に溜まる内容物を接触させて発泡を促進するための部分であり、多数の微細な凹部(パネル部2の内面から見ての凹部)もしくは凸部を形成した部分(凹凸部)である。したがって粗面部15は、内容物を注ぎ出すように缶容器を傾けた際に内容物が接触する範囲に形成されていればよく、
図4に示すように、前記線Lに直交する直交線のうち最もリベット部12側の前述した突起状屈曲部13の近辺を通る直交線L15と環状溝3とで囲まれた領域に形成されていればよい。なお、
図4では線条ガイド部14を省略してある。
【0025】
粗面部15を構成する微細凹部は従来知られているショットピーニングなどの各種の方法で加工することができ、表面粗さで表せば算術平均粗さ(R)が50μm~100μmである。また、メッシュに準じた数値で表せば、微細凹部の数は、1平方インチ当たり1200個ないし1500個である。微細凹部の位置や形状さらには密度を安定させる場合には、微細凹部の形状に対応した微細な凸部を多数形成した工具をパネル部2の内面に押し付けるコイニングによって微細凹部を形成することが好ましい。
図5の(a)および(b)は、微細凹部の例を示しており、(a)は断面形状が三角形の突起16aを有する工具16によって形成した微細凹部15aの例である。その深さは0.05mm程度、開口径は直径で0.09mm程度、微細凹部15a同士の間隔は0.65mm程度である。また、(b)は断面形状が円形の突起17aを有する工具17によって形成した微細凹部15bの例である。その深さは0.05mm程度、開口径は直径で0.2mm程度、微細凹部15b同士の間隔は0.3mm程度である。
【0026】
所定の缶胴の開口端に前記フランジ部5を巻き締めることにより、上述した缶蓋1を缶胴に取り付けて発泡性飲料の缶容器とし、前記タブ8の指掛け部9を持ち上げることにより、タブ8がリベット部12の部分を支点としてテコ作用を行い、押し下げ部10で開口片7を押し開く。開口片7は、缶容器の内部に向けて折り曲げられた状態で残置し、その状態で缶容器を傾けることにより内容物である発泡性飲料が、開口部から注ぎ出される。その場合、開口部の最も環状溝3に近い箇所が下になるように缶容器を傾けるから内容物は前記線Lに沿った方向に流れ出る。したがって、前記線Lに沿う方向が流出方向となる。
【0027】
缶容器を傾けることにより、内部の発泡性飲料は、開口部に向けて流れてその周囲に一旦溜まり、あるいは溜まっている箇所を越えて開口部から流れ出る。その状態を
図6の(a)に模式的に示してある。缶容器を傾けた状態で開口部Oより下側の部分では、パネル部2の内面のうち開口部Oの周囲に形成されている前述した粗面部15により発泡が促進される。すなわち、粗面部15における微細凹部が核となって発泡し、また微細凹部によって発泡の核となる箇所が増大している。その粗面部15を形成している微細凹部は、前述したように開口径が小さく、かつ極めて多数であるため、発泡促進効果が優れるだけでなく、発生する泡の径を微細にする作用が生じる。
【0028】
このようにして生じた微細な泡を含む発泡性飲料Bは、開口部Oに向けて流れる。その場合、開口部Oの周辺部(缶容器を傾けた状態では開口部Oの下側の部分)に線条ガイド部14が形成されているので、少なくともパネル部2の内面に接近している箇所では、発泡性飲料Bに対する整流作用が生じる。すなわち、
図6の(b)に矢印で示すように、発泡性飲料Bは開口部Oに向けて流れるように誘導される。その結果、微細な泡同士の衝突やそれによる合体ならびに大きい泡への成長が回避もしくは抑制される。
【0029】
比較のために線条ガイド部を設けていない場合の流れの状況を
図6の(c)に模式的に示してある。線条ガイド部が設けられていなければ、パネル部2の内面は単純な平坦面であるから、ここに接触した発泡性飲料Bは、矢印で示すように四方八方にランダムに流れる。その結果、発泡性飲料Bは開口部Oから流出する直前に乱流状態となり、これが原因で泡同士の衝突やそれによる合体ならびに大きい泡への成長が促進され、微細でクリーミーな泡を得ることが困難になる。
【0030】
上記の線条ガイド部14を経た発泡性飲料Bは開口部Oから流出する。その開口部Oの内縁部は、前記スコア線4に沿う破断で生じたエッジであるからスコア線4と同様に波歯状になっている。そのため、発泡性飲料Bは、開口部Oが前述した並口であることにより流線(流通断面積)が絞られることに加えて、開口部Oの内縁部が波歯状であることにより、流れが乱される。この波歯状の部分も発泡の核となるから、発泡性飲料Bが乱流状態となることと相まって発泡が促進される。また、乱流状態となるとしても、発泡性飲料Bは開口部Oから外部の解放された空間に流れ出るので、缶容器の内部で開口部Oに到るまでの間のように閉ざされた箇所での乱流の場合とは異なり、微細な泡同士が衝突して大きい泡に成長するなどの事態が生じにくい。したがって、波歯状の部分によって微細な泡の発生が促進される。
【0031】
この発明に係る上記の缶蓋1によれば、上述したように、粗面部15および波歯状の開口部の内縁部によって発泡が促進されるとともに、発生する泡を直径の小さい微細な泡とすることができる。また、線条ガイド部14によっても発泡を促進することができるとともに、微細な泡同士の合体による直径の増大を抑制できる。その結果、グラスなどに注ぎ出された発泡性飲料に生じている泡を、直径の小さいクリーミーな泡とすることができ、市場のニーズに応えることのできる発泡性飲料あるいはそのための缶容器を提供することができる。
【0032】
ここで本出願人等が行った評価結果を示す。
比較例:広口の従来のビール用アルミ缶であって、スコア線やパネル部の内面には特には新規の加工を施しておらず、また線条ガイド部を設けていない缶蓋を取り付けてある。なお、広口とは、前述した流出方向の長さに対して幅が大きい開口部である。
実施例1:前述した粗面部15ならびに波歯状のスコア線4(波歯状の開口部内縁部)および線条ガイド部14を設けた缶蓋であって、粗面部15における微細凹部15aを三角形断面に形成し、またスコア線4における突起状屈曲部13の数を「9」とした例である。
実施例2:前述した粗面部15ならびに波歯状のスコア線4(波歯状の開口部内縁部)および線条ガイド部14を設けた缶蓋であって、粗面部15における微細凹部15aを三角形断面に形成し、またスコア線4における突起状屈曲部13の数を「17」とした例である。
実施例3:前述した粗面部15ならびに波歯状のスコア線4(波歯状の開口部内縁部)および線条ガイド部14を設けた缶蓋であって、粗面部15における微細凹部15bを円形断面に形成し、またスコア線4における突起状屈曲部13の数を「9」とした例である。
実施例4:前述した粗面部15ならびに波歯状のスコア線4(波歯状の開口部内縁部)および線条ガイド部14を設けた缶蓋であって、粗面部15における微細凹部15bを円形断面に形成し、またスコア線4における突起状屈曲部13の数を「17」とした例である。
【0033】
評価には、缶容器として350mlのアルミ缶、発泡性飲料としてビールを用い、4℃ないし5℃に冷却し、130mmの高さから透明グラスに静かに注ぎ出し、初期の激しい泡の動きが収まった時点で、グラスの底部から60mmの位置においたマイクロスコープでグラスの内部の泡を撮影し、その画像から泡の直径を計測して行った。比較例および各実施例として5缶を用意し、泡径はそれらの平均値とした。評価結果(計測結果)を
図7に示してある。
図7から知られるように、本発明の実施例1~4のいずれにおいても、泡の直径が、従来品である比較例よりも小さくなり、本発明は発泡性飲料の泡の微細化に効果があることが認められた。
【符号の説明】
【0034】
1…缶蓋、 2…パネル部、 3…環状溝、 4…スコア線、 5…フランジ部、 7…開口片、 8…タブ、 9…指掛け部、 10…押し下げ部、 11…取付片、 12…リベット部、 13…突起状屈曲部、 14…線条ガイド部、 15…粗面部、 15a…微細凹部、 15b…微細凹部、 16…工具、 16a…突起、 17…工具、 17a…突起、 B…発泡性飲料、 O…開口部、 L…線、 L15…直交線、 L7…長さ、 W7…幅。