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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】部材の構築工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 5/02 20060101AFI20230501BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20230501BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20230501BHJP
   E01D 19/10 20060101ALI20230501BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20230501BHJP
   B28B 23/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
E02B5/02 N
E04G21/02 103Z
E04G21/12 105A
E01D19/10
E01D19/12
B28B23/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019001839
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020111897
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】高木 智子
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 有寿
(72)【発明者】
【氏名】森本 正和
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077628(JP,A)
【文献】特開昭52-062332(JP,A)
【文献】特公昭52-039053(JP,B2)
【文献】特開2016-117987(JP,A)
【文献】特開平02-283403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/02
E04G 21/02
E04G 21/12
E01D 19/10
E01D 19/12
B28B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、
部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、
部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、
前記コンクリート打設工程でコンクリートが打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程と、
前記ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設した後の部材をポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含む
ことを特徴とする部材の構築工法。
【請求項2】
部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、
部材表面の少なくとも一部の表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程と、
前記ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートが打設された表層部をポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程と、
部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、
前記表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含む
ことを特徴とする部材の構築工法。
【請求項3】
部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、
少なくとも外側の一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠を配置する埋設型枠設置工程と、
前記埋設型枠内側に鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、
前記埋設型枠内側にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含み、
前記埋設型枠は、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を、前記ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程を経て構築されたものである
ことを特徴とする部材の構築工法。
【請求項4】
前記加熱工程は、50~100℃の温度で行われることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の部材の構築工法。
【請求項5】
前記ポリマーセメントに用いるポリマーは、ガラス転移温度が35~100℃であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の部材の構築工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の構築工法に関する。より詳しくは、建築、土木構造物の建設の際に使用することができる部材の構築工法に関する。
【背景技術】
【0002】
形状を自由に設計することができ、耐久性が高いコンクリートは、土木、建築の分野で欠くことのできない材料であり、様々な構造物の材料として幅広く使用されている。
コンクリート構造物には、更なる強度向上の要求や、建設から年数の経過したコンクリート構造物のうち、かぶり部と称される最も劣化しやすい表層断面を補修する方法やかぶり部を強化させるといった方法への要求があり、従来より様々な方法が検討されている。従来のコンクリート構造物のかぶり部の引張強度を高める方法として、既設コンクリート構造物の表面を炭素繊維や所定の直径の補強筋で補強する方法(特許文献1、2参照)や、補強用繊維とコンクリートとを含む高強度繊維補強コンクリートが知られている(特許文献3、4参照)。また、コンクリート構造物の補修方法として、所定のガラス転移温度のポリマーを用いたポリマーセメントモルタルでコンクリート構造物を補修する方法や、表層が劣化した用水路の表層コンクリートをハツリ除去した後、特定のポリマーセメントモルタルを塗布し補修材層を形成する方法、コンクリート構造物の表面を特殊な非水硬性化合物を含有する断面修復材で修復し、断面修復材が硬化した後に表面を炭酸化処理する方法等が知られている(特許文献5~7参照)。
【0003】
このようなコンクリート構造物の中でも特に物理的な劣化対策(断面減少対策)としてかぶり部の強度が要求されるものの1つに農業用水路やダムがある。農業用水路は水だけでなく砂や流木等が衝突する場合があるため、すり減り抵抗性や強度が求められる。また、ダムには、余剰の水を放流する放流設備が設けられており、特に、洪水時にダムの安全性を確保する目的で洪水吐が設けられている。洪水時にダムから放流される水のエネルギーは非常に大きいため、洪水吐には水勢を抑制する減勢工が設けられている。減勢工には、この大きな水のエネルギーが付加されると共に、濁流によって上流側から流される流木や転石等が衝突する場合あるため、減勢工の表面が通常のコンクリートの場合、放流時に減勢工が損傷したり、経過年に伴い断面が減少していく。このため、減勢工を形成するコンクリートの表面には、すり減り抵抗性の高い材料が求められ、従来は、減勢工の表面は鋼板で被覆する等の構造となっている。ダムについては、ダム堤体の耐摩耗性を高める工法として、脚部間を着脱自在に連結した補強レールを傾斜水たたき部に敷設し、高強度コンクリートを打設する工法が知られている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-32532号公報
【文献】特開2003-35041号公報
【文献】特開2017-110399号公報
【文献】特開2018-91063号公報
【文献】特開2006-124232号公報
【文献】特開2011-148695号公報
【文献】特開2007-22878号公報
【文献】特開2002-69981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般社団法人農業土木事業協会によれば、農業用水路に適用されるコンクリートには、10時間後の水砂噴流摩耗試験に規定する摩耗深さがJISモルタルによる標準試験体と比較した場合、1.5以下であることが条件として設定されている。既存の超高強度繊維補強コンクリートは、JISモルタルを標準とした場合、0.32である。なお、一般財団法人電力中央研究所が考案した4時間後の奥田式すり減り試験の結果、超高強度繊維補強コンクリートのすり減り係数が250mm/cm程度である。
このような、特にすり減り抵抗性を求められる部分をコンクリート構造とする場合には、特許文献3、4に記載の超高強度繊維補強コンクリートや、特許文献7に記載の炭酸化養生を施すことにより表層コンクリートセメント硬化体を緻密にした長寿命化コンクリート等の適用が考えられる。しかし、超高強度繊維補強コンクリートは特殊な繊維材料やコンクリート配合等が必要となり、長寿命化コンクリートでは特殊混和剤γ-CSの使用に加え、炭酸化養生のための特殊な設備が必要となって、施工の手間のみならず、コスト面でも不利となり、その採用が困難である。このため、これらよりも施工性やコスト面に優れ、すり減り抵抗性に優れたコンクリート構造物を構築できる方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、施工性やコスト面に優れ、すり減り抵抗性に優れたコンクリート構造物を構築できる工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、施工性やコスト面に優れ、すり減り抵抗性に優れたコンクリート構造物を構築することができる工法について検討し、部材内部に配置される鉄筋を構築し、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設した後、コンクリート打設工程でコンクリートが打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、その後、その部材をポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する工程により部材を構築すると、通常のコンクリートよりも高価なポリマーコンクリートの使用量を抑えながらすり減り抵抗性と凍結融解抵抗性に共に優れたコンクリート構造物を構築することができることを見出した。本発明者は更に、ポリマーセメントコンクリートを打設し、加熱する工程と、部材内部に配置される鉄筋を構築し、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設する工程との順番を入れ替えた工法や、埋設型枠を用いた工法においても同様にすり減り抵抗性と凍結融解抵抗性に共に優れたコンクリート構造物を構築することができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、前記コンクリート打設工程でコンクリートが打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程と、前記ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設した後の部材をポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする部材の構築工法である。
【0009】
本発明はまた、部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、部材表面の少なくとも一部の表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程と、前記ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートが打設された表層部をポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程と、部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、前記表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含むことを特徴とする部材の構築工法でもある。
【0010】
本発明は更に、部材の一部をポリマーセメントから成る材料で構築する部材の構築方法であって、少なくとも外側の一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠を配置する埋設型枠設置工程と、前記埋設型枠内側に鉄筋を構築する鉄筋組立工程と、前記埋設型枠内側にコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含み、前記埋設型枠は、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を、前記ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程を経て構築されたものであることを特徴とする部材の構築工法でもある。
【0011】
上記加熱工程は、50~100℃の温度で行われることが好ましい。
【0012】
上記ポリマーセメントに用いるポリマーは、ガラス転移温度が35~100℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の部材の構築工法は、コストを抑えながらすり減り抵抗性に優れたコンクリート構造物を施工性よく構築することができる工法であるため、様々なコンクリート構造物の構築に使用できる。中でも、すり減り抵抗性が要求される農業用水路やダムの洪水吐の減勢工の表面、重力式コンクリートダム堤体の外殻部の表層部等の構築に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図2】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図3】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図4】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図5】本発明の第2の工法の実施形態の一例を示した図である。
図6】本発明の第2の工法の実施形態の一例を示した図である。
図7】本発明の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図8】本発明の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図9】本発明の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図10】本発明の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図11】実施例7、比較例5~7、参考例1~2のすり減り抵抗性評価の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0016】
本発明の部材の構築工法は、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを使用することを1つの特徴とする。ポリマーセメントモルタル/コンクリートは、特殊な養生を必要とせず、現場で打設でき、特殊な設備も必要としない。またコスト面からも、前記した超高強度繊維補強コンクリートや長寿命化コンクリートよりは安価に同等のすり減り抵抗性を有するコンクリートを提供できるメリットがある。更に本発明の部材の構築工法では、高いすり減り抵抗性が求められる部材表層部をポリマーセメントモルタル/コンクリートで形成し、その他の部材内部等を通常のコンクリートで形成することで更なる低コスト化を実現している。
また、本発明の部材の構築工法は、寒冷地に適用される構造物の表層部にも適用される。例えば、山間部等の寒冷地に構築される、重力式コンクリートダム堤体の外殻部等などである。このような箇所には、高い凍結融解抵抗性が求められ、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」によれば300サイクルの凍結融解試験で、相対動弾性係数60%以上の条件が設定されている。
本発明の構築工法によって構築される、表層部にポリマーセメントモルタル/コンクリート層を有する構造部材/構造物は、高いすり減り抵抗性に加えて、高い凍結融解抵抗性も有している。即ち、コンクリート構造物の凍結融解抵抗性に関して規定する、上記技術基準を満足する性能を有している。
このような、高いすり減り抵抗性や高い凍結融解抵抗性が求められるコンクリートの表層構造にポリマーセメントモルタル/コンクリートを適用することは、従来には例がない。
本発明者らは、ポリマーセメントモルタル/コンクリートのこのような高耐久性能に着目し鋭意研究開発を進め、後述する実適用を想定した実験等により、本発明の課題を解決できる性能が担保されることの確認を行っている。
【0017】
本発明の部材の構築工法には、以下の3つの工法がある。
(1)部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程、及び、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を含み、コンクリート打設工程でコンクリートが打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、所定の温度で加熱する工法(以下、本発明の第1の工法と記載)
(2)部材表面の少なくとも一部の表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートが打設された表層部を所定の温度で加熱する工程と、鉄筋組立工程とを含み、更に、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設した表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う工法(以下、本発明の第2の工法と記載)
(3)ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を所定の温度で加熱する加熱工程を経て構築された、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠を少なくとも外側の一部に配置する埋設型枠設置工程、埋設型枠内側に鉄筋を構築する鉄筋組立工程、埋設型枠内側にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う工法(以下、本発明の第3の工法と記載)
以下においては、これら3つの工法について順に説明し、その後に本発明の部材の構築工法に使用されるポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート等の材料について説明する。
【0018】
1.本発明の第1の工法
本発明の第1の工法は、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部以外のコンクリートの打設を先に行い、その後に表層部の少なくとも一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、所定の温度で加熱する、内側を先行して打設する工法である。
図1、2は本発明の第1の工法によって寒冷地の床版、導水路等を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。これらの図を用いて第1の工法について説明する。
本発明の第1の工法では、まず、部材内部の鉄筋1の構築を行う鉄筋組立工程と、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリート2を打設するコンクリート打設工程が行われる。図1では、部材内部に配置される鉄筋1が組立られ、鉄筋の上部を一部残してコンクリート2が打設されている。コンクリート打設工程では、普通コンクリートが打設される。
【0019】
本発明の第1の工法では、上記コンクリート打設工程の前に、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部とその表層部を除く領域とを仕切部材を配置して仕切る仕切部材設置工程を行うことが好ましい。仕切部材設置工程を行うことで、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分との区分けを確実にし、後にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部を確実に確保することができる。
【0020】
次に、コンクリート2が打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート3を打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程が行われ、その後、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程が行われる。加熱後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。ここで、気中養生とは、水分を与えないで空気中にさらしている状態で養生する養生方法であり、乾燥養生とは、気中養生のうち温度履歴等を与えて積極的に乾燥させる工程を含む養生方法をいう。
図2では、普通コンクリート2が打設されなかった鉄筋1の上部を含む表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート3が打設されている。表層部の鉄筋は下部の鉄筋コンクリートの鉄筋と一体として構築されていてもよく、下部の鉄筋コンクリートから上方に突出した鉄筋と連結させた鉄筋であってもよい。
【0021】
上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程においては、先に打設された普通コンクリートとの一体化を図るため、バイブレーターを使用した振動締固めを行うことが好ましい。この作業により、普通コンクリート2とポリマーセメントモルタル/コンクリート3とが十分に一体化される。
このような、ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後に、バイブレーターによる振動でコンクリート打設部とポリマーセメントモルタル/コンクリート打設部とを締固めて一体化させる、締固め一体化工程を含むことは、本発明の第1の工法の好適な実施形態である。
図2の場合、下部の普通コンクリート層の深さまでバイブレーター4を挿入して振動締固めを行うことで、下部の普通コンクリート2と上部のポリマーセメントモルタル/コンクリート3とが十分に一体化される。
【0022】
本発明の第1の工法では、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の前に、アジテータ車にポリマーを後添加することでポリマーセメントモルタル/コンクリートを混練するポリマーセメントモルタル/コンクリート混練工程を行うことが好ましい。このようにすることで、プラントに特殊な設備を設置することなくポリマーセメントモルタル/コンクリートの製造が可能となる。
【0023】
上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、加熱工程の前に表層部の締固め及び仕上げ工程を行うことが好ましい。この工程は、タンパーや鏝仕上げ用の均し機械等により実施することができる。
また、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、加熱工程の前に湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生は、湛水養生やシート養生により行うことができ、湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
【0024】
上記加熱工程は、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱されることになる限り、加熱方法は特に制限されず、例えば、表層部にジェットヒーター、フィルムヒーターなどのヒーターを配置して表層部を加熱することにより行うことができる。また、加熱する面積が小さい場合には、アイランプで給熱してもよい。
加熱工程における加熱は、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で行われればよいが、より高い温度履歴を与えることでポリマーセメントモルタル/コンクリートの強度を向上させる効果が発揮されるため、可能な限り高温で加熱することが好ましく、50~100℃で行うことが好ましい。より好ましくは、60℃~100℃である。加熱後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。
【0025】
本発明の第1の工法の別の実施形態として、水路等の壁部を構築する場合を図3、4に示す。
この実施形態では、まず型枠5を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる鉄筋組立工程を行う。その際、端部となる壁部と、中央部側の領域を仕切るため、これらの境界部に仕切り部材6を配置する。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとして、ラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。仕切り部材6は鉄筋1(図横方向鉄筋)を挿通させ、鉄筋1に固定しておく。この状態で、中央部側に普通コンクリート2を打設するコンクリート打設工程を行う(図3)。
【0026】
次に、端部となる壁部にポリマーセメントモルタル/コンクリート3を打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程を行う(図4)。ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、先に打設された普通コンクリート2との一体化を図るため、上述のバイブレーターを使用した締固め一体化工程を行うことが好ましい。
【0027】
コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0028】
ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程から脱型工程までの間は、湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
その後、加熱工程を行う。加熱工程は、上記と同様にして行うことができる。
【0029】
2.本発明の第2の工法
本発明の第2の工法は、部材の表層部の少なくとも一部へのポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートの打設を先に行い、所定の温度で加熱した後にそれ以外の部分のコンクリートの打設を行う、外側を先行して打設する工法である。
図5、6は本発明の第2の工法によって部材を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。この実施形態は、壁部材や版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを先行打設する場合等の実施形態である。これらの図を用いて第2の工法について説明する。
この実施形態では、まず型枠5を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる。その際、外側となる壁外表面部(図5左側)と、中央部側の領域を仕切るため、これらの境界部に仕切り部材6を配置する。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとしてラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。仕切り部材6は配力筋(図5紙面直角方向鉄筋)に固定しておく。
【0030】
外側となる壁外表面部(図5左側)及び外側となるスラブ下面(図5下側)のポリマーセメントモルタル/コンクリート3を先に打設する工程を行う。
本発明の第2の工法では、このように、ポリマーセメントモルタル/コンクリートの打設工程前に、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分とを仕切る仕切部材を配置する仕切部材設置工程を行うことが好ましい。これにより、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分との区分けを確実にすることができる。
【0031】
本発明の第2の工法においても、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の前に、アジテータ車にポリマーを後添加することでポリマーセメントモルタル/コンクリートを混練するポリマーセメントモルタル/コンクリート混練工程を有することが好ましい。このようにすることで、プラントに特殊な設備を設置することなくポリマーセメントモルタル/コンクリートの製造が可能となる。
【0032】
その後、壁中央部側及びスラブ上側に普通コンクリートを打設する工程を行う(図6)。
この際、外表面部のポリマーセメントコンクリート若しくはポリマーセメントモルタルと、その内側の普通コンクリートとの一体化を図るため、境界部にバイブレーターを挿入して振動締固めを行うことが好ましい。振動締固めは上述した方法で行うことができる。
すなわち、本発明の第2の工法においても、普通コンクリート打設工程の後、バイブレーターによる振動で、ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設部とコンクリート打設部とを一体化する締固め一体化工程を行うことは好適な実施形態である。
【0033】
その後、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0034】
ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程から脱型工程までの間は、湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
その後、加熱工程を行う。加熱工程は、上記と同様にして行うことができる。
【0035】
3.本発明の第3の工法
本発明の第3の工法は、所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠を配置し、埋設型枠内側にコンクリートを打設する工法である。
図7、8は本発明の第3の工法によって部材を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。この実施形態は、水路を形成する樋状部材、カルバート、版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル/ポリマーセメントコンクリートを埋設型枠として配置する場合等の実施形態である。これらの図を用いて第3の工法について説明する。
第3の工法では、少なくとも外側の一部に所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠7を使用する。
【0036】
埋設型枠は、予め埋設型枠作成用の型枠内の一部又は全部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱した後、脱型して作製することができる。埋設型枠の一部のみがポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層によって形成された埋設型枠は、埋設型枠作成用の型枠内に仕切り部材を配置して型枠内を仕切り、仕切られた型枠内の一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、それ以外の部分に普通コンクリートを打設して作成することができる。
埋設型枠は、埋設型枠を作成するプレキャスト工場で蒸気養生を実施することが好ましい。その際、より高い温度履歴を与えることで強度向上効果が発揮されるため、プレキャスト工場が有する蒸気養生槽の可能な範囲で最も高い温度で養生をすることが好ましい。また、蒸気養生の後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。埋設型枠を作製する際には、プラントが有する混和剤のタンクにポリマーエマルションを入れることによって、通常のコンクリートの製造過程と同様の過程でポリマーセメントモルタル/コンクリートを製造することが可能となる。
【0037】
図7の実施形態では、所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル/コンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠7を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる。その後、型枠5を配置して埋設型枠7と型枠5との間に普通コンクリートを打設する(図8)。
【0038】
その後、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0039】
図9、10は、本発明の第3の工法によって部材を構築する場合の別の実施形態を示した図である。図9、10は、ポリマーセメントモルタル/コンクリートからなる埋設型枠を高速道路等の床版表層部となるように構築する場合等の実施形態である。
図9の実施形態では、ポリマーセメントモルタル/コンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠7と型枠5とを下側向きに配置し、内側で鉄筋1を組み立てる。その後、型枠内側に普通コンクリート2を打設し、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、反転させ(図10)、型枠を脱型する。
【0040】
4.本発明の部材の構築工法に用いる材料
次に、本発明の部材の構築工法に用いる材料について説明する。
<ポリマー>
本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、セメントモルタル、セメントコンクリートの材料にポリマーを添加して混練したものである。このようなポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートを用いることで、本発明の部材の構築工法で構築される構造物がすり減り抵抗性に優れたものとなることに加え、強度にも優れたものとなる。
上記ポリマーとしては、ガラス転移温度(Tg)が35~100℃であるものが好ましい。このようなTgのポリマーを用いると、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートが、より強度が高く、かつ、すり減り抵抗性にも優れたものとなる。ポリマーのTgはより好ましくは、35~90℃であり、更に好ましくは、35~70℃であり、特に好ましくは、35~60℃であり、最も好ましくは、35~50℃である。
なお、ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、ポリマーの原料となる単量体成分の種類や使用割合によって制御することができ、次のFOXの式(1)により求められる他、DSC(示差走査熱量測定装置)やDTA(示差熱分析装置)によって求めることができる。
【0041】
【数1】
【0042】
式中、Tg’は、共重合体エマルション粒子のTg(絶対温度)である。W1’、W2’、・・・Wn’は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。Tg1、Tg2、・・・Tgnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。上記計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons, Inc.発行)などに記載されている。
【0043】
上記ポリマーは、酸価が5~100であることが好ましい。酸価が100以下であると、ポリマーが適度な粘度を有するものとなり、製造もしやすくなる。ポリマーの酸価は、より好ましくは、5~50であり、更に好ましくは、5~25であり、特に好ましくは、10~20である。
【0044】
上記ポリマーとしては、エマルション形態のものが好ましい。ポリマーエマルションは、ポリマーを1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。また、ポリマーエマルションは、カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマーを含むことが好ましい。上記カルボン酸(塩)基とは、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を意味する。
上記カルボン酸塩基の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が好ましいものとして挙げられる。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子がより好ましい。また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩等のアルキルアミン塩がより好ましい。
【0045】
上記カルボン酸(塩)基をもつモノマーとしては、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが好ましい。上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基の少なくとも1つの基を有し、かつ、該基中のカルボニル基を含んで構成されるカルボン酸基(-COOH基)、その塩又はその酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-基)を有するモノマーである。
上記(メタ)アクリル酸系モノマー(酸基含有モノマー)の塩としては、上記カルボン酸塩基の塩と同様のものを挙げることができる。
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーは、(メタ)アクリル酸又はその塩であることが好ましい。
【0046】
上記ポリマーエマルションは、(メタ)アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。該(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとは、(メタ)アクリル酸のカルボン酸基がエステルとなった構造を有するモノマー又はそのようなモノマーの誘導体を言う。前記エステルにアルキル基を有してもよく(アルキルエステル部)、該アルキルエステル部に官能基(水酸基、アミノ基、グリシジル基等)を含んでもよい。(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーには、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基が一つ以上含まれてもよい。
【0047】
上記(メタ)アクリル系ポリマーを得るためのモノマー成分は、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーと(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとを含み、それ以外に、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含んでもよい。したがって、上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー由来の構造単位、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来の構造単位とを含み、それ以外に、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマー由来の構造単位を含んでもよい。
(メタ)アクリル系ポリマーを得るためのモノマー成分が(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーを含むことにより、得られるポリマーエマルションのセメント分散性が向上する。また、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーや、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含むことにより、重合体の酸価、ガラス転移温度(Tg)等を調整しやすくなる。上記不飽和結合含有モノマーの不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。
【0048】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー0.6~12質量%、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマー88~99.4質量%から構成されるモノマー成分を共重合して得られるものであることが好ましい。上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが0.8質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが99.2質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが1.0質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが99.0質量%以下であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが1.2質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが98.8質量%以下であることが特に好ましい。また、上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが6質量%以下、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが94質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが3質量%以下、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが97質量%以上であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、モノマー成分が安定に共重合する。
【0049】
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等の炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等の炭素数4~30の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0050】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分は、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0051】
上記モノマー成分が含む(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーは、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とすることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含むことであり、更に好ましくは、70質量%以上含むことである。
【0052】
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー、及び、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー以外の、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーとしては、芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマー等が挙げられる。
【0053】
上記芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。このように、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー、及び、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー以外の、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーの種類、及び配合量を適宜選択して用いることで、比較的容易にポリマー性状を制御することが可能となる。
【0054】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、上記芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマーを含む場合は、全モノマー成分100質量%中、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、20質量%以上含むことが一層好ましく、40質量%以上含むことが特に好ましい。また、該モノマー成分は、該芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマーを、全モノマー成分100質量%中、80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましく、60質量%以下含むことが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分として、芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマーを用いなくてもよい。
【0055】
上記以外のその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーとして例えば、クロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸やその塩等の(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマー;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の炭素数3~10の脂肪酸ビニルエステル;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリロニトリル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能化合物等;メタクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の窒素原子含有モノマーが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0056】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマーを含む場合は、全モノマー成分100質量%中、0.1~5質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.3~4質量%含むことであり、更に好ましくは、0.5~3質量%含むことである。
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマーを除く、それ以外の上記その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含む場合、全モノマー成分100質量%中、1.1~12質量%含むことが好ましい。より好ましくは、1.3~10質量%含むことであり、更に好ましくは、1.5~8.0質量%含むことである。
【0057】
上記ポリマーエマルションは、エマルションを形成する溶媒として水系溶媒を含むことが好ましい。水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、溶媒として水のみを含むことが好ましい。
【0058】
上記ポリマーエマルションが含む水系溶媒の量は、ポリマーエマルション全体100質量%に対して40~80質量%であることが好ましい。より好ましくは、45~72質量%であり、更に好ましくは、50~71質量%である。
【0059】
上記ポリマーエマルションが含むポリマーは、重量平均分子量が10000~500000であることが好ましい。このような重量平均分子量であると、耐水性が付与できる。重量平均分子量は、より好ましくは、20000~250000であり、更に好ましくは、30000~200000である。
重合体の重量平均分子量は、GPCを用い、以下の条件により測定することができる。
測定機器:HLC-8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK-GEL GMHXL-Lと、TSK-GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0060】
上記ポリマーエマルションのpHは特に限定されないが、2~10であることが好ましい。pHがこのような範囲にあると、エマルション中の樹脂が安定に存在することができる。pHは、3~9.5であることがより好ましく、7~9であることが更に好ましい。上記エマルションのpHは、当該樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
【0061】
上記ポリマーエマルションの粘度は特に限定されないが、1~10000mPa・sであることが好ましい。樹脂エマルションの粘度がこのような範囲にあると、実際にポリマーセメントを調整する際に容易に混合することが可能となる。粘度は、5~4000mPa・sであることがより好ましく、10~2000mPa・sであることが更に好ましい。
ポリマーエマルションの粘度は、B型粘度計により測定することができる。
【0062】
上記ポリマーエマルションは、エマルション粒子の平均粒子径が10~5000nmであることが好ましい。より好ましくは50~500nmであり、更に好ましくは80~200nmである。
ポリマーエマルションのエマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱測定法により測定することができる。
【0063】
上記ポリマーエマルションは、原料となる単量体成分を乳化重合することにより製造することができる。乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体成分、重合開始剤及び乳化剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いてもよい。
【0064】
上記水系溶媒としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水が好ましい。
【0065】
上記乳化剤、重合開始剤、重合連鎖移動剤としては、例えば、WO2007/023819に記載のもの等を適宜選択して使用することができる。
【0066】
上記重合は、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や、無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0067】
上記製造方法における重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0~100℃であることが好ましく、より好ましくは40~95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1~15時間とすることが好適で、より好ましくは2~10時間である。
単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0068】
上記ポリマーエマルションの製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、中和剤によりエマルションを中和することが好ましい。これにより、エマルションが安定化されることになる。
中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;ジグリコールアミン、アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記ポリマーエマルションの配合割合は、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0.25~25質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは0.5~20質量%であり、更に好ましくは1.0~15質量%である。なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
[固形分測定方法]
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1.5時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固形分測定物の質量で除することで固形分を測定する。
【0070】
<セメント、骨材>
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに用いるセメントとしては、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント;珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム等のセメントの構成成分;潜在水硬性を有するフライアッシュ、シリカヒューム、スラグ、石灰微粉等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通ポルトランドセメントが通常よく使用され、好適に適用することができる。
【0071】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに用いる骨材としては、砂、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
<その他の添加剤>
本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、上記(メタ)アクリル系ポリマーエマルション以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
ここでいうその他の添加剤とは、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに含まれるセメント、水、骨材、上記(メタ)アクリル系ポリマーエマルション以外の成分を意味する。
【0073】
その他の添加剤としては、通常使用されるセメント分散剤や減水剤、水溶性高分子物質、遅延剤、急結剤、早強剤・促進剤、鉱油系消泡剤、油脂系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、オキシアルキレン系消泡剤、アルコール系消泡剤、アミド系消泡剤、リン酸エステル系消泡剤、金属石鹸系消泡剤、シリコーン系消泡剤、AE剤、界面活性剤、防水剤、防錆剤、防腐剤、ひび割れ低減剤、膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、コロイダルシリカ、繊維、石膏、等のセメント添加剤(材)が挙げられる。
【0074】
セメント分散剤(減水剤)としては特に限定されず、例えば、(i)ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系分散剤;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂、スルホン酸塩系分散剤;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系分散剤;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系分散剤;ポリスチレンスルホン酸塩系分散剤;等の分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤(減水剤);(ii)特公昭59-18338号公報、特開平7-223852号公報に記載の如く、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体から得られる共重合体;特開平10-236858号公報、特開2001-220417号公報、特開2002-121055号公報、特開2002-121056号公報に記載の如く、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体、マレイン酸系単量体または(メタ)アクリル酸系単量体から得られる共重合体;等の分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する各種ポリカルボン酸系分散剤(減水剤);(iii)特開2006-52381号公報に記載の如く、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸モノエステル系単量体、およびリン酸ジエステル系単量体から得られる共重合体等の、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とリン酸エステル基とを有する共重合体;特表2008-517080号公報に記載の如く、(ポリ)オキシアルキレン基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、およびアルデヒド化合物からなる重縮合生成物;特表2015-508384号公報に記載の如く、芳香族トリアジン構造単位、ポリアルキレングリコール構造単位、およびリン酸エステル構造単位を有する分散剤;等の各種リン酸系分散剤(減水剤)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、更に減水剤を含むものであることが好ましい。これによりペースト分の骨材への粘着性がより向上する。
【0075】
上記急結剤としては公知の急結剤であれば良く特に限定されない。用いる急結剤は粉体急結剤、液体急結剤でも、スラリータイプの急結剤でも良い。液体急結剤としては例えば硫酸アルミニウム、フッ素、及びアルカリ金属、さらに、これらとアルカノールアミンを含有するものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また本発明で使用する液体急結剤には、既知の水溶性の水和促進剤を使用することが可能である。水和促進剤としては、例えば、ギ酸又はその塩、酢酸又はその塩、及び乳酸又はその塩等の有機系の水和促進剤や、水ガラス、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、及びチオシアン酸塩等の無機系の水和促進剤を使用することが可能である。粉体急結剤としては例えば、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなるもの等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0076】
前記消泡剤としては、公知の消泡剤であれば良く特に限定されない。例えば、燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;ジエチレングリコールモノラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール等のアルコール系消泡剤;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;シリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変成ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物等のオキシアルキレン系消泡剤;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0077】
上記例示の消泡剤の中でも特に、オキシアルキレン系消泡剤が最も好ましい。本発明のセメント混和剤用共重合体とオキシアルキレン系消泡剤とを組み合わせて用いると、消泡剤使用量が少なくて済み、さらに消泡剤と共重合体との相溶性にも優れるからである。オキシアルキレン系消泡剤としては、分子内にオキシアルキレン基を有しかつ水性液体中の気泡を減少させる作用を有する化合物であれば特に制限はないが、その中でも下記一般式(2)で表わされる特定のオキシアルキレン系消泡剤が好ましい。
{-T-(R O)t-R }n (2)
上記式(2)中、R 、Rは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数1~22のアルキニル基、フェニル基またはアルキルフェニル基(アルキルフェニル基中のアルキル基の炭素数は1~22である)を表わす。ROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。tは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、0~300の数を表わす。tが0のとき、R、Rが同時に水素原子であることはなく、Tは-O-、-CO-、-SO-、-PO-又は-NH-の基を表わす。nは、1又は2の整数を表わし、Rが水素原子のとき、nは1である。
【0078】
上記式(2)で表されるオキシアルキレン系消泡剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル、炭素数12~14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0079】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記減水剤の配合割合としては、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.5質量%であり、更に好ましくは0.07~0.3質量%である。
【0080】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記消泡剤の配合割合としては、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.5質量%であり、更に好ましくは0.07~0.3質量%である。
【0081】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位水量100~300kg/m、使用セメント量300~500kg/m、水/セメント比(重量比)=0.35~0.6であることが好ましい。より好ましくは、単位水量140~240kg/m、使用セメント量350~480kg/m、水/セメント比(重量比)=0.4~0.5である。
【0082】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおける骨材/セメント比(重量比)は、ポリマーセメントモルタルでは1~6であることが好ましい。より好ましくは、1~4である。ポリマーセメントコンクリートでは1~10であることが好ましい。より好ましくは、2~8である。
【0083】
本発明の部材の構築工法に用いられるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリート以外のコンクリートは、通常のコンクリートを用いることができ、上述したポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの原料となるセメント、骨材と同様のものを用いることができ、水/セメント比、骨材/セメント比もポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートと同様である。
本発明の部材の構築工法に用いられる鉄筋も、土木、建築の分野で一般的に使用される鉄筋を使用することができる。
【0084】
本発明の部材の構築工法は、コストを抑えながらすり減り抵抗性や耐久性に優れたコンクリート構造物を施工性よく構築することができる工法であり、上述したダムの減勢工の表層部の構築に使用することができるが、用途はこれに限られず、ダムの放水管、取水管(特に、断面が収縮して水圧が大きくなる箇所)に同様に適用でき、また、ダム以外にも農業用水路やその他すり減り抵抗性が必要となる箇所に適用できる。例えば、橋梁の床版やシールドのセグメント、鋼殻ブロック、建築の床部材等にも適用できる。
【実施例
【0085】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0086】
本実施例を含め、Foxの計算式より重合体を構成する単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したホモポリマーのTgを下記に記した。
メチルメタクリレート:105℃
エチルアクリレート:-22℃
アクリル酸:95℃
ヒドロキシエチルメタクリレート:55℃
【0087】
<平均粒子径>
エマルション粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社FPAR-1000)を用い測定した。
<固形分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で150℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
【0088】
合成例1
水重量1066部、ポリオキシエチレンノニルフェニル硫酸エステルナトリウム塩14重量部、開始剤1.5重量部と、表1の合成例1に示す原料を各重量部で混合し、窒素雰囲気下75℃で5時間、エマルション重合を行った。前記エマルション重合終了後、25%アンモニア水を添加しpHを9.8に調整し、100メッシュの金網で濾過することにより、セメント添加剤用樹脂エマルション1を得た。得られたエマルション1のガラス転移温度、ポリマー粒子径、酸価及び固形分を表2に示す。
【0089】
合成例2~5
モノマー比率を以下の比率に変更した以外は、合成例1と同様にしてセメント添加剤用樹脂エマルション2~5を合成した。得られたエマルション2~5のガラス転移温度、ポリマー粒子径、酸価及び固形分を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
実施例1~5、比較例1
1.ポリマーセメントモルタルの作製
合成例1~5で合成したセメント添加剤用樹脂エマルション1~5を用いて、配合例1の通り配合して、試験例1~5のモルタルを作製した。エマルション固形分がセメントに対し20重量%になるようにエマルションの添加量を調整し、水量がセメントに対し30重量%になるようにエマルション中の水量を加味して、追加水分量を調整した。またブランクとしてのエマルション未添加の比較試験例1のモルタルを配合例2の通り作製した。
モルタルを作製する操作は、下記のポリマーセメントモルタルの作製方法の通りに行った。
[モルタル配合例1]
C/S/W/P/消泡剤1/消泡剤2=780g/858g/234g/156g/3.1g/2.3g (W/C=0.3、S/C=1.1、P/C=0.2、消泡剤合計/C=0.007)
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:シリカサンド7号(トーヨーマテラン社製)
W:添加した純水量と合成例1~5で合成したポリマーエマルションが含有している水の合計値
P:エマルションの固形分量
消泡剤1:MA-404(BASFジャパン社製)、セメントに対して0.4質量%添加
消泡剤2:ノプコ8034L(サンノプコ社製)、セメントに対して0.3質量%添加
[モルタル配合例2]
C/S/W/減水剤/消泡剤=780g/858g/234g/0.8g/3.1g
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:シリカサンド7号(トーヨーマテラン社製)
W:添加した純水量
減水剤:ポリカルボン酸系減水剤(日本触媒製)をセメントに対して0.1質量%添加
消泡剤:MA-404(BASFジャパン社製)をセメントに対して0.4質量%添加
<ポリマーセメントモルタルの作製方法>
温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で、ホバート型モルタルミキサー(型番N-50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Sを投入し、1速で120秒間混練した。次に、C,S以外を投入し、1速で60秒間混練した後、ミキサーを停止し、30秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、更に120秒間1速で混練を行い、モルタルを作製した。
【0093】
2.ポリマーセメントモルタルの評価
試験例1~5、比較試験例1のポリマーセメントモルタルについて、以下の評価を行った。15打フロー値測定、モルタル空気量測定の結果を表3に、曲げ強度測定の結果を表4に示す。
<15打フロー値測定>
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフロー測定板(30cm×30cm)に置かれたフローコーン(JIS R 5201-2015に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補いスランプコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、15秒間に15回の落下運動を与えてから、モルタルの15打フローを測定し、これを15打フロー値とした。フローの測定は、JIS R 5201-2015に準じて行った。なお、フローの値は、数値が大きい程、分散性が高いことを示す。
<モルタル空気量測定>
上記モルタル空気量(初期空気量)の測定は、JIS-A-1128(2014年改正)の方法により行った。モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。
<曲げ強度測定>
(1)曲げ強度供試体の作成
曲げ強度に使用する供試体(4×4×16cm)は前述の<ポリマーセメントモルタルの作成方法>に従い、混練したモルタルを使用して、JIS A 1171-2016に記載の方法に準じて実施した。
つまり、4×4×16cmの型枠に調整したポリマーセメントモルタルを二層に詰めて成形する。ポリマーセメントを型枠の高さの約半分まで詰め、突き棒を用いて、全面にわたって突いた後、型枠容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。次にポリマーセメントを型枠の上端まで詰め、突き棒を用いて、全面に突いた後、型枠容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。最後に表面を平らに慣らした後、容器を密閉し20℃で保管し、初期養生(封緘養生)を行った。1日後に脱型し、続いて、養生を行って曲げ強度供試体を作成した。養生は、室温養生の場合は、20℃×28日間養生し、蒸気養生の場合は、90℃×48時間養生後、20℃×25日間養生した。乾燥養生の場合は、90℃×48時間養生後、100℃×24時間養生し、その後20℃×24日間養生した。
(2)曲げ強度測定
上記(1)で作成した曲げ強度供試体を用い、JIS R 5201-2015に記載の方法に準じて曲げ強度測定を実施した。使用した強度試験器は、全自動耐圧試験機(TYPE:ACA-50S-B2、前川試験機製作所製)であり、専用の曲げ強度治具を設置して試験を行った。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
実施例6、比較例2~4
1.ポリマーセメントコンクリートの作製
合成例2で合成したセメント添加剤用樹脂エマルション2を用いて、配合例1の通り配合して、試験例6のコンクリートを作製した。エマルション固形分がセメントに対し20重量%になるようにエマルションの添加量を調整し、水量がセメントに対し55重量%になるようにエマルション中の水量を加味して、追加水分量を調整した。またブランクとしてのエマルション未添加の比較試験例2のコンクリートを配合例2の通り作製した。
[コンクリート配合例1]
W/C/S粗/S細/G大/G小/混和材/P/混和剤1/混和剤2=
2.306kg/9.00kg/21.55kg/4.70kg/16.51kg/11.95kg/0.51kg/4.444kg/4.5g/18.0g
(W/C=0.55、P/C=0.2、消泡剤合計/C=0.005)
W:添加した純水量と合成例2で合成したポリマーエマルションが含有している水の合計値
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S粗:砕砂,八王子美山産
S細:山砂,千葉県君津市吉野産
G大:粗骨材,東京都青梅産
G小:粗骨材,東京都青梅産
混和材:セピオライト(巴工業社製)
P:エマルションの固形分量
混和剤1:消泡剤,アルコール系消泡剤(フローリック社製)
混和剤2:AE剤,AE-4(フローリック社製)
[コンクリート配合例2]
W/C/S粗/S細/G大/G小/混和剤2/混和剤3=
4.950kg/9.00kg/21.55kg/4.70kg/16.51kg/11.95kg/23.4g/85.5g
(W/C=0.55、消泡剤合計/C=0.005)
W:添加した純水量
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S粗:砕砂,八王子美山産
S細:山砂,千葉県君津市吉野産
G大:粗骨材,東京都青梅産
G小:粗骨材,東京都青梅産
混和剤2:AE剤,AE-4(フローリック社製)
混和剤3:AE減水剤,SV10(フローリック社製)
<ポリマーセメントコンクリートの作製方法>
50リットルの強制二軸ミキサーを用い、練混ぜ量を30リットルとした。まず、W、P、混和剤1、2以外の材料を投入し,30秒間の空練りを行った。次に、全ての材料を投入し、30秒間練混ぜを行った後、ミキサーを停止し、30秒間コンクリートの掻き落としを行い、その後、更に60秒間練混ぜを行い、コンクリートを作製した。
【0097】
2.コンクリート強度試験
試験例6、比較試験例2のポリマーセメントコンクリートを用いて、以下の強度試験を行った。
(1)強度試験供試体の作成
ポリマーセメントコンクリートをφ100×200mmのサミットモールドおよび□100×100×400mmの型枠に入れ、20℃で2日間静置した後、脱型した供試体を2つ用意し、一方に以下の常温養生、他方に乾燥養生を行った。
常温養生:20℃、湿度80%で28日間養生する。
乾燥養生:20℃、湿度80%で2日間養生した後、90℃、湿度80%で2日間養生し、更に100℃で3日間乾燥養生を行う。
(2)圧縮強度試験
養生後の供試体について、JIS A 1108に従い、圧縮強度の測定を行った。結果を表5に示す。
(3)割裂引張強度試験
養生後の供試体について、JIS A 1113に従い、割裂引張強度の測定を行った。結果を表5に示す。
(4)曲げ強度試験
養生後の供試体について、JIS A 1106に従い、曲げ強度の測定を行った。結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
実施例7、比較例5~7、参考例1~2
1.ポリマーセメントコンクリートの作製
合成例2で合成したセメント添加剤用樹脂エマルション2を用いて、配合例3の通り配合して、試験例7のコンクリートを作製した。エマルション固形分がセメントに対し49重量%になるようにエマルションの添加量を調整し、水量がセメントに対し26重量%になるようにエマルション中の水量を加味して、追加水分量を調整した。またブランクとしてのエマルション未添加の比較試験例3のコンクリートを配合例4の通り作製した。
[コンクリート配合例3]
W/C/S粗/S細/G大/G小/混和材/P/混和剤1/混和剤2=
2.306kg/9.00kg/21.55kg/4.70kg/16.51kg/11.95kg/0.51kg/4.444kg/4.5g/18.0g
(W/C=0.26、P/C=0.49、消泡剤/C=0.0005)
W:添加した上水道水量と合成例2で合成したポリマーエマルションが含有している水の合計値
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S粗:砕砂,八王子美山産
S細:山砂,千葉県君津市吉野産
G大:粗骨材,東京都青梅産
G小:粗骨材,東京都青梅産
混和材:セピオライト(巴工業社製)
P:合成例2で合成したセメント添加剤用樹脂エマルション2
混和剤1:消泡剤,アルコール系消泡剤(フローリック社製)
混和剤2:AE剤,AE-4(フローリック社製)
[コンクリート配合例4]
W/C/S粗/S細/G大/G小/混和剤2/混和剤3=
4.950kg/9.00kg/21.55kg/4.70kg/16.51kg/11.95kg/23.4g/85.5g
(W/C=0.55、消泡剤合計/C=0.005)
W:添加した純水量
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S粗:砕砂,八王子美山産
S細:山砂,千葉県君津市吉野産
G大:粗骨材,東京都青梅産
G小:粗骨材,東京都青梅産
混和剤2:AE剤,AE-4(フローリック社製)
混和剤3:AE減水剤,SV10(フローリック社製)
<ポリマーセメントコンクリートの作製方法>
50リットルの強制二軸ミキサーを用い、練混ぜ量を30リットルとした。まず、W、P、混和剤1、2以外の材料を投入し,30秒間の空練りを行った。次に、全ての材料を投入し、30秒間練混ぜを行った後、ミキサーを停止し、30秒間コンクリートの掻き落としを行い、その後、更に60秒間練混ぜを行い、コンクリートを作製した。
【0100】
2.すり減り抵抗性強度試験
試験例7、比較試験例3のポリマーセメントコンクリートについて、以下のすり減り抵抗性評価を行った。
(1)すり減り抵抗性試験供試体の作成
ポリマーセメントコンクリートを内面幅143mm、長さ297mm、厚さ32.5mmの鋼製箱に充填して、20℃で24時間静置した後、脱型した供試体を2つ用意し、一方に以下の常温養生、他方に乾燥養生を行った。
常温養生:20℃、湿度80%で28日間養生する。
乾燥養生:15℃/時間で90℃まで昇温して90℃、湿度80%で48時間養生した後、5℃/時間で20℃まで降温し、その後更に100℃の乾燥炉で24時間乾燥養生を行う。
(2)すり減り抵抗性試験
(財)電力中央研究所にて試作考案された奥田式すり減り試験を採用し,ポリマーの有無や養生方法の違いを確認した。試験方法は,上記のように作製した供試体を炭素鋼製のシルペップが挿入された回転ドラムの中に設置し、試験機中央のパイプより約5L/minの水をシャワー状に浴びせながら,所定の回転数で回転ドラムを回転させて試験を行い,試験開始4時間後のすり減り係数を算出した。参考のため、すり減り試験は、上述した特許文献7に記載の長寿命化コンクリート(登録商標:EIEN。配合は特開2006-182583号公報に記載)を用い、5%COの促進中性化槽(20℃、湿度60%)に材齢28日まで静置した供試体、及び、特許文献3に記載の超高強度繊維補強コンクリート(登録商標:サクセム)を用い、85℃、湿度80%で24時間の蒸気養生をして作製した供試体についても行った。結果を表6及び図11に示した。すり減り係数が小さいほど、すり減り抵抗性に優れることを意味する。
【0101】
【表6】
【0102】
表2~6、図11に示された結果から、本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、高強度であり、更にすり減り抵抗性も、EIENやサクセムと同等であり、すり減り抵抗性にも優れることが確認された。したがって、これらを部材表面に用いることで、強度及びすり減り抵抗性に優れた構造部材を構築することができる。
なお、EIENやサクセムもすり減り抵抗性には優れるが、これらは本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに比べて高コストであり、特殊な養生が必要となることや特殊な材料が必要であることから、普通コンクリートと同配合で作製できる本発明の汎用性は高い。
【符号の説明】
【0103】
1:鉄筋
2:普通コンクリート
3:ポリマーセメントモルタル/コンクリート
4:バイブレーター
5:型枠
6:仕切り部材
7:埋設型枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11