(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】エンジンシリンダ構造
(51)【国際特許分類】
F01M 1/06 20060101AFI20230501BHJP
F02F 1/18 20060101ALI20230501BHJP
F16J 10/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
F01M1/06 Q
F02F1/18 F
F16J10/02 Z
(21)【出願番号】P 2019044570
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】氣賀澤 庸徳
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-133321(JP,A)
【文献】特開2005-105934(JP,A)
【文献】実開昭60-004735(JP,U)
【文献】特開2011-032976(JP,A)
【文献】実開昭57-092811(JP,U)
【文献】実開平03-008640(JP,U)
【文献】実開昭61-037448(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06
F02F 1/18
F16J 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のエンジンにあって軸が略水平方向に配向されるシリンダのエンジンシリンダ構造において、
前記シリンダの内面には、該シリンダ内におけるピストンの下死点でのオイルリングの位置の近傍で且つ該オイルリングの位置よりもクランクシャフト寄りの位置から該クランクシャフト側に向けて前記軸と略平行に伸長して該クランクシャフト側まで連通する溝が形成され、
前記シリンダの内面に形成された前記溝と対向する前記ピストンの外周表面は溝のない平滑な面として形成されており、
前記溝の位置は、前記エンジンの車両搭載状態における前記シリンダの最下部に設定されており、
前記溝の底部は、前記エンジンの車両搭載状態で、燃焼室側から前記クランクシャフト側に向けて次第に低くなるように形成されたことを特徴とするエンジンシリンダ構造。
【請求項2】
前記シリンダの内面には、前記下死点での前記ピストンのスカートの位置よりも前記クランクシャフト寄りの位置から前記エンジンの車両搭載状態で少なくとも最下部となる領域に、前記クランクシャフト側に向けて下方に傾斜する傾斜面が形成されたことを特徴とする請求項
1に記載のエンジンシリンダ構造。
【請求項3】
前記傾斜面は、前記軸を中心とする円錐台形状の円錐面であることを特徴とする請求項
2に記載のエンジンシリンダ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシリンダ構造、特に、車両用のエンジンにあって軸が略水平方向に配向されるシリンダの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のエンジンには多種多様な形式のものがあり、その中には、水平対向エンジンのように、シリンダの軸が略水平方向に配向されるエンジンもある。こうしたエンジンのシリンダでは、エンジン停止時にピストンのオイルリング内に残存したエンジンオイル(以下、単にオイル)がオイルパンに流下しにくい。その結果、例えば、吸気行程にある状態でエンジンが停止されたシリンダでは、エンジン始動時において、オイルリング内に残存しているオイルが燃焼室側に吸引されて燃焼し、すすが発生する。近年では、ガソリンで走行する車両の排ガス中のPM(Particulate Matter:粒子状物質)のPN(Particulate Number:PMの粒子数)が規制される傾向にあることから、すす発生を極力抑制することが要求され、したがって軸が略水平なシリンダでもピストンのオイルリング内に残存するオイルの量を低減することが要求される。
【0003】
このようなシリンダ内のピストンのオイルリング内のオイルをオイルパンに還流する技術として、例えば下記特許文献1に記載されるエンジン構造が挙げられる。このエンジン構造では、ピストンの下側の外周面に、一端部がオイルリング溝に通じ且つ他端部が塞がれている溝又はスリットが形成されている。また、シリンダの壁部内には、ピストンの往復動時に上記溝又はスリットと連通する連通孔がシリンダ内周壁面からクランクケースまで貫通形成されている。この連通孔は、ピストンの下死点におけるオイルリング溝位置と一致する位置でシリンダ内周壁面に開口している。このエンジン構造によれば、ピストンが上死点から下死点に移行する際にオイルリングが掻いたオイルが溝又はスリットに溜まり、その溝又はスリットが連通孔と通じたときにオイルが連通孔を通じてクランクケース、すなわちオイルパンに還流される。また、ピストンが下死点から上死点に移行する際には、クランクケース内の負圧を利用して、連通孔内のオイルをクランクケース、すなわちオイルパンに吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるエンジン構造では、連通孔のシリンダ開口部がオイルリングと擦れる。オイルリングのサイドレールは、コンプレッションリングほどではないものの、シリンダの内周面に当接していることから、例えば、このサイドレールが連通孔のシリンダ開口部と擦れると、その開口部の周縁部が偏摩耗するおそれがある。シリンダ内周面の偏摩耗は、たとえそれが行程に直接関与しない部分でも、極力回避すべきである。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダ内周面の偏摩耗を回避しながら、エンジン停止時にピストンのオイルリング内のオイルの残存量を低減することが可能なエンジンシリンダ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載のエンジンシリンダ構造は、
車両用のエンジンにあって軸が略水平方向に配向されるシリンダのエンジンシリンダ構造において、
前記シリンダの内面には、該シリンダ内におけるピストンの下死点でのオイルリングの位置の近傍で且つ該オイルリングの位置よりもクランクシャフト寄りの位置から該クランクシャフト側に向けて前記軸と略平行に伸長して該クランクシャフト側まで連通する溝が形成され、
前記シリンダの内面に形成された前記溝と対向する前記ピストンの外周表面は溝のない平滑な面として形成されており、
前記溝の位置は、前記エンジンの車両搭載状態における前記シリンダの最下部に設定されており、
前記溝の底部は、前記エンジンの車両搭載状態で、燃焼室側から前記クランクシャフト側に向けて次第に低くなるように形成されたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、エンジン停止時にピストンのオイルリング内に残存したオイルは、そのオイルリングの近傍で開口している溝内に自重で流れ込み、その溝を通じてクランクシャフト側、すなわちオイルパンに還流する。この溝の開口部にオイルリングは接触しないので、溝の開口部の周縁部でシリンダ内周面が偏摩耗することはない。したがって、シリンダ内周面の偏摩耗を回避しながら、エンジン停止時にピストンのオイルリング内のオイルの残存量を低減することができる。さらに、 この構成によれば、エンジン停止時にピストンのオイルリングから溝内に流れ込んだオイルが確実にクランクシャフト側、すなわちオイルパンに還流する。
【0011】
請求項2に記載のエンジンシリンダ構造は、請求項1に記載のエンジンシリンダ構造において、前記シリンダの内面には、前記下死点での前記ピストンのスカートの位置よりも前記クランクシャフト寄りの位置から前記エンジンの車両搭載状態で少なくとも最下部となる領域に、前記クランクシャフト側に向けて下方に傾斜する傾斜面が形成されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、エンジン停止時のみならず、エンジンの運転時にあっても、シリンダ内で且つピストンよりもクランクシャフト側に存在するオイルは傾斜面を通じてクランクシャフト側、すなわちオイルパンへ還流される。これにより、軸が略水平に配向されるシリンダ内にあっても、エンジン停止時にピストンのオイルリングに残存するオイルの量を低減することができる。また、ピストンのスカートが往復動する範囲はシリンダの内周面が確保されるので、ピストン往復動時のピストンの傾倒抑制効果が確保される。
【0013】
請求項3に記載のエンジンシリンダ構造は、請求項2に記載のエンジンシリンダ構造において、前記傾斜面は、前記軸を中心とする円錐台形状の円錐面であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、例えば、シリンダのボーリング加工時に傾斜面を一緒に加工形成することが可能となることから、傾斜面加工のための新たな工程を追加する必要がなく、その分だけ、コストの増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、エンジン停止時にピストンのオイルリング内に残存したオイルは、そのオイルリングの近傍で開口している溝内に自重で流れ込み、その溝を通じてオイルパンに還流する。この溝の開口部にオイルリングは接触しないので、溝の開口部の周縁部でシリンダ内周面が偏摩耗することはない。以上より、シリンダ内周面の偏摩耗を回避しながら、エンジン停止時にピストンのオイルリング内のオイルの残存量を低減することができる。これにより、吸気行程にある状態でエンジンが停止されたシリンダのエンジン始動時におけるすすの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のエンジンシリンダ構造が適用されたエンジンの一実施の形態を示す概略構成側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のエンジンシリンダ構造の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態のエンジンシリンダ構造が適用された車両用エンジンの概略構成側面図であり、車両搭載状態を示している。このエンジン10は前置きの水平対向エンジンであり、図示の例は、片側2気筒の4気筒エンジンである。水平対向エンジン10では、シリンダの軸は水平方向に配向される。エンジン10の車両後方側にはトランスミッション12が連接され、エンジン10の下部にはエンジンオイル(オイル)を貯留するオイルパン14が取付けられている。オイルパン14の上方には、他のエンジンと同様に、図示しないクランクシャフトが配設されている。
【0018】
この実施の形態の車両では、前輪だけでなく、後輪にも駆動力を伝達するために、トランスミッション12の車両後方に図示しないプロペラシャフトが配設され、このプロペラシャフトを介して後輪に駆動力を伝達する。例えば、このプロペラシャフトのユニバーサルジョイント部における折れ角を小さくするために、トランスミッション12の図示しない出力軸を車両後方下がりに設定し、これに伴ってエンジン10の図示しないクランクシャフトも車両後方下がりに設定している。その結果、エンジン10の片側2つの気筒(シリンダ)16は、車両後方側の気筒が車両前方側の気筒よりも下方になるようにレイアウトされている。なお、エンジン10の傾斜角はやや強調して図示されている。
【0019】
図2は、
図1のエンジン10のシリンダ16だけを取り出した説明図であり、都合上、三面図の状態に配置しているが、
図2(c)は、シリンダ16をクランクシャフト側から見た図であり、
図2(b)は
図2(c)のA-A断面図、
図2(a)は
図2(c)のB-B断面図である。
図2(c)は、エンジン10を車両に搭載した状態で下方になる方向を図の下方に一致させて示しており、したがって
図2(b)の下方も車両搭載状態におけるエンジン10の下方に一致している。「シリンダ」は定義しにくいが、ここでは、ピストンが往復動する円筒状部分を示す。水冷式エンジンの場合、シリンダ16の周囲の大部分はウォータジャケットで覆われている。また、例えばシリンダ16の外壁部がアルミニウム合金などで構成される場合、シリンダ16の内周面26の部分に、鋼製のいわゆるシリンダライナを埋め込む(鋳込む)こともある。
【0020】
また、
図2(a)及び
図2(b)には、シリンダ16内のピストン18を、それぞれ2か所、二点鎖線で示している。図中の左側のピストン18は上死点に位置し、図中の右側のピストン18は下死点に位置している。複数の気筒が並列に配置されるエンジン10では、
図1にも示すように、クランクシャフトの軸(軸線)Cは気筒配列方向と平行になる。したがって、ピストン18をコネクティングロッドに連結するピストンピン20の軸もクランクシャフトの軸と平行になる。主として、シリンダ16内を往復動するピストン18の傾倒を抑制するために設けられるピストン18のスカート22は、ピストンピン20の軸と直交方向の領域にだけ設けられることが多いので、この実施の形態の水平対向エンジン10では、
図2(b)に示すように、シリンダ16の上下方向の領域だけにスカート22が設けられている。正確には、この実施の形態では、前述のようにクランクシャフトの軸が車両後方下がりに配置されているので、スカート22の配設位置は、そのクランクシャフトの軸Cの水平面からの傾斜角だけ、
図2(b)の上下方向よりも少しずれている。
【0021】
この実施の形態のシリンダ16では、ピストン18が往復動する内周面26に対し、下死点におけるピストン18のスカート22の位置よりもクランクシャフト寄りの部分が次第に拡径するテーパ面になっている。このテーパ面は、シリンダ16の軸を中心とする円錐台形の円錐面24になっており、例えば、シリンダ16の内周面26をボーリングする際に、同時に加工して形成されている。この円錐面24は、後述するように、下死点におけるピストン18のスカート22よりもクランクシャフト寄りの領域で、エンジン10の車両搭載時におけるシリンダ16の最下部を含む部分が、燃焼室側に対してクランクシャフト側が下り傾斜になる傾斜面であればよい。しかし、平坦な傾斜面をシリンダ16の内面に加工形成するのは時間を要するので、この実施の形態では、例えばシリンダ16の内周面26のボーリング加工時に円錐面24を加工形成した。なお、この円錐面24(傾斜面であってもよい)は、例えばクランクケースを含むシリンダブロックの製造時、例えば鋳造時に同時に形成されるようにしてもよい。
【0022】
また、この実施の形態のシリンダ16では、ピストン18が往復動する内周面26及び上記の円錐面(傾斜面)24を含めて、下死点におけるピストン18のオイルリング28の位置よりもクランクシャフト寄りの位置からクランクシャフト側に向けて、シリンダ16の軸と略平行に伸長する溝30を、エンジン10の車両搭載時に最下部となる部分に形成した。換言すれば、この溝30は、エンジン10の車両搭載時におけるシリンダ16の最下部を含む領域で開口している。また、この溝30は、上記下死点におけるピストン18のオイルリング28の近傍からクランクシャフト側まで連通しており、具体的にはクランクシャフト側の端部が上記円錐面(傾斜面)24に開口しており、更に、エンジン10の車両搭載時、燃焼室側からクランクシャフト側に向けて次第に低くなるように底部32が形成されている。
【0023】
この実施の形態の溝30は、底浅幅広の方形断面に形成されている。この溝30の幅や深さは任意に設定することが可能であるが、後述のように、エンジン停止時にオイルリング28内に残留するオイルを流れ集めてクランクシャフト側、すなわちオイルパン14に回収するためには、例えば、幅が大きい方が有利である。しかし一方で、溝幅が大きくなると、或いは深さが大きくなると、シリンダ16の強度が低下するおそれがあり、その結果、シリンダ内周面26の真円度などに影響することが考えられる。したがって、溝30の幅や深さは、オイルの収集とシリンダ強度とをバランスさせて設定する。この実施の形態では、この溝30を機械加工によって形成しているが、上記円錐面(傾斜面)24と同様に、例えばクランクケースを含むシリンダブロックの製造時、例えば鋳造時に同時に形成されるようにしてもよい。また、溝30の断面形状は、方形に限らず、例えば、U字状やV字状など、任意に設定することができる。
【0024】
図3は、
図2(b)における円錐面(傾斜面)24及び溝30の詳細図である。周知のように、ピストン18のオイルリング28が、3ピースオイルリングである場合、2つのサイドレール28aの間にスペーサ(エキスパンダ)28bが介装されて構成される。エンジン停止時にオイルリング28内に残存するオイルは、このスペーサ28bの部分、すなわち2つのサイドレール28aの間に存在すると考えられる。そこで、ピストン18の下死点におけるオイルリング28の近傍において、そのオイルリング28の位置よりもクランクシャフト寄りの位置に溝30を開口しておけば、オイルリング28内に残存するオイルが自重で溝30内に流れ込む。この溝30は、エンジン10の車両搭載状態で、底部32が燃焼室側からクランクシャフト側に向けて次第に低くなるように形成されているので、溝30内に流れ込んだオイルは溝30内を通ってクランクシャフト側に流れ、オイルパン14に回収(還流)される。このとき、往復動するピストン18のオイルリング28は、サイドレール28aを含めて、溝30の開口部に接触することはない。したがって、溝30の開口部の周縁部がオイルリング28と擦れて偏摩耗するおそれはない。
なお、本実施の形態のピストン18は、図2及び図3から理解されるように、溝30に対向する外周表面が、溝のない平滑な面として形成されている。
【0025】
また、ピストン18の下死点におけるスカート22の位置よりもクランクシャフト寄りの領域で、エンジン10の車両搭載状態における最下部が、燃焼室側に対してクランクシャフト側が下方となる円錐面(傾斜面)24では、エンジンの運転時にあっても、シリンダ16内で且つピストン18よりもクランクシャフト側に存在するオイルは円錐面(傾斜面)24を通じて流下し、クランクシャフト側、すなわちオイルパン14へ還流される。したがって、水平対向エンジンのシリンダ16であっても、エンジン停止時にピストン18のオイルリング28に残存するオイルの量を低減することができる。このとき、ピストン18のスカート22が往復動する範囲はシリンダ16の内周面26が確保されるので、ピストン往復動時のピストン18の傾倒抑制が確保される。すなわち、ピストン18のスカート22がシリンダ16の内周面26に接触することでピストン18の傾倒が抑制される。シリンダ16の内面に形成される円錐面(傾斜面)24はピストン18の下死点におけるスカート22の位置よりもクランクシャフト寄りの領域にしか形成されていないので、往復動するピストン18のスカート移動範囲はシリンダ16の内周面26が連続しており、したがってピストン18の傾倒抑制効果は確保される。
【0026】
このように、この実施の形態のエンジンシリンダ構造では、ピストン下死点におけるオイルリング28の位置よりもクランクシャフト寄りの位置からクランクシャフト側に向けてシリンダ16の軸と略平行に伸長して該クランクシャフト側まで連通し且つエンジン10の車両搭載状態におけるシリンダ16の最下部を含む領域に開口する溝30を形成した。これにより、エンジン停止時にピストン18のオイルリング28内に残存したオイルは、そのオイルリング28の近傍で開口している溝30内に自重で流れ込み、その溝30を通じてクランクシャフト側、すなわちオイルパン14に還流する。この溝30の開口部にオイルリング28は接触しないので、溝30の開口部の周縁部でシリンダ内周面26が偏摩耗することはない。以上より、シリンダ内周面26の偏摩耗を回避しながら、エンジン停止時にピストン18のオイルリング28内のオイルの残存量を低減することができる。
【0027】
また、エンジン10の車両搭載状態で、燃焼室側からクランクシャフト側に向けて次第に低くなるように溝30の底部32を形成した。これにより、エンジン停止時にピストン18のオイルリング28から溝30内に流れ込んだオイルが確実にクランクシャフト側、すなわちオイルパン14に還流する。
【0028】
また、下死点での前記ピストン18のスカート22の位置よりもクランクシャフト寄りの位置からエンジン10の車両搭載状態で少なくとも最下部となる領域を含めて燃焼室側に対してクランクシャフト側が下方に傾斜する傾斜面(円錐面)24を形成した。これにより、エンジン停止時のみならず、エンジン10の運転時にあっても、シリンダ16内で且つピストン18よりもクランクシャフト側に存在するオイルは傾斜面(円錐面)24を通じてクランクシャフト側、すなわちオイルパン14へ還流される。したがって、軸が略水平に配向されるシリンダ16内にあっても、エンジン停止時にピストン18のオイルリング28に残存するオイルの量を低減することができる。また、ピストン18のスカート22が往復動する範囲はシリンダ16の内周面26が確保されるので、ピストン往復動時のピストン18の傾倒抑制効果が確保される。
【0029】
また、上記傾斜面を、シリンダ16の軸を中心とする円錐台形状の円錐面24としたことにより、例えば、シリンダ16のボーリング加工時に傾斜面を一緒に加工形成することが可能となることから、傾斜面加工のための新たな工程を追加する必要がなく、その分だけ、コストの増大を抑制することができる。
【0030】
以上、実施の形態に係るエンジンシリンダ構造について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態は、本件発明を水平対向エンジン10に用いた例についてのみ詳述したが、本件発明は、車両用エンジンにあって軸が略水平方向に配向されるエンジンであれば同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン
16 シリンダ
18 ピストン
22 スカート
24 円錐面(傾斜面)
28 オイルリング
30 溝
32 底部