(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
B41J2/335 101F
(21)【出願番号】P 2019065352
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】一色 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山出 琢巳
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-370398(JP,A)
【文献】特開2017-226231(JP,A)
【文献】特開2000-318196(JP,A)
【文献】特開2018-165048(JP,A)
【文献】特開2015-006791(JP,A)
【文献】特開2008-221751(JP,A)
【文献】特開平11-078091(JP,A)
【文献】特開平07-329330(JP,A)
【文献】米国特許第05745157(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
B41J 2/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する基板と、
前記基板の主面上に形成されたガラス層と、
前記ガラス層上に形成された電極層及び抵抗体層と、
前記抵抗体層及び前記電極層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前記抵抗体層を覆う抵抗体被覆部を含む第1保護層と、前記抵抗体被覆部を少なくとも覆う第2保護層と、を有し、
前記第2保護層は、炭化ケイ素及び窒化クロムを含
み、前記第2保護層における炭化ケイ素の含有率に対する前記第2保護層におけるクロムの含有率の比が1/3以上、3以下の範囲となるように形成されている
サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記第2保護層は、前記第2保護層における炭化ケイ素の含有率に対する前記第2保護層におけるクロムの含有率の比が1/2以上、2以下の範囲となるように形成されている
請求項
1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記第2保護層は、前記第2保護層における炭化ケイ素の含有率に対する前記第2保護層におけるクロムの含有率の比が1となるように形成されている
請求項
2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記第2保護層の厚さは、前記第1保護層の厚さよりも薄い
請求項1~
3のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記第2保護層は、薄膜が複数積層された多層構造である
請求項1~
4のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記ガラス層は、主走査方向に延びる帯状であって、前記主走査方向と直交する平面で切った断面形状が円弧状のグレーズを有し、
前記抵抗体層は、前記グレーズに配置され、
前記第1保護層及び前記第2保護層はそれぞれ、前記グレーズを覆うように形成されている
請求項1~
5のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記基板の主面に垂直な方向からみて、副走査方向における前記第2保護層の長さは、前記副走査方向における前記第1保護層の長さよりも短い
請求項
6に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記電極層は、
副走査方向に延び、主走査方向において互いに間隔をあけて配置されている複数の第1帯状部、及び前記主走査方向に延び、前記複数の第1帯状部を接続している連結部を有する共通電極と、
前記副走査方向に延びる第2帯状部を有する複数の個別電極と、
を備え、
前記主走査方向からみて、前記第1帯状部及び前記第2帯状部は重なるように配置され、かつ、前記主走査方向において、前記第1帯状部及び前記第2帯状部は交互に配置されている
請求項1~
7のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記ガラス層は、前記主走査方向に延びる帯状であって、前記主走査方向と直交する平面で切った断面形状が円弧状のグレーズを有し、
前記複数の第1帯状部及び前記複数の第2帯状部はそれぞれ、前記グレーズ上に配置され、
前記抵抗体層は、前記複数の第1帯状部上及び前記複数の第2帯状部上を跨るように配置されている
請求項
8に記載のサーマルプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、例えば感熱記録紙に印字するサーマルプリンタに搭載される。従来のサーマルプリントヘッドの一例としては、セラミック基板と、セラミック基板上に形成されたグレーズ層と、グレーズ層上に形成された発熱抵抗体と、発熱抵抗体上に形成され、発熱抵抗体に電流を供給する電極と、発熱抵抗体を被覆する第1保護層としての抵抗体保護層と、抵抗体保護層上に形成された第2保護層としての耐摩耗層とを備える(例えば、特許文献1参照)。このようなサーマルプリントヘッドは、被印刷物を耐摩耗層に押し当てて電極を通じて発熱抵抗体を発熱させることによって被印刷物に印字する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、第2保護層は、例えば炭化ケイ素(SiC)によって形成される場合がある。SiCによって形成された第2保護層では、被印刷物として感熱記録紙に印字する場合、感熱記録紙がサーマルプリントヘッドに不要に張り付く、いわゆるスティッキング現象が発生する場合がある。スティッキング現象が発生すると、感熱記録紙が円滑に搬送されずに副走査方向において感熱記録紙に印字されるラインに印字がされない。
【0005】
本発明の目的は、スティッキング現象の発生の抑制できるサーマルプリントヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するサーマルプリントヘッドは、主面を有する基板と、前記基板の主面上に形成されたガラス層と、前記ガラス層上に形成された電極層及び抵抗体層と、前記抵抗体層及び前記電極層を覆う保護層と、を備え、前記保護層は、前記抵抗体層を覆う抵抗体被覆部を含む第1保護層と、前記抵抗体被覆部を少なくとも覆う第2保護層と、を有し、前記第2保護層は、炭化ケイ素及び窒化クロムを含む。
【0007】
この構成によれば、第2保護層が炭化ケイ素及び窒化クロムを含むため、第2保護層が炭化ケイ素からなる場合と比較して、摩擦係数が小さくなる。したがって、サーマルプリントヘッドが被印刷物を印字する場合に第2保護層と摺動する被印刷物におけるスティッキング現象の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
上記サーマルプリントヘッドによれば、スティッキング現象の発生の抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態のサーマルプリントヘッドの平面図。
【
図2】
図1のサーマルプリントヘッドの一部の拡大図。
【
図5】比較例1,2及び実施例1,2の第2保護層について、硬度と摩擦係数との関係を示すグラフ。
【
図6】比較例1,2及び実施例1,2の第2保護層について、印字周期とスティッキング現象の発生との関係を示す表。
【
図7】比較例1,2及び実施例1の第2保護層について、保護層の磨耗量を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、サーマルプリントヘッドの実施形態について図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための構成や方法を例示するものであり、各構成部品の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに限定するものではない。以下の実施形態は、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本明細書において、「部材Aが部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bとが物理的に直接的に接続される場合、並びに、部材A及び部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合を含む。
【0012】
図1は、サーマルプリントヘッド1の平面図である。サーマルプリントヘッド1は、例えばバーコードシート及びレシートを作成するために感熱記録紙に対して1ラインごとに印字するサーマルプリンタに搭載される。
図1に示すように、サーマルプリントヘッド1は、矩形板状に形成されたヘッド本体1Aと、ヘッド本体1Aに取り付けられたコネクタ1B,1Cとを備える。コネクタ1B,1Cは、サーマルプリントヘッド1をサーマルプリンタに組み込む際、サーマルプリンタ側のコネクタに接続される。本実施形態では、サーマルプリントヘッド1は、印字周期(1ラインの印字にかかる時間)が1.60ms/lineよりも遅いサーマルプリンタに適用される。一例では、サーマルプリントヘッド1は、印字周期が2.50ms/lineのサーマルプリンタに適用される。一例では、サーマルプリントヘッド1は、印字周期が3.33ms/lineのサーマルプリンタに適用される。
【0013】
以降の説明において、サーマルプリントヘッド1の平面視(以下、単に「平面視」という)において、ヘッド本体1Aの長辺方向を「主走査方向X」とし、ヘッド本体1Aの短辺方向を「副走査方向Y」とし、ヘッド本体1Aの厚さ方向を「板厚方向Z」とする。板厚方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yと直交する方向である。平面視において、副走査方向Yは、感熱記録紙の搬送方向と一致する。また便宜上、基板10の裏面12から主面11に向かう方向を「上方」とし、主面11から裏面12に向かう方向を「下方」とする。上方及び下方は、サーマルプリントヘッド1の姿勢等によって変更されるため、実際の製品の方向として定義するものではない。
【0014】
ヘッド本体1Aの副走査方向Yの上流側端部かつ主走査方向Xの一方の端部には、コネクタ1Bが接続されている。ヘッド本体1Aの副走査方向Yの上流側端部かつ主走査方向Xの他方の端部には、コネクタ1Cが接続されている。なお、主走査方向Xにおけるコネクタ1B,1Cの位置は任意に変更可能である。また、1個のコネクタ又は3個以上のコネクタがヘッド本体1Aに接続されてもよい。
【0015】
図1~
図4に示すように、ヘッド本体1Aは、基板10、ガラス層20、電極層30、抵抗体層40、保護層50、及び駆動IC61を備える。なお、ヘッド本体1Aは、基板10に加えて、例えばガラスエポキシ樹脂からなる基材層と、銅(Cu)などからなる配線層とが積層された配線基板を有する構造としてもよい。また、
図1では、便宜上、保護層50を省略して示している。
【0016】
基板10は、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)などのセラミックからなり、例えばその厚さが0.6mm~1.0mm程度とされる。基板10は、主走査方向Xに長く延びる矩形板状である。基板10は、板厚方向Zにおいて互いに反対側を向く主面11及び裏面12を有する。基板10の主面11には、ガラス層20、電極層30、抵抗体層40、及び保護層50が形成されている。基板10の裏面12には、例えばアルミニウム(Al)などの金属からなる放熱板を設けてもよい。
【0017】
ガラス層20は、基板10の主面11上に形成されており、例えば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。ガラス層20は、グレーズ21、ダイボンディンググレーズ22、中間ガラス層23、及び先端ガラス層24を有する。ガラス層20は、ガラスペーストを基板10の主面11上に厚膜印刷した後、厚膜印刷されたガラスペーストを焼成することによって形成されている。
【0018】
グレーズ21は、蓄熱層であって、平面視において主走査方向Xに延びる帯状に形成されている。本実施形態のグレーズ21は、副走査方向Y及び板厚方向Zを含む平面で切った断面形状が板厚方向Zにおいて基板10とは反対側に凸となる円弧状に形成された、いわゆる部分グレーズである。円弧状のグレーズ21の曲率は、サーマルプリントヘッド1の用途に応じて適宜設定可能である。グレーズ21の副走査方向Yのサイズは、例えば700μm程度である。グレーズ21の板厚方向Zのサイズは、例えば18μm~50μm程度である。つまり、基板10の主面11からグレーズ21の頂部21Aまでの板厚方向Zのサイズが50μm程度である。グレーズ21は、抵抗体層40のうちの発熱する部分である発熱部41を印刷対象である感熱記録紙に押し当てるために設けられている。
【0019】
ダイボンディンググレーズ22は、グレーズ21に対して副走査方向Yの上流側に離間した位置で、グレーズ21と平行に設けられた帯状に形成されている。ダイボンディンググレーズ22は、電極層30の一部及び駆動IC61を支持している。ダイボンディンググレーズ22の厚さは、例えば30μm~50μm程度である。グレーズ21及びダイボンディンググレーズ22はそれぞれ、非晶質ガラスによって形成されている。グレーズ21及びダイボンディンググレーズ22のガラス材料の軟化点は、例えば800℃~850℃である。なお、ダイボンディンググレーズ22は省略してもよい。
【0020】
中間ガラス層23は、副走査方向Yにおいて基板10の主面11のうちのグレーズ21とダイボンディンググレーズ22とに挟まれた領域を覆っている。中間ガラス層23は、ガラス材料の軟化点が例えば680℃程度と、グレーズ21及びダイボンディンググレーズ22を形成するガラス材料よりも軟化点が低いガラス材料からなる。中間ガラス層23の厚さは、例えば2.0μm程度である。先端ガラス層24は、基板10の主面11のうちのグレーズ21に対して副走査方向Yの下流側の領域の一部を覆っている。先端ガラス層24は、中間ガラス層23と同様の材質及び厚さである。中間ガラス層23及び先端ガラス層24はそれぞれ、基板10の主面11の凹凸をなくして電極層30を積層し易くするために設けられている。本実施形態では、グレーズ21及びダイボンディンググレーズ22が形成された後、中間ガラス層23及び先端ガラス層24が形成される。
【0021】
電極層30は、抵抗体層40に通電するための経路を構成するものであり、ガラス層20上に形成されている。電極層30は、例えば添加元素としてロジウム(Rh)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などが添加された金(Au)レジネートペーストによって形成されている。電極層30は、金レジネートペーストを厚膜印刷した後、厚膜印刷された金レジネートペーストを焼成することによって形成されている。なお、電極層30は、スパッタリングなどの薄膜形成技術によって形成してもよい。電極層30の厚さは特に限定されないが、例えば0.6μm~1.2μm程度である。電極層30は、共通電極31及び複数の個別電極32を有する。なお、個別電極32の個数は任意に変更可能である。
【0022】
図2に示すように、共通電極31は、複数の第1帯状部33、連結部34、及び迂回部35を有する。連結部34は、グレーズ21の一部と先端ガラス層24上に形成されている。連結部34の副走査方向Yの下流側端部は、先端ガラス層24からはみ出さないように形成されている。また連結部34の副走査方向Yの上流側端部は、グレーズ21のうちの副走査方向Yの下流側端部に形成されている。複数の第1帯状部33は、主走査方向Xにおいて等ピッチで配列されている。迂回部35は、複数の個別電極32を迂回するように、連結部34の主走査方向Xの一方の端部から副走査方向Yの上流側に延びている。
【0023】
個別電極32は、抵抗体層40に対して部分的に通電するものであり、共通電極31に対して逆極性となる部分である。本実施形態では、共通電極31が正極となり、個別電極32が負極となる。個別電極32は、副走査方向Yにおいてグレーズ21からダイボンディンググレーズ22までにわたり延びる帯状に形成されている。各個別電極32は、第2帯状部36を有する。第2帯状部36は、グレーズ21上において主走査方向Xに隣り合う第1帯状部33の間に配置されている。つまり、第1帯状部33及び第2帯状部36は、主走査方向Xにおいて交互に配置されている。各個別電極32の副走査方向Yの上流側端部には、ボンディング部37が設けられている。ボンディング部37は、その幅寸法が第2帯状部36の幅寸法よりも大きくなるように形成されている。複数のボンディング部37は、主走査方向Xに間隔をあけて配列されている。
【0024】
駆動IC61は、複数の個別電極32を選択的に通電させることによって、抵抗体層40の複数の発熱部41のいずれかを任意に発熱させる機能を有する。
図1に示すように、本実施形態では、複数の駆動IC61が主走査方向Xに離間して配置されている。
図3に示すように、駆動IC61は、ダイボンディンググレーズ22上に形成されている。より詳細には、ダイボンディンググレーズ22上において駆動IC61が配置される領域には、電極層30の一部が形成されている。この電極層30の一部上には、支持ガラス層25が形成されている。支持ガラス層25は、例えば非晶質ガラスからなる。駆動IC61は、支持ガラス層25上に配置されている。
図2に示すように、駆動IC61には、複数のパッド62が形成されている。複数のパッド62は、複数のワイヤ63を介して個別電極32のボンディング部37、又はダイボンディンググレーズ22上に形成された電極層30の一部であるパッドに接続されている。
図1に示すように、複数の駆動IC61は、封止樹脂64によって封止されている。
【0025】
図4に示すように、抵抗体層40は、基板10の主面11上に形成されたグレーズ21の頂部21Aにおいて、主走査方向Xに延びる帯状に形成されている。グレーズ21の頂部21Aは、板厚方向Zにおいて基板10の主面11からグレーズ21の表面までの高さが最も大きくなる箇所であり、本実施形態では、副走査方向Yにおけるグレーズ21の中央に形成されている。抵抗体層40は、ヘッド本体1Aを副走査方向Y及び板厚方向Zに沿う平面で切った断面において円弧状に形成されている。本実施形態では、抵抗体層40は、グレーズ21上、複数の第1帯状部33上、及び複数の第2帯状部36上にペーストを厚膜印刷した後、厚膜印刷されたペーストを焼成することによって形成されている。なお、抵抗体層40は、スパッタリングなどの薄膜形成技術によって形成されてもよい。抵抗体層40の厚さは特に限定されないが、厚膜印刷の場合、例えば6μm程度であり、薄膜形成技術の場合、例えば0.05μm~0.2μm程度である。
【0026】
抵抗体層40は、グレーズ21において、複数の第1帯状部33及び複数の第2帯状部36にそれぞれ交差するように形成されている。本実施形態では、抵抗体層40は、複数の第1帯状部33及び複数の第2帯状部36を跨るように形成されている。抵抗体層40のうちの主走査方向Xにおいて各第1帯状部33と各第2帯状部36とに挟まれた部分は、発熱部41を構成している。発熱部41は、電極層30によって抵抗体層40が部分的に通電されることによって発熱する部分である。発熱部41の発熱によって感熱記録紙に印字される。本実施形態では、第2帯状部36とこの第2帯状部36の両隣の第1帯状部33との間の2つの発熱部41によって1ドットが形成される。
【0027】
図3及び
図4に示すように、保護層50は、少なくとも抵抗体層40を保護するものであり、例えば非晶質ガラスからなる。保護層50は、第1保護層51及び第2保護層52を有する。
【0028】
第1保護層51は、少なくとも抵抗体層40の発熱部41を覆っている。第1保護層51は、抵抗体層40を覆う抵抗体被覆部51Aを含む。抵抗体被覆部51Aは、主走査方向Xに延びる帯状に形成されている。抵抗体被覆部51Aは、抵抗体層40の全体を覆っている。本実施形態では、抵抗体被覆部51Aは、共通電極31の各第1帯状部33の一部及び各個別電極32の第2帯状部36の一部をそれぞれ覆っている。
【0029】
第1保護層51は、抵抗体被覆部51Aよりも副走査方向Yの下流側に形成された下流側被覆部51Bと、抵抗体被覆部51Aよりも副走査方向Yの上流側に形成された上流側被覆部51Cとをさらに含む。下流側被覆部51Bは、共通電極31及び先端ガラス層24を覆っている。上流側被覆部51Cは、個別電極32、中間ガラス層23、及びダイボンディンググレーズ22の一部を覆っている。
【0030】
このように、本実施形態では、第1保護層51は、抵抗体層40の全体及び電極層30の大部分を覆っている。具体的には、
図3に示すように、第1保護層51は、副走査方向Yにおいて、基板10の下流側端縁の手前(例えば、副走査方向Yにおける基板10の下流側端縁よりも0.1mm~0.5mm上流側)からダイボンディンググレーズ22の中央付近までにわたる領域に形成されている。すなわち第1保護層51は、抵抗体層40及び電極層30を保護している。第1保護層51は、例えば非晶質ガラスからなる。第1保護層51は、非晶質ガラスを含むガラスペーストをガラス層20上において抵抗体層40及び電極層30の一部を覆うように厚膜印刷した後、厚膜印刷されたガラスペーストを焼成することによって形成される。第1保護層51の厚さは特に限定されないが、例えば6μm~8μm程度である。
【0031】
第2保護層52は、第1保護層51上に形成されている。第2保護層52は、感熱記録紙の搬送時に感熱記録紙がサーマルプリントヘッド1に接触する可能性のある領域に形成されている。第2保護層52は、抵抗体被覆部51Aを少なくとも覆っている。第2保護層52は、第1部分52A、第2部分52B、及び第3部分52Cに区分できる。第1部分52Aは、第1保護層51の抵抗体被覆部51Aを覆う部分である。第2部分52Bは、第1部分52Aよりも副走査方向Yの下流側に形成された部分である。第3部分52Cは、第1部分52Aよりも副走査方向Yの上流側に形成された部分である。本実施形態では、第2部分52Bの副走査方向Yの下流側端縁は、第1保護層51の副走査方向Yの下流側端縁よりも上流側となるように形成されている。第3部分52Cの副走査方向Yの下流側端縁は、ダイボンディンググレーズ22よりも副走査方向Yの下流側となるように形成されている。具体的には、第3部分52Cの副走査方向Yの下流側端縁は、中間ガラス層23のうちの副走査方向Yにおいてグレーズ21寄りの部分となるように形成されている。このように、平面視において、副走査方向Yにおける第2保護層52の長さは、副走査方向Yにおける第1保護層51の長さよりも短い。第2保護層52の厚さは特に限定されないが、例えば2μm~4μm程度である。本実施形態では、第2保護層52の厚さは、4μmである。このように、本実施形態では、第2保護層52の厚さは、第1保護層51の厚さよりも薄い。
【0032】
第2保護層52は、炭化ケイ素(SiC)及び窒化クロム(CrN)を含むコーティング膜である。第2保護層52は、例えば所望の領域を露出するマスクを形成した後、例えば炭化ケイ素及び窒化クロムを用いたスパッタリングによって形成されている。第2保護層52は、所望の厚さ(4μm)となるようにスパッタリングによって形成された膜を複数積層することによって形成された多層構造である。第2保護層52は、アルゴンガスに窒素を添加した不活性ガスをターゲットとなる炭化ケイ素及びクロムに衝突させることによって、第1保護層51上に炭化ケイ素及びクロムを同時成膜することによって形成される。
【0033】
一例では、第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1/3以上、3以下の範囲となるように形成されている。好ましくは、第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1/2以上、2以下の範囲となるように形成されている。本実施形態では、第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1となるように形成されている。
【0034】
ここで、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比は、第2保護層52に含有される炭化ケイ素の重量パーセント(wt%)から第2保護層52に含有されるクロムの重量パーセント(wt%)を除算した値である。第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比は、スパッタリングにおいてターゲットとなる炭化ケイ素及びクロムに供給される電力(kW)によって調整される。第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1/3の場合、炭化ケイ素に供給される電力は2.3kWであり、クロムに供給されるエネルギーは2.0kWである。第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が3の場合、炭化ケイ素に供給される電力は6.0kWであり、クロムに供給される電力は0.6kWである。第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1の場合、炭化ケイ素に供給される電力は3.0kWであり、クロムに供給される電力は1.0kWである。
【0035】
(実施例)
本願発明者らは、比較例1,2及び実施例1,2について次の第1試験~第3試験を実施した。第1試験は、第2保護層52の特徴的な諸元と、摩擦係数及び硬度との関係を確認するための試験である。第2試験は、第2保護層52の特徴的な諸元と、所定距離にわたり感熱記録紙に印字した場合のスティッキング現象の発生との関係を確認する試験である。第3試験は、第2保護層52の特徴的な諸元と、所定距離にわたり感熱記録紙を搬送した場合の第2保護層52の磨耗量を確認する試験である。第2保護層52の特徴的な諸元は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比である。
【0036】
比較例1は、炭化ケイ素からなる第2保護層を有するサーマルプリントヘッドである。比較例1では、アルゴンガスを炭化ケイ素に衝突させることによって炭化ケイ素からなる第2保護層を形成する。
【0037】
比較例2は、窒化クロムからなる第2保護層を有するサーマルプリントヘッドである。比較例2では、アルゴンガスに窒素を添加した不活性ガスをクロムに衝突させることによって窒化クロムからなる第2保護層を形成する。
【0038】
実施例1は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1となる第2保護層を有するサーマルプリントヘッドである。実施例1では、3.0kWの電力が供給されている炭化ケイ素と1.0kWの電力が供給されているクロムのそれぞれにアルゴンガスに窒素を添加した不活性ガスを衝突させることによって炭化ケイ素及び窒化クロムからなる第2保護層を形成する。
【0039】
実施例2は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が3となる第2保護層を有するサーマルプリントヘッドである。実施例2では、6.0kWの電力が供給されている炭化ケイ素と0.6kWの電力が供給されているクロムのそれぞれにアルゴンガスに窒素を添加した不活性ガスを衝突させることによって炭化ケイ素及び窒化クロムからなる第2保護層を形成する。
【0040】
第1試験の条件について説明する。第1試験では、固定したボールに第2保護層を押し当てて往復させる、いわゆる、ボール・オン・プレート法によって摩擦係数を測定した。ボールは、感熱記録紙の材料に近いナイロンを用いた。また、ナノインデンテーション法によって第2保護層の硬さを測定した。第2保護層の硬さは、例えばビッカース硬度(HV)によって示される。ナノインデンテーション法は、例えばISO14577に準拠した押し込み方式が用いられる。
【0041】
第2試験の条件について説明する。第2試験では、感熱記録紙PD150R(王子製紙製)を複数の印字周期で印字し、スティッキング現象の発生の有無を確認した。印字周期は、1.66ms/line、2.50ms/line、3.33ms/line、5.00ms/line、及び6.67ms/lineの6種類である。
【0042】
第3試験の条件について説明する。第3試験では、ラッピング紙#6000を200mにわたり走行させて第2保護層の磨耗量を測定した加速摩耗試験である。第3試験では、印字濃度を変更したに応じて第2保護層の磨耗量を測定した。試験1は、印字濃度が0%、すなわちラッピング紙に印字せずにラッピング紙を走行させた試験である。試験2は、ラッピング紙に12.5%の印字濃度で印字しながらラッピング紙を走行させた試験である。試験3は、ラッピング紙に100%の印字濃度、すなわち黒べたで印字しながらラッピング紙を走行させた試験である。
【0043】
図5は、比較例1,2及び実施例1,2に関する第1試験の結果を示すグラフである。この試験結果に示すとおり、比較例1は、第2保護層のビッカース硬度が最も高いが、第2保護層の摩擦係数も最も高くなる。比較例2は、第2保護層のビッカース硬度が最も低く、第2保護層の摩擦係数も低い。実施例1の第2保護層のビッカース硬度は、比較例2の第2保護層のビッカース硬度よりも高く、比較例1の第2保護層のビッカース硬度よりも低い。実施例1の第2保護層の摩擦係数は、比較例2の第2保護層の摩擦係数よりも高く、比較例1の第2保護層の摩擦係数よりも低い。実施例2の第2保護層のビッカース硬度は、比較例2の第2保護層のビッカース硬度よりも高く、実施例1の第2保護層のビッカース硬度よりも低い。実施例2の第2保護層の摩擦係数は、最も低くなる。
【0044】
図6は、比較例1,2及び実施例1,2に関する第2試験の結果を示す表である。この試験結果に示すとおり、比較例1では、印字周期が3.33ms/lineにおいてスティッキング現象が発生した。比較例2、実施例1、及び実施例2では、全ての印字周期においてスティッキング現象の発生を確認できなかった。
【0045】
図7は、比較例1,2及び実施例1に関する第3試験の結果を示す表である。この試験結果に示すとおり、比較例1では、第2保護層の磨耗量が少ない。比較例2では、第2保護層の磨耗量が多い。第2保護層の厚さが4μm程度であるため、比較例2の試験1では、第2保護層が全て摩耗したことを示している。実施例1の第2保護層の磨耗量は、比較例1の第2保護層の磨耗量よりも多いが、比較例2の第2保護層の磨耗量よりも少ない。
【0046】
第1試験~第3試験の試験結果から分かるとおり、第2保護層のビッカース硬度が高いと、第2保護層の磨耗量が少なくなる一方、摩擦係数が大きくなるため、スティッキング現象が発生し易くなる。第2保護層のビッカース硬度が低いと、摩擦係数が小さくなるため、スティッキング現象が発生し難くなる一方、第2保護層の磨耗量が多くなる。
【0047】
実施例1,2の第2保護層は、ビッカース硬度が比較例1の第2保護層のビッカース硬度と比較例2の第2保護層のビッカース硬度との間となり、比較例1の第2保護層よりも摩擦係数が小さい。このため、第2保護層の磨耗量の増大を抑えるとともにスティッキング現象の発生を抑制できる。
【0048】
本実施形態のサーマルプリントヘッド1によれば、以下の効果が得られる。
(1)感熱記録紙と接触する第2保護層52は、炭化ケイ素及び窒化クロムを含む。この構成によれば、炭化ケイ素からなる第2保護層と比較して、スティッキング現象の発生を抑制でき、窒化クロムからなる第2保護層と比較して、第2保護層の磨耗量を低減できる。したがって、スティッキング現象の発生の抑制と耐摩耗性の低下の抑制とを両立できる。
【0049】
(2)第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が、1/3以上かつ3以下となるように形成されている。この構成によれば、炭化ケイ素からなる第2保護層と比較して、スティッキング現象の発生を好適に抑制でき、窒化クロムからなる第2保護層と比較して、第2保護層52の磨耗量を好適に低減できる。
【0050】
(3)第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が、1/2以上かつ2以下となるように形成されている。この構成によれば、炭化ケイ素からなる第2保護層と比較して、スティッキング現象の発生をより好適に抑制でき、窒化クロムからなる第2保護層と比較して、第2保護層52の磨耗量をより好適に低減できる。
【0051】
(4)第2保護層52は、第2保護層52における炭化ケイ素の含有率に対する第2保護層52におけるクロムの含有率の比が1となるように形成されている。この構成によれば、炭化ケイ素からなる第2保護層と比較して、スティッキング現象の発生をより一層好適に抑制でき、窒化クロムからなる第2保護層と比較して、第2保護層52の磨耗量をより一層好適に低減できる。
【0052】
(変更例)
上記実施形態は本開示に関するサーマルプリントヘッドが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に関するサーマルプリントヘッドは上記実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、上記実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、又は上記実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下の変更例において、上記実施形態の形態と共通する部分については、上記実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
・上記実施形態において、抵抗体層40は、板厚方向Zにおいてグレーズ21と電極層30との間に形成されてもよい。より詳細には、抵抗体層40は、グレーズ21上において共通電極31の複数の第1帯状部33と個別電極32の複数の第2帯状部36と交差するように主走査方向Xに延びている。すなわち各第1帯状部33及び各第2帯状部36は抵抗体層40を副走査方向Yに跨るように形成されている。
【0054】
・上記実施形態において、第1保護層51から下流側被覆部51B及び上流側被覆部51Cの少なくとも一方を省略してもよい。
・上記実施形態において、第2保護層52から第2部分52B及び第3部分52Cの少なくとも一方を省略してもよい。
【0055】
・上記実施形態において、平面視において第2保護層52の副走査方向Yの長さは任意に変更可能である。一例では、平面視において第2保護層52の副走査方向Yの長さは、第1保護層51の副走査方向Yの長さと等しい。
【0056】
・上記実施形態において、第2保護層52の厚さは任意に変更可能である。第2保護層52の厚さは、第1保護層51の厚さ以上であってもよい。
・上記実施形態では、グレーズ21として部分グレーズが形成されているが、グレーズ21の種類はこれに限定されない。グレーズ21は、例えば、薄グレーズ、ダブルパーシャルグレーズ、ファイングレーズ、及びスーパーファイングレーズのいずれかとして形成されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…サーマルプリントヘッド
10…基板
11…主面
20…ガラス層
21…グレーズ
30…電極層
31…共通電極
32…個別電極
33…第1帯状部
34…連結部
36…第2帯状部
40…抵抗体層
50…保護層
51…第1保護層
51A…抵抗体被覆部
52…第2保護層
X…主走査方向
Y…副走査方向