(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ
(51)【国際特許分類】
B60K 7/00 20060101AFI20230501BHJP
H02K 21/22 20060101ALI20230501BHJP
B60L 15/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B60K7/00
H02K21/22 M
B60L15/00 H
(21)【出願番号】P 2019076988
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】角振 正浩
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】平田 智士
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘二
(72)【発明者】
【氏名】梶田 効
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂樹
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第104578561(CN,B)
【文献】特開2008-141900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0093262(US,A1)
【文献】中国実用新案第201821244(CN,U)
【文献】特開2008-259364(JP,A)
【文献】特開2019-47691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0188948(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0057969(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0180588(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 7/00
H02K 21/22
H02K 7/14
B60L 15/00
F16H 25/20
F16H 25/22
F16H 25/24
B62M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを有する固定子と、前記固定子に対して所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に前記固定子に対向する磁石を有する回転子とを備えた回転電機において、
前記固定子は、回転軸方向に移動可能な移動機構に取り付けられ、
前記移動機構は、前記固定子と同軸に組み付けられた軸部材と、前記軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材を備え、
前記ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源を備え
、
前記軸部材の外表面には、前記ボールスプラインナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられるボールスプライン溝と、前記ボールねじナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられる螺旋状のボールねじ溝が形成されることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記ボールねじナット部材の軸方向長さは、前記ボールスプラインナット部材よりも短いことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の回転電機において、
前記固定子と前記回転子の対向面は、前記回転軸方向に対して交差する方向に延びる斜面を有することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1から
3の何れか1項に記載の回転電機を用いたインホイールモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束可変機構を有する回転電機及び、この回転電機を用いたインホイールモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の低速及び高速での出力を調整することで、回転速度に応じた出力特性を得ることができる回転電機が知られている。このような回転電機は種々の構造が知られているが、例えば、固定子と、固定子に対して同軸をなして回転自在に設けられた回転子と、回転子に対する固定子の軸方向での相対位置を変化させる移動手段とを有し、固定子に電機子コイル及びコアが設けられ、コアに対峙するようにマグネットが設けられた回転電機が知られている。
【0003】
このような回転電機によれば、低速回転時には、固定子と回転子の対向面積が大きくなるように移動手段によって固定子を軸方向に移動させて固定子を通過する有効磁束が大きくなるようにして高トルク化を図り、高速回転時には、固定子と回転子との対向面積を少なくするように固定子を移動させて固定子を通過する有効磁束が小さくなるようにして高速回転を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の回転電機によれば、移動手段は、駆動モータなどのアクチュエータによって固定子を移動可能としているが、アクチュエータの駆動軸が回転電機の回転軸と同軸に配置されておらず、駆動軸と回転軸が互いに略平行に配置されているため、取付スペースが2軸分必要となることから、小型化を図ることが難しく、アクチュエータの駆動によって回転軸に曲げモーメントが作用し、当該曲げモーメントによって回転軸を回転支持する軸受等が早期に破損するという問題があった。
【0006】
また、従来の固定子と回転子の対向面は回転軸と平行となっているため、移動手段によって固定子を移動させた場合に、対向面積は可変可能であるものの、対向間距離(ギャップ)は一定であるため、出力特性の調整幅が少ないといった問題もあった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、回転電機の小型化を図ると共に、応答性が良く、高エネルギー効率の固定子移動を可能とし、軸受などの構成部品の早期損傷を抑えることができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る回転電機は、電機子コイルを有する固定子と、前記固定子に対して所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に前記固定子に対向する磁石を有する回転子とを備えた回転電機において、前記固定子は、回転軸方向に移動可能な移動機構に取り付けられ、前記移動機構は、前記固定子と同軸に組み付けられた軸部材と、前記軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材を備え、前記ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源を備え、前記軸部材の外表面には、前記ボールスプラインナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられるボールスプライン溝と、前記ボールねじナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられる螺旋状のボールねじ溝が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータによれば、移動機構は、固定子と同軸に組み付けられた軸部材と、軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材を備え、前記ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源を備えているので、回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータの小型化を図ると共に、駆動源の駆動によって回転軸に曲げモーメントが作用することを防止して構成部品の早期破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係る回転電機の移動機構の構成図。
【
図4】本発明の実施形態に係る回転電機の出力特性を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の斜視図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機の移動機構の構成図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る回転電機の出力特性を説明するための図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る回転電機10は、自動車等の車輪1に組み込まれる所謂インホイールモータとして用いられると好適である。車輪1は、自動車の車体に取り付けられると共に、車輪1を回転可能に支持する車軸4と、ホイール3とホイール3の外周面に取り付けられたゴムなどの弾性体からなるタイヤ2とを備えている。
【0014】
本実施形態に係る回転電機10は、ホイール3の内部に配置されており、回転電機10の回転力をホイール3に伝達することで、当該回転電機10が取り付けられる自動車の駆動力を発生させている。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係る回転電機10は、図示しないコアに線材が巻回された電機子コイル11aが周方向に沿って配置される固定子11と、固定子11に対して所定のギャップを介して回転自在に配置される回転子12とを備えている。なお、電機子コイル11aの巻回方法は、従来周知の種々の巻き方を採用することが可能である。
【0016】
回転子12は、導電性のある金属などからなるバックヨーク13と、固定子11に対向するように配置された磁石を有しており、バックヨーク13はホイール3に取り付けられており、ホイール3は、回転子12の回転に伴って回転する。なお、固定子11と回転子12の対向面は、車軸4の回転軸方向に対して交差する方向に延びる斜面を有するようにそれぞれ傾斜して形成されている。
【0017】
また、固定子11は、車軸4の軸方向に移動可能な移動機構20に取り付けられている。移動機構20は、車軸4が挿通されて、該車軸4及び固定子11の回転中心軸と同軸に配置された軸部材21と、軸部材21の外周面に回転不能に組み付けられたボールスプラインナット部材24と、軸部材21の外周面に回転可能に組み付けられたボールねじナット部材25とを備えている。
【0018】
また、ボールねじナット部材25は、出力軸に歯車28が取り付けられた駆動源としての駆動モータ27によって回転力が付与されるように構成されている。このように構成されることで、駆動モータ27が回転することにより歯車28が回転し、歯車28がボールねじナット部材25の外周面と歯合することでボールねじナット部材25へ駆動モータ27の回転力を伝達している。
【0019】
図3に示すように、軸部材21は、車軸4が挿通可能となるように軸方向に貫通孔21aが形成された中空軸であり、外表面の軸方向一端側に軸方向に沿って形成されるボールスプライン溝22が形成され、他端側に螺旋状のボールねじ溝23が形成されている。ボールスプライン溝22およびボールねじ溝23は、互いに一端側及び他端側から中央に向かって形成されており、軸部材21の中央近傍で互いに重複して形成されている。このようにボールスプライン溝22とボールねじ溝23を互いに重複させることで、軸部材21の長さを短くすることができると共に、必要なストローク量の確保を図っている。
【0020】
ボールスプラインナット部材24は、円筒状の部材であって、内周に軸部材21が挿通される。また、ボールスプラインナット部材24の内周面には、軸部材21のボールスプライン溝22に対応する第2ボールスプライン溝24aが形成されており、ボールスプライン溝22及び第2ボールスプライン溝24aの間には、図示しない転動体等を介在させることで、軸部材21の軸方向にボールスプラインナット部材24が移動可能に組み付けられている。また、ボールスプラインナット部材24の一端には、径方向に延びる鍔部24bが形成されており、該鍔部24bにベアリング26の外輪を組み付けて回転力を受けている。
【0021】
ボールねじナット部材25は、内周にボールねじ溝23に対応する螺旋状の第2ボールねじ溝25aが形成された環状部材であり、外周面に歯車28が歯合する第3ねじ溝25bが形成されている。第2ボールねじ溝25aとボールねじ溝23の間には図示しない転動体などを介在させることで、ボールねじナット部材25は軸部材21に対して回転可能に組み付けられている。
【0022】
また、ボールねじナット部材25の一端側には、ベアリング26の内輪に挿入される縮径部25cが形成されており、当該縮径部25cをベアリング26に挿入した状態で、ボールねじナット部材25はベアリング26の内輪に組み付けられている。
【0023】
さらに、ボールねじナット部材25の軸方向長さは、ボールスプラインナット部材24より短く形成されている。ボールねじナット部材25の軸方向長さを短くすることで、第2ボールねじ溝25aの全長も短くなるが、第2ボールねじ溝25aは、螺旋状に1巻き以上形成されればよい。このように構成することで移動機構20の小型化を図ることが可能となる。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る回転電機10は、
図4に示すように、固定子11を回転子12に対して最も挿入した状態(a)においては、固定子11と回転子12の対向面積が最も大きく、固定子11と回転子12の間のギャップも最も小さい状態であることから、回転電機10の出力特性は、高トルク・低回転となる。このような状態では、自動車の発進時など速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。
【0025】
また、この状態では、逆起電力が上昇することから電機子コイル11aへの給電を停止し、車輪1を制動させる減速時には、逆起電力が上昇することで、効率的に発電を行うことができ、高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。
【0026】
これに対し、駆動モータ27を回転させてボールねじナット部材25に回転力を付与すると、(b)の状態に示すように、ボールねじナット部材25の回転に伴って、ボールねじナット部材25が軸部材21のボールねじ溝23に沿って回転しながら軸方向へ移動する。
【0027】
さらに移動機構20を駆動させると、(c)に示すように固定子11が回転子12から最も抜き出された状態となり、固定子11と回転子12の対向面積は最も小さく、固定子11と回転子12の間のギャップが最も大きな状態となる。この状態では、逆起電力が下降し、回転電機10の出力特性は、低トルク・高回転となる。このように固定子11を回転子12から最も抜き出した状態では、トルクを必要としない高速走行時に最も出力特性が適した状態となる。
【0028】
なお、固定子11と回転子12の対向面が共に斜面として構成されているため、固定子11が軸方向に抜き出されることにより、斜面の傾斜に倣って固定子11と回転子12のギャップも大きくなるように構成されている。さらに、固定子11の移動量は、駆動モータ27によるボールねじナット部材25の回転量によって無段階に調整することができるので、固定子11と回転子12の対向面積及びギャップも固定子11の移動量に応じて無段階に調整することができる。
【0029】
このように構成された本実施形態に係る回転電機10は、固定子11を駆動させる移動機構20が、軸部材21を挿通する車軸4の回転中心と、固定子11を移動させる軸部材21の軸方向とが一致しているため、軸部材21などが曲げモーメントを受けることがなくなり、構成部品の早期破損を防止することができる。
【0030】
また、回転軸と駆動軸とを同軸に配置しているので、回転電機10の小型化を図ることが可能となる。さらに、本実施形態に係る回転電機10は、ボールねじナット部材25と軸部材21の形成されたボールねじ溝23による減速効果を有することから駆動モータ27の出力を小さくすることが可能となり、当該駆動モータ27を小型化することで、回転電機10の更なる小型化を図ることが可能となる。
【0031】
さらに、移動機構20は、ボールねじナット部材25及びボールスプラインナット部材24によって固定子11の移動を行っているため、応答性がよく高エネルギー効率の固定子11の移動制御を行うことが可能となる。また、移動機構20による移動量は、ボールねじナット部材25の回転量によって制御しているので、求められる出力特性に応じて固定子11の位置を任意に設定することで、最も適した出力特性で回転電機10を駆動させることが可能となる。
【0032】
なお、上述した実施形態においては、軸部材21とボールスプラインナット部材24並びにボールねじナット部材25は、転動体を介して組み付けた場合について説明を行ったが、これらの部材は、転動体を介さずに互いに滑り合うように組み付けても構わない。また、上述した本実施形態に係る回転電機10においては、本実施形態に係る回転電機10を自動車の車輪1に適用した場合について説明を行ったが、その用途は自動車に限られず、例えば、風力発電機やプレス加工機などに適用しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0033】
10 回転電機, 11 固定子, 12 回転子, 20 移動機構, 21 軸部材, 24 ボールスプラインナット部材, 25 ボールねじナット部材, 27 駆動源。