(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】流体制御弁
(51)【国際特許分類】
F16K 37/00 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
F16K37/00 F
(21)【出願番号】P 2019092723
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2020-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大谷 稜平
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】窪田 治彦
【審判官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-3912(JP,A)
【文献】特開平10-89525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K37/00,1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定量の流体の吐出を行う分析装置に用いられる、弁体が弁座に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁において、
前記弁体または前記弁座のいずれかが、カーボンブラックを含有する弾性体からなること、
前記弁体が前記弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサを備えること、
前記振動センサで検知した前記振動が所定の閾値以下であるときに、前記弾性体が前記流体に曝されることにより生じる前記弾性体の墨汁現象に起因した腐食を原因とする前記流量制御の異常が生じていると判断する判定部を備えること、
前記振動が前記所定の閾値以下となるのは、前記腐食により硬度の低下した前記弾性体が、前記衝撃力を吸収することで、前記振動が弱くなるためであること、
前記流量制御の異常には、少なくとも、前記腐食を原因とする前記弁体と前記弁座との間に生じる前記流体の漏れが含まれること、
前記弁体が前記弁座に当接する方向と、前記振動センサが検出可能な振動の方向と、が略同一であること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項2】
一定量の流体の吐出を行う分析装置に用いられる、弁体が弁座に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁において、
前記弁体または前記弁座のいずれかが弾性体からなること、
前記弁体が前記弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサを備えること、
前記振動センサで検知した前記振動が所定の閾値以下であるときに、前記弾性体が前記流体に曝されることにより生じる前記弾性体の膨潤を原因とする前記流量制御の異常が生じていると判断する判定部を備えること、
前記振動が前記所定の閾値以下となるのは、前記弾性体の前記膨潤により前記弁座と前記弁体との距離が縮小することで、前記衝撃力が低下し、前記振動が弱くなるためであること、
前記流量制御の異常には、前記膨潤に起因した前記流体制御弁の開弁時の前記弁体と前記弁座との距離の縮小を原因として、前記流体の流量が制御値未満となる流量不足が含まれること、
前記弁体が前記弁座に当接する方向と、前記振動センサが検出可能な振動の方向と、が略同一であること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体制御弁において、
前記判定部は、前記振動センサで検知した前記振動が所定の閾値を超える値であって、所定の安全値以下であるときに、前記流量制御の異常が生じるおそれがあると判断すること、
を特徴とする流体制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体が弁座に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から医用分析装置においては、薬液用の流体制御弁を用いて、試薬、希釈液、洗浄液等の様々な流体の流量制御を行っている。医用分析装置に用いられる流体制御弁において漏れが生じると、それがたとえ微少な漏れであっても、検体・試薬の採取ミスや希釈原因となり、分析結果に与える影響が大きい。そのため、流体制御弁は、流体制御弁に漏れの発生がないかどうか検出する手段を有していることが求められている。例えば、特許文献1に開示されるセンサ付き流体制御弁は、髪の毛程度の太さの異物が弁体と弁座の間に挟まった場合に生じる微少な漏れであっても検出可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
薬液用の流体制御弁は、弁座または弁体にゴム等の弾性体を用いる場合がある。よって、弁座または弁体に用いられる弾性体と制御流体との適合性が非常に重要であり、適合しない流体を誤って流すと、弾性体が物性変化を起こすおそれがある。また、制御流体が弾性体に適合するものであっても、装置洗浄を行う場合などに一時的に流す洗浄用の流体が、弾性体に適合しない場合もあり、この場合も弾性体が物性変化を起こすおそれがある。
ここで、物性変化とは、例えば、弾性体としてゴムを用いた場合、ゴムが流体に曝されることで引き起こされる墨汁現象による腐食や、膨潤による肥大化を指す。墨汁現象を引き起こすと、弾性体が腐食し、閉弁時に弁体と弁座の間で漏れが発生するおそれがある。または、膨潤を引き起こすと、弁座または弁体が肥大化することで、開弁時の弁体と弁座との距離が縮小し、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
特に、医用分析装置に用いられる流体制御弁で、上記のような不具合が生じると、分注工程において液だれを発生させるなど、検体・試薬の採取ミスや希釈原因となり、分析結果に与える影響が大きいため、流体に曝されることにより生じる弾性体の物性変化に起因した流体制御の異常を検知可能な流体制御弁が望まれていた。しかし、特許文献1に開示されるセンサ付き流体制御弁は、ウォータハンマ現象に基づいて漏れの有無を検知することに特化されたものであり、上記のような弁体または弁座を構成する弾性体の物性変化を検出できるものではなかった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、弾性体からなる弁座または弁体が流体に曝され、弾性体が物性変化することで生じる流体制御の異常を検知することが可能な流体制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の流体制御弁は、次のような構成を有している。
【0007】
(1)一定量の流体の吐出を行う分析装置に用いられる、弁体が弁座に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁において、弁体または弁座のいずれかが、カーボンブラックを含有する弾性体からなること、弁体が弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサを備えること、振動センサで検知した振動が所定の閾値以下であるときに、弾性体が流体に曝されることにより生じる弾性体の墨汁現象に起因した腐食を原因とする流量制御の異常が生じていると判断する判定部を備えること、振動が所定の閾値以下となるのは、腐食により硬度の低下した弾性体が、衝撃力を吸収することで、振動が弱くなるためであること、流量制御の異常には、少なくとも、腐食を原因とする弁体と弁座との間に生じる流体の漏れが含まれること、弁体が弁座に当接する方向と、振動センサが検出可能な振動の方向と、が略同一であること、を特徴とする。
【0008】
(2)一定量の流体の吐出を行う分析装置に用いられる、弁体が弁座に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁において、弁体または弁座のいずれかが弾性体からなること、弁体が弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサを備えること、振動センサで検知した振動が所定の閾値以下であるときに、弾性体が流体に曝されることにより生じる弾性体の膨潤を原因とする流量制御の異常が生じていると判断する判定部を備えること、振動が所定の閾値以下となるのは、弾性体の膨潤により弁座と弁体との距離が縮小することで、衝撃力が低下し、振動が弱くなるためであること、流量制御の異常には、膨潤に起因した流体制御弁の開弁時の弁体と弁座との距離の縮小を原因として、流体の流量が制御値未満となる流量不足が含まれること、弁体が弁座に当接する方向と、振動センサが検出可能な振動の方向と、が略同一であること、を特徴とする。
【0009】
(3)(1)または(2)に記載の流体制御弁において、判定部は、振動センサで検知した振動が所定の閾値を超える値であって、所定の安全値以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の流体制御弁は、上記構成を有することにより次のような作用・効果を有する。
(1)または(2)に記載の流体制御弁によれば、弾性体からなる弁座または弁体が流体に曝され、弾性体が物性変化することで生じる流体制御の異常を検知することが可能である。
【0012】
流体制御弁の弁体または弁座のいずれかが弾性体からなっているため、弁体または弁座が、弾性体に適合しない制御流体や洗浄用の流体に曝された場合、弁体または弁座を構成する弾性体が物性変化するおそれがある。弾性体が物性変化をすると、閉弁時に弁体と弁座の間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生する等、流体制御に異常が生じるおそれがある。
【0013】
そのような中、出願人は実験により、弾性体が物性変化をすると、弁体が弁座に当接する際の衝撃力が、物性変化した弾性体に吸収され、これに伴って流体制御弁に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、弾性体からなる弁体または弁座が物性変化しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値以下となる場合、弾性体の物性変化に起因した流体制御の異常が生じていることを発見した。
【0014】
(1)に記載の流体制御弁によれば、弾性体からなる弁座または弁体が流体に曝され、弾性体が墨汁現象により腐食することに起因した、弁体と弁座との間に生じる流体の漏れを検知することが可能である。
【0015】
流体制御弁の弁体または弁座のいずれかがカーボンブラックを含む弾性体(例えばニトリルゴム)からなっており、当該弾性体に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁体または弁座が曝された場合、弾性体に含まれるカーボンブラックが溶け出し、腐食するおそれがある。これが墨汁現象である。腐食すると、閉弁時の 弁体と弁座の間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生するおそれがある。
【0016】
そのような中、出願人は実験により、弾性体は墨汁現象によって硬度が低下するため、弁体が弁座に当接する際の衝撃力が、硬度の低下した弾性体に吸収され、これに伴って流体制御弁に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、墨汁現象による腐食が発生しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値以下となる場合、墨汁現象による腐食に起因した流体の漏れが生じていることを発見した。
【0017】
(2)に記載の流体制御弁によれば、弾性体からなる弁座または弁体が流体に曝され、弾性体が膨潤することに起因した、流体の流量が制御値未満となる流量不足を検知することが可能である。
【0018】
流体制御弁の弁体または弁座のいずれかが弾性体(例えばエチレンプロピレンジエンゴム)からなっており、当該弾性体に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁体または弁座が曝された場合、弁体または弁座が膨潤し、肥大化するおそれがある。弁体または弁座が膨潤し、肥大化すると、開弁時の弁体と弁座との距離が縮小し、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
【0019】
そのような中、出願人は実験により、膨潤に起因する開弁時の弁体と弁座との距離が縮小されると、縮小された分だけ弁体のストロークが短くなるため、弁体が弁座に当接する際の衝撃力が膨潤前よりも低下し、これに伴って流体制御弁に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、膨潤しているか否かを判定可能であり、振動が所定の閾値以下となる場合、膨潤に起因した流量不足が生じていることを発見した。
【0020】
(3)に記載の流体制御弁によれば、弾性体が物性変化することで生じる流体制御の異常によって、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することが可能である。
【0021】
医用分析装置に用いられる流体制御弁で、流体制御に異常が生じると、分注工程において液だれを発生させるなど、検体・試薬の採取ミスや希釈原因となり、分析結果に与える影響が大きいため、流体制御の異常が生じる前に、弁体または弁座を構成する弾性体が物性変化した流体制御弁を、新しい流体制御弁に交換することが望ましい。なぜならば、弾性体の物性変化は徐々に進んでいくことから、流体制御弁に生じる振動が閾値以下となる前でも、物性変化がかなり進んでいる場合があるためである。そこで、判定部を、振動センサで検知した振動が所定の閾値を超える値であって、所定の安全値以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断するものとしておけば、流体制御弁の使用者は、流体制御の異常が生じる前に、弁体または弁座を構成する弾性体の物性変化が進んでいることを知ることができ、流体制御弁を新しいものと交換することができる。そうすれば、流体制御の異常に起因する、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することができる。
【0022】
(4)に記載の流体制御弁によれば、弁体が弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じ
る振動を、精度良く検出することができ、弁座または弁体を構成する弾性体が物性変化す
ることで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能である。
【0023】
振動センサは、振動を検知可能な感度方向を有しており、振動方向と感度方向を合わせることで精度良く振動を検知することができる。例えば、振動により生じる板ばねの変形をひずみゲージで検出することで振動を検知する加速度センサでは、板ばねの変形可能な方向が、振動を検知可能な感度方向となる。
【0024】
弁体が弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動は、弁体が弁座に当接する方向の成分が最も強くなる。したがって、弁体が弁座に当接する方向と、振動センサが検出可能な振動の方向(すなわち感度方向)と、を略同一とすることで、弁体が弁座に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を、精度良く検出することができ、弁座または弁体を構成する弾性体が物性変化することで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1の実施形態に係る流体制御弁の断面図であって、閉弁状態を表す。
【
図2】第1の実施形態に係る流体制御弁の断面図であって、開弁状態を表す。
【
図4】弾性体の初期状態における、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図5】弾性体を次亜塩素酸ナトリウムに2週間浸漬した場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図6】弾性体を次亜塩素酸ナトリウムに4週間浸漬した場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図7】弾性体を次亜塩素酸ナトリウムに8週間浸漬した場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図8】弾性体の初期状態であって、開弁時の弁体と弁座との距離が縮小されていない場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図9】弾性体の膨潤により開弁時の弁体と弁座との距離が30%縮小された場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図10】弾性体の膨潤により開弁時の弁体と弁座との距離が40%縮小された場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図11】弾性体の膨潤により開弁時の弁体と弁座との距離が50%縮小された場合の、流体制御弁に生じる振動と時間との関係を表したグラフである。
【
図12】第2の実施形態に係る流体制御弁の断面図であって、閉弁状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1実施形態に係る流体制御弁1ついて、図面を参照しながら詳細に説明する。
流体制御弁1は、医用分析装置に用いられ、
図3に示すように、薬液供給源30と、分注ピペット31の間に置かれている。
また、流体制御弁1は、
図1,
図2に示すように、アクチュエータ部11と弁部12とからなる。アクチュエータ部11は、円柱状の外観を有し、内部にコイルボビン113を有する。コイルボビン113は外周に凹部113aを備え、凹部113aには励磁コイル114が巻回されている。コイルボビン113の中空部113bには、円筒状のガイド部材118が、
図1中の下側から挿通されており、さらにガイド部材118の中空部118aには、固定鉄心111と可動鉄心112が挿通されている。
【0027】
固定鉄心111と可動鉄心112とは、固定鉄心111の磁極面111aである
図1中の下端面と、磁極面111aが可動鉄心112の
図1中の上端面とが対向するように、同軸上に並べて配設されている。また、可動鉄心112は、
図1中の下端面に弁体取付溝112aを有しており、弁体取付溝112aには、ゴム製の弁体119が圧入されている。そして、可動鉄心112の
図1中の下端部には、鍔部112bが形成されており、鍔部112bには、弁体119を
図1中下方向(閉弁方向)に付勢するバネ117の一端が当接されている。バネ117のもう一端は、ガイド部材118の
図1中の下端部に設けられたフランジ部118bの下面に当接されている。
【0028】
励磁コイル114への通電のONまたはOFFは、制御部19(
図3参照)により制御されており、励磁コイル114に通電すると、固定鉄心111が磁化し、可動鉄心112を引きつけるため、可動鉄心112は、可動鉄心112の上端面が、磁極面111aに当接するまで、
図1中の上方(開弁方向)に移動する。そして、励磁コイル114への通電を止めると、バネ117の付勢力により、可動鉄心112が閉弁方向に移動する。ガイド部材118の中空部118aの内径と、可動鉄心112の外径は、ほぼ同じ径になっているため、可動鉄心112が上下動する際は、軸心がぶれないように、ガイド部材118によってガイドされる。
【0029】
励磁コイル114が巻回されたコイルボビン113の外周は、モールド115により封止されており、さらにその外周は、円筒状のカバー116によって覆われている。そして、カバー116は、
図1中の下端部で、連結部材14と連結されており、連結部材14を、ねじ16によって、後述する流路ブロック体121に固定することで、アクチュエータ部11と弁部12とが連結される。
【0030】
弁部12は、薬液供給源30に接続される入力流路121cと、分注ピペット31に接続される出力流路121dと、を備える流路ブロック体121を有する。
流路ブロック体121の
図1中の上面中央には、弁室121aが穿設されており、弁室121aは、入力流路121cと出力流路121dとに連通している。また、弁室121aの底面には、弁体119が当接または離間する弁座121bが形成されている。
【0031】
図1は、励磁コイル114に通電されておらず、可動鉄心112が、バネ117により閉弁方向に付勢されているため、弁体119が弁座121bに当接し、入力流路121cと出力流路121dが遮断されている状態である。
一方、励磁コイル114に通電すると、可動鉄心112が固定鉄心111に引きつけられるため、
図2に示すように、弁体119が弁座121bから離間し、入力流路121cと出力流路121dとが、弁室121aを介して連通される。
【0032】
流路ブロック体121は、ねじ16により、台座13と連結されており、台座13の中央部に設けられたセンサ配置空間13aには、振動センサ15が配置されている。
振動センサ15は、流路ブロック体121の底面に接着剤により固定されており、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因して流体制御弁1に生じる振動を検知する。なお、センサ配置空間13aには樹脂を流し込み、振動センサ15をポッティングするものとしてもよい。
【0033】
振動センサ15は、チップ形状(数mm角)の大きさの加速度センサが基板にハンダ付けされることで形成されている。また、振動センサ15が振動を検知可能な感度方向は、
図1中の上下方向であり、振動センサ15は、感度方向が、弁体119が弁座121bに当接する方向と同一になるように流路ブロック体121の底面に取り付けられている。このように取り付けられることで、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因した振動を精度良く検出することができる。なぜなら、弁体119が弁座121bに当接する方向の成分が最も大きいためである。
【0034】
そして、振動センサ15は、
図3に示すように、判定部17に接続されているため、振動センサ15が検出した振動は、電気信号に変換され、判定部17に送信される。そして、判定部17は、電気信号の強さに基づいて、流量制御に異常が発生しているか否かの判定を行う。
【0035】
(流体制御弁の作用効果)
次に、流体制御弁1の作用効果について説明する。
流体制御弁1の弁体119はゴムからなっており、当該ゴムに適合しない制御流体や洗浄流体を流体制御弁1に流すと、ゴムが物性変化をするおそれがある。ここで、物性変化とは、ゴムが流体に曝されることで引き起こされる墨汁現象による腐食や、膨潤による肥大化を指す。
【0036】
まず墨汁現象について説明する。
墨汁現象が発生する事例として考えられるのは、弁体119のゴムが、ニトリルゴム(NBR)である場合である。NBRはカーボンブラックを含んでおり、NBRに適合しない制御流体や洗浄用の流体(例えば次亜塩素酸ナトリウム)に、弁体119が曝された場合、NBRに含まれるカーボンブラックが溶け出すことがある。これが墨汁現象である。墨汁現象によりNBRが腐食すると、閉弁時に 弁体119と弁座121bの間のシールが不十分となり、弁体119と弁座121bとの間において、流体の漏れが発生するおそれがある。
【0037】
そのような中、出願人は実験により、NBRは腐食によって硬度が低下するため、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が、硬度の低下したNBRに吸収されることで腐食前よりも低下し、これに伴って流体制御弁1に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を振動センサ15により監視することで、墨汁現象による腐食が発生しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値以下となる場合、墨汁現象による腐食に起因した流体の漏れが生じていることを発見した。
【0038】
流体の漏れが生じているか否かの判定動作について、
図4、
図5、
図6および
図7を用いて説明する。
図4は、流体制御弁1の弁体119の初期状態(物性変化していない状態)における振動V11と時間の関係を示す。なお、振動V11とは、振動センサ15が、検出した振動を電気信号に変換し出力した電圧値である。
図5、
図6および
図7は、弁体119を次亜塩素酸ナトリウムに浸漬し、故意に物性変化させた状態における振動V12,13,14と時間の関係を示す。振動V12,13,14が、振動センサ15が出力した電圧値であることは、
図4と同様である。弁体119を次亜塩素酸ナトリウムに浸漬した時間は、
図5が2週間、
図6が4週間、
図7が8週間である。
【0039】
励磁コイル114への通電を止めると、バネ117の付勢力により可動鉄心112は下降して弁体119が弁座121bに当接する。そして、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力により、流体制御弁1に振動が生じる。当該振動は、振動センサ15により検出される。
【0040】
弁体119が初期状態(物性変化していない状態)の流体制御弁1は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じず、流体制御は正常に行われる。この場合、
図4に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V11が生じる。そして、振動V11のピーク値V111は、閾値X1および安全値Y1を超える。これにより、判定部17は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。
【0041】
弁体119を次亜塩素酸ナトリウムに2週間浸漬した状態の流体制御弁1は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じず、流体制御は正常に行われる。この場合、
図5に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V12が生じる。振動V12のピーク値V121は、振動V11のピーク値V111に比べると低下している。これは、弁体119が、初期状態と比べるとやや物性変化をし、硬度が低下することで、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が吸収されているためである。しかし、振動V12のピーク値V121は、閾値X1および安全値Y1を超えており、これにより、判定部17は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。
【0042】
弁体119を次亜塩素酸ナトリウムに4週間浸漬した状態の流体制御弁1は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じず、流体制御は正常に行われる。この場合、
図6に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V13が生じる。振動V13のピーク値V131は、振動V12のピーク値V121よりも更に低下している。これは、弁体119の物性変化による硬度の低下が更に進み、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が、より吸収されやすくなったためである。しかし、振動V13のピーク値V131は、閾値X1を超えており、これにより、判定部17は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。一方で、振動V13のピーク値V131は、安全値Y1を下回っているため、判定部17は、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断する。
【0043】
弁体119を次亜塩素酸ナトリウムに8週間浸漬した状態の流体制御弁1は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じ、流体制御に異常が生じる。この場合、
図7に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V14が生じる。振動V14のピーク値V141は、振動V13のピーク値V131よりも更に低下している。これは、弁体119の物性変化による硬度の低下が更に進み、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が、より吸収されやすくなったためである。振動V14のピーク値V141は、閾値X1を下回っており、これにより、判定部17は、閉弁時の弁体119と弁座121bの間に漏れが生じており、流体制御に異常が生じていると判断する。
なお、上記で説明した閾値X1は、製品、また使用条件により、任意に設定される。
【0044】
次に膨潤について説明する。
膨潤が発生する事例として考えられるのは、弁体119のゴムが、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)である場合である。EPDMに適合しない制御流体(例えば作動油)に、弁体119が曝された場合、弁体119が膨潤し、肥大化するおそれがある。弁体119が膨潤し、肥大化すると、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小し、流体の流れを阻害するため、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
【0045】
そのような中、出願人は実験により、膨潤に起因して開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小されると、縮小された分だけ弁体119のストロークが短くなるため、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が膨潤前よりも低下し、これに伴って流体制御弁1に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、膨潤しているか否かを判定可能であり、振動が所定の閾値X2以下となる場合、膨潤に起因した流量不足が生じていることを発見した。
【0046】
流量不足が生じているか否かの判定動作について、
図8、
図9、
図10および
図11を用いて説明する。
図8は、流体制御弁1の弁体119の初期状態(物性変化していない状態)における振動V15と時間の関係を示す。なお、振動V15とは、振動センサ15が、検出した振動を電気信号に変換し出力した電圧値である。
図9、
図10および
図11は、弁体119を作動油に浸漬し、故意に物性変化させた状態における振動V16,17,18と時間の関係を示す。振動V16,17,18が、振動センサ15が出力した電圧値であることは、
図8と同様である。弁体119が作動油に浸漬されることによって膨潤し、肥大化しているため、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小している。そして、
図9が縮小前の距離の30%縮小した状態、
図10が縮小前の距離の40%縮小した状態、
図11が縮小前の距離の50%縮小した状態を表している。
【0047】
弁体119が初期状態(物性変化していない状態)の流体制御弁1は、膨潤に起因した流量不足が生じず、流体制御は正常に行われる。この場合、
図8に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V15が生じる。そして、振動V15のピーク値V151は、閾値X2および安全値Y2を超える。これにより、判定部17は、膨潤に起因した流量不足が生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。
【0048】
弁体119が膨潤し、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が30%縮小した状態の流体制御弁1は、膨潤に起因した流量不足が生じず、流体制御は正常に行われる。この場合、
図9に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V16が生じる。振動V16のピーク値V161は、振動V15のピーク値V151に比べると低下している。これは、弁体119が、初期状態と比べるとやや膨潤しており、肥大化によって、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小されているためである。しかし、振動V16のピーク値V161は、閾値X2および安全値Y2を超えており、これにより、判定部17は、膨潤に起因した流量不足が生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。
【0049】
弁体119が膨潤し、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が40%縮小した状態の流体制御弁1は、膨潤に起因した流量不足が生じておらず、流体制御は正常に行われている。この場合、
図10に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V17が生じる。振動V17のピーク値V171は、振動V16のピーク値V161よりも更に低下している。これは、弁体119の膨潤による肥大化が更に進み、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が更に縮小されているためである。しかし、振動V17のピーク値V171は、閾値X2を超えており、これにより、判定部17は、膨潤に起因した流量不足が生じておらず、流体制御が正常に行われていると判断する。一方で、振動V17のピーク値V171は、安全値Y2を下回っているため、判定部17は、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断する。
【0050】
弁体119が膨潤し、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が50%縮小した状態の流体制御弁1は、膨潤に起因した流量不足が生じており、流体制御に異常が生じている。この場合、
図11に示すように、時点t0において、弁体119が弁座121bに当接すると、その衝撃力により、振動V18が生じる。振動V18のピーク値V181は、振動V17のピーク値V171よりも更に低下している。これは、弁体119の膨潤による肥大化が更に進み、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が更に縮小されているためである。振動V18のピーク値V181は、閾値X2を下回っており、これにより、判定部17は、膨潤に起因した流量不足が生じており、流体制御に異常が生じていると判断する。
なお、上記で説明した閾値X2は、製品、また使用条件により、任意に設定される。
【0051】
以上説明したように、第1の実施形態の流体制御弁1によれば、
(1)弁体119が弁座121bに当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁1において、弁体119が弾性体(ゴム)からなること、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサ15を備えること、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2以下であるときに、流量制御の異常が生じていると判断する判定部17を備えること、振動が所定の閾値X1,X2以下となるのは、弾性体(ゴム)からなる弁体119が流体に曝されることにより生じる弾性体(ゴム)の物性変化に起因するものであること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁体119が流体に曝され、弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を検知することが可能である。
【0052】
流体制御弁1の弁体119が弾性体(ゴム)からなっているため、弁体119が、弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に曝された場合、弁体119が物性変化をするおそれがある。弁体119が物性変化をすると、閉弁時に弁体119と弁座121bの間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生する等、流体制御に異常が生じるおそれがある。
そのような中、出願人は実験により、弁体119が物性変化すると、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が、物性変化した弾性体に吸収され、これに伴って流体制御弁1に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、弾性体(ゴム)からなる弁体119が物性変化しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値X1,X2以下となる場合、弾性体(ゴム)の物性変化に起因した流体制御の異常が生じていることを発見した。
【0053】
(2)(1)に記載の流体制御弁1において、弾性体(ゴム)は、カーボンブラックを含有していること、物性変化には、少なくとも弾性体(ゴム)の墨汁現象に起因した腐食が含まれること、流量制御の異常には、少なくとも、腐食を原因とする弁体119と弁座121bの間に生じる流体の漏れが含まれること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁体119が流体に曝され、弾性体(ゴム)が墨汁現象により腐食することに起因した、弁体119と弁座121bとの間に生じる流体の漏れを検知することが可能である。
【0054】
流体制御弁1の弁体119がカーボンブラックを含む弾性体(ゴム、例えばニトリルゴム)からなっており、当該弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁体119が曝された場合、弾性体(ゴム)に含まれるカーボンブラックが溶け出し、腐食するおそれがある。これが墨汁現象である。腐食すると、閉弁時の 弁体119と弁座121bの間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生するおそれがある。
【0055】
そのような中、出願人は実験により、弾性体(ゴム)は腐食によって硬度が低下するため、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が、硬度の低下した弾性体(ゴム)に吸収されることで腐食前よりも低下し、これに伴って流体制御弁1に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、墨汁現象による腐食が発生しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値X1以下となる場合、墨汁現象による腐食に起因した流体の漏れが生じていることを発見した。
【0056】
(3)(1)に記載の流体制御弁1において、物性変化には、少なくとも弾性体(ゴム)の膨潤が含まれること、流量制御の異常には、膨潤に起因した流体制御弁1の開弁時の弁体119と弁座121bとの距離の縮小を原因として、流体の流量が制御値未満となる流量不足が含まれること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁体119が流体に曝され、弾性体(ゴム)が膨潤することに起因した、流体の流量が制御値未満となる流量不足を検知することが可能である。
【0057】
流体制御弁1の弁体119が弾性体(ゴム、例えばエチレンプロピレンジエンゴム)からなっており、当該弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁体119が曝された場合、弁体119が膨潤し、肥大化するおそれがある。弁体119が膨潤し、肥大化すると、開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小し、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
【0058】
そのような中、出願人は実験により、膨潤に起因する開弁時の弁体119と弁座121bとの距離が縮小されると、縮小された分だけ弁体119のストロークが短くなるため、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力が膨潤前よりも低下し、これに伴って流体制御弁1に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、膨潤しているか否かを判定可能であり、振動が所定の閾値X2以下となる場合、膨潤に起因した流量不足が生じていることを発見した。
【0059】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の流体制御弁1において、判定部17は、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2を超える値であって、所定の安全値Y1,Y2以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断すること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常によって、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することが可能である。
【0060】
医用分析装置に用いられる流体制御弁1で、流体制御に異常が生じると、分注工程において液だれを発生させるなど、検体・試薬の採取ミスや希釈原因となり、分析結果に与える影響が大きいため、流体制御の異常が生じる前に、弁体119を構成する弾性体(ゴム)が物性変化した流体制御弁1を、新しい流体制御弁1に交換することが望ましい。弾性体(ゴム)の物性変化は徐々に進んでいくことから、流体制御弁1に生じる振動が閾値X1,X2以下となる前でも、物性変化がかなり進んでいる場合があるためである。そこで、判定部17を、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2を超える値であって、所定の安全値Y1,Y2以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断するものとしておけば、流体制御弁1の使用者は、流体制御の異常が生じる前に、弁体119を構成する弾性体(ゴム)の物性変化が進んでいることを知ることができ、流体制御弁1を新しいものと交換することができる。そうすれば、流体制御の異常に起因する、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することができる。
【0061】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の流体制御弁1において、弁体119が弁座121bに当接する方向と、振動センサ15が検出可能な振動の方向と、が略同一であること、を特徴とするので、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を、精度良く検出することができ、弁体119を構成する弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能である。
【0062】
振動センサ15は、振動を検知可能な感度方向を有しており、振動方向と感度方向を合わせることで精度良く振動を検知することができる。例えば、振動により生じる板ばねの変形をひずみゲージで検出することで振動を検知する加速度センサでは、板ばねの変形可能な方向が、振動を検知可能な感度方向となる。
【0063】
弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因して生じる振動は、弁体119が弁座121bに当接する方向の成分が最も強くなる。したがって、弁体119が弁座121bに当接する方向と、振動センサ15が検出可能な振動の方向(すなわち感度方向)と、を略同一とすることで、弁体119が弁座121bに当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を、精度良く検出することができ、弁体119を構成する弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能となる。
【0064】
(第2の実施形態について)
以上に説明した第1の実施形態に係る流体制御弁1おいては、弁体119がゴムからなることとしているが、第2の実施形態として、
図12に示す流体制御弁2のように、弁座18がゴムからなるものとしても良い。
【0065】
以下、流体制御弁2について、流体制御弁1と異なる点のみ説明する。
可動鉄心212は、流体制御弁1のようにゴムからなる弁体119を有しておらず、底面が弁座18との当接面212aとなり、弁体としての役割を果たす。そして、環状の弁座18は、流路ブロック体221の穿設された弁室221aの底面に設けられた弁座取付溝221eに圧入固定されている。
【0066】
可動鉄心212は、バネ117の一端が当接されている鍔部212bを備えており、
図12中下方向(閉弁方向)に付勢されている。よって、励磁コイル114に通電されていない状態では、可動鉄心212の当接面212aが、
図12に示すように弁座18に当接し、入力流路221cと出力流路221dが遮断される。一方、励磁コイル114に通電すると、可動鉄心212が固定鉄心111に引きつけられるため、当接面212aが弁座18から離間し、入力流路221cと出力流路221dが連通される。
【0067】
弁座18を構成するゴムが、NBRである場合、NBRに適合しない制御流体や洗浄用の流体(例えば次亜塩素酸ナトリウム)に、弁座18が曝されると、弁座18が物性変化し、NBRに含まれるカーボンブラックが溶け出す墨汁現象が発生するおそれがある。
墨汁現象によりNBRが腐食すると、閉弁時に 当接面212aと弁座18の間のシールが不十分となり、当接面212aと弁座18との間において、流体の漏れが発生するおそれがある。
【0068】
そのような中、出願人は実験により、NBRは腐食によって硬度が低下するため、当接面212aが弁座18に当接する際の衝撃力が、硬度の低下したNBRに吸収されることで腐食前よりも低下し、これに伴って流体制御弁2に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに当該振動を振動センサ15により監視することで、墨汁現象による腐食が発生しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値以下となる場合、墨汁現象による腐食に起因した流体の漏れが生じていることを発見した。
【0069】
よって、
図4から
図7に示すのと同様に、当接面212aが弁座18に当接する際の衝撃力により生じる振動と、閾値X1または安全値Y1との関係を見ることで、流体制御弁2の流体制御に異常が生じているか否か判定可能となる。
【0070】
また、弁座18を構成するゴムが、EPDMである場合、EPDMに適合しない制御流体(例えば作動油)に、弁座18が曝されると、弁座18が膨潤し、肥大化するおそれがある。弁座18が膨潤し、肥大化すると、開弁時の当接面212aと弁座18との距離が縮小し、流体の流れを阻害するため、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
【0071】
そのような中、出願人は実験により、膨潤に起因して開弁時の当接面212aと弁座18との距離が縮小されると、縮小された分だけ可動鉄心212のストロークが短くなるため、当接面212aが弁座18に当接する際の衝撃力が膨潤前よりも低下し、これに伴って流体制御弁2に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、膨潤しているか否かを判定可能であり、振動が所定の閾値X2以下となる場合、膨潤に起因した流量不足が生じていることを発見した。
【0072】
よって、
図8から
図11に示すのと同様に、当接面212aが弁座18に当接する際の衝撃力により生じる振動と、閾値X2または安全値Y2との関係を見ることで、流体制御弁2の流体制御に異常が生じているか否か判定可能となる。
【0073】
以上説明したように、第2の実施形態の流体制御弁2によれば、
(1)弁体(当接面212a)が弁座18に当接離間することで流体の流量制御を行う流体制御弁2において、弁座18が弾性体(ゴム)からなること、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を検知する振動センサ15を備えること、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2以下であるときに、流量制御の異常が生じていると判断する判定部17を備えること、振動が所定の閾値X1,X2以下となるのは、弾性体(ゴム)からなる弁座18が流体に曝されることにより生じる弾性体(ゴム)の物性変化に起因するものであること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁座18が流体に曝され、弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を検知することが可能である。
【0074】
流体制御弁2の弁座18が弾性体(ゴム)からなっているため、弁座18が、弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に曝された場合、弁座18が物性変化をするおそれがある。弁座18が物性変化をすると、閉弁時に弁体(当接面212a)と弁座18の間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生する等、流体制御に異常が生じるおそれがある。
【0075】
そのような中、出願人は実験により、弁座18が物性変化すると、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力が、物性変化した弾性体に吸収され、これに伴って流体制御弁2に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、弾性体(ゴム)からなる弁座18が物性変化しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値X1,X2以下となる場合、弾性体(ゴム)の物性変化に起因した流体制御の異常が生じていることを発見した。
【0076】
(2)(1)に記載の流体制御弁2において、弾性体(ゴム)は、カーボンブラックを含有していること、物性変化には、少なくとも弾性体(ゴム)の墨汁現象に起因した腐食が含まれること、流量制御の異常には、少なくとも、腐食を原因とする弁体(当接面212a)と弁座18の間に生じる流体の漏れが含まれること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁座18が流体に曝され、弾性体(ゴム)が墨汁現象により腐食することに起因した、弁体(当接面212a)と弁座18との間に生じる流体の漏れを検知することが可能である。
【0077】
流体制御弁2の弁座18がカーボンブラックを含む弾性体(ゴム、例えばニトリルゴム)からなっており、当該弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁座18が曝された場合、弁座18が物性変化することで、弾性体(ゴム)に含まれるカーボンブラックが溶け出し、腐食するおそれがある。これが墨汁現象である。腐食すると、閉弁時の弁体(当接面212a)と弁座18の間のシールが不十分となり、流体の漏れが発生するおそれがある。
【0078】
そのような中、出願人は実験により、弾性体(ゴム)は腐食によって硬度が低下するため、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力が、硬度の低下した弾性体(ゴム)に吸収されることで腐食前よりも低下し、これに伴って流体制御弁2に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、墨汁現象による腐食が発生しているか否かを監視可能であり、振動が所定の閾値X1以下となる場合、墨汁現象による腐食に起因した流体の漏れが生じていることを発見した。
【0079】
(3)(1)に記載の流体制御弁2において、物性変化には、少なくとも弾性体(ゴム)の膨潤が含まれること、流量制御の異常には、膨潤に起因した流体制御弁2の開弁時の弁体(当接面212a)と弁座18との距離の縮小を原因として、流体の流量が制御値未満となる流量不足が含まれること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)からなる弁座18が流体に曝され、弾性体(ゴム)が膨潤することに起因した、流体の流量が制御値未満となる流量不足を検知することが可能である。
【0080】
流体制御弁2の弁座18が弾性体(ゴム、例えばエチレンプロピレンジエンゴム)からなっており、当該弾性体(ゴム)に適合しない制御流体や洗浄用の流体に、弁座18が曝された場合、弁座18が膨潤し、肥大化するおそれがある。弁座18が膨潤し、肥大化すると、開弁時の弁体(当接面212a)と弁座18との距離が縮小し、流体の流量が制御値未満となる流量不足が発生するおそれがある。
【0081】
そのような中、出願人は実験により、膨潤に起因する開弁時の弁体(当接面212a)と弁座18との距離が縮小されると、縮小された分だけ弁体(当接面212a)のストロークが短くなるため、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力が膨潤前よりも低下し、これに伴って流体制御弁2に生じる振動が弱くなることを発見した。さらに、当該振動を監視することで、膨潤しているか否かを判定可能であり、振動が所定の閾値X2以下となる場合、膨潤に起因した流量不足が生じていることを発見した。
【0082】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の流体制御弁2において、判定部17は、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2を超える値であって、所定の安全値Y1,Y2以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断すること、を特徴とするので、弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常によって、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することが可能である。
【0083】
医用分析装置に用いられる流体制御弁2で、流体制御に異常が生じると、分注工程において液だれを発生させるなど、検体・試薬の採取ミスや希釈原因となり、分析結果に与える影響が大きいため、流体制御の異常が生じる前に、弁座18を構成する弾性体(ゴム)が物性変化した流体制御弁2を、新しい流体制御弁2に交換することが望ましい。弾性体(ゴム)の物性変化は徐々に進んでいくことから、流体制御弁2に生じる振動が閾値X1,X2以下となる前でも、物性変化がかなり進んでいる場合があるためである。そこで、判定部17を、振動センサ15で検知した振動が所定の閾値X1,X2を超える値であって、所定の安全値Y1,Y2以下であるときに、流量制御の異常が生じるおそれがあると判断するものとしておけば、流体制御弁2の使用者は、流体制御の異常が生じる前に、弁座18を構成する弾性体(ゴム)の物性変化が進んでいることを知ることができ、流体制御弁2を新しいものと交換することができる。そうすれば、流体制御の異常に起因する、医用分析装置の分注工程における液だれ等の問題が発生することを予防することができる。
【0084】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の流体制御弁2において、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する方向と、振動センサ15が検出可能な振動の方向と、が略同一であること、を特徴とするので、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を、精度良く検出することができ、弁座18を構成する弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能である。
【0085】
振動センサ15は、振動を検知可能な感度方向を有しており、振動方向と感度方向を合わせることで精度良く振動を検知することができる。例えば、振動により生じる板ばねの変形をひずみゲージで検出することで振動を検知する加速度センサでは、板ばねの変形可能な方向が、振動を検知可能な感度方向となる。
【0086】
弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動は、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する方向の成分が最も強くなる。したがって、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する方向と、振動センサ15が検出可能な振動の方向(すなわち感度方向)と、を略同一とすることで、弁体(当接面212a)が弁座18に当接する際の衝撃力に起因して生じる振動を、精度良く検出することができ、弁座18を構成する弾性体(ゴム)が物性変化することで生じる流体制御の異常を、確実に検知することが可能となる。
【0087】
なお、上記の第1の実施形態および第2の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。
例えば、流体制御弁1,2は電磁弁であるが、エアで駆動するパイロット弁等の他の形式の流体制御弁でも良い。
また、第1および第2の実施形態における振動センサ15は、加速度センサを用いるものとしているが、その他形式のセンサであっても良い。
さらにまた、第1および第2の実施形態における振動センサ15は、流路ブロック体121,221の底面に固定されているが、振動を検知できる位置であれば良く、例えば、カバー116の外周面に取り付けられるものとしても良い。
【符号の説明】
【0088】
1 流体制御弁
15 振動センサ
17 判定部
121b 弁座
119 弁体
X1,X2 閾値