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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】歯周病進行リスク測定方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20230501BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20230501BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230501BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20230501BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230501BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
G01N33/569 F
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/25
C12Q1/04
C12N15/11 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019121878
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009040
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503109640
【氏名又は名称】サンスター スイス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 貴憲
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088271(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0138089(US,A1)
【文献】特開2010-172325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0204447(US,A1)
【文献】国際公開第2018/012011(WO,A1)
【文献】特表2009-514861(JP,A)
【文献】特表平08-500241(JP,A)
【文献】特開昭60-146834(JP,A)
【文献】特開昭63-277966(JP,A)
【文献】特開昭63-087999(JP,A)
【文献】特開2005-073650(JP,A)
【文献】特開2001-299381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/569,
C12Q 1/689,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉炎から歯周炎への進行リスク測定のためのデータ取得用の、口腔内細菌検出用キットであって、
(1)Megasphaera属細菌検出用プローブ、
(2)Bergeyella属細菌検出用プローブ、
(3)Atopobium属細菌検出用プローブ、
(4)Actinomyces属細菌検出用プローブ、及び
(5)Haemophilus属細菌検出用プローブ
の全ての検出用プローブ
を備え
(1)~(5)の細菌検出用プローブが、同一又は異なって、
その細菌を認識する抗体若しくはその断片、又はその細菌が有する核酸を認識する核酸、あるいはこれらの組み合わせを含む
ット。
【請求項2】
(1)~(5)の細菌検出用プローブが、その細菌が有する核酸を特異的に増幅するプライマーを含む、請求項に記載のキット。
【請求項3】
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の全ての口腔内細菌の16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNAのシークエンシング用である、
16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセット、及び
前記プライマーセットによる増幅核酸をシークエンシングするための試薬
を備える、歯肉炎から歯周炎への進行リスク測定のためのデータ取得のためのキット。
【請求項4】
(1)~(5)の細菌の口腔内細菌における存在量比を測定するための、請求項1~のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
前記口腔内細菌が、歯肉炎患者の口腔内細菌である、請求項1~のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
歯肉炎から歯周炎への進行リスク測定のためのデータ取得用の、口腔内細菌検出用キットセットであって、
(1)Megasphaera属細菌の検出用プローブ、
(2)Bergeyella属細菌の検出用プローブ、
(3)Atopobium属細菌の検出用プローブ、
(4)Actinomyces属細菌の検出用プローブ、及び
(5)Haemophilus属細菌の検出用プローブ
からなる群より選択される1、2、3、4、又は5の細菌の検出用プローブ
を備えるキットを2以上備え、且つ(1)~(5)の細菌の検出用プローブを全て備え、
(1)~(5)の細菌の検出用プローブが、同一又は異なって、
その細菌を認識する抗体若しくはその断片、又はその細菌が有する核酸を認識する核酸、あるいはこれらの組み合わせを含む、
キットセット。
【請求項7】
(1)~(5)の細菌の検出用プローブが、その細菌が有する核酸を特異的に増幅するプライマーを含む、請求項6に記載のキットセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯周病進行リスク測定方法及び当該測定のためのキット等に関する。
【0002】
なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
歯周病では、まず歯肉炎が起き、その後歯周炎へと進行する。歯肉に限局した炎症が歯肉炎であり、他の歯周組織に及ぶ炎症と組織破壊が生じている症状が歯周炎である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-023093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯肉炎の段階であれば、歯周病菌を殺菌するなどすることで元の健康な状態へと回復することも可能であるが、歯周炎にまで進行した場合は、元の健康な状態へ戻ることは難しい。従って、歯周病対策のためには、歯肉炎の段階で治療を行い、歯周炎への進行を防ぐことが重要である。
【0006】
歯周病のリスク、予防、及び治療等については、これまでも多くの検討がなされてきている(例えば特許文献1)。しかし、歯肉炎と歯周炎とを区別して進行リスクを検討しているものはない。
【0007】
上記の通り、歯肉炎の段階での予防及び治療が重要であることから、歯肉炎の段階で歯周炎への進行リスクが測定できれば、歯周炎への進行を抑制するための対策をより効率的に行うことが可能となると考えられるため、好ましい。そこで、本発明者らは、歯肉炎の段階で歯周炎への進行リスクを測定できる手段の開発を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の(1)~(5)又は(1)~(6)の細菌の口腔内存在量比の情報を用いると、歯肉炎から歯周炎への進行を高精度で予測できる可能性を見出し、さらに検討を重ねた。(1)Megasphaera属細菌、(2)Bergeyella属細菌、(3)Atopobium属細菌、(4)Actinomyces属細菌、(5)Haemophilus属細菌、(6)Lachnospira属細菌。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
口腔内細菌検出用キットであって、
(1)Megasphaera属細菌検出用プローブ、
(2)Bergeyella属細菌検出用プローブ、
(3)Atopobium属細菌検出用プローブ、
(4)Actinomyces属細菌検出用プローブ、及び
(5)Haemophilus属細菌検出用プローブ
からなる群より選択される1、2、3、4、又は5の細菌検出用プローブ
を備えるキット。
項2.
(1)~(5)の細菌検出用プローブが、同一又は異なって、
その細菌を認識する抗体若しくはその断片、その細菌が有する核酸を認識する核酸、又は、その細菌が触媒する基質、あるいはこれらの組み合わせを含む、
項1に記載のキット。
項3.
(1)~(5)の細菌検出用プローブが、触媒する基質及び当該触媒反応を認識する指示薬を含む、項2に記載のキット。
項4.
(1)~(5)の細菌検出用プローブが、その細菌が有する核酸を特異的に増幅するプライマーを含む、項3に記載のキット。
項5.
(1)~(5)の細菌全てを検出するためのプローブを備える、項1~4のいずれかに記載のキット。
項6.
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
からなる群より選択される1、2、3、4、又は5の口腔内細菌の16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNAのシークエンシング用である、
16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセット、及び
前記プライマーセットによる増幅核酸をシークエンシングするための試薬
を備えるキット。
項7.
(1)~(5)の細菌の口腔内における存在量比を測定するための、項1~6のいずれかに記載のキット。
項8.
口腔内細菌存在量比測定用キットであって、
16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセット、及び
前記プライマーセットによる増幅核酸をシークエンシングするための試薬
を備えるキット。
項9.
前記口腔内細菌が、歯肉炎患者の口腔内細菌である、項1~8のいずれかに記載のキット。
項10.
歯肉炎から歯周炎への進行リスク測定のためのデータ取得用である、請求項9に記載のキット。
項11.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータ群と、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータ群とを
学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程Aと、
前記歯肉炎患者とは異なる歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータを取得する工程Bと、
学習済みの前記人工知能モデルに対して、工程Bで取得した前記データを入力する工程Cと、
学習済みの前記人工知能モデルに、工程Bでデータ取得した患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するかを算出させる工程Dとを含む、
歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測する方法。
項12.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータに基づいて、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へ進行するかを算出するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータ群と、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータ群とを
学習データとして人工知能モデル(好ましくはランダムフォレスト)に入力して学習させた、学習済みモデル。
項13.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータを取得する工程Bと、
項12に記載の学習済みモデルに対して、工程Bで取得した前記データを入力する工程Cと、
前記学習済みモデルに、工程Bでデータ取得した患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するかを算出させる工程Dとを含む、
歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測する方法。
項14.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータを、
項12に記載の学習済みモデルに対して、入力する工程Cと、
前記学習済みモデルに、前記データ群を取得した患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するかを算出させる工程Dとを含む、
歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測する方法。
項15.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータ群に基づいて、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へ進行したかを算出するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデルの製造方法であって、
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータ群と、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータ群とを
学習データとして人工知能モデル(好ましくはランダムフォレスト)に入力して学習させることを含む、学習済みモデルの製造方法。
項16.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータの、
歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測するための、使用。
項17.
歯肉炎患者の口腔内における
(1)Megasphaera属細菌、
(2)Bergeyella属細菌、
(3)Atopobium属細菌、
(4)Actinomyces属細菌、及び
(5)Haemophilus属細菌
の存在量を反映するデータと、
前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータとの、
前記歯肉炎患者とは別の歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へ進行したかを算出するようコンピュータを機能させるための学習済みモデルの製造のための、使用。
項18.
項12に記載の学習済みモデルを実装したコンピュータ。
【発明の効果】
【0010】
歯肉炎から歯周炎への進行を予測するための手段及び当該予測に有用なキット等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、歯肉炎から歯周炎への進行を予測するための手段及び当該予測に有用なキット等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0012】
本開示に包含されるキットは、口腔内細菌検出用キットであって、特定の細菌を検出するためのキットである。当該キットを、「本開示のキット」ということがある。本開示のキットにより検出される細菌の情報(特に存在量又は存在量比の情報)は、歯肉炎から歯周炎への進行を予測するために有用である。上記の(1)~(5)又は(1)~(6)の細菌の口腔内存在量比の情報を用いることにより、歯肉炎から歯周炎への進行を高精度で予測できるため、特に当該特定の細菌の口腔内存在量比の情報は重要であり、本開示に包含されるキットは、いずれも当該情報を得るために好ましく用いることができる。
【0013】
本開示のキットの一形態においては、キットは、以下の(1)~(5)の細菌を検出するためのプローブを少なくとも1つ備える。(1)Megasphaera属細菌、(2)Bergeyella属細菌、(3)Atopobium属細菌、(4)Actinomyces属細菌、(5)Haemophilus属細菌。
【0014】
換言すれば、当該キットは、口腔内細菌検出用キットであって、(1)Megasphaera属細菌検出用プローブ、(2)Bergeyella属細菌検出用プローブ、(3)Atopobium属細菌検出用プローブ、(4)Actinomyces属細菌検出用プローブ、及び(5)Haemophilus属細菌検出用プローブからなる群より選択される1、2、3、4、又は5の細菌検出用プローブを備えるキットということができる。中でも、これら5種の細菌検出用プローブ全てを備えるキットが好ましい。また、1、2、3、又は4種の細菌検出用プローブを備えるキットを、2以上備えるキットセットも本開示に包含される。このキットセットとしては、前記キットを2以上備えることにより、結果として(1)~(5)の細菌検出用プローブを全て備えたキットセットであることがより好ましい。
【0015】
また、当該キットは、さらに(6)Lachnospira属細菌を検出するためのプローブを備えていてもよい。この場合には、当該キットは、口腔内細菌検出用キットであって、(1)Megasphaera属細菌検出用プローブ、(2)Bergeyella属細菌検出用プローブ、(3)Atopobium属細菌検出用プローブ、(4)Actinomyces属細菌検出用プローブ、(5)Haemophilus属細菌検出用プローブ、及び(6)Lachnospira属細菌検出用プローブからなる群より選択される1、2、3、4、5、又は6の細菌検出用プローブを備えるキットということができる。中でも、これら6種の細菌検出用プローブ全てを備えるキットが好ましい。また、1、2、3、4、又は5種の細菌検出用プローブを備えるキットを、2以上備えるキットセットも本開示に包含される。このキットセットとしては、前記キットを2以上備えることにより、結果として(1)~(6)の細菌検出用プローブを全て備えたキットセットであることがより好ましい。
【0016】
細菌検出用プローブとしては、特に制限はされず、例えば、その細菌を(好ましくは特異的に)認識する抗体若しくはその断片、又はその細菌が有する核酸を(好ましくは特異的に)認識する核酸等を挙げることができる。その細菌を認識する抗体としては、ポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体であってよい。また例えば、当該抗体は、その細菌自体を認識する抗体のみならず、その細菌特有の代謝産物やその細菌特有のタンパク質(例えば酵素)等を認識する抗体であってもよい。
【0017】
またさらに、細菌検出用プローブとしては、例えば、その細菌が(好ましくは特異的に)触媒する基質であってもよい。基質としては、細菌自身や細菌が(好ましくは特異的に)有するタンパク質(特に酵素)が、触媒としてはたらき、当該基質を変化させることによって呈色又は蛍光を生じるものが好ましい。また、基質のみならず指示薬を一緒に用いることもできる。つまり、前記基質の変化を認識して呈色又は蛍光を生じる化合物を指示薬として用いることにより、その細菌を検出することが可能となる。この場合、細菌検出用プローブとして、基質及び/又は指示薬を好ましく用いることができる。
【0018】
このような、細菌検出用プローブとして用い得る各成分としては、公知のもの又は公知のものから容易に調製できるものを用いることができる。また、公知の方法又は公知の方法から容易に想到できる方法により調製することができる。
【0019】
なお、細菌検出用プローブは、上に例示した各成分の2以上(例えば2~100のいずれかの自然数)の組み合わせであってもよい。例えば、また例えば、上記呈色反応を示すための基質及び指示薬の組み合わせであってもよいし、あるいは「基質及び指示薬の組み合わせ」を複数種組み合わせたものであってもよい。このような、各成分の2以上の組み合わせ(例えば基質及び指示薬の組み合わせ)、あるいは当該組み合わせ自体の組み合わせ、を用いることで、より精度よく細菌を特定することができるので、好ましい。各成分単独ではその細菌検出特異性が低いとしても、複数成分において検出の有無を測定することにより、細菌の検出特異性を上げることができるからである。
【0020】
例えば、上記ような複数の「基質及び指示薬の組み合わせ」を組み合わせて用いることにより、細菌を特定するキットとして、嫌気性菌生化学的同定キット「BD BBLCRYSTAL ANR 同定検査試薬」(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)が挙げられる。当該キットでは、複数の菌の検出が可能であり、上記(1)~(5)の細菌のうち(3)及び(4)の細菌の検出が可能である。また、当該キットでは、複数の呈色反応の有無により細菌を検出しており、呈色の強弱により細菌の存在量(比)を測定できることも考えられ、また当該キット(特に、複数の「基質及び指示薬の組み合わせ」の組み合わせ)を参考に呈色の強弱により細菌の存在量(比)を測定可能な手法及びキットを調製することもできる。
【0021】
その細菌を(好ましくは特異的に)認識する抗体は、公知の方法により調製することができる。すなわち、例えば、各細菌の断片若しくは各細菌特有の代謝産物やタンパク質(例えば酵素)等を免疫源として用い、哺乳動物に免疫することによりポリクローナル抗体を調製することができ、また例えば、ハイブリドーマを調製することによりモノクローナル抗体を調製することができる。また、抗体の断片についても、公知の方法により調製することができる。例えば、得られた抗体を酵素で処理することにより、のFabやF(ab’)2等の抗体断片を得ることができる。これらは例示であり、抗体又はその断片は、特に限定されるものではない。
【0022】
また、このような、その細菌が有する核酸を(好ましくは特異的に)認識する核酸についても、公知の方法及び技術により得ることができる。例えば、これらの細菌のゲノム配列を公的データデース(例えばNCBI)から取得し、公的な(例えばNCBI)アライメントツールやPCTプライマー設計ツール(例えばBLAST)を利用して、各細菌にできるだけ特異的な配列部位を探索し、当該特異的配列部位にアニーリングするための若しくは増幅するための核酸(例えばプローブやプライマー)を調製することができる。このような核酸を、その細菌が有する核酸を特異的に認識する核酸として好適に用いることができる。このような核酸は、例えばDNA又はRNAであってよく、特にDNAであることが好ましい。また、このような核酸の配列長は、特異的認識が可能であれば特に制限はされないが、例えば15~300bp又は20~100bp程度が挙げられる。特に当該核酸がプライマーである場合は、例えば15~50pb、15~40bp、又は20~35bp程度が挙げられる。当該核酸(特にプライマー)を用いて、その細菌が有する核酸を増幅する場合には、公知の増幅方法を用いることができ、特に制限はされないが、簡便性の観点からPCRが特に好適に例示される。PCRの中でも、リアルタイムPCRが、簡便に各細菌の存在量比を測定できるため、好ましい。なお、その細菌が有する核酸を認識する核酸を細菌検出用プローブとして用いる場合、当該核酸としては、その細菌が有する核酸を特異的に増幅するプライマーが好ましく、このようなプライマーを含むプライマーセットが特に好ましい。
【0023】
当該キットにより、各細菌の口腔内の存在量(又は存在量比)を好ましく測定することができる。当該キットは、各細菌の口腔内の存在量(又は存在量比)測定用として好ましく用いることができる。
【0024】
本開示のキットの他の一形態においては、キットは、口腔内細菌存在量比測定用キットであって、16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセット、及び前記プライマーセットによる増幅核酸をシークエンシングするための試薬を備える。
【0025】
各口腔内細菌を特異的に検出しなくとも、口腔内に存在する細菌由来の核酸をシークエンシング(配列決定)することにより、どのような菌がどの程度の割合で口腔内に存在しているかを測定することができる。つまり、どの菌に由来する核酸の配列がどの割合で得られたかにより、菌種及びその存在量比を測定することができる。このことに基づき、当該キットを用いることで、上記(1)~(5)の細菌又は上記(1)~(6)の細菌について、口腔内における存在量比を測定することができる。
【0026】
このため、本開示のキットには、次の形態のものも好ましく包含される。上記(1)~(5)の細菌からなる群より選択される1、2、3、4、又は5の口腔内細菌、あるいは、上記(1)~(6)の細菌からなる群より選択される1、2、3、4、5、又は6の口腔内細菌の、16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNAのシークエンシング用である、16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセット、及び前記プライマーセットによる増幅核酸をシークエンシングするための試薬を備えるキット。当該キットにより、当該口腔内細菌の存在量比を好ましく測定することができる。
【0027】
16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA増幅用プライマーセットとしては、16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNAを増幅可能なプライマーセットであれば、特に制限されないが、特に、16SリボソームDNAの保存領域を認識する(アニールする)プライマーのセットであることが好ましい。例えば、16SリボソームDNAには9カ所の可変領域(V1~V9)が存在するところ、V1の上流、V1-V2間、V2-V3間、V3-V4間、V4-V5間、V5-V6間、V6-V7間、V7-V8間、V8-V9間、又はV9の下流領域を認識するプライマーを、16SリボソームDNAを増幅可能なように2種選択してセットとして用いることができる。増幅領域内に1又は2以上(例えば2、3、4、5、6、7、8、又は9)の可変領域を含むことが好ましい。例えば、増幅領域内にV3及びV4領域を含む増幅核酸が得られるプライマーセットが好ましい。特に、例えばV2-V3間にアニールするフォワードプライマーとV4-V5間にアニールするリバースプライマーのセットであることが好ましい。
【0028】
なお、このような16SリボソームDNA増幅用プライマーセットとしては、市販品を購入して用いることもできる。例えば、16S (V3-V4) Metagenomic Library Construction Kit for NGS(タカラバイオ株式会社)に含まれる16S V3-V4 Primer Mix等を用いることができる。
【0029】
当該プライマーセットを用いた16SリボソームDNA及び/又は16SリボソームRNA(特に16SリボソームDNA)の増幅は、公知の方法により行うことができる。中でもPCRにより行うことが好ましい。
【0030】
このようにして得られる増幅核酸をシークエンシングし、それぞれの増幅核酸がどの細菌由来かをデータベースと照合することによって、口腔内細菌の存在量比を測定することができる。データベースとしてはHOMD(Human Oral Microbial Database)データベースを用いることができる。また、増幅核酸が、データベースに登録される各属に属する菌のいずれかの菌と97%以上の相同性がある場合には、当該増幅核酸は、その属に属する菌由来であるとする。
【0031】
増幅核酸をシークエンシングするための試薬としては、公知のものを用いることができ、特に制限はされない。例えば、イルミナ社のMiSeqシステムを用いるための試薬が好ましい。この場合、特に増幅核酸末端にインデックス配列及びシークエンスプライマー配列を付加することが好ましく、従って当該試薬としては、例えば、インデックス配列及びシークエンスプライマー配列を有する核酸(特にDNA)や、増幅反応を行うための酵素(ポリメラーゼ)等が好ましく挙げられる。
【0032】
このような試薬としては、市販品を購入して用いることもでき、例えば(Nextera XT Index Kit(イルミナ社)や、特に当該Kitに備えられるNextera XT インデックスプライマー等が好適に挙げられる。また、増幅反応用酵素として、例えば、KAPA HiFi HotStart Ready Mix(Kapa Biosystems)等が好ましく挙げられる。
【0033】
本開示のキットは、歯肉炎の段階で歯周炎への進行リスクを測定するために、好ましく用いることができる。このため、本開示のキットは、歯肉炎患者の口腔内細菌の検出(好ましくは存在量比測定)のために好ましく用いられる。また、本開示のキットは、歯肉炎から歯周炎への進行リスク(特に進行するか否か)の測定のためのデータ取得用として、好ましく用いられる。
【0034】
本開示は、歯肉炎が歯周炎への進行リスクを測定する方法や、その方法において生成される学習済みモデル等も好ましく包含する。
【0035】
当該方法は、以下の工程A~D、B~D、又はC~Dを含む。
工程A:歯肉炎患者の口腔内における(1)~(5)の細菌の存在量を反映するデータ群と、前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータ群とを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程。
工程B:前記歯肉炎患者とは異なる歯肉炎患者の口腔内における(1)~(5)の存在量を反映するデータを取得する工程。
工程C:学習済みの前記人工知能モデルに対して、工程Bで取得した前記データを入力する工程。
工程D:学習済みの前記人工知能モデルに、工程Bでデータ取得した患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するかを算出させる工程D。
【0036】
なお、上記各工程及び下記各工程の説明における「(1)~(5)の細菌」の部分は、「(1)~(6)の細菌」へと置き換えて(読み替えても)もよい。また、当該方法で用いる人工知能モデル(学習器)は、公知の人工知能モデルであって本発明の効果を奏するものであれば、特に制限はされず、ディープラーニングモデル、機械学習モデル等を用いることができる。また、アンサンブル(複数のモデルを融合させて1つのモデルを生成すること)を行ってもよい。人工知能モデルの中でも、特にランダムフォレストモデルが好ましい。
【0037】
このような公知の人工知能モデルとしては、例えば公知のPythonパッケージであるAnacondaが備える各種アルゴリズム、プログラム、モジュール、アプリケーション、又はソフトウェアが好ましく挙げられる。例えば、Anacondaが備えるscikit-learnモジュールに備えられた各アルゴリズを好ましく用いることができ、中でもRandomForestClassifierをランダムフォレストモデルとして特に好ましく用いることができる。
【0038】
工程Aは、大まかには、人工知能モデルに学習データを食べさせて学習させる工程ということができる。
【0039】
(A-1)細菌の存在量を反映するデータとは、好ましくは細菌の存在量比を示すデータである。当該データは、(1)~(5)の細菌の存在量を相対値で表したデータが好ましい。また、(A-2)前記患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータとは、すなわち各患者の歯肉炎が歯周炎へと「進行した」か「進行しなかった」かのいずれかを示すデータである。
【0040】
例えば、本開示のキット等により、複数の歯肉炎患者について、(1)~(5)の細菌の存在量(比)を測定した後、その歯周病患者について後日(例えば1年後又は2年後に)歯周炎へと進行したか否かを調査することによって、各歯肉炎患者についての(A-1)データ及び(A-2)データを取得することができる。この(A-1)及び(A-2)データを学習データとして用いることができる。これらの学習データを収集する歯肉炎患者数(ひいては、学習データ数)としては、例えば10以上であることが好ましい。また、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、又は55以上であることがより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、例えば100、1000、10000、又は100000等が挙げられる。
【0041】
工程Bは、大まかには、歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測したい(もっといえば、歯肉炎が歯周炎へ進行するか否かを予測したい)歯肉炎患者の口腔内における、(1)~(5)の細菌の存在量(比)データを取得する工程ということができる。
【0042】
当該データは、例えば上述した本開示のキットを用いて得ることができる。
【0043】
工程Cは、工程Aで製造した学習済みモデルに対して、工程Bで得たデータを入力する工程であり、工程Dは、当該入力したデータに基づいて、学習済みモデルに、入力データを取得した歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測させる(もっといえば、進行するか否かを予測させる)工程である。
【0044】
なお、各工程はコンピュータ上で行われるものであり、またこのような学習済みモデルが実装されたコンピュータも本開示は包含する。また例えば、工程Aを含む学習済みモデル製造方法も、本開示は包含する。
【0045】
また、上記の通り、歯肉炎患者の口腔内における、(1)~(5)の細菌又は(1)~(6)の細菌の存在量を反映するデータ(好ましくは存在量比データ)は、当該歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測するために有用である。よって、本開示は、歯肉炎患者の口腔内における、(1)~(5)の細菌又は(1)~(6)の細菌の存在量を反映するデータ(好ましくは存在量比データ)の、歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを予測するための使用をも好ましく包含する。なお、当該データは、複数の歯肉炎患者から得られたデータの集合である場合には、データ群と呼んでもよい。
【0046】
またさらに、上記の通り、歯肉炎患者の口腔内における、(1)~(5)の細菌又は(1)~(6)の細菌の存在量を反映するデータ(好ましくは存在量比データ)と、当該歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータとは、前記歯肉炎患者とは別の歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へ進行したかを算出するようコンピュータを機能させるための学習済みモデルの製造のために有用である。よって、本開示は、歯肉炎患者の口腔内における、(1)~(5)の細菌又は(1)~(6)の細菌の存在量を反映するデータ(好ましくは存在量比データ)と、当該歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へと進行したか否かを示すデータとの、前記歯肉炎患者とは別の歯肉炎患者の歯肉炎が歯周炎へ進行したかを算出するようコンピュータを機能させるための学習済みモデルの製造のための使用をも好ましく包含する。なお、当該データは、複数の歯肉炎患者から得られたデータの集合である場合には、データ群と呼んでもよい。
【0047】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0048】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0049】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0050】
被験者(歯肉炎患者)から回収した唾液検体から、QIAamp DNA Mini Kit(キアゲン)を用いて、DNAの抽出を行った。シークエンスライブラリーは16S rDNAのV3-V4領域をターゲットとして2つのステップのPCR法により増幅されたDNA溶液を用いた。まず第1ステップは、DNA溶液に含まれる細菌の16S rRNA遺伝子のV3~V4可変領域を増幅させた。具体的な方法は、下記のプライマーセットと2×KAPA HiFi HotStart Ready Mix (Kapa Biosystems)を用いて、PCR法により、核酸増幅反応を行った。反応液の組成は、下記に示した。増幅反応は、95℃で3分間加温させ、95℃-30秒、62.3℃-30秒、72℃-30秒を1サイクルとし、これを25回繰り返し、その後72℃-5分間加温させた。
[プライマーセット]
フォワードプライマー:TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG
リバースプライマー:GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC
【0051】
[反応液の組成]
・DNA抽出された検体 10.5 μL
・16S V3 Forward primer 5μM 1.0 μL
・16S V4 Reverse primer 5μM 1.0 μL
・2×KAPA HiFi HotStart Ready Mix 12.5 μL
25.0 μL
【0052】
増幅された検体を、遊離プライマーとプライマーダイマーを取り除くために、マグネットビーズAMPureXP (ベックマンコールター)を用いて精製した。
【0053】
第2ステップとして、各検体を識別するために、各検体にデュアルインデックスおよびイルミナシークエンスアダプターを付加した。
【0054】
精製して得られたPCR産物25μLを鋳型として、第2プライマーセット(Nextera XT Index Kit)を用いてデュアルインデックスおよびイルミナシークエンスアダプターを付加した。具体的な方法は、Nextera XT インデックスプライマー(イルミナ社)と2×KAPA HiFi HotStart Ready Mix(Kapa Biosystems)を用いて、PCR法により、核酸増幅反応を行った。反応液の組成は、下記に示した。増幅反応は、95℃で3分間加温させ、95℃-30秒、55℃-30秒、72℃-30秒を1サイクルとし、これを8回繰り返し、その後72℃-5分間加温させた。
【0055】
[反応液の組成]
・第1ステップで得られた検体 5.0 μL
・Nextera XT Index Primer 1 5.0 μL
・Nextera XT Index Primer 2 5.0 μL
・2×KAPA HiFi HotStart Ready Mix 25.0 μL
50.0 μL
【0056】
増幅された検体を、遊離プライマーとプライマーダイマーを取り除くために、マグネットビーズAMPureXP (ベックマンコールター)を用いて精製した。精製後のPCR産物については、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay kit (Life Technologies社製)によりDNA濃度を測定した。それぞれの検体は、同じ濃度で希釈した後に、混合し、MiSeq v3 Reagent kit(イルミナ社)を用いて、MiSeqにてシークエンス解析を実施した。
【0057】
シークエンス解析によって得られたDNA配列は、QIIME(解析ソフト)を用いて、HOMD(Human Oral Microbial Database)データベースと97%以上相同性があった配列をピックアップして、相対的な細菌数として、検体毎に算出した。
【0058】
そして、当該解析によって得られたデータと被験者情報を掛け合わせて、当該解析から2年後に歯肉炎が歯周炎に進行した被験者28名を、“進行リスク有り”(Progress)、歯肉炎が維持もしくは改善した被験者85名を“進行リスク無し”(Nonprogress)として、群設定を行った(表1:「ID」は各被験者を区別する識別番号)。
【0059】
【表1】
【0060】
【0061】
【0062】
そして、シークエンス解析により得られた被験者ごとの相対的な細菌数(存在量比)を用いて、クラスカルウォリス検定により、“進行リスク有り”と“進行リスク無し”で有意な差があった細菌を選定した。これにより、13種の細菌が選定された。各被験者における、これら13種の細菌の相対的な細菌数(存在量比)を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
【0065】
【0066】
次に、被験者113人分の、進行リスクの有無データ(表1)、及び、これら細菌とその相対的な割合(存在量比)データ(表2)について、ランダムに学習データとテストデータとに半々に分け、ランダムフォレストモデル(具体的には、Anacondaのscikit-learnモジュール中のRandomForestClassifier)に学習データ(表1及び表2)を食べさせて学習させ、得られた学習済みモデルに対してテストデータ(表2)を入力して、進行リスクの有無(表1)を正解できるかを検討した。各細菌種データ(特徴量)の重要度、及び、算出された正解率を、表3(検討例1)に示す。なお、ランダムフォレストで解析したデータの特徴量の重要度は、全て足し合わせると1となる。
【0067】
さらに、13種の細菌種のうち、重要度が低いものを順にデータから削除して、同様にランダムフォレストモデルを用いて検討を繰り返した(検討例2~12)。これらの検討における各細菌種データ(特徴量)の重要度、及び、算出された正解率も、表3に示す。なお、表3において、空欄はその細菌種のデータが検討(学習及び正解の検討)に用いられなかったことを示す。
【0068】
【表3】
【0069】
当該結果から、(1)Megasphaera属細菌、(2)Bergeyella属細菌、(3)Atopobium属細菌、(4)Actinomyces属細菌、及び(5)Haemophilus属細菌のデータを用いた場合には、正解率が70%を超える一方で、これら5種の細菌のうち1種でもデータが欠けると、正解率が大きく低下することが分かった。またさらに、(6)Lachnospira属細菌のデータも加えて用いた場合には、さらに正解率が高まり得ることも示唆された。よって、口腔内のこれら5種又は6種の細菌の存在量比データを用いて学習済みモデルを構築することにより、歯肉炎が歯周炎へと進行するリスクを高精度で予測できることが確認された。
【配列表】
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