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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】レーダ装置及び目標検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/12 20060101AFI20230501BHJP
   G01S 7/282 20060101ALI20230501BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20230501BHJP
   G01S 13/53 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
G01S13/12
G01S7/282 200
G01S7/292 210
G01S13/53
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019130948
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015078
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆之
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-163968(JP,A)
【文献】米国特許第6621450(US,B1)
【文献】特開2008-224356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを経由して、所定のパルス繰り返し間隔で送信波を送信する送信器と、
前記アンテナを経由して、前記送信波に対する受信波を受信する受信器と、
前記受信波に含まれるクラッタの距離範囲を算出するクラッタ範囲算出器と、
前記クラッタの距離範囲に基づいて、前記クラッタの広がりが受信波の全周波数帯に渡っており、前記受信波から目標を検出できない場合に、前記パルス繰り返し間隔を調整するパルス調整器と、
前記パルス調整器により調整されるパルス繰り返し間隔に基づいた前記送信波に対する受信波から、前記クラッタと目標を分離して当該目標を検出する目標検出器と、
を具備する、レーダ装置。
【請求項2】
前記クラッタ範囲算出器は、
前記受信波の時間軸上において前記クラッタの距離範囲を算出し、
前記クラッタの広がりが前記全周波数帯に渡っている場合に、前記受信波から前記クラッタと目標を分離して目標を検出できないと判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記パルス調整器は、
前記クラッタの距離範囲は距離ブラインドが発生しないように、最小のパルス繰り返し間隔を算出するまで前記パルス繰り返し間隔を段階的に調整し、
前記受信波から前記クラッタと目標を分離して目標を検出できる、前記パルス繰り返し間隔を算出する、請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記クラッタ範囲算出器は、
前記受信波の時間軸上において、前記クラッタに覆われていない範囲、及び、前記クラッタの広がりが相対的に小さく前記目標の検出に支障が無い場合には、前記パルス調整器による前記パルス繰り返し間隔の調整処理を終了とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記パルス調整器は、
前記距離ブラインドが発生した場合に、前記パルス繰り返し間隔を段階的に再調整し、
前記目標の検出に支障が無い複数のパルス繰り返し間隔を算出する、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記目標検出器は、
前記複数のパルス繰り返し間隔に基づいた前記送信波に対する受信波から、前記クラッタと目標を分離して当該目標を検出する、請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
アンテナを経由して、所定のパルス繰り返し間隔で送信波を送信する送信器と、
前記アンテナを経由して、前記送信波に対する受信波を受信する受信器と、
を具備するレーダ装置に適用する目標検出方法であって、
前記受信波に含まれるクラッタの距離範囲を算出する処理と、
前記クラッタの距離範囲に基づいて、前記クラッタの広がりが受信波の全周波数帯に渡っており、前記受信波から目標を検出できない場合に、前記パルス繰り返し間隔を調整する処理と、
調整されるパルス繰り返し間隔に基づいた前記送信波に対する受信波から、前記クラッタと目標を分離して当該目標を検出する処理と、
を実行する、目標検出方法。
【請求項8】
前記受信波の時間軸上において前記クラッタの距離範囲を算出する処理と、
前記クラッタの広がりが前記全周波数帯に渡っている場合に、前記受信波から前記クラッタと目標を分離して目標を検出できないと判定する処理と、
を実行する、請求項7に記載の目標検出方法。
【請求項9】
前記パルス繰り返し間隔を調整する処理は、
前記クラッタの距離範囲は距離ブラインドが発生しないように、最小のパルス繰り返し間隔を算出するまで前記パルス繰り返し間隔を段階的に調整し、
前記受信波から前記クラッタと目標を分離して目標を検出できる、前記パルス繰り返し間隔を算出する、請求項7又は8に記載の目標検出方法。
【請求項10】
前記パルス繰り返し間隔を調整する処理は、
前記距離ブラインドが発生した場合に、前記パルス繰り返し間隔を段階的に再調整し、
前記目標の検出に支障が無い複数のパルス繰り返し間隔を算出する、請求項9に記載の目標検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えば移動目標を検出するレーダ装置及び目標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダは、目標に対して送信する電波(送信波)に対する反射波(受信波)を受信して、目標を検出する目標検出処理を実行する。反射波には、クラッタと称する不要反射波が含まれている場合が多い。このため、目標検出処理では、当該クラッタを抑圧して、目標と分離することで、目標の検出精度を向上させることが重要である。
【0003】
クラッタには、建物や地面等のグランドクラッタ、雨雲等のウェザクラッタおよび海面のシークラッタが含まれる。航空機等の移動目標(以下、単に目標と称する場合がある)を検出する目標検出処理の場合に、基本的にドップラ周波数が0であり、固定の建物や地面等の不要反射波であるグランドクラッタを抑圧するには、MTI(Moving Target Indicator)技術が有効である。
【0004】
また、雨雲や海面のように必ずしも固定ではなく、変動するウェザクラッタやシークラッタを抑圧する場合には、アダプティブMTI(Adaptive MTI)技術がある。このアダプティブMTI技術は、雨雲や海面の移動によるドップラ周波数に、MTIによる抑圧域を自動的に合わせるように制御する機能を有する。
【0005】
従来のMTI技術又はアダプティブMTI技術により、各種のクラッタの抑圧は可能である。ここで、移動目標を検出するための捜索レーダ等は、低PRF(Pulse Repetition Frequency:パルス繰り返し周波数)方式で動作している。低PRF方式の場合は、距離は確定できるものの、目標の速度方向には不確定性がある。例えば、ウェザクラッタは雨、風の状況によっては、クラッタのドップラ周波数が広がっており、この広がりがPRFに対して大きい場合は、全周波数帯に渡ることがある。このため、MTI技術又はアダプティブMTI技術だけでは、有効に目標とクラッタとを分離して、確実に目標を検出することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平5-51865号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】吉田孝、他11名、“改訂 レーダ技術 第3章”、平成23年6月10日発行、社団法人 電子情報通信学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本実施形態の目的は、クラッタのドップラ周波数が広がって、全周波数帯に渡ってクラッタに覆われるような状況を回避し、有効に目標とクラッタとを分離し、確実に目標を検出できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態のレーダ装置は、送信器と、受信器と、クラッタ範囲算出器と、パルス調整器と、目標検出器とを備えた構成である。前記送信器は、アンテナを経由して所定のパルス繰り返し間隔で送信波を送信する。前記受信器は、前記アンテナを経由して前記送信波に対する受信波を受信する。前記クラッタ範囲算出器は、前記受信波に含まれるクラッタの距離範囲を算出する。前記パルス調整器は、前記クラッタの距離範囲に基づいて、前記クラッタの広がりが受信波の全周波数帯に渡っており、前記受信波から目標を検出できない場合に、前記パルス繰り返し間隔を調整する。前記目標検出器は、前記パルス調整器により調整されるパルス繰り返し間隔に基づいた前記送信波に対する受信波から、前記クラッタと目標を分離して当該目標を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に関するレーダ装置の構成を説明するためのブロック図。
図2】実施形態に関する時間軸上での目標とクラッタの状況を説明するための図。
図3】実施形態に関する周波数軸上での目標とクラッタの状況を説明するための図。
図4】実施形態に関して、スタガ処理を適用する場合を説明するための図。
図5】実施形態に関して、全周波数帯域に渡ってクラッタに覆われるような状況を説明するための図。
図6】実施形態に関する時間軸上のクラッタの距離範囲を示す図。
図7】実施形態に関するPRI調整の一例を説明するための図。
図8】実施形態に関するPRI調整の一例を説明するための図。
図9】実施形態に関するレーダ装置の動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、実施形態を説明する。
[レーダ装置の構成]
図1は、本実施形態のレーダ装置1の構成を説明するためのブロック図である。図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナ10と、送受信切換器11と、受信器12と、MTI処理器13と、パルスドップラ処理器14と、目標検出器15と、クラッタ範囲算出器16と、第1のPRI算出器17と、第2のPRI算出器18と、送信制御器19と、送信器20を含む。
【0012】
アンテナ10は、送信信号に応じた電波(送信波)を空間に放射し、または、当該送信波に対する反射波(受信波)を受信する。送受信切換器11は、送信波と受信波を切り換える。受信器12は、アンテナ10及び送受信切換器11を経由して伝送される受信波の受信処理を実行する。
【0013】
MTI処理器13は、ドップラ効果を利用して、移動目標(以下、目標と表記する)を抽出するために受信波のクラッタを抑圧するMTI(Moving Target Indicator)処理を実行する。パルスドップラ処理器14は、受信波からクラッタと目標とを分離する。目標検出器15は、パルスドップラ処理器14の処理結果から目標の検出処理を実行する。
【0014】
さらに、本実施形態のレーダ装置1において、クラッタ範囲算出器16は、パルスドップラ処理器14の処理後に、雨雲等のクラッタ(ウェザクラッタ)が存在する距離範囲を算出する。第1のPRI算出器17は、クラッタ範囲算出器16の算出結果から、雨雲等のクラッタと重なった目標を検出するためのPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)を算出する。また、第2のPRI算出器18は、第1のPRI算出器17で算出したPRIでは雨雲等のクラッタと目標との分離が十分でない場合には、当該PRI以外のPRIを算出する。
【0015】
送信制御器19は、第1のPRI算出器17又は第2のPRI算出器18により算出されるPRIに基づいた送信波をアンテナ10から放射するように、送受信切換器11及び送信器20を制御する。
[本実施形態の作用効果]
以下、図2から図9を参照して、本実施形態のレーダ装置1の動作及び作用効果を説明する。まず、図2から図5を参照して、本実施形態のレーダ装置1の目標検出処理に関して、目標とクラッタの状態を説明する。
【0016】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信制御器19が送受信切換器11及び送信器20を制御して、アンテナ10から所定のパルス繰り返し周期(PRI)で送信波30を送信する。これに対して、アンテナ10は当該送信波30に対して、反射波である受信波31を受信する。受信波31において、目標100とその近傍にクラッタ200が存在している場合には、時間軸上では目標100とクラッタ200とが重なっている状態となることがある。このような状態の場合には、このままでは、目標100を検出することができない。
【0017】
このような状態でも、図3(A)に示すように、目標100を検出するために、周波数軸上において、MTI処理器13によりクラッタ200を抑圧し、パルスドップラ処理器14により受信波からクラッタと目標100とを分離する処理が可能である。但し、図3(B)に示すように、レーダ装置1で観測したクラッタ200のスペクトラムは、そのパルス繰り返し周波数PRF(=1/PRI)毎に繰り返して見える。従って、常に同じPRIで送信しているのでは、そのパルス繰り返し周波数(1/PRI=PRF)の整数倍に近いドップラ周波数を持った目標100のスペクトラムは、クラッタ200のスペクトラムと重なっている状態となることがある。このような状態の場合は、目標検出器15は、目標100を検出することができない。
【0018】
図4は、いわゆるスタガ(stagger)処理を適用する場合を説明するための図である。図4(A)、(B)に示すように、レーダ装置1は、複数の種類のPRI1,PRI2の送信波20を送信し、当該送信波20のそれぞれに対する受信波21を受信する。図4(C)は、同図(A)に対応して、周波数軸上において、MTI処理器13によりクラッタ200を抑圧し、パルスドップラ処理器14により受信波からクラッタ200と目標100とを分離する処理を実行する場合を示す。一方、図4(D)は、同図(B)に対応して、同様に周波数軸上において、クラッタ200と目標100とを分離する処理を実行する場合を示す。
【0019】
このような処理において、図4に示すように、実際のクラッタ200のスペクトラムがPRFに対して小さい場合には有効であり、クラッタ200と目標100とを分離することが可能である。一方、図5(B)に示すように、ウェザクラッタ200は雨、風の状況(例えば、降雨があり風速も大きい)によっては、そのドップラ周波数が広がっている状態となる。このクラッタ200の広がりが、PRFに対して大きい場合は、全周波数帯にわたってクラッタに覆われることになり、スタガ処理を行ってもクラッタ200と目標100とを分離することは不可能となる。
【0020】
一般的に、捜索用レーダなどのレーダ装置では、距離アンビギュイティ(距離に対する不確定性)を回避するために、PRIは長距離を観測するレーダほど長くなる。PRIが長いということはPRFが小さいことであり、目標100がウェザクラッタ200に覆われてしまう可能性が高くなるということである。
【0021】
そこで、本実施形態は、全周波数帯に渡ってクラッタに覆われるような状況を回避し、目標とクラッタとを有効に分離し、確実に目標を検出できるレーダ装置を提供することにある。
【0022】
以下、図6から図8、及び図9のフローチャートを参照して、本実施形態のレーダ装置1の動作を説明する。
【0023】
まず、図6に示すように、レーダ装置1は、送信制御器19が送受信切換器11及び送信器20を制御して、アンテナ10から所定の低PRI(距離の不確定性がないPRI)で送信波30を送信する。レーダ装置1は、当該送信波30に対して、反射波である受信波31を受信する。受信波31において、目標100とその近傍にクラッタ200が存在している場合には、時間軸上では目標100とクラッタ200とが重なっている状態となることがある。このような状態の場合には、MTI処理器13及びパルスドップラ処理器14が十分に機能せず、結果的に、目標検出器15は目標100を検出することができない。
【0024】
本実施形態では、図9に示すように、クラッタ範囲算出器16は、パルスドップラ処理器14の処理後に、クラッタ(ウェザクラッタ)200が存在する時間軸上の距離範囲(Rc2-Rc1)を算出する(S1)。ここで、図6に示すように、τを送信波30の送信パルス幅とし、Rc1をクラッタ範囲の最小距離に相当する時間とし、Rc2をクラッタ範囲の最大距離に相当する時間とする。
【0025】
次に、クラッタ範囲算出器16は、検出対象であるクラッタ200のドップラの広がりを確認し、移動目標の検出に支障があるか否かを判定する(S2)。ここで、時間軸上でクラッタ200に覆われていない範囲は、目標100を検出できるため、当該処理の対象外となる。また、クラッタが無い場合や、クラッタ200の広がりが小さく、スタガ処理をすることで目標100の検出に支障が無い場合は終了とする(S2のNO)。
【0026】
クラッタ範囲算出器16は、MTI処理器13によりクラッタ200が十分に抑圧されておらず、その広がりが全周波数帯に渡っている場合に、目標を検出できないと判定する(S2のYES、図5(B)を参照)。
【0027】
第1のPRI算出器17は、クラッタ範囲算出器16の算出結果から、クラッタ200と重なった目標100を検出するためのPRIを算出する(S3~S8)。この場合、第1のPRI算出器17は、時間軸上でクラッタ200の範囲が送信ブラインド(送信波30による距離ブラインド)を発生させないように最小のPRIを算出する。
【0028】
具体的には、第1のPRI算出器17は、係数nを「n=1」と設定し(S3)、関係式「PRI=(Rc2+W)/n」からPRIを算出する(S4)。PRIは、クラッタ200の最大距離であるRc2に、レーダの信号処理を行う余裕分である送信パルス幅τを加算したものである(図7(A)を参照)。
【0029】
次に、第1のPRI算出器17は、時間軸上のクラッタの範囲である(Rc2-Rc1)に送信ブラインドである2τおよびレーダの信号処理を行う余裕分であるτを加えた「Rc2-Rc1+3τ」を計算する。第1のPRI算出器17は、当該計算結果と、処理S4で算出したPRIとを比較する(S5)。
【0030】
この比較結果により、図7(B)に示すように、PRIが大きい場合は、第1のPRI算出器17は、係数nを「n=2」と更新し(S6)、PRIを「1/2」にする(S4)。第1のPRI算出器17は、当該計算結果「Rc2-Rc1+3τ」と、処理S4で「1/2」に更新したPRIとを比較する(S5)。この比較結果により、図8(A)に示すように、PRIが大きい場合は、第1のPRI算出器17は、さらに係数nを「n=3」と更新し(S6)、PRIを「1/3」にする(S4)。
【0031】
第1のPRI算出器17は、当該計算結果「Rc2-Rc1+3τ」と、処理S4で「1/3」に更新したPRIとを比較し、当該計算結果が大きくなるまで処理(S4~S6)を繰り返す。第1のPRI算出器17は、係数nを「n=4」と更新すると、当該計算結果「Rc2-Rc1+3τ」が、処理S4で「1/4」に更新したPRIより大きくなるため、送信ブラインドが発生する(図8(B)を参照)。
【0032】
このため、図9に示すように、第1のPRI算出器17は、係数nを「n=3」に戻して(S7)、関係式「PRI=(Rc2+τ)/n」からPRIを算出する(S8)。レーダ装置1は、第1のPRI算出器17により、処理S8で算出されたPRIで送信波30を送信する。レーダ装置1は、当該送信波30に対して、反射波である受信波31を受信する。
【0033】
「n=3」とすることで、クラッタの広がりに対してPRF(=1/PRI)が大きくなることからクラッタと目標を分離する可能性は高くなる。クラッタ範囲算出器16は、第1のPRI算出器17により算出されたPRIで、クラッタ200のドップラの広がりを確認し、移動目標の検出に支障があるか否かを判定する(S10)。支障ない場合は終了する(S10のNO)。
【0034】
移動目標の検出に支障がある場合は(S10のYES)、第2のPRI算出器18は、処理S8で算出したPRIで使ったnをさらに1減らした関係式「PRI=(Rc2+τ)/n-1」から、関係式「PRI=(Rc2+τ)/n」のPRI内の間で、移動目標の検出に支障がないような複数のPRIを算出する(S11)。即ち、スタガ処理を行うPRIを算出する。
【0035】
レーダ装置1は、第2のPRI算出器18により算出されたPRIで送信波30を送信する。レーダ装置1は、当該送信波30に対して、反射波である受信波31を受信する。即ち、レーダ装置1は、処理S11で算出した複数のPRIを使用してレーダ動作を実行する(S12)。
【0036】
なお、n=2以降でPRIを算出した場合は、低PRI動作ではないので、通常は距離不確定性が発生するが、クラッタの範囲を処理S1で算出しており、nの数値も算出しているので、当該距離不確定性は極力排除された形になっている。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、航空機等の移動目標の目標検出処理を実行するレーダ装置に適用すれば、雨雲等のクラッタのドップラ周波数が広がっており、この広がりが全周波数帯に渡っている状況においても、当該クラッタと目標とを分離し、確実に目標検出処理を実行することが可能となる。
【0038】
具体的には、本実施形態のレーダ装置1は、初期時には所定の低PRI(距離の不確定性がないPRI)で送受信を実行し、クラッタ範囲算出器16によりクラッタが存在する距離範囲を算出する。ここで、時間軸上では目標100と重なっている状態のクラッタ200がない場合や、目標の検出に支障が無い場合は、本実施形態の処理は終了となる。
【0039】
本実施形態は、当該クラッタの距離範囲に限定して、PRIを段階的に調整して、クラッタの範囲は送信波等による距離ブラインドが発生しないように、適切なPRIを算出(決定)することができる。これにより、結果的にクラッタと目標とを確実に分離し、クラッタと重なる目標を検出することが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態では、雨雲等のクラッタの距離範囲が1箇所の場合であるが、2箇所以上の場合でも本実施形態の処理を2回行うことで、距離アンビギュイティ(不確定性)を極力排除した目標検出が可能となる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1…レーダ装置、10…アンテナ、11…送受信切換器、12…受信器、
13…MTI処理器、14…パルスドップラ処理器、15…目標検出器、
16…クラッタ範囲算出器、17…第1のPRI算出器、18…第2のPRI算出器、
19…送信制御器、20…送信器、30…送信波、31…受信波、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9