(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/218 20170101AFI20230501BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230501BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20230501BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20230501BHJP
【FI】
B29C64/218
B33Y30/00
B29C64/209
B29C64/112
(21)【出願番号】P 2019151093
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】八角 邦夫
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183890(JP,A)
【文献】特開2018-154042(JP,A)
【文献】特開2016-026915(JP,A)
【文献】特公昭48-024052(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形法で三次元造形物を造形する造形装置において、
前記三次元造形物が造形される造形台と、前記造形台に向かってインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面側の一部分を
外周面に付着させて取り除いてインクの上面を平坦化しインクの層の厚さを調整する平坦化ローラと、前記平坦化ローラの外周面に付着したインクを前記平坦化ローラの外周面から除去するインク除去部とを備え、
前記インク除去部は、前記平坦化ローラの外周面に付着したインクが前記インクジェットヘッドから吐出されたインクに接触する前に前記平坦化ローラの外周面に付着したインクを前記平坦化ローラの外周面から除去し、
前記平坦化ローラの外周面には、インクの上面を平坦化するときにインクが付着するインク付着面からなるインク付着部と、撥液性を有する面である撥液面からなる非インク付着部とが形成されていることを特徴とする造形装置。
【請求項2】
前記インク付着面と前記撥液面とは、前記平坦化ローラの外周面の同一面上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の造形装置。
【請求項3】
積層造形法で三次元造形物を造形する造形装置において、
前記三次元造形物が造形される造形台と、前記造形台に向かってインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面側の一部分を
外周面に付着させて取り除いてインクの上面を平坦化しインクの層の厚さを調整する平坦化ローラと、前記平坦化ローラの外周面に付着したインクを前記平坦化ローラの外周面から除去するインク除去部とを備え、
前記インク除去部は、前記平坦化ローラの外周面に付着したインクが前記インクジェットヘッドから吐出されたインクに接触する前に前記平坦化ローラの外周面に付着したインクを前記平坦化ローラの外周面から除去し、
前記平坦化ローラの外周面には、インクの上面を平坦化するときにインクが付着するインク付着面からなるインク付着部と、前記平坦化ローラの径方向の内側に向かって窪む凹部からなる非インク付着部とが形成されていることを特徴とする造形装置。
【請求項4】
前記インク付着面は、金属面であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の造形装置。
【請求項5】
前記平坦化ローラの外周面には、互いに隣接する前記インク付着部と前記非インク付着部とが前記平坦化ローラの軸方向に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の造形装置。
【請求項6】
前記インク付着部と前記非インク付着部とが市松模様状に配列されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の造形装置。
【請求項7】
前記インク付着部と前記非インク付着部とが前記平坦化ローラの軸方向において交互に配列されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の造形装置。
【請求項8】
前記インク付着部と前記非インク付着部とが前記平坦化ローラの周方向において交互に配列されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の造形装置。
【請求項9】
異なるインクを吐出する少なくとも2個の前記インクジェットヘッドを備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形法で三次元造形物を造形する造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層造形法で三次元造形物を造形する立体物造形装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の立体物造形装置は、吐出ユニットと、吐出ユニットに主走査動作を行わせる主走査駆動部と、三次元造形物が造形される造形台とを備えている。吐出ユニットは、造形台に向かって紫外線硬化型のインクを吐出する複数のインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドから吐出されたインクに紫外線を照射してインクを硬化させる紫外線光源と、平坦化ローラユニットとを備えている。
【0003】
特許文献1に記載の立体物造形装置では、平坦化ローラユニットは、インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面側の一部分を取り除いてインクの上面を平坦化しインクの層を一定の厚さにする平坦化ローラと、平坦化ローラの表面に付着したインクを掻き取るブレードと、ブレードによって掻き取られたインクを一時的に溜める貯留部と、貯留部に溜まったインクを吸引する吸引パイプとを備えている。吸引パイプは、チューブを介して吸引装置に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の立体物造形装置では、たとえば、解像度を向上させたり、インクジェットヘッドのノズルの吐出特性を平均化したりするために、マルチパス方式によって三次元造形物が造形されることがある。この場合、1つのインクの層を形成する動作において、吐出ユニットは、造形中の三次元造形物の各位置に対して複数回の主走査動作を行う。各主走査動作では、たとえば、インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面を平坦化ローラが平坦化するとともに、上面が平坦化されたインクに紫外線光源が紫外線を照射してインクを硬化させる。
【0006】
特許文献1に記載の立体物造形装置においてマルチパス方式によって三次元造形物が造形されると、すでに硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合があることが本願発明者の検討によって明らかになった。また、すでに硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触すると、硬化しているインクの一部が平坦化ローラによって削られて、削り節状の削りカスが発生する場合があることが本願発明者の検討によって明らかになった。削りカスが発生すると、ブレード上に削りカスが溜まって、ブレードによるインクの掻き取り動作に支障が生じたり、貯留部に溜まったインクを吸引する吸引パイプが削りカスで目詰まりを起こしたりして、平坦化ローラによる平坦化の動作に支障が生じるおそれがある。
【0007】
また、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとの間の摩擦力が強くなると、たとえば、スティックスリップによる平坦化ローラの異常振動が発生したり、造形途中の三次元造形物が変形したりするおそれがある。また、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとの間の摩擦力が強くなると、造形途中の三次元造形物が造形台から剥離するおそれもある。すなわち、特許文献1に記載の立体物造形装置においてマルチパス方式によって三次元造形物が造形される場合には、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触して様々な問題が生じるおそれがあるため、三次元造形物の造形不良が発生するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、マルチパス方式によって三次元造形物が造形される場合であって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合であっても、三次元造形物の造形不良の発生を抑制することが可能な造形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の造形装置は、積層造形法で三次元造形物を造形する造形装置において、三次元造形物が造形される造形台と、造形台に向かってインクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面側の一部分を外周面に付着させて取り除いてインクの上面を平坦化しインクの層の厚さを調整する平坦化ローラと、平坦化ローラの外周面に付着したインクを平坦化ローラの外周面から除去するインク除去部とを備え、インク除去部は、平坦化ローラの外周面に付着したインクがインクジェットヘッドから吐出されたインクに接触する前に平坦化ローラの外周面に付着したインクを平坦化ローラの外周面から除去し、平坦化ローラの外周面には、インクの上面を平坦化するときにインクが付着するインク付着面からなるインク付着部と、撥液性を有する面である撥液面からなる非インク付着部とが形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記の課題を解決するため、本発明の造形装置は、積層造形法で三次元造形物を造形する造形装置において、三次元造形物が造形される造形台と、造形台に向かってインクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドから吐出されたインクの上面側の一部分を外周面に付着させて取り除いてインクの上面を平坦化しインクの層の厚さを調整する平坦化ローラと、平坦化ローラの外周面に付着したインクを平坦化ローラの外周面から除去するインク除去部とを備え、インク除去部は、平坦化ローラの外周面に付着したインクがインクジェットヘッドから吐出されたインクに接触する前に平坦化ローラの外周面に付着したインクを平坦化ローラの外周面から除去し、平坦化ローラの外周面には、インクの上面を平坦化するときにインクが付着するインク付着面からなるインク付着部と、平坦化ローラの径方向の内側に向かって窪む凹部からなる非インク付着部とが形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の造形装置では、撥液性を有する面である撥液面からなる非インク付着部、または、平坦化ローラの径方向の内側に向かって窪む凹部からなる非インク付着部が平坦化ローラの外周面に形成されている。そのため、本発明では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触しても、硬化しているインクの一部が非インク付着部によって削られにくくなる。したがって、本発明では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触しても、硬化しているインクの一部が平坦化ローラによって削られにくくなる。そのため、本発明では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触しても、削りカスの発生を抑制することが可能になる。
【0012】
また、本発明では、平坦化ローラの外周面に非インク付着部が形成されているため、インクの上面と平坦化ローラとの間の摩擦力を弱めることが可能になる。したがって、本発明では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触しても、平坦化ローラの異常振動の発生、造形途中の三次元造形物の変形、および、造形途中の三次元造形物の造形台からの剥離を抑制することが可能になる。その結果、本発明では、マルチパス方式によって三次元造形物が造形される場合であって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合であっても、三次元造形物の造形不良の発生を抑制することが可能になる。
【0013】
本発明において、インク付着面と撥液面とは、平坦化ローラの外周面の同一面上に配置されていることが好ましい。このように構成すると、平坦化ローラの外周面に凹部(窪み)が形成されなくなるため、平坦化ローラの外周面に形成される凹部に未硬化のインクが入り込むことはない。したがって、たとえば、異なる色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを造形装置が備えていても、三次元造形物を造形する際に、異なる色のインクが混ざるのを防止することが可能になる。
【0014】
本発明において、たとえば、インク付着面は、金属面である。
【0015】
本発明において、平坦化ローラの外周面には、互いに隣接するインク付着部と非インク付着部とが平坦化ローラの軸方向に沿って螺旋状に形成されていることが好ましい。このように構成すると、非インク付着部を平坦化ローラに形成する際の平坦化ローラの加工を容易に行うことが可能になる。また、このように構成すると、たとえば、上述の特許文献1に記載されたブレードと同様のブレードによって平坦化ローラの外周面に付着したインクを掻き取るときに、平坦化ローラの外周面に接触するブレードの先端を、平坦化ローラの周方向の全域においてインク付着部に接触させることが可能になる。したがって、非インク付着部が撥液面である場合には、ブレードの先端によって撥液面が削り取られるのを防止することが可能になる。また、非インク付着部が凹部である場合には、ブレードの先端が凹部に嵌るのを防止することが可能になる。
【0016】
本発明において、インク付着部と非インク付着部とが市松模様状に配列されていても良い。また、本発明において、インク付着部と非インク付着部とが平坦化ローラの軸方向において交互に配列されていても良い。インク付着部と非インク付着部とが平坦化ローラの軸方向において交互に配列されている場合には、たとえば、上述の特許文献1に記載されたブレードと同様のブレードによって平坦化ローラの外周面に付着したインクを掻き取るときに、平坦化ローラの外周面に接触するブレードの先端を、平坦化ローラの周方向の全域においてインク付着部に接触させることが可能になる。したがって、非インク付着部が撥液面である場合には、ブレードの先端によって撥液面が削り取られるのを防止することが可能になる。また、非インク付着部が凹部である場合には、ブレードの先端が凹部に嵌るのを防止することが可能になる。
【0017】
本発明において、インク付着部と非インク付着部とが平坦化ローラの周方向において交互に配列されていても良い。また、本発明において、造形装置は、たとえば、異なるインクを吐出する少なくとも2個のインクジェットヘッドを備えている。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の造形装置では、マルチパス方式によって三次元造形物が造形される場合であって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラとが接触する場合であっても、三次元造形物の造形不良の発生を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる造形装置の構成を説明するための概略図である。
【
図2】
図1に示す平坦化ローラユニットの構成を説明するための概略図である。
【
図3】
図1に示す平坦化ローラの一部分の側面図である。
【
図4】(A)は、
図1に示す造形装置の効果を確認するための実験状態を示す概略図であり、(B)は、実験結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラの側面図である。
【
図6】
図5のE部の構成を説明するための拡大図である。
【
図7】
図5に示す平坦化ローラの構成を説明するための断面図である。
【
図8】本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラの構成を説明するための拡大図である。
【
図9】本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラの構成を説明するための拡大図である。
【
図10】本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラの構成を説明するための拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
(造形装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる造形装置1の構成を説明するための概略図である。
図2は、
図1に示す平坦化ローラユニット22の構成を説明するための概略図である。
図3は、
図1に示す平坦化ローラ21の一部分の側面図である。
【0022】
本形態の造形装置1は、積層造形法で三次元造形物2を造形する業務用のインクジェットプリンタである。造形装置1は、三次元造形物2が造形される造形台3と、三次元造形物2を造形するための吐出ユニット4と、吐出ユニット4が搭載されるキャリッジ5とを備えている。吐出ユニット4は、造形台3よりも上側に配置されている。また、造形装置1は、主走査方向へキャリッジ5を移動させるキャリッジ駆動機構と、造形台3を昇降させる造形台昇降機構と、主走査方向に直交する副走査方向へ造形台3を移動させる造形台駆動機構とを備えている。
【0023】
吐出ユニット4は、造形台3に向かってインクを吐出する複数のインクジェットヘッド11~18を備えている。本形態の吐出ユニット4は、8個のインクジェットヘッド11~18を備えている。インクジェットヘッド11~18は、下側に向かってインクを吐出する。インクジェットヘッド11~18から吐出されるインクは、紫外線硬化型のインクである。また、吐出ユニット4は、インクジェットヘッド11~18から造形台3に向かって吐出された紫外線硬化型のインクに紫外線を照射してインクを硬化させる2個の紫外線照射器20と、インクジェットヘッド11~18から造形台3に向かって吐出されたインクの上面側(表面側)の一部分を取り除いてインクの上面を平坦化する平坦化ローラ21を有する平坦化ローラユニット22とを備えている。
【0024】
紫外線照射器20と、インクジェットヘッド11と、インクジェットヘッド12と、インクジェットヘッド13と、インクジェットヘッド14と、インクジェットヘッド15と、インクジェットヘッド16と、インクジェットヘッド17と、インクジェットヘッド18と、平坦化ローラユニット22と、紫外線照射器20とは、主走査方向の一方側から他方側に向かってこの順番でキャリッジ5に搭載されている。紫外線照射器20は、UVLED、メタルハライドランプあるいは水銀ランプ等である。本形態の紫外線照射器20は、UVLEDである。
【0025】
インクジェットヘッド11は、三次元造形物2を支持するためのサポート用のインク(サポート材)を吐出する。インクジェットヘッド12は、造形用のインク(造形材)を吐出する。インクジェットヘッド13は、白色のインクを吐出する。インクジェットヘッド14~17は、色付きのインク(カラーインク)を吐出する。本形態では、インクジェットヘッド14から吐出されるインクの色はイエローであり、インクジェットヘッド15から吐出されるインクの色はマゼンタであり、インクジェットヘッド16から吐出されるインクの色はシアンであり、インクジェットヘッド17から吐出されるインクの色はブラックである。インクジェットヘッド18は、透明なインク(クリアインク)を吐出する。すなわち、吐出ユニット4は、異なるインクを吐出する8個のインクジェットヘッド11~18を備えている。
【0026】
平坦化ローラユニット22は、平坦化ローラ21が固定される回転軸23と、造形台3に向かって吐出されたインクの上面を平坦にするときに平坦化ローラ21の外周面に付着したインクを平坦化ローラ21の外周面から除去するインク除去部としてのブレード24と、ブレード24によって平坦化ローラ21の外周面から除去されたインクを回収するインク回収部25とを備えている。また、平坦化ローラユニット22は、平坦化ローラ21を回転させるローラ回転機構と、平坦化ローラ21を昇降させるローラ昇降機構とを備えている。
【0027】
ブレード24は、ブレード24の先端が平坦化ローラ21の外周面に接する位置に配置されている。平坦化ローラ21が回転すると、ブレード24によって平坦化ローラ21の外周面に付着したインクが掻き取られて除去される。インク回収部25は、ブレード24によって平坦化ローラ21の外周面から除去されたインクが溜まるインク容器26と、インク容器26からインクを吸引するための吸引パイプ27とを備えている。吸引パイプ27は、チューブ28を介して吸引装置に接続されている。
【0028】
平坦化ローラ21は、たとえば、鋼鉄系の金属材料で形成されている。本形態の平坦化ローラ21は、ステンレス鋼で形成されている。また、平坦化ローラ21は、厚肉の円筒状に形成されている。
図2に示すように、三次元造形物2の一部分を構成する1つのインクの層(インク層)L1を形成するときに、インクジェットヘッド11~18から吐出されるインクの厚さをTとすると、平坦化ローラ21は、紫外線が照射される前の未硬化のインク層L1の厚さt1が、インク層L1よりも下側に配置されるとともに紫外線が照射されて硬化しているインクの層(インク層)L2の厚さt2と同じ厚さになるように、紫外線が照射される前の未硬化のインクのうちの厚さ(T-t2)に相当する分を取り除いてインクの上面を平坦化する。
【0029】
すなわち、平坦化ローラ21は、インクジェットヘッド11~18から吐出されたインクの上面側の一部分を取り除くことで、インクの層の厚さを調整する。具体的には、平坦化ローラ21は、インクジェットヘッド11~18から吐出されたインクの上面側の一部分を取り除くことで、インクの層の厚さを一定にする。インクジェットヘッド11~18から吐出されるインクの厚さTは、たとえば、設計上、20μmであり、この場合、平坦化ローラ21によって取り除かれるインクの厚さ(T-t2)は、設計上、最大で4μmである。また、この場合、平坦化ローラ20の外径は、20mmである。
【0030】
本形態では、造形装置1は、マルチパス方式によって三次元造形物2を造形する。すなわち、三次元造形物2の一部分を構成する1つのインクの層を形成する際に、吐出ユニット4は、造形中の三次元造形物2の各位置に対して複数回の主走査動作を行う。この複数回の主走査動作の中の各主走査動作では、インクジェットヘッド11~18から吐出されたインクの上面を平坦化ローラ21が平坦にするとともに、上面が平坦となったインクに紫外線照射器20が紫外線を照射してインクを硬化させる。
【0031】
平坦化ローラ21の外周面(外周側の表面)には、平坦化ローラ21の外周面から平坦化ローラ21の径方向の内側に向かって窪む凹部21aが形成されている(
図3参照)。凹部21aは、平坦化ローラ21の軸方向に沿って回転しながら進む螺旋状に形成されている。すなわち、平坦化ローラ21の外周面には、ネジ状の凹部21aが形成されている。なお、凹部21aは、一条ネジ状に形成されていても良いし、二条ネジ状に形成されていても良い。また、本形態では、凹部21aの断面形状は、四角形状となっているが、凹部21aの断面形状は、三角形状であっても良い。
【0032】
凹部21aには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂またはポリエチレンあるいはシリコーン等の撥液性(撥水性)を有する材料が充填されている。本形態では、PTFEが凹部21aに充填されている。平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分は、メッキ加工によって形成される金属の被膜によって覆われている。本形態では、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分は、クロムメッキ加工によって形成されるクロムの被膜によって覆われている。すなわち、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分は、金属面となっている。
【0033】
本形態では、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分は、平坦化ローラ21がインクの上面を平坦化するときにインクが付着するインク付着面21bとなっている。一方、凹部21aに充填されるPTEFの表面(すなわち、平坦化ローラ21の外周面の、インク付着面21bを除いた部分)は、撥液性を有する撥液面21cとなっている。インク付着面21bと撥液面21cとは、平坦化ローラ21の外周面の同一面上に配置されている。すなわち、平坦化ローラ21のインク付着面21bが形成された部分の外径と、平坦化ローラ21の撥液面21cが形成された部分の外径とは等しくなっている。
【0034】
撥液面21cには、インクの上面を平坦化ローラ21によって平坦化する際に、未硬化のインクは付着しない。また、撥液面21cには、マルチパス方式によって三次元造形物2を造形する際に、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21の外周面とが接触しても、硬化しているインクは付着しない。すなわち、平坦化ローラ21の外周面には、インク付着面21bからなるインク付着部21dと、撥液面21cからなる非インク付着部21eとが形成されている。具体的には、平坦化ローラ21の外周面には、互いに隣接するインク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向に沿って螺旋状に形成されている。平坦化ローラ21の外周面において、撥液面21cが占める面積の割合は、たとえば、30%~50%の範囲となっている。
【0035】
平坦化ローラ21を製造するときには、まず、平坦化ローラ21の原材料となる厚肉の円筒状部材の外周面に、切削加工等によって凹部21aを形成する。その後、凹部21aにPTFEが充填されるように、平坦化ローラ21の外周面の全体を、蒸着等によってPTFEでコーティングする。その後、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分の表面が露出するまで、平坦化ローラ21の外周面を研磨する。その後、クロムメッキ加工を行って、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分にクロムの被膜を形成する。その後、平坦化ローラ21の外周面の、凹部21aが形成されていない部分に形成されるクロムの被膜を研磨すると、平坦化ローラ21が完成する。
【0036】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、撥液性を有する面である撥液面21cからなる非インク付着部21eが平坦化ローラ21の外周面に形成されている。そのため、本形態では、マルチパス方式によって三次元造形物2を造形する際に、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、硬化しているインクの一部が非インク付着部21eによって削られにくくなる。したがって、本形態では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、硬化しているインクの一部が平坦化ローラ21によって削られにくくなる。そのため、本形態では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、削りカスの発生を抑制することが可能になる。
【0037】
また、本形態では、平坦化ローラ21の外周面に非インク付着部21eが形成されているため、インクの上面と平坦化ローラ21との間の摩擦力を弱めることが可能になる。したがって、本形態では、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、平坦化ローラ21の異常振動の発生、造形途中の三次元造形物2の変形、および、造形途中の三次元造形物2の造形台3からの剥離を抑制することが可能になる。その結果、本形態では、マルチパス方式によって三次元造形物2が造形される場合であって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触する場合であっても、三次元造形物2の造形不良の発生を抑制することが可能になる。
【0038】
本形態では、インク付着面21bと撥液面21cとは、平坦化ローラ21の外周面の同一面上に配置されている。そのため、本形態では、平坦化ローラ21の外周面に形成される凹部21aに未硬化のインクが入り込むことはない。したがって、本形態では、異なるインクを吐出する8個のインクジェットヘッド11~18を造形装置1が備えていても、三次元造形物2を造形する際に、異なるインクが混ざり合うのを防止することが可能になる。
【0039】
本形態では、金属面であるインク付着面21bは、平坦化ローラ21の軸方向に沿って回転しながら進む螺旋状に形成されている。そのため、本形態では、ブレード24によって平坦化ローラ21の外周面に付着したインクを掻き取るときに、平坦化ローラ21の外周面に接触するブレード24の先端が、平坦化ローラ21の周方向の全域においてインク付着部21bに接触する。したがって、本形態では、撥液面21cを構成するPTFEがブレード24の先端によって削り取られるのを防止することが可能になる。
【0040】
本形態では、凹部21aは、平坦化ローラ21の軸方向に沿って回転しながら進む螺旋状に形成されている。そのため、本形態では、凹部21aを平坦化ローラ21に形成する際の平坦化ローラ21の加工を容易に行うことが可能になる。
【0041】
なお、本願発明者の実験結果によると、平坦化ローラ21の外周面に非インク付着部21eが形成されていても、インクジェットヘッド11~18から吐出されたインクの上面側の一部分を平坦化ローラ21によって十分に取り除くことができると推定される。実験では、
図4(A)に示すように、外周面に非インク付着部21eが形成されていない平坦化ローラ71(すなわち、外周面の全体がインク付着部21dとなっている平坦化ローラ71)の下端部を、インクが充填されているインク容器72の中に配置するとともに、平坦化ローラ71を所定の回転速度で回転させて、平坦化ローラ71がインク容器72から汲み上げるインクの重量を測定した。
【0042】
平坦化ローラ71がインク容器72から汲み上げるインクの重量は、平坦化ローラ71の上端側で平坦化ローラ71の外周面に接触するインク吸収材73に吸収されたインクの重量によって測定した。また、平坦化ローラ71がインク容器72から汲み上げるインクの重量に基づいて、平坦化ローラ71がインク容器72から汲み上げるインクの、平坦化ローラ71の外周面上の膜厚を算出した。また、実験では、外径が30mmの平坦化ローラ71と、外径が15mmの平坦化ローラ71とを使用した。
【0043】
実験の結果を
図4(B)に示す。
図4(B)に示すように、平坦化ローラ71がインク容器72から汲み上げるインクの、平坦化ローラ71の外周面上の膜厚は、最低でも100μm程度であった。上述のように、外径が20mmの平坦化ローラ21が取り除くインクの厚さ(T-t2)は、設計上、最大で4μmであるため、この実験結果を考慮すると、上述のように、平坦化ローラ21の外周面に非インク付着部21eが形成されていても、インクジェットヘッド11~18から吐出されたインクの上面側の一部分を平坦化ローラ21によって十分に取り除くことができると推定される。
【0044】
(平坦化ローラの変形例1)
図5は、本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラ21の側面図である。
図6は、
図5のE部の構成を説明するための拡大図である。
図7は、
図5に示す平坦化ローラ21の構成を説明するための断面図である。
図8~
図10は、本発明の他の実施の形態にかかる平坦化ローラ21の構成を説明するための拡大図である。なお、
図8~
図10では、
図5のE部に対応する部分の構成を図示している。
【0045】
図6に示すように、平坦化ローラ21の外周面に形成される複数のインク付着面21b(
図6の白抜きの部分)と複数の撥液面21c(
図6の黒塗りの部分)とが市松模様状に配列されていても良い。すなわち、インク付着部21dと非インク付着部21eとが市松模様状に配列されていても良い。
図6に示す変形例では、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向において交互に配列されるとともに、平坦化ローラ21の周方向において交互に配列されている。この場合には、平坦化ローラ21の外周面に、複数の凹部21a(
図7参照)が市松模様状に形成されている。また、この場合には、インク付着面21bおよび非インク付着部21eは、たとえば、四角形状に形成されている。具体的には、インク付着面21bおよび非インク付着部21eは、正方形状に形成されている。
【0046】
また、インク付着部21dと非インク付着部21eとが市松模様状に配列されている場合には、
図8(A)に示すように、インク付着部21dと非インク付着部21eとが、平坦化ローラ21の軸方向と平坦化ローラ21の周方向とに対して傾いている方向において交互に配列されていても良い。
【0047】
また、
図8(B)に示すように、平坦化ローラ21の外周面に形成される複数のインク付着面21b(
図8(B)の白抜きの部分)と複数の撥液面21c(
図8(B)の黒塗りの部分)とが平坦化ローラ21の軸方向において交互に配列されていても良い。すなわち、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向において交互に配列されていても良い。
図8(B)に示す変形例では、インク付着部21dおよび非インク付着部21eは、平坦化ローラ21の周方向に沿う円環状に形成されている。この場合には、平坦化ローラ21の外周面に、平坦化ローラ21の周方向に沿う円環状の複数の凹部21aが形成されている。
【0048】
また、
図9(A)に示すように、複数のインク付着面21b(
図9(A)の白抜きの部分)と複数の撥液面21c(
図9(A)の黒塗りの部分)とが平坦化ローラ21の軸方向において交互に配列されるとともに、平坦化ローラ21の周方向において交互に配列されていても良い。すなわち、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向において交互に配列されるとともに、平坦化ローラ21の周方向において交互に配列されていても良い。
【0049】
また、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の周方向においてのみ交互に配列されていても良い。この場合には、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向に沿う直線状に形成されている。また、この場合には、平坦化ローラ21の外周面に、平坦化ローラ21の軸方向に沿う直線状の複数の凹部21aが形成されている。
【0050】
さらに、
図9(B)に示すように、直線状に形成される複数のインク付着面21b(
図9(B)の白抜きの部分)と直線状に形成される複数の撥液面21c(
図9(B)の黒塗りの部分)とが平坦化ローラ21の軸方向と平坦化ローラ21の周方向とに対して傾斜する方向で交互に配列されていても良い。すなわち、インク付着部21dと非インク付着部21eとが平坦化ローラ21の軸方向と平坦化ローラ21の周方向とに対して傾斜する方向で交互に配列されていても良い。
【0051】
また、
図10(A)に示すように、菱形状に形成される複数の撥液面21c(
図10(A)の黒塗りの部分)が、平坦化ローラ21の軸方向および平坦化ローラ21の周方向において規則的に配列されていても良い。すなわち、菱形状に形成される非インク付着部21eが平坦化ローラ21の軸方向および平坦化ローラ21の周方向において規則的に配列されていても良い。また、
図10(B)に示すように、複数の撥液面21c(
図10(B)の黒塗りの部分)がランダムに配置されていても良い。すなわち、複数の非インク付着部21eがランダムに配置されていても良い。
【0052】
なお、
図8(B)に示す変形例、
図9に示す変形例および
図10(A)に示す変形例では、ブレード24によって平坦化ローラ21の外周面に付着したインクを掻き取るときに、平坦化ローラ21の外周面に接触するブレード24の先端が、平坦化ローラ21の周方向の全域においてインク付着部21bに接触する。そのため、この変形例では、撥液面21cを構成するPTFEがブレード24の先端によって削り取られるのを防止することが可能になる。
【0053】
(平坦化ローラの変形例2)
上述した形態および変形例において、凹部21aに、撥液性を有する材料が充填されていなくても良い。この場合には、凹部21aは、非インク付着部21eとなっており、マルチパス方式によって三次元造形物2を造形する際に、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、凹部21aには、硬化しているインクは付着しない。すなわち、この場合には、平坦化ローラ21の外周面に、インク付着面21bからなるインク付着部21dと、凹部21cから非インク付着部21eとが形成されている。
【0054】
この場合には、マルチパス方式によって三次元造形物2を造形する際に、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21の外周面とが接触しても、硬化しているインクの一部が非インク付着部21eによって削られることはない。そのため、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、硬化しているインクの一部が平坦化ローラ21によってより削られにくくなる。したがって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、削りカスの発生をより抑制することが可能になる。
【0055】
また、この場合であっても、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21との間の摩擦力を弱めることが可能になるため、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触しても、平坦化ローラ21の異常振動の発生、造形途中の三次元造形物2の変形、および、造形途中の三次元造形物2の造形台3からの剥離を抑制することが可能になる。したがって、マルチパス方式によって三次元造形物2が造形される場合であって、硬化しているインクの上面と平坦化ローラ21とが接触する場合であっても、三次元造形物2の造形不良の発生を抑制することが可能になる。
【0056】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0057】
上述した形態において、撥液面21cが、インク付着面21bよりも平坦化ローラ21の径方向の内側に配置されていても良い。また、上述した形態において、平坦化ローラユニット22は、ブレード24に代えて、平坦化ローラ21の外周面に付着したインクを平坦化ローラ21の外周面から吸引して除去する吸引ヘッドを備えていても良い。この場合には、吸引ヘッドの吸引口が、平坦化ローラ21の外周面との間に隙間をあけた状態で配置されている。この場合の吸引ヘッドは、インク除去部である。
【符号の説明】
【0058】
1 造形装置
2 三次元造形物
3 造形台
11~18 インクジェットヘッド
21 平坦化ローラ
21a 凹部
21b インク付着面
21c 撥液面
21d インク付着部
21e 非インク付着部
24 ブレード(インク除去部)