IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧 ▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-補助排障器 図1
  • 特許-補助排障器 図2
  • 特許-補助排障器 図3
  • 特許-補助排障器 図4
  • 特許-補助排障器 図5
  • 特許-補助排障器 図6
  • 特許-補助排障器 図7
  • 特許-補助排障器 図8
  • 特許-補助排障器 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】補助排障器
(51)【国際特許分類】
   B61F 19/06 20060101AFI20230501BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B61F19/06
B61D49/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019209291
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021079838
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 真理子
(72)【発明者】
【氏名】宇田 東樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義博
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-327452(JP,A)
【文献】特開2016-010985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 19/00,19/04-19/06
B61D 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両先端の下部又は、鉄道車両の先端面の下部に配設されるスノープラウに取り付けられる補助排障器であって、
当該補助排障器は、前記鉄道車両の下部又は前記スノープラウに取り付けられる取付部と、前記取付部から下方に延びる排障部とを有し、
前記排障部は、前記スノープラウ又は前記鉄道車両の底面に沿って延設される厚肉部を有し、
前記厚肉部は、前記排障部の延設方向と略直交する方向に延設されると共に、前記排障部の延設方向の両端から延びる側面を有することを特徴とする補助排障器。
【請求項2】
請求項1に記載の補助排障器において、
前記厚肉部は、前記側面同士が漸次近接するように連続する斜面を有することを特徴とする補助排障器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の補助排障器において、
前記排障部及び前記厚肉部は、前記鉄道車両の先端側に傾斜する先端側傾斜面を有することを特徴とする補助排障器。
【請求項4】
請求項1に記載の補助排障器において、
前記厚肉部は、前記底面に対して傾斜する底面側傾斜面を有することを特徴とする補助排障器。
【請求項5】
請求項4に記載の補助排障器において
前記底面側傾斜面は、前記排障部の下端から延設されることを特徴とする補助排障器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線などの高速鉄道車両に取り付けられる補助排障器に関し、特に走行速度が高速化することによって発生する空力音を低減することができる補助排障器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両が走行するレール上に異物が存在する場合に、当該異物を取り除くことを目的として鉄道車両の先端の下部や鉄道車両の先端面の下部に設置されるスノープラウに補助排障器が取り付けられている。
【0003】
補助排障器は、スノープラウからレールに向かって延設され、レールの上面との間に所定の間隔を有するように設置されたゴム板状の部材であり、レール上に異物などが存在する場合に、補助排障器がレール上の異物をレール外にはじき出すなどして当該異物をレール上から取り除いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-184380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の補助排障器は、スノープラウの前縁に沿った板状の形状となっている。この形状によって、鉄道車両が高速で走行すると、高速の気流にさらされることで空力音が発生し、当該空力音が騒音問題に繋がる可能性があるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、補助排障器で発生する空力音を低減すると共に、鉄道車両やスノープラウ自体の変更を伴うことなく、従来の鉄道車両に適用可能な補助排障器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る補助排障器は、鉄道車両先端の下部又は、鉄道車両の先端面の下部に配設されるスノープラウに取り付けられる補助排障器であって、当該補助排障器は、前記鉄道車両の下部又は前記スノープラウに取り付けられる取付部と、前記取付部から下方に延びる排障部とを有し、前記排障部は、前記スノープラウ又は前記鉄道車両の底面に沿って延設される厚肉部を有し、前記厚肉部は、前記排障部の延設方向と略直交する方向に延設されると共に、前記排障部の延設方向の両端から延びる側面を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る補助排障器において、前記厚肉部は、前記側面同士が漸次近接するように連続する斜面を有すると好適である。
【0009】
また、本発明に係る補助排障器において、前記排障部及び前記厚肉部は、前記鉄道車両の先端側に傾斜する先端側傾斜面を有すると好適である。
【0010】
また、本発明に係る補助排障器において、前記厚肉部は、前記底面に対して傾斜する底面側傾斜面を有すると好適である。
【0011】
また、本発明に係る補助排障器において、前記底面側傾斜面は、前記排障部の下端から延設されると好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る補助排障器は、スノープラウに取り付けられる取付部と、取付部から下方に延びる排障部とを有し、排障部は、スノープラウ又は鉄道車両の底面に沿って延設される厚肉部を有するので、厚肉部によって補助排障器前縁における渦の放出及び巻き込みを弱めることができ、空力音を低減させることができる。また、スノープラウへの取付部は従来と同様の形状とすることができるので、スノープラウに変更を加えることなく空力音の低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の斜視図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の底面図。
図3】本発明の第1の実施形態に係る補助排障器の斜視図。
図4】本発明の第2の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の底面図。
図5】本発明の第2の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図。
図6】本発明の第3の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図。
図7】本発明の第4の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図。
図8】本発明の各実施形態に係る補助排障器の消音効果を確認した測定結果。
図9】本発明の各実施形態に係る補助排障器の消音効果を確認した測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の斜視図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の底面図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る補助排障器の斜視図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る補助排障器10は、鉄道車両1の先端面の下部に配設されるスノープラウ2に取り付けられる。補助排障器10は、スノープラウ2に取り付けられた状態でレール3と所定の間隔を有して配置されており、レール3上に鉄道車両の走行の支障となるような障害物が載置されている場合に、当該障害物をレール3外に弾き飛ばし、鉄道車両1の車輪とレール3の間に障害物が噛みこむことで、鉄道車両1の走行の支障となることを防止している。
【0018】
図1及び2に示すように、本実施形態に係る補助排障器10は、スノープラウ2に取り付けられる取付部11と、取付部11から下方に延びると共にレール3から所定の間隔をもって配置される排障部12と、スノープラウ2又は鉄道車両1の底面に沿って延設される厚肉部13を有している。
【0019】
本実施形態に係る補助排障器10は、スノープラウ2の先端側にレール3に対応するように一対取り付けられており、切妻状に形成されたスノープラウ2の外縁に沿って進行方向Fに対して所定の角度傾斜した略ハの字に配置されている。
【0020】
図3に示すように、本実施形態に係る補助排障器10は、ゴム等の弾性体で構成されると好適であり、一体に形成された部材であって、スノープラウ2に取り付ける取付部11と取付部11から下方に延びる排障部12とを有している。取付部11には、取付孔14が形成され、当該取付孔14にボルトなどの締結手段を挿通することで補助排障器10の取り付けを行っている。
【0021】
なお、取付部11及び排障部12は、スノープラウ2の形状に沿うように、進行方向前方から見た状態で鉛直方向から所定の角度傾斜しており、一対の補助排障器10は、進行方向前方から見た状態でも略ハの字に配置されている。
【0022】
図2に示すように、排障部12は、一対の補助排障器10の対向する方向に向かって突出するように厚肉部13が形成されている。図3に示すように、厚肉部13は、排障部12の延設方向と略直交する方向に延設されると共に、排障部12の延設方向の両端から延びる側面21と、側面21の一端から側面21同士が漸次近接するように連続する斜面22とを有した形状となっている。
【0023】
このように、本実施形態に係る補助排障器10は、排障部12の背面(互いの補助排障器10が対向する面)に厚肉部13を形成することで厚みを持たせた形状となり、鉄道車両の走行に伴って当該厚肉部13によって補助排障器10の前縁において生じる渦の放出や巻き込みを弱めることができ、当該渦による空力音の低減を図ることが可能となる。また、本実施形態に係る補助排障器10によれば、鉄道車両やスノープラウ自体の変更を伴うことなく、従来の鉄道車両に適用可能な補助排障器10を提供することができる。
【0024】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係る補助排障器10は、厚肉部13を側面21と斜面22とを有する形状である場合について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る補助排障器10aは、第1の実施形態とは異なる形態を有する厚肉部の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0025】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る補助排障器を取り付けた鉄道車両の底面図であり、図5は、本発明の第2の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図である。
【0026】
図4に示すように、本実施形態に係る補助排障器10aは、第1の実施形態に係る補助排障器10と同様に排障部12の背面に厚肉部13aが形成されている。本実施形態に係る補助排障器10aの排障部12及び厚肉部13aは、鉄道車両の先端側に傾斜する先端側傾斜面23,24を有している。
【0027】
図5に示すように、本実施形態に係る補助排障器10aの厚肉部13aは、排障部12の延設方向と略直交する方向に延設されると共に、排障部12の延設方向の後端側から延びる側面21と、排障部12の先端側及び側面21の一端から延びると共に漸次近接するように連続する斜面22とを有した形状となっている。さらに、厚肉部13aの先端側は、先端側傾斜面23が形成されており、同様に排障部12の先端側も先端側傾斜面23と対応するように傾斜面24が形成されている。
【0028】
このように、本実施形態に係る補助排障器10aは、厚肉部13aの先端側に先端側傾斜面23,24を形成しているので、鉄道車両の走行に伴って当該厚肉部13aや先端側傾斜面23,24によって補助排障器10aの前縁において生じる渦の放出や巻き込みを弱めることができ、当該渦による空力音の低減を図ることが可能となる。また、本実施形態に係る補助排障器10aによれば、鉄道車両やスノープラウ自体の変更を伴うことなく、従来の鉄道車両に適用可能な補助排障器10aを提供することができる。
【0029】
[第3の実施形態]
以上説明した第2の実施形態に係る補助排障器10aは、厚肉部13aの先端側に先端側傾斜面23、24を有する形状である場合について説明を行った。次に説明する第3の実施形態に係る補助排障器10cは、第1及び第2の実施形態とは異なる形態を有する厚肉部の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1及び第2の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0030】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図である。
【0031】
図6に示すように、本実施形態に係る補助排障器10cは、第1及び2の実施形態に係る補助排障器10,10aと同様に排障部12の背面に厚肉部13cが形成されている。
【0032】
本実施形態に係る補助排障器10cの厚肉部13cは、排障部12の延設方向と略直交する方向に延設されると共に、排障部12の延設方向の両端から延びる側面21と、排障部12の下端から延設される底面側傾斜面25とを有した形状となっている。このように、本実施形態に係る補助排障器10cは、第1及び第2の実施形態に係る補助排障器10,10aとは異なり、側面21から連続する斜面22が形成されておらず、底面側傾斜面25は、側面21に沿って延設されている。
【0033】
このように、本実施形態に係る補助排障器10cは、厚肉部13cの底面側に底面側傾斜面25を形成しているので、鉄道車両の走行に伴って当該厚肉部13や底面側傾斜面25によって補助排障器10cの前縁において生じる渦の放出や巻き込みを弱めることができ、当該渦による空力音の低減を図ることが可能となる。また、本実施形態に係る補助排障器10cによれば、鉄道車両やスノープラウ自体の変更を伴うことなく、従来の鉄道車両に適用可能な補助排障器10cを提供することができる。
【0034】
[第4の実施形態]
以上説明した第3の実施形態に係る補助排障器10cは、厚肉部13cの底面側に底面側傾斜面25を有する形状である場合について説明を行った。次に説明する第4の実施形態に係る補助排障器10dは、第1~第3の実施形態とは異なる形態を有する厚肉部の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1から第3の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0035】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る補助排障器の拡大斜視図である。
【0036】
図7に示すように、本実施形態に係る補助排障器10dは、第1~第3の実施形態に係る補助排障器10,10a,10cと同様に排障部12の背面に厚肉部13dが形成されている。
【0037】
本実施形態に係る補助排障器10dの厚肉部13dは、補助排障器10dの延設方向に沿って、先端側から後端側に向かって漸次厚みが増加するように形成されている。
【0038】
このように、本実施形態に係る補助排障器10dは、補助排障器10d自体を先端側から後端側に向かって漸次厚みが増加するように形成しているので、鉄道車両の走行に伴って補助排障器10dの前縁において生じる渦の放出や巻き込みを弱めることができ、当該渦による空力音の低減を図ることが可能となる。また、本実施形態に係る補助排障器10dによれば、鉄道車両やスノープラウ自体の変更を伴うことなく、従来の鉄道車両に適用可能な補助排障器10dを提供することができる。
【実施例
【0039】
次に、本発明を更に具体的に説明するために、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態に係る補助排障器について騒音低減効果を確認する実験を実施した。当該実験は、鉄道車両先頭部の1/6.3縮尺模型を用いた風洞試験機において、風速を200km/hで生じる空力音の音圧レベルを測定したものである。
【0040】
実施例1は、第1の実施形態に係る補助排障器10、実施例2は、第2の実施形態に係る補助排障器10a、実施例3は、第3の実施形態に係る補助排障器10c、実施例4は、第4の実施形態に係る補助排障器10d並びに比較例は、従来の補助排障器を風洞試験用模型に取り付けてそれぞれの音圧レベルを測定した。
【0041】
図8に示すように、実施例1及び2では、比較例と比べて50Hzから500Hz帯における空力音を2から7.5dB低減することが確認できた。また、実施例1及び2は、オーバーオール値でも2dB以上の空力音の低減効果が認められた。
【0042】
また、図9に示すように、実施例3及び4についても実施例1及び2のように排障部12の背面を大きく肉厚部を形成しなくとも、100Hzから630Hz帯で空力音が低減することが確認できた。
【0043】
なお、図8及び図9に示すように、実施例1から4は、形状に応じて音圧レベルが低減する周波数帯が異なっているため、低減したい周波数帯に応じて適宜実施例1から4を採用することで、より効果的な空力音の低減を図ることが可能となる。
【0044】
また、上述した本実施形態に係る補助排障器10,10a,10c,10dは、排障部12の背面に種々の形状で厚肉部を形成した場合について説明を行ったが、その形状は、各実施形態に係る補助排障器の形状に限らず、種々の形状に変更しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄道車両, 2 スノープラウ, 3 レール, 10,10a,10c,10d 補助排障器, 11 取付部, 12 排障部, 13,13a,13c,13d 厚肉部, 14 取付孔, 21 側面, 22 斜面, 23,24 先端側傾斜面, 25 底面側傾斜面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9