(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】永久磁石回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20230501BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230501BHJP
H01F 13/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
H02K15/03 H
H01F41/02 G
H01F13/00 350
(21)【出願番号】P 2019211531
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591027042
【氏名又は名称】日本電磁測器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】日南田 純平
(72)【発明者】
【氏名】溝口 徹彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 成康
(72)【発明者】
【氏名】花田 和成
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直矢
(72)【発明者】
【氏名】堀 充孝
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-274618(JP,A)
【文献】特開2011-078268(JP,A)
【文献】特開2006-295122(JP,A)
【文献】特開2014-099600(JP,A)
【文献】特開2015-012038(JP,A)
【文献】特開平06-315252(JP,A)
【文献】特開2016-063555(JP,A)
【文献】特開2014-150638(JP,A)
【文献】特開2014-87075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H01F 41/02
H01F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、
前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を加熱温度T
1で加熱して、前記着磁前永久磁石の温度分布αを求める工程Bと、
前記関係Xおよび前記温度分布αから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低磁界H
minを求める工程Cと、
前記着磁前永久磁石の全体を前記最低磁界H
min以上で着磁するために着磁ヨークにて発生させる磁界H
1を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T
1で加熱した後、前記磁界H
1によって着磁して、着磁後回転子を得る工程Dと、
を備える永久磁石回転子の製造方法。
【請求項2】
鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、
前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を着磁ヨークにて発生させた磁界H
2で着磁した場合に、配置された前記永久磁石回転子の位置における有効磁界分布βを求める工程Eと、
前記関係Xおよび前記有効磁界分布βから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低温度T
minを求める工程Fと、
前記着磁前永久磁石の全体を前記最低温度T
min以上とすることができる加熱温度T
2を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T
2で加熱した後、前記磁界H
2で着磁して、着磁後回転子を得る工程Gと、
を備える永久磁石回転子の製造方法。
【請求項3】
前記着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認する工程Jをさらに有する、請求項1または2に記載の永久磁石回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類磁石(ネオジム磁石等)のような保磁力が高い磁石が、モーター等に利用される永久磁石回転子として用いられる場合がある。保磁力が高い磁石は耐熱性が高いという利点を有する。
【0003】
永久磁石回転子に搭載される永久磁石を多極着磁する方法として、例えばコイル通電方式の着磁装置を用いた方法が挙げられる。この着磁装置には、被着磁物である回転子を挿入・抜出可能な穴部が着磁ヨークの中心に設けられ、その穴部の内壁面に軸方向に延びる溝が着磁の極数に応じて形成されている。さらにその溝内には、絶縁性被膜を施した導線が埋設されており、隣り合う導線がつづら折れ状に連続してコイルを形成している。
このような穴部に被着磁物を挿入し、コンデンサに蓄えた電荷を瞬時に放出することでコイルにパルス電流を流し、そのパルス電流によって着磁ヨークに発生した着磁磁場により、回転子に搭載された磁石の着磁を行うことができる。
【0004】
しかしながら、保磁力が高い磁石を着磁するには高い着磁磁場が必要となるため、着磁装置(着磁ヨーク)は大型化し、または着磁のために高い電力が必要にあるというデメリットが生じていた。例えば結晶粒径が小さく保磁力が高い磁石は、例えば特許文献1に記載のような方法によって、複数回にわたって着磁することで完全着磁を達成できる可能性もあるが、高い電力が必要となり、また、着磁するために長時間が必要となる。
【0005】
そして、着磁が不十分になってしまうと、特に希土類磁石においては温度上昇時に不可逆減磁が発生しやすい。
そこで、被着磁物を高温に加熱することで着磁に要する着磁磁場を減少させた後に着磁する方法が提案されている。
【0006】
例えば特許文献2には、複数個の希土類磁石材を回転子鉄心の外周側に配置して成る回転子と、この回転子と所定間隙を隔てて対向設置される固定子とを備えた永久磁石界磁型回転電機において、組み立て時に、回転子軸に回転子を焼き嵌め等で固定し、固定子と回転子が所定の関係位置に対向設置した後、回転子が高温度を保持している間に、着磁電源の電圧を固定子巻線に印加して上記回転子を構成する希土類磁石材を着磁するようにしたことを特徴とする永久磁石界磁型回転電機における界磁の着磁方法が記載されている。そして、このような着磁方法によれば、希土類磁石の回転子の着磁を回転子軸の焼き嵌め時の加熱状態を利用して行うことにより、希土類磁石の着磁を従来の希土類磁石の着磁に要した着磁電流よりも遥かに低いフェライト磁石の着磁電流のレベルで行うことができ、固定子巻線の信頼性が確保できると記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、回転子鉄心に永久磁石を装着する磁石装着工程と、溶融した金属によって前記回転子鉄心に短絡バーを形成するキャスト工程と、前記回転子鉄心の高温からの冷却過程において前記永久磁石に磁界を印加して着磁する着磁工程とを備えたことを特徴とする永久磁石回転子の製造方法が記載されている。そして、このような製造方法によれば、十分に着磁された永久磁石を備えた自己始動永久磁石回転電機の永久磁石回転子の製造方法を提供することができると記載されている。
【0008】
さらに特許文献4には、軽希土類元素RLの少なくとも1種を含有する希土類磁石を、80℃以上200℃以下の範囲の、特定の数式から導出される着磁温度T℃まで加熱し、希土類磁石の保磁力の温度係数βに従って希土類磁石の保磁力を減少させ、温度T℃における希土類磁石が呈する保磁力HCの少なくとも2倍の磁場を有する着磁磁場Hextを少なくとも1回以上パルス状に印加した後に、希土類磁石を温度T℃から室温まで冷却することで、極数p(pは4以上の偶数)の多極着磁を行うことを特徴とする希土類磁石の着磁方法が記載されている。そして、このような着磁方法によれば、大きな着磁磁場の発生が難しい多極の希土類磁石であっても、200℃を超えて防錆被膜に支障をきたす様な加熱をすることなく、着磁率を室温にて着磁した場合と比較して大幅に向上させることができるので、着磁率が向上するので、希土類磁石の不可逆減磁温度がより高温になり、着磁後の希土類磁石の使用上限温度が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-63555号公報
【文献】特開平6-315252号公報
【文献】特開2003-274618号公報
【文献】特開2014-99600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば特許文献2~4に記載の方法によれば、保磁力が高い磁石であっても、長時間かけて十分に加熱し、より高い磁場によって着磁することで、完全着磁を達成できる可能性があると考えられる。
しかし、永久磁石回転子に搭載された永久磁石の完全着磁は、より短時間に、より低エネルギーでの着磁によって達成されることが好ましい。
【0011】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、より短時間に、より低エネルギーで着磁(好ましくは完全着磁)を行うことができる、永久磁石回転子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は下記(1)~(3)である。
(1)鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、
前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を加熱温度T1で加熱して、前記着磁前永久磁石の温度分布αを求める工程Bと、
前記関係Xおよび前記温度分布αから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低磁界Hminを求める工程Cと、
前記着磁前永久磁石の全体を前記最低磁界Hmin以上で着磁するために着磁ヨークにて発生させる磁界H1を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T1で加熱した後、前記磁界H1によって着磁して、着磁後回転子を得る工程Dと、
を備える永久磁石回転子の製造方法。
(2)鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、
前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を着磁ヨークにて発生させた磁界H2で着磁した場合に、配置された前記永久磁石回転子の位置における有効磁界分布βを求める工程Eと、
前記関係Xおよび前記有効磁界分布βから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低温度Tminを求める工程Fと、
前記着磁前永久磁石の全体を前記最低温度Tmin以上とすることができる加熱温度T2を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T2で加熱した後、前記磁界H2で着磁して、着磁後回転子を得る工程Gと、
を備える永久磁石回転子の製造方法。
(3)前記着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認する工程Jをさらに有する、上記(1)または(2)に記載の永久磁石回転子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より短時間に、より低エネルギーで着磁(好ましくは完全着磁)を行うことができる、永久磁石回転子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】永久磁石回転子を形成するために用い得る電磁鋼板を例示した概略斜視図である。
【
図3】永久磁石回転子(完成図)の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は2つの態様を含む。
【0016】
本発明の製造方法の第1態様は、鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を加熱温度T1で加熱して、前記着磁前永久磁石の温度分布αを求める工程Bと、前記関係Xおよび前記温度分布αから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低磁界Hminを求める工程Cと、前記着磁前永久磁石の全体を前記最低磁界Hmin以上で着磁するために着磁ヨークにて発生させる磁界H1を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T1で加熱した後、前記磁界H1によって着磁して、着磁後回転子を得る工程Dと、を備える永久磁石回転子の製造方法である。
このような永久磁石回転子の製造方法を、以下では「本発明の第1の製造方法」ともいう。
【0017】
また、本発明の製造方法の第2態様は、鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心における前記回転軸の外周側に着磁前永久磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前に、予め、前記着磁前永久磁石について完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る工程Aと、前記着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置した前記永久磁石回転子を着磁ヨークにて発生させた磁界H2で着磁した場合に、配置された前記永久磁石回転子の位置における有効磁界分布βを求める工程Eと、前記関係Xおよび前記有効磁界分布βから、前記着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低温度Tminを求める工程Fと、前記着磁前永久磁石の全体を前記最低温度Tmin以上とすることができる加熱温度T2を求め、前記着磁前永久磁石を加熱温度T2で加熱した後、前記磁界H2で着磁して、着磁後回転子を得る工程Gと、を備える永久磁石回転子の製造方法である。
このような永久磁石回転子の製造方法を、以下では「本発明の第2の製造方法」ともいう。
【0018】
以下において、単に「本発明の製造方法」と記した場合、本発明の第1の製造方法および本発明の第2の製造方法の両方を意味するものとする。
【0019】
<永久磁石回転子>
初めに、本発明の製造方法において加熱および着磁の対象となる永久磁石回転子について、図を用いて説明する。
本発明の製造方法において加熱および着磁の対象となる永久磁石回転子1(以下では「回転子1」ともいう)は、例えば
図1に示すように、鉄心10の中央に回転軸12を有し、鉄心10における回転軸12の外周側にスロット14を有し、さらにスロット14内に着磁前永久磁石3を備える。
本発明における永久磁石回転子は、
図1に示すようにスロットを有する態様であってもよいし、スロットを有さない態様であってもよい。
【0020】
鉄心10の中央には回転軸12を貫通させるための孔11が形成されており、この孔11に貫通された回転軸12は鉄心10に固定されている。
【0021】
鉄心10は、例えば
図2に示すように、所定の形状(円形等)に打ち抜かれた電磁鋼板5を複数積層して形成することができる。電磁鋼板5は、例えば厚さが350μm程度のものを用いることができる。
鉄心10は電磁鋼板5の他、例えば、軟磁性板材を複数積層する、または粉末を樹脂粉末と混合し圧縮成形する等により形成した圧粉磁心を使用することもできる。
【0022】
鉄心10は、中心軸12の外周側において周方向に等間隔で極数分、設けられたスロット14を有している。
図1に例示する鉄心は4つのスロット14を有している。
スロット14は着磁前永久磁石3を挿入するための孔であり、回転軸12の軸方向に平行な方向が深さ方向となるように形成されている。
【0023】
そして、スロット14の各々の中に、着磁前永久磁石3が挿入される。
図1に例示する態様の場合、4つの着磁前永久磁石3が、4つのスロット14の各々の内部へ配置される。
スロット14内に着磁前永久磁石3を挿入した後、
図3に示すように、回転軸12に平行な方向における鉄心10の少なくとも一方における面(
図3においては鉄心10の両端面)に、着磁前永久磁石3が回転軸12と平行な方向へ抜けてしまうことを防止するための端板16が取り付けられる。
【0024】
着磁前永久磁石3の厚さは、スロット14に確実に挿入できるように寸法公差を考慮してそれよりも小さくなければならない。
着磁前永久磁石3としては結晶粒径0.1~3μm程度のネオジム磁石が好適である。ダイドー電子株式会社製PLP磁石やMQ3熱間圧延磁石を用いることができる。
【0025】
<態様1>
本発明の第1の製造方法では、上記のような永久磁石回転子について、次に説明する工程A、工程B、工程Cおよび工程Dによって加熱および着磁を施す。
【0026】
<工程A>
工程Aでは、前記鉄心における前記回転軸の外周側に配置する前の着磁前永久磁石を用意する。そして、着磁前永久磁石において完全着磁が得られる温度と磁界との関係Xを得る。
このような関係Xを得る方法について、具体例を挙げて説明する。
初めに、永久磁石回転子のスロットに挿入する永久磁石と同一生産ロットから取り出した永久磁石を磁気特性測定装置によって定められたサイズ、例えば7mm立方体、に加工する。
次に、磁気特性測定装置、例えば日本電磁測器株式会社製パルスBH測定装置(PBH-1000)等を用いて室温(23℃)における各種の最大測定磁界(例えば、最大測定磁界が0.5T、1T、2T、5T、8T)に対する磁化-磁界曲線(J-H曲線)を取得する。各々の最大測定磁界に対するJ-H曲線からB-H曲線が得られる(B=J+μ0H)。このB-H曲線の第2象限部分(いわゆる減磁曲線)と横軸(磁界軸)との交点から保磁力bHcを求めることができる。最大磁界5T以上におけるbHcを(bHc)maxとしたときに、各最大測定磁界におけるbHcを(bHc)maxで除した値(=bHc/(bHc)max)を室温でのその最大測定磁界における着磁率と定義する。
室温に引き続き、測定温度を例えば70℃、100℃、150℃といった高温において同様の測定を行い、各温度におけるそれぞれの最大測定磁界における着磁率を求める。
なお、上記において「磁界」は磁石中を有効に横切るいわゆる「有効磁界」とする。
【0027】
このようにして、着磁前永久磁石の温度と、有効磁界と、着磁率との関係を求めると、例えば
図4(a)が得られる。なお、
図4(b)は
図4(a)の一部拡大図である。
そして、完全着磁(着磁率が0.98以上とする)が得られる着磁前永久磁石の温度と有効磁界との値を
図4から読み取る。具体的には
図4(b)において、着磁前永久磁石の温度が150℃、100℃、70℃、R.T.である場合に完全着磁となることを意味する点であるP
1、P
2、P
3、P
4における有効磁界を読み取る。そして、これらの値から
図5を作成する。
図5は着磁前永久磁石において完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを示す図である。関係Xを式で表すことができる場合もある。
そして、加熱後に着磁する際の磁界(有効磁界(kOe))を決めれば、それを用いて関係Xから完全着磁が得られる温度を求めることができる。
また、逆に、加熱温度を決めれば、それを用いて関係Xから完全着磁が得らえる磁界(有効磁界(kOe))を求めることができる。
【0028】
<工程B>
次に、上記のような着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側(例えばスロット内)に配置した永久磁石回転子を加熱温度T
1で加熱する。
加熱温度T
1で加熱する方法は特に限定されず、例えば永久磁石回転子を加熱炉内に配置して加熱することができる。
ここで永久磁石回転子を加熱しても、着磁前永久磁石はその全て部位において均一な温度と成り難い。実操業においては加熱時間が短い方が好ましい場合が多いが、特に加熱時間が短い場合、スロット内における着磁前永久磁石はその全ての部位において均一な温度とはならず、通常、部位ごとに温度が異なり、全体としては温度分布を有することになる。
そこで、工程Bでは着磁前永久磁石の複数個所において温度を測定することで、永久磁石回転子を加熱温度T
1で加熱した場合の温度分布αを求める。そして、その中で最も低い温度Yを把握する。
例えば、回転軸と平行方向における加熱後の着磁前永久磁石における複数箇所について温度を測定して温度分布αを示す
図6を把握する。そして、
図6に示すように、その中で最も低い温度Yを把握する。
【0029】
なお、回転軸の軸方向における加熱後の着磁前磁石の温度分布は、例えば、着磁前永久磁石の近傍のフラックスバリヤ内に複数の熱電対を挿入することで回転軸の軸方向における複数の位置の各々に熱電対を配置し、これを用いて温度を測定することで把握することができる。
【0030】
<工程C>
次に、工程Aによって求められた関係Xと、工程Bによって求められた温度分布αから、着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低磁界H
min(特定の有効磁界)を求める。
具体的には、
図7に示すように、工程Bによって把握された温度Yを、工程Aによって得られた関係Xへ当てはめることによって、着磁前永久磁石を完全着磁するための最低磁界H
minを求めることできる。
【0031】
<工程D>
次に、着磁前永久磁石の全体を最低磁界Hmin以上で着磁するために着磁ヨークにて発生させる必要がある磁界H1を求める。
磁界H1は、例えば、着磁装置(着磁ヨーク、着磁電源等)の性能および着磁装置と永久磁石回転子を含む磁気回路をモデル化し、有限要素法を用いたシミュレーション(一例として市販ソフトJMAG)等によって求めることができる。
【0032】
そして、着磁前永久磁石を加熱温度T1で加熱した後、着磁前永久磁石を備えた永久磁石回転子を着磁ヨーク内にセットし、磁界H1によって着磁して、着磁後回転子を得る。
この場合、最も温度が低い部分であっても完全着磁することができる磁界H1によって着磁するので、その他の温度が高い部分は温度が低い部分よりも容易に完全着磁される。したがって、全ての部分において完全着磁した着磁後回転子を得ることができる。
【0033】
上記のような加熱工程は、永久磁石回転子の組立工程における一般的な焼き嵌め工程や樹脂封入工程で必要とされる加熱工程を兼ねることが好ましい。
【0034】
<態様2>
本発明の第2の製造方法では、上記のような永久磁石回転子について、上記の態様1(本発明の第1の製造方法)における工程Aと同じ処理を施した後、次に説明する工程E、工程Fおよび工程Gによって加熱および着磁を施す。
【0035】
<工程E>
次に、上記のような着磁前永久磁石を前記鉄心における前記回転軸の外周側(例えばスロット内)に配置した永久磁石回転子を、着磁ヨークにて発生させた磁界H2で着磁した場合に、配置された前記永久磁石回転子の位置における有効磁界分布βを求める。
例えば、永久磁石回転子を着磁ヨーク内に配置して磁界H2で着磁したうえで、着磁装置(着磁ヨーク、着磁電源等)の性能および着磁装置と永久磁石回転子を含む磁気回路をモデル化し、有限要素法を用いたシミュレーション(一例として市販ソフトJMAG)等によって、有効磁界分布βを得ることができる。
【0036】
ここで永久磁石回転子を着磁する際、着磁前永久磁石はその全ての部位において均一に着磁することは難しい。実操業においては永久磁石の各部位の反磁界等の違いが要因となり、スロット内における着磁前永久磁石に対する有効磁界はその全ての部位において均一にはならず、全体としては有効磁界分布を有することになる。
そこで、工程Eでは上記のような方法等によって永久磁石回転子を磁界H
2で着磁した場合の、配置された前記永久磁石回転子の位置における有効磁界分布βを求める。
そして、その中で最も低い有効磁界である磁界Zを把握する。
例えば、回転軸と平行方向において着磁前永久磁石の複数箇所の有効磁界を測定して有効磁界分布βを測定して
図8を把握する。そして、
図8に示すように、その中で最も低い磁界Z(特定の有効磁界)を把握する。
【0037】
<工程F>
次に、工程Aによって求められた関係Xと、工程Fによって求められた有効磁界分布βから、着磁前永久磁石の全体を完全着磁するための最低温度T
minを求める。
具体的には、
図9に示すように、工程Bによって把握された磁界Zを、工程Aによって得られた関係Xへ当てはめることによって、着磁前永久磁石を完全着磁するための最低温度T
minを求めることできる。
【0038】
<工程G>
次に、着磁前永久磁石の全体を最低温度Tmin以上とすることができる加熱温度T2を求める。
加熱温度T2は、例えば、着磁前永久磁石の近傍のフラックスバリヤ内に複数の熱電対を挿入することで回転軸の軸方向における複数の位置の各々に熱電対を配置し、これを用いて温度を測定しながら加熱することで、把握することができる。
【0039】
そして、着磁前永久磁石を加熱温度T2で加熱した後、着磁前永久磁石を備えた永久磁石回転子を着磁ヨーク内にセットし、磁界H2によって着磁して、着磁後回転子を得る。
この場合、最も温度が低い部分であっても完全着磁することができる磁界H2によって着磁するので、その他の温度が高い部分は温度が低い部分よりも容易に完全着磁される。したがって、全ての部分において完全着磁した着磁後回転子を得ることができる。
【0040】
上記のような加熱工程は、永久磁石回転子の組立工程における一般的な焼き嵌め工程や樹脂封入工程で必要とされる加熱工程を兼ねることが好ましい。
【0041】
<工程J>
本発明の製造方法は、着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認する工程Jをさらに有することが好ましい。
現状の生産ラインにおいて着磁の良し悪しを必ず評価工程が必要であるが、着磁工程で着磁の評価をしないと、別途評価工程を設ける必要があり、その評価工程のための搬送系、測定系の機構が必要となる。そこで、高温で着磁評価をすることが可能となれば、常温着磁と同じ工程となり上記の様な生産設備が不要となる。
【0042】
具体的には、例えば次に示す方法によって、着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認することができる。
空芯型サーチコイルを磁石の厚さの中心に合わせてフラックメータの値を一度リセットしてからコイルを引き抜き、サーチコイルに接続されたフラックスメータにより磁石の総磁束量を測定する。総磁束量による着磁率の評価では、着磁電源の充電電圧を徐々に上げながら引き抜き測定を行い、その充電電圧に対する総磁束量をプロットして行くことにより、総磁束量が飽和することで着磁量の状態を評価することができる(参考:日本ボンド磁性材料協会発行、ボンド磁石試験方法ガイドブック、「ボンド磁石の着磁方法」、9.2.1引き抜き法による総磁束量の測定)。
【0043】
また、次の方法によっても測定することできる。
従来、着磁ヨークにロータをセットし着磁を行い、着磁ヨークからロータを引き抜くときに着磁ヨークに設置されたサーチコイル(または、主巻線をサーチコイルとして使用)の誘導起電力を時間積分し、総磁束量(フラックス量)を測定していた。完全着磁されたロータの総磁束量を基準として、任意範囲に測定した総磁束量が入っていれば十分着磁されたと判断していた。その範囲から外れた場合は、着磁が出来ていないと判断し、製品の着磁結果判断を行っていた。
本発明のように、高温で着磁する場合も、同様に着磁ヨーク内で着磁し、着磁ヨークからロータを引き抜くときに、総磁束量を測定する。その総磁束量は、基準値範囲内にあるかどうかで着磁の良し悪しを判断する。常温時に完全着磁状態にあるロータが、高温で着磁された時の基準となる総磁束量をあらかじめ測定しておく必要がある。
完全着磁状態に着磁できる各温度での総磁束量がいくらあらかじめ測定しておく。引き抜き時(=総フラックス量測定時)のロータ温度を測定する。測定した温度における総磁束量とあらかじめ測定しておいた総磁束量の比較を行い、基準範囲内にあるかどうかで着磁の良し悪しを判断する。
【0044】
このような工程Jによって、工程Dまたは工程Gによって得られた着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認することができると、より短時間に、より低エネルギーで着磁(好ましくは完全着磁)を行うことができる。
例えば工程Dまたは工程Gによって得られた着磁後回転子が完全着磁しているか否かについて、実操業では確認する必要があるが、通常、着磁後に高温となっている回転子が室温となるまで待ち、その後、完全着磁しているかを確認する。ここで完全着磁していない場合、再度、回転子を加熱し、着磁する必要があるので、加熱するためにエネルギーが必要となり、加熱するための時間を要してしまう。これに対して、工程Gによって得られた着磁後回転子が完全着磁しているか否かを高温状態のまま確認することができると、完全着磁していなかった場合に、再度、回転子を加熱しなくてよいか、または、加熱するとしても、その程度が低くて良いため、より短時間に、より低エネルギーで、再度、着磁を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 回転子
3 着磁前永久磁石
5 電磁鋼板
10 鉄心
11 孔
12 回転軸
14 スロット
16 端板