(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂多層発泡シート及びガラス板用間紙
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230501BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230501BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230501BHJP
B65D 85/48 20060101ALI20230501BHJP
B65D 81/127 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B5/18
B32B27/18 D
B65D85/48
B65D81/127 A
(21)【出願番号】P 2019215523
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮平
(72)【発明者】
【氏名】西本 敬
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-010326(JP,A)
【文献】特開2014-136755(JP,A)
【文献】特開2013-032478(JP,A)
【文献】特開2016-204227(JP,A)
【文献】特開2019-059939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂発泡層と、該発泡層の少なくとも片面側に積層接着されたポリオレフィン系樹脂表面層とを有し、該表面層が、ポリオレフィン系樹脂と、ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする高分子型帯電防止剤と、ポリアルキレングリコールとを含む、多層発泡シートにおいて、
該ポリアルキレングリコールの配合量が、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0質量部以上であり、
該ポリアルキレングリコールの主成分が数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)であるとともに、
該ポリアルキレングリコールが25℃で液体であり、
該多層発泡シートの50℃、80%RHの雰囲気下に24時間静置後に測定される含水率が1500~4000ppmであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコール中の数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)の配合比率が70質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂多層発泡シートの前記含水率が2000~3500ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項4】
前記高分子型帯電防止剤の配合量に対する前記ポリアルキレングリコールの配合量の比が0.10~0.60であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項5】
前記高分子型帯電防止剤の融点と、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点との融点差が、-10℃~+10℃の範囲内であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項6】
前記高分子型帯電防止剤の配合量が、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して8~30質量部であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項7】
前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレンであり、前記発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項8】
前記発泡層が気泡調整剤を含み、該気泡調整剤がタルクであることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シートからなるガラス板用間紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂多層発泡シート及び該多層発泡シートからなるガラス板用間紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂多層発泡シートは、柔軟性や緩衝性に優れており、被包装物の損傷、傷つき等を防止できることから、家電製品、ガラス器具、陶器等の包装材として広く使用されてきた。また、ポリオレフィン系樹脂多層発泡シートは、近年、薄型テレビの開発、需要拡大に伴い、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のディスプレイパネルの製造に用いられるガラス板の包装に用いられるガラス用間紙としても広く使用されるようになった。
【0003】
該ガラス板用間紙は、ガラス板の間に介装して使用されるシート材である。具体的には、複数のガラス板をまとめて保管したり輸送等したりするような、複数のガラス板を重ねて取り扱う場合に、ガラス板に傷や破損が生じることを防止するために用いられる。
【0004】
該ディスプレイパネルの高精細化に伴い、ディスプレイ用のガラス板に対しては、より一層の高い品質が求められている。通常、ガラス板が使用される際には、水等でガラス板の表面洗浄が行われ、この際にガラス板等の表面の状態をきわめて清浄な状態とすることが行われている。したがって、ガラス板用間紙に対しては、ガラス板等の洗浄性を阻害しないことや、ガラス板等の洗浄性を向上させてより効果的に洗浄できることが要求されている。
【0005】
ガラス板の洗浄性を向上させたガラス板用間紙に関して、例えば、特許文献1には、表面層にポリエチレングリコール等の親水性化合物を含有させたポリオレフィン系樹脂積層発泡体が提案されている。この積層発泡体はガラス板用間紙として使用された場合、包装される被包装物の洗浄性を向上させることができ、異物等が移行した場合であっても水等による洗浄を行うことで被包装物の表面の汚れを容易に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、保管や輸送等の際に、ガラス板等の被包装物が高温多湿の雰囲気下に置かれることがある。このような高温多湿の雰囲気下において、特許文献1に記載の積層発泡体を用いた場合、ガラス板等の被包装物の洗浄性がやや不十分となる場合があった。
【0008】
本発明は、高温多湿下にあってもガラス板等の被包装物に対して優れた洗浄性を付与することができる多層発泡シートの提供、及びそのような多層発泡シートを利用したガラス板用間紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく、洗浄後の被包装物に付着した汚れの成分について詳細に検討し、高温多湿下の雰囲気において、従来の積層発泡シートを用いた場合には、有機物に由来する成分に加え、カルシウム化合物等の金属化合物に由来する成分により被包装物が汚染される場合があることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示すポリオレフィン系樹脂多層発泡シートが提供される。
[1]ポリオレフィン系樹脂発泡層と、該発泡層の少なくとも片面側に積層接着されたポリオレフィン系樹脂表面層とを有し、該表面層が、ポリオレフィン系樹脂と、ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする高分子型帯電防止剤と、ポリアルキレングリコールとを含む、多層発泡シートにおいて、
該ポリアルキレングリコールの配合量が、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0質量部以上であり、
該ポリアルキレングリコールの主成分が数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)であるとともに、
該ポリアルキレングリコールが25℃で液体であり、
該多層発泡シートの50℃、80%RHの雰囲気下に24時間静置後に測定される含水率が1500~4000ppmであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[2]前記ポリアルキレングリコール中の数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)の配合比率が70質量%以上であることを特徴とする前記1に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[3]前記ポリオレフィン系樹脂多層発泡シートの前記含水率が2000~3500ppmであることを特徴とする前記1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[4]前記高分子型帯電防止剤の配合量に対する前記ポリアルキレングリコールの配合量の比が0.10~0.60であることを特徴とする前記1~3いずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[5]前記高分子型帯電防止剤の融点と、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点との融点差が、-10℃~+10℃の範囲内であることを特徴とする前記1~4のいずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[6]前記高分子型帯電防止剤の配合量が、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して8~30質量部であることを特徴とする前記1~5のいずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[7]前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレンであり、前記発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする前記1~6のいずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[8]前記発泡層が気泡調整剤を含み、該気泡調整剤がタルクであることを特徴とするとする前記1~7のいずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート。
[9]前記1~8のいずれか一に記載のポリオレフィン系樹脂多層発泡シートからなるガラス板用間紙
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィン系樹脂多層発泡シートは、表面層に高分子型帯電防止剤と共に特定の数平均分子量を有するポリエチレングリコールを主成分とし、25℃で液体であるポリアルキレングリコールを特定量以上含有させて、多層発泡シートの含水率を特定範囲内とすることにより、優れた帯電防止性能を有すると共に、高温多湿下であっても、ガラス板等に対して優れた洗浄性を付与することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリオレフィン系樹脂多層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明のポリオレフィン系樹脂多層発泡シート(以下、単に多層発泡シートともいう。)は、ポリオレフィン系樹脂発泡層(以下、単に発泡層ともいう。)と、該発泡層の少なくとも片面側に積層接着されたポリオレフィン系樹脂表面層(以下、単に表面層ともいう。)とを有するものである。
【0013】
前記表面層は、前記発泡層の表裏面のうちの少なくとも片面側に積層接着されており、多層発泡シートの最表面側に位置する。ただし、発泡層と表面層との間に中間層が形成されていてもよい。中間層としては、例えば、発泡層と表面層の両方の層に対して接着性を有する樹脂からなる層を挙げることができる。
【0014】
次に、前記多層発泡シートの発泡層及び表面層を構成する材料についてこの順で説明する。
【0015】
本発明の多層発泡シートの発泡層は、ポリオレフィン系樹脂を基材樹脂とする。本発明においてポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン系モノマーに由来する成分単位の割合を50モル%以上とする樹脂である。該ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の中でも、特にポリエチレン系樹脂が、柔軟性緩衝性等に優れ、緩衝材に要求される強度を有することから好ましい。
【0016】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、さらにそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0017】
前記ポリエチレン系樹脂の中でも、柔軟性、緩衝性等の観点から低密度ポリエチレンがより好ましい。なお、低密度ポリエチレンとは、密度が890kg/m3以上935kg/m3以下のポリエチレン系樹脂をいい、好ましくは密度が900kg/m3以上930kg/m3以下のポリエチレン系樹脂をいう。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、またはプロピレンと他のオレフィン等との共重合体が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のオレフィンとしては、例えば、エチレンや、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセンなどの炭素数4から10のα-オレフィンが例示される。
【0019】
前記ポリオレフィン系樹脂の融点は100~170℃であることが好ましい。特に、前記ポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレンである場合、該低密度ポリエチレンの融点は100~120℃であることが好ましく、105~115℃であることがさらに好ましい。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K7121-1987に準拠する方法により測定することができる。具体的には、示差走査熱量計を用いて、40℃から200℃まで10℃/分にて昇温することにより加熱溶融させ、その温度に10分間保った後、40℃まで10℃/分にて冷却する熱処理後、再度、加熱速度40℃から200℃まで10℃/分にて昇温することにより融解ピークを得る。そして得られた融解ピークのうち最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0021】
前記発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、スチレン系樹脂等の他の樹脂や、エチレンプロピレンゴムやスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のエラストマー等を添加しても良い。その場合、他の樹脂やエラストマーの添加量は、発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して25質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0022】
前記発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、気泡調整剤、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤、収縮防止剤等の機能性添加剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0023】
前記発泡層は、気泡調整剤としてタルクを含むことが好ましい。気泡調整剤としてタルクを用いることにより、気泡調整剤に起因するシートの含水率がより低減され、高温多湿下におけるガラス板等の洗浄性をより向上させることができる。
【0024】
本発明の多層発泡シートの表面層は、ポリオレフィン系樹脂と、ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする高分子型帯電防止剤と、ポリアルキレングリコールとを含むものである。
【0025】
前記表面層は、ポリオレフィン系樹脂を基材樹脂とする樹脂組成物で形成される。該ポリオレフィン系樹脂、及び、これに配合される他の樹脂や添加剤等としては、発泡層について前記したものと同様のものが挙げられる。該表面層中のポリオレフィン系樹脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の多層発泡シートにおいて、発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂と表面層を構成するポリオレフィン系樹脂とは同じ樹脂を用いてもよく、発泡層と表面層とで互いに異なる樹脂を用いてもよい。発泡層と表面層とが互いに同じ種類の樹脂で形成されていると、発泡層と表面層との接着性に優れている多層発泡シートとなる。従って、接着性の観点から、表面層についても低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0027】
本発明の多層発泡シートの表面層は、ポリアルキレングリコールを含んでいる。該ポリアルキレングリコールは、表面層中からガラス板等の被包装物に移行し、被包装物を水等で洗浄する際に、被包装物の表面に付着した汚れと共に容易に除去することができる。
【0028】
本発明の特徴は、高温多湿下の雰囲気において、従来の積層発泡シートを用いた場合には、有機物に由来する成分に加え、カルシウム化合物等の金属化合物に由来する成分により被包装物が汚染される場合があることを見出し、積層発泡シートの含水率を特定の範囲内とすることにより、金属化合物に由来する成分による汚染を抑えることに成功したことにある。
【0029】
近年、保管や輸送等の際に、ガラス板等の被包装物が高温多湿の雰囲気下に置かれることがある。このような高温多湿の雰囲気下において、従来の積層発泡体を用いた場合、ガラス板等の被包装物の洗浄性がやや不十分となる場合があった。そこで、該ガラス板の汚れの成分を詳細に検討したところ、空気中の塵や埃、高分子型帯電防止剤に起因する有機物由来の成分に加え、カルシウム化合物が検出された。カルシウム化合物は、塵や埃、高分子型帯電防止剤等に起因する有機物等と比較して水等による洗浄性が劣るものである。
本発明者らは、該カルシウム化合物は空気中の水分に含まれていたものであり、多層発泡シートを経由してガラス板に付着したと考えた。従って、多層発泡シートの吸湿性を制御し、含水率を低く抑えることによりカルシウム化合物等の金属化合物に由来する成分によるガラス板の汚染を低減することができると考えて本発明を完成させるに至った。
【0030】
本発明の多層発泡シートは、50℃、80%RHの雰囲気下に24時間静置した後に測定される含水率(質量ppm)が、1500~4000ppmである。該含水率が、前記範囲内であれば、高温多湿条件下で積層発泡シートがガラス板等の被包装物に接触した状態で保管等された場合であっても、積層発泡シートにカルシウム化合物等の金属化合物が付着することが抑制され、金属化合物による被包装物の汚染を抑制することができる。
該含水率が大きすぎると、空気中のカルシウム化合物等の金属化合物に由来する汚染を抑制することができないおそれがある。一方、該含水率が小さすぎると、被包装物へポリアルキレングリコールが移行しにくくなり、被包装物への洗浄性の付与が不十分になるおそれがある。かかる観点から、該含水率の上限は、3700ppmが好ましく、より好ましくは3500ppm、更に好ましくは3300ppmである。該含水率の下限は、2000ppmが好ましく、より好ましくは2500ppmである。
【0031】
前記多層発泡シートの含水率(質量ppm)は、以下の方法により測定される。まず、積層発泡シートから横500mm×縦400mm×シート厚みのサイズに切り出した試験片を、温度50℃、湿度80%RHの雰囲気下に24時間保管した後、空気を遮断した閉鎖空間の中で試験片を180℃にて乾燥させ、水分以外の気化物を除去すると共に、水分を吸着剤に選択的に吸着させ、その質量変化から下記式(1)により含水率(質量ppm)を求める。なお、RHは相対湿度であることを示す。
含水率=[M2-M3/M1]×106・・・(1)
M1:乾燥前の試験片の質量(g)
M2:水分吸着後の吸着剤の質量(g)
M3:水分吸着前の吸着剤の質量(g)
【0032】
本発明においては、前記ポリアルキレングリコールが数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)を主成分とすることを要する。数平均分子量が前記範囲内であるポリエチレングリコール(PEG1)が、ポリアルキレングリコールの主成分であることにより、多層発泡シートの含水率を前記特定範囲内に制御することができる。該数平均分子量が小さすぎると、ポリエチレングリコールの吸湿性が高くなりすぎ、高温多湿下における多層発泡シートの含水率が高くなるため、空気中の水分に含まれるカルシウム化合物等の金属イオンに由来するガラス板等の被包装物の汚染を抑制できないおそれがある。一方、該数平均分子量が大きすぎると、ポリエチレングリコールの被包装物に対する移行性が低くなると共に、被包装物に移行したポリアルキレングリコールが水等により洗い流されにくくなるため、特に有機物等に由来する被包装物の汚染を抑制できないおそれがある。かかる観点から、該数平均分子量の下限は450であることが好ましく、より好ましくは500である。一方、該数平均分子量の上限は750であることが好ましく、より好ましくは700である。
【0033】
本明細書において、「該ポリアルキレングリコールの主成分が数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)である」とは、該ポリアルキレングリコール全体における数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)の配合比率が50質量%以上であることを意味し、高温多湿下における被包装物の洗浄性がより高まることから、該配合比率は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。即ち、ポリアルキレングリコールが数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)のみからなることが特に好ましい。 なお、PEG1として、数平均分子量400~800の範囲内のポリエチレングリコールを複数併用しても良い。
【0034】
前記ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、水酸基価から算出される周知の方法により求めることができる。また、分子量が高すぎて数平均分子量が該水酸基価から算出することが難しい場合には、高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いる方法にて求められる。
【0035】
前記ポリアルキレングリコールには、ポリアルキレングリコールが数平均分子量400~800のポリエチレングリコール(PEG1)以外の他のポリアルキレングリコールを含んでも良い。該他のポリアルキレングリコールとしては、数平均分子量が400未満のポリエチレングリコールや数平均分子量が800超のポリエチレングリコールのほか、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の繰り返し単位中の炭素数が2~6のアルキレングリコールが挙げられる。またこれらを併用することができる。
【0036】
本発明のポリアルキレングリコールは、25℃で液体であることを要する。25℃で液体のポリアルキレングリコールは表面層からブリードアウトしやすいので、被包装物に対して優れた洗浄性を付与できるものである。また、ガラス板等の被包装物の洗浄に用いられる水の温度は、通常25℃程度である。従って、ポリアルキレングリコールが25℃で液体であれば、水で容易に洗い流すことができ、水洗浄性が向上するため、高温多湿下にあっても、被包装物に付着した塵、埃、高分子型帯電防止剤等に起因する汚染物質をより容易に除去することができる。
【0037】
同様の観点から、本発明で用いられるポリアルキレングリコールの凝固点は、0~25℃であることが好ましい。
【0038】
本明細書において、凝固点は、JIS K 0065(1992年)に記載の方法により求めることができる。
【0039】
前記ポリアルキレングリコールは、25℃で固体であるポリアルキレングリコールを実質的に含まないことが好ましい。ポリアルキレングリコールが、25℃で固体であるポリアルキレングリコールを含まないことにより、水による洗浄性がより良好になる。
本明細書において、25℃で固体であるポリアルキレングリコールを実質的に含まないとは、ポリアルキレングリコール全体における25℃で固体であるポリアルキレングリコールの質量割合が3質量%以下であることをいい、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下であり、0質量%であることが更に好ましい。即ち、ポリアルキレングリコールが25℃で液体であるポリアルキレングリコールのみからなることが更に好ましい。
【0040】
前記表面層において、ポリアルキレングリコールの配合量(Wp)は、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0質量部以上であることを要する。該配合量が少なすぎるとポリアルキレングリコールによる洗浄性向上効果が発揮されないおそれがある。かかる観点から、ポリアルキレングリコールの配合量(Wp)は、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.5質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であることがより好ましく、2.5質量部以上であることが更に好ましい。
該配合量(Wp)の上限は、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して5.0質量部以下であることが好ましい。該配合量が5.0質量部以下であると、多層発泡シートの含水率をより低く抑えることができる。また、ポリアルキレングリコールが多層発泡シートの表面に過剰にブリードアウトして多層発泡シートがべたつくことを抑制し、多層発泡シートのガラス板等に対する剥離強度が低く作業性により優れる多層発泡シートとなる。
【0041】
次に、本発明の表面層が含有する高分子型帯電防止剤について説明する。
本発明における表面層は、ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする高分子型帯電防止剤を含有する。具体的なポリエーテル-ポリオレフィン共重合体としては、例えば、三洋化成工業株式会社製「ペレスタット(商標)VL300」、「ペレスタットHC250」、「ぺレクトロン(商標)HS」、「ぺレクトロンPVH」、「ぺレクトロンLMP」などの商品名で市販されているものが挙げられる。
【0042】
本明細書において、「ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする」とは、表面層が含有する全ての高分子型帯電防止剤中のポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体の割合が、50質量%以上であることをいい、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0043】
前記表面層を構成する、ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体を主成分とする高分子型帯電防止剤の融点と、該表面層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点との融点差は、-10℃~+10℃の範囲内であることが好ましい。
該融点差が、-10℃~+10℃の範囲内であることは、高分子型帯電防止剤の融点が表面層の基材樹脂であるポリオレフィン系樹脂の融点と近いことを意味する。該融点差を満足する高分子型帯電防止剤を用いることにより、高温多湿下にあっても、ガラス板等の被包装物に対する多層発泡シートの剥離強度がより小さくなり、作業性により優れるものとなる。
この理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。該融点差が前記範囲内であると、高分子型帯電防止剤とポリオレフィン系樹脂との相溶性がより向上するため、それに伴いポリアルキレングリコールとポリオレフィン系樹脂中に高分子型帯電防止剤が分散しやすくなると考えられる。その結果、高分子型帯電防止剤がポリアルキレングリコールを適度に保持することができ、ポリアルキレングリコールが表面層に過剰にブリードアウトすることがより抑制され、被包装物と多層発泡シートとの剥離強度が大きくなることが抑制されると考えられる。
【0044】
本発明において、高分子型帯電防止剤の融点と、表面層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点との融点差とは、高分子型帯電防止剤の融点からポリオレフィン系樹脂の融点を引き算した値をいう。
【0045】
前記融点差は好ましくは-8~+8℃であり、より好ましくは-7~+7℃でありさらに好ましくは-5℃~+5℃である。
また、高分子型帯電防止剤の融点は、125℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。一方、該融点の下限は概ね100℃である。
【0046】
前記高分子型帯電防止剤の融点は、JIS K7121-1987に準拠する方法により測定することができる。具体的には、示差走査熱量計を用いて、40℃から200℃まで10℃/分にて昇温することにより加熱溶融させ、その温度に10分間保った後、40℃まで10℃/分にて冷却する熱処理後、再度、加熱速度40℃から200℃まで10℃/分にて昇温することにより融解ピークを得る。そして得られた融解ピークのうち最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0047】
前記高分子型帯電防止剤の配合量(Wa)は、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して8~30質量部であることが好ましい。帯電防止剤の配合量が前記範囲内であると、多層発泡シートは、帯電防止性能により優れると共に、ガラス板等の被包装物に対する洗浄性に優れるものとなる。かかる観点から、高分子型帯電防止剤の配合量は、前記表面層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して9~18質量部であることよりが好ましく、10~15質量部であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明においては、前記高分子型帯電防止剤の配合量(Wa)に対する前記ポリアルキレングリコールの配合量(Wp)の比(Wp/Wa)が0.10~0.60であることが好ましい。該配合量の比が前記範囲内であると多層発泡シートの帯電防止性能と高温多湿下における被包装物に対する優れた洗浄性により優れるものとなる。また、ポリアルキレングリコールの過剰なブリードアウトがより抑制される。かかる観点から、前記比(Wp/Wa)が0.15~0.55であることがより好ましく、0.20~0.45であることがより好ましい。
【0049】
次に、本発明の発泡シートの物性について説明する。 本発明の多層発泡シートの平均厚みは、概ね0.05~10mmである。多層発泡シートの平均厚みが前記範囲内であると、ガラス板用間紙として使用した場合において、嵩張ることなく十分な緩衝性を確保することができる。前記観点から、多層発泡シートの平均厚みは、0.07mm以上1.0mm以下が好ましく、0.1以上0.5mm以下がより好ましく、0.12mm以上0.3mm以下が更に好ましい。
【0050】
本発明における多層発泡シートの平均厚みは、多層発泡シートの全幅に亘って幅方向に1cm間隔で測定される多層発泡シートの全厚み(mm)の算術平均値として特定される。幅方向とは、例えば押出機を用いた製造方法によって多層発泡シートが製造される場合においては、多層発泡シートの押出方向に対して直交する方向であり、且つ厚み方向に直交する方向である。
【0051】
本発明の多層発泡シートの見掛け密度は20~450kg/m3であることが好ましい。多層発泡シートの見掛け密度が前記範囲内であると、多層発泡シートは、柔軟性に優れると共に、保形性や圧縮強さ等の機械強度に優れるものとなる。多層発泡シートの柔軟性に優れることから、該見掛け密度の上限は、300kg/m3であることが好ましく、より好ましくは200kg/m3である。また、多層発泡シートの機械強度やコシ強度に優れることから、該見掛け密度の下限は30kg/m3であることが好ましく、より好ましくは40kg/m3、更に好ましくは50kg/m3、特に好ましくは100kg/m3である。
【0052】
該多層発泡シートの見掛け密度は、多層発泡シートから試験片を切り出し、その試験片の質量(kg)を、その試験片の外形寸法から求められる体積(m3)で除することにより測定される。
【0053】
本発明における表面層の坪量は、片面について、0.5g/m2以上であることが好ましく、0.7g/m2以上であることがより好ましく、1.0g/m2以上がさらに好ましい。表面層の坪量が前記範囲を満たすと、所望される被包装物の洗浄性が十分に高められる。該表面層の坪量の上限は、被包装物の洗浄性の観点からは特に制限されないが、緩衝性や軽量性の観点からはその上限は、100g/m2であることが好ましく、50g/m2であることがより好ましく、10g/m2であることがさらに好ましく、5g/m2であることが特に好ましい。
【0054】
本発明における表面層の坪量[g/m2]は、押出機を用いた製造方法によって多層発泡シートが製造される場合においては、多層発泡シート製造時における表面層の吐出量X[kg/h]と、得られる多層発泡シートの幅W[m]、多層発泡シートの単位時間あたりの引取長さL[m/h]から、下記式(2)により求めることができる。なお、発泡層の両面側に表面層を積層する場合には、それぞれの表面層の吐出量からそれぞれの表面層の坪量を求める。
【0055】
坪量(g/m2)=1000×X/(L×W) ・・・ (2)
【0056】
本発明の多層発泡シートにおいては、独立気泡率を高く維持するために発泡層にポリアルキレングリコール及び帯電防止剤が実質的に添加されていないことが好ましい。
ここで、「実質的に添加されていない」とは、その合計配合量が発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して5質量部以下であることを意味し、、好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0質量部である。
【0057】
多層発泡シート全体としての独立気泡率は、機械的強度に優れ、優れた緩衝性も得られることから、30%以上が好ましく、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上である。
【0058】
本発明の多層発泡シートの独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(多層発泡シートから25mm×25mm×20mmに切断したカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定する。なお、多層発泡シートが薄すぎて前記サイズのカットサンプルを切り出すことができない場合には、25mm×25mm×多層発泡シート厚みのサンプルを複数枚切り出し、サンプルの厚みの合計が20mmに近づくようにサンプルを重ねて測定用カットサンプルとする。)された多層発泡シート(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(3)式により独立気泡率S(%)を計算する。
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) ・・・ (3)
Vx:前記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm3)であり、カットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:多層発泡シートを脱泡して求められる樹脂組成物の密度(g/cm3)
【0059】
本発明の多層発泡シートの表面層側の表面抵抗率は1×108~1×1014(Ω)であることが好ましい。
該表面抵抗率が前記範囲内であると多層発泡シートは帯電防止特性に優れ、塵や埃が付着することをより抑制することができる。かかる観点から該表面抵抗率は、1×1013Ω以下がより好ましく、1×1012Ω以下がさらに好ましい。
【0060】
本明細書における表面抵抗率は、下記の試験片の状態調節を行った後、JIS K6271(2001)に準拠して測定される。すなわち、測定対象物である多層発泡シートから切り出した試験片(縦100mm×横100mm×厚み:試験片厚み)を温度20℃、相対湿度30%の雰囲気下に36時間放置することにより試験片の状態調節を行ってから、JIS K6271(2001)に準拠して印加電圧500kVの条件にて電圧印加を開始して1分経過後の表面抵抗率を求める。
【0061】
次に、本発明の多層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の多層発泡シートは、例えば、環状ダイを用いた共押出法により製造することができる。まず、発泡層形成用のポリオレフィン系樹脂と、必要に応じて添加される気泡調整剤などの添加剤とを発泡層形成用押出機に供給し、ポリオレフィン系樹脂と添加剤の混合物を加熱混練して、さらに物理発泡剤を圧入し、さらに混合物と物理発泡剤を混錬して発泡層形成用樹脂溶融物を得る。他方、表面層形成用のポリオレフィン系樹脂と、高分子型帯電防止剤と、ポリアルキレングリコールとを表面層形成用押出機に供給し、加熱混練して表面層形成用樹脂溶融物を得る。その後、発泡層形成用樹脂溶融物と表面層形成用樹脂溶融物とを共押出用環状ダイに導入して積層し、共押出発泡することにより、発泡層に表面層が積層された筒状積層発泡体を形成し、該筒状積層発泡体を拡径しつつ引き取りながら切り開いて多層発泡シートを得ることができる。
【0062】
多層発泡シートの製造方法において表面層形成用樹脂溶融物を得るにあたり、ポリアルキレングリコールが添加される。このとき、ポリアルキレングリコールの添加方法は特に限定されるものではない。例えば、ポリアルキレングリコールを表面層形成用押出機にポリオレフィン系樹脂とともに供給しても良く、液中ポンプ等を用いて表面層形成用押出機に供給してもよい。ポリアルキレングリコールをあらかじめ表面層形成用のポリオレフィン系樹脂と混錬してマスターバッチ化したものを表面層形成用押出機に供給しても良い。
【0063】
発泡層を形成する際に使用される気泡調整剤としては、有機系のもの無機系のもの特に問われることなく使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム等が挙げられる。また、有機系気泡調整剤としては、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等を挙げることができる。また、クエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も気泡調整剤として使用することができる。さらに、これら例示した各気泡調整剤は、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0064】
気泡調整剤としては、前記した中でも、発泡層の気泡径を調整しやすいうえに、多層発泡シートの含水率を低減できることからタルクを用いることが好ましい。なお、気泡調整剤は、発泡層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、概ね0.1質量部以上3質量部以下の範囲で添加することが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上2質量部以下である。
【0065】
物理発泡剤は、多層発泡シートの発泡層の製造に適用することができるものであれば特に限定されず使用することができる。物理発泡剤としては、無機系物理発泡剤や有機系物理発泡剤を使用することができる。無機系物理発泡剤としては、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、空気等を挙げることができる。有機系物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル、1,1,1,2-テトラフロロエタン、1,1-ジフロロエタン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハロゲン化化炭化水素、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。さらに、前記の物理発泡剤は、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0066】
これらの物理発泡剤の中でも、共押出法を安定して実施することができ、良好な発泡層を安定して得ることができるという観点から、物理発泡剤としてはノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0067】
次に、本発明の多層発泡シートの用途について説明する。
本発明の多層発泡シートは、ガラス板用間紙として好適に使用することができる。ガラス板用間紙は、ガラス板の間に介装されて用いられるものであり、ガラス板同士の接触による破損のおそれを防止することができるものである。このようなガラス板用間紙を用いられるガラス板としては、液晶ディスプレイ用のガラス板が挙げられる。液晶ディスプレイ用のガラス板を使用するにあたっては、ガラス板の間に介装されたガラス板用間紙が取り外された後、通常は、個々のガラス板が水等で洗浄され、そして洗浄されたガラス板が使用される。このとき、ガラス板面に塵や埃、高分子型帯電防止剤等に起因する有機物や、カルシウム化合物等の金属化合物が付着していると、水等で有機物等を洗い流すことが難しい。この点、ガラス板用間紙が、本発明の多層発泡シートからなる場合には、ポリアルキレングリコールが多層発泡シートからガラス板の面に良好に移行し、個々のガラス板を水等で洗浄する際にガラス板の表面に付着した有機物等が容易に洗浄される。
【0068】
また、ガラス板用間紙はガラス板の間に介装された状態で、高温多湿雰囲気下に置かれることもある。この点、ガラス板用間紙が、本発明の多層発泡シートからなる場合には、多層発泡シートの含水率が低く抑えられているので、高温多湿の雰囲気下に置かれていたとしても、多層発泡シートの表面に空気中の水分に含まれるカルシウム化合物等の金属化合物が付着しにくい。そのため、多層発泡シートを経由して金属化合物等がガラス板に付着してガラス板が汚染されてしまうことが効果的に抑制される。
【0069】
さらに、本発明の多層発泡シートは、前述したようにポリアルキレングリコールの過度のブリードアウトが抑制されるため高温多湿雰囲気下にあってもガラス板等の被包装物との剥離強度が小さく保つことができる。そのため、例えば、板状のガラス板を持ち上げて取り出す際に、多層発泡シートがガラス板に追従してガラス板と共に持ち上げられてしまうことがなく、良好な作業性が確保される。この点からも、本発明の多層発泡シートは、ガラス板用間紙として好適に使用することができる。
【0070】
なお、本発明の多層発泡シートは、発泡層の片面のみに表面層が積層されていてもよく、両面に表面層が積層されていてもよい。但し、多層発泡シートをガラス板用間紙として使用する場合には表面層が発泡層の両面に積層されていることが好ましい。発泡層の両面に表面層が備えられることで、ガラス板用間紙は、ガラス板の間に介装された際に、ガラス板用間紙に接触する2枚のガラス板の両方の汚染性を低減し且つ洗浄性を向上させることができる。
【実施例1】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は実施例により限定されるものではない。
ポリオレフィン系樹脂として、表1に示す株式会社NUC製の低密度ポリエチレン「LDPE1」を用いた。
【0072】
【0073】
高分子型帯電防止剤として、表2に示すポリエーテル-ポリオレフィン共重合体「ASP1」、「ASP2」を用いた。
【0074】
【0075】
ポリエチレングリコールとして、表3に示す「PEG300」、「PEG600」、「PEG1000」、「PEG10000」を用いた。
【0076】
【0077】
物理発泡剤として、ノルマルブタン70質量%とイソブタン30質量%とからなる混合ブタンを用いた。
【0078】
(1)タルク系の気泡調整剤マスターバッチとして、低密度ポリエチレン80質量%に対してタルク(松村産業株式会社製、商品名ハイフィラー#12)を20質量%配合してなる気泡調整剤マスターバッチを用いた。
(2)クエン酸重曹系の気泡調整剤マスターバッチとして、低密度ポリエチレン80質量%に対してクエン酸モノナトリウムを20質量%配合してなるクエン酸マスターバッチ(永和化成株式会社製、商品名:ポリスレンEE27C)と、低密度ポリエチレン80質量%に対して重曹を20質量%配合してなる重曹マスターバッチ(永和化成株式会社製、商品名:ポリスレンEE35C4)とを用いた。
【0079】
発泡層形成用押出機として、内径90mmの第一押出機と内径120mmの第二押出機とからなるタンデム押出機を用い、表面層形成用押出機として、内径50mm、L/D=50の第三押出機を用いた。さらに、共押出用環状ダイに、第二押出機と第三押出機のそれぞれの出口を連結し、それぞれの樹脂溶融物を共押出用環状ダイ内で積層可能にした。
【0080】
実施例1~4、比較例1~6
低密度ポリエチレン系樹脂「LDPE1」と、該低密度ポリエチレン系樹脂100質量部に対して1.5質量部の気泡調整剤マスターバッチとを配合した樹脂組成物を第一押出機に供給し、溶融、混練し、約200℃に調整された樹脂溶融物とした。次に、該樹脂組成物100質量部に対して10質量部の割合で混合ブタンを圧入し、混錬し、次いで第一押出機の下流側に連結された第二押出機に移送して、押出樹脂温度を115℃に調整して発泡層形成用樹脂溶融物とし、前記共押出用環状ダイに導入した。
なお、実施例1~4、比較例1、2、4~6においては、タルク系の気泡調整剤マスターバッチを使用し、比較例3においては、前記クエン酸重曹系の気泡調整剤マスターバッチを低密度ポリエチレン100重量部に対して1.8質量部(クエン酸マスターバッチ0.6質量部/重曹マスターバッチ1.2質量部)配合した。
【0081】
他方、表4に示す種類、量の低密度ポリエチレン系樹脂と、表4に示す種類、量の高分子型帯電防止剤と、表4に示す種類、量のポリエチレングリコールを第三押出機に供給して溶融、混練し、押出樹脂温度を115℃に調整して表面層形成用樹脂溶融物とし、前記共押出用環状ダイに導入した。なお、PEG300、PEG600、は第三押出機に連結された液中ポンプを介して供給し、PEG1000、PEG10000は低密度ポリエチレン系樹脂とともに第三押出機に添加した。
【0082】
共押出用環状ダイに導入された発泡層形成用樹脂溶融物の外側と内側に、共押出用環状ダイに導入された表面層形成用樹脂溶融物を合流、積層し、環状ダイから、吐出量130kg/hrで大気中に押出し、ブローアップ比2.8となるよう拡径しつつ、引取速度67m/minで引取り、さらに押出方向に沿って切り開き、表面層/発泡層/表面層の3層構成の多層発泡シート(幅1400mm)を製造した。
表裏の表面層は、吐出量を均しくし、同じ坪量とした。
【0083】
【0084】
得られた多層発泡シートについて、表面層の片面当たりの坪量、平均厚み、多層発泡シート全体の見掛け密度、表面抵抗率、含水率、カルシウム化合物付着量、有機物付着量、剥離強度を測定し、ガラス板洗浄性を評価した。結果を表5に示す。
【0085】
【0086】
実施例1~4のポリオレフィン系樹脂多層発泡シートは、特定の数平均分子量を有するポリエチレングリコール主成分とし、25℃で液体であるポリアルキレングリコールを含有し、多層発泡シートの含水率が特定範囲内に制御したものである。従って、優れた帯電防止性能を有すると共に、高温多湿下であっても、有機物付着量及びカルシウム化合物付着量が共に低減され、ガラス板に対する洗浄性の優れるものであった。
【0087】
比較例1は、ポリアルキレングリコールとして数平均分子量300のポリエチレングリコールを用いた例である。ポリエチレングリコールの数平均分子量が小さすぎるため、多層発泡シートの含水率が大きくなり、その結果、カルシウム化合物の付着量が多いものであった。
【0088】
比較例2は、ポリアルキレングリコールとして数平均分子量11000のポリエチレングリコールを用いた例である。ポリエチレングリコールの数平均分子量が大きすぎるため、水による洗浄性が低下して、有機物付着量が多くなった。
【0089】
比較例3は、クエン酸重曹系の気泡調整剤を用いた例である。クエン酸と重曹とが押出機内で反応し、水が生成したことにより多層発泡シートの含水率が大きくなり、カルシウム化合物付着量が多くなった。
【0090】
比較例4は、ポリエチレングリコールの配合量を5.2重量部とし、高分子型帯電防止剤として融点135℃のポリエーテル-ポリオレフィン共重合体を用いた例である。多層発泡シートの含水率が大きすぎるため、カルシウム化合物付着量が多くなった。また、ガラス板に対する剥離強度が大きくなり、作業性がやや低下した。
【0091】
比較例5は、ポリアルキレングリコールとして数平均分子量1000のポリエチレングリコールを用いた例である。ポリエチレングリコールの数平均分子量が大きすぎるため、水による洗浄性が低下して、有機物付着量が多くなった。
【0092】
比較例6は、ポリエチレングリコールの配合量を0.5重量部とした例である。ポリエチレングリコールの配合量が少なすぎるため、水による洗浄性向上効果を得ることができず、有機物付着量が多くなった。
【0093】
表5中、各項目の測定、評価は次のように行った。
(表面層の片面当たりの坪量)
前記の方法により、式(2)を用いて求めた。
【0094】
(多層発泡シートの平均厚み)
多層発泡シートの全幅にわたって幅方向に沿って1cm間隔でシートの厚み(mm)を、オフライン厚み測定器(株式会社山文電気製:TOF-4R)を用いて測定し、それらの算術平均による平均厚みを算出した。前記測定を多層発泡シートの無作為に選択された3箇所に対して行い、算出した前記3箇所の平均厚みの値の算術平均値を多層発泡シートの平均厚み(mm)とした。
【0095】
(多層発泡シートの見掛け密度)
多層発泡シートの押出方向において無作為に5箇所選択し、各箇所についてシートの全幅にわたりシート幅×幅100mmに切り出して5つの試験片を準備した。そして各試験片の質量(kg)を測定するとともに外形寸法から体積(m3)を求め、前記質量(kg)を前記体積(m3)で除して各試験片の見掛け密度(kg/m3)を求め、得られた値の算術平均値を見掛け密度(kg/m3)とした。
【0096】
(多層発泡シートの表面抵抗率)
多層発泡シートの表面抵抗率は、JIS K 6271(2008)に準拠して測定した。具体的には、多層発泡シートから無造作に縦100mm×横100mmの試験片を切り出し、温度20℃、相対湿度30%の雰囲気下に36時間放置して試験片の状態調節を行った。次いでそれぞれの試験片の両面に対して印加電圧500Vの条件にて電圧を印加した。電圧印加を開始して1分経過後に、試験片の表面抵抗率を測定し、それらの算術平均値(試験片5片×両面[n=10])を多層発泡シートの表面抵抗率とした。
【0097】
(多層発泡シートの含水率)
多層発泡シートの含水率(質量ppm)は、以下のように測定した。まず、多層発泡シートから横500mm×縦400mmのサイズに切り出した試験片を、温度50℃、湿度80%RHの条件にて24時間保管した後、空気を遮断した閉鎖空間の中で試験片を180℃にて乾燥させ、水分以外の気化物を除去すると共に、水分を分子ふるい性吸着剤(ナカライテスク株式会社製、モレキュラーシーブ3A°)に選択的に吸着させ、その質量変化から前記式(1)により含水率(質量ppm)を求めた。なお、本明細書中、RHは相対湿度であることを示す。
【0098】
(ガラス板洗浄性)
ガラス板洗浄性は、下記カルシウム化合物付着量及び有機物付着量の測定結果をもとに、以下の基準で評価した。
○:カルシウム化合物付着量が0.35μg/100cm2以下、かつ有機物付着量が0.10mg/100cm2以下
×:カルシウム化合物付着量が0.35μg/100cm2超、及び/又は有機物付着量が0.10mg/100cm2超
【0099】
(カルシウム化合物付着量)
カルシウム化合物の付着量の指標として、カルシウム化合物付着量を測定した。カルシウム化合物付着量は、イオンクロマトグラフ法により測定した。
まず、多層発泡シートとガラス板とそれぞれ6枚ずつ交互に重ねた状態で、3.8g/cm2の荷重条件で50℃、80%RHの条件にて24時間保管した後、ガラス板を洗剤入りの水(水温約25℃)で洗浄し、洗浄後のガラス板をイオン交換水に完全に浸漬させた状態で15分間超音波処理を施してガラスに付着したカルシウム成分をイオン化させて抽出し、イオンクロマトグラフィー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製:INTEGRIONにより、ガラスの表面100cm2当りのカルシウム化合物付着量(μg/100cm2)を測定した。なお、測定に際してはガードカラム及び分離カラムとしてDionex社製IonPac CS14(φ2mm×50mm)を使用し、溶離液として10mMメタンスルホン酸溶液を使用した。
【0100】
(有機物付着量)
有機物付着量は液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)により測定した。
まず、多層発泡シートとガラス板とをそれぞれ6枚ずつ交互に重ねた状態で、3.8g/cm2の荷重条件で50℃、80%RHの条件にて24時間保持した後、ガラス板を洗剤入りの水(水温約25℃)で洗浄した。その後、メタノールとクロロホルムとを体積比1:1で混合した溶媒を含浸させた石英ウールで洗浄後のガラス板表面を拭き取った。次に、ガラス板を拭き取った後の石英ウールを、メタノールとクロロホルムとを体積比1:1で混合した溶媒に完全に浸漬させた状態で15分間超音波処理を施してガラス板に付着した有機物成分を抽出し、島津製作所社製液体クロマトグラフィーで分離し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製質量分析器によりガラスの表面100cm2当りの有機物付着量(mg/100cm2)を測定した。測定に際してはカラムとしてImtakt社製Cadenza CD-C18(φ2mm×150mm)を使用し、移動相として0.1%酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルとの混合液を使用した。測定時のカラムの温度は40℃、流速は0.2mL/minとした。
なお、付着した有機物の指標として、高分子型帯電防止剤に由来するトリメチルイミダゾール、トリフルオロメタンスルホン酸、長鎖脂肪酸、アルキルベンゼンスルホン酸の各成分と、ポリエチレングリコール成分との合計付着量を、有機物付着量とした。
【0101】
(ガラス板剥離強度)
多層発泡シートとガラス板との剥離強度(ガラス板剥離強度)(N)は、以下のように測定した。まず、多層発泡シートから横60mm×縦90mmのサイズの試験片を5枚切り出し、切り出した5枚の試験片と5枚のガラス板とを交互に重ね、温度50℃、湿度80%RHの条件下で、荷重25g/cm2にて7日間圧着させた。その後、ガラス板に圧着した試験片を100mm/minの速度で剥離したときの荷重を測定し、剥離強度(N)とした(測定雰囲気条件:温度25℃、湿度50%RH)。