(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】セラミック化合物を含む層を有する固体基材の表面をコーティングする方法、及び該方法で得られたコーティング基材
(51)【国際特許分類】
C23C 4/10 20160101AFI20230501BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20230501BHJP
F02C 7/24 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C23C4/10
C23C4/134
F02C7/24 A
(21)【出願番号】P 2019541889
(86)(22)【出願日】2017-10-18
(86)【国際出願番号】 FR2017052868
(87)【国際公開番号】W WO2018073538
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-14
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルド,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】クェト,オーレリー
(72)【発明者】
【氏名】エルヴェ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,ルク
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア,オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】マリエ,アンドレ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172243(JP,A)
【文献】特開2007-182631(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0248764(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0128879(US,A1)
【文献】特開2016-138309(JP,A)
【文献】特開2014-240511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/10
C23C 4/134
F02C 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のセラミック化合物を含む少なくとも1つの層で、固体基材の少なくとも1つの表面を懸濁プラズマ溶射法(SPS)によってコーティングする方法であって、
少なくとも1種のセラミック化合物の固体粒子の懸濁液の少なくとも1種をプラズマジェットに注入し、次いで固体粒子の懸濁液を含むサーマルジェットを基材の表面に吹き付けることによって、少なくとも1種のセラミック化合物を含む層を基材の表面に形成し; 該懸濁液中で、少なくとも90体積%の固体粒子の最大寸法(d
90という)が、直径では15μm未満であり、少なくとも50体積%の固体粒子の最大寸法(d
50という)が、直径では1μm以上であることを特徴し;
さらに、該セラミック化合物が、式RE
2Zr
2O
7(式中、REは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Yb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb又はLuである)の希土類ジルコン酸塩、ヘキサアルミネート、ケイ酸アルミニウム、(Yb,Y)
2Si
2O
7を除くイットリウムの又は他の希土類のケイ酸塩(ケイ酸塩は、1種以上のアルカリ土類金属酸化物及びそれらの混合物でドープされていてもよい)並びにこれらの混合物から選択される耐CMAS化合物として知られる化合物であることを特徴とし;
好ましくは、セラミック化合物が、Gd
2Zr
2O
7であり、
層が、層状マイクロ構造及び
蛇行した多孔質網状構造を有する方法。
【請求項2】
層が、同時に以下を含む、請求項1に記載の方法:
-懸濁液の固体粒子の溶融から生じる薄膜;
-懸濁液の固体粒子の部分溶融から生じる固体粒子;及び、
-懸濁液の未溶融固体粒子。
【請求項3】
層が、5~50体積%、好ましくは5~20体積%の多孔度を有する、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
層が、10μm~1000μm、好ましくは10~300μmの厚さである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
固体基材が、塊状支持体の形状又は層の形状等の固体支持体によって構成され、且つ、少なくとも1種のセラミック化合物を含む層が、直接、前記支持体の少なくとも1つの表面を被覆する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
固体基材が、その上に単層又は複層の積層体を有する固体支持体と、前記単層の少なくとも1つの表面又は前記積層体の上層の少なくとも1つの表面を被覆する少なくとも1種のセラミック化合物を含む層によって構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
支持体が、金属、超合金等の金属合金、好ましくは単結晶超合金、SiCマトリックス複合材料等のセラミックマトリックス複合材料(CMC)、C-SiC混合マトリックス複合材料、並びに前記材料の組み合わせ及び混合物から選択される材料で作製されている、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
支持体上の前記単層又は前記積層体が、支持体上に単層もしくは複層の熱保護コーティング、すなわち断熱システム、及び/又は、腐食環境に対する保護のための単層もしくは複層のコーティング、すなわち耐環境システムを形成する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
単層が、結合層及び断熱層又は耐環境層、例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、及び、特に耐腐食層であるセラミック層等の層から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
支持体上の複層の積層体が支持体を起点に以下を含む:
-支持体を覆う結合層、
-断熱層及び耐環境層、例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、及び、特に耐腐食層であるセラミック層等の層から選択される1つ以上の層;又は、
支持体上の複層の積層体が以下を含む:
-断熱層及び耐環境層、例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、及び、特に耐腐食層であるセラミック層等の層から選択される複数の層;
請求項6に記載の方法。
【請求項11】
断熱層及び耐環境層、例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、及び、特に耐腐食層であるセラミック層が、EB-PVD法,APS法,SPS法,SPPS法,ゾル-ゲル法,PVD法,CVD法及びこれらの方法の組み合わせから選択される方法によって作製された層である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
断熱層が、酸化イットリウム又は他の希土類酸化物で安定化された酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウム;ケイ酸アルミニウム、他の希土類のケイ酸塩(該ケイ酸塩は、アルカリ土類金属酸化物でドープされていてもよい);及び、希土類ジルコン酸塩(パイロクロア構造で結晶化する);並びに、上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料、好ましくは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)で作製されており;且つ、
耐環境層が、場合によりアルカリ土類元素でドープされたケイ酸アルミニウム、希土類ケイ酸塩、並びに、上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されている、
請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
結合層が、金属;Pt、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの元素の組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていないβ-NiAl金属合金、Pt、Cr、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの元素の組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていないγ-Ni-γ’-Ni
3Al合金、MCrAlY合金(式中、Mは、Ni、Co)、NiCo等の金属合金;Si;SiC;SiO
2;ムライト;BSAS並びに上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されている、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
基材が、それ自体が断熱層及び耐環境層から選択されるセラミック層等の層でコーティングされている金属結合層でコーティングされた、超合金等の金属合金、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)で作製された支持体で構成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
基材が、イットリン(Y
2O
3)で安定化されたジルコニア(ZrO
2)製のセラミック断熱層でそれ自体がコーティングされた金属結合層でコーティングされた、超合金等の金属合金で作製された支持体、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)から成る支持体で構成されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
基材が、APS法、EB-PVD法、SPS法、SPPS法、ゾル-ゲル法、CVD法及びこれらの方法の組み合わせの中から選択される方法によって作られたセラミック断熱層及び/又は耐環境層でそれ自体がコーティングされた金属結合層でコーティングされた超合金等の金属合金、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)で作製された支持体で構成されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1種のセラミック化合物を含む少なくとも1つの層でコーティングされた基材であって、
セラミック化合物が、式RE
2Zr
2O
7(式中、REは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Yb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb又はLuである)の希土類ジルコン酸塩、ヘキサアルミネート、ケイ酸アルミニウム、(Yb,Y)
2Si
2O
7を除くイットリウムの又は他の希土類のケイ酸塩(ケイ酸塩は、1種以上のアルカリ土類金属酸化物及びそれらの混合物でドープされていてもよい)並びにこれらの混合物から選択される耐CMAS化合物として知られる化合物であり、
層が、層状マイクロ構造及び
蛇行した多孔質網状構造を有する基材。
【請求項18】
層が、同時に以下を含む、請求項17に記載の基材:
-懸濁液の固体粒子の溶融から生じる薄膜;
-懸濁液の固体粒子の部分溶融から生じる固体粒子;及び、
-懸濁液の未溶融固体粒子。
【請求項19】
層が、5~50体積%、好ましくは5~20体積%の多孔度を有する、請求項17又は18に記載の基材。
【請求項20】
層が、10μm~1000μm、好ましくは10~300μmの厚さである、請求項17~19のいずれか一項に記載の基材。
【請求項21】
請求項17~20のいずれか一項に記載のコーティングされた基材を含む部品。
【請求項22】
タービンの部品、例えば、タービンブレード、分配器、タービンリング、側板、又は、燃焼室の部品、又は、ノズルの部品、又は、より一般的には、CMAS等の液体及び/又は固体汚染物質による攻撃を受ける任意の部品である、請求項21に記載の部品。
【請求項23】
CMAS等の汚染物質によって引き起こされる劣化から固体基材を保護するための、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって得られる層の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体基材の少なくとも1つの表面を、少なくとも1種のセラミック化合物を含む少なくとも1つの層を用いてコーティングする方法に関する。
【0002】
特に当該層は、高温における汚染物質(特に、粉塵、砂又は灰などの固体粒子の形状の汚染物質)による浸透と劣化に耐えることができる層である。特に、これらの汚染物質は、通常、石灰(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ケイ素(SiO2)を含む酸化物の混合物により構成され得る。これらの汚染物質は通常CMASと呼ばれる。
【0003】
また本発明は、本発明のコーティング方法によって得られる層でコーティングされた固体基材に関する。
【0004】
また本発明は、前記固体基材を含む部品に関する。
【0005】
より具体的には、本発明の方法によって作製された層は、金属合金又は金属超合金又はセラミックマトリックス複合材料(CMC)で作製された固体基材を保護する複層コーティング内に組み込むためのものである。場合によっては、断熱セラミック層及び/又は酸化防止層及び/又は腐食防止層でそれ自体も任意にコーティングされ得る結合層でコーティングされている。
【0006】
本発明の技術分野は、耐CMASコーティングの技術分野として広く定義することができる。
【0007】
本発明は、高温に曝される部品(例えば、静翼及び動翼、分配器、タービンリング、側板、燃焼室の部品又はノズルなどのタービンの部品)を保護するために、航空、宇宙、海軍及び陸上の産業で特に使用されるガスタービン又は推進システムにおいて特定の用途を認める。
【背景技術】
【0008】
ガスタービンの効率をあげるために、その作動温度はますます高くなる必要がある。そして、それを構成する部品は、表面温度、熱機械的ストレス又は化学的攻撃に関してますます厳しい環境にさらされる。
【0009】
したがって、長年にわたり、ガスタービンの作動温度の上昇は、セラミック酸化物で作られた断熱層を含む断熱システムの使用を必要としてきた。セラミック酸化物は、ほとんどの場合YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、すなわちイットリアで安定化されたジルコニア(酸化イットリウムY2O3)からなり、概して7~8質量%の酸化イットリウムY2O3を含有する。
【0010】
断熱システムは、構造材料の表面温度(すなわち、熱的に保護することが望まれるガスタービンの部品等の部品を構成する材料の表面温度)の低下を可能とする少なくとも1つの断熱層で構成される複層システムである。
【0011】
工業的には、YSZ断熱セラミック層を作製するために2つの技術が現在使用されている。該技術は、乾式の大気圧プラズマ溶射(APS)と、電子ビーム-物理蒸着(EB-PVD)である。
【0012】
プラズマ溶射は、熱伝導性は低いが、熱サイクル中の寿命が限られている層状マイクロ構造をもたらす[非特許文献1]。
【0013】
熱機械的ストレスを強く受ける部品については、EB-PVD法が好ましい。熱伝導性は有利ではないが、熱機械的ストレスに備え、長い耐用年数を保証する柱状マイクロ構造が得られるからである。またEB-PVD法は、高い作動温度を可能にする通気孔を保持できるため、APS法よりも好ましい[非特許文献1]。
【0014】
近年、断熱特性が改善されたセラミックコーティングが、特定の材料又は方法を用いて得られている。
【0015】
特に、溶液前駆体プラズマ溶射法(SPPS)又は懸濁プラズマ溶射法(SPS)によるYSZ被覆物の作製は注目に値する。これらの方法によって得られた被覆物は、著しい熱サイクル耐性を確実にしながら、コーティングの断熱性を高める様々なマイクロ構造を有する。マイクロ構造は、被覆物内の中間層(未溶融(溶融しない)又は部分的に溶融した粒子の存在から生じる)の有無にかかわらず、均質(すなわち、層を構成する細孔もしくは粒子がマイクロメートルスケールで配向性に特徴を有さない)、多孔質、垂直クラック又は柱状(すなわち、マイクロメートルスケールで、層が、柱状ドメイン形状の組織と共に、層の厚さ方向に好ましい配向性を有する構造を有する。柱状ドメインの間は、何もない空間又は柱状スタックの緻密性を反映したその大きさがフレキシブルである柱間空間である)であり得る。またナノ構造は、上記の様々な形態の組み合わせを有することができる。これらのマイクロ構造の例は、非特許文献2及び非特許文献3に示されている。
【0016】
非特許文献4は、SPS法が、ベントホールを保存しながら、タービンブレードタイプの航空部品上に断熱コーティングをうまく作製することを可能にすることを示す。
【0017】
しかしながら、他の問題が生じたため、断熱システムに新しい特性が必要となっている。すなわち、ガスタービンの作動温度の上昇は、該タービンの部品の周囲に存在する、通常は粉塵の形状である汚染物質によって、タービンの高温部品に重大な損傷を引き起こす。これらの汚染物質は、例えばターボジェットエンジンの場合、粒子形状の酸化物であろう。これは、外部から、又は、より低温の領域に位置する部品の上でアブレーションした構成部分から生じる。通常、これらの汚染物質はCMASと呼ばれ、一般的に、石灰(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ケイ素(SiO2)を含む酸化物の混合物から通常構成される。1150℃程度の温度から、溶融したCMASは断熱システム内に浸透し、熱サイクルの間に、断熱システムの硬化、クラック、そして最終的には、層間剥離を引き起こす可能性がある。さらに、CMASとシステムの層との間に化学的相互作用が観察され、イットリア安定化ジルコニアの融解と、安定性の低い新たな相の析出が起きる場合がある。これらの2つの現象は断熱の完全な喪失をもたらし、ターボジェットエンジンの作動温度の上昇に対して制限をかける可能性がある。
【0018】
断熱システムに加えて、耐環境システムもまた、CMAS粒子によるこの種の劣化を経験し得る。
【0019】
耐環境システムは、概して金属表面又はセラミックマトリックス複合材料に適用される複層システムである。該耐環境システムは、腐食環境に耐性のある少なくとも1つの層で構成されている。
【0020】
CMAS汚染物質と反応して高温で安定相を形成するいわゆる「耐CMAS」材料を提案するために様々な方法が検討されている。それはコーティングの中心部において、浸透を阻止及び/又は制限するであろう。
【0021】
特に、アパタイト及び/又はアノーサイト相の形成は、CMAS浸透を阻止できるようにみえる。これらの相を形成する能力について、様々な材料が確認されている。特に特許文献1及び特許文献2は、CMASの浸透を制限及び/又は阻止することを可能にする材料を示す。例えば、式RE2Zr2O7(式中、RE=Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Yb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,Lu)の希土類ジルコン酸塩、Y2O3とZrO2及び/又はAl2O3及び/又はTiO2から構成される複合材料、ヘキサアルミネート、希土類モノ-及びジ-ケイ酸塩(希土類はY又はYbである)並びにこれらの材料の混合物が挙げられる。
【0022】
断熱システムの他の構成要素との化学的不適合性及び/又は耐CMAS組成物の機械的性質の低さは、第1層であるYSZ層と、耐CMAS効果を有するであろう材料で作られた第2層であるCMASに対する保護層とを含むシステム、構造の開発をもたらした。特許文献3、4、5及び6はそのようなシステムを論じている。
【0023】
CMASに対する該保護層の形成には、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)を含む、既に上述したAPS,SPS,SPPS,EB-PVD法等の多くの蒸着法又はゾル-ゲル法などを使用することができる。
【0024】
耐CMAS層によって保護された柱状マイクロ構造を有する断熱層を含む二層構造のEB-PVD法による作製は、柱間空間の存在を誘導する。それは、CMASの浸透と冷却の後に、その後層間剥離する可能性があるシステムの硬化を促進する。
【0025】
APSによって作製された耐CMASコーティングは、大きな表面の薄膜(lamella)を有する非柱状の層状マイクロ構造をもたらす。それはCMASと反応してより安定な相を形成することができる。しかしながら、当該層を高圧タービン部品に適用することは、これが通気孔を塞ぐ可能性があるため困難である。
【0026】
ナノ構造層又は微細構造を有する層を供するSPS法及びSPPS法は、通気孔を塞ぐことなく、均質なマイクロ構造を有する耐CMAS層を形成するための解決策であり得る。
【0027】
SPSによって得られた耐CMAS層は、現在、1μm未満のサイズを有する粒子を含有する懸濁液を用いて作製されている(特許文献5及び特許文献6)。
【0028】
しかしながら、SPSによって得られた耐CMAS層には、層を通過するCMAS汚染物質の浸透点があることが分かった。すなわち、例えば、APS法によって作製された被覆物とは異なり、抗CMAS層の下のコーティングの中心部において、CMAS汚染物質の浸透が非常に重大になっている。
【0029】
したがって、上記に関しては、固体基材上にセラミック層、より具体的には、特にCMAS汚染物質による浸透に対する耐性を向上させる耐CMAS層を、通気孔の閉塞を回避しながら作製することを可能にする方法、特にSPS法が必要とされている。
【0030】
固体基材は、固体バルクの支持体の形状もしくは層の形状の単純な支持体によって簡単に構成されてもよく、又は固体基材は、その上に一層もしくは複層のコーティング(例えば、複層断熱コーティング、すなわち断熱システム、もしくは腐食環境に対する保護のための複層コーティング、すなわち耐環境システム)が存在する支持体によって構成されてもよい。
【0031】
この方法は、基材の表面形状がどのようであっても、該基材を構成する材料(すなわち、より正確には支持体を構成する材料、又はこの方法によって作製される層に被覆される層)が何であっても、構造、特に基材(支持体もしくは層)のマイクロ構造に関わらず、そして該基材(支持体もしくは層)を作製する方法が何であっても、あらゆる種類の基材上にこの層を作製することを可能にすべきである。
【0032】
特に本発明の方法は、EB-PVD,APS,SPS,SPPS,PVD,CVD及びゾル-ゲル法並びにこれらの方法の全ての組み合わせの中から選択される方法によって作製された基材(支持体もしくは層)上に、セラミック層、より具体的には効果的な耐CMAS層を作製することを可能にすべきである。
【0033】
特に本発明の方法は、柱状構造、多孔質柱状構造、多孔質緻密柱状構造、均質構造、多孔質均質構造、緻密構造、緻密垂直クラック構造、多孔質垂直クラック構造及びこれらの全ての組み合わせから選択されるマイクロ構造を有する基材(支持体もしくは層)上に、セラミック層、より具体的には効果的な耐CMAS層を作製することを可能にすべきである。
【0034】
特に、CMASによりシステムが劣化することなしに、より高い温度でターボジェットエンジンの動作を確実にする方法が必要とされている。
【0035】
本発明の目的は、とりわけ、固体基材の少なくとも1つの表面を、少なくとも1種のセラミック化合物を含む少なくとも1つの層でコーティングする方法を提供することである。該方法は、とりわけこれらの必要性を満たし、先行技術の方法(特に従来技術のSPS法)の不利益、欠陥、制限および欠点を示さず、従来技術の方法の問題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【文献】米国特許出願公開第2009/0184280号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0196605号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0151219号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0244216号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0260132号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0065408号明細書
【非特許文献】
【0037】
【文献】A.Feuerstein,J.Knapp,T.Taylor,A.Ashary,A.Bolcavage,N.Hitchman,“Technical and economical aspects of current thermal barrier coating systems for gas turbine engines by thermal spray and EBPVD:a review”,Journal of Thermal Spray Technology,17,2008,199-213.
【文献】N.Curry,K.Van Every,T.Snyder,N.Markocsan,“Thermal conductivity analysis and lifetime testing of suspension plasma-sprayed thermal barrier coatings”,Coatings,4,2014,pp.630-650.
【文献】E.H.Jordan,L.Xie,M.Gell,N.P.Padture,B.Cetegen,A.Ozturk,J.Roth,T.D.Xiao,P.E.C.Bryant,“Superior thermal barrier coatings using solution precursor plasma spray”,Journal of Thermal Spray Technology,13,2004,pp.57-65.
【文献】Z.Tang,H.Kim,I.Yaroslavski,G.Masindo,Z.Celler,D.Ellsworth,“Novel thermal barrier coatings produced by axial suspension plasma spray”,Proceeding of International Thermal Spray Conference and Exposition(ITSC),Hamburg,Germany,2011.
【発明の概要】
【0038】
本発明によれば、当該目的及び他の目的は、懸濁プラズマ溶射法(SPS)によって少なくとも1種のセラミック化合物を含む少なくとも1つの層で固体基材の少なくとも1つの表面をコーティングする方法(少なくとも1種のセラミック化合物の固体粒子の少なくとも1種の懸濁液をプラズマジェットに注入し、次いで固体粒子の懸濁液を含むサーマルジェットを基材の表面に吹き付けることによって、少なくとも1種のセラミック化合物を含む層を基材の表面に形成する)によって達成される。
該方法は、懸濁液中で、少なくとも90体積%の固体粒子の最大寸法(d90という)が、例えば直径では15μm未満、好ましくは10μm未満であり、少なくとも50体積%の固体粒子の最大寸法(d50という)が、例えば直径では1μm以上であることを特徴とする。さらに該方法は、セラミック化合物が耐CMAS化合物として知られる化合物から選択されることを特徴とする。好ましくは、セラミック化合物は、式RE2Zr2O7(式中、REは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Yb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb又はLuである)の希土類ジルコン酸塩、Y2O3とZrO2及び/又はAl2O3及び/又はTiO2の複合材料、ヘキサアルミネート、ケイ酸アルミニウム、イットリウム又は他の希土類のケイ酸塩(ケイ酸塩は、1種以上のアルカリ土類金属酸化物及びそれらの混合物でドープされていてもよい)並びにこれらの混合物から選択される。より好ましくは、セラミック化合物はGd2Zr2O7である。
【0039】
有利には、懸濁液中で、少なくとも90体積%の固体粒子の最大寸法(d90という)が、例えば直径では8μm未満、好ましくは5μm未満である。
【0040】
有利には、懸濁液中で、少なくとも50体積%の固体粒子の最大寸法(d50という)が、例えば直径では2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、最も好ましくは5μm以上である。
【0041】
例えば、d50は、1μm、1.01μm、3μm、5μm又は5.5μmとすることができる。
【0042】
例えば、d90は、7μm、4μm、4.95μm、5μm、12μm、13μm又は13.2μmとすることができる。
【0043】
本発明は、上記d90及びd50の値の全ての可能な組み合わせを網羅する。
【0044】
懸濁液の粒子サイズの分析は、ISO 24235規格に従ってレーザー回折粒度計を用いて行われる。
【0045】
d90及びd50は、ISO 9276規格から決定することができる。
【0046】
以下において、層に対して用いられる用語「層状(lamellar)」は、その層が、マイクロメートルスケールで、層の厚さに対して垂直な方向に好ましい配向をもつ基本のブロック(brick)を有する構造を有することを意味する。
【0047】
層に対して用いられる用語「柱状」は、その層が、マイクロメートルスケールで、基本のブロック(これらのブロックは円柱の形状で構成されている)が層の厚さの方向で好ましい配向をもつ構造を有することを意味する。
【0048】
層に対して用いられる用語「均質」は、その層が、マイクロメートルスケールで、特徴的な配向性をもたない基本のブロックで形成された構造を有することを意味する。同様に、その層の多孔性は、マイクロメートルスケールで特徴的な配向性をもたない。
【0049】
本発明の方法は、特定の被覆法、すなわち懸濁プラズマ溶射法(SPS)を実施し、そして懸濁液が非常に限られた粒子サイズの粒子を含むという点で、従来技術の方法とは根本的に異なる。すなわち、事実によって定義される粒子サイズが、少なくとも90体積%の固体粒子の最大寸法(d90という)が、例えば直径では15μm未満、好ましくは10μm未満であり、少なくとも50体積%の固体粒子の最大寸法(d50という)が、例えば直径では1μm以上である。
【0050】
このような懸濁粒子の粒度分布は、先行技術には記載も示唆もされていない。先行技術では、例えば耐CMAS層の作製に使用するSPS法は、1μm未満のサイズ(すなわちd50が1μm未満であり、特にナノメートルのd50及び/又はd90、すなわち1ナノメートル以上100ナノメートル以下、又はサブミクロンのd50及び/又はd90、すなわち100ナノメートルを超えて1000ナノメートル未満)の「小さい」粒子を含む懸濁液を使用する。
【0051】
従来技術では、小さいサイズの粒子の使用は、層を通る汚染物質、例えばCMASの浸透点の出現を促進し、それ故、コーティングの中心部での汚染物質、例えばCMASの浸透をより重大にする。先行技術においてSPSによって得られた耐CMAS層のこの挙動は、微粒子から得られた層の多孔質網状構造の蛇行度が低いことに起因しているかもしれない。
【0052】
反対に、本発明の方法によって得られた層は、はるかに大きい粒子を使用しているために、はるかに大きい蛇行度を有する。この大きな蛇行度は、例えば層のその厚さにおける液体CMASの浸透を遅くすることを可能にする。
【0053】
キャリアガスを使用して粒子のインジェクションが行われるAPS法とは対照的に、本発明に従って行われるSPS法における粒子のインジェクションは、加圧された液体担体中で運ばれる粒子の懸濁液をベースに行われる。これにより、15μm未満、好ましくは10μm未満のd90を有する粒子は、後者に過度に妨害されることなく、プラズマジェットの中心部に慣性効果によって浸透する。したがって、プラズマジェットによりそれらの輸送と加熱を最適化することができる。
【0054】
本発明の方法は、従来技術の方法の欠点を有さず、従来技術の方法の問題に対する解決策を提供する。
【0055】
有利には、本発明の方法によって得られた層は、層状マイクロ構造及び蛇行した多孔質網状構造を有する。
【0056】
有利には、本発明の方法によって得られた層は同時に以下を含む:
-懸濁液の固体粒子の溶融から生じる薄膜;
-懸濁液の固体粒子の部分溶融から生じる固体粒子;及び、
-懸濁液の未溶融固体粒子。
【0057】
本発明の方法によって得られた層は任意にクラックを有する場合があり、コーティングされる表面のマイクロ構造がどのようであっても、それは非柱状かつ不均質である。
【0058】
すなわち、本発明の方法によって得られた層は、その耐CMAS機能に特に適したマイクロ構造を有する。それは、層の材料と液体CMASとの間の反応の生成物である安定相を、多孔質網状構造の制限された浸透を有するその表面上に形成することを可能にする。これらの安定相は、CMASがコーティングに深く入り込む浸透を阻止する。
【0059】
懸濁液で使用する開始粒子(initial particle)の固有のサイズに伴い、本発明に従った層は多くの薄膜を有する。それらは、溶融粒子(懸濁液の固体粒子の溶融から生じる)、部分溶融粒子(懸濁液の固体粒子の部分溶融から生じる固体粒子)及び未溶融粒子(懸濁液の未溶融の固体粒子であり、球状等の最初の形状を保持している)である。したがって、層は多孔質網状構造を有し、それは汚染物質による接近、液体CMAS等の汚染物質による浸透を困難にする。
【0060】
この方法の従来法で用いられる懸濁液(その粒子のd50は1μm未満、特にナノメートルのd50及び/又はd90、すなわち1ナノメートル以上100ナノメートル以下、又はサブミクロン、すなわち100ナノメートルを超えて1000ナノメートル未満である)で実施するSPS法により得られる層とは異なり、本発明に従った層のマイクロ構造は層状である。それは柱状でも均質でもない。
【0061】
本発明の方法によって得られた層の層状マイクロ構造は、粒子の機械的浸食についての耐性増強を確実にする。特に、粒子の機械的浸食についての耐性は、この方法の従来法で用いられる「小さな」粒子を有する懸濁液を使用するSPS法によって得られた均質又は柱状のマイクロ構造よりも大きい。
【0062】
さらに、有利には、本発明に従った層は、通気孔を塞がないことを特徴とする。実際、懸濁液の開始粒子の粒度分布は十分に微細であるので、APS法によって作製された層と比較したとき、より微細な構造化された層をもたらす。
【0063】
本発明の方法は、10μm以下のd90及び1μm以上のd50を有する懸濁粒子を使用することによって、APS法で得られるマイクロ構造に近いマイクロ構造を有する層を、該マイクロ構造の欠陥を示すことなく、すなわち通気孔を塞ぐことなく作製することを可能にする。
【0064】
最後に、本発明の方法による、15μm未満、好ましくは10μm未満のd90及び1μm以上のd50を有する懸濁粒子の使用は、層状マイクロ構造を有する層を得ることを可能にする。これは、通気孔を塞ぐことなく、CMAS等の汚染物質に対する化学的耐性及び粒子の侵食に対する機械的耐性を高めることを可能にする。
【0065】
有利には、層は、5~50体積%、好ましくは5~20体積%の多孔度を有する。
【0066】
有利には、層は、10μm~1000μm、好ましくは10~300μmの厚さを有する。
【0067】
本発明の方法によって、層を用いてコーティングすることができる基材に制限はない。
【0068】
本発明の方法は、基材の表面形状がどのようであっても、該基材を構成する材料(すなわち、より正確には支持体を構成する材料、又はこの方法によって作製される層に被覆される層)が何であっても、構造、特に基材(支持体もしくは層)のマイクロ構造に関わらず、該基材の形態がどのようであっても、そして該基材(支持体もしくは層)を作製する方法が何であっても、あらゆる種類の基材上に、本明細書で開示される有利な特性を有する層を作製することを確実にする。
【0069】
特に本発明の方法は、EB-PVD,APS,SPS,SPPS,PVD,CVD及びゾル-ゲル法並びにこれらの方法の全ての組み合わせの中から選択される方法によって作製された基材(支持体もしくは層)上に、セラミック層、より具体的には効果的な耐CMAS層を作製することを可能にする。
【0070】
固体基材は、塊状のバルク固体支持体の形状又は層の形状等の単純な固体支持体によって簡単に構成されていてもよい。そして、本発明の方法によって、少なくとも1種のセラミック化合物を含む層が、直接、前記支持体の少なくとも1つの表面を被覆する。
【0071】
あるいは、固体基材は、その上に、単層(本発明の方法によって作製された少なくとも1種のセラミック化合物の層とは異なる)又は複層(本発明の方法によって作製された少なくとも1種のセラミック化合物の層とは異なる)の積層体を有する固体支持体と、前記単層の少なくとも1つの表面上又は前記積層体の上層の少なくとも1つの表面上に被覆された少なくとも1種のセラミック化合物を含む層によって構成されていてもよい。
【0072】
前記支持体は、CMAS等の汚染物質による浸透及び/又は攻撃に影響を受けやすい材料から選択される材料で作製されていてもよい。
【0073】
前記支持体は、特に、金属、金属合金(例えば、AM1、Rene及びCMSX(登録商標)-4超合金等の超合金)、SiCマトリックス複合材料、C-SiC混合マトリックス複合材料等のセラミックマトリックス複合材料(CMC)、並びに前記材料の組み合わせ及び/又は混合物の中から選択される材料で作製されていてもよい。
【0074】
超合金は、機械的強度並びに高温での酸化及び腐食に対する耐性を特徴とする金属合金である。
【0075】
本発明の背景において、それらは好ましくは単結晶超合金である。
【0076】
一般的に使用されるこのような超合金は、例えば、5~8%のCo、6.5~10%のCr、0.5~2.5%のMo、5~9%のW、6~9%のTa、4.5~5.8%のAl、1~2%のTi、0~1.5%のNb及びそれぞれ0.01%未満のC、Zr、Bの質量組成を有するニッケルベースの超合金であるAM1と呼ばれる超合金である。
【0077】
AM1超合金は、米国特許US-A-4,639,280に記載されている。
【0078】
Reneと呼ばれる超合金のファミリーは、General Electric(商標)社によって開発された。
【0079】
CMSX-4超合金は、Cannon-Muskegon(商標)社の商標である。
【0080】
本発明の層は、これらの超合金から成る部品に適用することができる。
【0081】
有利には、支持体上にある単層又は前記層の積層体は、支持体上に単層もしくは複層の熱保護コーティング、すなわち断熱システム、及び/又は、腐食環境に対する保護のための単層もしくは複層のコーティング、すなわち耐環境システムを形成する。
【0082】
有利には、単層は、結合層及び断熱層又は耐環境層(例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、特に耐腐食層であるセラミック層等の層)の中から選択することができる。
【0083】
有利には、支持体上にある複層の積層体は、支持体を起点に以下を含むことができる:
-支持体を覆う結合層;
-断熱層及び耐環境層(例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、特に耐腐食層であるセラミック層等の層)から選択される1つ以上の層;又は、
支持体上にある複層の積層体は、以下を含むことができる:
-断熱層及び耐環境層(例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、特に耐腐食層であるセラミック層等の層)の中から選択される複数の層。
【0084】
有利には、断熱層及び耐環境層(例えば、特に断熱層であるセラミック層、特に酸化防止層であるセラミック層、特に耐腐食層であるセラミック層)は、EB-PVD,APS,SPS,SPPS,ゾル-ゲル,PVD,CVD法及びこれらの方法の組み合わせから選択される方法によって作製された層であってもよい。
【0085】
有利には、断熱層は、酸化イットリウム又は他の希土類酸化物で安定化された酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウム、ケイ酸アルミニウム、イットリウム又は他の希土類のケイ酸塩(該ケイ酸塩は、アルカリ土類金属酸化物でドープされていてもよい)及び希土類ジルコン酸塩(パイロクロア構造で結晶化する)、並びに、上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されている。
【0086】
好ましくは、断熱層はイットリア安定化ジルコニア(YSZ)で作製されている。
【0087】
有利には、耐環境層は、場合によりアルカリ土類元素でドープされたケイ酸アルミニウム、希土類ケイ酸塩並びに上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されている。
【0088】
有利には、結合層は、金属;Pt、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの元素の組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていないβ-NiAl金属合金、Pt、Cr、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていないγ-Ni-γ’-Ni3Al合金、MCrAlY合金(式中、Mは、Ni、Co)、NiCo等の金属合金;Si;SiC;SiO2;ムライト;BSAS並びに上記材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されている。
【0089】
一実施形態によれば、基材は、それ自体が断熱層及び耐環境層から選択されるセラミック層等の層でコーティングされている金属結合層でコーティングされた、超合金(好ましくは単結晶)等の金属合金、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)で作製された支持体で構成されていてもよい。
【0090】
別の実施形態によれば、基材は、イットリン(Y2O3)で安定化されたジルコニア(ZrO2)製のセラミック断熱層でそれ自体がコーティングされた金属結合層でコーティングされた、超合金等の金属合金で作製された支持体、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)から成る支持体で構成されている。
【0091】
さらに別の実施形態によれば、基材は、APS、EB-PVD、SPS、SPPS、ゾル-ゲル、CVD法及びこれらの方法の組み合わせの中から選択される方法によって作られたセラミック断熱層及び/又は耐環境層でそれ自体がコーティングされた金属結合層でコーティングされた超合金等の金属合金で作製された支持体、又は、セラミックマトリックス複合材料(CMC)から成る場合がある支持体で構成されていてもよい。
【0092】
懸濁プラズマ溶射法を用いて本発明に従った層を作製する。これは、作製される層の材料の粒子を含有する懸濁液を、高い熱エネルギー及び運動エネルギーを有する流れ(例えば、DCプラズマトーチによって生成できるプラズマジェット)にインジェクションすることから成る。
【0093】
通常、懸濁液は、1~40質量%、好ましくは8~15質量%の固体粒子、例えば12質量%の固体粒子を含有する。
【0094】
懸濁液の溶媒は、水、エタノールなどの1~5Cの脂肪族アルコール等のアルコール及びそれらの混合物から選択することができる。
【0095】
懸濁液は、メカニカルインジェクタを用いて加圧タンクからインジェクションされる。
【0096】
本発明の方法では、プラズマジェットへの懸濁液のインジェクションは、通常、放射状に行われる。プラズマジェットの長手方向軸に対するインジェクタの傾斜は、20°から160°まで変えることができるが、好ましくは90°である。当業者に公知の方法では、インジェクタの向きは、プラズマジェットへの懸濁液のインジェクションを最適化し、それにより基材の表面上への良質な層の形成促進を可能にする。
【0097】
インジェクタはプラズマジェットの長手方向で移動させることができる。インジェクタがコーティングされる基材の表面に近いほど、プラズマジェット内の粒子の滞留時間が短くなり、したがって粒子に課される熱速度論的処理を制御することが可能になる。
【0098】
インジェクタの直径は、50μmから300μmの間で変えることができる。
【0099】
インジェクション装置は、例えば懸濁液の量及び/又はインジェクションされる様々な懸濁液の数に応じて、1つ以上のインジェクタを備えることができる。
【0100】
このようにインジェクションされた懸濁液はプラズマジェットと接触すると砕ける。次いで溶媒が蒸発し、粒子は熱処理され、基材に向かって速度を上げ、それにより層を形成する。
【0101】
プラズマジェットは、アルゴン、ヘリウム、二水素、二窒素、前記4種の気体の二元混合物、前記4種の気体の三元混合物から有利に選択されるプラズマ形成ガスから生成することができる。
【0102】
プラズマジェット生成法は、吹き付け式もしくは吹き付け式ではないアークプラズマ、誘導プラズマ又は高周波プラズマから選択される。生成したプラズマは大気圧又はより低い気圧で作動することができる。アークプラズマの場合、カソードとアノードとの間及びアークが生成する間のニュートロードのスタックよって後者は到達することができる。
【0103】
本発明の対象である方法の好ましい実施形態によれば、インジェクションは、50~300μmのインジェクションの直径を有するインジェクションシステムの手段によって、該インジェクションシステムのインジェクション圧力1~7バールで、1~40重量%の固体粒子状要素を含む懸濁液により行われる。
【0104】
さらに本発明は、上記のように、本発明の方法によって得られた少なくとも1つの層でコーティングされた基材に関する。
【0105】
有利には、当該層は層状マイクロ構造及び蛇行した多孔質網状構造を有する。
【0106】
有利には、当該層は同時に以下を含む:
-懸濁液の固体粒子の溶融から生じる薄膜;
-懸濁液の固体粒子の部分溶融から生じる固体粒子;及び、
-懸濁液の未溶融固体粒子。
【0107】
有利には、層は、5~50体積%、好ましくは5~20体積%の多孔度を有する。
【0108】
有利には、層は10μm~1000μm、好ましくは10μm~300μmの厚さを有する。
【0109】
また本発明は、前記コーティング基材を含む部品に関する。
【0110】
該部品は、タービンの部品、例えば、タービンブレード、分配器、タービンリング、側板、又は、燃焼室の部品、又は、ノズルの部品、又は、より一般的には、液体及び/又は固体汚染物質(例えば、CMAS)による攻撃を受ける任意の部品とすることができる。
【0111】
該タービンは、例えば、航空用タービン又は陸上用タービンとすることができる。
【0112】
また本発明は、CMAS等の汚染物質によって引き起こされる劣化から固体基材を保護するための、本発明の方法によって得られる層の使用に関する。
【0113】
本発明は、高温に曝される部品(例えば、静翼及び動翼、分配器、タービンリング、側板、燃焼室もしくはノズルの部品などのタービンの部品)を保護するために、航空、宇宙、海洋及び陸上の産業で特に使用されるガスタービン又は推進システムにおいて特定の用途を認める。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1】
図1は、10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有する開始粒子を用いてSPS法を実施する本発明の方法によって得られた、本発明に従った「耐CMAS」層1を最上層とする複層システムを示す側断面概略図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した複層システムを簡略化して示した側断面概略図である。その上層は、15μm未満、好ましくは10μm未満のd
90と、1μm以上のd
50を有する開始粒子を用いてSPS法を実施する本発明の方法によって得られた、本発明に従った「耐CMAS」層1である。
【
図3】
図3は、実施例1で作製した試料の研磨片を、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。それは、SPSによって得られた多孔質柱状YSZ層6の表面に作製された、10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有する開始粒子を用いてSPS法によって得られた耐CMAS層1を含む。
図3に示す目盛りは100μmを表す。
【
図4】
図4は、実施例2で作製した試料の研磨片を、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。それは、SPSによって得られた多孔質緻密柱状YSZ層7の表面に作製された、10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有する開始粒子を用いてSPS法によって得られた耐CMAS層1を含む。
図4に示す目盛りは100μmを表す。
【
図5】
図5は、実施例3で作製した試料の研磨片を、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。それは、EB-PVDによって得られた柱状YSZ層8の表面に作製された、10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られた耐CMAS層1を含む。
図5に示す目盛りは100μmを表す。
【
図6】
図6は、実施例3において、EB-PVDによって得られた柱状YSZ層8の表面上で、SPSによって得られた耐CMAS層1の研磨片を、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。 観察はCMASの浸透後に行われる。
図6に示す目盛りは5μmを表す。
【
図7】
図7Aは、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
図7Bは、実施例4において、APSによって得られたYSZ層11の表面で、SPSによって得られた(
図9Aの層13と同様の)耐CMAS層1の研磨片のシリコンエネルギー分散分光法(EDS)分析を示す。観察はCMAS浸透後に行われる。
図7A及び
図7Bに示す目盛りは25μmを表す。
【
図8】
図8Aは、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した別の顕微鏡写真を示す。
図8Bは、実施例4において、APSによって得られたYSZ層11の表面に、SPSによって得られた本発明の(
図9Aの層13と同様の)耐CMAS層1の研磨片のシリコンEDS分析を示す。 観察は、CMAS浸透後にクラック12を有する領域で行われる。
図8A及び
図8Bに示す目盛りは25μmを表す。
【
図9A】
図9Aは、実施例4において、7μmのd
90と3μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られたGd
2Zr
2O
7の耐CMAS層13の研磨片の、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したさらに別の顕微鏡写真とシリコンEDS分析を示す。この層はAPSによって得られたYSZ層11の表面上に作製される。
図9Aに示す目盛りは25μmを表す。 観察は、CMAS浸透後にクラックを有する領域で行われる。
【
図9B】
図9Bは、実施例5において、APSによって得られたYSZ層11の表面上に、4.95μmの直径と1.01μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られた、本発明に従ったGd
2Zr
2O
7の耐CMAS層14の研磨片のシリコンEDS分析(右)と、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真(左)を示す。 観察は、CMAS浸透後にクラックを示す領域で行われる。
図9Bに示す目盛りは25μmを表す。
【
図9C】
図9Cは、例6において、0.89μmのd
90と0.41μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られた、本発明に従わないGd
2Zr
2O
7の耐CMAS層15の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真とシリコンEDS分析を示す。この層はAPSによって得られたYSZ層11の表面上に作製される。観察は、CMAS浸透後にクラックを有する領域で行われる。
図9Cに示す目盛りは25μmを表す。
【
図10】
図10は、実施例4で得られた耐CMAS層13のCMAS浸透後のX線回折で得られた回折図を示す。
【
図11】
図11は、実施例11において作製された試料の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。この試料は、EB-PVD法によって得られた、柱状YSZ層8の表面に作製されたGd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層を含む。該耐CMAS層は、13.2μmのd
90と、1μm以上、すなわち5.5μmのd
50を有する開始粒子を含有する懸濁液を使用するSPS法によって本発明に従って作製される。
図11に示す目盛りは100μmを表す。
【
図12】
図12は、実施例12において、APSによって得られたt’相のイットリア安定化ジルコニアから成る自己支持形基材11上に、SPSによって得られた耐CMAS層21の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。 観察はCMAS浸透後に行われる(実施例13)。
図12に示す目盛りは100μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0115】
図1は、本発明の方法の一実施形態を示す。本発明の方法によって作製された本発明に従った層1は、
図1に示される層2、3、4を含むシステムの表面上に被覆される。
【0116】
積層体2、3、4の様々な層は、これには限定されないが、例として、超合金航空部品に適用される断熱システムの層を表すことができる。
【0117】
有利には、層2は、例えば、t’相の安定化を可能にするジルコニア(ZrO2)及び/又はイットリン(Y2O3)等の断熱システム及び/又は耐環境システムの材料、及び、他の全ての適切な材料、並びに、これらの材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製することができる。
【0118】
さらに、有利には、層2は、EB-PVD,APS,SPS,SPPS,ゾル-ゲル及びCVD法及びこの層を作製することができる他の全ての方法、並びに、これらの方法の組み合わせの中から選択される被覆方法によって作製することができる。
【0119】
有利には、層2は、使用される被覆方法に特徴的なマイクロ構造を有する。この層は、例えば、非限定的に、柱状マイクロ構造、多孔質柱状マイクロ構造、多孔質緻密柱状マイクロ構造、均質マイクロ構造、多孔質均質マイクロ構造、緻密マイクロ構造、緻密垂直クラックマイクロ構造及び多孔質垂直クラックマイクロ構造を示す。
【0120】
第1の実施形態によれば、本発明に従った層1は、SPSによって得られた多孔質柱状マイクロ構造を有する層2(
図3の層6)に適用することができる。
【0121】
第2の実施形態によれば、本発明に従った層1は、SPSによって得られた多孔質緻密柱状マイクロ構造を有する層2(
図4の層7)に適用することができる。
【0122】
第3の実施形態によれば、本発明に従った層1は、EB-PVDによって得られた柱状マイクロ構造を有する層2(
図5の層8)に適用することができる。
【0123】
有利には、層2は断熱及び/又は耐環境の機能を有することができる。またこの層は、これには限定されないが、耐用年数及び断熱、又は、酸化及び湿気腐食に対する保護の観点から良好な性能を保証することを可能にする。
【0124】
有利には、層3は結合層として機能する。
【0125】
層3は、金属、(Pt、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの元素の組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていない)β-NiAl金属合金、(Pt、Cr、Hf、Zr、Y、Si又はこれらの元素の組み合わせによって修飾されているか又は修飾されていない)γ-Ni-γ’-Ni3Al合金のアルミナイド、MCrAlY合金(式中、M=Ni、Co、NiCo)等の金属合金、Si、SiC、SiO2、ムライト、BSAS、及び、その他の全ての適切な材料並びにこれらの材料の組み合わせ及び/又は混合物から選択される材料で作製されていてもよい。
【0126】
有利には、層3は、上記のように、層3の元素の酸化によって得られた酸化物層を含むことができる。これには限定されないが、例えば、層3はアルミノ形成層であってもよい。すなわち層3の酸化はα-アルミナ層を有利に生成することができる。
【0127】
有利には、層4は、金属超合金、セラミックマトリックス複合材(CMC)並びにこれらの材料の組み合わせ及び/又は混合物等の金属合金から選択される材料で作られた部品の一部又は部品の要素である。層4の材料は、特に、AM1、Rene及びCMSX(登録商標)-4超合金から選択することができる。
【0128】
図2においては、
図1に示される層1と、層2、3、4を含むシステムは、2つの要素に簡略化されている。すなわち:
-10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有するインジェクション懸濁液の粒子を用いてSPS法を実施する本発明の方法によって得られた本発明に従った耐CMAS層1;
-
図1の層2、3、4のシステム、又は、
図1の層2、3、4のシステムの1つ以上の層、又
図1の層2、3、4のシステムの層の1つ以上の組み合わせを正確に表すことができる層5。このシステムは、15μm未満、好ましくは10μm未満のd
90と1μm以上のd
50を有するインジェクション粒子を用いたSPSによって得られた耐CMAS層1でコーティングされている。
【0129】
したがって、有利には、本発明に従った層1は、層5の表面に適用することができる。この層5は、独立した及び/又は組み合せた方法で層2、3、4を含むことができる。
【0130】
有利には、層2及び3及び/又は層5は、これには限定されないが、耐熱及び/又は耐環境機能の提供を可能にする。またそれらは、これには限定されないが、耐用年数や断熱性、又は、酸化や湿気腐食に対する保護の観点から、優れた性能の保証を可能にする。有利には、本発明に従った層1の追加は、それが適用される
図1及び
図2に記載のシステムの性能を低下させない。
【0131】
有利には、層1のマイクロ構造は、層2上又は層5上のどちらで実施されても、そして層2又は層5の微細構造及び/又は組成がどのようであっても、これには限定されないが、均質形状及び/又はクラック形状を有する。
【0132】
有利には、本発明に従った層1は、高温で、より厳密にはCMASの融解温度を超える温度で、CMASと反応して反応領域9(
図6)を形成する。その上では、層1内のCMAS浸透が停止及び/又は制限される。
【0133】
最終的に、結果として、固化したCMAS10がコーティングの表面上に観察される(実施例、
図6参照)。
【0134】
有利には、領域9は、これには限定されないが、アパタイト及び/又は灰長石及び/又はジルコニア及び/又は他の反応生成物相及び/又はこれらの相の組合せ及び/又は混合物を含む、CMASと層1の間の反応生成物から構成される。
【0135】
例えば、APSによって得られた層11上に被覆された層1内では、反応領域9の上のCMAS浸透試験後に、CMAS浸透は観察されない(
図7A及び7B)。有利には、APSによって得られた層11は、
図1に記載された層2の内容に含まれる。
【0136】
同様に、反応領域9の上のCMAS浸透試験後に、層11上に被覆された層1内のCMAS浸透は、APSによって得られない(
図8A及び8B)。APSによって得られた層11上に被覆された層1内に観察されたクラック12は、領域9を構成するものと同様の反応生成物によって急速に塞がる(
図8A及び8B)。有利には、APSによって得られた層11は、
図1に記載された層2の内容に含まれる。
【0137】
本発明の方法によって本発明に従った層1を作製する場合、層1で基材(
図1の層2~4及び/又は
図2の層5を含む)をコーティングする前に、被覆を妨害する、及び/又は、接着力を低下させる、及び/又は、マイクロ構造に影響を及ぼす傾向があるであろう残留物及び/又は汚染物質(無機物及び/又は有機物)を除去するために、コーティングされる表面を前処理及び/又は洗浄できることに留意すべきである。表面処理は、研磨による表面粗さの形成、薄い酸化物層を作るための基材の酸化、及び/又は、これらの処理方法の組み合わせとすることができる。
【0138】
本発明は、これには限定されないが、例示として与えられる以下の実施例を参照して説明される。
【0139】
耐CMAS層を作製するために、最初にエタノール中のセラミック粒子の懸濁液を作製する。エタノール中に、セラミック粒子の懸濁液を入れることによって、12質量%のセラミック濃度を有する懸濁液を得る。
【0140】
このようにして作製した懸濁液を、下記から成るアセンブリを用いて吹き付け式アークプラズマにインジェクションする:
-Oerlikon-Metco(登録商標)F4-VB及び/又はOerlikon-Metco Triplex Direct Current Pro200プラズマトーチ;
-その上にトーチが設置され、その動きを可能にするロボット装置;
-トーチからの規定された距離で、コーティングされる表面を固定する装置。この装置の許可する動きと上記装置の許可する動きとの組み合わせは、試料の表面をコーティングすることを可能にする;
-懸濁液インジェクション装置。
【0141】
実施例1、2、3及び4では、層は、Oerlikon-Metco Triplex Pro200トーチを使用して、トーチ出口と基材との間の距離を70mmとして、80体積%のアルゴンと20体積%のヘリウムから成るプラズマ形成ガス混合物を用いて作製される。
【0142】
実施例5では、層は、Oerlikon-Metco Triplex Pro200トーチを使用して、トーチ出口と基材との間の距離を60mmとして、80体積%のアルゴンと20体積%のヘリウムから成るプラズマ形成ガス混合物を用いて作製される。
【0143】
例6では、層は、Oerlikon-Metco F4-VB型トーチを使用して、トーチ出口と基材との間の距離を50mmとして、62体積%のアルゴンと38体積%のヘリウムから成るプラズマ形成ガス混合物を用いて作製される。
【実施例】
【0144】
実施例1
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される(
図3参照)。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層1は、SPS法によって得られた多孔質柱状YSZ層6の表面上に作製される。耐CMAS層は、10μm未満のd
90、すなわち7μmのd
90、及び、1μm以上、すなわち3μmのd
50を有する開始粒子を含有する懸濁液を用いて、SPS法によって作製される。
このようにして作製された、基材上の耐CMAS層によって構成される試料は、
図1及び
図2に示されるシステムの範囲に含まれる。
図3は、本実施例で作製した試料の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
【0145】
実施例2
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層1は、SPS法によって得られた多孔質緻密柱状YSZ層7の表面上に作製される。耐CMAS層は、10μm未満のd
90、すなわち7μmのd
90、及び、1μm以上、すなわち3μmのd
50を有する開始粒子を含有する懸濁液を用いて、SPS法によって作製される。
このようにして作製された、基材上の耐CMAS層によって構成される試料は、
図1及び
図2に示されるシステムの範囲に含まれる。
図4は、本実施例で作製した試料の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
【0146】
実施例3
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層1は、EB-PVD法によって得られた柱状YSZ層8の表面上に作製される。耐CMAS層は、10μm未満のd
90、すなわち7μmのd
90、及び、1μm以上、すなわち3μmのd
50を有する開始粒子を含有する懸濁液を用いて、SPS法によって作製される。
このようにして作製された、基材上の耐CMAS層によって構成される試料は、
図1及び
図2に示されるシステムの範囲に含まれる。
図5は、本実施例で作製した試料の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
【0147】
実施例4
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される(CMASによる浸透後の
図9A参照)。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層13は、7μmのd
90と3μmのd
50を有するGd
2Zr
2O
7の粒子を含有する懸濁液を用いて、SPSによって得られる。層は、APSによって得られたt’相で安定化されたイットリア安定化ジルコニア製の自己支持形基材11上に作製される。
【0148】
実施例5
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される(CMASによる浸透後の
図9B参照)。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層14は、4.95μmのd
90と1.01μmのd
50を有するGd
2Zr
2O
7の粒子を含有する懸濁液を用いて、SPSによって得られる。層は、APSによって得られたt’相で安定化されたイットリア安定化ジルコニアの自己支持形基材11上に作製される。
【0149】
例6(比較例)
本例では、本発明に従わない耐CMAS層は、本発明に従わない方法によって作製される(CMASによる浸透後の
図9C参照)。
Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層15は、0.89μmのd
90と0.41μmのd
50を有するGd
2Zr
2O
7の粒子を含有する本発明に従わない懸濁液を用いて、SPSによって得られる。層は、APSによって得られたt’相で安定化されたジルコニア製の自己支持形基材11上に作製される。
【0150】
以下の実施例7~10では、実施例3~6で作製した試料についてCMAS浸透試験を実施する。
実施例7~10のそれぞれにおいて、CMAS(23.5%CaO-15.0%Al2O3-61.5%SiO2-0%MgO(重量%))を各試料の表面に被覆させる(30mg/cm2)。試料を1250℃で1時間加熱する。
試験終了時には、各耐CMAS層は反応し、試料の表面上に固化したCMASのドロップを示す。
試験終了時に、各試料の研磨片について、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
ほとんどの試料について、試料の研磨片のシリコンエネルギー分散分光法(EDS)分析もまた実施した。
【0151】
実施例7
本実施例では、実施例3で作製した試料について、上記プロトコールに従ってCMAS浸透試験を行い、浸透後に該試料を観察した。
図6は、EB-PVDによって得られた柱状YSZ層8の表面で、実施例3においてSPSによって得られた耐CMAS層1の研磨片についての、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
CMASによる浸透後に行われた観察は、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層1の間の反応生成物を含む反応領域9とをはっきりと示す。
【0152】
実施例8
本実施例では、実施例4で作製した試料について、上記プロトコールに従ってCMAS浸透試験を行い、CMASの浸透後に該試料を観察する。
【0153】
図7Aは、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。そして、
図7Bは、実施例4において、APSによって得られたYSZ層11の表面で、SPSによって得られた耐CMAS層1(13)の研磨片のシリコンエネルギー分散分光法(EDS)分析を示す。
ここでの観察は、クラックのない領域(uncracked area)で行われ、そこでは浸透はみられなかった。
CMASの浸透後に行われた観察は、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層1の間の反応生成物を含む反応領域9とをはっきりと示す。EDSショット上のより明るい領域は、固化したCMAS10又は反応領域9のいずれかに対応する。
【0154】
図8Aは、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)による別の顕微鏡写真を示す。そして、
図8Bは、実施例4において、APSによって得られたYSZ層11の表面に、SPSによって得られた耐CMAS層1の研磨片の別のシリコンEDS分析を示す。
【0155】
ここでの観察は、CMAS浸透後にクラック12を有する領域で行われ、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層1(13)の間の反応生成物を含む反応領域9を示した。EDSショット上のより明るい領域は、固化したCMAS10もしくは反応領域9のいずれかに対応するか、又はCMASもしくはCMASと層1の間の反応生成物のクラック内への浸透の程度に対応する。
【0156】
図9Aは、実施例4において、7μmのd
90と3μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られたGd
2Zr
2O
7の耐CMAS層13の研磨片のシリコンEDS分析(右)と、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したさらに別の顕微鏡写真(左)を示す。この層はAPSによって得られたYSZ層11の表面上に作製される。
【0157】
観察は、CMAS浸透後にクラックを有する領域で行われ、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層13の間の反応生成物を含む反応領域9とをはっきりと示す。EDSショット上のより明るい領域は、固化したCMAS10もしくは反応領域9のいずれかに対応するか、又はCMASもしくはCMASと層13の間の反応生成物のクラック内への浸透の程度に対応する。
【0158】
図10は、耐CMAS層13のCMAS浸透後のX線回折によって得られた回折図を示す。分析は、開始材料Gd
2Zr
2O
7、アパタイト相Ca
2Gd
8(SiO
4)
6O
2、灰長石相CaAl
2(SiO
4)
2及びジルコニアの存在を示す。
【0159】
実施例9
本実施例では、実施例5で作製した試料について、上記プロトコールに従ってCMAS浸透試験を行い、浸透後に該試料を観察する。
【0160】
図9Bは、実施例5において、4.95μmの直径と1.01μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られた、Gd
2Zr
2O
7の耐CMAS層14の研磨片のシリコンEDS分析(右)と、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真(左)を示す。
【0161】
この層は、APSによって得られたYSZ層11の表面上に作製される。観察は、CMAS浸透後にクラックを有する領域で行われ、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層14の間の反応生成物を含む反応領域9とを示す。EDSショット上のより明るい領域は、固化したCMAS10もしくは反応領域9のいずれかに対応するか、又はCMASもしくはCMASと層14の間の反応生成物のクラック内への浸透の程度に対応する。
【0162】
例10(比較例)
本例では、例6で作製した本発明に従わない試料について、上記のプロトコールに従ってCMAS浸透試験を実施し、次いで、浸透後に試料を観察する。
【0163】
図9Cは、例6において、0.89μmのd
90と0.41μmのd
50を有する開始粒子を用いてSPSによって得られた、Gd
2Zr
2O
7の耐CMAS層15の研磨片の、後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真(左)とシリコンEDS分析(右)を示す。この層はAPSによって得られたYSZ層11の表面上に作製される。観察は、CMAS浸透後にクラックを有する領域で行われ、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層15の間の反応生成物を含む反応領域9とを示す。EDSショット上のより明るい領域は、固化したCMAS10もしくは反応領域9のいずれかに対応するか、又はCMASもしくはCMASと層15の間の反応生成物のクラック内への浸透の程度に対応する。
【0164】
実施例1~10の結論
CMASと耐CMAS層の間に、ブロッキング相から成る反応領域9が観察される(
図6、7A、7B、8A、8B、9A、9B、9C)。
CMASと反応領域の可視化もまた、
図9A、9B及び9Cに示されるEDSショットによって例証される。
ここで、X線回折によって分析された相は、出発材料Gd
2Zr
2O
7、アパタイト相Ca
2Gd
8(SiO
4)
6O
2、灰長石相CaAl
2(SiO
4)
2及びジルコニアを含む(
図10)。
【0165】
コーティングの多孔質とクラックのどちらを通過するにしても、反応領域9と耐CMAS層内へのCMASの浸透は、粒子サイズが小さくなるにつれてより著しく、且つ、より厳しくなる。
特に、本発明に従わない例6の層15(
図9C)では、本発明に従った層13及び14(
図9A及び9B)よりもはるかに大きく、はるかに厳しい浸透となる。
【0166】
プラズマジェット内にインジェクションされた耐CMAS材料の粒子の大きさは、多孔質の形状に違いを生じさせる。実際、より小さな粒子は、特に、液体CMASに対して、より多くの侵入点と、層の厚みにおいてより多数の直接的な伝播経路を提供する。すなわち、本発明に従わない例6では「小粒子」が懸濁液中で使用され、それによりコーティングの厚みにおいてCMASによるコーティングへの浸透がある。
【0167】
コーティング内の浸透の速度は、効果的なブロッキング相の形成を可能にする反応の速度と競合する。
【0168】
本発明の方法によって作製された層において、層の材料とCMASの反応速度は、浸透(すなわち、層の多孔質におけるCMASの浸透)の速度よりも速い。実際、本発明に従った層は、「大きい」粒子サイズを有する懸濁液を用いて作製されるので、従って大きな蛇行度を有し、それは浸透(すなわち、CMASの浸透)の速度を減速させる。本発明の方法によって作製した層へのCMAS浸透の速度は、効果的なブロッキング相の形成を可能にする層の材料とCMASの反応速度に比べてはるかに急速ではない。
【0169】
高温におけるCMASによる浸透の速度は、耐CMAS層では、本発明に従ったサイズ
を有する開始粒子のものでは遅くなる。この場合、生じた大きな蛇行度の結果として、耐
CMAS層は、耐CMAS層内の表面及び/又は浅い深度に、単一のブロッキング相及び
/又は複数のブロッキング相を形成することができる。
【0170】
本発明に従った実施例4の層13では、クラック領域又はクラックのない領域で、最も低い程度の浸透が観察される。
【0171】
実施例11
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される。Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層21は、EB-PVD法によって得られた柱状YSZ層8の表面上に作製される。
耐CMAS層は、13.2μmのd
90、及び、1μm以上、すなわち5.5μmのd
50を有する開始粒子を含有する懸濁液を用いて、SPS法によって作製される。
YSZ層8は、実施例3のYSZ層8と同一であるが、層21は異なる粒子サイズを有する。
このようにして作製された、基材上の耐CMAS層によって構成される試料は、
図1及び
図2に示されるシステムの範囲に含まれる。
図11は、本実施例で作製した試料の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
【0172】
実施例12
本実施例では、本発明に従った耐CMAS層は、本発明の方法によって作製される(CMASによる浸透後の
図12参照)。Gd
2Zr
2O
7から成る耐CMAS層21は、13.2μmのd
90と5.5μmのd
50を有するGd
2Zr
2O
7粒子を含有する懸濁液を用いて、SPS法によって得られる。層は、APSによって得られたt’相で安定化されたイットリア安定化ジルコニア製の自己支持形基材11上に作製される。
【0173】
実施例13
本実施例では、実施例12で作製した試料について、上記プロトコールに従ってCMAS浸透試験を行い、浸透後に該試料を観察する。
図12は、SPSによって得られた耐CMAS層21の研磨片の後方散乱電子を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真を示す。
CMASによる浸透後に行われた観察は、表面上に固化したCMAS10と、CMASと層21の間の反応生成物を含む反応領域9とをはっきりと示す。
【0174】
[引用文献]
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