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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】抗XI因子抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/36 20060101AFI20230501BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230501BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230501BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C07K16/36 ZNA
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P7/02
C12N15/13
C12N15/63 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019543277
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 CN2017119856
(87)【国際公開番号】W WO2018145533
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】201710073984.X
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513243561
【氏名又は名称】上海仁会生物制▲やく▼股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI BENEMAE PHARMACEUTICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】No.916 Ziping Road,Zhoupu Town,Pudong New Area,Shanghai 200321,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ウェンイ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,クアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シャオウ
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504371(JP,A)
【文献】Prevention of vascular graft occlusion and thrombus-associated thrombin generation by inhibition of factor XI,BLOOD,2009年,VOLUME 113, NUMBER 4,936-944
【文献】Identification of a Factor IX Binding Site on the Third Apple Domain of Activated Factor XI,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1996年,Vol. 271, No. 46,29023-29028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00- 19/00
C12N 15/00- 15/90
C12P 21/08
A61K 39/395
A61P 43/00
A61P 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFXIまたはFXIaに特異的に結合する単離された抗FXIまたは抗FXIa抗体、またはヒト化抗体であって、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン、および免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む抗体、またはそのFab、Fv、またはscFvであって、免疫グロブリン軽鎖可変ドメインが配列番号155のCDR-L1、配列番号156のCDR―L2、および配列番号157のCDR―L3を含み、ならびに免疫グロブリン重鎖可変ドメインが配列番号158のCDR-H1、配列番号159のCDR-H2、および配列番号160のCDR-H3を含む、または免疫グロブリン軽鎖可変ドメインが配列番号199、および免疫グロブリン重鎖可変ドメインが配列番号200であり、あるいは、免疫グロブリン軽鎖可変ドメインが配列番号201、および免疫グロブリン重鎖可変ドメインが配列番号202である、前記抗体、またはそのFab、Fv、またはscFv。
【請求項2】
抗体、またはヒト化抗体はヒトFXIまたはFXIaのA3ドメインに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体、またはヒト化抗体。
【請求項3】
抗体は配列番号153の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインおよび配列番号154の免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体、またはそのヒト化抗体を含む医薬組成物。
【請求項5】
対象における血栓の形成を阻害するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
敗血症を治療または予防するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体、またはそのヒト化抗体を産生する方法であって、抗体をコードする核酸を発現ベクターにクローニングすること、および、それを宿主細胞で発現させることを含む方法。
【請求項8】
発現した抗体を宿主細胞から精製することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
発現ベクターはpTT5ベクターまたはpcDNA(商標)3ベクターである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
宿主細胞はCHO細胞またはHEK193T細胞である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凝固因子XI(FXI)および/またはその活性型因子XIa(FXIa)、ならびにFXIおよび/またはFXIaのフラグメントに結合することができる抗体、ならびに止血を損なうことがない血栓症を治療するための抗凝固剤としての使用を含むその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓症は、血管内の血液凝固を伴う状態であり、それによって患部の血流を遮断または閉塞する。血栓が循環系に沿って心臓、脳、肺のような極めて重要な身体部分に移動し、心臓発作、脳卒中、肺塞栓症などを引き起こす場合、この状態は重篤な合併症につながる可能性がある。血栓症は、ヘパリンおよびワーファリンのような抗凝固剤によって治療または予防することができる。これらの現在利用可能な治療法の最も一般的な有害作用は出血である。したがって、患者は治療後に密接にモニターする必要があるため、これらの治療法は用量および患者コンプライアンスによって制限される。
【0003】
副作用を最小限に抑えた効果的な血栓症治療または予防が必要である。本開示は当技術分野における必要性を満たす。
【発明の概要】
【0004】
本明細書では、ある特定の実施形態において、凝固因子XI(FXI)および/またはその活性型因子XIa(FXIa)、ならびにFXIおよび/またはFXIaのフラグメントに結合する抗体が提供される。一部の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。一部の実施形態では、抗体は組換え抗体である。一部の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。一部の実施形態では、抗体は免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、例えば、Fab、Fv、またはscFvである。一部の実施形態では、抗体はFXIおよび/またはFXIaのA3ドメインに結合する。一部の実施形態では、抗体は配列番号11~16、27~32、43~48、59~64、75~80、91~96、107~112、123~128、139~144、155~160、171~176、および187~192のアミノ酸配列からなる、または含む、1つまたは複数のCDRを含む。
【0005】
本明細書では、血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態を治療および/または予防するための医薬組成物が提供される。医薬組成物は、本明細書で開示された1つもしくは複数の抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、1つもしくは複数の薬学的に許容される補助剤、担体、賦形剤、保存剤、またはそれらの組合せをさらに含む。
【0006】
本明細書では、本明細書で開示された抗FXIおよび/もしくは抗FXIa抗体、またはいずれかの抗体の機能性フラグメントをコードする核酸、ならびに核酸を含むベクター、およびベクターを含む宿主細胞が提供される。一部の実施形態では、ベクターは、宿主細胞の核酸によってコードされる抗体またはその機能性フラグメントを産生することができる発現ベクターである。
【0007】
本明細書では、血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態を治療および/または予防するために使用する、本明細書で開示された1つまたは複数の抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を含むキットが提供される。あるいは、キットは、血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態を治療および/または予防するために使用する、本明細書で開示された1つまたは複数の抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を含む医薬組成物を含む。ある特定の実施形態では、キットは使用説明書をさらに含む。
【0008】
本明細書では、血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態を治療および/または予防する方法が提供される。方法は、本明細書で開示された1つまたは複数の抗FXIおよび/または抗FXIa抗体の治療有効量を、それを必要とする対象へ投与することを含む。あるいは、方法は、抗FXI抗体、抗FXIa抗体、またはいずれかの抗体の機能性フラグメントを含有する医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする対象へ投与することを含む。
【0009】
本明細書では、血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態を治療および/または予防するための医薬を配合する、本明細書で開示された抗FXIおよび/または抗FXIa抗体の使用が提供される。
【0010】
本明細書では、本明細書で開示された抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を産生する方法が提供される。方法は、抗体をコードする核酸を含むベクターで宿主細胞を形質転換するステップ、および宿主細胞で抗体を発現させるステップを伴う。方法は発現した抗体を宿主細胞から精製することをさらに含むことができる。さらに、修飾組換え抗体が対応するヒト抗体の活性を保持するように、精製された抗体は修飾を受けることができる。あるいは、本明細書で開示された抗体を、ハイブリドーマの培養から産生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ヒト血漿におけるAPTTアッセイによる5つの抗FXI抗体の影響を示す図である。0~400nMの範囲の濃度で5つの異なる抗体を添加したヒト血漿を、実施例2に記載のAPTTアッセイで試験した。試験した5つの抗体には、19F6(A)、34F8(B)、42A5(C)、1A6(D)、および14E11(E)が含まれた。抗体1A6および14E11を本実験の陽性対照として使用した。
図2】サル血漿において、抗体19F6(A)、34F8(B)、および42A5(C)がAPTTアッセイに及ぼす影響を示す図である。0~400nMの範囲の濃度で3つの異なる抗体を添加したサル血漿を、実施例3に記載のAPTTアッセイで試験した。
図3-1】固定化h-19F6(A)、h-34F8(B)、およびh-42A5(C)へのFXI結合のSPRセンサーグラム、ならびに固定化h-19F6(D)、h-34F8(E)、およびh-42A5(F)へのFXIa結合のSPRセンサーグラムを示す図である。データは1:1結合モデルに適合させ、FXIの試験濃度(0.005~1ng/mL)での曲線適合がセンサーグラムに重ねて表示されている。各曲線は、FXIまたはFXIaの異なる試験濃度を示す。
図3-2】固定化h-19F6(A)、h-34F8(B)、およびh-42A5(C)へのFXI結合のSPRセンサーグラム、ならびに固定化h-19F6(D)、h-34F8(E)、およびh-42A5(F)へのFXIa結合のSPRセンサーグラムを示す図である。データは1:1結合モデルに適合し、FXIの試験濃度(0.005~1ng/mL)での曲線適合がセンサーグラムに重ねて表示されている。各曲線は、FXIまたはFXIaの異なる試験濃度を示す。
図4】ヒトFXIaがS-2366を加水分解することを阻害する、抗体h-19F6(A)、h-34F8(B)、およびh-42A5(C)の濃度応答曲線を示す図である。
図5】FIXからFIXaへのFXIaを介した活性化に及ぼす抗体h-19F6(A)およびh-42A5(B)の阻害効果を示す図である。ヒトFIX(200nM)を、5mM CaClを含むPBS中のFXIa(5nM)とともに、室温で1μM対照IgGまたはh-19F6またはh-42A5とインキュベートした。指定された間隔で試料を回収し、FIXならびにFIXaをヤギ抗ヒトFIX IgG(Affinity Biologicals)を使用してウエスタンブロットで測定した。
図6】カニクイザルのAPTTへ及ぼす抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の影響を示す図である。サルに指示用量のh-34F8(A)、h-19F6(B)、およびh-42A5(C)を静脈内投与した。エクスビボ凝固時間APTTを投与前(0時間)、および投与後0.5、1、3、6、12、および24時間に測定した。
図7】カニクイザルのPTへ及ぼす抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の影響を示す図である。サルに示された用量のh-34F8(A)、h-19F6(B)、およびh-42A5(C)を静脈内投与した。エクスビボ凝固時間PTを投与前(0時間)、および投与後0.5、1、3、6、12、および24時間に測定した。
図8】カニクイザルのAVシャント血栓症へ及ぼす抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の影響を示す図である。漸増するレベルのh-34F8(A)、h-19F6(B)、またはh-42A5(C)がサルに静脈内投与され(h-34F8およびh-19F6についてはn=3、h-42A5についてはn=4)、AVシャント血栓症のサルモデルにおける投与前からの血栓重量の変化を測定した。ビヒクルに対して、*P<0.05、**P<0.01および***P<0.001。
図9】カニクイザルの出血時間へ及ぼす抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の影響を示す図である。漸増するレベルのh-34F8(A)、h-19F6(B)、またはh-42A5(C)がサルに静脈内投与され(34F8およびh-19F6についてはn=3、h-42A5についてはn=4)、投与前および各投与後30分の出血時間を評価した。
図10】抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の抗血栓効果を示す図である。4群のサル(n=5)にビヒクル、0.3mg/kgのh-34F8、h-19F6、またはh-42A5を2時間静脈内投与し、血栓症を誘導するために各動物の左大腿動脈にFeClを適用した。80%血栓性閉塞(A)および100%血栓性閉塞(B)までの時間を、血流速度をモニタリングすることによって測定した。ビヒクルに対して、*P<0.05および**P<0.01。
図11】抗体h-34F8、h-19F6、またはh-42A5での治療は、サルにおいて出血時間を延長しなかったことを示す図である。4群のサル(n=5)にビヒクル、0.3mg/kgのh-34F8、h-19F6、またはh-42A5を静脈内投与し、テンプレート出血時間を投与前および投与後1時間に測定した。h-34F8、h-19F6、およびh-42A5治療群の個々の出血時間を、それぞれ(A)、(B)、および(C)に示す。ビヒクル、h-34F8、h-19F6、またはh-42A5で治療したときの出血時間の変化を(D)に示す。
図12】サル血漿の凝固時間へ及ぼす抗体h-34F8、h-19F6、およびh-42A5の影響を示す図である。4群のサル(n=5)にビヒクル、0.3mg/kgのh-34F8、h-19F6、またはh-42A5をそれぞれ静脈内投与し、血漿調製ならびにAPTTおよびPT凝固時間定量のために、投与前および投与後約3時間に血液を回収した。APTT変化およびPT変化をそれぞれ(A)および(B)に示す。ビヒクルに対して**P<0.01および***P<0.001。
図13】ヒトFXIのアミノ酸配列(配列番号203)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の以下の説明は、本発明のさまざまな実施形態を示すことのみを意図している。したがって、論じられた特定の修正は、本発明の範囲に対する制限として解釈されるべきではない。本発明の範囲から逸脱しない範囲で、さまざまな均等物、変更、および修正を行うことができることは、当業者には明らかであり、そのような同等の実施形態が本明細書に含まれることが理解される。
【0013】
内因性経路および外因性経路の両者がインビボ血液凝固カスケードに含まれる。接触活性化経路とも呼ばれる内因性経路は、表面界面との接触によって開始され、FXIIの活性化をもたらす。内因性経路は、FXI、FIXおよびFVIIIも含む。組織因子(TF)経路とも呼ばれる外因性経路は、血管損傷によって開始され、TF-FVIIaの活性化複合体の形成をもたらす。これらの2つの経路は合流して共通の経路を活性化し、プロトロンビンからトロンビンへの変換を引き起こし、最終的に架橋フィブリン血栓の形成をもたらす。本明細書で開示された抗体は、FXIおよび/またはFXIaに結合し、血液凝固の内因性経路を標的とする。FXIの構造とFXIの血液凝固への関与は、さまざまな刊行物で報告されている。例えば、Emsleyら、Blood、115(13):2569~2577(2010)を参照されたく、その内容を参照により組み込むものとする。
【0014】
抗FXIまたは抗FXIa抗体
本明細書では、FXI、FXIa、および/またはFXIもしくはFXIaのフラグメントに結合し、血栓の形成を阻害する抗体が提供される。これらの抗体は、FXI、FXIa、および/またはFXIもしくはFXIaのフラグメント(例えば、A3ドメインを含むフラグメント)に結合し、最大安全用量よりはるかに低い濃度で阻害効果を示すことができる。例えば、一部の実施形態では、0.1mg/kg i.v.から3mg/kg i.v.の間の抗体用量は、カニクイザルのFXIからFXIaへの変換に対して阻害効果を示す。さらに、本明細書で開示された抗体は、ヘパリンのような従来の抗凝固剤と比較して出血を引き起こす危険性が最小限であるため、安全性に優れた抗凝固剤として使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、組成物または方法に関して「含む」という用語は、組成物または方法が少なくとも列挙された要素を含むことを意味する。「から本質的になる」という用語は、組成物または方法が列挙された要素を含み、組成物または方法の新規で基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない1つまたは複数の追加要素をさらに含んでよいことを意味する。例えば、列挙された要素から本質的になっている組成物は、これらの列挙された要素に加えて、単離および精製方法からの1つまたは複数の微量混入物質、リン酸緩衝食塩水などの薬学的に許容される担体、保存剤などを含んでもよい。「からなる」という用語は、組成物または方法が列挙された要素のみ含むことを意味する。各々の連結用語によって定義された実施形態は本発明の範囲内にある。
【0016】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、特定の抗原、例えばFXI、FXIa、またはFXIもしくはFXIaの特定のドメインもしくはフラグメント、例えばA3ドメインに特異的に結合するか、または免疫学的に反応する免疫グロブリン分子もしくはその免疫学的に活性な部分を表す。ある特定の実施形態では、本方法、組成物、およびキットで使用する抗体は、完全長免疫グロブリン分子であり、2本の重鎖と2本の軽鎖を含み、それぞれの重鎖と軽鎖には3つの相補性決定領域(CDR)が含まれる。天然の抗体に加えて「抗体」という用語は、合成抗体、細胞内抗体、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、ペプチボディーおよびヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異性抗体(bispecific antibodies)、多重特異性抗体、デュアルスペシフィック抗体、抗イディオタイプ抗体、ダイアボディー、トリアボディー、およびテトラボディー)のような免疫グロブリンの遺伝子操作型または他の修飾型も含む。本明細書で開示された抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。抗体が免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分であるこれらの実施形態では、抗体は、例えば、Fab、Fab’、Fv、Fab’ F(ab’)、ジスルフィド結合したFv、一本鎖Fv抗体(scFv)、単一ドメイン抗体(dAb)、またはダイアボディーであってもよい。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分であるものを含む本明細書で開示された抗体は、特定の抗原、例えばFXIもしくはFXIaに結合する能力、またはA3ドメインのようなFXIもしくはFXIaの特定のフラグメントに結合する能力を保持する。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書で開示された抗FXIおよび/または抗FXIa抗体は、ヒトもしくは非ヒト宿主細胞を含む哺乳動物細胞株の発現に伴うリン酸化、メチル化、アセチル化、ユビキチン化、ニトロシル化、グリコシル化または脂質化のような翻訳後修飾を受けている。組換え抗体を産生する技術、ならびに組換え抗体のインビトロおよびインビボでの修飾の技術は、当技術分野で知られている。例えば、Liuら、mAbs、6(5):1145~1154(2014)を参照されたく、その内容を参照により組み込むものとする。
【0018】
また、本明細書で開示された抗FXIおよび/または抗FXIa抗体をコードするポリヌクレオチドまたは核酸が開示される。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸は、DNA、mRNA、cDNA、プラスミドDNAを含む。本明細書で開示された抗体またはその機能性フラグメントをコードする核酸を、pTT5哺乳動物発現ベクターのようなベクターにクローニングすることができ、核酸を発現させて抗体またはその機能性フラグメントを産生できるように、ベクターはプロモーターおよび/または他の転写もしくは翻訳制御エレメントをさらに含むことができる。
【0019】
本明細書で開示された抗体のいくつかの例の、VHおよびVLおよびCDRの配列を含む核酸(DNA)および/またはアミノ酸(PRT)配列を以下の表1に列挙する。
【表1】
【0020】
本明細書のある特定の実施形態では、ヒト化抗FXIおよび/または抗FXIa抗体が提供される。ヒトに天然に存在する抗体との類似性を高めるために抗体が修飾されるような、非ヒト種由来の抗体をヒト化するためのさまざまな技術が当技術分野で知られている。天然の抗体の各抗原結合ドメインに、6つのCDRが存在する。これらのCDRは、抗体がその3次元構造をとるときに抗原結合ドメインを形成するために特異的に配置された、アミノ酸の短い非連続配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる抗原結合ドメインの残りのアミノ酸は、分子間可変性が少なく、足場を形成してCDRの正しい配置を可能にする。
【0021】
例えば、本明細書で開示された抗体のヒト化は、マウスまたはラットを免疫化することにより産生されるモノクローナル抗体のCDR移植により達成することができる。マウスモノクローナル抗体のCDRは、ヒトフレームワークに移植でき、続いて、ヒト定常領域に結合して、ヒト化抗体が得られる。簡単に述べれば、ヒト生殖系列抗体配列データベース、タンパク質データバンク(PDB)、INN(医薬品国際一般名称、International Nonproprietary Names)データベース、およびその他の適切なデータベースは検索可能で、抗体に最も類似したフレームワークを検索により同定できる。さらに、ドナー残基へのいくつかの逆突然変異は、ヒトアクセプターフレームワークで行われる。一部の実施形態では、可変領域は、ヒトIgG定常領域へ連結される。例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4Fcドメインを使用することができる。既存の技術に基づいて、非ヒト種によって産生されたモノクローナル抗体をヒト化することは、当業者の範囲内である。
【0022】
いくつかの例のヒト化抗体の可変領域の配列を、以下の表2に示す。
【表2】
【0023】
本明細書で提供される抗体は、FXI、FXIa、および/またはそのフラグメント(例えば、A3ドメインを含むフラグメント)に対する結合親和性を保持しながら、それらのアミノ酸配列に1つまたは複数の変異を含む、本明細書で開示された配列の変種を含む。一部の実施形態では、抗体は、配列番号9、10、25、26、41、42、57、58、73、74、89、90、105、106、121、122、137、138、153、154、169、170、185、186、および197~202、またはFXI、FXIa、および/もしくはそのフラグメントに対する結合親和性を保持するそのフラグメントからなる群から選択される配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有する可変領域を含む。
【0024】
本開示には、FXI、FXIa、および/またはそのフラグメント(例えば、A3ドメインを含むフラグメント)へ結合する抗体をコードする核酸の変種も含まれる。一部の実施形態では、抗体をコードする核酸は、配列番号1、2、17、18、33、34、49、50、65、66、81、82、97、98、113、114、129、130、145、146、161、162、177、および178からなる群から選択される配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%と同一である核酸配列を有する可変領域、またはFXI、FXIa、および/またはそのフラグメントに対する結合親和性を有するポリペプチドをコードするそのフラグメントを含む。
【0025】
医薬組成物
本明細書で開示された抗体は、医薬組成物に製剤化することができる。医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、賦形剤、保存剤、またはそれらの組合せをさらに含んでもよい。医薬組成物は、例えば、注射用製剤、凍結乾燥製剤、液体製剤、その他のさまざまな製剤を有することができる。製剤および投与経路に応じて、補助剤、担体、賦形剤、保存のような適した添加物を選択する。例えば、Wangら、J.Pharm.Sciences、96(1):1~26(2007)を参照されたく、その内容を参照により組み込むものとする。
【0026】
医薬組成物は、組成物を使用するための使用説明書とともにキットに含めることができる。
【0027】
治療方法
血栓症を患っている、および/または血栓症を発症する危険性が高まっている対象の血栓症を治療および/または予防する方法が本明細書で提供される。対象における血栓の形成を阻害する方法も提供される。内因性経路に介在するために、これらの方法は、本明細書で提供された治療有効量の抗FXIおよび/またはFXIa抗体を投与することを伴う。一部の実施形態では、これらの方法は、本明細書で提供される抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0028】
本明細書で開示された方法は、それを必要とする対象の血栓症に関連する合併症もしくは状態を予防および/または治療するために使用することができる。血栓症は、塞栓性脳卒中、静脈血栓塞栓症(VTE)、深部静脈血栓症(DVT)、および肺塞栓症(PE)のような静脈血栓症、急性冠不全症候群(ACS)のような動脈血栓症、冠動脈疾患(CAD)、および末梢動脈疾患(PAD)、のような多数の合併症または状態を引き起こすか、またはそれと関連している。血栓症と関連する他の状態は、例えば、手術患者、動けない患者、がんの患者、心不全の患者、妊娠中の患者、または血栓症を引き起こす可能性のある他の病状を有する患者、におけるVTEの高い危険性を含む。本明細書で開示された方法は、予防的抗凝固剤療法、すなわち血栓予防に関する。これらの方法は、上記に開示された血栓症関連合併症を患う対象に、本明細書で開示された治療有効量の抗FXIおよび/またはFXIa抗体、または抗FXIおよび/もしくはFXIa抗体を含む治療有効量の医薬組成物を投与することを伴う。抗体または医薬組成物は、血栓症関連の合併症もしくは状態を治療または予防するために、単独でまたは任意の他の治療法と組み合わせて投与することができる。
【0029】
それを必要とする対象の敗血症を治療および/または予防する方法も提供される。敗血症患者に抗凝固剤を投与して、死亡率または罹患率を改善することが試みられた。しかし、抗凝固剤によって引き起こされる望ましくない出血のために、試みは失敗した。本明細書で開示された抗体は、抗生物質のような敗血症を治療するための他の治療薬と組み合わせて二次療法として使用することができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、哺乳動物の対象、好ましくはヒトを表す。「それを必要とする対象」は、血栓症または血栓症に関連する合併症もしくは状態と診断されているか、または血栓症または血栓症に関連する合併症もしくは状態を発症する危険性が高い対象を表す。「対象」および「患者」という語句は、本明細書で同じ意味で使用される。
【0031】
状態に関して本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、状態を部分的または完全に緩和すること、状態を予防すること、状態の発生または再発の可能性を減らすこと、状態の進行または進展を遅らせること、または状態に関連する1つもしくは複数の症状の進展を除外する、軽減する、もしくは遅らせることを表す。血栓症および/または血栓症に関連する合併症もしくは状態に関しては、「治療すること」は、既存の血栓が大きくなるのを予防もしくは遅らせること、および/または血栓の形成を予防もしくは遅らせることを表す場合がある。一部の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、抗体またはその機能性フラグメントを投与されていない対象と比較して、対象の血栓の数またはサイズが減少していることを意味する。一部の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本明細書で開示された抗体または医薬組成物を受けている対象では、そのような治療を受けていない対象と比較して、血栓症および/または血栓症関連状態もしくは合併症の1つまたは複数の症状が軽減されていることを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、抗体または医薬組成物の「治療有効量」は、血栓症の治療および/または予防のような、対象において所望の治療効果をもたらす抗体または医薬組成物の量である。ある特定の実施形態では、治療有効量は、最大の治療効果を生じる抗体または医薬組成物の量である。他の実施形態では、治療有効量は、最大の治療効果よりも少ない治療効果をもたらす。例えば、治療有効量は、最大の治療効果をもたらす投薬量に関連する1つまたは複数の副作用を回避する一方で、治療効果を生じる量であってもよい。特定の組成物の治療有効量は、これに限定されるものではないが、治療組成物の特性(例えば、活性、薬物動態、薬物動力学、およびバイオアベイラビリティ)、対象の生理的状態(例えば、年齢、体重、性別、疾患タイプおよびステージ、病歴、一般的な物理的状態、所与の投薬量に対する応答性、および他の現在の薬剤)、組成物中の任意の薬学的に許容される担体、賦形剤、および防腐剤の特質、ならびに投与経路、を含むさまざまな因子に基づいて異なる。臨床および薬理学の当業者は、日常業務の実験、すなわち抗体または医薬組成物の投与に対する対象の応答をモニタリングし、その結果投薬量を調整することにより、治療有効量を決定することができるだろう。追加の手引きについては、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第22版、Pharmaceutical Press、London、2012、ならびにGoodmanおよびGilman、The Pharmacological Basis of Therapeutics、第12版、McGraw-Hill、New York、NY、2011を参照されたく、本明細書でその全開示内容を参照により組み込むものとする。
【0033】
一部の実施形態では、本明細書で開示された抗体の治療有効量は、約0.01mg/kg~約30mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kgの範囲である。
【0034】
皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、髄腔内投与、または腹腔内投与、のような適した投与経路を選択することは、当業者の範囲内である。それを必要とする対象を治療するために、抗体または医薬組成物は、即時放出、放出制御または持続放出のために連続的または間欠的に投与することができる。さらに、抗体または医薬組成物は、1日3回、1日2回、または1日1回、3日間、5日間、7日間、10日間、2週間、3週間、または4週間の期間にわたり投与することができる。抗体または医薬組成物は、所定の時間にわたって投与してもよい。あるいは、特定の治療ベンチマークに達するまで、抗体または医薬組成物を投与してもよい。ある特定の実施形態では、本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の治療ベンチマークを評価して、抗体または医薬組成物の投与を継続するかどうかを決定するステップを含む。
【0035】
抗体を産生する方法
また、本明細書で開示された抗FXIおよび/または抗FXIa抗体を産生する方法が本明細書で提供される。ある特定の実施形態では、これらの方法は、抗FXIおよび/または抗FXIa抗体をコードする核酸をベクターにクローニングし、宿主細胞をベクターで形質転換し、宿主細胞を培養して抗体を発現させるステップを伴う。発現させた抗体は、任意の既知の技術を使用して宿主細胞から精製することができる。pTT5ベクター、およびpcDNA3ベクターのようなさまざまな発現ベクター、ならびにCHO細胞(例えばCHO-K1およびExpiCHO)、およびHEK193T細胞のようなさまざまな宿主細胞株を使用することができる。
【0036】
上記に開示された方法により産生された抗体も本開示に含まれる。抗体は、1つまたは複数の翻訳後修飾を受けている場合がある。
【0037】
以下の例は、実施形態をより良く説明するために提供され、請求項に係る実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。特定の材料が言及されている限り、それは単に説明の目的のためであり、本発明を限定することは意図されていない。当業者は、発明能力を行使することなく、および本発明の範囲から逸脱しない範囲で、同等の手段または反応物を開発してもよい。本発明の範囲内にとどまる一方で、本明細書に記載の手順に多くの変更を行うことができることが理解されるであろう。そのような変更が本発明の範囲内に含まれることは、本発明者らの意図である。
【実施例
【0038】
実施例1:抗FXI抗体の生成および配列決定
BALB/cマウスおよびWistarラットをヒトFXIで免疫し、免疫応答の良好な動物の脾細胞をハイブリドーマの調製のために回収し、限界希釈法によるサブクローニングを行った。所望の抗FXI抗体3G12、5B2、7C9、7F1、13F4、19F6、21F12、34F8、38E4、42A5、42F4、および45H1を発現している12のモノクローナルハイブリドーマクローンを、捕捉ELISAおよび機能性スクリーニングを使用して得た。
【0039】
これらの抗体の軽鎖(V)および重鎖(V)の可変領域のアミノ酸およびヌクレオチド配列を決定するために、標準RT-PCR法によって、対応するハイブリドーマ細胞からVおよびVをコードするcDNAをクローニングした。CDRの配列を含む例となる抗体のVおよびV配列を表1に示す。
【0040】
実施例2:活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイおよびプロトロンビン時間(PT)アッセイを使用したヒト血漿における抗凝固活性の定量
APTTアッセイは内因性および一般的な凝固経路の活性を測定し、一方PTアッセイは外因性および一般的な凝固経路の活性を測定する。本実験で試験した抗体は、19F6、34F8、42A5、1A6および14E11であった。対照抗体の可変領域の配列は、米国特許第8,388,959号および米国特許出願公開第2013/0171144号から入手し、IgG4に再フォーマット化した。これらの抗体を、次いで、ExpiCHO細胞システムを使用して発現させた。Symens Inc.から購入した標準ヒト血漿を、0~400nMのさまざまな濃度の等量のさまざまな抗体と5分間混合した後、CA600分析器で試験した。APTTアッセイでは、50μLの血漿-抗体混合物と25μLのAPTT試薬(SMN 10445709、Symens Inc.)とを37℃で4分間混合した。次いで25μLのCaCl溶液(25mM、SMN 10446232、Symens Inc.)を添加し、血栓形成の時間を測定した。PTアッセイでは、50μLの血漿-抗体混合物を等量のPT試薬(SMN 10446442、Symens Inc.)と37℃で混合し、血栓形成の時間を測定した。
【0041】
図1に示すように、試験したすべての抗体は、比較的低濃度、例えば最大100nM(または14E11では最大200nM)で濃度依存的にAPTTを増加させ、一方これらの抗体はPTへは有意の影響を及ぼさなかった(データは示さない)。試験したすべての抗体は、凝固の内因性経路を阻害するが外因性経路を阻害しないことを、これらの結果は示している。
【0042】
実施例3:活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを使用した非ヒト種の血漿における抗凝固活性の定量
凝固に及ぼす19F6、34F8および42A5を含むさまざまな抗体の影響を、実施例2の記載と同じ方法を使用して、マウス、ラット、およびサルの血漿で評価した。試験した抗体はいずれもマウスおよびラット血漿のAPTTに影響を及ぼさなかったが、図2に示すように、それらはすべて比較的低濃度で濃度依存的にサル血漿のAPTTを増加させ、このことは試験した抗体がサルFXI/FXIaと交差活性を持つが、マウスまたはラットFXI/FXIaとは持たないことを示す。
【0043】
実施例4:抗FXI抗体のヒト化
治療薬としてのマウスモノクローナル抗体の直接使用は、短い半減期およびヒト抗マウス抗体応答の誘発により妨げられてきた。この問題に対する1つの解決策はマウス抗体をヒト化することである。いくつかの抗体は、CDR移植によるヒト化を受けた。各マウス抗体のVおよびVの両方に適したヒトアクセプターフレームワークを特定し、選択されたヒトフレームワークにさまざまな数の逆突然変異を導入して、得られた抗体の構造および/または機能を維持した。これらのヒト化抗体の親和性および機能が、対応する非修飾抗体よりも実質的に劣っていない場合、修飾された抗体はヒト化に成功したと考えられた。それぞれh-19F6、h-34F8、およびh-42A5、と記載された19F6、34F8および42A5の3つのヒト化VおよびV配列を表2に示す。
【0044】
実施例5:ヒトFXIに対する抗FXI抗体の親和性の定量
FXI/FXIaに対する抗FXI/FXIa抗体の親和性を、BIAcore T200機器で実行された表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して測定した。本明細書で開示された抗体の可変領域をヒトIgG4Fcドメインに連結することによりヒト化抗体を構築し、組換え体をCHO細胞で発現させた。これらの抗体は、抗ヒトIgG抗体で予め固定化されたBiacore CM5センサーチップに捕捉された。
【0045】
次いで異なる濃度の精製抗原FXIまたはFXIa(0.005~1μg/mL)をCM5チップに180秒間流して抗FXI/FXIa抗体と会合させ、その後1800秒間解離させた。結合データを収集し、GE Healthcareが提供するBiacore Evaluation Softwareを使用して、FXI/FXIaと試験抗体との親和性を分析した。固定化h-19F6、h-34F8、およびh-42A5に結合するFXI/FXIaのSPRセンサーグラムを図3に示す。図3に示すように、各抗体の応答(RU)は、FXIまたはFXIaの濃度が増加するにつれて高くなった。FXIおよびFXIaに対するh-19F6、h-34F8、およびh-42A5の解離定数(K)を算出し、表3に詳述した。FXIおよびFXIaに対する各抗体の親和性は、両者の差が10倍未満であるため、同一であると見なされる。
【表3】
【0046】
実施例6:FXI上の抗FXI抗体の結合部位の決定
FXI上の19F6および42A5の結合部位を、SPR技術を使用して決定した。簡潔に述べれば、ヒトIgG捕捉抗体はBiacore CM5センサーチップ上に予め固定化され、組換えh-19F6またはh-42A5はチップ内を流れることにより捕捉された。抗体の流れる時間を調整することにより、等量(15相対ユニット)のh-19F6とh-42A5とが捕捉された。次いで、個々のアップルドメイン(apple domain)が、ヒトプレカリクレイン(FXI/PKキメラ)の対応するドメインに置換された野生型FXIまたはキメラFXIをチップに180秒間流してh-19F6またはh-42A5と会合させ、その後1800秒間解離させた。SPRアッセイではFXIの1種類の濃度(野生型またはキメラ)のみが試験されたため、結合データは高性能速度論モードで分析された。結果は、FXIのA3ドメインが対応するPKドメインと置換された場合を除き、h-19F6とh-42A5の両方がFXIならびにFXI/PKキメラに結合することを示し、このことは、FXI上のh-19F6およびh-42A5の一部または完全なエピトープがA3ドメインに位置することを示している。
【0047】
実施例7:抗体によるFXIaの機能的中和
特異的な発色基質、S-2366(Diapharma Inc.)の切断を測定することによって、ヒトFXIa活性を決定した。抗体の阻害活性を試験するために、抗体h-19F6、h-34F8およびh-42A5を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に最終濃度5nMのFXIaとともに、5分間、室温で予めインキュベートした。次いで等量の1mM S-2366を添加してFXIa切断反応を開始し、M5プレートリーダー(Molecular Devices Inc.)を使用して405nmの吸光度変化を連続的にモニターした。データをGraphPad Prismソフトウェアを使用して分析し、図4に示す。h-19F6、h-34F8、およびh-42A5の見掛けのKiの計算値は、それぞれ0.67、2.08、および1.43nMである。したがって、試験した3つの抗体はすべて、比較的低濃度でFXIaに十分な阻害効果を示した。
【0048】
実施例8:抗体によるFXIaが媒介するFIX活性化の阻害
ヒトFIX(200nM)を、5mM CaClを含むPBS中のFXIa(5nM)とともに、室温で1μM対照IgGまたはh-19F6またはh-42A5とインキュベートした。0、15、30、45、および60分間隔で、50μLの試料をドデシル硫酸試料緩衝液中に回収した。試料を10%非還元ゲル上でサイズ分画し、ポリフッ化ビニリデン膜へ移した。FIXならびにFIXaレベルを決定するために、ヤギ抗ヒトFIX IgG(Affinity Biologicals)を使用してウエスタンブロット法を行った。図5に示すように、h-19F6とh-42A5は両者とも、対照と比較して、FXIによって誘導されるFIXa形成を阻害する。
【0049】
実施例9:カニクイザルの凝固時間に及ぼす抗FXI抗体の影響の評価
カニクイザルに、指示された用量のさまざまな抗体を静脈内投与した。投与前および投与後0.5、1、3、6、12、および24時間に、上肢の表在静脈から血液を回収し、APTTおよびPT定量用にクエン酸添加血漿を調製した。APTT試験では、50μLの希釈した血漿試料と25μLのAPTT試薬(SMN 10445709、Symens Inc.)とを混合し、37℃で4分間インキュベートした。次いで25μLのCaCl溶液(25mM、SMN 10446232、Symens Inc.)を添加し、血栓形成の時間を測定した。PT試験では、50μLの希釈した血漿試料を、等量のPT試薬(SMN 10446442、Symens Inc.)と混合し、37℃でインキュベートし、血栓形成の時間を測定した。試験した3つの抗体はすべて、図6に示すように用量依存的にAPTTを増加させ、図7に示すようにいずれもPTに影響を及ぼさなかった。
【0050】
実施例10:カニクイザルの動静脈(AV)シャント血栓症および尾静脈出血モデルにおける抗FXI抗体の影響の評価
血栓症と出血時間の両者を、試験した各抗体の複数用量について同じ動物で評価した。本実験に含まれる抗体は、h-34F8、h-19F6、およびh42A5であった。簡潔に述べれば、出血時間と血栓症を、投与前と抗体の各投与後30分で連続的に評価した。出血/血栓症の評価は、投与前および漸増する3つの用量レベル(0.1、0.3および1mg/kg)の投与後の4回行った。
【0051】
AVシャント血栓症の場合、予め計量した10cm長の絹糸を含むシャントデバイスを大腿動脈と大腿静脈のカニューレを接続するために適用し、シャントに10分間血液を流した。次いで、糸をシャントから除去し、再び計量した。糸の血栓重量は、血流の前後の糸重量の差として算出された。
【0052】
出血時間の評価のために、2mLのシリンジを動物の尾静脈に挿入した。シリンジ内の血液量の増加が止まったとき、経過時間を出血時間として手動で記録した。
【0053】
図8に示すように、すべての抗体は用量依存的に血栓重量を減少させ、図9に示すようにいずれも尾静脈出血時間を延長しなかった。
【0054】
実施例11:カニクイザルの塩化第二鉄誘導動脈血栓症およびテンプレート出血時間に及ぼす抗FXI抗体の影響の評価
カニクイザルに1.5mg/kgのZoletilで予め麻酔をかけ、挿管し、人工呼吸器で換気した。麻酔はイソフルランで維持された。血圧、心拍数、および体温は、手順全体の間モニターされた。h-34F8、h-19F6、およびh-42A5を含む試験した抗体、またはビヒクル対照を、FeCl適用の2時間前に注射により四肢静脈から投与した。左大腿動脈を露出させ、鈍的切開により分離した。ドップラー血流プローブを動脈に設置し、血流を連続的に記録した。FeClを適用前に、血流を少なくとも5分間測定した。次いで2片のろ紙を予めFeClに浸し、プローブの上流の血管の外膜表面に10分間適用した。ろ紙を除去した後、適用部位を生理食塩水で洗浄した。血流が0に下がるまで、連続的に測定した。80%閉塞(ベースライン血流の20%に血流が低下する)までの時間および100%閉塞(血流が0に低下する)までの時間を記録した。同一の動物で、投与前および投与1時間後にテンプレート出血時間を評価した。
【0055】
3つの抗体すべてがFeCl誘導動脈血栓症へ及ぼす影響を研究した。4群のサルをビヒクル対照、h-34F8、h-19F6、またはh-42A5でそれぞれ2時間治療し、血栓症を誘導するために各動物の左大腿動脈にFeClを適用した。下流の血流速度をモニターした。ビヒクル対照群の80%および100%血栓性閉塞までの時間は、それぞれ14.66±1.30分および18.50±1.76分であった。0.3mg/kgのh-34F8またはh-42A5で予め治療すると、それぞれ、図10に示すように、80%閉塞までの時間が59.53±16.95分および40.80±7.94分に有意に遅延し、100%閉塞までの時間が70.40±20.76分および50.61±9.48分に有意に遅延した。図10に示すように、80%閉塞(26.43±5.72分)および100%閉塞(32.78±5.09分)までの時間の延長も、h-19F6で治療したサルで観察されたが、ビヒクル対照群と比較した場合、統計的に有意な差はなかった。
【0056】
テンプレート出血時間に関して、抗体が止血に及ぼす影響を評価した。各試験品について、投与前と投与後1時間の間に有意差は認められなかった(図11A、11B、および11C)。h-34F8、h-19F6、およびh-42A5治療後の出血時間の変化は、ビヒクル対照治療後の出血時間の変化と変わらなかった(図11D)。
【0057】
抗体がサル血漿のエクスビボ凝固時間に及ぼす影響も評価した。予想通り、図12Aに示すように、0.3mg/kgのh-34F8、h-19F6、およびh-42A5による治療は、APTTをそれぞれ3.29±0.20、1.67±0.09、および2.87±0.10倍有意に延長したが、ビヒクル対照治療ではAPTTの増加は観察されなかった。さらに、図12Bに示すように、h-34F8、h-19F6、またはh-42A5による治療はPTに影響を及ぼさなかった。
【0058】
したがって、本明細書で開示された抗体は、凝固の内因性経路を効率的に阻害する一方で、長期出血の有害作用がないことが予想外に見いだされた。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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