(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】腎機能を診断またはモニターする方法、または腎機能障害を診断することを補助する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230501BHJP
G01N 33/62 20060101ALI20230501BHJP
G01N 33/70 20060101ALI20230501BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230501BHJP
C07K 16/26 20060101ALN20230501BHJP
C07K 14/575 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/62 Z
G01N33/70
G01N33/53 D
C07K16/26 ZNA
C07K14/575
(21)【出願番号】P 2019565819
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2018064049
(87)【国際公開番号】W WO2018219937
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-18
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514122524
【氏名又は名称】シュピーンゴテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルクマン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505137(JP,A)
【文献】特表2015-535936(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0279186(US,A1)
【文献】J. Hegbrant, et al.,PLASMA LEVELS OF VASOACTIVE REGULATORY PEPTIDES IN PATIENTS RECEIVING REGULAR HEMODIALYSIS TREATMENT,SCANDINAVIAN JOURNAL OF UROLOGY AND NEPHROLOGY,SCANDINAVIAN UNIVERSITY PRESS,1992年01月01日,vol. 26, no. 2,169 - 176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象の腎機能を診断またはモニターすることを補助する方法、または(b)対象の腎機能障害を診断することを補助する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事
象のリスクを予測することを補助する方法、
ここで、前記有害事象は、腎機能障害の悪化および腎機能障害に起因する死からなるグループから選択される、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターすることを補助する方法、または(e
)腎疾患の発生を予測することを補助する方法であって、
・前記対象から得られた体液中でプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めること、
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを対象の腎機能と相関させること、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを腎機能障害と相関させること、ここで、所定の閾値よりも上昇したレベルは前記対象の腎機能障害を予測または診断する
ことを補助する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させること、ここで、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測
することを補助し、その有害事
象は、腎機能障害の悪
化および腎機能障
害に起因する死
からなるグループから
選択される、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させること、ここで、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測
することを補助し、その治療または介
入は、腎代替療法、
および腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療
からなるグループから
選択される、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを治療または介入の成功の予測またはモニターリン
グと相関させること、
ここで、前記予測またはモニターリングは、腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を、腎代替療法、医薬による介入、および/または腎毒性薬の適応または中止の前と後に予測またはモニターすることを補助すること含む、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベル
を腎疾患の発生の予測と相関させること
を補助することを含み、前記プロ-タキキニンAが、配列ID番号1~4を含むグループから選択され、そのフラグメントが、配列ID番号5、10、11及び12を含むグループから選択される、方法。
【請求項2】
前記腎機能障害が、腎不全、腎機能の喪失および末期腎疾患から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腎疾患が、慢性腎疾患である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントへの結合剤を用いて求める、請求項1
~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記結合剤が、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、または抗体フラグメントを含むグループから選択される、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記結合剤が、配列ID番号5、配列ID番号11、配列ID番号12を含むグループから選択されたアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記閾値の範囲が80~100ピコモル/lである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
プロ-タキキニンAのレベルをイムノアッセイで測定し、前記結合剤が、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体または抗体フラグメントである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プロ-タキキニンAのアミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)の領域内にあって、それぞれが少なくとも4個または5個のアミノ酸を含む2つの異なる領域に結合する2つの結合剤を含むアッセイを利用する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
健康な対象のプロ-タキキニンAまたはプロ-タキキニンAフラグメントの定量が可能であって10ピコモル/l未満の感度があるアッセイを利用して、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求める、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記体液が、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、および唾液を含むグループから選択される、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
年齢、血中尿素窒素(BUN)、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、プロエンケファリン(PENK)、クレアチニン・クリアランス、クレアチニン、Apacheスコアを含むグループから選択される少なくとも1つの臨床パラメータを追加して求める、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記測定を1人の患者で2回以上実施する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記モニターリングを実施して、実行された予防的措置および/または治療的措置に対する前記対象の反応を評価する
ことを補助する、請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象を複数のリスク群に階層化するための、請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
アミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含む、請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法を実施するための診療現場検査装置。
【請求項17】
アミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含む、請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は、
・対象から得られた体液中でプロ-タキキニンA(PTA)、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めることと;
(a)プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを対象の腎機能と相関させることを含んでいる、または
(b)プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
(c)プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測する、または
(d)プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する、または
(e)プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させることを含んでいる。
【0002】
本発明の主題は、プロ-タキキニンA(PTA)またはそのフラグメントを、健康な対象と疾患状態にある対象における腎機能と腎機能障害のマーカーとして利用することと、臨床でのその有用性である。本発明の主題は、対象の腎機能を診断またはモニターする方法、対象の腎機能障害を診断する方法、死または有害事象のリスクを予測する方法、治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、疾患状態にある対象の(慢性)腎疾患の発生を予測する方法のいずれかである。
【0003】
腎機能は、循環において役割を担っていることが理由で血行動態疾患、血管疾患、炎症性疾患、代謝性疾患に影響があるため、腎機能の低下は心血管事象、入院、死のリスク増大と関係している。したがって低下した腎機能のスクリーニングと早期検出が重要であるため、ある種のリスク群(家族に素因がある対象のほか、糖尿病、高血圧、心血管疾患、自己免疫疾患を有する患者、尿路の構造的疾患を持つ人など)のスクリーニングが推奨される。
【0004】
サブスタンスP(SP)は11個のアミノ酸からなる神経ペプチドであり、神経伝達物質および神経調節物質として機能する。SPは、タキキニン神経ペプチドファミリーに属する。SPはタキキニンファミリーの5つのメンバーの1つであり、その中には、SPに加えてニューロキニンA、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、ニューロキニンBが含まれる。これらは、プレプロ-タキキニンA遺伝子の異なるスプライシングの後にタンパク質前駆体から生成する(Helke他、1990年、FASEB Journal 第4巻(6):1606~1615ページ)。SPは、侵害受容、炎症、血漿滲出、毛細血管後細静脈内での血小板と白血球の凝集、血管壁を通過する白血球の走化性移動で役割を果たしている(Otsuka M、Yoshioka K. 「哺乳動物のタキキニンの神経伝達機能」、Physiol Rev. 1993年4月;第73巻(2):229~308ページ)。
【0005】
末梢系では、SPは、心血管機能と腎機能を調節することが、これら臓器/組織を支配する感覚神経から放出されたときに可能になる(Wimalawansa SJ. 1996年、Endocr Rev第17巻:533~585ページ)。
【0006】
循環しているサブスタンスPは、肝硬変がある代償不全の患者で増加していることが示されており、尿中ナトリウム排泄および糸球体濾過率(GFR)と逆相関していた(Fernandez-Rodriguez他、1995年、Hepatology 第21巻(1):35~40ページ)。
【0007】
絶食SP血漿レベルは、慢性腎不全があって定期的に透析治療を受けている安定な患者でラジオイムノアッセイによって測定すると、健康な対照と比べて増加していたことから、慢性腎不全がある患者における胃腸ペプチド(SPを含む)のレベル上昇が、尿毒症性の胃腸症状と胃腸機能障害に寄与している可能性があると結論される(Hegbrant他、1991年、Scand J Gastroenterol第26巻(6):599~604ページ;Hegbrant他、1992年、Scand J Urol Nephrol 第26巻(2):169~176ページ)。
【0008】
プロ-サブスタンスP(proSP)のレベルが急性心筋梗塞(AMI)の患者で測定されており(Ng他、2014年、JACC第64巻(16):1698~1707ページ)、入院後の最初の2日間に最大であり、推算糸球体濾過率(eGFR)と有意な負の相関があった。この研究では、proSPは腎機能と最も強く相関していたため、AMIになったときの患者の腎機能をよく反映している可能性がある。
【0009】
ヒトでの研究は、SPの半減期が非常に短いこと(12分間)によって阻害されてきた(ConlonとSheehan. Regul. Pept. 1983年;第7巻:335~345ページ)。不安定なSPの代替物である安定なPTA(N末端プロ-サブスタンスP;以前はN末端プロ-タキキニンAまたはNT-PTAとも呼ばれていた)に関するアッセイの最近の発展(Ernst他、Peptides 2008年;第29巻:1201~1206ページ)により、ヒト疾患におけるこのタキキニン系の役割に関する研究が可能になった。
【0010】
本発明の1つの主題は、腎機能障害の診断と予後評価に関してPTAまたはそのフラグメントの予後予測能力と診断能力を提供することでもあった。
【0011】
驚くべきことに、PTAまたはフラグメントは、腎臓、その機能、その機能障害、死または有害事象のリスク、治療または介入の成功のモニターリング、(慢性)腎疾患発生の予測に関する強力かつ非常に有意なバイオマーカーであることが示されている。さらに、PTAまたはそのフラグメントの測定を利用して、腎臓にとって有害である(腎毒性の)可能性のある薬(例えば抗体(例えばバンコマイシン、ゲンタマイシン)、鎮痛剤、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えばイブプロフェン、ナプロキセン)、利尿剤、プロトンポンプ阻害剤、化学療法剤(例えばシスプラチン)、造影剤、心血管剤(ACE阻害剤、スタチンなど)、抗鬱剤、抗ヒスタミン)の継続および/または中止をモニターおよび/または判断することができる(参考として、Naughton 2008年、Am Fam Physician. 2008年;第78(6):743~750ページ、表1を参照されたい)。
【発明の概要】
【0012】
本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は、
・対象から得られた体液中でプロ-タキキニンA(PTA)のアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する少なくとも1つの結合剤を用いて免疫反応性分析物のレベルを求めることと;
(a)免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相関させることを含んでいる、または
(b)免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
(c)免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測する、または
(d)免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する、または
(e)免疫反応性分析物のレベルを(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させることを含んでいる。
【0013】
より特別な一実施態様では、本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は、
・対象から得られた体液中でプロ-タキキニンAのレベル、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めることと;
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを対象の腎機能と相関させることを含んでいる、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測し、その有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測し、その治療または介入の選択は、腎代替療法、腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療を含むグループからなされる、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを治療または介入の成功の予測またはモニタリング(腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を、腎代替療法、および/または医薬による介入、および/または腎毒性薬の適応または中止の前と後に予測またはモニターすることを含む)と相関させることを含んでいる、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させることを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】プロ-タキキニンAの典型的な用量/信号曲線。
【
図2】健康な集団におけるプロ-タキキニンAの頻度分布(n=4463)。
【
図3】健康な対象におけるeGFRとPTAの相関。x軸:eGFRの四分位、y軸:PTAの四分位。
【
図4】敗血症コホートにおいてPTAはクレアチニン・クリアランスと強く相関していた(r=-0.58、p<0.0001)。
【
図5】敗血症における腎機能障害を診断するためのPTA。
【
図6a】PTAレベルとRIFLE基準の相関(ED試験)。
【
図6b】PTAレベルとAKIN基準の相関(ED試験)。
【
図8a】EDに収容された患者の生存率に関するカプラン-マイヤープロット(PTA四分位による)。
【
図8b】EDに収容された患者の生存率に関するカプラン-マイヤープロット(PTAカットオフは100ピコモル/l)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「対象」という用語は、本明細書では、生きているヒトまたは非ヒト生物を意味する。本明細書では、対象はヒト対象であることが好ましい。対象は、特に断わらない限り健康であるか疾患状態である可能性がある。
【0016】
「上昇したレベル」という表現は、所定の閾値レベルよりも上のレベルを意味する。
【0017】
PTAとそのフラグメントは、腎臓、その機能、その機能障害、死または有害事象のリスク、治療または介入の成功のモニタリング、(慢性)腎疾患の発生予測いずれかの初期バイオマーカーである。この文脈では、PTAをクレアチニンの初期代替物として用いることができる。
【0018】
「初期」という用語は、本明細書では、クレアチニンの上昇が検出可能になるよりも前にPTAとそのフラグメントのレベルが上昇していることを意味する。PTAとそのフラグメントの上昇は、クレアチニンのレベルが上昇する数分前、好ましくは数時間前、より好ましくは数日前に起こる可能性がある。「初期」という用語は、本明細書では、腎機能が変化してから24時間以内、またはそれぞれの腎臓事象または腎機能の有害事象の後の24時間以内も意味することができる。
【0019】
治療または介入の成功を予測またはモニターするのに、例えばプロ-タキキニンAまたは少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントの測定を利用して腎代替療法の成功を予測またはモニターすることができる。
【0020】
治療または介入の成功を予測またはモニターするのに、例えばプロ-タキキニンAまたは少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントの測定を利用して、腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療の成功を予測またはモニターすることができる。
【0021】
治療または介入の成功を予測またはモニターするのに、例えばプロ-タキキニンAまたは少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントの測定を利用して、腎機能が損なわれた患者での腎代替療法および/または薬学的介入の前と後の腎機能の回復を予測またはモニターすることができる。
【0022】
体液の選択は、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、唾液を含むグループからなすことができる。
【0023】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントを求めると、対象の腎機能が明らかになる。プロ-タキキニンAの濃度上昇は腎機能の低下を示している。追跡測定の間のプロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの相対的な変化は、対象の腎機能の改善(プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの減少)ならびに悪化(プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの増加)と相関している。
【0024】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントは腎機能障害の診断材料であり、所定の閾値よりも上昇したレベルは、その対象に腎機能障害があることが予測または診断される。追跡測定の間のプロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの相対的な変化は、対象の腎機能の改善(プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの減少)ならびに悪化(プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの増加)と相関している。
【0025】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントは、腎機能/機能障害の診断と追跡に関する他のマーカー(NGAL、血液クレアチニン、クレアチニン・クリアランス、シスタチンC、尿素)と比べて優れている。優れているとは、特異度がより大きく、感度がより大きく、臨床試験のエンドポイントとの相関がよりよいことを意味する。プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントは、特に救急部にやって来るあらゆる患者で上記の医学的有用性がある。
【0026】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させると、所定の閾値よりも上昇したレベルは、死または有害事象のリスクが増大していることを予測する。この側面でも、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントは上記の臨床マーカーよりも優れている。
【0027】
疾患状態にある人は、慢性腎疾患(CKD)、急性腎疾患(AKD)、急性腎障害(AKI)から選択された疾患を患っている可能性がある。
【0028】
腎臓の構造と機能に影響する状態は、その継続期間に応じて急性または慢性であると見なすことができる。
【0029】
AKDは、3ヶ月未満の構造的な腎損傷を特徴とするとともに、AKIでも見られる機能基準、すなわちGFRが3ヶ月未満の間60 ml/分/1.73 m2未満であること、またはGFRが35%以上低下すること、または血清クレアチニン(SCr)が3ヶ月未満の間50%超増加することを特徴とする(Kidney International Supplements、第2巻、第1号、2012年3月、19~36ページ)。
【0030】
AKIは、数多くある急性の腎疾患と腎障害(AKD)の1つであり、他の急性または慢性の腎疾患と腎障害を伴って、または伴わずに発生する可能性がある。
【0031】
AKIは腎機能の低下と定義され、その中には低下したGFRと腎不全が含まれる。AKIの診断とAKIの重症度の段階の基準は、SCrと尿量の変化に基づいている。AKIでは構造基準は必要とされない(が、存在する可能性はある)が、血清クレアチニン(SCr)の7日以内の50%増加、または0.3 mg/ml(26.5マイクロモル/l)の増加、または乏尿が見られる。AKDは、外傷、脳卒中、敗血症、SIRS、敗血症性ショック、急性心筋梗塞(MI)、MI後の局所性と全身性の細菌感染とウイルス感染、自己免疫疾患がある患者、火傷の患者、手術患者、がん、肝疾患、肺疾患がある患者のほか、腎毒素(シクロスポリンなど)、抗生剤(アミノグリコシドが含まれる)、抗がん薬(シスプラチンなど)を投与されている患者で起こる可能性がある。
【0032】
腎不全はAKIの1つの段階であり、GFRが体表面積1.73 m2当たり15 ml/分未満であること、または腎代替療法(RRT)を必要とすることと定義される。
【0033】
CKDは、糸球体濾過率(GFR)が3ヶ月超にわたって1.73 m2当たり60 ml/分未満であることと、3ヶ月超にわたって腎損傷があることを特徴とする(Kidney International Supplements、2013年;第3巻:19~62ページ)。
【0034】
(KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury 2012年、第2巻(1)による)AKD、AKI、CKDの定義を表1にまとめておく。
【0035】
【0036】
頭文字をつなげた語RIFLEは、リスク、障害、不全と重症度が増していくクラスと、喪失と末期腎疾患(ESRD)という2つの転帰クラスを表わす。重症度の3つのグレードはSCrまたは尿量の変化に基づいて定義され、各基準の最も悪いほうが使用される。喪失とESRD という2つの転帰基準は、腎機能の喪失が継続している期間によって定義される。
【0037】
急性腎障害ネットワーク(AKIN)は、SCrのわずかな変化(0.3 mg/ml以上または26.5マイクロモルl以上)が48時間以内の期間に起こる場合が含まれるようにRIFLE基準をわずかに変更することで、RIFLE基準を承認した。
【0038】
(KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury 2012年、第2巻(1)による)AKIの分類のため、RIFLE基準とAKIN基準を表2に示す。
【0039】
【0040】
本発明によるリスクは、RIFLE基準(Hoste他、2006年、Critical Care 第10巻:R73ページ)によって定義されるリスクと相関している。
【0041】
有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)を含むグループからなすことができる(RIFLE基準、Hoste他、2006年、Critical Care 第10巻:R73ページによる)。
【0042】
腎機能を支援または代替する治療または介入は、腎代替療法のさまざまな方法を含むことができ、そうした方法の非限定的な例に含まれるのは、血液透析、腹膜透析、血液濾過、腎臓移植である。
【0043】
腎機能を支援または代替する治療または介入は、薬学的介入、腎臓支援措置のほか、腎毒性薬、抗生剤、利尿剤の適応および/または中止も含むことができる。
【0044】
本発明の文脈では、有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる。治療または介入の成功を予測またはモニターする文脈では、その治療または介入として、腎代替療法、または腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療が可能である。あるいは治療または介入の成功を予測またはモニターするのに、腎機能が損なわれた患者で腎代替療法および/または薬学的介入の前と後に腎機能の回復を予測またはモニターすることができる。
【0045】
本明細書全体を通じ、プロ-タキキニンとプロ-タキキニンA(PTA)という用語は同義語として用いる。この用語には、プロ-タキキニンAのあらゆるスプライスバリアント、すなわちαPTA、βPTA、γPTA、δPTAが含まれる。本明細書全体を通じ、特に断わらない限り、プロ-タキキニンAのフラグメントという用語に、サブスタンスP、ニューロキニンA、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、ニューロキニンBも含まれることを理解すべきである。
【0046】
「プロ-タキキニン、少なくとも5個のアミノ酸からなるそのスプライスバリアントまたはフラグメント(サブスタンスPとニューロキニンを含む)のレベルを求める」という記述は、通常は、上記分子内の1つの領域に対する免疫反応性を求めることを意味する。これは、ある特定のフラグメントが選択的に測定される必要はないことを意味する。これは、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメント(サブスタンスPとニューロキニンを含む)のレベルを求めるのに用いる結合剤が、その結合剤が結合する領域を含む任意のフラグメントに結合することと理解される。結合剤として、抗体、または抗体フラグメント、または非IgG足場が可能である。
【0047】
本発明の主題は、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、または抗体フラグメント、または非IgG足場を用いて求める方法である。
【0048】
本発明の一実施態様では、結合剤の選択は、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、抗体フラグメント、非Ig足場を含むグループからなされる。
【0049】
PTA遺伝子転写産物の選択的スプライシングによって4つの異なるPTA-mRNA分子が生じ、それぞれαPTA、βPTA、γPTA、δPTAと名づけられていて(Harmar 他、1990年、FEBS Lett第275巻:22~24ページ;Kawaguchi他、1986年、Biochem Biophys Res Comm第139巻:1040~1046ページ;Nawa他、1984年、Nature第312巻:729~734ページ)、これらはエキソンの組み合わせが異なっている。全部で7つあるエキソンはβ-PTA mRNAにだけ含まれている。しかしSPと、37個のアミノ酸(配列ID番号5)からなる共通N末端領域とをコードする最初の3つのエキソンは、すべてのPTA前駆分子の中に存在している。
【0050】
選択的スプライシングによって以下のプロ-タキキニンA配列が生まれる。
【0051】
配列ID番号1(アイソフォームαPTA)
EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIARRPKPQQFFGLMGKRDADSSIEKQVALLKALYGHGQISHKMAYERSAMQNYERRR
【0052】
配列ID番号2(アイソフォームβPTA)
EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIARRPKPQQFFGLMGKRDADSSIEKQVALLKALYGHGQISHKRHKTDSFVGLMGKRALNSVAYERSAMQNYERRR
【0053】
配列ID番号3(アイソフォームγPTA)
EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIARRPKPQQFFGLMGKRDAGHGQISHKRHKTDSFVGLMGKRALNSVAYERSAMQNYERRRSEQ
【0054】
配列ID番号4(アイソフォームδPTA)
EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIARRPKPQQFFGLMGKRDAGHGQISHKMAYERSAMQNYERRR
【0055】
体液中で求めることのできるプロ-タキキニンAのフラグメントは、例えば以下のフラグメントのグループから選択すること、すなわち
配列ID番号5(プロ-タキキニンA、1~37、P37、NT-PTA)
EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIA
配列ID番号6(サブスタンスP)
RPKPQQFFGLM(-NH2)
配列ID番号7(神経ペプチドK)
DADSSIEKQVALLKALYGHGQISHKRHKTDSFVGLM(-NH2)
配列ID番号8(神経ペプチドγ)
GHGQISHKRHKTDSFVGLM(-NH2)
配列ID番号9(ニューロキニンB)
HKTDSFVGLM(-NH2)
配列ID番号10(C末端隣接ペプチド、PTA 92~107)
ALNSVAYERSAMQNYE
配列ID番号11(PTA 3~22)
GANDDLNYWSDWYDSDQIK
配列ID番号12(PTA 21~36)
IKEELPEPFEHLLQRI
から選択することができる。
【0056】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを求めるとは、PTAまたはそのフラグメント(サブスタンスPとニューロキニンを含む)に対する免疫反応性を求めることを意味することができる。PTAまたはそのフラグメントを求めるのに使用される結合剤は、結合する領域に応じ、上記分子の2つ以上に結合することができる。これは、当業者には明らかである。
【0057】
本発明のより特別な一実施態様では、PTAのフラグメントは、配列ID番号5、配列ID番号10、配列ID番号11、配列ID番号12から選択することができる。
【0058】
本発明の方法のより特別な一実施態様では、P37(PTA 1~37またはNT-PTAとも呼ばれる、配列ID番号5、EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIA)のレベルを求める。本発明の方法のより一層特別な一実施態様では、PTA 1~37(NT-PTA)、配列ID番号5、EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIAに結合する少なくとも1つまたは2つの結合剤を用い、2つ以上の結合剤の場合には、それら結合剤は、PTA 1~37(NT-PTA)、配列ID番号5、EEIGANDDLNYWSDWYDSDQIKEELPEPFEHLLQRIAの中の異なる2つの領域に結合することが好ましい。結合剤は、抗体またはその結合フラグメントであることが好ましい。
【0059】
より一層特別な一実施態様では、結合剤を使用して、PTA 1~37(NT-PTA)内の以下の領域、すなわちPTA 3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)とPTA 21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)の一方または両方にそれぞれ結合するPTA、そのバリアントとフラグメントを求める。
【0060】
したがって本発明によれば、免疫反応性分析物のレベルを、上記の任意のペプチドとペプチドフラグメント(すなわち配列1~12のうちの任意のプロ-タキキニンA(PTA)とフラグメント)のアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つの結合剤を用いることにより、対象から得られた体液中で求め、臨床で重要な特別な実施態様と相関させる。
【0061】
本発明の方法のより特別な一実施態様では、PTA 1~37(配列ID番号5、NT-PTA)のレベルを求める。
【0062】
より特別な一実施態様では、NT-PTAに結合する少なくとも1つの結合剤を用いることによって免疫反応性分析物のレベルを求め、本発明の上記の実施態様に従って臨床で重要な具体的な態様と相関させる。例えば、
・免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相関させる、または
(a)免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相関させたとき、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
(b)免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させたとき、所定の閾値よりも上昇したレベルは有害事象のリスク増大を予測する、または
(c)免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させたとき、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する、または
(d)(慢性)腎疾患の発生を予測する。
【0063】
より特別な一実施態様では、NT-PTAに結合する少なくとも1つの結合剤を用いることによって免疫反応性分析物のレベルを求め、本発明の上記実施態様に従って臨床で重要な具体的な態様と相関させる。例えば
・免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相関させる、または
・免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相関させる、または
・免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相関させたとき、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
・免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させたとき、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測し、その有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる、または
・免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させたとき、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測し、その治療または介入の選択は、腎代替療法、腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療を含むグループからなされる、または
・免疫反応性分析物のレベルを治療または介入の成功の予測またはモニターリング(腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を、腎代替療法、および/または医薬による介入、および/または腎毒性薬の適応または中止の前と後に予測またはモニターすることを含む)と相関させる、または
・免疫反応性分析物のレベルを(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させる。
【0064】
あるいは上記分析物の任意のもののレベルは、他の分析法(例えば質量分析)によって求めることができる。
【0065】
したがって本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は、
・対象から得られた体液中で、免疫反応性分析物のレベルを、配列ID番号1~12のペプチドとフラグメントを含むグループから選択されたペプチドのアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する少なくとも1つの結合剤を用いて求めることと;
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを対象の腎機能と相関させることを含んでいる、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象の有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは有害事象のリスク増大を予測する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する、または
・(慢性)腎疾患の発生を予測することを含んでいる。
【0066】
より特別な一実施態様では、本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は、
・対象から得られた体液中で免疫反応性分析物のレベルを求めることと、
・免疫反応性分析物のレベルを対象の腎臓機能と相関させることを含んでいる、または
・免疫反応性分析物のレベルを対象の腎臓機能と相関させることを含んでいる、または
・免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
・免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測し、その有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる、または
・免疫反応性分析物のレベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測し、その治療または介入の選択は、腎代替療法、腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療を含むグループからなされる、または
・免疫反応性分析物のレベルを治療または介入の成功の予測またはモニターリング(腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を、腎代替療法、および/または医薬による介入、および/または腎毒性薬の適応または中止の前と後に予測またはモニターすることを含む)と相関させることを含んでいる、または
・免疫反応性分析物のレベルを(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させることを含んでいる。
【0067】
本発明の一実施態様では、結合剤の選択は、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、抗体フラグメント、非Ig足場、アプタマーを含むグループからなされる。
【0068】
より特別な一実施態様では、免疫反応性分析物のレベルは、プロ-タキキニン1~37、N末端プロ-タキキニンAフラグメント、NT-PTA(配列ID番号5)のアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する少なくとも1つの結合剤を用いることにより、対象から得られた体液中で求められる。
【0069】
特別な一実施態様では、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルは、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントに結合する抗体または抗体フラグメントを用いてイムノアッセイで測定される。プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めるのに有用である可能性のあるイムノアッセイは、実施例1に概略を示した工程を含むことができる。すべての閾値と数値は、実施例1に従って利用される試験および較正と相関させて見る必要がある。当業者は、閾値の絶対値が、利用する較正の影響を受ける可能性があることを知っているであろう。これは、本明細書に与えられているすべての数値と閾値を本明細書で用いられる較正(実施例1)の文脈で理解すべきであることを意味する。
【0070】
本発明によれば、プロ-タキキニンAに対する診断用結合剤の選択は、抗体(例えば典型的な完全長免疫グロブリンであるIgG)、または重鎖および/または軽鎖の少なくともF可変ドメインを含有する抗体フラグメント(例えば化学的にカップルした抗体(フラグメント抗原結合)からなるグループからなされる。抗体フラグメントの非限定的な例に含まれるのは、Fabフラグメント(Fabミニボディ、一本鎖Fab抗体、エピトープタグを有する1価Fab抗体(例えばFab-V5Sx2);CH3ドメインとの二量体になった2価Fab(ミニ抗体);2価Fabまたは多価Fab(例えば異種ドメインの助けを借りた多量体化(例えばdHLXドメインの二量体化)によって形成されたもの(例えばFab-dHLX-FSx2);F(ab')2フラグメントが含まれる)、scFvフラグメント、多量体化された多価または/および多重特異性scFvフラグメント、2価および/または二重特異性ダイアボディ、BITE(登録商標)(二重特異性T細胞誘導抗体)、3機能抗体、多価抗体(例えばG以外のクラスからの抗体);単一ドメイン抗体(例えばラクダまたは魚の免疫グロブリンに由来するナノボディ)である。
【0071】
特別な一実施態様では、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルは、あとでより詳細に説明するように、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントに結合する抗体、抗体、アプタマー、非Ig足場を含むグループから選択された結合剤を用いたアッセイで測定される。
【0072】
プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントのレベルを求めるのに使用できる結合剤は、プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントに対して少なくとも107 M-1、好ましくは108 M-1という親和定数を示し、好ましい親和定数は109 M-1超、最も好ましくは1010 M-1超である。当業者は、より多い用量の化合物を適用することでより小さな親和性を補償できると考えられることを知っているため、この措置が本発明の範囲外になることはないと考えられる。結合親和性は、例えばBiaffin社(カッセル、ドイツ国、http://www.biaffin.com/de/)で分析サービスとして提供されているBiacore法を利用して求めることができる。
【0073】
抗体に対する親和性を求めるため、固定化された抗体に対するPTAスプライスバリアントまたはそのフラグメントの結合速度を、Biacore 2000システム(GE Healthcare Europe GmbH社、フライブルク、ドイツ国)を利用して無標識表面プラズモン共鳴によって求めた。CM5センサーの表面に高密度で共有結合する抗マウスFc抗体を製造者の指示に従って用いて抗体の可逆的固定化を実施した(マウス抗体捕獲キット;GE Healthcare社)。(Lorenz他、「黄色ブドウ球菌のIsaAを標的とする機能的抗体が宿主の免疫反応を増大させ、抗菌療法への新たな展望を開く」;Antimicrob Agents Chemother. 2011年1月;第55巻(1):165~173ページ)。
【0074】
ヒトPTA-対照サンプルは、ICI-Diagnostics社(ベルリン、ドイツ国、http://www.ici-diagnostics.com/)から入手できる。このアッセイは、合成(われわれの実験では合成P37、配列ID番号5を使用した)または組み換えのPTAスプライスバリアントまたはそのフラグメントによって較正することもできる。
【0075】
抗体に加え、他のバイオポリマー足場が標的分子と複合体を形成することが本分野でよく知られており、高度に標的特異的なバイオポリマーを作製するのに使用されてきた。その例は、アプタマー、シュピーゲルマー、抗カリン、コノトキシンである。非Ig足場としてタンパク質足場が可能である。非Ig足場はリガンドまたは抗原に結合できるため、抗体模倣体として用いることができる。非Ig足場の選択は、テトラネクチンをベースとした非Ig足場(例えばUS 2010/0028995に記載)、フィブロネクチン足場(例えばEP 1266 025に記載)、リポカリンをベースとした足場(例えばWO 2011/154420に記載);ユビキチン足場(例えばWO 2011/073214に記載)、移動足場(例えばUS 2004/0023334に記載)、プロテインA足場(例えばEP 2231860に記載)、アンキリン反復をベースとした足場(例えばWO 2010/060748に記載)、マイクロタンパク質、好ましくはシスチンノットを形成するマイクロタンパク質による足場(例えばEP 2314308に記載)、Fyn SH3ドメインをベースとした足場(例えばWO 2011/023685に記載)、EGFR-Aドメインをベースとした足場(例えばWO 2005/040229に記載)、Kunitzドメインをベースとした足場(例えばEP 1941867に記載)を含むグループからなすことができる。
【0076】
腎疾患/機能障害を診断するための閾値、死または有害事象のリスクを判断するための閾値、治療または介入の成功を予測またはモニターするための閾値、(慢性)腎疾患の発生を予測する閾値として、正常範囲内の上側(99百分位、107ピコモルのNT-PTA/l、より好ましくは100ピコモル/l、より一層好ましくは80ピコモル/l)が可能である。閾値の範囲は、80~100ピコモルのNT-PTA/lが有用である。
【0077】
特別な一実施態様では、プロ-タキキニンAのレベルはイムノアッセイで測定され、結合剤は、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体または抗体フラグメントである。
【0078】
特別な一実施態様では、利用するアッセイは、プロ-タキキニンAのアミノ酸3~22(配列、配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列、配列ID番号12)という領域内の2つの異なる領域(その2つの領域それぞれには少なくとも4個または5個のアミノ酸が含まれる)に結合する2つの結合剤を含んでいる。
【0079】
本発明に従ってサンプル中のプロ-タキキニンAまたはプロ-タキキニンAフラグメントを求めるためのアッセイの一実施態様では、アッセイのアッセイ感度は、健康な対象のプロ-タキキニンAまたはプロ-タキキニンAフラグメントを定量することができる感度であり、20ピコモルl未満、好ましくは10ピコモルl未満、より好ましくは5ピコモルl未満である。
【0080】
本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法において、対象から得られた体液中で、配列ID番号1~12のペプチドとフラグメントを含むグループから選択されたペプチドのアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する少なくとも1つの結合剤を利用することである。本発明の一実施態様では、結合剤の選択は、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、抗体フラグメント、非Ig足場を含むグループからなされる。特別な一実施態様では、前記少なくとも1つの結合剤は、配列ID番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12を含むグループから選択された配列を有する1つの領域に結合する。特別な一実施態様では、前記結合剤は、配列ID番号6、7、8、9に結合しない。特別な一実施態様では、前記少なくとも1つの結合剤は、配列ID番号1、2、3、4、5、11、12を含むグループから選択された配列を有する1つの領域に結合する。別の特別な一実施態様では、前記少なくとも1つの結合剤は、配列ID番号5、11、12を含むグループから選択された配列を有する1つの領域に結合する。別の非常に特別な一実施態様では、前記結合剤は、プロ-タキキニンA 1~37、N末端プロ-タキキニンAフラグメント、NT-PTA(配列ID番号5)に結合する。
【0081】
より特別な一実施態様では、少なくとも1つの結合剤が、対象から得られた体液中で、プロ-タキキニンA 1~37、N末端プロ-タキキニンAフラグメント、NT-PTA(配列ID番号5)のアミノ酸配列の中の1つの領域、より具体的にはアミノ酸3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)および/またはアミノ酸21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)に結合する。ただしそれぞれの領域には、少なくとも4個または5個のアミノ酸が含まれる。
【0082】
したがって本発明の方法に従い、上記結合剤の免疫反応性のレベルが、対象から得られた体液中で求められる。免疫反応性のレベルとは分析物の濃度を意味し、それは、そのような分析物への結合剤の結合反応によって定量的、または半定量的、または定性的に求められる。この結合剤は、その分析物への結合に関して少なくとも108 M-1という親和定数を持つことが好ましい。結合剤としては、抗体、または抗体フラグメント、または非Ig足場が可能であり、結合反応はイムノアッセイである。
【0083】
プロ-タキキニンAとそのフラグメント、特にNT-PTAを用いる本発明の方法は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターすることについて、または(b)対象の腎機能障害を診断することについて、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測することについて、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターすることについて、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測することについて、先行技術で用いられている方法ならびにバイオマーカーよりもはるかに優れている。バイオマーカーとしてのPTAとそのフラグメントは、上記の利用について、プロエンケファリン(PENK)と同様、炎症とは独立なマーカーである。これは重要な特徴である。というのも、NGALやKIMなどの既知の腎臓バイオマーカーの大半は、炎症に依存しているから、すなわち対象が例えば敗血症で炎症を有する場合に、NGALまたはKIMの上昇は、炎症に起因するか、腎機能/機能障害に起因する可能性があることを意味するからである。したがって、少なくとも調べる特定の患者集団とは独立な単純なカットオフ値(1つのカットオフ値を意味する)を用いて別々の診断を下すことはできない。NGALとKIMでは、各患者は、その患者の炎症状態に応じて腎機能/機能障害に関する「個別の」閾値を有するため、これら腎臓マーカーを臨床に応用することはいくつかの疾患では難しく、別の疾患では不可能である。それとは対照的に、対象の炎症状態とは独立な単一の閾値を本発明の方法に従って全対象に対して用いることができる。それゆえ本発明の方法は、炎症に依存する上記マーカーとは異なり、臨床での定型作業に適している。
【0084】
本発明の方法におけるバイオマーカーとしてのPTAとそのフラグメント、特にNT-PTAは、腎臓の損傷と炎症を反映するNGALおよびKIMとは異なり、「実際の」腎機能を反映している。
【0085】
したがって本発明の主題は、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であり、この方法は上記の工程と特徴を含んでいて、炎症状態とは独立な閾値を使用する。
【0086】
上記の方法と、(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法においてPTAとフラグメントをバイオマーカーとして利用することの別の利点は、バイオマーカーとしてのPTAとフラグメントが、腎機能、腎機能障害、有害事象のリスク、治療または介入の成功、(慢性)腎疾患の発生予測いずれかのための極初期バイオマーカーであることである。極初初期とは、例えばクレアチニンよりも早く、NGALよりも早いことを意味する。
【0087】
クレアチニンよりもPTAが優れていることの1つの明確な印は、重病患者で入院日に調べた各濃度と7日目の死亡率の関係を分析することで得られる(実施例6)。すなわち、生存者のPTA濃度は非生存者とは有意に異なっているのに対し、クレアチニン・クリアランスについてはそうでない。このような患者集団における死亡率は主に腎機能の喪失に支配される。したがってPTAがクレアチニン・クリアランスよりも死亡率と有意かつはるかに強い関係を有することは、腎機能障害のマーカーとしてPTAのほうがクレアチニン・クリアランスよりも優れていることを裏付けている。
【0088】
本発明の主題は、上記実施態様の任意のものに従って(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)腎機能を支援または代替するため腎代替療法のさまざまな方法(その非限定的な例に含まれるのは、血液透析、腹膜透析、血液濾過、腎臓移植である)を含んでいる治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法でもあり、これらの方法では、対象から得られた体液中のプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルが、単独で使用されるか、予後予測に有用な他の検査パラメータまたは臨床パラメータと組み合わせて使用され、そのパラメータは、以下の代替物、すなわち、
・「健康な」または「見かけが健康な」対象の集団内の一群の所定のサンプル内の対象から得られた体液中のプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルの中央値との比較、
・「健康な」または「見かけが健康な」対象の集団内の一群の所定のサンプル内の対象から得られた体液中のプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルの1つの変位値との比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく計算、またはリスク指数(NRI(純再分類指数)またはIDI(統合識別指数)など)の計算を利用することによる計算
から選択することができる。
【0089】
追加の少なくとも1つの臨床パラメータは、年齢、血中尿素窒素(BUN)、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、プロエンケファリン(PENK)、シスタチンC、クレアチニン・クリアランス、クレアチニン、尿素、Apacheスコア、収縮期血圧および/または拡張期血圧(SBPおよび/またはDBP)、抗高血圧治療(AHT)、ボディ・マス・インデックス(BMI)、体脂肪質量、除脂肪体重、胴回り、ウエスト・ヒップ比、現在喫煙者であること、糖尿病遺伝、心血管疾患(CVD)、全コレステロール、トリグリセド、低密度リポコレステロール(LDL-C)、高密度リポコレステロール(HDL-C)、全血グルコースまたは血漿グルコース、血漿インスリン、HOMA(インスリン(μU/ml)×グルコース(ミリモル/l/22.5)および/またはHbA1c(%)を含むグループから選択することができ、この中には、場合によってはさらに遺伝子マーカーの状態の判定が含まれる。
【0090】
対象から得られた体液中でPTA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのスプライスバリアントまたはフラグメント(サブスタンスPとニューロキニンが含まれる)のレベルを求めることに加え、プロ-エンケファリン(PENK)または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントをその対象から得られた体液中で測定することができる。PTA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルを求めることに加え、プロ-エンケファリン(PENK)または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントをその対象から得られた体液中で測定できることを理解すべきである。これは、PTAのレベルが単独で、またはPENKと組み合わせて測定され、上記のリスクと相関されることを意味する。
【0091】
本発明の方法のより特別な一実施態様では、プロ-エンケファリン(PENK)または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルが、PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルに加えて求められる。
【0092】
したがって本発明の主題は、対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または対象の腎機能障害を診断する方法、または死または有害事象のリスクを予測する方法、または疾患状態にある対象の(慢性)腎疾患の発生を予測する方法でもあり、この方法は、
・対象から得られた体液中でプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めることと;
・対象から得られた体液中でプロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求め;
PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルと、プロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、対象の腎機能と相関させることを含んでいる、または
PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルと、プロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、対象の腎機能障害と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは対象の腎機能障害を予測または診断する、または
PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルと、プロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測する、または
PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルと、プロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する、または
PTAのレベル、またはそのスプライスバリアントまたはフラグメントのレベルと、プロ-エンケファリン、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、(慢性)腎疾患の発生の予測と相関させることを含んでいて、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測する。
【0093】
プロ-エンケファリンとフラグメントは、以下の配列、すなわち
配列ID番号13(プロ-エンケファリン(1~243))
ECSQDCATCSYRLVRPADINFLACVMECEGKLPSLKIWETCKELLQLSKPELPQDGTSTLRENSKPEESHLLAKRYGGFMKRYGGFMKKMDELYPMEPEEEANGSEILAKRYGGFMKKDAEEDDSLANSSDLLKELLETGDNRERSHHQDGSDNEEEVSKRYGGFMRGLKRSPQLEDEAKELQKRYGGFMRRVGRPEWWMDYQKRYGGFLKRFAEALPSDEEGESYSKEVPEMEKRYGGFMRF
を持つことができる。
【0094】
体液中で求めることのできるプロ-エンケファリンのフラグメントの選択は、例えば以下のフラグメント、すなわち
配列ID番号14(シン-エンケファリン、プロ-エンケファリン1~73)
ECSQDCATCSYRLVRPADINFLACVMECEGKLPSLKIWETCKELLQLSKPELPQDGTSTLRENSKPEESHLLA
配列ID番号15(Met-エンケファリン)
YGGFM
配列ID番号16(Leu-エンケファリン)
YGGFL
配列ID番号17(プロ-エンケファリン90~109)
MDELYPMEPEEEANGSEILA
配列ID番号18(プロ-エンケファリン119~159、中央領域プロ-エンケファリンフラグメント、MR-PENK)
DAEEDDSLANSSDLLKELLETGDNRERSHHQDGSDNEEEVS
配列ID番号19(Met-エンケファリン-Arg-Gly-Leu)
YGGFMRGL
配列ID番号20(プロ-エンケファリン172~183)
SPQLEDEAKELQ
配列ID番号21(プロ-エンケファリン193~203)
VGRPEWWMDYQ
配列ID番号22(プロ-エンケファリン213~234)
FAEALPSDEEGESYSKEVPEME
配列ID番号23(プロ-エンケファリン213~241)
FAEALPSDEEGESYSKEVPEMEKRYGGFM
配列ID番号24(Met-エンケファリン-Arg-Phe)
YGGFMRF
からなすことができる。
【0095】
プロ-エンケファリン(Leu-エンケファリンとMet-エンケファリンが含まれる)またはそのフラグメントのレベルを求めるとは、プロ-エンケファリンまたはそのフラグメント(Leu-エンケファリンとMet-エンケファリンが含まれる)に対する免疫反応性を求めることを意味することができる。プロ-エンケファリン(Leu-エンケファリンとMet-エンケファリンが含まれる)またはそのフラグメントのレベルを求めるのに用いる結合剤は、上記の分子の2つ以上に結合することができる。これは、当業者には明らかである。
【0096】
本発明の方法のより特別な一実施態様では、MR-PENK(配列ID番号18:(プロ-エンケファリン119~159、中央領域プロ-エンケファリンフラグメント、MR-PENK))、すなわちDAEEDDSLANSSDLLKELLETGDNRERSHHQDGSDNEEEVSのレベルを求める。
【0097】
特別な一実施態様では、プロ-エンケファリンまたはそのフラグメントのレベルは、プロ-エンケファリンまたはそのフラグメントに結合する抗体または抗体フラグメントを用いてイムノアッセイで測定される(WO 2014/053501)。
【0098】
本発明の一実施態様では、この方法を2回以上実施して対象の機能または機能障害またはリスクをモニターするか、腎臓および/または疾患の治療経過をモニターする。特別な一実施態様では、モニターリングは、実行された予防的措置および/または治療的措置に対する対象の反応を評価するために実施される。
【0099】
本発明の一実施態様では、この方法を利用して対象を複数のリスク群に階層化する。
【0100】
多彩なイムノアッセイが知られており、本発明のアッセイと方法で利用することができる。そうしたイムノアッセイに含まれるのは、ラジオイムノアッセイ(「RIA」)、ホモジニアス酵素多重化イムノアッセイ(「EMIT」)、酵素結合免疫吸着アッセイ(「ELIZA」)、アポ酵素再活性化イムノアッセイ(「ARIS」)、化学発光イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、Luminexをベースとしたビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、迅速な検査形式(例えば免疫クロマトグラフィ・ストリップ試験(「ディップスティック・イムノアッセイ」))、免疫クロマトグラフィアッセイである。
【0101】
本発明の一実施態様では、そのようなアッセイは、任意の検出技術(その非限定的な例に含まれるのは、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識である)を利用したサンドイッチイムノアッセイであり、完全に自動化されたアッセイであることが好ましい。本発明の一実施態様では、そのようなアッセイは、酵素で標識したサンドイッチアッセイである。自動化アッセイまたは完全自動化アッセイの例に含まれるのは、Roche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)というシステムのうちの1つで利用できるアッセイである。
【0102】
本発明の一実施態様では、アッセイとして、いわゆるPOC検査(診療現場)、すなわち完全自動化アッセイシステムを必要とすることなく患者の近くで1時間以内に検査を実施することが可能な検査技術が可能である。この技術の一例は、免疫クロマトグラフィ検査技術である。
【0103】
本発明の一実施態様では、上記の2つの結合剤の少なくとも一方に標識し、検出されるようにする。
【0104】
好ましい一実施態様では、標識の選択は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含むグループからなされる。
【0105】
アッセイは、ホモジニアスアッセイまたはヘテロジニアスアッセイ、競合アッセイ、非競合アッセイが可能である。一実施態様では、アッセイはサンドイッチアッセイの形式であって、それは非競合イムノアッセイであり、検出および/または定量される分子は第1の抗体と第2の抗体に結合する。第1の抗体は固相(例えばビーズ、ウエルその他の容器の表面、チップ、ストリップ)に結合させることができ、第2の抗体は、例えば染料、放射性同位体、反応性部分、触媒活性な部分のいずれかで標識された抗体である。次に、分析物に結合した標識された抗体の量を適切な方法で測定する。「サンドイッチアッセイ」に関係する一般的な構成と手続きはよく確立されており、当業者に知られている(『The Immunoassay Handbook』、David Wild編、Elsevier LTD社、オックスフォード;第3版(2005年5月)、ISBN-13:978-0080445267;Hultschig C他、Curr Opin Chem Biol. 2006年2月;第10巻(1):4~10ページ、PMID:16376134)。
【0106】
別の一実施態様では、アッセイは2個の捕獲分子を含んでいる。それら捕獲分子は両方とも液体反応混合物の中に分散されて存在する抗体であることが好ましい。この液体反応混合物の中で、第1の標識要素は、蛍光または化学発光のクエンチングまたは増幅に基づく標識系の一部であって第1の捕獲分子に付着されていて、このマーキング系の第2の標識要素は第2の捕獲分子に付着されているため、両方の捕獲分子が分析物に結合したときに測定可能な信号が発生することで、サンプルを含む溶液の中に形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能になる。
【0107】
別の一実施態様では、標識系は、希土類クリプテートまたは希土類キレートを、蛍光染料または化学発光染料(特にシアニンタイプの染料)と組み合わせて含んでいる。
【0108】
本発明の文脈では、蛍光をベースとしたアッセイは染料の利用を含んでおり、染料の選択は、例えば、FAM(5-カルボキシフルオロセインまたは6-カルボキシフルオロセイン)、VIC、NED、フルオロセイン、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、IRD-700/800、シアニン染料(CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7など)、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオロセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオロセイン(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX))、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミン・グリーン、ローダミン・レッド、ローダミン110、BODIPY染料(BODIPY TMRなど)、オレゴン・グリーン、クーマリン(ウンベリフェロンなど)、ベンズイミド(Hoechst 33258など);フェナントリジン(テキサス・レッドなど)、Yakima Yellow、Alexa Fluor、PET、臭化エチジウム、アクリジウム染料、カルバゾール染料、フェノキサジン染料、ポルフィリン染料、ポリメチン染料などを含むグループからなすことができる。
【0109】
本発明の文脈では、化学発光をベースとしたアッセイは、物理的原理に基づいて染料を利用することを含んでいる。その物理的原理は、化学発光材料に関してKirk-Othmer、『Encyclopedia of chemical technology』、第4版、編集責任者J. I. Kroschwitz; 編者M. Howe-Grant、John Wiley & Sons社、1993年、第15巻、518~562ページに記載されており、その内容は、551~562ページの引用文献を含め、参照によって本明細書に組み込まれている。好ましい化学発光染料はアクリジニウムエステルである。
【0110】
本明細書では、「アッセイ」または「診断アッセイ」は、診断の分野に応用される任意のタイプが可能である。そのようなアッセイとして、検出される分析物が1つ以上の捕獲プローブに所定の親和性で結合することに基づくものが可能である。捕獲分子と標的分子または興味ある分子の間の相互作用に関し、親和定数は108 M-1超であることが好ましい。
【0111】
本発明の文脈では、「結合剤分子」は、サンプルからの標的分子または興味ある分子、すなわち分析物(すなわち本発明の文脈ではプロ-タキキニンAとそのフラグメント)への結合に使用できる分子である。したがって結合剤分子は、空間的な面と、表面の特徴(表面電荷、疎水性、ルイスドナーおよび/またはアクセプタの存在または不在など)の両方で、標的分子または興味ある分子に特異的に結合するのに十分な形状になっていなければならない。そうなっていると、結合を、捕獲分子と標的分子または興味ある分子の間の例えばイオン性結合相互作用、ファンデルワールス結合相互作用、π-π結合相互作用、σ-π結合相互作用、疎水性結合相互作用、水素結合相互作用のいずれか、またはこれら相互作用の2つ以上の組み合わせによって実現することができる。本発明の文脈では、結合剤分子の選択は、例えば核酸分子、炭化水素分子、PNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド、糖タンパク質を含むグループからなすことができる。結合剤分子は抗体であることが好ましく、その中には、組み換え抗体または組み換え抗体フラグメントのほか、その抗体が化学的および/または生化学的に修飾された誘導体、またはその抗体の長さが少なくとも12個のアミノ酸のバリアント鎖から誘導されたフラグメントが化学的および/または生化学的に修飾された誘導体が含まれる。
【0112】
化学発光標識として、アクリジウムエステル標識、ステロイド標識(イソルミノール標識が含まれる)などが可能である。
【0113】
酵素標識として、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、クレアチンキナーゼ(CPK)、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、酸ホスファターゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼなどが可能である。
【0114】
本発明の一実施態様では、上記2つの結合剤のうちの少なくとも一方は、磁性粒子やポリスチレン表面などの固相に結合する。
【0115】
サンプル中でプロ-タキキニンAまたはプロ-タキキニンAフラグメントを本発明に従って求めるためのアッセイの一実施態様では、そのようなアッセイは、サンドイッチアッセイ、好ましくは完全自動化アッセイである。アッセイとして、完全に自動化されているか手作業のELISAが可能である。アッセイとして、いわゆるPOC検査(診療現場)が可能である。自動化または完全自動化アッセイには、Roche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)というシステムのうちの1つで利用できるアッセイが含まれる。検査形式の例は上に示されている。
【0116】
サンプル中でプロ-タキキニンAまたはフラグメントを本発明に従って求めるためのアッセイの一実施態様では、上記2つの結合剤のうちの少なくとも一方に標識し、検出する。標識の例は上に示されている。
【0117】
サンプル中でプロ-タキキニンAまたはフラグメントを本発明に従って求めるためのアッセイの一実施態様では、上記2つの結合剤のうちの少なくとも一方を固相に結合させる。固相の例は上に示されている。
【0118】
サンプル中でプロ-タキキニンAまたはフラグメントを本発明に従って求めるためのアッセイの一実施態様では、標識の選択は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含むグループからなされる。本発明のさらなる主題は、本発明のアッセイを含むキットであり、このキットでは、そのアッセイの構成要素を1つ以上の容器に含めることができる。
【0119】
一実施態様では、本発明の主題は、本発明の方法を実施するための診療現場検査装置であり、この診療現場検査装置は、アミノ酸3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)またはアミノ酸21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)に向かう少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントを含んでいる。ただしこれら領域のそれぞれは、少なくとも4個または5個のアミノ酸を含んでいる。
【0120】
一実施態様では、本発明の主題は、本発明の方法を実施するための診療現場検査装置であり、この診療現場検査装置は、アミノ酸3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)またはアミノ酸21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含んでいる。ただしこれら領域のそれぞれは、少なくとも4個または5個のアミノ酸を含んでいる。
【0121】
一実施態様では、本発明の主題は、本発明の方法を実施するためのキットであり、このキットの中の診療現場検査装置は、アミノ酸3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)またはアミノ酸21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)に向かう少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントを含んでいる。ただしこれら領域のそれぞれは、少なくとも4個または5個のアミノ酸を含んでいる。
【0122】
一実施態様では、本発明の主題は、本発明の方法を実施するためのキットであり、このキットの中の診療現場検査装置は、アミノ酸3~22(GANDDLNYWSDWYDSDQIK、配列ID番号11)またはアミノ酸21~36(IKEELPEPFEHLLQRI、配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含んでいる。ただしこれら領域のそれぞれは、少なくとも4個または5個のアミノ酸を含んでいる。
【0123】
以下の実施態様が本発明の主題である。
【0124】
1.(a)対象の腎機能を診断またはモニターする方法、または(b)対象の腎機能障害を診断する方法、または(c)疾患状態にある対象の死または有害事象(有害事象の選択は、腎機能障害の悪化(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)、または腎機能障害(腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患が含まれる)に起因する死を含むグループからなされる)のリスクを予測する方法、または(d)治療または介入の成功を予測またはモニターする方法、または(e)(慢性)腎疾患の発生を予測する方法であって、
・前記対象から得られた体液中でプロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求めることと;
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを対象の腎機能と相関させることを含む、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを腎機能障害と相関させることを含み、所定の閾値よりも上昇したレベルは前記対象の腎機能障害を予測または診断する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを疾患状態にある対象の死または有害事象のリスクと相関させることを含み、所定の閾値よりも上昇したレベルは死または有害事象のリスク増大を予測する、または
・プロ-タキキニンAまたはそのフラグメントの前記レベルを疾患状態にある対象に対する治療または介入の成功と相関させることを含み、所定の閾値よりも低いレベルは治療または介入の成功を予測し、その治療または介入の選択は、腎代替療法、腎代替療法を受けた患者でのヒアルロン酸を用いた治療を含むグループからなされること、または腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を、腎代替療法、および/または医薬による介入、および/または腎毒性薬の適応または中止の前と後に予測またはモニターすることを含む、または
・(慢性)腎疾患の発生を予測することを含む方法。
【0125】
2.前記プロ-タキキニンAが、配列ID番号1~4を含むグループから選択され、そのフラグメントが、配列ID番号5~12を含むグループから選択される、項1に記載の方法。
【0126】
3.プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントへの結合剤を用いて求める、項1~2に記載の方法。
【0127】
4.前記結合剤の選択が、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体、抗体フラグメント、非Ig足場を含むグループからなされる、項1~3に記載の方法。
【0128】
5.前記結合剤が、配列ID番号5、配列ID番号11、配列ID番号12を含むグループから選択されたアミノ酸配列の中の1つの領域に結合する、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0129】
6.前記閾値の範囲が80~100ピコモル/lである、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0130】
7.プロ-タキキニンAのレベルをイムノアッセイで測定し、前記結合剤が、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントに結合する抗体または抗体フラグメントである、項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0131】
8.プロ-タキキニンAのアミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)の領域内にあって、それぞれが少なくとも4個または5個のアミノ酸を含む2つの異なる領域に結合する2つの結合剤を含むアッセイを利用する、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0132】
9.健康な対象のプロ-タキキニンAまたはプロ-タキキニンAフラグメントの定量が可能であって10ピコモル/l未満の感度があるアッセイを利用して、プロ-タキキニンA、または少なくとも5個のアミノ酸からなるそのフラグメントのレベルを求める、項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0133】
10.前記体液の選択を、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、唾液を含むグループからなすことができる、項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【0134】
11.年齢、BUN、NGAL、PENK、クレアチニン・クリアランス、クレアチニン、Apacheスコアを含むグループから選択される少なくとも1つの臨床パラメータを追加して求める、項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0135】
12.前記測定を1人の患者で2回以上実施する、項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0136】
13.前記モニターリングを実施して、実行された予防的措置および/または治療的措置に対する前記対象の反応を評価する、項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0137】
14.前記対象を複数のリスク群に階層化するための、項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0138】
15.アミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含む、項1~14のいずれか1項に記載の方法を実施するための診療現場検査装置。
【0139】
16.アミノ酸3~22(配列ID番号11)とアミノ酸21~36(配列ID番号12)に向かう少なくとも2つの抗体または抗体フラグメントを含む、項1~15のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキット。
【実施例】
【0140】
実施例1
【0141】
抗体の開発
【0142】
ペプチド
【0143】
ペプチドを合成した(JPT Technologies社、ベルリン、ドイツ国)。
【0144】
免疫化のためのペプチド/複合体
【0145】
ウシ血清アルブミン(BSA)との複合体にするための追加N末端システイン残基を有するペプチドを免疫化のために合成した(JPT Technologies社、ベルリン、ドイツ国)。スルホ-SMCC(Perbio-science社、ボン、ドイツ国)を用いてこのペプチドをBSAに共有結合させた。カップリング手続きはPerbio社のマニュアルに従って実施した。
【0146】
【0147】
モノクローナル抗体の作製
【0148】
BALB/cマウスの免疫化を、0日目と14日目に(100μlの完全フロイントアジュバントの中に乳化した)100μgのペプチド-BSA複合体を用い、21日目と28日目に(100μlの不完全フロイントアジュバント中の)50μgのペプチド-BSA複合体を用いて実施した。融合実験を実施する3日前、100μlの生理食塩水に溶かした50μgの複合体をマウスに1回の腹腔内注射および1回の静脈内注射として与えた。
【0149】
1 mlの50%ポリエチレングリコールを用い、免疫化したマウスからの脾臓細胞と骨髄腫細胞系SP2/0の細胞を37℃で30秒間融合させた。洗浄後、細胞を96ウエルの細胞培養プレートに播種した。HAT培地[20%ウシ胎仔血清とHATサプリメントを補足したRPMI 1640培地]の中で増殖させることによってハイブリッドクローンを選択した。2週間後にHAT培地をHT培地と交換して3継代した後、通常の細胞培地に戻す。
【0150】
融合の3週間後、細胞培養物の上清の1回目のスクリーニングによって抗原特異的IgG抗体を探した。陽性のマイクロ培養物を24ウエルのプレートに移して増殖させた。再検査の後、限外希釈技術を利用して選択された培養物のクローニングと再クローニングを実施し、アイソタイプを明らかにした。(Lane, R.D. 1985年:J. Immunol. Meth. 第81巻:223~228ページ;Ziegler, B.他、1996年:Horm. Metab. Res. 第28巻:11~15ページ)。
【0151】
標準的な抗体作製法(Marx他、「モノクローナル抗体作製」(1997年)、ATLA 第25巻、121ページ)で抗体を作製し、プロテインAクロマトグラフィで精製した。抗体の純度は、SDSゲル電気泳動分析に基づくと95%超であった。
【0152】
抗体の標識と被覆
【0153】
以下の手続きに従い、すべての抗体にアクリジウムエステルで標識した。
【0154】
標識された化合物(トレーサ、抗PTA 3~22):100μg(100μl)の抗体(PBSの中に1 mg/ml、pH 7.4)を10μlのアクリジウムNHSエステル(アセトニトリルの中に1 mg/ml、InVent GmbH社、ドイツ国)(EP 0353971)と混合した後、室温で20分間インキュベートした。標識された抗体をBio-Sil SEC 400-5(Bio-Rad Laboratories, Inc.社、アメリカ合衆国)でのゲル濾過HPLCによって精製した。標識された抗体の精製物を300ミリモル/lのリン酸カリウム+100ミリモル/lのNaCl+10ミリモル/lのNa-EDTA+5 g/lのウシ血清アルブミン(pH 7.0)の中に希釈した。最終濃度は、標識された化合物(標識された約20 ngの抗体)が200μl当たり約800,000相対発光量(RLU)であった。AutoLumat LB 953(Berthold Technologies GmbH & Co. KG社)を用いてアクリジウムエステルの化学発光を測定した。
【0155】
固相抗体(被覆された抗体)
【0156】
固相:ポリスチレン製試験管(Greiner Bio-One International AG社、オーストリア国)を(室温で18時間にわたって)抗PTA 22~36抗体(1.5μgの抗体/0.3 mlの100ミリモル/lのNaCl+50ミリモル/lのトリス/HCl、pH 7.8)で被覆した。5%ウシ血清アルブミンを用いてブロックした後、試験管をPBS(pH 7.4)で洗浄した後、真空乾燥させた。
【0157】
プロ-タキキニンAイムノアッセイ
【0158】
ピペットで50μlのサンプル(または較正物質)を被覆された試験管の中に入れ、標識された抗体(200μl)を添加した後、18~25℃で2時間インキュベートした。洗浄溶液(20ミリモル/lのPBS、pH 7.4、0.1%トリトンX-100)で5回(各1 ml)洗浄することにより、結合しなかったトレーサを除去した。Luminometer LB953(Berthold社、ドイツ国)を用い、試験管に結合した標識された抗体を測定した。
【0159】
較正:
【0160】
20 mMのK2PO4+6 mMのEDTA+0.5%BSA+50μMのアマスタチン+100μMのロイペプチン(pH 8.0)の中に希釈した合成P37希釈液を用いてアッセイを較正した。PTA対照血漿は、ICI-diagnostics社(ベルリン、ドイツ国)から入手できる。
【0161】
図1は、典型的なPTA用量/信号曲線を示している。
【0162】
この分析アッセイの感度は4.4ピコモル/lであった(0-較正物質(PTAの添加なし)を20回求めることによって得た信号の中央値+2SD2標準偏差(SD)。対応するPTA濃度は標準曲線から計算される)。
【0163】
クレアチン・クリアランス
【0164】
MDRD式(Levey他、2009年、Ann Intern Med. 第150巻(9):604~612ページを参照されたい)を用いてクレアチン・クリアランスを求めた。
【0165】
実施例2
【0166】
健康な対象のPTA
【0167】
絶食させた健康な対象(n=4435、平均年齢56歳)からのEDTA-血漿サンプルを、PTAアッセイを利用して測定した。この集団でのPTAの平均値は55.2ピコモル/l、標準偏差は±17.8ピコモル/l、最小値は9.07ピコモル/l、99番目の百分位は107.6ピコモル/lであった。アッセイ感度は4.4ピコモル/lであったため、すべての値をこのアッセイで検出することができた。健康な対象におけるPTA値の分布を
図2に示す。
【0168】
驚くべきことに、プロ-タキキニンAは、健康な対象のeGFRと負の相関であった(r=-0.23、p<0.0001)。
図3を参照されたい。相関係数は男性と女性で同等であった(r=0.22対0.21、両方ともp<0.0001)。これらのデータは、PTAと腎機能の間に強い関係があることを示している。
【0169】
実施例3
【0170】
慢性疾患と急性疾患を有する患者におけるPTAと腎機能(クレアチン・クリアランス)の相関
【0171】
【0172】
PTAはクレアチン・クリアランスと常に有意に相関していたが、急性疾患では、慢性疾患または健康な対象におけるよりも相関が強かった。
【0173】
実施例4
【0174】
敗血症患者のPTA
【0175】
急性の臨床状況における腎不全の診断に関するPTAの診断能力を調べるため、以下の臨床試験を実施した。
【0176】
敗血症の定義(Dellinger他、2008年、Crit Care Med 第36巻(1):296~327ページ)を満たす101人のED患者をその後入院させ(平均で5日間の入院)、標準治療を受けさせた。EDTA-血漿サンプルを1日目(EDに到着)から作製し、入院中は毎日1つのサンプルを作製した。あとで分析物を測定するためにサンプルを凍結させる時間は4時間未満であった。
【0177】
患者の特徴を表5にまとめてある。
【0178】
【0179】
全患者の26.7%が入院中に死亡したため、治療非奏効者としてカウントし、全患者の73.3%が敗血症を生き延びたため、治療奏効者としてカウントする。
【0180】
敗血症を示す全患者の50%でPTA値が107ピコモル/l超(99百分位)であった。これは、PTAがこの感染症のマーカーにはならないことを示している。
【0181】
臨床試験の結果
【0182】
PTAはクレアチン・クリアランスと強く相関していた(r=-0.58、p<0.0001、
図4)。
【0183】
腎機能障害は、RIFLE基準(VenkataramanとKellum、2007年 J Intensive Care Med. 第22巻(4):187~193ページ)に基づいて定義される。患者は、RIFLE分類因子のいずれかを満たしている場合に腎機能障害としてカウントされた。研究コホートの中で、1日目(EDに到着)に90人の対象でRIFLEを調べると、39人の患者がRIFLE分類を満たしており(腎疾患、腎障害、腎不全、腎機能の喪失、末期腎疾患のリスクがあった)、51人の患者には腎機能障害がなかった。PTAの増加は腎機能障害と有意に(p≦0.0001)相関していた(AUC:0.787)(
図5)。
【0184】
実施例5
【0185】
救急部(ED)に収容された患者のPTA
【0186】
これは、急性の病状でローマのSant' Andrea Hospitalの救急部に次々に収容されてさらに入院した97人の患者が登録した前向き観察試験であった。登録された各患者について、臨床検査データと血漿PTA値が到着時に回収された。患者の特徴を表6にまとめてある。退院後に電話による60日間の追跡を実施した。
【0187】
【0188】
生存率は81.4%であり、有害事象(死)は主に入院後の最初の1週間に起こった。PTAは入院時に測定した。PTAの値は、RIFLE基準(
図6a)とAKIN分類(
図6b)による急性腎障害の重症度/段階と相関していた。
【0189】
PTAの初期値を病院での死亡率と相関させた。PTAは、入院したED患者の転帰をよく予測する(
図7)(AUC/C指数0.795;p<0.00001)。PTAは予測力がNGALよりも実質的に大きく、PENKよりもはるかに大きい(表7を参照されたい)。
【0190】
【0191】
図8は、ED患者の生存に関するカプラン-マイヤープロットを、a)入院時のPTAの四分位に従う場合と、b)入院時のPTAが100ピコモル/lの位置をカットオフ値とした場合について示している。
【0192】
有意な追加情報が、PTAとPENKが組み合わされる場合(p=0.004)と、PTAとAPACHE IIスコアが組み合わされる場合(p=0.001)に存在する。
【0193】
PTAの初期値をRIFLE基準と相関させた。PTAは、入院したED患者での急性腎障害をよく予測する(AUC/C指数0.792;p<0.00001)。PTAは、AUC/C指数が0.66であることが明らかになった(p=0.002)マーカーPENKよりも予測力が実質的に大きい(p<0.0001)。
【0194】
実施例6
【0195】
CKDの診断と予後
【0196】
研究集団
【0197】
この研究のバックグラウンド集団は、マルメ(スウェーデン国)からの集団に基づく前向き研究(マルメ食事とがん研究、MDCS)であり、1923年~1945年生まれの健康な男と1923年~1950年生まれの健康な女性の28,098人が1991年~1996年にベースライン検査に参加した。全参加率は約40.8%であった。MDCSの参加者で追加の表現型検査を受けたランダムに選択された6,103人からの個人が含まれていて、MDC心血管コホート(MDC-CC)の中で1991年~1994年に頸動脈疾患の疫学を研究する設計であった。追跡再検査の間、このランダムなサンプルを2007年~2012年に追跡再検査に再び来させた。生存していてスウェーデンから移動していなかった人(N=4,924)のうちで3,734人が追跡再検査に参加した。ベースライン検査時にPTAのレベルが測定されていない全員(n=1,664)を除外した後、両方の検査で測定値が入手できる2,492人で、eGFR、血漿クレアチニン、血漿シスタチンCの経年変化の間の関係を調べた。ベースライン検査時のPTA濃度と追跡再検査時のCKD発生の間の関係を、ベースライン検査時にeGFRが60 ml/分/1.73 m2よりも大きい合計2,459人の参加者で調べた。
【0198】
全患者がベースライン検査時に身体検査を受け、訓練を受けた看護師によって以下の人体計測特性が調べられた:身長(cm)、体重(kg)、胴囲、ヒップ周り。収縮期血圧と拡張期血圧(mmHg)が10分間の休憩後に訓練を受けた職員によって測定された。除脂肪体重と体脂肪が生体電気インピーダンス分析(単一周波数分析、BIA 103;JRL Systems社、デトロイト、ミシガン州)を利用して推定された。社会経済的状態に関する質問、ライフスタイル因子、医療歴を参加者が自記入式アンケートによって回答した。非絶食血液サンプルを採取してただちに-80℃に冷凍し、DNA抽出のために利用できる生物バンクに保管した。MDC-CCの参加者も絶食血液サンプルを提供し、血漿クレアチニン(マイクロモル/l)とシスタチンC(mg/l)が測定された。それに加え、全コレステロール(ミリモル/l)、トリグリセド(TG)(ミリモル/l)、低密度リポコレステロール(LDL-C)(ミリモル/l)、高密度リポコレステロール(HDL-C)(ミリモル/l)、全血グルコース(ミリモル/l)、血漿インスリン(μlU/ml)、HOMA(インスリン×グルコース/22.5)、HbA1c(%)が定量され、10分間の休憩後に血圧が背臥位で水銀柱血圧計を用いて測定された。
【0199】
追跡再検査の間(2007年~2012年)、以下の人体計測特性がベースライン検査におけるのと同様のプロトコルに従って測定された:身長(cm)、体重(kg)、胴囲とヒップ周り(cm)、収縮期血圧と拡張期血圧(SBPとDBP)(mmHg)。さらに、コレステロール(ミリモル/l)、トリグリセド(ミリモル/l)、HDL-C(ミリモル/l)、グルコース(ミリモル/l)、クレアチニン(マイクロモル/l)、シスタチンC(mg/l)が絶食血液サンプルで定量された。
【0200】
PTAが4,446人の参加者からの絶食血漿サンプルでMDC-CCベースライン検査時に化学発光サンドイッチイムノアッセイを利用して測定された。1,664人については、PTAの絶食血漿レベルが欠けていた。年齢がわずかに低い人は、MDCベースライン検査時のBMIと血漿クレアチニンがわずかにより大きく、収縮期血圧、絶食グルコース、HbA1c濃度がより低かったが、性別、血漿脂質、シスタチンC、抗高血圧治療の頻度に関しては含まれていた参加者と違いがなかった。正規分布を実現するため、絶食血漿PTAの正に歪んだ濃度を、10を底とする対数で変換した。それに加え、連続的なPTA濃度を三分位に分割し、第1三分位(PTA濃度が最低)を参照基準にすることに決めた。血漿からクレアチニンとシスタチンCの濃度をベースライン検査時と追跡検査時の両方について分析し、それぞれマイクロモル/lとmg/lで表わす。CKDは、クレアチニンとシスタチンCの血中濃度を考慮して以前に報告されているCKD-EPI-2012式に従う計算から、推算GFR(eGFR)が60 ml/分/1.73 m2未満であることと定義した。
【0201】
統計分析
【0202】
ベースライン検査時の絶食血漿PTA濃度と追跡再検査時のCKDの濃度の間の関係を、追跡期間に関しては年数、年齢、性別、GFR(ml/分/1.73 m2)を調整し、ベースライン検査時に関しては腎機能の共通リスク因子(収縮期血圧、BMI(kg/m2)、絶食グルコース、抗高血圧薬)を調整することで、ロジスティック回帰を利用して分析した。
【0203】
式:追跡の年数当たりの体重変化の平均値の例
(体重(kg)追跡再検査-体重(kg)ベースライン検査)/追跡期間(年)
【0204】
臨床疫学的分析にはSPSS(バージョン21、IBM社)を使用し、すべての分析で性別と年齢を調整した。具体的なモデルでの共分散に関する追加の調整が結果の項に報告されている。両側p値が0.05未満であることが観察された場合に帰無仮説が棄却され、関係を統計的に有意であると見なした。
【0205】
MDCベースライン検査時(1991年~1994年)のPTAと腎機能の間の交差分析
【0206】
高レベルのPTAは、より高齢であること、ならびにいくつかの人体計測特性における減少と有意に関係していた。それに加え、TG、絶食血漿グルコース、血漿インスリン、HBbA1cの濃度は、PTAが増加するにつれて低下した。クレアチニンとシスタチンCのレベルは、三分位が最高の個人で有意に高かった(表8)。
【0207】
【0208】
ベースライン検査時の絶食血漿PTA濃度と関係して変化する追跡再検査時の腎機能の予測
【0209】
次に、MDC-CCからの2,908人の参加者で、ベースライン検査時の絶食血漿PTA濃度と、ベースライン検査から追跡再検査までの表現型特性の変化の間の関係を調べた(表9)。
【0210】
【0211】
ベースライン検査時の絶食血漿PTAのレベルと追跡再検査時のCKDの間の関係の予測分析。
【0212】
eGFRが60 ml/分/1.73 m2超であることに基づくCKDの有病率は、16.5年という追跡期間中央値(13.3~20.2年の範囲)の間に2,459人の参加者で32.0%(n=788)であった。ロジスティック回帰モデルでは、追跡再検査時にCKDの発生に関してリスクの有意な増加が観察され、PTAレベルが増加した((1 IQRの増加当たりに)標準化したOR:1.22、95%CI 1.1~1.4;p=0.0005、AUC=0.554)。
【0213】
MDC研究のコホート(n=4340)では、PTAをベースライン検査時に測定し、CKDの診断結果と相関させた。PTAの値はCKDの段階(推算GFR)と有意に相関しており、eGFRが15~30の範囲の患者で値が最大であった(
図9)。
【0214】
実施例7
【0215】
Val-HeFT研究
【0216】
Val-HeFTは、ARBバルサルタンの効果を評価するためにHF(心不全)症状を有する5010人の患者が登録したランダム化、プラセボ対照、盲検、多施設共同試験であった。簡単に述べると、年齢が18歳超であり、心エコー検査では、安定なNYHAクラスII~IVのHFで、LVEFが40%、LV拡張期内径(LVIDD)/体表面積(BSA)が2.9 cm/m2である患者が、適格であった。すべての患者がHFに関して安定な薬物治療を受けることになっていた。Val-HeFTには2つの主要なエンドポイントがあった。すなわち全死因死亡率と最初の罹患事象であり、後者は、HFによる死、蘇生を伴うHFによる突然死、HFによる入院のいずれか、または入院なしの4時間以上の強心薬または血管拡張薬の投与と定義した。HFによる入院は、二次的エンドポイントであった(CohnとTognoni 2001年、N Engl J Med 第345巻:1667~1675ページ)。Val-HeFTでは、バルサルタンは死亡率には影響を与えなかったが、最初の罹患事象を13%減らし、HFによる入院を28%減らした。
【0217】
慢性心不全の患者では、強い相関がクレアチニン(r=0.41、p<0.0001)との間とeGFR(r=-0.43、p<0.0001)との間に存在していた。
【0218】
実施例8
【0219】
ADRENOSS試験(アドレノモジュリンと重症の敗血症および敗血症性ショックにおける転帰)
【0220】
重症の敗血症または敗血症性ショックと診断されて5カ国の26箇所の病院の集中治療室に収容された596人の患者がこの研究に含まれていた。選択基準は、年齢が18歳超であること、標準化された国際的な基準に従う重症の敗血症または敗血症性ショックを理由として集中治療室に収容されたか、最初に収容された別の集中治療室から24時間以内に移されたか、以前の集中治療室での昇圧剤を用いた治療が24時間未満だった患者であること、同意文書に署名していることであった。除外基準は、年齢が18歳未満であること、最初に収容された別の集中治療室から24時間超経過した後に移されたか、以前の集中治療室での昇圧剤を用いた治療が24時間を超えていた重症の敗血症または敗血症性ショックの患者であること、妊娠中の女性であること、植物状態の昏睡であること、前月に介入的臨床試験に参加したことであった。
【0221】
主要な転帰の測定は、全死因死亡率であった(評価期間は28日目まで)。血漿サンプル(ヘパリン-、EDTA-、EDTA/アプロチニン血漿)と尿サンプルを入院時、2日目、3日目、退院日に回収してバイオマーカーを測定した。
【0222】
577人の患者からのEDTA-血漿サンプルを入院時に入手できた。このコホートでのPTA濃度の中央値は115.5ピコモル/lであった。PTAの値はクレアチニンのレベルと有意に相関していた(r=0.56;p<0.0001)。
【0223】
定義により、腎機能の悪化(WRF)が起こったのは、血清クレアチニンのレベルが入院中に0.3 mg/dl増加し、かつ入院時から25%以上増加したときである。
【0224】
PTAは、PTAのカットオフを100ピコモル/lにすると腎機能の悪化を予測し(AUC 0.603)、クレアチニン単独の場合と比べて有意に優れていた。クレアチニンにPTAを加えると、有意差の値が加わった(p<0.05)。
【配列表】