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特許7271447ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230501BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230501BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B32B27/30 D
C08J7/046 A CER
C08G81/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019570904
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2018065806
(87)【国際公開番号】W WO2018234149
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】102017210656.5
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz-Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D-01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ディーター レーマン
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-510027(JP,A)
【文献】特開2014-065784(JP,A)
【文献】特開2016-056363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04-7/06
B05D 1/00-7/26
C08G 81/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面であって、プラスチックは少なくとも表面にオレフィン性不飽和二重結合を有しており、前記プラスチックの表面には、室温で摩擦学的負荷の下での反応変換の後に、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、前記オレフィン性不飽和二重結合と、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルとのラジカル結合により化学的に共有結合して存在する、前記改質されたプラスチック表面。
【請求項2】
オレフィン性不飽和二重結合を側鎖および/または主鎖に有する基を表面に有するポリマーから構成されている成形品および/または部材が、前記プラスチックとして存在する、請求項1記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項3】
前記表面にそれぞれ、エラストマー/ゴム、または加硫前の生ゴム、または熱可塑性エラストマー、または熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂が、オレフィン性不飽和二重結合を有するポリマーとして存在する、請求項2記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項4】
前記ポリマーとして、SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドまたはABSとPCとのブレンド、表面にオレフィン性不飽和二重結合を有するプリプレグおよび/または硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)、または事後的な改質によりオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するプリプレグおよび/または硬化材料としてのエポキシ樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)が存在する、請求項2記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項5】
放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により改質された改質ペルフルオロポリマー(微)粉末が存在する、請求項1記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項6】
改質されたPTFEおよび/またはPFAおよび/またはFEPが、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末として存在する、請求項1記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項7】
少なくとも部分的に、または局所的に、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末により被覆されており、かつこれと共有結合している、請求項1記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項8】
粒径が60nm~500μmの範囲にある改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が存在する、請求項1記載の改質されたプラスチック表面。
【請求項9】
ペルフルオロポリマー(微)粉末を有する改質されたプラスチック表面の製造方法であって、プラスチックは、少なくとも表面にオレフィン性不飽和二重結合を有しており、前記プラスチックの固体表面に、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を室温で施与し、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を施与している間および/または施与した後に、摩擦学的負荷下で反応変換を実施し、ただし、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を有する前記プラスチック表面の、その後の温度処理は除外されている、方法。
【請求項10】
前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末として、改質されたPTFE(微)粉末および/またはPFA(微)粉末および/またはFEP(微)粉末を使用する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
50kGy超の放射線量で改質されており、かつペルフルオロポリマー1gあたり1018スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する放射化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を使用する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
反応物の存在下で放射化学的に改質された改質ペルフルオロポリマー(微)粉末を使用する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
オレフィン性不飽和二重結合を側鎖および/または主鎖に有する基を少なくとも表面に有するポリマーから構成されている成形品および/または部材を、前記プラスチックとして使用し、かつ改質する、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記オレフィン性不飽和二重結合をそれぞれ表面に有するポリマーとして、エラストマー/ゴム、または加硫前の生ゴム、または熱可塑性エラストマー、または熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂を使用する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーとして、SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドまたはABSとPCとのブレンド、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/または硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)、または事後的な改質によりオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するプリプレグおよび/または硬化材料としてのエポキシ樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)を使用する、請求項13記載の方法。
【請求項16】
室温で、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を前記プラスチック表面に施与する、請求項9記載の方法。
【請求項17】
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、200℃までの温度を有する固体のプラスチック表面上に施与する、請求項9記載の方法。
【請求項18】
摩擦学的負荷下での前記反応変換を、以下の方法:
純粋な改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上で対向する物体により摩擦する方法、
金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末とを組み合わせて摩擦する方法、
表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着されて存在する、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と組み合わせて摩擦する方法、
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上でブラッシングする方法、
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と組み合わせてブラッシングする方法、
ソノトロードを直接的に対向する物体として用いて、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上で平面全体または局所的に擦り込む、超音波(振動)、
ソノトロードを対向する物体として用いて、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と組み合わせて、プラスチック表面上で平面全体または局所的に擦り込む、超音波(振動)、
ソノトロードを用いて、プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と一緒に配置されている容器を刺激する、超音波(振動)、
プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と一緒に配置されている振動ミル内で改質させる方法、
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を表面に有するプラスチック部材/成形品が、対向する物体を用いて直接的に、または金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と一緒に配置されている振とう器/振動機内で改質させる方法、
プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の物体と一緒に配置されている回転式乾燥機内で改質させる方法、
表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着して存在しており、かつ変形/修正された(サンド)ブラスト法の形態で圧縮空気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはガラスまたはプラスチック製の物体を加速する方法、
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と一緒に、変形/修正されたサンドブラスト法の形態で圧縮空気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の物体を加速する方法、
表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着して存在しており、かつ磁性材料の場合は磁気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の物体を加速する方法、
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と一緒に、磁性材料の場合は磁気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の物体を加速する方法
の1つ以上により実施する、請求項9記載の方法。
【請求項19】
前記摩擦学的負荷は、放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を固体のプラスチック表面上へ施与している間および/または施与した後に実施する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の施与を、摩擦学的負荷下での前記反応変換の前に実施し、前記改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、静電気吸着により固体のプラスチック表面上に配置する、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学の分野に関連し、摩擦学的条件下での使用のために組立て特性(Montageeigenschaften)および/または滑り摩擦特性が改善されており、かつ摩耗が低減されており、特に、機械製造において一般的に、またシーリング技術/動的シーリング系および自動車技術の専門領域で使用可能な、ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面、ならびにそのような改質をもたらす方法に関する。
【0002】
プラスチックとは、主に高分子からなる材料を指す(Wikipedia、キーワード プラスチック)。
【0003】
ポリマーとは、高分子からなる化学物質である(Wikipedia、キーワード ポリマー)。
【0004】
ペルフルオロアルキルポリマー、例えばPTFEおよび/またはPFAは、高エネルギーの/エネルギーに富む放射線、例えば電子線および/またはガンマ線の作用により放射化学的に分解されることが知られている[K.Lunkwitz等、Journal of Fluorine Chemistry125(2004)863~873]。
【0005】
「酸素の存在下でPTFEに照射すると、まず生成されるペルフルオロアルキルラジカルからペルオキシラジカルおよびアルコキシラジカルが形成され...。
【0006】
アルコキシラジカル形成の中間段階を経由して、末端ペルフルオロアルキルラジカルは、鎖の切断(Kettenverkuerzung)およびフッ化カルボニルの形成により段階的に分解され...。
【0007】
それに対して、側鎖のアルコキシラジカルから、ペルフルオロアルカン酸フッ化物および末端ペルフルオロアルキルラジカルが生成し...。
【0008】
未焼結および未圧縮のPTFE乳化重合体およびPTFE懸濁重合体は、繊維状ないしフェルト状の性質を有する。例えばPTFEの付着防止特性および滑り特性は、水性分散液または有機分散液、ポリマー、染料、塗料、樹脂または滑剤へ導入することによって別の媒体に移すことができない。なぜなら、このPTFEは、均質化が不可能であり、凝固の傾向を示し、凝集、浮遊または沈殿してしまうからである。
【0009】
約100kGyのエネルギー線量を有するエネルギーに富む放射線が作用することによりポリマー鎖が部分的に分解するため、繊維状ないしフェルト状の重合体から流動性の微粉末が得られる。この粉末は、なおも脆い凝集物を含み、この凝集物は、粒径5μm未満の一次粒子へと容易に分割されうる。反応体の存在下で照射を行うと、官能基がポリマーに組み込まれる。照射が空気中で行われると、...(および続いて、空気中の水分による-COF-基の加水分解)カルボキシル基が得られる。...このPTFEの有利な特性、例えば優れた滑り特性、分離特性および乾燥潤滑特性、ならびに高い化学的安定性および熱的安定性は維持される...」[A.Heger等、Technologie der Strahlenchemie an Polymeren、Akademie-Verlag Berlin 1990]。
【0010】
ペルフルオロアルキルポリマーへのこのような照射の欠点は、その他の材料との非相容性を生じることである。
【0011】
(1.)液体アンモニア中のナトリウムアミドおよび(2.)非プロトン性不活性溶媒中のアルカリアルキル化合物およびアルカリ芳香族化合物を用いた公知の方法によるPTFEの化学的活性化によっても、PTFEの改質を達成することができる。この改質により、改善された界面相互作用を達成することができる。
【0012】
照射後のPTFE分解生成物は、様々な使用分野において利用されており、例えば、滑り特性または付着防止特性の達成を目的として、プラスチック用の添加剤としても利用されている。これらの微粉末物質は、多少なりとも微細に分散されて充填剤成分としてマトリックス中に存在する[Ferse等、Plaste u. Kautschuk、29(1982)、458;DD146 716]。
【0013】
PTFE微粉末を使用することにより、市販のフルオロカーボン不含添加剤に比べて、特性の改善が達成される。
【0014】
米国特許第5,576,106号明細書によると、その表面に非単独重合エチレン性不飽和化合物がグラフトされているフッ素含有プラスチック粒子、例えばETFEからなるグラフトされたフッ素含有プラスチックが知られているが、これはペルフルオロポリマーに属するものではない。この場合、非単独重合エチレン性不飽和化合物は、酸、エステルまたは無水物であってもよい。
【0015】
独国特許出願公開第10351812号明細書、独国特許出願公開第10351813号明細書、独国特許出願公開第10351814号明細書、独国特許出願公開第102004016873号明細書、独国特許出願公開第102004016876号明細書、独国特許出願公開第102006041511号明細書、独国特許出願公開第102007055927号明細書、独国特許出願公開第102011083076号明細書、独国特許出願公開第102013216649号明細書、独国特許出願公開第102013216650号明細書、独国特許出願公開第102013216651号明細書、独国特許出願公開第102013216652号明細書、独国特許出願公開第102014225670号明細書、および独国特許出願公開第102014225671号明細書からも、放射化学的および/またはプラズマ化学的な改質、ならびに/あるいは重合プロセスに由来するペルフルオロポリマー、例えばPTFEのペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカルを用いた反応変換での、エチレン性/オレフィン性不飽和モノマーおよび/または低分子、例えば不飽和油(複数可)および/またはマクロマーおよび/またはオリゴマーおよび/またはポリマーでのラジカル結合/グラフトが知られている。反応変換は、溶液中で、分散液中で、溶融物中で、ペーストの形態で、または固体押出のいずれかで実施されていた。
【0016】
さらに、基材の表面を改質する方法としては、プラズマ重合が知られており、この方法では、例えば、ペルフルオロ層も基材表面に直接生成される。
【0017】
「プラズマ重合とは、プラズマ活性化による化学気相蒸着(PE-CVD)の特殊な変形形態である。
【0018】
プラズマ重合では、まず蒸気状の有機前駆体化合物(前駆体モノマー)が、プロセスチャンバ内でプラズマにより活性化される。この活性化により、イオン化された分子が生成され、すでに気相において、第一の分子断片がクラスターまたは鎖の形態で形成される。続いて、この断片を基材表面において縮合させることで、基材温度、電子衝突およびイオン衝突の作用により重合が起こり、それにより、密閉層が形成される。
【0019】
生成される「プラズマポリマー」の構造は、プラズマポリマーが非常にランダムな、共有結合による網目構造を形成するため、強く架橋された熱硬化性樹脂と類似している。よって、単結晶または多結晶の形態にある鎖状ポリマーの堆積は、プラズマ重合では不可能である。」
[wikipedia.org/wiki/Plasmapolymerisation]。
【0020】
さらに、ハロゲン化(照射臭素化(Strahlenbromierung))を促進することによりエラストマーの摩擦特性を改質させる方法が知られている[旧東ドイツ国経済特許第145757号明細書、旧東ドイツ国経済特許第0154102号明細書、旧東ドイツ国経済特許第248132号明細書]。臭素化と、その後の照射処理により、改善された滑り摩擦特性が達成される[A.Heger等、「Technologie der Strahlenchemie von Polymeren」、第1版、Carl Hanser Verlag、Muenchen、Wien、1990、207~252頁;J.Klose等、「Oberflaechenmodifizierung von Elastomeren mit dem Verfahren der aktivierten Halogenierung」、Dichtungstechnik、年報2014、268~282頁、Isgatec GmbH Mannheim、ISBN:978-3-9811509-7-1]。
【0021】
「微視的に粗い表面および平滑な表面における、被覆されたエラストマーのスティックスリップ摩擦不安定性の回避」について、研究会「Verein zur Foerderung des Forschungsinstitutes fuer Leder und Kunststoffbahnen(FILK) Freiberg/Sachsen e.V.」の記事(BMWi:IGF 15810 BG 公開日:2010年12月31日)がある。様々なガラス転移温度、架橋度または表面粗さを有する、カーボンブラックで強化されたエラストマーSBRおよびEPDMが、4種の異なる(滑り)塗料系(二成分のポリウレタン塗料(PU)、熱可塑性ポリウレタン塗料(TPU)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリシロキサンの粒子を有するPU塗料)で処理された。被覆されたエラストマーについて、スチール製モデルの表面、自動車用ガラスおよび塗装された鋼板に対するその摩擦特性を試験した。スティックスリップ摩擦不安定性を回避するための反応性表面改質については記載されていなかった。
【0022】
独国特許出願公開第10042566号明細書から、成形プロセスの間または直後に、または成形プロセスの後に、1種以上の改質剤を、成形されたプラスチックの表面と完全にまたは部分的に接触させ、かつプラスチック表面の温度が少なくともDSC曲線の反応ピークのオンセット温度である、プラスチック表面を改質させる方法であって、前記改質剤として、成形されたプラスチックの表面と反応を生じ、かつ/または相互拡散により表面に侵入し、かつ/または表面で溶融する物質を使用する方法が知られている。
【0023】
その際、プラスチックとして、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、TPUおよびPVCが表面改質され、ここで改質反応としては、置換反応における官能基の変換のみが挙げられ、これには、カルボニル化合物の反応も含まれていた。さらに、例においては、射出成形間の表面改質だけが、「界面反応射出成形」法のベースとして記載されている。
【0024】
独国特許出願公開第10042566号明細書の特殊な方法では、表面のパッシベーションを行い、「同じ材料から可動部を製造...。表面が改質されたプラスチック予備射出成型部材を製造した後に、少なくとも1種の反応性基を有する化合物からなる改質剤を用いてパッシベーションするために、1種以上のさらなる成分を、射出、施与または注入してもよく、ここで、少なくとも1種の官能基を有する、好適には過フッ素化および/もしくはフッ素含有および/もしくはケイ素含有および/もしくはパラフィン性の低分子量および/もしくはオリゴマー状および/もしくはポリマー状の化合物またはそれらの混合物が使用される。官能基は、改質により表面で改質剤の一部を直接結合する役割、および/またはそれ自体を反応させて、分岐および/または架橋した薄い膜にする役割を果たし、この膜はさらに、残りの官能基と溶融物表面のポリマーとの化学結合を介して反応し、これらを改質し...。組立て射出成形(Montagespritzgiessen)において可動部品を製造するための要素の間の界面における十分な分離のために....」。このために、例15では、射出成形プロセスにおけるPA6の表面改質/パッシベーションのために、ペルフルオロヘプタン酸無水物が使用される。
【0025】
「表面技術において、パッシベーションとは、ベース材料の腐食を防止するか、または大幅に遅らせる、金属材料上の保護層が自発的に生成されること、または意図的に作製されることと理解される」[https://de.wikipedia.org/wiki/Passivierung]。
【0026】
摩擦学的条件での使用が意図されているプラスチック表面にとって組立て性および/または滑り摩擦特性がなおも十分に良好ではないこと、ならびに摩耗がなおも高過ぎることは、従来技術の公知の解決策における欠点である。
【0027】
本発明の課題は、ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面であって、それにより、摩擦学的条件での使用が意図されているプラスチック表面の組立て性および/または滑り摩擦特性が著しく改善され、かつ摩耗が非常に僅かになるプラスチック表面を記載することにある。さらに、本発明の課題は、ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面を製造するための単純かつコスト面で有利な方法を記載することである。
【0028】
これらの課題は、特許請求の範囲に記載の本発明により解決される。有利な形態は、従属請求項の対象である。
【0029】
ペルフルオロポリマーを有する本発明による改質されたプラスチック表面では、オレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの表面に、室温での機械的負荷下で、反応変換の後に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、オレフィン性不飽和二重結合と、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルとのラジカル結合により化学的に共有結合して存在する。
【0030】
側鎖および/または主鎖にオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するポリマーから構成される成形品および/または部材がプラスチックとして存在することが有利である。
【0031】
それぞれ表面にオレフィン性不飽和二重結合を有するポリマーとして、エラストマー/ゴムまたは加硫前の生ゴムまたは熱可塑性エラストマーまたは熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が存在することがさらに有利である。
【0032】
SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドもしくはABSとPCとのブレンド、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとする、もしくは事後的な改質によりオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのエポキシ樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)が、ポリマーとして存在することが同様に有利である。
【0033】
また、放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により改質された改質ペルフルオロポリマー(微)粉末が存在することが有利である。
【0034】
また、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末としては、改質されたPTFEおよび/またはPFAおよび/またはFEPが、有利には放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により改質されたPTFEおよび/またはPFAおよび/またはFEPが存在すると有利である。
【0035】
プラスチックの表面が、少なくとも部分的にまたは局所的に、好適には実質的に完全に、または完全に、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末により被覆されており、かつこれと共有結合しているとさらに有利である。
【0036】
粒径が60nm~500μmの範囲、好適には200nm~5μmの範囲にある改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が存在すると同様に有利である。
【0037】
ペルフルオロポリマー(微)粉末を有する改質されたプラスチック表面を製造する本発明による方法では、オレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの固体表面に、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が室温で施与され、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の施与の間および/または後に、機械的負荷下で反応変換が実施され、その際、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を有するプラスチック表面の、後続の温度処理は除外されている。
【0038】
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末としては、改質されたPTFE(微)粉末および/またはPFA(微)粉末および/またはFEP(微)粉末、有利には、放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により改質されたPTFE(微)粉末および/またはPFA(微)粉末および/またはFEP(微)粉末が使用されることが有利である。
【0039】
50kGy超、好適には100kGy以上の放射線量で改質されており、かつペルフルオロポリマー1gあたり1018スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する、放射化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が使用されることが同様に有利である。
【0040】
反応物の存在下で、好適には酸素の影響下で放射化学的に改質された改質ペルフルオロポリマー(微)粉末が使用されることがさらに有利である。
【0041】
また、少なくとも表面においてオレフィン性不飽和二重結合を側鎖および/または主鎖に有する基を有するポリマーで構成される成形品および/または部材がプラスチックとして使用および改質されることが有利である。
【0042】
また、それぞれ表面においてオレフィン性不飽和二重結合を有するポリマーとして、エラストマー/ゴムまたは加硫前の生ゴムまたは熱可塑性エラストマーまたは熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が使用されると有利である。
【0043】
SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドもしくはABSとPCとのブレンド、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとする、もしくは事後的な改質によりオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのエポキシ樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)が、ポリマーとして使用されるとさらに有利である。
【0044】
室温、好適には18~25℃で、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末がプラスチック表面に施与されると同様に有利である。
【0045】
また、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、200℃まで、好適には150℃までの温度を有する固体プラスチック表面に施与されると有利である。
【0046】
また、機械的負荷下での反応変換は、
- 金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体なしまたはありでの圧力負荷、例えば、ラビングおよび/またはブラッシングおよび/または超音波により、ならびに/あるいは
- 金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体の加速による負荷により、
実現されると有利であり、
ここで、機械的負荷は、放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の固体プラスチック表面への施与の間および/または後に実現される。
【0047】
また、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の施与が、機械的負荷下での反応変換の前に実現され、かつ改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、静電気吸着により固体プラスチック表面に配置されると有利である。
【0048】
本発明により、ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面を記載することが初めて可能になり、それにより、摩擦学的条件での使用が意図されているプラスチック表面は、組立て性および/または滑り摩擦特性が著しく改善され、かつ摩耗が非常に僅かになる。同様に、そのような改質されたプラスチック表面を単純かつコスト面で有利な方法で製造することも初めて可能になる。
【0049】
これは、オレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの表面において、機械的負荷下での反応変換の後に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、オレフィン性不飽和二重結合と、ペルフルオロポリマー(微)粉末のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルとのラジカル結合を介して化学的に共有結合して存在する、ペルフルオロポリマーを有する改質されたプラスチック表面により達成される。
【0050】
本発明の文脈において、オレフィン性不飽和二重結合とは、オレフィン性二重結合と、エチレン性不飽和二重結合または不飽和化合物中に存在するエチレン性二重結合との双方であると理解される。
【0051】
本発明の文脈において、ペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルとは、ペルフルオロポリマーのすべてのラジカル、特にまたペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカルであって、ペルフルオロポリマーの製造の間および/または事後的な改質、例えば放射化学的および/またはプラズマ化学的な改質の間に生成したものと理解されるべきである。
【0052】
本発明による解決策により、ペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルを有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、オレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの表面と化学的に共有結合され、それにより、摩擦学的条件での使用が意図されているプラスチック表面が、著しく改善された摩擦学的特性を有する。
【0053】
オレフィン性不飽和二重結合を側鎖および/または主鎖に有する基を有するポリマーで構成される成形品および/または部材がプラスチックとして存在することが有利であり、ここで、オレフィン性不飽和二重結合を表面に有するポリマーは、エラストマー/ゴム、または加硫前の生ゴム、または熱可塑性エラストマー、または熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂、例えば、SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドもしくはABSとPCとのブレンド、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)であり、それぞれ表面に存在することが有利でありうる。
【0054】
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末としては、改質されたPTFEおよび/またはPFAおよび/またはFEPが存在することが有利である。
【0055】
本発明の文脈において、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末とは、この製造法に由来するおよび/または放射化学的な改質で生成されたペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルを本発明による方法の出発物質として少なくとも有するペルフルオロポリマー(微)粉末と理解され、ここで、反応変換の後に、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末は、ラジカルとプラスチック表面のオレフィン性不飽和二重結合との反応により化学的に共有結合して存在する。
【0056】
その際、ペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルは、例えばペルフルオロポリマー(微)粉末の重合の間および/または好適には放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により生成することができた。
【0057】
放射化学的および/またはプラズマ化学的な処理により改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が存在することが有利である。
【0058】
ラジカル結合は、表面に存在するプラスチックのオレフィン性不飽和二重結合と、ペルフルオロポリマー(微)粉末のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルとの間で起こり、それにより、ペルフルオロポリマー(微)粉末が、プラスチック表面に化学的に共有結合している。
【0059】
その際、プラスチック表面は、局所的に限定的にかつ/または少なくとも部分的に、好適には実質的に完全にもしくは完全にペルフルオロポリマー(微)粉末により被覆されているべきである。
【0060】
ペルフルオロポリマー(微)粉末としては、60~80nm(特殊なPTFEエマルションポリマーの下限一次粒子径)から500μm(凝集物である凝集したペルフルオロポリマー粒子)までの範囲、好適には200nmから5μmまでの範囲の粒径を有する粉末が存在する。
【0061】
プラスチック成形体および/または部材であって、ペルフルオロポリマー(微)粉末が機械的負荷により施与および共有結合で結合されることで、ペルフルオロポリマー固体滑剤が、該プラスチック成形体および/または部材の表面に存在し、そこで化学的に結合および固定されているプラスチック成形体および/または部材が、本発明により改質されたプラスチック表面を伴って存在する。
【0062】
それにより、プラスチック成形体および/または部材の摩擦学的適用において、組立て性および/または滑り摩擦特性が著しく改善され、かつ摩耗が非常に僅かになり、それにより、プラスチック成形体および/または部材の寿命も延長される。
【0063】
本発明による方法では、オレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの固体表面に、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が室温で施与され、その際、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の施与の間および/または後に、機械的負荷下での反応変換が実施され、その際、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が結合したプラスチック表面の、後続の温度処理は除外されている。
【0064】
ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有するペルフルオロポリマー(微)粉末としては、放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を使用することが有利である。
【0065】
このような改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末としては、この重合プロセスからのペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカルを有するPTFE粉末および/またはPFA粉末および/またはFEP粉末、さらに有利には放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたPTFE粉末および/またはPFA粉末および/またはFEP粉末を使用することが有利である。その際、特に放射化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末は、50kGy超、好適には100kGy以上の放射線量で改質されており、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超、好適にはペルフルオロポリマー1gあたり1018スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する。
【0066】
ペルフルオロポリマー(微)粉末が放射化学的に改質されている場合、これを反応物の存在下に、好適には酸素の影響下で実現することがさらに有利である。
【0067】
ペルフルオロポリマー(微)粉末を放射化学的および/またはプラズマ化学的に処理することにより、ペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルおよび官能基が生成され、その際、酸素の存在下で、酸素が結合し易いラジカルを処理する際に、ペルフルオロポリマー粒子表面にペルフルオロポリマーペルオキシラジカルが生成される。
【0068】
本発明によると、ポリマーで構成される成形品および/または部材の形態にある、少なくともオレフィン性不飽和二重結合を少なくとも表面に有するプラスチックの表面が改質され、ここで、これらのオレフィン性不飽和二重結合は、有利にはポリマーの側鎖および/または主鎖の基の構成要素であってもよい。
【0069】
オレフィン性不飽和二重結合を有するポリマーとしては、エラストマー/ゴム、または加硫前の生ゴム、または熱可塑性エラストマー、または熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂、例えば、SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドもしくはABSとPCとのブレンド、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)が、それぞれ表面で使用されることが有利である。
【0070】
本発明による方法において、室温、好適には18~25℃で、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面に施与することは、一方では特に重要である。
【0071】
その際、固体プラスチック表面は、200℃まで、好適には150℃までの温度を有することが有利でありうるが、ここで当業者であれば、成形品または部材に使用される材料の熱的安定性、特に熱寸法安定性を考慮して、温度を相応して選択する。
【0072】
他方では、反応変換が機械的負荷下で行われることが重要であり、この機械的負荷は、
- 金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体なしまたはありでの圧力負荷、例えばラビングおよび/またはブラッシングおよび/または超音波、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を成形品または部材の表面に施与した後の、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体の加速による負荷、ならびに/あるいは
- 金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体を改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と一緒に加速させることによる負荷、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を予め吸着により施与した、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体の加速による負荷
であることが有利でありうる。
【0073】
その際、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が、施与の間および後に静電気吸着により固体プラスチック表面に配置されると有利である。
【0074】
それにより、プラスチック表面の移動も機械的負荷前に可能になり、粉末は、表面におけるその位置を変えることができないか、または実質的に変えることができず、すなわち静電気により固定されている。
【0075】
ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末に、室温での固体プラスチック表面への施与の間および/または後に、本発明により機械的負荷をかけることで、プラスチック表面とペルフルオロポリマー(微)粉末との間の化学結合が初めて達成される。化学結合は、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルと、プラスチック表面のオレフィン性不飽和二重結合とが反応して共有結合を形成することにより生じ、それにより、ペルフルオロポリマー粒子がプラスチック表面に固定される。
【0076】
ただしその際、有利には放射化学的および/またはプラズマ化学的にペルフルオロポリマー(微)粉末を処理することで、生成された大部分のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルおよび官能基が、ペルフルオロポリマー粒子表面に直接存在しているのではなく、ペルフルオロポリマー粒子における表面付近の非晶質領域に存在し、ペルフルオロポリマー鎖により覆われて自由には結合できず、それにより反応において立体的に阻害されていることが重要である。
【0077】
機械的負荷下での反応変換によって、粉末粒子のペルフルオロポリマー鎖が移動し、それにより、それまでペルフルオロポリマー鎖により覆われていたペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルが放出され、ラジカルと二重結合との直接の接触によってのみ起こるプラスチック表面のオレフィン性不飽和二重結合との反応に関与することができ、それにより、吸着および/または静電気による相互作用のみに比べて、プラスチック表面における粉末の非常により強く固い共有結合が実現される。
【0078】
高圧力および高温を適用してペルフルオロポリマー(微)粉末粒子をプラスチック表面に施与および固定する従来技術の解決策に対し、本発明では、ペルフルオロポリマー(微)粉末粒子における表面付近の領域に機械的負荷をかけることでペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルの放出を達成する必要があり、それにより、ラジカル結合反応が十分な程度で起こることが可能になる。
【0079】
機械的負荷は、例えば以下の方法により実現される。
【0080】
- 純粋な改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上で対向物体(Gegenkoerper)により摩擦する方法、ならびに/あるいは
- 金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体と、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末とを組み合わせて摩擦する方法、ならびに/あるいは
- 表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着されて存在する、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体と組み合わせて摩擦する方法、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上でブラッシングする方法、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体と組み合わせてブラッシングする方法、ならびに/あるいは
- ソノトロードを直接的に対向物体として用いて、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面上で平面全体または局所的に擦り込む、超音波(振動)ならびに/あるいは
- ソノトロードを対向物体として用いて、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の担体物体と組み合わせて、プラスチック表面上で平面全体または局所的に擦り込む、超音波(振動)、ならびに/あるいは
- ソノトロードを用いて、プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の(担体)物体、好適には球形のものと一緒に配置されている容器を刺激する、超音波(振動)、ならびに/あるいは
- プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の(担体)物体、好適には球形のものと一緒に配置されている振動ミル内で改質させる方法、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を表面に有するプラスチック部材/成形品が、対向物体を用いて直接的に、または金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の(担体)物体、好適には球形のものと一緒に配置されている振とう器/振動機内で改質させる方法、ならびに/あるいは
- プラスチック部材/成形品が、改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と、金属および/またはセラミックおよび/またはプラスチック製の(担体)物体、好適には球形のものと一緒に配置されている回転式乾燥機(Taumeltrockner)内で改質させる方法、ならびに/あるいは
- 表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着して存在しており、かつ変形/修正された(サンド)ブラスト法の形態で圧縮空気[例えばwww.kst-hagen.de、Kugelstrahltechnik GmbH Hagen]またはTwister[www.twister-sand-strahl-anlage.de、BMF GmbH、Chemnitz]により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはガラスまたはプラスチック製の担体物体を加速する方法、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と一緒に、変形/修正されたサンドブラスト法の形態で圧縮空気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の担体物体を加速する方法、ならびに/あるいは
- 表面に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末が荷電/静電気により吸着して存在しており、かつ磁性担体材料の場合は磁気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の担体物体を加速する方法、ならびに/あるいは
- 改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末と一緒に、磁性担体材料の場合は磁気により加速されてプラスチック表面にぶつけられる、金属またはセラミックまたはプラスチック製の担体物体を加速する方法。
【0081】
機械的負荷の個別の方法形態は、プラスチック表面を改質させる際、個別に使用されても、または技術的に可能であれば組み合わせて使用されてもよい。さらに、個別の方法としての使用でも、または組み合わされた方法としての使用でも、プラスチック表面が局所的にのみ、または平面全体で改質されるべきであるかに依存し、これは当業者であれば、容易に判断および少しの実験で試験することができる。
【0082】
摩擦学的適用のためにプラスチックを表面改質させる本発明による方法では、本発明による改質されたペルフルオロポリマーが、(微)粉末として使用され、プラスチック表面に化学的に結合/固定される。
【0083】
しかしながら、これらの改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末は、結合された形態、例えばペーストまたは濃縮分散液に加工されても、またはスプレーの形態で本発明による表面改質のために使用されてもよい。よって、摩擦学的適用のためにプラスチックを表面改質させる個別の方法では、放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたペルフルオロポリマーが、ペーストとして、濃縮分散液として、またはスプレーの形態で、プラスチック表面に施与され、機械的負荷(好適には、ラビング、ブラッシングおよび/または超音波)によりプラスチック表面に化学的に結合/固定されてもよい。
【0084】
改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末は、ラジカル結合反応の前に、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超、有利にはペルフルオロポリマー1gあたり1017スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有し、好適にはペルフルオロポリマー1gあたり1018スピン超のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度を有することが望ましく、ここで、表面付近の領域の結合可能なペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルの実際の濃度が重要であり、本発明によると、これは少なくともペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超の濃度である。
【0085】
放射化学的および/またはプラズマ化学的な改質のために、ペルフルオロポリマー(微)粉末は、純粋な形態で、または混合物として使用されてもよく、ここで、相応して改質および前処理された再生品/再利用品が使用されてもよい。放射化学的および/またはプラズマ化学的に改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末を粉砕することが有利であると判明したが、これは必ずしも必要ではない。ペルフルオロポリマー(微)粉末の放射化学的および/またはプラズマ化学的な改質は、公知の方法に従って実施され、この方法では、ペルフルオロポリマー(微)粉末が、高エネルギーの電磁放射線、例えばガンマ線および/もしくはレントゲン線、ならびに/または粒子放射線、例えば電子線により、少なくとも50kGy、有利には100kGy以上の放射線量で、不活性ガスのもと、または反応物、例えば(空気中の)酸素の存在下で照射され、ペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超、好適にはペルフルオロポリマー1gあたり1018スピン超の濃度のペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルが、ペルフルオロポリマー(微)粉末粒子の表面付近の領域において、プラスチック表面とのラジカル結合のために生成される。ペルフルオロポリマー(微)粉末に100~2000kGyの放射線量を照射することが工業的に有利であることが判明し、生じたラジカル濃度は、各放射方式および使用されるペルフルオロポリマー(微)粉末の種類に強く依存する。また他方では、重合プロセスおよび/またはプラズマ改質プロセスからのペルフルオロポリマー(微)粉末粒子の表面付近の領域におけるペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル濃度がペルフルオロポリマー1gあたり5×1016スピン超である特別に重合されたおよび/またはプラズマ処理されたペルフルオロポリマー(微)粉末が使用されてもよい。
【0086】
驚くべきことに、機械的負荷下での反応変換の間に放出されたペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルが、ペルフルオロポリマー(微)粉末粒子の表面付近の領域において、プラスチック表面における改質されたペルフルオロポリマー(微)粉末の共有結合による化学結合が達成されるほど多くの結合を形成することが示された。
【0087】
独国特許出願公開第10042566号明細書で必要とされているようにプラスチック成形品/部材を「DSC曲線における反応ピークのオンセット温度」に加熱することは、本発明では必要ではない。
【0088】
しかしながら、プラスチック表面または部材全体の加熱は、材料の熱安定性および耐熱変形性を考慮して200℃まで、好適には150℃までで実施されてもよく、プラスチック表面は、固体凝集体の状態を必ず維持し、機械的負荷に耐える必要がある。
【0089】
プラスチック表面を改質させる間および/または適用において、機械的負荷、すなわち摩擦学的負荷により、化学的に結合したペルフルオロポリマー(微)粉末粒子がさらに砕かれ、その一部は、すぐ近くで、または別の箇所で、機械的負荷、特に摩擦により、オレフィン性不飽和二重結合とのラジカル結合反応を介して結合され、それによりプラスチック表面に固定され、さらなる分割および分布が、所望のプラスチック表面またはその部分領域で調整および/または達成される。
【0090】
他方で、すでに本発明による製造条件における、改質されたプラスチック表面の製造の際に、結合したペルフルオロポリマー(微)粉末粒子によるできるだけ最適な被覆が実現されることが有利である。
【0091】
表面全体を摩擦学的に改質させる場合、または局所的にのみ、すなわち、オレフィン性不飽和二重結合を表面に有する成形品または部材の表面の一部に制限して改質させる場合、以下のプラスチックを使用することができる。
- (加硫前の)ゴムからなる成形品、ならびにエラストマー/ゴム製の成形品および部材の場合、例えば、SBR、NBR、HNBR、XNBR、EPDM、BR、IR、NR、ならびにさらなるブタジエンコポリマーおよび/もしくはイソプレンコポリマー、またはブタジエンターポリマーおよび/もしくはイソプレンターポリマーおよびそれらの混合物であって、オレフィン性不飽和基を側鎖および/または主鎖に有するもの、ならびにその他のポリマーとの混合物。
【0092】
- 熱可塑性エラストマー(TPE-S→スチレンブロックコポリマー)製の成形品および部材の場合、例えば、SBS、SEBS、SEPS、SEEPS、MBSおよびそれらの混合物またはその他のポリマーとの混合物。
【0093】
- 熱可塑性樹脂製の成形品の場合、例えば、ABS、ならびにABSとPAとのブレンドまたはABSとPCとのブレンド。
【0094】
- 熱硬化性樹脂、特に繊維強化された熱硬化性樹脂製の成形品および部材の場合、例えば、オレフィン性不飽和二重結合をなおも表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのUP(不飽和ポリエステル)樹脂もしくはビニルエステル樹脂をベースとする、もしくは事後的な改質によりオレフィン性不飽和二重結合を有する基を表面に有するプリプレグおよび/もしくは硬化材料としてのエポキシ樹脂をベースとするBMC(バルク成形コンパウンド)またはSMC(シート成形コンパウンド)。
【0095】
成形品および部材の形態の表面改質されたプラスチックを製造する本発明による方法において、ペルフルオロポリマーによる先のバルク改質(Bulkmodifizierung)は、従来技術に記載のように必要ではなく、また推奨もできない。というのも、これらの適用時においてペルフルオロポリマーは表面で作用するべきであって、馴染み摩耗(Einlaufverschleiss)後に初めて摩擦学的特性を発揮するべきではないからである。特に軟質材料、例えばエラストマー/ゴムまたはTPEの場合、化学的に結合したペルフルオロポリマーによりバルク改質した材料では、化学的に結合したペルフルオロポリマー粒子が、マトリックスポリマーに封入された状態で存在し、固体滑剤が少ししか作用しないか、またはもはや効果的に作用しないという現象がなおも起こる。
【0096】
NBRをペルフルオロポリマー(微)粉末によりバルク改質させる実験は、ここで、PTFE 1gあたり1017スピン未満、好適にはPTFE 1gあたり1016スピン未満のラジカル濃度を有するペルフルオロポリマー(微)粉末、特にPTFE微粉末が、摩擦学的により効果的であり、ブロック/リング実験で最高の滑り摩擦特性および摩耗特性を示すことが判明した。これは、固体滑剤粒子が「重合および封入」された状態で存在していないため、すなわちグラフト化されて存在しているためである。
【0097】
これらの材料の場合、本発明によるプラスチック表面およびその製造方法とはまったく異なり、滑り摩擦係数および摩耗も低下する。それに対して、PTFE 1gあたり1017スピン超の(より大きい)スピン数、特にPTFE 1gあたり1018スピン超の(より大きい)スピン数を有するPTFE微粉末をNBRに導入する場合、ブロック/リング実験において、滑り摩擦係数は僅かに低下するが、摩耗は著しく増加し、これは、固体滑剤粒子がより強く封入されていることに起因する。
【0098】
本発明により表面改質された材料はこれらの欠点を示さず、まさにラジカル濃度がより高い場合に、より良好な滑り摩擦特性および摩耗特性が得られる。油または脂肪を添加する場合、または油もしくは脂肪の存在下では、結合したペルフルオロポリマー粒子が、さらにある程度まで油貯蔵体(Oelspeicher)として機能し、これにより、特に馴染み特性(Einlaufverhalten)または異常運転条件(Notlaufbedingungen)での摩擦学的特性が実質的に改善されることが示された。そのような表面改質された成形品および部材は、滑りがより容易になることで、組立て条件でも有利であると判明した。
【0099】
本発明による表面改質されたプラスチックの本発明による製造によると、結合されていないペルフルオロポリマー(微)粉末粒子を洗浄した後に、REM、EDXおよびATR分光法により、EPDM、SBR、NBR、NR、SBS、SEBSおよびABS製の成形品(プレート)について、化学的に結合したペルフルオロポリマー(微)粉末粒子を表面で検出することができた。
【0100】
比較実験において、ラビングによる機械的負荷なしでは、プラスチック表面におけるペルフルオロポリマー(微)粉末粒子の結合は確認されなかった。
【0101】
ペルフルオロポリマー(微)粉末をプラスチック表面で本発明によりラジカル結合すると、ブロック/リング実験では、改質されていない表面に比べて、滑り摩擦特性が改善され、摩耗強さが向上する。
【0102】
摩耗強さをさらに改善するには、化学的に結合したペルフルオロポリマー(微)粉末粒子を同時に油および脂肪の貯蔵媒体として利用し、またペルフルオロポリエーテル油(PFPE)を利用することが有利である。PFPEは、ポリマーマトリックスと非相容性であり、従来の油、脂肪および溶媒には溶解せず、摩擦係数の低下に寄与し、同時に摩耗強さを向上させる。
【0103】
本発明によると、ラジカル結合を介してペルフルオロポリマー(微)粉末粒子により改質されたプラスチック表面は、例えば、PFA乳化重合体(Dyneon/3M)に500kGyで電子線を照射し、PTFE乳化重合体(TF2025、Dyneon/3M)に、空気の存在下で750kGyのガンマ線を照射することにより製造される。照射の間に分解されて微粉末になる間にラジカルが生成され、このラジカルは、空気の存在下で部分的に転化して、室温で安定/長寿命なペルオキシラジカルになる。
【0104】
従来技術により何度も実践されてきた温度処理を実施してはならない。なぜなら、そうでなければ、生成されたペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカルが除去されてしまうからである。
【0105】
そのようにして、活性ペルフルオロポリマー(ペルオキシ)ラジカル中心は、成形品および部材のプラスチックの基のオレフィン性不飽和二重結合との結合に狙いを定めて用いられ、ラジカル結合を介して化学的にペルフルオロポリマー(微)粉末粒子により改質された表面が生じる。
【0106】
オレフィン性不飽和基を有するプラスチック表面におけるペルフルオロポリマー(微)粉末のこのような表面改質は、本発明以前には、まだ実現されても、または記載されてもいなかった。
【0107】
本発明による解決策により、ペルフルオロポリマー(微)粉末粒子による高く安定した被覆度が達成され、従来技術において、この被覆度は、圧縮および温度上昇だけでは実現することができない。
【0108】
この表面結合により、成形品および部材は、マトリックス構造が変化されないため、圧縮強さ、引張強さおよび剛性に関して、ペルフルオロポリマーでバルク改質された材料に比べて、機械的特性が改善されており、また摩擦学的(表面)特性が極めてより良好である。これらの製品は、滑り摩擦プロセスについて特に有利である。成形品および部材の表面においてペルフルオロポリマー粒子がラジカル結合されることで、この接合により摩耗強さの改善が達成される。というのも、機械的負荷によってはペルフルオロポリマー粒子を(完全に)こすり落とすことができないからである。
【0109】
これは、本発明により改質されたプラスチック表面(領域)を有する動的シーリング系について、寿命を延長させるために適用することができ、同様に、自動車領域において、きしみ音および/またはガタつき音の形態の不所望なスティックスリップ現象に対して適用することができる。一般的に、機械製造では、滑り面、滑りブロック、ワイパーなどが本発明により表面改質可能であり、これらに摩擦学的に最適化された表面が具備されてもよい。これまでは、このために滑り塗料が、組立て助剤として、または摩擦学的な馴染みプロセス(Einlaufprozesse)のために何度も施与されてきたが、これはたいていの場合、少し時間が経っただけでその効果を失ってしまう。
【0110】
以下では、複数の実施例について発明をより詳細に説明する。
【0111】
比較例1:
60mm×60mmの鋼板上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを配置し、これをPFA1gあたり1020スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する薄層PFA粉末(PFA6502TAZ、3M/Dyneon、500kGyで電子線照射されたもの)で被覆する。この上に、60mm×60mmの鋼板を置く。この鋼板の上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを再び置き、この上に、60mm×60mmの鋼板を再び置く。この束を、打抜き直径120mmのプレス機内に入れ、室温にて100kNで負荷をかける。10分後、放圧し、この束を取り出す。PFA粉末で被覆されたNBRプレートを取り出し、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、表面は開始材料の表面のような手触りになる。水は、表面から撥かれるのではなく、開始材料の場合のように、ゆっくりと流れ落ちる。
【0112】
REM画像において、PFAは平面全体に目視できず、EDX画像において、フッ素は目視できない。EDXスペクトルでは、僅かな痕跡量を除き、検出限界近くでフッ素は検出可能ではなく、すなわち、圧力のみでは表面改質が起こらない。
【0113】
ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、スティックスリップ現象が生じ、滑り摩擦特性において開始材料に対する差異が見られないことが示された。
【0114】
比較例2:
60mm×60mmの鋼板上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを配置し、これをPFA1gあたり1020スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有する薄層PFA粉末(PFA6502TAZ、3M/Dyneon、500kGyで電子線照射されたもの)で被覆する。この上に、60mm×60mmの鋼板を置く。この鋼板の上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを再び置き、この上に、60mm×60mmの鋼板を再び置く。この束を、打抜き直径120mmのプレス機内に入れ、80℃の温度にて100kNで負荷をかける。10分後、放圧し、この束を取り出す。PFA粉末で被覆されたNBRプレートを取り出し、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、表面は開始材料の表面のような手触りになる。
【0115】
これらの結果は、比較例1に類似しており、すなわち、圧力および温度のみでは表面改質が起こらず、また滑り摩擦特性においても開始材料に対する差異は見られない。
【0116】
比較例3:
60mm×60mmの鋼板上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを配置し、これを薄層PTFE粉末(TF9205、3M/Dyneon、照射なし、熱機械的に分解、ラジカルなし)で被覆する。この上に、60mm×60mmの鋼板を置く。この鋼板の上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NBRプレートを再び置き、この上に、60mm×60mmの鋼板を再び置く。この束を、打抜き直径120mmのプレス機内に入れ、120℃の温度にて100kNで負荷をかける。そして、プレートの中央に振動機を配置し、これにより、このプレートを振動させて刺激する。10分後、実験を終了し、放圧し、この束を取り出す。TF9205粉末で被覆されたNBRプレートを取り出し、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、表面は開始材料の表面のような手触りになる。
【0117】
これらの結果は、比較例1に類似しており、すなわち、ラジカル不含ペルフルオロポリマー粉末によっては、圧力、温度およびせん断で表面改質は起こらず、また滑り摩擦特性においても開始材料に対する差異は見られない。
【0118】
実施例1:
比較例1と同様に、束を用意し、プレス機内に置き、同じ条件下で室温にて圧力で負荷をかける。そして、プレートの中央に振動機を配置し、これにより、このプレートを振動させて刺激する。10分後、放圧し、この束を取り出す。PFA1gあたり1020スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有するPFA粉末(PFA6502TAZ、3M/Dyneon、500kGyで電子線照射されたもの)で被覆されたNBRプレートを取り出し、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、光沢のある表面が目視でき、この表面は、非常に滑らかな手触りがあり、この表面上で水は撥かれる。
【0119】
REM画像において、PFA粒子は平面全体に目視でき、EDX画像において、フッ素は、非常に集中的かつ均一にNBR表面に分布して目視できる。EDXスペクトルにおいて、強いフッ素ピークが検出可能であり、すなわち、圧力および振動(せん断)により、加熱処理なしでも表面改質が達成された。
【0120】
ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、これらの表面改質されたNBR材料においてスティックスリップ現象が生じないことが示された。滑り摩擦係数を測定したところ、0.20~0.23の間にあり、すなわち、これらの表面改質されたNBR材料は、改質されていない開始材料に比べて、滑り摩擦特性に差異がある。
【0121】
実施例2:
100mm×100mmの鋼板上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫NRプレートを配置し、これを中央に直径20mmの円形の穴を窓として有する100mm×100mmの鋼板で覆い、ねじで締め、それにより、NRは中抜きにおいてのみ目視可能となる。NR試料を有する2枚の鋼板を加熱テーブルに固定し、100℃に加熱する。そして、窓内の目視可能/接触可能なNRに、PTFE微粉末(Zonyl MP1200、DuPont、メーカーによりすでに照射改質されたもの、PTFE 1gあたり1.37×1018スピンのスピン数)を施与し、硬いブラシで円を描くような動きによりNR表面上で擦り込む。2分後、実験を中断し、NRプレートを取り出す。局所的にPTFE粉末で被覆されたNRプレートに吸引を行い、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、局所的に処理された表面は、光沢面として目視でき、この光沢面は、非常に滑らかな手触りがあり、未処理の端部域に比べて水を撥く。
【0122】
REM画像において、PTFE粒子は平面全体に目視でき、EDX画像において、フッ素は、集中的かつ均一にNR表面に分布して目視できる。局所的に処理された表面のEDXスペクトルにおいて、強いフッ素ピークが検出可能であり、すなわち、圧力、温度および摩擦(せん断)により、表面改質が達成された。
【0123】
ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、これらの表面改質されたNR材料においてスティックスリップ現象が生じないことが示された。滑り摩擦係数を測定したところ、0.22~0.25の間にあり、すなわち、これらの表面改質されたNR材料は、改質されていない開始材料に比べて、滑り摩擦特性に差異がある。
【0124】
実施例3:
100mm×100mmの鋼板上に、50mm×50mmおよび厚さ2mmの加硫SBRプレートを配置し、これを中央に直径20mmの円形の穴を窓として有する100mm×100mmの鋼板で覆い、ねじで締め、それにより、SBRは中抜きにおいてのみ目視可能となる。SBR試料を有する2枚の鋼板を加熱テーブルに固定し、50℃に加熱する。そして、窓内の目視可能/接触可能なSBRに、PTFE微粉末(AlgoflonL620、Solvay、メーカーによりすでに照射改質されたもの、PTFE 1gあたり6.5×1019スピンのスピン数)および直径0.5mmの鋼球を施与する。円形のプラスチックスタンプ(PA66/30GF)を用いて、圧力下および円を描くような動きで、鋼球をPTFEと一緒に表面上で転がしながら動かし、それにより、PTFE微粉末をSBRの接触可能な表面上で処理する。約5分後、実験を中断し、鋼球を磁石で取り出し、余分なPTFEを吸引する。SBRプレートを取り出し、局所的にPTFE粉末で処理された箇所を、ブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、局所的に処理された表面は、光沢面として目視でき、この光沢面は、非常に滑らかな手触りがあり、未処理の端部域に比べて、この光沢面では水が撥かれる。
【0125】
REM画像において、PTFE粒子は平面全体に目視でき、EDX画像において、フッ素は、集中的かつ均一にSBR表面に分布して目視できる。局所的に処理された表面のEDXスペクトルにおいて、強いフッ素ピークが検出可能であり、すなわち、圧力、温度および摩擦(せん断)により、表面改質が達成された。
【0126】
ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、これらの表面改質されたSBR材料においてスティックスリップ現象が生じないことが示された。滑り摩擦係数を測定したところ、0.22~0.24の間にあり、すなわち、これらの表面改質されたSBR材料は、改質されていない開始材料に比べて、滑り摩擦特性に差異がある。
【0127】
実施例4:
50mm×50mmおよび厚さ2mmのABSプレートを、中央に直径20mmの円形の穴を窓として有する50mm×50mmの鋼板で覆い、ねじで締め、それにより、ABSは中抜きにおいてのみ目視可能となる。そして、窓内の目視可能/接触可能なABSに、予めPAO(ポリアルファオレフィン油)でペーストに加工した、PFA1gあたり1020スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有するPFA微粉末(PFA6502TAZ、3M/Dyneon、500kGyで電子線照射されたもの)を、ペーストとして薄層で施与する。ソノトロードを用いて、短いインパルスで、軽い圧力および円を描くような動きにより、ABS表面上のPFAペーストを超音波で処理する。約2分後、実験を中断する。局所的にPFA粉末ペーストで処理されたABSプレートを、ブラシで軽くブラッシングしながら、まずガソリンで、続いてエタノールで、入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、局所的に処理された表面は、光沢面として目視でき、この光沢面は、滑らかな手触りがあり、未処理のABS端部域に比べて、この光沢面では、水が撥かれる。
【0128】
REM画像において、PFA粒子は平面全体に目視でき、EDX画像において、フッ素は、集中的かつ均一に、局所的に処理されたABS表面に分布して目視可能である。局所的に処理された表面のEDXスペクトルにおいて、強いフッ素ピークが検出可能であり、すなわち、超音波処理により表面改質が達成された。ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、これらの表面改質されたABS材料においてスティックスリップ現象が生じないことが示された。滑り摩擦係数を測定したところ、0.18~0.22の間にあり、摩耗係数を測定したところ、1.8~6.1×10-6mm/Nmであり、すなわち、これらの表面改質されたABS材料は、改質されていないABS開始材料に比べて、滑り摩擦特性および摩耗特性に差異がある。非晶質材料としてのABS材料は、改質されておらず、滑り摩擦および摩耗の観点で、摩擦材料(Tribomaterial)としては適していない。
【0129】
実施例5:
100mm×100mmおよび厚さ2mmのUP樹脂をベースとする部分的に硬化したSMCプレートを、中央に20mm×50mmの長方形の隙間を窓として有する100mm×100mmの鋼板で覆い、ねじで締め、それにより、SMCは中抜きにおいてのみ目視可能となる。そして、窓内の目視可能/接触可能なSMCに、予めエタノールで濡らし、水でペーストへと加工した、PFA1gあたり1020スピン超のペルフルオロアルキル(ペルオキシ)ラジカル濃度を有するPFA微粉末(PFA6502TAZ、3M/Dyneon、500kGyで電子線照射されたもの)を、ペーストとして薄層で施与する。ソノトロードを用いて、軽い圧力および円を描くような動きで、SMC表面上のPFAペーストを超音波で処理する。約1分後、実験を中断する。局所的にPFAで処理されたSMCプレートを界面活性剤水溶液で洗浄する。最後に、乾燥後にプレートを鋳型内で硬化させる。その後、プレートをブラシで軽くブラッシングしながらエタノールで入念に洗浄する。このプレートの乾燥後に、局所的に処理された表面は、光沢面として目視でき、この光沢面は、非常に滑らかな手触りがあり、未処理の端部域に比べて、この光沢面では水が撥かれる。
【0130】
REM画像において、PFA粒子は平面全体に目視でき、EDX画像において、フッ素は、集中的かつ均一に、処理されたSMC表面に分布して目視できる。局所的に処理された表面のEDXスペクトルにおいて、強いフッ素ピークが検出可能であり、すなわち、超音波処理により表面改質が達成された。
【0131】
ブロック/リング試験における摩擦学的調査により、これらの表面改質されたSMC材料においてスティックスリップ現象が生じないことが示された。滑り摩擦係数を測定したところ、0.18~0.21の間にあり、摩耗係数を測定したところ、0.48~1.51×10-7mm/Nmであり、すなわち、これらの表面改質されたSMC材料は、改質されていない開始材料に比べて、滑り摩擦特性に差異がある。