IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リカルド ユーケー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-インジェクタ 図1
  • 特許-インジェクタ 図2
  • 特許-インジェクタ 図3
  • 特許-インジェクタ 図4
  • 特許-インジェクタ 図5
  • 特許-インジェクタ 図6
  • 特許-インジェクタ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F02D 21/00 20060101AFI20230501BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20230501BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20230501BHJP
   F02B 75/18 20060101ALI20230501BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20230501BHJP
   F02B 33/20 20060101ALI20230501BHJP
   B05B 1/32 20060101ALI20230501BHJP
   F02M 25/12 20060101ALI20230501BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20230501BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20230501BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20230501BHJP
   F02M 61/10 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
F02D21/00
F16K51/00 E
F16K31/06 305A
F16K31/06 305L
F16K31/06 305K
F16K31/06 310Z
F16K31/06 305S
F16K31/06 305C
F02B75/18 P
F02B75/18 C
F02D19/12 A
F02B33/20
B05B1/32
F02M25/12 A
F02M25/12 Z
F02D23/02 Z
F02M51/00 A
F02M51/06 L
F02M61/10 A
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019572151
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 GB2018051793
(87)【国際公開番号】W WO2019002854
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】1710521.4
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504189391
【氏名又は名称】リカルド ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー アトキンズ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート モーガン
(72)【発明者】
【氏名】リース ピケット
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075542(JP,A)
【文献】特開平09-310660(JP,A)
【文献】特開昭60-076215(JP,A)
【文献】国際公開第2017/089229(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/120598(WO,A1)
【文献】特表平03-501991(JP,A)
【文献】実開昭60-120269(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0046619(US,A1)
【文献】実開昭62-101063(JP,U)
【文献】特開2011-185266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
F02M 61/00
F16K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリットサイクルエンジンのシリンダ内に、冷却処理により液相に凝縮されたクーラント液を噴射するクーラント液インジェクタであって、
断熱ハウジングと、
クーラント液入口と、
クーラント液流路を通じて、前記クーラント液入口に流体連通するクーラント液出口であって、前記クーラント液流路は、前記断熱ハウジングを通じて延在し、前記断熱ハウジングは、前記クーラント液流路内の前記クーラント液の蒸発を防止するように構成される、クーラント液出口と、
バルブ閉鎖部材であって、前記バルブ閉鎖部材が前記クーラント液流路を遮断する第1位置と、前記クーラント液が前記クーラント液入口から前記クーラント液出口へと流れ得る第2位置と、の間で移動可能なバルブ閉鎖部材と、
制御信号に応じて、前記バルブ閉鎖部材を前記第1位置と前記第2位置との間で移動させるように動作可能なドライバと、
を備え、
前記ドライバと前記クーラント液出口との間の前記クーラント液流路で前記クーラント液が蒸発した際に、前記バルブ閉鎖部材が排気弁として作用するように構成される、
ことを特徴とするインジェクタ。
【請求項2】
前記断熱ハウジングは、前記クーラント液入口と前記ドライバとの間での前記クーラント液の加熱を防止するように構成される、
請求項1記載のインジェクタ。
【請求項3】
前記断熱ハウジングは、前記クーラント液出口と前記ドライバとの間での前記クーラント液の加熱を可能にするように構成される、
請求項1または2記載のインジェクタ。
【請求項4】
前記クーラント液流路を断熱するように構成される、少なくとも1つの断熱空洞を備える、
請求項1乃至3のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項5】
スプリットサイクルエンジンのシリンダ内に、冷却処理により液相に凝縮されたクーラント液を噴射するクーラント液インジェクタであって、
ハウジングと、
クーラント液入口と、
クーラント液流路を通じて、前記クーラント液入口に流体連通するクーラント液出口であって、前記クーラント液流路は、前記ハウジングを通じて延在し、前記ハウジングは、前記クーラント液流路を断熱する少なくとも1つの断熱空洞を含む、クーラント液出口と、
バルブ閉鎖部材であって、前記バルブ閉鎖部材が前記クーラント液流路を遮断する第1位置と、前記クーラント液が前記クーラント液入口から前記クーラント液出口へと流れ得る第2位置と、の間で移動可能なバルブ閉鎖部材と、
制御信号に応じて、前記バルブ閉鎖部材を前記第1位置と前記第2位置との間で移動させるように動作可能なドライバと、
を備え、
前記少なくとも1つの断熱空洞は、外気温度で気体となる材料を収容し、
前記気体は、前記少なくとも1つの断熱空洞内を低圧環境にするように、動作温度まで冷却されると相変化するようなものが選択され、
前記外気温度は、標準的な大気の温度であり、
前記動作温度は、
前記クーラント液の沸点以下の温度、
を含む、
ことを特徴とするインジェクタ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの断熱空洞は、前記ドライバと前記クーラント液出口との間に存在する、
請求項4または5記載のインジェクタ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの断熱空洞は、前記クーラント液流路と同軸状に配置される、
請求項4乃至6のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項8】
前記ドライバは、
磁気カップリング、
を含む、
請求項1乃至7のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項9】
前記ドライバは、電磁石への電流印加により、前記バルブ閉鎖部材を前記第1位置と前記第2位置との間で移動させるように動作可能である、
請求項8記載のインジェクタ。
【請求項10】
前記ドライバは、
前記ハウジング内に配置された、導電性材料のコイル、
を備える、
請求項5に従属する場合の請求項9記載のインジェクタ。
【請求項11】
前記ドライバは、
前記バルブ閉鎖部材に結合された磁石、
を備える、
請求項10記載のインジェクタ。
【請求項12】
前記コイルは、前記コイルの抵抗を測定し、前記測定された抵抗に少なくとも部分的に基づいて、前記コイルの温度を判定するように動作可能なコントローラに結合される、
請求項10または11記載のインジェクタ。
【請求項13】
前記バルブ閉鎖部材を前記第1位置に向かって付勢する付勢部材を備える、
請求項1乃至12のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項14】
前記バルブ閉鎖部材は、前記第1位置から前記第2位置へ移動する際に、前記クーラント液出口と前記クーラント液入口との両方から離れるように移動するように構成される、
請求項1乃至13のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項15】
前記バルブ閉鎖部材は、前記第1位置から前記第2位置へ移動する際に、前記クーラント液出口から離れて、前記クーラント液入口に向かって移動するように構成される、
請求項5または請求項5に従属する場合の請求項6乃至13のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項16】
前記クーラント液インジェクタ内で生成された磁場の、前記クーラント液インジェクタ外の環境との相互作用を防止するように配置された磁気シールドを備える、
請求項1乃至15のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項17】
前記磁気シールドは、
前記ハウジングの外面上に配置された鉄鋼材層、
を備える、
請求項5に従属する場合の請求項16記載のインジェクタ。
【請求項18】
前記クーラント液流路に隣接する、前記インジェクタの面は、
潤滑コーティング、
を備える、
請求項1乃至17のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項19】
前記潤滑コーティングは、
ダイヤモンドライクカーボン、
を含む、
請求項18記載のインジェクタ。
【請求項20】
前記潤滑コーティングは、材料上に施されて、
前記潤滑コーティングが施される前記材料に基づいて選択された熱膨張係数、
を有する、
請求項18または19記載のインジェクタ。
【請求項21】
前記断熱ハウジングは、前記クーラント液入口を前記クーラント液出口に結合するインジェクタ本体を備え、前記インジェクタ本体を通じて延在する前記クーラント液流路を実現する、
請求項1乃至4および請求項1に従属する場合の請求項6乃至20のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項22】
前記インジェクタ内の圧力が所定の圧力閾値を超えると、前記バルブ閉鎖部材が前記第2位置に移動するように動作可能となるように、前記クーラント液流路は、テーパ形状である、
請求項1記載のインジェクタ。
【請求項23】
前記クーラント液インジェクタは、クーラント液貯蔵槽に結合される、
請求項1乃至22のいずれかに記載のインジェクタ。
【請求項24】
前記クーラント液貯蔵槽は、
(a)液体窒素と、
(b)液化天然ガス(LNG)と、
(c)液体酸素と、
(d)液化空気と、
のうちの少なくとも1つを収容する、
請求項23記載のインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体インジェクタ、例えば、スプリットサイクル内燃エンジンなどのエンジンのシリンダ内に液体を噴射する液体インジェクタの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃アセンブリは、複数の液体インジェクタを有し得る。各液体インジェクタは、エンジンのシリンダ内に液体を噴射するように構成される。スプリットサイクル内燃エンジンでは、水は、圧縮行程中にクーラントとして機能するように、圧縮シリンダ内に噴射され得る。このようなインジェクタは、典型的には、貯水槽に接続され、水は貯水槽から、通常、液滴状で圧縮シリンダ内に噴射される、インジェクタへと送られる。この水の液滴は、温度が上昇し、沸騰するにつれて、圧縮行程により生成されたエネルギーの一部を吸収する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の態様は独立請求項に示され、任意選択の特徴は従属請求項に示される。本発明の態様は互いに関連付けて提供されてもよく、ある態様の特徴がその他の態様に適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0004】
本発明の実施形態を、以下の図面を参照しながら、例示として説明する。
図1】第1状態における、例示的な第1クーラント液インジェクタの断面図である。
図2】第2状態における、図1の例示的な第1クーラント液インジェクタの断面図である。
図3】例示的な第2クーラント液インジェクタの断面図である。
図4】例示的なクーラント液インジェクタの動作方法のフローチャートである。
図5図1から図3の例示的なインジェクタなどのインジェクタと併用されるよう構成された制御システムの概略図である。
図6図1から図3の例示的なインジェクタなどのクーラント液インジェクタの動作方法のフローチャートである。
図7図1から図3の例示的なインジェクタなどのインジェクタと併用されるよう構成された制御システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
図1は、スプリットサイクル内燃エンジンの圧縮シリンダなどのシリンダ内に、クーラント液を噴射するクーラント液インジェクタ100の断面図を示す。クーラント液は、冷却処理により、液相に凝縮されたものである。インジェクタ100は、クーラント液入口102と、クーラント液出口104と、バルブ閉鎖部材106と、ドライバ130と、断熱ハウジング140と、を備える。ドライブ130は、移動部131と作動部132という2つの部位を備える。断熱ハウジング140は、外側部141と内側部142という2つの部位を備える。クーラント液出口104は、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダに結合されてもよく、バルブ閉鎖部材106は、第1位置と第2位置との間で移動される。バルブ閉鎖部材106は、第1位置においてはクーラント液流路118を遮断し、第2位置においてはクーラント液がクーラント液入口102からクーラント液出口104に流れることを可能にする。ドライバ130は、制御信号に応じて、バルブ閉鎖部材106を第1位置と第2位置との間で移動させることができる。
【0006】
なお、インジェクタの多くの構成部品が、特定の実施形態ごとに変化し得、各構成部品のこれらの変形例は、別の構成部品のその他の任意の変形例と組み合わされてもよいことが理解されよう。
【0007】
図1は、クーラント液入口102とクーラント液出口104とを備える、スプリットサイクルエンジン用の例示的なクーラント液インジェクタ100の断面図を示す。クーラント液出口104は、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダに結合されてもよい。図1の実施形態では、バルブ閉鎖部材106は、2つの端部を有するシャフト部をさらに備える。一方の端部は、クーラント液出口104を囲む断熱ハウジングに接触する。他端部は、ドライバ130の移動部131の磁石を含む一端部に機械的に接続される。ドライバ130の移動部131の他端部は、ばね110の一端部に接触する。ばねの他端部は、クーラント液入口102を囲む断熱ハウジング140の内側部142に接触する。
【0008】
断熱ハウジング140は、剛性で、内側部142を形成するインジェクタ本体と、剛性ハウジングの外面上に配置され、外側部141を形成する外側断熱層と、の2つの部分により構成される。断熱ハウジング140の外側部141は、インジェクタの先端以外の全てを包囲する。この先端は、剛性ハウジングの、クーラント液出口104を囲む部分である。剛性ハウジングの内部は、エポキシ樹脂マトリックス内の銅コイルを含む、ドライバ130の作動部132である。これらコイルは、クーラント液入口102とクーラント液出口104との間の流体流路を囲む。さらに、インジェクタ本体内には、クーラント液出口104と、ドライバ130の移動部131と、の間に断熱空洞120が存在する。断熱ハウジング140の外側には、磁気シールド124が設けられる。磁気シールド124は、ドライバ130の銅コイルの径方向外側に配置された材料帯内で、断熱ハウジング140を囲む。
【0009】
インジェクタ100は、クーラント液流路118により画定された長手軸を有し、この軸に対しておおよそ対称的である。バルブ閉鎖部材106は、クーラント液流路118内で、この長手軸に沿って配置される。インジェクタの底部は、バルブ閉鎖部材106の長さに沿って定められる。この底部は、円錐形であり、その最小径部はクーラント液出口104に近接し、最大径部において、バルブ閉鎖部材106がドライバ130の移動部131に接続される。断熱ハウジング140の外側層141および内側層142と、断熱空洞120のそれぞれは、インジェクタの円錐形構造に沿う。断熱空洞120は、クーラント液流路の径方向外側に配置され、バルブ閉鎖部材106の長さの大部分に沿って延在する。断熱空洞120は、ドライバ130の移動部131の近位端でより厚い円錐環を形成する。断熱空洞120は、1つの円錐環を形成するように360°にわたって延在してもよく、複数の部位に分割されてもよい。断熱ハウジング140の外側層141は、インジェクタ本体の径方向外側に配置される。
【0010】
インジェクタ100の頂部は、インジェクタの底部の上方に定められ、おおよそ円筒形状である。頂部は、バルブ閉鎖部材106がドライバ130の移動部131に接続される位置から、クーラント液入口102まで、インジェクタの長さ方向に沿って延在する。クーラント液流路118と、ドライバ130の移動部131と、付勢部材110とは、頂部の径方向最内部である。断熱ハウジング142の内側部141のインジェクタ本体は、クーラント液流路118の径方向外側に配置される。インジェクタ本体は、ドライバ130の作動部132が内部に配置されるコイル空洞を備える。コイル空洞は、ドライバ130の作動部132の径方向内側および/または外側にコイル空洞の空き部分が存在するように、作動部132よりも大きくてもよい。インジェクタ本体は、断熱ハウジング140の外側部142に径方向内部に配置される。磁気シールド124は、銅コイルの少なくとも長さ方向に沿って、断熱ハウジング140の外側部141の径方向外側に配置される。
【0011】
クーラント液インジェクタ100は、制御信号に応じて、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダ内に、クーラント液を噴射するように動作可能である。図1の実施形態では、バルブ閉鎖部材106は、第1位置と第2位置との間で移動するように制御可能である。図2に第2位置を示す。第2位置は、図1図2との実施形態では、ばね110である付勢部材110を設けることにより実現される。バルブ閉鎖部材106と、クーラント液出口104を囲む断熱ハウジング140と、の間を確実に接触させることにより、付勢部材110は、バルブ閉鎖部材106を第1位置に向かって付勢する。この付勢は、クーラント液出口104での密閉を生じ、クーラント液出口104からのクーラント液の流出を防止する。
【0012】
ドライバ130の移動部131の磁石は、磁石にかかるあらゆる力がバルブ閉鎖部材106に伝達されるように、バルブ閉鎖部材106に機械的に結合される。図1に示される第1位置では、ドライバ130の移動部131は、磁石がコイルからオフセットするように配置される。この配置は、磁石が最低エネルギー位置に移動することでバルブ閉鎖部材106が移動するように、銅コイルを制御可能にする。第1位置から離れた任意の位置である第2位置に移動すると、バルブ閉鎖部材106がクーラント液出口104を囲む断熱ハウジングに接触しなくなり、クーラント液はクーラント液インジェクタから流出可能となる。
【0013】
銅コイルは、電流または電位差をかけることでコントローラにより動作可能である。この電流は、銅のコイル状態により磁場を生成し、この磁場がインジェクタ100内でドライバ130の移動部131の永久磁石と相互作用する。銅コイルは、エポキシ樹脂内に埋め込まれる。これにより、インジェクタを損傷し得る、銅と断熱ハウジングとの間の熱拡散率の差異による膨張や収縮の変動を防止する。さらに、コイルが内部に位置する、インジェクタ本体内のコイル空洞は、コイルの膨張を可能にするように、コイルの物理的空間よりも大きくてもよい。
【0014】
断熱ハウジング140の外側部外の磁気シールド124は、あらゆる浮遊磁界を吸収するように、銅コイルの径方向外側に配置され、磁場と、エンジンのその他の構成部品と、のあらゆる相互作用を防止する。この機能を実現するため、磁気シールド124は、例えば、透磁率が高いなど、適切な磁気性質を有する材料であってもよい。
【0015】
インジェクタ本体を囲む断熱ハウジング140の外側部141は、インジェクタの本体を断熱するが、クーラント液出口104の加熱を可能とするようにインジェクタの底部(クーラント液出口104と先端とを囲む)は先細形状であり、インジェクタの先端で断熱性が低減するように構成される。この加熱は、インジェクタの底部に沿った、例えば、インジェクタの長手軸に沿った温度勾配の形態をとり得る。例えば、インジェクタの先端が最も暖かくなり、インジェクタの長手軸に沿った(頂部に向かった)距離が増大するにつれて、インジェクタが冷たくなってもよい。インジェクタおよび/または断熱ハウジング140が先細形状であることにより、クーラント液出口104から以外の、あらゆる方向からのインジェクタ内への熱の伝達が防止され得る。この構成は、冷却により液相に凝縮されるクーラント液を使用するインジェクタに利用されてもよい。
【0016】
断熱ハウジング140のこの構成は、インジェクタ100外部からインジェクタ100のクーラント液流路118内への熱の伝達を制限する。したがって、クーラント液貯蔵槽からクーラント液入口を通じてインジェクタ100内に流れるクーラントと、インジェクタ100内のクーラント液流路118内のクーラントと、の間の温度変化が制限される。このインジェクタは、スプリットサイクルエンジンのシリンダ内にクーラント液を噴射するために使用されるため、エンジンのシリンダ内に、インジェクタの先端が若干挿入され得る。したがって、インジェクタの先端はシリンダ内の状態にさらされ、結果的に、シリンダからの熱が、インジェクタの先端を通じて、インジェクタ内にある程度伝達される。さらに、インジェクタがシリンダ内に噴射し得るように、シリンダへのインジェクタの取付は、インジェクタの底部の形状も限定し得る。通常、この構成の結果として、インジェクタの先端を通じる以外に、インジェクタ外からクーラント液流路118内に大量の熱が伝達されることはない。
【0017】
冷却により液相に凝縮されたクーラント液用にインジェクタを使用する実施形態においては、クーラントは高熱にさらされると、蒸発して気体になり得る。この相変化は、インジェクタ内部の圧力を大幅に上昇させる。インジェクタ100の断熱ハウジング140の構成は、インジェクタの先端以外に、クーラント液流路118の部位への熱の伝達を制限するため、クーラント液流路118の、インジェクタ先端近傍の箇所以外で、クーラントの加熱および蒸発が生じることはない。したがって、クーラント液流路118内のクーラントの加熱による過圧のリスクが抑えられ、クーラント液入口102に接続されたクーラント液貯蔵槽内のクーラントの加熱による過圧のリスクも抑えられる。さらに、インジェクタの先端を通じた熱伝達は、インジェクタの通常機能を妨げかねない(例えば、クーラント出口104が詰まることによる)、インジェクタ先端での凍結物質蓄積のリスクを抑える。
【0018】
図1図2とに示される例示的なインジェクタの動作を、図4のフローチャートに示される動作方法を参照にして、例示的に説明する。
【0019】
図1では、クーラント液は、クーラント液入口102を介してインジェクタ100内に流入する。クーラント液は、小さな圧力差が駆動手段となる低圧力領域内に存在してもよい。さらに、クーラント液は、インジェクタ100内に入る前にフィルタリングされてもよい。エンジン起動時に、インジェクタ100は、クーラント液よりも高温となる。したがって、初期クーラント液流は、インジェクタを冷却するように作用し、クーラント液の一部が蒸発し得る。このクーラント液は、圧縮シリンダ内で準等温圧縮(quasi-isothermal compression)を実現できるように、圧縮シリンダ内に噴射される。クーラント液は、インジェクタに充填され、クーラント液出口104へと流れ、そこでバルブ閉鎖部材106により遮断される。ばね110は、ドライバ130の移動部131に常に接触し、バルブ閉鎖部材106を第1位置に保持する力を提供する。
【0020】
コントローラは、インジェクタの部品を動作させてもよい。動作させることは、スプリットサイクルエンジンを動作させるマスタコントローラから受信した信号に応じて行われてもよい。動作の例示的形態を、図4を参照して、以下により詳細に説明する。インジェクタは、圧縮シリンダの圧縮行程前、または最中に動作し、準等温圧縮を実現するために、選択された量のクーラント液をシリンダ内に噴射する。マスタコントローラからの制御信号に応じて、コントローラにより、インジェクタのコイルに電圧が供給される。この電圧によるコイル内の電流は、インジェクタ内で磁場を誘導し、その磁場により、ドライバ130の移動部131の磁石が、磁場に蓄積されたエネルギーを最小にするために移動する。
【0021】
図4を参照に以下に説明するように、コントローラは、ドライバ130のパラメータを指示する信号を受信し、この信号を使用して、ドライバ130の抵抗を判定するように構成される。これにより、コントローラは、コイルに印加する電圧を決定できる。この電圧は、ドライバ130の移動部131の磁石の所望の動作を結果としてもたらすような、所望の磁場を発生するように選択される。インジェクタ100の温度の変動とともに、コイルの抵抗も変動する。したがって、コイルに印加する電圧が一定でも、コイルの温度に応じて、異なる様々な電流が生成され得る。そのため、コントローラはバルブ閉鎖部材106の好ましくない移動を防止するように所望の印加電圧を決定し、その印加電圧を制御するように動作可能である。バルブ閉鎖部材106の好ましくない移動の例としては、バルブ閉鎖部材を所望の位置まで移動させるための不十分な電圧印加や、過剰な電圧をかけた結果、バルブ閉鎖部材の移動により損傷が生じることが挙げられ得る。
【0022】
ばね110は、バルブ閉鎖部材106を、クーラント液流路118と一直線上に並ぶインジェクタ100の長手軸に沿って、クーラント液出口104の方向に付勢する。したがって、この反対方向、すなわちクーラント液入口102へのバルブ閉鎖部材106と、ドライバ130の移動部131との移動は、ばね110により抗される。コイルにより発生したばねの付勢力を十分上回る磁場に応じて、ドライバ130の移動部131とバルブ閉鎖部材106とは、ばね110に向かって移動し、クーラント液出口104を囲む断熱ハウジングから離れる。この状態のとき、バルブ閉鎖部材106は、第2位置となる。図2にこの状態を示す。
【0023】
図2は、バルブ閉鎖部材106が第2位置にある、図1のインジェクタを示す。第2位置において、クーラント液は、クーラント液入口102から、クーラント液出口104外へと流れ得る。したがって、インジェクタは、クーラント液がエンジンシリンダ内に流れる、または噴射されることが可能な状態となる。
【0024】
図2では、電流は、ドライバ130の作動部132のコイルを通じて流れ、インジェクタ100内に磁場を発生させている。バルブ閉鎖部材106に機械的に結合された、ドライバ130の一部である磁石は、磁場に蓄積されたエネルギーを最小化するように、ばね110に抗して移動する。これにより、バルブ閉鎖部材106はクーラント液入口102に向かって、クーラント液入口102から離れるように引っ張られ、クーラント液出口104での密閉が解除される。これにより、クーラント液は、クーラント液流路118に沿って流れ、クーラント液出口104から流出可能となる。
【0025】
コイル内の電流は、コントローラからの制御信号に応じて、維持され得る。これは、必要なクーラント液の噴射量に応じて選択可能である。電流が停止すると、バルブ閉鎖部材106は、ばね110により第1位置へと駆動され、圧縮シリンダ内への追加のクーラント液噴射を防止する。このサイクルは、圧縮シリンダの圧縮行程ごとに繰り返すことが可能である。
【0026】
記載の実施形態では、コイルは銅製だが、当業者には、アルミニウム、鉄、またはその他の導電性材料などの別の材料が使用可能であることが明らかであろう。銅は、その高導電性および製造容易性により、より好ましい。
【0027】
インジェクタは幅広い温度範囲で動作する必要があり得るため、インジェクタの材料の選択は重要な検討事項である。このような検討は、材料の熱拡散率と体積弾性率とに基づく材料選択に帰結してきた。インジェクタは、外気温度とクーラント液温度との間で動作する可能性が高い。これらの低温は、液体窒素または液化空気の場合、例えば、77Kとなり得る。インジェクタが噴射する液体と、周辺環境(特に圧縮シリンダ内の圧縮動作流体の温度)との温度差により、材料は、その材料の体積弾性率に応じた分だけ、膨張または収縮し得る。そのため、インジェクタの全ての材料/構成部品が同様の熱膨張係数を有することが望ましい。
【0028】
また、インジェクタの外気温と低温との間の変遷は、構成部品の収縮と膨張との速度の変動を生じ得る。したがって、膨張および収縮の速度が大きくばらつかないことを保証し、熱膨張に差が出ないようにするため、インジェクタの材料/構成部品は、熱拡散率も同様であることが好ましい。
【0029】
インジェクタの磁気シールド124は、例えば、ドライバ130の銅コイルにより生成されるあらゆる磁場などの、インジェクタ内で生成されるあらゆる磁場の、インジェクタの外部環境との相互作用を防止する。動作時において、この外部環境とは、インジェクタ近傍に配置される、別のインジェクタ、またはエンジン構成部材である。磁気シールド124は、磁束がシールド外に広がるのではなく、シールドを通じた磁束として集中するように、高透磁率でもよい。磁気シールド124は断熱ハウジング140の外側部141に配置されているため、磁気シールド124に使用される材料の熱特性は、インジェクタ本体内の材料の熱特性ほど重要ではない。したがって、高透磁率を誇る軟鉄などの材料を磁気シールド124に使用することが好ましくなり得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、クーラント液は、例えば、液化空気、液体窒素、液体酸素、または液化天然ガスなどの、冷却により液相に凝縮された不燃性液体でもよい。これらのような極低温クーラント液の場合、インジェクタの潤滑問題が、重要な検討事項となる。従来の潤滑剤はそのような低温では固化しやすく、液体窒素などのクーラント液の自己潤滑性はインジェクタを潤滑するには不十分となり得る。したがって、クーラント液と接触し得るインジェクタの表面は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの材料で被覆されてもよい。そのような材料による層は、インジェクタ本体の、熱膨張係数などの熱膨張特性が反映されるような、薄膜となることが最適である。
【0031】
前述のクーラント液の温度は、標準温度および圧力(100kPaで273k)などの外気温と大幅に異なる。例えば、液体窒素は、クーラントとして使用され得る。液体窒素の沸点は77Kであるため、液体窒素をクーラントとして使用するとき、クーラント液インジェクタの動作温度は、77K以下となる。ただし、インジェクタはこれよりもかなり高い温度で動作可能である。例えば、エンジン起動時に、クーラント液流路にはクーラント液が流れず、クーラント液流路が外気温まで温められている可能性もある。図4に示され、以下により詳細に説明するフローチャートは、ドライバ130の抵抗(温度変化と共に変化する)を判定する方法を含む。これにより、インジェクタは、温度差を補償し、これら温度差がバルブ閉鎖部材の移動に及ぼし得る影響を制限できるようになる。
【0032】
図1のドライバ130の作動部131のコイルは銅製であるが、これはインジェクタの必須条件ではない。コイルは、鉄、アルミニウム、または金属合金などの低温で安定するあらゆる導電性材料を含み得る。
【0033】
前述のとおり、この材料の選択は、断熱ハウジング140またはインジェクタ本体の材料の熱膨張係数と熱拡散率とに基づいてもよい。各材料の熱拡散率と熱膨張係数とが極めて近ければ、樹脂マトリックスと、コイルを収容するコイル空洞122とは、不要となり得る。
【0034】
ドライバ130が、インジェクタ本体内に、導電性材料のコイルを有さない実施形態も考えられる。例えば、ドライバ130は、磁気カップリングと、バルブ閉鎖部材106を動かすように構成されたレバーと、を有してもよい。例えば、レバーは、レバーの動きによりバルブ閉鎖部材106が動くように、バルブ閉鎖部材106に結合されてもよい。次いで、調整された磁石構成は、レバーを動かし、それによりバルブ閉鎖部材106の位置を制御するように利用されてもよい。例えば、レバーは、第1角度から第2角度に回転することにより、バルブ閉鎖部材106を第1位置から第2位置に動かすように、枢動点を中心に枢動するように構成されてもよい。磁石構成は、レバーを第1角度に維持するように構成された第1磁石またはその他の適切な付勢機構を含んでもよい。磁石構成は、第1磁石の保持力を上回る力を発生させるように作動され得る第2磁石をさらに含んでもよい。したがって、第2磁石を作動させると、レバーが第2角度に駆動される。ドライバ130の磁性部品の1つがバルブ閉鎖部材106に機械的に結合される実施形態では、磁気要素の一方または両方が電磁石でもい。
【0035】
図1において、付勢部材110は、ばね110を含む。当業者であれば当然、その他の圧縮可能材料または可撓性材料や構造を代わりに使用して、付勢手段を実現可能であることが理解されよう。一例として、皿ばねが使用され得て、ねじりばね、またはアキュムレータなどの空圧バッファも使用されよう。さらに、バルブ閉鎖部材に重りを付けて、重力で定位置に保持されるようにしてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、断熱ハウジング140の内側部142は、インジェクタ本体を形成してもよい。別の実施形態では、インジェクタ本体は、断熱ハウジング140の内側部142とは別個の構成部品でもよく、オーステナイト鋼または炭素繊維を含んでもよい。炭素繊維は、その熱特性と軽量性とにより、インジェクタ本体内に使用されることが好ましくなり得る。インジェクタ本体がステンレス鋼材料である場合、インジェクタ本体は、クーラント液流路118内のクーラント液の蒸発を防止するため、断熱層をさらに備えてもよい。
【0037】
いくつかの例では、インジェクタ100は断熱ハウジング140の個別の層を有さなくてもよい。したがってそのような例では、インジェクタの本体がインジェクタの断熱ハウジングを形成してもよい。インジェクタ本体は、インジェクタの断熱性向上のため、断熱空洞120を有してもよい。断熱ハウジングの個別の層を備える例では、断熱ハウジングの層が断熱空洞を含んでもよい。このような断熱空洞120は、インジェクタのハウジング内にあるか、断熱ハウジング内にあるかにかかわらず、周辺大気温度で気体となる材料で充填されてもよい。クーラント液の沸点に近い温度などの動作温度まで冷却されると、この気体の相変化が生じ、断熱空洞120内に低圧環境が生成され得て、断熱性が向上する。クーラント液が液体窒素である場合、動作温度は77K以下となる。したがって、断熱空洞120を標準温度および標準圧力の二酸化炭素で充填すると、結果的に、空洞内は、比較的少量の個体二酸化炭素が含まれ、低圧になる。これは、断熱空洞の容積が、室温と動作温度とにおいて、ほとんど変化しないためである。しかしながら、二酸化炭素は、インジェクタの動作温度(77K以下など)まで冷却されると、収縮および冷凍されて、約195Kで個体を形成する。個体形成により、断熱空洞120内の容積が大幅に低下する。したがって、断熱空洞120が超低圧となる。
【0038】
いくつかの例では、インジェクタは異なる構成を有してもよい。図3は、図1図2とに示されるインジェクタと同様の設計だが、バルブ閉鎖部材106の配置が異なる、例示的なクーラント液インジェクタ300を示す。図3に示される例では、バルブ閉鎖部材106は、第1位置から第2位置に移動する際、インジェクタ本体から外方に抜け出る。したがって、クーラント液がクーラント液出口104から流出可能であるとき、バルブ閉鎖部材106はクーラント液出口104とクーラント液入口102との両方から離れるように移動する。一定量のクーラント液の蒸発により、クーラント液流路118内の圧力が上昇し、バルブ閉鎖部材106に力がかかるため、これがバルブ閉鎖部材106の好ましい構成となり得る。この力は、ばね110の付勢力を上回るため、より高圧のクーラントが圧縮シリンダ内に排出可能となる。したがって、クーラント液噴射システム内での潜在的危険要因である圧力蓄積が防止される。
【0039】
このような異なる構成をインジェクタ内で実現するため、図3に示される例において、付勢部材110がバルブ閉鎖部材106を第1位置に維持するように、ドライバ130の磁石と付勢部材110との位置が変更されている。ドライバ130がバルブ閉鎖部材106を第1位置と第2位置との間で移動させることが可能なように、ドライバ130の移動部131と作動部132との位置が変更されている。
【0040】
クーラント液インジェクタは、貯蔵槽と、貯蔵槽からクーラント液をインジェクタへと駆動する手段と、を有し得るクーラント液システムに接続されることに適している。この種のシステムは、個体汚染物質を除去するため、クーラント液貯蔵部とクーラント液インジェクタとの間にフィルタを使用してもよい。
【0041】
次に、図4を参照して、クーラント噴射制御方法を説明する。
【0042】
図4は、例えば、図1から図3のいずれかのインジェクタで使用されるような、クーラント液の噴射を制御する方法を示すフローチャートである。ステップ1000で、方法が開始する。ステップ1010では、インジェクタ100のドライバ130のパラメータの指示信号が受信される。この受信信号は、ドライバ130に選択された電圧を印加した結果、測定された電流を指示してもよい。ステップ1020では、ドライバ130の抵抗が、受信信号に基づいて判定される。例えば、受信信号が、ドライバ130に選択された電圧を印加した結果、測定された電流を指示する場合、抵抗は、オームの法則を使用して判定されてもよい(V=IR)。
【0043】
ステップ1030では、ドライバ130への電流が、判定された抵抗に基づいて制御される。ドライバへの電流の制御は、ドライバへの電圧の印加を含む。選択された電流がドライバ130に生成されるように、この電圧は、判定された抵抗に基づいて選択される。この電流は、インジェクタ100のバルブ閉鎖部材106を第1位置と第2位置との間で移動させるように選択される。インジェクタは、バルブ閉鎖部材106が第2位置にあるとき、クーラント液をエンジン内に噴射する。
【0044】
実施形態において、ドライバ130は、バルブ閉鎖部材106に磁気結合される。例えば、ドライバ130はコイルを含んでもよく、バルブ閉鎖部材106はコイルに電流が流れることに応じて移動してもよい。コイルを流れる電流は、アンペールの法則に応じた強度を有する磁場を生成する。前述のような磁気結合により、この磁場がバルブ閉鎖部材106を移動させる。生成される磁場の強度は、コイルを流れる電流に比例する。したがって、バルブ閉鎖部材106の移動は、コイルに流れる電流に依る。さらに、バルブ閉鎖部材106の移動の速度および加速度は、コイルに流れる電流の大きさに比例する。
【0045】
図4に示される方法は、バルブ閉鎖部材の動作条件の判定に使用される。動作条件は、ドライバ130に印加される、選択された電圧を含む。この動作条件の判定は、コイルに同一の電圧を選択して印加しても、コイルの抵抗の変化により、電圧印加によりコイルに流れる電流が変化するため、行われる。したがって、バルブ閉鎖部材106を第2位置に動かすためにコイルに印加する必要のある電圧は、コイルの抵抗に応じて、変化する。過大な電圧が印加されると、それにより生じる移動がバルブ閉鎖部材106を損傷し得る。過少な電圧が印加されると、バルブ閉鎖部材106が全く動かない可能性もある。
【0046】
コイルの抵抗は、コイルの温度の変化により変化する。インジェクタ100のコイルは、極低温流体の流路の極近傍または隣接して設けられ得るため、クーラント液流路118内の極低温流体の存在の有無に応じて、大幅な温度変化が生じ得る。例えば、クーラント液流路118に常に極低温流体が供給される場合、ドライバ130の温度は極めて低くなる。しかしながら、ドライバ130が不使用の期間から起動される場合、流体流路内に極低温流体が常に流れている状態ではないことで、外部からインジェクタ100内に伝達された熱により、ドライバ130は温められている可能性がある。特に、インジェクタの先端は、断熱ハウジング140で保護されていない。したがって、インジェクタの先端からクーラント液流路118に沿って、エンジンのシリンダから外気熱が伝達され得る。ドライバ130は、典型的には、クーラント液流路118の近接に配置されるため、クーラント液流路118内からの熱伝導により、熱が伝達され、ドライバ130が熱せられ得る。その結果、ドライバ130の抵抗は、大幅に上昇している可能性がある。そのため、印加する電圧がそれに応じて選択されていないと、例示的な2つの状況において問題が生じ得る。例えば、想定を超える抵抗の場合、インジェクタが開かなくなり、想定を下回る抵抗の場合、急速な開放により、バルブ閉鎖部材106が損傷し得る。
【0047】
ドライバ130への電流制御は、ドライバ103において選択された電流を発生させるように判定された抵抗に基づいて、選択された電圧のドライバ130への印加を含む。選択された電流は、インジェクタと、噴射されるクーラントの所望のレベルと、に応じて選択される。例えば、バルブ閉鎖部材106のあらゆる動きに対して、以下のインジェクタ関連要素が影響し得る。
・バルブ閉鎖部材106の重量により、バルブ閉鎖部材106を第2位置に移動するために必要な力の大きさが決まる。
・移動する必要のある空間量により、印加される最大量の力が決まる。それ以上の力は、行き場のないバルブ閉鎖部材106を損傷する可能性が高い。
・定位置に保持するばね110のばね力により、印加される最小量の力が決まる。それより力が小さいと、バルブ閉鎖部材106が第2位置に移動するために十分なほど、ばねを圧縮できない。
・コイル132の巻数と長さとにより、アンペールの法則に応じて、発生する磁場の強度、即ち、バルブ閉鎖部材を移動させるために印加される力が決まる。
・磁路の相対的透磁率も、アンペールの法則に応じて、印加する力に影響を及ぼす。
・バルブ閉鎖部材106が通過して移動する流体の粘度は、クーラント液流路118内のバルブ閉鎖部材106の移動に対する抵抗に影響する。流体の粘度が高いほど、必要となる力が大きくなる。
【0048】
これらの要素を利用して、バルブ閉鎖部材106の必要な移動を実現するために、コイルに印加すべき電圧が判定可能である。バルブ閉鎖部材106の必要な移動は、通常、シリンダ内に噴射されるクーラントの容積により決まる。通常、クーラントは、圧縮ストローク中にのみシリンダ内に噴射される。したがって、ストロークごとにクーラントが噴射可能な時間は、限られている。噴射されるクーラントの容積は、バルブ閉鎖部材106が第2位置に留まる時間の長さに比例する。大量のクーラントが噴射される場合、バルブ閉鎖部材を可能な限り早く開放することが好ましくなり得る。したがって、バルブ閉鎖部材の所望の動作手順が判定可能となる。このバルブ閉鎖部材106の動作手順は、第1位置から第2位置への移動と、第2位置に留まる時間と、第2位置から第1位置に戻ることと、を含む。
【0049】
この動作手順の各部分に対して、前述の要素を利用して、コイルに印加する電圧を決定してもよい。コイルに印加する電圧、したがって、バルブ閉鎖部材106にかける力は、経時変化し得る。例えば、バルブ閉鎖部材が加速する必要があるため、初期の方が力は大きくなり得る。流体粘度は、加速度に影響を及ぼす。そのため、その粘度を上回るためにさらなる力が必要となり得る。静止状態では、ばねの付勢力に拮抗する一定の力が印加される。また、閉鎖時において、インジェクタの先端の座部に戻るバルブ閉鎖部材の衝撃を和らげるため、小さな力がかけられてもよい。その他の考慮すべき作用としては、コイルに流れている電流に応じて、バルブ閉鎖部材106が移動するスピードが挙げられる。したがって、インジェクタ100が開く速度および距離は、選択された電流に完全に基づいて制御され得る。そのため、バルブ閉鎖部材の損傷を防止するため、バルブ閉鎖部材が第1位置から第2位置に移動する際に、第2位置を超えて移動しないように、選択された電流が制限される。したがって、第2位置は、バルブ閉鎖部材106が別の表面に接触しないように選択され得る。
【0050】
これら要素は、バルブ閉鎖部材106に力がかかると、その移動に影響を及ぼす。また、電流がコイルに流れることに応じて、バルブ閉鎖部材106が受ける力を判定することも好ましい。この力は、アンペールの法則を利用して判定されてもよい。コイルを流れる各種電流のそれぞれに応じたバルブ閉鎖部材106の移動特性は、計算または実験で判定されてもよい。その判定結果は、例えば、インジェクタの一部、またはインジェクタに接続されるコントローラ内のルックアップテーブルに記憶される。方法は、例えば、現在のエンジンの状態に基づいて噴射されるクーラントの量を決定する工程と、次いで、例えば、ルックアップテーブルに基づいてコイルに印加する電圧を決定する工程と、を含んでもよい。これにより、バルブ閉鎖部材106が適切な動作手順に従うように制御され、結果的に、適切な量のクーラントが噴射される。
【0051】
動作時、第2位置は、インジェクタ100のクーラント噴射要件に応じて変化し得る。増加された噴射容量のために、第2位置が第1位置からより離れて配置されてもよく、および/またはバルブ閉鎖部材106が第1位置から第2位置に移動する速度を上げてもよい。バルブ閉鎖部材106が第2位置に到達すると、電流の制御は、バルブ閉鎖部材106が第2位置で静止状態になるような磁場を印加するように設計された電流の選択を含んでもよいことが本開示の内容から理解されよう。同様に、バルブ閉鎖部材106が第2位置から第1位置に移動する場合、コイルに電流を流すことにより、この移動が緩衝されてもよい。したがって、判定した抵抗に基づくドライバ130への電流の制御は、一連の異なる電圧を一定期間ドライバ130に印加し、インジェクタを所望のとおりに開閉する工程と、これにより所望の容量の流体をエンジン内に噴射する工程と、を含んでもよい。
【0052】
いくつかの例では、追加の測定が必要かを判定するステップ1040が含まれる。このステップでの判定は、インジェクタの現在のモードに基づいて行われてもよい。インジェクタに対して、通常モードと可変モードとの2つの動作モードが設定されてもよい。通常モードにおいては、クーラント液流路118を通じたクーラント流は略一定であり、そのため、ドライバ130の温度も略一定に保たれる。したがって、ドライバ130の抵抗は、頻繁に判定される必要はない。したがって、ステップ1040では、動作が通常モードにある場合、すぐに続いて追加の測定が必要となる可能性は低い。可変モードにおいては、インジェクタの温度は、変化し得る。例えば、インジェクタの既知の標準的な動作温度があってもよく、インジェクタがその温度に到達するまでは、可変モードであると判断される。可変モードの場合、ドライバ130の抵抗は、ドライバ130の温度変化に応じて短期間に変化し得る。ステップ1040では、可変モードの場合、バルブ閉鎖部材106にかかる力が確実に適切に保たれるように、追加の測定が必要であると判定され得る。
【0053】
この結果、エンジン動作中の初期段階において、方法は、可変モードとなり、ドライバの抵抗を連続的に、または頻繁に判定し、それに応じて電流を制御することを含んでもよい。エンジンがルーティン動作に移ると、方法は通常モードとなり、インジェクタ内とエンジン内との状態が略一定に維持されると想定され得るため、ドライバの抵抗の判定の頻度を下げてもよい。追加の測定が必要と判定されると、方法はステップ1010に戻り、同じサイクルが繰り返される。追加の測定が必要ないと判定されると、方法は、ステップ1050に進み、終了する。
【0054】
ステップ1010では、エンジンのドライバ130のパラメータの指示信号が、測定された電流である必要はないことが本開示の内容から推察されよう。いくつかの実施形態では、信号は、ドライバ130の温度を指示してもよい。後述のとおり、ドライバの抵抗は、この温度に基づいて推定されてもよい。ステップ1010,1020は、ドライバ130の抵抗が判定され、この抵抗を使用して、コイルに印加する電圧を決定し、それに応じてバルブ閉鎖部材106の移動を制御するように構成されていることが本開示の内容から推察されよう。したがって、ドライバ130の抵抗を判定する、その他の適切な測定システムと方法とを実施されてもよい。例えば、抵抗を直接測定するために、オームメータが使用されてもよい。その場合、ステップ1010で受信する信号は、ドライバ130の抵抗を指示し、したがって、ステップ1020はその抵抗の使用を含んでもよい。
【0055】
図5は、本インジェクタの制御システムの概略図を示す。インジェクタの同様の特徴についての記載には、前述の説明で使用した符号と同じ符号を使用する。図5に示されるインジェクタ100は、図1から図3のいずれかの例示的なインジェクタ100でもよい。
【0056】
システム500は、バルブ閉鎖部材106と、ドライバ130と、ばねとして図示される付勢部材110と、を備える。ドライバ130は、移動部131と作動部132とを備える。さらに、制御システムは、コントローラ210と第1センサ215とを備える。コントローラ210は、ドライバ130に結合され、第1センサ215に接続される。バルブ閉鎖部材106は、一端がドライバ131の移動部に結合される。この一端は、ばね110により弾性的に付勢され、バルブ閉鎖部材106が第1位置に押し付けられる。ばね110と、ドライバ130と、バルブ閉鎖部材106とは、少なくとも部分的にドライバ130内に設けられる。この実施形態では、ドライバ130の作動部132はコイルを有し、ドライバ130はコイルの長手方向に伸びる軸に沿って配置される。
【0057】
コントローラ210は、インジェクタ500の一部でもよく、インジェクタ500とは別個に設けられてもよい。コントローラ210は、第1センサ215とドライバの作動部132とに、任意の適切な手段で接続されてもよい。例えば、これらの間にケーブルが通ってもよいし、無線で信号が送られてもよい。インジェクタ500の残りの構成要素は、インジェクタ本体内に収容される。バルブ閉鎖部材106は、ドライバ130の移動部131と、インジェクタの先端との間に延在する。ドライバ130の移動部131は、ばね110により第1位置に付勢される。第1位置において、ドライバの移動部131は、ドライバ130の作動部132内に配置される。したがって、生成される磁場により、移動部131が作動部132を通じて第2位置に移動する。第2位置は、第1位置よりも、インジェクタ先端から離れている。インジェクタはその長手軸に対しておおよそ対称的であり、ドライバ130の作動部132は環状でその長手軸を囲む。ドライバ130の移動部131と、ばね110と、バルブ閉鎖部材106とはこの長手軸に沿って配置され、バルブ閉鎖部材106は長手軸に沿って第2位置に移動する。
【0058】
ドライバ130の作動部132と、コントローラ210との間の結合は、例えば、電池から電圧がコイルに印加され得るように構成される。第1センサ215は、測定されたドライバ130のパラメータの指示信号を、コントローラ210に送信し得るように、コントローラ210に接続される。例えば、第1センサ215は、ドライバに印加された電圧に応じて測定された電流の指示を、コントローラ210に送信するように構成されたアンペアメータ、または電流を測定するその他の任意の適切な機構でもよい。さらに、ドライバ130は、バルブ閉鎖部材106に磁気結合される。その結果、ドライバのコイルに流れる電流により、バルブ閉鎖部材106が移動する。
【0059】
動作時に、コントローラ210は、第1センサ215からドライバのパラメータの指示信号を受信するように構成される。この信号の受信に応じて、コントローラ210はドライバ130の抵抗を判定するように構成される。この抵抗は、図4に示される方法に関連して記載されたように判定されてもよい。コントローラ210は、第1位置から第2位置にバルブ閉鎖部材106を移動させるように、判定された抵抗に基づいて、ドライバ130に流れる電流を制御するように構成される。ドライバのパラメータの指示信号は、電流を指示してもよい。例えば、コントローラ210は、試験電圧をドライバ130に印加してもよい。その結果、第1センサ215は、試験電流を測定する。第1センサ215はこの電流の指示信号をコントローラ210に送信してもよく、次いで、コントローラ210がドライバ130の抵抗を判定する。したがって、コントローラ210は、ドライバ130に対して、判定された抵抗に基づく電圧を印加し、コイルに所望の電流を生成する。これにより、バルブ閉鎖部材106が第1位置(例えば、図1に示される)から第2位置(例えば、図2に示される)に移動する。
【0060】
図6は、例えば、図5に示されるシステムで使用される、クーラント液噴射制御方法のフローチャートを示す。方法はステップ1100で開始し、ステップ1110に進む。ステップ1110では、インジェクタが噴射する流体に対応する第1パラメータの指示信号を受信する。この信号は、インジェクタ自体に対応する第1パラメータの指示信号を含んでもよく、コイルなどのインジェクタ100の要素の抵抗の測定値を含んでもよい。図4を参照に前述したとおり、抵抗の測定値を含む信号は、インジェクタの要素に電圧を印加した結果、測定された電流の測定値を含んでもよい。
【0061】
この方法は、本明細書に開示された任意のインジェクタに対して使用され得る。抵抗は、インジェクタのドライバ130の測定値に基づいて判定されてもよい。ドライバ130がコイルを備える場合、コイルに電圧を印加し、その結果流れる電流を測定することにより、コイルの抵抗が判定される。オームの法則は低電圧で適用可能であるため、このように抵抗を判定するためには、低電圧のみがコイルに印加される必要がある。高電圧を用いて、すなわち、コイルにより大きな電流を流して抵抗を判定することは、インジェクタのバルブ閉鎖部材の好ましくない移動を生じ得るため、低電圧とすることが好ましい。
【0062】
ステップ1120では、第1パラメータの指示信号の受信に応じて、インジェクタにより噴射される流体に対応する温度が判定される。例えば、信号がコイルの抵抗の測定値を含む場合、この抵抗は、コイルの温度を判定するために使用される。コイルの温度は、通常、コイルがクーラント液流路118の近傍に存在するため、インジェクタ100内のクーラントの温度の妥当な近似値として使用され得る。コイルの温度は、プイエの法則で判定され得る。すなわち、抵抗(「R」)は、抵抗率(「p」)、物質の長さ(「I」)、その断面積(「A」)から以下のとおり求められる。
【0063】
長さと断面積とは、既知の値であるため、プイエの法則は、コイルの抵抗率を判定するために利用され得る。抵抗率と温度との関係は既知であるため、抵抗率から温度(「T」)が得られる。例えば、抵抗率を利用して温度を判定する場合、線形近似が使用され得て、抵抗率(p)は以下のとおり近似される。
p(T)=p[1+a(T-T)]
式中、pは温度Tでの抵抗率であり(これらは単に参照値として利用される)、αは参照パラメータである。したがって、インジェクタにより噴射される流体の温度は、コイルの抵抗を測定した結果として判定されてもよい。ただし、温度計を直接用いた温度の測定など、クーラントの温度を判定するためのあらゆる既知の方法が本発明の範囲内であることが理解されよう。
【0064】
ステップ1130では、流体に対応する第2パラメータの指示信号を受信し、ステップ1140では、この信号の受信に応じて、流体に対応する圧力が判定される。例えば、この信号は単純にインジェクタ100内の圧力センサから受信されてもよいが、クーラントの圧力は、様々な方法で測定および/または判定されてもよいことが理解されよう。例えば、圧力上昇がばね110の圧縮形態の長さの変動を伴うため、インジェクタ100内のばね110が圧力の測定に使用されてもよい。
【0065】
ステップ1150では、流体の冷却能力の指示が判定される。これは、判定されたクーラントの圧力および温度に基づいて、流体の相を判定することを含む。具体的には、クーラントが液相か気相かが判定される。圧力、温度、相が関連付けられたルックアップテーブルに記憶されたデータを使用して判定が行われてもよい。ルックアップテーブルは、インジェクタを制御するコントローラに記憶されてもよく、例えば、コントローラは図5に示されるコントローラ210でもよい。
【0066】
ステップ1160では、クーラントの動作条件を含む、インジェクタの動作条件が判定される。動作条件は、判定されたクーラントの冷却能力に基づいて判定され、クーラントがエンジンシリンダ内の作動流体を冷却する能力を示してもよい。例えば、クーラントの比熱容量はクーラントの相によって異なり、クーラントの動作条件はこれを反映し得る。典型的には、気体の比熱容量は、対応する液体の比熱容量よりも小さく、その液体を加熱すると、液体から気体への相変化に関連する潜熱に基づいて、余分な熱が吸収され得る。したがって、クーラントの動作条件は、クーラントの温度および相に基づき、そのクーラントがエンジンのシリンダ内の作動流体の冷却に使用された際の、クーラントの単位容積あたりの冷却効果を判定するために使用され得る。
【0067】
動作条件の判定は、エンジン要求などの、エンジンパラメータの指示を含む信号の受信と、この指示に基づく動作条件の判定と、を含んでもよい。この指示は、エンジン自体の機能に対応してもよい。指示は、インジェクタによりクーラントが内部に噴射されるように構成されたシリンダの、熱力学的条件を示してもよい。例えば、指示は、エンジン内の作動流体の温度または圧力などの、エンジンパラメータの詳細を含んでもよい。このような詳細は、クーラントの冷却能力を左右し得る。すなわち、クーラントの沸点、さらにシリンダ内におけるクーラントの相は、その周囲圧力に依存するため、その冷却能力は、シリンダ内の圧力に依る。したがって、動作条件は、クーラントのシリンダ自体の内部の空気を冷却する能力を反映する。
【0068】
エンジンがスプリットサイクル内燃エンジンである場合、この指示は、圧力シリンダと燃焼シリンダとの間にあるレキュペレータ内のガスの温度を示してもよい。複数のエンジンパラメータが受信され得て、インジェクタの動作条件を判定する際のパラメータの用途も様々あり得ることが理解されよう。例えば、将来的なクーラント要件の推定を可能にし得る、エンジン要求の指示が受信されてもよい。
【0069】
ステップ1170では、インジェクタは、判定された動作条件に基づいて、エンジンに流体を送るように制御される。クーラント噴射は、クーラントの動作条件、すなわちクーラントの冷却能力の前述の判定に基づいて選択された冷却効果を実現するように制御されてもよい。したがって、噴射されるクーラントの量は可変で、バルブ閉鎖部材を第2位置で開放状態に保つ時間の長さを変更することにより、調整されてもよい。実現すべき冷却レベルに対して特定の要件が設定されている場合、クーラントの動作条件に基づき、その冷却レベル要件実現のために、必要なクーラント噴射量が判定されてもよい。このように、噴射されるクーラントの全体的な冷却効果は、エンジン要求に合わせられる。
【0070】
ステップ1180では、動作条件に追加の判定が必要か否かを判定する。方法は、必要な場合、ステップ1110に戻り、不要な場合、ステップ1190に進み、終了する。ステップ1180は、次の判定が必要か否かの判定を含んでもよい。例えば、起動時には追加の判定の必要性は頻繁に生じ得るが、通常動作に入ると、その頻度は下がり得る。
【0071】
一例として、エンジンに生じ得るいくつかの典型的な状態に関して、この方法の適用を説明する。さらに、そのような状態で、インジェクタがいかに制御され得るかに関して説明する。
【0072】
ンジンが作動していない状態では、通常動作時よりもかなり低温になり得るため、エンジンの起動時、冷却レベル要件は、通常動作時と異なり得る。したがって、この方法において、エンジンのシリンダ内の作動流体は既に十分冷えており、冷却が不要であり得るため、起動時には、クーラントを過度に噴射しないように判定することが好ましい。これは、エンジンパラメータの指示を含む信号の受信に関連して判定されてもよい。例えば、エンジンパラメータが温度を含む場合、エンジンが起動モードにあると判断でき、または少なくともそのタイミングでエンジンに一切クーラントは必要ないと判定できる。別の例では、タイマーを利用して、エンジンが起動直後であり、低温である可能性が高く、必要なクーラント量は少ないことが判定され得る。
【0073】
熱力学第零法則により、インジェクタは、周辺と熱平衡をとる傾向にある。周辺とは、インジェクタ100が圧縮シリンダの近接に存在することから、通常、エンジンのシリンダとなる。使用される材料の性質と、インジェクタのエンジンシリンダに対する組付けにより、インジェクタの出口を介して、さらにクーラント液流路に沿って、ある程度の熱が常に伝導される。通常動作時、クーラント液流路が、そこに沿って供給されるクーラントで常に冷却されているため、熱の伝導範囲は、そこまで大きくは広がらない。しかしながら、エンジン停止中は、同様のクーラント流は生じず、時間が経つとある程度の熱が液体流路に沿って進行し得る。したがって、エンジン起動時には、出口から貯蔵槽までの全体にガスが存在するなど、通常時よりも大量のガスが存在し得る。
【0074】
インジェクタ100のクーラント液流路118内の流体ではなくガスの蓄積は、本方法のステップ1150で特定され得る。同ステップでは、インジェクタ内のクーラントの相はガスと判定され、温度が通常よりも高いと判定され得る。この方法では、起動時にはエンジンがより低温で、必要なクーラントが少ないと判定され得る。ただし、この方法は、初期状態で、インジェクタ内のガスが温まり、冷却効果が薄れるため、クーラントを噴射させるようにインジェクタを制御することをさらに含んでもよい。したがって、インジェクタは、シリンダに対する冷却効果を大幅に損なうことなく、その内容物の一部を「排出する」ことが可能となり得る。これにより、より温かい空気の噴射が貯蔵槽からより多くのクーラント液をもたらし得て、インジェクタ内のクーラントの相が通常領域に復元し得るため、インジェクタは、必要に応じて通常動作が迅速に再開可能となる状態に移行することが可能となり得る。
【0075】
しかしながら、多少のガスがインジェクタ内に残存してもよい。この状態でインジェクタが動作開始し、クーラント液流路に貯蔵槽からの流体が流れると、クーラント液が気体クーラントの一部を冷却、凝縮するため、このガスの一部の相が変化し得る。前述のとおり、クーラント液は、気体クーラントよりもかなり多くの熱を吸収し得る。したがって、インジェクタの動作条件判定には、クーラントの相を把握することが重要である。そのため、ステップ1180では、特に起動時に、クーラントの相をより正確に把握できることを保証するために、より頻繁に相判定が繰り返されてもよい。
【0076】
エンジンの通常動作時、全体の相が略一定に維持されるような平衡状態が実現され得る。例えば、エンジンの通常動作時、シリンダは高温となる可能性が高く、クーラント液出口が大きな熱源の近傍となり得る。そのため、クーラント液出口104を介して、クーラント液流路118に沿って、ある程度の伝導が予想される。これにより、出口近くでガスが確認され、より入口側で流体が確認されるなど、クーラント相の局地的変動が生じ得る。この気体と流体とは一定のバランスとなり得るため、クーラントの冷却能力を高頻度で判定する必要はなくなり得る。
【0077】
いくつかの例では、図5を参照して前述した制御システムは、第2センサ220を備える。第2センサ220は、コントローラ210に接続されてもよく、図7のシステム700では、バルブ閉鎖部材106の一部に設けられているように図示されている。この図示は例示的なものに過ぎない。第2センサ220は、コントローラ210によるインジェクタ内のクーラントの圧力の判定に供される、クーラントのパラメータを測定するように構成される限り、インジェクタまたはエンジン全体のいかなる場所に設けられてもよい。
【0078】
動作時、コントローラ210は、第1センサ215からインジェクタの第1パラメータを指示する第1信号を受信するように構成される。第1信号の受信に応じて、コントローラ210は、インジェクタ内のクーラントの温度を判定するように構成される。この温度は、図6の方法に関して前述したとおり、抵抗の測定値を利用して判定され得る。コントローラ210はさらに、第2センサ220からインジェクタの第2パラメータを指示する第2信号を受信するように構成される。コントローラ210は、第2信号の受信に応じて、インジェクタ内のクーラントの圧力を判定するように構成される。コントローラは、これら2つの判定に基づき、インジェクタ内の流体の冷却能力の指示を判定するように構成される。この判定は、クーラントの相の判定と、この判定された冷却能力を使用した、インジェクタの動作条件の判定と、を含む。判定した動作条件に基づいて、図5のコントローラに関して前述したとおり、コントローラ210は、バルブ閉鎖部材106の移動を制御して、第1位置から第2位置に移動させる。
【0079】
前述の方法は、関連する方法のステップを実行するように構成され得る前述のコントローラを提供することにより、実施されてもよい。これにより、コントローラは、インジェクタアセンブリの一部として提供されてもよい。あるいは、前述の方法のステップを実行するように構成されたコントローラは、インジェクタ100が設けられるエンジンアセンブリの一部として提供されてもよい。
【0080】
前述の方法をそれぞれ個別に説明したが、それぞれの方法の要素は、本開示の範囲内で組み合わされてもよいことが理解されよう。システムの熱力学特性/パラメータを測定または判定する複数の方法を説明したが、これらに限られるわけではない。本開示の文脈において、システムの所望の特性/パラメータを判定する任意の好適な方法が本開示の範囲に該当し得ることが理解されよう。例えば、値を算出するために数式を用いる代わりに、ルックアップテーブルを使用して、ある測定値または特性が、対応する別の特性または値と同等である(例えば、測定された抵抗率とその温度の関連)と見なしてもよい。
【0081】
図面全体を参照し、本明細書に記載のシステムと装置との機能性を示すために概略的な機能ブロック図が使用されていることが明白であろう。ただし、この機能性が図示のとおりに分割される必要はなく、記載された、または以下に請求されたもの以外のハードウェアのいかなる特定の構造をも意味するものであると解されるべきではないことが明白であろう。図示された1つ以上の要素の機能は、本開示の装置全体を通してさらに分割および/または分配されてもよい。いくつかの実施形態では、図示された1つ以上の要素の機能は、1つの機能体に統合されてもよい。
【0082】
いくつかの例では、1つ以上のメモリ要素は、本明細書に記載の動作を実行するために使用されるデータおよび/またはプログラム命令を格納することができる。本開示の実施形態は、プロセッサをプログラミングし、本明細書および/または請求項に記載の1つ以上の方法を実行させるように、および/または本明細書および/または請求項に記載のデータ処理装置を提供させるように動作可能なプログラム命令を含む、有形の非一時的記憶媒体を提供する。
【0083】
本明細書に概略説明された動作や装置は、論理ゲートのアセンブリなどの固定論理、またはプロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令などのプログラマブルロジックを用いて実施されてもよい。プログラマブルロジックのその他の例として、プログラマブルプロセッサ、プログラマブルデジタル論理(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM))、特定用途向け集積回路ASIC、またはその他の任意の種類のデジタルロジック、ソフトウェア、コード、電子的命令、フラッシュメモリ、光学ディスク、CD-ROM、DVD ROM、磁気または光学カード、電子的命令の格納に適したその他の種類の機械読取可能媒体、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0084】
前述の説明から、図面に示される実施形態は、単なる例示であり、本明細書に記載され特許請求の範囲に示されるように、一般化、省略、または代用され得る特徴を包含することが理解されよう。本開示の文脈において、本明細書に記載された装置と方法との他の例や変形例が当業者には自明であろう。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7