(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】MHC多量体のバーコード標識による抗原認識の判定
(51)【国際特許分類】
C07K 14/74 20060101AFI20230501BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20230501BHJP
C12N 15/00 20060101ALI20230501BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230501BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230501BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20230501BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230501BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230501BHJP
【FI】
C07K14/74 ZNA
C07K14/725
C12N15/00
C12N15/12
C12Q1/02
C12Q1/6874 Z
G01N33/68
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2020043059
(22)【出願日】2020-03-12
(62)【分割の表示】P 2017516031の分割
【原出願日】2015-06-08
【審査請求日】2020-04-07
(32)【優先日】2014-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】516365563
【氏名又は名称】ヘアレウ ホスピタル
(73)【特許権者】
【識別番号】516365138
【氏名又は名称】イムデックス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】レーカー ハドラップ,シン
(72)【発明者】
【氏名】ペドルセン,ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブセン,ソレン
(72)【発明者】
【氏名】ベンゼン,アマリー カイ
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6956632(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/137737(WO,A1)
【文献】特表2007-525970(JP,A)
【文献】特開2001-158800(JP,A)
【文献】特表2011-518553(JP,A)
【文献】Seneci P.,Encoding techniques for pool libraries of small organic molecules,Journal of Receptors and Signal Transduction,2001年,21(4),409-445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00- 19/00
C12N 15/00- 15/90
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量体主要組織適合複合体(MHC)の異なるサブセットのプールを含む組成物であって、前記多量体MHCの各サブセットが、
主鎖分子と連結された2つ以上の所与のペプチド-MHC分子と、
前記主鎖分子と連結された核酸分子と
を含み、
前記核酸分子が、5’第一プライマー領域と、
10~50超のヌクレオチドの範囲の中央領域(バーコード領域)と、3’第二プライマー領域とを含み、前記バーコードが、前記2つ以上の所与のペプチド-MHC分子に特異的な標識として機能し、
前記主鎖が、1つまたは複数の選択可能な標識をさらに含み、
前記多量体MHCの各サブセットが、T細胞認識に決定的な役割を果たす異なるペプチドと、所与のペプチド-MHC分子に特異的なバーコード領域を含む固有の核酸分子とを含み、
前記核酸分子のプライマー領域は、前記多量体MHCの各サブセットで同一であり、1つのプライマーセットを使用するPCR反応で、多量体MHCのすべてのサブセットにおけるバーコードを同時に増幅させることを可能にし、
前記バーコード領域をPCRにより増幅させ、増幅させたバーコード領域のシーケンシングにより試料中の抗原応答性細胞を検出するための、
組成物。
【請求項2】
前記主鎖分子が、グルカンを含む多糖類、ストレプトアビジンおよびストレプタマー多量体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記2つ以上のMHC分子が、ストレプトアビジン-ビオチン結合を介して、ならびに/あるいは前記MHC重鎖および/または軽鎖(B2M)を介して前記主鎖と結合している;および/または前記核酸分子が、ストレプトアビジン-ビオチン結合を介して前記主鎖と連結している、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多量体MHCが、少なくとも4個のMHC分子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記主鎖分子がデキストランであり、前記多量体MHCが少なくとも8個の所与のMHC-ペプチド分子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記核酸分子が、20~200ヌクレオチドを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記核酸分子が、DNA、RNAおよび/または人工ヌクレオチドを含むか、これよりなるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記MHCが、クラスI MHC、クラスII MHC、およびCD1を含む群より選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記1つまたは複数の選択可能な標識が、蛍光標識、Hisタグ、および金属イオンタグからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記選択可能な標識が、蛍光標識である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも10の異なる多量体MHCのサブセットを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
試料中の1つまたは複数の抗原応答性細胞を検出する方法であって、
i)請求項1~11のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)の異なるサブセットのプールを含む組成物を準備することと、
ii)前記組成物と前記試料とを接触させることと、
iii)抗原応答性細胞の1つもしくは複数の集団を細胞選別または選択する、1つまたは複数のステップと、
iv)前記多量体MHCのそれぞれの前記抗原応答性細胞との結合を検出して、前記多量体MHCの各サブセットに存在する抗原応答性細胞を検出することと
を含み、
前記結合が、
a)前記1つまたは複数の多量体MHCと連結された前記核酸分子のバーコード領域をPCRにより増幅させることと、
b)増幅させた前記バーコード領域のシーケンシングと
によって検出される、方法。
【請求項13】
前記試料が、血液試料、末梢血試料、血液由来試料、組織試料、および体液からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
増幅の前に単一細胞選別の1つまたは複数のステップをさらに含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞選別または選択が、フローサイトメトリー、磁気ビーズによる選択、サイズ排除、勾配遠心分離、カラム吸着およびゲルろ過からなる群より選択される方法を含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
抗原応答性細胞の結合の前記検出が、測定値を、参照レベルと比較することを含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
特異的T細胞の頻度が、バーコード配列のリードの頻度と分取されたT細胞の数とを比較することによって計算される、請求項12~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
単一のT細胞に結合する複数の異なるペプチド-MHC複合体の相対的寄与度が、所与の配列のバーコードリード数によって決定される、請求項12~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記増幅されるバーコード領域のシーケンシングが、ディープシーケンシング、ハイスループットシーケンシングまたは次世代シーケンシングを含む、請求項12~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
所与の選別された単一細胞の抗原特異性が、単一細胞TCRシーケンシングによる1つまたは複数の追加の単一細胞特性と組み合わせて決定される、請求項12~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記増幅されるバーコード標識のシーケンシングにより、所定のTCRの親和性および結合モチーフがさらに決定される、請求項12~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
洗浄および/または遠心分離によって増幅の前に前記組成物と接触した前記試料中の未結合のMHC多量体を除去する、1つまたは複数のステップをさらに含む、請求項12~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
単一試料などの試料中の複数の異なる抗原応答性細胞を検出するための、請求項12~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記抗原応答性細胞がT細胞である、請求項12~23のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸で標識したMHC多量体による抗原認識に関する。
【背景技術】
【0002】
適応免疫系は、免疫細胞と抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、B細胞、単球およびマクロファージ)または標的細胞(例えば、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞または癌細胞)との間の特異的相互作用によって方向付けられる。免疫学の重要な分野では、免疫細胞と標的細胞との間の分子相互作用の理解に関する。
【0003】
特にTリンパ球(T細胞)では、この相互作用は、T細胞受容体(TCR)と主要組織適合複合体(MHC)クラスIまたはクラスIIとの間の結合によって仲介される。MHC分子はペプチドカーゴを有し、このペプチドはT細胞認識に決定的な役割を果たす。1996年にAtmanら(1)が、単一のペプチド-MHC分子を四量体に多量体化することによりペプチド-MHC分子とTCRとの間に十分な結合の強さ(親和力)が得られ、MHC-多量体と結合した蛍光標識によりこの相互作用を明らかすることが可能になることを発見したとき、T細胞認識の理解に劇的な技術的ブレークスルーをみた。このような蛍光標識MHC多量体は(クラスIおよびクラスII分子ともに)現在、T細胞特異性の判定に広く用いられている。例えばフローサイトメトリーまたは顕微鏡検査によってMHC多量体の蛍光を判定することが可能であり、あるいは、この蛍光標識に基づき、例えばフローサイトメトリーまたはビーズによる分取を用いてT細胞を選別することが可能である。しかし、この方法に課される制約として、利用可能な異なる蛍光標識の数に関するものがあり、それには、蛍光標識のそれぞれが問題のペプチド-MHCに特異的な符号としての役割を果たすという理由がある。
【0004】
したがって、この戦略は、T細胞認識の莫大な多様性に十分に見合うものではない。T細胞のうち最も優勢なサブセット(αβTCR T細胞)では、個々のヒトの異なるTCRの数はほぼ107であると推測されている(3)が、考え得る異なるαβTCRの数は約1015であると推定されている(2)。このため、単一試料中に複数の異なるT細胞特異性を検出することを可能にするべく、T細胞判定の複雑度を拡大する試みに多大な努力が積み重ねられてきた。抗原特異的T細胞の多重検出に関する比較的最近の発明には、コードされたMHC多量体の組合せの使用がある。この技術は組合せ蛍光標識法を用いるものであり、最初に公開されたときには単一試料中に28の異なるT細胞集団の検出することが可能であった(4、5)が、のちに新規な機器と重金属標識とを組み合わせることにより拡張され、単一試料中に約100の異なるT細胞集団を検出することが可能になった(6)。
【0005】
いくつかのグループが、いわゆるMHCマイクロアレイを開発しようとしていることから、抗原特異的T細胞応答をより包括的に解析することが可能な新たな技術が必要とされていることが理解される。このようなシステムでは、T細胞特異性を蛍光色素によってコードするのではなく、空間的にコードする(7、8)。MHCマイクロアレイは有望なものではあるものの、広く採用されるには至っておらず、T細胞応答の多重測定、例えばエピトープ同定に価値があることを報告した例はない。
【0006】
上記のことを考えれば、抗原特異的T細胞などの特異的抗原応答性細胞の検出、単離および/または同定の分野にはハイスループットな方法が必要である。
【0007】
さらに、利用可能な試料の量が限られている場合が多いことを考えれば、当該技術分野には、単一試料中に複数種の特異的抗原応答性細胞、例えばT細胞などを検出、単離および/または同定することが可能な方法が必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、免疫細胞の抗原特異性の判定および追跡に核酸バーコードを使用することである。
【0009】
本発明の一態様では、核酸バーコードは、多量体化されてMHC多量体を形成する所与のペプチド-MHC分子に特異的な標識としての役割を果たす。多量体は、MHCクラスI、クラスII、CD1またはその他のMHC様分子からなるものであり得る。したがって、以降、MHC多量体という用語を使用する場合、これにはあらゆるMHC様分子が含まれる。MHC多量体は、異なる主鎖を介したペプチド-MHC分子の多量体化により形成される。多量体には同時にバーコードが結合し、特定のペプチド-MHC複合体に特異的な標識としての役割を果たす。このようにして、最大1000~10,000(または可能性としてさらに多数)の異なるペプチド-MHC多量体を混合し、血液をはじめとする生物学的標本のT細胞と特異的に相互作用させ、未結合のMHC-多量体を洗い流し、DNAバーコードの配列を決定することができる。目的とする細胞集団を選別する場合、バックグラウンドレベルを上回って存在するバーコードの配列により、所与の細胞集団中に存在する抗原応答性細胞を同定するためのフィンガープリントが得られる。各特異的バーコードの配列リード数は特異的T細胞の頻度と相関があり、その頻度は、リードの頻度とT細胞の投入頻度とを比較することによって推定することができる。この戦略により、T細胞認識の理解が広がり得る。
【0010】
DNAバーコードは、抗原特異的T細胞に特異的な標識としての役割を果たし、例えば単一細胞分取、機能解析または表現型評価の後にT細胞の特異性を判定するのに用いることができる。このようにして、抗原特異性と、抗原特異的細胞のT細胞受容体配列(単一細胞シーケンシング法によって明らかにすることができる)ならびに機能および表現型の特徴の両方とを関連付けることができる。
【0011】
さらに、この戦略は、複数の異なる(配列関連)ペプチド-MHC多量体と、各ペプチド-MHC多量体の細胞表面TCRとの結合への相対的寄与度を決定する所与のペプチド-MHC多量体の結合親和力を有する所与のT細胞とを結合させることを可能にし得る。この特徴を適用することにより、オーバーラップするペプチドライブラリーまたはアラニン置換ペプチドライブラリーの使用によって所与のTCRの精密な特異性/コンセンサス認識配列を決定することが可能である。現在用いられているMHC多量体ベースの技術では、このような決定は不可能である。
【0012】
したがって、本発明の一態様は、
主鎖分子によって連結された2つ以上のMHCと、
前記主鎖と連結された少なくとも1つの核酸分子とを含み、
前記核酸分子が、例えばPCRによって増幅されるよう設計された核酸の中央ストレッチ(バーコード領域)を含む、多量体主要組織適合複合体(MHC)に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)のサブセットを含み、MHCの各セットが、T細胞認識に決定的な役割を果たす異なるペプチドと、DNA分子中の固有の「バーコード」領域と有する、組成物に関する。
【0014】
本発明のまた別の態様は、
本発明による組成物と、
核酸分子を増幅させる1つまたは複数のセットのプライマーと
を含む、キット・オブ・パーツ(kit of parts)を提供することである。
【0015】
本発明のまた別の態様は、試料中の抗原応答性細胞を検出する方法であって、
本発明による1つもしくは複数の多量体主要組織適合複合体(MHC)または本発明による組成物を準備することと、
前記多量体MHCと前記試料とを接触させることと、
多量体MHCと前記抗原応答性細胞との結合を検出して、MHCのセットに存在する抗原に応答性の細胞を検出することと
を含み、前記結合が、1つまたは複数のMHCと連結された前記核酸分子のバーコード領域を増幅させることによって検出される、方法を提供することである。
【0016】
さらなる態様は、様々な使用に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】バーコード標識したMHC多量体の作製を示す図である。
【
図2】バーコード標識したMHC多量体のライブラリーの作製を示す図である。
【
図3】単一試料中の抗原応答性細胞の検出を示す図である。
【
図4】抗原特異性(バーコードによって追跡する)と他の特性との関連付けの可能性を示す図である。
【
図5】本発明が実験的に実現可能であることを示す実験データのセットを示す図である。
【
図10】実施例2以降の実験データを示す図である。
【
図11】実施例2以降の実験データを示す図である。
【
図12】実施例2以降の実験データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
これより、本発明を以下でさらに詳細に説明する。
【0019】
定義
本発明をさらに詳細に記載する前に、最初に以下の用語および慣例を定義する。
【0020】
TCR:T細胞受容体
MHC:主要組織適合複合体
多量体MHC:多量体主要組織適合複合体
【0021】
核酸バーコード
この文脈では、核酸バーコードとは、10~50超のヌクレオチドの範囲の固有のオリゴヌクレオチド配列のことである。バーコードには、3’末端と5’末端の増幅配列および中央の固有の配列が共通して存在する。この配列は、シーケンシングによって明らかにすることが可能であるほか、所与の分子に特異的なバーコードとしての役割を果たし得る。
【0022】
シーケンシング
この態様では、シーケンシングは、例えば、増幅されたバーコード(PCR産物)のシーケンシングを多数回反復(総リード数が例えば100,000リード)するディープシーケンシングまたは次世代シーケンシングにも関連することが理解される。いずれのDNAバーコードもほぼ同じ増幅特性を有するため、個々のバーコード配列のリード数はその増幅産物中の存在量と関係があり、それはさらに、増幅前の存在量を表す。したがって、総リード数に対する特定のバーコード配列のリード数は、被験試料中の抗原応答性細胞の存在と相関する。
【0023】
ここで、本発明についてさらに詳細に述べれば、ペプチド-MHC分子、核酸(DNA)バーコードおよび(任意選択の)蛍光標識を組み立てて、それぞれが含まれる所与のペプチド-MHC分子に特異的なDNAバーコードを有するMHC多量体のライブラリーを形成する方法を
図1に記載する。
図1Aのバーコードは、DNAシーケンシングによって決定され得る固有の配列を有するよう設計されている。このほか、バーコードには、PCR反応で全DNAバーコードを同時に増幅させることを可能にする増幅末端が共通で存在する。DNAバーコードは(例えば、多量体主鎖上のストレプトアビジンに結合するビオチンリンカーを介して)MHC-多量体化主鎖と結合させる。
図1Bは多量体主鎖を表す。これは、高分子の多量体化を可能にするものであればどのような主鎖であってもよい。主鎖は(任意選択で)、ペプチド-MHC多量体の特異性とは無関係に細胞と結合するMHC多量体のプール全体を追跡する蛍光標識(アスタリスクによって示される)を有し得る。
図1Cは、特異的ペプチドカーゴ(水平の線)を有する目的のペプチド-MHC分子を表す。
図1Dは、DNAバーコードを有する組み立てられたペプチド-MHC多量体を表す。
【0024】
多量体主要組織適合複合体(MHC)
本発明の一態様は、
主鎖分子によって連結された2つ以上のMHCと、
前記主鎖と連結された少なくとも1つの核酸分子と
を含み、前記核酸分子が、例えばPCRによって増幅されるよう設計された核酸の中央ストレッチ(バーコード領域)を含む、多量体主要組織適合複合体(MHC)に関する。
【0025】
様々な種類の主鎖を用い得る。したがって、一実施形態では、主鎖分子は、多糖類、例えばデキストランなどのグルカンなど、ストレプトアビジンまたはストレプトアビジン多量体からなる群より選択される。当業者であれば、その他の代替的主鎖を見出し得る。
【0026】
MHCは、様々な手段によって主鎖と結合させ得る。したがって、一実施形態では、MHCは、ストレプトアビジン-ビオチン結合またはストレプトアビジン-アビジン結合を介して主鎖と結合させ得る。同じく、その他の部分を用いてもよい。特異的結合は、特異的結合点を用いるものであり得る。別の実施形態では、MHCは、MHC重鎖を介して主鎖と連結される。
MHCは様々な要素からなるものであり、その一部は細胞系で発現および精製され得るもの(例えば、MHC重鎖およびβ-2-ミクログロブリン要素など)である。あるいは、諸要素を化学的に合成してもよい。特異的ペプチドは化学的に合成するのが好ましい。
【0027】
安定なMHC(複合体)を作製するには3つの要素がいずれも必要である。したがって、一実施形態では、MHCを人為的に組み立てる。
【0028】
多量体MHCは、様々な数のMHCを含み得る。したがって、さらなる実施形態では、多量体主要組織適合複合体(MHC)は、少なくとも4個のMHC、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも10個、2~30個、2~20個、例えば2~10個または例えば4~10個などのMHCからなる。
【0029】
核酸成分(好ましくはDNA)は特殊な構造を有する。したがって、一実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、少なくとも5’第一プライマー領域と、中央領域(バーコード領域)と、3’第二プライマー領域とからなる。このようにして、中央領域(バーコード領域)をプライマーセットにより増幅させることができる。核酸分子の長さも様々であり得る。したがって、別の実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、20~100ヌクレオチド、例えば30~100ヌクレオチド、例えば30~80ヌクレオチド、例えば30~50ヌクレオチドなどの範囲の長さを有する。核酸分子と主鎖との結合も様々なものであり得る。したがって、さらなる実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、ストレプトアビジン-ビオチン結合および/またはストレプトアビジン-アビジン結合を介して前記主鎖と連結される。これ以外の結合部分を用いてもよい。
【0030】
さらなる実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、DNA、RNAおよび/または人工ヌクレオチド、例えばPLAもしくはLNAなどを含むか、これよりなるものである。DNAが好ましいが、例えば安定性を増大させるため、DNA以外のヌクレオチドを含んでもよい。
【0031】
様々な種類のMHCが多量体の一部を形成し得る。したがって、一実施形態では、MHCは、クラスI MHC、クラスII MHC、CD1またはMHC様分子からなる群より選択される。MHCクラスIでは、提示ペプチドは9~11量体ペプチドであり;MHCクラスIIでは、提示ペプチドは12~18量体ペプチドである。代替的MHC分子では、それは提示される脂質または糖分子のフラグメントであり得る。
【0032】
このほか、(細胞の)試料とインキュベートする場合に結合多量体のプール全体を決定することが可能であれば有利であると思われる。したがって、好ましい実施形態では、主鎖は、1つまたは複数の連結された蛍光標識をさらに含む。このような結合を有することにより、より優れた定量化を実施することが可能となる。同様に、細胞分取に標識を用いてもよい。
【0033】
組成物
図2に完全なバーコードライブラリーの作製を示す。
図2Aのこのライブラリーは、1000を超える可能性のある多数の異なるペプチド-MHC多量体であって、それぞれが特異的DNAバーコードを有するペプチド-MHC多量体からなる。したがって、それぞれが特異的バーコードを有する数千の異なる特異性の混合物が可能になるまで、バーコード番号1はペプチド-MHC複合体番号1をコードし、バーコード番号2はペプチド-MHC複合体番号2をコードし、バーコード番号3はペプチド-MHC複合体番号3をコードするなどとなる。
図2Bは最終試薬を表し、この試薬は、それぞれが各ペプチド-MHC特異性の標識として特異的DNAバーコードを有する多数の異なるMHC-多量体の混合物である。
【0034】
既に述べたように、異なるセットの多量体主要組織適合複合体(MHC)のプール(ライブラリー)を用いて、細胞集団全体のペプチドに対する特異性を解析し得る。したがって、本発明の別の態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)のサブセットを含み、MHCの各セットが、T細胞認識に決定的な役割を果たす異なるペプチドと、DNA分子中の固有の「バーコード」領域とを有する、組成物に関する。この文脈では、特異的多量体主要組織適合複合体がそれぞれ一定の数で組成物中に存在し、異なる多量体主要組織適合複合体のサブセットが組成物中に存在することを理解するべきである。
【0035】
各多量体MHCに特異的な領域はいずれも、少数のプライマーセットのみ、好ましくは1つのプライマーセットのみで決定することができるのが好ましい。したがって、一実施形態では、DNA分子中のプライマー領域はMHCの各セットで同一のものである。このようにして、必要なプライマーセットは1つのみとなる。別の実施形態では、多量体MHCを異なるプライマーセットによってグループ分けして、異なる多量体MHCのセットの増殖を可能にする。このようにして、バックグランドノイズが制限されると同時に、特異的結合に関する情報も回収され得る。したがって、異なるMHCのセットに対する異なるライマーセットを用い得る。
【0036】
個々の多量体MHCのセットの数は様々なものであり得る。したがって、一実施形態では、組成物は、少なくとも10の異なる多量体MHCのセット、例えば少なくとも100、例えば少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000など、例えば10~50000、例えば10~1000または例えば50~500の範囲などのMHCのセットを含む。
【0037】
キット・オブ・パーツ(kit of parts)
本発明の組成物はキットの一部を形成し得る。したがって、本発明のさらなる態様は、
本発明による組成物と、
DNA分子を増幅させるための1つまたは複数のプライマーセットと
を含む、キット・オブ・パーツ(kit of parts)に関する。
【0038】
試料中の抗原応答性細胞を検出する方法
図3には、このライブラリーを単一試料中の抗原応答性細胞の染色に用いることができる仕組みが示されている。
図3Aでは、単細胞懸濁液中の細胞(例えば、限定されるわけではないが、末梢血、組織生検をはじめとする体液に由来し得る)と、
図2Bに示されるペプチドライブラリーとを混合する。
図3Bでは、染色後、細胞を順次洗浄し、遠心分離して、細胞表面と結合していない残りのMHC多量体を除去する。フローサイトメトリーをはじめとする細胞分取/選別手段により、特定の細胞集団、例えばT細胞(CD8またはCD4拘束性)、その他の免疫細胞またはMHC多量体特異的結合T細胞を分取し得る。
図3Cでは、細胞集団から単離されたDNAバーコードオリゴヌクレオチド配列をPCRによって増幅させる。
図2Dでは、この増幅産物にディープシーケンシング(10~100,000のリードが得られる)によるシーケンシングを実施する。選別後、標本中の細胞と結合したDNAバーコードはMHC多量体の非特異的結合のバックグランドによる配列よりも高い頻度で現れるため、シーケンシングによってその特異的バーコード配列が明らかになる。任意の非特異的MHC多量体が1/1000の異なるバーコード(ライブラリーの大きさに左右される)とランダムに結合することによって「シグナル対ノイズ」が相殺されるため、通常の多量体染色よりも感度がさらに高くなる。
【0039】
バーコード配列データの解析により、標本中の細胞の抗原特異性を判定することができる。DNAバーコード番号1がバックグランドレベルのリードを上回って検出された場合、それは、ペプチド-MHC多量体番号1が選別された細胞型と優先的に結合したことを意味する。バーコード番号2、3、4、5など、最大で1000を超える可能な組合せ(この特定の数値に限定されるわけではない)についても同じことが言える。投入細胞の数がわかっている場合、例えば、フローサイトメトリーベースの分取をはじめとする捕捉/分取の手段により、目的の細胞集団が同じく多量体と結合した蛍光シグナルを介して捕捉された場合、バーコードリードの頻度と分取されたT細胞の数とを比較して特異的T細胞の頻度を計算することができる。
【0040】
したがって、本発明による多量体MHCおよび/または組成物は、様々な目的で使用し得る。したがって、本発明のまた別の態様は、試料中の抗原応答性細胞を検出する方法であって、
本発明による1つもしくは複数の多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物を準備することと、
前記多量体MHCと前記試料とを接触させることと、
多量体MHCと前記抗原応答性細胞との結合を検出して、MHCのセットに存在する抗原に応答性の細胞を検出することと
を含み、前記結合が、1つまたは複数のMHCと(主鎖を介して)連結された前記核酸分子のバーコード領域を増幅させることによって検出される、方法に関する。
【0041】
一実施形態では、この方法は、(生体)試料を準備することを含む。
【0042】
当業者に公知の通り、未結合分子を除去するのが好ましい。したがって、一実施形態では、増幅前に、例えば洗浄および/または遠心分離の後、例えば上清を除去することにより、未結合(多量体)MHCを除去する。
【0043】
試料の種類も様々なものであり得る。一実施形態では、試料は生体試料である。一実施形態では、試料は、末梢血試料などの血液試料、血液由来試料、組織生検または別の体液、例えば髄液もしくは唾液などである。試料の入手源も様々なものであり得る。したがって、さらなる実施形態では、前記試料は、哺乳動物、例えばヒト、マウス、ブタおよび/またはウマなどから採取されたものである。
【0044】
このほか、細胞を分取することができると有利であり得る。したがって、一実施形態では、この方法は、例えばFACSなどのフローサイトメトリーによる細胞分取をさらに含む。これは例えば、主鎖が蛍光マーカーを備えている場合に実施され得る。したがって、未結合細胞も除去/分取され得る。
【0045】
当業者にも公知である通り、測定値と参照レベルとを比較するのが好ましい。したがって、一実施形態では、前記結合の検出は、測定値と参照レベル、例えば陰性対照および/または試料の総応答レベルとを比較することを含む。さらなる実施形態では、前記増幅はQPCRなどのPCRである。
【0046】
上にも述べた通り、バーコードの検出は、増幅されたバーコード領域のシーケンシングを含む。したがって、一実施形態では、バーコード領域の検出は、ディープシーケンシングまたは次世代シーケンシングなどによる前記バーコード領域のシーケンシングを含む。
【0047】
多量体主要組織適合複合体の使用
この技術を用いて様々な特性と細胞集団の抗原特異性とを関連付けることができる仕組みを
図4に示す。
図4Aは、細胞とバーコード標識したMHC多量体ライブラリーとを結合させた後に特定の刺激に曝露され得る仕組みを示している。この刺激に対する機能的応答(例えば、限定されるわけではないが、サイトカイン分泌、リン酸化、カルシウム放出をはじめとする多数の尺度)に基づいて細胞集団を選別することができる。(
図2の諸段階の後に)応答性または非応答性集団を選別した後、DNAバーコードのシーケンシングを実施して抗原応答性を解読し、所与の応答に関与する抗原特異性を判定することができる。
【0048】
図4Bは、表現型に基づいて細胞を選別し、特定の表現型の特徴のセットと抗原応答性とを関連付けることができる仕組みを示している。
【0049】
図4Cは、MHC多量体に同時に結合させた蛍光標識に基づいて、MHC多量体結合細胞の単一細胞分取が可能であることを示している。単一細胞分取により、所与の細胞の抗原特異性を付随するバーコード標識のシーケンシングにより単一細胞レベルで決定することができる。これを、最近記載されているように(10)同じく単一細胞レベルでシーケンシングが可能なTCRと関連付けることができる。これにより、本発明は、TCR配列をはじめとする単一細胞の特性と抗原特異性との間の関連を提供し、バーコード標識したMHC多量体ライブラリーの使用により数千の異なる特異性の混合物中にある抗原特異的TCRを明らかにすることを可能にし得る。
【0050】
図4Dは、MHC多量体と、所与のT細胞クローンまたはTCR形質導入/トランスフェクト細胞との結合の定量的評価へのバーコード標識したMHC多量体ライブラリーの使用を示している。バーコード標識のシーケンシングにより、同じ細胞集団について複数の異なる標識を同時に判定することが可能であることから、この戦略を用いて、関連するペプチド-MHC多量体のライブラリーに関して所与のTCRの親和力を判定することができる。ライブラリー中の異なるペプチド-MHC多量体それぞれについて、TCR結合の定量的寄与度に基づき、最終リードアウトにおける異なるDNAバーコード配列の相対的寄与度を求める。漸増法に基づく解析により、ペプチド-MHC多量体の大型のライブラリーに関するTCRの定量的結合特性を明らかにすることが可能である。全体を単一試料にまとめる。この特定の目的のために、MHC多量体ライブラリーは、関連するペプチド配列またはアラニン置換ペプチドライブラリーを特異的に有し得る。
【0051】
図5は、DNAバーコードとMHC多量体とを結合させ、T細胞染色後に特異的配列を増幅させることの実現可能性に関する実験データを示している。
図5Aは、末梢血試料中のサイトメガロウイルス(CMV)特異的T細胞の染色を示している。特異的なCMV由来ペプチド-MHC多量体をバーコード(バーコード番号1)で標識し、バーコード(バーコード番号2)で標識した無関係な/非特異的なペプチド-MHC多量体と混合し、998のバーコード標識していない他の非特異的MHC多量体と混合した。このデータは、1000の他のMHC多量体の混合物においてCMV特異的T細胞の染色が実現可能であることを示している。3つの異なる染色プロトコルのデータが示されている。
図5Bは、定量的PCRによる特異的バーコード配列のリードアウトを示している。CMV特異的T細胞を判定するバーコード番号1(B番号1)が3つの染色プロトコルのいずれでも検出されているのに対し、無関係の/非特異的なバーコードシグナルであるバーコード番号2(B番号2)は検出不可能である。
【0052】
全体として、このようなMHCのセットを含む多量体MHCまたは組成物には様々な用途が存在し得る。したがって、一態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物の試料中の抗原応答性細胞検出への使用に関する。
【0053】
別の態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物の疾患または病態、好ましくは癌および/または感染症診断への使用に関する。
【0054】
さらなる態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物の免疫治療剤開発への使用に関する。
【0055】
さらなる態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物のワクチン開発への使用に関する。
【0056】
別の態様は、本発明による多量体主要組織適合複合体(MHC)または組成物のエピトープ同定への使用に関する。
【0057】
まとめると、本発明の利点として、単一試料中に多数(可能性としては、限定されるわけではないが、1000超)の異なる抗原応答性細胞を検出することが可能であることが挙げられる。この技術は、限定されるわけではないが、T細胞エピトープマッピング、免疫認識の発見、診断検査およびワクチン接種または免疫関連療法後の免疫反応性の測定に用いることができる。
【0058】
複雑度がこのレベルになれば、モデル抗原から、生物体全体、ウイルスゲノム、癌ゲノム、全ワクチン成分などをカバーするエピトープ特異的免疫反応性の判定に移行することが可能となる。個々のMHC発現に応じて個別化して改変することが可能であるほか、糖尿病、関節リウマチなどの免疫関連疾患に用いることが可能である。
【0059】
例えば、生物学的材料を分析して、天然の免疫応答、例えば感染症または癌に対して起こり得る免疫応答をモニターする。さらに、ワクチンを含めた免疫療法剤の免疫応答に対する効果について生物学的材料を分析する。ここで用いられる免疫療法剤は、免疫応答の増強、抑制または修正を目的とする医療介入に用いられるワクチン、非特異的免疫刺激剤、免疫抑制剤、細胞ベースの免疫療法剤およびそれらの組合せを含めた活性成分と定義される。
【0060】
本発明は、限定されるわけではないが、診断キットの開発に用いることが可能であり、この場合、任意の生体標本において、所与の疾患に関連する免疫応答のフィンガープリントを明らかにすることができる。このような診断キットを用いて、例えば、限定されるわけではないが結核、インフルエンザおよび糖尿病に関連する細菌もしくはウイルス感染症または自己免疫疾患への曝露を判定することができる。免疫応答性が治療応答のバイオマーカーとしての役割を果たし得る免疫療法剤にも同様の方法を用いることができる。バーコード標識したMHC多量体ライブラリーの解析により、単一試料中の多数の抗原応答性細胞のハイスループットな評価が可能である。
【0061】
さらに、バーコード標識したMHC-多量体を単一細胞分取およびTCRシーケンシングと組み合わせて用いることが可能であり、この場合、同時に結合させたバーコードによってTCRの特異性を判定することができる。これにより、同じ試料から可能性として1000超の異なる抗原応答性T細胞のTCR特異性を同時に同定し、TCR配列と抗原特異性とを一致させることが可能になる。この技術の今後の可能性としては、TCR配列に基づいて抗原応答性を予測する能力に関するものが考えられる。これまでTCRの利用法の変化が免疫療法に結びつけられてきた(11、12)ことから、このことは極めて興味深いものであると思われる。
【0062】
さらに、(例えば、限定されるわけではないが、癌認識と関連させて)標的細胞認識に関与するTCRを特定する必要性が増大しつつある。癌治療へのTCRの使用が成功を収めており(13)、今後、この線に沿った臨床的構想がさらに拡大すると思われる。バーコード標識したMHC多量体ライブラリーの複雑性により、所与の個人の関連するTCRを個別に選択することが可能になると思われる。
【0063】
バーコード配列のリードアウトにより、バーコード標識MHC多量体技術は、単一細胞表面上の複数の異なるペプチド-MHC複合体の相互作用を可能にすると同時に、有効なリードアウトも依然として維持する。1つのT細胞がライブラリー内の多数の異なるペプチド-MHC複合体と結合する場合、所与の配列のリード数によってそのT細胞結合に対する相対的寄与度を求めることができる。この特徴に基づけば、TCRの精密な特異性/コンセンサス配列を決定することが可能である。各TCRは、それぞれが異なる親和性を有する多数の異なるペプチド-MHC複合体を認識できる可能性がある(14)。このような定量的評価の重要性はTCRの臨床使用に伴って増大しており、2例に配列関連ペプチドの交差認識による致命的な心不全が認められた最近の臨床試験の例(15、16)にみるように、知識の不足が致命的な結果を招くことがある。したがって、本発明に関連するペプチド-MHC分子のTCR結合の定量的評価に関するこの特定の特徴は、臨床使用を目標とするTCRの前臨床試験に有効な解決策をもたらし得る。
【0064】
上記のものに関連してほかにも、オーバーラップするライブラリーまたは極めて類似したペプチドに対する抗原応答性の判定が可能になる。組合せコード化原理のような現在の多重化技術では不可能なもの。これにより、例えば、限定されるわけではないがHIVなどのウイルスの変異型に対する免疫反応性のマッピングが可能になる。
概略的な実施形態では、本発明は、単一試料中の多数の抗原応答性細胞のハイスループットな評価、抗原応答性と機能および表現型の特徴、TCR特異性との結びつけならびに大型のペプチド-MHCライブラリーの所与のTCRに対する定量的結合の判定へのバーコード標識したMHC多量体の使用である。
【0065】
上に記載した本発明に関する説明により、当業者は、現時点でその最良の形態であると考えられるものを作製し使用することが可能であるが、本明細書の具体的な実施形態、方法および実施例の変形物、組合せおよび同等物の存在が理解および認識されよう。したがって、本発明は、上記の実施形態、方法および実施例ではなく、本発明の範囲および趣旨に包含されるあらゆる実施形態および方法によって限定されるべきである。
【0066】
本発明のほかの項目:
項目1:単一試料中の異なるT細胞特異性の多重検出へのバーコード標識したMHC多量体の使用であって、可能性として1000超の異なるT細胞特異性の同時検出を可能にし、バーコード標識のシーケンシングによって特異性を明らかにする、使用。
【0067】
項目2:単一細胞分取およびTCRシーケンシングと組み合わせたバーコード標識したMHC多量体の使用であって、同時に結合させたバーコードによってTCRの特異性を判定することができる、使用。これにより、多数(可能性としては、限定されるわけではないが、1000超)の異なるペプチド-MHC多量体の混合物に特異的なTCRを同定し、TCR配列と抗原特異性とを一致させることが可能になる。
【0068】
項目3:所与のTCRの親和性および結合モチーフの決定へのバーコード標識したMHC多量体の使用。バーコード標識戦略により、複数の異なる(配列関連)ペプチド-MHC多量体と、各ペプチド-MHC多量体による相対的寄与度を決定づける結合親和性を有する所与のT細胞とを結合させることが可能になる。これにより、オーバーラップするペプチドライブラリーまたは例えばアラニン置換ライブラリーの使用によって、所与のTCRの精密な特異性/コンセンサス認識配列をマッピングすることが可能である。
【0069】
項目4:同じライブラリー内の配列関連/類似ペプチド、例えばHIV感染における変異による変化に対する抗原応答性のマッピングへのバーコード標識したMHC多量体の使用。これは、これまでのMHC多量体ベースの技術では不可能であった。
【0070】
項目5:特異的T細胞または特異的T細胞のプールの任意の機能的特徴と抗原(ペプチド-MHC)認識との結びつけへのバーコード標識したMHC多量体の使用。例えば、特定の刺激後に、大型のプールの中でどのT細胞特異性がサイトカインを分泌するか、カルシウムを放出するかをはじめとする機能的尺度を決定する。
【0071】
本発明のある態様との関連で記載される実施形態および特徴は、本発明の別の態様にも適用されることに留意するべきである。
本願に引用されるあらゆる特許および特許以外の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
これより、以下の非限定的実施例および項目で本発明をさらに詳細に説明する。
【0073】
項目
1.多量体主要組織適合複合体(MHC)であって、
主鎖分子によって連結された2つ以上のMHCと、
主鎖と連結された少なくとも1つの核酸分子と
を含み、
核酸分子が、例えばPCRによって増幅されるよう設計された核酸の中央ストレッチ(バーコード領域)を含む、
多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0074】
2.主鎖分子が、多糖類、例えばデキストランなどのグルカンなど、ストレプトアビジンまたはストレプトアビジン多量体からなる群より選択される、項目1に記載の多量体主要組織適合複合体。
【0075】
3.MHCが、ストレプトアビジン-ビオチン結合、ストレプトアビジン-アビジンを介して主鎖と結合している、項目1または2に記載の多量体主要組織適合複合体。
【0076】
4.MHCが、MHC重鎖を介して主鎖と連結されている、項目1~3のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体。
【0077】
5.MHCが、人為的に組み立てられたものである、項目1~4のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0078】
6.少なくとも4個のMHC、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも10個、2~30個、2~20個、例えば2~10個または例えば4~10個などのMHCからなる、項目1~5のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0079】
7.少なくとも1つの核酸分子が、少なくとも5’第一プライマー領域と、中央領域(バーコード領域)と、3’第二プライマー領域とからなる、項目1~6のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0080】
8.少なくとも1つの核酸分子が、20~100ヌクレオチド、例えば30~100ヌクレオチド、例えば30~80ヌクレオチド、例えば30~50ヌクレオチドなどの範囲の長さを有する、項目1~7のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0081】
9.少なくとも1つの核酸分子が、ストレプトアビジン-ビオチン結合および/またはストレプトアビジン-アビジン結合を介して前記主鎖と連結されている、項目1~8のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0082】
10.少なくとも1つの核酸分子が、DNA、RNAおよび/または人工ヌクレオチド、例えばPLAもしくはLNAなどを含むか、これよりなるものである、項目1~9のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0083】
11.MHCが、クラスI MHC、クラスII MHC、CD1またはMHC様分子からなる群より選択される、項目1~10のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0084】
12.主鎖が、1つまたは複数の連結された蛍光標識をさらに含む、項目1~11のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)。
【0085】
13.項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)のサブセットを含み、MHCの各セットが、T細胞認識に決定的な役割を果たす異なるペプチドと、DNA分子中の固有の「バーコード」領域とを有する、組成物。
【0086】
14.DNA分子中のプライマー領域が、MHCの各セットで同一である、項目13に記載の組成物。
【0087】
15.少なくとも10の異なるMHCのセット、例えば少なくとも100、例えば少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000、例えば10~50000、例えば10~1000または例えば50~500の範囲などのMHCのセットを含む、項目13または14に記載の組成物。
【0088】
16.項目13~15のいずれかに記載の組成物と、
核酸分子を増幅させるための1つまたは複数のプライマーセットと
を含む、キット・オブ・パーツ(kit of parts)。
【0089】
17.試料中の抗原応答性細胞を検出する方法であって、
項目1~12のいずれかに記載の1つもしくは複数の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~15のいずれかに記載の組成物を準備することと、
前記多量体MHCと前記試料とを接触させることと、
多量体MHCと前記抗原応答性細胞との結合を検出して、MHCのセットに存在する抗原に応答性の細胞を検出することと
を含み、
前記結合が、1つまたは複数のMHCと連結された前記核酸分子のバーコード領域を増幅させることによって検出される、
方法。
【0090】
18.増幅前に、例えば洗浄および/または遠視分離によって、未結合MHCを除去する、項目17に記載の方法。
【0091】
19.試料が、末梢血試料などの血液試料、血液由来試料、組織生検また別の体液、例えば髄液もしくは唾液などである、項目17または18に記載の方法。
【0092】
20.前記試料が、哺乳動物、例えばヒト、マウス、ブタおよび/またはウマなどから採取されたものである、項目17~19のいずれかに記載の方法。
【0093】
21.例えばFACSなどのフローサイトメトリーによる細胞分取をさらに含む、項目17~20のいずれかに記載の方法。
【0094】
22.前記結合の検出が、測定値と参照レベル、例えば陰性対照および/または総応答レベルとを比較することを含む、項目17~21のいずれかに記載の方法。
【0095】
23.前記増幅が、QPCRなどのPCRである、項目17~22のいずれかに記載の方法。
【0096】
24.バーコード領域の検出が、前記領域のシーケンシング、例えばディープシーケンシングまたは次世代シーケンシングなどを含む、項目17~13のいずれかに記載の方法。
【0097】
25.試料中の抗原応答性細胞検出への項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~16のいずれかに記載の組成物の使用。
【0098】
26.疾患または病態、好ましくは癌および/または感染症の診断への項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~16のいずれかに記載の組成物の使用。
【0099】
27.免疫治療剤開発への項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~16のいずれかに記載の組成物の使用。
【0100】
28.ワクチン開発への項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~16のいずれかに記載の組成物の使用。
【0101】
29.エピトープ同定への項目1~12のいずれかに記載の多量体主要組織適合複合体(MHC)または項目13~16のいずれかに記載の組成物の使用。
【0102】
実施例
実施例1
特許請求される本発明の原理証明としての役割を果たす結果を
図5に示す。
図5Aは、健常ドナーの末梢血単核球(PBMC)のフローサイトメトリーのデータである。
【0103】
材料および方法
特異的ヌクレオチド-バーコードと結合したCMV特異的ペプチド-MHC多量体でPBMCを染色した。CMVペプチド-MHC試薬に加え、陰性対照試薬、すなわち、別の特異的バーコード標識と結合したHIV-ペプチドMHC多量体およびバーコードのない追加の陰性対照ペプチド-MHC試薬(p*)の存在下で細胞を染色した(多量体はいずれもPE蛍光標識でさらに標識した)。バックグランド染色が真陽性シグナルに干渉するかどうかの痕跡を得るため、PBMCの染色に用いたMHC多量体の量を1000の異なるペプチド-MHC特異性、すなわち、1×オリゴ標識CMV特異的MHC多量体、1×オリゴ標識HIV特異的MHC多量体および998×非標識p*MHC多量体の染色に必要な量と同じにした。MHC多量体を除去した後、追加の洗浄段階を実施し(0分(A)、30分(B)または60分(C)のいずれか)、全実験のデータを示す。蛍光標識細胞分取(FACS)によりPE-MHC-多量体陽性細胞を分取した。
【0104】
図5Bは、分取されたPE-MHC-多量体陽性細胞のマルチプレックス多重qPCRから得られた交差閾値(Ct)である。QPCRを用いて、バーコード標識したペプチド-MHC-多量体により特定の細胞特異性を検出することが実現可能であるかどうかを評価した。染色時、陽性対照(CMV)バーコードと結合した試薬および陰性対照(HIV)バーコードは存在したが、陰性対照(HIV)バーコード-ペプチド-MHC多量体は洗い流すべきである。
【0105】
核酸配列の例は以下の通りである:
CMV MHC多量体結合用のDNAバーコードオリゴ:
5GAGATACGTTGACCTCGTTGAANNNNNNTCTATCCATTCCATCCAGCTCACTTAAGCTCTTGGTTGCAT
HIV MHC多量体結合用のDNAバーコードオリゴ:
5GAGATACGTTGACCTCGTTGAANNNNNNTCTATAGGTGTCTACTACCTCACTTAAGCTCTTGGTTGCAT
5=ビオチン-TEG。
【0106】
結果
結果は、CMVペプチド-MHC多量体と結合したバーコードのみに検出可能なCt値のみを示しており、HIV-ペプチドMHC多量体と結合したバーコードは検出されなかった。
【0107】
結論
この実験は、他の抗原特異性に関して実施した複数の同様の実験の代表的例である。これらのデータ全体から、以下のことが実現可能であることがわかる:
1)単一試料中の1000の異なるMHC-多量体で染色すると同時に、依然として特異的シグナルを維持すること、
2)DNAバーコードをMHC多量体に結合させること、
3)細胞選別段階の後にDNAバーコードを増幅させること、
4)QPCRにバーコード特異的プローブを用いてバーコードを読み取ること、
5)非特異的MHC多量体のバーコードは検出されないと同時に、試料中に存在する抗原特異的T細胞集団に対応する特異的シグナルを得ること。
【0108】
以上のデータ(および入手可能な同様のデータ)を考え合わせると、
図1、2および3に記載される段階が実現可能であることが証明される。
【0109】
実施例2
この実施例は以下のことに関するものである:
i)本発明の一実施形態で使用するDNAオリゴヌクレオチドの血液標本中での安定性ならびに
ii)特定のタグ化デキストラマー(結合分子がいくつかのペプチド-MHC複合体であり、標識がDNAオリゴヌクレオチドである検出分子)を増加させる本発明の実施形態。被験細胞試料中の特定の細胞(細胞のサブ集団)に対する結合特異性を有するデキストラマーの特定を可能にすること。
【0110】
i)では、T細胞を染色し、洗浄し、単離した後、DNAタグを増幅する時間の間、DNAオリゴがPBMCおよび血液中で操作しても安定であることが示される。
【0111】
ii)は、CMV、インフルエンザおよび陰性対照ペプチドに対するMHC特異性を有するDNAタグ化デキストラマーからなるモデルシステムが、関連するT細胞特異性に局在し、これにより捕捉/分取され得るほか、PCR増幅および/またはシーケンシングによって特定され得ることを示すものである。
【0112】
A.一本鎖および二本鎖オリゴヌクレオチドの血液標本中での安定性
DNAタグオリゴの設計。5’プライマー領域(22nt、黄色)-ランダムバーコード領域(6×N-nt)-コドン領域(21nt、緑色/下線部)-3’プライマー領域(20nt、青色)からなる69ヌクレオチド長のビオチン化被験オリゴを調製した:
【化1】
【化2】
【0113】
T細胞単離に適した条件下でオリゴタグの安定性をQ-PCRにより分析した:
【0114】
被験オリゴ1~6を抗凝固処理EDTA血液中でインキュベートし、インキュベーション後、Q-PCRに上記のプライマーおよびプローブを用いて各被験オリゴの量を求めた。SYBR(登録商標)Green JumpStart(商標)Taq ReadyMix(商標)を製造業者のプロトコルに従い任意のキャピラリーQPCR機器(例えば Roche LightCyclerまたはAgilent Mx3005P)と組み合わせたQPCRによりオリゴタグを定量化した。
【0115】
被験オリゴ1~6は末端が異なるため、これは、非修飾DNAオリゴタグと、HEG修飾5’ならびにHEG修飾5’および3’(それぞれ被験オリゴ-01、-02および-03)とで安定性を比較する試験にもなった。
【0116】
結果を
図6に示す。被験オリゴの安定性はいずれの変異体でも、本発明を実施するのに十分なものであると結論付けられる。
【0117】
B.リンパ系細胞試料中の抗原特異的T細胞をスクリーニングするための3メンバーDNAタグ化MHCデキストラマーライブラリーの作製およびスクリーニング。
この実験では、それぞれが固有の特異性を有する以下の3つのDNAタグ化デキストラマー:
デキストラマー1:インフルエンザ(HLA-A*0201/GILGFVFTL/MP/lnfluenza)
デキストラマー2:CMV(HLA-A*0201/NLVPMVATV/pp65/CMV)
デキストラマー3:陰性(HLA-A*0201/ALIAPVHAV/Neg.Control)
を作製する。
【0118】
したがって、上記のデキストラマーはそれぞれ固有のpMHC特異性を有し(すなわち、3つのデキストラマーは異なる結合分子を有し)、各デキストラマーは、その1つのpMHC特異性に特異的な固有の標識(DNAオリゴヌクレオチド)を有する。
【0119】
抗凝固処理EDTA血液などのリンパ系細胞の標本または末梢血単核細胞(PBMC)の標本でDNAタグ化デキストラマーのライブラリーをスクリーニングする。細胞試料の細胞と結合するデキストラマーは、細胞と結合しないものよりも相対的に増加する。
【0120】
最後に、DNAタグ特異的プローブを用いるQ-PCRまたはDNAタグのシーケンシングによってDNAタグを同定することにより、増加したデキストラマーのMHC/抗原特異性を明らかにする。
【0121】
1.HLA-A
*
0201-ペプチド(pMHC)複合体を有する3つの異なるDNAタグ化デキストラマーの作製。
a.以下のようにpMHC複合体を作製し、個々のpMHC複合体を同定するための固有のDNAタグとともにデキストランと結合させる。
i.インフルエンザ(HLA-A*0201/GILGFVFTL/MP/lnfluenza)、CMV(HLA-A*0201/NLVPMVATV/pp65/CMV)および陰性(HLA*0201/ALIAPVHAV/Neg.Control)を有するDNAタグ化デキストラマーの作製。
1.デキストラマーストックを160ナノモル(nM)とし、被験オリゴストックを500nMに希釈する。160nMデキストラマーストック10マイクロリットル(μL)と500nM被験オリゴストック10μLとを混合する。室温で10分間インキュベートする。所望の特異性のpMHC複合体1.5μgと混合する。PBSまたはトリス(pH7.4)などの中性pH緩衝液で体積を50μLに調整し、4℃で保管する。これにより、デキストラマー1個当たり約3個のオリゴタグと12個のpMHC複合体とをそれぞれ有するDNAタグ化デキストラマーが得られる。
a.Dex-Oligo-03=被験オリゴ-03とHLA-A*0201/NLVPMVATV/pp65/CMVとを有するデキストラマー。
b.Dex-Oligo-04=被験オリゴ-04とHLA-A*0201/GILGFVFTL/MP/lnfluenzaとを有するデキストラマー。
c.Dex-Oligo-05=被験オリゴ-05とHLA-A*0201/ALIAPVHAV/Neg.Controlとを有するデキストラマー。
【0122】
2.抗原特異的T細胞のスクリーニングのための細胞試料の調製。
a.抗原特異的T細胞の特定に適した細胞試料は、リンパ系細胞の標本、例えば末梢血単核細胞(PBMC)または抗凝固処理血液の標本などである。このような細胞試料の標本は、当業者に公知の標準的技術によって調製される。
b.1E7の範囲のリンパ系細胞(PBMCまたはEDTA抗凝固処理血液由来)を12×75mmのポリスチレン試験管に入れる。
c.5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4)2mlを加える。300×gで5分間遠心分離する。上清を除去し、総体積2.5mlの5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4)に細胞を再懸濁させる。
【0123】
3.3つのMHC/ペプチド特異性を有するDNAタグ化デキストラマー(1で得られたもの)のライブラリーの調製および修飾。
a.10μMビオチン5μlと、Dex-Oligo-03、Dex-Oligo-04およびDex-Oligo-05それぞれ10μlとを混合する。
【0124】
4.リンパ系細胞の標本とDNAタグ化MHCデキストラマーのライブラリーとの混合。
a.1E7のリンパ系細胞(2bで得られたもの)2.5mlとDNAタグ化デキストラマーのライブラリー(3aで得られたもの)30μLとを混合する。
b.室温で30分間インキュベートする。
c.300×gで5分間遠心分離し、上清を除去する。
d.5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4)2.5mlにペレットを再懸濁させる。300×gで5分間遠心分離し、上清を除去する。
e.5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4)2.5mlにペレットを再懸濁させる。
【0125】
5.Miltenyi Biotec社のカタログ番号130-090.878のWhole Blood CD8 MicroBeadプロトコルに従って実施する磁気式細胞分取による全CD8+抗原特異的T細胞の捕捉。
a.4eで再懸濁させたリンパ系細胞にWhole Blood CD8 MicroBead(Miltenyi Biotec社、カタログ番号130-090.878)100μLを加える。室温で15分間かき混ぜてCD8+T細胞を捕捉させる。
b.適切なMACS Separatorの磁場にWhole Blood Columnを置く。詳細はWhole Blood Column Kitのデータシートを参照されたい。
c.分離緩衝液(autoMACS Running Bufferまたは5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4))3mlですすぐことによりカラムを調製する。
d.調製したWhole Blood Columnに磁気標識した細胞懸濁液(4e)を加える。未標識細胞を含有する通過画分を収集する。
e.分離緩衝液(autoMACS Running Bufferまたは5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4))3×3mlでWhole Blood Columnを洗浄する。
f.分離器からWhole Blood Columnを取り出し、そこに新たな収集チューブを置く。
g.Whole Blood ColumnにWhole Blood Column Elution Bufferまたは5%ウシ胎児血清を含有するPBS(pH7.4)5mLをピペットで加えることによりCD8+T細胞を捕捉する。直ちにプランジャーをカラムの中に強く押し込むことにより、磁気標識された細胞を洗い流す。
h.300×gで5分間遠心分離し、上清を除去する。収集したCD8+細胞を50μLで再懸濁させ、のちの解析まで-20℃で保管する。
【0126】
6.リンパ系細胞試料の抗原特異的T細胞と有意に結合したデキストラマーの特定。
a.シーケンシングあるいはDNAタグ特異的プローブであるLNA-3、LNA-4およびLNA-5を用いるQPCRによって、入力物(3a)と捕捉された画分(5h)に含まれるDNAオリゴタグの比を定量化することにより、リンパ系細胞試料中の抗原特異的T細胞の相対存在量が明らかになる。
i.DNAタグ特異的プローブであるLNA-3、LNA-4およびLNA-5を用いるQPCRによる入力物(3a)と捕捉された画分(5h)に含まれるDNAオリゴタグの比の定量化。
1.a.DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)
b.DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)
c.10~1E8の被験オリゴ-03、被験オリゴ-04および被験オリゴ-05それぞれの標準曲線
のQPCR反応物25μLを作製する。
2.JumpStart Taq ReadyMix(Sigma-Aldrich社、番号D7440)12.5μlと、順方向-01および逆方向-01それぞれの100μMプライマー0.125μL、10μMのプローブLNA-3、LNA-4またはLNA-5のいずれか0.625μl、参照色素(Sigma-Aldrich社、番号R4526)0.025μlならびにDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)、DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)または10~1E8の被験オリゴ-03、被験オリゴ-04および被験オリゴ-05それぞれの標準曲線のいずれかの入力物12.5μLとを混合する。
3.2段階のQPCR温度プロファイルのサイクル1=95℃で5分間、サイクル2~40=95℃で30秒間および60℃で1分間を実施する。
4.被験オリゴ-03、被験オリゴ-04および被験オリゴ-05それぞれのQPCR標準曲線のQPCサイクル時間(Ct)値のプロットにDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)、DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)のCt値をプロットすることにより、3つのMHCデキストラマーのうちの1つに対する抗原特異性を有するT細胞の相対存在量を推定する。
ii.ウルトラディープシーケンシングによる入力物(3a)と捕捉された画分(5h)に含まれるDNAオリゴタグの比の定量化。
1.a.DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)
b.DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)
のPCR反応物25μLを作製する。
2.任意の標準的なPCRマスターミックスを用いて、PCR反応物と、順方向-01および逆方向-01それぞれの10μMプライマー1.25μLおよびDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)またはDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)のいずれか12.5μLとを混合する。純水で25μLまで満たす。例えば、Taq DNAポリメラーゼ、dNTPs、MgCl2および反応緩衝液を含有するPromega社の2×PCR Master Mixを用いる。
3.上記のPCR産物のウルトラディープシーケンシングは、十分に確立された次世代シーケンシング技術、例えばRoche 454、Ion Torrent、Illumina技術をはじめとするPCRアンプリコンシーケンシングのハイスループットシーケンシング技術などを用いて、例えばEurofins Genomics社、GATC Biotech社またはBeckman Coulter Genomics社などの多数の供給業者によって提供され得る。
4.DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)、DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)の相対存在量のPCRアンプリコン解析により、3つのMHCデキストラマーのうちの1つに対する抗原特異性を有するT細胞の相対存在量が明らかになる。
【0127】
7.予測される結果およびコメント
a.QPCRまたはシーケンシングによって推定されるDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)に含まれるDNAオリゴタグの相対存在量および比は、主として3つのパラメータ、すなわち、i)DNAタグ化デキストラマーの作製時(1.a.i.1)にDNAオリゴタグが供給された比、ii)ライブラリー入力物を混合する方法(3a)、およびiii)PCR反応で個々のDNAオリゴタグが増幅される効率による影響を受けることが予想される。
i.1つの例では、3aで作製されQPCRまたはシーケンシングにより測定されるDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物に含まれるDNAオリゴタグの相対比は、互いに1~10倍になるものと考えられる。
b.QPCRまたはシーケンシングによって推定されるDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)に含まれるDNAオリゴタグの相対存在量および比は、7aに挙げた3つのパラメータに加え、主として3つのほかのパラメータ、すなわち、i)3つのMHC-ペプチドの組合せのうちの1つに対する特異性を有する抗原特異的T細胞の数、ii)所与のMHC-ペプチド複合体に対する所与のT細胞のT細胞受容体の親和性および最後にiii)抗原特異的T細胞およびそれに結合したDNAタグ化MHCデキストラマーを洗浄および細胞捕捉によって未結合のDNAタグ化MHCデキストラマーから分離する効率による影響を受けることが予想される。
i.1つの例では、5hで作製されQPCRまたはシーケンシングにより測定されるDNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物に含まれるDNAオリゴタグの相対比は、リンパ系細胞試料中に抗原特異的T細胞が存在するMHC-ペプチド複合体を有するMHCデキストラマーと結合したDNAオリゴタグが10倍超高くなるものと考えられる。
1.HLA-A*0201/NLVPMVATV/pp65/CMVおよびHLA-A*0201/GILGFVFTL/MP/lnfluenzaに対する抗原特異的T細胞を有し、HLA-A*0201/ALIAPVHAV/Neg.Controlに対する抗原特異的T細胞を有さないインフルエンザ陽性、CMV陽性のHLA-A0201ドナーのリンパ系細胞試料では、被験オリゴ-03(Dex-Oligo-03=被験オリゴ-03とHLA-A*0201/NLVPMVATV/pp65/CMVとを有するデキストラマー)、被験オリゴ-04(Dex-Oligo-04=被験オリゴ-04とHLA-A*0201/GILGFVFTL/MP/lnfluenzaとを有するデキストラマー)および被験オリゴ-05(Dex-Oligo-05=被験オリゴ-05とHLA-A*0201/ALIAPVHAV/Neg.Controlとを有するデキストラマー)の相対比は、被験オリゴ-03および被験オリゴ-04が被験オリゴ-05の10倍超になると予想される。つまり、DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの入力物(3a)に等量供給した場合、被験オリゴ-03および被験オリゴ-04は、DNAタグ化デキストラマーのライブラリーの出力物(5h)のシーケンシングまたはQPCRによる測定で被験オリゴ-05の10倍超の量または頻度でみられると予想される。
【0128】
実施例3
これは、あるCMV陽性HIV陰性ドナーの血液を改変して末梢血単核球(PBMC)を得たものを試料とした実施例である。主鎖は、ストレプトアビジンおよび蛍光色素を有するデキストランコンジュゲート(Immudex社のデキストラマー主鎖)とした。
【0129】
MHC分子は、CMV(陽性抗原)由来ペプチド抗原のまたはHIV(陰性抗原)由来ペプチド抗原のいずれかを提示するペプチド-MHC(pMHC)複合体とした。MHC分子は、MHC分子上にビオチン捕捉タグが生じるようビオチン化により修飾した。MHC分子をHPLCによって精製し、対照T細胞集団を染色する機能的pMHC多量体の形成に関して品質を管理した。
【0130】
オリゴヌクレオチド標識はDNA Technology A/S社(デンマーク)が合成したものである。標識を末端ビオチン捕捉タグで合成的に修飾した。標識は、Aオリゴヌクレオチド(ビオチンで修飾)と部分的に相補的なBオリゴヌクレオチド標識とをアニールさせた後、オリゴAおよびオリゴBをDNAポリメラーゼにより酵素的に伸長させて完全な二本鎖標識を作製することによって得られる組合せオリゴヌクレオチド標識とした。ビオチン化pMHCの形態のMHC分子およびビオチン修飾オリゴヌクレオチドの形態の標識をストレプトアビジン修飾デキストラン主鎖上に結合させることによって、MHC分子を合成した。MHC分子にはさらに、蛍光色素の形態の修飾(5b)を含ませた。異なるpMHCを含む2つの個々のMHC分子が、対応する個々のオリゴヌクレオチド標識によってコードされる、2つの異なるMHC分子を作製した。
【0131】
MHC分子と試料中のT細胞とを結合させる条件下(6c)で、一定量の試料PBMC(1b)を一定量の混合MHC分子(5)とインキュベートした。
【0132】
最初に遠心分離による細胞沈降および洗浄緩衝液での再懸濁によりPBMCの洗浄を数ラウンド実施した後、蛍光色素で標識された細胞の蛍光標示式細胞分取(FACS)を実施することにより、細胞と結合したMHC分子を非細胞結合MHC分子(7)から分離した。MHC分子と効率的に結合することができるT細胞は、MHC分子内に含まれる蛍光色素によって蛍光を発し、MHC分子と結合することができないT細胞は蛍光を発しない。FACS分取によって蛍光細胞が濃縮され、したがって、PBMC試料のT細胞と結合するMHC分子が濃縮される。
【0133】
FACSで単離された細胞を、単離された細胞と結合しているMHC分子に付随するオリゴヌクレオチド標識の定量的PCR解析に供して、試料中に存在するT細胞と結合したMHC分子のアイデンティティーを明らかにした。
【0134】
このように、この実験は、ペプチド-MHC多量体ライブラリー中に含まれるペプチド-MHC分子を認識して結合するT細胞受容体を発現するT細胞が血液中に存在するかどうかを明らかにするものである。
【0135】
1.試料の調製。この実験に用いた細胞試料は、従来のMHC多量体染色による判定でCMV陽性かつHIV陰性のドナーから採血した血液からPBMCを調製することによって得られたものである。
a.試料の取得:Danish Blood Bankから血液を入手した。
b.試料の改変:密度勾配遠心分離により全血から末梢血単核球(PBMC)を単離した。密度勾配媒体であるLymphoprep(Axis-Shield社)は、炭水化物ポリマーと濃ヨウ素化合物とからなり、血液の個々の成分の分離を促進するものである。血液試料をRPMI(RPMI1640、GlutaMAX、25mM Hepes;gibco-Life technologies社)で1:1に希釈し、Lymphoprepの上に慎重に重層した。490gで30分間遠心分離した後、細胞の中間層からPBMCを血小板とともに回収した。単離された細胞であるバフィーコート(BC)をRPMIで2回洗浄し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma-Aldrich社)を含有するウシ胎児血清(FCS;gibco-Life technologies社)中、-150℃で凍結保存した。この実施例に用いたBCをそれぞれのウイルス特異性とともに表6に記載する。これらのウイルス特異性は、従来のMHC多量体染色プロトコルによって明らかにされたものである。
【0136】
2.主鎖の調製:主鎖は、ストレプトアビジンおよび蛍光色素を結合させたデキストラン分子とする。ストレプトアビジンは、ビオチン化オリゴヌクレオチドおよびビオチン化pMHC複合体(MHC分子)の結合部位としての役割を果たす。蛍光色素は、MHC分子と結合した細胞と、MHC分子と結合していない細胞とを分離することを可能にするものである。
a.この実施例では、主鎖は、ストレプトアビジン(主鎖1つ当たり5~10個)およびPE形態の蛍光色素(主鎖1つ当たり2~20個)が共有結合した1000~2000KDaの直鎖状および分岐鎖状デキストラン分子とした。主鎖は実質的には、Immudex社によって記載されているデキストラマー主鎖である。この実施例では、主鎖をSAコンジュゲートとも呼ぶ。
【0137】
3.MHC分子の調製:この実施例に用いたMHC分子は、2つの異なるクラスI MHC-ペプチド複合体であった。MHC重鎖(HLA-A0201およびHLA-B0702)およびB2Mを既に記載されている通りに大腸菌(E.coli)で発現させ(Hadrupら,2009)、それぞれ2つのペプチド抗原とともにリフォールディングさせた。個々の特異性(ペプチド-MHC分子、対立遺伝子およびペプチドの組合せ)を以下の方法で生じさせた。
a.合成:この実施例のMHC分子は、UV条件的9残基ペプチドリガンド(p*)を有する選択されたHLA-I単量体のUV交換により生成した特異的pMHC単量体とした。条件的リガンドをUV光(366nm)に曝露すると、切断されて結合溝が空になる。空になったMHC-I分子は不安定であるため、そのHLAタイプに適合する別のペプチドに置き換わってレスキューされなければ、その複合体は迅速に分解する。このように、過剰の所望のHLAリガンドとp*MHC単量体とを混合することによって特異的pMHC単量体を生成した。p*MHC単量体は、既に記載されている通りにリフォールディングさせ、ビオチン化し、精製した(Hadrupら,2009)。
i.抗原HIVポリメラーゼ由来のHIV由来ペプチドであるILKEPVHGVおよび抗原pp65TPRに由来するCMV由来ペプチドであるTPRVTGGGAM(Pepscan Presto社、オランダ)をリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Lonza社)で希釈し、最終濃度100μg/ml:200μM(HLA-A02:ILKEPVHGVおよびHLA-B07:TPRVTGGGAM)になるまで混合した。混合物を366nmのUV光(UVキャビネット;CAMAG社)に1時間曝露し、任意選択で4℃で最大24時間保管した。
b.改変:それ以上改変は実施しなかった。
c.精製:MHC分子のパネルを細胞に加える前にエッペンドルフチューブに移し、5000gで5分間遠心分離して、溶液中にMHC分子が残らないように沈降させた。
【0138】
4.標識の調製:この実施例では、長さは同じであるが配列が一部異なる2つの異なるオリゴヌクレオチドを作製した。各オリゴヌクレオチドは特異的pMHCと結合し、ひいてはこの特異的pMHCをコードした。オリゴヌクレオチドをビオチン化して、デキストラン-ストレプトアビジンコンジュゲート主鎖と容易に結合するようにした。
a.合成:標識は、DNA Technology社(デンマーク)から購入し凍結乾燥粉末として送付されたDNAオリゴヌクレオチドとした。ヌクレアーゼフリー水で100μMの標識ストック希釈液を作製し、-20℃で保管した。
i.使用した標識は2OS標識システムと命名され、限られた数のオリゴヌクレオチド配列の複雑度を組合せ標識作製戦略により増大させて、より限定された数の標識前駆体から多数の固有の標識が得られるよう開発したものである。2OSと呼ばれるこの戦略では、2つの部分的に相補的なオリゴヌクレオチド配列(AオリゴおよびBオリゴ)のアニーリングとそれに続く伸長によって新たな固有のオリゴヌクレオチド配列を生じさせ、それをDNAオリゴヌクレオチド標識として用いた。例えば、22のいずれも部分的に相補的な固有のオリゴヌクレオチド配列(A標識前駆体)と、55の別の固有のオリゴヌクレオチド配列(B標識前駆体)とを組み合わせることにより、(例えば、表9の100個を有する)1,210の異なる(Ax+By)標識のコンビナトリアルライブラリーが得られた。
1.部分的に相補的なAオリゴヌクレオチドとBオリゴヌクレオチドとをアニールさせて、組み合わさったA+Bオリゴヌクレオチド標識を2つ得た(A1+B1からA1B1が得られ、A2+B2からA2B2が得られた)。AオリゴとBオリゴを表3に記載される通りに混合し、65℃に2分間加熱し、15~30分で35℃未満になるまで徐々に冷却した。次いで、アニールしたAオリゴとBオリゴを表3に記載される通りに伸長させた。伸長反応の構成成分は使用直前に混合した。混合後、反応物を室温で5分間放置し、アニールしたオリゴヌクレオチドを伸長させた。部分的に相補的なオリゴヌクレオチドのアニーリング(左)および伸長(右)に用いた試薬を表3に記載する。イタリック体で示されている試薬は、Sequenase Version 2.0 DNA Sequencing Kit(Affymetrix社、番号70770)のものである。
b.改変:いずれの標識も、0.1%Tweenを含むヌクレアーゼフリー水で作業濃度(640nM)に希釈した。
c.精製:標識の精製はそれ以上実施しなかった。
【0139】
5.MHC分子の調製:必ず所与のpMHCと所与のオリゴヌクレオチドとが結合するように、MHC分子(pMHC)および標識(オリゴヌクレオチド)と主鎖(主鎖、デキストラン-ストレプトアビジン-蛍光色素コンジュゲート)とを結合させてMHC分子を形成した。
a.合成:MHC分子の調製には、主鎖をビオチン化AxBxオリゴの形態の標識で標識した後、pMHCを加えた。
i.主鎖の2倍過剰の標識(標識:主鎖=2:1)を加えることによりMHC分子の作製を実施し、4℃で少なくとも30分間インキュベートした。標識を結合させた後、任意選択で主鎖を4℃で最大24時間保管した。MHC分子、pMHC単量体を結合させる前に、これらを3300gで5分間遠心分離した。表1に従って、コンジュゲートしたストレプトアビジン(SA)および蛍光色素(PE)を有するSAコンジュゲート(デキストラマー主鎖、Immudex社)をプレートに等分した。等分したSAコンジュゲートに沈殿を避けながらMHC分子を加え、室温で30分間インキュベートした。複合体が形成された後、D-ビオチン(Avidity Bio200)を表1に記載されるpMHC単量体の最終濃度になるまでNaN2の0.02%PBS溶液とともに加え、4℃で少なくとも30分間または最大24時間インキュベートした。組み立てたMHC分子を4℃で最大4週間保管した。2つのMHC分子を2組作製した。2つの特異性を有する各組を個々に標識した。標識は、以下に記載するように2つの組の間で逆転させた。
1.1×CMV特異的pMHCと2OS-A1B1とを結合させ、1×HIV特異的pMHCと2OS-A2B2とを結合させた。
2.1×CMV特異的pMHCと2OS-A2B2とを結合させ、1×HIV特異的pMHCと2OS-A1B1とを結合させた。
b.改変:それ以上改変は実施しなかった。
c.精製:MHC分子を試料に加える前に3300gで5分間遠心分離して、溶液中にMHC分子が残らないように沈降させた。
【0140】
6.試料とMHC分子のインキュベーション:細胞試料とMHC分子とを1つの容器内で混合して、MHC分子とそれが認識するT細胞とを結合させた。
a.試料の量:BC形態の1×10E6~2×10E6の細胞を用いた。
b.MHC分子の量:表1に従った。インキュベーション1回当たり、MHC分子(ペプチド-MHC分子)それぞれについて算出された1μg/mlが必要であった。
c.条件:10%ウシ胎児血清(FBS)を含む37℃のRPMI 10ml中でBCを融解させ、490gで5分間遠心分離し、10%FBSを含むRPMI 10mlで2回洗浄した。のちの細胞の洗浄はいずれも、490gで5分間遠心分離した後、上清を除去することを指す。2×10E6の細胞をバーコード緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA/100μg/mlニシンDNA)200μlで洗浄し、染色1回当たり約20μlになるようこの緩衝液に再懸濁させた。細胞をMHC分子とインキュベートする前に、細胞を50nMダサチニブと37℃で30分間インキュベートした(Lissinaら,2009)。MHC分子を細胞に加える前に、3300gで5分間遠心分離した。インキュベーション1回当たり、5つのMHC分子がそれぞれ(pMHC当たり)1μg/ml必要であった。MHC分子を加えた後、細胞を37℃で15分間インキュベートした。表2に記載される抗体混合物を、遊離アミンを染色する近IR生存能色素(Invitrogen社、L10119)0.1μlとともに加えた。抗体染色は、実質的に従来のMHC多量体染色と同じであった。細胞を4℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞をバーコード緩衝液200μlで2回洗浄し、パラホルムアルデヒドの1%リン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Lonza社)溶液200μl中、4℃で一晩インキュベートした。
【0141】
7.所望の特徴を有するMHC分子の濃縮:この実施例では、フローサイトメトリー、より具体的には蛍光標示式細胞分取(FACS)を用いることによってMHC分子を濃縮した。MHC分子は蛍光色素を有する。したがって、MHC分子と結合する細胞は蛍光を発し、FACS分取器を適用することにより、MHC分子と結合しないため蛍光を発しない細胞から分離することができる。その結果、細胞と結合したMHC分子が濃縮される。
a.適用:3つのレーザー(488nm青、633nm赤および405紫)を備えたBD FACSAriaで細胞を分取した。BD FACSDivaソフトウェアバージョン6.1.2を用いてフローサイトメトリーデータの解析を実施した。以下のゲーティング戦略を適用した。FSC/SSCプロットでリンパ球を同定した。単一細胞(FSC-A/FSC-H)、生細胞(近IR生存能色素陰性)およびCD4、CD14、CD16、CD19、CD40陰性(FITC)/CD8陽性細胞(PerCP)に対する追加のゲーティングを用いてCD8T細胞集団を定義した(表2)。MHC分子と結合した細胞は、PerCP陽性集団内にあると定義した。
b.洗浄:フローサイトメトリーによる取得の準備ができた後に細胞をバーコード緩衝液で2回洗浄した。任意選択で、細胞を1%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定し、バーコード緩衝液で2回洗浄した。固定した細胞を4℃で最大1週間保管した。
c.分離:任意選択で、1%パラホルムアルデヒドで固定してから最大で1週間後に細胞を取得した。多量体陽性細胞を7aに記載される通りにFACSによって分取し、分取された細胞に付随するオリゴヌクレオチドの安定性を増大させるために2%BSA溶液で2時間~一晩予め飽和させバーコード緩衝液200μlを入れたチューブに入れた。分取された蛍光色素(PE)陽性細胞を5000gで5分間遠心分離して、余分な緩衝液をすべて除去した。細胞を-80℃で保管した。
【0142】
8.濃縮されたMHC分子の同定:標識(この実施例では、オリゴヌクレオチド標識)を同定することにより、細胞と結合したpMHCを同定することができた。したがって、標識特異的Q-PCRプローブを用いた定量的PCRにより、細胞とともに回収されたMHC分子内に含まれていたオリゴヌクレオチドを解析した。これにより、細胞試料の細胞と結合したpMHCを同定することができた。
a.分取された細胞に由来する標識を表4に記載のQPCRによって解析した。QPCRは以下のキット:Brilliant II QRT_PCR Low ROX Master Mix Kit(Agilent technologies社、番号600837)を用いて実施した。温度プロファイルを表5に記載する。PCRはサーマルサイクラー:Mx3000P qPCRシステム(Agilent Technologies社)で実施した。
【0143】
実施例3の結果および結論
分取およびqPCRの後、得られたCt値から、CMVエピトープと結合した場合にのみ標識を回収し濃縮することに成功し、HIVエピトープと結合した場合には標識は検出されないことが確認された(
図7)。
【0144】
このように、試料中に所与のpMHC分子を認識するT細胞が存在する場合にのみ、細胞との相互作用、分取およびqPCRの後に2OS標識が回収されることが確認された。
【0145】
図7:
陰性対照バーコード標識pMHCデキストラマーにおけるB7 CMV pp65 TPR特異性の検出。1では固有の2OSバーコードを陽性対照試薬と結合させ、2では別の固有の2OSバーコードを陽性対照試薬と結合させた。各実験の予備のバーコードをHIV陰性対照試薬と結合させた。Aは、別個の2OSバーコードを有するCMV pMHC多量体およびHIV pMHC多量体で染色した後のPE陽性集団を示す代表的なドットプロットである。Bは、分取されたPE-pMHC-デキストラマー陽性細胞のマルチプレックスqPCRから得られたCt値である。細胞を1および2でそれぞれ染色した。染色時、陽性対照(CMV)2OSバーコードを結合させた試薬および陰性対照(HIV)2OSバーコードを結合させた試薬は存在したが、陰性対照(HIV)バーコード標識pMHCデキストラマーは明らかに洗い流された。2つの個々の実験から得られた結果は別個のバーで示されている。別個のPCRにそれぞれ約200個の細胞を供した。QPCRは二重反復で実施したものであり、Ct値は二重反復の平均±範囲で示されている。
【0146】
実施例4
これは、あるCMV陽性HIV陰性ドナーの血液を改変して(1b)末梢血単核球(PBMC)を得たものを試料(1)とした実施例である。
【0147】
主鎖(2)は、ストレプトアビジンおよび蛍光色素(Immudex社のデキストラマー主鎖)を有するデキストランコンジュゲートとした。
【0148】
この実施例は実施例1とほぼ同じものであるが、無関係のMHC分子を有するが標識のない1000倍過剰のMHC分子を用いた点が異なっている。使用したMHC分子(3)は、CMV(陽性抗原)由来ペプチド抗原もしくはHIV(陰性抗原)由来ペプチド抗原のいずれかを提示するペプチド-MHC(pMHC)複合体または無関係のペプチド抗原を提示するpMHC複合体である。MHC分子上にビオチン捕捉タグが生じるようにMHC分子をビオチン化により修飾した(3b)。MHC分子をHPLCにより精製した(2c)。標識(4)はオリゴヌクレオチドとした。オリゴヌクレオチドはDNA Technology A/S社(デンマーク)が合成したものである(4a)。標識を末端ビオチン捕捉タグで合成的に修飾した(4b)。
【0149】
ビオチン化pMHCの形態のMHC分子およびビオチン修飾オリゴヌクレオチドの形態の標識をストレプトアビジン修飾デキストラン主鎖上に結合させることによって、MHC分子(5)を合成した(5a)。MHC分子にはさらに、蛍光色素の形態の修飾(5b)を含ませた。3つの異なるMHC分子を作製し、ここでは、これらの個々のMHC分子のうちCMVに対するpMHCおよびHIVに対するpMHCを含む2つのMHC分子が、対応する個々のオリゴヌクレオチド標識によってコードされていた。無関係のMHC分子を有するMHC分子はオリゴヌクレオチド標識でコードされていなかった。MHC分子と試料中のT細胞とを結合させる条件下(6c)で、一定量の試料PBMC(1b)を一定量の混合MHC分子(5)と1:1の比でインキュベートし、さらには1000倍の未標識p*MHC標識主鎖を含めた。
【0150】
最初に遠心分離による細胞沈降および洗浄緩衝液での再懸濁によりPBMCの洗浄を数ラウンド実施した後、蛍光色素で標識された細胞の蛍光標示式細胞分取(FACS)を実施することにより、細胞と結合したMHC分子を非細胞結合MHC分子から分離した(7)。MHC分子と効率的に結合することができるT細胞は、MHC分子内に含まれる蛍光色素によって蛍光を発し、MHC分子と結合することができないT細胞は蛍光を発しない。FACS分取によって蛍光細胞が濃縮され、したがって、PBMC試料のT細胞と結合するMHC分子が濃縮される。
【0151】
FACSで単離された細胞を、単離された細胞と結合しているMHC分子に付随するオリゴヌクレオチド標識の定量的PCR解析に供して、試料中に存在するT細胞と結合したMHC分子のアイデンティティーを明らかにした。
【0152】
このように、この実験から、血液試料中に存在するT細胞のT細胞受容体のペプチド-MHC特異性が明らかになった。さらに、CMV抗原(陽性)に特異的なT細胞をHIV抗原(陰性)に特異的なT細胞および無関係のペプチド抗原を提示する過剰のMHC分子に特異的なT細胞よりも濃縮することが実現可能であることが明らかになった。
【0153】
1.試料の調製。この実験に用いた細胞試料は、従来のMHC多量体染色による判定でCMV陽性かつHIV陰性のドナーから採血した血液からPBMCを調製することによって得られたものである。
a.試料の取得:Danish Blood Bankから血液を入手した。
b.試料の改変:密度勾配遠心分離により全血から末梢血単核球(PBMC)を単離した。密度勾配媒体であるLymphoprep(Axis-Shield社)は、炭水化物ポリマーと濃ヨウ素化合物とからなり、血液の個々の成分の分離を促進するものである。血液試料をRPMI(RPMI1640、GlutaMAX、25mM Hepes;gibco-Life technologies社)で1:1に希釈し、Lymphoprepの上に慎重に重層した。490gで30分間遠心分離した後、細胞の中間層からPBMCを血小板とともに回収した。単離された細胞であるバフィーコート(BC)をRPMIで2回洗浄し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma-Aldrich社)を含有するウシ胎児血清(FCS;gibco-Life technologies社)中、-150℃で凍結保存した。この実施例に用いたBCをそれぞれのウイルス特異性とともに表6に記載する。これらのウイルス特異性は、従来のMHC多量体染色プロトコルによって明らかにされたものである。
【0154】
2.主鎖の調製:この実施例に用いる主鎖は、ストレプトアビジンおよび蛍光色素を結合させたデキストラン分子とする。ストレプトアビジンは、ビオチン化オリゴヌクレオチド(標識)およびビオチン化pMHC複合体(MHC分子)の結合部位としての役割を果たす。蛍光色素は、MHC分子と結合した細胞と、MHC分子と結合していない細胞とを分離することを可能にするものである。
a.この実施例では、主鎖は、ストレプトアビジン(主鎖1つ当たり5~10個)およびPE形態の蛍光色素(主鎖1つ当たり2~20個)が共有結合した1000~2000KDaの直鎖状および分岐鎖状デキストラン分子とした。主鎖は実質的には、Immudex社によって記載されているデキストラマー主鎖である。この実施例では、主鎖をSAコンジュゲートとも呼ぶ。
【0155】
3.MHC分子の調製:この実施例に用いたMHC分子は、2つの異なるクラスI MHC-ペプチド複合体であった。MHC重鎖(HLA-A02およびHLA-B07)およびB2Mを既に記載されている通りに大腸菌(E.coli)で発現させ(Hadrupら,2009)、それぞれ2つのペプチド抗原とともにリフォールディングさせた。個々の特異性(対立遺伝子とエピトープの組合せ)を以下の方法で生じさせた。
a.合成:実験1のA。
i.実験1と同じ。
b.改変:それ以上改変は実施しなかった。
c.精製:実験1と同じ。
【0156】
4.標識の調製:この実施例では、長さは同じであるが配列が一部異なる2つの異なるオリゴヌクレオチドを作製した。各オリゴヌクレオチドは特異的pMHCと結合し、ひいてはこの特異的pMHCをコードする。オリゴヌクレオチドをビオチン化して、デキストラン-ストレプトアビジンコンジュゲート主鎖と容易に結合するようにした。
a.合成:この実施例では、標識は、DNA Technology社(デンマーク)から購入し凍結乾燥粉末として送付されたDNAオリゴヌクレオチドとした。ヌクレアーゼフリー水で100μMの標識ストック希釈液を作製し、-20℃で保管した。
i.実験1と同じ。
ii.部分的に相補的なAオリゴヌクレオチドとBオリゴヌクレオチドとをアニールさせて、組み合わさったA+Bオリゴヌクレオチド標識を2つ得た(A1+B1からA1B1が得られ、A2+B2からA2B2が得られた)。AオリゴとBオリゴを表3に記載される通りに混合し、65℃で2分間加熱し、15~30分で35℃未満になるまで徐々に冷却した。次いで、アニールしたAオリゴとBオリゴを表3に記載される通りに伸長させた。伸長反応の構成成分は使用直前に混合した。混合後、反応物を室温で5分間放置し、アニールしたオリゴヌクレオチドを伸長させた。部分的に相補的なオリゴヌクレオチドのアニーリング(左)および伸長(右)に用いた試薬を表3に記載する。イタリック体で示されている試薬は、Sequenase Version 2.0 DNA Sequencing Kit(Affymetrix社、番号70770)のものである。
b.改変:いずれの標識も、0.1%Tweenを含むヌクレアーゼフリー水で作業濃度(640nM)に希釈した。
c.精製:標識の精製はそれ以上実施しなかった。
5.MHC分子の調製:必ず所与のpMHCと所与のオリゴヌクレオチドとが結合するように、MHC分子(pMHC)および標識(オリゴヌクレオチド)と主鎖(主鎖、デキストラン-ストレプトアビジン-蛍光色素コンジュゲート)とを結合させてMHC分子を形成した。
a.合成:MHC分子の調製には、主鎖をビオチン化AxBxオリゴの形態の標識で標識した後、pMHCを加えた。
i.主鎖の2倍過剰の標識(標識:主鎖=2:1)を加えることによりMHC分子の作製を実施し、4℃で30分間インキュベートした。MHC分子、pMHC単量体を結合させる前に、これらを3300gで5分間遠心分離した。表1に従って、コンジュゲートしたストレプトアビジン(SA)および蛍光色素(PE)を有するSAコンジュゲート(デキストラマー主鎖、Immudex社)をチューブに等分して入れた。等分したSAコンジュゲートに沈殿を避けながらMHC分子を加え、室温で30分間インキュベートした。複合体が形成された後、D-ビオチン(Avidity Bio200)を表1に記載されるpMHC単量体の最終濃度になるまでNaN2の0.02%PBS溶液とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。組み立てたMHC分子を4℃で最大4週間保管した。2つのMHC分子を2組作製した。2つの特異性を有する各組を個々に標識した。標識は、以下に記載するように2つの組の間で逆転させた。
1.iv.1×CMV特異的pMHCと2OS-A1B1とを結合させ、1×HIV特異的pMHCと2OS-A2B2とを結合させた。
2.v.1×CMV特異的pMHCと2OS-A2B2とを結合させ、1×HIV特異的pMHCと2OS-A1B1とを結合させた。
b.改変:それ以上改変は実施しなかった。
c.精製:MHC分子を試料に加える前に5000gで5分間遠心分離して、溶液中にMHC分子が残らないように沈降させた。
【0157】
6.試料とMHC分子のインキュベーション:細胞試料とMHC分子とを1つの容器内で混合して、MHC分子とそれが認識するT細胞とを結合させた。
a.試料の量:BC形態の1×10E6~2×10E6の細胞を用いた。
b.MHC分子の量:表1に従った。インキュベーション1回当たり、各MHC分子が5μl必要であった(pMHCに関しては1μg/ml)。
c.条件:10%ウシ胎児血清(FBS)を含む37℃のRPMI 10ml中でBCを融解させ、1500gで5分間遠心分離し、10%FBSを含むRPMI 10mlで2回洗浄した。のちの細胞の洗浄はいずれも、490gで5分間遠心分離した後、上清を除去することを指す。1×10E6~2×10E6の細胞をバーコード緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA/100μg/mlニシンDNA)で洗浄し、染色1回当たり約20μlになるようこの緩衝液に再懸濁させた。細胞をMHC分子とインキュベートする前に、細胞を50nMダサチニブと37℃で30分間インキュベートした。MHC分子を細胞に加える前に、3300gで5分間遠心分離した。インキュベーション1回当たり、各MHC分子がそれぞれ(pMHC当たり)5μl必要であった(pMHCに関しては1μg/ml)。MHC分子を加えた後、細胞を37℃で15分間インキュベートした。表2に記載される抗体混合物を、遊離アミンを染色する近IR生存能色素(Invitrogen社、L10119)0.1μlとともに加えた。抗体染色は、実質的に従来のMHC多量体染色と同じであった。細胞を4℃で30分間インキュベートした。
【0158】
7.所望の特徴を有するMHC分子の濃縮:この実施例では、フローサイトメトリー、より具体的には蛍光標示式細胞分取器(FACS)を用いることによってMHC分子を濃縮した。MHC分子は蛍光色素を有する。したがって、MHC分子と結合する細胞は蛍光を発し、FACS分取器により、MHC分子と結合しないため蛍光を発しない細胞と分離することができる。その結果、細胞と結合したMHC分子が濃縮される。
a.適用:取得に2つの異なるフローサイトメータを用いた。3つのレーザー(488nm青、633nm赤および405紫)を備えたBD FACSCanto IIおよび5つのレーザーを備えたBD LSR IIサイトメータである。LSR IIのレーザーのうち、この実験全体を通じて使用したのは4つのみである(488nm青色レーザー、640nm赤色レーザー、355nm UVレーザーおよび405nm紫色レーザー)。さらに、3つのレーザー(488nm青、633nm赤および405紫)を備えたBD FACSAriaおよびFACSAria IIで細胞を分取した。フローサイトメトリーデータの解析にはいずれも、BD FACSDivaソフトウェアバージョン6.1.2を用いた。以下のゲーティング戦略を適用した。CD8陽性細胞の最初のゲーティングはいずれも同じように実施した。FSC/SSCプロットでリンパ球を同定した。単一細胞(FSC-A/FSC-H)、生細胞(近IR生存能色素陰性)およびダンプチャネル陰性/CD8陽性細胞(FITC/PerCP)に対する追加のゲーティングを用いてCD8T細胞集団を定義した。
b.洗浄:フローサイトメトリーによる取得の準備ができた後に細胞をバーコード緩衝液で2回洗浄した。任意選択で、細胞を1%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定し、FACS緩衝液またはバーコード緩衝液で2回洗浄した。固定した細胞を4℃で最大1週間保管した。
c.分離:任意選択で、1%パラホルムアルデヒドで固定してから最大1週間後に細胞を取得した。多量体陽性細胞を7aに記載される通りにFACSによって分取し、分取された細胞に付随するオリゴヌクレオチドの安定性を増大させるために、2%BSA溶液で2時間~一晩予め飽和させ、バーコード緩衝液200μlを入れたチューブに入れた。分取された蛍光色素(PE)陽性細胞を5000gで5分間遠心分離して、余分な緩衝液をすべて除去した。細胞を-80℃で保管した。
【0159】
8.濃縮されたMHC分子の同定:標識(この実施例では、オリゴヌクレオチド標識)を同定することにより、細胞と結合したpMHCを同定することができる。したがって、標識特異的Q-PCRプローブを用いた定量的PCRにより、細胞とともに回収されたMHC分子内に含まれていたオリゴヌクレオチドを解析した。これにより、細胞試料の細胞と結合したpMHCを同定することができた。
a.分取された細胞に由来する標識を実験1と同様にQPCRにより解析した。
【0160】
実施例4の結果および結論
分取およびqPCRの後、得られたCt値から、CMVエピトープと結合した場合にのみ標識を回収し濃縮することに成功し、HIVエピトープと結合した場合には標識は検出されないことが確認された(
図8)。
【0161】
陽性対照試薬と結合させた場合にのみ、細胞との相互作用、分取およびqPCRの後に2OS標識が回収されることが確認された。
【0162】
図8
陰性対照バーコード標識pMHCデキストラマーにおけるCMV特異性の検出。1では固有のバーコードを陽性対照試薬と結合させ、2では別の固有のバーコードを陽性対照試薬と結合させた。各実験の予備のバーコードをHIV陰性対照試薬と結合させた。さらに、1、2ともに998×未標識陰性対照試薬が存在する。
【0163】
Aは、分取されたPE-pMHC-デキストラマー陽性細胞のマルチプレックスqPCRから得られたCt値である。細胞を1および2でそれぞれ染色した。染色時、陽性対照(CMV)バーコードを結合させた試薬および陰性対照(HIV)バーコードを結合させた試薬は存在したが、陰性対照(HIV)バーコード標識pMHCデキストラマーは明らかに洗い流された。別個のqPCRでそれぞれ約575個の細胞を解析した。Bは、得られたCt値に対して推定される細胞1個当たりに結合したバーコードの数である。qPCRに存在する細胞の数はいずれも同じであったが、Bに示されるCt値にいくらか差が認められるのは明らかである。しかし、これらの値をその特異的プローブに対して正規化すると、同じレベルになる。QPCRは二重反復で実施したものであり、ここでは、二重反復の平均±範囲が示されている。
【0164】
実施例5
これは、血液を改変して(1b)末梢血単核球(PBMC)を得たものを試料(1)とした実施例である。
【0165】
主鎖(2)は、ストレプトアビジンおよび蛍光色素(Immudex社のデキストラマー主鎖)を有するデキストランコンジュゲートとした。
【0166】
MHC分子(3)は、8~10アミノ酸のペプチド抗原を提示するペプチド-MHC(pMHC)複合体である。MHC分子上にビオチン捕捉タグが生じるようにMHC分子をビオチン化により修飾した(3b)。MHC分子をHPLCにより精製した(2c)。標識(4)はオリゴヌクレオチドとした。オリゴヌクレオチド標識は、DNA Technology A/S社(デンマーク)が合成し(4a)、末端ビオチン捕捉タグで合成的に修飾した(4b)ものである。実施例の一部では、オリゴヌクレオチド標識を部分的に相補的なオリゴヌクレオチド標識とアニールさせることによってさらに修飾し、組み合わさったオリゴヌクレオチド標識にした。
【0167】
ビオチン化pMHCの形態のMHC分子およびビオチン修飾オリゴヌクレオチドの形態の標識をストレプトアビジン修飾デキストラン主鎖(デンマークのImmudex社のデキストラマー主鎖)上に結合させることによって、MHC分子(5)を合成した(5a)。MHC分子にはさらに、蛍光色素の形態の修飾(5b)が含まれている。110の異なるMHC分子からなり、異なるpMHCを含む個々のMHC分子が対応する個々のオリゴヌクレオチド標識によってコードされているライブラリーを作製した。
【0168】
MHC分子と試料中のT細胞とを結合させる条件(例えば、インキュベーション時間、緩衝液、pHおよび温度)下(6c)で、一定量の試料PBMC(1b)を一定量のMHC分子のライブラリー(5)とインキュベートした。
【0169】
最初に遠心分離による細胞沈降および洗浄緩衝液での再懸濁によりPBMCの洗浄を数ラウンド実施した後、蛍光色素で標識された細胞の蛍光標示式細胞分取(FACS)を実施することにより、細胞と結合したMHC分子を非細胞結合MHC分子から分離した(7)。MHC分子と効率的に結合することができるT細胞は、MHC分子内に含まれる蛍光色素によって蛍光を発し、MHC分子と結合することができないT細胞は蛍光を発しない。FACS分取によって蛍光細胞が濃縮され、したがって、PBMC試料のT細胞と結合するMHC分子が濃縮される。
【0170】
FACSで単離された細胞を、細胞と結合しているMHC分子に付随するオリゴヌクレオチド標識のPCR増幅に供した。次いで、PCR反応によって得られた個々のDNAフラグメントのシーケンシングを実施することにより、試料中に存在するT細胞と結合したMHC分子のアイデンティティーを明らかにした。
【0171】
このように、この実験から、血液試料中に存在するT細胞のT細胞受容体のペプチド-MHC特異性が明らかになった。
【0172】
1.試料の調製。この実験に用いた細胞試料は、2例の異なるドナーBC260および171から採血した血液を混合することによって得られたものである(表6)。B0702陰性ドナー試料にB0702 CMV pp65 TPR応答の漸増が得られるように、171でのBC260の5倍希釈、すなわち、5%、1%、0.2%、0.04%、0.008%、0.0016%および0.00032%のB0702 CMV pp65 TPRの特異的細胞の理論的頻度に対応する100%、20%、5%、1%、0.2%、0.04%、0.0125%、0.0025%のBC260を実施した。したがって、この方法の感度およびこの実験で得られた結果の妥当性は、実験終了時、同じ細胞での別の方法を用いて同時に得られたデータと比較することにより評価することができた。
a.試料の取得:Danish Blood Bankから血液を入手した。
b.試料の改変:
i.実験1と同じ。
ii.上記の2つの血液試料を混合した。
【0173】
2.主鎖の調製:実験1と同じ。
【0174】
3.MHC分子の調製:この実施例に用いたMHC分子はクラスI MHC-ペプチド複合体であった。個々の特異性(対立遺伝子とエピトープの組合せ)を実験1に記載される通りに生じさせた。ここでは、表10に対応する110の異なるペプチドMHC分子からなるライブラリーを用いた。
a.合成:実験1に記載される通り。
i.MHC重鎖およびB2Mの両方を既に記載されている通りに大腸菌(E.coli)に発現させた(Hadrupら,2009)。
ii.p*MHC単量体を既に記載されている通りにリフォールディングさせ精製した(Hadrupら,2009)。
b.修飾:p*UV条件的ペプチドリガンドを検討対象のペプチド抗原に交換して、特異的ペプチドMHC単量体を得た。
i.ペプチド(Pepscan Presto社)をリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Lonza社)で希釈し、384ウェルプレートの個々のウェルで最終濃度100μg/ml:200μM(単量体:ペプチド)になるまで混合した。各ウェルフォーマットで最大体積70μlを調製した。混合物を366nmのUV光(UVキャビネット;CAMAG)に1時間曝露し、任意選択で4℃で最大24時間保管した。
c.精製:実験2と同じ。
【0175】
4.標識の調製:この実施例では、長さは同じであるが配列が異なる110の異なるオリゴヌクレオチドを作製した。各オリゴヌクレオチドは特異的pMHCと結合し、ひいてはこの特異的pMHCをコードした。オリゴヌクレオチドをビオチン化して、デキストラン-ストレプトアビジンコンジュゲート主鎖と容易に結合するようにした。
a.合成:この実施例では、標識は、DNA Technology社(デンマーク)から購入し凍結乾燥粉末として送付されたDNAオリゴヌクレオチドとした。ヌクレアーゼフリー水で100μMの標識ストック希釈液を作製し、-20℃で保管した。2種類のDNAオリゴヌクレオチド標識を使用し、それぞれ1OSおよび2OSと命名した。
i.120 1OS標識は、5’ビオチン化修飾を有する一本鎖DNAオリゴヌクレオチドとしてDNA Technology社に注文したものである。標識を0.1%Tweenを含むヌクレアーゼフリー水で作業濃度(640nM)に希釈した。1OS標識の配列については表9および10を参照されたい。
ii.2OS標識システムは、限られた数のオリゴヌクレオチド配列の複雑性を組合せ標識作製戦略により増大させて、より限定された数の標識前駆体から多数の固有の標識が得られるよう開発したものである。2OSと呼ばれるこの戦略では、2つの部分的に相補的なオリゴヌクレオチド配列のアニーリングとそれに続く伸長によって新たな固有のオリゴヌクレオチド配列を生じさせ、それをDNAオリゴヌクレオチド標識として用いた(表9および10)。例えば、20のいずれも部分的に相補的な固有のオリゴヌクレオチド配列(A標識前駆体)と、60の別の固有のオリゴヌクレオチド配列(B標識前駆体)とを組み合わせることにより、1,200の異なる(Ax+By)標識のコンビナトリアルライブラリーが得られた。
1.部分的に相補的なAオリゴヌクレオチドとBオリゴヌクレオチドとをアニールさせて、組み合わさったA+Bオリゴヌクレオチド標識を得た。AオリゴとBオリゴを表3に記載される通りに混合し、65℃で2分間加熱し、15~30分で35℃未満になるまで徐々に冷却した。次いで、アニールしたAオリゴとBオリゴを表3.4に記載される通りに伸長させた。伸長反応の構成成分は使用直前に混合した。混合後、反応物を室温で5分間放置し、アニールしたオリゴヌクレオチドを伸長させた。部分的に相補的なオリゴヌクレオチドのアニーリング(左)および伸長(右)に用いた試薬を表3に記載する。イタリック体で示されている試薬は、Sequenase Version 2.0 DNA Sequencing Kit(Affymetrix社、番号70770)のものである。
b.改変:いずれの標識も、0.1%Tweenを含むヌクレアーゼフリー水で作業濃度(640nM)に希釈した。次いで、伸長したオリゴヌクレオチド配列2OS標識を1OS標識と同様に処理した。
【0176】
5.MHC分子の調製:pMHCとオリゴヌクレオチドとの間に1:1の関係を維持しながら、必ず所与のpMHCと所与のオリゴヌクレオチドとが結合するように、MHC分子(pMHC)および標識(オリゴヌクレオチド)と主鎖(主鎖、デキストラン-ストレプトアビジン-蛍光色素コンジュゲート)とを結合させてMHC分子を形成した。
a.合成:MHC分子の調製には、主鎖をビオチン化オリゴヌクレオチドの形態で標識した後、pMHCを加えた。
i.MHC分子の作製は、別途記載されない限り、主鎖の2倍過剰の標識(標識:主鎖=2:1)を加えることによって実施し、4℃で30分間インキュベートした。新たなバッチの主鎖および/または標識を用いた場合、漸増法を実施した後に必ず標識と主鎖(主鎖)との結合を判定した。MHC分子、pMHC単量体を結合させる前に、これらを3300gで5分間遠心分離した。コンジュゲートしたストレプトアビジン(SA)および蛍光色素(PE)を有するSAコンジュゲート(デキストラマー主鎖、Immudex社)をペプチド交換反応の設定に適合する新たな96ウェルプレートに等分した。PEを組み立てる方法の違い。等分したSAコンジュゲートに沈殿を避けながらMHC分子を加え、室温で30分間インキュベートした。複合体が形成された後、D-ビオチン(Avidity Bio200)をNaN2の0.02%PBS溶液とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。組み立てたMHC分子を4℃で最大4週間保管した。
b.改変:組み合わせたMHC分子のパネルの総体積が試料とのインキュベーション1回当たり100μlを上回った場合、体積を減らした。
i.カットオフが300kDaのサイズ排除スピンカラムVivaspin 500(Sartorius社)に2%BSA/PBS 500μlを加えることにより飽和させ、その分量が通過するまで5000gで遠心分離した。次いで、PBS 500μlを加えることによりカラムを2回洗浄し、カラムに分量がほとんどの残らなくなるまで5000gで遠心分離した。組み合わせたMHC分子のパネルをスピンカラムに加え、カラムに所望の分量が存在するまで4℃、5000gで遠心分離した(試料とのインキュベーション1回当たり約80μl)。
c.精製:MHC分子のパネルを細胞に加える前にエッペンドルフチューブに移し、5000gで5分間遠心分離して、溶液中にMHC分子が残らないように沈降させた。
【0177】
6.試料とMHC分子のインキュベーション:細胞試料とMHC分子とを1つの容器内で混合して、MHC分子とそれが認識するT細胞とを結合させた。
a.試料の量:BC形態の細胞2×10E6。
b.MHC分子の量
c.条件:細胞の洗浄はいずれも、490gで5分間遠心分離した後、上清を除去することを指す。2×10E6の細胞を96ウェルプレートの個々のウェルに移し、バーコード緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA/100μg/mlニシンDNA)で洗浄し、染色1回当たり約20μlになるようこの緩衝液に再懸濁させた。試料をMHC分子とインキュベートする際、細胞を50nMダサチニブと37℃で30分間インキュベートした(Lissinaら,2009)。MHC分子を細胞に加える前に、3300gで5分間遠心分離した。インキュベーション1回当たり、各MHC分子が3μl必要であった(pMHCに関しては1μg/ml)。MHC分子を加えた後、細胞を37℃で15分間インキュベートした。表2に記載される抗体混合物を、遊離アミンを染色する近IR生存能色素(Invitrogen社、L10119)0.1μlとともに加えた。抗体染色は、実質的に従来のMHC多量体染色と同じであった。細胞を4℃で30分間インキュベートした後、細胞と結合していないMHC分子または抗体を洗浄した。次いで、1%パラホルムアルデヒド50μlを加えることにより細胞を固定した。
【0178】
7.所望の特徴を有するMHC分子の濃縮:この実施例では、フローサイトメトリー、より具体的には蛍光標示式細胞分取器(FACS)を用いることによってMHC分子を濃縮した。MHC分子は蛍光色素を有する。したがって、MHC分子と結合する細胞は蛍光を発し、FACS分取器により、MHC分子と結合しないため蛍光を発しない細胞と分離することができる。その結果、細胞と結合したMHC分子が濃縮される。
a.適用:この実験全体を通じて、取得に2つの異なるフローサイトメータを使用した。3つのレーザー(488nm青、633nm赤および405紫)を備えたBD FACSCanto IIおよび5つのレーザーを備えたBD LSR IIサイトメータである。LSR IIのレーザーのうち、この実験全体を通じて使用したのは4つのみである(488nm青色レーザー、640nm赤色レーザー、355nm UVレーザーおよび405nm紫色レーザー)。さらに、3つのレーザー(488nm青、633nm赤および405紫)を備えたBD FACSAriaおよびFACSAria IIで細胞を分取した。フローサイトメトリーデータの解析にはいずれも、BD FACSDivaソフトウェアバージョン6.1.2を用いた。
i.以下のゲーティング戦略を用いた。CD8陽性細胞の最初のゲーティングはいずれも同じように実施した。FSC/SSCプロットでリンパ球を同定した。単一細胞(FSC-A/FSC-H)、生細胞(近IR生存能色素陰性)およびダンプチャネル陰性/CD8陽性細胞(FITC/PerCP)に対する追加のゲーティングを用いてCD8T細胞集団を定義した。
b.洗浄:フローサイトメトリーによる取得の準備ができた後に細胞をバーコード緩衝液で2回洗浄した。任意選択で、細胞を1%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定し、FACS緩衝液またはバーコード緩衝液で2回洗浄した。固定した細胞を4℃で最大1週間保管した。
c.分離:任意選択で、1%パラホルムアルデヒドで固定してから最大1週間後に細胞を取得した。多量体陽性細胞を、分取された細胞に付随するオリゴヌクレオチドの安定性を増大させるために、2%BSAで2時間~一晩予め飽和させバーコード緩衝液200μlを入れたチューブに分取した。分取された多量体陽性細胞を5000gで5分間遠心分離して、余分な緩衝液をすべて除去した。細胞を-80℃で保管した。
i.単一のコンジュゲート蛍光色素、すなわちPEまたはAPCによる陽性事象を明確にするべくゲートをかけた。
ii.平均蛍光強度(MFI)または染色指数(SI)に基づきpMHCデキストラマーの能力を評価した。SIとは、陰性集団(バックグラウンド)に対する影響の可能性およびバックグラウンドの幅も考慮に入れた集団分離の尺度のことである。
【0179】
8.濃縮されたMHC分子の同定:標識(この実施例では、オリゴヌクレオチド標識)を同定することにより、細胞と結合したpMHCを同定することができる。したがって、細胞とともに回収されたMHC分子内に含まれていたオリゴヌクレオチドのシーケンシングを実施した。これにより、細胞試料の細胞と結合したpMHCを同定することができた。
a.シーケンシングを実施する前に、分取された細胞に由来する標識をPCRによって増幅させた。PCRの組成については表4を参照されたい。PCRはキット:Taq PCR Master Mix Kit(Qiagen社、番号201443)を用いて実施した。温度プロファイルを表5に記載する。PCRはサーマルサイクラー:GeneAmp、PCR System 9700(Applied Biosystem社)で実施した。Bio-Rad Gel Doc EZ Imagerでゲル電気泳動を実施した後、PCR産物を可視化した。
i.順方向プライマーおよび逆方向プライマーにはシーケンシング反応のためのアダプター(それぞれIon Torrenシーケンシング(Life Technologies社)に適合したAキーおよびP1キー)を含めた。
ii.さらに、順方向プライマーは試料識別バーコードを有していた(表8)。特異的な試料識別配列を有するプライマーを用いて、個々の試料に由来する分取細胞上の標識およびそれに付随するMHC分子を増幅させた(表8)。これにより、単一試料ごとに由来する配列リードの分布が容易になった。さらに、濃縮されたMHC分子のパネルの入力物(細胞と混合する前)にPCRにより試料識別バーコードを割り付けた(パネル入力物と呼ぶ)。パネル入力物のシーケンシングにより、解析した配列出力物の正規化が可能になるものと思われた。
iii.陽性配列リードをpMHCバーコードアイデンティティの初めから終わりまで、5’末端の試料バーコードアイデンティティから読み取った配列と比較した。リード数を同じ試料バーコードアイデンティティにマッピングされた総リード数およびパネル入力物のリード数によって正規化した。
MHC分子へのデコンボリューション
b.314 Ion Torrentチップ(GeneDx社)でDNAオリゴヌクレオチド標識のシーケンシングを実施した。PCRの際にプライマーを介してアダプターを導入した(アダプター配列については表8を参照されたい)。
i.15個の試料識別バーコードおよび358個のpMHCバーコード(1OS 118個+2OS 240個)の可能な組合せのほか、1OSシステムおよび2OSシステムの両方のプライマー配列およびアニーリング配列からなる配列データベースを作製した。これを集積すると、1回のシーケンシングから予想され得る5370の配列が得られた。次いで、各シーケンシングリードを用いて、マッチリワード1、ミスマッチリワード-2およびギャップ開始、ギャップ伸長ともにギャップコスト2としたヌクレオチドBLASTアルゴリズムにより、データベースでアライメントを検索した。このようにして、シーケンシングリードに実際の配列と比較して塩基がミスコールされていても、挿入/削除されていても、シーケンシングエラーに等しくペナルティを加えた。
ii.以下の基準によりアライメントを破棄した:
1.E値>1e-12;アライメントの長さが不十分である(1OSシステムおよび2OSシステムは、それぞれ60塩基または102塩基を超えなければならない)。
2.対象配列の開始位置が2個以上である、すなわち、試料識別バーコードの固有の部分の6塩基のうちアライメントに含まれる塩基が4個以下である。
3.任意のシーケンシングリードに対して依然として複数のアライメントがみられた場合、パーセント同一性が最も高いアライメントのみを残した。最後に、データベース内の各バーコードにマッピングされたリード数をカウントした。
iii.大きな比率を占めるバーコードの特定:各リードを同じ試料アイデンティティバーコードにマッピングされた総リードカウントに正規化することにより、相対リードカウントを計算した。次いで、相対リードカウントを用いて、対照試料バーコード入力物(細胞と混合しなかったバーコード標識検出分子パネル)と比較した1バーコード当たりの変化倍数を計算した。未処理のリードカウントの割合の同等性を試料と対照バーコード入力物とで比較する2試料検定を用いて、有意に大きな比率を占めるバーコードを特定し、ベンジャミーニ=ホッホベルクFDR法を用いて多重検定のp値を補正した。
【0180】
実施例5の結果:
この実施例は、異なるpMHC多量体(MHC分子)からなる大きい混合物中に抗原応答性T細胞を検出することが実現可能であることを示している。本発明者らは、バーコード標識MHC多量体の感度が少なくともCD8T細胞の中から0.00032%の特異的T細胞を検出することが可能なものであることを示す。既に記載されている(ロースループットな)方法と正確な相関があることがわかる。
【0181】
図9は、7種類の異なる試料にマッピングされた特異的1OSバーコードリードの数を模式的に示したものである。HLA-B7陰性BCに5%のB7 CMV pp65 TPR応答(バーコード88)を5倍希釈で加えて7種類の試料(5%、1%、0.2%、0.04%、0.008%、0.0016%および0.00032%)を作製した。このBCはA11 EBV-EBNA4特異的T細胞(バーコード4に対応する)の集団を有する。1OSで様々にバーコード標識された110のpMHC-デキストラマーを含む同じパネルで試料を染色した。バーは、各試料中の入力物パネルに対して正規化した総リード数を示している。実験は二重反復で実施した。ここでは平均が示されている。
【0182】
図10は、7種類の異なる試料にマッピングされた特異的2OSバーコードリードの数を模式的に示したものである。HLA-B7陰性BCに5%のB7 CMV pp65 TPR応答(バーコードA3B18)を5倍希釈で加えて7種類の試料(5%、1%、0.2%、0.04%、0.008%、0.0016%および0.00032%)を作製した。このBCはA11 EBV-EBNA4特異的T細胞(バーコードA1B4に対応する)の集団を有する。2OSで様々にバーコード標識された110のpMHC-デキストラマーを含む同じパネルで試料を染色した。バーは、各試料中の入力物パネルに対して正規化した総リード数を示している。実験は二重反復で実施した。ここでは平均が示されている。
【0183】
実施例6:
実施例6は、用いた試料が異なる点を除いては実施例5と全く同じように実施される。ここでは、5種類の異なるドナー血液試料中に抗原応答性T細胞を検出する。
【0184】
実施例6の結果:
この実施例は、DNAバーコードで標識したMHC多量体を用いて異なるドナー試料の多数の異なる特異性を検出することが実現可能であることを示している。得られたデータは、多数のドナーのT細胞反応性をハイスループットにスクリーニングして、疾患発現、ワクチン接種、感染などに関連する免疫反応性を評価することが実現可能であることを示している。
【0185】
図11は、6種類の異なる試料にマッピングされた特異的1OSバーコードリードの数を模式的に示したものである。1OSで様々にバーコード標識された110のpMHCデキストラマーを含む同じパネルで6種類のBCを染色した。棒グラフは、各試料中の入力物パネルに対して正規化した総リード数を示している(p<0.05)。各円グラフは、その試料にマッピングされた有意な(p<0.01)リード数を示している。
【0186】
図12は、6種類の異なる試料にマッピングされた特異的2OSバーコードリードの数を模式的に示したものである。2OSで様々にバーコード標識された110のpMHC-デキストラマーを含む同じパネルで6種類のBCを染色した。棒グラフは、各試料中の入力物パネルに対して正規化した総リード数を示している(p<0.05)。
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
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