(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】高エネルギー効率、高出力のプラズマトーチ
(51)【国際特許分類】
H05H 1/34 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
H05H1/34
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020187867
(22)【出願日】2020-11-11
(62)【分割の表示】P 2016568013の分割
【原出願日】2015-05-19
【審査請求日】2020-11-12
(32)【優先日】2014-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513235739
【氏名又は名称】パイロジェネシス・カナダ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ジー・ドロエ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・キャラバン
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/134619(WO,A1)
【文献】特開昭63-040300(JP,A)
【文献】特開昭61-013600(JP,A)
【文献】特開平01-148472(JP,A)
【文献】国際公開第2004/028221(WO,A1)
【文献】特開平06-201513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非移行アークモードで動作するように適合されたガスヒータープラズマトーチであって、
-円筒形のトーチ本体と、
-前記トーチ本体の内部に同軸上に取り付けられた円筒形の後方電極と、
-前記後方電極と同軸上に、前記後方電極の前方に取り付けられた、貫通穴を有する、前記後方電極よりも短いチューブ状のパイロット電極と、
-前記パイロット電極と同軸上に、前記パイロット電極の前方に取り付けられた、貫通穴を有する、前記後方電極及び前記パイロット電極よりも長いチューブ状挿入部と、
-前記チューブ状挿入部と同軸上に、前記チューブ状挿入部の前方に取り付けられた、貫通穴を有する、前記チューブ状挿入部よりも短い前方電極と、
-前記後方電極、前記パイロット電極、前記前方電極及び前記チューブ状挿入部の外側と前記円筒形のトーチ本体の内側との間に取り付けられ、シールされた通路を提供する円筒チューブ状筐体であって、前記トーチの動作時に前記チューブ状挿入部から熱を除去するために前記通路を通して流体冷媒が循環する、円筒チューブ状筐体と、
-前記後方電極と前記パイロット電極との間に提供され、前記後方電極と前記パイロット電極との間のチャンバー内に適切なガスの渦流を発生させるための第1の渦発生器と、
-前記パイロット電極と前記チューブ状挿入部との間に提供され、前記チューブ状挿入部内に適切なガスの渦流を発生させるための第2の渦発生器と、
-前記チューブ状挿入部と前記前方電極との間に提供され、前記前方電極内に適切なガスの渦流を発生させるための第3の渦発生器と、
-前記後方電極と前記前方電極との間に接続され、前記第1及び第2の渦発生器によって提供されたガスの流動を通してアークを維持するための電力供給手段と、
を含み、
前記第3の渦発生器で提供されるガス流動が、前記前方電極からの金属の侵食を均一に分布させ、それによってトーチ寿命を延長するために、前記前方電極の表面におけるアーク発生点を、円運動で前記前方電極の表面上を急速に移動させ、
前記電力供給手段がさらに、前記後方電極と前記パイロット電極との間に接続されて前記後方電極と前記パイロット電極との間にパイロットアーク放電を点火するための手段であって、前記アークが、前記チューブ状挿入部内で、前記前方電極に到達するのに十分長くなるようにする、パイロットアーク放電を点火するための手段として機能し、
前記
電力供給手段が、
前記パイロットアーク放電の点火後、前記パイロット電極から接続解除されて、前記後方電極と前記前方電極との間に主アーク放電を
開始及び維持するための手段としても機能する、ガスヒータープラズマトーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年5月16日に出願され、本明細書に参照により組み込まれている係属中の米国仮出願第61/994672号の優先権を主張する。
【0002】
本発明の対象は、高エネルギー効率、高出力のプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0003】
アークプラズマトーチは、ガスのヒーターとして使用されることが多い。トーチに供給される電力は、トーチ端子間の電流及び電圧の両方に比例し、加熱される導入ガスと接触することにより、トーチ電気アークから伝達される熱量は、トーチ効率に依存する。アーク温度は非常に高く、10000℃にもなるため、トーチ電極は水冷しなければならない。この水冷も、アークから冷却水への熱の伝達となるため、トーチを出て導入ガスに伝達される熱は、電力供給によって提供される電気的エネルギーよりも低い。
【0004】
このエネルギー損失は、具体的には、水冷される電極の長さに依存することとなる。そのため、排出するガスへの熱の伝達の効率を最大化することができるように、できる限り短い電極を有することが興味深い。しかし、この場合、アーク電圧は、アークの長さに比例するため、小さくなる。必要な電力を得るために、電流を増加しなければならず、これは電流の侵食の増加につながり、より低い電流及び高いアーク電圧で動作する同じ出力の長い電極トーチに比べて、対応する維持コストが高くなる。
【0005】
そのため、高出力アークプラズマガスヒータートーチについて、動作の選択は、
-高エネルギー伝達効率を有するが高い維持コストを要する高電流型、または
-維持コストは低いが冷却水への熱損失が高い高電圧型である。
【0006】
過去50年の間に文献に示され、及び/または市販されてきた様々なトーチの提案は、これら2つのカテゴリーの一方に分類可能である。
【0007】
高電圧を得るためにアークを伸ばすことについて、Ramakrishnan、Camacho、Mogensen、Eschenbach及びHanusによって報告されたように、Tioxide社、SKF社及びAcurex社などのいくつかの企業は、多電極設計及び、必要な高電圧が得られるまで1つの区画から他の区画へアーク発生部を移動させる方法を提案している。この一般的な種類のトーチは、例えば、特許文献1にも示されている。
【0008】
例えば特許文献2に示され、またはCamachoによって報告されているように、例えば、Westinghouse社、SKF社及びAerospatiale社によって市販されているデバイスについて、高電流での動作の選択の帰結である電極侵食を制限するために、高電流アーク発生部の脚部を、電極表面上で急速に移動させるための磁場を使用することを選択したものもある。
【0009】
従って、エネルギー効率の高い高出力プラズマトーチが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第4543470号明細書
【文献】米国特許第5132511号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】Ramakrishnan, et al, Technological Challenges in Thermal Plasma, CSIRO Publishing
【0012】
【文献】Camacho, Industrial-worthy plasma torches State-of-the-art, Pure & Appl. Chem., Vol. 60, No. 5, pp. 619-632, 1988.
【0013】
【文献】Mogensen, et al, Electrical and Mechanical Technology of Plasma Generation and Control, in Plasma Technology in Metallurgical Processing by J. Feinman, The Iron and Steel Society, 1987, pp. 65-76
【0014】
【文献】Eschenbach, et al, Plasma Torches and Plasma torch Furnaces, in Plasma Technology in Metallurgical Processing by J. Feinman, The Iron and Steel Society, 1987, pp. 77-87.
【0015】
【文献】Hanus, Phoenix Solutions’ Plasma Arc Application and High-Temperature Process Experience, Proceedings Plasma Arc Technology, October 29-30, 1996, pp. 321-352.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、新規なプラズマトーチの提供が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本明細書において説明された実施形態は、1つの態様において、無移送アークモードで動作するように適合されたガスヒータープラズマトーチであって、導入されるガスへの高い熱伝達効率を特徴する、ガスヒータープラズマトーチを提供し、ガスヒータープラズマトーチは、
-円筒形のトーチ本体と、
-トーチ本体の内部に同軸上に取り付けられた円筒形の後方電極と、
-後方電極と同軸上に、後方電極の前方に取り付けられた、貫通穴を有する短いパイロットチューブ状電極と、
-短いパイロット電極と同軸上に、短いパイロット電極の前方に取り付けられた、貫通穴を有する長いチューブ状挿入部と、
-長いチューブ状挿入部と同軸上に、長いチューブ状挿入部の前方に取り付けられた、貫通穴を有する短い前方電極と、
-電極及び長いチューブ状挿入部の両方と円筒形のトーチ本体との間に取り付けられ、シールされた通路を提供する円筒チューブ状筐体であって、トーチの動作時に電極及び長いチューブ状挿入部から熱を除去するために通路を通して流体冷媒が循環する、円筒チューブ状筐体と、
-後方電極とパイロット電極との間に提供され、後方電極とパイロット電極との間のチャンバー内に適切なガスの渦流を発生させるための第1の渦発生器と、
-パイロット電極と長いチューブ状挿入部との間に提供され、長いチューブ状挿入部内に適切なガスの渦流を発生させるための第2の渦発生器と、
-長いチューブ状挿入部と短い前方電極との間に提供され、短い前方電極内に適切なガスの渦流を発生させるための第3の渦発生器と、
-後方電極と前方電極との間に接続され、渦発生器によって提供されたガスの流動を通してアークを維持するための電力供給手段と、
-後方電極とパイロット電極との間にアーク放電を点火するための手段であって、アークが、長いチューブ状挿入部内で、前方電極に到達するのに十分長くなるようにする、アーク放電を点火するための手段と、
-パイロット電極及び前方電極の表面におけるアーク発生点が、電極からの金属の侵食を均一に分布させ、それによってトーチ寿命を延長するために、円運動で電極の表面上を急速に移動するように、電流及び電圧のアークパラメータを、渦発生器で提供されるガス流動と協調させるための手段と、を含む。
【0018】
また、本明細書において説明される実施形態は、別の態様において、
-トーチ本体と、
-トーチ本体内に取り付けられたチューブ状後方電極と、
-後方電極の前方に取り付けられたパイロットチューブ状電極と
-パイロット電極の前方に取り付けられたチューブ状挿入部と、
-チューブ状挿入部の前方に取り付けられた前方電極と、
-電極及びチューブ状挿入部の両方とトーチ本体との間に取り付けられて通路を提供する筐体であって、通路を通して流体冷媒が循環する、筐体と、
-後方電極とパイロット電極との間のチャンバー内に適切なガスを提供するための第1の供給システムと、
-チューブ状挿入部内に適切なガスを提供するための第2の供給システムと、
-第1の電極内に適切なガスを提供するための第3の供給システムと、
-供給システムによって提供されたガスの流動を通してアークを維持するための電力供給部と、
-後方電極とパイロット電極との間でアーク放電を点火するための点火システムであって、アークが、長いチューブ状挿入部内で、前方電極に到達するのに十分長い、点火システムと、
-電流及び電圧のアークパラメータを供給システムによって提供されるガス流動と協調させるための協調システムと、を含む、ガスヒータープラズマトーチを提供する。
【0019】
本明細書で説明される実施形態のより良好な理解のため、及びそれらが効果をどのように奏しうるかをより明確に示すために、単なる例として、少なくとも1つの例示的な実施形態を示す添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ボタンカソードとパイロット挿入部との間のパイロットアークが、長いチューブ状挿入部内に導かれる高温プラズマガスとともに示された、例示的な実施形態に従うプラズマトーチの断面側面図である。
【
図2】ボタンカソードとアノードとの間の主アークを示す、プラズマトーチの別の断面側面図である。
【
図3】第1及び第2のスイッチを閉じることによってパイロットアークにエネルギーを印加してトーチの動作を可能にし、
図2に示されるように、アノードにアークを伝達する際に第2のスイッチが開放されうる、例示的な実施形態に従うプラズマトーチの電気的構成の概略図及び断面側面図である。
【
図4】例示的な実施形態に従う長いチューブ状挿入部の第1の実施形態の要部の概略部分断面図である。
【
図5】例示的な実施形態に従う長いチューブ状挿入部の第2の実施形態の要部の概略部分断面図である。
【
図6】例示的な実施形態に従う長いチューブ状挿入部の第3の実施形態の要部の概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本装置は、主に、高電流で動作する、非常に高い維持コストを要するエネルギー効率の高いトーチと、高電圧で動作する、維持コストは低いがエネルギー効率が非常に悪いトーチと、から選択しなければならないという、従来のガスヒーターの前述の欠点の少なくともいくつかに対処することを意図される。
【0022】
そのため、本装置によって、低電流高電圧で動作し、長いアークを有する高出力アークプラズマガスヒータートーチは、ガスへのエネルギー伝達効率が高く、維持コストも低いものとすることができる。
【0023】
そのために、
a)例えば銅からなり、水冷され、アークのために必要な電子を放出するためのタングステンまたは例えばトリウム、ジルコンもしくはランタンでドープされたタングステンからなる挿入部を備え、または、タングステンまたはタングステンドープ挿入部を有する場合に不活性パイロットガスで動作する必要があることを避けるためにハフニウム挿入部を備えた、ボタンカソードと、
b)例えば銅からなり、水冷され、ボタンカソードと同軸上に取り付けられ、カソードとパイロット挿入部との間の絶縁破壊に続いて確立されるパイロットアークのための一時アノードとして使用される、短いチューブ状パイロット挿入部と、
c)例えば電気的及び熱的に絶縁性の材料からなり、カソード及びパイロット挿入部の両方に対して同軸上に取り付けられ、まず、カソードとパイロット挿入部との間で確立されたパイロットアークによって発生した高温プラズマガスを導き、動作時には、必要なアーク電圧を得るためにアークを延長させるために使用される、長いチューブ状挿入部と、
d)例えば銅からなり、水冷され、カソード、パイロット挿入部及び長い挿入部のアセンブリと同軸上に取り付けられ、カソードとパイロット挿入部との間のパイロット放電によって発生し、長いチューブ挿入部によって導かれた高温プラズマガス内の電圧絶縁破壊に続いてボタンカソードと電極との間に確立された主アークのためのアノードとして使用される、短いチューブ状電極と、
を含む種類のエネルギー効率の高い高出力プラズマトーチが、絶縁材料を含むアーク延長器の使用が冷却水への熱損失を大きく制限するため、高電圧低電力で、ガスへのエネルギー伝達の高いエネルギー効率で動作可能である。
【0024】
そのため、図面に示されたような、無移送モードの動作のためにのみ適合されたプラズマトーチTは、本発明の例示的な実施形態の特徴を具現化する。トーチTは、図に示された4つの構成要素、すなわちカソード10、パイロット挿入部12、長いチューブ状挿入部15及びアノード16が内部に収容された、例えばステンレス鋼などの金属からなる外部本体(図示されない)を含む。
【0025】
カソード10は、例えば銅からなり、水冷されたボタン型であり、例えばタングステンまたは例えばトリウム、ジルコンもしくはランタンでドープされたタングステンからなり、アークに必要な電子を放出するための挿入部11を備え、または、タングステンもしくはタングステンドープ挿入部を有する場合に不活性パイロットガスで動作する必要があることを避けるためにハフニウム挿入部を備える。
【0026】
図1に示されるように、これも例えば銅からなり、水冷されたパイロット挿入部12は、カソード10と同軸上に取り付けられる。パイロット挿入部12は、始動時には、カソード10とパイロット挿入部12との間の電気的絶縁破壊に続いて確立されるパイロットアーク13のための一時アノードとして使用される。
【0027】
また、
図1に示されるように、例えば電気的及び熱的に絶縁性の材料からなり、カソード10及びパイロット挿入部12の両方に同軸上に取り付けられた長いチューブ状挿入部15が、始動時には、カソード10とパイロット挿入部12との間に確立されたパイロットアーク13によって発生した高温プラズマガス14を導くために使用される。長いチューブ状挿入部15の長さは、少なくとも部分的に、所望の動作電圧およびアークの長さに依存する。
【0028】
図2は、カソード10と下流アノード16との間に確立された主アーク20での通常のトーチ動作を示す。長い挿入部15は、この場合、アーク20、及びガス17、18と接するように使用され、カソード10とパイロット挿入部12との間及びパイロット挿入部12と長い挿入部15との間にそれぞれ設けられた渦発生器(図示されない)によってトーチT内に導入される。追加的なガス19は、長い挿入部15とアノード16との間に配置された第3の渦発生器(図示されない)によって導入される。
【0029】
ガス19は、主に、必要な保守の間のトーチ動作時間の長さを延長するために、電極からの金属の侵食を均一に分布させることができるように、アーク発生点をアノード表面上で円運動で急速に移動させるために、アノード表面に対して接線方向に導入される。アーク発生点をアノード表面上でさらに急速に移動させ、それによってさらに電極侵食を低減するために、アークに電磁力を印加することができるように、アノード16の周囲に、磁気コイルまたは永久磁石を設けること可能である。
【0030】
電気的構成Eは
図3に示されている。始動から進行するために、第1及び第2のスイッチ21、23が共に閉じられ、DC電力供給部24がオンにされる。カソード10とパイロット挿入部12との間に接続された点火モジュール(図示されない)は、カソードとパイロット挿入部との間のパイロットガスを電離するために使用され、
図3に示されるようにDC電力供給部24によってサポートされるパイロットアーク13を確立する。
【0031】
図1に示されるように、ガス渦発生器(図示されない)によって生じた渦流17、18によって駆動されるパイロットアーク13は、長い挿入部15のチューブ状の通路内にある程度伸びる。さらに、パイロットアーク13によって生じたイオン化したガスは、アノード16とパイロットアーク13の下流延長部との間の電気的抵抗経路をかなり低下させる。抵抗器22は、アノード16とパイロット挿入部12との間の電位差をさらに増大させるために使用される。このように、アノード16の電位がより高くなるため、アーク13がアノード16に到達する前に、延長されたアーク13とアノード16との間の電気的絶縁破壊が良好に生じることとなる。主アーク20の開始において、第2のスイッチ23は接続解除される。
【0032】
図1、2及び3に示されるように、パイロット挿入部12の内径は長いチューブ状挿入部15の内径よりも小さい。試験時において、パイロット挿入部12の直径d1と、長いチューブ状挿入部15の直径d2との間の比が、アークの安定性に影響を及ぼすことが分かった。1つの実施形態において、主試験を、最大400kWの出力について、1.15から1.35の範囲のd2/d1の比を用いておこなった。
【0033】
図4、5及び6において、例示的な実施形態に従う装置のさらなる実施形態が示され、これによって、長いチューブ状挿入部のほとんどの要部のみが示されている。これらの実施形態のそれぞれにおいて、例えばほとんど絶縁性の材料からなる長いチューブ状挿入部は、水冷されたほとんど金属からなるチューブ状構成部内に収容される。
【0034】
図4の実施形態において、内側の挿入部15は、シーリングリング32によってシールされ、互いから絶縁された金属リング31を含むチューブ状構成部内に挿入された1つの部分からなる。
【0035】
図5の実施形態において、内側の挿入部は、それ自体がシーリングリング35によってシールされ、互いから絶縁された金属リング34によって分離された、絶縁性の材料のリング33を含む。
【0036】
図6の実施形態において、内側の挿入部はまた、
図5に示されたものとは断面の異なる絶縁性の材料のリング36を含む。リング36は、それ自体がシーリングリング38によってシールされ、互いから絶縁された金属リング37によって分離される。
【0037】
図5及び6において、絶縁材料のリング33及び36の数はそれぞれ、少なくとも部分的に、所望の動作電圧およびアークの長さに依存する。
【0038】
(
図1から4に示されるように)単一の長いチューブ15または(それぞれ
図5及び6に示されるように)複数のリング33及び36のいずれかを含む長いチューブ状の挿入部は、例えば、シリコンカーバイドやSaint-Gobain Ceramics社製のHexoloy、またはSaint-Gobain社及びESK社によって製造される窒化ホウ素のような、例えば良好な電気抵抗及び低い熱伝導率を有し、同時に非常に高い融点を有する材料からなる。シリコンカーバイド、Hexoloy、及び窒化ホウ素は、例えば、その熱伝導率が銅よりも約5倍低いため、カソードとアノードとの間の長い挿入部内に導かれた高温プラズマからの熱損失は、銅であった場合のわずか約20%となる。
【0039】
図面には示していないが、
図1、2、3及び4に示されるような単一の長いチューブ15または
図5及び6にそれぞれ示されるような複数のリング33及び36のいずれかを含む長いチューブ状挿入部は、その壁に、異なる位置において、ガスを接線方向に導入するためにオリフィスを有して提供される。得られる渦ガス流動は、アークから周囲のガスへの熱伝達を増加させ、そのため、アークを維持するために必要な電圧を増加させる。長いチューブ状挿入部におけるこれらの追加的な渦流動は、挿入部の穴の表面を冷却するだけでなく、アークを安定させ、挿入部の穴の直径を増加させることができ、壁の安定性の必要性が低くなる。
【0040】
例示的な実施形態をさらに、以下の実施例によって示す。
【0041】
実施例
比較のために、長いチューブ状の銅アノードまたは
図1に関して説明したような絶縁挿入部を備えるプラズマトーチで試験を行った。
【0042】
両方の場合において、出力は800アンペア及び500ボルトで、400kWであった。空気の流動は1分間に920リットルであった。カソード及びノズルの水冷回路は、これらのトーチ構成部の熱損失の測定を分離することができるように、アノード水冷回路とは独立とした。
【0043】
カソード及びアノードへの水流は、それぞれ1分間に45リットル及び1分間に40リットルとした。カソードの水温の上昇は、25kWの冷却水への熱伝達を示す両方の場合で、8℃であった。
【0044】
長いチューブ状銅アノードでは、水温の上昇は、69.7kWの冷却水への熱伝達に相当する25℃であった。
【0045】
絶縁挿入部を備える場合、アノードの温度上昇は14kWに相当するわずか5℃であった。
【0046】
対応するトーチ効率は、通常の銅アノードを備えるトーチで76%であり、絶縁挿入部を備えるトーチで90%であり、そのため14%の効率向上となった。
【0047】
前述の説明は実施形態の例を示しているが、説明された実施形態のいくつかの特徴及び/または機能は、説明された実施形態の動作の思想及び原理から逸脱しない改良を許容することは了解されるであろう。従って、前述したものは、実施形態の例示であり非限定的であることを意図されており、当業者であれば、添付の特許請求の範囲において規定された実施形態の範囲から逸脱せずにその他の変形及び改良がなされうることを理解するであろう。
【符号の説明】
【0048】
T トーチ
10 カソード
12 パイロット挿入部
13 パイロットアーク
15 長いチューブ状挿入部
16 アノード
17、18、19 ガス
20 主アーク
21 第1のスイッチ
23 第2のスイッチ
24 DC電力供給部
31 金属リング
32 シーリングリング
33 絶縁性の材料のリング
34 金属リング
35 シーリングリング
36 絶縁性の材料のリング
37 金属リング
38 シーリングリング