(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】X線撮像の方法およびそのシステム
(51)【国際特許分類】
G01B 15/02 20060101AFI20230501BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20230501BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20230501BHJP
G01G 9/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G01B15/02 H
G01N23/04
G01N23/083
G01G9/00
(21)【出願番号】P 2020205759
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】202010152161.8
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】596039187
【氏名又は名称】台達電子工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】DELTA ELECTRONICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 思▲ユー▼
(72)【発明者】
【氏名】李 致賢
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-249691(JP,A)
【文献】特開2013-130392(JP,A)
【文献】特表2016-524702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0072409(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/02
G01N 23/04
G01N 23/083
G01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の物体撮像プロセスを実行し、撮像範囲(field of view;FOV)内の第1の物体を通過するX線源の複数のX線を検出することにより、第1の物体画像を取得するステップ、
(b)ベースライン撮像プロセスを実行し、前記第1の物体がFOV内にないとき、前記X線を検出することにより、ベースライン画像を取得するステップ、および
(c)前記第1の物体画像、前記ベースライン画像、および前記第1の物体の第1の減衰係数に基づいて、前記第1の物体の第1の厚さを取得するステップを含み、
ステップ(c)で第1の厚さを取得するステップは、
(c-1)前記ベースライン画像のX線エネルギースペクトルおよび前記第1の減衰係数を計算して、第1の厚さ特性曲線を取得するステップ、および
(c-2)前記第1の厚さ特性曲線および前記第1の物体画像に基づいて前記第1の厚さを取得するステップをさらに含み、
(d)第2の物体撮像プロセスを実行し、
前記FOV内の第2の物体を通過するX線を検出することにより、第2の物体画像を取得するステップ、
(e)前記第2の物体画像、前記ベースライン画像、および前記第2の物体の第2の減衰係数に基づいて、前記第2の物体の第2の厚さを取得するステップの複数のステップをさらに含み、
(f)前記第2の厚さから前記第1の厚さを減算して、サンプルの厚さを取得するステップをさらに含み、
(g)前記ベースライン画像、前記サンプルの厚さ、およびサンプルの吸収係数に基づいて、残留光子の数を取得し、前記第1の物体はキャリアであり、前記第2の物体はサンプルおよび前記キャリアを含むステップ、および
(h)前記ベースライン画像および前記残留光子の数に基づいて前記サンプルに吸収された光子の数を取得するステップの複数のステップをさらに含
み、
前記第1の厚さ特性曲線は関数を介して取得され、前記関数は、
【数13】
N
1
は、前記画素に対する前記第1の物体画像の強度値を表しており、
Eは、前記X線源の最大電圧を表しており、
μは、前記第1の減衰係数を表しており、
iは、前記X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーを表しており、且つ
xは、前記画素に対応する前記第1の物体の厚さを表しているX線撮像方法。
【請求項2】
ステップ(e)で第2の厚さを取得するステップは、
(e-1)前記ベースライン画像のX線エネルギースペクトルおよび第2の減衰係数に基づいて第2の厚さ特性曲線を取得するステップ、および
(e-2)前記第2の厚さ特性曲線および前記第2の物体画像に基づいて前記第1の厚さを取得するステップをさらに含む請求項1に記載のX線撮像方法。
【請求項3】
前記第2の厚さ特性曲線は関数を介して取得され、前記関数は、
【数14】
N
1は、前記画素に対する前記第2の物体画像の強度値を表しており、
Eは、前記X線源の最大電圧であり、
μは、前記第2の減衰係数を表しており、
iは、前記X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーを表しており、且つ
xは、前記画素に対応する前記第2の物体の厚さを表している請求項
2に記載のX線撮像方法。
【請求項4】
(a)第1の物体撮像プロセスを実行し、撮像範囲(field of view;FOV)内の第1の物体を通過する複数のX線を検出することにより、第1の物体画像を取得するステップ、
(b)ベースライン撮像プロセスを実行し、前記第1の物体がFOV内にないとき、前記X線を検出することにより、ベースライン画像を取得するステップ、
(c)第2の物体撮像プロセスを実行し、前記FOV内の第2の物体を通過する前記X線を検出することにより、第2の物体画像を取得するステップ、
(d)前記第1の物体画像および前記第2の物体画像に基づいてサンプル画像を取得し、その中の前記第1の物体はキャリアであり、前記第2の物体はサンプルおよび前記キャリアを含むステップ、および
(e)前記サンプル画像、前記ベースライン画像、およびサンプルの減衰係数に基づいてサンプルの厚さを取得するステップを含み、
(f)前記ベースライン画像、前記サンプルの厚さ、およびサンプルの吸収係数に基づいて、残留光子の数を取得するステップ、および
(g)前記ベースライン画像および前記残留光子の数に基づいて前記サンプルに吸収された光子の数を取得するステップの複数のステップをさらに含
み、
第1の厚さ特性曲線は関数を介して取得され、前記関数は、
【数13】
N
1
は、前記画素に対する前記第1の物体画像の強度値を表しており、
Eは、X線源の最大電圧を表しており、
μは、第1の減衰係数を表しており、
iは、X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーを表しており、且つ
xは、前記画素に対応する前記第1の物体の厚さを表しているX線撮像方法。
【請求項5】
ステップ(e)でサンプルの厚さを取得するステップは、
(e-1)前記ベースライン画像のX線エネルギースペクトルおよび前記サンプルの減衰係数に演算を実行してサンプルの厚さ特性曲線を取得するステップ、および
(e-2)前記サンプルの厚さ特性曲線および前記サンプル画像に演算を実行してサンプルの厚さを取得するステップを含む請求項
4に記載のX線撮像方法。
【請求項6】
(i)前記サンプルの厚さ、前記サンプルの密度、および画素サイズに演算を実行して、前記FOV内の画素kに対応する前記サンプルの重量を取得するステップのステップ(i)をさらに含む請求項
4に記載のX線撮像方法。
【請求項7】
第1の物体撮像プロセスを実行するように構成され、これにより複数のX線が撮像範囲(FOV)内に配置された第1の物体を通過し、前記第1の物体が前記FOV内にないときにベースライン撮像プロセスを実行するX線源、
前記X線を検出し、前記ベースライン撮像プロセスでベースライン画像を取得し、前記第1の物体撮像プロセスで第1の物体画像を取得するように構成された検出器、および
前記検出器に結合されており、命令を操作するように構成され、前記第1の物体画像、前記ベースライン画像、および前記第1の物体の第1の減衰係数に基づいて前記第1の物体の第1の厚さを計算するステップを含むプロセッサを含み、
前記プロセッサは、命令を操作するように構成され、
前記ベースライン画像
、サンプルの厚さ、およびサンプル吸収係数に基づいて、残留光子の数を取得するステップ、および
前記ベースライン画像および残留光子の数に基づいて、
前記サンプルに吸収された光子の数を取得するステップをさらに含み、
前記第1の厚さ特性曲線は関数を介して取得され、前記関数は、
【数13】
N
1
は、前記画素に対する前記第1の物体画像の強度値を表しており、
Eは、前記X線源の最大電圧を表しており、
μは、前記第1の減衰係数を表しており、
iは、前記X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーを表しており、且つ
xは、前記画素に対応する前記第1の物体の厚さを表していて、
前記プロセッサは、命令を操作するように構成され、
前記ベースライン画像のX線エネルギースペクトルおよび前記第1の減衰係数に基づいて第1の厚さ特性曲線を取得するステップ、
前記ベースライン画像の前記X線エネルギースペクトルおよ
び第2の減衰係数に基づいて、第2の厚さ特性曲線を取得するステップ、および
前記第2の厚さから前記第1の厚さを減算して
前記サンプルの厚さを取得するステップをさらに含み、
前記X線源は、第2の物体撮像プロセスをさらに実行するように構成され、それにより前記X線が前記FOV内に配置された第2の物体を通過し、
前記検出器は、前記第2の物体撮像プロセスで第2の物体画像をさらに取得するように構成され、且つ
前記プロセッサは、命令を操作するように構成され、前記第2の物体画像、前記ベースライン画像、および前記第2の物体の第2の減衰係数に基づいて前記第2の物体の第2の厚さを計算するステップをさらに含む、
プロセッサを含むX線撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年3月6日に出願された中国特許出願番号CN202010152161.8号についての優先権を主張するものであり、これらの全ては引用によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、X線撮像の方法およびそのシステムに関するものであり、特に、X線を用いて物体(object)の厚さ、重量、および吸収線量を測定する方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
一般的には、物体の現在の放射線量測定は、例えば、イオンチャンバー、放射線線量計、および比例計数管など、特別且つ高価な線量測定装置を使用する必要がある。この高価な線量測定装置は、X線装置またはコンピュータ断層撮影スキャナーに取り付けられて、放射線量を測定するため、コストが増加する。
【0004】
さらに、熱発光線量計(TLD)が測定に用いられる場合、その原理により、即時の線量が得られない可能性がある。さらに、モンテカルロシミュレーションを適用するなど、放射線量を推定する他の方法もある。しかしながら、モンテカルロシミュレーションで物体の線量および厚さを計算するには、ハイエンドのコンピュータを用いて計算する必要があり、かなりの時間がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線を用いて物体の厚さ、重量、および吸収線量を測定する方法およびシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、X線撮像方法を提供する。X線撮像方法は、以下のステップ、(a)第1の物体撮像プロセスを実行し、第1の物体を通過する複数のX線を検出することにより、第1の物体強度信号を取得するステップ、(b)ベースライン撮像プロセスを実行し、第1の物体が撮像範囲(field of view; FOV)内にないとき、X線を検出することにより、ベースライン強度信号を取得するステップ、および(c)第1の物体強度信号、ベースライン強度信号、および第1の物体の第1の減衰係数に基づいて、第1の物体の第1の厚さを取得するステップを含む。
【0007】
本開示は、X線撮像方法を提供する。X線撮像方法は、以下のステップ、(a)第1の物体撮像プロセスを実行し、第1の物体を通過する複数のX線を検出することにより、第1の物体強度信号を取得するステップ、(b)ベースライン撮像プロセスを実行し、第1の物体がFOV内にないとき、X線を検出することにより、ベースライン強度信号を取得するステップ、(c)第2の物体撮像プロセスを実行し、第2の物体を通過するX線を検出することにより、第2の物体強度信号を取得するステップ、(d)第1の物体強度信号および第2の物体強度信号に基づいてサンプル強度信号を取得し、その中の前記第1の物体はキャリアであり、第2の物体はサンプルおよびキャリアを含むステップ、および(e)サンプル強度信号、ベースライン強度信号、およびサンプルの減衰係数に基づいてサンプルの厚さを取得するステップを含む。
【0008】
本開示は、X線撮像システムを提供する。X線撮像システムは、X線源、検出器、およびプロセッサを含む。X線源は、第1の物体撮像プロセスを実行するように構成され、これにより複数のX線が撮像範囲(field of view; FOV)内に配置された第1の物体を通過し、第1の物体が前記FOV内にないときにベースライン撮像プロセスを実行する。検出器は、ベースライン撮像プロセスでベースライン強度信号を取得し、第1の物体撮像プロセスで第1の物体強度信号を取得するように構成される。また、プロセッサは検出器に結合されている。プロセッサは、命令を操作するように構成され、第1の物体強度信号、ベースライン強度信号、および第1の物体の第1の減衰係数に基づいて第1の物体の第1の厚さを計算するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態によるX線撮像方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態によるX線撮像方法のフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、本開示の一実施形態によるX線撮像システムの概略図である。
【
図3B】
図3Bは、本開示の一実施形態によるX線撮像システムの概略図である。
【
図3C】
図3Cは、本開示の一実施形態によるX線撮像システムの概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態による、X線エネルギー-光子数のグラフである。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態による厚さ特性曲線のグラフである。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態による、X線を用いて物体の厚さを計算する方法600のフローチャートである。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態による減衰係数のグラフである。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態によるサンプルの吸収係数のグラフである。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態による、サンプル吸収線量を計算する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述の説明では、本発明を実施するベストモードを開示している。この説明は、本発明の一般原理を例示する目的のものであり、本発明を限定するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参考にして決定される。
【0011】
本発明は、特定の実施形態に関して、特定の図面をベースラインとともに説明されるが、本発明はこれに限定されるものではなく、請求項によってのみ限定される。更に理解されることであろうが、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」および/または「含む(including)」が本明細書で使用されるとき、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素および/または構成要素の存在を特定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはこれらの群の存在或いはこれらの追加を除外するものではない。
【0012】
クレーム要素を変えるための、請求項における「第1の」、「第2の」、「第3の」等の序数詞の使用は、それ自体が、1つのクレーム要素を他のクレーム要素と比較して優先度、序列、又は順序を示唆するものではなく、むしろ、単にクレーム要素を区別するために、特定の名前を有する1つのクレーム要素を同じ名前を有する他の要素から区別するためのラベルとして(だけ、序数詞を)使用している。
【0013】
図1、
図2、
図3A~
図3Cに示すように、
図1は、本開示の一実施形態によるX線撮像方法100のフローチャートである。
図2は、本開示の一実施形態によるX線撮像方法200のフローチャートである。
図3A~
図3Cは、本開示の一実施形態によるX線撮像システムの概略図である。
【0014】
図3Aに示すように、
図3Aでは、X線撮像システムは、少なくともX線源SR、検出器DT、およびプロセッサPCを含む。
【0015】
一実施形態では、X線源SRが用いられて、複数のX線を生成する。
【0016】
一実施形態では、検出器DTは、X線源SRより放射されたX線の方向に対応して配置される。さらに、検出器DTは、媒体(ガス、固体、または液体など)を通過するX線を検出するために用いられる。
【0017】
一実施形態では、プロセッサPCは、命令を操作するために用いられる。プロセッサPCは、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、または論理回路によっても実装されることができるが、これに限定されない。
【0018】
X線撮像方法100の流れを、
図1をベースラインとともに以下に説明する。
【0019】
ステップ110では、X線源SRは物体撮像プロセスを実行し、検出器DTは、撮像範囲(field of view; FOV)内の物体を通過するX線を検出することにより物体強度信号を取得する。
【0020】
一実施形態では、X線源SRが物体撮像プロセスを実行し、それにより検出器DTが物体強度信号を取得し、物体強度信号をプロセッサPCに送信する。物体強度信号はX線画像であることができ、X線画像は2次元投影画像IMGで表示されることができる。
【0021】
一実施形態では、プロセッサPCは、検出器DTに結合される。さらに、プロセッサPCは、検出器DTによって生成された物体強度信号を受信するように構成される。
【0022】
ステップ120では、X線源SRは、ベースライン撮像プロセスを実行し、検出器DTは、物体がFOVにないときにX線を検出することによりベースライン強度信号を取得する。
【0023】
ステップ130では、プロセッサPCは、物体強度信号およびベースライン強度信号に基づいて物体の厚さを推定する。
【0024】
一実施形態では、
図1に記載された物体は、キャリア(carrier)であることができる。もう1つの実施形態では、
図1に記載された物体は、キャリアとサンプルの組み合わせであることができる(言い換えれば、サンプルとキャリアの組み合わせは、
図1に記載された物体とみなされる)。一実施形態では、ステップ120で説明された物体がFOVになく、これは、FOVにキャリアおよびサンプルが配置されておらず、ベースライン撮像を撮影するようにX線が検出器DTに直接当たることを意味する。
【0025】
以下は、3つのタイプの撮像のケース、例えば空白の画像(物体がFOVにない)、物体がキャリアTBである(以下、第1の物体と呼ぶ)、および物体がキャリアTBとサンプルOBJの組み合わせ(以下、第2の物体と呼ぶ)を詳細に説明する。しかしながら、本発明では第1の物体および第2の物体の定義は、それらに限定されない。
【0026】
ステップ210では、X線源SRは、ベースライン撮像プロセスを実行し、それにより、検出器DTは、第1の物体がFOV内にないときにX線を検出することによりベースライン強度信号を取得する。
【0027】
一実施形態では、
図3Aに示されるように、物体はFOVに配置されない。検出器DTは、サンプルおよびキャリアTBがFOVにないなど、物体がFOVにないとき、X線を検出し、ベースライン撮像プロセスは、X線撮像システムによって実行され、ベースライン強度信号を取得する。ベースライン強度信号は、ブランク画像とも呼ばれる。X線源のエネルギー範囲にあるX線光子の数の分布は、X線エネルギースペクトルと呼ばれる(
図4を参照)。X線エネルギースペクトルは、既知のルックアップテーブル、測定、または計算によって取得されることができる。検出器DTで得られるベースライン強度信号は、X線エネルギースペクトルの下で検出器DTによって受けたX線の総和である強度値である。
【0028】
ステップ212では、第1の物体(キャリアTBなど)がFOVに配置される。
図3Bに示されるように、X線源SRは、第1の物体撮像プロセスを実行し、検出器DTは、第1の物体を通過するX線を検出することにより、第1の物体強度信号を取得する。
【0029】
より具体的には、X線源SRは、X線を提供し、第1の物体を撮影する。次に、検出器DTは、第1の物体強度信号を取得し、第1の物体強度信号をプロセッサPCに送信する。
【0030】
ステップ214では、
図3Cに示されるように、第2の物体(キャリアTBおよびサンプルOBJの組み合わせなど)がFOVに配置される。X線源SRは、第2の物体撮像プロセスを実行する。検出器DTは、第2の物体を通過するX線を検出することにより、第2の物体強度信号を取得する。
【0031】
より具体的には、サンプルOBJは、キャリアTB上に設定され、X線源SRは、キャリアTBおよびサンプルOBJを撮影する。次に、検出器DTは、第2の物体強度信号を取得し、第2の物体強度信号をプロセッサPCに送信する。第1の物体強度信号および第2の物体強度信号は、X線光子信号である。
図3Cの2次元投影画像IMGの態様に示されるように、2次元投影画像IMGのグレースケールブロックGRYは、第2の物体を通過するX線ブロックを表している。
【0032】
一実施形態では、例えば、検出器DTの画素kが、第2の物体撮像プロセスが実行されたときに、検出器DTの画素kが最小量のX線を受けた場合、サンプルOBJの最も厚い部分が画素kに対応して配置される。
【0033】
上記のステップ210~214は、順序に限定されない。一実施形態では、検出器DTがX線を受ける領域は、FOVと呼ばれる。
【0034】
ステップ220では、プロセッサPCは、第1の物体強度信号および第2の物体強度信号に基づいてサンプル強度信号を取得し、サンプルの厚さ特性曲線に従って、サンプル強度信号に対応するサンプルの厚さxを取得する。一実施形態では、プロセッサPCは、第2の物体強度信号から第1の物体強度信号を減算して、サンプル強度信号を取得する。
【0035】
一実施形態では、プロセッサPCは、ベースライン強度信号、X線エネルギースペクトル、およびサンプルの減衰係数に従って、サンプルの厚さ特性曲線を取得する。
【0036】
一実施形態では、厚さ特性曲線、例えば、サンプルの厚さ特性曲線、第1の厚さ特性曲線、および第2の厚さ特性曲線は、以下の関数(1)ランベルトベール(Beer-Lambert)の法則によって計算されることができる。
【0037】
一実施形態では、厚さ特性曲線は、ベースライン強度信号、X線エネルギースペクトル、および減衰係数の計算に基づいて得られる。この演算は、離散(discrete)の乗算の結果を含んだ後、離散の乗算の結果を加算する。
【0038】
一実施形態では、特定の撮像パラメータの設定(X線源SRの電圧および電流、または異なるタイプのフィルターなどを含む)を用いて、2次元投影ブランク画像がFOV内に物体が存在しないものとして撮像され、即ち、検出器DTがベースライン強度信号を取得する。次に、水、実験動物、アクリルなどの任意の既知の材料の物体がFOV内に配置される。同一の撮像パラメータの設定を用いて、2次元投影画像の物体(以下の物体は第1の物体または第2の物体を指すことができる)が撮像され、即ち、検出器DTは、物体強度信号を取得する。以下の関数(1)の計算により、物体の厚さが検出器DTで得られた信号から推定されることができる。
【数1】
画素に対するベースライン強度信号の強度値を表しており、X線源によって提供されたX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiでの光子の数である。符号μは、既知の材料の物体の減衰係数を表している。スペクトルのX線エネルギーの異なる値に応じて、減衰係数は異なる値になり、減衰係数は線形減衰係数にすることができる。符号N
1は、物体がFOVに配置された後に検出器DTにより取得された強度値を表している。従って、画像検出器DTから得られた強度信号を用いることにより、プロセッサPCは、厚さ特性曲線により物体の厚さを取得することができる。
より具体的には、上記の関数(1)を関数(2)に拡張することができる。
図4は、本開示の一実施形態による、X線エネルギー-光子数のグラフである。プロセッサPCは、X線エネルギースペクトルをベールの法則に導入する。
図4に示されるように、横軸はX線エネルギーを表し、縦軸は光子の数を表している。X線エネルギースペクトルは、フィルターの材質、フィルターの厚さ、X線源の最大電圧に応じて異なる光量子束(photon flux)分布を有する。
図4に示されるように、実線は、最大電圧値が50keVであり、且つフィルターを有さないX線源のエネルギースペクトルを表している。点線は、最大電圧値が50keVであり、0.5mmのアルミフィルターを有すX線源のエネルギースペクトルを表している。プロセッサPCは、X線源のエネルギー、X線源の電流、またはフィルターのタイプを含む選択された撮像パラメータに応じて、X線エネルギースペクトルをシミュレーション、計算、または測定することにより、画素のスペクトル分布を推定する。より具体的には、物体の厚さおよび物体強度信号の曲線、即ち厚さ特性曲線は、
図5に示されるように、以下の関数(2)によって得られることができる。
図5は、本開示の一実施形態による厚さ特性曲線のグラフである。
【数2】
符号μは、スペクトルのX線エネルギーに応じて異なる値を有する物体の減衰係数を表している。符号iは、X線エネルギースペクトルの特定のエネルギー(1keVからX線源で設定された最大電圧値まで)を表している。符号xは、画素に対応して配置された物体の厚さを表している。
【0039】
図5は、本開示の一実施形態による厚さ特性曲線のグラフである。
図5の実線は関数(2)の厚み特性曲線であり、
図5の横軸は物体強度信号を表し、縦軸は厚さ(単位は例えばcm)を表している。従って、プロセッサPCは、ステップ220の関数(2)の厚さ特性曲線において検出された物体強度信号に従って、物体の厚さxを取得することができる。ステップ220の一実施形態では、関数(2)のN
1は、画素のサンプル強度信号の強度値を表している。
【0040】
図6に示すように、
図6は、本開示の一実施形態による、X線を用いて物体の厚さを計算する方法600のフローチャートである。
図6のステップ610、612、および614は、それぞれ、
図2のステップ210、212、および214と同じであり、従って、再度説明しない。
【0041】
一実施形態では、プロセッサPCは、第1の物体強度信号およびベースライン強度信号に基づいて、第1の物体の第1の厚さの推定を実行する。より具体的には、ステップ620では、プロセッサPCは、ベースライン強度信号のX線エネルギースペクトルおよび第1の物体の第1の減衰係数に従って、第1の厚さ特性曲線を取得する。さらに、関数(2)のN1は、画素の第1の物体強度信号の強度値を表す。また、プロセッサPCは、第1の厚さ特性曲線および第1の物体強度信号に従って、第1の物体の第1の厚さを推定する。
【0042】
一実施形態では、プロセッサPCは、第2の物体強度信号およびベースライン強度信号に基づいて、第2の物体の第2の厚さの推定を実行する。より具体的には、ステップ630では、プロセッサPCは、ベースライン強度信号のX線エネルギースペクトルおよび第2の物体の第2の減衰係数に従って、第2の厚さ特性曲線を取得する。さらに、関数(2)のN1は、画素の第2の物体強度信号の強度値を表す。また、プロセッサPCは、第2の厚さ特性曲線および第2の物体強度信号に従って、第2の物体の第2の厚さを推定する。
【0043】
ステップ640では、プロセッサPCは、第2の厚さから第1の厚さを減算してサンプルの厚さを取得する。第1の物体はキャリアTBを含み、前記第2の物体はサンプルOBJおよびキャリアTBを含む。
【0044】
一実施形態では、物体材料(サンプルOBJなど)が既知である場合、物体の密度odも既知である。また、サンプルOBJの体厚xが上記の関数から取得されることができる。さらに、画素kに対応するサンプルの面積(画素サイズ)が画素kの面積で算出されることができる。以下の式(3)を用いて、画素kに対応するサンプルの1画素あたりの重量(w
k)を算出することができる。
【数3】
符号w
kは、画素kに対応する厚さxを有するサンプルの重量を表しており、その単位はキログラムまたはグラムである。符号psLは、画素サイズの長さ(cmまたはm)を表している。符号psWは、画素サイズの幅(cmまたはm)を表している。符号odはサンプルの密度を表しており、その単位はkg/m
3またはg/cm
3である。次に、関数(4)に従って、全ての画素に対応するサンプルの重量w
kが加算され、FOV内のサンプルの総重量を取得する。
【0045】
上記のステップに基づいて、プロセッサPCは、サンプルの厚さx、密度、および画素サイズに基づいて、FOV内のサンプルの総重量を推定する。
【0046】
例えば、プロセッサPCがベースライン強度信号(ブランク画像)を受信した後、上記の関数(1)を用いて、X線エネルギースペクトル、サンプル(線形)減衰係数、およびベースライン強度信号を導入し、サンプルの厚さ特性曲線を取得する。減衰係数が
図7に示されている。
図7は、本開示の一実施形態による減衰係数のグラフである。横軸はX線エネルギー(keV)を表しており、縦軸は線形減衰係数(μ)を表している。線形減衰係数の単位はcm
-1である。X線撮像システムは、上記のステップ220によりサンプルの厚さ特性曲線を取得し、サンプルの厚さ特性曲線に従ってサンプル強度信号に対応するサンプルの厚さxを取得し、サンプルの厚さx、サンプル密度、および画素サイズを関数(3)に導入する。次に、画素kに対応するサンプル重量(サンプル画素サイズ*サンプルの厚さ*サンプル密度=サンプル重量)が取得されることができる。画素あたりの各サンプル重量の総和は、FOV内のサンプルの総重量である。
【0047】
一実施形態では、X線撮像システムは、FOV内のサンプルの総重量が得られた後、物体の吸収線量をさらに計算することができる。以下の関数(5)および(6)に導入された値がキャリアTBおよび/またはサンプルOBJのパラメータであるとき、キャリアTBおよび/またはサンプルOBJの吸収線量はそれに応じて算出される。以下は、サンプルの吸収線量の計算を例に挙げている。
【0048】
一実施形態では、サンプルに吸収される光子の数は、以下の関数(5)~(6)によって計算されることができる。
【数4】
【0049】
【数5】
X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiのX線がサンプルの厚さxに沿ってサンプルを通過した後、サンプルに吸収されない残留光子の数であり、その単位はカウントである。この画素は、例えば
図3Cの画素kであり、記号iはX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーであり、最大値はE(単位はkeV)である。
【数6】
X線が特定のエネルギーiでサンプルの厚さxに沿ってサンプルを通過するときに、サンプルに吸収された光子の数である。
【数7】
X線エネルギーiに応じて異なる値を有する。
図8に示すように、
図8は、本開示の一実施形態によるサンプルの吸収係数のグラフである。
図8の横軸はX線エネルギー(keV)を表しており、
【数8】
これにより、プロセッサPCは、ベースライン強度信号、サンプルの吸収係数、およびサンプルの厚さに従って、サンプルによって吸収されない残留光子の数を計算することができる。プロセッサPCは、ベースライン強度信号から残留光子の数を減算し、それにより、サンプルに吸収された光子の数を知る。
【0050】
一実施形態では、X線撮像システムは、画素k(
図3Cに示されるように)に対するX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiでサンプル内の吸収された光子の数を計算する。X線エネルギースペクトルの特定エネルギーiでサンプルの1画素あたりの吸収された光子の数は、関数(7)により1画素あたりの吸収されたエネルギーに変換されることができ、サンプルの平均吸収線量は、関数(8)(単位:Gy、J/kG)で計算されることができる:
【数9】
符号Eは、X線源の最大電圧である。符号iは、X線エネルギースペクトルの特定のエネルギーであり、最大値はE(単位:keV)である。
【数10】
X線がX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiで厚さxに沿ってサンプルを通過するときにサンプルに吸収された光子の数である。符号Object重量は、X線撮像システムによって検出および計算されたFOV内のサンプルの総重量であり、その単位はキログラムである。文字列「detector pixel number」は、
図3Aの2次元投影画像IMGの画素数である。従って、プロセッサPCは、吸収された光子の数に応じて、画素kに対応する厚さxに沿ってサンプルの吸収エネルギーを取得することができる。次に、プロセッサPCは、FOV内のサンプルの全ての画素の吸収されたエネルギーの総和を計算する。
【0051】
一実施形態では、
図9に示すように、
図9は、本開示の一実施形態による、サンプル吸収線量を計算する方法900のフローチャートである。
【0052】
ステップ910では、プロセッサPCは、ベースライン強度信号およびサンプルの厚さを受信する。
【0053】
ステップ920では、プロセッサPCは、X線が厚さxに沿ってサンプルを通過するときにサンプルに吸収されない残留光子の数、ベースライン強度信号、およびサンプルの吸収係数を計算する。一実施形態では、プロセッサPCは、関数(5)を適用して、X線がX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiで厚さxに沿ってサンプルを通過するときの1画素あたりの残留光子の数を計算する。
【0054】
ステップ930では、プロセッサPCは、X線が厚さxに沿ってサンプルを通過するときに、サンプルに吸収された光子の数を計算する。一実施形態では、プロセッサPCは、関数(6)を適用して、X線がX線エネルギースペクトルの特定のエネルギーiで厚さxに沿ってサンプルを通過するときの1画素あたりの吸収された光子の数を計算する。
【0055】
ステップ940では、プロセッサPCは、吸収された光子の数をサンプルの吸収されたエネルギーに変換する。一実施形態では、プロセッサPCは、関数(7)を適用して、1画素あたりの吸収エネルギーを計算する。
【0056】
ステップ950では、プロセッサPCは、全ての画素の吸収されたエネルギーの総和と、FOV内のサンプルの平均吸収線量とを計算する。一実施形態では、プロセッサPCは、関数(8)を適用して、FOV内のサンプルの平均吸収線量を計算する。
【0057】
一実施形態では、X線撮像システムは、サンプルをイオンチャンバー(図示せず)としてシミュレートするなどの方法900によって、X線源SRにより放出されるX線線量率を計算することができる。例えば、イオンチャンバーの自由空洞(free cavity)は空気が充填されており、既知の自由空洞の厚さxとサンプルの吸収係数(空気吸収係数)は関数(3)~(8)に導入される。従って、イオンチャンバーの平均吸収線量が得られる。次に、この平均吸収線量に基づいて、X線源SRより放出されたX線放射線量率を得ることができる。
【0058】
本発明に示されるX線撮像方法およびシステムは、検出器上の強度信号に従って、物体の厚さ、平均吸収線量、および放射線量を計算する。この技術は、線量率、現在のX線源によって供給される累積線量、およびオブジェクトによって吸収される平均線量を即座に提供するために適用できます。この計算により、物体の厚さと重量、および物体に吸収された放射線量がX線画像から直接知ることができる。この技術は、線量率、現在のX線源によって放出された累積線量、および物体によって吸収された平均線量を即座に提供するように適用されることができる。実際の応用では、操作者は、X線撮影により物体の厚さを知ることができ、高価な線量測定装置を追加することなく、現在のX線線量率と物体に吸収された平均線量を知ることができる。
【0059】
本発明の方法、またはその特定の形態または一部は、コードの形態で存在することができる。コードは、フロッピーディスク、CD-ROM、ハードディスク、または他の機械読み取り可能な(コンピュータ読み取り可能な)記憶媒体などの物理媒体、または外部形式に限定されないコンピュータプログラム製品に含まれることもできる。コンピュータなどの機械によってコードがローディングされて実行されたとき、その機械は、本発明に関与する装置となる。コードは、ワイヤまたはケーブル、光ファイバー、または任意の伝送タイプなど、いくつかの伝送媒体を介して伝送することもできる。コードがコンピュータなどの機械によって受信され、ローディングされて実行されたとき、その機械は、本発明に関与する装置となる。汎用処理ユニットに実装されたとき、処理ユニットと組み合わされたコードは、アプリケーション固有の論理回路と同様に動作する独自の装置を提供する。
【0060】
本発明を1つ以上の実施形態に関して詳細に述べてきたが、本明細書および図式を読み理解する際に他の当業者により等価な修正および変更が生じ得る。また、本発明の特定の特徴は、複数の実施法案の1つだけに関連して述べられているが、このような特徴は、付与の、または特定の応用に必要で利点がある1つ以上の他の実施法案の他の特徴と組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100、200 X線撮像方法
110~130、210~220、620~640、910~950 ステップ
x サンプルの厚さ
k 画素
OBJ サンプル
DT 検出器
SR X線源
PC プロセッサ
IMG 2次元投影画像
TB キャリア
GRY グレースケールブロック
600 X線を用いて物体の厚さを計算する方法
900 サンプル吸収線量を計算する方法