(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】シポニモドを含む非経口製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/397 20060101AFI20230501BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230501BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230501BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20230501BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230501BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230501BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
A61K31/397
A61P37/06
A61K9/08
A61K47/40
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/02
(21)【出願番号】P 2020516850
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(86)【国際出願番号】 IB2018057425
(87)【国際公開番号】W WO2019064185
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】201711034371
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】クマール,ラジェッシュ
(72)【発明者】
【氏名】クマール,マンダラ ラヤバンドラ スニル
(72)【発明者】
【氏名】ティエメセン,ヘンリクス ランベルトゥス ジェラルドゥス マリア
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-503468(JP,A)
【文献】特表2012-512881(JP,A)
【文献】国際公開第2017/067980(WO,A1)
【文献】特表2007-513925(JP,A)
【文献】Journal of Inclusion Phenomena,1983年,Vol.1, pp.135-150
【文献】Journal of Parenteral Science & Technology,1989年,Vol.43, No.5, pp.231-240
【文献】薬学雑誌,2004年,Vol.124, No.24, pp.909-935
【文献】Journal of Chromatography B,2010年,Vol.878, pp.583-589
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/397
A61P 37/06
A61K 9/08
A61K 47/40
A61K 47/26
A61K 47/18
A61K 47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シポニモドと、
(B)
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン及び2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンから選択されるシクロデキストリンと、
(C)緩衝剤と、
(D)溶媒と、
(E)等張化剤と
を含む非経口製剤
であって、前記緩衝剤が2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールであり、前記溶媒が水であり、前記等張化剤が、塩化ナトリウム、トレハロース二水和物またはマンニトールであり、前記非経口製剤は、7.0~9.5のpH値を有し、フリーズドライ及び再構成されていない、非経口製剤。
【請求項2】
前記非経口製剤が液状製剤である、請求項1に記載の非経口製剤。
【請求項3】
非経口製剤は、7.0~8.0のpH値を有する、請求項1または2に記載の非経口製剤。
【請求項4】
0.05~3.5mg/mLの濃度でシポニモド(A)を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項5】
シクロデキストリン(B)が
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項6】
50~300mg/mLの濃度でシクロデキストリン(B)を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項7】
前記等張化剤(E)がマンニトールである、請求項
1~6のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項8】
5~200mg/mLの濃度で前記等張化剤(E)を含有する、請求項
1~7のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項9】
0.2~2.0mg/mLの濃度で緩衝剤(C)を含有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項10】
(A)0.05~3.5mg/mLの濃度でシポニモドと、
(B)50~300mg/mLの濃度で
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと、
(C)0.2~2.0mg/mLの濃度で2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールと、
(D)水と、
(E)5~200mg/mLの濃度でマンニトールと、
を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の非経口製剤と希釈剤とを含み、前記希釈剤が好ましくは生理食塩水である、希釈された非経口製剤。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の非経口製剤と希釈剤とを含み、前記希釈剤が好ましくは5%グルコースである、希釈された非経口製剤。
【請求項13】
(i)成分(A)~
(E)及び任意選択的に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を提供する工程と、
(ii)工程(i)の成分を混合して溶液を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の溶液を濾過する工程と、
を含
み、工程(ii)が7.0~9.5の前記溶液のpH値の調整下で行われる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の非経口製剤の調製方法。
【請求項14】
多発性硬化症の治療のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の非経口製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口投与可能なシポニモドの医薬製剤に関する。特定的には、本発明は、シポニモドを含む非経口溶液剤及び前記溶液剤の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シポニモドのIUPAC名は1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸であり、この化合物は式(I):
【化1】
の化学構造により表される。
【0003】
シポニモド(BAF312ともいう)は、神経変性疾患の治療において多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患の治療に使用される選択的スフィンゴシン-1-リン酸レセプターモジュレーターである。
【0004】
国際公開第2004/103306A2号パンフレットは、免疫抑制化合物及びその製造プロセスに関する。とくに、シポニモドの合成経路が記載されている。さらに、前記文書には、シポニモドは、一般に、いずれかの従来の投与経路により、たとえば、経腸的に、非経口的に、局所的に、経鼻形態で、又は座剤形態で投与可能であると述べられている。しかしながら、前記文書には、いずれの具体的な製剤も記載されていない。
【0005】
シポニモドの経口剤形は当技術分野で公知である。シポニモドを含有する錠剤は、たとえば、国際公開第2012/093161A1号パンフレット及び国際公開第2015/155711A1号パンフレットに記載されている。さらに、国際公開第2007/021666A2号パンフレットは、S1Pレセプターアゴニストの経口液剤に関する。
【0006】
シポニモドのさまざまな適応症を考慮して、この活性医薬成分のさらなる投与方法の必要性が存在する。
【0007】
このことを考慮して、本出願人は、輸液剤を提供するために再構成される且つ任意選択的に生理食塩水や5%グルコース(=デキストロース)溶液などでさらに希釈される凍結乾燥組成物に関する内部実験を行った。この目的のために、シポニモドと通常の凍結保護剤などの非経口グレード賦形剤とを含む凍結乾燥物含有製剤を試験した。その結果、トレハロースは、スクロース/ラクトース及びマンニトールよりも良好に凍結乾燥物を安定化させることが判明した。それにもかかわらず、凍結乾燥製剤は、通常のフリージング条件下で、すなわち、-15℃~-20℃の温度のフリーザー内で貯蔵したとき、約12ヵ月の貯蔵寿命を有していた。こうした安定性の制約を受けるため、対応する凍結乾燥製剤は、長期臨床試験に十分に好適なものとはみなせなかった。しかしながら、シポニモドの上述した医学的適応症を考慮して、かかる長期研究、さらには投与は不可欠であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、経口投与されないシポニモドの安定な製剤/剤形の必要性が依然として存在する。特定的には、貯蔵安定性などの長期臨床試験に好適な所要の性質を有する非経口製剤が依然として必要である。
【0009】
そのため、本発明の目的は、以上の欠点を克服することであった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、経口投与されないシポニモドを含むさらなる剤形を提供することであった。さらに、目的は、長期臨床試験さらには長期投与に好適なシポニモドを含むさらなる剤形を提供することであった。そのことを考慮して、剤形、特定的にはシポニモドを含む安定な剤形を提供すべきである。
【0011】
さらに、本発明の目的は、活性成分が液状形態でやや高濃度であるが安定である非経口投与に好適なシポニモドの組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の問題は、本発明の主題を考慮して克服される。本発明は、(A)シポニモドと、(B)シクロデキストリンと、(C)緩衝剤と、(D)溶媒と、任意選択的に(E)等張化剤と、を含む非経口製剤を提供する。この非経口製剤は、液状形態でありうるので、注射や注入などの静脈内投与(i.v.投与ともいう)に好適でありうる。
【0013】
さらに、本発明は、
(i)(A)シポニモドと、(B)シクロデキストリンと、(C)緩衝剤と、(D)溶媒と、任意選択的に(E)等張化剤と、任意選択的に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と、を提供する工程と、
(ii)工程(i)の成分を混合して溶液を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の溶液を濾過する工程と、
を含む本非経口製剤の調製方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書の説明及び請求項の全体を通じて、「~を含む」及び「~を含有する」という語並びにそれらの変化形は、「限定されるものではないが~を含む」を意味し、それらは他の部分、追加、成分、整数、又は工程を除外することを意図するものではない(除外しない)。
【0015】
本明細書の説明及び請求項の全体を通じて、単数形は、文脈上とくに必要とされない限り、複数形を包含する。特定的には、不定冠詞が用いられる場合、本明細書(この用語は説明及び請求項の両方を包含する)では、文脈上とくに必要とされない限り、単数だけでなく複数も企図するものと理解すべきである。
【0016】
本発明の特定の態様、実施形態、又は実施例との関連で記載される特徴、整数、特性、化合物、化学部分、又は基は、とくに互いに矛盾しない限り、本明細書に記載のいずれの他の態様、実施形態、又は実施例にも適用可能であるものと理解すべきである。本明細書(いずれの添付の請求項、要約、及び図面も含めて)に開示される特徴はすべて並びに/又はそのように開示されるいずれの方法若しくはプロセスの工程もすべて、かかる特徴及び/又は工程の少なくとも一部が相互に排他的である組合せを除いて、いずれの組合せでも組み合わせうる。本発明は、いずれの以上の実施形態の詳細にも限定されるものではない。本発明は、本明細書(いずれの添付の請求項、要約、及び図面も含めて)に開示される特徴のいずれの新規な1つ若しくはいずれの新規な組合せにも、又はそのように開示されるいずれの方法若しくはプロセスの工程のいずれの新規な1つ若しくはいずれの新規な組合せにも拡張される。
【0017】
「治療」という用語は、(1)病状、障害、若しくは病態に罹患している可能性があるが又はその素因を有する可能性があるが病状、障害、若しくは病態の臨床症状若しくは準臨床症状をまだ経験も提示もしていない動物とくに哺乳動物とりわけヒトにおいて発生する病状、障害、若しくは病態の臨床症状の発症を予防若しくは遅延すること、(2)病状、障害、若しくは病態を抑制すること(たとえば、疾患の発生若しくは維持治療の場合のその再発、少なくとも1つのその臨床症状若しくは準臨床症状の発生を停止、低減、若しくは遅延すること)、及び/又は(3)病態を軽減すること(すなわち、病状、障害、若しくは病態又は少なくとも1つのその臨床症状若しくは準臨床症状の退縮を引き起こすこと)を含む。治療される患者への奏効は、統計的に有意であるか又は患者若しくは医師に少なくとも知覚可能であるかのどちらかである。しかしながら、疾患を治療するために患者に医薬を投与する場合、アウトカムが必ずしも有効治療でない可能性があることは分かるであろう。
【0018】
一般に、非経口製剤は、胃腸管をバイパスして投与される製剤とみなしうる。欧州薬局方(Ph.Eur.)、第8.0版、セクション”Parenteralia”を参照されたい。好ましい実施形態では、本発明の製剤は注入又は注射により投与される。特定的には、本発明の製剤は静脈内投与される。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明の非経口製剤は液状形態で存在する。好ましくは、本発明の非経口製剤は溶液剤である。サスペンジョン剤はそれほど好ましいものではない。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明の非経口製剤は濃厚剤の形態でありうる。
【0021】
本出願の範囲内では、「濃厚剤」とは、好ましくは患者に直接投与されずに投与前に希釈される非経口製剤のことをいう。たとえば、濃厚剤は、注入や注射などで投与可能である即使用可能な製剤を与えるために、5%グルコース溶液や生理食塩水などの好適な液体で希釈可能である。代替的に(ただし、それほど好ましいものではないが)、濃厚剤は、直接投与するように使用しうる。一般に、当技術分野では、濃厚剤は「非経口剤形(Parenteralia diluenda)」ともいう。
【0022】
好ましい代替実施形態では、非経口製剤は「即使用可能な」製剤でありうる。本発明に関連する「即使用可能な」という用語は、典型的には、製剤を注射することなどにより患者に非経口製剤を投与する前にさらなる調製工程が必要でないことを意味する。さらに、非経口製剤の投与前に注射のために水などのさらなる添加剤や溶媒を添加する必要性はない。
【0023】
代替実施形態では、非経口製剤は、注入剤などの所望の剤形にさらに処理可能である。注入剤を調製するために、非経口溶液剤は、さらなる添加剤及び溶媒とくに注射用水と組合せ可能である。かかる輸液剤は、続いて点滴を介して患者に投与しうる。
【0024】
一般に、医薬製剤は、ある特定の安定性を有することが期待される。好ましい実施形態では、本発明の製剤は安定な非経口製剤である。より好ましくは、本発明の製剤は、2~8℃の温度で貯蔵したとき、少なくとも15ヶ月間、さらにより好ましくは少なくとも20ヶ月間、より特定的には少なくとも24ヶ月間の貯蔵寿命を有する。
【0025】
本発明に係る非経口製剤は、化合物(A)~(D)を含む。本発明の製剤に含まれる化合物(A)は、活性医薬成分シポニモドである。
【0026】
本発明との関連では、「シポニモド」という用語は、以上の式(I)に示される1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸を意味する。そのほか、本出願で用いられる「シポニモド」という用語は、遊離形のシポニモド、さらにはその薬学的に許容可能な塩、水和物、溶媒和物、多型、共結晶、及び/又はそれらの混合物を意味しうる。
【0027】
好ましい実施形態では、シポニモドは、塩などの酸付加物又は共結晶の形態で製剤に添加される。
【0028】
薬学的に許容可能な塩は、たとえば、シポニモドと酸とのを反応により得ることが可能である。シポニモドの化合物の薬学的に許容可能な塩の例としては、無機酸との塩、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及び硫酸塩、さらには酢酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸との塩、さらにはメタンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などのスルホン酸との塩、又は適切な場合、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウムなどの金属との塩、トリメチルアミンなどのアミンとの塩、及びリシンなどの二塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
【0029】
本発明の組合せの化合物及び塩は、水和物形及び溶媒和物形を包含する。
【0030】
好ましい実施形態では、シポニモドは、フマル酸との酸付加物の形態で製剤に添加される。
【0031】
より好ましい実施形態では、シポニモドは、共結晶の形態で製剤に添加される。
【0032】
一般に、共結晶とは、同一格子内の2つ以上の異なる分子で構成された結晶性材料のことをいいうるが、こうした2つ以上の分子は不揮発性である。共結晶は、好ましくは塩とは識別しうる。なぜなら、その成分は、塩とは異なり中性状態であり且つ非イオン的に相互作用するからである。
【0033】
特定の好ましい実施形態では、シポニモド(A)は、シポニモドとフマル酸との共結晶(これ以降では、1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸-フマル酸共結晶ともいう)として製剤に添加される。フマル酸と1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸との比は、たとえば0.3~0.7の範囲内、好ましくは約0.5であり得る。本発明のシポニモドとフマル酸との好ましい共結晶のIUPAC名は、(2E)-ブト-2-エン二酸-1-({4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ}エタンイミドイル]-2-エチルフェニル}メチル)アゼチジン-3-カルボン酸(1/2)である。
【0034】
さらにより好ましい実施形態では、シポニモドは、6.9、10.1、10.6、12.1、17.5、18.1、及び20.7°(2θ)に特定のピークをもつX線粉末回折パターンを有する多型体形Aの1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸-フマル酸共結晶として使用される。
【0035】
本発明の代替的に好ましい実施形態では、シポニモドは遊離形で使用される。とくに記載がない限り、本出願の範囲内では、シポニモドの量又は重量%は遊離形のシポニモドの量を基準にする。すなわち、シポニモドが塩形で存在する場合、それに応じて遊離形の量を計算しなければならない。たとえば、シポニモドが1.00gの量のそのHCl塩形で存在する場合、この量は約0.93の遊離シポニモドに対応する。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、本発明の非経口製剤は、さらなるAPI、好ましくは非経口製剤の効果を増強するのに好適なAPIを含みうる。さらなるAPIは、他の薬剤、たとえば、免疫抑制剤、ステロイド剤、たとえば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンデキサメタゾン、ヒドロコルチゾンなど、又は非ステロイド系抗炎症剤を含みうる。組合せ治療剤の投与量は、各活性剤の有効性及び作用部位さらには組合せ療法に使用される作用剤間の相乗効果に依存しうる。
【0037】
好ましい代替実施形態では、シポニモドは、本発明に係る製剤及び/又は治療剤の唯一の活性医薬成分として使用される。
【0038】
本発明の非経口製剤は、好ましくは0.05~3.5mg/mL、好ましくは0.1~2.0mg/mL、より好ましくは0.015~1.5mg/mLの濃度でシポニモドを含有する。とくに好ましい実施形態では、濃厚剤の形態で存在する非経口製剤は、0.25mg/mL、0.5mg/mL、又は1.0mg/mL、とりわけ1mg/mLの濃度でシポニモドを含有可能である。
【0039】
シポニモドの以上に記載の濃度に関する限り、このことは濃厚剤としてすなわちさらに希釈されない形態で存在する非経口製剤に当てはまる。濃厚剤がたとえば輸液剤を形成するためにさらに希釈される場合、濃度がより低くなることは明らかである。
【0040】
さらに、本発明に係る非経口製剤は(B)シクロデキストリンを含む。
【0041】
本出願では、「シクロデキストリン」という用語は、非還元性環状オリゴ糖及びその混合物を意味する。好ましくは、前記環状糖は、α-1,4グリコシド間結合により結合された6、7、8、又は9グルコース単位を含む。
【0042】
6グルコース単位で構成された且つα-1,4結合により結合された環形状分子とは、式(II):
【化2】
により表されるα-シクロデキストリンのことをいいうる。
【0043】
7グルコース単位で構成された且つα-1,4結合により結合された環形状分子とは、式(III):
【化3】
により表されるβ-シクロデキストリンのことをいいうる。
【0044】
8グルコース単位で構成された且つα-1,4結合により結合された環形状分子とは、式(IV):
【化4】
により表されるγ-シクロデキストリンのことをいいうる。
【0045】
シクロデキストリンは、α-シクロデキストリンやγ-シクロデキストリンなどのシクロデキストリンの水和物形で製剤に添加可能である。
【0046】
シクロデキストリンは、天然に存在するシクロデキストリン又は化学修飾されたシクロデキストリンでありうる。
【0047】
好ましい実施形態では、本発明のシクロデキストリンは(部分)置換可能である。置換は、アセチル基、アルコキシ基たとえばカルボキシメチル、ヘテロ芳香族基又は芳香族基たとえばベンジル、ヘテロアルキル基又はアルキル基、好ましくはC1~C8アルキル基、たとえばメチル、エチル、プロピル、ブチル、及びペンチル、又はヒドロキシアルキル基、たとえばヒドロキシエチル及びヒドロキシプロピルにより達成可能である。好ましくは、シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル基により(部分)置換可能である。
【0048】
シクロデキストリンの例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)、ランダムメチル化β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBEBCD)、γ-シクロデキストリン、及び2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)が挙げられる。好ましいのは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)、及びγ-シクロデキストリンである。
【0049】
「γ-シクロデキストリン」という用語は、好ましくは「非置換形」を意味する(以上の式(IV)に示される通り)。このことは、γ-シクロデキストリンが好ましくは化学修飾されていないこと、すなわちアルキル化もヒドロキシルアルキル化もされていないことを意味する。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、本非経口製剤は、化合物(B)としてβ-シクロデキストリンを含む。より好ましくは、β-シクロデキストリンは、化学修飾とりわけアルキル化又はヒドロキシルアルキル化が可能である。好適な修飾β-シクロデキストリンの例は、ジメチルβ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、ヒドロキシエチルβ-シクロデキストリン、ジヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、及びそれらの混合物である。
【0051】
さらなる好ましい実施形態では、本非経口製剤の化合物(B)としてヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンを使用可能であり、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンは、以下の式(V):
【化5】
により表される。
【0052】
ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンの平均置換度は、好ましくは2~7.0、より好ましくは3~6.5、さらにより好ましくは4~6の範囲内である。とくに好ましい実施形態では、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンの平均置換度は約4.5である。代替的にとくに好ましい実施形態では、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンの平均置換度は約5.6である。平均置換度は、置換基数/シクロデキストリン環として理解される。とりわけ4~6の平均置換度は、非経口製剤の優れた安定化をもたらす。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、シクロデキストリンは、25℃の水への溶解性が15~1000mg/ml、好ましくは50~800mg/ml、より好ましくは100~650mg/mlである。水への溶解性は、危険物質に関する指令(Dangerous Substances Directive)(67/548/EEC)、Annex V、chapter A6のカラム溶出方法に準拠して決定可能である。
【0054】
本発明の非経口製剤は、好ましくは50~300mg/mL、好ましくは65~200mg/mL、より好ましくは80~150mg/mLの濃度でシクロデキストリン(B)を含有する。とくに好ましい実施形態では、非経口製剤は、約100mg/mLの濃度でシクロデキストリンを含有可能である。
【0055】
本発明の非経口製剤は、好ましくは5~30wt.%、好ましくは6.5~20wt.%、より好ましくは8.0~15.0wt.%の量でシクロデキストリン(B)を含有する。とくに好ましい実施形態では、非経口製剤は、約10wt.%の量でシクロデキストリンを含有可能である。
【0056】
シクロデキストリンがあまりにも高い濃度で存在すると、注入剤を投与するとき、材料(たとえば、バッグ、シリンジ、チューブ、インラインフィルター)に存在する可塑剤などの物質を望ましくないほど溶解するおそれがある。さらに、シクロデキストリンの濃度があまりにも低いと、非経口製剤の十分な安定化が提供されないおそれがある。
【0057】
シクロデキストリンの濃度/量に関する限り、シポニモドの濃度に関して以上に記載したのと同じことが当てはまる。すなわち、以上の濃度/量は、濃厚剤としてすなわちさらに希釈されない形態で存在する非経口製剤に当てはまる。
【0058】
さらに、本発明に係る非経口製剤は(C)緩衝剤を含む。
【0059】
緩衝剤は、好ましくは、非毒性で不活性の生理学的に無害な物質である。緩衝剤は、pH値を調整するために及び/又は安定化させるために液状製剤に添加される。緩衝剤のpH値は、脱塩水中へのその溶解後に得られる。好ましい実施形態では、5mM(0.61mg/mL)の量の緩衝剤は、7~9.5、好ましくは7.2~9.3、より好ましくは7.5~9.0、特定的には約8.0のpH値を有する緩衝溶液をもたらす。
【0060】
緩衝剤の例は、ヒスチジン、グリシン、アルギニン、ハロゲン化アンモニウムたとえば塩化アンモニウム、トリエタノールアミン(トリス(2-ヒドロキシエチル)アミンともいう)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン又はトロメタモールともいう)である。好ましいのは、トリエタノールアミン及び2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである。最も好ましいのは、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである。
【0061】
非経口製剤は、好ましくは0.2~2mg/mL、好ましくは0.3~1.5mg/mL、より好ましくは0.4~1.0mg/mL、特定的には0.5~0.8mg/Lの濃度で緩衝剤(C)を含有する。より好ましい実施形態では、非経口製剤は、0.2~2mg/mL、特定的には約0.6mg/mLの濃度で緩衝剤として2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含有可能である。
【0062】
非経口製剤は、好ましくは0.02~0.2wt.%、好ましくは0.03~0.15wt.%mg/mL、より好ましくは0.04~0.1wt.%、特定的には0.05~0.08wt.%の量で緩衝剤(C)を含有する。より好ましい実施形態では、非経口製剤は、0.02~0.2wt.%、特定的には約0.06wt.%の量で緩衝剤として2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含有可能である。
【0063】
緩衝剤の濃度に関する限り、製剤のさらなる成分の濃度に関して以上に記載したのと同じことが当てはまる。
【0064】
さらに、本発明に係る非経口製剤は(D)溶媒を含む。以上に記載したように、非経口製剤は液状形態でありうるので、注射や注入などの静脈内投与に好適でありうる。
【0065】
一般に、いずれの薬学的に許容可能な溶媒も、溶媒(D)として使用可能である。好ましい実施形態では、溶媒は、水とくに注射用水とりわけ欧州薬局方(Ph.Eur.)、第8.0版、2014年に定義される注射用水である。より具体的には、注射用水では、コロニー形成性好気性微生物の数は、寒天培地Bと試験される少なくとも200mLの水とを用いて膜濾過により決定したとき、好ましくは10微生物/100mL以下である。さらに、注射用水の伝導率は20℃で多くとも1.1μS・cm-1であり、且つ有機炭素の全量は多くとも0.5mgL-1である。
【0066】
さらに、本発明に係る非経口製剤は(E)等張化剤を含みうる。
【0067】
一般に、「張度」は、拡散の方向及び範囲を決定する溶液に溶解された溶質の相対濃度とみなしうる。
【0068】
2つの溶液は、それらの有効オスモル濃度が他方の溶液のものと同一である場合、等張であると考えられる。生物学では、細胞外の溶質の濃度が細胞内の溶質の濃度と等しい場合、細胞膜の両側の溶液は等張である。この場合には、細胞膜を横切って大量の水の拡散を誘発する濃度勾配が存在しないので、細胞は腫脹も収縮もしない。
【0069】
本出願の範囲内では、等張化剤(等張性剤又は張度調整剤ということもある)とは、参照溶液と同一の有効オスモル濃度を示す溶液を形成するために溶液剤などの製剤に添加される化合物のことをいいうる。さらに、本出願の範囲内では、参照溶液は体液とくに血液である。このことは、等張化剤が、溶液を体液とくに血液と等張になるように調整して両方の溶液が同一の浸透圧を呈するようにするために使用される化合物であることを意味する。
【0070】
等張化剤は好ましくは不活性化合物であり、いずれの薬理活性も呈しない。
【0071】
等張化剤の例は、デキストロース一水和物、無水デキストロース、グリセリン、マンニトール、トレハロース二水和物、塩化カリウム、及び塩化ナトリウムである。塩化ナトリウム、トレハロース二水和物、及びマンニトールが好ましい。より好ましいのは、トレハロース二水和物及びマンニトール、特定的にはマンニトールである。
【0072】
非経口製剤は、好ましくは5~200mg/mL、好ましくは10~100mg/mL、より好ましくは20~80mg/mLの濃度で等張化剤(E)を含有する。より好ましい実施形態では、非経口製剤は、たとえば20~100mg/mL、特定的には60mg/mLの濃度で等張化剤としてトレハロース二水和物を含有可能である。とくに好ましい実施形態では、非経口製剤は、たとえば10~100mg/mL、特定的には30mg/mLの濃度で等張化剤としてマンニトールを含有可能である。
【0073】
非経口製剤は、好ましくは0.5~20.0wt.%、好ましくは1.0~10.0wt.%、より好ましくは2.0~8.0wt.%の量で等張化剤(E)を含有する。より好ましい実施形態では、非経口製剤は、たとえば2.0~10.0wt.%、特定的には6.0wt.%の量で等張化剤としてトレハロース二水和物を含有可能である。とくに好ましい実施形態では、非経口製剤は、たとえば1.0~10.0wt.%、特定的には3wt.%の量で等張化剤としてマンニトールを含有可能である。
【0074】
等張化剤の濃度に関する限り、シポニモド及び/又はシクロデキストリンの濃度に関して以上に記載したのと同じことが当てはまる。すなわち、以上の濃度/量は、濃厚剤としてすなわちさらに希釈されない形態で存在する非経口製剤に当てはまる。
【0075】
一般に、以上に規定される本発明の実施形態はすべて、互いに組合せ可能である。本発明の好ましい実施形態では、非経口製剤は、好ましくは濃厚剤の形態であり、したがって、
(A)0.05~3.5mg/mL、好ましくは0.1~2.0mg/mL、より好ましくは0.015~1.5mg/mL、特定的には1.0mg/mLの濃度でシポニモドと、
(B)50~300mg/mL、好ましくは65~200mg/mL、より好ましくは80~150mg/mL、特定的には、約100mg/mLの濃度でヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと、
(C)0.2~2.0mg/mL、好ましくは0.3~1.5mg/mL、より好ましくは0.4~1.0mg/mL、さらにより好ましくは0.5~0.8mg/mL、特定的には約0.60mg/mLの濃度で2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールと、
(D)水と、任意選択的に
(E)5~200mg/mL、好ましくは10~100mg/mL、より好ましくは20~80mg/mL、特定的には30mg/mLの濃度でマンニトールと、
を含む。
【0076】
本非経口製剤は、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含有しうる。薬学的に許容可能な賦形剤の例は、pH調整物質、キレート化剤、可溶化剤、増粘剤、湿潤剤、及び抗酸化剤である。
【0077】
pH調整物質は、製剤のpH値を所望の値に調整するのに好適な物質である。2つのクラスのpH調整物質、すなわち、製剤のpH値を増大させるpH調整物質及び製剤のpH値を低下させるpH調整物質が存在する。製剤のpH値を増大させるpH調整物質は、たとえばNaOHなどのアルカリ性物質でありうる。製剤のpH値を低下させるpH調整物質は、たとえばHClなどの酸性物質でありうる。
【0078】
可溶化剤は、より容易に所望の媒体(液体)に溶解されるように活性医薬成分の溶解性を増加させるのに役立つ作用剤である。可溶化剤は、界面活性剤と共溶媒とに大別可能である。界面活性剤は、親油性を提示することにより薬剤物質の溶解性を増加させ、一方、共溶媒は、他の溶媒(たとえば水)との組合せで溶質を溶解可能な溶媒として定義される。好ましくは、界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)、ソルビタンモノオレエートポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)、クレモフォールELレシチン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Pluronic)、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、共溶媒は、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、ポリエチレングリコール(300及び400)、ソルビトール、ジメチルアセトアミド、及びそれらの混合物から選択される。
【0079】
好ましくは、可溶化剤は、0.1~5mg/mLの濃度で非経口製剤に存在する。
【0080】
抗酸化剤は、製品の貯蔵寿命にわたりAPI又は賦形剤の酸化反応を防止/最小化するために使用され、一方、抗微生物剤は、API製品における微生物の成長を防止するために使用される。典型的な抗酸化剤は、アスコルビン酸、アセチルシステイン、亜硫酸塩(重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩)、モノチオグリセロール、クエン酸、又はそれらの混合物から選択される。
【0081】
好ましくは、注射用組成物中の抗酸化剤の濃度は、0.1~5.0mg/mLの範囲内である。
【0082】
非経口製剤は、当技術分野では抗微生物剤ともいう保存剤を実質的に含まない。実質的に含まないとは、注射用組成物中の保存剤又は抗微生物剤の量が0.1mg/mL未満、好ましくは0.01mg/mL未満であることを意味する。最も好ましい実施形態では、注射用組成物は保存剤を含まない。
【0083】
先行技術の組成物に含まれる典型的な保存剤又は抗微生物剤は、たとえば、ホルムアルデヒド、フェノール、メタ-クレゾール、ベンジルアルコール、パラベン(たとえば、メチル、プロピル、ブチル)、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、フェニル水銀塩(酢酸塩、ホウ酸塩、硝酸塩)、又はそれらの混合物から選択される。プロピル、メチル、及びブチルパラベンは、化学的にはp-ヒドロキシ安息香酸のプロピル、メチル、及びブチルエステルともいう。好ましい態様では、注射用組成物はパラベンを含まない。
【0084】
本発明の非経口製剤は、凍結乾燥形態又は代替的に液体形態である。好ましい実施形態では、非経口製剤は液状製剤である。すなわち、本製剤は、以上に記載の成分から液剤、好ましくは溶液剤として直接調製され、さらなる処理工程を必要とすることなく液体として貯蔵される。液状製剤の形態の本非経口製剤は、それほど好ましいものではないが、(i)フリーズドライ(凍結乾燥)工程と、(ii)凍結乾燥形態での貯蔵工程と、(iii)後続の再構成工程と、の結果である。
【0085】
驚くべきことに、本発明の製剤は、液体形態で保存したとき、凍結乾燥形態のそれぞれの製剤と比較してより安定であることが分かった。
【0086】
さらに、本出願は、
(i)成分(A)~(D)及び任意選択的に(E)等張化剤及び任意選択的に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を提供する工程と、
(ii)工程(i)の成分を混合して溶液を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の溶液を濾過する工程と、
を含む本非経口製剤の調製方法に関する。
【0087】
工程(i)では、成分(A)~(D)及び任意選択的に(E)等張化剤及び任意選択的に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤が提供される。工程(i)では、水を提供することは、好ましくは水の全量を2つの部分に分割することを含み、水の一方の部分は、好適な反応槽に移すことが可能である。反応槽に好ましく移すことが可能な水の部分は、水の全量の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、特定的には約80%でありうる。水の第2の残りの部分は、水の全量の多くとも40%、好ましくは多くとも30%、特定的には約20%でありうる。
【0088】
工程(ii)では、工程(i)の成分が混合される。混合は、たとえば、撹拌により行うことが可能である。好ましい実施形態では、成分(A)~(D)及び任意選択的に(E)等張化剤及び任意選択的にさらなる医薬賦形剤は、いずれかの順序で個別に反応槽内の水に添加可能である。そのほか、水の残りの第2の部分は、好ましくは、所望の目標体積で混合物の体積を調整するために混合物に添加可能である。さらに、好ましい実施形態では、工程(ii)は溶液のpH値の調整下で行われる。所望の目標値にpHを調整するのに十分な量のNaOH又はHClのどちらかを混合物に添加することが好ましく、前記目標値は、好ましくは約pH8である。工程(ii)の終了時、混合物は、好ましくは目視検査により制御可能な溶液である。
【0089】
工程(iii)では、工程(ii)の溶液が濾過される。濾過は、好ましくは精密濾過として行われる。精密濾過は、メンブレンフィルターなどのマイクロ多孔性媒体に通すことにより流体からミクロン範囲の粒子又は生物学的エンティティーを除去可能な技術である。精密濾過に好適なフィルターは、たとえば0.22μポリビニリデンジフルオライド(PVDF)フィルターである。濾過された溶液は本非経口製剤に対応する。
【0090】
好ましい実施形態では、非経口製剤は、好ましくは5%グルコース又は生理食塩水を用いて、たとえば1:4~1:1000、好ましくは1:10~1:100の比で投与前に希釈可能である。また、希釈された製剤も本発明の一部である。
【実施例】
【0091】
限定されるものではないが以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0092】
実験の部
参照例:(シクロデキストリンなし)
884.2gのトレハロースを18000mLのミリQ水に添加し、完全に溶解するまで混合物を撹拌した。12.0gの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス、トロメタモール)を添加し、完全に溶解するまで混合物を撹拌した。100gのポリオキシエチレン(20)-ソルビタン-モノオレエート(Tween80、ポリソルベート80)を添加し、完全に溶解するまで混合物を撹拌した。5.56g(正確に秤量)のシポニモドヘミフマレートを添加し、完全に溶解するまで混合物を撹拌した。溶液のpHを8.0±0.1の値に調整した。ミリQ水を20.28Kgの全重量まで添加し、混合物を撹拌して均一な溶液を得た。溶液を0.22μmのPVDFフィルターに通して濾過し、濾液の最初の5000mLを廃棄した。溶液を6R透明バイアル(DIN/ISO8362)に充填した。
【0093】
【0094】
以下のサイクルに従って生成物を凍結乾燥させた。
【0095】
凍結乾燥サイクルのパラメーター
シポニモド製剤の凍結乾燥プログラム
【0096】
【0097】
凍結乾燥に使用した装置は、SP scientific製の「VIRTIS GENESIS 25EL」であった。
【0098】
再構成のために注射用水を使用した。
【0099】
ストレス条件下(40℃、75%rh)で生成物の安定性を試験した。1ヶ月後、変性物の和は10~12%であった。
【0100】
実施例1:非経口製剤
250mLのミリQ水を好適なガラスボトルに移し、50gのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを添加した。混合物を500rpmで30分間撹拌し、透明溶液を形成した。556mg(正確に秤量)の1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸/フマル酸(2:1)共結晶を添加し、混合物を500rpmで15分間撹拌し、サスペンジョンを形成した。305mgの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス、トロメタモール)を添加し、混合物を500rpmで60分間撹拌し、7.897のpH値を有する透明溶液を形成した。250μlの1N NaOHを添加し、500rpmで2分間攪拌した後、7.983のpH値を有する透明溶液を形成した。15gのマンニトールを添加し、混合物を500rpmで15分間撹拌し、透明溶液を形成した。ミリQ水を添加し、8.015のpH値を有する透明溶液の体積が500mLになるまで充填した。溶液を0.22μmのPVDFフィルターに通して濾過し、濾液の最初の20mLを廃棄した。溶液を2R透明バイアルに充填した。2mL透明ガラスバイアル及びグレーゴムストッパー、アルミニウムフリップオフキャップ天然/天然を、充填前に121℃で30分間オートクレーブ処理した。バイアルを使用時まで2~8℃で貯蔵した。各バイアルは以下を含有する。
【0101】
【0102】
実施例2:非経口製剤
250mLのミリQ水を好適なガラスボトルに移し、50gのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを添加した。混合物を500rpmで30分間撹拌し、透明溶液を形成した。556mg(正確に秤量)の1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸/フマル酸(2:1)共結晶を添加し、混合物を500rpmで15分間撹拌し、サスペンジョンを形成した。305mgの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス、トロメタモール)を添加し、混合物を500rpmで60分間撹拌し、7.878のpH値を有する透明溶液を形成した。250μlの1N NaOHを添加し、500rpmで2分間攪拌した後、7.997のpH値を有する透明溶液を形成した。3gの塩化ナトリウムを添加し、混合物を500rpmで15分間撹拌し、8.112のpH値の透明溶液を形成した。220μlの1N HClを添加し、500rpmで10分間攪拌した後、8.004のpH値を有する透明溶液を形成した。8.002のpH値を有する500mLの体積の透明溶液が形成されるまで、ミリQ(MilliQ)水を添加した。溶液を0.22μmのPVDFフィルターに通して濾過し、濾液の最初の20mLを廃棄した。溶液を2R透明バイアルに充填した。2mL透明ガラスバイアル及びグレーゴムストッパー、アルミニウムフリップオフキャップ天然/天然を、充填前に121℃で30分間オートクレーブ処理した。バイアルを使用時まで2~8℃で貯蔵した。各バイアルは以下を含有する。
【0103】
【0104】
実施例3:非経口製剤
【0105】
【0106】
実施例4:安定性試験
4.1.異なる量のヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの影響
A:1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸/フマル酸(2:1)共結晶(0.556mg)、0.6mgの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス)、pH8、及びヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン100mg(A1)、150mg(A2)、200mg(A3)を含有する溶液(1mL)を調製した。
【0107】
B:1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸/フマル酸(2:1)共結晶(0.556mg)、0.6mgの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス)、pH8、及びヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(100mg、150mg、200mg)を含有する溶液(1mL)を調製し、以上の参照例に記載の条件下で凍結乾燥させ、それぞれ凍結乾燥物B1、B2、及びB3を形成した。
【0108】
溶液A1~A3及び凍結乾燥物B1~B3を1ヶ月間(1M)及び3ヵ月間(3M)にわたりストレス条件下で貯蔵した。続いて、以上の参照例に記載されるように凍結乾燥物B1~B3を再構成し、すべてのサンプルの不純物量を決定した。各サンプルの不純物量は以下の表S1に示される。
【0109】
【0110】
表S1から分かるように、凍結乾燥しないバリアントは凍結乾燥したものよりも有意に少ない不純物を呈する。
【0111】
4.2.pH値の影響
以下の組成の溶液を調製した。
【0112】
【0113】
さらに、C1~C4の組成を有する溶液を調製し、以上の参照例に記載の条件下で凍結乾燥させ、それぞれ凍結乾燥物D1~D4を形成した。
【0114】
溶液C1~C4及び凍結乾燥物D1~D4を1ヶ月間(1M)及び3ヵ月間(3M)にわたりストレス条件下で貯蔵した。続いて、以上の参照例に記載されるように凍結乾燥物D1~D4を再構成し、すべてのサンプルの不純物量を決定した。各サンプルの不純物量は以下の表S2に示した。
【0115】
【0116】
表S2から分かるように、凍結乾燥しないバリアントは凍結乾燥したものよりも有意に少ない不純物を呈する。さらに、pH値に関して、凍結乾燥しないバリアントはpH8で有利に安定化され、一方、凍結乾燥バリアントの安定化の最適値はpH7であることが判明した。
【0117】
実施例5:結晶化
結晶形態Aの1-{4-[(1E)-N-{[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}エタンイミドイル]-2-エチルベンジル}-3-アゼチジンカルボン酸/フマル酸(34.6mg)を50℃の5mlのアセトンに溶解させ、得られた無色透明溶液をフリッジに直接貯蔵した。貯蔵1日後、白色沈澱物をP4ガラスフィルターに通して濾過し、サンプルから空気を約3分間吸引した。
【0118】
シポニモド-フマル酸修飾体Aの結晶構造
【0119】
【0120】
強度データは、単色Cu(Ka)放射線(Helios MX共焦点ミラーモノクロメーター)、マイクロフォーカス回転アノード発生器、及びSMARTソフトウェア(Bruker AXS(2005))を用いたSmart6000 CCD検出器を備えたBruker AXS三軸回折計を用いて100Kで収集した。異なるf位置で13wスキャンを行って適切なデータ冗長性を保証した。Saint(Bruker AXS(2006))を用いてデータ処理及びグローバル格子精密化を実施した。異なる角度設定で測定された対称性関連反射強度に基づいて半経験的吸収補正を適用した(Sheldrick GM(2008))。
【0121】
【0122】
以上の表に提示された且つ以下に列挙された4つのペア(O-H・・・O)は、プロトンとフマル酸のカルボン酸酸素との間の結合長がシポニモドのカルボン酸酸素までの距離の半分にすぎないこと示すことから、プロトンがフマル酸上に堅固に位置し、そのため、シポニモド-フマル酸が共結晶であることが証明される。
【0123】
4つのペア(O-H・・・O):
(a):O(301)-H(301)…O(37)、(b):O(311)-H(311)…O(237)、(c):O(317)-H(3317)…O(77)、及び(d):O(321)-H(321)…O(197)。
【化6】
本発明は次の実施態様を含む。
[1]
(A)シポニモドと、
(B)シクロデキストリンと、
(C)緩衝剤と、
(D)溶媒と、
を含む非経口製剤。
[2]
前記非経口製剤が液状製剤である、上記[1]に記載の非経口製剤。
[3]
(E)等張化剤をさらに含む、上記[1]又は[2]に記載の非経口製剤。
[4]
0.05~3.5mg/mLの濃度でシポニモド(A)を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の非経口製剤。
[5]
シクロデキストリン(B)がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の非経口製剤。
[6]
50~300mg/mLの濃度でシクロデキストリン(B)を含有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の非経口製剤。
[7]
前記等張化剤(E)がマンニトールである、上記[3]~[6]のいずれかに記載の非経口製剤。
[8]
5~200mg/mLの濃度で前記等張化剤(E)を含有する、上記[3]~[7]のいずれかに記載の非経口製剤。
[9]
23℃の脱塩水1000ml中0.005M(5mM)の量で前記緩衝剤(C)を溶解させることにより、7.0~9.5のpH値を有する緩衝溶液が得られる、上記[1]~[8]のいずれかに記載の非経口製剤。
[10]
前記緩衝剤(C)が2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである、上記[1]~[9]のいずれかに記載の非経口製剤。
[11]
0.2~2.0mg/mLの濃度で緩衝剤(C)を含有する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の非経口製剤。
[12]
(A)0.05~3.5mg/mLの濃度でシポニモドと、
(B)50~300mg/mLの濃度でヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと、
(C)0.2~2.0mg/mLの濃度で2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールと、
(D)水と、
(E)5~200mg/mLの濃度でマンニトールと、
を含む、上記[1]~[11]のいずれかに記載の非経口製剤。
[13]
前記非経口製剤がフリーズドライ及び再構成されていない、上記[2]~[11]のいずれかに記載の非経口製剤。
[14]
上記[1]~[13]のいずれかに記載の非経口製剤と希釈剤とを含み、前記希釈剤が好ましくは生理食塩水である、希釈された非経口製剤。
[15]
上記[1]~[13]のいずれかに記載の非経口製剤と希釈剤とを含み、前記希釈剤が好ましくは5%グルコースである、希釈された非経口製剤。
[16]
(i)成分(A)~(D)及び任意選択的に(E)等張化剤及び任意選択的に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を提供する工程と、
(ii)工程(i)の成分を混合して溶液を形成する工程と、
(iii)工程(ii)の溶液を濾過する工程と、
を含む、上記[1]~[15]のいずれかに記載の非経口製剤の調製方法。
[17]
工程(ii)が前記溶液のpH値の調整下で行われる、上記[16]に記載の方法。
[18]
医薬としての上記[1]~[15]のいずれかに記載の非経口製剤の使用。