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  • 特許-生物学的結合分子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】生物学的結合分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20230501BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230501BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K19/00
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61P35/02
A61K47/64
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020522786
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2018068317
(87)【国際公開番号】W WO2019008129
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】17001166.2
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17001167.0
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18162672.2
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520002209
【氏名又は名称】アー・ファウ・アー ライフサイエンス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVA Lifescience GmbH
【住所又は居所原語表記】Ferdinand-Porsche-Strasse 5/1, 79211 Denzlingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ビアスナー
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン ユマー
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー クラップロート
(72)【発明者】
【氏名】マーク アー. ケセマイアー
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】Biochim. Biophys. Acta, 2016, 1863(3), pp.401-413
【文献】Blood Cells Mol. Dis., 2015, 55(3), pp.255-265
【文献】Nat. Commun., 2017, 8:15746
【文献】Nature, 2012, 489(7415), pp.309-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体に選択的に結合する生物学的結合分子であって、前記生物学的結合分子は、抗体またはその抗原結合部位を含む断片であり、それぞれ配列番号11、配列番号12および配列番号13で表される可変重鎖のCDR1、CDR2およびCDR3と、それぞれ配列番号14、配列番号15および配列番号16で表される可変軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3を含み、かつ、前記自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体は、前記結合分子が選択的に結合し、かつ前記B細胞受容体の自律的に活性な状態または自律的に活性化された状態の原因となる構造ドメインまたはエピトープの存在を特徴とする、生物学的結合分子。
【請求項2】
サブセット2に特徴的な前記B細胞受容体の標的配列に選択的に結合することを特徴とする、請求項1記載の生物学的結合分子。
【請求項3】
T細胞特異的活性化ドメインとの融合タンパク質の形態で存在することを特徴とする、請求項1または2記載の生物学的結合分子。
【請求項4】
B細胞新生物を単離または死滅させるための少なくとも1つの追加の領域を含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の生物学的結合分子。
【請求項5】
前記B細胞受容体の自律的に活性な状態または自律的に活性化された状態の原因となる構造ドメインまたはエピトープを持たないB細胞の受容体または他の膜構造に結合しないことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の生物学的結合分子。
【請求項6】
前記サブセット2に特徴的ではないB細胞受容体の標的配列に結合しないことを特徴とする、請求項5記載の生物学的結合分子。
【請求項7】
予防および/または治療目的のために用いられる、請求項1から6までのいずれか1項において定義される生物学的結合分子を含む、物質組成物。
【請求項8】
前記B細胞受容体の軽鎖および/または重鎖に対する抗体またはその抗原結合部位を含む断片をさらに含むことを特徴とする、請求項7記載の物質組成物。
【請求項9】
悪性B細胞新生物の予防および/または治療のために用いられる、請求項7記載の物質組成物。
【請求項10】
アフェレーシスまたはCAR-T細胞免疫療法において用いられる、請求項7記載の物質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体またはその断片の産生、同定および選別の分野、ならびに特に悪性B細胞新生物などの癌疾患の予防および治療の範囲におけるそれらの使用に関する。
【0002】
悪性B細胞新生物は、一般的に造血系またはリンパ系の悪性疾患を示す。それらは、たとえば白血病などの臨床像を含み、広義では癌疾患に属している。白血病は、白血病細胞とも呼ばれる機能不全の白血球細胞前駆体の形成が大幅に増加することを特徴としている。これらの細胞は骨髄に広がり、そこで通常の血液形成を置換し、通常であれば末梢血に増殖して蓄積する。それらは、肝臓、脾臓、リンパ節および別の器官に浸潤し、それによってそれらの機能を損なう可能性がある。血液形成の障害は、正常な血液成分の減少につながり、その結果、酸素輸送赤血球の不足、止血作用のある血小板の不足、および成熟した機能的白血球の不足による貧血が生じる可能性がある。
【0003】
病気の経過に応じて、急性白血病と慢性白血病とに区別される。急性白血病は生命を脅かす疾患であり、これは治療せずに放置すると数週間~数ヶ月で死に至る。これに対して、慢性白血病はたいてい数年にわたって進行し、しばしば初期段階で症状は低下する。
【0004】
白血病の最も重要な形態は次のとおりである:
・急性骨髄性白血病(AML)
・慢性骨髄性白血病(CML)
・急性リンパ性白血病(ALL)
・慢性リンパ性白血病(CLL)
【0005】
通常、白血病は化学療法の範囲で治療される。これに関して、より最近の治療では、リツキシマブおよびオファツムマブと同様にCD20抗体として作用し、慢性リンパ性白血病(CLL)の治療に使用される、たとえばGA101(オビヌツズマブ)などのモノクローナル抗体の使用がますます増えている。これらの抗体を使用することによって、無寛解期間を約10ヶ月延ばすことができる。
【0006】
造血系またはリンパ系の別の悪性疾患(悪性B細胞新生物)は、たとえばホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫のB細胞バリアントなどのリンパ腫に影響を与える。
【0007】
受容体に対する抗体が作り出されると、通常であれば、動物は受容体(精製、クローン化、またはペプチド断片として)で免疫化され、ハイブリドーマ細胞が作製される。これらのハイブリドーマ細胞は抗体を産生し、ELISAまたは発現受容体を使用して細胞系で試験される。従来、確立された細胞株がこのために使用される。なぜなら、これらだけが簡単に培養され得るからである。この場合、特定の受容体型(たとえばAnti-IgG1、Anti-IgE)に比較的特異的に結合する抗体を作製することができる。しかしながら、これは、しばしば他の受容体または他のエピトープとの交差反応につながる。
【0008】
BCR抗体の治療用途において、一般的にBCRに対する抗体を1つだけ使用するのでは、たいていの場合十分ではない。なぜなら、そのような広いスペクトルの使用は、著しい副作用を誘発する可能性があるからである。むしろ、(病態生理学的)活性化、たとえば、特に自律的な活性化を示す受容体に選択的に結合する抗体を提供することが望ましいだろう。そのような抗体は、先行技術では知られておらず、その産生または選別による取得のための方法は存在していない。
【0009】
それゆえ、白血病の治療のための先行技術の治療は、たいていの場合、患者にとって非常に負担が大きい。概して、治療の望ましくない副作用と、薬物の多くの場合に不十分な効果とが、この疾患の高い死亡率につながると約言することができる。というのも、腫瘍細胞だけでなく、免疫系の健康な細胞も損傷されるからである。そのうえ、多くの場合、治癒に至らず、疾患が無寛解で進行する特定の期間が生じるだけである。
【0010】
それゆえ、本発明の課題は、特に予防および/または治療用途のための代替的な抗体などの代替的な構想および有効成分を提供して、先行技術の既存の問題を克服することである。
【0011】
本発明の個々の態様を詳細に議論する前に、本明細書の範囲で使用される関連用語の意味を明らかにする。
【0012】
本明細書で使用される「新生物」という用語は、一般的に、新しい身体組織の形成を指す。これが病理学的または悪性の症状である場合、悪性新生物についてのものである。つまり、悪性B細胞新生物は、B細胞の悪性で制御されない新しい組織の形成であり、この用語は、たとえば白血病やB細胞リンパ腫などのすべてのB細胞関連癌疾患に等しく適用される。
【0013】
「新生物を死滅させるための領域」は、直接的または間接的な効果の結果として、新生物を死滅させることができる。特異的抗体の治療用途の場合、分子は、抗体もしくはこの抗体の機能的断片、または抗体またはその断片を含む他の生物学的結合分子に結合し、そうすることで抗体またはその断片の結合の効果を超える効果を発揮する。たとえば、そのような分子は、免疫毒素、サイトカイン、キレート剤、放射性同位体、およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0014】
「生物学的結合分子」とは、本明細書では、たとえば、融合タンパク質を含む抗体を指すがこれに限られない。有利には、それゆえ好ましくは、そのような抗体は、IgG抗体、IgM抗体、ヒト化IgG抗体、およびエピトープの認識配列が挿入されるヒト抗体からなる群から選択される。このような結合分子は、抗体全体の機能的断片の形態で、たとえばFab断片として提供されてもよい。結合分子はまた、たとえば新生物の死滅/殺傷をもたらし、したがって免疫毒素および/または免疫サイトカインの機能を有する領域も含み得る。特に、そのような結合分子は膜結合型または細胞型であってもよい。結合分子のそのような膜結合型の1つは、たとえばCAR-T細胞上のキメラ抗原受容体(「Chimeric-Antigen Receptor」;CAR)である。
【0015】
B細胞の表面のB細胞受容体またはB細胞受容体複合体(BCR)の機能は、病原体を認識して結合することであるため、それをいわば膜結合抗体とみなすことができる。この結合は、BCRの構造変化をもたらし、それによって最終的にB細胞の活性化をもたらすシグナル伝達カスケードを引き起こす。BCRは、成熟中のB細胞で非常に多様に形成される。
【0016】
B細胞の発生は、ヒトや他のいくつかの哺乳類でも、骨髄または胎児肝臓において起こる。発生プログラムに必要なシグナルは、いわゆる間質細胞から発生するリンパ球が受け取る。B細胞の発生では、機能するB細胞受容体(「抗体」の膜結合型)の形成が非常に重要である。成熟B細胞は、この抗原受容体によってのみ、後に外来抗原を認識し、対応する抗体を形成することにより敵性の構造に結合することができる。受容体の抗原特異性は、特定の遺伝子セグメントを連結することによって決定される。セグメントはV-、D-およびJ-セグメントと呼ばれることから、プロセスはV(D)J再結合と呼ばれる。B細胞受容体の抗原結合部分を形成するこれらのセグメントは再編成される。受容体全体は、2つの同一の軽タンパク質鎖と2つの同一の重タンパク質鎖とで構成され、重鎖と軽鎖とはそれぞれジスルフィド架橋で連結されている。VDJ再結合では、B細胞受容体の重鎖のV-、D-およびJ-セグメントが最初に連結され、その後に受容体軽鎖のV-およびJ-セグメントが連結される。これに関して、産生的な遺伝子再編成と呼ばれる遺伝子の再編成に成功した場合のみ、細胞はそれぞれ次の発生期に進むことができる。
【0017】
骨髄でのその成熟中に身体自身の抗原に反応するB細胞は、たいていの場合、アポトーシスによって死滅する。健康なヒトの血液では、特にサイログロブリンあるいはまたコラーゲンに対する少量の自己反応性細胞を検出することができる(Abul K.Abbas:Diseases of Immunity in Vinay Kumar,Abul K.Abbas,Nelson Fausto:Robbins and Cotran-Pathologic Basis of Disease;7th edition;Philadelphia 2005,p.224f)。
【0018】
そのようなBCRを作り出すプロセスは遺伝子セグメントのランダムな集合に基づいていることから、新しく形成されたBCRは不必要に生体構造を認識し、したがって「恒久的に活性化される」ことが起こり得る。そのような「恒久的に活性なまたは活性化された」BCRの形成を妨げるために、さまざまな生体保護メカニズムが存在する。しかしながら、発生中のB細胞の病理学的変化に基づきこれらが克服されると、それにより悪性あるいはまた自己免疫表現型疾患が発生する可能性がある。
【0019】
対照的に、「自律的に活性な」または「自律的に活性化された」BCRは、恒久的に活性なBCRの特別な種類である。従来の活性化は外部抗原から出発するが(上記を参照)、自律的に活性なBCRは、同じ細胞の表面の膜構造との相互作用から生じる。CLLの臨床像については、同じ細胞の表面で互いに隣接して存在するBCR間の自律的な活性化を引き起こす相互作用を示すことができていた(M.Duehren-von Minden et.al;Nature 2012)。自律的に活性なBCRのもう1つの例はプレBCRであり、これはB細胞の発生を通じて発生チェックとして発現される。一方で、隣接する受容体(BCR:BCR)の相互作用に加えて、受容体と膜タンパク質(BCR:膜タンパク質)との相互作用も、自律的に活性なBCRまたは活性化されたBCRをもたらす。
【0020】
本発明によるこれらの問題の解決は、CLLを持つ患者の腫瘍細胞上に自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体があること、およびこれらの自律的に活性な受容体または活性化された受容体が、同じ患者の健康な細胞の対応する受容体では検出することができない共通のエピトープの存在を特徴としていることの驚くべき知見に基づいている。したがって、これらの細胞は、上記エピトープの存在を特徴とする自律的に活性なB細胞受容体の存在に基づき、抗体によって特異的に認識されて治療されるため、この特性を有しない健康なB細胞は巻き添えにされず、それによって治療をより明らかに特異的に、望ましくない副作用を少なくして実施することができる。
【0021】
しかしながら、本発明のために実施された多数の実験の範囲で、驚くべきことに、これらの変性された受容体領域(エピトープ)に対して特別な特異性を有する抗体は、通常の標準的な方法を用いて産生および選別することができないことが判明した。結合研究の範囲で遺伝子改変された細胞が使用されるように実験条件が適応され、この細胞の変性されたB細胞受容体がnativeかつ活性化された状態になった後にのみ、所望の必要な特異性を有する適切な抗体を得ることができた。言い換えると、本発明により提案された解決策にとって、適切な予防抗体または治療抗体の選別のために結合研究で使用される細胞は、それらの変性された領域(エピトープ)を、大部分がnativeかつ活性化された形態で提示することが不可欠である。これに関して、いわゆるプロ/プレB細胞が生理学的構成に基づき特に適していることがわかった。したがって、このような特異的抗体および同様にこの特異的結合挙動も有するその機能的断片の提供により、治療の成功が大幅に改善され、望ましくない全身効果が減少したおかげで、治療の成功が大幅に向上したことを特徴とする腫瘍特異的治療が可能になる。
【0022】
既述のとおり、本発明によって、抗体またはその機能的断片の形態の生物学的結合分子および自律的に活性な膜結合B細胞新生物の免疫グロブリンの変性されたエピトープに選択的に結合するそのような結合分子を産生(同定および選別)する方法が提供される。本発明の好ましい実施形態によれば、生物学的結合タンパク質は、免疫学的(たとえば自己免疫)疾患で発生し、これらと因果関係がある(たとえば、アレルギー、潰瘍性大腸炎、1型糖尿病、多発性硬化症、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、セリアック病)B細胞上の自律的に活性なそのようなB細胞受容体に選択的に結合する。さらに、このような結合分子を使用した予防方法および治療方法の両方が提案されており、治療用途は、そのような変性型の膜結合免疫グロブリンを発現する細胞の成長を阻害または死滅させることに関係する。
【0023】
一般的に、白血病およびリンパ腫は、免疫毒素および/または免疫サイトカインによる治療の魅力的な標的である。B細胞悪性腫瘍患者の反応は、免疫毒素活性のフェーズI/II臨床研究で広く調べられている(Amlot et al.,(1993),Blood 82,2624-2633;Sausville et al.,(1995),Blood 85,3457-3465;Grossbard et al.,(1993),Blood 81,2263-2271;Grossbard et al.,(1993)Clin.Oncol.11,726-737)。これまでのところ、いくつかの抗腫瘍反応が確認されているが、正常組織に対する免疫毒素を媒介した毒性により、治療レベルへの用量増加がしばしば妨げられていた。CD19、CD22およびCD40などのいくつかのB細胞特異的抗原は、たとえばリシンA鎖などの植物毒素およびシュードモナス外毒素A(PE)などの細菌毒素により生まれた免疫毒素の標的として選択されていた(Uckun et al.,(1992),Blood 79,2201-2214;Ghetie et al.,(1991),Cancer Res.51,5876-5880;Francisco et al.,(1995),Cancer Res.55,3099-3104)。
【0024】
膜結合免疫グロブリンは、標的化された、すなわち特定の免疫療法によく適した標的である。骨髄でのB細胞の発生中、一つ一つのB細胞前駆体は、個々の遺伝子セグメントを再配列することによって、その固有のほぼ独自のB細胞受容体(BCR)を作り出す。
【0025】
自律的に活性なBCRの2つのバリアント(サブセット2;サブセット4)が知られており、そのそれぞれ特徴的な分子モチーフ(エピトープ)に関して互いに異なる(Minici,C.et al.,Distinct homotypic B-cell receptor interactions shape the outcome of chronic lymphocytic leukaemia,Nature Comm.(2017))。両方のバリアントは、これらのバリアントにそれぞれ特異的な異なる短いアミノ酸配列を有する。当業者は、上掲のサブセットに加えて、他のCLL-B細胞受容体も自律的に活性であることを認識している。これに関して、受容体の自律的に活性な機能に重要なサブセット2の領域は、軽鎖のアミノ酸配列KLTVLRQPKA(配列番号1)およびVAPGKTAR(配列番号2)を特徴とし、受容体の自律的に活性な機能に重要なサブセット4の領域は、重鎖の可変部分のアミノ酸配列PTIRRYYYYG(配列番号3)およびNHKPSNTKV(配列番号4)によって定義される。免疫化の範囲でマウス抗体を作製するために使用されるサブセット2および4の配列は、配列番号5および6(vHC;LC)と7および8(vHC;LC)とのそれぞれに示される。完全を期すため、配列番号17(VSSASTKG)には、サブセット4のBCRの重鎖の可変部分に特異性を有する更なる標的配列または更なるエピトープが示される。したがって、配列番号3および4によるBCR(サブセット4)の自律的に活性な状態の形成に関与する標的配列(エピトープ)に加えて、配列番号17による配列は、このサブセットの更なる特徴的な特性を表す。
【0026】
重大な疾患の進行を伴う患者におけるB細胞受容体の2つのバリアントとしてのサブセット2および4の発見および特徴付けは、多数の個々の症例研究の調査に基づいており、それゆえ、可能な限り多数のBCRの他のサブタイプでは、2つの既知のサブタイプを特徴付ける同じ標的配列(エピトープ)が存在せず、重篤な疾患の進行と相関していることを意味しない点に留意されたい。
【0027】
これらのサブセットの両方に対する抗体は、原則として標準的な方法によって、たとえばマウスで作り出すことが望ましいが、驚くべきことに、ペプチドを使用した免疫化により、所望の特異的抗体が形成されないことが観察された。たとえば、変性された配列領域を含むBCRの軽鎖の使用など、受容体の個々の鎖を使用した免疫化も望ましい成功を遂げなかったことから、組換え産生された可溶型のBCR(配列番号5および6を参照)でマウスが最終的に免疫化された。続いて、これらのマウスから所望の特異性を有する免疫細胞を取得し、細胞融合によってハイブリドーマ細胞にトランスフェクションすることができた。これに関して、驚くべきことに、活性抗体はELISA試験または他の標準的な方法では同定することができなかった。しかしながら、ELISAによる最初のステップで潜在的な結合パートナーとして同定されたクローンは、選別後に非特異的に結合するか、または自律的に活性な受容体(配列番号1および2を含む)に結合しないことが判明し、それゆえ廃棄しなければならなかった。
【0028】
この認識に至るまで使用されてきた方法には、ELISAやSPRなどの標準的な方法だけでなく、結合対照として細胞内FACS染色を用いた線維芽細胞での細胞内発現も含まれていた。
【0029】
更なる試験シリーズを精緻化した後、本発明による適切な結合分子の選別は、遊離受容体またはそれらの断片でも、膜結合または細胞内受容体断片でも首尾良く実施することができないことがわかった。代わりに、完全かつ機能的なB細胞受容体が膜結合でその範囲に提示された細胞系を使用してのみ選別が可能であることが観察された。これに関して、変性された領域(エピトープ)を持つBCRが、これらの細胞中または細胞上に自律的に活性で存在するか、または提示されることが非常に重要である。その条件が主に生理学的-nativeなin situシナリオを反映しているこの手順でのみ、腫瘍細胞、すなわち細胞膜上にこの細胞型のサブセット2またはサブセット4に特徴的なエピトープを持つBCRを発現するB細胞にのみ高度に特異的かつ選択的に結合し、定義によりサブセット2または4のB細胞を表さない他のB細胞またはそれらの受容体(BCR)には結合しない抗体を同定することができた。言い換えると、本発明により提案された結合分子は、自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体に選択的に結合し、これらのB細胞受容体は、構造ドメインまたはエピトープ(標的配列)の存在を特徴とし、かつB細胞受容体の自律的に活性な状態または活性化された状態の原因となる。本発明による結合分子の選択的結合挙動は、B細胞の自律的に活性な状態または活性化された状態の原因となる構造ドメインまたはエピトープを持たないB細胞の受容体または他の膜構造に結合しないことを意味する。したがって、本発明による結合分子は、サブセット2またはサブセット4に特徴的ではないB細胞受容体の標的配列に選択的に結合せず、特に、配列番号1、2、3および/または4のいずれも持たないB細胞受容体には結合しない。
【0030】
さらに、「トリプルノックアウト」マウス(TKO)から取得したプロ/プレB停止細胞の使用は、取扱いが困難で取得に手間がかかるにもかかわらず、これらの受容体を発現し、試験系の範囲でこれらの受容体の同定に使用されるのによく適していることがわかった。プロ/プレB細胞期は、BCRの成熟および選別を実施するように自然に設計されており、この細胞期は、それらの酵素特性(シャペロンなど)に基づき「困難な」BCR成分も正確に折り畳み、それらの表面に十分に生理学的にnativeな形態で提示するのに特に適している。以下に説明する欠失(ノックアウト)は、組換えまたはサロゲート軽鎖(「surrogate light chain」)の使用によって所望のBCRの変化が起きることを妨げる。自律的に活性なB細胞受容体または活性化されたB細胞受容体に対する選別的-特異的結合挙動を有する抗体の選別の範囲でBCRの発現および提示のためにプロ/プレB停止細胞のこれらの細胞またはこの細胞型を使用することによって、先行技術での選別に従来使用されてきた系と比較して、一次TKO細胞の使用と、数回の継代にわたるそれらの培養とのそれぞれの高い出費を正当化するはるかに高い品質を特徴とする選別プラットフォームが提供される。
【0031】
上記の適切なハイブリドーマ細胞の選別後、モノクローナル抗体の形態で予防および/または治療目的に適した抗体を大量に取得することができた。抗体の結合部位は、これらの細胞のDNAを配列決定することによって確かめることができた(配列番号9および10を参照)。対応する方法が当業者に知られており、市販もされている。これに関して、より多くの数のハイブリドーマ細胞を取得し、最良の結合活性(特異性および結合強度/親和性)を有する細胞を選別することが有利である。
【0032】
このようにして得られた結合部位に関する遺伝情報によって、通常の組換え経路で所望の特異性を有するヒト化モノクローナル抗体を作製するために、それをコードする配列をヒト抗体配列のDNAを有する発現プラスミドに導入した。これらのヒト化抗体は、それらの独自の特異性に基づき、従来の有効成分と比較してより優れた予防および治療効果と、比較的非常に少ない副作用とを示した。当業者は、これらのヒト化抗体が生物工学的手法で大量に産生することができることを理解している。合成された抗体の精製には、標準化された方法、たとえば、沈殿、ろ過およびクロマトグラフィーの組合せを適用することができ、それは当業者に周知であるが、ここで留意すべき点は、抗体を変性させず、たとえばタンパク質、発熱物質および毒素などの考えられる異物を定量的に除去することである。
【0033】
所望の抗体は、抗体がグリコシル化、たとえば、特にヒトのグリコシル化を受ける系で発現されることが好ましい。そのような系は当業者に周知であり、昆虫細胞(S2細胞)、哺乳動物細胞(CHO細胞)、および特に好ましくは、たとえばHEK293T細胞などのヒト細胞の使用を含む。
【0034】
十分に精製された抗体は、それが、特定の免疫応答を引き起こすアイソタイプ、たとえば、Fc受容体を介して腫瘍に対する免疫応答をもたらすIgGサブタイプなどを有している場合には、それ自体でも治療効果があり得る。
【0035】
一方で、抗体は断片として存在する場合もある。この場合、抗原結合部位が断片中に存在すること、つまり、それが機能的断片であることが重要である。そのような断片は、たとえば、プロテアーゼ処理によってF(ab)断片として産生することができる。これらの断片は抗体の定常部分で切り捨てられているため、新生物を死滅させるためにエフェクター分子を挿入することが有利であり、したがって好ましい。
【0036】
別の好ましい実施形態によれば、抗体には、その効果を高めるためにコンジュゲートが備わっている。このコンジュゲートは、新生物を死滅させるための領域であり、そのような新生物を直接的または間接的な効果として死滅させることができる。そのようなコンジュゲートの一例は、抗体へのリシンの結合であり、その好ましい共有結合は、たとえば化学架橋剤を使用して実施される。このような分子および方法は、書籍Bioconjugate Techniques by Greg T.Hermanson in Chapter 11 Immunotoxin Conjugation Techniquesに詳細に説明されている。
【0037】
更なる好ましい実施形態によれば、抗体は、たとえば、T細胞特異的活性化ドメインとの融合タンパク質の形態の生物学的結合分子としてなど、変性された形態でも存在してよい。このいわゆるキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor;CAR)を作り出すために、まず患者の末梢血からT細胞を取得し、in vitroで遺伝子改変して、細胞表面にCARを発現させる。続いて、これらの変性されたT細胞を患者に再導入し、その結果、CAR-T細胞免疫療法が実施可能になる(たとえばN Engl J Med.2014 Oct 16;371(16):1507-17.doi:10.1056/NEJMoa1407222を参照)。
【0038】
投与(注入)による治療用途のために、抗体は、薬学的に許容される担体を含む組成物で使用されることが好ましい。
【0039】
薬学的に許容される担体は、治療される患者にとって生理学的に許容される担体であり、投与される化合物の治療特性を保持する。薬学的に許容される例示的な担体は、生理食塩水である。他の適切な生理学的に許容される担体およびそれらの製剤は当業者に知られており、たとえばRemington’s Pharmaceutical Sciences(18th edition),ed.A.Gennaro,1990,Mack Publishing Company,Easton,PA)に記載されている。
【0040】
安定した貯蔵のために、抗体またはその断片を安定化された形態で提供することが有利でありえ、それはしたがって好ましくもある。このために、たとえば、安定化された塩緩衝液で乾燥を行ってよい。そのような緩衝液は、たとえば、当業者に知られているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってよい。乾燥の適切な形態は、たとえば凍結乾燥または冷凍乾燥である。
【0041】
本発明による結合分子の更なる治療用途は、患者の血液または血液サンプルが「血液洗浄」の意味において体外で治療される自体公知のアフェレーシス方法である。
【0042】
たとえば、自律的に活性化されたBCR(サブセット2)に対する特異性を有する本発明による抗体は、患者の血液サンプルから白血病細胞を分離するためにアフェレーシスシステムで使用することができる。当業者に知られているように、これに適した基本的に異なる方法がある。
【0043】
第1の例示的な実施形態によれば、抗体は、磁化可能な粒子(ビーズ)(たとえばダイナビーズ)に結合することができる。血液には抗凝固剤が供給され、患者の体外で粒子と接触させられる。理想的には、腫瘍細胞ごとに少なくとも1個の粒子、有利には10~100個の粒子が使用される。たとえば、20μm未満のサイズを有する粒子が、同じ特異性のいくつかの抗体を含有する(血液1μlあたり粒子数5000個を超える)。磁石の助けを借りて、これらの粒子は、洗浄された残りの血液が患者に戻される前に結合され得る。この治療措置により、患者の血液中の腫瘍細胞の数が大幅に減少する。別の実施形態によれば、粒子は、20μmを超えるサイズを有し、同様に粒子あたり多数の抗体も有する(>100、>1000)。したがって、多くのリンパ球(腫瘍細胞)を1つの粒子で結合および除去することができる。これらの粒子/細胞コンジュゲートは、アフェレーシスで通常使用される古典的な遠心分離によって除去される。これに必要な時間は、粒子の種類と装置に依存し、実験的に確かめなければならない。
【0044】
更なる実施形態の範囲では、粒子/細胞コンジュゲート(特に直径20μmよりも大きい粒子を使用した場合)と細胞結合を持たない遊離粒子との両方を、微細なメッシュ構造によって血液から分離することがでできる。そのようなメッシュ構造は、いわゆる「セルストレーナー」として市販されている。抗体を粒子に結合させる方法は、当業者に周知である。手順の指示は、たとえばDynal社によって顧客に提供される。
【0045】
本発明の個々の態様を、例を用いて以下により詳細に説明する。
【0046】
実験手順の詳細な説明を行う前に、以下の説明を参照されたい。
【0047】
変性されたB細胞受容体に選択的に結合する抗体の産生および同定は、主要な予期しない問題によって特徴付けられていた。ハイブリドーマの作製は、標準的な方法を使用して行った。ハイブリドーマグループからの上清をプールし、ELISA(ELISAプレート上の可溶性B細胞受容体)を使用して陽性結合事象について調べた。陽性プールを分離し、個々のクローンをテストした。これに関して、驚くべきことに、ELISAで陽性クローンはもはや同定されなかった。プールの陽性ELISAシグナルは、その後に非特異的結合であることが判明した。
【0048】
抗体の認識のためにより優れたエピトープを作り出すために、BCRの軽鎖を線維芽細胞で発現させた。これにより、自律的なシグナルに関与するモチーフ(エピトープ)を運ぶタンパク質の正確な折り畳みが保証されることになる。これらの細胞を用いて、細胞内FACS解析を実施した。陽性クローン(抗体)を同定することはできなかった。
【0049】
こうした理由から、RAMOS細胞(ヒトバーキットリンパ腫細胞株)を別の実験で変性し、それらは機能的に変性されたBCRを示した。これにより、完全に正確な生合成、折り畳み、およびBCRの変性が保証されることになる。このために、CRISPRを使用して細胞自体のBCRを欠失させ、次いで「CLL受容体」を分子生物学的に再構成した(CMVベクターのエレクトロポレーション)。これらの細胞を使用して陽性結合事象をテストした。この場合も、FACSを使用して陽性クローンを検出することはできなかった。
【0050】
驚くべきことに、対照的に、CLL受容体が遺伝子シャトルによって導入されたマウスTKO(「トリプルノックアウト」)細胞(プロ/プレB停止細胞)を使用すると、陽性クローンが生まれた。そしてこれは、ヒト細胞系がこれを保証することができなかったという事実にもかかわらずである。これらの細胞は、特徴としてそれらのゲノムに以下の3つのノックアウトを有する:
- RAG2のノックアウトは、免疫グロブリンの固有の重鎖と軽鎖の体細胞組換えを妨げることから、BCRの内因性形成は排除される。これは、この発生期で、対応して処理されたB細胞の停止、遮断または「凍結」につながる。RAG1とRAG2は、最初に通常のVDJ再編成を可能にする複合体を形成することが知られていることから、RAG1のノックアウトが同じ効果を持つ手段であり、ひいてはRAG2のノックアウトに代わるものであり、本発明による教示に含まれる。
- サロゲート軽鎖の一部であるLambda5を欠失させると、プレBCRの形成が妨げられる。プレBCRは自律的に活性であるため、これは自律的に活性な受容体の検出に干渉することになる。ここで新しいBCRが細胞にクローニングされるため、プレBCRは、これが望ましくないサロゲート軽鎖と組み合わせて望ましい重鎖(HC)とともに表面に現れ、選別を妨げることになるという理由で望ましくない。
- BCRシグナル経路で最も重要なアダプタータンパク質であるSLP65のノックアウトは、場合によっては再構成されたBCRによるTKO細胞の活性化を妨げる。
【0051】
RAG2またはRAG1とLambda5のノックアウトの組合せにより、重鎖(HC)のVDJセグメントの初期の再配置によって古典的に特徴付けられるプロB細胞期からプレB細胞期への移行が遮断される。それゆえ、それらはプロ/プロB細胞である。
【0052】
RAG2またはRAG1とLambda5のノックアウトは、BCRの発現および適切な抗体の選別にとって十分である。BCRの活性は、誘導性SLP65で再構成することによって測定することができる。
【0053】
ここでの選別方法は、FACS解析を使用したSLP65の誘導後のCaフラックスの測定およびIndo-1などのCa2+依存性色素の使用である。これらの方法は当業者に知られている(M.Duehren-von Minden et.al;Nature 2012を参照)。
【0054】
最初の2つのノックアウトによって、「目的のBCR」のみが表面に発現される。誘導性SLP65を使用して細胞を再構成することによって、さらに、発現されたBCRの機能を特徴付けることができ、ひいては表面のBCRの自律的に活性な状態を選別前に検証することができる。
【0055】
BCRの発現は、FACSで抗IgMおよび抗LC抗体を使用して決定した。このために一部の細胞を取り出し、PBS中で総体積100μlの抗体5μlでそれぞれ染色した。
【0056】
これらの細胞を「標的」として、FACSを使用して、BCRの自律的な活性化を基礎付けて特徴付ける変性領域に特異的に結合する抗体を同定することに成功した。そしてこれは、RAMOS細胞の同じ受容体型への結合は成功しなかったにもかかわらずである!
【0057】
このために、表面に「目的のBCR」を担持する細胞を、まずプールされた上清とともにインキュベートし、数回の洗浄ステップの後、二次抗体を使用して結合抗体を検出した。特異的選別のために、「目的のBCR」の異なるバージョンを発現するTKO細胞(TKO)を使用した。図1に示される選別マトリックスは、CLLサブセット2BCRの選別の典型例であり、陽性クローンの同定および選別に用いた。同定をより容易にするために、ハイブリドーマの上清をプールして測定した。結合を示したグループを分離し、それぞれのハイブリドーマの上清の結合をテストした。
【0058】
選別された抗体が他のBCRバリアントではなく、変性されたBCRに特異的に結合することの確認は、2つのブランクサンプル、すなわちBCRを持たない細胞(図1Aを参照)と非CLL-BCRを持つ細胞(図1Eを参照)を使用して行った。白血病患者の血液からの一次B細胞は、FACSを使用して結合について調べた。選別された抗体は、標的構造を示すBCRを特異的に同定することができた。これは遺伝子レベルで確認した。この標的構造を持たないサンプルは、結合を示さなかった。
【0059】
本発明を、図1を考慮しながら、例を用いて以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】CLLサブセット2BCRの選別の典型例である選別マトリックスを示す図。
【0061】
例1
トリプルノックアウト細胞(TKO)の産生の出発点は、遺伝子Lambda5、RAG2およびSLP65のそれぞれのノックアウトを有するトランスジェニックマウスによって形成される(Duehren von Minden et al.,2012,Nature 489,p.309-313)。そのようなマウスの作成は当業者に知られており、先行技術に含まれる。細胞を取得するために、マウスの犠牲後に大腿骨の骨髄を抽出した。このようにして取得した細胞を、続いてプロ/プレB細胞の生存を促進する条件下で培養した(37℃、7.5%CO、イスコベス培地、10%FCS、P/S、マウスIL7)。数回継代した後、対照のためにFACSソーティングを実施し、プロ/プレB細胞をソーティングし、続いて培養に戻した。このために使用したマーカーは当業者に知られている。
【0062】
「目的のBCR」で再構成するために、重鎖(HC)と軽鎖(LC)をコードする対応する配列を合成し、次いでCMVプロモーターを持つそれぞれの発現ベクターにクローニングした。これらをリポフェクションによってパッケージング細胞株(フェニックス細胞株)に導入した。36時間のインキュベーション後、ウイルス上清を除去し、TKO細胞のスピンフェクションに使用した。上清を取得するための作業とTKOのスピンフェクションのどちらも広く知られた方法であり、当業者に知られている。
【0063】
サブセット2B細胞受容体の構造的特徴は、対応する文献から取った(上記を参照)。例示的なCLLサブセット2VHおよび完全なLC DNAセグメントを、標準的な方法で委託メーカーにより合成させた。次いで、PCRを使用して、これらをマウスIgG1定常セグメントと融合させ、CMVベクターにクローニングした。完成したベクターの配列は、サンガー配列決定によって確認した。
【0064】
CLLサブセット2VH(配列番号5):
EVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFRSYSMNWVRQAPGKGLEWVSSIISSSSYIYYADSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTALYYCARDQNAMDVWGQGTTVTVSS
CLLサブセット2LC(配列番号6):
SYELTQPPSVSVAPGKTARITCAGNNIGSKSVHWYQQKPGQAPVLVIYYDSDRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISRVEAGDEADYYCQVWDSGSDHPWVFGGGTKLTVLRQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0065】
CLLサブセット2IgG1の発現には、HEK293T細胞ベースのヒト細胞発現系を使用した。トランスフェクションには、ポリエチレンイミン(PEI)ベースのプロトコルを使用した。数回継代した後、上清をプールし、プロテインGカラムを使用して、結合した細胞上清に含まれる培地を精製した。可溶性サブセット2IgG1の純度および品質は、ウエスタンブロッティング法によって決定した。
【0066】
モノクローナル抗体の産生は、マウスでの標準的な方法と、続いてハイブリドーマ細胞を作り出すことによって行った。陽性クローンのスクリーニングは、従来のようにELISAを使用して行わなかった。標的構造は膜結合受容体であるため、潜在的な抗体の結合を、細胞系でも、すなわち、この細胞型に本来備わっている細胞生理学的状態を大部分保持しながら実証することが最も重要である。まず、FACS解析を使用して、プールした上清のグループの結合事象について調べた。このために、さまざまなCLLサブセット2BCRバリアントを、それ自体ではBCRを発現することができない細胞株(TKO)の表面に発現させた。このようにしてまず、抗体が結合を示した上清を同定することができた。続いて、個々のハイブリドーマクローンの上清を、それらの結合に関してより詳細に調べて、高い親和性を有する高度に特異的なクローンを同定した。
【0067】
スクリーニング方法では、対応するCLL-BCRの重鎖(HC)と軽鎖(LC)との以下の組合せについて、先行するトランスフェクションの範囲で異なるベクターを使用し、これらの組合せをBCR再構成系の表面で使用した:
・対照(BCRを持たないトランスフェクションベクター)(図1Aを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/LCを持つベクター(図1Bを参照)
・非CLLサブセット2HC/CLLサブセット2に典型的なLCを持つベクター(標的モチーフ;エピトープを持たない)(図1Cを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/非CLLサブセット2LCを持つベクター(図1Dを参照)
・1つの非CLLサブセット2HC/1つの非CLLサブセット2LCを持つベクター(図1Eを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/LCを持つベクター(突然変異R110G(標的モチーフ)を含む)(図1Fを参照)。
【0068】
この選別の手順は、図1にCLLサブセット2BCRの例を使用して概略的に示されており、「TKO」という用語はTKO細胞(上記を参照)を指す。
【0069】
1回目の選別ラウンドでは、いくつかのクローンの上清を結合して、選別マトリックスへの結合プロファイルについて調べた。「目的のBCR」への特異的結合が示されている場合、陽性結合プロファイルが提供される。そのようなプロファイルを示すグループを分離し、個々のクローンの結合プロファイルを、2回目の選別ラウンドの範囲で選別マトリックスにより再度特性評価した。モノクローナル抗体の結合は、蛍光標識されたAnti-Mouse-IgG抗体を使用したFACS結合アッセイを使用して検証した。表記:A)BCRを持たない(対照);B)CLLサブセット2に典型的なBCR;C)ランダムな重鎖およびCLLサブセット2に典型的な軽鎖を持つBCR;D)CLLサブセット2に典型的な重鎖およびランダムな軽鎖を持つBCR;E)ランダムな重鎖および軽鎖を持つBCR(対照;非CLLサブセット2に典型的なBCR);F)標的モチーフ(R110G)(対照)に突然変異を持つCLLサブセット2に典型的なBCR。
【0070】
抗体は標的構造を持つ細胞にのみ結合するという知見に基づき(CLLサブセット2BCR;図1B)、自律的に活性な受容体を持つ細胞に特異的に結合する抗体がここに存在すると結論付けることができる。
【0071】
これに関して、検出に必要なBCRの正確な発現には、プロ/プレB細胞発生期にある細胞の使用が必要であることがわかった。これらの細胞は、正確な折り畳みとそれらの表面での発現とによって新しいBCRを表すために発生遺伝学的に整えられている。RAG2とLambda5の不活性化(ノックアウト)によって、内因性BCRまたはプレBCRの発現が妨げられる。SLP65の欠失とそれに続く誘導性SLP65の再構成とにより、「目的のBCR」の活性レベルを特性評価することが可能である。
【0072】
選別により選択されたモノクローナル抗体のアミノ酸配列を決定するために、個々のハイブリドーマクローンからmRNAを単離し、それらからcDNAを作り出し、アンカーPCRを使用して増幅した(Rapid expression cloning of human immunoglobulin Fab fragments for the analysis of antigen specificity of B cell lymphomas and anti-idiotype lymphoma vaccination;Osterroth F,Alkan O,Mackensen A,Lindemann A, Fisch P,Skerra A,Veelken H.,J Immunol Methods 1999 Oct 29;229(1-2):141-53)。
【0073】
結合に重要な領域(CDR)の同定および配列決定の後、これらをPCRによってヒト抗体の足場に移した。このために、VH配列を、in silicoでヒトFR領域とマウスCDR領域とから作り出し、続いてDNA断片として合成した。続いて、これらをPCRによってヒトIgG1と融合させ、発現に適したベクターにクローニングした。
【0074】
モノクローナル抗体を作り出すために、完全な免疫グロブリンに加えて、自律シグナルの能力の領域を提示する合成ペプチドも使用した。
【0075】
サブセット2に対する特異的モノクローナル抗体を配列決定した。以下のアミノ酸配列を決定し、配列番号9は重鎖の可変部分(HC)に該当し、配列番号10は軽鎖の可変部分(LC)に該当し、印を付けた領域は、示した順序でCDR1、2および3を表す。
【0076】
配列番号9(AVA-mAb01 HC)
QVQLQQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTSYGIHWVRQSPGKGLEWLGVIWRGGGTDSNAAFMSRLSITKDNSKSQVFFKMNSLQADDTAIYYCARSRYDEEESMNYWGQGTSVTVSS
配列番号10(AVA-mAb01 LC)
QIVLTQSPASLSASVGETVTITCRASGNIHSYLAWYQQKQGKSPQLLVYNAKTLADGVPSRFSGSGSGTQYSLKINSLQPEDFGSYYCQHFWNTPPTFGAGTKLELK
【0077】
配列番号9によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する重鎖の部分配列は、配列番号11~13に示され、配列番号10によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する軽鎖の部分配列は、配列番号14~16に表される。
【0078】
配列番号11(AVA-mAB01 CDR1 HC)
GFSLTSYG
配列番号12(AVA mAB01 CDR2 HC)
IWRGGGT
配列番号13(AVA mAB01 CDR3 HC)
ARSRYDEEESMNY
配列番号14(AVA mAB01 CDR1 LC)
GNIHSY
配列番号15(AVA mAB01 CDR2 LC)
NAKT
配列番号16(AVA mAB01 CDR3 LC)
QHFWNTPPT
【0079】
上記の手順は、CLLサブセット2に特異的な抗体を作り出すための例である。サブセット4の特定の配列およびアイソタイプを使用して同じプロセスを実施した。
【0080】
例示的なCLLサブセット4VHおよび完全なLC DNAセグメントを、標準的な方法で委託メーカーにより合成させた。次いで、PCRを使用して、これらをマウスIgG1定常セグメントと融合させ、CMVベクターにクローニングした。完成したベクターの配列は、サンガー配列決定によって確認した。
【0081】
CLLサブセット4HC(配列番号7):
QVQLQQWGAGLLKPSETLSLTCAVYGGSFSGYYWTWIRQSPGKGLEWIGEINHSGSTTYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLNSVTAADTAVYYCARGYGDTPTIRRYYYYGMDVWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPACLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKC
【0082】
太字の領域は、その自律的に活性な状態に関与するサブセット4のBCRの重鎖の可変部分の標的配列(エピトープ)を示している(配列番号3および4を参照)。
【0083】
CLLサブセット4LC(配列番号8):
DIVMTQSPLSLPVTLGQPASISCRSSQSLVHSDGNTYLNWFQQRPGQSPRRLIYKVSDRDSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGLYYCMQGTHWPPYTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC.
【0084】
例2
自律的に活性化されたBCR(サブセット2)に対する特異性を有する本発明による抗体は、患者の血液サンプルから白血病細胞を分離するためにアフェレーシスシステムで使用した。
【0085】
患者から末梢血を採取した(採血管からのEDTA血液)。リンパ球数の測定はセルカウンターで行い、1μlあたりリンパ球80,000個であった。「腫瘍負荷」、つまり腫瘍細胞材料を含むサンプルの負荷を測定するために、FACSによる免疫表現型検査を実施した(CLL標準パネルWHO腫瘍負荷を使用)。第二に、細胞がこのエピトープに対して陽性であることを実証するために、CLLエピトープを持つ細胞を本発明の抗体で染色した。続いて、この血液500μlを、特異的抗体と結合した5×108のMACS MicroBeads(Miltenyi Biotech)と混合した。混合物を室温で5分間振盪した後、Miltenyi LSカラムで血液を後処理した。この場合、粒子(ビーズ)と結合したリンパ球はカラムに留まったため、カラムからリンパ球を実質的に含まない血液をフロースルーとして取得した。(メーカーの規定に従う)カラムによる二重精製の後、FACS測定で1μlあたりリンパ球5000個未満のリンパ球数を確認した。BCRの自律的に活性なバリアントが存在しないCLL患者の血液を使用した対照実験では、予想どおり、この精製では血液中のB細胞が大幅に減少することはなかった。
図1
【配列表】
0007271532000001.app